説明

回転、屈曲等の稼働部に使用可能な高耐久性チューブ、及びその製造方法

【課題】過酷な屈曲、伸縮、捩れ等に耐えうる物性を有し、かつチューブ間又は他の部材との接触時の滑り抵抗が低減されたチューブを提供する。
【解決手段】複数のチューブが、両端が固定され、当該チューブ間で、及び/又は他の部材と接触するように束ねられている部位を有し、かつ前記両端の固定部が相対的に移動する動作を繰り返し行う稼動部を有する製品に用いられるチューブにおいて、熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーを押出成形して得られ、外側表面が梨地状に形成されているチューブ;並びにその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転、屈曲等の稼働部に使用されるチューブ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装用ロボットの手首部などに使用される複数の配管チューブにおいては、それぞれの両端が固定され、他の構成物(他のチューブやチューブガイド)と接触する部位が存在し、その固定部が相対的に「ねじり」や「まがり」及び「こすれ」などの過酷な動作が繰り返されるため、屈曲、伸縮、捩れ及び摩擦等を受ける稼動部を有する装置に用いられるチューブはこれらの過酷な条件に耐えうることが要求される。例えば、塗装用ロボットの手首部に用いられるチューブの材質としては、従来ナイロン系、ポリテトラフルオロエチレン系又はウレタン系の樹脂が知られている(特許文献1〜3)。
【0003】
これらのうち、ナイロン系樹脂は、可塑剤を配合させたソフトナイロンとして用いられているが、単層構造で用いた場合、経時的に可塑剤がブリーディングし、チューブ硬化や細化が生じたり、クレージング(微小な罅の発生)により亀裂や断裂が生じるという問題がある。
【0004】
また、ウレタン系樹脂は、単層構造で用いた場合、耐溶剤性がないため、塗装機周辺環境の溶剤雰囲気で、短期間で膨潤や収縮或いは硬化等が発生するため、殆ど使用は不可能である。
【0005】
更に、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂は、単層構造で用いた場合、極端に耐屈曲疲労特性や耐摩耗特性において劣るため、短期間で亀裂や断裂が発生し、ロボット内配管には殆ど使用不可能という問題がある。
【0006】
更に、特許文献4には、ポリテトラフルオロエチレンからなる最内層と、低密度ポリエチレンからなる中間層と、導電性シースからなる最外層の三層構造からなる塗料チューブが開示されているが、この塗料チューブは最外層の導電性シースが導電性を付与するために黒色であることから、塗料などの流体の外部からの視認ができないという問題を有し、また多層構造のチューブは単層構造のチューブに比較してコスト面で不利である。
【0007】
また、プラスチック製品は一般的に表面が鏡面仕上げされた状態のように平滑(ツルツル)であると、接触する流体(液体や気体)に対しては滑り易く、物質が付着し難く、摩擦係数が低くなる傾向となるが、同じ製品同士と擦り合わせた場合には、却って、お互いが膠着した(粘り付き合う)状態となり、滑り性が悪くなることがあり、その結果、製品の摩擦係数が増加し摩耗量の増加に繋がり、極端な場合、膠着による屈折などの不具合が生じることがある。
【0008】
尚、この膠着状態になる傾向は、同じ製品同士ばかりではなく、他の樹脂や金属等の物質に対しても発生し易くなり、表面が平滑であることに起因する接触面積の増加が要因となり、接触抵抗の増加による耐摩耗性の低下を惹き起す結果を招いている。
【0009】
したがって、塗装用ロボット内等で、流体(液体や気体)の配管用に使用される複数の配管チューブにおいて、他の構成物(同材質のチューブや他材質のチューブ、及びチューブガイド等)と接触する部位が存在し、その部位に屈曲、伸縮、捩れ及び摩擦等が著しく発生するチューブに関しては、チューブ内面(内周側)は圧力損失や物質の滞留を防止するため、平滑性(ツルツル)が求められるが、チューブ表面(外面、外周側)は逆に平滑性を抑えた適度な粗さ(梨地等)に仕上げられた、接触面積及び接触抵抗の少ないチューブが有効となり、塗装用ロボット内等の過酷な動作が繰り返される稼働部における耐久性においても効果を発揮する。
【0010】
また、前記においては、単層押出機を用いた単層構造のチューブ表面を適度な粗さ(梨地等)に仕上げる技術や製造方法に関して有効性を説明しているが、例えば、複層の押出成形機を使用することにより、内層側の樹脂成形温度等の成形条件及び外層側の樹脂成形温度等の成形条件を変えることによっても、チューブ内面(内周側)が平滑性(ツルツル)に優れ、チューブ表面(外面 外周側)が逆に平滑性を抑えた適度な粗さ(梨地等)に仕上げられた、目的の接触抵抗の少ないチューブの製造が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−327897号公報(段落0050)
