回転ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置及び回転ターゲット式電子線照射成膜装置
【課題】 良好な膜質の薄膜を形成することができる成膜装置の提供。
【解決手段】
ターゲット11を保持するターゲットホルダ10と、ターゲットホルダ10を回転可能な回転機構80と、成膜用基板21を保持する基板ホルダ20と、電子線を発生する電子線発生装置30と、電子線収束装置40と、レーザ光照射装置50とを備えた回転ターゲット式成膜装置である。電子線収束装置40は、回転機構80により回転するターゲット11に対して、電子レンズを形成することにより電子線発生装置30から発生された電子線を収束させ、もってターゲット11の少なくとも一部を液体化する。レーザ光照射装置50は、液体化されたターゲット11の少なくとも一部にレーザ光を照射してアブレーションを行う。
【解決手段】
ターゲット11を保持するターゲットホルダ10と、ターゲットホルダ10を回転可能な回転機構80と、成膜用基板21を保持する基板ホルダ20と、電子線を発生する電子線発生装置30と、電子線収束装置40と、レーザ光照射装置50とを備えた回転ターゲット式成膜装置である。電子線収束装置40は、回転機構80により回転するターゲット11に対して、電子レンズを形成することにより電子線発生装置30から発生された電子線を収束させ、もってターゲット11の少なくとも一部を液体化する。レーザ光照射装置50は、液体化されたターゲット11の少なくとも一部にレーザ光を照射してアブレーションを行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザアブレーション成膜装置及び電子線照射成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、基板に薄膜を形成する方法として、電子線照射成膜法やレーザアブレーション成膜法等が知られている。電子線照射成膜法は、電子線をターゲットに照射して蒸発させ、成膜用基板に薄膜を形成する方法である。一方、レーザアブレーション成膜法は、レーザ光をターゲットに照射してアブレーションを行うことにより薄膜を形成する方法である。
【0003】
レーザアブレーション成膜法を用いる成膜方法として、ターゲットを抵抗加熱等の方法により加熱して液体化した状態でレーザ光を照射してアブレーションを行う方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。同様に、加熱溶融したターゲットに対してレーザ光を照射してレーザアブレーションを行う装置も知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−311561号公報
【特許文献2】特開2002−241930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
固体ターゲットによるレーザアブレーション成膜法では、微粒子が発生してその微粒子が薄膜内部に取り込まれるという問題がある。特許文献1及び特許文献2に記載されているように、液体化した状態でレーザ光を照射すれば微粒子が発生しないため、微粒子が薄膜内部に取り込まれることがほとんどない。この方法は、ガリウムなど低融点でしかも蒸気圧の低い材料については有効である。
【0006】
しかしながら、比較的高い融点を有し溶融した状態での蒸気圧が高いシリコン(Si)などの材料の場合には、液体状態にあるターゲットから蒸発する蒸気の量が多くなる。そして、この蒸気が基板に付着する量は、レーザアブレーションによる付着量に比べて無視できない程度に達する。かかる蒸気の付着によって形成された薄膜の膜質は、レーザアブレーションにより形成された薄膜の膜質と比べて劣るため、結果として形成された薄膜の膜質が悪くなってしまう。
【0007】
そこで本発明は、任意の固体材料に関して、液体化した材料の蒸発による成分を抑え、かつ、固体ターゲットアブレーションにおける微粒子の発生がなく、従って良好な膜質の薄膜を形成することができるレーザアブレーション成膜装置を提供することを目的とする。
【0008】
また本発明は、ターゲットに対して安定的に電子を供給することができ、かつ、成膜用基板に対して均一で良好な膜質の薄膜を形成することができる電子線照射成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、固体材料からなるターゲットを保持するターゲットホルダと、該ターゲットホルダを回転可能な回転機構と、該ターゲットホルダに対して所定の位置に設けられ、成膜用基板を保持する基板ホルダと、電子線を発生する電子線発生装置と、該回転機構により回転する該ターゲットに対して、電子レンズを形成することにより該電子線発生装置から発生された電子線を収束させ、もって該ターゲットの少なくとも一部を液体化する電子線収束装置と、液体化された該ターゲットの少なくとも一部にレーザ光を照射するレーザ光照射装置と、を備える回転ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置を提供している。
【0010】
ここで、真空室を有する装置本体を更に備え、該電子線発生装置は、電子線放出源と、該電子線放出源に電圧を印加して電子線を放出させる駆動電源とを備え、該ターゲットホルダ、該基板ホルダ、及び該電子線放出源は、該真空室内に設けられており、該ターゲットホルダは、該回転機構を介して該装置本体に接続されており、該ターゲットホルダ、該回転機構、及び該装置本体は導電性を有するのが好ましい。
【0011】
更に、該回転機構は、該真空室の外部に設けられ回転力を発生するモータと、該装置本体に支持されると共に該モータに接続され、もって該モータの回転力を該真空室内に導入する回転導入端子と、該装置本体に支持されると共に該真空室内に設けられた回転軸受と、一端と他端とを有し、該一端は該回転導入端子に接続され該他端は該ターゲットホルダに接続されると共に、該一端と該他端との間において該回転軸受に回転可能に支持され、もって該モータの回転力を該ターゲットホルダに伝達する回転伝達棒と、を備え、該回転軸受は、導電性の内輪及び外輪と、該内輪と該外輪との間に設けられる導電性の回転玉とを備え、該回転玉の表面には、導電性の固体潤滑剤がコーティングされているのが好ましい。
【0012】
また、該ターゲットホルダを冷却するための冷却手段を更に備えるのが好ましい。更には、該冷却手段は水冷容器を備え、該水冷容器と該ターゲットホルダとの距離が0.1μm以上かつ2mm以下であるのが好ましい。
【0013】
また本発明は、装置本体と、ターゲットを保持するターゲットホルダと、該ターゲットホルダに対して所定の位置に設けられ、成膜用基板を保持する基板ホルダと、該ターゲットに対して電子線を照射する電子線照射装置と、該装置本体に支持される回転軸受と、該ターゲットホルダに接続される一端と回転手段に接続される他端とを有し、該回転軸受に回転可能に支持される回転軸と、導電性を有し該回転軸に接触して設けられるとともにアースに接続されるアース接続部とを備える回転ターゲット式電子線照射成膜装置を提供している。
【0014】
ここで、該アース接続部と該回転軸との接触部の電気抵抗が該回転軸受の電気抵抗よりも小さいのが好ましい。また、該アース接続部は弾性を有する材料からなり、もって該回転軸に対して弾性的に接触するのが好ましい。さらに該アース接続部は、金属製薄板、金属製コイルばね、及び針金状金属の何れかにより構成されるのが好ましい。例えば、該アース接続部は、基部と該基部から櫛歯状に延びる櫛歯部とを有する金属製薄板により構成され、該櫛歯部が該回転軸に接触するのが好ましい。
【0015】
また該回転軸は、該アース接続部と接触する接触部を備え、該アース接続部と該接触部とは同じ材質により形成されているのが好ましい。また該回転軸は、該ターゲットホルダに接続されるターゲットホルダ接続部と、該アース接続部と接触する接触部と、該回転軸受に支持される軸受支持部とを備え、該接触部は、該ターゲットホルダ接続部と該軸受支持部との間に位置するのが好ましい。あるいは該回転軸は、絶縁性材料からなる絶縁部を更に備え、該絶縁部は、該接触部と該回転軸受との間に位置するのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の回転ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置によれば、電子線収束装置がターゲットの少なくとも一部を液体化し、レーザ光照射装置が該ターゲットの少なくとも一部にレーザ光を照射するため、固体ターゲットを用いたレーザアブレーション成膜法のように微粒子が発生するという問題が生じない。しかも、ターゲットの一部の領域のみを液体化することができるため、ターゲットが液体状態での蒸気圧が高いシリコン(Si)などの材料である場合でも、液体化された部分から蒸発する蒸気の量は非常に少ない。すなわち、かかる蒸気が基板に付着する量は、レーザアブレーションによる付着量に比べて無視できる程度である。したがって、本装置により形成された薄膜は、一様性が良く、付着強度が高い等、レーザアブレーション法に特徴的な多くのメリットを有している。また、本装置によれば、ターゲットがアルミニウム(Al)など低融点の低蒸気圧材料あるいは高融点の昇華性材料である場合であっても、同様に良好な膜質の薄膜を形成することができる。すなわち、任意の固体材料に関して、レーザアブレーション法による良好な膜質の薄膜を形成することができる。
【0017】
また、ターゲットホルダを回転可能な回転機構を備えているため、ターゲットを回転しながらレーザアブレーションを行うことができる。このため、ターゲットを固定した状態でレーザアブレーションを行う場合(固定ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置)と比べて、液滴の発生なしにアブレーション可能な溶融領域を広くすることができ、ターゲットの利用効率を向上させることが可能である。
【0018】
また、固定ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置では、ターゲットの一部(一箇所)のみにレーザ光線が照射されてアブレーション効果によって成膜材料が除去される結果、時間が経つにつれてその部分のくぼみが深くなるために、レーザ光線の照射密度が低下して成膜スピードが落ちる場合がある。しかし、請求項1記載の回転ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置によれば、ターゲットを回転しながらレーザアブレーションを行うことができるため、ターゲットのより広い領域にレーザ光線が照射され、上述したような現象は生じない。
【0019】
更に、固定ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置と比べて、ターゲットのより広い領域を成膜に用いることができるため、実効的なターゲット寿命が長くなる。このため、真空を破ってターゲットを交換する頻度が少なくなる。
【0020】
請求項2記載の回転ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置によれば、ターゲットホルダは、回転機構を介して装置本体に接続されており、ターゲットホルダ、回転機構、及び装置本体は導電性を有するから、ターゲットに照射された電子は、ターゲットホルダ、回転機構、装置本体を通ってアースへと流れることができる。したがって、ターゲット表面に電子が溜まってしまい、クーロン反発力のために電子線を持続的に照射できなくなるという問題を回避することができる。
【0021】
請求項3記載の回転ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置によれば、回転機構は、モータ、回転導入端子、回転軸受、及び回転伝達棒を備えているから、真空室内に設けられたターゲットホルダにモータの回転力を効率的に伝達することができる。また、該回転軸受は、導電性の内輪及び外輪と、該内輪と該外輪との間に設けられる導電性の回転玉とを備え、該回転玉の表面には導電性の固体潤滑剤がコーティングされているから、例えば内輪と外輪との間の導電性が確保されていないセラミック製軸受と異なり、ターゲット上に照射された電子は速やかに装置本体側へと流れ、かつ回転玉と内輪及び外輪との間での発塵が生じない。
【0022】
請求項4記載の回転ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置によれば、ターゲットホルダを冷却するための冷却手段を更に備えるので、ターゲットホルダの周囲が昇温して真空度が低下したり、電子レンズの一部を形成する磁石がターゲットホルダの近傍に置かれている場合には該磁石が加熱されて磁場を発生できなくなるという問題を防止することができる。
【0023】
請求項5記載の回転ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置によれば、冷却手段は水冷容器を備え、該水冷容器とターゲットホルダとの距離が0.1μm以上かつ2mm以下であるから、ターゲットホルダをスムーズに回転させつつ、ターゲットホルダを効果的に放射冷却することが可能である。
【0024】
請求項6記載の回転ターゲット式電子線照射成膜装置によれば、電子線照射装置からターゲットに向かって照射された電子は、ターゲットホルダ、回転軸及びアース接続部を通ってアースへと流れる。もしこのとき電子の大部分が回転軸受を通ってアースへと流れると、回転軸受に焼付けや変形などが生じて回転が不安定となる可能性がある。しかし本発明では回転軸受以外に電子の通路であるアース接続部が設けられるため、回転軸受を流れる電流が減少するか若しくはゼロとなる。このため、回転軸受の不具合がなくなり寿命が伸びるとともに、回転するターゲットに対して安定して電子を供給することが可能となる(エミッション電流の安定)。さらに、安定した回転が持続するためプロセスのムラが無くなり、成膜用基板に対して均一かつ良好な膜質の薄膜を形成することができる。
【0025】
請求項7記載の回転ターゲット式電子線照射成膜装置によれば、アース接続部と回転軸との接触部の電気抵抗が回転軸受の電気抵抗よりも小さいため、回転軸受に流れる電流よりもアース接続部へ流れる電流の方が大きくなる。したがって、上述した回転の安定及びエミッション電流の安定を確実に達成することができる。
【0026】
請求項8記載の回転ターゲット式電子線照射成膜装置によれば、アース接続部は弾性を有する材料からなり、もって回転軸に対して弾性的に接触する。よってアース接続部は回転軸に対して確実に接触して、電子を安定的にアースへ流すことができる。
【0027】
請求項9記載の回転ターゲット式電子線照射成膜装置によれば、アース接続部は、金属製薄板、金属製コイルばね、及び針金状金属の何れかにより構成されるため、簡単な構成によりアース接続部を構成することができる。
【0028】
請求項10記載の回転ターゲット式電子線照射成膜装置によれば、アース接続部は、基部と基部から櫛歯状に延びる櫛歯部とを有する金属製薄板により構成され、櫛歯部が回転軸に接触する。かかる構成によれば、アース接続部と回転軸との接触面接を小さくすることができ、したがって摩擦力を小さくすることができる。よって、安定した回転に寄与する。
【0029】
請求項11記載の回転ターゲット式電子線照射成膜装置によれば、回転軸は、アース接続部と接触する接触部を備え、アース接続部と接触部とは同じ材質により形成されている。もしアース接続部と接触部とが異種材質により形成されていると、固さの違いにより磨耗が生じ、それが粉塵などの原因になったり、長期的にみると接触不良を起こしたりする可能性がある。しかし、請求項11の回転ターゲット式電子線照射成膜装置によれば、このような問題が生じない。
【0030】
請求項12記載の回転ターゲット式電子線照射成膜装置によれば、回転軸は、ターゲットホルダに接続されるターゲットホルダ接続部と、アース接続部と接触する接触部と、回転軸受に支持される軸受支持部とを備え、接触部は、ターゲットホルダ接続部と軸受支持部との間に位置する。かかる構成によれば、ターゲットホルダとアース接続部との距離の方が、ターゲットホルダと回転軸受との距離よりも短くなるため、より多くの電子(電流)をアース接続部へ流すことができる。
【0031】
請求項13記載の回転ターゲット式電子線照射成膜装置によれば、回転軸は絶縁性材料からなる絶縁部を更に備え、絶縁部は接触部と回転軸受との間に位置するため、回転軸受には全く電流が流れず、全電流がアース接続部を流れる。よって、回転軸受に電流が流れることによる不具合が発生しないため、回転の安定及びエミッション電流の安定を確実に達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1の実施の形態による回転ターゲット式成膜装置の全体構成を示す説明図。
【図2】図1のII−II線に沿った断面図。
【図3】第1の実施の形態による回転ターゲット式成膜装置に用いられる回転機構を示す斜視図。
【図4A】図3の回転機構に用いられる第一のカップリングを示す斜視図。
