説明

回折格子とその製造方法、及び光ピックアップ装置

【課題】複数の波長に対して波長依存性が小さい回折格子を提供する。
【解決手段】ガラス等の透明基材からなるガラス透明基板2と、このガラス透明基板2の
一方の表面に回折格子部5が形成されている。回折格子部5は、低屈折率を有する低屈折
率材料3と、低屈折率材料3とは異なる屈折率で、且つ、低屈折率材料3の屈折率より高
い高屈折率を有する高屈折率材料4とからなる。複数の波長における回折光が、各々必要
とされる角度に分離するよう設計された位相変調パターンにて形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長が異なる複数の光を回折可能な回折格子とその製造方法、及び回折格子
を備えた光ピックアップ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、CD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)といった異なる種類
の光記録媒体(以下、光ディスクと称す)から情報を再生したり、或いは情報を記録した
りする光ピックアップ装置が開発されている。
上記のような光ピックアップ装置においては、レーザー光を集光させたレーザースポッ
トが光ディスクの情報記録面に形成されているトラックを追従するようトラッキング制御
が行われている。トラッキング制御方法としては、3ビーム法や差動プッシュプル法が広
く利用され、これら3ビーム法や差動プッシュプル法では、レーザー光源からの1つのレ
ーザー光を3ビーム化するために回折格子が用いられている。
また、近年、光ピックアップ装置の小型化、及び低コスト化を図るために、例えば、D
VD用の波長帯(650nm)のレーザー光を出射する半導体レーザーと、CD用の波長
帯(785nm)のレーザー光を出射する半導体レーザーとを1つのチップ内に形成した
所謂モノリシック集積型の2波長レーザー光源が実用化されている。
【0003】
しかしながら、例えばCDとDVDは記録フォーマットが異なるため、回折格子の回折
光は夫々適切な角度で分離する必要があるが、従来の回折格子は単一の凹凸で形成されて
いるため、夫々の分離角度を制御できない問題があった。
そこで、2つの異なる波長のレーザー光を回折可能な回折格子が提案されている。例え
ば、特許文献1には、断面形状が凹凸状で、格子の凸部の幅と格子周期との比を0.5以
外の値に設定し、凸部と凹部との透過光の位相差が一方の波長の光に対して2πであり、
他方の波長の光に対して0次回折効率が所定の値に調整されている回折格子を、透光性基
板上の夫々の面に形成した2波長対応の回折格子が開示されている。
【0004】
図11は、特許文献1に開示されている従来の2波長対応回折格子の構造を模式的に示
した図である。なお、図11においては、説明を分かり易くするために波長λ1と波長λ2
とのレーザー光線の光路を分離して記載しているが、実際は各波長の光線は同一の光路を
伝搬することになる。
この図11(a)(b)に示す2波長対応回折格子100は、ガラス等からなる透明基
板101の入射面側に断面形状が周期的な凹凸からなり均一の屈折率を有する回折格子1
02を形成すると共に、透明基板101の出射面側に同じく断面形状が周期的な凹凸から
なり均一の屈折率を有する回折格子103を形成する。これにより、2波長レーザー光源
10から波長λ1のレーザー光が出射された場合は、回折格子102により波長λ1のレー
ザー光をメインビームとなる0次回折光I1(0)と、そのサイドビームとなる二つの±
1次回折光I1(±1)とに回折するようにしている。また2波長レーザー光源10から
波長λ2のレーザー光が出射された場合は、回折格子103により波長λ2のレーザー光を
メインビームとなる0次回折光I2(0)と、そのサイドビームとなる二つの±1次回折
光I2(±1)とに回折するようにしている。
【0005】
また、図11に示す従来の2波長対応回折格子100は、回折格子102の幅寸法W11
と格子周期P11との比W11/P11(以下、デューティ比という)を0.5以外の値に設定
することにより、DVD用の波長λ1の0次回折光I1(0)と1次回折光I1(±1)の
回折効率とが所定の値となるように調整している。また同様に回折格子103のデューテ
