説明

回転電機の固定子、およびその製造方法

【課題】良好な樹脂含浸性を確保しつつ、対地主絶縁層の最外周の部分とコロナシールド層との境界部分に発生する部分放電に起因したコロナシールド層の消失を防止し、信頼性の高い回転電機の固定子、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】固定子鉄心1のスロット2に装着され、コイル導体4の外周に施された対地主絶縁層5と、この対地主絶縁層5の外周に施されたコロナシールド層6とを有する固定子コイル3を備え、コロナシールド層6は、無機繊維または非熱収縮性の高分子繊維からなる織布あるいは不織布で形成された絶縁性の基材に導電性材料が塗布または含浸されている導電性テープ22とマイカ層21とが一体的に接合された複合テープ20を有し、この複合テープ20を導電性テープ22が外側になるように巻回して構成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に使用される固定子、特には、固定子を構成する固定子コイルにおいて、高電圧回転電機の固定子鉄心のスロットに対応する位置に設けられる低抵抗のコロナシールド層の改良、およびその固定子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、回転電機の固定子は、固定子鉄心のスロットに固定子コイルが収納されて構成される。特に、高電圧回転電機に使用される固定子コイルは、コイル導体の外周に対地主絶縁層が形成されている。また、固定子コイルのスロット装着箇所には、対地主絶縁層の外周に低抵抗のコロナシールド層が形成されている。
【0003】
上記の対地主絶縁層は、コイル導体を固定子鉄心から絶縁するためのもので、従来、耐部分放電特性に優れたマイカテープを互い一部重複するように多数回巻回して構成されている。この場合に使用されるマイカテープは、例えば、集成マイカ層に補強用のバッキング材を接着剤等で一体的に接合して構成されている。そして、バッキング材としては、ガラス繊維、あるいはポリエステルやポリアミド等の高分子繊維の織布または不織布などからなる。
【0004】
一方、上記のコロナシールド層は、固定子コイルをスロットに装着した際に、対地主絶縁層とスロットとの間の電位差によって部分放電が発生するのを防止するためのもので、従来、導電性のテープを対地主絶縁層の周りに互いに一部重複するように巻き付けることにより構成されている。
【0005】
この場合の導電性のテープは、従来、例えばガラス等の無機繊維、あるいはポリエステルやポリアミド等の高分子繊維の織布または不織布に、カーボンやグラファイトなどの導電性材料の粉末またはファイバを樹脂に混入してなる塗料を塗布あるいは含浸したり、あるいはカーボン繊維を高分子繊維と一緒に漉いた混抄物などからなる。
【0006】
このような、固定子コイルを固定子鉄心に装着する方法として、従来より、固定子鉄心のスロット内に固定子コイルを収納した後に、全体を熱硬化性樹脂中に含浸する全含浸方式と、固定子コイルを固定子鉄心のスロット内に収納する前に、予め固定子コイル単体を熱硬化性樹脂中に含浸する単体含浸方式とがある。
【0007】
前者の全含浸方式は、固定子鉄心を含む固定子コイルの全体を熱硬化性樹脂中に含浸するので、小型で比較的低電圧の回転電機に対して適用し易いが、高電圧回転電機のように大型のものでは、含浸タンクや加熱装置等に大きな設備が必要となり、また、熱硬化性樹脂を多量に消費するなど、コストアップになる。これに対して、後者の単体含浸方式では、固定子コイルのみを熱硬化性樹脂中に含浸、硬化した後、この固定子コイルを固定子鉄¨心のスロット内に収納するので、製造設備も大型化する必要がなく、また、熱硬化性樹脂の消費量も比較的少なくて済などの利点がある。
【0008】
ところで、上述のような単体含浸方式を採用する場合、対地主絶縁層およびコロナシールド層を含浸タンクに浸漬して熱硬化性の樹脂を含浸した後、この含浸樹脂を乾燥炉で加熱硬化するが、含浸タンクから固定子コイルを引き揚げた際に含浸樹脂の一部が固定子コイルから漏出したり、あるいは加熱硬化時の温度上昇により含浸樹脂の粘度が低下して流動し易くなり、含浸樹脂の一部が固定子コイルから漏出することがある。その結果、対地主絶縁層の内部、あるいは対地主絶縁層とコロナシールド層との境界部分に空隙が発生する。そして、対地絶縁層の内部、あるいは対地絶縁層とコロナシールド層との境界部分に空隙が存在すると、運転中の高電圧によってこれらの空隙部分に放電が発生する。
