説明

回転電機の回転子の製造方法および回転子

【課題】巻線に未硬化樹脂を滴下する際に、巻線に含浸される未硬化樹脂を適正に分布させることが容易な回転電機の回転子の製造方法の提供。
【解決手段】ランデル型ロータコアの組付体を回転手段により回転させながら水平駆動機構で適正位置に制御したノズルから、流動性のある未硬化樹脂8を窓13を通じて巻線6の外周面に間欠的かつ選択的に滴下する。一カ所または複数箇所に未硬化樹脂8を滴下する量および位置を自由にコントロールして、樹脂の含浸領域を電磁コイルの軸方向に最適に調整する。未硬化樹脂8の流動性、回転子の回転数、樹脂の滴下位置および滴下量を制御することで、未硬化樹脂8を所望のパターンに伸展、含浸させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用交流発電機のように、ランデル型ロータコアを備えた回転電機の回転子の製造方法および回転子にかかわり、とくに、磁界コイルの巻線への樹脂の滴下方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用交流発電機の回転子として、円筒状のボス部、ボス部の一端から径方向に展長して設けられたディスク部、およびディスク部の外周から他端方向に等間隔で延長された複数(例えば8個)の爪部を有する一対の鉄心(ポールコア)を、対向して組み合わせた組立体(ランデル型ロータコア)が使用されている。隣接した爪部の間はディスク部の外周に達するV字状の溝(V溝)となっている。一方のコアの爪部は他方のポールコアのV溝を所要の隙間を介して噛み合った状態で配され、波形状に連続した隙間を形成している。噛み合わされた爪部内には、ボス部に外嵌して磁界コイルが収容されている。対向して配された一対のポールコア、磁界コイルは、シャフトが圧入されて一体化した組付体となっている。
【0003】
磁界コイルは、絶縁ボビンと、絶縁ボビンに電導線を円筒状に巻回した巻線とからなる。一対のポールコアと磁界コイルとは、それらの軸心にシャフトを圧入して一体化されている。絶縁ボビンは、ナイロンなど樹脂の射出成型で製造され、巻線が巻回される筒状の巻胴部と、この巻胴部の両端から径方向に伸びるフランジ部とを有している。
【0004】
各フランジ部は、ポールコアのディスク部の内面に当接するとともに円筒状の巻線の端面に当接する鍔部、この鍔部から前記複数(例えば6個)の爪部に対応して放射状に延長され、爪部の内壁面に当接する舌部とからなる。隣接した舌部間は、V溝に対応したV字状の切欠部となっている。また、一方のフランジ部には、切欠部の底の位置にV溝の底に係合する突起部を設けている(特許文献1参照)。この突起部は、磁界コイルの回り止めとして作用するとともに、対向位置にある2つの突起部は、巻線の巻き始め側および巻き終わり側の引出線を係止して巻線のゆるみを防ぐ係止部を兼ねている。
【0005】
一対のコア、磁界コイルおよびシャフトの組付体は、円筒面となっている爪部外周に、波形状溝(波状隙間)が周設される。この波形状溝は、両ディスク部の外周部分がV溝の底に(両ディスク部が外周)位置しており、両ディスク部から内側の爪部外周には、略平行四辺形の開口部(窓)となっている。この各窓には、電磁コイルの巻線の外周面が露出している。前記組付体へは、波状隙間から、巻線の外周を被覆するとともに巻線内に含浸される熱可塑性樹脂が、未硬化(ゾルないしゲル化中)の状態で塗布される。巻線に塗布された未硬化樹脂は、巻線全体に含浸され、つづいて、熱風炉内で所定時間、所定の温度で加熱され、熱硬化して巻線を固着する。
【0006】
特許文献1には、回転子への樹脂含浸方法として、(a)加熱工程、(b)主含浸工程、(c)保温固定、からなる。主含浸工程としては、回転子の巻線に樹脂を含浸させるために、回転子を軸(シャフト)回りに回転させつつ、爪部間の隙間(波状隙間)に樹脂をノズルから滴下していく工法が記載されている。
特許文献2には、回転子のボビンは外側へ延長された突起部を有し、この突起部がポールコアのV溝の底部に係合してボビンの回転を抑止させる構成が開示されている。この構成では、突起部とV溝の底部との隙間に樹脂が侵入して固着すると、突起部にクラックが入り、磁界コイルの電気絶縁性が低下する問題が提起されている。
【0007】
特許文献3には、電磁コイルの信頼性を高めるため、巻線に通電加熱してワニス(樹脂)をゲル化する方法と、ワニスを滴下して含浸させる滴下含浸法において、ワニスの含浸量を増やす目的で電磁コイルにワニスを多量に滴下すると、ワニスが爪部間の隙間から溢れ出し、ポールコアにワニスが多く付着する問題が開示されている。
