説明

回転直動変換機構

【課題】リード精度を向上させることのできる回転直動変換機構を提供する。
【解決手段】回転直動変換機構は、外周面に雄ねじ1aを有するシャフト1と、内周面に雌ねじ2aを有するナット2と、シャフト1の外周面及びナット2の内周面との間に介在されて雄ねじ1a及び雌ねじ2aに螺合するねじ3aを有するローラ3とを備える。ローラ3の一部に平歯車3b及び平歯車3cを設け、シャフト1の一部にはローラ3に設けられた平歯車3bにかみ合う平歯車1bを設ける。また、ナット2の一部にはローラ3に設けられた平歯車3cにかみ合う内歯4aを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転運動を直線運動に変換する、または直線運動を回転運動に変換する回転直動変換機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、こうした回転直動変換機構としては、例えば特許文献1に記載のローラねじを用いた機構などがある。
この機構は、外周面にねじを有するシャフトと、内周面にねじを有するナットと、シャフトの外周面及びナットの内周面との間に介在されて上記各ねじに螺合するローラとを備えており、さらにナットとローラとは歯車にてかみ合わされる構造となっている。そして、上記ナットを回転させるとローラは自転するとともにシャフトの周りを公転する、すなわち遊星運動し、同ローラのねじに螺合されているシャフトは軸方向に直線運動するようになっている。
【特許文献1】特開平10−196757号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記回転直動変換機構におけるリード(ナット1回転当たりのシャフトのストローク量)は、シャフト、ナット、及びローラにそれぞれ設けられた各ねじの条数及び該回転直動変換機構の減速比等によって決定される。このうち、減速比は各ねじの有効径の比によって決定されるが、各ねじの実際の有効径は、ねじの加工精度に起因してばらついたり、螺合するねじ同士の接触面の摩耗等によって変化したりするため、安定した一定の減速比を得ることは困難となる。
【0004】
また、上記文献に記載の機構では、ナットの中心軸に対するシャフトの中心軸の位置や、ナットの中心軸に対するローラの公転軸の位置がねじのかみ合いによって決定されるため、シャフトの中心軸やローラの公転軸がナットの中心軸からずれやすくなっている。このようにシャフトの中心軸やローラの公転軸がナットの中心軸からずれてしまうと、各ねじの接触面の位置が変化するため、これに起因して各ねじの実際の有効径も変化し、この場合にも安定した一定の減速比を得ることが困難となる。
【0005】
このように回転直動変換機構において安定した一定の減速比を得ることができない場合には、上記リードを設計値通りに確保することが困難となり、リード精度は低下してしまうようになる。
【0006】
本発明は、こうした従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、リード精度を向上させることのできる回転直動変換機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、外周面にねじを有するシャフトと、内周面にねじを有するナットと、前記シャフトの外周面及び前記ナットの内周面との間に介在されて前記各ねじに螺合するねじを有するローラとを備え、前記シャフト及びナットのいずれか一方の回転運動を変換して他方を直線運動させる回転直動変換機構において、前記ローラの一部には歯車が設けられており、前記シャフトの一部及び前記ナットの一部には前記ローラに設けられた歯車にかみ合う歯車がそれぞれ設けられていることをその要旨とする。
【0008】
同構成によれば、当該回転直動変換機構の減速比が、シャフト、ナット、及びローラに設けられた各歯車同士のかみ合いによって決定される。そのため、シャフト、ナット、あるいはローラに設けられた各ねじの実際の有効径が、ねじの加工精度に起因してばらついたり、螺合するねじ同士の接触面の摩耗等によって変化したりする場合であっても、そのようなねじの有効径の影響を受けることなく、当該回転直動変換機構の減速比を安定した一定の値に維持することができ、もってリード精度を向上させることができるようになる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の回転直動変換機構において、前記シャフトの歯車にかみ合う前記ローラの歯車は、前記ローラに対して前記シャフトの歯車が相対移動する範囲に対応させて設けられてなることをその要旨とする。
