回転機械用物理量測定装置
【課題】エンコーダ1aと組み合わせて使用するセンサ10、10の個数を、3個のみと、少なくした状態で、前記エンコーダ1aを外嵌固定した回転部材の5方向の変位x、y、z及び傾きφx、φzを測定できる構造を実現する。
【解決手段】前記エンコーダ1aとして、被検出面である外周面に、複数の特性変化組み合わせ部3a、3aを円周方向に等ピッチで形成したものを使用する。これら各特性変化組み合わせ部3a、3aは、前記エンコーダ1aの軸方向に対して互いに逆方向に傾斜した第一凹溝11a及び第二凹溝11bから成るものとする。前記エンコーダ1aの外周面のうちで円周方向の位相が互いに異なる部分に、3個のセンサ10、10の検出部を対向させる。これにより、これら各センサ10、10の出力信号から得られる情報に基づいて、前記5方向の変位x、y、z及び傾きφx、φzを算出可能とする。
【解決手段】前記エンコーダ1aとして、被検出面である外周面に、複数の特性変化組み合わせ部3a、3aを円周方向に等ピッチで形成したものを使用する。これら各特性変化組み合わせ部3a、3aは、前記エンコーダ1aの軸方向に対して互いに逆方向に傾斜した第一凹溝11a及び第二凹溝11bから成るものとする。前記エンコーダ1aの外周面のうちで円周方向の位相が互いに異なる部分に、3個のセンサ10、10の検出部を対向させる。これにより、これら各センサ10、10の出力信号から得られる情報に基づいて、前記5方向の変位x、y、z及び傾きφx、φzを算出可能とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋盤、フライス盤、マシニングセンタ等の各種工作機械の主軸や、自動車の車輪支持用転がり軸受ユニットを構成する回転側軌道輪部材等の回転部材に生じる変位や傾き、更には、この回転部材に作用する荷重やモーメントと言った物理量を測定する為に利用する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の主軸は、先端部に工具又は被加工物を取り付けた状態で、この工具又は被加工物に高精度な回転運動を与える、その工作機械で最も主要な軸である。この被加工物の加工時に、前記主軸には、加工抵抗に基づく荷重が加わる。この荷重は、加工送り速度が小さくなる程小さくなり、大きくなる程大きくなる。従って、前記荷重が所定範囲に収まる様に前記加工送り速度を調節すれば、この加工送り速度を、加工能率を確保しつつ、前記工具の耐久性、及び、前記被加工物の品質を確保できる適正範囲に収める事ができる。又、前記加工送り速度等の加工条件を一定とした場合に、前記荷重は、前記工具の切削性(切れ味)が劣化する程大きくなる。従って、前記加工条件との関係で前記荷重の大小を観察すれば、前記工具が寿命に達した事を知る事ができて、寿命に達した不良工具で加工を継続する事による、歩留まりの悪化を防止できる。又、前記荷重を、前記加工条件と関連付けて継続的に観察すれば、工具破損等の事故発生時に、その原因を特定する事が可能になる。
【0003】
この様な目的で、工作機械の主軸等の回転軸に加わる荷重を測定する為の装置として従来から、例えば特許文献1に記載された構造のものが知られている。この特許文献1に記載された荷重測定装置は、水晶圧電式の荷重センサを複数個、荷重の作用方向に対して直列に配置し、これら各荷重センサの測定信号に基づいて、切削工具を支持固定した回転軸に加わる荷重(切削抵抗)を測定する様に構成している。この様な特許文献1に記載された荷重測定装置の場合、高価な水晶圧電式の荷重センサを使用する為、荷重測定装置全体としてのコストが嵩む事が避けられない。
【0004】
一方、特許文献2には、水晶圧電式の荷重センサに比べて低コストで調達できる、磁気式のエンコーダとセンサとにより構成する、荷重測定装置付転がり軸受ユニットに関する発明が記載されている。例えば特許文献2の段落[0066]〜[0068]には、図10に示す様なエンコーダ1を使用して、このエンコーダ1を同心に支持した回転部材の軸方向に関する変位量、延いてはこの回転部材に加わるアキシアル荷重を測定する技術が記載されている。
【0005】
前記エンコーダ1は、鋼板等の磁性金属板により全体を円筒状に造られている。このエンコーダ1の軸方向中間部には、それぞれが円周方向に所定のピッチで離隔して設けられた第一特性変化部である第一透孔2aと第二特性変化部である第二透孔2bとから成る、複数の特性変化組み合わせ部3、3が、円周方向に関して等ピッチで設けられている。これら各特性変化組み合わせ部3、3を構成する、前記第一透孔2aと前記第二透孔2bとは、前記エンコーダ1の軸方向に対して、互いに逆方向に、同じ角度で傾斜している。別な言い方をすれば、前記第一透孔2aと前記第二透孔2bとの、前記エンコーダ1の軸方向に対する傾斜角度は、絶対値が互いに等しく、且つ、正負の符号(傾斜方向)が互いに逆になっている。この様なエンコーダ1は、工作機械の主軸の如き回転部材の一部に、この回転部材と同心に固定する。これと共に、この回転部材に隣接する部分に設けられた静止部材の一部に、磁気検知式のセンサを支持した状態で、このセンサの検出部を、前記エンコーダ1の外周面に微小隙間を介して近接対向させる。
【0006】
この状態で、前記主軸と共に前記エンコーダ1が回転すると、前記センサの検出部が、被検出面である、このエンコーダ1の外周面を走査する。このエンコーダ1の外周面の磁気特性は、前記第一、第二各透孔2a、2bの存在により円周方向に変化している為、前記エンコーダ1の回転に伴って前記センサの出力信号が変化する。例えば、このセンサの検出部が前記エンコーダ1の外周面のうち、図11の(a)の鎖線イ位置を走査すると、このセンサの出力信号が、この図11の(b)に示す様に変化する。この図11の(b)で、円周方向に隣り合う1対の特性変化組み合わせ部3、3を構成する1対の第一透孔2a、2aに基づいて発生する1対のパルス間の周期を全周期L1とする。又、同じ特性変化組み合わせ部3を構成する第一、第二両透孔2a、2bに基づいて発生する1対のパルス間の周期を部分周期s1とする。前記センサの検出部が前記鎖線イ位置を走査する場合には、この部分周期s1と前記全周期L1との比であるパルス周期比s1/L1は、比較的小さな値となる。これに対して、前記センサの検出部が図11の(a)の鎖線ロ位置を走査すると、このセンサの出力信号が、この図11の(c)に示す様に変化する。そして、部分周期s2と全周期L2との比であるパルス周期比s2/L2は、比較的大きな値となる。
【0007】
この様に、前記センサの出力信号に関するパルス周期比s/Lは、このセンサの検出部が走査する、前記エンコーダ1の外周面の軸方向位置(被検出面の幅方向位置)により変化する。そして、この軸方向位置は、エンコーダを固定した回転部材の軸方向変位により変化する。従って、前記センサの出力信号を処理する為の演算器に、前記回転部材の軸方向変位量を算出する為の演算式を組み込んだソフトウェアをインストールしておけば、前記演算器により、前記パルス周期比s/Lに基づいて、前記回転部材の軸方向変位量を算出できる。又、この回転部材が、予圧を付与された転がり軸受により回転自在に支持されていた場合、この回転部材の軸方向変位量は、この回転部材に加わるアキシアル荷重の大きさに応じて変化する。言い換えれば、この回転部材に加わるアキシアル荷重と、この回転部材の軸方向変位量との間には、反復・再現性のある相関関係が存在する。そして、この相関関係は、転がり軸受の分野で広く知られている弾性接触理論により計算で求められる他、実験によっても求められる。従って、前記演算器に、前記相関関係を勘案した、前記アキシアル荷重を算出する為の演算式を組み込んだソフトウェアをインストールしておけば、前記演算器により、前記パルス周期比s/Lに基づいて、前記回転部材に加わるアキシアル荷重を算出できる。
【0008】
ところで、前記主軸の先端部に固定する工具が、例えばフライスやエンドミルである場合、この主軸には、アキシアル荷重も加わるが、それよりも大きな割合でラジアル荷重やモーメントが加わる。従って、この様な場合には、前記アキシアル荷重だけでなく、前記ラジアル荷重やモーメント(或いは、これらに基づいて発生した前記主軸の変位や傾き)を測定して、これらを前述した加工送り速度の調整等に利用する事が、この調整等をより高度に行う観点から好ましいと言える。一方、特許文献3には、回転部材に加わる、アキシアル荷重(変位)と、2方向のラジアル荷重(変位)と、2方向のモーメント(傾き)との、合計5方向の荷重及びモーメント(変位及び傾き)を測定可能な物理量測定装置に関する発明が記載されている。従って、この発明を工作機械に適用すれば、前述した加工送り速度の調整等をより高度に行える。