【特許文献2】特開2004−344789号公報(段落0016)
【特許文献3】特開2006−150378号公報(段落0028)
【特許文献4】特開2003−236425号公報(段落0027〜0029)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、過酷な屈曲、伸縮、捩れ及び摩擦などに耐えうる物性を有し、かつチューブ間又は他の部材との接触時の滑り抵抗が低減されたチューブを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1)複数のチューブが、両端が固定され、当該チューブ間で、及び/又は他の部材と接触するように束ねられている部位を有し、かつ前記両端の固定部が相対的に移動する動作を繰り返し行う稼動部を有する製品に用いられるチューブにおいて、熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーを押出成形して得られ、外側表面が梨地状に形成されているチューブ。
【0014】
(2)熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーが、ポリブチレンテレフタレートからなるハードセグメントと、ポリアルキレンエーテルグリコールのテレフタル酸エステルからなるソフトセグメントが交互に結合したマルチブロックポリマーである前記(1)に記載のチューブ。
【0015】
(3)配管チューブ又はスパイラルチューブである前記(1)又は(2)に記載のチューブ。
(4)可塑剤を含まない前記(1)〜(3)のいずれかに記載のチューブ。
(5)単層構造である前記(1)〜(4)のいずれかに記載のチューブ。
【0016】
(6)ワセリンを塗布せずに、下記の表面滑り性試験により測定された引抜き力が9N以下である前記(1)〜(5)のいずれかに記載のチューブ。
(表面滑り性試験)上下2本の供試チューブを中心に、6本の供試チューブで束ね、結束バンドで動かない程度で固定する。このとき、結束バンドにより束ねた供試チューブが変形するのを防ぐため、芯棒を挿入しておく。これを引張試験機に取付け、60mm/分の速度で引張り、中心の供試チューブがチューブ束から離脱するのに要した力を測定する。
【0017】
(7)前記(1)〜(6)のいずれかに記載のチューブが手首内に設けられている塗装用ロボット。
(8)熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーを押出成形することを含む前記(1)〜(6)のいずれかに記載のチューブの製造方法。
【0018】
(9)熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーを、シリンダー温度220〜245℃、アダプター温度235〜245℃、ギアポンプ温度225〜240℃、金型温度195〜205℃の温度条件に設定し、外径Φ10×内径Φ8のチューブを成形する際、金型の直径を19〜21mm、マンドレルの直径を14〜15mm、Fリングの直径を13.6〜14.6mm、Rリングの直径を10.5〜11.5mm、スリープの直径を10.6〜11.6mmにして押出成形する前記(8)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、過酷な屈曲、伸縮、捩れ等に耐えうる物性を有し、かつチューブ間又は他の部材との接触時の滑り抵抗が低減されたチューブを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は表面滑り性試験の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のチューブは、複数のチューブが、両端が固定され、当該チューブ間で、及び/又は他の部材、例えばチューブガイド、他材質のチューブと接触するように束ねられている部位を有し、かつ前記両端の固定部が相対的に移動する動作を繰り返し行う稼動部を有する製品に用いられるチューブであり、これらのチューブとしては、例えば、種々のロボットに配管されるものであったり、塗装用ロボットの手首内に設けられる配管チューブ(塗料チューブ、エアチューブ)、スパイラルチューブ、及び電線用ケーブル等が挙げられる。
【0022】
本発明のチューブの外径、内径及び肉厚は、特に制限はなく、用途に応じて選択できるが、例えば、塗装用ロボットの手首内に設けられる配管チューブ(塗料チューブ、エアチューブ)の場合、外径は、通常3〜20mm、好ましくは4〜16mmであり、内径は、通常2〜16mm、好ましくは2.5〜13mmであり、肉厚は、通常0.5〜2.5mm、好ましくは0.75〜2mmである。