【0010】
上記シャフト及びナットのいずれか一方の回転運動を変換して他方を直線運動させる際には、上記ローラとシャフトとが、該シャフトの軸方向において互いに相対移動する。ここで同構成では、ローラに対してシャフトの歯車が相対移動する範囲に対応させて、該ローラの歯車を設けるようにしている。そのため、ローラに設けられた歯車とシャフトに設けられた歯車とのかみ合いを維持しつつ、ローラとシャフトとを互いに相対移動させることができるようになる。従って、同構成によれば、シャフトとローラとを歯車にてかみ合わせる場合であっても、ローラとシャフトとを互いに相対移動させることができるようになる。
【0011】
なお、ローラの歯車にかみ合うナットの歯車の構成としては、請求項3に記載の発明によるように、前記ナットの内周面には、前記ナットの歯車を構成する内歯が形成されたリングギアを備えてなる、といった構成を採用することができる。この場合には、ナットの内周面に直接歯車を形成する場合と比較して、より容易にナット側の歯車を設けることができるようになる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、外周面にねじを有するシャフトと、内周面にねじを有するナットと、前記シャフトの外周面及び前記ナットの内周面との間に介在されて前記各ねじに螺合するねじを有するローラとを備え、前記シャフト及びナットのいずれか一方の回転運動を変換して他方を直線運動させる回転直動変換機構において、前記シャフトの外周面を支持するとともに前記ナットの内周面に固定される第1支持部材と、前記シャフトを囲む環状形状を有して前記ローラの両端をそれぞれ支持するリテーナと、これら各リテーナのそれぞれの外周面を回転可能に支持するとともに前記ナットの内周面に固定される第2支持部材とを備えることをその要旨とする。
【0013】
同構成によれば、ナットの中心軸に対するシャフトの中心軸の位置は上記第1支持部材によって決定され、ナットの中心軸に対するローラの公転軸の位置は上記第2支持部材によって決定される。そのため、シャフトの中心軸やローラの公転軸をナットの中心軸に合わせやすくなり、これにより各ねじの接触面の位置も安定するようになるため、各ねじの実際の有効径も安定するようになる。従って、同構成によれば、当該回転直動変換機構の減速比を安定した一定の値に維持することができ、もってリード精度を向上させることができるようになる。
【0014】
なお、上記第1支持部材や第2支持部材として、請求項5に記載の発明によるように転がり軸受を採用したり、請求項6に記載の発明によるようにすべり軸受を採用したりすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(第1の実施形態)
以下、本発明にかかる回転直動変換機構を具体化した第1の実施形態について、図1〜図4を併せ参照して説明する。
【0016】
図1は、本実施形態にかかる回転直動変換機構の構造について、軸方向における断面図を模式的に示している。
この図1に示すように、本回転直動変換機構は、外周面にねじを有するシャフト1、シャフト1の外側に設けられて内周面にねじを有するナット2、シャフト1の外周面とナット2の内周面との間に介在され、シャフト1のねじ及びナット2のねじに螺合するねじを有する複数のローラ3、ナット2の内周面に設けられるリングギア4等から構成されている。そして、この回転直動変換機構はナット2の回転運動をシャフト1の直線運動に変換する、いわゆるローラネジ機構となっている。以下、上記各構成部材を詳細に説明する。
【0017】
シャフト1の外周面には雄ねじ1aが形成されており、その雄ねじ1aは、例えば多条の右ねじとされている。
また、シャフト1の端部には、同シャフトの外径とほぼ同一の外径を有する平歯車1bが設けられている。この平歯車1bとシャフト1とは別部材からなり、シャフト1の端部に設けられた凸部に平歯車1bの内周面を嵌合させることによって同平歯車1bはシャフト1に固定されている。なお、平歯車1bと同一の歯をシャフト1の外周面に直接形成するようにしてもよい。
