説明

回転部材の結合構造

【課題】 高速回転時における回転部材の結合精度を向上させること。
【解決手段】 ロータ7は、円筒状部材であり、内周壁面から内側に張り出したフランジ部18が周方向に形成されている。フランジ部18の内周側端部には、シャフト6方向に突出した環状の突出部19が形成されている。シャフト6は、円柱状部材であり、吸気口4側端部には、外側に張り出したフランジ部20が形成されている。このシャフト6に設けられたフランジ部20の外周側端部には、吸気口4方向に突出した環状の突出部21が形成されている。この環状の突出部21は、フランジ部20を含むシャフト6の吸気口4側端面にフランジ部20の外径よりも小さい径を有する凹溝24を形成することによって形成されている。ロータ7は、突出部19をシャフト6に形成された突出部21に掛合させた状態においてシャフト6に固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ターボ分子ポンプにおけるロータなど高速回転する回転部材の結合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置、電子顕微鏡、表面分析装置、微細加工装置などで用いられる真空装置等の排気処理を行う真空ポンプとして多用されるものにターボ分子ポンプがある。
この高真空の環境を実現することができるターボ分子ポンプは、吸気口および排気口を有し外装体を形成するケーシングを備えている。そして、このケーシングの内部には、当該ターボ分子ポンプに排気機能を発揮させる構造物が収納されている。この排気機能を発揮される構造物は、大きく分けて回転自在に軸支された回転部(ロータ部)とケーシングに対して固定された固定部(ステータ部)から構成されている。
【0003】
回転部は、回転軸およびこの回転軸に固定されている回転体からなり、回転体には、放射状に且つ多段に配設されたロータ翼が設けられている。また、固定部には、ロータ翼に対して互い違いにステータ翼が多段に配設されている。
ターボ分子ポンプには、回転軸を高速回転させるためのモータが設けられており、このモータの働きにより回転軸が高速回転すると、ロータ翼とステータ翼との作用により気体が吸気口から吸引され、排気口から排出されるようになっている。
【0004】
ところで、ターボ分子ポンプにおける回転体は、例えば、毎分約3万回転の超高速で回転することによって排気処理を行っている。
そのため、回転体を回転軸に組み付ける際に、回転軸と回転体との間に隙間が形成されていると、ターボ分子ポンプの起動停止を繰り返す度に、回転体にずれが生じバランスが崩れるおそれがあった。このような回転軸のバランスの崩れは、ターボ分子ポンプの振動や騒音の原因となってしまう。
【0005】
回転軸と回転体との間に隙間を形成させないようにする組み付け手法として、“焼きバメ”という方法が従来用いられていた。
この“焼きバメ”とは、例えば、回転体に形成された穴に回転軸を挿入することによって回転体を回転軸に固定する場合に、回転体に形成された穴に熱を加えて膨張させ、穴が膨張した状態で回転軸を挿入し、その後、回転体に形成された穴を冷却して収縮させることによって、回転体と回転軸との間に隙間が形成されないように固定する方法である。
また、この“焼きバメ”による方法の他、回転軸と回転体との間に隙間を形成させないように組み付ける技術が下記の特許文献に提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開平8−219086号公報
【特許文献2】特開2000−297782公報
【0007】
特許文献1には、回転軸の上端部にすり鉢状の凹陥部を設け、ロータの中央部の下面に円錐台状の突出部を形成し、これら凹陥部および突出部とを嵌合させた状態でロータを回転軸に固定する技術が開示されている。
このように、締結部をテーパー加工することにより、即ち、一定の勾配で変化させることにより、個々の部品の寸法が多少ばらついていても、回転体と回転軸との間に隙間が形成されることを抑制できる。
【0008】
特許文献2には、特許文献1で提案されているような締結部にテーパー加工を施した上に、さらに、ロータと回転軸との当接面の内周側に空間部を形成する技術が開示されている。
このように、ロータと回転軸との当接面に空間部を形成することにより、この空間部によって両部材の締結領域が上下方向に付勢されるため、この付勢力によってボルトの緩みを回避することができるようになっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、ターボ分子ポンプは、回転体を高速回転させて排気処理行っているため、気体分子の衝突熱や、モータから発生する熱などにより加熱されることにより、ポンプ内部が高温状態となる場合や、また、高速回転により生じる遠心力により回転体に変形が生じる場合がある。
そのため、上述した“焼きバメ”の手法により回転軸と回転体とを結合したターボ分子ポンプにおいては、ポンプの稼動中にその結合箇所が緩み回転体のバランスが崩れるおそれがあった。また、“焼きバメ”の手法により結合された回転軸と回転体とは、締め付けにより固定されているため、常時結合部に応力がはたらいている状態となってしまう。
また、“焼きバメ”の手法による組み付けは、部材を加熱しなければならないため、組立時の作業性が低下してしまう。
【0010】
特許文献1に記載されている締結部をテーパー加工する技術においては、軸方向に隙間を持たせた状態で回転体の位置決めを行うようになっている。従って、軸方向の位置決め精度がテーパー加工の寸法精度に大きく依存するため、回転体の軸方向の高い位置精度を確保することが困難であった。
また、特許文献2に記載されている回転軸と回転体を締結するボルトの緩みを回避する技術を用いた場合には、回転体を撓ませることによってボルトを付勢する力を生じさせているため、回転体にはたらく応力が大きくなってしまう。
【0011】
そこで、本発明は、簡単な構成により、高速回転時における回転部材の結合精度を向上させることができる回転部材の結合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1記載の発明では、高速回転する第1回転部材と第2回転部材とを結合する回転部材の結合構造であって、前記第1回転部材に形成された、回転軸を中心軸とする円柱状の第1突出部と、前記第2回転部材に形成された、前記第1突出部と係合する凹部と、を備え、高速回転時における前記第1突出部の外周壁の半径方向に広がる変形量をδDs、前記凹部の内周壁の半径方向に広がる変形量をδDhとした場合、前記凹部は、(式1)δDs>δDhを満たす範囲で形成されていることにより前記目的を達成する。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記第1突出部は、所定の内径を有する中空円柱状である。