特許文献3に記載の滴下含浸法においては、樹脂が巻線の表面を伝って、ポールコアの爪部にオーバーフローし、特許文献2に記載の突起部とV溝の底部との隙間に樹脂が侵入して固着する可能性が増大する不具合が生じ易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4492303号公報
【特許文献2】特開2008−29102号公報
【特許文献3】特開2007−151243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
回転子の巻線に樹脂を含浸させるために、回転子を軸(シャフト)回りに回転させつつ、爪部間の隙間(波状隙間)に流動性のある未硬化樹脂をノズルから滴下(流下)していく工法は、生産性に優れるが、拡散して巻線全体に浸透するための多量の樹脂を滴下直下の狭い領域に流すため、ポールコア爪先周辺に滴下された樹脂が、特許文献2に記載の如くボビンの突起部とポールコアのV溝の底部との隙間に未硬化樹脂が侵入したり、特許文献3に記載の如く滴下する未硬化樹脂がオーバーフローしてポールコアに付着する問題が生じ易い。
【0010】
この発明の目的は、巻線の表面に未硬化樹脂を適量に滴下できる回転電機の回転子の製造方法の提供にある。すなわち、特許文献2に記載のボビンの突出部とポールコアのV溝の底部との隙間に樹脂が侵入して固着する不具合や、未硬化樹脂がオーバーフローしてポールコアに付着することを防止して、電磁コイルに必要な最小限の樹脂を含浸させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の要旨は、一対のポールコアの対向した爪部間の波型隙間の各窓から巻線の表面に樹脂を塗布して含浸させる回転電機の回転子製造方法において、巻線の外周表面の一部領域に流動性のある未硬化樹脂を滴下(流下)し、滴下直後の未硬化樹脂を巻線の外周表面で伸展させて、前記一部領域以外の巻線の外周表面に未硬化樹脂を付着させることにある。
この一部領域および未硬化樹脂の滴下量を適宜に選択することにより、未硬化樹脂が巻線に適正な分布で含浸される。このため、未硬化樹脂が電磁コイルからオーバーフローして、電磁コイルの不必要な部位やポールコアのV溝の底部に流動する不具合を有効かつ容易に防止できる。
【0012】
請求項2の発明では、一部領域は、一対のポールコアの対向した爪部間の波型隙間の各窓に臨んだ略平行四辺形の巻線の外周表面である。
各窓に臨んだ略平行四辺形の巻線の外周表面は、各窓からゾル状の未硬化樹脂を容易に滴下させることができる。
請求項3の発明では、一部領域は、一対のポールコアの対向した爪部間の波型隙間の各窓に臨んだ略平行四辺形の巻線の外周表面の一箇所または複数箇所であることを特徴とする。
この結果、樹脂の含浸領域を電磁コイルの軸方向に任意に変更させる自由度が増大する。
【0013】
請求項4の発明では、一部領域は、複数箇所であり、各窓に臨んだ略平行四辺形の巻線の外周表面の中央ほど領域の面積が広いことを特徴とする。
巻線の中心に近い領域で、樹脂の含浸量を増やし、両外端方向では樹脂の含浸量を減らして、樹脂が電磁コイルの外に溢れ難くさせることが容易にできる。
【0014】
請求項5の発明では、一部領域は、複数箇所であり、各窓に臨んだ略平行四辺形の巻線の外周表面の中央ほど間隔が狭いことを特徴とする。
請求項6の発明では、一部領域は、複数箇所であり、各窓に臨んだ略平行四辺形の巻線の外周表面の中央ほど未硬化樹脂の滴下量を多くしたことを特徴とする。
これらの発明では、巻線の中心に近い領域で、樹脂の含浸量を増やし、両外端方向では樹脂の含浸量を減らして、樹脂が電磁コイルの外に溢れ難くさせることが容易にできる。
【0015】
請求項7の発明では、未硬化樹脂の伸展手段は、回転子をシャフト軸中心に回転させる回転手段からなる。巻線の外周(円筒)面に滴下された流動性のある未硬化樹脂が、円周方向に重力の成分が働くように回転子を回転させる。これにより、巻線の円筒面の未硬化樹脂を流動させて、未硬化樹脂の一部が巻線との粘着作用により滴下された巻線の表面およびその内部に残り、それ以外の未硬化樹脂は、回転による円周方向の慣性および重力の分力により、周囲の巻線の表面および内部に伸展される。
この発明では、樹脂の流動性、回転子の回転数、樹脂の滴下位置および滴下量を制御することで、樹脂を所望のパターンに伸展操作することができる。