【0009】
ここで、対地絶縁層の内部に空隙が生じても、その周りが耐部分放電特性に優れたマイカテープで囲まれているので、部分放電の影響は比較的軽微である。これに対して、対地主絶縁層とコロナシールド層との境界部分に存在する空隙に放電が発生すると、コロナシールド層に低抵抗性を付与するためのカーボンやグラファイト等の導電性材料が飛散し、その結果、コロナシールド層自体が消失してしまうことがある。すると、コロナシールド層のコロナシールド効果がなくなるため、対地主絶縁層と固定子鉄心との間でさらに大きな放電が発生して対地主絶縁層が損傷を受け、最終的に絶縁破壊を起こすなどの恐れがある。
【0010】
その対策として、従来技術では、高分子フィルム基材の一方面側に集成マイカ層を、他方面側に半導電性層をそれぞれ貼り合わせて一体形成してなる半導電性テープを使用し、この半導電性テープを半導電性層が外側になるようにして対地主絶縁層の周りに巻き付けることにより、コロナシールド層を形成するようにしたものが提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0011】
上記特許文献1,2に記載されている構成の半導電性テープを用いて低抵抗のコロナシールド層を形成する場合には、集成マイカ層が耐部分放電特性に優れているので、部分放電の影響を低減できる。また、高分子フィルム基材は樹脂が透過しないので、含浸樹脂を加熱硬化する際に、含浸樹脂の一部が固定子コイルから漏出して対地主絶縁層とコロナシールド層との境界部分に空隙が形成されるなどの不具合発生をある程度まで低減することができる。
【0012】
【特許文献1】特開平8−237916号公報
【特許文献2】特開2003−259589号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記の特許文献1,2に記載されている構成のものは、次の課題がある。
すなわち、半導電性テープの構成素材である高分子フィルム基材は、樹脂が透過しないのでコロナシールド層の表面からの樹脂の含浸経路が集成マイカ層からのみに限定されることになる。このため、コロナシールド層を経由して対地主絶縁層へ樹脂を含浸しずらく、含浸不良が発生する恐れがあるとともに、含浸処理時間が徒に長くなるなどの不具合を生じる。
【0014】
また、高分子フィルム基材は、引っ掻きや引き裂きに対する強度が弱いために、固定子コイルの製作作業時に損傷する恐れがあるなどの不具合もある。さらに、樹脂含浸性を高めるために、コロナシールド層を形成する際、半導電性テープを対地主絶縁層の周りに巻き付ける際の重複部分を少なくすることが考えられるが、そのようにすると、僅かな巻き付け位置の変動で隙間が生じる恐れがあり、コロナシールド層としての信頼性に欠けたものとなる。
【0015】
さらに、特許文献2には、半導電性樹脂が塗布された熱収縮性のポリエステル等の有機繊維からなる織布または不織布を用いた半導電性高分子繊維材の片面に、集成マイカ絶縁部材を張り付けたコロナ防止テープを、コイル絶縁層の周りに巻回してコロナシールド層を形成した構成のものも提示されている。
【0016】
固定子コイルを固定子鉄心に装着する際、全含浸方式を採用する場合にはスロット内のコイル以外の空間部分は含浸樹脂で満たされるため、コロナ防止テープを構成する半導電性高分子繊維材が熱収縮性をもっていても何ら問題はない。
【0017】
しかし、単体含浸方式を採用する場合には、コロナシールド層を構成するための半導電性高分子繊維材が熱収縮性をもっていると、加熱硬化する際、固定子コイルに設けるコロナシールド層の断面形状が全体的に楕円状になり易い。そして、このような断面が楕円状の固定子コイルをスロット内に収納したときには、固定子コイルの外形がスロットの内面形状に沿わなくなり、コロナシールド層とスロットとの間の電気的および機械的な接触が不十分になる。
【0018】