【0018】
図2にローラ3の形状を示す。この図2及び先の図1に示されるように、ローラ3は円柱形状をなしており、その軸方向の外周面全体にはシャフト1の雄ねじ1aと螺合するねじ3aが形成されている。このねじ3aは、例えば1条の左ねじとされている。また、ローラ3はシャフト1の外周面を囲むように等ピッチにて複数(本実施形態においては9本)配設されている。また、このローラ3の一部には平歯車3b及び平歯車3cが設けられている。
【0019】
平歯車3bは、ローラ3の軸方向における両端部のうち、シャフト1の平歯車1bに対面する側の端部外周面に一体形成されており、同平歯車1bとかみ合うようになっている。また、この平歯車3bは、ローラ3に対してシャフト1の平歯車1bが軸方向に相対移動する範囲に対応させて設けられている。また、図2に示すごとく、ローラ3においてねじ3aが形成された部分(同図2に示すねじ形成部)に、平歯車3bの歯は形成されている。このねじ3aと平歯車3bの歯とが形成された部分(同図2に示す歯形成部)の加工については、例えばねじ3aを形成した後に平歯車3bの歯を形成する、あるいは平歯車3bの歯を形成した後にねじ3aを形成する、あるいはねじ3aの形成と平歯車3bの歯の形成とを同時に行うなどすればよい。
【0020】
平歯車3cは、ローラ3の軸方向における両端部のうち、上記平歯車3bが設けられた端部とは反対の端部外周面に一体形成されており、上記リングギア4とかみ合うようになっている。また、この平歯車3cの歯も図2に示すごとく、ローラ3においてねじ3aが形成された部分(同図2に示すねじ形成部)に形成されている。このねじ3aと平歯車3cの歯とが形成された部分(同図2に示す歯形成部)の加工については、平歯車3bと同様な態様で行うことができる。
【0021】
ちなみに、平歯車3bや平歯車3cをローラ3とは別部材とし、該平歯車3bや該平歯車3cをローラ3の端部にそれぞれ組み付けるようにしてもよい。また、平歯車3bや平歯車3cのブランク(歯切り前の歯車部材)をローラ3の端部にそれぞれ組み付け、その後、ねじ3aや各歯車の歯を形成するようにしてもよい。
【0022】
上記ナット2の内周面にはローラ3のねじ3aに螺合する雌ねじ2aが形成されており、その雌ねじ2aは、例えば雄ねじ1aとは異なる条数であって多条の左ねじとされている。
【0023】
また、同ナット2の内周面の一部には、ローラ3の平歯車3b及び平歯車3cにそれぞれかみ合う歯車が設けられている。より具体的には、ナット2の内周面には平歯車3b及び平歯車3cにかみ合う上記リングギア4が2つ設けられている。
【0024】
このリングギア4は環状に形成されており、その外周面はナット2の内周面に固定されている。また、その内周面には平歯車3bや平歯車3cの歯とかみ合う平歯の内歯4aが形成されており、この内歯4aの内径は、ナット2に形成された雌ねじ2aの内径とほぼ同一とされている。そして、同雌ねじ2aの両端にこのリングギア4はそれぞれ設けられている。
【0025】
なお、シャフト1の雄ねじ1aの有効径、ローラ3のねじ3aの有効径、ナット2の雌ねじ2aの有効径の比をそれぞれ「α:β:λ」とした場合に、シャフト1の平歯車1bの歯数、ローラ3の平歯車3b及び平歯車3cの各歯数、リングギア4の内歯4aの歯数の比もそれぞれ「α:β:λ」となるように各歯車の歯数は設定されている。これにより、各ねじの螺合による減速比と各歯車のかみ合いによる減速比とは一致するようになっている。
【0026】
このように構成された本実施形態の回転直動変換機構について、例えばナット2が回転可能且つ軸方向への移動が不可となるように支持され、シャフト1が回転不能且つ軸方向への移動が可能なように支持されている場合の作動を以下に説明する。
【0027】
このような場合にあってナット2を回転させると、ローラ3はナット2の雌ねじ2a及びシャフト1の雄ねじ1aと螺合しながら、シャフト1の周りを自転及び公転する。すなわち、その運動は遊星運動となり、この回転直動変換機構の減速比及び各ねじの条数に応じて決定されるリードにて、シャフト1はその軸方向に直線運動する。
【0028】