【0016】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜7のいずれかに記載の回転電機の回転子の製造方法により製造される回転電機の回転子であって、巻線の中央部に較べ、巻線の両端部の樹脂膜厚を薄くしたことを特徴する。
この発明では、ポールコアの爪部間のV溝の底部とボビンの突起部との隙間に樹脂が浸透する不具合を防止でき、かつ、回転子のポールコア外端に樹脂をオーバーフローさせず、コイル含浸に寄与しない樹脂材料の無駄を抑制するとともに、巻線の端末の引出線に外装される絶縁チューブと、爪部の底面との接着による、引出線の破断防止効果を得ることができる。
【0017】
請求項9に記載の発明は、請求項1〜8のいずれかに記載の回転電機の回転子の製造方法により製造される回転電機の回転子であって、一部領域は、各窓に臨んだ略平行四辺形の巻線の外周表面およびボビンのフランジ部の外面に設けた突起部の内、巻線の引出線が係止される係止部であることを特徴する。
この発明では、回転子のポールコア外端に樹脂をオーバーフローさせず、コイル含浸に寄与しない樹脂材料の無駄を抑制でき、かつ、ポールコアの爪部間のV溝の底部とボビンの突起部との隙間に樹脂が浸透する不具合を防止できるとともに、コイル引出線に被覆される絶縁チューブと、爪部の底面との強固な固着を得ることができる。これにより、振動に起因した断線を防止できる。
【0018】
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の回転電機の回転子の製造方法により製造される回転子であって、ボビンのフランジ部の外面に設けた突起部の内、コイル引出線が係止される係止部以外の突起部への樹脂の含浸を防止している。
この発明では、ポールコアのV溝の底部とボビンの突起部との隙間に樹脂が含浸して固着し、ボビンにクラックが生じる不具合を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】回転電機の回転子の一部断面図および要部拡大図である。
【図2】樹脂の滴下装置の概略図である。
【図3】図1の要部拡大図およびそのA−A断面図である。
【図4】滴下パターンの説明図である。
【図5】他の滴下パターンの説明図およびそのB−B断面図である。
【図6】他の滴下パターンの説明図およびそのC−C断面図である。
【図7】他の滴下パターンの説明図およびそのD−D断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明を実施するための形態を図に示す実施例とともに説明する。
【実施例】
【0021】
図1は、車両用交流発電機の回転子1を示し、エンジンによって駆動され、発電のための界磁子として作動する。回転子1は、シャフト2と、このシャフト2に対向して圧入された一対のポールコア3、4とを備える。これらポールコア3、4の間には、電気絶縁性のボビン5と、このボビン5に導電線が緻密に巻回された巻線6とを備えた磁界コイル7が配設されている。巻線6は、エポキシ樹脂等の熱硬化樹脂(以下、エポキシ樹脂)8により固着されている。
【0022】
ポールコア3、4はそれぞれ同形であり、シャフト2に外嵌めされる円筒状のボス部31、41と、このボス部31、41のそれぞれの外側端面から径方向に展長したディスク部32、42とを備える。このディスク部32、42の外周部分からは、爪状磁極を形成する複数の爪部33、43が軸方向(内側方向)に延長されている。図1の実施例では、ポールコア3、4の爪部33、43はそれぞれ8個であり、同一形状で等間隔に形成され、各爪部33、43の外周面は、シャフト2と同軸心を有する円筒面内に位置している。
【0023】
爪部33(43)は、外周壁面331は前記の円筒面、内周壁面332は先端に行くに従って半径(内径)が漸増するシャフト2と同軸心を有する略円錐面となっている。爪部33(43)の周方向の幅は、先端(軸方向内側)に向かってが漸減し、楔形状を有するとともに、先端は半径方向の端面333となっている。爪部33(43)の内周壁面332は、ディスク部32の内壁面334と、曲率半径の小さい湾曲面335で連結されている。隣接する爪部33、43間は、略U字状ないし略V字状の溝(V溝)34、44が、ディスク部32、42の外周に食い込んで形成されている。
【0024】
一対のポールコア3、4は互いに対向して配され、ボス部31、41の先端面が突き合わされて、ランデル型ロータコアを構成している。この状態で一対のポールコア3、4、および磁界コイル7にはシャフト2が圧入され、組付体9が形成される。ポールコア3の各爪部33とポールコア4の各爪部43とは、所要の隙間を有して交互に噛み合って配されている。