【図4B】図3の回転機構に用いられる第二のカップリングを示す斜視図。
【図5】第1の実施の形態による回転ターゲット式成膜装置により成膜を行っている様子を示す説明図。
【図6】第1の実施の形態による回転ターゲット式成膜装置を用いた第1の成膜方法における各ステップを示すフローチャート。
【図7】第1の実施の形態による回転ターゲット式成膜装置を用いた第2の成膜方法における各ステップを示すフローチャート。
【図8】本発明の第2の実施の形態による回転ターゲット式成膜装置の全体構成を示す説明図。
【図9】第2の実施の形態による回転ターゲット式成膜装置に用いられる回転機構及びアース接続部を示す説明図。
【図10】図9のX−X線に沿った断面図。
【図11】第2の実施の形態による回転ターゲット式成膜装置により成膜を行っている際の電子の流れを示す説明図。
【図12】第1の変形例による回転ターゲット式成膜装置における回転機構及びアース接続部の構成に加え、成膜時の電子の流れを示す説明図。
【図13A】第2の変形例による回転ターゲット式成膜装置における回転機構及びアース接続部の構成に加え、成膜時の電子の流れを示す説明図。
【図13B】図13Aの回転ターゲット式成膜装置におけるアース接続部を上方から見た図。
【図14】第3の変形例による回転ターゲット式成膜装置における回転機構及びアース接続部の構成に加え、成膜時の電子の流れを示す説明図。
【図15】第4の変形例による回転ターゲット式成膜装置における回転機構及びアース接続部の構成に加え、成膜時の電子の流れを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の第1の実施の形態による回転ターゲット式成膜装置について図1乃至図7に基づき説明する。
【0034】
最初に、第1の実施の形態による回転ターゲット式成膜装置1の構成について図1および図2を参照して説明する。図1に示されるように、回転ターゲット式成膜装置1は、真空容器6と、回転坩堝ホルダ(ターゲットホルダ)10と、基板ホルダ20と、電子線発生装置30と、電子線収束装置40と、レーザ光照射装置50と、回転機構80とを備えている。
【0035】
真空容器6の内部には真空室61が画成されている。真空容器6には真空装置(真空ポンプ)65が設けられており、真空室61を排気して真空状態にすることが可能である。真空室61内には、回転坩堝ホルダ10、基板ホルダ20、電子線発生装置30のうち後述するフィラメント31、および電子線収束装置40などが設けられている。
【0036】
回転坩堝ホルダ10は、固体材料からなるターゲット11を保持するためのものである。図1および図2に示されるように、回転坩堝ホルダ10の下方には水冷装置18が設けられており、坩堝17およびターゲット11を冷却保持することが可能である。図2に示されるように、水冷装置18は、水冷容器181と水冷パイプ182とを備えている。
【0037】
水冷容器181は、後述の第二の回転伝達棒87の周囲を囲むように、略ドーナツ状に構成されている。水冷容器181の内部には、冷却水を満たすための冷却水空間181Sが形成されている。また水冷容器181の一部(図2における左下端部)は後述の永久磁石41と接触しているため、永久磁石41を効果的に冷却して、昇温による消磁を防止することができる。一方、回転坩堝ホルダ10をスムーズに回転させるため、水冷容器181と回転坩堝ホルダ10とは接触していない(つまり、隙間が形成されている。)。しかし、水冷容器181と回転坩堝ホルダ10との距離は0.1μm以上かつ2mm以下となるように構成されているので、回転坩堝ホルダ10をスムーズに回転させつつ、回転坩堝ホルダ10を効果的に放射冷却することが可能である。
【0038】
水冷パイプ182は、その一端が冷却水空間181Sと連通するように水冷容器181に接続され、他端が供給装置(図示せず)に接続されている。よって水冷パイプ182は、供給装置(図示せず)から供給される冷却水を水冷容器181に供給することができる。
【0039】
図1に示されるように回転坩堝ホルダ10はアースに接続されているため、回転坩堝ホルダ10、坩堝17、およびターゲット11は全てアース電位となっている。また、真空容器6もアース電位である。
【0040】
基板ホルダ20は、薄膜を形成するための成膜用基板21を保持するためのものである。本実施の形態においては、基板ホルダ20は、ターゲット11に対して約10cm離れた上方(+Z方向)に設けられている。基板ホルダ20は開口部20aを有していて、成膜用基板21の成膜面21Aがターゲット11に向かって露出している。よって、ターゲット11から蒸発した物質が、開口部20aを通って成膜面21Aに蒸着されるようになっている。なお図1において、基板ホルダ20および成膜用基板21については、成膜面21Aに垂直な方向に沿った断面が示されている。
【0041】
基板ホルダ20と回転坩堝ホルダ10との間には、シャッタ71が設置されている。シャッタ71は開閉可能に構成され、開状態においてはターゲット11から蒸発した物質が成膜用基板21に到達するのを許容し、閉状態においてはターゲット11から蒸発した物質が成膜用基板21に到達するのを阻止する。
【0042】
電子線発生装置30は、フィラメント31と電子線発生用駆動電源32とから構成される。フィラメント31は、例えばタングステンフィラメントから構成され、電流が流れると自由電子を放出する。電子線発生用駆動電源32は、フィラメント31にマイナスの電位を与え、かつ、フィラメント31を加熱する電流を流すためのものである。電子線発生用駆動電源32は、交流電源33、直流電源34、コイルL1〜L3、コンデンサC1、C2、および遠隔操作装置35を備えている。
【0043】
交流電源33の電圧Vは、後述するように遠隔操作装置35により可変である。交流電源33はコイルL1に接続されている。コイルL1〜L3は、全体として一つの絶縁トランスを構成している。図1のコイルL1〜L3にそれぞれ付された点で示されるように、コイルL2およびL3の極性は互いに等しく、コイルL2、L3とコイルL1の極性は互いに逆向きである。またコイルL2およびL3のインダクタンスは互いに等しい。また、コンデンサC1およびC2は互いに等しい容量を有する。
【0044】
直流電源34は、その一方がアースに接続され、もう一方がコンデンサC1とC2との間およびコイルL2とL3との間に接続されている。直流電源34の電圧Eは、遠隔操作装置35により、0〜−8kV(キロボルト)の範囲で可変である。なお、電子線発生装置30には、フィラメント31に流れる電流を測定するための電流計(図示せず)が接続されている。
【0045】
遠隔操作装置35は、パワースイッチ35P、制御つまみ35A、および制御つまみ35Bを備えている。パワースイッチ35Pは、電子線発生装置30の電源をオン・オフするためのスイッチである。制御つまみ35Aは、直流電源34の電圧Eを調整するためのつまみである。制御つまみ35Bは、交流電源33の電圧Vを調整するためのつまみである。なお、電子線発生装置30のうちフィラメント31は真空室61内に設けられているが、電子線発生用駆動電源32は真空容器6の外部に設けられている。
【0046】
電子線収束装置40は、永久磁石41と、ヨーク42および43と、アノード44とを備えている。ヨーク42、43は鋼鉄製で、永久磁石41の両側にそれぞれ設けられている。永久磁石41とヨーク42および43とは全体として略「コ」の字状をなしており、したがって馬蹄形磁石と同様の磁界H(図5)を形成する。
【0047】
アノード44は略平板状をなし、その中ほどには上下方向(Z軸方向)に貫通する貫通孔44aが形成されている。図2に示されるように、アノード44は、貫通孔44aがフィラメント31の上方(+Z方向)に位置するように設けられている。また図1に示されるようにアノード44は、アースに接続されている。
【0048】
レーザ光照射装置50は、レーザ装置51、レンズ52、および移動装置53を備えている。レーザ装置51は、所望の波長、強度、周波数を有するパルスレーザ光を発生させることが可能な市販のパルスレーザ装置である。レンズ52は、レーザ装置51から発せられたレーザ光を集光してターゲット11に照射するためのレンズであり、本実施の形態においては焦点距離500mmの石英レンズが用いられる。移動装置53は、レンズ52に接続され、XYZ各軸方向に関してレンズ52を平行移動させることが可能である。かかる移動を行うことにより、ターゲット11の表面におけるレーザ光の照射位置を移動させることができる。なお、これらレーザ装置51、レンズ52、および移動装置53は、真空容器6の外部に設けられている。
【0049】
真空容器6の壁にはレーザ窓63が設けられており、レーザ装置51から発せられレンズ52により集光されたレーザ光を透過可能である。真空室61内であって、レーザ窓63とターゲット11との間には、開閉可能に構成されたシャッタ72が設けられている。シャッタ72はレーザ光照射時以外には閉じられ、加熱されたターゲット11から蒸発する気体成分がレーザ窓63に付着するのを抑制する。
【0050】
また、真空容器6の壁にはターゲット観察用窓62が設けられており、ターゲット11の様子を外部から観察することができる。真空室61内であって、ターゲット観察用窓62とターゲット11との間には、開閉可能に構成されたシャッタ73が設けられている。シャッタ73はターゲット観察時以外には閉じておかれるため、加熱されたターゲット11から蒸発する気体成分がターゲット観察用窓62に付着するのを抑制することができる。
【0051】
次に、図1及び図2に基づき回転機構80について説明する。回転機構80は、モータ81、回転導入端子82、第一のカップリング83、第一の回転伝達棒84、回転軸受85、第二のカップリング86、及び第二の回転伝達棒87を備えており、モータ81の回転力を回転坩堝ホルダ10に伝達可能である。
【0052】
モータ81は、真空容器6の外部に設けられている。モータ81は出力軸(図示せず)を備えており、出力軸を回転するための回転力を発生する。
【0053】
回転導入端子82は、真空容器6の外部(大気側)から真空室61内に回転運動を導入するための端子である。回転導入端子82は、真空容器6(装置本体)に支持されている。回転導入端子82は回転軸(図示せず)を備えており、該回転軸の大気側の端部はモータ81の出力軸に接続され、真空室側の端部は第一のカップリング83に接続されている。回転導入端子82の回転軸(図示せず)は、ベローズにより気密にシールされている。かかる構成により、真空室61の真空を維持した状態で、モータ81の回転力を第一のカップリング83に伝達することができる。
【0054】
第一のカップリング83は、回転導入端子82と第一の回転伝達棒84とを結合するためのカップリングである。図4Aに示されるように、第一のカップリング83はベローズ又はバネ状の構造を有していて、回転導入端子82と第一の回転伝達棒84それぞれの軸中心のわずかなずれや回転に伴う振動を吸収して、回転をスムーズに伝達することが可能である。
【0055】
第一の回転伝達棒84は、その一端が第一のカップリング83を介して回転導入端子82と接続され、他端が第二のカップリング86を介して第二の回転伝達棒87と接続されている。第一の回転伝達棒84は、その途中部分において、回転軸受85により回転可能に支持されている。
【0056】
回転軸受85は、金属性の内輪851及び外輪852を備えており、内輪851と外輪852との間には自由回転する剛球(図示せず)が複数設けられている。外輪852は、回転軸受支持金具(図示せず)によって、真空容器6(装置本体)に固定されている。また、第一の回転伝達棒84は内輪851に固定されており、内輪851と共に回転可能である。なお、回転坩堝ホルダ10が偏心回転しないようにするため、回転軸受85及び回転軸受支持金具(図示せず)には剛性が必要とされる。回転軸受85の剛球表面には、接触面での摩擦が少なくしかも電気を通すように銀の膜が被覆されている。この銀の膜は、導電性の固体潤滑剤として機能する。なお、回転軸受85はその全体が耐高温金属で製作されているため、ターゲットの昇温による第一の回転伝達棒84の500℃までの昇温にも耐えることが可能である。このような回転軸受85として、例えば東京光洋ベアリング社のSE626ZZSTMG3を用いることができる。
【0057】
第二の回転伝達棒87は、その一端が第二のカップリング86を介して第一の回転伝達棒84と結合されており、他端が回転坩堝ホルダ10と同軸となるように固定されている。また、図4Bに示されるように、第二のカップリング86は、単に第一の回転伝達棒84と第二の回転伝達棒87とを接続するためのカップリングであり、第一のカップリング83と異なりベローズ等は形成されていない。
【0058】
なお、本実施の形態においては、ターゲット11を回転坩堝ホルダ10にセットする際の坩堝17として、BNコンポジット坩堝101及びグラファイト坩堝102を用いる。すなわち、図2に示されるように、ターゲット11はBNコンポジット坩堝101の中に入れられ、BNコンポジット坩堝101はグラファイト坩堝102の中に入れられている。BNコンポジット坩堝101は、正確には「BNコンポジットEC製坩堝」と呼ばれ、BN(窒化硼素)、TiB2(硼化チタン)、AlN(窒化アルミニウム)の3種類の物質を混合し焼結した導電性セラミック製の坩堝である。BNコンポジット坩堝101の大きさは、例えば内径20mm、外径23mm、深さ5mmである。また、グラファイト坩堝102はグラファイト製の坩堝であり、例えば内径23mm、外径26mm、深さ5mmの大きさを有している。
【0059】
図2に示されるように、回転坩堝ホルダ10の側壁部10Aは、底部10Bから略垂直に立設されている。これに対して、BNコンポジット坩堝101の側壁部101A及びグラファイト坩堝102の側壁部102Aは、それぞれの底部101B、102Bから半径方向外側へ広がって形成されている。また、BNコンポジット坩堝101とグラファイト坩堝102とは、底部101B、102Bにおいても側壁部101A、102Aにおいても、ほぼ隙間無く重なるような形状に形成されている。一方、グラファイト坩堝102と回転坩堝ホルダ10との間には隙間が形成されている。
【0060】
かかる構成により、グラファイト坩堝102と回転坩堝ホルダ10とを密着させる場合と比べて、グラファイト坩堝102と回転坩堝ホルダ10との接触面積が少なくなる。これにより、BNコンポジット坩堝101及びグラファイト坩堝102から回転坩堝ホルダ10を通って外部に逃げる熱量が少なくなる。しかも、ターゲット11は、BNコンポジット坩堝101、グラファイト坩堝102、回転坩堝ホルダ10、回転機構80を介して、真空容器6と電気的に結合している(図1)。また、グラファイト坩堝102の中にBNコンポジット坩堝101を入れることにより、温度変化に伴うBNコンポジット坩堝101の割れを防止することができる。また、BNコンポジット坩堝101は特にアルミニウムの濡れがよいので、ターゲット11にアルミニウムを用いる場合にはターゲット11を効率良く加熱することが可能であり、しかも不純物の混入を防止できる。
【0061】
次に、上述した回転ターゲット式成膜装置1を用いた成膜方法について、図5乃至図7を参照しながら具体的に説明する。図5は回転ターゲット式成膜装置1により成膜を行っている様子を示している。図6は第1の成膜方法おける各ステップ(以下、ステップを「S」と称する。)S10〜S40を示すフローチャートである。図7は第2の成膜方法おける各ステップS110〜S140を示すフローチャートである。
【0062】
第1の成膜方法の例として、回転ターゲット式成膜装置1を用いてアルミニウム薄膜を石英ガラス基板上へ形成する方法について、図5及び図6を参照しながら説明する。
【0063】
S10では、ターゲットの準備を行う。直径2mm、長さ5mm、純度99・99%の円筒状アルミニウム粒をBNコンポジット坩堝101(図2)の中に一杯まで入れる。BNコンポジット坩堝101を、回転坩堝ホルダ10に載置されたグラファイト坩堝102の中に入れる。その後、真空容器6を真空装置65により排気して、約3×10−6torrより良い真空度にする。
【0064】
このときシャッタ71及び72は共に閉じた状態にしておく。モータ81に電流を流して回転坩堝ホルダ10を6RPMの速度で回転させる。水冷装置18に冷却水を流して水冷した後、電子線発生用駆動電源32のパワースイッチ35Pをオンにし、制御つまみ35A及び35Bを調整してフィラメント31に約5kVの直流高電圧と約0.5kVの交流電圧を印加する。次にフィラメント加熱用電流を徐々に増やして、ターゲット11側への放射電子線束を約20mA、つまり投入電力を約100Wに維持する。このとき、フィラメント31より放出された電子線Dは、マイナス5kVのフィラメント31とアノード44との間で加速されると共に、アノード44の貫通孔44aが形成する電子レンズと永久磁石41及びヨーク42、43によって形成されている磁場のために、BNコンポジット坩堝101の中心から約7.5mmのターゲット上、動径方向に細長い0.3mm×1mmの領域に集束照射される。
【0065】
