回転工具の装着方法、回転工具、工作機械、回転工具の装着装置
【課題】工作機械へ迅速かつ容易でありながら、超高速で回転させても工具の振れが抑制できる回転工具の装着方法を提供すること。
【解決手段】マシニングセンタは、刃部91と真空吸着可能にテーパ状に形成された被当接部93と円柱状の軸部92とを有する回転工具9の被当接部93をスピンドル主軸33の一端の当接部53に負圧により迅速かつ容易に吸着して装着するとともに、軸部92を空気静圧軸受ユニット61等の支持機構により回転可能に支持することで高速回転する回転工具9の振れを効果的に抑制する。
【解決手段】マシニングセンタは、刃部91と真空吸着可能にテーパ状に形成された被当接部93と円柱状の軸部92とを有する回転工具9の被当接部93をスピンドル主軸33の一端の当接部53に負圧により迅速かつ容易に吸着して装着するとともに、軸部92を空気静圧軸受ユニット61等の支持機構により回転可能に支持することで高速回転する回転工具9の振れを効果的に抑制する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転工具の装着方法、回転工具、工作機械、回転工具の装着装置に係り、例えば、主軸を毎分数万〜数十万回転で超高速回転させて微細な加工を精度高く行うフライス盤等に、超微細ボールエンドミル等を取り付けるのに特に適した装着方法、その装着方法に適した回転工具、その回転工具の装着装置、及びこれを備えた工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、メゾスコピックマシンが注目されている。これは、従来の機械加工の精密マシンと、ナノテクノロジーを用いたいわゆるナノテクマシンとの中間のメゾスコピック領域の加工に適したマシンである。メゾスコピックマシンの厳密な定義はないが、ここでは、特に数μm〜数百μm程度の対象を加工するのに適したマシンをいう。
【0003】
例えば、ディンプルと呼ばれる微小なくぼみを規則的に配置したディンプルテクスチャが、光学やトライボロジー等の広範囲の分野で用いられている。また、マイクロチャンネルを用いて、ナノリッター(nL)からフェムトリッター(fL)の微小流体をハンドリングするマイクロ流体工学もバイオ関係などで活用されている。これらの場合、数十μmの幅や深さのディンプルやマイクロチャンネルを形成するには、直接ワークを加工し、またはプレス若しくは成形のための型を正確に3次元的に造形する必要があった。
【0004】
このような場合、半導体製造工程で採用されているリソグラフィ−で加工する方法も考えられるが、きわめてコストが高いばかりか、幅方向の精度は高くても深さ方向の精度は保証できないため、正確な3次元的造形が難しい。また、放電加工などもコストは低いがやはり正確な3次元的造形ができない。
【0005】
この点、切削、研削による機械的加工によれば、理論的には正確な3次元的造形が可能であり、比較的コストも低く、多品種少量生産にも適している。
ここで、上記の様な精密な加工を行うために従来用いられてきた回転工具109を、図20を参照して説明する。従来の回転工具109は、先端に直径φDが数十〜数百μmのボールエンドミルの刃部191を備えている。この刃部191を支持する軸部には、この工具を把持するためのストレートシャンク192が形成されている。このストレートシャンク192は、回転工具109を工作機械の主軸にクランプする部位で、テーパのない正確な円柱状の面が形成されている。このストレートシャンク192が、大型のツールホルダ(不図示)により直接的に(若しくはコレットなどを介して間接的に)把持される。さらに、このツールホルダには主軸に取り付けるためのテーパシャンクが形成されており、このテーパシャンクが主軸端のテーパ孔に引き込み機構で装着される。また、従来の回転工具109の基端部の周縁には、コレットなどに装着する場合に、回転工具109の基端部周縁と、コレットの挿入口周縁との干渉を防ぎ、傷付きを防止したり装着を容易にしたりするため、その軸線から45度傾いた面取り部194が形成されることがある。これは、単に干渉を防ぐ為の面取りを目的に形成されたC面であって、角部を丸めたR面と代替することもできる加工である。
【0006】
メゾスコピックマシンとして超精密加工をするには、このようなストレートシャンクを把持されたボールエンドミルのような回転工具を用い、必要な周速を得るため毎分数万から数十万回転で超高速回転させるのが一般的であるが、この場合、まず回転工具自体が高い精度を有することが不可欠であることはもちろんである。
【0007】
また、このような回転工具を回転させる工作機械のスピンドルは、高周波モータが内蔵され、4万〜30万回転の高速でも振れが小さく回転できるように主軸の質量バランスが機械の運転状態での温度において精密に取られていなければならない。
【0008】
加えて、工具や工作機械自体が精度高く調整されているばかりか、正確に回転工具を工作機械に装着して、超高速に回転する回転工具の振れを抑制することも不可欠である。ところで、本発明の発明者は、図18に示すように回転工具の振れの大きさの差で大きく工具の寿命が変わることを実証しており、この観点からも振れを抑制することは重要である。ここでは、ボールエンドミルの切り込み量0.1mm、ピック量0.3mm、工具送り量0.1mm/刃、主軸回転数9550回転/分、切削速度212m/分、傾斜角45°で比較し、○で示したグラフは工具振れδ=41.3μm、□で示したグラフは工具振れδ=9.8μmである。これらを比較すると、切削距離、つまり工具の寿命が大きく異なり、この観点からも振れの抑制が重要であることが分かる。
【0009】
一般的にマシニングセンタに採用されているATC(自動工具交換装置)のクランプ装置では、メゾスコピックマシンに比べはるかに大型の工具を対象としており、その負荷も大きく、回転数もすくない。そして工具のストレートシャンク部を把持固定する着脱手段を有したツールホルダが回転工具を直接保持(若しくはコレットなどを介して間接的に保持)し、そのツールホルダはテーパシャンクにより主軸端のテーパ孔に引き込み機構などにより装着される。そして、この大きなツールホルダごと工具を自動交換している。もし、このような質量の大きな自動交換可能なクランプ装置を用いて上述のような毎分数万から数十万回転で超高速回転させるボールエンドミルを保持すれば、回転バランスの悪さから工具の振れなどが生じやすく、μmオーダーの振れに抑制するのは到底困難である。
【0010】
そこで、特許文献1に記載の焼ばめ方式の工具のクランプ装置や、特許文献2に記載したこの焼ばめ方式のクランプ方法を熱の影響を抑制する工具クランプ装置が開示されている。
【0011】
図19に示すように、特許文献1に記載の工具クランプ装置は、いわゆる焼ばめ方式といわれ、主軸133下端に取付けられたホルダ105及びホルダ105を把持して冷却するホルダ把持装置120A、工具109を把持するとともに冷却する工具把持装置120B並びに高周波誘導加熱装置108で構成される工具着脱装置部120によりなっている。そして、高周波誘導加熱装置108でホルダ105のみを加熱して熱膨張させて、その間に工具109をホルダ105に挿入する。その後ホルダ105及び工具109を冷却することでホルダ105が熱収縮して工具109を強固にクランプする。
【0012】
この焼ばめ方式であれば、熱膨張、熱収縮を利用するため、従来のコレットなどと比較すれば工具のクランプ構造がシンプルでかつコンパクトにでき、ワークとの干渉も回避できる。さらに、工具のクランプも強固にできる。
【特許文献1】特開2004−237408号公報
【特許文献2】特開2007−75924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1,2のような発明では、複雑な焼ばめの装置が必要となり、交換時間も加熱時間に加え、冷却時間が必要なため比較的長時間必要となる。
また、工具109やホルダ105の組織の不均質や、加熱冷却のムラなどの個体差から振れが生じたとしてもこれを調整するのが困難である。
【0014】
さらに焼ばめ方式では、特許文献2に記載されたような熱対策がとられた構成としたところで、基本的にクランプ装置を加熱することから工具も加熱され工具の組織が軟化するなどの影響が不可避である。
【0015】
一方、上述のようなメゾスコピックマシンであれば、回転工具の径が、3mm〜6mm程度のものが使用され、振れを抑制しつつ超高速回転させるものの、大型の回転工具のような大きな加工負荷は要求されない。そのため、クランプ装置は必要以上に大きな締め付け力は必要がない。
【0016】
本発明の課題は、回転工具の工作機械への着脱が極めて迅速かつ容易となる回転工具の装着方法、その装着方法に適した回転工具・装着装置、及び、これを備えた工作機械を提供することにある。
【0017】
併せて、超高速で回転させても工具の振れが抑制できる回転工具の装着方法、その装着方法に適した回転工具・装着装置、及びこれを備えた工作機械を提供することにある。
加えて、確実に回転工具の保持ができる回転工具の装着方法、その装着方法に適した回転工具・装着装置、及びこれを備えた工作機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の回転工具の装着方法では、先端部に刃部と、基端部に真空吸着可能な被吸着部と、基端方向に当接可能な面を有する被当接部と、中間部に円柱状の被回転支持部として構成され軸部とを備えた回転工具、及び、駆動源により回転駆動される主軸と、前記被当接部の外形形状に対応した形状に形成され前記当該被当接部と当接可能な当接部と、前記主軸と同軸に主軸端に前記回転工具を被吸着部で吸着固定する吸着部と、前記吸着部に負圧を付与する負圧発生手段と、前記被回転支持部を案内しつつ回転可能に支持する回転支持部とを有する工作機械を備え、前記吸着部が前記基端部に設けられた被吸着部を負圧により吸着するとともに、前記被当接部を当接部に当接させることで、前記回転工具を回転可能に支持し、かつ、前記回転支持部が前記被回転支持部を回転可能に支持することを要旨とする。
【0019】
本発明では、負圧により回転工具を装着するため、きわめて容易に工作機械に装着でき、かつ、回転支持部で回転工具を回転可能に支持するため、横方向の耐荷重も大きくなるとともに、回転工具の振れを抑制することができる。
【0020】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の回転工具の装着方法において、前記吸着部に吸着された回転工具の被吸着部は、前記回転支持部の案内により装着姿勢が矯正可能に装着されることを要旨とする。
【0021】
本発明によれば、回転支持部により回転工具の振れが矯正できるため、より回転工具の振れが抑制でき工作精度上げることができる。
請求項3に記載の発明では、請求項1に記載の回転工具の装着方法において、前記負圧発生手段は、前記回転工具の質量を支持する負圧を前記被吸着部に与えることを要旨とする。
【0022】
本発明によれば、回転工具の質量を支持できる負圧を付与するため、他の固定方法の補助なしで回転工具を工作機械に装着できる。
請求項4に記載の発明では、請求項1又は請求項2に記載の回転工具の装着方法において、前記負圧発生手段は、前記被吸着部に対する負圧を与える面積が、前記軸部断面積の2分の1以上であることを要旨とする。
【0023】
本発明によれば、負圧を受ける面積を大きくすることで回転工具が安定して装着される。
請求項5に記載の発明では、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の回転工具の装着方法において、前記回転工具の前記当接部は、被回転支持部から基端部にかけて同心状に直径が小さくなる円錐若しくは円錐台形状のテーパ形状を備えた形状に形成されたことを要旨とする。
【0024】
本発明では、円錐若しくは円錐台形状のテーパ形状の被当接部により、回転工具が安定して装着できる。
請求項6に記載の発明では、請求項5に記載の回転工具の装着方法において、前記テーパ形状は、被回転支持部の直径から基端部の直径の減少幅と、被吸着部の軸方向の長さとの比が1:20から2:1の範囲にあることを要旨とする。
【0025】
本発明では、テーパ比を1:20〜2:1とすることで、楔効果で、小さな負圧でも安定した装着ができる。さらに、このバランスのテーパ比であると、小さな負圧でも安定した装着ができるとともに回転工具の分離に困難さが生じない。また、小さな負圧であれば、負圧の発生装置も比較的コンパクトにすることができる。
【0026】
請求項7に記載の発明では、請求項5に記載の回転工具の装着方法において、前記テーパ形状は、被回転支持部の直径から基端部の直径の減少幅と、被吸着部の軸方向の長さとの比が1:5から2:1の範囲にあることを要旨とする。
【0027】
本発明では、特に分離が容易であるとともに、空気静圧軸受に比較して耐荷重が小さく比較的矯正力が弱い磁気軸受や空気動圧軸受でも回転工具の位置の矯正が可能となる。
請求項8に記載の発明では、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の回転工具の装着方法において、前記回転支持部は、前記回転工具に対して非接触に構成されたことを要旨とする。
【0028】
本発明では、回転工具の回転を妨げることなく、かつ発熱も小さくすることができる。
請求項9に記載の発明では、請求項8に記載の回転工具の装着方法において、前記回転支持部は、流体により回転工具を支持する軸受により構成されたことを要旨とする。
【0029】
本発明では、流体により回転工具を支持するため、固体に接触する軸受に比較して、回転工具の回転を妨げることなく、かつ発熱も小さくすることができる。
請求項10に記載の発明では、請求項9に記載の回転工具の装着方法において、前記回転支持部の前記流体が気体であることを要旨とする。
【0030】
本発明では、気体により回転工具を支持するため、流体でもとくに回転工具の回転を妨げることなく、かつ発熱も小さくすることができる。
請求項11に記載の発明では、請求項10に記載の回転工具の装着方法において、前記回転支持部の前記気体が空気であることを要旨とする。
【0031】
本発明では、空気により回転工具を支持するため、気体の中でも安価で、かつ取り扱いも容易で、回転工具の回転を妨げることなく、かつ発熱も小さくすることができる。
請求項12に記載の発明では、請求項11に記載の回転工具の装着方法において、前記回転支持部は、空気静圧軸受として構成されたことを要旨とする。
【0032】
本発明では、空気静圧軸受により回転可能に支持されるため、装着部での負荷が小さくなり、その構造も簡易にできる。さらに、空気静圧軸受を用いるため軸受の剛性が高く、正確に振れを抑制できるとともに、矯正力が強いため、振れを効果的に抑制できる。
【0033】
請求項13に記載の発明では、請求項1乃至請求項12のいずれか1項に記載の回転工具の装着方法において、前記負圧発生手段は、前記主軸内の軸心に設けられた流路を介して空気が排気されることにより負圧を発生させることを要旨とする。
【0034】
本発明によれば、簡易な設備で、かつ小さな装置で負圧を発生させることで、メゾスコピックマシンにふさわしいコンパクトな負圧発生手段とすることができる。
請求項14に記載の発明では、請求項13に記載の回転工具の装着方法において、前記主軸内に設けられた流路は、真空カプラを介して負圧発生装置に接続されていることを要旨とする。
【0035】
この発明では、真空カプラを備えることで、負圧発生手段外部に設けることができ、負圧発生手段は主軸とともに回転することがなく真空カプラを介して負圧を吸着部に与えることができるので、回転部分の質量を小さくできる。
【0036】
請求項15に記載の発明では、請求項1乃至請求項14のいずれか1項に記載の回転工具の装着方法において、前記工作機械の被吸着部は、前記主軸端に配置されたツールホルダに当接部が形成され、前記回転工具は前記ツールホルダを介して前記主軸端に装着されることを要旨とする。
【0037】
本発明では、主軸端にツールホルダを装着しているので、ツールホルダを異なるタイプに交換することで、多様な工具を主軸に装着することができる。
請求項16に記載の発明では、請求項1乃至請求項15のいずれか1項に記載の回転工具の装着方法に用いる回転工具を要旨とする。
【0038】
請求項17に記載の発明では、請求項1乃至請求項15のいずれか1項に記載の回転工具の装着方法に用いる工作機械を要旨とする。
請求項18に記載の発明では、請求項1乃至請求項15のいずれか1項に記載の回転工具の装着方法に用いる工作機械の回転工具の装着装置を要旨とする。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、回転工具の工作機械への着脱が極めて迅速かつ容易となる。また、超高速で回転させても工具の振れが抑制できる。さらに、確実に回転工具の保持ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
(第1の実施形態)以下、本発明を具体化した工作機械である立型のマシニングセンタ1と、回転工具9であるボールエンドミルの一実施形態を図1〜図4にしたがって説明する。
【0041】
(マシニングセンタ1)
図1は、マシニングセンタ1の概略を示す斜視図である。紙面左手前がマシニングセンタ1の正面であり、正面から見て右方向がX軸方向、上方向がY軸方向、背面方向(紙面右奥方向)をZ軸方向とする。
【0042】
(CNC制御部23・操作パネル22)
マシニングセンタ1は、床に水平に載置された機台11が設けられるとともに、この機台11の正面側左方には、タッチパネルからなる操作パネル22が設けられ、内部に収容されたCNC(Computer Numerical Control)制御部23のコンピュータを操作する。
【0043】
(ワーク主軸13)
機台11上の正面中央側には水平なステージ12が設けられるとともに、このステージ12上にはワーク主軸13が載置されている。そして、このワーク主軸13に図示を省略したチャック機構でワークWが保持される。
【0044】
ステージ12は、図示しないサーボ機構でX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の直線移動、及びX軸回り、Z軸回りに回転移動などするように周知の方法でCNC制御されている。また、ワーク主軸13にはチャック機構で保持されたワークWが回転可能になっているおり、ワーク主軸13に内蔵された図示しないモータがCNC制御されワークWを回転駆動する。
【0045】
(主軸頭16)
機台11の背面側には、コラム15が立設されるとともに、このコラム15の正面側に主軸頭16が配置されている。この主軸頭16は、スピンドル主軸33を備えたスピンドルユニット3を支持し、図示しないサーボ機構でスピンドルユニット3をX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の直線移動、及びX軸回り、Z軸回りに回転移動するように周知の方法でCNC制御されている。
【0046】
したがって、本実施形態のマシニングセンタ1は、ワーク主軸13及び回転工具のスピンドル主軸33が多軸について変位可能で自由度が高く、多機能フライスとしての機能も併せ持つマシニングセンタであり、複雑な形状の精密金型などの製作ができるものである。
【0047】
これらは、2点鎖線で示す保護カバー21が覆っている。
(ATC)
ステージ12のX軸方向(正面から見て右手)に隣接して、ATC(Automatic Tool Changer・自動工具交換装置)に用いる工具マガジン19を備える。このターレット式の工具マガジン19は、ターンテーブル状になっており、周縁部に交換用の回転工具が多数鉛直上方から挿入可能に構成されている。この工具マガジン19は、工具マガジン駆動部20により回転することができる。
【0048】
コラム15の正面側には上下に並列して2本、X軸方向に平行なレール18,18が設けられており、主軸頭16は、この一対のレール18,18に案内されて工具マガジン19とスピンドル主軸33が近接する位置まで移動され、工具マガジン駆動部20を回転させることで、迅速に任意の回転工具9に交換することができる。工具交換の詳細は後述する。
【0049】
図2は、スピンドルユニット3を示す一部断面図である。図3は、スピンドル主軸33と、ツールホルダ5と、ボールエンドミルからなる回転工具9の基端部との関係を示す組立図である。
【0050】
(スピンドルユニット3)
図2に示すように、スピンドルユニット3のケーシング31内にDCブラシレスモーターからなる高周波誘導電動機であるモータ32が収容され、このモータ32がスピンドル主軸33を回転させる。スピンドルユニット3自体は、スピンドル主軸33に切削液やエアを通す穴があるものであれば、周知の構成を改造して本発明のスピンドルユニット3を製作できる可能性があるが、スピンドルユニット3自体により振動・リップル・トルク変動等が生じると、本発明の効果が損なわれるので、精度及び剛性の高いものが望ましい。
【0051】
(スピンドル主軸33)
このスピンドル主軸33は、図示しない複数の玉軸受けによりラジアル方向・スラスト方向から支持されている。
【0052】