【0009】
ところが、上述の特許文献3に記載された発明の場合には、エンコーダと組み合わせて使用するセンサの個数を、2個1組のものを3組、合計6個使用する必要がある。この為、これら各センサの費用が嵩む。又、総てのセンサの検出部を、前記エンコーダの被検出面の所定箇所に精度良く対向させる事が難しくなり、その分だけ、生産性が悪化する可能性がある。
尚、本発明に関連する他の先行技術文献として、以下の特許文献4が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−187048号公報
【特許文献2】特開2006−317420号公報
【特許文献3】特開2008−64731号公報
【特許文献4】特開2010−54256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、エンコーダと組み合わせて使用するセンサの個数を6個よりも少なくして、しかも、回転部材の5方向の変位及び傾き(この回転部材に加わる5方向の外力)を測定できる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の回転機械用物理量測定装置は、回転機械と、エンコーダと、センサと、演算器とを備える。
このうちの回転機械は、回転しない静止部材、及び、それぞれが予圧を付与された複数の転がり軸受により、この静止部材に対して回転自在に支持された回転部材を備える。
又、前記エンコーダは、前記回転部材の一部に支持固定されており、この回転部材と同心の被検出面を有する。この被検出面は、複数の特性変化組み合わせ部を、円周方向に等ピッチで配置したもので、これら各特性変化組み合わせ部はそれぞれ、円周方向に関して所定ピッチで離隔配置された、前記被検出面の幅方向に対する正負の符号をも考慮した傾斜角度が互いに異なる第一特性変化部と第二特性変化部とから成る。
又、前記センサは、その検出部を前記被検出面に対向させた状態で、前記静止部材に支持されている。そして、前記各特性変化部が、前記被検出面のうちで前記検出部が対向する部分を通過する瞬間に、出力信号を変化させる。
更に、前記演算器は、前記センサの出力信号を処理する。
特に、本発明の回転機械用物理量測定装置に於いては、前記センサを3個のみ備えると共に、これら各センサの検出部を、前記被検出面のうちで円周方向の位相が互いに異なる部分に対向させている。又、前記演算器は、前記各センサの出力信号から得られる情報に基づいて、前記静止部材に対する前記エンコーダの、互いに直交する3方向の変位、及び、互いに直交する2方向の傾きのうちの、一部又は全部を算出する機能を有する。
尚、前記被検出面に対する前記各センサの検出部の対向位置は、この被検出面の円周方向等間隔位置とするのが好ましい。
又、前記互いに直交する3方向の変位としては、例えば、互いに直交するx軸、y軸、z軸のうちのy軸を、前記静止部材の中心軸に一致させた三次元直交座標系を設定した場合の、x軸方向の変位xと、y軸方向の変位yと、z軸方向の変位zとを採用する事ができる。又、前記互いに直交する2方向の傾きとしては、前記三次元直交座標系を設定した場合の、x軸周りの傾きφxと、z軸周りの傾きφzとを採用する事ができる。
【0013】
本発明を実施する場合には、例えば請求項2に記載した発明の様に、前記演算器が前記3方向の変位及び前記2方向の傾きのうちの一部又は全部を算出する際に使用する、前記各センサの出力信号から得られる情報として、これら各センサの出力信号のパルス周期比と、これら各センサの出力信号同士の間に存在する、これら各センサの出力信号中に含まれる前記第一特性変化部に基づいて発生したパルス同士の間の位相差比とを採用する。
【0014】
又、本発明を実施する場合に、好ましくは、請求項3に記載した発明の様に、前記被検出面の幅方向に対する前記第一特性変化部の傾斜角度を、零とする。即ち、前記第二特性変化部のみを、前記被検出面の幅方向に対して傾斜させる。
【0015】
更に、本発明を実施する場合に、好ましくは、請求項4に記載した発明の様に、前記演算器に、前記互いに直交する3方向の変位及び互いに直交する2方向の傾きのうちの一部又は全部に基づいて、前記静止部材と前記回転部材との間に作用する外力(例えば、前記三次元直交座標系を設定した場合の、x軸方向の荷重Fx、y軸方向の荷重Fy、z軸方向の荷重Fz、x軸周りのモーメントMx、z軸周りのモーメントMzのうちの一部又は全部)を算出する機能を持たせる。
【発明の効果】
【0016】
上述の様に構成する本発明の回転機械用物理量測定装置によれば、静止部材に対するエンコーダ(回転部材のうちでこのエンコーダを支持固定した部分)の、互いに直交する3方向の変位、及び、互いに直交する2方向の傾きのうちの、一部又は全部を求められる。これに加えて、請求項4に記載した発明の場合には、前記静止部材と前記回転部材との間に作用する外力を求められる。特に、本発明の場合には、前記エンコーダと組み合わせて使用するセンサの個数を、3個のみと少なくできる。この為、これら各センサの費用を抑えられる。更には、総てのセンサの検出部を、前記エンコーダの被検出面の所定箇所に精度良く対向させる事が比較的容易となり、その分だけ生産性を良くする事ができる。
又、請求項3に記載した発明の構成を採用すれば、被検出面の幅方向に対する第一、第二両特性変化部の傾斜角度をそれぞれ零としない構成を採用する場合に比べて、前記エンコーダの変位を算出する際の演算量を少なくできる。この為、この変位の演算速度の向上や、前記演算器のスペックダウンによる低コスト化を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す断面図。
【図2】エンコーダと3個のセンサとの配置関係を示す略斜視図。
【図3】エンコーダの被検出面の一部を示す展開図。
【図4】センサユニットを取り出して、先端のセンサ装着部を被覆していない状態(a)と被覆した状態(b)とで示す斜視図。
【図5】センサの円周方向位置を示す図。
【図6】1個のセンサの出力信号を、エンコーダに5方向の変位及び傾きが生じる前の状態(a)と後の状態(b)とで示す図。
【図7】2個のセンサの出力信号同士の間に位相差が生じている状態を示す図。
【図8】本発明の実施の形態の第2例を示す、エンコーダと3個のセンサとの配置関係を示す略斜視図。
【図9】エンコーダの被検出面の一部を示す展開図。
【図10】従来から知られているエンコーダの斜視図。
【図11】センサの出力信号に基づいて物理量を測定できる理由を説明する為の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[実施の形態の第1例]
図1〜7により、請求項1、2、4に対応する、本発明の実施の形態の第1例に就いて説明する。本例は、工作機械を構成する、回転部材である主軸4の変位及び傾きと、この主軸4に作用する外力である荷重及びモーメントとを測定する為の構造に、本発明を適用した例である。前記工作機械は、静止部材であるハウジング5の内径側に前記主軸4を、多列転がり軸受ユニット6により回転自在に支持すると共に、電動モータ7により、前記主軸4を回転駆動自在としている。前記多列転がり軸受ユニット6を構成する複数個の転がり軸受8a〜8dのうち、先端寄りに配置した2個の転がり軸受8a、8bと、基端寄りに配置した2個の転がり軸受8c、8dとには、互いに逆向きの接触角を付与すると共に、これら各転がり軸受8a〜8dに、予圧を付与している。
【0019】
前記工作機械の運転時には、前記主軸4の先端部(図1の左端部)に固定した図示しない工具を、適切な回転速度で回転させつつ被加工物に押し付け、この被加工物に、切削等の加工を施す。この様にして加工を施す際に、前記主軸4には、この被加工物に前記工具を押し付ける事の反作用として、各方向の荷重及びモーメントが加わる。本例の構造では、これら各方向の荷重及びモーメントに基づく、前記主軸4の変位及び傾きと、必要に応じてこれら各方向の荷重及びモーメントとを求められる様にしている。この為に本例の構造は、1個のエンコーダ1aと、3個のセンサユニット9と、図示しない演算器とを備える。