例えば、シャフト1、ローラ3、ナット2の減速比をそれぞれ「3:1:5」に設定し、シャフト1の雄ねじ1a、ローラ3のねじ3a、ナット2の雌ねじ2aの条数をそれぞれ「4条:1条:5条」に設定した場合、ナット2を1回転させるとシャフト1のストローク量は雄ねじ1aの1ピッチ分となる。すなわち、このときのリードは雄ねじ1aの1ピッチ分となる。
【0029】
ここで、先の図1に示す矢印A側の本回転直動変換機構の構造を示した図3、あるいは先の図1に示されるように、本実施形態では、ナット2に固定されたリングギア4の内歯4aがローラ3に設けられた平歯車3cにかみ合い、同ローラ3に設けられた平歯車3bがシャフト1の一部に設けられた平歯車1bにかみ合うようになっている。そのため、当該回転直動変換機構の減速比は、シャフト1、ナット2、及びローラ3に設けられた各歯車同士のかみ合いによって決定される。従って、シャフト1、ナット2、あるいはローラ3に設けられた各ねじの実際の有効径が、ねじの加工精度に起因してばらついたり、螺合するねじ同士の接触面の摩耗等によって変化したりする場合であっても、そのようなねじの有効径の影響を受けることなく、当該回転直動変換機構の減速比を安定した一定の値に維持することができる。そのためナット2が1回転したときのシャフト1のストローク量、すなわちリードも安定した一定の値に維持されるようになり、もってリード精度を向上させることができるようになる。
【0030】
図4に、本実施形態にかかる回転直動変換機構のストローク精度を示す。なお、同図4に示す各線は、ナットを回転させたときのシャフト1のストローク量を示している。また、線L1にて示される実線は、本実施形態にかかる回転直動変換機構の設計上のストローク量、いわば目標値を示している。また、線L2にて示される一点鎖線は、本実施形態にかかる回転直動変換機構の実際のストローク量を示している。また線L3にて示される二点鎖線は、シャフト、ローラ、ナットがそれぞれねじで螺合しているのみであってギア無しの回転直動変換機構においてナットを正転させたときのストローク量、いわば送り量を示している。そして、線L4にて示される二点鎖線は、同ギア無しの回転直動変換機構においてナットを正転させた後、逆転させたときのストローク量、いわば戻り量を示している。
【0031】
ギア無しの回転直動変換機構では、各ねじの有効径の影響によって減速比が設計値とは異なるようになるとともにその値自体も不安定になり、リード精度が低下しやすくなっている。そのため、この図4に示されるように、目標値(線L1)と実際のストローク量(線L3及び線L4)とが大きくずれてしまい、要求されるストローク精度を確保することが困難となってしまう。ちなみに、このギア無しの回転直動変換機構では、ナットの回転回数が同じであっても、ナット正転時(線L3)とナット逆転時(線L4)とではストローク量が異なることも確認された。
【0032】
一方、本実施形態の回転直動変換機構では、上述したように回転直動変換機構の減速比を安定した一定の値、すなわち設計値に維持することができ、リード精度の向上を図ることができる。そのため、同図4に示されるように、実際のストローク量(線L2)と目標値(線L1)とがほぼ一致するようになり、要求されるストローク精度を確保することができる。このように本実施形態の回転直動変換機構では、上記ギア無しの回転直動変換機構と比較して、ストローク精度が向上するようになる。
【0033】
他方、ナット2の回転運動を変換してシャフト1を直線運動させる際、上記ローラ3とシャフト1とは、該シャフト1の軸方向に互いに相対移動するが、本実施形態では、ローラ3に対してシャフト1の平歯車1bが相対移動する範囲に対応させて、該ローラ3の平歯車3bを設けるようにしている。そのため、ローラ3の平歯車3bとシャフト1の平歯車1bとのかみ合いを維持しつつ、ローラ3とシャフト1とを互いに相対移動させることができる。従って、シャフト1とローラ3とを歯車にてかみ合わせる場合であっても、ローラ3とシャフト1とを互いに相対移動させることができるようになる。
【0034】
また、本実施形態では、ローラ3の平歯車3bや平歯車3cにかみ合うナット2側の歯車として、同平歯車3bや平歯車3cにかみ合う内歯4aが形成されたリングギア4を用意し、これをナット2の内周面に備えるようにしている。そのため、ナット2の内周面に直接歯車を形成する場合と比較して、より容易にナット2側の歯車を設けることができる。
【0035】
以上説明したように、本実施形態によれば次のような効果を得ることができる。