なお、フィラメント31に流れる電流が増加するほど放出される電子の量も増加するため、交流電源33の電圧Vを調整することによりフィラメント31に流れる電流値を調整して、フィラメント31から放出される電子線Dの強度を調整することが可能である。また、後述するように直流電源34の電圧Eを調整することによって電子線Dの収束位置を調整することが可能である。
【0066】
5分後にターゲット観察用窓62からターゲット11を見ると、アルミニウム粒が完全に溶け合って1個の一様な半球状の魂になっている。電子線Dの照射を停止し、回転坩堝ホルダ10の回転を止め、ターゲット11及び坩堝101、102を室温に戻した後、真空容器6内部に窒素ガスを充填する。更に上述したのと同様のアルミニウム粒をBNコンポジット坩堝101に一杯になるまで入れ、真空排気した後、上記と同様の操作によりアルミニウムを加熱することにより、直径約18mmの球状液体となる。続いて、放射電子線束を約40mAにすることにより、ターゲット11(アルミニウム)はBNコンポジット坩堝101の内壁全体に接触して広がる凸面状の魂になる(図2に示す状態)。その後、電子線Dの照射を停止し、再び室温に戻す。
【0067】
ここで、電子線発生用駆動電源32がフィラメント31にマイナスの電位を与え、かつ、フィラメント31を加熱する電流を流すしくみについて説明する。交流電源33による電流がコイルL1に流れると、コイルL2およびL3に誘導起電力が生じる。上述したようにコイルL2、L3の極性およびインダクタンスは等しいので、向きおよび大きさの等しい誘導起電力がコイルL2およびL3にそれぞれ生じ、フィラメント31の両端にはこれらの起電力を足し合わせた交流電圧が印加される。またフィラメント31には、直流電源34の電圧Eの分だけアースに対して低い電位が与えられる。以上より、フィラメント31には、電位−E(マイナスE)を中心とし、かつ、交流電源33の電圧に応じた振幅を有する交流電圧が印加されることになる。なお、コンデンサC1およびC2はフィラメント31に印加される交流電圧を平滑化する機能を有するので、フィラメント31の電位をより安定にすることができる。
【0068】
次に、直流電源34の電圧Eを変えることにより電子線Dの収束位置を調整できるしくみについて説明する。上述したように、フィラメント31には約−Eの電位が与えられており、アノード44にはアース電位が与えられている。よって、フィラメント31とアノード44との間には、電位−Eとアース電位との差による電界がかかっている。また、アノード44の電位は、回転坩堝ホルダ10および真空容器6と同じくアース電位である。以上より、フィラメント31から放出された電子は、この電界によって上方(+Z方向)へ向かって加速される。フィラメント31の上方には、アノード44の貫通孔44aが位置しているため(図2)、大部分の電子は貫通孔44aを通過してアノード44の上方に達する。ここでアノード44の上方に達した時点での電子の速度をvとすると、速度vは電圧Eの値が大きいほど大きい。
【0069】
一方、永久磁石41およびヨーク42、43により、磁界Hが生じている。速度vの電子は、磁束密度Bの磁界中において、F=−e・v×Bで表される力Fを受ける。ここで、eは電子の電荷量、vとBは共にベクトルであり、・はスカラー積、×はベクトル積を表す。すなわち電子は、速度vの方向および磁束密度Bの磁界の方向の両方に垂直な方向に向かう力Fを受ける。よって、電子は力Fの大きさに応じた距離だけ曲げられる。上記のように速度vは直流電源34の電圧Eの値が大きいほど大きくなるため、電圧Eを調整することにより電子線Dの収束位置を調整することができる。以上説明したように、電子線収束装置40は、フィラメント31から放出された電子を、電界および磁界の電子レンズ効果によってターゲット11上の所望の領域に収束照射することができる。
【0070】
S20では、成膜の準備を行う。洗浄済の厚さ0.5mm、一辺が1cmの正方形石英ガラス板を基板ホルダ20に固定した後、真空装置65によって排気して、約3×10−6torrより良い真空度にする。シャッタ71及び72は共に閉じた状態にしておく。モータ81に電流を流して回転坩堝ホルダ10を6RPMの速度で回転させる。水冷装置18に水を流して水冷した後、電子線発生用駆動電源32のパワースイッチ35Pを入れ、制御つまみ35A及び35Bを調整して、フィラメント31に約5kVの直流高電圧と約0.5kVの交流電圧を印加する。次に、フィラメント加熱用電流を徐々に増加させて、ターゲット11への放射電子線束を約20mAにして維持すると、5分後にターゲット11(アルミニウム)の全体が凸レンズ形状の液体になる。
【0071】
S30では、レーザ光照射を行う。レーザ装置51を駆動し、波長248nm、強度150mJ/パルス、パルス周波数50Hzのレーザ光Rを発生させる。シャッタ72を開け、レンズ52によって集光されたレーザ光Rを、レーザ窓63を通して液体状にされたターゲット11の上面に入射結像させる。このとき、レーザ光Rは、ターゲット11の上面に垂直な方向に対して60度の角度でターゲット11に入射する。また、レーザ光Rがターゲット11に入射する位置では、約2mm×0.4mmに集光されている。
【0072】
移動装置53によってターゲット11の上面の中心を含む±5mmの領域を3mm/秒の速度で照射掃引する。約200mJ/パルス以上の強度にすると、ターゲット11から液滴が発生して薄膜内に微粒子付着するので、レーザ光Rの強度をそれ以下にするのが望ましい。ただし、約200mJ/パルス以上の強度であっても、レンズ52とターゲット11との距離を短くして集光強度を落とすことにより、液滴の発生を抑えることが可能である。
【0073】
S40では、成膜を行う。レーザ光照射を行ってから数分後に、シャッタ71を開けて成膜用基板(ガラス基板)21上への成膜を開始し、30分後にシャッタ71を閉めて成膜を終了する。
【0074】
実際に上記の方法により成膜実験を行ったところ、走査電子顕微鏡(SEM)による観測可能なサイズである10nm以上の大きさの微粒子がなく、かつ、厚さ約200nmの良質なアルミニウム膜を得ることができた。また、このアルミニウム膜にセロハンテープを粘着させた後にセロハンテープを剥がすという実験を行ったが、室温基板上に通常の抵抗加熱蒸着法により形成した膜と異なり、シリコン膜が剥がれることはなかった。更に比較のため、レーザ光照射を行わずに電子線照射のみでどの程度の膜厚の膜が形成されるかの実験を行ってみたところ、実験の誤差範囲内で膜の付着が確認されなかった。更に、BNコンポジット坩堝101の主要構成元素であるB(硼素)、N(窒素)、Ti(チタン)及びO(酸素)について膜への含有量を調べた結果、アルミニウム原料に含まれる不純物量と同程度以下であった。
【0075】
次に第2の成膜方法の例として、回転ターゲット式成膜装置1を用いてアモルファスシリコン(Si)薄膜を石英ガラス基板上へ形成する方法について、図7を参照しながら説明する。
【0076】
シリコン(Si)は、融点における蒸気圧がアルミニウム(Al)より10の5乗程度高いので、溶融させたときの蒸気圧が問題になる。一方、シリコンはアルミニウムと比べて熱伝導度が約1/10と小さいために、電子線による局所的な加熱が可能である。本例では、直径20mm、厚さ5mmのシリコンターゲットを内径20mm、外径23mm、探さ4mm、底の厚さ10mmの金属銅放熱容器(図示せず)の中に入れてアブレーション成膜を行う。
【0077】
S110では、ターゲット及び成膜用基板の準備を行う。本例では、図1、図2の坩堝17の代わりに、上記の金属銅放熱容器を用いる。シリコンが入れられた金属銅放熱容器を回転坩堝ホルダ10の中に載置する。回転坩堝ホルダ10すなわちターゲット11を6RPMで回転させる。また成膜用基板(ガラス基板)21を基板ホルダ20に設置する。
【0078】
S120では、電子線照射を行う。電子線発生用駆動電源32のパワースイッチ35Pをオンにし、制御つまみ35A及び35Bを調整して、フィラメント31に約5kVの直流高電圧と0Vの交流電圧を印加する。フィラメント加熱用電流を徐々に増やして、ターゲット11への放射電子線束を約25mAとする。これにより、シリコンターゲット上の内径約13mm、幅約2mmのリング状領域が溶融する。
【0079】
S130では、レーザ光照射を行う。波長248nm、強度130mJ/パルス、パルス周波数100Hzのレーザ光Rを、約2mm×0.4mmの範囲に集光して上記リング状の溶融領域に照射する。これにより、ターゲット11の温度が上昇し、該リング状の溶融領域は幅約2.5mmの領域に拡大されると共に、アブレーション効果によってシリコンが蒸発する。このようなレーザ光照射を約5分間行う。
【0080】
S140では、成膜を行う。レーザ光照射を終了して約5分経過すると温度及び蒸発の状況が安定するので、シャッタ71を開いて室温状態の成膜用基板(ガラス基板)21へ成膜を行う。
【0081】
かかる方法によってアモルファスシリコン薄膜の成膜実験を行ったところ、液滴やその他の不純物の混入は確認されなかった。また、成膜用基板21が室温の状態で成膜を行ったにもかかわらず、付着力が強かった。
【0082】
以上説明したように、本実施の形態による回転ターゲット式成膜装置1によれば、アルミニウムのような低融点材料やシリコンのように融点における蒸気圧が高い材料に関して、微粒子や坩堝等からの不純物が少なく、かつ基板への付着力の強い膜を室温状態の基板へ成膜可能である。つまり、レーザアブレーション法に特長的な性質を持つ膜形成が可能となる。
【0083】
また、本実施の形態による回転ターゲット式成膜装置1によれば、電子線収束装置40がターゲット11の一部を液体化し、レーザ光照射装置50が該ターゲット11の液体化された一部にレーザ光Rを照射するため、固体ターゲットを用いたレーザアブレーション成膜法のように微粒子が発生するという問題が生じない。しかも、ターゲット11の一部の領域を液体化することができるため、ターゲット11が液体状態での蒸気圧が高いシリコン(Si)などの材料である場合でも、液体化された部分から蒸発する蒸気の量は非常に少ない。すなわち、かかる蒸気が基板に付着する量は、レーザアブレーションによる付着量に比べて無視できる程度である。したがって、本装置により形成された薄膜は、一様性が良く、付着強度が高い等、レーザアブレーション法に特徴的な多くのメリットを有している。また、本装置によれば、ターゲット11がアルミニウム(Al)など低融点の低蒸気圧材料あるいは高融点の昇華性材料である場合であっても、同様に良好な膜質の薄膜を形成することができる。すなわち、任意の固体材料に関して、レーザアブレーション法による良好な膜質の薄膜を形成することができる。
【0084】
また、本実施の形態による回転ターゲット式成膜装置1はターゲットホルダ10を回転可能な回転機構80を備えているため、ターゲット11を回転しながらレーザアブレーションを行うことができる。このため、ターゲットを固定した状態でレーザアブレーションを行う場合(固定ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置)と比べて、液滴の発生なしにアブレーション可能な溶融領域を広くすることができ、ターゲットの利用効率を向上させることが可能である。
【0085】
また、固定ターゲット式レーザアブレーション成膜装置では、ターゲットの一部(一箇所)のみにレーザ光線が照射されてアブレーション効果によって成膜材料が除去される結果、時間が経つにつれてその部分のくぼみが深くなるために、レーザ光線の照射密度が低下して成膜スピードが落ちる場合がある。しかし、本実施の形態による回転ターゲット式成膜装置1によれば、ターゲット11を回転しながらレーザアブレーションを行うことができるため、ターゲット11のより広い領域にレーザ光線が照射され、上述したような現象は生じない。
【0086】
更に、固定ターゲット式レーザアブレーション成膜装置と比べて、ターゲット11のより広い領域を成膜に用いることができるため、実効的なターゲット寿命が長くなる。したがって、複数枚の成膜用基板21に成膜するなどの方法により長時間にわたって成膜を行うことができるため、真空を破ってターゲット11を交換する頻度が少なくなる。よって、ターゲット11及び成膜用基板21の出し入れに伴う酸素の混入も抑制することができる。
【0087】
また、本実施の形態による回転ターゲット式成膜装置1によれば、ターゲットホルダ10は、回転機構80を介して装置本体6に接続されており、ターゲットホルダ10、回転機構80、及び装置本体6は導電性を有するから、ターゲット11に照射された電子は、ターゲットホルダ10、回転機構80、装置本体6を通ってアースへと流れることができる。したがって、ターゲット表面に電子が溜まってしまい、クーロン反発力のために電子線を持続的に照射できなくなるという問題を回避することができる。
【0088】
更に、本実施の形態による回転ターゲット式成膜装置1によれば、回転機構80は、モータ81、回転導入端子82、回転軸受85、及び回転伝達棒84、87を備えているから、真空室61内に設けられたターゲットホルダ10にモータ81の回転力を効率的に伝達することができる。また、回転軸受85は、導電性の内輪851及び外輪852と、内輪851と外輪852との間に設けられる導電性の回転玉とを備え、該回転玉の表面には導電性の固体潤滑剤がコーティングされているから、例えば内輪と外輪との間の導電性が確保されていないセラミック製軸受と異なり、ターゲット11上に照射された電子は装置本体6側へと流れ、かつ回転玉と内輪851及び外輪852との間での発塵が生じない。
【0089】
また、本実施の形態による回転ターゲット式成膜装置1によれば、ターゲットホルダ10を冷却するための水冷装置18を備えるので、ターゲットホルダ10の周囲が昇温して真空度が低下したり、電子レンズの一部を形成する永久磁石41がターゲットホルダ10の近傍に置かれている場合に永久磁石41が加熱されて磁場を発生できなくなるという問題を防止することができる。
【0090】
更には、水冷装置18は水冷容器181を備え、水冷容器181とターゲットホルダ10との距離が0.1μm以上かつ2mm以下であるから、ターゲットホルダ10をスムーズに回転させつつ、ターゲットホルダ10を効果的に放射冷却することが可能である。
【0091】
本発明の第2の実施の形態による回転ターゲット式成膜装置100及びその変形例について図8乃至図15に基づき説明する。第2の実施の形態による回転ターゲット式成膜装置100の構成は、回転機構に対するアースの構成を除き、第1の実施の形態による回転ターゲット式成膜装置1と同様である。よって、ここでは回転機構に対するアースの構成についてのみ説明し、他の構成についてはその説明を省略する。
【0092】
図8に示されるように、第2の実施の形態による回転ターゲット式成膜装置100では、回転機構80のうち第二のカップリング86がアースに接続されている。
【0093】
より具体的には図9に示されるように、真空容器6(装置本体)には、軸受支持部材85Aが固定されている。ここで、第二の回転伝達棒87、第二のカップリング86、第一の回転伝達棒84、第一のカップリング83、及び、回転導入端子82の回転軸82Aをまとめて回転軸と呼ぶことにすると、回転軸は、回転軸受85及び回転導入端子82の両軸受に回転可能に支持されている。以下、回転軸受85及び回転導入端子82の両者を併せて回転軸受88と呼ぶことにする。
【0094】
より具体的には、軸受支持部材85Aには回転軸受85の外輪852が固定されており、回転軸受85の内輪851には第一の回転伝達棒84が固定されている。同様に、回転軸82Aは回転導入端子82の内輪に固定されている。また、回転軸の上端(第二の回転伝達棒87の上端)が回転坩堝ホルダ10に接続固定されており、回転軸の下端(回転軸82Aの下端)はモータ81(回転手段)の出力軸に接続されている。なお上述した第1の実施の形態では回転軸受85の剛球表面に銀の膜が被覆されていたが、本実施の形態では通常の潤滑剤(潤滑油など)が用いられている。
【0095】
また真空容器6には、導電性を有する柱状のアース支持部材93が固定されており、アース支持部材93にアース接続部91が支持されている。アース接続部91は、基部911と基部911から櫛歯状に延びる櫛歯部912とを有する導電性の薄板(例えばステンレス等の金属製薄板)により構成されている。本実施の形態では櫛歯部912は3本の櫛歯を有するが、櫛歯は何本でもよい。またアース接続部91と接触する第二のカップリング86は、アース接続部91と同じ材質、つまりステンレスにより形成されている。
【0096】
図10に示されるように、アース接続部91は、第二のカップリング86を挟んで互いに対向するように2枚設けられている。2枚のアース接続部91の各櫛歯部912は、第二のカップリング86を挟み込むようにして接触している。アース接続部91は弾性を有するため、回転軸(第二のカップリング86)に対して弾性的に接触する。なお、各アース接続部91は、例えばボルト92Aにより固定部材92に固定され、固定部材92はアース支持部材93に固定されている。
【0097】
本実施の形態では、アース接続部91と接触する第二のカップリング86(接触部)は、ターゲットホルダ10に接続される第二の回転伝達棒87(ターゲットホルダ接続部)と、回転軸受85に支持される第一の回転伝達棒84(軸受支持部)との間に位置している。