このように、コロナシールド層とスロット間の電気的接触が不十分であると、コロナシールド層の電位が高くなったときには固定子鉄心との間で放電が発生し、コロナシールド層や対地主絶縁層を損傷する恐れがある。また、コロナシールド層とスロット間の機械的な接触が不十分であると、両者の接触面積が小さくなり、固定子コイルが電磁振動や突発短絡時の応力によってスロット内で容易に動いてスロットからはみ出すなどの不具合を生じる。
【0019】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、良好な樹脂含浸性を確保しつつ、絶縁層の最外周の部分とコロナシールド層との境界部分に生じた空隙に部分放電が発生しても、コロナシールド層が消失しないようにするとともに、単体含浸方式によって固定子コイルを固定子鉄心に装着する際に電気的および機械的な接触を十分にとることができる対策を講じることにより、信頼性の高い回転電機の固定子、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の目的を達成するために、本発明の固定子は、固定子鉄心のスロットに装着され、コイル導体の外周に施された絶縁層と、この絶縁層の外周に施されたコロナシールド層とを有する固定子コイルを備えた回転電機の固定子において、上記コロナシールド層は、無機繊維または非熱収縮性の高分子繊維からなる導電性の織布または導電性の不織布、もしくは非熱収縮性の高分子繊維とカーボン繊維の混抄物からなる導電性体と、この導電性体と一体的に接合されたマイカ体とからなる複合体を有し、この複合体の上記導電性体が上記マイカ体より外層に巻装されてなることを特徴としている。
【0021】
また、本発明の固定子の製造方法は、上記コイル導体の外周に上記絶縁層を形成するステップと、この絶縁層の外周の上記固定子鉄心のスロットに対応する箇所に、上記複合体を構成する上記導電性体が上記マイカ体より外層になるように、かつ複合体同士が互いに一部が重複するように巻装することによりコロナシールド層を形成して固定子コイルを構成するステップと、この固定子コイルに樹脂を含浸、硬化するステップと、樹脂の含浸、硬化後に上記固定子コイルの上記コロナシールド層の形成箇所を上記固定子鉄心のスロットに装着するステップと、を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、導電性体とマイカ体とを一体的に接合してなる複合体を用い、この複合体を導電性体がマイカ体より外側になるように巻装してコロナシールド層を構成しているので、含浸タンクから固定子コイルを引き揚げた際に含浸樹脂の一部が固定子コイルから漏出したり、あるいは加熱硬化時の温度上昇により含浸樹脂の粘度が低下してその一部が固定子コイルから漏出したりして、コロナシールド層の直下に空隙が形成されても、この空隙は導電性体に直接に上下で接することはなく、空隙と導電性体との間には常にマイカ体が介在した状態になる。このため、コロナシールド層が放電により消失するなどの不具合は生じず、長期にわたってコロナシールド効果を維持することができ、信頼性の高い回転電機の固定子を提供することが可能になる。
【0023】
しかも、コロナシールド層を構成するための複合体には、特許文献1,2に記載されているような高分子フィルム基材は使用していないので、樹脂含浸性を損なうことがない。このため、含浸処理時間が徒に長くなったり、含浸不良が発生する恐れもない。また、樹脂含浸性に問題がないため、コロナシールド層を絶縁層の周りに巻き付ける際の重複部分を極端に少なくする必要がなく、したがって、従来のように僅かな巻き付け位置の変動で隙間が生じる恐れもない。さらに、引っ掻きや引き裂きに対して十分な強度を確保できるため、固定子コイルの製作作業時において損傷の恐れも少ない。
【0024】