【0025】
また、ポールコア3の各爪部33の先端面333が、ポールコア4の各V溝44の底部と対向し、同様にポールコア4の各爪部43の先端面433が、ポールコア3の各V溝34の底部と対向して配されている。これにより、組付体9の外周面には、略台形の波形を有する波形隙間10が円筒状に形成されている。ポールコア3、4の各ボス部31、41とディスク部32、42と、爪部33、43とで囲まれた中空部に、磁界コイル7が収容されている。
【0026】
ポールコア3、4の爪部33、34の先端は、ポールコア4、3のディスク部42、32の軸方向の中間位置(V溝34、44の中間位置)まで到達している。波形隙間10は、ディスク部42、32の外方において、U字形ないしV字形にターンしたターン部11、12となっており、ターン部11、12の中間は電磁コイル7が露出した窓13となっている。窓13は平行四辺形状を呈し、この窓13から電磁コイル7の外周面に、ゲル化途中(ゾル状態)で流動性のある未硬化樹脂(エポキシ樹脂などの熱硬化樹脂)8が滴下される。滴下されたエポキシ樹脂8は、巻線6の表面で重力および表面張力によって伸展するとともに巻線6の内部に含浸される。続いて、エポキシ樹脂8を熱硬化させて巻線6の表面および内部を固着する。
【0027】
絶縁ボビン5は、ナイロン等の樹脂の成型体であり、巻線6が巻回される円筒状の胴部51と、この胴部51の両端から径方向外側に伸びる2つの鍔部54、55の外周から半径方向に延長した多数の舌部56、57を有している。舌部56、57は、爪部33、43の内周面に近似した形状を有し、爪部33、43に対応して等間隔に形成されている。
【0028】
胴部51に巻線6が巻回された際に、円環板状の鍔部54、55の外周位置まで巻線6の端面外周が到達する。一方の鍔部55の外側面には、V字状の欠落部が設けられ、その最奥部にポールコア3(4)のV溝34(44)の底部に係合して、絶縁ボビン5の回り止めをするための突起部50が設けてある。突起部50の内の2つは、磁界コイルの巻き始めと巻き終わりの引出線14を係止する係止部15となっている。シャフト2の一方端近傍には、2つのスリップリング16、16が列設されており、巻線6の巻き始めと巻き終わりの引出線14、14に接続される。
【0029】
図2は、ポールコア3、4の間に磁界コイル6を挟んだ組付体9に、巻線6を固着するための未硬化樹脂8を滴下、塗布する樹脂塗布装置20の概略を示す。樹脂塗布装置20は、加圧手段21を有するゾル状の樹脂供給装置22、樹脂の滴下ノズル23、樹脂供給装置22とノズル23との連結流路24を備えている。ノズル23には、ノズル23を水平に往復駆動させる水平駆動機構25が付設されている。ノズル23の下方には、組付体9のシャフト2を水平に保持しながら回転させる回転手段26が設置され、ノズル23とワークである組付体9との間には、滴下される樹脂の検出手段27が装着されている。28は、検出手段27からの信号を入力して、加圧手段21、水平駆動機構25、回転手段26を制御する制御装置である。
【0030】
組付体9への樹脂の滴下は、組付体9を回転手段26により回転させながらノズル23から流動性のあるゾル状の未硬化樹脂8を、水平駆動機構25で適正位置に制御したノズル23から窓13を通じて巻線6の外周面に滴下する。滴下された未硬化樹脂は、巻線6に含浸される。つぎに、炉内で加熱して巻線6に含浸された樹脂を硬化させて回転子1が製造される。
【0031】
図3は、窓13から巻線6の表面へ未硬化樹脂8を滴下するパターンを示す。
請求項2に記載の発明では、ノズル23から窓13を通じて巻線6の表面に未硬化樹脂8を滴下する位置を、略平行四辺形の窓13として、この窓13のみ連続的に行っている。窓13に滴下された未硬化樹脂8は、窓13の全面に滴下される場合には、図示細線の二点鎖線で示す領域まで拡散して流動するとともに、巻線6の線間に浸透して含浸される。
これにより、巻線6の表面以外の例えばV溝33、43の底部等の不必要な部位への未硬化樹脂8の流入を防止することが容易にできる。
【0032】
請求項3に記載の発明では、ノズル23から窓13を通じて巻線6の表面に未硬化樹脂を滴下する位置を、一部領域とし、間欠的かつ選択的に行っている。すなわち、各窓13に臨んだ略平行四辺形の、巻線6の外周表面の一カ所または複数箇所に滴下するもので、図4(a)に未硬化樹脂8を滴下するパターンを示す。
樹脂塗布装置20の加圧手段21、水平駆動機構25、回転手段26を適正に制御することにより、図4(a)に示す如く、ノズル23から窓13を通じて巻線6の表面に未硬化樹脂を滴下する量および位置を自由にコントロールできる。