(1)外周面に雄ねじ1aを有するシャフト1と、内周面に雌ねじ2aを有するナット2と、シャフト1の外周面及びナット2の内周面との間に介在されて前記雄ねじ1a及び雌ねじ2aにそれぞれ螺合するねじ3aを有するローラ3とを備える回転直動変換機構において、ローラ3の一部に歯車(平歯車3b及び平歯車3c)を設けるようにしている。そして、シャフト1の一部にはローラ3の歯車(平歯車3b)にかみ合う歯車(平歯車1b)を、ナット2の一部にはローラ3の歯車(平歯車3c)にかみ合う歯車(内歯4a)をそれぞれ設けるようにしている。
【0036】
従って、当該回転直動変換機構の減速比は、シャフト1、ナット2、及びローラ3に設けられた各歯車同士のかみ合いによって決定される。そのため、その減速比を安定した一定の値に維持することができ、もってリード精度を向上させることができるようになる。
【0037】
(2)シャフト1の歯車(平歯車1b)にかみ合うローラ3の歯車(平歯車3b)を、ローラ3に対してシャフト1の歯車(平歯車1b)が相対移動する範囲に対応させて設けるようにしている。そのため、シャフト1とローラ3とを歯車にてかみ合わせる場合であっても、ローラ3とシャフト1とを互いに相対移動させることができるようになる。
【0038】
(3)ローラ3の歯車(平歯車3b及び平歯車3c)にかみ合うナット2の歯車として、同ナット2の内周面には、該ナット2の歯車を構成する内歯4aが形成されたリングギア4を備えるようにしている。そのため、ナット2の内周面に直接歯車を形成する場合と比較して、より容易にナット2側の歯車を設けることができるようになる。
(第2の実施形態)
次に、本発明にかかる回転直動変換機構を具体化した第2の実施形態について、図5〜図7を併せ参照して説明する。
【0039】
図5は、本実施形態にかかる回転直動変換機構の構造について、軸方向における断面図を模式的に示している。
この図5に示すように、本実施形態の回転直動変換機構は、シャフト11、シャフト11の外側に設けられるナット12、シャフト11の外周面とナット12の内周面との間に介在されてシャフト11の周りを自転及び公転する複数のローラ13、ナット12の内周面に設けられるリングギア14等から構成されている。さらに、ローラ13の両端をそれぞれ支持するリテーナ15、このリテーナ15を支持するブッシュ16、上記シャフト11を支持するベアリング17も設けられており、この回転直動変換機構もナット12の回転運動をシャフト11の直線運動に変換する、いわゆるローラネジ機構となっている。以下、上記各構成部材を詳細に説明する。
【0040】
シャフト11の外周面には雄ねじ11aが形成されており、その雄ねじ11aは、例えば多条の右ねじとされている。
図6にローラ13の形状を示す。この図6及び先の図5に示されるように、ローラ13は、円柱形状であってその軸方向の外周面全体にシャフト11の雄ねじ11aと螺合するねじ13aが形成されたねじ部と、該ねじ部の両端に設けられた各シャフト13bとから構成されている。このねじ13aは、例えば1条の左ねじとされている。また、ローラ13はシャフト11の外周面を囲むように等ピッチにて複数(本実施形態においては9本)配設されている。ローラ13の両端に設けられた各シャフト13bは、シャフト11を囲む環状の上記リテーナ15によってそれぞれ回転可能に支持されている。このリテーナ15によって、シャフト11の周方向における各ローラ13の配設位置(上記等ピッチ)は維持される。
【0041】
また、ローラ13のねじ部両端の外周面には、上記リングギア14とかみ合う平歯車13dがそれぞれ一体形成されている。すなわち、同図6に示すごとく、ローラ13においてねじ13aが形成された部分(同図6に示すねじ形成部)に、これら各平歯車13dの歯は形成されている。このねじ13aと平歯車13dの歯とが形成された部分(同図6に示す歯形成部)の加工については、前記平歯車3bや平歯車3cの加工と同様な態様で行うことができる。
【0042】
上記ナット12の内周面にはローラ13のねじ13aに螺合する雌ねじ12aが形成されており、その雌ねじ12aは、例えば雄ねじ11aとは異なる条数であって多条の左ねじとされている。
【0043】
また、同ナット12の内周面の一部には、ローラ13の各平歯車13dにそれぞれかみ合う歯車が設けられている。より具体的には、ナット12の内周面には各平歯車13dにかみ合う上記リングギア14が2つ設けられている。