このスピンドル主軸33は、例えば、高周波で駆動され、60,000〜120,000rpm程度の超高速回転が可能となっており、スピンドル主軸33自体の振れは、少なくとも20,000〜60,000rpmの範囲では、1μm未満の極めて小さい振れとなっている。
【0053】
スピンドル主軸33は、全体としては概ね円筒状の形状で、その軸心に沿って内径5mmの円形断面のエアの流路34が内部に形成されており、スピンドル主軸33の主軸端33aには下方に向けて下部開口35を備える。
【0054】
(真空カプラ4)
また、図2に示すようにスピンドル主軸33の上端は、非接触の真空カプラ4が形成されている。図3に示すようにスピンドル主軸33の上端には流路34の上部開口36が形成されているが蓋体37により密閉されている。また、上端のやや下方には鉛直方向の流路34からスピンドル主軸33を中心に対向する半径方向に一対の排気路38,38が穿設されており、スピンドル主軸33の外周面に排気口39,39がそれぞれ開口されている。
【0055】
図2、3に示すように、真空カプラ4は、全体が概ね円柱状に形成され、この排気口39,39をスピンドル主軸33を中心に回転させたときの軌跡に対して、これを外側から取り巻くドーナツ型の空間40が形成されており、この空間40と外部に連通する吸引口41が形成されている。スピンドル主軸33は高速で回転するため、この排気路38,38に存在する空気は矢印方向に強い遠心力を受け、空間40に強制的に排出される。つまり、この真空カプラ4自体も、遠心ポンプとしてスピンドル主軸33内の流路34に負圧を与えることに寄与している。
【0056】
(工具取り外し機構)
本実施形態では、ツールホルダ5の通路52に臨んだ回転工具9の基端面94を負圧のみで吸着するものであるため、負圧を解除すれば、通常、回転工具の自重によりツールホルダ5から分離する。ところが、本発明の回転工具9の被当接部93とツールホルダ5の当接部53とが、テーパの程度や表面の粗度の程度などによる表面同士の摩擦、特にくさび効果による食いつき、鏡面同士の密着などにより当接したまま、回転工具9が自然落下しないことがある。そこで、本実施形態では、図示を省略した空気供給手段からスピンドルユニット3の流路34、ツールホルダ5の通路52に加圧した空気を供給することで負圧状態から加圧状態にして回転工具9の離脱を促す。この加圧状態は脈動させる方がより効果的に回転工具を分離できるので好ましい。
【0057】
さらに、工具マガジン19側で、回転工具の先端部を把持したり、工具に掛合部を設けて掛止し機械的に強制的に引き抜くようにすることもできる。
さらに本実施形態では、図2、図3に示すように、流路34内にノックピン43を設け、回転工具9の基端面94を押圧して被当接部93を当接部53から押し出すようにしている。ノックピン43は、流路34内のスピンドル主軸33の回転中心に沿って設けられ、蓋体37の中央部に穿設された孔から、僅かな隙間を隔てて非接触で上方に突出する。ここにはノックピン可動機構44が配置され、回転工具9を取り外すときには、ノックピン43を下方に変位させて回転工具9の基端面94に当接・押圧して、回転工具9を取り外す。
【0058】
このため、このノックピン43による工具取り外し機構により、自動的に確実に回転工具を解除でき、ATCにより自動交換を確実に達成できる。その一方、ノックピン43は、回転工具9、スピンドル主軸33、蓋体37のいずれにも非接触で、これらの円滑な回転を妨げることもない。そして、蓋体37とは僅かな隙間を維持して負圧や加圧を損なわないように構成されている。
【0059】
(真空発生器42)
図2に示す、吸引口41には、負圧発生装置である真空発生器(Vacuum generator)42が接続されている。この真空発生器42は、ノズルにより高速で噴出される圧縮空気により生じる流体の負圧を利用したものであり、工場内で供給される圧縮空気さえあれば極めて小さなスペースで負圧を発生することができる。例えば、商品名で「コンバム」(株式会社妙徳の登録商標)などが好適に使用できる。本実施形態では、供給空気圧力0.5MPaで、−90kPa程度の真空度に到達し、φ=6mmの回転工具9が良好に装着でき、加工中の保持に脱落、スリップなどの問題も生じなかった。
【0060】
(ツールホルダ5)
図3に示すように、本実施形態では、当接部53を形成するために、ツールホルダ5を用いており、回転工具9の主軸33への装着は、ツールホルダ5を介して行っている。スピンドル主軸33の主軸端33aには概ね円筒状のツールホルダ5がスピンドル主軸33と同軸に固定されており、スピンドル主軸33と一体に回転するようになっている。
【0061】
本実施形態では、一般のATCなどに用いられるような大型のものではなく、質量が小さく、回転バランスのよい専用のものを用いている。
なお、従来のツールホルダ5は、一般に、例えば、HSKシャンクやKMシャンクのような大型のものが挙げられるが、これは、本実施形態と比較して比較的おおきな回転工具9を用い、かつ、回転工具9が装着されたツールホルダごとATCで交換しており、ツールホルダにワンタッチの交換機能が必要であった。そのため、大型化は避けられなかった。
【0062】
一方、本実施形態では、回転工具9の交換は、回転工具9自体で行われるため、ツールホルダ自体はワンタッチで交換する機能は必要がない。そのため、ツールホルダ5を従来のツールホルダと比較して、著しく小さく、質量が少なく、回転バランスの良好なものとすることができた。
【0063】
ツールホルダ5は、円柱状の本体51を備え、その上部が、ちょうどスピンドル主軸33の下端に設けられた嵌合凹部30に嵌合され、図示しないねじによりねじ止め固定される。
【0064】
このツールホルダ5は、円柱状の本体51の上部には、軸方向に断面が円形の通路52が貫通され、下部には、下方に直径が大きくなるテーパ状の空間が当接部53として形成されている。そしてスピンドル主軸33の主軸端33aの下部開口35と連通するようにこれと同径に、上部の開口部54が形成されている。
【0065】
この当接部53は、被当接部93と当接するように回転工具9の被当接部93のテーパ形状と密着するように、被当接部93の外形形状に対応した形状に形成され、そのテーパ角度と真円度が正確に形成されるとともに、その表面が研磨される。
【0066】
(回転工具9)
図4(a)〜(c)は、回転工具9の例を示す図である。本発明の回転工具9としては、ボールエンドミル以外にスクエァ、ラジアス等のエンドミル、平フライスのほか、ドリル、タップ、リーマーなどのソリッド工具、及び、インサート等を着脱自在に装着して用いる刃先交換式のエンドミル、正面フライスなど、マシニングセンタ1で一般に用いられる回転工具として用いるものに広く適用できる。本実施形態では、このような中で、主軸を毎分数万〜数十万回転で超高速回転させて精密金型などの微細な加工を精度高く行う万能フライス盤等に、超微細ボールエンドミルを装着する際に特に適したメゾスコピックマシン用の超微細ボールエンドミルを例に説明する。
【0067】
回転工具9は、全体が概ね円柱状に形成され、先端部に設けられた刃部91と、基端部に設けられた真空吸着可能な被吸着部として構成された基端面94と、基端方向に当接可能にテーパ状に形成された面を有する被当接部93と、中間部に設けられた円柱形の軸部とを備える。
【0068】
(刃部91)
上述のとおり、本発明の回転工具9の刃部91は、切削用の切れ刃に限らず、研磨用の砥石を含むものである。
【0069】
図4(a)に示す回転工具9は、本実施形態のメゾスコピックマシン用の超微細ボールエンドミルで、X軸方向やZ軸方向の側面での切削に加えY軸方向にも切り込むことができる。刃先はここでは2枚刃であるが、3枚刃以上でもよく、刃部91の先端は回転した軌跡が半球状となる。刃部91の直径φDは、図上では誇張して太く描かれているが、実際には極めて細く、毛髪よりも細い直径φD=30μmである。また、ノーズ半径はR=15μmである。
【0070】
工具全体の材質は、例えば、構造用鋼、高速度工具鋼(ハイス)若しくは超微粒子超硬合金から構成される。刃部91は、上記工具全体の材質と同一の高速度工具鋼や超硬合金で形成しても、刃部91の先端部の切れ刃部分のみを、例えば、PCD(多結晶焼結ダイヤモンド)若しくはcBN(Cubic Boron Nitride ・立方晶窒化ホウ素)から構成してもよい。
【0071】
なお、図4(a)、(b)のように、刃部91と軸部92との間に、テーパ部を設けるほか、図4(c)のように、テーパ部の中途に平行部95を設けてもよい。その工具の目的によりワークWとの干渉の防止や、あるいは工具全体の質量の削減、工具の強度、工具の取り外しの掛止部の形成などから種々の形状を取り得る。
【0072】
(軸部92)
図4の(a)〜(c)は、いずれも共通して、回転工具9の軸部92であるテーパのないストレートな形状の中間部の直径(従来の工具109(図20参照)ではいわゆるシャンク径であるが、本発明の軸部92は、従来の「シャンク」のように把持部として使用しないため、混乱を避けるため敢えて「シャンク」の語は使わない。)は、φs=6mmである。
【0073】
本実施形態の軸部92は、把持されることもなく、回転が支持されることもないため、その形状は回転バランスさえよければ、制限はない。また、図示しない引き抜き用の掛止部となる溝や突起、突条などを設けてもよい。
【0074】
(被当接部93)
軸部92から基端面94にかけて、テーパ形状の被当接部93が形成される。基端面94の直径は、φe=5mmに形成される。詳細は後述する。
【0075】
(基端面94)
本発明において基端部とは、回転工具9の刃部91のある端部とは反対の端部をいい、基端面94のみならず、被当接部93も含む。基端面94は、基端部を構成する部分である、スピンドル主軸33の回転軸と垂直な平面として形成されている。基端面94は、ツールホルダ5に装着されている時には、負圧が付与されたツールホルダ5の通路52に臨んでいる。このため、基端面94は、被吸着部として通路52の負圧により重力に抗する鉛直上方の方向の力を受ける。そのため、回転工具9はツールホルダ5に吸着固定される。
【0076】
なお、基端面94と被当接部93の境界である基端面94の周縁は、例えば、0.5mm程度のC面(面取り面)が軸線に対して、例えば45度の角度で形成されてもよい。また、C面に換えてR面(曲面)としてもよい。
【0077】
(被当接部93の形状)
次に、本発明のポイントである被当接部93のテーパ形状について詳細に説明する。図4(a)に示す回転工具9では、軸部92の直径φs=6mmで、基端面94の直径φe=5mmである。そして被当接部93の軸方向の長さLt=5mmとなっており、回転工具9の被当接部93は、軸部92から基端部にかけて同心状に直径が小さくなる円錐台形状のテーパ形状に形成されている。そして、この形状は、図3のツールホルダ5の当接部53の形状と嵌り合い、気密な状態で嵌合可能になっている。
【0078】
この被当接部93は、精度を高めたり、気密性を向上させたり、表面の保護のため種々の表面処理がなされる。たとえば、研磨して鏡面仕上げにして気密性を高めたり、逆に表面粗度を粗くして、当接部53とのスリップを減少させるようにしてもよい。
【0079】
図4(a)に示す回転工具9のテーパ形状は、軸部92の直径φsから基端面94の直径φeの減少幅と、被当接部93の軸方向の長さとの比が、(φs−φe):Lt=(6−5):5=1:5となっている。ここで、本願ではこの比、若しくはこの比の値を「テーパ比」ということにする。この場合は、テーパ比1/5となる。
【0080】
本発明者の実験では、図4(a)に示す回転工具9では、当接部53による回転工具9の被当接部93の保持は安定しており、負圧を解除した時には、加圧するまでもなく回転工具9は分離された。
【0081】
次に、図4(b)に示す回転工具は、軸部92の直径φs=6mmから基端面94の直径φe=5mmの減少幅と、被当接部93の軸方向の長さLt=10mmとの比が、(φs−φe):Lt=(6−5):10=1:10となっている。この場合は、テーパ比1/10となる。この場合は、当接部53による回転工具9の被当接部93の保持は安定しており、負圧を解除した時には、装着時の挿入速度にもよるが、負圧を解除しても自然には抜けないものもあったため、手で分離を補助する必要があるものもあった。
【0082】
次に、図4(c)に示す回転工具は、軸部92の直径φs=6mmから基端面94の直径φe=5mmの減少幅と、被当接部93の軸方向の長さLt=2mmとの比が、(φs−φe):Lt=(6−5):2=1:2となっている。この場合は、テーパ比1/2となる。この場合でも、当接部53による回転工具9の被当接部93の保持は安定しており、負圧を解除した時には、回転工具9は自重で分離した。
【0083】
同様に、テーパ比1/20.047の回転工具9(図示しない)では、当接部53による回転工具9の被当接部93の保持は安定しており、負圧を解除した時には、装着時の挿入速度にもよるが、負圧を解除しても自然には抜けずに手で分離を補助する必要があるものが多かった。このため、十分に実用可能であるが、ATCで使用するためには、何らかの分離手段を必要とする。
【0084】
さらに、テーパ比1/50の回転工具9(図示しない)では、当接部53による回転工具9の被当接部93の保持は極めて安定しており、負圧を解除した時には、装着時の挿入速度にもよるが、負圧を解除しても自然には抜けずに手で分離を補助する必要があるものが多かった。このテーパ比1/50であれば、何らかの分離手段を必要とするものの、十分に実用可能である。
【0085】
小さな負圧で、回転工具を保持するという観点からは、テーパ比1/10以下が望ましい。なお、テーパ比1/2でも十分保持できるし、十分な負圧があればテーパ比2/1でも十分に実施できる。
【0086】
また、分離が容易という観点からは、テーパ比1/20以上が望ましい。さらに、テーパ比1/5以上であれば、ATC等にも利用でき、テーパ比1/2であれば、ATCに最適である。
【0087】
また、分離が容易という観点からは、1/50以上であることが望ましい。これよりテーパ比が小さいと、加工作業中の安定性は高くても、回転工具9を当接部53へ装着するときの力により、引き抜くときの力がくさび効果で非常に大きくなり、作業に困難を起こす可能性が大きくなる。また、被当接部93の長さLtが長くなるとこれを支持する当接部53の長さが長くなり、これに伴いツールホルダ5の長さが長くなったり、質量が大きくなったりする点も考慮される。
【0088】
また、加工時の安定性という観点からは、テーパ比が1/2以下が望ましい。特に回転軸に直交する方向からの力がかかる平フライス、ボールエンドミルなどは、被当接部93の長さLtの長さが長い方が有利となる。
【0089】
また、回転工具9の軸の直径φsが10mm以下であれば、自重が比較的小さく、基端面94の面積で負圧を受けることで、十分に支持できる。
以上のことを勘案して、回転工具9の軸径が10mm以下であれば、被当接部93のテーパ形状は、軸部92の直径φsから基端面94の直径φeの減少幅と、被当接部93の軸方向の長さLtとの比が(φs−φe):Lt=1:50〜1:10の範囲にあるものが好適に実施できることが、発明者の実験からわかった。
【0090】
特に、メゾスコピックマシンに好適に使用できる回転工具9の軸の直径がφs=3〜6mmのものは、比較的自重も軽く、かつ加工時の負荷も小さい。このことから、被当接部93のテーパ形状は、軸部92の直径φsから基端部の直径φeの減少幅と、被当接部93の軸方向の長さLtとの比が(φs−φe):Lt=1:20〜1:2の範囲にあるものが特に好適な実施ができることがわかった。
【0091】
また、テーパ比1/20〜2/1であれば、小さな負圧で回転工具9を保持しつつ、容易な分離も果たしたいという目的からは本発明の効果がバランスよく発揮でき、テーパ比1/10〜1/2が好ましいバランスであり、特に、テーパ比1/5が負圧の効率と分離の容易さのバランスからベストであった。
【0092】
(回転工具9の変更例)
次に、図5、図6を参照して回転工具9の変更例を説明する。図5は、被当接部93aが、回転工具9の軸心方向と直交する基端面94の周縁に設けられた変更例、図6は、被当接部93aが基端面94内に設けられる変更例を示す。
【0093】
○ 上述のテーパ比は、φs−φe=0の場合、若しくはLt=0の場合、言い換えれば、テーパ比=(φs−φe)/Ltの値が限りなく0若しくは∞といえる特殊な場合でも本発明の実施が可能である。
【0094】
言い換えると、実施形態と異なり、回転工具9の側面にテーパ状の被当接部93を持たないものでも、荷重を支持できる十分大きな負圧を発生する負圧発生手段があり、かつ負圧による吸着に対していずれかの部分(基端面94と同一面内にあるものを含む)で当接して位置を規制する被当接部93aがあれば十分実施可能である。したがって、このような形態でも本発明が適用でき、発明の効果が得られる範囲である。本発明の本質は、負圧による吸着を可能とする吸着部と被吸着部、吸着される回転工具の位置決めをする当接部と被当接部の存在である。
【0095】
具体的には、図5に示すように、スピンドル主軸33の下部開口35の径をΦ=5mmとして、ツールホルダ5の当接部53が内径Φ=6mmの断面積の変化のない、つまりテーパ形状のない形状とする。このとき、下部開口35とツールホルダ5の中心を合わせる。そうすると、スピンドル主軸33の下部開口35の周縁が段付になる。回転工具9は基端面94の周縁の部分93aを、この下部開口35の周縁と当接させることになる。この場合は、基端面94のスピンドル主軸33と当接している部分93aが本発明の被当接部に相当する。また、基端面94と当接しているスピンドル主軸33の主軸端33aの下部開口35の周縁部分が、本発明の当接部に相当する。なお、回転工具9の側面部分基端側93bのツールホルダ5と接している部分である当接部53bにより、回転工具9が回転中心からずれないようにツールホルダ5により位置が規制する規制手段として機能している。
【0096】
この実施形態では、テーパ形状がないため、装着するときのクリアランスがあり、回転中心の位置決めの精度は期待できないが、簡易な工具であれば、製造が容易で低コストで製造できる。
【0097】
○ 図6に示すように、さらに上記変更例においては、スピンドル主軸33の流路34とツールホルダ5の当接部53の内径が同一、あるいは流路34の内径がツールホルダ5の当接部53の内径より大きい場合でもよい。この場合は、例えば、下部開口35に、若しくはツールホルダ5の上端に直径方向にストッパとしてのピンを設ける等して、回転工具9の基端面94に当接させて回転工具9が流路34内に進入しないようにすればよい。この場合、このピンが基端面94と当接している面が当接面53aとなり本発明の当接面に相当し、この当接面53aと当接している基端面94の部分が被当接部93aとなり本発明の被当接部に相当する。
【0098】
本変更例では、流路の内径Φ=5mmであっても、軸径Φ=4mmやΦ=3mmの回転工具9が使用できる。
以上のように、本発明者の実験の結論としては、テーパ比0若しくは∞でも、テーパ形状による位置決めの効果はない点、装着がやや容易ではない点、精度が低下する点などで望ましくはないが、実施は十分に可能であり、安価で装着が容易かつ迅速な回転工具9の装着方法を実施できる。
【0099】
○ 上記実施形態の回転工具9は、工具の直径φs=6mmのメゾスコピックマシン用のボールエンドミルであったが、工具径は、この径に限定されないことはもちろんである。たとえば、工具の直径φs=3mm、若しくはφs=4mmなどでも好適に実施できる。但し、工具の直径φs=3mm、φs=4mmより小さい直径の回転工具では、軸受の面積が小さいため、被回転支持部の表面積が小さくなり、空気静圧軸受では、許容される軸受荷重が小さくなるため、注意が必要である。
【0100】
また、工具の直径がφs=10mmを超えると、工具重量と基端部の締結力のバランスが崩れ易くなる。つまり、重量は概ね直径の2乗に比例するが、真空吸着による締結力も概ね直径の2乗に比例するため、φs=10mmを超えると大きな負圧が必要となり、装置が大掛かりになるというデメリットがある。また、φs=10mmを超えるような工具であれば、従来のような締結方法でも従来技術に述べたような問題点は少ないので、本発明の回転工具の装着方法のメリットは比較的小さくなる。
【0101】
(実験1)
次に、第1の実施形態の回転工具9の振れの精度について検証する。
振れの実験は、株式会社和井田製作所のメゾスコピックマシンMCX−01において行った。回転工具としては、図9(a)、(b)に示す直径φs=6mm、(φs−φe):Lt=(6−5):10、テーパ比1/10のボールエンドミルを用いた。振れは、静電容量変位計(日本ADE株式会社製のマイクロセンス型番5430)で工具の根本部分の回転時の振れを測定した。
【0102】
一方、比較例1〜3は、従来のコレットにより軸部92の部分を把持して装着した回転工具9を測定した。
【0103】
【表1】