これに加えて、本発明では、単体含浸方式を採用する場合において、特許文献2に記載されているようなコロナシールド層を構成するための半導電性高分子繊維材として熱収縮性をもつものを使用していないので、コロナシールド層の断面が楕円状になることがない。このため、固定子コイルをスロット内に収納したときには、コロナシールド層とスロットとの間の電気的および機械的な接触を十分にとることができる。これにより、両者間の電気的接触が不十分なために放電が発生したり、両者の接触面積が小さいために固定子コイルがスロット内で容易に動いてスロットからはみ出すなどの不具合が生じるのを確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1の回転電機の固定子において、固定子鉄心のスロットに固定子コイルを装着した状態の一部を示す斜視図、図2は同固定子において、固定子コイルを固定子鉄心のスロットに装着した状態の一部を示す断面図、図3は図2の符号Aで示す部分を拡大して模式的に示す断面図、図4は固定子コイルのコロナシールド層を構成する複合テープの一部を示す断面図である。
【0026】
この実施の形態1において、固定子鉄心1に設けられているスロット2に固定子コイル3が収納されるとともに、固定子コイル3の端部はスロット2の外部に引き出されている。この固定子コイル3は、絶縁被覆された素線導体4aが複数本束ねられてなるコイル導体4を有し、このコイル導体4の外周に特許請求の範囲における絶縁層としての対地主絶縁層5が形成されている。
【0027】
また、固定子コイル3のスロット装着箇所には、対地主絶縁層5の外周に低抵抗のコロナシールド層6が形成されている。さらに、固定子コイル3のスロット2から突出した部分には、対地主絶縁層5を覆いかつコロナシールド層6と連接して高抵抗のコロナシールド層8が形成されている。また、対地主絶縁層5およびコロナシールド層6,8に対してエポキシ樹脂等の熱硬化性の樹脂が含浸、硬化されている。
なお、符号9は固定子コイル3がスロット2からはみ出すのを防止するためのくさびである。
【0028】
上記の対地主絶縁層5は、コイル導体4を固定子鉄心1から電気的に絶縁するためのもので、コイル導体4の周囲に耐部分放電特性に優れたマイカテープ10を互いに一部重複するように多数回巻き付けて構成されている。
【0029】
ここに、上記のマイカテープ10は、従来と同様の構成であり、例えば、マイカ粉を抄造してなる集成マイカ層11と、ガラス等の無機繊維、あるいは非熱収縮性のポリエステルやポリアミド等の高分子繊維の織布または不織布からなる補強用のバッキング材12とを有し、両者11,12が接着剤等で一体的に接合されてなる。そして、本例では、コイル導体4に対して、集成マイカ層11よりもバッキング材12が外側になるようにし、かつマイカテープ10が互いに一部重複するように多数回巻き付けることにより対地主絶縁層5が形成されている。
【0030】
一方、上記のコロナシールド層6は、固定子コイル3をスロット2に装着した際に、対地主絶縁層5とスロット2との間の電位差によって部分放電が発生するのを防止するためのもので、特許請求の範囲における複合体としての複合テープ20を対地主絶縁層5の周りに互いに一部重複するように巻き付けることにより構成されている。
【0031】
この場合の複合テープ20は、図4に拡大して示すように、特許請求の範囲におけるマイカ体としての集成マイカ層21と、特許請求の範囲における導電性体としての導電性テープ22とを接着剤等によって一体的に接合してなる。ここに、集成マイカ層21は、マイカ粉を抄造したものである。なお、本例の集成マイカ層21の代わりに剥がしマイカ層を使用することも可能である。
【0032】
また、導電性テープ22は、例えば、ガラス等の無機繊維、あるいは非熱収縮性のポリエステル、ポリアミド等の高分子繊維からなる織布または不織布で形成された基材に、カーボンやグラファイト、鉄粉、酸化鉄などの導電性材料の粉末またはファイバを樹脂に混入してなる塗料を塗布あるいは含浸したもの、あるいは非熱収縮性の高分子繊維とカーボン繊維を一緒に漉いた混抄物からなる。
【0033】
また、高抵抗のコロナシールド層8は、スロット2から引き出された固定子コイル3の低抵抗のコロナシールド層6端部の放電を防止するためのもので、従来と同様の構成のもが特別な制限なく使用することができる。
【0034】
上記構成の固定子コイル3を製造する際には、まず、絶縁被覆された素線導体4aを複数本束ねてコイル導体4を製作する。そして、コイル導体4の周囲にマイカテープ10をバッキング材12が外側になるようにし、かつマイカテープ10が互いに一部重複するように多数回(例えば、10〜15回)巻き付けて対地主絶縁層5を形成する。