ィ比W12/P12を0.5以外の値に設定することにより、CD用の波長λ2の0次回折光
2(0)と1次回折光I2(±1)の回折効率が所定の値となるように調整している。
【特許文献1】特開2001−281432公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図12は、前述した2波長対応回折格子100を構成する夫々の回折格子102、10
3の波長と回折効率との関係を示した図であり、図12(a)はDVD用の回折格子10
2における波長と回折効率との関係を、図12(b)はCD用の回折格子103における
波長と回折効率との関係を夫々示した図である。
この図12(a)に示すDVD用の回折格子102では、DVD用の650nm波長に
おいて0次回折光I1(0)とその±1次回折光I1(±1)の回折効率が所定の値となる
ように調整されている。また図12(b)に示すCD用の回折格子103では、CD用の
785nm波長において0次回折光I2(0)と、その±1次回折光I2(±1)の回折効
率が所定の値となるように調整されている。
【0007】
しかしながら、回折格子102は、図12(a)に示すようにDVD用の波長λ1(6
50nm)付近の回折効率が僅かな波長変化によって大きく変化するという欠点があった
。また回折格子103では、図12(b)に示すようにCD用の波長λ2(785nm)
付近の回折効率が僅かな波長変化によって折効率が大きく変化するという欠点があった。
即ち、前述した従来の2波長対応回折格子100は波長依存性が大きく、2波長レーザー
光源10の温度ドリフトによる波長変化によって回折効率が大きく変化するという問題点
があった。
【0008】
また、回折格子における光量損失は、回折格子のデューティ比の値が0.5のときに最
も小さくなり、0.5から離れるに従って大きくなる。このため、上記図11に示した2
波長対応回折格子100のように0次回折光と1次回折光の回折効率が所定の値となるよ
うに、回折格子のデューティ比の値を0.5以外の値を調整した場合は、回折格子におけ
る光量損失が大きくなる。この結果、高い光量が求められる例えばDVDに情報の書き込
みを行う光記録装置の光ピックアップ装置等に適用できないという問題点があった。
さらに、従来の2波長対応回折格子100においては、夫々の波長に対応した回折格子
102、103の格子パターンを透明基板101の表裏に夫々形成するようにしているた
め、格子パターンに位置ずれが生じるという問題点があった。
【0009】
本発明は、上記したような点を鑑みてなされたものであり、複数の波長に対して波長依
存性が小さく、かつ夫々の波長に対して適切な方向に回折光を生成することを目的とする
。また高次光による光量損失を抑制できる回折格子を提供することを目的とする。さらに
回折格子の格子パターンに位置ずれが生じることがない回折格子を提供することを目的と
する。またそれらの回折格子を備えた光ピックアップ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は、波長が異なる複数の光のうち、少なくとも一つの
波長の光が入射する回折格子であって、透明基材と、回折格子部とからなり、回折格子部
は、第1の屈折率を有する第1の屈折率材料と、第1の屈折率材料とは異なる第2の屈折
率を有する第2の屈折率材料と、を備え、所定の波長帯域における回折効率がほぼ一定と
なるように第1の屈折率材料と第2の屈折率材料とを前記透明基材の一方の表面上に使用
する夫々の波長における回折光が適切な角度で分離するように設計された位相変調パター
ンで形成した。
このような本発明の回折格子によれば、複数の異なる波長において回折効率を所定の値
に保つことができるので、波長依存性を小さくすることが可能になる。これにより、半導
体レーザーの温度ドリフトにより波長変化が生じた場合でも回折効率が変動するのを防止
することができる。
また使用する夫々の波長における回折光が適切な角度で分離するので、例えばCD、D
VDなど記録フォーマットの異なる光ディスクに対応することが出来る。
さらに、回折格子部の格子パターンを透明基板の片面だけに形成するようにしているた
め、格子パターンの位置ずれが発生するといったこともない。
【0011】
また本発明の回折格子は、透明基材の他方の表面上に入射面側への戻り光を吸収する偏