【0033】
請求項4に記載の発明では、図4(b)に示す如く、一部領域は、複数箇所であり、各窓13に臨んだ略平行四辺形の巻線6の外周表面の中央ほど領域の面積が広いことを特徴とする。
この構成では、図3(b)のA−A断面図の如く、巻線6の中心に近い領域で、樹脂の含浸量を増やし、両外端方向では樹脂の含浸量を減らして、樹脂が電磁7コイルの外に溢れ難くさせることが容易にできる。
【0034】
請求項5に記載の発明では、図4(c)に示す如く、一部領域は、複数箇所であり、各窓13に臨んだ略平行四辺形の巻線6の外周表面の中央ほど未硬化樹脂8の滴下する位置の間隔を狭くしている。
請求項6に記載の発明では、一部領域は、複数箇所であり、各窓13に臨んだ略平行四辺形の巻線6の外周表面の中央ほど未硬化樹脂8の滴下量を多くしている。
【0035】
これは、図3の(a)に示す未硬化樹脂8の滴下パターンにおいて、水平駆動機構25によりノズル23の移動速度を遅くするか、あるいは加圧手段21の加圧力を増すことにより実現できる。
請求項5または請求項6の構成では、巻線6の中心に近い領域で、樹脂の含浸量を増やし、両外端方向では樹脂の含浸量を減らして、樹脂が電磁コイル7の外に溢れ難くさせることが容易にできる。
【0036】
請求項7に記載の発明では、窓13から巻線6の表面に滴下された樹脂の伸展手段は、回転子1(組付体9)をシャフト2の軸中心に回転させる回転手段26である。すなわち、図5に示す如く、巻線6の円筒状の表面に滴下された流動性のある樹脂8が、円周方向に重力の成分が働くように回転子1を回転させる。巻線6の円筒状の表面に付着した樹脂8を流動させつつ、樹脂8が巻線の表面との粘着、接着作用により一部が滴下位置に残り、その残りが伸展される。
これにより、滴下された未硬化樹脂8の伸展に特別な機構を必要とせず、樹脂の巻線への含浸が低コストに行える。
【0037】
請求項8に記載の回転電機の回転子は、図6に示す如く、巻線6の中央部に較べ、巻線6の両端部への未硬化樹脂8の滴下量を少なくしている。
これは、通常の未硬化樹脂8の滴下、含浸作業において、樹脂材料の接着力、粘性が大きい場合いなどに、滴下位置での材料の滞留割合が大きくなり、巻線6の中央部に含浸される樹脂膜厚が巻線6の両端部より大きくなり易い不具合を防止するためである。
【0038】
請求項9に記載の回転電機の回転子は、図7に示す如く、ボビン5の突起部50の内の2つの引出線14を係止する係止部15に連なる窓13を通じて、巻線6の表面に未硬化樹脂8を滴下する位置および量を調整し、巻線6の表面のみでなく、係止部15の外側面(V溝34の底部との接合面以外の面)まで伸展ないし延長させている。これにより、引出線14と絶縁被覆チューブ17を、熱硬化性樹脂により係止部15に固着でき、巻線6の引出線14が断線することを防止できる。
【0039】
請求項10に記載の回転電機の回転子は、ボビン5の突起部50の内の2つの係止部15でない突起部50への樹脂の浸透を阻止している。これは、突起部50とV溝34の底部との係合面に樹脂が流入し、突起部50とV溝34の底部とが固着すると、回転子の回転によりポールコア3と磁界コイル7との間に生じる微小な相対変位により、フランジ部52に経時的にクラックが生じる不具合を防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
この発明では、磁界コイル7の巻線6への未硬化樹脂8の滴下を自由に制御して、巻線6ないし磁界コイル7へ塗布、含浸される未硬化樹脂8を最適に調整できる。これにより、遠心力や磁気振動に対し強固な回転子1が低コストに製造できる。
【符号の説明】
【0041】
1 車両用交流発電機の回転子
2 シャフト
3、4 ポールコア
31、41 円筒状のボス部
32、42 ディスク部
33、43 爪部
34、44 V字状の溝(V溝)
5 絶縁ボビン
6 巻線
7 磁界コイル
8 エポキシ樹脂
9 組付体
10 波形隙間
11、12 ターン部
13 窓
14 引出線
15 端子部
51 円筒状の胴部
52、53 フランジ部
54、55 円環板状の鍔部
56、57 舌部
50 突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向して配した一対のポールコアの間に、絶縁ボビンと該絶縁ボビンに導線を多数回巻き重ねた巻線とからなる磁界コイルを配し、これらをシャフトで固着したランデル型ロータコアに、前記巻線の表面に未硬化樹脂を滴下して該巻線に含浸させる回転電機の回転子の製造方法であって、