なお、請求項2記載の発明では、例えば、前記第1突出部は、回転時における変形を促進させるように形成されていることが望ましい。詳しくは、例えば、前記第1突出部の内径と外径との差(即ち、肉厚)が内径と比較して十分に小さくなるように形成されていることが望ましい。
請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記第1回転部材は、高速回転時における半径方向の変形率が前記第2回転部材より大きい部材で形成されている。
請求項4記載の発明は、請求項1、請求項2または請求項3記載の発明において、高速回転時における前記第1突出部の外周壁の半径方向に広がる変形量をδDs、前記凹部の内周壁の半径方向に広がる変形量をδDhとした場合、初期状態において、前記第1突出部の外周壁と前記凹部の内周壁との間に隙間δLが、(式2)δL<δDs−δDhを満たす範囲で形成されている。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか1の請求項に記載の発明において、前記第1回転部材および前記第2回転部材は、真空ポンプに備えられた回転体を構成する部材である。
請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明において、前記第1回転部材は、ロータ部を構成する部材であり、前記第2回転部材は、回転軸を構成する部材である。
請求項7記載の発明は、請求項5記載の発明において、前記真空ポンプは、ターボ分子ポンプ部およびネジ溝ポンプ部を備えた複合型真空ポンプであり、前記第1回転部材は、前記ネジ溝ポンプ部におけるロータ部を構成する部材であり、前記第2回転部材は、前記ターボ分子ポンプ部におけるロータ部を構成する部材である。
【0015】
請求項8記載の発明では、真空ポンプの回転体を構成する第3回転部材と第4回転部材とを結合する回転体の結合構造であって、前記第3回転部材と前記第4回転部材との結合部に介在し、前記第3回転部材および前記第4回転部材の両方向に突出する、回転軸を中心軸とする円柱状の第2突出部を有する締結部材と、前記第3回転部材および前記第4回転部材に形成された、前記第2突出部と係合し、当該真空ポンプの運転時における内周壁の半径方向に広がる変形量が前記第2突出部の外周壁の半径方向に広がる変形量よりも小さく形成された第2凹部と、を備えることにより前記目的を達成する。
【0016】
なお、請求項8記載の発明では、例えば、前記第3回転部材は、ロータ部を構成する部材であり、前記第4回転部材は、回転軸を構成する部材であり、前記第2突出部は、中空円柱状であることが望ましく、即ち、前記第2突出部は、回転時における変形を促進させるように形成されていることが望ましい。
また、請求項8記載の発明では、例えば、前記第3回転部材および前記第4回転部材は、高速回転時における半径方向の変形率が前記締結部材より大きい部材で形成することが望ましい。
さらに、請求項8記載の発明では、例えば、高速回転時における前記締結部材の第2突出部の外周壁の半径方向に広がる変形量をδDs’、前記第2凹部の内周壁の半径方向に広がる変形量をδDh’とした場合、初期状態において、前記第2突出部の外周壁と前記第2凹部の内周壁との間に隙間δMが、(式2)δM<δDs’−δDh’を満たす範囲で形成されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、結合する回転部材間における、高速回転時の半径方向に広がる変形量の違いを利用することにより、半径方向における回転部材間の密着性を高めることができるため、適切に高速回転時における回転部材の結合精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図1〜図4を参照して詳細に説明する。本実施の形態では、真空ポンプの一例としてターボ分子ポンプを用いて説明する。
(第1実施形態)
図1(a)は、第1実施形態に係る回転部材の結合構造を備えたターボ分子ポンプ1の概略構成を示した図であり、図1(b)は、図1(a)の破線部に示す回転部材の結合構造部分の拡大図を示した図である。なお、図1(a)は、ターボ分子ポンプ1の軸線方向の断面図を示している。
ターボ分子ポンプ1は、ターボ分子ポンプ部とネジ溝式ポンプ部を備えた、いわゆる複合翼タイプの分子ポンプである。
ターボ分子ポンプ1の外装体を形成するケーシング2は、略円筒状の形状をしており、ケーシング2の下部(排気口5側)に設けられたベース3と共にターボ分子ポンプ1の筐体を構成している。そして、この筐体の内部には、ターボ分子ポンプ1に排気機能を発揮させる構造物、即ち、気体移送機構が収納されている。
この気体移送機構は、大きく分けて回転自在に軸支された回転部と筐体に対して固定された固定部から構成されている。
【0019】
ケーシング2の端部には、当該ターボ分子ポンプ1へ気体を導入するための吸気口4が形成されている。
また、ベース3には、当該ターボ分子ポンプ1から気体を排気するための排気口5が形成されている。
回転部は、回転軸であるシャフト6、このシャフト6に配設されたロータ7、ロータ7に設けられたロータ翼8、排気口5側(ネジ溝式ポンプ部)に設けられたステータコラム9などから構成されている。
なお、回転部を構成するロータ7のシャフト6への固定(結合)方法の詳細については後述する。
【0020】
ロータ翼8は、シャフト6の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜してシャフト6から放射状に伸びたブレードからなる。なお、このブレードは、多段に渡って形成されている。
また、ステータコラム9は、ロータ7の回転軸線と同心の円筒形状をした円筒部材からなる。
シャフト6の軸線方向中程には、シャフト6を高速回転させるためのモータ部10が設けられている。
さらに、シャフト6のモータ部10に対して吸気口4側、および排気口5側には、シャフト6をラジアル方向(径方向)に軸支するための径方向磁気軸受装置11、12、シャフト6の下端には、シャフト6を軸線方向(アキシャル方向)に軸支するための軸方向磁気軸受装置13が設けられている。
【0021】
筐体の内周側には、固定部が形成されている。この固定部は、吸気口4側(ターボ分子ポンプ部)に設けられたステータ翼14と、ケーシング2の内周面に設けられたネジ溝スペーサ15などから構成されている。
ステータ翼14は、シャフト6の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して筐体の内周面からシャフト6に向かって伸びたブレードから構成されている。
各段のステータ翼14は、円筒形状をしたスペーサ16により互いに隔てられている。
ターボ分子ポンプ部では、ステータ翼14が軸線方向に、ロータ翼8と互い違いに複数段形成されている。
【0022】
ネジ溝スペーサ15には、ステータコラム9との対向面にらせん溝が形成されている。ネジ溝スペーサ15は、所定のクリアランス(間隙)を隔ててステータコラム9の外周面に対面するようになっている。ネジ溝スペーサ15に形成されたらせん溝の方向は、らせん溝内をロータ7の回転方向にガスが輸送された場合、排気口5に向かう方向である。