【0044】
これら各リングギア14は環状に形成されており、その外周面はナット12の内周面に固定されている。また、その内周面には平歯車13dの歯とかみ合う平歯の内歯14aが形成されており、この内歯14aの内径は、ナット12に形成された雌ねじ12aの内径とほぼ同一とされている。そして、同雌ねじ12aの両端にこのリングギア14はそれぞれ設けられている。
【0045】
なお、ローラ13のねじ13aの有効径、ナット12の雌ねじ12aの有効径の比をそれぞれ「β:λ」とした場合に、ローラ13の平歯車13dの歯数、リングギア14の内歯14aの歯数の比もそれぞれ「β:λ」となるように各歯車の歯数は設定されている。これにより、各ねじの螺合による減速比と各歯車のかみ合いによる減速比とは一致するようになっている。
【0046】
上記リテーナ15の外周面は、すべり軸受として機能するブッシュ16の内周面にて回転可能に支持されており、該ブッシュ16はナット12の内周面に圧入されている。なおブッシュ16をナット12に固定する態様としては、圧入以外の態様を適宜採用することができる。また、このブッシュ16は上記第2支持部材を構成している。このようにローラ13の両端に設けられた各リテーナ15は、それぞれに対応する各ブッシュ16と摺動しながらローラ13の公転に合わせてナット12内を回転する。
【0047】
上記ナット12の内周面にあって軸方向の両端には、それぞれベアリング17が圧入されており、これら各ベアリング17によってシャフト11は軸支されている。より具体的には、同ベアリング17は転がり軸受であり、上記シャフト11の外周面はベアリング17の内輪17aによって支持されている。また、内輪17aの内側をシャフト11が移動できるように、ベアリング17の内輪17aとシャフト11とは、いわゆる「すきまばめ」とされている。そして、ベアリング17の外輪17bはナット12の内周面に圧入されている。なお外輪17bをナット12に固定する態様としては、圧入以外の態様を適宜採用することができる。また、これらベアリング17は上記第1支持部材を構成している。
【0048】
このように構成された本実施形態の回転直動変換機構について、例えばナット12が回転可能且つ軸方向への移動が不可となるように支持され、シャフト11が回転不能且つ軸方向への移動が可能なように支持されている場合の作動を以下に説明する。
【0049】
このような場合にあってナット12を回転させると、ローラ13はナット12の雌ねじ12a及びシャフト11の雄ねじ11aと螺合しながら、また各平歯車13dとリングギア14の内歯14aとがかみ合ながら、シャフト11の周りを自転及び公転する。すなわち、その運動は遊星運動となり、この回転直動変換機構の減速比及び各ねじの条数に応じて決定されるリードにて、シャフト11はその軸方向に直線運動する。
【0050】
例えば、シャフト11、ローラ13、ナット12の減速比をそれぞれ「3:1:5」に設定するために、シャフト11の雄ねじ11a、ローラ13のねじ13a、ナット12の雌ねじ12aの有効径をそれぞれ「3:1:5」に設定する。そして、シャフト11の雄ねじ11a、ローラ13のねじ13a、ナット12の雌ねじ12aの条数をそれぞれ「4条:1条:5条」に設定した場合、ナット2を1回転させるとシャフト1のストローク量は雄ねじ1aの1ピッチ分となる。すなわち、このときのリードは雄ねじ1aの1ピッチ分となる。
【0051】
ここで、上記従来の機構では、ナットの中心軸に対するシャフトの中心軸の位置や、ナットの中心軸に対するローラの公転軸の位置がねじのかみ合いによって決定されるため、シャフトの中心軸やローラの公転軸がナットの中心軸からずれやすくなっている。このようにシャフトの中心軸やローラの公転軸がナットの中心軸からずれてしまうと、各軸間距離が変化してシャフト、ローラ、あるいはナットに設けられた各ねじの接触面の位置も変化するようになるため、これに起因して各ねじの実際の有効径が変化し、安定した一定の減速比を得ることが困難となる。
【0052】