【0020】
このうちのエンコーダ1aは、前記主軸4の中間部先端寄り部分で、前記多列転がり軸受ユニット6を構成する転がり軸受8b、8c同士の間に外嵌固定している。このエンコーダ1aは、内輪間座を兼ねるもので、鋼等の磁性金属により造り、全体を円筒状としている。そして、被検出面である前記エンコーダ1aの外周面の軸方向中央部に、複数の特性変化組み合わせ部3a、3aを、円周方向に関して等ピッチで形成している。これら各特性変化組み合わせ部3a、3aはそれぞれ、円周方向に関して所定ピッチで離隔配置された、第一特性変化部である直線状の第一凹溝11aと、第二特性変化部である直線状の第二凹溝11bとから成る。これら第一凹溝11aと第二凹溝11bとは、前記エンコーダ1aの軸方向に対して、互いに逆方向に、同じ角度で傾斜している。別な言い方をすれば、前記第一透孔2aと前記第二透孔2bとの、前記エンコーダ1aの軸方向に対する傾斜角度は、絶対値が互いに等しく、且つ、正負の符号(傾斜方向)が互いに逆になっている。
【0021】
又、前記3個のセンサユニット9、9はそれぞれ、図4に詳示する様に、合成樹脂製のホルダ12の先端部に、センサ10を包埋して成る。このセンサ10は、検出部を構成するホールIC、ホール素子、MR素子、GMR素子等の磁気検知素子と、永久磁石とから成る。この様な3個のセンサユニット9、9は、それぞれのセンサ10、10の検出部を、前記被検出面の円周方向等間隔の3箇所に近接対向させた状態で、前記ハウジング5に支持固定している。この状態で、前記主軸4と共に前記エンコーダ1aが回転すると、前記各センサ10、10の検出部が、このエンコーダ1の外周面を走査する。このエンコーダ1の外周面の磁気特性は、前記第一、第二各凹溝11a、11bの存在により円周方向に変化している為、前記エンコーダ1aの回転に伴って前記各センサ10、10の出力信号が変化する。
【0022】
又、本例の場合には、上述の様なエンコーダ1a及びセンサユニット9、9を組み付けた工作機械に関して、互いに直交するx軸、y軸、z軸から成る三次元座標系を設定している。この三次元座標系のy軸は、前記ハウジング5の中心軸に一致する、図1に於ける左右方向軸としており、同じくx軸は、図1に於ける表裏方向の軸としており、同じくz軸は、図1に於ける上下方向の軸としている。尚、本例の場合、前記主軸4に外力が作用していない中立状態で、この主軸4の中心軸は、前記ハウジング5の中心軸と一致している。この為、この中立状態で、前記主軸4の中心軸は、y軸に一致した軸となる。又、前記三次元座標系の原点Oは、前記中立状態に於ける、前記エンコーダ1aの幾何中心点に配置している。但し、図1では、図示の便宜上、前記原点Oを、y軸上で、前記エンコーダ1aの幾何中心点から左側に大きく外れた位置に配置している。又、y軸を中心とする円周方向位置(角度)θを、図5に示す様に設定している。本例の場合、前記3個のセンサ10、10の検出部は、y軸方向に関して零の位置に配置すると共に、円周方向に関してθ1=0度、θ2=120度、θ3=240度の3箇所に配置している。
【0023】
又、前記演算器は、前記各センサ10、10の出力信号から得られる情報に基づいて、前記ハウジング5に対する前記エンコーダ1aの、x軸方向の変位xと、y軸方向の変位yと、z軸方向の変位zと、x軸周りの傾きφxと、z軸周りの傾きφzとを、所定の演算式により算出する機能を有する。そこで、先ず、この所定の演算式の内容に就いて、以下に説明する。
【0024】
今、前記エンコーダ1aの外周面のうち、θ1=0度の部分のy軸方向変位をy1とし、θ2=120度の部分のy軸方向変位をy2とし、θ3=240度の部分のy軸方向変位をy3とする。この場合に、これら各変位yi(i=1、2、3)と、前記変位y及び傾きφx、φzとの間には、次の(1)式の関係が成立する。
【数1】
この(1)式の右辺中のR、δの意味は、それぞれ以下の通りである。
R:被検出面である前記エンコーダ1aの外周面の半径。
δ:前記各センサ10、10の検出部のz軸からのy軸方向のずれ量。
本例の場合、このうちのずれ量δは零(δ=0)である(実際には不可避な寸法誤差や組付誤差がある為、δ≠0となる事も予想されるが、その場合でもδは十分に小さな値となる為、δ=0と仮定しても、その影響を無視できる)。そうすると、前記(1)式は、次の(2)式で表す事ができる。
【数2】
又、この(2)式を変形して、次の(3)式が得られる。
【数3】
更に、この(3)式に、θ1=0度、θ2=120度、θ3=240度を代入すると、次の(4)式が得られる。
【数4】
【0025】
一方、前記エンコーダ1aに5方向の変位x、y、z及び傾きφx、φzが生じると、これに伴い、前記各センサ10、10の出力信号の位相が、それぞれ図6の(a)→(b)に例示する様に変化する。ここで、この出力信号中に含まれる前記各第一凹溝11a、11aに基づいて発生したパルスp1の位相変化量である、自己位相差kに着目し、この自己位相差kと全周期Lとの比k/Lを、自己位相差比ε(θi)(i=1、2、3)と定義する。この様な自己位相差比ε(θi)と、前記5方向の変位x、y、z及び傾きφx、φzとの間には、次の(5)式の関係が成立する。
【数5】
この(5)式の右辺中のP、αの意味は、それぞれ以下の通りである。
P:前記エンコーダ1aの円周方向に関する前記各特性変化組み合わせ部3a、3aのピッチ。
α:第一凹溝11a及び第二凹溝11bの、前記エンコーダ1aの軸方向に対する傾斜角度(図示の例では、45度)。
尚、前記(5)式の右辺中のδは、前述した通り、零(δ=0)である。前記各センサ10、10の出力信号に関する自己位相差比ε(0)、ε(120)、ε(240)は、前記(5)式中のθiに、それぞれの配置角度θ1=0度、θ2=120度、θ3=240度を代入すると共に、同式中のα、δに、α=45度、δ=0を代入する事により、次の(6)〜(8)式で表される。
【数6】
【数7】
【数8】
【0026】
又、前記エンコーダ1aに5方向の変位x、y、z及び傾きφx、φzが生じると、これに伴い、前記3個のセンサ10、10のうちから任意に選択される、2個のセンサ10、10の出力信号同士の間(これら両出力信号中に含まれる前記各第一凹溝11a、11aに基づいて発生したパルスp1、p1同士の間)に、それぞれ図7に例示する様な位相差(相互位相差)mが生じる。ここで、この相互位相差mと全周期Lとの比m/Lを、相互位相差比と定義する。この様な相互位相差比は、前記(6)〜(8)式のうちから任意に選択される、2つの式同士の差を取る事によって、例えば、次の(9)式及び(10)式の様に表す事ができる。
【数9】
【数10】
このうちの(9)式は、θ1=0度の位置とθ2=120度の位置とに配置した2個のセンサ10、10の出力信号同士の間の相互位相差比「ε(120)−ε(0)」を表す式であり、前記(10)式は、θ1=0度の位置とθ3=240度の位置とに配置した2個のセンサ10、10の出力信号同士の間の相互位相差比「ε(240)−ε(0)」を表す式である。これら(9)式及び(10)式をまとめて整理すると、次の(11)式が得られる。
【数11】
更に、この(11)式を変形して、次の(12)式が得られる。
【数12】
【0027】
本例の場合、前記演算器は、前記各センサ10、10の出力信号から得られる情報に基づいて、前記5方向の変位x、y、z及び傾きφx、φzを、前記(4)式及び前記(12)式により算出する。
この際に、前記演算器は、先ず、前記エンコーダ1aの外周面の円周方向位置θi(i=1、2、3)に於ける変位yi(i=1、2、3)を、同じ円周方向位置θi(i=1、2、3)に存在するセンサ10の出力信号のパルス周期比s/L(図11参照)に基づいて算出する。尚、この際の各変位yi(i=1、2、3)の算出原理は、前述の図10〜11に示した従来構造に於ける軸方向変位の算出原理と同様である。そして、この様に算出した各変位yi(i=1、2、3)を、前記(4)式の右辺に代入する事により、前記変位y及び傾きφx、φzを算出する。