また、らせん溝の深さは、排気口5に近づくにつれ浅くなるようになっており、らせん溝を輸送されるガスは排気口5に近づくにつれて圧縮されるようになっている。
【0023】
次に、回転部を構成するロータ7のシャフト6への固定(結合)方法について図1(a)および図1(b)を参照しながら説明する。
図1(a)に示すように、ロータ7は、中空円柱形状をした、即ち円筒状の部材である。
そして、ロータ7は、図1(b)に示すように、その内周壁面から軸方向に対して垂直方向に、即ち、半径方向(放射方向)内側に張り出したつば状のフランジ部18が周方向に渡って形成されている。
このロータ7に設けられたフランジ部18の内周側端部には、シャフト6方向に、即ち、軸方向下向き(排気口5方向)に突出(突起)した半径方向に幅を有する環状の突出部19が周方向に渡って形成されている。
さらに、ロータ7には、フランジ部18および突出部19を貫通する複数のボルト孔22が軸線方向に形成されている。
【0024】
シャフト6は、円柱状の部材であり、その吸気口4側の端部には、その外周壁面から軸方向に対して垂直方向に、即ち半径方向外側に張り出したつば状のフランジ部20が周方向に渡って形成されている。
このシャフト6に設けられたフランジ部20の外周側端部には、吸気口4方向に、即ち、軸方向上向きに突出(突起)した環状の突出部21が周方向に渡って形成されている。
なお、この環状の突出部21は、フランジ部20を含むシャフト6の吸気口4側端面にフランジ部20の外径よりも小さい径を有する円形の凹溝24を形成することによって形成されている。
さらに、シャフト6には、フランジ部20を貫通する複数のボルト孔23が、ロータ7に設けられたボルト孔22と対応する位置に形成されている。このボルト孔23の内周壁面には、ネジ溝(ネジ山)が形成されている。
【0025】
ロータ7に設けられている突出部19の外径は、シャフト6に設けられている突出部21の内径よりも小さい値となっている。
さらに、ロータ7に設けられている突出部19の高さは、シャフト6に設けられている突出部21の高さよりも高く形成されている。
このように形成されたロータ7は、ロータ7の突出部19をシャフト6に形成された凹溝24に嵌め込み、ロータ7の突出部19の排気口5側端面(下端面)をシャフト6の吸気口4側端面、即ち、凹溝24の底面と当接させた状態において、ボルト17をボルト孔22およびボルト孔23に通して締め付けることによってシャフト6に固定(結合)されている。
つまり、ロータ7は、ロータ7の突出部19をシャフト6に形成された凹溝24に、即ち、シャフト6の突出部21に掛合させた状態においてシャフト6に固定(結合)されている。
【0026】
ところで、物体は外力を受けると変形し、内部に抵抗力である内力、即ち応力を生じる。例えば、ある部材を高速回転させた場合、その回転により部材に対して外力、即ち、遠心力が作用する。この遠心力により、回転部材には回転中心に対して外側に引っ張る力が働く。つまり、高速回転する部材には、引っ張り応力が作用するようになっている。このような、引っ張り応力が作用することにより、部材には変形が生じる。
また、中心部が空の状態である環状部材は、これと同一の外径を有する円盤状部材と各部材に作用する引っ張り応力による変形量を比較した場合、中心部が空の状態である分だけ剛性(こわさ)が低くなるため、円盤状部材よりも変形量の方が大きくなるという特性を有している。
【0027】
ここで、ターボ分子ポンプ1の稼働時、即ち、モータ部10の働きにより回転部が高速回転している間における、ロータ7とシャフト6との固定(結合)部の各部に作用する引っ張り応力と、この引っ張り応力による部材の変形について説明する。
ロータ7は、図1(a)に示すように、中空円柱形状をした、即ち円筒状の部材によって構成されている。
ロータ7の突出部19およびシャフト6の突出部21は、モータ部10によって高速回転させられると、この回転により生じる遠心力により軸中心から放射方向(外側)へ引っ張る力、即ち、引っ張り応力が作用する。
このような引っ張り応力が作用すると、ロータ7の突出部19およびシャフト6の突出部21は、半径方向に膨張、即ち、半径方向に広がるように変形する。
この場合における、各部の変形率(膨張率)は、中心部が空の状態である分だけロータ7の突出部19の方がシャフト6の突出部21よりも大きくなる。
【0028】
そこで、本実施の形態に係るターボ分子ポンプ1では、このように高速回転時におけるロータ7の突出部19およびシャフト6の突出部21の変形率(膨張率)の違いを利用した、高速回転時のシャフト6とロータ7との間における嵌合(結合)精度を向上させる構造を用いている。
つまり、高速回転時におけるロータ7の突出部19およびシャフト6の突出部21の変形率(膨張率)の違いを利用して、高速回転時に適切にシャフト6とロータ7とが固定された状態を保持できるように構成されている。
これにより、高速回転時におけるシャフト6とロータ7との間にがたつき、アンバランス等の不具合が生じることを抑制することができる。
【0029】
詳しくは、組み付け時(組立時)、即ち、初期状態におけるロータ7の突出部19の外周壁面とシャフト6の突出部21の内周壁面との隙間の間隔δaを次の式1に示す範囲内に設定する。
(式1)δa<δDs−δDh
但し、δDsは、ロータ7の突出部19の半径方向の膨張量(変形量)を示し、δDhは、シャフト6の突出部21の半径方向の膨張量(変形量)を示す。
【0030】
このような範囲に初期状態におけるロータ7の突出部19の外周壁面とシャフト21の突出部21の内周壁面との隙間の間隔δaを設定することにより、高速回転時に、即ち、ロータ7の突出部19およびシャフト6の突出部21が半径方向に広がる膨張変形を起こした時に、ロータ7の突出部19の外周壁面が、シャフト6の突出部21の内周壁面に確実に接触する。
さらに、ロータ7の突出部19の外周壁面によって、半径方向の外向きにシャフト6の突出部21の内周壁面を付勢する力が作用するため、この付勢力によってロータ7とシャフト6との嵌合度が強化される。
また、δDsおよびδDhの値は、遠心力により生じる引っ張り応力による膨張量(変形量)だけでなく、ターボ分子ポンプ1の内部が高温になった場合を想定した熱膨張による膨張量(変形量)やクリープ現象、部材を形成する材料のヤング率(縦弾性係数)や密度を考慮した膨張量(変形量)を考慮した値とすることが好ましい。
なお、クリープ現象とは、部材に一定の荷重を負荷した状態で高温中にさらした場合に、時間の経過と共に変形が進行する現象を示す。
【0031】
本実施の形態によれば、組み付け(組立)段階において、ロータ7の突出部19の外周壁面とシャフト21の突出部21の内周壁面との間に間隔δaの隙間を設けておくことができるため、即ち、組立時における部材間のクリアランスを十分に確保することができるため、容易にロータ7とシャフト6を組み付けることができ、組み付け時の作業性を向上させることができる。