光手段を備えるようにした。このように構成すれば、偏光手段により戻り光が入射面側に
入射されるのを防止できるので、戻り光が入射光と干渉するのを防止することができる。
【0012】
また本発明の回折格子は、第1の屈折率材料をSiO2、第2の屈折率材料をTiO2
たはTa25とした。このように第1の屈折率材料をSiO2、第2の屈折率材料をTi
2またはTa25のように各々の材料として誘電体を用いると、例えば、高い信頼性が
要求される車載用の光ディスク装置の光ピックアップ装置に好適な回折格子を実現するこ
とができる。
【0013】
また本発明の回折格子は、第1の屈折率材料を紫外線硬化樹脂又は熱硬化樹脂、第2の
屈折率材料をTiO2またはTa25とした。このように第1の屈折率材料として樹脂材
料を用いると回折格子のコストダウンを図ることができる。特に、このような構成の回折
格子は、使用条件が穏やかで、且つ低価格化が求められる家庭用の光ディスク装置の光ピ
ックアップに好適とされる。
【0014】
また本発明の光ピックアップ装置は、少なくとも2つの異なる波長の光を出射する光源
と、前記光源から出射光を光記録媒体に集光する対物レンズとを備え、光記録媒体に情報
の記録又は/及び再生を行う光ピックアップ装置であって、光源と前記対物レンズとの間
の光路中に本発明の回折格子を配置するようにした。これにより、モノリシック集積型2
波長レーザーを組み合わせて使用した場合でも、CDやDVD等の異なる種類の光記録媒
体に情報の記録又は再生を確実に行うことができる。
【0015】
また本発明の回折格子の製造方法は、透明基材の表面上に第1の屈折率を有する第1の
屈折率材料を形成する工程と、第1の屈折率材料の表面上に感光樹脂を塗布する工程と、
感光性樹脂を選択的に露光する工程と、感光性樹脂を現像する工程と、感光性樹脂により
覆われていない領域の第1の屈折率材料をエッチングする工程と、透明基材の表面上に第
1の屈折率材料とは異なる第2の屈折率を有する第2の屈折率材料を形成する工程と、感
光性樹脂を剥離する工程とからなる。このようにすれば本発明の回折格子を作製すること
ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
前述したように記録フォーマットが異なるCDとDVDとを記録再生可能な光ピックア
ップ装置において用いられる2波長レーザー光源から出射した2種類のレーザー光を回折
するための2波長回折格子において、図2に示すように、CD、DVD夫々のトラックに
対応するよう異なる分離角度(回折角度)及び分離方向(回折方向)で、入射するレーザ
ー光を回折することが要求される。従来の単純な凹凸の繰り返しからなる2値化されたバ
イナリ格子では格子の溝方向と垂直な方向へビームが回折するため、2波長で異なる方向
へ回折させようとすると図11の如く2つの回折格子を表裏に配置する必要がある。
そこで、本願発明者は回折格子パターンを工夫することによりこの制約を解決すること
に思い至った。図11の構造、つまりバイナリ格子では波長依存性や表裏のパターン方向
精度において制約が極めて大きいという問題があるため、1パターンで夫々必要な回折方
向へビームを回折させる手法を鋭意検討した。
【0017】
このように1パターンで2波長夫々が必要な回折方向へ回折するパターン(位相変調パ
ターン)を設計するには、単純なバイナリ格子の設計手法では極めて実現不可能である。
そこで本願発明者は、新たな計算手法を構築する必要に迫られた。
近年、コンピュータ技術の目覚しい発展によりホログラムの干渉縞を計算機を用いて合
成する計算機合成ホログラム(Computer-Generated Hologram:以下、CGHと称す)が注
目されている。CGHは計算機内に保持した物体モデルからの物体光波を計算するという
計算手法である。
計算方法は夫々の必要な回折パターンを逆フーリエ変換によって算出するという手法を
とる。この計算手法によって求められた位相変調パターンに異なる夫々の波長を有するレ
ーザー光を入射させると各々異なる回折方向及び回折角度で回折する回折光が得られる。
図3は、この逆フーリエ変換を行って計算した位相変調パターンである。このパターン
の白色の部分に低屈折率材料を、黒色の部分に高屈折率材料を配置すれば所望の2波長対
応の回折格子が得られる。