その結果、従来のチャックによるストレートシャンクでの回転工具の保持による比較例1〜3において、RROが、10,000rpmで2.8μm、20,000rpmで3.0μm、30,000rpmで、3.1μmであった。これに対して、実施例1〜3では、10,000rpmで3.8μm、20,000rpmで3.8μm、30,000rpmで3.9μmであり、多少の振れは増加したが、十分に実用域であった。また、回転工具9の不安定、離脱、スリップなども認められなかった。そして、実際の加工試験も問題は発見できなかった。実施例1〜3は、比較例1〜3と比べて装着が極めて簡易なことを考えれば、極めて有効な回転工具の装着方法と言える結果である。
【0104】
(実施形態の効果)
(1) 本実施形態の回転工具9の装着方法によれば、負圧を付与された流路34、通路52に面した基端面94が吸着され、被当接部93が当接部53に当接されることで回転工具9を極めて容易に、かつ短時間で装着できる。
【0105】
(2) 真空発生器42が、基端面94に回転工具9の質量を支持する大きさの負圧を与えることができるため、他の方法の固定手段なしで通路52の負圧のみで回転工具9を支持できる。
【0106】
(3) 真空発生器42が基端面94に対する負圧を与えるφ=5mmの円状の面の面積が、軸部92のφ=6mmの断面積の2分の1以上であるので、負圧を大きくしないで回転工具を安定して支持する付勢力を与えることができる。
【0107】
(4) 被当接部93は、円錐若しくは円錐台形状のテーパ形状であり、当接部53の形状と密着し、回転工具9は、負圧により装着時に自律的に位置決めされるとともに、安定した保持がなされる。
【0108】
(5) 回転工具9の軸径がφs=3mm〜10mm、特にφs=6mmであり、メゾスコピックマシンとして好適に適用できる。
(6) 刃部は、径φD=20〜40μm、特にφD=30μmで、メゾスコピックマシンとして好適に適用できる。
【0109】
(7)テーパ比(φs−φe):Lt=1:50〜1:10の範囲にあるため、くさび効果で、小さな負圧でも安定した装着ができる。さらに、このバランスのテーパ比であると、小さな負圧でも十分な締結ができるとともに回転工具9の分離に困難さが生じない。また、小さな負圧であれば、負圧の発生装置も比較的コンパクトにすることができる。
【0110】
(8) また、テーパ比(φs−φe):Lt=1:20〜1:2とすることで、回転工具9の分離が容易である。また、小さな負圧であれば、負圧の発生装置も比較的コンパクトにすることができる。
【0111】
(9) 真空発生器42をイジェクターで構成したため、簡易な設備で、かつ小さな装置で負圧を発生させることで、メゾスコピックマシンにふさわしいコンパクトな負圧発生手段とすることができる。
【0112】
(10) 半径方向に開口された排気路38を用いることで、スピンドル主軸33の回転により遠心ポンプ同様の機能を発揮し、負圧発生手段の一部として機能する。
(11) また、真空カプラ4を備えることで、真空発生器42を外部に設けることができ、負圧発生手段は主軸33とともに回転することがなく真空カプラ4を介して負圧を基端面94に与えることができるので、回転部分の質量を小さくできる。
【0113】
(12)スピンドル主軸33の主軸端33aにツールホルダ5を装着しているので、ツールホルダ5を異なるタイプに交換することで、多様な回転工具9を主軸33に装着することができる。また、スピンドル主軸33の製造も容易となる。
【0114】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態を図7を参照して説明する。第2の実施形態は、第1の実施形態において、回転する回転工具9の軸部92を覆うように案内部6を設けた点にある。ここでは、案内部6のみを説明する。
【0115】
案内部6は、全体が筒状に設けられるとともにその内部に、挿入部63を備え、スピンドル主軸33の主軸端33aのツールホルダ5の下方に配置される。
この挿入部63は、回転工具9の軸部92と略同一形状の空間を有し、軸部92の直径φsより数十〜数百μm大きな内径となっている。そのため、回転工具9がツールホルダ5を介してスピンドル主軸33に装着された状態では、回転工具9の軸部92は、挿入部63の内壁に接触することはない。
【0116】
挿入部63の下端は、回転工具9の基端部を挿入可能な挿入口70を備える。挿入口70の周縁は、角が削られてC面(面取面)若しくはR面(曲面)とになって、回転工具9の基端面94周縁と干渉して、お互いが傷付かないように処理されている。この挿入部63の上端部は、ツールホルダ5の下部開口55と連通されている。但し、案内部6とツールホルダ5の間には間隙が設けられ、案内部6は回転するツールホルダ5と無接触で、ツールホルダ5が回転しても案内部6は、回転しない。
【0117】
スピンドル主軸33の流路34が真空発生器42により負圧が付与されると、ツールホルダ5の当接部53、通路52にも負圧が生じる。また、ここに連通した案内部6の挿入部63内にも負圧が生じる。このとき、回転工具9の基端部を挿入部63の挿入口70に挿入すると、回転工具9は、挿入部63内に生じた負圧のため上方に吸引され、回転工具9は、基端面94を先頭に挿入部63内を上昇する。そして、回転工具9の被当接部93は、ツールホルダ5の当接部53に当接して、装着が完了する。また、必ずしも、このように負圧により回転工具9を上昇させなくても、負圧が小さい場合は、回転工具9を操作者が手動で、或いはロボットなどにより掴んで補助的に押し上げてもよい。いずれにしろ、回転工具9の基端部を、案内部6の挿入口70に挿入して押し上げればワンタッチで装着が完了する。
【0118】
装着が完了したら、図示を省略したスピンドルモータを回転させて回転工具9を回転させる。装着後は、上述のとおり、当接部53と被当接部93の形状が嵌り合い位置が決められるので、回転工具9と挿入部63の内壁は接触せず、案内部6が回転工具9の回転を妨げることはない。
【0119】
一方、回転工具9の回転中に何らかの理由で回転工具9がツールホルダ5から外れたときでも、案内部6により規制され脱落して大きく移動することはなく、負圧がかかっていれば、回転工具9は負圧により装着時と同様に自動的に吸引されて修復される。
【0120】
○ この場合に、回転している回転工具9の軸部92と挿入部63の内壁と不測の干渉する場合があるため、回転工具9の軸部92及び案内部6の挿入部63の内壁は、例えば、チタンコーティングなどにより、表面の硬度を高めたり、摩擦係数μを下げたり、或いは油性や固体の潤滑剤を塗布しておくのも望ましい。
【0121】
○ また、別例として、案内部6は、ボールベアリングなどを備えて、積極的に接触しつつ回転可能に支持するような構成でもよい。回転数が低い場合、高い精度が要求されない場合、後述する空気静圧軸受等が設備面・コスト面で採用できない場合にはこのような実施も可能である。
【0122】
(13) 以上説明したように、第2の実施形態に記載した発明によれば、上記第1の実施形態に記載された発明の効果(1)〜(12)に加え、回転工具9の装着が容易で、かつ、不用意に回転中に装着が解除されても自動的に修復されるという効果がある。
【0123】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態を図8〜図13を参照して説明する。第3の実施形態は、第2の実施形態において、案内部6が、空気静圧軸受を備えて、回転工具9の回転時に位置を規制して振れを抑制する点に特徴がある。第1の実施形態及び第2の実施形態と共通する構成は説明を省略して、異なる構成について説明する。
【0124】
(空気静圧軸受ユニット61)
図8に示すように、案内部6のハウジング62内には、回転工具9の軸部92を案内しつつ回転可能に支持する回転支持部を構成する空気静圧軸受ユニット61が設けられている。
【0125】
図9に示すように、空気静圧軸受ユニット61は、スピンドル主軸33と同軸に配置され、概ね円筒形のハウジング62がスピンドルユニット3にねじで固定される。このとき案内部6はツールホルダ5に対して間隙が設けられ無接触状態である。
【0126】
ハウジング62には、ツールホルダ5の当接部53と連通する円柱形の空間である挿入部63が形成され、挿入部63の中心線は、スピンドル主軸33の軸心と同一直線上に配置される。この挿入部63の内径は、回転工具9の軸部92の直径φsよりも若干大きな内径となっており、回転工具と挿入部63の間には、例えば5〜20μm程度の隙間ができるようになっている。挿入部63の下端に設けられた挿入口70は、開口周縁がC面もしくはR面で面取り処理されて、回転工具9の挿入が容易になるとともに、挿入口70及び回転工具9の基端周縁の保護が図られている。
【0127】
この挿入部63の内壁の回転工具9の基端側(上部)と先端側(下部)に対向する位置には、挿入部63の空間を包むように円筒状の多孔質材料からなる軸受64、65が配置されている。この軸受64、65の多孔質材料としては、例えばステンレスの小球(SUS304ビーズ)を焼結したものであり、微細な空気孔が無数に形成されている。
【0128】
(空気供給手段8)
この軸受64,65には、所定の処理を経たクリーンエアが供給される。
図10は、空気供給手段8の構成の一例を示すブロック図である。クリーンエアを供給する空気供給手段8として、例えば、以下のように構成される。まず、最初に冷凍式ドライヤ付きのオイルフリーコンプレッサ81で加圧されたエアは、一旦サージタンクもしくはアキュムレータとなるタンク82により蓄積される。そして、このタンク82から供給される空気をダスト除去フィルタ83で3μm程度までの大きさのダストを除去する。続いて、水分除去フィルタ84で5μm程度の大きさの水分の粒を除去する。そして、オイルミスト除去フィルタ85で0.01μm程度の大きさのオイルミストを除去する。
【0129】
この空気供給手段8から空気温度調節器86、空気供給路を経てカプラ87によりスピンドルユニット3側に接続され供給空気として供給される。このカプラ87は逆止弁を備えている。空気温度調節器86には、水とヒータなどを用いた加熱及び冷却手段により各軸受64,65の多孔質体に供給する空気静圧軸受用空気の温度を所定の温度に調節する。なお、予め所定温度に制御されている高低2種類の空気の混合割合を調節して各多孔質体に供給する空気静圧軸受用空気の温度を所定の温度に調節する方式としてもよい。
【0130】
さらに、スピンドルユニット3側には、ダスト、水分、油分を除去する3連のラインフィルタ88が設けられ、残油量が0.003ppm程度に調整されている。
最後に、レギュレータ89により0.5〜0.6MPa程度に減圧された空気が、カプラ90を介してスピンドルユニット3の空気供給口(図2参照)から、図4に示すスピンドルユニット3内の空気供給路67、空気静圧軸受ユニット61内の空気供給路68を介して軸受64,65に供給される。カプラ90は逆止弁により、空気供給路67,68の急激な圧力低下がないようになっている。
【0131】
空気供給路68は、各軸受64,65の各部分の空気の圧力が等しくなるように、各2か所ずつで圧縮空気を供給している。なお、空気供給路68の各軸受64,65に面した吐出口に連通するような周方向に溝を作り、圧縮空気の量を各軸受64,65に均一に供給するようにしてもよい。各軸受64,65に供給された空気は、空気静圧軸受ユニット61のハウジング62の上端面とツールホルダ5の間隙から、及び挿入部63の下端面周縁の開放面から、及び回転工具9の軸部92の中間部に対向する位置に形成された円筒状の排気空間66に面する面を介して空気排出路69から、それぞれから排出されている。なお、空気排出路69の機能は空気溜りが生じないようにすることで、空気溜りができると、その部分の温度が空気せん断により高くなり種々の問題を引き起こすため、空気溜りが生じないように、前述の構成で、空気が各部分に均一に供給されてから均一に排気されるように条件が同じように設定されて各部分の空気の圧力は平均化されている。
【0132】
空気静圧軸受の特質上、過荷重により回転工具9と軸受64,65が干渉すると、焼つきなどを生じる場合がある。この点について、多孔質絞りは、軸受剛性、軸受負荷能力が他の絞り形式(自成絞り、オリフィス絞り、表面絞り等)より大きい。これは、多孔質絞りにおいて生じる乱流を利用して軸を浮上させているため大気開放流量に達してもなお、軸受負荷能力を有している。そのため、本実施形態のような交換式の回転工具9のように回転工具9の軸部92の直径や、その精度、真円度にばらつきがあるような場合でも、回転工具9と軸受64,65が直接干渉することが少ない。但し、望ましい隙間間隔は一般に他の絞り形式よりも狭い。
【0133】
なお、このとき回転工具9と軸受64,65との電気的導通をテストして、もし導通があれば完全な空気層が形成されておらず、接触している、又は間隙に水分や異物が存在している可能性がある。そのため、空気静圧軸受ユニット61内をエアブローなどで清浄・乾燥などしてその原因を取り除く。
【0134】
モータにビルトインされた空気静圧軸受の場合は、軸の半径方向の荷重を支持するラジアル軸受と軸に平行な方向の荷重を支持するスラスト軸受を備えるが、本実施形態の回転工具9は、長手方向に挿入され、基端部が主軸に締結されるため、スラスト軸受は不要である。つまり、本実施形態の空気静圧軸受ユニット61はラジアル方向の荷重のみ受ける。
【0135】
(実験2) 上記のような構成において、まず、テーパ比1/5のときに、回転を変化させて振れを測定した。比較のため、同様の条件で、従来のシャンクを締め付けるタイプでも同じ回転数で振れを測定した。本実験では、この従来のRRO、NRROを基準に効果の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0136】
【表2】
テーパ比1/5、圧力0.5MPaの実施例4〜実施例8においては、回転数を20,000rpmから60,000rpmに上げても大きな回転抵抗にはならず、スムーズに回転が上がった。これは、テーパ比が大きく、比較的工具の姿勢が変化しやすく、空気静圧軸受による姿勢の規制を受けても回転抵抗が小さいためと推測できる。
【0137】
そして、回転数を20,000rpmから60,000rpmの実施例4〜8は、RRO=1.0〜1.3の範囲で、むしろ回転数50,000rpmの実施例7が最も振れが少なくなっている。また、NRRO=0.06〜0.39の範囲で、回転数30,000rpmの実施例5の一番振れが小さい。つまり、回転数と振れの大きさは比例関係にない。
【0138】
(実験3) 次に、表3は、テーパ比が1/5の場合(図4(a)参照)と1/10の場合(図4(b)参照)を比較した。回転数は20,000rpmの場合を比較した。そして、スピンドルの回転数を20,000rpmで、ボールエンドミルの被吸着部のテーパ比1/10で、空気静圧軸受の圧力(以下、この実験で単に「圧力」という。)を0.5MPaと0.9MPaの場合、及びテーパ比1/5で、圧力が0.5MPaの場合と比較すると、以下の表のようになった。比較例2は、従来のコレットである。
【0139】
【表3】
前述の表1に示した吸着による装着方法の実施例2のRROが、3.8μmである。これに対して、空気静圧軸受による回転支持をしたものは、同じテーパ比1/10の実施例9、10のときは、刃先の振れは、RROが、2.5〜2.9μmの範囲で、NRROが、0.07〜0.1μmの範囲で、いずれも、評価の基準となる比較例1のRROが3.0μmを下回った。特に、空気静圧軸受圧力が、0.9MPaの実施例10の方がRROが小さく、空気静圧軸受の受け圧力を強めて、軸部92での位置規制を強めた方が振れが抑制できることがわかった。
【0140】
さらに、実施例4のようにテーパ比1/5にした場合、圧力を0.5MPaに下げてもRROは1.3μm、NRROは0.15μmとなった。
この実験から、テーパ比は、1/10から1/5と大きくしてもRROは悪化せず、むしろRROは小さくなった。これは、テーパ比を大きくすることで、回転工具9の自由度が高まり、小さな圧力で空気静圧軸受による位置の規制が達成できているということが推測できる。
【0141】
なお、テーパ比1/5としても、回転工具がスピンドルに対してスリップするなどの問題はまったく生じなかった。
(実験まとめ)
以上の実験から、本実施形態のテーパ形状の当接部53と被当接部93による本実施形態の装着方法は、十分な締結力を示すとともに、容易な離脱ができることを確認した。
【0142】
また、空気静圧軸受による回転工具の振れの抑制は効果が大きく、従来のものと比較すると、本実施例の方法は極めて振れが少ない。
そして、締結は空気静圧軸受による位置の規制を受けやすいように、テーパ比を少なくとも1/10、最も好ましくは1/5とすることで、空気静圧軸受を比較的小さな圧力で支持しても振れが効果的に抑制できることが分かった。
【0143】
(マシニングセンタ1の使用方法)
本実施形態のマシニングセンタ1の使用方法を、図11に示すフローチャートに沿って説明する。
【0144】
まず、作業開始では、図1に示すマシニングセンタ1の主電源が投入され、操作パネル22でCNC制御部23のメインプログラムが起動される。そうすると、加工プログラムが読み込まれ、ワーク主軸13のチャック(不図示)にワークWが装着されると、このワークの位置・姿勢を認識する。
【0145】
また、各種チェックプログラムが各器具の状態を点検する。そして、空気供給手段8で圧縮空気が蓄積され、空気静圧軸受ユニット61(図2)にクリ−ンエアが供給される。以上で準備が完了する(S1)。
【0146】
続いて、工具が装着される。図1に示す主軸頭16は、レール18,18に案内されてコラム15をX方向に移動し、工具マガジン19の上方の工具交換位置に移動する(S2)。このとき、工具マガジン19に収容された所定の回転工具9がCNC制御部23により選択され、工具マガジン駆動部20を駆動させて工具マガジン19が回転される。そうすると、図12に示すように、所定の回転工具9の基端面94の真上に空気静圧軸受ユニット61の挿入口70が位置するような位置関係になる。
【0147】
そして、主軸頭16を下降させてスピンドル主軸33を下降させる(S3)。そうすると、図7に示すように空気静圧軸受ユニット61の挿入口70に所定の回転工具9の基端部が挿入される。
【0148】
このとき、もし、既にスピンドル主軸33に工具が装着されている場合は、図示しない供給口から空気供給手段8からの圧縮空気をスピンドル主軸33内に導入し空気を吐出して、工具を排出するが手順を行うが(ステップ不図示)、ここでは、加工の最初であるので、スピンドル主軸33には回転工具9は装着されていない。そこで、真空発生器42により負圧が発生され、スピンドル主軸33内の流路34、当接部53に負圧を発生させる(S4)。
【0149】
そうすると、当接部53に連通している空気静圧軸受ユニット61の挿入部63にも負圧が発生し、回転工具9の基端部は、挿入口70から吸着され上昇する。空気静圧軸受ユニット61にはすでにクリーンエアが供給されているため、回転工具9の軸部92は、空気静圧軸受ユニット61の軸受64,65には、直接接することなく図13の矢印で示す方向に円滑に吸い込まれていく。
【0150】
そうして、図9に示すように当接部53に被当接部93が密着した状態で、回転工具9が吸着される(S5)。
装着が完了したら、スピンドル主軸33は回転を開始する(S6)。スピンドル主軸33の回転に伴って、回転工具9も回転をする。
【0151】
そして、スピンドル主軸33は上昇され(S7)、図1に示す主軸頭16は、レール18,18に案内されてコラム15をX方向と逆の方向に移動し、ワークWの所定の加工位置の上方に移動したら下降し、刃部91は、ワークWの加工位置に移動する(S8)。
【0152】
そして、CNC制御部23により制御されながら加工を開始する(S9)。加工は、ワーク主軸13を回転して、主軸頭16を、x,y,z方向にシフトしたり、z軸と平行なB軸回りに回転させたりしてCNC制御によりワークを加工する。
【0153】
その回転工具9での加工が終了したら(S10)、次の加工のための工具に交換するため、再び主軸頭16は、レール18,18に案内されてコラム15をX方向に移動し、工具マガジン19の上方の工具交換位置に移動する。このとき、工具マガジン19は、先に使用した回転工具9の収容される所定の位置になるようにCNC制御部23が工具マガジン駆動部20を駆動させて工具マガジン19が回転される。そうすると、所定の工具収容位置の真上にスピンドル主軸33に装着された回転工具9が位置する(S11)。
【0154】
そして、主軸頭16を下降させてスピンドル主軸33を下降させる(S12)。
そして、真空発生器42による負圧の発生が停止され、スピンドル主軸33内の流路34、当接部53に負圧の発生は停止される。図示しない供給口から空気供給手段8からの圧縮空気がスピンドル主軸33内に導入されて空気を吐出して、また、図2に示すようにノックピン可動機構44によりノックピン43を加工させて、その下端を回転工具9の基端面94に当接押圧する。このようにして被当接部93と当接部53のテーパ形状同士が食いついたような状態でも、確実に回転工具9の装着を解除させてマガジン19の所定位置に戻すことで、ATCとしての機能を保証している。このように既にスピンドル主軸33に装着されている回転工具9を排出する(S14)。そして、まだそのワークに対して異なる回転工具9で作業が残っている場合は(S15;NO)、S2〜S14のステップを繰り返す。すべての加工が終了したら作業を終了する(S15;YES)