間隔δaは、例えば、0.1〜0.2mmレベルで設けることができるため、従来のロータとシャフトとの固定部に設けられているクリアランス値(0.01〜0.02mm)と比較しても十分大きな値であるといえる。
【0032】
また、本実施の形態によれば、組立時における部材間のクリアランスを十分に確保することができるため、容易にロータ7の突出部19の排気口5側端面(下端面)をシャフト6の吸気口4側端面、即ち、凹溝24の底面と当接させることができ、適切に軸方向の位置を安定させることができる。
さらに、本実施の形態によれば、組み付け(組立)段階において、ロータ7の突出部19の外周壁面とシャフト6の突出部21の内周壁面との間に間隔δaの隙間を設けておくことができるため、ターボ分子ポンプ1の非運転時には、ロータ7とシャフト6との接合部(結合部)において、半径方向に力が作用することがなく、半径方向に作用する応力を生じさせることがない。
【0033】
(第2実施形態)
次に、本発明における第2実施形態について図2(a)および図2(b)を参照して説明する。
図2(a)は、第2実施形態に係る回転部材の結合構造を備えたターボ分子ポンプ1の概略構成を示した図であり、図2(b)は、図2(a)の破線部に示す回転部材の結合構造部分の拡大図を示した図である。なお、図2(a)は、ターボ分子ポンプ1の軸線方向の断面図を示している。
なお、上述した図1に示す第1実施形態と同一部分(重複する箇所)には、同一の符号を用い詳細な説明を省略する。
【0034】
第2実施形態におけるターボ分子ポンプ1においては、締結部材27を介して回転部を構成するロータ26がシャフト25に固定(結合)されている。
図2(a)に示すように、ロータ26は、吸気口4側端部が閉塞された中空円柱形状をした、即ちカップ状の部材である。
詳しくは、ロータ26は、図2(b)に示すように、シャフト25(軸方向)に対して垂直方向に円盤状の閉塞部31が形成されている。
このロータ26の閉塞部31の排気口5側端面(下面)には、円形の凹溝32が形成されている。そして、ロータ26には、この凹溝32を形成することによって、凹溝32の外周部(外側)に周方向に渡って軸方向の高さを有する段差部33が形成されている。
さらに、ロータ26には、閉塞部31の外周近傍に、閉塞部31を貫通する複数のボルト孔36が軸線方向に形成されている。
【0035】
シャフト25は、円柱状の部材であり、その吸気口4側の端部には、その外周壁面から軸方向に対して垂直方向に、即ち半径方向外側に張り出したつば状のフランジ部34が周方向に渡って形成されている。
このシャフト25に設けられたフランジ部34の外周側端部には、吸気口4方向に、即ち、軸方向上向きに突出(突起)した環状の突出部35が周方向に渡って形成されている。
この環状の突出部35は、フランジ部34を含むシャフト25の吸気口4側端面にフランジ部34の外径よりも小さい径を有する円形の凹溝39を形成することによって形成されている。
なお、凹溝32および凹溝39の外径は同一となるように形成されている。
さらに、シャフト25には、フランジ部34を貫通する複数のボルト孔38が、ロータ26に設けられたボルト孔36と対応する位置に形成されている。このボルト孔38の内周壁面には、ネジ溝(ネジ山)が形成されている。
【0036】
締結部材27は、ロータ26の段差部33と、シャフト25の突出部35との間に配設された断面T字型の環状部材である。
この締結部材27は、そのT字の横棒部(円筒部29)がロータ26の凹溝32の外周壁面およびシャフト25の突出部35の内周壁面に沿って円周方向に延び、T字の縦棒部(フランジ部30)が半径方向外側に延びるように形成されている。
さらに、締結部材27には、フランジ部30を貫通する複数のボルト孔37が、ロータ26に設けられたボルト孔36およびシャフト25に設けられたボルト孔38と対応する位置に形成されている。
なお、円筒部29の外径は、凹溝32および凹溝39の外径よりも小さい値となっている。
【0037】
また、締結部材27の円筒部29における凹溝32側に突出した部分の高さは、凹溝32の深さ、即ち、段差部33の高さよりも低く形成されている。
同様に、締結部材27の円筒部29における凹溝39側に突出した部分の高さは、凹溝39の深さ、即ち、突出部35の高さよりも低く形成されている。
このように形成されたロータ26およびシャフト25は、ロータ26の段差部33の排気口5側面(下面)を締結部材27のフランジ部30の吸気口4側の面(上面)に当接させ、シャフト25の突出部35の吸気口4側端面(上端面)を締結部材27のフランジ部30の排気口5側面(下面)に当接させた状態において、即ち、ロータ26の段差部33とシャフト25の突出部35とによって、締結部材27のフランジ部を挟み込んだ状態において、ボルト28をボルト孔36、ボルト孔37およびボルト孔38に通して締め付けることによって固定(結合)されている。
つまり、ロータ26およびシャフト25は、締結部材27の円筒部29をロータ26の段差部33およびシャフト25の突出部35に掛合させた状態において固定(結合)されている。
【0038】
締結部材27は、図2(a)および(b)に示すように、中空円柱形状をした、即ち円筒状の部材によって構成されている。
締結部材27の円筒部29、ロータ26の段差部33およびシャフト25の突出部35は、モータ部10によって高速回転させられると、この回転により生じる遠心力により軸中心から放射方向(外側)へ引っ張る力、即ち、引っ張り応力が作用する。
このような引っ張り応力が作用すると、締結部材27の円筒部29、ロータ26の段差部33およびシャフト25の突出部35は、半径方向に膨張、即ち、半径方向に広がるように変形する。
この場合における、各部の変形率(膨張率)は、中心部が空の状態である分だけ締結部材27の円筒部29の方がロータ26の段差部33およびシャフト25の突出部35よりも大きくなる。
【0039】
そこで、第2実施形態におけるターボ分子ポンプ1においても、第1実施形態と同様に、高速回転時における部材間の変形率(膨張率)の違いを利用して、ロータ26およびシャフト25が固定されている。
第2実施形態においては、高速回転時におけるロータ26の段差部33およびシャフト25の突出部35の変形率(膨張率)と、締結部材27の円筒部29における変形率(膨張率)との違いを利用した、高速回転時のシャフト25とロータ26との間における固定精度を向上させる構造を用いている。
つまり、高速回転時にシャフト25とロータ26とが適切に固定された状態を保持できるように構成されている。
これにより、高速回転時におけるシャフト25とロータ26との間にがたつき、アンバランス等の不具合が生じることを抑制することができる。
【0040】
詳しくは、組み付け時(組立時)、即ち、初期状態におけるロータ26の段差部33、即ち、凹溝32の外周壁面と締結部材27の円筒部29の外周壁面との隙間の間隔δbを次の式2に示す範囲内に設定する。
(式2)δb<δDs−δDh