更に、前記演算器は、θ1=0度の位置とθ2=120度の位置とに配置した2個のセンサ10、10の出力信号同士の間の相互位相差比「ε(120)−ε(0)」と、θ1=0度の位置とθ3=240度の位置とに配置した2個のセンサ10、10の出力信号同士の間の相互位相差比「ε(240)−ε(0)」とを、それぞれ対象となる2個のセンサ10、10に関する図7の比m/Lを計算する事により、算出する。そして、この様に算出した各相互位相差比「ε(120)−ε(0)」、「ε(240)−ε(0)」と、前記(4)式により算出した傾きφx、φzとを、それぞれ前記(12)式の右辺に代入する事により、前記変位x、zを算出する。
【0028】
又、上述の様に算出した5方向の変位x、y、z及び傾きφx、φzと、これらに対応する、前記主軸4に作用する5方向の荷重及びモーメント(x軸方向の荷重Fx、y軸方向の荷重Fy、z軸方向の荷重Fz、x軸周りのモーメントMx、z軸周りのモーメントMz)との間には、前記多列転がり軸受ユニット6の剛性等により定まる、所定の関係が成立する。そして、この所定の関係は、転がり軸受の分野で広く知られている弾性接触理論等に基づいて計算により求められる他、実験によっても求められる。従って、前記演算器に、前記所定の関係を表した演算式を組み込んだソフトウェアをインストールしておけば、前記演算器により、前記5方向の変位x、y、z及び傾きφx、φzに基づいて、前記5方向の荷重Fx、Fy、Fz及びモーメントMx、Mzを求められる。尚、この様にして5方向の荷重Fx、Fy、Fz及びモーメントMx、Mzを求める方法に就いては、例えば特許文献3、4に詳しく記載されている為、これ以上の詳しい説明は省略する。
【0029】
上述の様に構成する本例の回転機械用物理量測定装置によれば、前記エンコーダ1a(前記主軸4のうちでこのエンコーダ1aを支持固定した部分)の5方向の変位x、y、z及び傾きφx、φzと、前記主軸4に作用する5方向の荷重Fx、Fy、Fz及びモーメントMx、Mzを求められる。特に、本例の場合には、前記エンコーダ1aと組み合わせて使用するセンサ10、10の個数を、3個と少なくできる。この為、これら各センサ10、10の費用を抑えられる。更には、総てのセンサ10、10の検出部を、前記エンコーダ1aの被検出面の所定箇所に精度良く対向させる事が比較的容易となり、その分だけ生産性を良くする事ができる。
【0030】
[実施の形態の第2例]
図8〜9は、請求項1〜4に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合には、被検出面である、エンコーダ1bの外周面に設けた複数の特性変化組み合わせ部3b、3bの構成が、上述した第1例の場合と若干異なる。即ち、本例の場合には、これら各特性変化組み合わせ部3b、3bを構成する第一、第二両凹溝11c、11dのうち、第二凹溝11d、11dのみを、前記エンコーダ1bの軸方向に対して傾斜した方向に形成しており、第一凹溝11c、11cは、前記エンコーダ1bの軸方向に形成している。即ち、このエンコーダ1bの軸方向に対する前記各第一凹溝11c、11cの傾斜角度を、零としている。
【0031】
又、本例の場合、図示しない演算器は、上述した第1例の場合と同様の手順で、即ち、3個のセンサ10、10の出力信号のパルス周期比に基づいて変位yi(i=1、2、3)を算出した後、前記(4)式を利用して、変位y及び傾きφx、φzを算出する。これと共に、前記各センサ10、10の出力信号中に含まれる、前記各第一凹溝11c、11cに基づいて発生したパルスを利用して、変位x、zを算出する。ここで、本例の場合、前記エンコーダ1bの軸方向に対する前記各第一凹溝11c、11cの傾斜角度αは、零(α=0)である。この為、前記(5)式は、同式中のαに、α=0を代入する事により、次の(5′)式で表す事ができる。
【数13】
又、この(5′)式中のδが零(δ=0)である事を考慮すると、この(5′)式に基づいて、前記(6)〜(8)式に対応する、次の(6′)〜(8′)式が得られる。
【数14】
【数15】
【数16】
又、これら(6′)〜(8′)式に基づいて、前記前記(9)式及び(10)式に対応する、次の(9′)式及び(10′)式が得られる。
【数17】
【数18】
又、これら(9′)式及び(10′)式に基づいて、前記(11)式に対応する、次の(11′)式が得られる。
【数19】
更に、この(11′)式に基づいて、前記(12)式に対応する、次の(12′)式が得られる。
【数20】
本例の場合、前記演算器は、前記(12)式の代わりに、この(12′)式を利用して、前記各変位x、zを算出する。
【0032】
この様な本例の回転機械用物理量測定装置の場合、前記各変位x、zを算出する際に利用する、前記(12′)式は、前記(12)式の右辺第2項が省略された式になっている。この為、本例の場合には、上述した第1例の場合と比較して、前記演算器が前記各変位x、zを算出する際の演算量を少なくできる。従って、これら各変位x、zの演算速度の向上や、前記演算器のスペックダウンによる低コスト化を図れる。その他の構成及び作用は、上述した第1例の場合と同様である。
【0033】
尚、上述した各実施の形態では、前記(1)式及び前記(5)式{(5′)式}中のずれ量δを零(δ=0)としたが、設計制約上の理由から、このずれ量δを零にする(或いは、十分に小さくする)事ができない場合には、このずれ量δを含めた状態で、前記(1)式から前記(4)式に相当する式を導出し、且つ、前記(5)式から前記(12)式{前記(5′)式から前記(12′)式}に相当する式を導出すれば良い。
【0034】
又、本発明を実施する場合、磁性材製のエンコーダの被検出面に設ける第一、第二両特性変化部は、凹溝ではなく、例えば透孔や凸部とする事もできる。又、エンコーダは、永久磁石製のもの(被検出面のうち、第一、第二両特性変化部と、それ以外の部分とで、極性を異ならせたもの)を使用する事もできる。この場合には、各センサ側に永久磁石を設ける必要がなくなる。
又、本発明は、工作機械の主軸に関する物理量を測定する構造に限らず、例えば、自動車の車輪支持用転がり軸受ユニットを構成する回転側軌道輪部材に関する物理量を測定する構造に適用する事もできる。
【符号の説明】
【0035】
1、1a エンコーダ
2a、2b 透孔
3、3a、3b 特性変化組み合わせ部
4 主軸
5 ハウジング
6 多列転がり軸受ユニット
7 電動モータ
8a〜8d 転がり軸受
9 センサユニット
10 センサ
11a、11b、11c、11d 凹溝
12 ホルダ
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋盤、フライス盤、マシニングセンタ等の各種工作機械の主軸や、自動車の車輪支持用転がり軸受ユニットを構成する回転側軌道輪部材等の回転部材に生じる変位や傾き、更には、この回転部材に作用する荷重やモーメントと言った物理量を測定する為に利用する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の主軸は、先端部に工具又は被加工物を取り付けた状態で、この工具又は被加工物に高精度な回転運動を与える、その工作機械で最も主要な軸である。この被加工物の加工時に、前記主軸には、加工抵抗に基づく荷重が加わる。この荷重は、加工送り速度が小さくなる程小さくなり、大きくなる程大きくなる。従って、前記荷重が所定範囲に収まる様に前記加工送り速度を調節すれば、この加工送り速度を、加工能率を確保しつつ、前記工具の耐久性、及び、前記被加工物の品質を確保できる適正範囲に収める事ができる。又、前記加工送り速度等の加工条件を一定とした場合に、前記荷重は、前記工具の切削性(切れ味)が劣化する程大きくなる。従って、前記加工条件との関係で前記荷重の大小を観察すれば、前記工具が寿命に達した事を知る事ができて、寿命に達した不良工具で加工を継続する事による、歩留まりの悪化を防止できる。又、前記荷重を、前記加工条件と関連付けて継続的に観察すれば、工具破損等の事故発生時に、その原因を特定する事が可能になる。
【0003】
この様な目的で、工作機械の主軸等の回転軸に加わる荷重を測定する為の装置として従来から、例えば特許文献1に記載された構造のものが知られている。この特許文献1に記載された荷重測定装置は、水晶圧電式の荷重センサを複数個、荷重の作用方向に対して直列に配置し、これら各荷重センサの測定信号に基づいて、切削工具を支持固定した回転軸に加わる荷重(切削抵抗)を測定する様に構成している。この様な特許文献1に記載された荷重測定装置の場合、高価な水晶圧電式の荷重センサを使用する為、荷重測定装置全体としてのコストが嵩む事が避けられない。