(第3の実施形態の効果)上記実施形態のマシニングセンタ1及び回転工具9によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0155】
(14) 回転工具9の着脱が極めて迅速かつ容易となる。そのため、ATCにも好適に適用できる。
(15) 回転工具9の装着時に、回転工具9は、空気静圧軸受ユニット61には、直接接触することがなく、回転工具9も、空気静圧軸受ユニット61も傷つけることは皆無である。
【0156】
(16) 吸引により装着するため、装着は瞬時に行うことができる。
(17) 装着に伴い、加熱の必要もなく、潤滑油や冷却水などの排出もなく、環境に対する影響もない。
【0157】
(18) 装着に当たっては熟練はもちろん、自動で行うことも容易で手作業自体も不要である。
(19) テーパ形状により、自律的に正確な位置に装着ができる。
【0158】
(20) また、装着しても回転工具9は微動可能なため、空気静圧軸受により、回転時に姿勢が自己矯正され、装着自体の精度は問われない。
(21) テーパ形状を利用しているため、くさび効果があり、固定力が増幅され小さな負圧でも大きな摩擦力を生じて、確実に回転工具9の保持ができ、スリップなども生じない。
【0159】
(22) テーパ比を変えることで、保持力を調整することができる。
(23) また、テーパ比を変えることで、回転工具9の負圧を解除した場合の保持力を調整でき、容易に分離できるテーパ比を選択することで、完全に自動的な回転工具9の分離ができる。
【0160】
(24) 超高速で回転させても、空気静圧軸受により強力かつ正確に工具の振れが抑制できる。
(25) 装着が真空吸着のため、負圧の調整や、支持面積などにより、回転工具の姿勢の微調整が可能となり、回転しつつ回転支持構造により位置を矯正することで、極めて振れの精度を高くすることができる。
【0161】
(26) 回転支持構造が空気静圧軸受によるため、以下のような効果がある。従来、空気静圧軸受は、ビルトインモータを備えたスピンドルの軸受等、軸を交換しないという前提で用いられており、軸を交換するという概念がなかった。本実施形態では、これを回転工具の支持に直接に用いる点で極めて革新的な技術思想である。
【0162】
(27) ボールベアリングなどの軸受では、軸受と軸の間隔が狭く、一般にはこのような間隙しかない軸と軸受であると、軸を軸受に挿入することは困難であるといえるが、空気静圧軸受を用い負圧を利用した装着方法によリ、極めて間隙が狭くても容易に軸受に軸を貫通することができるようになった。
【0163】
(28) さらに、以下のような空気静圧軸受の種々の利点を享受できる。まず、無接触であるため、回転支持部は長寿命とすることができる。
(29) また、粘性の極めて低い流体である空気により低摩擦であるため、発熱が小さいという効果がある。また、発熱しても排気され、また回転工具9を温度上昇させにくい。さらに、無負荷動力が小さく省エネ、極めて高回転でも振動・騒音も小さい。潤滑油や摩耗粉がなく清浄である。
【0164】
(30) 特に本実施形態では、空気静圧軸受ユニット61を回転工具9の位置規制手段として用いているが、回転工具9の軸部の誤差を空気層による部品精度平均化により、極めて高精度な位置を維持できる。
【0165】
(31) また、空気層を有するため、回転工具9の軸部92の径が異なってもその誤差を吸収することができる。
(32) また、空気静圧軸受は、比較的大きな軸受荷重を支持できるため、横位置から荷重をうけるボールエンドミルなどに適用できるという効果もある。
【0166】
(別例)なお、本実施形態は、以下のように構成してもよい。
○ 空気静圧軸受の多孔質材料としては、本実施形態のステンレスビーズ(SUS304)を焼結したもの以外に、カーボン、セラミックス、樹脂または金属等の多孔質体その他の金属により構成したものにより構成することもできる。
○ 空気静圧軸受の絞りの方法は、本実施形態で説明した「多孔質絞り」の他、「自成絞り」、「オリフィス絞り」、「表面絞り」、「スロット絞り」、「毛細管絞り」などが知られており、それぞれ目的により使い分けることができる。
【0167】
(第4の実施形態)
本発明の第4の実施形態を説明する。第4の実施形態は、第3の実施形態において、主軸33への装着方法が、負圧による吸着でなく、磁気等による装着である点に特徴がある。第1〜3の実施形態と共通する構成は説明を省略して、異なる構成について説明する。
【0168】
回転工具9は、第3の実施形態と同様、先端部に刃部91を備える。また、中間部には円柱状の軸部92(被回転支持部)を備える。そして、基端部は、第3の実施形態のようなテーパ状の被当接部93とその端面に形成された基端面94を備える。
【0169】
マシニングセンタ1は、第3の実施形態と装着部を除けば、同様の構成である。
また、回転工具9は、軸部92が被回転支持部として空気静圧軸受ユニット61を備えた案内部6により回転可能に無接触で支持される。
【0170】
装着部であるツールホルダ5は、回転工具9の基端部の被当接部93、基端面94を被装着部として装着する。以下、装着部について実施態様に分けて説明する。
○ (実施態様1)本実施形態では、回転工具9は、第3の実施形態の回転工具9と共通するが、回転工具9の被当接部93をツールホルダ5の当接部53に磁力で固定される。磁石は、例えばネオジム磁石のような強力な永久磁石などをツールホルダ5の当接部53に配置して、装着時には、被当接部93が当接部53に当接させて磁力で固定して装着する。また、離脱させるには、図2に示すようにノックピン可動機構44によりノックピン43で回転工具9の基端面94を押し出して離脱させる。
【0171】
また、外部から回転工具9を引き抜く場合は、主軸33には、流路34は必要がない。そのため、主軸33を中実な軸としてもよい。また、流路34を加工用のエア、切削油などの流路として用いてもよい。
【0172】
○ (実施態様2)図14は、第4の実施形態の本実施態様のツールホルダ5を示す図である。図14に示すように、ツールホルダ5の内部に、回転工具9の基端部の周囲にコイル56を配して、ツールホルダ5を磁心として構成する。そして、このコイルに電圧を印加した場合に、被当接部93を当接部53に当接させて磁力で固定して装着する。また、離脱させるには、コイルへの電圧の印加を停止する。
【0173】
○ (実施態様3)さらに、周知のコレットチャックのような構成でもよい。ただし、この場合は回転工具9が空気静圧軸受ユニット61と干渉しないように、かつ、空気静圧軸受による矯正作用が働くように、回転工具9が外力により微動できるように構成する。たとえば、チャックの爪を弾性を持たせたようなものが挙げられる。小型が達成できればフローティングチャックのような構成が望ましい。
【0174】
この場合でも、従来の構成と比較すると、空気静圧軸受の強力な位置矯正効果があり、回転工具9の振れを抑制できる。
(第4の実施形態の効果)
(33)本実施形態では、空気静圧軸受ユニット61を備えた案内部6により、回転する回転工具9を回転可能に支持しているため、回転工具9の基部における装着は、大きな負荷がかからない。さらに、空気静圧軸受による矯正効果から、回転工具9の装着の精度は要求されない。
【0175】
よって、真空発生器42などの設備も不要で簡易な装置で、回転工具9の工作機械への着脱が極めて迅速かつ容易となる。
また、超高速で回転させても回転工具9の振れが抑制できる。
【0176】
(第5の実施形態)
図14を参照して、本発明の第5の実施形態を説明する。第5の実施形態は、第3の実施形態において、案内部6が空気静圧軸受ユニット61を備え、負圧により吸着された回転工具9を、空気静圧軸受で回転可能に支持しているのと異なり、第5の実施形態では、空気静圧軸受に替えて、他の軸受方法により、回転工具9を回転可能に支持する。以下、案内部6の異なる構成を実施態様に分けて説明する。
【0177】
○ (実施態様4)案内部6は、精密磁気浮上軸受を備え、回転工具9を非接触で回転可能に支持している。図15は、磁気軸受を模式的に示す図である。案内部6は、磁気軸受ユニット71を備える。磁気軸受ユニット71には、回転工具9を囲むように設けられたリング状の永久磁石72と、その磁界の中にさらに磁界を形成するためのコイル73,74を備える。精密磁気浮上軸受は、反発型磁気軸受(受動型磁気軸受)であれば、磁気による反発力のみを用いて、軸を安定極にとどまらせることができる。
【0178】
○ (実施態様5)案内部6は、能動型磁気軸受としてもよい。能動型磁気軸受( active magnetic bearing, AMB )では、磁気による吸引力を発生させ、回転工具9を非接触で安定極にとどまらせる。なお、実施例4、実施例5ともに、コイル、永久磁石のいずれを用いてもよく、またこれらを組み合わせてもよい。
【0179】
なお、磁気軸受は特にコイルを用いるものは精緻な制御が可能であるが、装置が複雑で高価なものとなる。また、空気静圧軸受に比較すると動的な軸受剛性、軸受負荷能力は劣る。
【0180】
○ (実施態様6)さらに、案内部6は、空気動圧軸受( dynamic pressure gas-lubricated bearing )でもよい。空気動圧軸受では、図16に示すように、回転工具9の軸部92にくさび状のパターン96を刻んでおく。このパターン96により回転工具9が回転すると、空気が粘性によって軸部92のパターン96の部分に引き込まれて、案内部6の挿入部63の内壁との間に圧力が発生する。この圧力によって回転工具9の負荷を支える。なお、くさび状のパターン96は、案内部6の挿入部63の内壁の方に設けてもよい。
【0181】
空気動圧軸受では、第3の実施形態のような圧縮空気は供給する必要がなく、構造が簡単となる。また、空気動圧軸受は、空気静圧軸受よりも軸受剛性、軸受負荷能力が高いというメリットがあるが、停止時には全く機能しなくなる。
【0182】
○ なお、上記の気体は空気に限らず窒素やヘリウムなどでもよい。
○ (実施態様7)そこで、磁気軸受と空気動圧軸受を組み合わせたものでもよい。停止時には、永久磁石を用いて浮上させ、回転時には空気動圧軸受として大きな軸受剛性を得ることができる。また、電気の供給や圧縮空気の供給も必要としない。
【0183】
○ (実施態様8)さらに、流体は気体に限らず潤滑油、水等の液体でもよい。
例えば、液体を用いた動圧流体軸受(FDB; Fluid Dynamic Bearing)などでもよい。FDBとは,シャフトとスリーブの隙間に流体を満たし,シャフトが回転することにより流体に発生する圧力を利用してシャフトが浮上する構造の軸受であり,非接触構造である点から回転精度や音,耐久性の点で優れている。
【0184】
○ (別例)上記各実施形態は、以下のようにしても実施できる。基端部は、テーパ状ではなく、図17(a)に示すように半球状の被吸着部若しくは被当接部を備えたものであってもよい。本発明の吸着部と被吸着部は、スピンドルの主軸と同期して回転可能で、抜け落ちない程度の締結力があればよい。その一方で、回転支持部により姿勢が支持されるため、姿勢が傾動しやすい形状も好ましい。この場合、吸着部は半球状の当接部を備え、回転工具9はあらゆる方向にストレスなく傾動が可能となる。
【0185】
また、この形状は、第4の実施形態の実施例1、実施例2のような磁気により装着するものにも適用できる。
○ 同様に、半球状でなく、図17(b)に示すように、基端部を球面の一部としたものであれば、半球状のものと同様に傾動が容易になる。
【0186】
○ なお、回転工具9は、ボールエンドミルを例に挙げたが、刃部91は、軸状の切削工具に限らず、例えば、図17(c)に示すような、円盤状の砥石による研削工具でもよい。
【0187】
○ 締結構造は、主軸端に取り付けたツールホルダに対してさらにツールアダプタを介して回転工具を取り付けるものでもよい。なお、このツールアダプタは、図17(d)に示すように、本発明の回転工具の被吸着部および被回転支持部を備え、刃部に替えていろいろな規格の工具保持部を備えたものでもよい。このように構成することでATCなどでも本発明を実施できることから、マシニングセンタとして工具の選択の余地が広がり加工内容が多彩となる。
【0188】
(共通の別例)
○ ツールホルダ5は、円筒形のものを例に挙げたが、テーパ状のBTシャンク、NTシャンクなどのような構成としてもよい。各発明に応じて種々の形状・形式に変更が可能である。
【0189】
○ 本実施形態では、スピンドル主軸33に、吸着部を構成する当接部53を形成したツールホルダ5を介して、回転工具9を装着しているが、もちろんスピンドル主軸33に吸着部を形成して直接装着するダイレクトチャッキングのようなものでもよい。
【0190】
○ なお、主軸であるスピンドルの駆動源は、DCブラシレスモーターからなる高周波誘導電動機に限らず各種電動機やエアタービンなどで構成してもよい。
○ 負圧発生手段は、実施形態のような真空発生器のほか、真空ポンプなどでも構成できる。また負圧を蓄積するエアタンク等を備えても良い。
【0191】
○ マシニングセンタ1は、立型のものを例としたが、もちろん横型のもので実施できる。
○ 本発明は、特許請求の範囲を逸脱しない限り、上記実施形態に限定されることなく、当業者により構成要素を付加され、省略され、置換されて実施できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0192】
【図1】マシニングセンタの概略を示す斜視図。
【図2】スピンドルユニットを示す一部断面図。
【図3】スピンドル主軸と、ツールホルダと、ボールエンドミルからなる回転工具の基端部との関係を示す組立図。
【図4】本発明の回転工具の別例を示す図。
【図5】第1の実施形態の変更例を示す断面図。
【図6】第1の実施形態の別の変更例を示す断面図。
【図7】第2の実施形態のスピンドルユニットを示す図。
【図8】第3の実施形態のスピンドルユニットを示す図。
【図9】第3の実施形態の案内部を示す図。回転工具をスピンドル主軸に装着したツールホルダと空気静圧軸受を示す断面図。
【図10】第3の実施形態の空気供給手段の構成の一例を示すブロック図。
【図11】第3の実施形態のマシニングセンタの作用示すフローチャート。
【図12】第3の実施形態の装着前の回転工具と空気静圧軸受ユニットの位置関係を示す図。
【図13】第3の実施形態の装着時の回転工具と空気静圧軸受ユニットの位置関係を示す図。
【図14】第4の実施形態の一実施態様のツールアダプタを示す図。
【図15】第5の実施形態の磁気軸受を模式的に示す図。
【図16】第5の実施形態の空気動圧軸受を模式的に示す図。
【図17】本発明の回転工具の別例を示す図。
【図18】回転工具の振れと寿命の関係を示すグラフ。
【図19】従来の回転工具のクランプ方法を示す図。
【図20】従来の回転工具を示す図。
【符号の説明】
【0193】
1…マシニングセンタ、3…スピンドルユニット、4…真空カプラ、5…ツールホルダ、6…案内部、8…空気供給手段、9…回転工具、11…機台、13…ワーク主軸、12…ステージ、15…コラム、16…主軸頭、18,18…レール、19…工具マガジン、20…工具マガジン用駆動部、21…保護カバー、22…操作パネル、23…CNC制御部、32…(駆動源としての)モータ、33…スピンドル主軸、33a…主軸端、34…流路、35…下部開口、36…上部開口、37…蓋体、38,38…排気路、39,39…排気口、40…空間、41…吸引口、42…負圧発生手段としての真空発生器、43…ノックピン、52…吸着部としての通路、53(53b)…当接部、54…開口部、55…下部開口、61…空気静圧軸受ユニット、62…ハウジング、63…挿入部、64…軸受、65…軸受、66…排気空間、67…空気供給路、68…空気供給路、69…空気排出路、70…挿入口、80…オイルフリーコンプレッサ、82…タンク、83…ダストフィルタ、84…水分除去フィルタ、85…オイルミストフィルタ、86…空気温度調節器、87…逆止弁、88…ラインフィルタ、89…レギュレータ、90…逆止弁、91…刃部、92…軸部(被回転支持部)、93(93a)…被当接部、94…基端面(被吸着部)、95…段部、φe…(基端部の)直径,φs…(軸部の)直径、φD…(刃部の)直径、Lt…当接部の長さ、W…ワーク。
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転工具の装着方法、回転工具、工作機械、回転工具の装着装置に係り、例えば、主軸を毎分数万〜数十万回転で超高速回転させて微細な加工を精度高く行うフライス盤等に、超微細ボールエンドミル等を取り付けるのに特に適した装着方法、その装着方法に適した回転工具、その回転工具の装着装置、及びこれを備えた工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、メゾスコピックマシンが注目されている。これは、従来の機械加工の精密マシンと、ナノテクノロジーを用いたいわゆるナノテクマシンとの中間のメゾスコピック領域の加工に適したマシンである。メゾスコピックマシンの厳密な定義はないが、ここでは、特に数μm〜数百μm程度の対象を加工するのに適したマシンをいう。
【0003】
例えば、ディンプルと呼ばれる微小なくぼみを規則的に配置したディンプルテクスチャが、光学やトライボロジー等の広範囲の分野で用いられている。また、マイクロチャンネルを用いて、ナノリッター(nL)からフェムトリッター(fL)の微小流体をハンドリングするマイクロ流体工学もバイオ関係などで活用されている。これらの場合、数十μmの幅や深さのディンプルやマイクロチャンネルを形成するには、直接ワークを加工し、またはプレス若しくは成形のための型を正確に3次元的に造形する必要があった。
【0004】
このような場合、半導体製造工程で採用されているリソグラフィ−で加工する方法も考えられるが、きわめてコストが高いばかりか、幅方向の精度は高くても深さ方向の精度は保証できないため、正確な3次元的造形が難しい。また、放電加工などもコストは低いがやはり正確な3次元的造形ができない。
【0005】
この点、切削、研削による機械的加工によれば、理論的には正確な3次元的造形が可能であり、比較的コストも低く、多品種少量生産にも適している。
ここで、上記の様な精密な加工を行うために従来用いられてきた回転工具109を、図20を参照して説明する。従来の回転工具109は、先端に直径φDが数十〜数百μmのボールエンドミルの刃部191を備えている。この刃部191を支持する軸部には、この工具を把持するためのストレートシャンク192が形成されている。このストレートシャンク192は、回転工具109を工作機械の主軸にクランプする部位で、テーパのない正確な円柱状の面が形成されている。このストレートシャンク192が、大型のツールホルダ(不図示)により直接的に(若しくはコレットなどを介して間接的に)把持される。さらに、このツールホルダには主軸に取り付けるためのテーパシャンクが形成されており、このテーパシャンクが主軸端のテーパ孔に引き込み機構で装着される。また、従来の回転工具109の基端部の周縁には、コレットなどに装着する場合に、回転工具109の基端部周縁と、コレットの挿入口周縁との干渉を防ぎ、傷付きを防止したり装着を容易にしたりするため、その軸線から45度傾いた面取り部194が形成されることがある。これは、単に干渉を防ぐ為の面取りを目的に形成されたC面であって、角部を丸めたR面と代替することもできる加工である。
【0006】
メゾスコピックマシンとして超精密加工をするには、このようなストレートシャンクを把持されたボールエンドミルのような回転工具を用い、必要な周速を得るため毎分数万から数十万回転で超高速回転させるのが一般的であるが、この場合、まず回転工具自体が高い精度を有することが不可欠であることはもちろんである。
【0007】
また、このような回転工具を回転させる工作機械のスピンドルは、高周波モータが内蔵され、4万〜30万回転の高速でも振れが小さく回転できるように主軸の質量バランスが機械の運転状態での温度において精密に取られていなければならない。
【0008】
加えて、工具や工作機械自体が精度高く調整されているばかりか、正確に回転工具を工作機械に装着して、超高速に回転する回転工具の振れを抑制することも不可欠である。ところで、本発明の発明者は、図18に示すように回転工具の振れの大きさの差で大きく工具の寿命が変わることを実証しており、この観点からも振れを抑制することは重要である。ここでは、ボールエンドミルの切り込み量0.1mm、ピック量0.3mm、工具送り量0.1mm/刃、主軸回転数9550回転/分、切削速度212m/分、傾斜角45°で比較し、○で示したグラフは工具振れδ=41.3μm、□で示したグラフは工具振れδ=9.8μmである。これらを比較すると、切削距離、つまり工具の寿命が大きく異なり、この観点からも振れの抑制が重要であることが分かる。
【0009】