但し、δDsは、締結部材27の円筒部29の半径方向の膨張量(変形量)を示し、δDhは、ロータ26の凹溝32の外周壁面の半径方向の膨張量(変形量)を示す。
なお、第2実施形態においては、ロータ26の凹溝32の外周壁面の半径方向の膨張量(変形量)と、シャフト25の突出部35の内周壁面の半径方向の膨張量(変形量)とが同一となるように構成されている。
従って、初期状態におけるシャフト25の突出部35の内周壁面と締結部材27の円筒部29の外周壁面との隙間も間隔δbを保持するように配設されている。
【0041】
このような範囲に初期状態におけるロータ26の段差部33、即ち、凹溝32の外周壁面と締結部材27の円筒部29の外周壁面との隙間の間隔δbを設定することにより、高速回転時に、即ち、締結部材27の円筒部29が半径方向に広がる膨張変形を起こした時に、ロータ26の凹溝32の外周壁面およびシャフト25の突出部35の内周壁面が、締結部材27の円筒部29の外周壁面に確実に接触する。
さらに、円筒部29の外周壁面によって、半径方向の外向きにロータ26の凹溝32の外周壁面およびシャフト25の突出部35の内周壁面を付勢する力が作用するため、この付勢力によってロータ26とシャフト25が締結部材27を介して固定(結合)される。
また、δDsおよびδDhの値は、遠心力により生じる引っ張り応力による膨張量(変形量)だけでなく、ターボ分子ポンプ1の内部が高温になった場合を想定した熱膨張による膨張量(変形量)やクリープ現象、部材を形成する材料のヤング率(縦弾性係数)や密度を考慮した膨張量(変形量)を考慮した値とすることが好ましい。
【0042】
本実施の形態によれば、組み付け(組立)段階において、ロータ26の凹溝32の外周壁面およびシャフト25の突出部35の内周壁面と、締結部材27の円筒部29との間に、間隔δbの隙間を設けておくことができるため、即ち、組立時における部材間のクリアランスを十分に確保することができるため、容易にロータ26とシャフト25を組み付けることができ、組み付け時の作業性を向上させることができる。
間隔δbは、例えば、0.1〜0.2mmレベルで設けることができるため、従来のロータとシャフトとの固定部に設けられているクリアランス値(0.01〜0.02mm)と比較しても十分大きな値であるといえる。
【0043】
また、本実施の形態によれば、組立時における部材間のクリアランスを十分に確保することができるため、容易にロータ26の段差部33とシャフト25の突出部35とによって、締結部材27のフランジ部30を挟み込むことができ、適切に軸方向の位置を安定させることができる。
さらに、本実施の形態によれば、組み付け(組立)段階において、ロータ26の凹溝32の外周壁面およびシャフト25の突出部35の内周壁面と、締結部材27の円筒部29との間に、間隔δbの隙間を設けておくことができるため、ターボ分子ポンプ1の非運転時には、締結部材27を含むロータ26とシャフト25との固定部(結合構造部)において、半径方向に力が作用することがなく、半径方向に作用する応力を生じさせることがない。
【0044】
(第3実施形態)
次に、本発明における第2実施形態について図3(a)および図3(b)を参照して説明する。
図3(a)は、第3実施形態に係る回転部材の結合構造を備えたターボ分子ポンプ1の概略構成を示した図であり、図3(b)は、図3(a)の破線部に示す回転部材の結合構造部分の拡大図を示した図である。なお、図3(a)は、ターボ分子ポンプ1の軸線方向の断面図を示している。
なお、上述した図1に示す第1実施形態と同一部分(重複する箇所)には、同一の符号を用い詳細な説明を省略する。
【0045】
第3実施形態では、ターボ分子ポンプ部41とネジ付ポンプ部42が別の部材によって構成されているタイプのターボ分子ポンプ1における、ターボ分子ポンプ部41とネジ付ポンプ部42との接合(結合)構造について説明する。
ターボ分子ポンプ部41は、吸気口4側端部が閉塞された中空円柱形状をした、即ちカップ状の部材であり、シャフト40に配設された回転部を構成する部材である。ターボ分子ポンプ部41の閉塞部分には、シャフト40に固定する際に用いられるシャフト40を貫通する貫通孔が形成されている。
シャフト40は、円柱部材の回転軸であり、シャフト40の上端部の近傍には、シャフト40の径が大きくなる方向に変化する肩部が設けられている。
そして、シャフト40の先端部をターボ分子ポンプ部41の貫通孔に嵌め込まれると、ターボ分子ポンプ部41は、シャフト40に設けられた肩部で移動が抑止される状態となる。この状態において、ターボ分子ポンプ部41は、ボルト等の締め付け部材によってシャフト40に締め付け固定されている。
【0046】
円筒状のターボ分子ポンプ部41には、図3(b)に示すように、排気口5側端部、即ち、ネジ付ポンプ部42との接合(結合)部に、内径が大きくなるように形成された段差部47が形成されている。
また、ターボ分子ポンプ部41の排気口5側端面には、軸方向に延びるボルト穴48が形成されている。このボルト穴48の内周壁面には、ネジ溝(ネジ山)が形成されている。
ネジ付ポンプ部42は、ターボ分子ポンプ部41の回転軸線と同心の円筒形状をした円筒部材でありる。ネジ付ポンプ部42は、図3(b)に示すように、軸方向に延びる円筒部44と、この円筒部44の吸気口4側端部から軸中心方向に垂直に張り出したつば状のフランジ部45を備えている。
このネジ付ポンプ部42に設けられたフランジ部45の内周側端部には、吸気口4方向に、軸方向上向き(ターボ分子ポンプ部41方向)に突出(突起)した環状の突出部46が周方向に渡って形成されている。
さらに、ネジ付ポンプ部42には、フランジ部45を貫通する複数のボルト孔49が軸線方向に形成されている。
【0047】
ネジ付ポンプ部42に設けられている突出部46の外径は、ターボ分子ポンプ部41に設けられている段差部47の内周壁面の内径よりも小さい値となっている。
さらに、ネジ付ポンプ部42に設けられている突出部46の高さは、ターボ分子ポンプ部41に設けられている段差部47の軸方向の高さよりも低く形成されている。
このように形成されたネジ付ポンプ部42は、ネジ付ポンプ部42の突出部46をターボ分子ポンプ部41に設けられた段差部47に嵌め込み、ターボ分子ポンプ部41の排気口5側の端面をネジ付ポンプ部42のフランジ部45の吸気口4側端面と当接させた状態において、ボルト43をボルト孔49およびボルト穴48に通して締め付けることによってターボ分子ポンプ部41に固定(結合)されている。
つまり、ネジ付ポンプ部42は、ネジ付ポンプ部42の突出部46をターボ分子ポンプ部41に形成された段差部47に掛合させた状態においてターボ分子ポンプ部41に固定(結合)されている。
【0048】
第3実施形態におけるターボ分子ポンプ1では、ターボ分子ポンプ部41とネジ付ポンプ部42とを高速回転時における膨張率(変形率)の異なる材質の部材を用いて形成されている。
詳しくは、ターボ分子ポンプ部41を形成する部材の膨張率(変形率)がネジ付ポンプ部42を形成する部材の膨張率(変形率)よりも小さくなるように構成されている。