【0018】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態に係る2波長対応回折格子の構造を模式的に示した図であり、
(a)は概略斜視図、(b)は(a)に示す矢示A−A方向から見た断面図である。
図1(a)(b)に示す2波長対応回折格子1は、ガラス等の透明基材からなるガラス
透明基板2と、このガラス透明基板2の一方の表面に回折格子部5が形成されている。
回折格子部5は、低屈折率(第1の屈折率)を有する低屈折率材料(第1の屈折率材料
)3と、低屈折率材料3とは異なる屈折率で、且つ、低屈折率材料3の屈折率より高い高
屈折率(第2の屈折率)を有する高屈折率材料(第2の屈折率材料)4とからなり、所定
の波長帯域における回折効率がほぼ一定となるように低屈折率材料3と高屈折率材料4と
をガラス透明基板2の一方の表面上に夫々の波長における回折光が適切な回折角度及び回
折方向で分離するように設計された位相変調パターンが形成されている。また、低屈折率
材料3と高屈折率材料4との格子深さ(厚さ)を適宜設定するようにしている。
【0019】
図4は、本実施形態の2波長対応回折格子1における波長と回折効率との関係を示した
図である。この図4に示すように、本実施形態の2波長対応回折格子1は、少なくともD
VD用の波長λ1(650nm)からCD用の波長λ2(785nm)までの波長帯域にお
ける0次回折光I(0)とその±1次回折光I(±1)の回折効率の値をほぼ同じにする
ことができる。
従って、本実施形態の2波長対応回折格子1によれば、DVD用の波長λ1とCD用の
波長λ2を含む波長帯域における波長依存性を小さくできるので、2波長レーザー光源1
0の温度ドリフトによってレーザー光の波長が変化した場合でも回折効率の変動を防止す
ることができる。
また、回折格子部5の格子パターンをガラス透明基板2の片面だけに形成するようにし
ているため、格子パターンの位置ずれが発生するといった問題もない。
【0020】
ここで、図5を参照しながら、低屈折率材料3と高屈折率材料4との格子深さと回折効
率との関係を説明する。
図5は、本実施形態の2波長対応回折格子1の回折格子部分を示した拡大断面図であり
、この図5に示すように、低屈折率材料3の屈折率をnL、高屈折率材料4の屈折率をnH
、回折格子のピッチをP、低屈折率材料3部分の幅をW、低屈折率材料3の格子深さをd
L、高屈折率材料4の格子深さをdHとする。
回折格子のm次光の回折効率をηmとすると、回折効率ηmは、P、W、Γによって式(
1)のような関数によって示すことができる。
【0021】

位相変調量Γは波長により変化するため、異なる波長で回折効率ηmを同じ値にするた
めには、波長が変化しても位相変調量Γが変化しないように補償すれば良い。
ここで、位相変調量Γは式(2)のように示すことができる。

【0022】
また、格子材料の屈折率は波長分散を持つため、波長λ1での低屈折率材料3の屈折率
をnL1、高屈折率材料4の屈折率をnH1、波長λ2での低屈折率材料3の屈折率をnL2
高屈折率材料4の屈折率をnH2とすると、波長λ1における位相変調量をΓ1、及び波長λ
2における位相変調量をΓ2は、下記式(3)、(4)のように示すことができる。



【0023】
そして、波長λ1及びλ2における回折効率を同じにするには、Γ1=Γ2であれば良いか
ら、

を満足するように各条件を設定すれば良い。
【0024】
ここで、一例として、低屈折率材料3をSiO2、高屈折率材料4をTa25、波長λ1
を660nm、波長λ2を785nmとすると、各波長λ1及びλ2におけるSiO2、Ta
25の屈折率は、
波長λ1(660nm) SiO2=1.470、Ta25=2.164
波長λ2(785nm) SiO2=1.467、Ta25=2.147
となる。
これらの値を上記した式(5)に代入すると、下記式(6)の結果が得られる。

【0025】
従って、この式(6)を満たすように低屈折率材料3の格子深さdLと、高屈折率材料
4の格子深さdHを設定すれば、DVD用の波長λ1における0次回折光I(0)の回折効
率とCD用の波長λ2における0次回折光I(0)の回折効率をほぼ同じに設定すること
ができる。なお、説明は省略するが、同様にDVD用の波長λ1における1次回折光I(
±1)の回折効率と、CD用の波長λ2における1次回折光I(±1)の回折効率もほぼ
同じに設定することができる。