一般的にマシニングセンタに採用されているATC(自動工具交換装置)のクランプ装置では、メゾスコピックマシンに比べはるかに大型の工具を対象としており、その負荷も大きく、回転数もすくない。そして工具のストレートシャンク部を把持固定する着脱手段を有したツールホルダが回転工具を直接保持(若しくはコレットなどを介して間接的に保持)し、そのツールホルダはテーパシャンクにより主軸端のテーパ孔に引き込み機構などにより装着される。そして、この大きなツールホルダごと工具を自動交換している。もし、このような質量の大きな自動交換可能なクランプ装置を用いて上述のような毎分数万から数十万回転で超高速回転させるボールエンドミルを保持すれば、回転バランスの悪さから工具の振れなどが生じやすく、μmオーダーの振れに抑制するのは到底困難である。
【0010】
そこで、特許文献1に記載の焼ばめ方式の工具のクランプ装置や、特許文献2に記載したこの焼ばめ方式のクランプ方法を熱の影響を抑制する工具クランプ装置が開示されている。
【0011】
図19に示すように、特許文献1に記載の工具クランプ装置は、いわゆる焼ばめ方式といわれ、主軸133下端に取付けられたホルダ105及びホルダ105を把持して冷却するホルダ把持装置120A、工具109を把持するとともに冷却する工具把持装置120B並びに高周波誘導加熱装置108で構成される工具着脱装置部120によりなっている。そして、高周波誘導加熱装置108でホルダ105のみを加熱して熱膨張させて、その間に工具109をホルダ105に挿入する。その後ホルダ105及び工具109を冷却することでホルダ105が熱収縮して工具109を強固にクランプする。
【0012】
この焼ばめ方式であれば、熱膨張、熱収縮を利用するため、従来のコレットなどと比較すれば工具のクランプ構造がシンプルでかつコンパクトにでき、ワークとの干渉も回避できる。さらに、工具のクランプも強固にできる。
【特許文献1】特開2004−237408号公報
【特許文献2】特開2007−75924号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1,2のような発明では、複雑な焼ばめの装置が必要となり、交換時間も加熱時間に加え、冷却時間が必要なため比較的長時間必要となる。
また、工具109やホルダ105の組織の不均質や、加熱冷却のムラなどの個体差から振れが生じたとしてもこれを調整するのが困難である。
【0014】
さらに焼ばめ方式では、特許文献2に記載されたような熱対策がとられた構成としたところで、基本的にクランプ装置を加熱することから工具も加熱され工具の組織が軟化するなどの影響が不可避である。
【0015】
一方、上述のようなメゾスコピックマシンであれば、回転工具の径が、3mm〜6mm程度のものが使用され、振れを抑制しつつ超高速回転させるものの、大型の回転工具のような大きな加工負荷は要求されない。そのため、クランプ装置は必要以上に大きな締め付け力は必要がない。
【0016】
本発明の課題は、回転工具の工作機械への着脱が極めて迅速かつ容易となる回転工具の装着方法、その装着方法に適した回転工具・装着装置、及び、これを備えた工作機械を提供することにある。
【0017】
併せて、超高速で回転させても工具の振れが抑制できる回転工具の装着方法、その装着方法に適した回転工具・装着装置、及びこれを備えた工作機械を提供することにある。
加えて、確実に回転工具の保持ができる回転工具の装着方法、その装着方法に適した回転工具・装着装置、及びこれを備えた工作機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の回転工具の装着方法では、先端部に刃部と、基端部に真空吸着可能な被吸着部と、基端方向に当接可能な面を有する被当接部と、中間部に円柱状の被回転支持部として構成され軸部とを備えた回転工具、及び、駆動源により回転駆動される主軸と、前記被当接部の外形形状に対応した形状に形成され前記当該被当接部と当接可能な当接部と、前記主軸と同軸に主軸端に前記回転工具を被吸着部で吸着固定する吸着部と、前記吸着部に負圧を付与する負圧発生手段と、前記被回転支持部を案内しつつ回転可能に支持する回転支持部とを有する工作機械を備え、前記吸着部が前記基端部に設けられた被吸着部を負圧により吸着するとともに、前記被当接部を当接部に当接させることで、前記回転工具を回転可能に支持し、かつ、前記回転支持部が前記被回転支持部を回転可能に支持することを要旨とする。
【0019】
本発明では、負圧により回転工具を装着するため、きわめて容易に工作機械に装着でき、かつ、回転支持部で回転工具を回転可能に支持するため、横方向の耐荷重も大きくなるとともに、回転工具の振れを抑制することができる。
【0020】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の回転工具の装着方法において、前記吸着部に吸着された回転工具の被吸着部は、前記回転支持部の案内により装着姿勢が矯正可能に装着されることを要旨とする。
【0021】
本発明によれば、回転支持部により回転工具の振れが矯正できるため、より回転工具の振れが抑制でき工作精度上げることができる。
請求項3に記載の発明では、請求項1に記載の回転工具の装着方法において、前記負圧発生手段は、前記回転工具の質量を支持する負圧を前記被吸着部に与えることを要旨とする。
【0022】
本発明によれば、回転工具の質量を支持できる負圧を付与するため、他の固定方法の補助なしで回転工具を工作機械に装着できる。
請求項4に記載の発明では、請求項1又は請求項2に記載の回転工具の装着方法において、前記負圧発生手段は、前記被吸着部に対する負圧を与える面積が、前記軸部断面積の2分の1以上であることを要旨とする。
【0023】
本発明によれば、負圧を受ける面積を大きくすることで回転工具が安定して装着される。
請求項5に記載の発明では、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の回転工具の装着方法において、前記回転工具の前記当接部は、被回転支持部から基端部にかけて同心状に直径が小さくなる円錐若しくは円錐台形状のテーパ形状を備えた形状に形成されたことを要旨とする。
【0024】
本発明では、円錐若しくは円錐台形状のテーパ形状の被当接部により、回転工具が安定して装着できる。
請求項6に記載の発明では、請求項5に記載の回転工具の装着方法において、前記テーパ形状は、被回転支持部の直径から基端部の直径の減少幅と、被吸着部の軸方向の長さとの比が1:20から2:1の範囲にあることを要旨とする。
【0025】
本発明では、テーパ比を1:20〜2:1とすることで、楔効果で、小さな負圧でも安定した装着ができる。さらに、このバランスのテーパ比であると、小さな負圧でも安定した装着ができるとともに回転工具の分離に困難さが生じない。また、小さな負圧であれば、負圧の発生装置も比較的コンパクトにすることができる。
【0026】
請求項7に記載の発明では、請求項5に記載の回転工具の装着方法において、前記テーパ形状は、被回転支持部の直径から基端部の直径の減少幅と、被吸着部の軸方向の長さとの比が1:5から2:1の範囲にあることを要旨とする。
【0027】
本発明では、特に分離が容易であるとともに、空気静圧軸受に比較して耐荷重が小さく比較的矯正力が弱い磁気軸受や空気動圧軸受でも回転工具の位置の矯正が可能となる。
請求項8に記載の発明では、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の回転工具の装着方法において、前記回転支持部は、前記回転工具に対して非接触に構成されたことを要旨とする。
【0028】
本発明では、回転工具の回転を妨げることなく、かつ発熱も小さくすることができる。
請求項9に記載の発明では、請求項8に記載の回転工具の装着方法において、前記回転支持部は、流体により回転工具を支持する軸受により構成されたことを要旨とする。
【0029】
本発明では、流体により回転工具を支持するため、固体に接触する軸受に比較して、回転工具の回転を妨げることなく、かつ発熱も小さくすることができる。
請求項10に記載の発明では、請求項9に記載の回転工具の装着方法において、前記回転支持部の前記流体が気体であることを要旨とする。
【0030】
本発明では、気体により回転工具を支持するため、流体でもとくに回転工具の回転を妨げることなく、かつ発熱も小さくすることができる。
請求項11に記載の発明では、請求項10に記載の回転工具の装着方法において、前記回転支持部の前記気体が空気であることを要旨とする。
【0031】
本発明では、空気により回転工具を支持するため、気体の中でも安価で、かつ取り扱いも容易で、回転工具の回転を妨げることなく、かつ発熱も小さくすることができる。
請求項12に記載の発明では、請求項11に記載の回転工具の装着方法において、前記回転支持部は、空気静圧軸受として構成されたことを要旨とする。
【0032】
本発明では、空気静圧軸受により回転可能に支持されるため、装着部での負荷が小さくなり、その構造も簡易にできる。さらに、空気静圧軸受を用いるため軸受の剛性が高く、正確に振れを抑制できるとともに、矯正力が強いため、振れを効果的に抑制できる。
【0033】
請求項13に記載の発明では、請求項1乃至請求項12のいずれか1項に記載の回転工具の装着方法において、前記負圧発生手段は、前記主軸内の軸心に設けられた流路を介して空気が排気されることにより負圧を発生させることを要旨とする。
【0034】
本発明によれば、簡易な設備で、かつ小さな装置で負圧を発生させることで、メゾスコピックマシンにふさわしいコンパクトな負圧発生手段とすることができる。
請求項14に記載の発明では、請求項13に記載の回転工具の装着方法において、前記主軸内に設けられた流路は、真空カプラを介して負圧発生装置に接続されていることを要旨とする。
【0035】
この発明では、真空カプラを備えることで、負圧発生手段外部に設けることができ、負圧発生手段は主軸とともに回転することがなく真空カプラを介して負圧を吸着部に与えることができるので、回転部分の質量を小さくできる。
【0036】
請求項15に記載の発明では、請求項1乃至請求項14のいずれか1項に記載の回転工具の装着方法において、前記工作機械の被吸着部は、前記主軸端に配置されたツールホルダに当接部が形成され、前記回転工具は前記ツールホルダを介して前記主軸端に装着されることを要旨とする。
【0037】
本発明では、主軸端にツールホルダを装着しているので、ツールホルダを異なるタイプに交換することで、多様な工具を主軸に装着することができる。
請求項16に記載の発明では、請求項1乃至請求項15のいずれか1項に記載の回転工具の装着方法に用いる回転工具を要旨とする。
【0038】
請求項17に記載の発明では、請求項1乃至請求項15のいずれか1項に記載の回転工具の装着方法に用いる工作機械を要旨とする。
請求項18に記載の発明では、請求項1乃至請求項15のいずれか1項に記載の回転工具の装着方法に用いる工作機械の回転工具の装着装置を要旨とする。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、回転工具の工作機械への着脱が極めて迅速かつ容易となる。また、超高速で回転させても工具の振れが抑制できる。さらに、確実に回転工具の保持ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
(第1の実施形態)以下、本発明を具体化した工作機械である立型のマシニングセンタ1と、回転工具9であるボールエンドミルの一実施形態を図1〜図4にしたがって説明する。
【0041】
(マシニングセンタ1)
図1は、マシニングセンタ1の概略を示す斜視図である。紙面左手前がマシニングセンタ1の正面であり、正面から見て右方向がX軸方向、上方向がY軸方向、背面方向(紙面右奥方向)をZ軸方向とする。
【0042】
(CNC制御部23・操作パネル22)
マシニングセンタ1は、床に水平に載置された機台11が設けられるとともに、この機台11の正面側左方には、タッチパネルからなる操作パネル22が設けられ、内部に収容されたCNC(Computer Numerical Control)制御部23のコンピュータを操作する。
【0043】
(ワーク主軸13)
機台11上の正面中央側には水平なステージ12が設けられるとともに、このステージ12上にはワーク主軸13が載置されている。そして、このワーク主軸13に図示を省略したチャック機構でワークWが保持される。
【0044】
ステージ12は、図示しないサーボ機構でX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の直線移動、及びX軸回り、Z軸回りに回転移動などするように周知の方法でCNC制御されている。また、ワーク主軸13にはチャック機構で保持されたワークWが回転可能になっているおり、ワーク主軸13に内蔵された図示しないモータがCNC制御されワークWを回転駆動する。
【0045】
(主軸頭16)
機台11の背面側には、コラム15が立設されるとともに、このコラム15の正面側に主軸頭16が配置されている。この主軸頭16は、スピンドル主軸33を備えたスピンドルユニット3を支持し、図示しないサーボ機構でスピンドルユニット3をX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の直線移動、及びX軸回り、Z軸回りに回転移動するように周知の方法でCNC制御されている。
【0046】
したがって、本実施形態のマシニングセンタ1は、ワーク主軸13及び回転工具のスピンドル主軸33が多軸について変位可能で自由度が高く、多機能フライスとしての機能も併せ持つマシニングセンタであり、複雑な形状の精密金型などの製作ができるものである。
【0047】
これらは、2点鎖線で示す保護カバー21が覆っている。
(ATC)
ステージ12のX軸方向(正面から見て右手)に隣接して、ATC(Automatic Tool Changer・自動工具交換装置)に用いる工具マガジン19を備える。このターレット式の工具マガジン19は、ターンテーブル状になっており、周縁部に交換用の回転工具が多数鉛直上方から挿入可能に構成されている。この工具マガジン19は、工具マガジン駆動部20により回転することができる。
【0048】
コラム15の正面側には上下に並列して2本、X軸方向に平行なレール18,18が設けられており、主軸頭16は、この一対のレール18,18に案内されて工具マガジン19とスピンドル主軸33が近接する位置まで移動され、工具マガジン駆動部20を回転させることで、迅速に任意の回転工具9に交換することができる。工具交換の詳細は後述する。
【0049】
図2は、スピンドルユニット3を示す一部断面図である。図3は、スピンドル主軸33と、ツールホルダ5と、ボールエンドミルからなる回転工具9の基端部との関係を示す組立図である。
【0050】
(スピンドルユニット3)
図2に示すように、スピンドルユニット3のケーシング31内にDCブラシレスモーターからなる高周波誘導電動機であるモータ32が収容され、このモータ32がスピンドル主軸33を回転させる。スピンドルユニット3自体は、スピンドル主軸33に切削液やエアを通す穴があるものであれば、周知の構成を改造して本発明のスピンドルユニット3を製作できる可能性があるが、スピンドルユニット3自体により振動・リップル・トルク変動等が生じると、本発明の効果が損なわれるので、精度及び剛性の高いものが望ましい。
【0051】
(スピンドル主軸33)
このスピンドル主軸33は、図示しない複数の玉軸受けによりラジアル方向・スラスト方向から支持されている。
【0052】
このスピンドル主軸33は、例えば、高周波で駆動され、60,000〜120,000rpm程度の超高速回転が可能となっており、スピンドル主軸33自体の振れは、少なくとも20,000〜60,000rpmの範囲では、1μm未満の極めて小さい振れとなっている。
【0053】
スピンドル主軸33は、全体としては概ね円筒状の形状で、その軸心に沿って内径5mmの円形断面のエアの流路34が内部に形成されており、スピンドル主軸33の主軸端33aには下方に向けて下部開口35を備える。
【0054】
(真空カプラ4)
また、図2に示すようにスピンドル主軸33の上端は、非接触の真空カプラ4が形成されている。図3に示すようにスピンドル主軸33の上端には流路34の上部開口36が形成されているが蓋体37により密閉されている。また、上端のやや下方には鉛直方向の流路34からスピンドル主軸33を中心に対向する半径方向に一対の排気路38,38が穿設されており、スピンドル主軸33の外周面に排気口39,39がそれぞれ開口されている。
【0055】
図2、3に示すように、真空カプラ4は、全体が概ね円柱状に形成され、この排気口39,39をスピンドル主軸33を中心に回転させたときの軌跡に対して、これを外側から取り巻くドーナツ型の空間40が形成されており、この空間40と外部に連通する吸引口41が形成されている。スピンドル主軸33は高速で回転するため、この排気路38,38に存在する空気は矢印方向に強い遠心力を受け、空間40に強制的に排出される。つまり、この真空カプラ4自体も、遠心ポンプとしてスピンドル主軸33内の流路34に負圧を与えることに寄与している。
【0056】
(工具取り外し機構)
本実施形態では、ツールホルダ5の通路52に臨んだ回転工具9の基端面94を負圧のみで吸着するものであるため、負圧を解除すれば、通常、回転工具の自重によりツールホルダ5から分離する。ところが、本発明の回転工具9の被当接部93とツールホルダ5の当接部53とが、テーパの程度や表面の粗度の程度などによる表面同士の摩擦、特にくさび効果による食いつき、鏡面同士の密着などにより当接したまま、回転工具9が自然落下しないことがある。そこで、本実施形態では、図示を省略した空気供給手段からスピンドルユニット3の流路34、ツールホルダ5の通路52に加圧した空気を供給することで負圧状態から加圧状態にして回転工具9の離脱を促す。この加圧状態は脈動させる方がより効果的に回転工具を分離できるので好ましい。
【0057】
さらに、工具マガジン19側で、回転工具の先端部を把持したり、工具に掛合部を設けて掛止し機械的に強制的に引き抜くようにすることもできる。
さらに本実施形態では、図2、図3に示すように、流路34内にノックピン43を設け、回転工具9の基端面94を押圧して被当接部93を当接部53から押し出すようにしている。ノックピン43は、流路34内のスピンドル主軸33の回転中心に沿って設けられ、蓋体37の中央部に穿設された孔から、僅かな隙間を隔てて非接触で上方に突出する。ここにはノックピン可動機構44が配置され、回転工具9を取り外すときには、ノックピン43を下方に変位させて回転工具9の基端面94に当接・押圧して、回転工具9を取り外す。
【0058】
このため、このノックピン43による工具取り外し機構により、自動的に確実に回転工具を解除でき、ATCにより自動交換を確実に達成できる。その一方、ノックピン43は、回転工具9、スピンドル主軸33、蓋体37のいずれにも非接触で、これらの円滑な回転を妨げることもない。そして、蓋体37とは僅かな隙間を維持して負圧や加圧を損なわないように構成されている。
【0059】
(真空発生器42)
図2に示す、吸引口41には、負圧発生装置である真空発生器(Vacuum generator)42が接続されている。この真空発生器42は、ノズルにより高速で噴出される圧縮空気により生じる流体の負圧を利用したものであり、工場内で供給される圧縮空気さえあれば極めて小さなスペースで負圧を発生することができる。例えば、商品名で「コンバム」(株式会社妙徳の登録商標)などが好適に使用できる。本実施形態では、供給空気圧力0.5MPaで、−90kPa程度の真空度に到達し、φ=6mmの回転工具9が良好に装着でき、加工中の保持に脱落、スリップなどの問題も生じなかった。
【0060】
(ツールホルダ5)
図3に示すように、本実施形態では、当接部53を形成するために、ツールホルダ5を用いており、回転工具9の主軸33への装着は、ツールホルダ5を介して行っている。スピンドル主軸33の主軸端33aには概ね円筒状のツールホルダ5がスピンドル主軸33と同軸に固定されており、スピンドル主軸33と一体に回転するようになっている。
【0061】
本実施形態では、一般のATCなどに用いられるような大型のものではなく、質量が小さく、回転バランスのよい専用のものを用いている。
なお、従来のツールホルダ5は、一般に、例えば、HSKシャンクやKMシャンクのような大型のものが挙げられるが、これは、本実施形態と比較して比較的おおきな回転工具9を用い、かつ、回転工具9が装着されたツールホルダごとATCで交換しており、ツールホルダにワンタッチの交換機能が必要であった。そのため、大型化は避けられなかった。
【0062】
一方、本実施形態では、回転工具9の交換は、回転工具9自体で行われるため、ツールホルダ自体はワンタッチで交換する機能は必要がない。そのため、ツールホルダ5を従来のツールホルダと比較して、著しく小さく、質量が少なく、回転バランスの良好なものとすることができた。
【0063】
ツールホルダ5は、円柱状の本体51を備え、その上部が、ちょうどスピンドル主軸33の下端に設けられた嵌合凹部30に嵌合され、図示しないねじによりねじ止め固定される。
【0064】
このツールホルダ5は、円柱状の本体51の上部には、軸方向に断面が円形の通路52が貫通され、下部には、下方に直径が大きくなるテーパ状の空間が当接部53として形成されている。そしてスピンドル主軸33の主軸端33aの下部開口35と連通するようにこれと同径に、上部の開口部54が形成されている。