【0023】
本発明に用いる熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーとしては、ポリエステルを主成分とする熱可塑性エラストマーであれば特に制限はないが、例えば、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成誘導体とジオールから形成されるポリエステルからなるハードセグメントと、主としてポリエーテルから形成されるソフトセグメントとのブロック共重合体が挙げられる。
【0024】
本発明に用いる熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーのショアD硬度(JIS K7215に準拠)は好ましくは45〜75D、更に好ましくは50〜65Dであり、曲げ弾性率(ASTM D790に準拠)は、好ましくは90〜600MPa、更に好ましくは150〜400MPaである。
【0025】
また、上記熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーは単独でも、必要な特性を得ることを目的として、2種以上の硬度のものを配合させてもよい。
【0026】
前記ブロック共重合体のハードセグメントに用いられる芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成誘導体としては、例えばテレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニル−4,4´−ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5−スルホイソフタル酸、あるいはこれらのエステル形成誘導体、好ましくはテレフタル酸及び又はテレフタル酸ジメチルが挙げられる。
【0027】
前記ブロック共重合体のハードセグメントに用いられるジオールとしては、例えば分子量300以下のエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール(1,4−ブタンジオール)、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメチロールなどの脂環式ジオール、キシリレングリコール、4,4´−ジヒドロキシジフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(2−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4´−ジヒドロキシ−p−ターフェニル、4,4´−ジヒドロキシ−p−クォーターフェニルなどの芳香族ジオール、好ましくは1,4−ブタンジオールが挙げられる。
【0028】
前記ブロック共重合体のソフトセグメントに用いられるポリエーテル(ポリオキシアルキレン類)としては、例えば数平均分子量300から6000程度のポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドプロピレンオキシド共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールエチレンオキシド付加重合体、エチレンオキシドテトラヒドロフラン共重合体、好ましくはポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールが挙げられる。
【0029】
前記ブロック共重合体の製造方法は特に限定されるものではなく公知の方法で製造することができ、例えば、ジカルボン酸又はジカルボン酸アルコールジエステルとグリコールをエステル反応又はエステル交換反応させハードセグメントを作成し、ポリオキシアルキレングリコールを添加してエステル交換反応させソフトセグメントを共重合させる方法;ハードセグメントとソフトセグメントを付加反応させる方法、鎖連結剤で結合させる方法又はそれぞれの反応生成物を溶融混合させる方法などが挙げられる。
【0030】
本発明に用いる熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーとしては、ポリブチレンテレフタレートからなるハードセグメントと、ポリアルキレンエーテルグリコールのテレフタル酸エステルからなるソフトセグメントが交互に結合したマルチブロックポリマーが好ましい。
【0031】
前記の好ましい熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーは、ハードセグメントが次式(I):
[−COCCO−O(CHO−]
(式中、−COCCO−はテレフタロイル基を表す。)
で示され、ソフトセグメントが次式(II):