【0098】
また本実施の形態では、アース接続部91と回転軸(第二のカップリング86)との接触部の電気抵抗が回転軸受88の電気抵抗よりも小さくなるように構成されている。アース接続部91に大部分の電子(電流)を流すためである。このためには、アース接続部91が回転軸(第二のカップリング86)に対して接触する弾性力を適切に設定することが必要である。もし、過度に強い力で電気的接触を確保しようとすると、アース接続部91と回転軸との摩擦力が大きくなって回転に支障が生じるおそれがある。このため、回転に支障を生じない程度の力かつ電気的接触を十分に確保可能な力で接触させるのが好ましい。
【0099】
次に回転ターゲット式成膜装置100により成膜を行う際の電子の流れについて、図11を参照して説明する。ここで、図11における実線の矢印A1は主要な電子の流れを示している。一方、点線の矢印A2は、矢印A1で示される電子の流れよりも少量の電子の流れを示している。図12、13A、14、15においても同様である。
【0100】
上述したようにアース接続部91は弾性を有するため、回転軸の回転時においても常に第二のカップリング86に対して安定的に接触する。このため矢印A1で示されるように、電子線Dとしてターゲット11に照射された電子は、回転坩堝ホルダ10、第二の回転伝達棒87、第二のカップリング86、アース接続部91、固定部材92(図10)、アース支持部材93、真空容器6という経路を通ってアースへと流れる。
【0101】
一方、矢印A2で示されるように、少量の電子が回転軸受88を通ってアースへ流れるが、この電子の量(電流の大きさ)はアース接続部91を通る電子の量(電流の大きさ)と比べると小さい。すなわち、ターゲット11に照射された電子のうち大部分は、アース接続部91を通ってアースへ流れる。
【0102】
以上説明したように、本実施の形態による回転ターゲット式成膜装置100によれば、電子線照射装置(電子線発生装置30及び電子線収束装置40)からターゲット11に向かって照射された電子は、ターゲットホルダ10、回転軸(第二の回転伝達棒87及び第二のカップリング86)及びアース接続部91を通ってアースへと流れる。もし、このとき許容限度以上の電子が回転軸受88を通ってアースへと流れると、回転軸受88に焼付けや変形などの不具合が生じて回転が不安定となる可能性がある。しかし本実施の形態では回転軸受88以外に電子の通路であるアース接続部91が設けられるため、回転軸受88を流れる電流が減少する。このため、回転軸受85の不具合がなくなり寿命が伸びるとともに、回転しているターゲット11に対して安定的に電子を供給することが可能となる(エミッション電流の安定)。さらに、安定した回転が持続するためプロセスのムラが無くなり、成膜用基板21に対して均一かつ良好な膜質の薄膜を形成することができる。
【0103】
特に本実施の形態においては、アース接続部91と回転軸との接触部の電気抵抗が回転軸受88の電気抵抗よりも小さいため、回転軸受88に流れる電流よりもアース接続部91へ流れる電流の方が大きくなる。したがって、上述した回転の安定及びエミッション電流の安定を確実に達成することができる。
【0104】
またアース接続部91は弾性を有する材料からなるため、回転軸に対して確実に接触して、電子を安定的にアースへ流すことができる。さらにアース接続部91は、基部911と基部911から櫛歯状に延びる櫛歯部912とを有する金属製薄板により構成され、櫛歯部912が回転軸に接触する。かかる構成によれば、アース接続部91と回転軸との接触面接を小さくすることができ、したがって摩擦力を小さくすることができる。よって、安定した回転に寄与する。
【0105】
また本実施の形態では、2枚のアース接続部91により第二のカップリング86を挟み込むようにして接触させている。このため、両側から同じ程度の力で挟むことによって、回転軸を傾けようとする力がかからないようにすることができる。また、一方のアース接続部91の電気的接触が悪くなったとしても、もう一方で補償することができる。
【0106】
また本実施の形態による回転ターゲット式成膜装置100では、アース接続部91と、回転軸のうちアース接続部91と接触する接触部(第二のカップリング86)とは同じ材質により形成されている。もしアース接続部91と当該接触部とが異種材質により形成されていると、固さの違いにより磨耗が生じて粉塵等の原因になったり、長期的にみると接触不良を起こしたりする可能性がある。しかし、回転ターゲット式成膜装置100ではこのような問題が生じない。
【0107】
また上述のとおりアース接続部91と接触する接触部(第二のカップリング86)は、ターゲットホルダ10に接続されるターゲットホルダ接続部(第二の回転伝達棒87)と回転軸受85に支持される軸受支持部(第一の回転伝達棒84)との間に位置している。このため、ターゲットホルダ10とアース接続部91との距離の方が、ターゲットホルダ10と回転軸受85との距離よりも短くなり、電気抵抗も多少小さくなる。よって、より多くの電子(電流)をアース接続部91へ流すことができる。
【0108】
なお、実際に上述した回転ターゲット式成膜装置100を用いて、電子線を照射して成膜実験を行ったところ、50時間以上回転の不具合は生じなかった。
【0109】
次に、第1の変形例による回転ターゲット式成膜装置における回転機構及びアース接続部について、図12を参照して説明する。第1の変形例によるアース接続部は、コイルスプリング96により構成される。コイルスプリング96は、一端96Aと他端96Bとを有し、圧縮された状態でアース支持部材93と第二のカップリング86との間に設けられている。一端96Aはアース支持部材93に固定されており、他端96Bは第二のカップリング86に対して弾性的に接触する。かかる構成により、回転時においても、コイルスプリング96は第二のカップリング86に対して安定的に接触して、電子をアースへ流すことが可能である。
【0110】
第2の変形例による回転ターゲット式成膜装置における回転機構及びアース接続部について、図13A及び13Bを参照して説明する。第2の変形例によるアース接続部は、一部をコイル状に巻いた針金状金属97により構成される。針金状金属97は、固定端部97Aとコイル部97Bと自由端部97Cとを有する。固定端部97Aは、ネジ93Aによりアース支持部材93にしっかりと固定されている。確実に電気的接触をとるためである。一方、自由端部97Cは、第二のカップリング86に対してほぼ点接触する。このときコイル部97Bは、自由端部97Cに対して矢印A3の方向に弾性力を与えるため、自由端部97Cは第二のカップリング86に対して弾性的に接触する。
【0111】
本変形例では、針金状金属97は直径1mmのタングステン製針金により構成されている。また第二のカップリング86にはステンレスを用いているが、この場合ステンレスにタングステンという異金属の導電性材料を接触させることになる。しかし、針金状金属97は第二のカップリング86に対して点接触となるため、回転する第二のカップリング86に対して比較的滑りがよく、しかも電気的接触も十分とることができる。
【0112】
第3の変形例による回転ターゲット式成膜装置における回転機構及びアース接続部について、図14を参照して説明する。第3の変形例によるアース接続部98は、第2の実施の形態におけるアース接続部91と同様の櫛型形状を有する。ただし、第2の実施の形態と異なり、アース接続部98は第一のカップリング83に接触するように設けられており、電気的には回転軸受85の後方に位置している。つまりアース接続部98は、電子の流れる経路において回転軸受85よりも下流側に位置している。本変形例においても、回転軸受88の電気抵抗よりも、アース接続部98と第一のカップリング83との接触部分の電気抵抗が小さくなるように構成するのが望ましい。これにより、回転軸受88に流れる電流よりもアース接続部98へ流れる電流が大きくなる。したがって、ベアリング寿命を伸ばし、回転の安定及びエミッション電流の安定を達成することができる。
【0113】
第4の変形例による回転ターゲット式成膜装置における回転機構及びアース接続部について、図15を参照して説明する。本変形例では、第一の回転伝達棒84に代えて、セラミック等の絶縁材料で形成された絶縁回転伝達棒184が用いられている。絶縁回転伝達棒184は、アース接続部91及び第二のカップリング86の接触部と、回転軸受85との間に位置している。この場合、実線の矢印A1で示されるように、全ての電子がアース接続部91を通り、回転軸受88には全く電子が通らない。よって、回転軸受88に電流が流れることによる不具合が発生しないため、ベアリング寿命を伸ばし、回転の安定及びエミッション電流の安定を確実に達成することができる。
【0114】
以下、その他の変形例について説明する。例えば、上述した第2の実施の形態では、2枚のアース接続部91により第二のカップリング86を挟み込むようにして接触させているが、アース接続部91は1枚でもよい。ただし、この場合にはアース接続部91と回転軸との電気的接触を確保できる範囲で、回転軸を押さえる力をできるだけ小さくすることが望ましい。
【0115】
また第2の実施の形態では、アース接続部91の材料としてステンレスを用いたが、導電性の材料であれば他の材料でもよい。望ましくは、弾性(バネ性)を有する材料がよい。また、絶縁性材料からなる板を用い、表面に導電性材料をコーティングしてもよい。
【0116】
また第2の実施の形態及び第1乃至第4の変形例では、第二のカップリング86又は第一のカップリング83にアース接続部を接触させるようにしたが、回転軸の他の部分(第一の回転伝達棒84、第二の回転伝達棒87等)に接触させてもよい。
【0117】
また、第2の変形例(図13A及び13B)では、針金状金属97はコイル部97Bを備えていたが、コイル部97Bを有さない直線的な針金状金属としてもよい。
【0118】
また、第1及び第2の実施の形態による回転ターゲット式成膜装置1及び100は、電子線発生装置30及び電子線収束装置40によりターゲット11に電子線を補助的に照射しつつ、レーザ光照射装置50によりレーザアブレーションを行う装置である。しかし、レーザ光照射装置50は必ずしも設けられていなくてもよい。すなわち、一般的な電子線照射による成膜装置に対して、上述した回転機構及びアース接続部を適用してもよい。
【0119】
また、第1及び第2の実施の形態では、回転坩堝ホルダ10は、回転導入端子82に接続されたモータ81(回転手段)により回転駆動されるが、モータを用いずに手動で回転させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0120】
以上のように、本発明にかかる回転ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置及び回転ターゲット式電子線照射成膜装置は、良好な膜質の薄膜を形成することが可能な成膜装置として有用である。
【符号の説明】
【0121】
1、100・・・回転ターゲット式成膜装置、 6・・・真空容器(装置本体)、 10・・・回転坩堝ホルダ(ターゲットホルダ)、 11・・・ターゲット、 17・・・坩堝、 18・・・水冷装置、 20・・・基板ホルダ、 21・・・成膜用基板、 30・・・電子線発生装置、 31・・・フィラメント、 32・・・電子線発生用駆動電源、 33・・・交流電源、 34・・・直流電源、 35・・・遠隔操作装置、 40・・・電子線収束装置、 41・・・永久磁石、 42・・・ヨーク、 44・・・アノード、 50・・・レーザ光照射装置、 51・・・レーザ装置、 52・・・レンズ、 53・・・移動装置、 61・・・真空室、 62・・・ターゲット観察用窓、 63・・・レーザ窓、 65・・・真空装置、 71〜73・・・シャッタ、 80・・・回転機構、 81・・・モータ、 82・・・回転導入端子、 83・・・第一のカップリング、 84・・・第一の回転伝達棒、 85・・・回転軸受、 851・・・内輪、 852・・・外輪、 85A・・・軸受支持部材、 86・・・第二のカップリング、 87・・・第二の回転伝達棒、 88・・・回転軸受、 91、98・・・アース接続部、 911・・・基部、 912・・・櫛歯部、 92・・・固定部材、 93・・・アース支持部材、 96・・・コイルスプリング、 97・・・針金状金属、 101・・・コンポジット坩堝、 102・・・グラファイト坩堝、 181・・・水冷容器、 182・・・水冷パイプ、 184・・・絶縁回転伝達棒。
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザアブレーション成膜装置及び電子線照射成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、基板に薄膜を形成する方法として、電子線照射成膜法やレーザアブレーション成膜法等が知られている。電子線照射成膜法は、電子線をターゲットに照射して蒸発させ、成膜用基板に薄膜を形成する方法である。一方、レーザアブレーション成膜法は、レーザ光をターゲットに照射してアブレーションを行うことにより薄膜を形成する方法である。
【0003】
レーザアブレーション成膜法を用いる成膜方法として、ターゲットを抵抗加熱等の方法により加熱して液体化した状態でレーザ光を照射してアブレーションを行う方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。同様に、加熱溶融したターゲットに対してレーザ光を照射してレーザアブレーションを行う装置も知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−311561号公報
【特許文献2】特開2002−241930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
固体ターゲットによるレーザアブレーション成膜法では、微粒子が発生してその微粒子が薄膜内部に取り込まれるという問題がある。特許文献1及び特許文献2に記載されているように、液体化した状態でレーザ光を照射すれば微粒子が発生しないため、微粒子が薄膜内部に取り込まれることがほとんどない。この方法は、ガリウムなど低融点でしかも蒸気圧の低い材料については有効である。
【0006】
しかしながら、比較的高い融点を有し溶融した状態での蒸気圧が高いシリコン(Si)などの材料の場合には、液体状態にあるターゲットから蒸発する蒸気の量が多くなる。そして、この蒸気が基板に付着する量は、レーザアブレーションによる付着量に比べて無視できない程度に達する。かかる蒸気の付着によって形成された薄膜の膜質は、レーザアブレーションにより形成された薄膜の膜質と比べて劣るため、結果として形成された薄膜の膜質が悪くなってしまう。
【0007】
そこで本発明は、任意の固体材料に関して、液体化した材料の蒸発による成分を抑え、かつ、固体ターゲットアブレーションにおける微粒子の発生がなく、従って良好な膜質の薄膜を形成することができるレーザアブレーション成膜装置を提供することを目的とする。
【0008】
また本発明は、ターゲットに対して安定的に電子を供給することができ、かつ、成膜用基板に対して均一で良好な膜質の薄膜を形成することができる電子線照射成膜装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、固体材料からなるターゲットを保持するターゲットホルダと、該ターゲットホルダを回転可能な回転機構と、該ターゲットホルダに対して所定の位置に設けられ、成膜用基板を保持する基板ホルダと、電子線を発生する電子線発生装置と、該回転機構により回転する該ターゲットに対して、電子レンズを形成することにより該電子線発生装置から発生された電子線を収束させ、もって該ターゲットの少なくとも一部を液体化する電子線収束装置と、液体化された該ターゲットの少なくとも一部にレーザ光を照射するレーザ光照射装置と、を備える回転ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置を提供している。
【0010】
ここで、真空室を有する装置本体を更に備え、該電子線発生装置は、電子線放出源と、該電子線放出源に電圧を印加して電子線を放出させる駆動電源とを備え、該ターゲットホルダ、該基板ホルダ、及び該電子線放出源は、該真空室内に設けられており、該ターゲットホルダは、該回転機構を介して該装置本体に接続されており、該ターゲットホルダ、該回転機構、及び該装置本体は導電性を有するのが好ましい。
【0011】
更に、該回転機構は、該真空室の外部に設けられ回転力を発生するモータと、該装置本体に支持されると共に該モータに接続され、もって該モータの回転力を該真空室内に導入する回転導入端子と、該装置本体に支持されると共に該真空室内に設けられた回転軸受と、一端と他端とを有し、該一端は該回転導入端子に接続され該他端は該ターゲットホルダに接続されると共に、該一端と該他端との間において該回転軸受に回転可能に支持され、もって該モータの回転力を該ターゲットホルダに伝達する回転伝達棒と、を備え、該回転軸受は、導電性の内輪及び外輪と、該内輪と該外輪との間に設けられる導電性の回転玉とを備え、該回転玉の表面には、導電性の固体潤滑剤がコーティングされているのが好ましい。