【0004】
一方、特許文献2には、水晶圧電式の荷重センサに比べて低コストで調達できる、磁気式のエンコーダとセンサとにより構成する、荷重測定装置付転がり軸受ユニットに関する発明が記載されている。例えば特許文献2の段落[0066]〜[0068]には、図10に示す様なエンコーダ1を使用して、このエンコーダ1を同心に支持した回転部材の軸方向に関する変位量、延いてはこの回転部材に加わるアキシアル荷重を測定する技術が記載されている。
【0005】
前記エンコーダ1は、鋼板等の磁性金属板により全体を円筒状に造られている。このエンコーダ1の軸方向中間部には、それぞれが円周方向に所定のピッチで離隔して設けられた第一特性変化部である第一透孔2aと第二特性変化部である第二透孔2bとから成る、複数の特性変化組み合わせ部3、3が、円周方向に関して等ピッチで設けられている。これら各特性変化組み合わせ部3、3を構成する、前記第一透孔2aと前記第二透孔2bとは、前記エンコーダ1の軸方向に対して、互いに逆方向に、同じ角度で傾斜している。別な言い方をすれば、前記第一透孔2aと前記第二透孔2bとの、前記エンコーダ1の軸方向に対する傾斜角度は、絶対値が互いに等しく、且つ、正負の符号(傾斜方向)が互いに逆になっている。この様なエンコーダ1は、工作機械の主軸の如き回転部材の一部に、この回転部材と同心に固定する。これと共に、この回転部材に隣接する部分に設けられた静止部材の一部に、磁気検知式のセンサを支持した状態で、このセンサの検出部を、前記エンコーダ1の外周面に微小隙間を介して近接対向させる。
【0006】
この状態で、前記主軸と共に前記エンコーダ1が回転すると、前記センサの検出部が、被検出面である、このエンコーダ1の外周面を走査する。このエンコーダ1の外周面の磁気特性は、前記第一、第二各透孔2a、2bの存在により円周方向に変化している為、前記エンコーダ1の回転に伴って前記センサの出力信号が変化する。例えば、このセンサの検出部が前記エンコーダ1の外周面のうち、図11の(a)の鎖線イ位置を走査すると、このセンサの出力信号が、この図11の(b)に示す様に変化する。この図11の(b)で、円周方向に隣り合う1対の特性変化組み合わせ部3、3を構成する1対の第一透孔2a、2aに基づいて発生する1対のパルス間の周期を全周期L1とする。又、同じ特性変化組み合わせ部3を構成する第一、第二両透孔2a、2bに基づいて発生する1対のパルス間の周期を部分周期s1とする。前記センサの検出部が前記鎖線イ位置を走査する場合には、この部分周期s1と前記全周期L1との比であるパルス周期比s1/L1は、比較的小さな値となる。これに対して、前記センサの検出部が図11の(a)の鎖線ロ位置を走査すると、このセンサの出力信号が、この図11の(c)に示す様に変化する。そして、部分周期s2と全周期L2との比であるパルス周期比s2/L2は、比較的大きな値となる。
【0007】
この様に、前記センサの出力信号に関するパルス周期比s/Lは、このセンサの検出部が走査する、前記エンコーダ1の外周面の軸方向位置(被検出面の幅方向位置)により変化する。そして、この軸方向位置は、エンコーダを固定した回転部材の軸方向変位により変化する。従って、前記センサの出力信号を処理する為の演算器に、前記回転部材の軸方向変位量を算出する為の演算式を組み込んだソフトウェアをインストールしておけば、前記演算器により、前記パルス周期比s/Lに基づいて、前記回転部材の軸方向変位量を算出できる。又、この回転部材が、予圧を付与された転がり軸受により回転自在に支持されていた場合、この回転部材の軸方向変位量は、この回転部材に加わるアキシアル荷重の大きさに応じて変化する。言い換えれば、この回転部材に加わるアキシアル荷重と、この回転部材の軸方向変位量との間には、反復・再現性のある相関関係が存在する。そして、この相関関係は、転がり軸受の分野で広く知られている弾性接触理論により計算で求められる他、実験によっても求められる。従って、前記演算器に、前記相関関係を勘案した、前記アキシアル荷重を算出する為の演算式を組み込んだソフトウェアをインストールしておけば、前記演算器により、前記パルス周期比s/Lに基づいて、前記回転部材に加わるアキシアル荷重を算出できる。
【0008】
ところで、前記主軸の先端部に固定する工具が、例えばフライスやエンドミルである場合、この主軸には、アキシアル荷重も加わるが、それよりも大きな割合でラジアル荷重やモーメントが加わる。従って、この様な場合には、前記アキシアル荷重だけでなく、前記ラジアル荷重やモーメント(或いは、これらに基づいて発生した前記主軸の変位や傾き)を測定して、これらを前述した加工送り速度の調整等に利用する事が、この調整等をより高度に行う観点から好ましいと言える。一方、特許文献3には、回転部材に加わる、アキシアル荷重(変位)と、2方向のラジアル荷重(変位)と、2方向のモーメント(傾き)との、合計5方向の荷重及びモーメント(変位及び傾き)を測定可能な物理量測定装置に関する発明が記載されている。従って、この発明を工作機械に適用すれば、前述した加工送り速度の調整等をより高度に行える。
【0009】
ところが、上述の特許文献3に記載された発明の場合には、エンコーダと組み合わせて使用するセンサの個数を、2個1組のものを3組、合計6個使用する必要がある。この為、これら各センサの費用が嵩む。又、総てのセンサの検出部を、前記エンコーダの被検出面の所定箇所に精度良く対向させる事が難しくなり、その分だけ、生産性が悪化する可能性がある。
尚、本発明に関連する他の先行技術文献として、以下の特許文献4が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−187048号公報
【特許文献2】特開2006−317420号公報
【特許文献3】特開2008−64731号公報
【特許文献4】特開2010−54256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述の様な事情に鑑み、エンコーダと組み合わせて使用するセンサの個数を6個よりも少なくして、しかも、回転部材の5方向の変位及び傾き(この回転部材に加わる5方向の外力)を測定できる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の回転機械用物理量測定装置は、回転機械と、エンコーダと、センサと、演算器とを備える。
このうちの回転機械は、回転しない静止部材、及び、それぞれが予圧を付与された複数の転がり軸受により、この静止部材に対して回転自在に支持された回転部材を備える。
又、前記エンコーダは、前記回転部材の一部に支持固定されており、この回転部材と同心の被検出面を有する。この被検出面は、複数の特性変化組み合わせ部を、円周方向に等ピッチで配置したもので、これら各特性変化組み合わせ部はそれぞれ、円周方向に関して所定ピッチで離隔配置された、前記被検出面の幅方向に対する正負の符号をも考慮した傾斜角度が互いに異なる第一特性変化部と第二特性変化部とから成る。
又、前記センサは、その検出部を前記被検出面に対向させた状態で、前記静止部材に支持されている。そして、前記各特性変化部が、前記被検出面のうちで前記検出部が対向する部分を通過する瞬間に、出力信号を変化させる。
更に、前記演算器は、前記センサの出力信号を処理する。
特に、本発明の回転機械用物理量測定装置に於いては、前記センサを3個のみ備えると共に、これら各センサの検出部を、前記被検出面のうちで円周方向の位相が互いに異なる部分に対向させている。又、前記演算器は、前記各センサの出力信号から得られる情報に基づいて、前記静止部材に対する前記エンコーダの、互いに直交する3方向の変位、及び、互いに直交する2方向の傾きのうちの、一部又は全部を算出する機能を有する。
尚、前記被検出面に対する前記各センサの検出部の対向位置は、この被検出面の円周方向等間隔位置とするのが好ましい。
又、前記互いに直交する3方向の変位としては、例えば、互いに直交するx軸、y軸、z軸のうちのy軸を、前記静止部材の中心軸に一致させた三次元直交座標系を設定した場合の、x軸方向の変位xと、y軸方向の変位yと、z軸方向の変位zとを採用する事ができる。又、前記互いに直交する2方向の傾きとしては、前記三次元直交座標系を設定した場合の、x軸周りの傾きφxと、z軸周りの傾きφzとを採用する事ができる。