【0065】
この当接部53は、被当接部93と当接するように回転工具9の被当接部93のテーパ形状と密着するように、被当接部93の外形形状に対応した形状に形成され、そのテーパ角度と真円度が正確に形成されるとともに、その表面が研磨される。
【0066】
(回転工具9)
図4(a)〜(c)は、回転工具9の例を示す図である。本発明の回転工具9としては、ボールエンドミル以外にスクエァ、ラジアス等のエンドミル、平フライスのほか、ドリル、タップ、リーマーなどのソリッド工具、及び、インサート等を着脱自在に装着して用いる刃先交換式のエンドミル、正面フライスなど、マシニングセンタ1で一般に用いられる回転工具として用いるものに広く適用できる。本実施形態では、このような中で、主軸を毎分数万〜数十万回転で超高速回転させて精密金型などの微細な加工を精度高く行う万能フライス盤等に、超微細ボールエンドミルを装着する際に特に適したメゾスコピックマシン用の超微細ボールエンドミルを例に説明する。
【0067】
回転工具9は、全体が概ね円柱状に形成され、先端部に設けられた刃部91と、基端部に設けられた真空吸着可能な被吸着部として構成された基端面94と、基端方向に当接可能にテーパ状に形成された面を有する被当接部93と、中間部に設けられた円柱形の軸部とを備える。
【0068】
(刃部91)
上述のとおり、本発明の回転工具9の刃部91は、切削用の切れ刃に限らず、研磨用の砥石を含むものである。
【0069】
図4(a)に示す回転工具9は、本実施形態のメゾスコピックマシン用の超微細ボールエンドミルで、X軸方向やZ軸方向の側面での切削に加えY軸方向にも切り込むことができる。刃先はここでは2枚刃であるが、3枚刃以上でもよく、刃部91の先端は回転した軌跡が半球状となる。刃部91の直径φDは、図上では誇張して太く描かれているが、実際には極めて細く、毛髪よりも細い直径φD=30μmである。また、ノーズ半径はR=15μmである。
【0070】
工具全体の材質は、例えば、構造用鋼、高速度工具鋼(ハイス)若しくは超微粒子超硬合金から構成される。刃部91は、上記工具全体の材質と同一の高速度工具鋼や超硬合金で形成しても、刃部91の先端部の切れ刃部分のみを、例えば、PCD(多結晶焼結ダイヤモンド)若しくはcBN(Cubic Boron Nitride ・立方晶窒化ホウ素)から構成してもよい。
【0071】
なお、図4(a)、(b)のように、刃部91と軸部92との間に、テーパ部を設けるほか、図4(c)のように、テーパ部の中途に平行部95を設けてもよい。その工具の目的によりワークWとの干渉の防止や、あるいは工具全体の質量の削減、工具の強度、工具の取り外しの掛止部の形成などから種々の形状を取り得る。
【0072】
(軸部92)
図4の(a)〜(c)は、いずれも共通して、回転工具9の軸部92であるテーパのないストレートな形状の中間部の直径(従来の工具109(図20参照)ではいわゆるシャンク径であるが、本発明の軸部92は、従来の「シャンク」のように把持部として使用しないため、混乱を避けるため敢えて「シャンク」の語は使わない。)は、φs=6mmである。
【0073】
本実施形態の軸部92は、把持されることもなく、回転が支持されることもないため、その形状は回転バランスさえよければ、制限はない。また、図示しない引き抜き用の掛止部となる溝や突起、突条などを設けてもよい。
【0074】
(被当接部93)
軸部92から基端面94にかけて、テーパ形状の被当接部93が形成される。基端面94の直径は、φe=5mmに形成される。詳細は後述する。
【0075】
(基端面94)
本発明において基端部とは、回転工具9の刃部91のある端部とは反対の端部をいい、基端面94のみならず、被当接部93も含む。基端面94は、基端部を構成する部分である、スピンドル主軸33の回転軸と垂直な平面として形成されている。基端面94は、ツールホルダ5に装着されている時には、負圧が付与されたツールホルダ5の通路52に臨んでいる。このため、基端面94は、被吸着部として通路52の負圧により重力に抗する鉛直上方の方向の力を受ける。そのため、回転工具9はツールホルダ5に吸着固定される。
【0076】
なお、基端面94と被当接部93の境界である基端面94の周縁は、例えば、0.5mm程度のC面(面取り面)が軸線に対して、例えば45度の角度で形成されてもよい。また、C面に換えてR面(曲面)としてもよい。
【0077】
(被当接部93の形状)
次に、本発明のポイントである被当接部93のテーパ形状について詳細に説明する。図4(a)に示す回転工具9では、軸部92の直径φs=6mmで、基端面94の直径φe=5mmである。そして被当接部93の軸方向の長さLt=5mmとなっており、回転工具9の被当接部93は、軸部92から基端部にかけて同心状に直径が小さくなる円錐台形状のテーパ形状に形成されている。そして、この形状は、図3のツールホルダ5の当接部53の形状と嵌り合い、気密な状態で嵌合可能になっている。
【0078】
この被当接部93は、精度を高めたり、気密性を向上させたり、表面の保護のため種々の表面処理がなされる。たとえば、研磨して鏡面仕上げにして気密性を高めたり、逆に表面粗度を粗くして、当接部53とのスリップを減少させるようにしてもよい。
【0079】
図4(a)に示す回転工具9のテーパ形状は、軸部92の直径φsから基端面94の直径φeの減少幅と、被当接部93の軸方向の長さとの比が、(φs−φe):Lt=(6−5):5=1:5となっている。ここで、本願ではこの比、若しくはこの比の値を「テーパ比」ということにする。この場合は、テーパ比1/5となる。
【0080】
本発明者の実験では、図4(a)に示す回転工具9では、当接部53による回転工具9の被当接部93の保持は安定しており、負圧を解除した時には、加圧するまでもなく回転工具9は分離された。
【0081】
次に、図4(b)に示す回転工具は、軸部92の直径φs=6mmから基端面94の直径φe=5mmの減少幅と、被当接部93の軸方向の長さLt=10mmとの比が、(φs−φe):Lt=(6−5):10=1:10となっている。この場合は、テーパ比1/10となる。この場合は、当接部53による回転工具9の被当接部93の保持は安定しており、負圧を解除した時には、装着時の挿入速度にもよるが、負圧を解除しても自然には抜けないものもあったため、手で分離を補助する必要があるものもあった。
【0082】
次に、図4(c)に示す回転工具は、軸部92の直径φs=6mmから基端面94の直径φe=5mmの減少幅と、被当接部93の軸方向の長さLt=2mmとの比が、(φs−φe):Lt=(6−5):2=1:2となっている。この場合は、テーパ比1/2となる。この場合でも、当接部53による回転工具9の被当接部93の保持は安定しており、負圧を解除した時には、回転工具9は自重で分離した。
【0083】
同様に、テーパ比1/20.047の回転工具9(図示しない)では、当接部53による回転工具9の被当接部93の保持は安定しており、負圧を解除した時には、装着時の挿入速度にもよるが、負圧を解除しても自然には抜けずに手で分離を補助する必要があるものが多かった。このため、十分に実用可能であるが、ATCで使用するためには、何らかの分離手段を必要とする。
【0084】
さらに、テーパ比1/50の回転工具9(図示しない)では、当接部53による回転工具9の被当接部93の保持は極めて安定しており、負圧を解除した時には、装着時の挿入速度にもよるが、負圧を解除しても自然には抜けずに手で分離を補助する必要があるものが多かった。このテーパ比1/50であれば、何らかの分離手段を必要とするものの、十分に実用可能である。
【0085】
小さな負圧で、回転工具を保持するという観点からは、テーパ比1/10以下が望ましい。なお、テーパ比1/2でも十分保持できるし、十分な負圧があればテーパ比2/1でも十分に実施できる。
【0086】
また、分離が容易という観点からは、テーパ比1/20以上が望ましい。さらに、テーパ比1/5以上であれば、ATC等にも利用でき、テーパ比1/2であれば、ATCに最適である。
【0087】
また、分離が容易という観点からは、1/50以上であることが望ましい。これよりテーパ比が小さいと、加工作業中の安定性は高くても、回転工具9を当接部53へ装着するときの力により、引き抜くときの力がくさび効果で非常に大きくなり、作業に困難を起こす可能性が大きくなる。また、被当接部93の長さLtが長くなるとこれを支持する当接部53の長さが長くなり、これに伴いツールホルダ5の長さが長くなったり、質量が大きくなったりする点も考慮される。
【0088】
また、加工時の安定性という観点からは、テーパ比が1/2以下が望ましい。特に回転軸に直交する方向からの力がかかる平フライス、ボールエンドミルなどは、被当接部93の長さLtの長さが長い方が有利となる。
【0089】
また、回転工具9の軸の直径φsが10mm以下であれば、自重が比較的小さく、基端面94の面積で負圧を受けることで、十分に支持できる。
以上のことを勘案して、回転工具9の軸径が10mm以下であれば、被当接部93のテーパ形状は、軸部92の直径φsから基端面94の直径φeの減少幅と、被当接部93の軸方向の長さLtとの比が(φs−φe):Lt=1:50〜1:10の範囲にあるものが好適に実施できることが、発明者の実験からわかった。
【0090】
特に、メゾスコピックマシンに好適に使用できる回転工具9の軸の直径がφs=3〜6mmのものは、比較的自重も軽く、かつ加工時の負荷も小さい。このことから、被当接部93のテーパ形状は、軸部92の直径φsから基端部の直径φeの減少幅と、被当接部93の軸方向の長さLtとの比が(φs−φe):Lt=1:20〜1:2の範囲にあるものが特に好適な実施ができることがわかった。
【0091】
また、テーパ比1/20〜2/1であれば、小さな負圧で回転工具9を保持しつつ、容易な分離も果たしたいという目的からは本発明の効果がバランスよく発揮でき、テーパ比1/10〜1/2が好ましいバランスであり、特に、テーパ比1/5が負圧の効率と分離の容易さのバランスからベストであった。
【0092】
(回転工具9の変更例)
次に、図5、図6を参照して回転工具9の変更例を説明する。図5は、被当接部93aが、回転工具9の軸心方向と直交する基端面94の周縁に設けられた変更例、図6は、被当接部93aが基端面94内に設けられる変更例を示す。
【0093】
○ 上述のテーパ比は、φs−φe=0の場合、若しくはLt=0の場合、言い換えれば、テーパ比=(φs−φe)/Ltの値が限りなく0若しくは∞といえる特殊な場合でも本発明の実施が可能である。
【0094】
言い換えると、実施形態と異なり、回転工具9の側面にテーパ状の被当接部93を持たないものでも、荷重を支持できる十分大きな負圧を発生する負圧発生手段があり、かつ負圧による吸着に対していずれかの部分(基端面94と同一面内にあるものを含む)で当接して位置を規制する被当接部93aがあれば十分実施可能である。したがって、このような形態でも本発明が適用でき、発明の効果が得られる範囲である。本発明の本質は、負圧による吸着を可能とする吸着部と被吸着部、吸着される回転工具の位置決めをする当接部と被当接部の存在である。
【0095】
具体的には、図5に示すように、スピンドル主軸33の下部開口35の径をΦ=5mmとして、ツールホルダ5の当接部53が内径Φ=6mmの断面積の変化のない、つまりテーパ形状のない形状とする。このとき、下部開口35とツールホルダ5の中心を合わせる。そうすると、スピンドル主軸33の下部開口35の周縁が段付になる。回転工具9は基端面94の周縁の部分93aを、この下部開口35の周縁と当接させることになる。この場合は、基端面94のスピンドル主軸33と当接している部分93aが本発明の被当接部に相当する。また、基端面94と当接しているスピンドル主軸33の主軸端33aの下部開口35の周縁部分が、本発明の当接部に相当する。なお、回転工具9の側面部分基端側93bのツールホルダ5と接している部分である当接部53bにより、回転工具9が回転中心からずれないようにツールホルダ5により位置が規制する規制手段として機能している。
【0096】
この実施形態では、テーパ形状がないため、装着するときのクリアランスがあり、回転中心の位置決めの精度は期待できないが、簡易な工具であれば、製造が容易で低コストで製造できる。
【0097】
○ 図6に示すように、さらに上記変更例においては、スピンドル主軸33の流路34とツールホルダ5の当接部53の内径が同一、あるいは流路34の内径がツールホルダ5の当接部53の内径より大きい場合でもよい。この場合は、例えば、下部開口35に、若しくはツールホルダ5の上端に直径方向にストッパとしてのピンを設ける等して、回転工具9の基端面94に当接させて回転工具9が流路34内に進入しないようにすればよい。この場合、このピンが基端面94と当接している面が当接面53aとなり本発明の当接面に相当し、この当接面53aと当接している基端面94の部分が被当接部93aとなり本発明の被当接部に相当する。
【0098】
本変更例では、流路の内径Φ=5mmであっても、軸径Φ=4mmやΦ=3mmの回転工具9が使用できる。
以上のように、本発明者の実験の結論としては、テーパ比0若しくは∞でも、テーパ形状による位置決めの効果はない点、装着がやや容易ではない点、精度が低下する点などで望ましくはないが、実施は十分に可能であり、安価で装着が容易かつ迅速な回転工具9の装着方法を実施できる。
【0099】
○ 上記実施形態の回転工具9は、工具の直径φs=6mmのメゾスコピックマシン用のボールエンドミルであったが、工具径は、この径に限定されないことはもちろんである。たとえば、工具の直径φs=3mm、若しくはφs=4mmなどでも好適に実施できる。但し、工具の直径φs=3mm、φs=4mmより小さい直径の回転工具では、軸受の面積が小さいため、被回転支持部の表面積が小さくなり、空気静圧軸受では、許容される軸受荷重が小さくなるため、注意が必要である。
【0100】
また、工具の直径がφs=10mmを超えると、工具重量と基端部の締結力のバランスが崩れ易くなる。つまり、重量は概ね直径の2乗に比例するが、真空吸着による締結力も概ね直径の2乗に比例するため、φs=10mmを超えると大きな負圧が必要となり、装置が大掛かりになるというデメリットがある。また、φs=10mmを超えるような工具であれば、従来のような締結方法でも従来技術に述べたような問題点は少ないので、本発明の回転工具の装着方法のメリットは比較的小さくなる。
【0101】
(実験1)
次に、第1の実施形態の回転工具9の振れの精度について検証する。
振れの実験は、株式会社和井田製作所のメゾスコピックマシンMCX−01において行った。回転工具としては、図9(a)、(b)に示す直径φs=6mm、(φs−φe):Lt=(6−5):10、テーパ比1/10のボールエンドミルを用いた。振れは、静電容量変位計(日本ADE株式会社製のマイクロセンス型番5430)で工具の根本部分の回転時の振れを測定した。
【0102】
一方、比較例1〜3は、従来のコレットにより軸部92の部分を把持して装着した回転工具9を測定した。
【0103】
【表1】
その結果、従来のチャックによるストレートシャンクでの回転工具の保持による比較例1〜3において、RROが、10,000rpmで2.8μm、20,000rpmで3.0μm、30,000rpmで、3.1μmであった。これに対して、実施例1〜3では、10,000rpmで3.8μm、20,000rpmで3.8μm、30,000rpmで3.9μmであり、多少の振れは増加したが、十分に実用域であった。また、回転工具9の不安定、離脱、スリップなども認められなかった。そして、実際の加工試験も問題は発見できなかった。実施例1〜3は、比較例1〜3と比べて装着が極めて簡易なことを考えれば、極めて有効な回転工具の装着方法と言える結果である。
【0104】
(実施形態の効果)
(1) 本実施形態の回転工具9の装着方法によれば、負圧を付与された流路34、通路52に面した基端面94が吸着され、被当接部93が当接部53に当接されることで回転工具9を極めて容易に、かつ短時間で装着できる。
【0105】
(2) 真空発生器42が、基端面94に回転工具9の質量を支持する大きさの負圧を与えることができるため、他の方法の固定手段なしで通路52の負圧のみで回転工具9を支持できる。
【0106】
(3) 真空発生器42が基端面94に対する負圧を与えるφ=5mmの円状の面の面積が、軸部92のφ=6mmの断面積の2分の1以上であるので、負圧を大きくしないで回転工具を安定して支持する付勢力を与えることができる。
【0107】
(4) 被当接部93は、円錐若しくは円錐台形状のテーパ形状であり、当接部53の形状と密着し、回転工具9は、負圧により装着時に自律的に位置決めされるとともに、安定した保持がなされる。
【0108】
(5) 回転工具9の軸径がφs=3mm〜10mm、特にφs=6mmであり、メゾスコピックマシンとして好適に適用できる。
(6) 刃部は、径φD=20〜40μm、特にφD=30μmで、メゾスコピックマシンとして好適に適用できる。
【0109】
(7)テーパ比(φs−φe):Lt=1:50〜1:10の範囲にあるため、くさび効果で、小さな負圧でも安定した装着ができる。さらに、このバランスのテーパ比であると、小さな負圧でも十分な締結ができるとともに回転工具9の分離に困難さが生じない。また、小さな負圧であれば、負圧の発生装置も比較的コンパクトにすることができる。
【0110】
(8) また、テーパ比(φs−φe):Lt=1:20〜1:2とすることで、回転工具9の分離が容易である。また、小さな負圧であれば、負圧の発生装置も比較的コンパクトにすることができる。
【0111】
(9) 真空発生器42をイジェクターで構成したため、簡易な設備で、かつ小さな装置で負圧を発生させることで、メゾスコピックマシンにふさわしいコンパクトな負圧発生手段とすることができる。
【0112】
(10) 半径方向に開口された排気路38を用いることで、スピンドル主軸33の回転により遠心ポンプ同様の機能を発揮し、負圧発生手段の一部として機能する。
(11) また、真空カプラ4を備えることで、真空発生器42を外部に設けることができ、負圧発生手段は主軸33とともに回転することがなく真空カプラ4を介して負圧を基端面94に与えることができるので、回転部分の質量を小さくできる。
【0113】
(12)スピンドル主軸33の主軸端33aにツールホルダ5を装着しているので、ツールホルダ5を異なるタイプに交換することで、多様な回転工具9を主軸33に装着することができる。また、スピンドル主軸33の製造も容易となる。
【0114】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態を図7を参照して説明する。第2の実施形態は、第1の実施形態において、回転する回転工具9の軸部92を覆うように案内部6を設けた点にある。ここでは、案内部6のみを説明する。
【0115】
案内部6は、全体が筒状に設けられるとともにその内部に、挿入部63を備え、スピンドル主軸33の主軸端33aのツールホルダ5の下方に配置される。
この挿入部63は、回転工具9の軸部92と略同一形状の空間を有し、軸部92の直径φsより数十〜数百μm大きな内径となっている。そのため、回転工具9がツールホルダ5を介してスピンドル主軸33に装着された状態では、回転工具9の軸部92は、挿入部63の内壁に接触することはない。
【0116】
挿入部63の下端は、回転工具9の基端部を挿入可能な挿入口70を備える。挿入口70の周縁は、角が削られてC面(面取面)若しくはR面(曲面)とになって、回転工具9の基端面94周縁と干渉して、お互いが傷付かないように処理されている。この挿入部63の上端部は、ツールホルダ5の下部開口55と連通されている。但し、案内部6とツールホルダ5の間には間隙が設けられ、案内部6は回転するツールホルダ5と無接触で、ツールホルダ5が回転しても案内部6は、回転しない。
【0117】
スピンドル主軸33の流路34が真空発生器42により負圧が付与されると、ツールホルダ5の当接部53、通路52にも負圧が生じる。また、ここに連通した案内部6の挿入部63内にも負圧が生じる。このとき、回転工具9の基端部を挿入部63の挿入口70に挿入すると、回転工具9は、挿入部63内に生じた負圧のため上方に吸引され、回転工具9は、基端面94を先頭に挿入部63内を上昇する。そして、回転工具9の被当接部93は、ツールホルダ5の当接部53に当接して、装着が完了する。また、必ずしも、このように負圧により回転工具9を上昇させなくても、負圧が小さい場合は、回転工具9を操作者が手動で、或いはロボットなどにより掴んで補助的に押し上げてもよい。いずれにしろ、回転工具9の基端部を、案内部6の挿入口70に挿入して押し上げればワンタッチで装着が完了する。
【0118】
装着が完了したら、図示を省略したスピンドルモータを回転させて回転工具9を回転させる。装着後は、上述のとおり、当接部53と被当接部93の形状が嵌り合い位置が決められるので、回転工具9と挿入部63の内壁は接触せず、案内部6が回転工具9の回転を妨げることはない。
【0119】
一方、回転工具9の回転中に何らかの理由で回転工具9がツールホルダ5から外れたときでも、案内部6により規制され脱落して大きく移動することはなく、負圧がかかっていれば、回転工具9は負圧により装着時と同様に自動的に吸引されて修復される。