【0012】
また、該ターゲットホルダを冷却するための冷却手段を更に備えるのが好ましい。更には、該冷却手段は水冷容器を備え、該水冷容器と該ターゲットホルダとの距離が0.1μm以上かつ2mm以下であるのが好ましい。
【0013】
また本発明は、装置本体と、ターゲットを保持するターゲットホルダと、該ターゲットホルダに対して所定の位置に設けられ、成膜用基板を保持する基板ホルダと、該ターゲットに対して電子線を照射する電子線照射装置と、該装置本体に支持される回転軸受と、該ターゲットホルダに接続される一端と回転手段に接続される他端とを有し、該回転軸受に回転可能に支持される回転軸と、導電性を有し該回転軸に接触して設けられるとともにアースに接続されるアース接続部とを備える回転ターゲット式電子線照射成膜装置を提供している。
【0014】
ここで、該アース接続部と該回転軸との接触部の電気抵抗が該回転軸受の電気抵抗よりも小さいのが好ましい。また、該アース接続部は弾性を有する材料からなり、もって該回転軸に対して弾性的に接触するのが好ましい。さらに該アース接続部は、金属製薄板、金属製コイルばね、及び針金状金属の何れかにより構成されるのが好ましい。例えば、該アース接続部は、基部と該基部から櫛歯状に延びる櫛歯部とを有する金属製薄板により構成され、該櫛歯部が該回転軸に接触するのが好ましい。
【0015】
また該回転軸は、該アース接続部と接触する接触部を備え、該アース接続部と該接触部とは同じ材質により形成されているのが好ましい。また該回転軸は、該ターゲットホルダに接続されるターゲットホルダ接続部と、該アース接続部と接触する接触部と、該回転軸受に支持される軸受支持部とを備え、該接触部は、該ターゲットホルダ接続部と該軸受支持部との間に位置するのが好ましい。あるいは該回転軸は、絶縁性材料からなる絶縁部を更に備え、該絶縁部は、該接触部と該回転軸受との間に位置するのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の回転ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置によれば、電子線収束装置がターゲットの少なくとも一部を液体化し、レーザ光照射装置が該ターゲットの少なくとも一部にレーザ光を照射するため、固体ターゲットを用いたレーザアブレーション成膜法のように微粒子が発生するという問題が生じない。しかも、ターゲットの一部の領域のみを液体化することができるため、ターゲットが液体状態での蒸気圧が高いシリコン(Si)などの材料である場合でも、液体化された部分から蒸発する蒸気の量は非常に少ない。すなわち、かかる蒸気が基板に付着する量は、レーザアブレーションによる付着量に比べて無視できる程度である。したがって、本装置により形成された薄膜は、一様性が良く、付着強度が高い等、レーザアブレーション法に特徴的な多くのメリットを有している。また、本装置によれば、ターゲットがアルミニウム(Al)など低融点の低蒸気圧材料あるいは高融点の昇華性材料である場合であっても、同様に良好な膜質の薄膜を形成することができる。すなわち、任意の固体材料に関して、レーザアブレーション法による良好な膜質の薄膜を形成することができる。
【0017】
また、ターゲットホルダを回転可能な回転機構を備えているため、ターゲットを回転しながらレーザアブレーションを行うことができる。このため、ターゲットを固定した状態でレーザアブレーションを行う場合(固定ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置)と比べて、液滴の発生なしにアブレーション可能な溶融領域を広くすることができ、ターゲットの利用効率を向上させることが可能である。
【0018】
また、固定ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置では、ターゲットの一部(一箇所)のみにレーザ光線が照射されてアブレーション効果によって成膜材料が除去される結果、時間が経つにつれてその部分のくぼみが深くなるために、レーザ光線の照射密度が低下して成膜スピードが落ちる場合がある。しかし、請求項1記載の回転ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置によれば、ターゲットを回転しながらレーザアブレーションを行うことができるため、ターゲットのより広い領域にレーザ光線が照射され、上述したような現象は生じない。
【0019】
更に、固定ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置と比べて、ターゲットのより広い領域を成膜に用いることができるため、実効的なターゲット寿命が長くなる。このため、真空を破ってターゲットを交換する頻度が少なくなる。
【0020】
請求項2記載の回転ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置によれば、ターゲットホルダは、回転機構を介して装置本体に接続されており、ターゲットホルダ、回転機構、及び装置本体は導電性を有するから、ターゲットに照射された電子は、ターゲットホルダ、回転機構、装置本体を通ってアースへと流れることができる。したがって、ターゲット表面に電子が溜まってしまい、クーロン反発力のために電子線を持続的に照射できなくなるという問題を回避することができる。
【0021】
請求項3記載の回転ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置によれば、回転機構は、モータ、回転導入端子、回転軸受、及び回転伝達棒を備えているから、真空室内に設けられたターゲットホルダにモータの回転力を効率的に伝達することができる。また、該回転軸受は、導電性の内輪及び外輪と、該内輪と該外輪との間に設けられる導電性の回転玉とを備え、該回転玉の表面には導電性の固体潤滑剤がコーティングされているから、例えば内輪と外輪との間の導電性が確保されていないセラミック製軸受と異なり、ターゲット上に照射された電子は速やかに装置本体側へと流れ、かつ回転玉と内輪及び外輪との間での発塵が生じない。
【0022】
請求項4記載の回転ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置によれば、ターゲットホルダを冷却するための冷却手段を更に備えるので、ターゲットホルダの周囲が昇温して真空度が低下したり、電子レンズの一部を形成する磁石がターゲットホルダの近傍に置かれている場合には該磁石が加熱されて磁場を発生できなくなるという問題を防止することができる。
【0023】
請求項5記載の回転ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置によれば、冷却手段は水冷容器を備え、該水冷容器とターゲットホルダとの距離が0.1μm以上かつ2mm以下であるから、ターゲットホルダをスムーズに回転させつつ、ターゲットホルダを効果的に放射冷却することが可能である。
【0024】
請求項6記載の回転ターゲット式電子線照射成膜装置によれば、電子線照射装置からターゲットに向かって照射された電子は、ターゲットホルダ、回転軸及びアース接続部を通ってアースへと流れる。もしこのとき電子の大部分が回転軸受を通ってアースへと流れると、回転軸受に焼付けや変形などが生じて回転が不安定となる可能性がある。しかし本発明では回転軸受以外に電子の通路であるアース接続部が設けられるため、回転軸受を流れる電流が減少するか若しくはゼロとなる。このため、回転軸受の不具合がなくなり寿命が伸びるとともに、回転するターゲットに対して安定して電子を供給することが可能となる(エミッション電流の安定)。さらに、安定した回転が持続するためプロセスのムラが無くなり、成膜用基板に対して均一かつ良好な膜質の薄膜を形成することができる。
【0025】
請求項7記載の回転ターゲット式電子線照射成膜装置によれば、アース接続部と回転軸との接触部の電気抵抗が回転軸受の電気抵抗よりも小さいため、回転軸受に流れる電流よりもアース接続部へ流れる電流の方が大きくなる。したがって、上述した回転の安定及びエミッション電流の安定を確実に達成することができる。
【0026】
請求項8記載の回転ターゲット式電子線照射成膜装置によれば、アース接続部は弾性を有する材料からなり、もって回転軸に対して弾性的に接触する。よってアース接続部は回転軸に対して確実に接触して、電子を安定的にアースへ流すことができる。
【0027】
請求項9記載の回転ターゲット式電子線照射成膜装置によれば、アース接続部は、金属製薄板、金属製コイルばね、及び針金状金属の何れかにより構成されるため、簡単な構成によりアース接続部を構成することができる。
【0028】
請求項10記載の回転ターゲット式電子線照射成膜装置によれば、アース接続部は、基部と基部から櫛歯状に延びる櫛歯部とを有する金属製薄板により構成され、櫛歯部が回転軸に接触する。かかる構成によれば、アース接続部と回転軸との接触面接を小さくすることができ、したがって摩擦力を小さくすることができる。よって、安定した回転に寄与する。
【0029】
請求項11記載の回転ターゲット式電子線照射成膜装置によれば、回転軸は、アース接続部と接触する接触部を備え、アース接続部と接触部とは同じ材質により形成されている。もしアース接続部と接触部とが異種材質により形成されていると、固さの違いにより磨耗が生じ、それが粉塵などの原因になったり、長期的にみると接触不良を起こしたりする可能性がある。しかし、請求項11の回転ターゲット式電子線照射成膜装置によれば、このような問題が生じない。
【0030】
請求項12記載の回転ターゲット式電子線照射成膜装置によれば、回転軸は、ターゲットホルダに接続されるターゲットホルダ接続部と、アース接続部と接触する接触部と、回転軸受に支持される軸受支持部とを備え、接触部は、ターゲットホルダ接続部と軸受支持部との間に位置する。かかる構成によれば、ターゲットホルダとアース接続部との距離の方が、ターゲットホルダと回転軸受との距離よりも短くなるため、より多くの電子(電流)をアース接続部へ流すことができる。
【0031】
請求項13記載の回転ターゲット式電子線照射成膜装置によれば、回転軸は絶縁性材料からなる絶縁部を更に備え、絶縁部は接触部と回転軸受との間に位置するため、回転軸受には全く電流が流れず、全電流がアース接続部を流れる。よって、回転軸受に電流が流れることによる不具合が発生しないため、回転の安定及びエミッション電流の安定を確実に達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1の実施の形態による回転ターゲット式成膜装置の全体構成を示す説明図。
【図2】図1のII−II線に沿った断面図。
【図3】第1の実施の形態による回転ターゲット式成膜装置に用いられる回転機構を示す斜視図。
【図4A】図3の回転機構に用いられる第一のカップリングを示す斜視図。
【図4B】図3の回転機構に用いられる第二のカップリングを示す斜視図。
【図5】第1の実施の形態による回転ターゲット式成膜装置により成膜を行っている様子を示す説明図。
【図6】第1の実施の形態による回転ターゲット式成膜装置を用いた第1の成膜方法における各ステップを示すフローチャート。
【図7】第1の実施の形態による回転ターゲット式成膜装置を用いた第2の成膜方法における各ステップを示すフローチャート。
【図8】本発明の第2の実施の形態による回転ターゲット式成膜装置の全体構成を示す説明図。
【図9】第2の実施の形態による回転ターゲット式成膜装置に用いられる回転機構及びアース接続部を示す説明図。
【図10】図9のX−X線に沿った断面図。
【図11】第2の実施の形態による回転ターゲット式成膜装置により成膜を行っている際の電子の流れを示す説明図。
【図12】第1の変形例による回転ターゲット式成膜装置における回転機構及びアース接続部の構成に加え、成膜時の電子の流れを示す説明図。
【図13A】第2の変形例による回転ターゲット式成膜装置における回転機構及びアース接続部の構成に加え、成膜時の電子の流れを示す説明図。
【図13B】図13Aの回転ターゲット式成膜装置におけるアース接続部を上方から見た図。
【図14】第3の変形例による回転ターゲット式成膜装置における回転機構及びアース接続部の構成に加え、成膜時の電子の流れを示す説明図。
【図15】第4の変形例による回転ターゲット式成膜装置における回転機構及びアース接続部の構成に加え、成膜時の電子の流れを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の第1の実施の形態による回転ターゲット式成膜装置について図1乃至図7に基づき説明する。
【0034】
最初に、第1の実施の形態による回転ターゲット式成膜装置1の構成について図1および図2を参照して説明する。図1に示されるように、回転ターゲット式成膜装置1は、真空容器6と、回転坩堝ホルダ(ターゲットホルダ)10と、基板ホルダ20と、電子線発生装置30と、電子線収束装置40と、レーザ光照射装置50と、回転機構80とを備えている。
【0035】
真空容器6の内部には真空室61が画成されている。真空容器6には真空装置(真空ポンプ)65が設けられており、真空室61を排気して真空状態にすることが可能である。真空室61内には、回転坩堝ホルダ10、基板ホルダ20、電子線発生装置30のうち後述するフィラメント31、および電子線収束装置40などが設けられている。
【0036】
回転坩堝ホルダ10は、固体材料からなるターゲット11を保持するためのものである。図1および図2に示されるように、回転坩堝ホルダ10の下方には水冷装置18が設けられており、坩堝17およびターゲット11を冷却保持することが可能である。図2に示されるように、水冷装置18は、水冷容器181と水冷パイプ182とを備えている。
【0037】
水冷容器181は、後述の第二の回転伝達棒87の周囲を囲むように、略ドーナツ状に構成されている。水冷容器181の内部には、冷却水を満たすための冷却水空間181Sが形成されている。また水冷容器181の一部(図2における左下端部)は後述の永久磁石41と接触しているため、永久磁石41を効果的に冷却して、昇温による消磁を防止することができる。一方、回転坩堝ホルダ10をスムーズに回転させるため、水冷容器181と回転坩堝ホルダ10とは接触していない(つまり、隙間が形成されている。)。しかし、水冷容器181と回転坩堝ホルダ10との距離は0.1μm以上かつ2mm以下となるように構成されているので、回転坩堝ホルダ10をスムーズに回転させつつ、回転坩堝ホルダ10を効果的に放射冷却することが可能である。
【0038】
水冷パイプ182は、その一端が冷却水空間181Sと連通するように水冷容器181に接続され、他端が供給装置(図示せず)に接続されている。よって水冷パイプ182は、供給装置(図示せず)から供給される冷却水を水冷容器181に供給することができる。
【0039】
図1に示されるように回転坩堝ホルダ10はアースに接続されているため、回転坩堝ホルダ10、坩堝17、およびターゲット11は全てアース電位となっている。また、真空容器6もアース電位である。
【0040】
基板ホルダ20は、薄膜を形成するための成膜用基板21を保持するためのものである。本実施の形態においては、基板ホルダ20は、ターゲット11に対して約10cm離れた上方(+Z方向)に設けられている。基板ホルダ20は開口部20aを有していて、成膜用基板21の成膜面21Aがターゲット11に向かって露出している。よって、ターゲット11から蒸発した物質が、開口部20aを通って成膜面21Aに蒸着されるようになっている。なお図1において、基板ホルダ20および成膜用基板21については、成膜面21Aに垂直な方向に沿った断面が示されている。
【0041】
基板ホルダ20と回転坩堝ホルダ10との間には、シャッタ71が設置されている。シャッタ71は開閉可能に構成され、開状態においてはターゲット11から蒸発した物質が成膜用基板21に到達するのを許容し、閉状態においてはターゲット11から蒸発した物質が成膜用基板21に到達するのを阻止する。
【0042】
電子線発生装置30は、フィラメント31と電子線発生用駆動電源32とから構成される。フィラメント31は、例えばタングステンフィラメントから構成され、電流が流れると自由電子を放出する。電子線発生用駆動電源32は、フィラメント31にマイナスの電位を与え、かつ、フィラメント31を加熱する電流を流すためのものである。電子線発生用駆動電源32は、交流電源33、直流電源34、コイルL1〜L3、コンデンサC1、C2、および遠隔操作装置35を備えている。
【0043】
交流電源33の電圧Vは、後述するように遠隔操作装置35により可変である。交流電源33はコイルL1に接続されている。コイルL1〜L3は、全体として一つの絶縁トランスを構成している。図1のコイルL1〜L3にそれぞれ付された点で示されるように、コイルL2およびL3の極性は互いに等しく、コイルL2、L3とコイルL1の極性は互いに逆向きである。またコイルL2およびL3のインダクタンスは互いに等しい。また、コンデンサC1およびC2は互いに等しい容量を有する。
【0044】