【0035】
次に、固定子鉄心1のスロットに対応する箇所に複合テープ20を導電性テープ22が外側になるようにし、かつ互いに一部重複するように巻き付けることにより低抵抗のコロナシールド層6を形成する。さらに、固定子コイル3の端部には低抵抗のコロナシールド層6と連接して高抵抗のコロナシールド層8を形成する。
【0036】
そして、この実施の形態1では、固定子コイル3を固定子鉄心1に装着する際に、単体含浸方式を採用しているため、上記のようして形成された固定子コイル3を含浸タンクに入れて、エポキシ樹脂等の熱硬化性の樹脂を真空加圧して含浸する。続いて、コロナシールド層6および対地主絶縁層5に十分に樹脂が含浸してから含浸タンクから取り出し、次に乾燥炉に入れて全体を加熱して硬化させる。引き続いて、樹脂が含浸、硬化された固定子コイル3のコロナシールド層6の形成箇所を固定子鉄心1のスロット2内に収納する。
【0037】
前述のように、従来は、含浸タンクから固定子コイル3を引き上げる際に樹脂の一部が固定子コイル3から漏出したり、あるいは加熱硬化時に含浸樹脂の温度が上昇して粘度が低下して流動し易くなり、樹脂の一部が固定子コイル3から漏出する。特に、対地主絶縁層5とコロナシールド層6との境界部分に含浸された樹脂が外部に漏出し易く、このため、コロナシールド層6の直下、すなわちマイカテープ10の最外周の巻き付け段差部に空隙V1が形成され、その結果、運転中の高電圧によってこれらの空隙V1に放電が発生し、コロナシールド層6が消失するなどの不具合を生じていた。
【0038】
これに対して、この実施の形態1では、集成マイカ層21と導電性テープ22とを一体的に接合してなる複合テープ20を用い、この複合テープ20を導電性テープ22が外側になるように巻回して低抵抗のコロナシールド層6を構成しているので、含浸タンクから固定子コイル3を引き揚げた際に含浸樹脂の一部が固定子コイル3から漏出したり、あるいは加熱硬化時の温度上昇により含浸樹脂の粘度が低下してその一部が固定子コイル3から漏出したりして、コロナシールド層6の直下に空隙V1が形成されても、この空隙V1は導電性テープ22に直接に上下で接することはなく、空隙V1と導電性テープ22との間には常に集成マイカ層21が介在した状態になる。つまり、空隙V1は、耐部分放電特性に優れた集成マイカ層21で上下に挟まれた状態になっているため、空隙V1に部分放電が生じてもコロナシールド層6を構成する導電性テープ22が放電により消失するなどの不具合は発生せず、長期にわたってコロナシールド効果を維持することができる。したがって、信頼性の高い回転電機の固定子コイル3を提供することが可能になる。
【0039】
しかも、対地主絶縁層5やコロナシールド層6を構成するための素材には、特許文献1,2に記載されているような高分子フィルム基材は使用していないので、樹脂含浸性を損なうことがない。このため、含浸処理時間が徒に長くなったり、含浸不良が発生する恐れもない。また、樹脂含浸性に問題がないため、コロナシールド層6を形成するために複合テープ20を対地主絶縁層5の周りに巻き付ける際の重複部分を極端に少なくする必要がなく、したがって、従来のように僅かな巻き付け位置の変動で隙間が生じる恐れもない。さらに、複合テープ20は引っ掻きや引き裂きに対して十分な強度を確保できるため、固定子コイル3の製作作業時において損傷の恐れも少ない。
【0040】
さらにまた、この実施の形態1では、コロナシールド層6を構成するための導電性テープ22として、特許文献2に記載されているような熱収縮性の半導電性高分子繊維材を基材として使用していないので、単体含浸方式を採用する場合でも、コロナシールド層6の断面形状をスロット2の内面形状に沿った略長方形に保つことができる。このため、固定子コイル3をスロット2内に収納したときには、コロナシールド層6とスロット2との間の電気的および機械的な接触を十分にとることができる。これにより、両者2,6間の電気的接触が不十分なために放電が発生したり、両者2,6の接触面積が小さいために固定子コイル3がスロット2内で容易に動いてスロット2からはみ出すなどの不具合が生じるのを確実に防止することができる。
【0041】
実施の形態2.