【0120】
○ この場合に、回転している回転工具9の軸部92と挿入部63の内壁と不測の干渉する場合があるため、回転工具9の軸部92及び案内部6の挿入部63の内壁は、例えば、チタンコーティングなどにより、表面の硬度を高めたり、摩擦係数μを下げたり、或いは油性や固体の潤滑剤を塗布しておくのも望ましい。
【0121】
○ また、別例として、案内部6は、ボールベアリングなどを備えて、積極的に接触しつつ回転可能に支持するような構成でもよい。回転数が低い場合、高い精度が要求されない場合、後述する空気静圧軸受等が設備面・コスト面で採用できない場合にはこのような実施も可能である。
【0122】
(13) 以上説明したように、第2の実施形態に記載した発明によれば、上記第1の実施形態に記載された発明の効果(1)〜(12)に加え、回転工具9の装着が容易で、かつ、不用意に回転中に装着が解除されても自動的に修復されるという効果がある。
【0123】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態を図8〜図13を参照して説明する。第3の実施形態は、第2の実施形態において、案内部6が、空気静圧軸受を備えて、回転工具9の回転時に位置を規制して振れを抑制する点に特徴がある。第1の実施形態及び第2の実施形態と共通する構成は説明を省略して、異なる構成について説明する。
【0124】
(空気静圧軸受ユニット61)
図8に示すように、案内部6のハウジング62内には、回転工具9の軸部92を案内しつつ回転可能に支持する回転支持部を構成する空気静圧軸受ユニット61が設けられている。
【0125】
図9に示すように、空気静圧軸受ユニット61は、スピンドル主軸33と同軸に配置され、概ね円筒形のハウジング62がスピンドルユニット3にねじで固定される。このとき案内部6はツールホルダ5に対して間隙が設けられ無接触状態である。
【0126】
ハウジング62には、ツールホルダ5の当接部53と連通する円柱形の空間である挿入部63が形成され、挿入部63の中心線は、スピンドル主軸33の軸心と同一直線上に配置される。この挿入部63の内径は、回転工具9の軸部92の直径φsよりも若干大きな内径となっており、回転工具と挿入部63の間には、例えば5〜20μm程度の隙間ができるようになっている。挿入部63の下端に設けられた挿入口70は、開口周縁がC面もしくはR面で面取り処理されて、回転工具9の挿入が容易になるとともに、挿入口70及び回転工具9の基端周縁の保護が図られている。
【0127】
この挿入部63の内壁の回転工具9の基端側(上部)と先端側(下部)に対向する位置には、挿入部63の空間を包むように円筒状の多孔質材料からなる軸受64、65が配置されている。この軸受64、65の多孔質材料としては、例えばステンレスの小球(SUS304ビーズ)を焼結したものであり、微細な空気孔が無数に形成されている。
【0128】
(空気供給手段8)
この軸受64,65には、所定の処理を経たクリーンエアが供給される。
図10は、空気供給手段8の構成の一例を示すブロック図である。クリーンエアを供給する空気供給手段8として、例えば、以下のように構成される。まず、最初に冷凍式ドライヤ付きのオイルフリーコンプレッサ81で加圧されたエアは、一旦サージタンクもしくはアキュムレータとなるタンク82により蓄積される。そして、このタンク82から供給される空気をダスト除去フィルタ83で3μm程度までの大きさのダストを除去する。続いて、水分除去フィルタ84で5μm程度の大きさの水分の粒を除去する。そして、オイルミスト除去フィルタ85で0.01μm程度の大きさのオイルミストを除去する。
【0129】
この空気供給手段8から空気温度調節器86、空気供給路を経てカプラ87によりスピンドルユニット3側に接続され供給空気として供給される。このカプラ87は逆止弁を備えている。空気温度調節器86には、水とヒータなどを用いた加熱及び冷却手段により各軸受64,65の多孔質体に供給する空気静圧軸受用空気の温度を所定の温度に調節する。なお、予め所定温度に制御されている高低2種類の空気の混合割合を調節して各多孔質体に供給する空気静圧軸受用空気の温度を所定の温度に調節する方式としてもよい。
【0130】
さらに、スピンドルユニット3側には、ダスト、水分、油分を除去する3連のラインフィルタ88が設けられ、残油量が0.003ppm程度に調整されている。
最後に、レギュレータ89により0.5〜0.6MPa程度に減圧された空気が、カプラ90を介してスピンドルユニット3の空気供給口(図2参照)から、図4に示すスピンドルユニット3内の空気供給路67、空気静圧軸受ユニット61内の空気供給路68を介して軸受64,65に供給される。カプラ90は逆止弁により、空気供給路67,68の急激な圧力低下がないようになっている。
【0131】
空気供給路68は、各軸受64,65の各部分の空気の圧力が等しくなるように、各2か所ずつで圧縮空気を供給している。なお、空気供給路68の各軸受64,65に面した吐出口に連通するような周方向に溝を作り、圧縮空気の量を各軸受64,65に均一に供給するようにしてもよい。各軸受64,65に供給された空気は、空気静圧軸受ユニット61のハウジング62の上端面とツールホルダ5の間隙から、及び挿入部63の下端面周縁の開放面から、及び回転工具9の軸部92の中間部に対向する位置に形成された円筒状の排気空間66に面する面を介して空気排出路69から、それぞれから排出されている。なお、空気排出路69の機能は空気溜りが生じないようにすることで、空気溜りができると、その部分の温度が空気せん断により高くなり種々の問題を引き起こすため、空気溜りが生じないように、前述の構成で、空気が各部分に均一に供給されてから均一に排気されるように条件が同じように設定されて各部分の空気の圧力は平均化されている。
【0132】
空気静圧軸受の特質上、過荷重により回転工具9と軸受64,65が干渉すると、焼つきなどを生じる場合がある。この点について、多孔質絞りは、軸受剛性、軸受負荷能力が他の絞り形式(自成絞り、オリフィス絞り、表面絞り等)より大きい。これは、多孔質絞りにおいて生じる乱流を利用して軸を浮上させているため大気開放流量に達してもなお、軸受負荷能力を有している。そのため、本実施形態のような交換式の回転工具9のように回転工具9の軸部92の直径や、その精度、真円度にばらつきがあるような場合でも、回転工具9と軸受64,65が直接干渉することが少ない。但し、望ましい隙間間隔は一般に他の絞り形式よりも狭い。
【0133】
なお、このとき回転工具9と軸受64,65との電気的導通をテストして、もし導通があれば完全な空気層が形成されておらず、接触している、又は間隙に水分や異物が存在している可能性がある。そのため、空気静圧軸受ユニット61内をエアブローなどで清浄・乾燥などしてその原因を取り除く。
【0134】
モータにビルトインされた空気静圧軸受の場合は、軸の半径方向の荷重を支持するラジアル軸受と軸に平行な方向の荷重を支持するスラスト軸受を備えるが、本実施形態の回転工具9は、長手方向に挿入され、基端部が主軸に締結されるため、スラスト軸受は不要である。つまり、本実施形態の空気静圧軸受ユニット61はラジアル方向の荷重のみ受ける。
【0135】
(実験2) 上記のような構成において、まず、テーパ比1/5のときに、回転を変化させて振れを測定した。比較のため、同様の条件で、従来のシャンクを締め付けるタイプでも同じ回転数で振れを測定した。本実験では、この従来のRRO、NRROを基準に効果の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0136】
【表2】
テーパ比1/5、圧力0.5MPaの実施例4〜実施例8においては、回転数を20,000rpmから60,000rpmに上げても大きな回転抵抗にはならず、スムーズに回転が上がった。これは、テーパ比が大きく、比較的工具の姿勢が変化しやすく、空気静圧軸受による姿勢の規制を受けても回転抵抗が小さいためと推測できる。
【0137】
そして、回転数を20,000rpmから60,000rpmの実施例4〜8は、RRO=1.0〜1.3の範囲で、むしろ回転数50,000rpmの実施例7が最も振れが少なくなっている。また、NRRO=0.06〜0.39の範囲で、回転数30,000rpmの実施例5の一番振れが小さい。つまり、回転数と振れの大きさは比例関係にない。
【0138】
(実験3) 次に、表3は、テーパ比が1/5の場合(図4(a)参照)と1/10の場合(図4(b)参照)を比較した。回転数は20,000rpmの場合を比較した。そして、スピンドルの回転数を20,000rpmで、ボールエンドミルの被吸着部のテーパ比1/10で、空気静圧軸受の圧力(以下、この実験で単に「圧力」という。)を0.5MPaと0.9MPaの場合、及びテーパ比1/5で、圧力が0.5MPaの場合と比較すると、以下の表のようになった。比較例2は、従来のコレットである。
【0139】
【表3】
前述の表1に示した吸着による装着方法の実施例2のRROが、3.8μmである。これに対して、空気静圧軸受による回転支持をしたものは、同じテーパ比1/10の実施例9、10のときは、刃先の振れは、RROが、2.5〜2.9μmの範囲で、NRROが、0.07〜0.1μmの範囲で、いずれも、評価の基準となる比較例1のRROが3.0μmを下回った。特に、空気静圧軸受圧力が、0.9MPaの実施例10の方がRROが小さく、空気静圧軸受の受け圧力を強めて、軸部92での位置規制を強めた方が振れが抑制できることがわかった。
【0140】
さらに、実施例4のようにテーパ比1/5にした場合、圧力を0.5MPaに下げてもRROは1.3μm、NRROは0.15μmとなった。
この実験から、テーパ比は、1/10から1/5と大きくしてもRROは悪化せず、むしろRROは小さくなった。これは、テーパ比を大きくすることで、回転工具9の自由度が高まり、小さな圧力で空気静圧軸受による位置の規制が達成できているということが推測できる。
【0141】
なお、テーパ比1/5としても、回転工具がスピンドルに対してスリップするなどの問題はまったく生じなかった。
(実験まとめ)
以上の実験から、本実施形態のテーパ形状の当接部53と被当接部93による本実施形態の装着方法は、十分な締結力を示すとともに、容易な離脱ができることを確認した。
【0142】
また、空気静圧軸受による回転工具の振れの抑制は効果が大きく、従来のものと比較すると、本実施例の方法は極めて振れが少ない。
そして、締結は空気静圧軸受による位置の規制を受けやすいように、テーパ比を少なくとも1/10、最も好ましくは1/5とすることで、空気静圧軸受を比較的小さな圧力で支持しても振れが効果的に抑制できることが分かった。
【0143】
(マシニングセンタ1の使用方法)
本実施形態のマシニングセンタ1の使用方法を、図11に示すフローチャートに沿って説明する。
【0144】
まず、作業開始では、図1に示すマシニングセンタ1の主電源が投入され、操作パネル22でCNC制御部23のメインプログラムが起動される。そうすると、加工プログラムが読み込まれ、ワーク主軸13のチャック(不図示)にワークWが装着されると、このワークの位置・姿勢を認識する。
【0145】
また、各種チェックプログラムが各器具の状態を点検する。そして、空気供給手段8で圧縮空気が蓄積され、空気静圧軸受ユニット61(図2)にクリ−ンエアが供給される。以上で準備が完了する(S1)。
【0146】
続いて、工具が装着される。図1に示す主軸頭16は、レール18,18に案内されてコラム15をX方向に移動し、工具マガジン19の上方の工具交換位置に移動する(S2)。このとき、工具マガジン19に収容された所定の回転工具9がCNC制御部23により選択され、工具マガジン駆動部20を駆動させて工具マガジン19が回転される。そうすると、図12に示すように、所定の回転工具9の基端面94の真上に空気静圧軸受ユニット61の挿入口70が位置するような位置関係になる。
【0147】
そして、主軸頭16を下降させてスピンドル主軸33を下降させる(S3)。そうすると、図7に示すように空気静圧軸受ユニット61の挿入口70に所定の回転工具9の基端部が挿入される。
【0148】
このとき、もし、既にスピンドル主軸33に工具が装着されている場合は、図示しない供給口から空気供給手段8からの圧縮空気をスピンドル主軸33内に導入し空気を吐出して、工具を排出するが手順を行うが(ステップ不図示)、ここでは、加工の最初であるので、スピンドル主軸33には回転工具9は装着されていない。そこで、真空発生器42により負圧が発生され、スピンドル主軸33内の流路34、当接部53に負圧を発生させる(S4)。
【0149】
そうすると、当接部53に連通している空気静圧軸受ユニット61の挿入部63にも負圧が発生し、回転工具9の基端部は、挿入口70から吸着され上昇する。空気静圧軸受ユニット61にはすでにクリーンエアが供給されているため、回転工具9の軸部92は、空気静圧軸受ユニット61の軸受64,65には、直接接することなく図13の矢印で示す方向に円滑に吸い込まれていく。
【0150】
そうして、図9に示すように当接部53に被当接部93が密着した状態で、回転工具9が吸着される(S5)。
装着が完了したら、スピンドル主軸33は回転を開始する(S6)。スピンドル主軸33の回転に伴って、回転工具9も回転をする。
【0151】
そして、スピンドル主軸33は上昇され(S7)、図1に示す主軸頭16は、レール18,18に案内されてコラム15をX方向と逆の方向に移動し、ワークWの所定の加工位置の上方に移動したら下降し、刃部91は、ワークWの加工位置に移動する(S8)。
【0152】
そして、CNC制御部23により制御されながら加工を開始する(S9)。加工は、ワーク主軸13を回転して、主軸頭16を、x,y,z方向にシフトしたり、z軸と平行なB軸回りに回転させたりしてCNC制御によりワークを加工する。
【0153】
その回転工具9での加工が終了したら(S10)、次の加工のための工具に交換するため、再び主軸頭16は、レール18,18に案内されてコラム15をX方向に移動し、工具マガジン19の上方の工具交換位置に移動する。このとき、工具マガジン19は、先に使用した回転工具9の収容される所定の位置になるようにCNC制御部23が工具マガジン駆動部20を駆動させて工具マガジン19が回転される。そうすると、所定の工具収容位置の真上にスピンドル主軸33に装着された回転工具9が位置する(S11)。
【0154】
そして、主軸頭16を下降させてスピンドル主軸33を下降させる(S12)。
そして、真空発生器42による負圧の発生が停止され、スピンドル主軸33内の流路34、当接部53に負圧の発生は停止される。図示しない供給口から空気供給手段8からの圧縮空気がスピンドル主軸33内に導入されて空気を吐出して、また、図2に示すようにノックピン可動機構44によりノックピン43を加工させて、その下端を回転工具9の基端面94に当接押圧する。このようにして被当接部93と当接部53のテーパ形状同士が食いついたような状態でも、確実に回転工具9の装着を解除させてマガジン19の所定位置に戻すことで、ATCとしての機能を保証している。このように既にスピンドル主軸33に装着されている回転工具9を排出する(S14)。そして、まだそのワークに対して異なる回転工具9で作業が残っている場合は(S15;NO)、S2〜S14のステップを繰り返す。すべての加工が終了したら作業を終了する(S15;YES)
(第3の実施形態の効果)上記実施形態のマシニングセンタ1及び回転工具9によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0155】
(14) 回転工具9の着脱が極めて迅速かつ容易となる。そのため、ATCにも好適に適用できる。
(15) 回転工具9の装着時に、回転工具9は、空気静圧軸受ユニット61には、直接接触することがなく、回転工具9も、空気静圧軸受ユニット61も傷つけることは皆無である。
【0156】
(16) 吸引により装着するため、装着は瞬時に行うことができる。
(17) 装着に伴い、加熱の必要もなく、潤滑油や冷却水などの排出もなく、環境に対する影響もない。
【0157】
(18) 装着に当たっては熟練はもちろん、自動で行うことも容易で手作業自体も不要である。
(19) テーパ形状により、自律的に正確な位置に装着ができる。
【0158】
(20) また、装着しても回転工具9は微動可能なため、空気静圧軸受により、回転時に姿勢が自己矯正され、装着自体の精度は問われない。
(21) テーパ形状を利用しているため、くさび効果があり、固定力が増幅され小さな負圧でも大きな摩擦力を生じて、確実に回転工具9の保持ができ、スリップなども生じない。
【0159】
(22) テーパ比を変えることで、保持力を調整することができる。
(23) また、テーパ比を変えることで、回転工具9の負圧を解除した場合の保持力を調整でき、容易に分離できるテーパ比を選択することで、完全に自動的な回転工具9の分離ができる。
【0160】
(24) 超高速で回転させても、空気静圧軸受により強力かつ正確に工具の振れが抑制できる。
(25) 装着が真空吸着のため、負圧の調整や、支持面積などにより、回転工具の姿勢の微調整が可能となり、回転しつつ回転支持構造により位置を矯正することで、極めて振れの精度を高くすることができる。
【0161】
(26) 回転支持構造が空気静圧軸受によるため、以下のような効果がある。従来、空気静圧軸受は、ビルトインモータを備えたスピンドルの軸受等、軸を交換しないという前提で用いられており、軸を交換するという概念がなかった。本実施形態では、これを回転工具の支持に直接に用いる点で極めて革新的な技術思想である。
【0162】
(27) ボールベアリングなどの軸受では、軸受と軸の間隔が狭く、一般にはこのような間隙しかない軸と軸受であると、軸を軸受に挿入することは困難であるといえるが、空気静圧軸受を用い負圧を利用した装着方法によリ、極めて間隙が狭くても容易に軸受に軸を貫通することができるようになった。
【0163】
(28) さらに、以下のような空気静圧軸受の種々の利点を享受できる。まず、無接触であるため、回転支持部は長寿命とすることができる。
(29) また、粘性の極めて低い流体である空気により低摩擦であるため、発熱が小さいという効果がある。また、発熱しても排気され、また回転工具9を温度上昇させにくい。さらに、無負荷動力が小さく省エネ、極めて高回転でも振動・騒音も小さい。潤滑油や摩耗粉がなく清浄である。
【0164】
(30) 特に本実施形態では、空気静圧軸受ユニット61を回転工具9の位置規制手段として用いているが、回転工具9の軸部の誤差を空気層による部品精度平均化により、極めて高精度な位置を維持できる。
【0165】
(31) また、空気層を有するため、回転工具9の軸部92の径が異なってもその誤差を吸収することができる。
(32) また、空気静圧軸受は、比較的大きな軸受荷重を支持できるため、横位置から荷重をうけるボールエンドミルなどに適用できるという効果もある。
【0166】
(別例)なお、本実施形態は、以下のように構成してもよい。
○ 空気静圧軸受の多孔質材料としては、本実施形態のステンレスビーズ(SUS304)を焼結したもの以外に、カーボン、セラミックス、樹脂または金属等の多孔質体その他の金属により構成したものにより構成することもできる。
○ 空気静圧軸受の絞りの方法は、本実施形態で説明した「多孔質絞り」の他、「自成絞り」、「オリフィス絞り」、「表面絞り」、「スロット絞り」、「毛細管絞り」などが知られており、それぞれ目的により使い分けることができる。
【0167】
(第4の実施形態)
本発明の第4の実施形態を説明する。第4の実施形態は、第3の実施形態において、主軸33への装着方法が、負圧による吸着でなく、磁気等による装着である点に特徴がある。第1〜3の実施形態と共通する構成は説明を省略して、異なる構成について説明する。
【0168】
回転工具9は、第3の実施形態と同様、先端部に刃部91を備える。また、中間部には円柱状の軸部92(被回転支持部)を備える。そして、基端部は、第3の実施形態のようなテーパ状の被当接部93とその端面に形成された基端面94を備える。
【0169】
マシニングセンタ1は、第3の実施形態と装着部を除けば、同様の構成である。
また、回転工具9は、軸部92が被回転支持部として空気静圧軸受ユニット61を備えた案内部6により回転可能に無接触で支持される。
【0170】
装着部であるツールホルダ5は、回転工具9の基端部の被当接部93、基端面94を被装着部として装着する。以下、装着部について実施態様に分けて説明する。
○ (実施態様1)本実施形態では、回転工具9は、第3の実施形態の回転工具9と共通するが、回転工具9の被当接部93をツールホルダ5の当接部53に磁力で固定される。磁石は、例えばネオジム磁石のような強力な永久磁石などをツールホルダ5の当接部53に配置して、装着時には、被当接部93が当接部53に当接させて磁力で固定して装着する。また、離脱させるには、図2に示すようにノックピン可動機構44によりノックピン43で回転工具9の基端面94を押し出して離脱させる。
【0171】
また、外部から回転工具9を引き抜く場合は、主軸33には、流路34は必要がない。そのため、主軸33を中実な軸としてもよい。また、流路34を加工用のエア、切削油などの流路として用いてもよい。