直流電源34は、その一方がアースに接続され、もう一方がコンデンサC1とC2との間およびコイルL2とL3との間に接続されている。直流電源34の電圧Eは、遠隔操作装置35により、0〜−8kV(キロボルト)の範囲で可変である。なお、電子線発生装置30には、フィラメント31に流れる電流を測定するための電流計(図示せず)が接続されている。
【0045】
遠隔操作装置35は、パワースイッチ35P、制御つまみ35A、および制御つまみ35Bを備えている。パワースイッチ35Pは、電子線発生装置30の電源をオン・オフするためのスイッチである。制御つまみ35Aは、直流電源34の電圧Eを調整するためのつまみである。制御つまみ35Bは、交流電源33の電圧Vを調整するためのつまみである。なお、電子線発生装置30のうちフィラメント31は真空室61内に設けられているが、電子線発生用駆動電源32は真空容器6の外部に設けられている。
【0046】
電子線収束装置40は、永久磁石41と、ヨーク42および43と、アノード44とを備えている。ヨーク42、43は鋼鉄製で、永久磁石41の両側にそれぞれ設けられている。永久磁石41とヨーク42および43とは全体として略「コ」の字状をなしており、したがって馬蹄形磁石と同様の磁界H(図5)を形成する。
【0047】
アノード44は略平板状をなし、その中ほどには上下方向(Z軸方向)に貫通する貫通孔44aが形成されている。図2に示されるように、アノード44は、貫通孔44aがフィラメント31の上方(+Z方向)に位置するように設けられている。また図1に示されるようにアノード44は、アースに接続されている。
【0048】
レーザ光照射装置50は、レーザ装置51、レンズ52、および移動装置53を備えている。レーザ装置51は、所望の波長、強度、周波数を有するパルスレーザ光を発生させることが可能な市販のパルスレーザ装置である。レンズ52は、レーザ装置51から発せられたレーザ光を集光してターゲット11に照射するためのレンズであり、本実施の形態においては焦点距離500mmの石英レンズが用いられる。移動装置53は、レンズ52に接続され、XYZ各軸方向に関してレンズ52を平行移動させることが可能である。かかる移動を行うことにより、ターゲット11の表面におけるレーザ光の照射位置を移動させることができる。なお、これらレーザ装置51、レンズ52、および移動装置53は、真空容器6の外部に設けられている。
【0049】
真空容器6の壁にはレーザ窓63が設けられており、レーザ装置51から発せられレンズ52により集光されたレーザ光を透過可能である。真空室61内であって、レーザ窓63とターゲット11との間には、開閉可能に構成されたシャッタ72が設けられている。シャッタ72はレーザ光照射時以外には閉じられ、加熱されたターゲット11から蒸発する気体成分がレーザ窓63に付着するのを抑制する。
【0050】
また、真空容器6の壁にはターゲット観察用窓62が設けられており、ターゲット11の様子を外部から観察することができる。真空室61内であって、ターゲット観察用窓62とターゲット11との間には、開閉可能に構成されたシャッタ73が設けられている。シャッタ73はターゲット観察時以外には閉じておかれるため、加熱されたターゲット11から蒸発する気体成分がターゲット観察用窓62に付着するのを抑制することができる。
【0051】
次に、図1及び図2に基づき回転機構80について説明する。回転機構80は、モータ81、回転導入端子82、第一のカップリング83、第一の回転伝達棒84、回転軸受85、第二のカップリング86、及び第二の回転伝達棒87を備えており、モータ81の回転力を回転坩堝ホルダ10に伝達可能である。
【0052】
モータ81は、真空容器6の外部に設けられている。モータ81は出力軸(図示せず)を備えており、出力軸を回転するための回転力を発生する。
【0053】
回転導入端子82は、真空容器6の外部(大気側)から真空室61内に回転運動を導入するための端子である。回転導入端子82は、真空容器6(装置本体)に支持されている。回転導入端子82は回転軸(図示せず)を備えており、該回転軸の大気側の端部はモータ81の出力軸に接続され、真空室側の端部は第一のカップリング83に接続されている。回転導入端子82の回転軸(図示せず)は、ベローズにより気密にシールされている。かかる構成により、真空室61の真空を維持した状態で、モータ81の回転力を第一のカップリング83に伝達することができる。
【0054】
第一のカップリング83は、回転導入端子82と第一の回転伝達棒84とを結合するためのカップリングである。図4Aに示されるように、第一のカップリング83はベローズ又はバネ状の構造を有していて、回転導入端子82と第一の回転伝達棒84それぞれの軸中心のわずかなずれや回転に伴う振動を吸収して、回転をスムーズに伝達することが可能である。
【0055】
第一の回転伝達棒84は、その一端が第一のカップリング83を介して回転導入端子82と接続され、他端が第二のカップリング86を介して第二の回転伝達棒87と接続されている。第一の回転伝達棒84は、その途中部分において、回転軸受85により回転可能に支持されている。
【0056】
回転軸受85は、金属性の内輪851及び外輪852を備えており、内輪851と外輪852との間には自由回転する剛球(図示せず)が複数設けられている。外輪852は、回転軸受支持金具(図示せず)によって、真空容器6(装置本体)に固定されている。また、第一の回転伝達棒84は内輪851に固定されており、内輪851と共に回転可能である。なお、回転坩堝ホルダ10が偏心回転しないようにするため、回転軸受85及び回転軸受支持金具(図示せず)には剛性が必要とされる。回転軸受85の剛球表面には、接触面での摩擦が少なくしかも電気を通すように銀の膜が被覆されている。この銀の膜は、導電性の固体潤滑剤として機能する。なお、回転軸受85はその全体が耐高温金属で製作されているため、ターゲットの昇温による第一の回転伝達棒84の500℃までの昇温にも耐えることが可能である。このような回転軸受85として、例えば東京光洋ベアリング社のSE626ZZSTMG3を用いることができる。
【0057】
第二の回転伝達棒87は、その一端が第二のカップリング86を介して第一の回転伝達棒84と結合されており、他端が回転坩堝ホルダ10と同軸となるように固定されている。また、図4Bに示されるように、第二のカップリング86は、単に第一の回転伝達棒84と第二の回転伝達棒87とを接続するためのカップリングであり、第一のカップリング83と異なりベローズ等は形成されていない。
【0058】
なお、本実施の形態においては、ターゲット11を回転坩堝ホルダ10にセットする際の坩堝17として、BNコンポジット坩堝101及びグラファイト坩堝102を用いる。すなわち、図2に示されるように、ターゲット11はBNコンポジット坩堝101の中に入れられ、BNコンポジット坩堝101はグラファイト坩堝102の中に入れられている。BNコンポジット坩堝101は、正確には「BNコンポジットEC製坩堝」と呼ばれ、BN(窒化硼素)、TiB2(硼化チタン)、AlN(窒化アルミニウム)の3種類の物質を混合し焼結した導電性セラミック製の坩堝である。BNコンポジット坩堝101の大きさは、例えば内径20mm、外径23mm、深さ5mmである。また、グラファイト坩堝102はグラファイト製の坩堝であり、例えば内径23mm、外径26mm、深さ5mmの大きさを有している。
【0059】
図2に示されるように、回転坩堝ホルダ10の側壁部10Aは、底部10Bから略垂直に立設されている。これに対して、BNコンポジット坩堝101の側壁部101A及びグラファイト坩堝102の側壁部102Aは、それぞれの底部101B、102Bから半径方向外側へ広がって形成されている。また、BNコンポジット坩堝101とグラファイト坩堝102とは、底部101B、102Bにおいても側壁部101A、102Aにおいても、ほぼ隙間無く重なるような形状に形成されている。一方、グラファイト坩堝102と回転坩堝ホルダ10との間には隙間が形成されている。
【0060】
かかる構成により、グラファイト坩堝102と回転坩堝ホルダ10とを密着させる場合と比べて、グラファイト坩堝102と回転坩堝ホルダ10との接触面積が少なくなる。これにより、BNコンポジット坩堝101及びグラファイト坩堝102から回転坩堝ホルダ10を通って外部に逃げる熱量が少なくなる。しかも、ターゲット11は、BNコンポジット坩堝101、グラファイト坩堝102、回転坩堝ホルダ10、回転機構80を介して、真空容器6と電気的に結合している(図1)。また、グラファイト坩堝102の中にBNコンポジット坩堝101を入れることにより、温度変化に伴うBNコンポジット坩堝101の割れを防止することができる。また、BNコンポジット坩堝101は特にアルミニウムの濡れがよいので、ターゲット11にアルミニウムを用いる場合にはターゲット11を効率良く加熱することが可能であり、しかも不純物の混入を防止できる。
【0061】
次に、上述した回転ターゲット式成膜装置1を用いた成膜方法について、図5乃至図7を参照しながら具体的に説明する。図5は回転ターゲット式成膜装置1により成膜を行っている様子を示している。図6は第1の成膜方法おける各ステップ(以下、ステップを「S」と称する。)S10〜S40を示すフローチャートである。図7は第2の成膜方法おける各ステップS110〜S140を示すフローチャートである。
【0062】
第1の成膜方法の例として、回転ターゲット式成膜装置1を用いてアルミニウム薄膜を石英ガラス基板上へ形成する方法について、図5及び図6を参照しながら説明する。
【0063】
S10では、ターゲットの準備を行う。直径2mm、長さ5mm、純度99・99%の円筒状アルミニウム粒をBNコンポジット坩堝101(図2)の中に一杯まで入れる。BNコンポジット坩堝101を、回転坩堝ホルダ10に載置されたグラファイト坩堝102の中に入れる。その後、真空容器6を真空装置65により排気して、約3×10−6torrより良い真空度にする。
【0064】
このときシャッタ71及び72は共に閉じた状態にしておく。モータ81に電流を流して回転坩堝ホルダ10を6RPMの速度で回転させる。水冷装置18に冷却水を流して水冷した後、電子線発生用駆動電源32のパワースイッチ35Pをオンにし、制御つまみ35A及び35Bを調整してフィラメント31に約5kVの直流高電圧と約0.5kVの交流電圧を印加する。次にフィラメント加熱用電流を徐々に増やして、ターゲット11側への放射電子線束を約20mA、つまり投入電力を約100Wに維持する。このとき、フィラメント31より放出された電子線Dは、マイナス5kVのフィラメント31とアノード44との間で加速されると共に、アノード44の貫通孔44aが形成する電子レンズと永久磁石41及びヨーク42、43によって形成されている磁場のために、BNコンポジット坩堝101の中心から約7.5mmのターゲット上、動径方向に細長い0.3mm×1mmの領域に集束照射される。
【0065】
なお、フィラメント31に流れる電流が増加するほど放出される電子の量も増加するため、交流電源33の電圧Vを調整することによりフィラメント31に流れる電流値を調整して、フィラメント31から放出される電子線Dの強度を調整することが可能である。また、後述するように直流電源34の電圧Eを調整することによって電子線Dの収束位置を調整することが可能である。
【0066】
5分後にターゲット観察用窓62からターゲット11を見ると、アルミニウム粒が完全に溶け合って1個の一様な半球状の魂になっている。電子線Dの照射を停止し、回転坩堝ホルダ10の回転を止め、ターゲット11及び坩堝101、102を室温に戻した後、真空容器6内部に窒素ガスを充填する。更に上述したのと同様のアルミニウム粒をBNコンポジット坩堝101に一杯になるまで入れ、真空排気した後、上記と同様の操作によりアルミニウムを加熱することにより、直径約18mmの球状液体となる。続いて、放射電子線束を約40mAにすることにより、ターゲット11(アルミニウム)はBNコンポジット坩堝101の内壁全体に接触して広がる凸面状の魂になる(図2に示す状態)。その後、電子線Dの照射を停止し、再び室温に戻す。
【0067】
ここで、電子線発生用駆動電源32がフィラメント31にマイナスの電位を与え、かつ、フィラメント31を加熱する電流を流すしくみについて説明する。交流電源33による電流がコイルL1に流れると、コイルL2およびL3に誘導起電力が生じる。上述したようにコイルL2、L3の極性およびインダクタンスは等しいので、向きおよび大きさの等しい誘導起電力がコイルL2およびL3にそれぞれ生じ、フィラメント31の両端にはこれらの起電力を足し合わせた交流電圧が印加される。またフィラメント31には、直流電源34の電圧Eの分だけアースに対して低い電位が与えられる。以上より、フィラメント31には、電位−E(マイナスE)を中心とし、かつ、交流電源33の電圧に応じた振幅を有する交流電圧が印加されることになる。なお、コンデンサC1およびC2はフィラメント31に印加される交流電圧を平滑化する機能を有するので、フィラメント31の電位をより安定にすることができる。
【0068】
次に、直流電源34の電圧Eを変えることにより電子線Dの収束位置を調整できるしくみについて説明する。上述したように、フィラメント31には約−Eの電位が与えられており、アノード44にはアース電位が与えられている。よって、フィラメント31とアノード44との間には、電位−Eとアース電位との差による電界がかかっている。また、アノード44の電位は、回転坩堝ホルダ10および真空容器6と同じくアース電位である。以上より、フィラメント31から放出された電子は、この電界によって上方(+Z方向)へ向かって加速される。フィラメント31の上方には、アノード44の貫通孔44aが位置しているため(図2)、大部分の電子は貫通孔44aを通過してアノード44の上方に達する。ここでアノード44の上方に達した時点での電子の速度をvとすると、速度vは電圧Eの値が大きいほど大きい。
【0069】
一方、永久磁石41およびヨーク42、43により、磁界Hが生じている。速度vの電子は、磁束密度Bの磁界中において、F=−e・v×Bで表される力Fを受ける。ここで、eは電子の電荷量、vとBは共にベクトルであり、・はスカラー積、×はベクトル積を表す。すなわち電子は、速度vの方向および磁束密度Bの磁界の方向の両方に垂直な方向に向かう力Fを受ける。よって、電子は力Fの大きさに応じた距離だけ曲げられる。上記のように速度vは直流電源34の電圧Eの値が大きいほど大きくなるため、電圧Eを調整することにより電子線Dの収束位置を調整することができる。以上説明したように、電子線収束装置40は、フィラメント31から放出された電子を、電界および磁界の電子レンズ効果によってターゲット11上の所望の領域に収束照射することができる。
【0070】
S20では、成膜の準備を行う。洗浄済の厚さ0.5mm、一辺が1cmの正方形石英ガラス板を基板ホルダ20に固定した後、真空装置65によって排気して、約3×10−6torrより良い真空度にする。シャッタ71及び72は共に閉じた状態にしておく。モータ81に電流を流して回転坩堝ホルダ10を6RPMの速度で回転させる。水冷装置18に水を流して水冷した後、電子線発生用駆動電源32のパワースイッチ35Pを入れ、制御つまみ35A及び35Bを調整して、フィラメント31に約5kVの直流高電圧と約0.5kVの交流電圧を印加する。次に、フィラメント加熱用電流を徐々に増加させて、ターゲット11への放射電子線束を約20mAにして維持すると、5分後にターゲット11(アルミニウム)の全体が凸レンズ形状の液体になる。
【0071】
S30では、レーザ光照射を行う。レーザ装置51を駆動し、波長248nm、強度150mJ/パルス、パルス周波数50Hzのレーザ光Rを発生させる。シャッタ72を開け、レンズ52によって集光されたレーザ光Rを、レーザ窓63を通して液体状にされたターゲット11の上面に入射結像させる。このとき、レーザ光Rは、ターゲット11の上面に垂直な方向に対して60度の角度でターゲット11に入射する。また、レーザ光Rがターゲット11に入射する位置では、約2mm×0.4mmに集光されている。
【0072】
移動装置53によってターゲット11の上面の中心を含む±5mmの領域を3mm/秒の速度で照射掃引する。約200mJ/パルス以上の強度にすると、ターゲット11から液滴が発生して薄膜内に微粒子付着するので、レーザ光Rの強度をそれ以下にするのが望ましい。ただし、約200mJ/パルス以上の強度であっても、レンズ52とターゲット11との距離を短くして集光強度を落とすことにより、液滴の発生を抑えることが可能である。
【0073】
S40では、成膜を行う。レーザ光照射を行ってから数分後に、シャッタ71を開けて成膜用基板(ガラス基板)21上への成膜を開始し、30分後にシャッタ71を閉めて成膜を終了する。
【0074】
実際に上記の方法により成膜実験を行ったところ、走査電子顕微鏡(SEM)による観測可能なサイズである10nm以上の大きさの微粒子がなく、かつ、厚さ約200nmの良質なアルミニウム膜を得ることができた。また、このアルミニウム膜にセロハンテープを粘着させた後にセロハンテープを剥がすという実験を行ったが、室温基板上に通常の抵抗加熱蒸着法により形成した膜と異なり、シリコン膜が剥がれることはなかった。更に比較のため、レーザ光照射を行わずに電子線照射のみでどの程度の膜厚の膜が形成されるかの実験を行ってみたところ、実験の誤差範囲内で膜の付着が確認されなかった。更に、BNコンポジット坩堝101の主要構成元素であるB(硼素)、N(窒素)、Ti(チタン)及びO(酸素)について膜への含有量を調べた結果、アルミニウム原料に含まれる不純物量と同程度以下であった。