具体的には、例えば、ステンレス鋼材を用いてターボ分子ポンプ部41を形成し、アルミニウム材を用いてネジ付ポンプ部42を形成している。
このように、ターボ分子ポンプ部41とネジ付ポンプ部42を形成することによって、ターボ分子ポンプ部41とネジ付ポンプ部42との掛合部において、軸中心側に位置するネジ付ポンプ部42の突出部46の半径方向に広がる膨張量(変形量)が、ネジ付ポンプ部42の段差部47の内周壁面の膨張量(変形量)よりも大きくなる。
【0049】
第3実施形態においては、このような高速回転時におけるターボ分子ポンプ部41の段差部47の変形量率(膨張率)と、ネジ付ポンプ部42の突出部46における変形率(膨張率)との違いを利用した、高速回転時のターボ分子ポンプ部41とネジ付ポンプ部42との間における固定精度を向上させる構造を用いている。
つまり、高速回転時にターボ分子ポンプ部41とネジ付ポンプ部42とが適切に固定された状態を保持できるように構成されている。
これにより、高速回転時におけるターボ分子ポンプ部41とネジ付ポンプ部42との間にがたつき、アンバランス等の不具合が生じることを抑制することができる。
【0050】
詳しくは、組み付け時(組立時)、即ち、初期状態におけるターボ分子ポンプ部41の段差部47の内周壁面とネジ付ポンプ部42の突出部46の外周壁面との隙間の間隔δcを次の式3に示す範囲内に設定する。
(式3)δc<δDs−δDh
但し、δDsは、ネジ付ポンプ部42の突出部46の半径方向の膨張量(変形量)を示し、δDhは、ターボ分子ポンプ部41の段差部47の内周壁面の半径方向の膨張量(変形量)を示す。
【0051】
このような範囲に初期状態におけるターボ分子ポンプ部41の段差部47の内周壁面とネジ付ポンプ部42の突出部46の外周壁面との隙間の間隔δcを設定することにより、高速回転時に、即ち、ネジ付ポンプ部42の突出部46およびターボ分子ポンプ部41の段差部47の内周壁面が半径方向に広がる膨張変形を起こした時に、ネジ付ポンプ部42の突出部46の外周壁面が、ターボ分子ポンプ部41の段差部47の内周壁面に確実に接触する。
さらに、ネジ付ポンプ部42の突出部46の外周壁面によって、半径方向の外向きにターボ分子ポンプ部41の段差部47の内周壁面を付勢する力が作用するため、この付勢力によってターボ分子ポンプ部41とネジ付ポンプ部42との嵌合度が強化される。
また、δDsおよびδDhの値は、遠心力により生じる引っ張り応力による膨張量(変形量)だけでなく、ターボ分子ポンプ1の内部が高温になった場合を想定した熱膨張による膨張量(変形量)やクリープ現象、部材を形成する材料のヤング率(縦弾性係数)や密度を考慮した膨張量(変形量)を考慮した値とすることが好ましい。
【0052】
本実施の形態によれば、組み付け(組立)段階において、ターボ分子ポンプ部41の段差部47の内周壁面とネジ付ポンプ部42の突出部46の外周壁面との間に間隔δcの隙間を設けておくことができるため、即ち、組立時における部材間のクリアランスを十分に確保することができるため、容易にターボ分子ポンプ部41とネジ付ポンプ部42を組み付けることができ、組み付け時の作業性を向上させることができる。
また、本実施の形態によれば、組立時における部材間のクリアランスを十分に確保することができるため、容易にターボ分子ポンプ部41の排気口5側端面(下端面)をネジ付ポンプ部42のフランジ部45の吸気口4側端面と当接させることができ、適切に軸方向の位置を安定させることができる。
【0053】
さらに、本実施の形態によれば、組み付け(組立)段階において、ターボ分子ポンプ部41の段差部47の内周壁面とネジ付ポンプ部42の突出部46の外周壁面との間に間隔δcの隙間を設けておくことができるため、ターボ分子ポンプ1の非運転時には、ターボ分子ポンプ部41とネジ付ポンプ部42との接合部(結合部)において、半径方向に力が作用することがなく、半径方向に作用する応力を生じさせることがない。
【0054】
(第4実施形態)
次に、本発明における第4実施形態について図4(a)および図4(b)を参照して説明する。
図4(a)は、第4実施形態に係る回転部材の結合構造を備えたターボ分子ポンプ1の概略構成を示した図であり、図4(b)は、図4(a)の破線部に示す回転部材の結合構造部分の拡大図を示した。なお、図4(a)は、ターボ分子ポンプ1の軸線方向の断面図を示している。
なお、上述した図1に示す第4実施形態と同一部分(重複する箇所)には、同一の符号を用い詳細な説明を省略する。
【0055】
第4実施形態では、ロータ部が第1ロータ部52と第2ロータ部53とから構成されているタイプのターボ分子ポンプ1における、第1ロータ部52および第2ロータ部53とをシャフト51に固定する接合(結合)構造について説明する。
シャフト51は、円柱状の部材であり、その吸気口4側の端部には、その外周壁面から軸方向に対して垂直方向に、即ち半径方向外側に張り出したつば状のフランジ部60が周方向に渡って形成されている。
このシャフト51に設けられたフランジ部60の外周側端部には、吸気口4方向に、即ち、軸方向上向きに突出(突起)した環状の突出部61が周方向に渡って形成されている。
この環状の突出部61は、フランジ部60を含むシャフト51の吸気口4側端面にフランジ部60の外径よりも小さい径を有する円形の凹溝63を形成することによって形成されている。
さらに、シャフト51には、フランジ部60を貫通する複数のボルト孔66が形成されている。このボルト孔66の内周壁面には、ネジ溝(ネジ山)が形成されている。
【0056】
図4(a)に示すように、第1ロータ部52は、シャフト51(軸方向)に対して垂直方向に円盤状の円板部55が形成されている。この円板部55の外周端部から垂直上向き(吸気口4方向)に延びるように中空円柱状の円筒部が形成され、この円筒部の外周面から、シャフト51の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜してシャフト51から放射状に伸びたブレードからなるロータ翼8が設けられている。
この第1ロータ部52の円板部55の排気口5側端面(下面)には、円形の凹溝56が形成されている。そして、第1ロータ部52には、この凹溝56を形成することによって、凹溝56の外周部(外側)に周方向に渡って軸方向の高さを有する段差部57が形成されている。なお、凹溝56および凹溝63の外径は同一となるように形成されている。
さらに、第1ロータ部52には、円板部55の外周近傍に、円板部55を貫通する複数のボルト孔64が軸線方向に形成されている。
【0057】
第2ロータ部53は、第1ロータ部52と同様に回転部を構成する中空円柱形状をした部材である。
この第2ロータ部53においても、第1ロータ部52と同様に、外周面からシャフト51の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜してシャフト51から放射状に伸びたブレードからなるロータ翼8が設けられている。