【0013】
本発明を実施する場合には、例えば請求項2に記載した発明の様に、前記演算器が前記3方向の変位及び前記2方向の傾きのうちの一部又は全部を算出する際に使用する、前記各センサの出力信号から得られる情報として、これら各センサの出力信号のパルス周期比と、これら各センサの出力信号同士の間に存在する、これら各センサの出力信号中に含まれる前記第一特性変化部に基づいて発生したパルス同士の間の位相差比とを採用する。
【0014】
又、本発明を実施する場合に、好ましくは、請求項3に記載した発明の様に、前記被検出面の幅方向に対する前記第一特性変化部の傾斜角度を、零とする。即ち、前記第二特性変化部のみを、前記被検出面の幅方向に対して傾斜させる。
【0015】
更に、本発明を実施する場合に、好ましくは、請求項4に記載した発明の様に、前記演算器に、前記互いに直交する3方向の変位及び互いに直交する2方向の傾きのうちの一部又は全部に基づいて、前記静止部材と前記回転部材との間に作用する外力(例えば、前記三次元直交座標系を設定した場合の、x軸方向の荷重Fx、y軸方向の荷重Fy、z軸方向の荷重Fz、x軸周りのモーメントMx、z軸周りのモーメントMzのうちの一部又は全部)を算出する機能を持たせる。
【発明の効果】
【0016】
上述の様に構成する本発明の回転機械用物理量測定装置によれば、静止部材に対するエンコーダ(回転部材のうちでこのエンコーダを支持固定した部分)の、互いに直交する3方向の変位、及び、互いに直交する2方向の傾きのうちの、一部又は全部を求められる。これに加えて、請求項4に記載した発明の場合には、前記静止部材と前記回転部材との間に作用する外力を求められる。特に、本発明の場合には、前記エンコーダと組み合わせて使用するセンサの個数を、3個のみと少なくできる。この為、これら各センサの費用を抑えられる。更には、総てのセンサの検出部を、前記エンコーダの被検出面の所定箇所に精度良く対向させる事が比較的容易となり、その分だけ生産性を良くする事ができる。
又、請求項3に記載した発明の構成を採用すれば、被検出面の幅方向に対する第一、第二両特性変化部の傾斜角度をそれぞれ零としない構成を採用する場合に比べて、前記エンコーダの変位を算出する際の演算量を少なくできる。この為、この変位の演算速度の向上や、前記演算器のスペックダウンによる低コスト化を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す断面図。
【図2】エンコーダと3個のセンサとの配置関係を示す略斜視図。
【図3】エンコーダの被検出面の一部を示す展開図。
【図4】センサユニットを取り出して、先端のセンサ装着部を被覆していない状態(a)と被覆した状態(b)とで示す斜視図。
【図5】センサの円周方向位置を示す図。
【図6】1個のセンサの出力信号を、エンコーダに5方向の変位及び傾きが生じる前の状態(a)と後の状態(b)とで示す図。
【図7】2個のセンサの出力信号同士の間に位相差が生じている状態を示す図。
【図8】本発明の実施の形態の第2例を示す、エンコーダと3個のセンサとの配置関係を示す略斜視図。
【図9】エンコーダの被検出面の一部を示す展開図。
【図10】従来から知られているエンコーダの斜視図。
【図11】センサの出力信号に基づいて物理量を測定できる理由を説明する為の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[実施の形態の第1例]
図1〜7により、請求項1、2、4に対応する、本発明の実施の形態の第1例に就いて説明する。本例は、工作機械を構成する、回転部材である主軸4の変位及び傾きと、この主軸4に作用する外力である荷重及びモーメントとを測定する為の構造に、本発明を適用した例である。前記工作機械は、静止部材であるハウジング5の内径側に前記主軸4を、多列転がり軸受ユニット6により回転自在に支持すると共に、電動モータ7により、前記主軸4を回転駆動自在としている。前記多列転がり軸受ユニット6を構成する複数個の転がり軸受8a〜8dのうち、先端寄りに配置した2個の転がり軸受8a、8bと、基端寄りに配置した2個の転がり軸受8c、8dとには、互いに逆向きの接触角を付与すると共に、これら各転がり軸受8a〜8dに、予圧を付与している。
【0019】
前記工作機械の運転時には、前記主軸4の先端部(図1の左端部)に固定した図示しない工具を、適切な回転速度で回転させつつ被加工物に押し付け、この被加工物に、切削等の加工を施す。この様にして加工を施す際に、前記主軸4には、この被加工物に前記工具を押し付ける事の反作用として、各方向の荷重及びモーメントが加わる。本例の構造では、これら各方向の荷重及びモーメントに基づく、前記主軸4の変位及び傾きと、必要に応じてこれら各方向の荷重及びモーメントとを求められる様にしている。この為に本例の構造は、1個のエンコーダ1aと、3個のセンサユニット9と、図示しない演算器とを備える。
【0020】
このうちのエンコーダ1aは、前記主軸4の中間部先端寄り部分で、前記多列転がり軸受ユニット6を構成する転がり軸受8b、8c同士の間に外嵌固定している。このエンコーダ1aは、内輪間座を兼ねるもので、鋼等の磁性金属により造り、全体を円筒状としている。そして、被検出面である前記エンコーダ1aの外周面の軸方向中央部に、複数の特性変化組み合わせ部3a、3aを、円周方向に関して等ピッチで形成している。これら各特性変化組み合わせ部3a、3aはそれぞれ、円周方向に関して所定ピッチで離隔配置された、第一特性変化部である直線状の第一凹溝11aと、第二特性変化部である直線状の第二凹溝11bとから成る。これら第一凹溝11aと第二凹溝11bとは、前記エンコーダ1aの軸方向に対して、互いに逆方向に、同じ角度で傾斜している。別な言い方をすれば、前記第一透孔2aと前記第二透孔2bとの、前記エンコーダ1aの軸方向に対する傾斜角度は、絶対値が互いに等しく、且つ、正負の符号(傾斜方向)が互いに逆になっている。
【0021】
又、前記3個のセンサユニット9、9はそれぞれ、図4に詳示する様に、合成樹脂製のホルダ12の先端部に、センサ10を包埋して成る。このセンサ10は、検出部を構成するホールIC、ホール素子、MR素子、GMR素子等の磁気検知素子と、永久磁石とから成る。この様な3個のセンサユニット9、9は、それぞれのセンサ10、10の検出部を、前記被検出面の円周方向等間隔の3箇所に近接対向させた状態で、前記ハウジング5に支持固定している。この状態で、前記主軸4と共に前記エンコーダ1aが回転すると、前記各センサ10、10の検出部が、このエンコーダ1の外周面を走査する。このエンコーダ1の外周面の磁気特性は、前記第一、第二各凹溝11a、11bの存在により円周方向に変化している為、前記エンコーダ1aの回転に伴って前記各センサ10、10の出力信号が変化する。
【0022】
又、本例の場合には、上述の様なエンコーダ1a及びセンサユニット9、9を組み付けた工作機械に関して、互いに直交するx軸、y軸、z軸から成る三次元座標系を設定している。この三次元座標系のy軸は、前記ハウジング5の中心軸に一致する、図1に於ける左右方向軸としており、同じくx軸は、図1に於ける表裏方向の軸としており、同じくz軸は、図1に於ける上下方向の軸としている。尚、本例の場合、前記主軸4に外力が作用していない中立状態で、この主軸4の中心軸は、前記ハウジング5の中心軸と一致している。この為、この中立状態で、前記主軸4の中心軸は、y軸に一致した軸となる。又、前記三次元座標系の原点Oは、前記中立状態に於ける、前記エンコーダ1aの幾何中心点に配置している。但し、図1では、図示の便宜上、前記原点Oを、y軸上で、前記エンコーダ1aの幾何中心点から左側に大きく外れた位置に配置している。又、y軸を中心とする円周方向位置(角度)θを、図5に示す様に設定している。本例の場合、前記3個のセンサ10、10の検出部は、y軸方向に関して零の位置に配置すると共に、円周方向に関してθ1=0度、θ2=120度、θ3=240度の3箇所に配置している。
【0023】
又、前記演算器は、前記各センサ10、10の出力信号から得られる情報に基づいて、前記ハウジング5に対する前記エンコーダ1aの、x軸方向の変位xと、y軸方向の変位yと、z軸方向の変位zと、x軸周りの傾きφxと、z軸周りの傾きφzとを、所定の演算式により算出する機能を有する。そこで、先ず、この所定の演算式の内容に就いて、以下に説明する。