ここで、回折光量比(0次回折光/1次回折光)=15.0に設定する場合を考えると
、波長λ1における位相変調量Γ1=0.123とすれば良いので、式(3)よりdH=1
430nm、式(6)よりdL=3718nmが得られる。
【0026】
図6は、低屈折率材料3の格子深さdH=1430nm、高屈折率材料4の格子深さdL
=3718nmに設定したときの波長と回折効率との関係のシミュレーション結果を示し
た図である。
この図6に示すシミュレーション結果からも、DVD用の波長λ1からCD用の波長λ2
における0次回折光I(0)及び1次回折光I(±1)の回折効率をほぼ同じに設定でき
ることが確認された。
【0027】
また本実施形態の2波長対応回折格子1においては、例えば低屈折率材料3として誘電
体であるSiO2、高屈折率材料4として同じく誘電体であるTiO2又はTa25を夫々
用いるようにした。
このように低屈折率材料3をSiO2、高屈折率材料をTiO2またはTa25により構
成すると、例えば、高い信頼性が要求される車載用の光ディスク装置の光ピックアップ装
置に好適な回折格子を実現することができる。
【0028】
ここで、以下に本実施形態に係る2波長対応回折格子1の製造方法について、図7を参
照しつつ詳細に説明する。
まず、図7(a)に示すように透明ガラス基板2を用意し、図7(b)に示すように透
明ガラス基板2の表面上に真空蒸着機やスパッタ成膜等の成膜装置を用いて低屈折率材料
(SiO2)3を形成する。次に、図7(c)に示すように低屈折率材料3の表面上にフ
ォトレジスト31を塗布し、図7(d)に示すように回折格子の仕様に基づいて所定の寸
法でパターニングされたマスク32を用いてフォトレジスト31を露光し、このフォトレ
ジスト31を現像したのが図7(e)に示す図である。そして、図7(f)に示すように
フォトレジストの感光部31aにより覆われていない領域の低屈折率材料3をエッチング
により除去する。次に、図7(g)に示すように透明ガラス基板2及びフォトレジスト3
1aの表面上に真空蒸着機やスパッタ成膜等の成膜装置を用いて高屈折率材料(例えばT
25)4を形成する。そして、図7(h)に示すように剥離液を用いて、フォトレジス
ト31aを剥離して2波長対応回折格子1が完成する。
【0029】
また本実施形態の2波長対応回折格子1は、低屈折率材料3を紫外線硬化樹脂又は熱硬
化樹脂、高屈折率材料4をTiO2またはTa25としてもよい。このように低屈折率材
料3として樹脂材料を用いると、2波長対応回折格子1のコストダウンを図ることができ
る。特に、このような構成の2波長対応回折格子1は、使用条件が穏やかで、且つ低価格
化が求められる家庭用の光ディスク装置の光ピックアップに好適とされる。
【0030】
以下に、低屈折率材料3に紫外線硬化樹脂を用いた場合の2波長対応回折格子1の製造
方法について、図8を参照しつつ詳細に説明する。
まず、図8(a)に示すように透明ガラス基板2を用意し、図8(b)に示すように透
明ガラス基板2の表面上に真空蒸着機やスパッタ成膜等の成膜装置を用いて高屈折率材料
(Ta25)34を形成する。次に、図8(c)に示すように高屈折率材料34の表面上
にフォトレジスト31を塗布し、図8(d)に示すように回折格子の仕様に基づいて所定
の寸法でパターニングされたマスク32を用いてフォトレジスト31を露光し、このフォ
トレジスト31を現像したのが図8(e)に示す図である。そして、図8(f)に示すよ
うにフォトレジストの感光部31aにより覆われていない領域の高屈折率材料34をエッ
チングにより除去し、図8(g)に示すようにフォトレジスト感光部31aを剥離する。
次に、図8(h)に示すように透明ガラス基板2及び高屈折率材料4の表面上に紫外線硬
化樹脂33を塗布する。そして、図8(j)に示すように、透明ガラス基板2の表面2a
とは反対側の主表面2bから紫外線を照射して紫外線硬化樹脂33を露光する。ここで、
紫外線硬化樹脂の高屈折率材料(Ta25)34により遮蔽されていない領域は感光して
硬化することとなる。次に、図8(k)に示すように剥離液を用いて、感光していない(
硬化していない)領域の紫外線硬化樹脂33bを剥離すれば2波長対応回折格子1が完成
する。
【0031】
なお、本実施形態の2波長対応回折格子1は、フォトリソグラフィ技法とエッチング技
法を用いて回折格子を作製したがナノインプリント技術と呼ばれるナノオーダーのパター