さらに、第2ロータ部53には、外周面が円筒形状をした部材からなる円筒部材54が排気口5(ネジ溝式ポンプ部)に設けられている。
第2ロータ部53は、図4(b)に示すように、その吸気口4側端部の内周壁面から軸方向に対して垂直方向に、即ち、半径方向に内側に張り出したつば状のフランジ部58が周方向に渡って形成されている。
【0058】
この第2ロータ部53に設けられたフランジ部58の内周側端部には、このフランジ部58を縦棒部とするように中空円柱状の円筒部59(横棒部)が断面T字型に設けられている。
さらに、第2ロータ部53には、円筒部59を軸方向に貫通する複数のボルト孔65が、シャフト51に設けられたボルト孔66および第1ロータ部52に設けられたボルト孔64と対応する位置に形成されている。
なお、円筒部59の外径は、凹溝56および凹溝63の外径よりも小さい値となっている。
【0059】
また、第2ロータ部53の円筒部59における凹溝56側に突出した部分の高さは、凹溝56の深さ、即ち、段差部57の高さよりも高く形成されている。
同様に、第2ロータ部53の円筒部59における凹溝63側に突出した部分の高さは、凹溝63の深さ、即ち、突出部61の高さよりも高く形成されている。
このように形成された第1ロータ部52、第2ロータ部53およびシャフト51は、第2ロータ部53の吸気口4側端面を第1ロータ部52の円板部55の排気口5側の面(下面)に当接させ、第2ロータ部53の排気口5側端面をシャフト51の凹溝63の底面に当接させた状態において、即ち、第1ロータ部52の円板部55とシャフト51とによって、第2ロータ部53の円筒部59を挟み込んだ状態において、ボルト62をボルト孔64、ボルト孔65およびボルト孔66に通して締め付けることによって固定(結合)されている。
つまり、第1ロータ部52およびシャフト51は、第2ロータ部53の円筒部59を第1ロータ部52の段差部57およびシャフト51の突出部61に掛合させた状態において固定(結合)されている。
【0060】
第2ロータ部53は、図4(a)および(b)に示すように、中空円柱形状をした、即ち円筒状の部材によって構成されている。
第2ロータ部53の円筒部59、第1ロータ部52の段差部57およびシャフト51の突出部61は、モータ部10によって高速回転させられると、この回転により生じる遠心力により軸中心から放射方向(外側)へ引っ張る力、即ち、引っ張り応力が作用する。
このような引っ張り応力が作用すると、第2ロータ部53の円筒部59、第1ロータ部52の段差部57およびシャフト51の突出部61は、半径方向に膨張、即ち、半径方向に広がるように変形する。
この場合における、各部の変形率(膨張率)は、中心部が空の状態である分だけ第2ロータ部53の円筒部59の方が第1ロータ部53の段差部57およびシャフト51の突出部61よりも大きくなる。
【0061】
そこで、第4実施形態におけるターボ分子ポンプ1においても、第1〜3実施形態と同様に、高速回転時における部材間の変形率(膨張率)の違いを利用して、第1ロータ部52、第2ロータ部53およびシャフト51が固定されている。
第4実施形態においては、高速回転時における第1ロータ部52の段差部57およびシャフト51の突出部61の変形率(膨張率)と、第2ロータ部53の円筒部59における変形率(膨張率)との違いを利用した、高速回転時の第1ロータ部52、第2ロータ部53およびシャフト51との間における固定精度を向上させる構造を用いている。
つまり、高速回転時に第1ロータ部52、第2ロータ部53およびシャフト51が適切に固定された状態を保持できるように構成されている。
これにより、高速回転時における第1ロータ部52、第2ロータ部53およびシャフト51の間にがたつき、アンバランス等の不具合が生じることを抑制することができる。
【0062】
詳しくは、組み付け時(組立時)、即ち、初期状態における第1ロータ部52の段差部57、即ち、凹溝56の外周壁面と第2ロータ部53の円筒部59の外周壁面との隙間の間隔δdを次の式4に示す範囲内に設定する。
(式4)δd<δDs−δDh
但し、δDsは、第2ロータ部53の円筒部59の半径方向の膨張量(変形量)を示し、δDhは、第1ロータ部52の凹溝56の外周壁面の半径方向の膨張量(変形量)を示す。
なお、第4実施形態においては、第1ロータ部52の凹溝56の外周壁面の半径方向の膨張量(変形量)と、シャフト51の突出部61の内周壁面の半径方向の膨張量(変形量)とが同一となるように構成されている。
従って、初期状態におけるシャフト51の突出部61の内周壁面と第2ロータ部53の円筒部59の外周壁面との隙間も間隔δdを保持するように配設されている。
【0063】
このような範囲に初期状態における第1ロータ部52の段差部57、即ち、凹溝56の外周壁面と第2ロータ部53の円筒部59の外周壁面との隙間の間隔δdを設定することにより、高速回転時に、即ち、第2ロータ部53の円筒部59が半径方向に広がる膨張変形を起こした時に、第1ロータ部52の凹溝56の外周壁面およびシャフト51の突出部61の内周壁面が、第2ロータ部53の円筒部59の外周壁面に確実に接触する。
さらに、円筒部59の外周壁面によって、半径方向の外向きに第1ロータ部52の凹溝56の外周壁面およびシャフト51の突出部61の内周壁面を付勢する力が作用するため、この付勢力によって第1ロータ部52とシャフト51が第2ロータ部53を介して固定(結合)される。
また、δDsおよびδDhの値は、遠心力により生じる引っ張り応力による膨張量(変形量)だけでなく、ターボ分子ポンプ1の内部が高温になった場合を想定した熱膨張による膨張量(変形量)やクリープ現象、部材を形成する材料のヤング率(縦弾性係数)や密度を考慮した膨張量(変形量)を考慮した値とすることが好ましい。
【0064】
本実施の形態によれば、組み付け(組立)段階において、第1ロータ部52の段差部57、即ち、凹溝56の外周壁面と第2ロータ部53の円筒部59との間に、間隔δdの隙間を設けておくことができるため、即ち、組立時における部材間のクリアランスを十分に確保することができるため、容易に第1ロータ部52、第2ロータ部53およびシャフト51を組み付けることができ、組み付け時の作業性を向上させることができる。
間隔δdは、例えば、0.1〜0.2mmレベルで設けることができるため、従来のロータとシャフトとの固定部に設けられているクリアランス値(0.01〜0.02mm)と比較しても十分大きな値であるといえる。
【0065】
また、本実施の形態によれば、組立時における部材間のクリアランスを十分に確保することができるため、容易に第1ロータ部52の円板部55とシャフト51の凹溝63の底面とによって、第2ロータ部53の円筒部59を挟み込むことができ、適切に軸方向の位置を安定させることができる。
さらに、本実施の形態によれば、組み付け(組立)段階において、第1ロータ部52の段差部57、即ち、凹溝56の外周壁面と第2ロータ部53の円筒部59との間に、間隔δdの隙間を設けておくことができるため、ターボ分子ポンプ1の非運転時には、第1ロータ部52、第2ロータ部53およびシャフト51の固定部(結合構造部)において、半径方向に力が作用することがなく、半径方向に作用する応力を生じさせることがない。