この点、本実施形態では、先の図5に示すB−B断面の本回転直動変換機構の構造を示した図7、あるいは先の図5に示されるように、ナット12に固定されたベアリング17にてシャフト11を支持するようにしているため、ナット12の中心軸とシャフト11の中心軸とを一致させることができる。また、同じくナット12に固定されたブッシュ16にてリテーナ15を回転可能に支持するようにしているため、ナット12の中心軸とリテーナ15の中心軸、すなわちローラ13の公転軸とを一致させることができる。
【0053】
このように、本実施形態の回転直動変換機構では、ナット12の中心軸に対するシャフト11の中心軸の位置はベアリング17によって決定され、ナット12の中心軸に対するローラ13の公転軸の位置はブッシュ16によって決定されるため、シャフト11の中心軸やローラ13の公転軸をナット12の中心軸に合わせやすくなる。そのため、上述したような各軸間距離の変化を抑えることができ、各ねじの接触面の位置も安定するようになり、その結果各ねじの実際の有効径も安定するようになる。従って、各ねじの有効径の比によって決定される当該回転直動変換機構の減速比を安定した一定の値に維持することができ、ナット12が1回転したときのシャフト11のストローク量、すなわちリードも安定した一定の値に維持されるようになって、リード精度を向上させることができるようになる。
【0054】
以上説明したように、本実施形態によれば次のような効果を得ることができる。
(1)外周面に雄ねじ11aを有するシャフト11と、内周面に雌ねじ12aを有するナット12と、シャフト11の外周面及びナット12の内周面との間に介在されて前記雄ねじ11a及び雌ねじ12aにそれぞれ螺合するねじ13aを有するローラ13とを備える回転直動変換機構において、次のような部材を備えるようにしている。すなわち、シャフト11の外周面を支持するとともにナット12の内周面に固定されるベアリング17、シャフト11を囲む環状形状を有してローラ13の両端をそれぞれ支持するリテーナ15、これら各リテーナ15のそれぞれの外周面を回転可能に支持するとともにナット12の内周面に固定されるブッシュ16を備えるようにしている。
【0055】
そのため、シャフト11の中心軸やローラ13の公転軸をナット12の中心軸に合わせやすくなり、これにより雄ねじ11a、雌ねじ12a、あるいはねじ13aといった各ねじの接触面の位置も安定するようになるため、各ねじの実際の有効径も安定するようになる。従って、当該回転直動変換機構の減速比を安定した一定の値に維持することができ、もってリード精度を向上させることができるようになる。
【0056】
なお、上記各実施形態は以下のように変更して実施することもできる。
・第1の実施形態において、リングギア4の内歯4aをナット2の内周面に直接形成するようにしてもよい。この場合にはリングギア4を省略することができる。同様に、第2の実施形態において、リングギア14の内歯14aをナット12の内周面に直接形成するようにしてもよい。この場合にはリングギア14を省略することができる。
【0057】
・第1の実施形態におけるリングギア4、あるいは第2の実施形態におけるリングギア14は1つでもよい。
・第1の実施形態において、平歯車1bの配設位置は任意に変更することができる。要は、ローラ3に設けられた歯車とかみ合う歯車をシャフト1に設けるようにすればよい。
【0058】
・第2の実施形態においてシャフト11を支持する第1支持部材はベアリング17であったが、この第1支持部材はこれに限定されるものではない。要は、シャフト11の外周面を支持するとともにナット12の内周面に固定される部材であって、シャフト11の中心軸をナット12の中心軸に合わせることが可能な部材であれば他の部材でもよい。例えば、転がり軸受であるベアリング17をブッシュ16のようなすべり軸受に変更してもよい。
【0059】
また、同第2の実施形態においてリテーナ15を支持する第2支持部材はブッシュ16であったが、この第2支持部材はこれに限定されるものではない。要は、リテーナ15の外周面を回転可能に支持するとともにナット12の内周面に固定される部材であって、ローラ13の公転軸をナット12の中心軸に合わせることが可能な部材であれば他の部材でもよい。例えば、すべり軸受であるブッシュ16をベアリング17のような転がり軸受に変更してもよい。
【0060】
・第2の実施形態では2つのブッシュ16を備えるようにしたが、一方のブッシュ16を省略してもよい。また、同第2の実施形態では2つのベアリング17を備えるようにしたが、一方のベアリング17を省略してもよい。これらの場合でもある程度、シャフト11の中心軸やローラ13の公転軸をナット12の中心軸に合わせることができる。