ンを有する金型を利用して格子を作製するようにしても良い。ナノインプリント技術を利
用して格子パターンを作製する場合は、上記したフォトリソグラフィ技法に比べて安価に
格子を製造することが可能になる。但し、ナノインプリント技術を使用する場合は、格子
材料に樹脂を用いる必要があるため、低屈折率材料3に紫外線硬化樹脂又は熱効果樹脂を
用いると好適である。
【0032】
また本実施形態の2波長対応回折格子1は、低屈折率材料3を紫外線硬化樹脂又は熱硬
化樹脂、高屈折率材料4をTiO2またはTa25とした。このように低屈折率材料3と
して樹脂材料を用いると、2波長対応回折格子1のコストダウンを図ることができる。特
に、このような構成の2波長対応回折格子1は、使用条件が穏やかで、且つ低価格化が求
められる家庭用の光ディスク装置の光ピックアップに好適とされる。
【0033】
なお、本実施形態の2波長対応回折格子1は、フォトリソグラフィ技法を用いてドライ
エッチング又はリフトオフにより格子を作製しても良いし、或いはナノインプリント技術
と呼ばれるナノオーダーのパターンを有する金型を利用して格子を作製するようにしても
良い。ナノインプリント技術を利用して格子パターンを作製する場合は、上記したフォト
リソグラフィ技法に比べて安価に格子を製造することが可能になる。但し、ナノインプリ
ント技術を使用する場合は、格子材料に樹脂を用いる必要があるため、低屈折率材料3に
紫外線硬化樹脂又は熱硬化樹脂を用いる必要がある。
【0034】
図9は本実施形態の2波長対応回折格子を備えた光ピックアップ装置の構成を示した図
である。
この図9に示す光ピックアップ装置は、2波長レーザー光源10から出射された光が2
波長対応回折格子1に入射され、2波長対応回折格子1において0次回折光と±1次回折
光に回折される。2波長対応回折格子1において回折された0次回折光と±1次回折光は
ビームスプリッタ21を透過し、コリメートレンズ22により平行光にされた後、対物レ
ンズ23により光ディスク30の情報記録面上に集光される。そして、光ディスク30で
反射された光が再び対物レンズ23、及びコリメートレンズ22を透過し、ビームスプリ
ッタ21により反射されて光検出器24の受光面において受光されることになる。
このように本実施形態の2波長対応回折格子1を用いて光ピックアップ装置を構成すれ
ば、レーザー光源として2波長レーザー光源10を使用した場合でも、CDやDVD等の
異なる種類の光ディスクに対して情報の記録又は再生が可能になる。
【0035】
ところで、上記した2波長対応回折格子1を光ディスクの光ピックアップ装置に適用し
た場合は、光ディスクからの戻り光の一部が2波長対応回折格子1を介して光源側に入射
され、光源から出射されるレーザー光と干渉してしまい、光源から出射される出射光の光
強度にバラツキが発生する虞がある。
そこで、光源からの出射光の光強度のバラツキを防止するために本実施形態では2波長
対応回折格子を次のように構成しても良い。
【0036】
図10は、本発明の第2の実施形態に係る2波長対応回折格子の構造を模式的に示した
図である。なお、図1と同一部位には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
この図10に示す2波長対応回折格子20は、ガラス透明基板2の他方の表面、即ち回
折格子部5が形成されていない方の表面に偏光フィルム6を設けるようにしている。偏光
フィルム7は、例えばポリビニルアルコール(PVA(polyvinyl alcohol))により構
成され、出射面側からの戻り光を偏光して入射面側に戻るのを防止するようにしている。
このように構成すれば、偏光手段により戻り光が入射面側に入射されるのを防止できるの
で、戻り光が入射光と干渉するのを防止することができる。
また、本実施の形態では、本発明に係る偏光手段を有する回折格子の実施例として、樹
脂製の偏光手段(偏光フィルム)を用いて説明したが、これに限らず無機偏光板等の偏光
板も適用できることは言うまでもない。
【0037】
なお、本実施形態では、本発明の回折格子の一例として、異なる2つの波長に対応した
2波長対応回折格子を例に挙げて説明したが、これはあくまでも一例であり、ガラス透明
基板2の表面上に形成する低屈折率材料3と高屈折率材料4との格子深さを変えることに