【0066】
なお、上述した第1、第2および第4実施形態においては、高速回転時において変形率(膨張率)が大きくなるように形成される部材として、中心部が空の状態である部材を用いるようにしているが、高速回転時における変形率(膨張率)の違いを利用した結合構造はこれに限定されるものではない。高速回転時における変形率(膨張率)を掛合させる部材間において異ならせる方法として、例えば、掛合させる各部材を高速回転時における膨張率(変形率)の異なる材質の部材を用いて形成するようにしてもよい。具体的には、変形率(膨張率)の大きい部材としてアルミニウム材を用いたり、変形率(膨張率)の小さい部材としてステンレス鋼材を用いたりするようにしてもよい。
【0067】
第1〜第4実施形態によれば、従来の“焼きバメ”方式を用いて回転部材を結合する場合と異なり、回転部材を予め組み付けておく必要がなくなるため、真空ポンプの組立が容易になる。
また、これにより、真空ポンプの組立時における組立の自由度を向上させることができる。
さらに、第1〜第4実施形態に示した、隙間の間隔δa〜δdを、引っ張り応力、熱膨張、クリープ現象、部材のヤング率(縦弾性係数)、密度等を十分に考慮した膨張量(変形量)に基づいて算出することにより、適切に真空ポンプの運転時に生じるバランス不良等の不具合を抑制することができるため、真空ポンプの信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】(a)は、第1実施形態に係る回転部材の結合構造を備えたターボ分子ポンプの概略構成を示した図であり、(b)は、(a)の破線部に示す回転部材の結合構造部分の拡大図を示した図である。
【図2】(a)は、第2実施形態に係る回転部材の結合構造を備えたターボ分子ポンプの概略構成を示した図であり、(b)は、(a)の破線部に示す回転部材の結合構造部分の拡大図を示した図である。
【図3】(a)は、第3実施形態に係る回転部材の結合構造を備えたターボ分子ポンプの概略構成を示した図であり、(b)は、(a)の破線部に示す回転部材の結合構造部分の拡大図を示した図である。
【図4】(a)は、第4実施形態に係る回転部材の結合構造を備えたターボ分子ポンプの概略構成を示した図であり、(b)は、(a)の破線部に示す回転部材の結合構造部分の拡大図を示した図である。
【符号の説明】
【0069】
1 ターボ分子ポンプ
2 ケーシング
3 ベース
4 吸気口
5 排気口
6 シャフト
7 ロータ
8 ロータ翼
9 ステータコラム
10 モータ部
11 径方向磁気軸受装置
12 径方向磁気軸受装置
13 軸方向磁気軸受装置
14 ステータ翼
15 ネジ溝スペーサ
16 スペーサ
17 ボルト
18 フランジ部
19 突出部
20 フランジ部
21 突出部
22 ボルト孔
23 ボルト孔
24 凹溝
25 シャフト
26 ロータ
27 締結部材
28 ボルト
29 円筒部
30 フランジ部
31 閉塞部
32 凹溝
33 段差部
34 フランジ部
35 突出部
36 ボルト孔
37 ボルト孔
38 ボルト孔
39 凹溝
40 シャフト
41 ターボ分子ポンプ部
42 ネジ付ポンプ部
43 ボルト
44 円筒部
45 フランジ部
46 突出部
47 段差部
48 ボルト穴
49 ボルト孔
51 シャフト
52 第1ロータ部
53 第2ロータ部
54 円筒部材
55 円板部
56 凹溝
57 段差部
58 フランジ部
59 円筒部
60 フランジ部
61 突出部
62 ボルト
63 凹溝
64 ボルト孔
65 ボルト孔
66 ボルト孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速回転する第1回転部材と第2回転部材とを結合する回転部材の結合構造であって、
前記第1回転部材に形成された、回転軸を中心軸とする円柱状の第1突出部と、
前記第2回転部材に形成された、前記第1突出部と係合する凹部と、
を備え、
高速回転時における前記第1突出部の外周壁の半径方向に広がる変形量をδDs、前記凹部の内周壁の半径方向に広がる変形量をδDhとした場合、
前記凹部は、
(式1)δDs>δDh
を満たす範囲で形成されていることを特徴とする回転部材の結合構造。
【請求項2】
前記第1突出部は、所定の内径を有する中空円柱状であることを特徴とする請求項1記載の回転部材の結合構造。
【請求項3】
前記第1回転部材は、高速回転時における半径方向の変形率が前記第2回転部材より大きい部材で形成されていることを特徴とする請求項1記載の回転部材の結合構造。
【請求項4】
初期状態において、前記第1突出部の外周壁と前記凹部の内周壁との間に隙間δLが、
(式2)δL<δDs−δDh
を満たす範囲で形成されていることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の回転部材の結合構造。
【請求項5】
前記第1回転部材および前記第2回転部材は、真空ポンプに備えられた回転体を構成する部材であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1の請求項に記載の回転部材の結合構造。
【請求項6】
前記第1回転部材は、ロータ部を構成する部材であり、
前記第2回転部材は、回転軸を構成する部材であることを特徴とする請求項5記載の回転部材の結合構造。
【請求項7】
前記真空ポンプは、ターボ分子ポンプ部およびネジ溝ポンプ部を備えた複合型真空ポンプであり、
前記第1回転部材は、前記ネジ溝ポンプ部におけるロータ部を構成する部材であり、
前記第2回転部材は、前記ターボ分子ポンプ部におけるロータ部を構成する部材であることを特徴とする請求項5記載の回転部材の結合構造。
【請求項8】
真空ポンプの回転体を構成する第3回転部材と第4回転部材とを結合する回転体の結合構造であって、
前記第3回転部材と前記第4回転部材との結合部に介在し、前記第3回転部材および前記第4回転部材の両方向に突出する、回転軸を中心軸とする円柱状の第2突出部を有する締結部材と、
前記第3回転部材および前記第4回転部材に形成された、前記第2突出部と係合し、当該真空ポンプの運転時における内周壁の半径方向に広がる変形量が前記第2突出部の外周壁の半径方向に広がる変形量よりも小さく形成された第2凹部と、
を備えたことを特徴とする回転部材の結合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−57805(P2006−57805A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−242771(P2004−242771)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【出願人】(598021579)BOCエドワーズ株式会社 (44)
【Fターム(参考)】