[−COCCO−O{(CHO}−]
(式中、−COCCO−はテレフタロイル基を表す。)
で示される。
【0032】
前記の好ましい熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーとしては、例えばハイトレルTMシリーズ(東レ・デュポン社製)が市販されており、当該市販品を用いることができる。
【0033】
例えば、ハイトレルTM6377は、ショアD硬度(JIS K7215に準拠)63、曲げ弾性率(ASTM D790に準拠)353MPaであり、熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーとして好適に用いることができる。
【0034】
本発明に用いる熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーは、本発明の目的を損なわない限り、安定剤(熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤)、着色剤(顔料及びマスターバッチ等)等の添加剤を含有してもよいが、これらの添加剤の合計配合量は、好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。本発明のチューブは、前記熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーを押出成形することにより製造することができる。
【0035】
本発明のチューブに用いる原料には、可塑剤が配合されていないため、経時による、チューブ硬化や細化或いは硬化や脆化によるクレージングが発生せず、柔軟性等の物性及び性能も変化しない。
【0036】
本発明のチューブとしては、ワセリンを塗布せずに、下記の表面滑り性試験により測定された引抜き力が9N以下であるものが好ましい。
(表面滑り性試験)図1に示すように、上下2本の供試チューブを中心に、6本の供試チューブで束ね、結束バンドで動かない程度で固定する。このとき、結束バンドにより束ねた供試チューブが変形するのを防ぐため、芯棒を挿入しておく。これを引張試験機に取付け、60mm/分の速度で引張り、中心の供試チューブがチューブ束から離脱するのに要した力を測定する。
【0037】
本発明のチューブは、前記熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーを押出成形することにより製造することができる。
【0038】
プラスチックの射出成形や、中空成形(ブロー成形)においては、意図的に金型の表面をしぼ(皺)状にしたり、微細な凹凸をつけることで成形製品の表面を梨地状にすることができるが、押出成形は、常に樹脂がシリンダー内スクリューにより、連続的に押し出されてくるため、金型表面に前記加工が施されていると、縦状(チューブに対し並行な直線状)の筋が発生し、金型出口部にいわゆる目やにと称される溶融後固化物等も発生し易くなり徐々に深い縦状の傷となって、継手接続配管後に漏れを発生させるトラブル要因となり、チューブそのものの機能を果たさなくなるため、押出成形の場合には、金型自体に前記しぼ状のものや微細な凹凸をつけることは不可能である。
【0039】
したがって、本発明者らは、熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーの押出成形における標準温度条件を変更するとともに、冷却層入口プレ水槽及び押出機出口側内金型部品の改善を行うことにより、チューブの外側表面を梨地状に形成させた。その結果、チューブの表面滑り性が向上させることができた。
【0040】
具体的には、熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーの成形に必要となる標準的な成形温度条件は、押出機入口(ホッパー出口からシリンダー入口)から、シリンダー、アダプター、ギアポンプを経て、金型(ダイ及びマンドレル)に到る間、なだらかな上昇カーブを描く温度条件が、チューブ成形に対する安定性を与えるが、金型から吐出されたチューブ(高温の樹脂)が冷却槽により冷やされる時間がかかり、樹脂の結晶化が遅れ、チューブ外側表面は平滑(ツルツル)となり、目的の梨地形状の形成が不可能となる。
【0041】
チューブ表面を梨地状に形成させるためには、前記の冷却槽内での樹脂の結晶化を早めることが必要となるため、金型部での樹脂温度を急激に下げる必要があるが、金型部のみの温度を低くするだけでは、樹脂の全体的な成形熱履歴が不足し、最も重要なチューブとしての機械特性や、チューブ内表面の平滑性を得ることが不可能となる。
【0042】
前記問題を解決するために、金型に到る以前の成形温度条件を、標準的な温度条件よりも高くし、必要とされる熱履歴を十分に樹脂に与えることが必要となる。
【0043】