よって、例えばBlu−ray DiscやHD DVD等に用いられる青紫色レーザー
(405nm)を含む波長帯域において、波長依存性の小さい回折格子を実現することが
可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る2波長対応回折格子の構造を模式的に示した図。
【図2】2波長レーザー光源からの2種類のレーザー光を回折する2波長回折格子において要求される特性を示した図。
【図3】逆フーリエ変換を行って計算した位相変調パターンを示した図。
【図4】本実施形態の2波長対応回折格子における波長と回折効率との関係を示した図。
【図5】本実施形態の回折格子を拡大して示した図。
【図6】シミュレーション結果を示した図。
【図7】本発明の実施形態に係る2波長対応回折格子の製造方法を示した図。
【図8】本発明の実施形態に係る2波長対応回折格子の製造方法を示した図。
【図9】本実施形態の2波長対応回折格子を備えた光ピックアップ装置の構成を示した図。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る2波長対応回折格子の構造を模式的に示した図。
【図11】従来の2波長対応回折格子の構造を模式的に示した図。
【図12】従来の2波長対応回折格子を構成する夫々の回折格子における波長と回折効率との関係を示した図。
【符号の説明】
【0039】
1、20…2波長対応回折格子、2…ガラス透明基板、3…低屈折率材料、4…高屈折
率材料、6…偏光フィルム、10…半導体レーザー、21…ビームスプリッタ、22…コ
リメートレンズ、23…対物レンズ、24…光検出器、30…光ディスク、31…フォト
レジスト、31a…感光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長が異なる複数の光のうち、少なくとも一つの波長の光が入射する回折格子であって

透明基材と、回折格子部とからなり、
前記回折格子部は、第1の屈折率を有する第1の屈折率材料と、該第1の屈折率材料と
は異なる第2の屈折率を有する第2の屈折率材料と、を備え、所定の波長帯域における回
折効率がほぼ一定となるように前記第1の屈折率材料と前記第2の屈折率材料とを前記透
明基材の一方の表面上に交互に且つ複数の波長における回折光が、各々必要とされる角度
に分離するよう設計された位相変調パターンにて形成したことを特徴とする回折格子。
【請求項2】
前記透明基材の他方の表面上に戻り光を吸収する偏光手段を備えたことを特徴とする請
求項1に記載の回折格子。
【請求項3】
前記第1の屈折率材料をSiO2、前記第2の屈折率材料をTiO2またはTa25とし
たことを特徴とする請求項1又は2に記載の回折格子。
【請求項4】
前記第1の屈折率材料を紫外線硬化樹脂又は熱硬化樹脂、前記第2の屈折率材料をTi
2またはTa25としたことを特徴とする請求項1又は2に記載の回折格子。
【請求項5】
少なくとも2つの異なる波長の光を出射する光源と、前記光源から出射光を光記録媒体
に集光する対物レンズとを備え、光記録媒体に情報の記録又は/及び再生を行う光ピック
アップ装置であって、
前記光源と前記対物レンズとの間の光路中に、請求項1乃至4の何れか1項に記載の回
折格子が配置されていることを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項6】
透明基材の表面上に第1の屈折率を有する第1の屈折率材料を形成する工程と、
前記第1の屈折率材料の表面上に感光樹脂を塗布する工程と、
前記感光性樹脂を選択的に露光する工程と、
前記感光性樹脂を現像する工程と、
前記感光性樹脂により覆われていない領域の前記第1の屈折率材料をエッチングする工
程と、
前記透明基材の表面上に前記第1の屈折率材料とは異なる第2の屈折率を有する第2の
屈折率材料を形成する工程と、
前記感光性樹脂を剥離する工程と、
からなることを特徴とする回折格子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−323762(P2007−323762A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−154650(P2006−154650)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】