【0075】
次に第2の成膜方法の例として、回転ターゲット式成膜装置1を用いてアモルファスシリコン(Si)薄膜を石英ガラス基板上へ形成する方法について、図7を参照しながら説明する。
【0076】
シリコン(Si)は、融点における蒸気圧がアルミニウム(Al)より10の5乗程度高いので、溶融させたときの蒸気圧が問題になる。一方、シリコンはアルミニウムと比べて熱伝導度が約1/10と小さいために、電子線による局所的な加熱が可能である。本例では、直径20mm、厚さ5mmのシリコンターゲットを内径20mm、外径23mm、探さ4mm、底の厚さ10mmの金属銅放熱容器(図示せず)の中に入れてアブレーション成膜を行う。
【0077】
S110では、ターゲット及び成膜用基板の準備を行う。本例では、図1、図2の坩堝17の代わりに、上記の金属銅放熱容器を用いる。シリコンが入れられた金属銅放熱容器を回転坩堝ホルダ10の中に載置する。回転坩堝ホルダ10すなわちターゲット11を6RPMで回転させる。また成膜用基板(ガラス基板)21を基板ホルダ20に設置する。
【0078】
S120では、電子線照射を行う。電子線発生用駆動電源32のパワースイッチ35Pをオンにし、制御つまみ35A及び35Bを調整して、フィラメント31に約5kVの直流高電圧と0Vの交流電圧を印加する。フィラメント加熱用電流を徐々に増やして、ターゲット11への放射電子線束を約25mAとする。これにより、シリコンターゲット上の内径約13mm、幅約2mmのリング状領域が溶融する。
【0079】
S130では、レーザ光照射を行う。波長248nm、強度130mJ/パルス、パルス周波数100Hzのレーザ光Rを、約2mm×0.4mmの範囲に集光して上記リング状の溶融領域に照射する。これにより、ターゲット11の温度が上昇し、該リング状の溶融領域は幅約2.5mmの領域に拡大されると共に、アブレーション効果によってシリコンが蒸発する。このようなレーザ光照射を約5分間行う。
【0080】
S140では、成膜を行う。レーザ光照射を終了して約5分経過すると温度及び蒸発の状況が安定するので、シャッタ71を開いて室温状態の成膜用基板(ガラス基板)21へ成膜を行う。
【0081】
かかる方法によってアモルファスシリコン薄膜の成膜実験を行ったところ、液滴やその他の不純物の混入は確認されなかった。また、成膜用基板21が室温の状態で成膜を行ったにもかかわらず、付着力が強かった。
【0082】
以上説明したように、本実施の形態による回転ターゲット式成膜装置1によれば、アルミニウムのような低融点材料やシリコンのように融点における蒸気圧が高い材料に関して、微粒子や坩堝等からの不純物が少なく、かつ基板への付着力の強い膜を室温状態の基板へ成膜可能である。つまり、レーザアブレーション法に特長的な性質を持つ膜形成が可能となる。
【0083】
また、本実施の形態による回転ターゲット式成膜装置1によれば、電子線収束装置40がターゲット11の一部を液体化し、レーザ光照射装置50が該ターゲット11の液体化された一部にレーザ光Rを照射するため、固体ターゲットを用いたレーザアブレーション成膜法のように微粒子が発生するという問題が生じない。しかも、ターゲット11の一部の領域を液体化することができるため、ターゲット11が液体状態での蒸気圧が高いシリコン(Si)などの材料である場合でも、液体化された部分から蒸発する蒸気の量は非常に少ない。すなわち、かかる蒸気が基板に付着する量は、レーザアブレーションによる付着量に比べて無視できる程度である。したがって、本装置により形成された薄膜は、一様性が良く、付着強度が高い等、レーザアブレーション法に特徴的な多くのメリットを有している。また、本装置によれば、ターゲット11がアルミニウム(Al)など低融点の低蒸気圧材料あるいは高融点の昇華性材料である場合であっても、同様に良好な膜質の薄膜を形成することができる。すなわち、任意の固体材料に関して、レーザアブレーション法による良好な膜質の薄膜を形成することができる。
【0084】
また、本実施の形態による回転ターゲット式成膜装置1はターゲットホルダ10を回転可能な回転機構80を備えているため、ターゲット11を回転しながらレーザアブレーションを行うことができる。このため、ターゲットを固定した状態でレーザアブレーションを行う場合(固定ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置)と比べて、液滴の発生なしにアブレーション可能な溶融領域を広くすることができ、ターゲットの利用効率を向上させることが可能である。
【0085】
また、固定ターゲット式レーザアブレーション成膜装置では、ターゲットの一部(一箇所)のみにレーザ光線が照射されてアブレーション効果によって成膜材料が除去される結果、時間が経つにつれてその部分のくぼみが深くなるために、レーザ光線の照射密度が低下して成膜スピードが落ちる場合がある。しかし、本実施の形態による回転ターゲット式成膜装置1によれば、ターゲット11を回転しながらレーザアブレーションを行うことができるため、ターゲット11のより広い領域にレーザ光線が照射され、上述したような現象は生じない。
【0086】
更に、固定ターゲット式レーザアブレーション成膜装置と比べて、ターゲット11のより広い領域を成膜に用いることができるため、実効的なターゲット寿命が長くなる。したがって、複数枚の成膜用基板21に成膜するなどの方法により長時間にわたって成膜を行うことができるため、真空を破ってターゲット11を交換する頻度が少なくなる。よって、ターゲット11及び成膜用基板21の出し入れに伴う酸素の混入も抑制することができる。
【0087】
また、本実施の形態による回転ターゲット式成膜装置1によれば、ターゲットホルダ10は、回転機構80を介して装置本体6に接続されており、ターゲットホルダ10、回転機構80、及び装置本体6は導電性を有するから、ターゲット11に照射された電子は、ターゲットホルダ10、回転機構80、装置本体6を通ってアースへと流れることができる。したがって、ターゲット表面に電子が溜まってしまい、クーロン反発力のために電子線を持続的に照射できなくなるという問題を回避することができる。
【0088】
更に、本実施の形態による回転ターゲット式成膜装置1によれば、回転機構80は、モータ81、回転導入端子82、回転軸受85、及び回転伝達棒84、87を備えているから、真空室61内に設けられたターゲットホルダ10にモータ81の回転力を効率的に伝達することができる。また、回転軸受85は、導電性の内輪851及び外輪852と、内輪851と外輪852との間に設けられる導電性の回転玉とを備え、該回転玉の表面には導電性の固体潤滑剤がコーティングされているから、例えば内輪と外輪との間の導電性が確保されていないセラミック製軸受と異なり、ターゲット11上に照射された電子は装置本体6側へと流れ、かつ回転玉と内輪851及び外輪852との間での発塵が生じない。
【0089】
また、本実施の形態による回転ターゲット式成膜装置1によれば、ターゲットホルダ10を冷却するための水冷装置18を備えるので、ターゲットホルダ10の周囲が昇温して真空度が低下したり、電子レンズの一部を形成する永久磁石41がターゲットホルダ10の近傍に置かれている場合に永久磁石41が加熱されて磁場を発生できなくなるという問題を防止することができる。
【0090】
更には、水冷装置18は水冷容器181を備え、水冷容器181とターゲットホルダ10との距離が0.1μm以上かつ2mm以下であるから、ターゲットホルダ10をスムーズに回転させつつ、ターゲットホルダ10を効果的に放射冷却することが可能である。
【0091】
本発明の第2の実施の形態による回転ターゲット式成膜装置100及びその変形例について図8乃至図15に基づき説明する。第2の実施の形態による回転ターゲット式成膜装置100の構成は、回転機構に対するアースの構成を除き、第1の実施の形態による回転ターゲット式成膜装置1と同様である。よって、ここでは回転機構に対するアースの構成についてのみ説明し、他の構成についてはその説明を省略する。
【0092】
図8に示されるように、第2の実施の形態による回転ターゲット式成膜装置100では、回転機構80のうち第二のカップリング86がアースに接続されている。
【0093】
より具体的には図9に示されるように、真空容器6(装置本体)には、軸受支持部材85Aが固定されている。ここで、第二の回転伝達棒87、第二のカップリング86、第一の回転伝達棒84、第一のカップリング83、及び、回転導入端子82の回転軸82Aをまとめて回転軸と呼ぶことにすると、回転軸は、回転軸受85及び回転導入端子82の両軸受に回転可能に支持されている。以下、回転軸受85及び回転導入端子82の両者を併せて回転軸受88と呼ぶことにする。
【0094】
より具体的には、軸受支持部材85Aには回転軸受85の外輪852が固定されており、回転軸受85の内輪851には第一の回転伝達棒84が固定されている。同様に、回転軸82Aは回転導入端子82の内輪に固定されている。また、回転軸の上端(第二の回転伝達棒87の上端)が回転坩堝ホルダ10に接続固定されており、回転軸の下端(回転軸82Aの下端)はモータ81(回転手段)の出力軸に接続されている。なお上述した第1の実施の形態では回転軸受85の剛球表面に銀の膜が被覆されていたが、本実施の形態では通常の潤滑剤(潤滑油など)が用いられている。
【0095】
また真空容器6には、導電性を有する柱状のアース支持部材93が固定されており、アース支持部材93にアース接続部91が支持されている。アース接続部91は、基部911と基部911から櫛歯状に延びる櫛歯部912とを有する導電性の薄板(例えばステンレス等の金属製薄板)により構成されている。本実施の形態では櫛歯部912は3本の櫛歯を有するが、櫛歯は何本でもよい。またアース接続部91と接触する第二のカップリング86は、アース接続部91と同じ材質、つまりステンレスにより形成されている。
【0096】
図10に示されるように、アース接続部91は、第二のカップリング86を挟んで互いに対向するように2枚設けられている。2枚のアース接続部91の各櫛歯部912は、第二のカップリング86を挟み込むようにして接触している。アース接続部91は弾性を有するため、回転軸(第二のカップリング86)に対して弾性的に接触する。なお、各アース接続部91は、例えばボルト92Aにより固定部材92に固定され、固定部材92はアース支持部材93に固定されている。
【0097】
本実施の形態では、アース接続部91と接触する第二のカップリング86(接触部)は、ターゲットホルダ10に接続される第二の回転伝達棒87(ターゲットホルダ接続部)と、回転軸受85に支持される第一の回転伝達棒84(軸受支持部)との間に位置している。
【0098】
また本実施の形態では、アース接続部91と回転軸(第二のカップリング86)との接触部の電気抵抗が回転軸受88の電気抵抗よりも小さくなるように構成されている。アース接続部91に大部分の電子(電流)を流すためである。このためには、アース接続部91が回転軸(第二のカップリング86)に対して接触する弾性力を適切に設定することが必要である。もし、過度に強い力で電気的接触を確保しようとすると、アース接続部91と回転軸との摩擦力が大きくなって回転に支障が生じるおそれがある。このため、回転に支障を生じない程度の力かつ電気的接触を十分に確保可能な力で接触させるのが好ましい。
【0099】
次に回転ターゲット式成膜装置100により成膜を行う際の電子の流れについて、図11を参照して説明する。ここで、図11における実線の矢印A1は主要な電子の流れを示している。一方、点線の矢印A2は、矢印A1で示される電子の流れよりも少量の電子の流れを示している。図12、13A、14、15においても同様である。
【0100】
上述したようにアース接続部91は弾性を有するため、回転軸の回転時においても常に第二のカップリング86に対して安定的に接触する。このため矢印A1で示されるように、電子線Dとしてターゲット11に照射された電子は、回転坩堝ホルダ10、第二の回転伝達棒87、第二のカップリング86、アース接続部91、固定部材92(図10)、アース支持部材93、真空容器6という経路を通ってアースへと流れる。
【0101】
一方、矢印A2で示されるように、少量の電子が回転軸受88を通ってアースへ流れるが、この電子の量(電流の大きさ)はアース接続部91を通る電子の量(電流の大きさ)と比べると小さい。すなわち、ターゲット11に照射された電子のうち大部分は、アース接続部91を通ってアースへ流れる。
【0102】
以上説明したように、本実施の形態による回転ターゲット式成膜装置100によれば、電子線照射装置(電子線発生装置30及び電子線収束装置40)からターゲット11に向かって照射された電子は、ターゲットホルダ10、回転軸(第二の回転伝達棒87及び第二のカップリング86)及びアース接続部91を通ってアースへと流れる。もし、このとき許容限度以上の電子が回転軸受88を通ってアースへと流れると、回転軸受88に焼付けや変形などの不具合が生じて回転が不安定となる可能性がある。しかし本実施の形態では回転軸受88以外に電子の通路であるアース接続部91が設けられるため、回転軸受88を流れる電流が減少する。このため、回転軸受85の不具合がなくなり寿命が伸びるとともに、回転しているターゲット11に対して安定的に電子を供給することが可能となる(エミッション電流の安定)。さらに、安定した回転が持続するためプロセスのムラが無くなり、成膜用基板21に対して均一かつ良好な膜質の薄膜を形成することができる。
【0103】
特に本実施の形態においては、アース接続部91と回転軸との接触部の電気抵抗が回転軸受88の電気抵抗よりも小さいため、回転軸受88に流れる電流よりもアース接続部91へ流れる電流の方が大きくなる。したがって、上述した回転の安定及びエミッション電流の安定を確実に達成することができる。
【0104】
またアース接続部91は弾性を有する材料からなるため、回転軸に対して確実に接触して、電子を安定的にアースへ流すことができる。さらにアース接続部91は、基部911と基部911から櫛歯状に延びる櫛歯部912とを有する金属製薄板により構成され、櫛歯部912が回転軸に接触する。かかる構成によれば、アース接続部91と回転軸との接触面接を小さくすることができ、したがって摩擦力を小さくすることができる。よって、安定した回転に寄与する。
【0105】
また本実施の形態では、2枚のアース接続部91により第二のカップリング86を挟み込むようにして接触させている。このため、両側から同じ程度の力で挟むことによって、回転軸を傾けようとする力がかからないようにすることができる。また、一方のアース接続部91の電気的接触が悪くなったとしても、もう一方で補償することができる。
【0106】
また本実施の形態による回転ターゲット式成膜装置100では、アース接続部91と、回転軸のうちアース接続部91と接触する接触部(第二のカップリング86)とは同じ材質により形成されている。もしアース接続部91と当該接触部とが異種材質により形成されていると、固さの違いにより磨耗が生じて粉塵等の原因になったり、長期的にみると接触不良を起こしたりする可能性がある。しかし、回転ターゲット式成膜装置100ではこのような問題が生じない。
【0107】
また上述のとおりアース接続部91と接触する接触部(第二のカップリング86)は、ターゲットホルダ10に接続されるターゲットホルダ接続部(第二の回転伝達棒87)と回転軸受85に支持される軸受支持部(第一の回転伝達棒84)との間に位置している。このため、ターゲットホルダ10とアース接続部91との距離の方が、ターゲットホルダ10と回転軸受85との距離よりも短くなり、電気抵抗も多少小さくなる。よって、より多くの電子(電流)をアース接続部91へ流すことができる。
【0108】
なお、実際に上述した回転ターゲット式成膜装置100を用いて、電子線を照射して成膜実験を行ったところ、50時間以上回転の不具合は生じなかった。
【0109】
次に、第1の変形例による回転ターゲット式成膜装置における回転機構及びアース接続部について、図12を参照して説明する。第1の変形例によるアース接続部は、コイルスプリング96により構成される。コイルスプリング96は、一端96Aと他端96Bとを有し、圧縮された状態でアース支持部材93と第二のカップリング86との間に設けられている。一端96Aはアース支持部材93に固定されており、他端96Bは第二のカップリング86に対して弾性的に接触する。かかる構成により、回転時においても、コイルスプリング96は第二のカップリング86に対して安定的に接触して、電子をアースへ流すことが可能である。
【0110】
第2の変形例による回転ターゲット式成膜装置における回転機構及びアース接続部について、図13A及び13Bを参照して説明する。第2の変形例によるアース接続部は、一部をコイル状に巻いた針金状金属97により構成される。針金状金属97は、固定端部97Aとコイル部97Bと自由端部97Cとを有する。固定端部97Aは、ネジ93Aによりアース支持部材93にしっかりと固定されている。確実に電気的接触をとるためである。一方、自由端部97Cは、第二のカップリング86に対してほぼ点接触する。このときコイル部97Bは、自由端部97Cに対して矢印A3の方向に弾性力を与えるため、自由端部97Cは第二のカップリング86に対して弾性的に接触する。