前記ポールコアは、円筒形状のボス部、このボス部の一端外周から展長したディスク部、該ディスク部の外周から他端方向に伸びる複数の爪部からなり、隣接した前記爪部の間は前記ディスク部の外周に達するV字状の溝(V溝)となっており、前記一方のポールコアの爪部は他方のポールコアのV溝に所要の隙間を有して噛み合い、周方向に連続した波型隙間が形成され、
この波型隙間は、前記巻線の外周表面が露出した略平行四辺形の窓を有しており、この窓から前記巻線の表面に前記未硬化樹脂を滴下して該巻線に含浸させる回転電機の回転子製造方法において、
前記巻線の外周表面の一部領域に前記未硬化樹脂を滴下し、滴下直後の前記未硬化樹脂を前記巻線の外周表面で伸展させて、前記一部領域以外の前記巻線の外周表面に未硬化樹脂を含浸させる回転電機の回転子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機の回転子製造方法において、
前記一部領域は、前記各窓に臨んだ略平行四辺形の前記巻線の外周表面であることを特徴とする回転電機の回転子の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の回転電機の回転子の製造方法であって、 前記一部領域は、前記巻線の外周表面の内の一カ所または複数箇所であることを特徴とする回転電機の回転子の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の回転電機の回転子製造方法において、
前記一部領域は、複数箇所であり、前記巻線の外周表面の中央ほど領域の面積が広いことを特徴とする回転電機の回転子の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載の回転電機の回転子の製造方法であって、 前記一部領域は、複数箇所であり、前記巻線の外周表面の中央部ほど間隔が狭いことを特徴とする回転電機の回転子の製造方法。
【請求項6】
請求項3に記載の回転電機の回転子製造方法において、
前記一部領域は、複数箇所であり、前記巻線の外周表面の中央部ほど未硬化樹脂の滴下量を多くしたことを特徴とする回転電機の回転子の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1に記載の回転電機の回転子製造方法において、前記未硬化樹脂の伸展手段は、前記ランデル型ロータコアを軸中心に回転させる回転手段からなり、前記巻線の外周面に滴下された流動性のある前記未硬化樹脂に円周方向に重力の分布が働くように前記ランデル型ロータコアを軸中心に回転させて、前記未硬化樹脂を流動させることにより、前記未硬化樹脂の一部が前記巻線との粘性、接着作用により前記巻線の滴下位置に残り、残った前記未硬化樹脂が該滴下位置以外に伸展されることを特徴とする回転電機の回転子の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1に記載の回転電機の回転子の製造方法により製造される回転子であって、前記巻線の中央部に較べ、前記巻線の両端部の樹脂膜厚を薄くしたことを特徴する回転電機の回転子。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1に記載の回転電機の回転子の製造方法により製造される回転子であって、前記ボビンは、前記巻線が巻回される胴部と、この胴部51の両端から径方向外側に伸びる2つの鍔部と、各鍔部の外周から半径方向に延長した多数の舌部を有しており、一方の前記鍔部の外側面には、V字状の切欠部が設けられ、該切欠部の最奥部に前記ポールコアのV溝の底部に係合して、前記ボビンの回り止めをするための突起部が設けてり、前記突起部50の内の一部は、前記巻線の引出線を係止する係止部となっている回転子において、前記係止部に前記未硬化樹脂を含浸させたことを特徴する回転電機の回転子。
【請求項10】
請求項9に記載の回転電機の回転子の製造方法により製造される回転子であって、前記係止部以外の前記突起部に前記未硬化樹脂を含浸させないことを特徴する回転電機の回転子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−182908(P2012−182908A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44256(P2011−44256)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】