【0061】
・第1及び第2の実施形態では、シャフトの外周面に設けられた歯車、ローラの外周面に設けられた歯車、ナットの内周面に設けられた歯車をそれぞれ平歯車としたが、他の歯車としてもしてもよい。例えば、はすば歯車や、やまば歯車としてもよい。
【0062】
・第1及び第2の実施形態で説明した各回転直動変換機構について、ナットを回転不能且つ軸方向への移動が可能なように支持し、シャフトを回転可能且つ軸方向への移動が不可となるように支持することにより、シャフトの回転をナットの直線運動に変換することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明にかかる回転直動変換機構の第1の実施形態について、その断面構造を示す模式図。
【図2】同実施形態におけるローラの構造を示す模式図。
【図3】図1の矢印A側からみた同回転直動変換機構の構造を示す模式図(図1の矢視A図)。
【図4】同実施形態にかかる回転直動変換機構のストローク精度を示すグラフ。
【図5】本発明にかかる回転直動変換機構の第2の実施形態について、その断面構造を示す模式図。
【図6】同実施形態におけるローラの構造を示す模式図。
【図7】図5のB−B断面における同回転直動変換機構の構造を示す模式図。
【符号の説明】
【0064】
1…シャフト、1a…雄ねじ、1b…平歯車、2…ナット、2a…雌ねじ、3…ローラ、3a…ねじ、3b、3c…平歯車、4…リングギア、4a…内歯、11…シャフト、11a…雄ねじ、12…ナット、12a…雌ねじ、13…ローラ、13a…ねじ、13b…シャフト、13d…平歯車、14…リングギア、14a…内歯、15…リテーナ、16…ブッシュ、17…ベアリング、17a…内輪、17b…外輪。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面にねじを有するシャフトと、内周面にねじを有するナットと、前記シャフトの外周面及び前記ナットの内周面との間に介在されて前記各ねじに螺合するねじを有するローラとを備え、前記シャフト及びナットのいずれか一方の回転運動を変換して他方を直線運動させる回転直動変換機構において、
前記ローラの一部には歯車が設けられており、前記シャフトの一部及び前記ナットの一部には前記ローラに設けられた歯車にかみ合う歯車がそれぞれ設けられている
ことを特徴とする回転直動変換機構。
【請求項2】
前記シャフトの歯車にかみ合う前記ローラの歯車は、前記ローラに対して前記シャフトの歯車が相対移動する範囲に対応させて設けられてなる
請求項1に記載の回転直動変換機構。
【請求項3】
前記ナットの内周面には、前記ナットの歯車を構成する内歯が形成されたリングギアを備えてなる
請求項1または2に記載の回転直動変換機構。
【請求項4】
外周面にねじを有するシャフトと、内周面にねじを有するナットと、前記シャフトの外周面及び前記ナットの内周面との間に介在されて前記各ねじに螺合するねじを有するローラとを備え、前記シャフト及びナットのいずれか一方の回転運動を変換して他方を直線運動させる回転直動変換機構において、
前記シャフトの外周面を支持するとともに前記ナットの内周面に固定される第1支持部材と、
前記シャフトを囲む環状形状を有して前記ローラの両端をそれぞれ支持するリテーナと、
これら各リテーナのそれぞれの外周面を回転可能に支持するとともに前記ナットの内周面に固定される第2支持部材とを備える
ことを特徴とする回転直動変換機構。
【請求項5】
前記第1支持部材及び第2支持部材の少なくとも一方は転がり軸受である
請求項4に記載の回転直動変換機構。
【請求項6】
前記第1支持部材及び第2支持部材の少なくとも一方はすべり軸受である
請求項4に記載の回転直動変換機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−57025(P2007−57025A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−244566(P2005−244566)
【出願日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】