【0111】
本変形例では、針金状金属97は直径1mmのタングステン製針金により構成されている。また第二のカップリング86にはステンレスを用いているが、この場合ステンレスにタングステンという異金属の導電性材料を接触させることになる。しかし、針金状金属97は第二のカップリング86に対して点接触となるため、回転する第二のカップリング86に対して比較的滑りがよく、しかも電気的接触も十分とることができる。
【0112】
第3の変形例による回転ターゲット式成膜装置における回転機構及びアース接続部について、図14を参照して説明する。第3の変形例によるアース接続部98は、第2の実施の形態におけるアース接続部91と同様の櫛型形状を有する。ただし、第2の実施の形態と異なり、アース接続部98は第一のカップリング83に接触するように設けられており、電気的には回転軸受85の後方に位置している。つまりアース接続部98は、電子の流れる経路において回転軸受85よりも下流側に位置している。本変形例においても、回転軸受88の電気抵抗よりも、アース接続部98と第一のカップリング83との接触部分の電気抵抗が小さくなるように構成するのが望ましい。これにより、回転軸受88に流れる電流よりもアース接続部98へ流れる電流が大きくなる。したがって、ベアリング寿命を伸ばし、回転の安定及びエミッション電流の安定を達成することができる。
【0113】
第4の変形例による回転ターゲット式成膜装置における回転機構及びアース接続部について、図15を参照して説明する。本変形例では、第一の回転伝達棒84に代えて、セラミック等の絶縁材料で形成された絶縁回転伝達棒184が用いられている。絶縁回転伝達棒184は、アース接続部91及び第二のカップリング86の接触部と、回転軸受85との間に位置している。この場合、実線の矢印A1で示されるように、全ての電子がアース接続部91を通り、回転軸受88には全く電子が通らない。よって、回転軸受88に電流が流れることによる不具合が発生しないため、ベアリング寿命を伸ばし、回転の安定及びエミッション電流の安定を確実に達成することができる。
【0114】
以下、その他の変形例について説明する。例えば、上述した第2の実施の形態では、2枚のアース接続部91により第二のカップリング86を挟み込むようにして接触させているが、アース接続部91は1枚でもよい。ただし、この場合にはアース接続部91と回転軸との電気的接触を確保できる範囲で、回転軸を押さえる力をできるだけ小さくすることが望ましい。
【0115】
また第2の実施の形態では、アース接続部91の材料としてステンレスを用いたが、導電性の材料であれば他の材料でもよい。望ましくは、弾性(バネ性)を有する材料がよい。また、絶縁性材料からなる板を用い、表面に導電性材料をコーティングしてもよい。
【0116】
また第2の実施の形態及び第1乃至第4の変形例では、第二のカップリング86又は第一のカップリング83にアース接続部を接触させるようにしたが、回転軸の他の部分(第一の回転伝達棒84、第二の回転伝達棒87等)に接触させてもよい。
【0117】
また、第2の変形例(図13A及び13B)では、針金状金属97はコイル部97Bを備えていたが、コイル部97Bを有さない直線的な針金状金属としてもよい。
【0118】
また、第1及び第2の実施の形態による回転ターゲット式成膜装置1及び100は、電子線発生装置30及び電子線収束装置40によりターゲット11に電子線を補助的に照射しつつ、レーザ光照射装置50によりレーザアブレーションを行う装置である。しかし、レーザ光照射装置50は必ずしも設けられていなくてもよい。すなわち、一般的な電子線照射による成膜装置に対して、上述した回転機構及びアース接続部を適用してもよい。
【0119】
また、第1及び第2の実施の形態では、回転坩堝ホルダ10は、回転導入端子82に接続されたモータ81(回転手段)により回転駆動されるが、モータを用いずに手動で回転させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0120】
以上のように、本発明にかかる回転ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置及び回転ターゲット式電子線照射成膜装置は、良好な膜質の薄膜を形成することが可能な成膜装置として有用である。
【符号の説明】
【0121】
1、100・・・回転ターゲット式成膜装置、 6・・・真空容器(装置本体)、 10・・・回転坩堝ホルダ(ターゲットホルダ)、 11・・・ターゲット、 17・・・坩堝、 18・・・水冷装置、 20・・・基板ホルダ、 21・・・成膜用基板、 30・・・電子線発生装置、 31・・・フィラメント、 32・・・電子線発生用駆動電源、 33・・・交流電源、 34・・・直流電源、 35・・・遠隔操作装置、 40・・・電子線収束装置、 41・・・永久磁石、 42・・・ヨーク、 44・・・アノード、 50・・・レーザ光照射装置、 51・・・レーザ装置、 52・・・レンズ、 53・・・移動装置、 61・・・真空室、 62・・・ターゲット観察用窓、 63・・・レーザ窓、 65・・・真空装置、 71〜73・・・シャッタ、 80・・・回転機構、 81・・・モータ、 82・・・回転導入端子、 83・・・第一のカップリング、 84・・・第一の回転伝達棒、 85・・・回転軸受、 851・・・内輪、 852・・・外輪、 85A・・・軸受支持部材、 86・・・第二のカップリング、 87・・・第二の回転伝達棒、 88・・・回転軸受、 91、98・・・アース接続部、 911・・・基部、 912・・・櫛歯部、 92・・・固定部材、 93・・・アース支持部材、 96・・・コイルスプリング、 97・・・針金状金属、 101・・・コンポジット坩堝、 102・・・グラファイト坩堝、 181・・・水冷容器、 182・・・水冷パイプ、 184・・・絶縁回転伝達棒。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体材料からなるターゲットを保持するターゲットホルダと、
該ターゲットホルダを回転可能な回転機構と、
該ターゲットホルダに対して所定の位置に設けられ、成膜用基板を保持する基板ホルダと、
電子線を発生する電子線発生装置と、
該回転機構により回転する該ターゲットに対して、電子レンズを形成することにより該電子線発生装置から発生された電子線を収束させ、もって該ターゲットの少なくとも一部を液体化する電子線収束装置と、
液体化された該ターゲットの少なくとも一部にレーザ光を照射するレーザ光照射装置と、を備えることを特徴とする回転ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置。
【請求項2】
真空室を有する装置本体を更に備え、
該電子線発生装置は、電子線放出源と、該電子線放出源に電圧を印加して電子線を放出させる駆動電源とを備え、
該ターゲットホルダ、該基板ホルダ、及び該電子線放出源は、該真空室内に設けられており、
該ターゲットホルダは、該回転機構を介して該装置本体に接続されており、
該ターゲットホルダ、該回転機構、及び該装置本体は導電性を有することを特徴とする請求項1記載の回転ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置。
【請求項3】
該回転機構は、該真空室の外部に設けられ回転力を発生するモータと、
該装置本体に支持されると共に該モータに接続され、もって該モータの回転力を該真空室内に導入する回転導入端子と、
該装置本体に支持されると共に該真空室内に設けられた回転軸受と、
一端と他端とを有し、該一端は該回転導入端子に接続され該他端は該ターゲットホルダに接続されると共に、該一端と該他端との間において該回転軸受に回転可能に支持され、もって該モータの回転力を該ターゲットホルダに伝達する回転伝達棒と、を備え、
該回転軸受は、導電性の内輪及び外輪と、該内輪と該外輪との間に設けられる導電性の回転玉とを備え、
該回転玉の表面には、導電性の固体潤滑剤がコーティングされていることを特徴とする請求項2記載の回転ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置。
【請求項4】
該ターゲットホルダを冷却するための冷却手段を更に備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一記載の回転ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置。
【請求項5】
該冷却手段は水冷容器を備え、該水冷容器と該ターゲットホルダとの距離が0.1μm以上かつ2mm以下であることを特徴とする請求項4記載の回転ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置。
【請求項6】
装置本体と、
ターゲットを保持するターゲットホルダと、
該ターゲットホルダに対して所定の位置に設けられ、成膜用基板を保持する基板ホルダと、
該ターゲットに対して電子線を照射する電子線照射装置と、
該装置本体に支持される回転軸受と、
該ターゲットホルダに接続される一端と回転手段に接続される他端とを有し、該回転軸受に回転可能に支持される回転軸と、
導電性を有し、該回転軸に接触して設けられるとともにアースに接続されるアース接続部とを備えることを特徴とする回転ターゲット式電子線照射成膜装置。
【請求項7】
該アース接続部と該回転軸との接触部の電気抵抗が該回転軸受の電気抵抗よりも小さいことを特徴とする請求項6記載の回転ターゲット式電子線照射成膜装置。
【請求項8】
該アース接続部は弾性を有する材料からなり、もって該回転軸に対して弾性的に接触することを特徴とする請求項6又は7記載の回転ターゲット式電子線照射成膜装置。
【請求項9】
該アース接続部は、金属製薄板、金属製コイルばね、及び針金状金属の何れかにより構成されることを特徴とする請求項8記載の回転ターゲット式電子線照射成膜装置。
【請求項10】
該アース接続部は、基部と該基部から櫛歯状に延びる櫛歯部とを有する金属製薄板により構成され、該櫛歯部が該回転軸に接触することを特徴とする請求項8記載の回転ターゲット式電子線照射成膜装置。
【請求項11】
該回転軸は、該アース接続部と接触する接触部を備え、
該アース接続部と該接触部とは同じ材質により形成されていることを特徴とする請求項6乃至10の何れか一記載の回転ターゲット式電子線照射成膜装置。
【請求項12】
該回転軸は、該ターゲットホルダに接続されるターゲットホルダ接続部と、該アース接続部と接触する接触部と、該回転軸受に支持される軸受支持部とを備え、
該接触部は、該ターゲットホルダ接続部と該軸受支持部との間に位置することを特徴とする請求項6乃至11の何れか一記載の回転ターゲット式電子線照射成膜装置。
【請求項13】
該回転軸は、絶縁性材料からなる絶縁部を更に備え、
該絶縁部は、該接触部と該回転軸受との間に位置することを特徴とする請求項12記載の回転ターゲット式電子線照射成膜装置。
【請求項1】
固体材料からなるターゲットを保持するターゲットホルダと、
該ターゲットホルダを回転可能な回転機構と、
該ターゲットホルダに対して所定の位置に設けられ、成膜用基板を保持する基板ホルダと、
電子線を発生する電子線発生装置と、
該回転機構により回転する該ターゲットに対して、電子レンズを形成することにより該電子線発生装置から発生された電子線を収束させ、もって該ターゲットの少なくとも一部を液体化する電子線収束装置と、
液体化された該ターゲットの少なくとも一部にレーザ光を照射するレーザ光照射装置と、を備えることを特徴とする回転ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置。
【請求項2】
真空室を有する装置本体を更に備え、
該電子線発生装置は、電子線放出源と、該電子線放出源に電圧を印加して電子線を放出させる駆動電源とを備え、
該ターゲットホルダ、該基板ホルダ、及び該電子線放出源は、該真空室内に設けられており、
該ターゲットホルダは、該回転機構を介して該装置本体に接続されており、
該ターゲットホルダ、該回転機構、及び該装置本体は導電性を有することを特徴とする請求項1記載の回転ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置。
【請求項3】
該回転機構は、該真空室の外部に設けられ回転力を発生するモータと、
該装置本体に支持されると共に該モータに接続され、もって該モータの回転力を該真空室内に導入する回転導入端子と、
該装置本体に支持されると共に該真空室内に設けられた回転軸受と、
一端と他端とを有し、該一端は該回転導入端子に接続され該他端は該ターゲットホルダに接続されると共に、該一端と該他端との間において該回転軸受に回転可能に支持され、もって該モータの回転力を該ターゲットホルダに伝達する回転伝達棒と、を備え、
該回転軸受は、導電性の内輪及び外輪と、該内輪と該外輪との間に設けられる導電性の回転玉とを備え、
該回転玉の表面には、導電性の固体潤滑剤がコーティングされていることを特徴とする請求項2記載の回転ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置。
【請求項4】
該ターゲットホルダを冷却するための冷却手段を更に備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一記載の回転ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置。
【請求項5】
該冷却手段は水冷容器を備え、該水冷容器と該ターゲットホルダとの距離が0.1μm以上かつ2mm以下であることを特徴とする請求項4記載の回転ターゲット式電子線補助照射レーザアブレーション成膜装置。
【請求項6】
装置本体と、
ターゲットを保持するターゲットホルダと、
該ターゲットホルダに対して所定の位置に設けられ、成膜用基板を保持する基板ホルダと、
該ターゲットに対して電子線を照射する電子線照射装置と、
該装置本体に支持される回転軸受と、
該ターゲットホルダに接続される一端と回転手段に接続される他端とを有し、該回転軸受に回転可能に支持される回転軸と、
導電性を有し、該回転軸に接触して設けられるとともにアースに接続されるアース接続部とを備えることを特徴とする回転ターゲット式電子線照射成膜装置。
【請求項7】
該アース接続部と該回転軸との接触部の電気抵抗が該回転軸受の電気抵抗よりも小さいことを特徴とする請求項6記載の回転ターゲット式電子線照射成膜装置。
【請求項8】
該アース接続部は弾性を有する材料からなり、もって該回転軸に対して弾性的に接触することを特徴とする請求項6又は7記載の回転ターゲット式電子線照射成膜装置。
【請求項9】
該アース接続部は、金属製薄板、金属製コイルばね、及び針金状金属の何れかにより構成されることを特徴とする請求項8記載の回転ターゲット式電子線照射成膜装置。
【請求項10】
該アース接続部は、基部と該基部から櫛歯状に延びる櫛歯部とを有する金属製薄板により構成され、該櫛歯部が該回転軸に接触することを特徴とする請求項8記載の回転ターゲット式電子線照射成膜装置。
【請求項11】
該回転軸は、該アース接続部と接触する接触部を備え、
該アース接続部と該接触部とは同じ材質により形成されていることを特徴とする請求項6乃至10の何れか一記載の回転ターゲット式電子線照射成膜装置。
【請求項12】
該回転軸は、該ターゲットホルダに接続されるターゲットホルダ接続部と、該アース接続部と接触する接触部と、該回転軸受に支持される軸受支持部とを備え、
該接触部は、該ターゲットホルダ接続部と該軸受支持部との間に位置することを特徴とする請求項6乃至11の何れか一記載の回転ターゲット式電子線照射成膜装置。
【請求項13】
該回転軸は、絶縁性材料からなる絶縁部を更に備え、
該絶縁部は、該接触部と該回転軸受との間に位置することを特徴とする請求項12記載の回転ターゲット式電子線照射成膜装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−140711(P2012−140711A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−102351(P2012−102351)
【出願日】平成24年4月27日(2012.4.27)
【分割の表示】特願2006−351437(P2006−351437)の分割
【原出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年4月27日(2012.4.27)
【分割の表示】特願2006−351437(P2006−351437)の分割
【原出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
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