したがって、シリンダー及びアダプター部の温度を標準的な温度条件よりも15〜20℃高めに設定し、ギアポンプ部の温度も5〜10℃高くすることでチューブに十分な熱履歴を与え、金型部の温度を標準的な温度条件よりも30〜35℃下げることにより、樹脂の結晶化を早めることが可能となる。
【0044】
本温度条件により、成形されたチューブは、チューブに必要とされる十分な機械特性及びチューブ内表面の平滑性を維持しつつ、チューブ外表面の結晶化が早まることにより、チューブ表面を梨地状に形成させることを可能とする。チューブの成形温度条件を変更することにより、金型や冷却槽に配される製品寸法規制冶具の設計変更も、当然ながら必要となるが、成形時の状況により各必要寸法の設定は可能となる。
【0045】
好ましい態様としては、例えば、熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーを、シリンダー温度220〜245℃、アダプター温度235〜245℃、ギアポンプ温度225〜240℃、金型温度195〜205℃の温度条件に設定し、外径Φ10×内径Φ8のチューブを成形する際、金型の直径を19〜21mm、マンドレルの直径を14〜15mm、Fリングの直径を13.6〜14.6mm、Rリングの直径を10.5〜11.5mm、スリープの直径を10.6〜11.6mmにして押出成形することが挙げられる。
【実施例】
【0046】
本発明をより具体的かつ詳細に説明するために以下に実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
(実施例1及び比較例1、2)チューブの製造
東レ・デュポン社製熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマー「ハイトレルTM6377」(硬度:ショアD63)を用いて、単層押出成形機を使用して、表1に示す成形条件にしたがって、外径10mm、内径8mmのチューブを製造した。
【0048】
【表1】

【0049】
表1に示す改善処方(押出成形温度及び金型・製品寸法規制冶具)にしたがって製造した場合、外側表面が梨地状に形成されているチューブが得られ、これを実施例1のチューブとした。一方、表1に示す標準成形条件(押出成形温度及び金型・製品寸法規制冶具)にしたがって製造した場合、外側表面が鏡面仕上げされた状態のように形成されているチューブが得られ、これを比較例1のチューブとした。
【0050】
また、市販のニッタ・ムアー社製ナイロンチューブN2−4−10×8(外径10mm、内径8mm)を比較例2のチューブとして以下の試験に用いた。
【0051】
(試験例1)表面滑り性試験
図1に示すように、上下2本の供試チューブを中心に、6本の供試チューブで束ね、結束バンドで動かない程度で固定した。このとき、結束バンドにより束ねた供試チューブが変形するのを防ぐため、芯棒を挿入しておいた。これを引張試験機に取付け、60mm/分の速度で引張り、中心の供試チューブがチューブ束から離脱するのに要した力を測定した。
【0052】
また、機械取付け時と同様に、チューブ接触部にワセリンを塗布した場合についても測定した。
結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
(試験例2)耐摩耗性試験
摩耗試験装置の継手に供試チューブの両端を取り付け、継手を水平方向に繰り返し往復運動することによって、チューブを上下運動させ、被接触材料((i)供試チューブ(ピアノ線を挿入して固定)、(ii)6角SUS棒)と摺動させた。このとき、比較対象チューブの摺動距離を合わせるため、比較対象チューブ同士を結束バンドで拘束し、変位を合わせた。
下記試験条件により、所定の繰返し数(サイクル数)終了後、摩耗試験前後の「断面寸法の測定から断面積を算出」し、各チューブの摩耗量を比較した。
試験条件を以下に示す。
(試験条件)
・供試チューブ長さ:490(mm)
・供試チューブ結束間距離:220(mm)
・試験装置ストローク: 160(mm)
・繰返しサイクル:60(往復/分)
・繰返し数:1,000,000(回)
・チューブの上下変位: 約40(mm)
結果を表3に示す。
【0055】
【表3】

【0056】
試験結果より、摩耗促進試験においては、可塑剤が配合されていないプラスチックチューブは、通常の可塑剤が配合されているナイロンチューブに比較すると、いわゆる可塑剤(油分等の低分子型可塑剤)のブリーディング(表面浮き出し現象)によって結果的に補助される表面の滑り性(スリッピンング)効果が得られないため、通常の平滑な(ツルツル)表面のチューブの場合、当該試験条件で摩耗試験を実施すると、可塑剤配合のチューブよりも耐摩耗性能が劣る結果となり易い。しかしながら、本発明の成形条件により得られた、表面梨地成形のチューブの耐摩耗性能は、チューブ同士において、可塑剤入りナイロンチューブとほぼ同等の結果が得られ、対金属(六角ステンレス棒)においては、可塑剤入りナイロンチューブに比較して、半分以下の摩耗量となる耐摩耗性能が得られた。