【0172】
○ (実施態様2)図14は、第4の実施形態の本実施態様のツールホルダ5を示す図である。図14に示すように、ツールホルダ5の内部に、回転工具9の基端部の周囲にコイル56を配して、ツールホルダ5を磁心として構成する。そして、このコイルに電圧を印加した場合に、被当接部93を当接部53に当接させて磁力で固定して装着する。また、離脱させるには、コイルへの電圧の印加を停止する。
【0173】
○ (実施態様3)さらに、周知のコレットチャックのような構成でもよい。ただし、この場合は回転工具9が空気静圧軸受ユニット61と干渉しないように、かつ、空気静圧軸受による矯正作用が働くように、回転工具9が外力により微動できるように構成する。たとえば、チャックの爪を弾性を持たせたようなものが挙げられる。小型が達成できればフローティングチャックのような構成が望ましい。
【0174】
この場合でも、従来の構成と比較すると、空気静圧軸受の強力な位置矯正効果があり、回転工具9の振れを抑制できる。
(第4の実施形態の効果)
(33)本実施形態では、空気静圧軸受ユニット61を備えた案内部6により、回転する回転工具9を回転可能に支持しているため、回転工具9の基部における装着は、大きな負荷がかからない。さらに、空気静圧軸受による矯正効果から、回転工具9の装着の精度は要求されない。
【0175】
よって、真空発生器42などの設備も不要で簡易な装置で、回転工具9の工作機械への着脱が極めて迅速かつ容易となる。
また、超高速で回転させても回転工具9の振れが抑制できる。
【0176】
(第5の実施形態)
図14を参照して、本発明の第5の実施形態を説明する。第5の実施形態は、第3の実施形態において、案内部6が空気静圧軸受ユニット61を備え、負圧により吸着された回転工具9を、空気静圧軸受で回転可能に支持しているのと異なり、第5の実施形態では、空気静圧軸受に替えて、他の軸受方法により、回転工具9を回転可能に支持する。以下、案内部6の異なる構成を実施態様に分けて説明する。
【0177】
○ (実施態様4)案内部6は、精密磁気浮上軸受を備え、回転工具9を非接触で回転可能に支持している。図15は、磁気軸受を模式的に示す図である。案内部6は、磁気軸受ユニット71を備える。磁気軸受ユニット71には、回転工具9を囲むように設けられたリング状の永久磁石72と、その磁界の中にさらに磁界を形成するためのコイル73,74を備える。精密磁気浮上軸受は、反発型磁気軸受(受動型磁気軸受)であれば、磁気による反発力のみを用いて、軸を安定極にとどまらせることができる。
【0178】
○ (実施態様5)案内部6は、能動型磁気軸受としてもよい。能動型磁気軸受( active magnetic bearing, AMB )では、磁気による吸引力を発生させ、回転工具9を非接触で安定極にとどまらせる。なお、実施例4、実施例5ともに、コイル、永久磁石のいずれを用いてもよく、またこれらを組み合わせてもよい。
【0179】
なお、磁気軸受は特にコイルを用いるものは精緻な制御が可能であるが、装置が複雑で高価なものとなる。また、空気静圧軸受に比較すると動的な軸受剛性、軸受負荷能力は劣る。
【0180】
○ (実施態様6)さらに、案内部6は、空気動圧軸受( dynamic pressure gas-lubricated bearing )でもよい。空気動圧軸受では、図16に示すように、回転工具9の軸部92にくさび状のパターン96を刻んでおく。このパターン96により回転工具9が回転すると、空気が粘性によって軸部92のパターン96の部分に引き込まれて、案内部6の挿入部63の内壁との間に圧力が発生する。この圧力によって回転工具9の負荷を支える。なお、くさび状のパターン96は、案内部6の挿入部63の内壁の方に設けてもよい。
【0181】
空気動圧軸受では、第3の実施形態のような圧縮空気は供給する必要がなく、構造が簡単となる。また、空気動圧軸受は、空気静圧軸受よりも軸受剛性、軸受負荷能力が高いというメリットがあるが、停止時には全く機能しなくなる。
【0182】
○ なお、上記の気体は空気に限らず窒素やヘリウムなどでもよい。
○ (実施態様7)そこで、磁気軸受と空気動圧軸受を組み合わせたものでもよい。停止時には、永久磁石を用いて浮上させ、回転時には空気動圧軸受として大きな軸受剛性を得ることができる。また、電気の供給や圧縮空気の供給も必要としない。
【0183】
○ (実施態様8)さらに、流体は気体に限らず潤滑油、水等の液体でもよい。
例えば、液体を用いた動圧流体軸受(FDB; Fluid Dynamic Bearing)などでもよい。FDBとは,シャフトとスリーブの隙間に流体を満たし,シャフトが回転することにより流体に発生する圧力を利用してシャフトが浮上する構造の軸受であり,非接触構造である点から回転精度や音,耐久性の点で優れている。
【0184】
○ (別例)上記各実施形態は、以下のようにしても実施できる。基端部は、テーパ状ではなく、図17(a)に示すように半球状の被吸着部若しくは被当接部を備えたものであってもよい。本発明の吸着部と被吸着部は、スピンドルの主軸と同期して回転可能で、抜け落ちない程度の締結力があればよい。その一方で、回転支持部により姿勢が支持されるため、姿勢が傾動しやすい形状も好ましい。この場合、吸着部は半球状の当接部を備え、回転工具9はあらゆる方向にストレスなく傾動が可能となる。
【0185】
また、この形状は、第4の実施形態の実施例1、実施例2のような磁気により装着するものにも適用できる。
○ 同様に、半球状でなく、図17(b)に示すように、基端部を球面の一部としたものであれば、半球状のものと同様に傾動が容易になる。
【0186】
○ なお、回転工具9は、ボールエンドミルを例に挙げたが、刃部91は、軸状の切削工具に限らず、例えば、図17(c)に示すような、円盤状の砥石による研削工具でもよい。
【0187】
○ 締結構造は、主軸端に取り付けたツールホルダに対してさらにツールアダプタを介して回転工具を取り付けるものでもよい。なお、このツールアダプタは、図17(d)に示すように、本発明の回転工具の被吸着部および被回転支持部を備え、刃部に替えていろいろな規格の工具保持部を備えたものでもよい。このように構成することでATCなどでも本発明を実施できることから、マシニングセンタとして工具の選択の余地が広がり加工内容が多彩となる。
【0188】
(共通の別例)
○ ツールホルダ5は、円筒形のものを例に挙げたが、テーパ状のBTシャンク、NTシャンクなどのような構成としてもよい。各発明に応じて種々の形状・形式に変更が可能である。
【0189】
○ 本実施形態では、スピンドル主軸33に、吸着部を構成する当接部53を形成したツールホルダ5を介して、回転工具9を装着しているが、もちろんスピンドル主軸33に吸着部を形成して直接装着するダイレクトチャッキングのようなものでもよい。
【0190】
○ なお、主軸であるスピンドルの駆動源は、DCブラシレスモーターからなる高周波誘導電動機に限らず各種電動機やエアタービンなどで構成してもよい。
○ 負圧発生手段は、実施形態のような真空発生器のほか、真空ポンプなどでも構成できる。また負圧を蓄積するエアタンク等を備えても良い。
【0191】
○ マシニングセンタ1は、立型のものを例としたが、もちろん横型のもので実施できる。
○ 本発明は、特許請求の範囲を逸脱しない限り、上記実施形態に限定されることなく、当業者により構成要素を付加され、省略され、置換されて実施できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0192】
【図1】マシニングセンタの概略を示す斜視図。
【図2】スピンドルユニットを示す一部断面図。
【図3】スピンドル主軸と、ツールホルダと、ボールエンドミルからなる回転工具の基端部との関係を示す組立図。
【図4】本発明の回転工具の別例を示す図。
【図5】第1の実施形態の変更例を示す断面図。
【図6】第1の実施形態の別の変更例を示す断面図。
【図7】第2の実施形態のスピンドルユニットを示す図。
【図8】第3の実施形態のスピンドルユニットを示す図。
【図9】第3の実施形態の案内部を示す図。回転工具をスピンドル主軸に装着したツールホルダと空気静圧軸受を示す断面図。
【図10】第3の実施形態の空気供給手段の構成の一例を示すブロック図。
【図11】第3の実施形態のマシニングセンタの作用示すフローチャート。
【図12】第3の実施形態の装着前の回転工具と空気静圧軸受ユニットの位置関係を示す図。
【図13】第3の実施形態の装着時の回転工具と空気静圧軸受ユニットの位置関係を示す図。
【図14】第4の実施形態の一実施態様のツールアダプタを示す図。
【図15】第5の実施形態の磁気軸受を模式的に示す図。
【図16】第5の実施形態の空気動圧軸受を模式的に示す図。
【図17】本発明の回転工具の別例を示す図。
【図18】回転工具の振れと寿命の関係を示すグラフ。
【図19】従来の回転工具のクランプ方法を示す図。
【図20】従来の回転工具を示す図。
【符号の説明】
【0193】
1…マシニングセンタ、3…スピンドルユニット、4…真空カプラ、5…ツールホルダ、6…案内部、8…空気供給手段、9…回転工具、11…機台、13…ワーク主軸、12…ステージ、15…コラム、16…主軸頭、18,18…レール、19…工具マガジン、20…工具マガジン用駆動部、21…保護カバー、22…操作パネル、23…CNC制御部、32…(駆動源としての)モータ、33…スピンドル主軸、33a…主軸端、34…流路、35…下部開口、36…上部開口、37…蓋体、38,38…排気路、39,39…排気口、40…空間、41…吸引口、42…負圧発生手段としての真空発生器、43…ノックピン、52…吸着部としての通路、53(53b)…当接部、54…開口部、55…下部開口、61…空気静圧軸受ユニット、62…ハウジング、63…挿入部、64…軸受、65…軸受、66…排気空間、67…空気供給路、68…空気供給路、69…空気排出路、70…挿入口、80…オイルフリーコンプレッサ、82…タンク、83…ダストフィルタ、84…水分除去フィルタ、85…オイルミストフィルタ、86…空気温度調節器、87…逆止弁、88…ラインフィルタ、89…レギュレータ、90…逆止弁、91…刃部、92…軸部(被回転支持部)、93(93a)…被当接部、94…基端面(被吸着部)、95…段部、φe…(基端部の)直径,φs…(軸部の)直径、φD…(刃部の)直径、Lt…当接部の長さ、W…ワーク。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部に刃部(91)と、基端部に真空吸着可能な被吸着部(94)と、基端方向に当接可能な面を有する被当接部(93)と、中間部に円柱状の被回転支持部として構成され軸部(92)とを備えた回転工具(9)、
及び、駆動源(32)により回転駆動される主軸(33)と、前記被当接部(93)の外形形状に対応した形状に形成され当該被当接部(93)と当接可能な当接部(53)と、前記主軸(33)と同軸に主軸端(33a)に前記回転工具(9)を被吸着部(94)で吸着固定する吸着部(52)と、前記吸着部(52)に負圧を付与する負圧発生手段(42)と、前記被回転支持部(92)を案内しつつ回転可能に支持する回転支持部(6)とを有する工作機械(1)を備え、前記吸着部(52)が前記基端部に設けられた被吸着部(94)を負圧により吸着するとともに、前記被当接部(93)を当接部(53)に当接させることで、前記回転工具(9)を回転可能に支持し、かつ、前記回転支持部(6)が前記被回転支持部(92)を回転可能に支持することを特徴とする回転工具の装着方法。
【請求項2】
前記吸着部(52)に吸着された回転工具(9)の被吸着部(94)は、前記回転支持部(6)の案内により装着姿勢が矯正可能に装着されることを特徴とする請求項1に記載の回転工具の装着方法。
【請求項3】
前記負圧発生手段(42)は、前記回転工具(9)の質量を支持する負圧を前記被吸着部(52)に与えることを特徴とする請求項1に記載の回転工具の装着方法。
【請求項4】
前記負圧発生手段(42)は、前記被吸着部(94)に対する負圧を与える面積が、前記軸部(92)の断面積の2分の1以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の回転工具の装着方法。
【請求項5】
前記回転工具(9)の前記被当接部(93)は、被回転支持部(92)から基端部(94)にかけて同心状に直径が小さくなる円錐若しくは円錐台形状のテーパ形状を備えた形状に形成されたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の回転工具の装着方法。
【請求項6】
前記テーパ形状は、被回転支持部(92)の直径(φs)から基端部(94)の直径(φe)の減少幅と、被吸着部(94)の軸方向の長さ(Lt)との比が1:20から2:1の範囲にあることを特徴とする請求項5に記載の回転工具の装着方法。
【請求項7】
前記テーパ形状は、被回転支持部(92)の直径(φs)から基端部(94)の直径(φe)の減少幅と、被吸着部(94)の軸方向の長さ(Lt)との比が1:5から2:1の範囲にあることを特徴とする請求項5に記載の回転工具の装着方法。
【請求項8】
前記回転支持部(6)は、前記回転工具(9)に対して非接触に構成されたことを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の回転工具の装着方法。
【請求項9】
前記回転支持部(6)は、流体により回転工具(9)を支持する軸受により構成されたことを特徴とする請求項8に記載の回転工具の装着方法。
【請求項10】
前記回転支持部(6)の前記流体が気体であることを特徴とする請求項9に記載の回転工具の装着方法。
【請求項11】
前記回転支持部(6)の前記気体が空気であることを特徴とする請求項10に記載の回転工具の装着方法。
【請求項12】
前記回転支持部(6)は、空気静圧軸受(61)として構成されたことを特徴とする請求項11に記載の回転工具の装着方法。
【請求項13】
前記負圧発生手段(42)は、前記主軸(33)内の軸心に設けられた流路(34)を介して空気が排気されることにより負圧を発生させることを特徴とする請求項1乃至請求項12のいずれか1項に記載の回転工具の装着方法。
【請求項14】
前記主軸(33)内に設けられた流路(34)は、真空カプラ(4)を介して負圧発生装置(42)に接続されていることを特徴とする請求項13に記載の回転工具の装着方法。
【請求項15】
前記工作機械(1)の被吸着部(52)は、前記主軸端(33a)に配置されたツールホルダ(5)に被当接部(53)が形成され、前記回転工具(9)は前記ツールホルダ(5)を介して前記主軸端(33a)に装着されることを特徴とする請求項1乃至請求項14のいずれか1項に記載の回転工具の装着方法。
【請求項16】
請求項1乃至請求項15のいずれか1項に記載の回転工具の装着方法に用いる回転工具。
【請求項17】
請求項1乃至請求項15のいずれか1項に記載の回転工具の装着方法に用いる工作機械。
【請求項18】
請求項1乃至請求項15のいずれか1項に記載の回転工具の装着方法に用いる工作機械の回転工具の装着装置。
【請求項1】
先端部に刃部(91)と、基端部に真空吸着可能な被吸着部(94)と、基端方向に当接可能な面を有する被当接部(93)と、中間部に円柱状の被回転支持部として構成され軸部(92)とを備えた回転工具(9)、
及び、駆動源(32)により回転駆動される主軸(33)と、前記被当接部(93)の外形形状に対応した形状に形成され当該被当接部(93)と当接可能な当接部(53)と、前記主軸(33)と同軸に主軸端(33a)に前記回転工具(9)を被吸着部(94)で吸着固定する吸着部(52)と、前記吸着部(52)に負圧を付与する負圧発生手段(42)と、前記被回転支持部(92)を案内しつつ回転可能に支持する回転支持部(6)とを有する工作機械(1)を備え、前記吸着部(52)が前記基端部に設けられた被吸着部(94)を負圧により吸着するとともに、前記被当接部(93)を当接部(53)に当接させることで、前記回転工具(9)を回転可能に支持し、かつ、前記回転支持部(6)が前記被回転支持部(92)を回転可能に支持することを特徴とする回転工具の装着方法。
【請求項2】
前記吸着部(52)に吸着された回転工具(9)の被吸着部(94)は、前記回転支持部(6)の案内により装着姿勢が矯正可能に装着されることを特徴とする請求項1に記載の回転工具の装着方法。
【請求項3】
前記負圧発生手段(42)は、前記回転工具(9)の質量を支持する負圧を前記被吸着部(52)に与えることを特徴とする請求項1に記載の回転工具の装着方法。
【請求項4】
前記負圧発生手段(42)は、前記被吸着部(94)に対する負圧を与える面積が、前記軸部(92)の断面積の2分の1以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の回転工具の装着方法。
【請求項5】
前記回転工具(9)の前記被当接部(93)は、被回転支持部(92)から基端部(94)にかけて同心状に直径が小さくなる円錐若しくは円錐台形状のテーパ形状を備えた形状に形成されたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の回転工具の装着方法。
【請求項6】
前記テーパ形状は、被回転支持部(92)の直径(φs)から基端部(94)の直径(φe)の減少幅と、被吸着部(94)の軸方向の長さ(Lt)との比が1:20から2:1の範囲にあることを特徴とする請求項5に記載の回転工具の装着方法。
【請求項7】
前記テーパ形状は、被回転支持部(92)の直径(φs)から基端部(94)の直径(φe)の減少幅と、被吸着部(94)の軸方向の長さ(Lt)との比が1:5から2:1の範囲にあることを特徴とする請求項5に記載の回転工具の装着方法。
【請求項8】
前記回転支持部(6)は、前記回転工具(9)に対して非接触に構成されたことを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の回転工具の装着方法。
【請求項9】
前記回転支持部(6)は、流体により回転工具(9)を支持する軸受により構成されたことを特徴とする請求項8に記載の回転工具の装着方法。
【請求項10】
前記回転支持部(6)の前記流体が気体であることを特徴とする請求項9に記載の回転工具の装着方法。
【請求項11】
前記回転支持部(6)の前記気体が空気であることを特徴とする請求項10に記載の回転工具の装着方法。
【請求項12】
前記回転支持部(6)は、空気静圧軸受(61)として構成されたことを特徴とする請求項11に記載の回転工具の装着方法。
【請求項13】
前記負圧発生手段(42)は、前記主軸(33)内の軸心に設けられた流路(34)を介して空気が排気されることにより負圧を発生させることを特徴とする請求項1乃至請求項12のいずれか1項に記載の回転工具の装着方法。
【請求項14】
前記主軸(33)内に設けられた流路(34)は、真空カプラ(4)を介して負圧発生装置(42)に接続されていることを特徴とする請求項13に記載の回転工具の装着方法。
【請求項15】
前記工作機械(1)の被吸着部(52)は、前記主軸端(33a)に配置されたツールホルダ(5)に被当接部(53)が形成され、前記回転工具(9)は前記ツールホルダ(5)を介して前記主軸端(33a)に装着されることを特徴とする請求項1乃至請求項14のいずれか1項に記載の回転工具の装着方法。
【請求項16】
請求項1乃至請求項15のいずれか1項に記載の回転工具の装着方法に用いる回転工具。
【請求項17】
請求項1乃至請求項15のいずれか1項に記載の回転工具の装着方法に用いる工作機械。
【請求項18】
請求項1乃至請求項15のいずれか1項に記載の回転工具の装着方法に用いる工作機械の回転工具の装着装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2009−248225(P2009−248225A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97231(P2008−97231)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【分割の表示】特願2008−96121(P2008−96121)の分割
【原出願日】平成20年4月2日(2008.4.2)
【出願人】(590006343)株式会社和井田製作所 (20)
【出願人】(000233066)日立ツール株式会社 (299)
【出願人】(000220103)株式会社アライドマテリアル (192)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【分割の表示】特願2008−96121(P2008−96121)の分割
【原出願日】平成20年4月2日(2008.4.2)
【出願人】(590006343)株式会社和井田製作所 (20)
【出願人】(000233066)日立ツール株式会社 (299)
【出願人】(000220103)株式会社アライドマテリアル (192)
【Fターム(参考)】
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