【0024】
今、前記エンコーダ1aの外周面のうち、θ1=0度の部分のy軸方向変位をy1とし、θ2=120度の部分のy軸方向変位をy2とし、θ3=240度の部分のy軸方向変位をy3とする。この場合に、これら各変位yi(i=1、2、3)と、前記変位y及び傾きφx、φzとの間には、次の(1)式の関係が成立する。
【数1】
この(1)式の右辺中のR、δの意味は、それぞれ以下の通りである。
R:被検出面である前記エンコーダ1aの外周面の半径。
δ:前記各センサ10、10の検出部のz軸からのy軸方向のずれ量。
本例の場合、このうちのずれ量δは零(δ=0)である(実際には不可避な寸法誤差や組付誤差がある為、δ≠0となる事も予想されるが、その場合でもδは十分に小さな値となる為、δ=0と仮定しても、その影響を無視できる)。そうすると、前記(1)式は、次の(2)式で表す事ができる。
【数2】
又、この(2)式を変形して、次の(3)式が得られる。
【数3】
更に、この(3)式に、θ1=0度、θ2=120度、θ3=240度を代入すると、次の(4)式が得られる。
【数4】
【0025】
一方、前記エンコーダ1aに5方向の変位x、y、z及び傾きφx、φzが生じると、これに伴い、前記各センサ10、10の出力信号の位相が、それぞれ図6の(a)→(b)に例示する様に変化する。ここで、この出力信号中に含まれる前記各第一凹溝11a、11aに基づいて発生したパルスp1の位相変化量である、自己位相差kに着目し、この自己位相差kと全周期Lとの比k/Lを、自己位相差比ε(θi)(i=1、2、3)と定義する。この様な自己位相差比ε(θi)と、前記5方向の変位x、y、z及び傾きφx、φzとの間には、次の(5)式の関係が成立する。
【数5】
この(5)式の右辺中のP、αの意味は、それぞれ以下の通りである。
P:前記エンコーダ1aの円周方向に関する前記各特性変化組み合わせ部3a、3aのピッチ。
α:第一凹溝11a及び第二凹溝11bの、前記エンコーダ1aの軸方向に対する傾斜角度(図示の例では、45度)。
尚、前記(5)式の右辺中のδは、前述した通り、零(δ=0)である。前記各センサ10、10の出力信号に関する自己位相差比ε(0)、ε(120)、ε(240)は、前記(5)式中のθiに、それぞれの配置角度θ1=0度、θ2=120度、θ3=240度を代入すると共に、同式中のα、δに、α=45度、δ=0を代入する事により、次の(6)〜(8)式で表される。
【数6】
【数7】
【数8】
【0026】
又、前記エンコーダ1aに5方向の変位x、y、z及び傾きφx、φzが生じると、これに伴い、前記3個のセンサ10、10のうちから任意に選択される、2個のセンサ10、10の出力信号同士の間(これら両出力信号中に含まれる前記各第一凹溝11a、11aに基づいて発生したパルスp1、p1同士の間)に、それぞれ図7に例示する様な位相差(相互位相差)mが生じる。ここで、この相互位相差mと全周期Lとの比m/Lを、相互位相差比と定義する。この様な相互位相差比は、前記(6)〜(8)式のうちから任意に選択される、2つの式同士の差を取る事によって、例えば、次の(9)式及び(10)式の様に表す事ができる。
【数9】
【数10】
このうちの(9)式は、θ1=0度の位置とθ2=120度の位置とに配置した2個のセンサ10、10の出力信号同士の間の相互位相差比「ε(120)−ε(0)」を表す式であり、前記(10)式は、θ1=0度の位置とθ3=240度の位置とに配置した2個のセンサ10、10の出力信号同士の間の相互位相差比「ε(240)−ε(0)」を表す式である。これら(9)式及び(10)式をまとめて整理すると、次の(11)式が得られる。
【数11】
更に、この(11)式を変形して、次の(12)式が得られる。
【数12】
【0027】
本例の場合、前記演算器は、前記各センサ10、10の出力信号から得られる情報に基づいて、前記5方向の変位x、y、z及び傾きφx、φzを、前記(4)式及び前記(12)式により算出する。
この際に、前記演算器は、先ず、前記エンコーダ1aの外周面の円周方向位置θi(i=1、2、3)に於ける変位yi(i=1、2、3)を、同じ円周方向位置θi(i=1、2、3)に存在するセンサ10の出力信号のパルス周期比s/L(図11参照)に基づいて算出する。尚、この際の各変位yi(i=1、2、3)の算出原理は、前述の図10〜11に示した従来構造に於ける軸方向変位の算出原理と同様である。そして、この様に算出した各変位yi(i=1、2、3)を、前記(4)式の右辺に代入する事により、前記変位y及び傾きφx、φzを算出する。
更に、前記演算器は、θ1=0度の位置とθ2=120度の位置とに配置した2個のセンサ10、10の出力信号同士の間の相互位相差比「ε(120)−ε(0)」と、θ1=0度の位置とθ3=240度の位置とに配置した2個のセンサ10、10の出力信号同士の間の相互位相差比「ε(240)−ε(0)」とを、それぞれ対象となる2個のセンサ10、10に関する図7の比m/Lを計算する事により、算出する。そして、この様に算出した各相互位相差比「ε(120)−ε(0)」、「ε(240)−ε(0)」と、前記(4)式により算出した傾きφx、φzとを、それぞれ前記(12)式の右辺に代入する事により、前記変位x、zを算出する。
【0028】
又、上述の様に算出した5方向の変位x、y、z及び傾きφx、φzと、これらに対応する、前記主軸4に作用する5方向の荷重及びモーメント(x軸方向の荷重Fx、y軸方向の荷重Fy、z軸方向の荷重Fz、x軸周りのモーメントMx、z軸周りのモーメントMz)との間には、前記多列転がり軸受ユニット6の剛性等により定まる、所定の関係が成立する。そして、この所定の関係は、転がり軸受の分野で広く知られている弾性接触理論等に基づいて計算により求められる他、実験によっても求められる。従って、前記演算器に、前記所定の関係を表した演算式を組み込んだソフトウェアをインストールしておけば、前記演算器により、前記5方向の変位x、y、z及び傾きφx、φzに基づいて、前記5方向の荷重Fx、Fy、Fz及びモーメントMx、Mzを求められる。尚、この様にして5方向の荷重Fx、Fy、Fz及びモーメントMx、Mzを求める方法に就いては、例えば特許文献3、4に詳しく記載されている為、これ以上の詳しい説明は省略する。
【0029】
上述の様に構成する本例の回転機械用物理量測定装置によれば、前記エンコーダ1a(前記主軸4のうちでこのエンコーダ1aを支持固定した部分)の5方向の変位x、y、z及び傾きφx、φzと、前記主軸4に作用する5方向の荷重Fx、Fy、Fz及びモーメントMx、Mzを求められる。特に、本例の場合には、前記エンコーダ1aと組み合わせて使用するセンサ10、10の個数を、3個と少なくできる。この為、これら各センサ10、10の費用を抑えられる。更には、総てのセンサ10、10の検出部を、前記エンコーダ1aの被検出面の所定箇所に精度良く対向させる事が比較的容易となり、その分だけ生産性を良くする事ができる。
【0030】
[実施の形態の第2例]
図8〜9は、請求項1〜4に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合には、被検出面である、エンコーダ1bの外周面に設けた複数の特性変化組み合わせ部3b、3bの構成が、上述した第1例の場合と若干異なる。即ち、本例の場合には、これら各特性変化組み合わせ部3b、3bを構成する第一、第二両凹溝11c、11dのうち、第二凹溝11d、11dのみを、前記エンコーダ1bの軸方向に対して傾斜した方向に形成しており、第一凹溝11c、11cは、前記エンコーダ1bの軸方向に形成している。即ち、このエンコーダ1bの軸方向に対する前記各第一凹溝11c、11cの傾斜角度を、零としている。
【0031】
又、本例の場合、図示しない演算器は、上述した第1例の場合と同様の手順で、即ち、3個のセンサ10、10の出力信号のパルス周期比に基づいて変位yi(i=1、2、3)を算出した後、前記(4)式を利用して、変位y及び傾きφx、φzを算出する。これと共に、前記各センサ10、10の出力信号中に含まれる、前記各第一凹溝11c、11cに基づいて発生したパルスを利用して、変位x、zを算出する。ここで、本例の場合、前記エンコーダ1bの軸方向に対する前記各第一凹溝11c、11cの傾斜角度αは、零(α=0)である。この為、前記(5)式は、同式中のαに、α=0を代入する事により、次の(5′)式で表す事ができる。