【0057】
(試験例3)塗装ロボット実機搭載試験(促進試験)
実施例及び比較例のチューブを塗装ロボット(KT264:国内仕様)の手首(内径70mm)に通し、以下の条件で耐久試験を行った。
(塗装機仕様)
塗装機:ABB製ROBOBEL951、手首内チューブ占有率:26.4%
(試験条件)
(i)結束用スパイラルチューブ有り チューブ同士等の摩擦抵抗低減用ワセリン塗布無し
(ii)結束用スパイラルチューブ無し チューブ同士等の摩擦抵抗低減用ワセリン塗布有り
【0058】
(試験結果)
従来使用可塑剤入りナイロンチューブ(比較例2のチューブ)では、新品チューブを使用し、前記(i)の試験条件で、約2万回でチューブ切断トラブルが発生し、前記(ii)の試験条件で、約17万回でチューブ切断トラブルが発生した。
【0059】
実施例1のチューブでは、新品チューブを使用し、前記(i)の試験条件で、約10万回経過後、問題は認められなかった。更に、前記(i)の試験条件で試験を行ったチューブをそのまま用いて、前記(ii)の試験条件で試験を行ったところ、約20万回経過後も問題は認められなかった。試験回数としては、「(i)の条件試験+(ii)の条件試験」を継続して行ったため、合計30万回にて問題は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のチューブが、両端が固定され、当該チューブ間で、及び/又は他の部材と接触するように束ねられている部位を有し、かつ前記両端の固定部が相対的に移動する動作を繰り返し行う稼動部を有する製品に用いられるチューブにおいて、熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーを押出成形して得られ、外側表面が梨地状に形成されているチューブ。
【請求項2】
熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーが、ポリブチレンテレフタレートからなるハードセグメントと、ポリアルキレンエーテルグリコールのテレフタル酸エステルからなるソフトセグメントが交互に結合したマルチブロックポリマーである請求項1記載のチューブ。
【請求項3】
配管チューブ又はスパイラルチューブである請求項1又は2記載のチューブ。
【請求項4】
可塑剤を含まない請求項1〜3のいずれか1項に記載のチューブ。
【請求項5】
単層構造である請求項1〜4のいずれか1項に記載のチューブ。
【請求項6】
ワセリンを塗布せずに、下記の表面滑り性試験により測定された引抜き力が9N以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載のチューブ。
(表面滑り性試験)上下2本の供試チューブを中心に、6本の供試チューブで束ね、結束バンドで動かない程度で固定する。このとき、結束バンドにより束ねた供試チューブが変形するのを防ぐため、芯棒を挿入しておく。これを引張試験機に取付け、60mm/分の速度で引張り、中心の供試チューブがチューブ束から離脱するのに要した力を測定する。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のチューブが手首内に設けられている塗装用ロボット。
【請求項8】
熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーを押出成形することを含む請求項1〜6のいずれか1項に記載のチューブの製造方法。
【請求項9】
熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーを、シリンダー温度220〜245℃、アダプター温度235〜245℃、ギアポンプ温度225〜240℃、金型温度195〜205℃の温度条件に設定し、外径Φ10×内径Φ8のチューブを成形する際、金型の直径を19〜21mm、マンドレルの直径を14〜15mm、Fリングの直径を13.6〜14.6mm、Rリングの直径を10.5〜11.5mm、スリープの直径を10.6〜11.6mmにして押出成形する請求項8記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−131415(P2011−131415A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290623(P2009−290623)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(593075418)株式会社アオイ (17)
【Fターム(参考)】