図5はこの実施の形態2における回転電機の固定子の要部を模式的に示す断面図であり、図1ないし図4に示した実施の形態1と対応する構成部分には同一の符号を付す。
【0042】
この実施の形態2の特徴は、実施の形態1に示した構成、すなわち導電性テープ22が外側になるようにして複合テープ20を巻回して構成された低抵抗のコロナシールド層6に対して、その外周にさらに導電性体としてのシールドテープ30を互いに一部重複するように巻回して第2のコロナシールド層7が形成されていることである。
【0043】
この第2のコロナシールド層7を構成するシールドテープ30は、従来よりコロナシールド層6を形成するために使用されていたものと同じ構成の導電性のテープであり、例えば、ガラス等の無機繊維、あるいは非熱収縮性のポリエステルやポリアミド等の高分子繊維の織布または不織布に、カーボンやグラファイトなどの導電性材料の粉末またはファイバを樹脂に混入してなる塗料を塗布あるいは含浸したもの、あるいは非熱収縮性の高分子繊維をカーボン繊維と一緒に漉いた混抄物などからなる。
【0044】
ところで、実施の形態1のように、対地主絶縁層5の外周に導電性テープ22が外側になるようにして複合テープ20を巻回してコロナシールド層6を構成した場合、固定子コイル3の曲がりなどの影響により、固定子コイル3の長さ方向において、導電性テープ22が固定子鉄心1と連続的に接触せずに飛び飛びに接触する状態が生じることがある。
【0045】
従来、低抵抗のコロナシールド層6は、図6(a)に示すように、導電性のテープ15を対地主絶縁層5の周りに互いに一部重複するように巻き付けることにより構成されているので、テープ15の互いに重複する部分で電気的接続が確保される。したがって、電流はテープ15の重複部分を介して流れることができ、抵抗値は低くなる。
【0046】
これに対して、図6(b)に示すように、複合テープ20を導電性テープ22が外側になるようにして互いに一部重複するように巻き付けたとき、重複部分では導電性テープ22と集成マイカ層21とが接触し、導電性テープ同士22の直接の接触がない。
【0047】
この場合でも、複合テープ20を導電性テープ22が外側になるようにして巻回した際、固定子コイル3の長さ方向において、導電性テープ22が固定子鉄心1と連続的または多数点で接触しているときには十分な導通性が得られるので、導電性テープ22と固定子鉄心1との間で放電が生じる恐れはない。
【0048】
しかし、上述したように、固定子コイル3の曲がりなどの影響により、固定子コイル3の長さ方向において導電性テープ22が固定子鉄心1と連続的に接触せずに飛び飛びに接触する状態が生じているときには、複合テープ20の重複部分で導電性テープ22同士の接触がないことから、電流は導電性テープ22の周回方向に沿って渦巻き状に流れ、したがって、抵抗値も導電性テープ22の周回方向に沿った値となるために高い抵抗値となる可能性がある。
【0049】
この場合、導電性テープ22の各部分の電位は、固定子鉄心1との接触点からの抵抗値と絶縁の静電容量・抵抗値の分圧によって決まるため、固定子鉄心1との接触点から離れた非接触点の位置では、導電性テープ22の電位と固定子鉄心1との間の電位差が大きくなり、導電性テープ22と固定子鉄心1との間で放電が発生するおそれがある。
【0050】
これに対して、この実施の形態2では、低抵抗のコロナシールド層6の外周にさらに導電性のシールドテープ30を巻回して第2のコロナシールド層7を形成しているので、複合テープ20を構成する導電性テープ22が、第2のコロナシールド層7を構成する導電性のシールドテープ30と固定子コイル3の長さ方向に沿って連続的に接触する。このため、複合テープ20の導電性テープ22とその外周にある導電性のシールドテープ30の重複部分を介して電流が流れることができる。このため抵抗値が低くなり、固定子鉄心1と第2のコロナシールド層7との間の電位差は小さい。
【0051】
また、第2のコロナシールド層7とコロナシールド層6とは固定子コイル3の製作時にプレス成型されるので、シールドテープ30と導電性テープ20が密着したまま硬化し、固定子コイル3の長さ方向に連続的に接触する。このため、上記のように両者20,30間の電位差を小さくすることができる。したがって、シールドテープ30と導電性テープ20との間に空隙V2が存在したとしても固定子鉄心1と同じ接地電位となるため、部分放電が生じるのが抑制される。
【0052】
したがって、この実施の形態2の場合には、コロナシールド層6の直下に形成された空隙V1に放電が生じても複合テープ20を構成する導電性テープ22が消失することがないだけでなく、第2のコロナシールド層7を設けることで固定子鉄心1との間の放電発生も確実に防止することができるため、実施の形態1の場合よりもさらに一層信頼性の高い固定子コイル3を提供することが可能になる。
【0053】
その他の構成、および作用効果については実施の形態1と同様であるから、ここでは詳しい説明は省略する。
【0054】
実施の形態3.