【数13】
又、この(5′)式中のδが零(δ=0)である事を考慮すると、この(5′)式に基づいて、前記(6)〜(8)式に対応する、次の(6′)〜(8′)式が得られる。
【数14】
【数15】
【数16】
又、これら(6′)〜(8′)式に基づいて、前記前記(9)式及び(10)式に対応する、次の(9′)式及び(10′)式が得られる。
【数17】
【数18】
又、これら(9′)式及び(10′)式に基づいて、前記(11)式に対応する、次の(11′)式が得られる。
【数19】
更に、この(11′)式に基づいて、前記(12)式に対応する、次の(12′)式が得られる。
【数20】
本例の場合、前記演算器は、前記(12)式の代わりに、この(12′)式を利用して、前記各変位x、zを算出する。
【0032】
この様な本例の回転機械用物理量測定装置の場合、前記各変位x、zを算出する際に利用する、前記(12′)式は、前記(12)式の右辺第2項が省略された式になっている。この為、本例の場合には、上述した第1例の場合と比較して、前記演算器が前記各変位x、zを算出する際の演算量を少なくできる。従って、これら各変位x、zの演算速度の向上や、前記演算器のスペックダウンによる低コスト化を図れる。その他の構成及び作用は、上述した第1例の場合と同様である。
【0033】
尚、上述した各実施の形態では、前記(1)式及び前記(5)式{(5′)式}中のずれ量δを零(δ=0)としたが、設計制約上の理由から、このずれ量δを零にする(或いは、十分に小さくする)事ができない場合には、このずれ量δを含めた状態で、前記(1)式から前記(4)式に相当する式を導出し、且つ、前記(5)式から前記(12)式{前記(5′)式から前記(12′)式}に相当する式を導出すれば良い。
【0034】
又、本発明を実施する場合、磁性材製のエンコーダの被検出面に設ける第一、第二両特性変化部は、凹溝ではなく、例えば透孔や凸部とする事もできる。又、エンコーダは、永久磁石製のもの(被検出面のうち、第一、第二両特性変化部と、それ以外の部分とで、極性を異ならせたもの)を使用する事もできる。この場合には、各センサ側に永久磁石を設ける必要がなくなる。
又、本発明は、工作機械の主軸に関する物理量を測定する構造に限らず、例えば、自動車の車輪支持用転がり軸受ユニットを構成する回転側軌道輪部材に関する物理量を測定する構造に適用する事もできる。
【符号の説明】
【0035】
1、1a エンコーダ
2a、2b 透孔
3、3a、3b 特性変化組み合わせ部
4 主軸
5 ハウジング
6 多列転がり軸受ユニット
7 電動モータ
8a〜8d 転がり軸受
9 センサユニット
10 センサ
11a、11b、11c、11d 凹溝
12 ホルダ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転しない静止部材、及び、それぞれが予圧を付与された複数の転がり軸受により、この静止部材に対して回転自在に支持された回転部材を備えた回転機械と、この回転部材の一部に支持固定された、この回転部材と同心の被検出面を有するエンコーダと、検出部をこの被検出面に対向させた状態で前記静止部材に支持されたセンサと、このセンサの出力信号を処理する演算器とを備え、
前記エンコーダの被検出面は、複数の特性変化組み合わせ部を、円周方向に等ピッチで配置したもので、これら各特性変化組み合わせ部はそれぞれ、円周方向に関して所定ピッチで離隔配置された、前記被検出面の幅方向に対する正負の符号をも考慮した傾斜角度が互いに異なる第一特性変化部と第二特性変化部とから成るものであり、
前記センサは、前記各特性変化部が前記被検出面のうちで前記検出部が対向する部分を通過する瞬間に出力信号を変化させるものである
回転機械用物理量測定装置に於いて、
前記センサを3個のみ備えると共に、これら各センサの検出部を、前記被検出面のうちで円周方向の位相が互いに異なる部分に対向させており、
前記演算器は、前記各センサの出力信号から得られる情報に基づいて、前記静止部材に対する前記エンコーダの、互いに直交する3方向の変位及び互いに直交する2方向の傾きのうちの一部又は全部を算出する機能を有する事を特徴とする回転機械用物理量測定装置。
【請求項2】
前記演算器が前記3方向の変位及び前記2方向の傾きのうちの一部又は全部を算出する際に使用する、前記各センサの出力信号から得られる情報として、これら各センサの出力信号のパルス周期比と、これら各センサの出力信号同士の間に存在する、これら各センサの出力信号中に含まれる前記第一特性変化部に基づいて発生したパルス同士の間の位相差比とを採用している、請求項1に記載した回転機械用物理量測定装置。
【請求項3】
前記被検出面の幅方向に対する前記第一特性変化部の傾斜角度を零とした、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載した回転機械用物理量測定装置。
【請求項4】
前記演算器は、前記互いに直交する3方向の変位及び互いに直交する2方向の傾きのうちの一部又は全部に基づいて、前記静止部材と前記回転部材との間に作用する外力を算出する機能を有する、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載した回転部材用物理量測定装置。
【請求項1】
回転しない静止部材、及び、それぞれが予圧を付与された複数の転がり軸受により、この静止部材に対して回転自在に支持された回転部材を備えた回転機械と、この回転部材の一部に支持固定された、この回転部材と同心の被検出面を有するエンコーダと、検出部をこの被検出面に対向させた状態で前記静止部材に支持されたセンサと、このセンサの出力信号を処理する演算器とを備え、
前記エンコーダの被検出面は、複数の特性変化組み合わせ部を、円周方向に等ピッチで配置したもので、これら各特性変化組み合わせ部はそれぞれ、円周方向に関して所定ピッチで離隔配置された、前記被検出面の幅方向に対する正負の符号をも考慮した傾斜角度が互いに異なる第一特性変化部と第二特性変化部とから成るものであり、
前記センサは、前記各特性変化部が前記被検出面のうちで前記検出部が対向する部分を通過する瞬間に出力信号を変化させるものである
回転機械用物理量測定装置に於いて、
前記センサを3個のみ備えると共に、これら各センサの検出部を、前記被検出面のうちで円周方向の位相が互いに異なる部分に対向させており、
前記演算器は、前記各センサの出力信号から得られる情報に基づいて、前記静止部材に対する前記エンコーダの、互いに直交する3方向の変位及び互いに直交する2方向の傾きのうちの一部又は全部を算出する機能を有する事を特徴とする回転機械用物理量測定装置。
【請求項2】
前記演算器が前記3方向の変位及び前記2方向の傾きのうちの一部又は全部を算出する際に使用する、前記各センサの出力信号から得られる情報として、これら各センサの出力信号のパルス周期比と、これら各センサの出力信号同士の間に存在する、これら各センサの出力信号中に含まれる前記第一特性変化部に基づいて発生したパルス同士の間の位相差比とを採用している、請求項1に記載した回転機械用物理量測定装置。
【請求項3】
前記被検出面の幅方向に対する前記第一特性変化部の傾斜角度を零とした、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載した回転機械用物理量測定装置。
【請求項4】
前記演算器は、前記互いに直交する3方向の変位及び互いに直交する2方向の傾きのうちの一部又は全部に基づいて、前記静止部材と前記回転部材との間に作用する外力を算出する機能を有する、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載した回転部材用物理量測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−177672(P2012−177672A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81393(P2011−81393)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
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