図7はこの実施の形態3における回転電機の固定子の要部を模式的に示す断面図、図8はコロナシールド層を構成する複合テープの一部を示す断面図であり、図1ないし図4に示した実施の形態1と対応する構成部分には同一の符号を付す。
【0055】
この実施の形態3の特徴は、低抵抗のコロナシールド層6が、特許請求の範囲におけるマイカ体としてのマイカテープ41と、特許請求の範囲における導電性体としての導電性テープ42とが一体的に接合された複合テープ40を有し、この複合テープ40を導電性テープ41が外側になるようにし、かつ互いに一部重複するように巻回して構成されている。
【0056】
この場合のマイカテープ41は、従来の対地主絶縁層5を構成するために通常使用されるマイカテープと同じ構成のものであって、例えば、マイカ粉を抄造してなる集成マイカ層43と、ガラス等の無機繊維、あるいは非熱収縮性のポリエステルやポリアミド等の高分子繊維の織布または不織布からなる補強用のバッキング材44とが接着剤等で一体的に接合されてなる。そして、この集成マイカ層43のバッキング材44との非接合側に導電性テープ42が接合されている。
【0057】
一方、導電性テープ42は、実施の形態1の複合テープ20を構成する導電性テープ22と同じ構成であって、例えば、ガラス等の無機繊維、あるいは非熱収縮性のポリエステル、ポリアミド等の高分子繊維からなる織布または不織布で形成された基材に、カーボンやグラファイト、鉄粉、酸化鉄などの導電性材料の粉末またはファイバを樹脂に混入してなる塗料を塗布あるいは含浸したもの、あるいは非熱収縮性の高分子繊維をカーボン繊維と一緒に漉いた混抄物からなる。
【0058】
この実施の形態3のように、通常のマイカテープ41と導電性テープ42とを一体的に接合して複合テープ40を構成する場合、マイカテープ41のバッキング材44は、巻き付け作業時の引張強度を考慮して製作されたものであるので、導電性テープ42の引張強度を考慮することなく複合テープ40の巻き付け作業を円滑に行なえるという利点がある。
【0059】
また、この実施の形態3の場合も、この複合テープ40を巻回してコロナシールド層6を形成したときには、その直下に空隙V1が形成されても、この空隙V1は導電性テープ42に直接に上下で接することはなく、空隙V1と導電性テープ42との間には常に集成マイカ層43が上下方向に介在しているので、空隙V1に部分放電が生じてもコロナシールド層6を構成する導電性テープ42が放電により消失するなどの不具合は発生せず、長期にわたってコロナシールド効果を維持することができる。
【0060】
その他の構成、ならびに作用効果については、実施の形態1の場合と同様であるから、ここでは詳しい説明は省略する。
【0061】
実施の形態4.
図9は、この実施の形態4における回転電機の固定子の要部を模式的に示す断面図であり、図7および図8に示した実施の形態3と対応する構成部分には同一の符号を付す。
【0062】
この実施の形態4の特徴は、実施の形態3に示した構成、すなわち、導電性テープ42が外側になるようにして複合テープ40を巻回して構成された低抵抗のコロナシールド層6に対して、その外周にさらに導電性のシールドテープ30を互いに一部重複するように巻回して第2のコロナシールド層7が形成されていることである。
【0063】
この第2のコロナシールド層7を構成するシールドテープ30は、実施の形態2において説明した第2のコロナシールド層7を形成するシールドテープ30と同じ構成のものを適用することができる。
【0064】
このように、コロナシールド層6の外周に第2のコロナシールド層7を形成した場合には、実施の形態2の場合と同様、コロナシールド層6の直下に形成された空隙V1に放電が生じても複合テープ40を構成する導電性テープ42が消失することがないとともに、シールドテープ30と導電性テープ42との間に空隙V2が存在しても固定子鉄心1と同じ接地電位となるため、部分放電が生じるのが抑制される。したがって、実施の形態3の場合よりもさらに一層信頼性の高い固定子コイル3を提供することが可能になる。
【0065】
その他の構成、ならびに作用効果については、実施の形態3の場合と同様であるから、ここでは詳しい説明は省略する。
【0066】
上記の実施の形態2,4においては、シールドテープ30を巻回して第2のコロナシールド層7を形成しているが、シールドテープ30を巻回する代わりに、コロナシールド層6の外周に導電性材料を含む塗料を塗布することも可能である。これにより、複合テープ20,40を構成する導電性テープ22,42が固定子コイル3の長さ方向に沿って導電性材料を含む塗料を介して連続的に接触するため、シールドテープ30を巻回した場合と同様な作用効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施の形態1の回転電機の固定子において、固定子鉄心のスロットに固定子コイルを装着した状態の一部を示す斜視図である。
【図2】同固定子において、固定子コイルを固定子鉄心のスロットに装着した状態の一部を示す断面図である。
【図3】図2の符号Aで示す部分を拡大して模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1において、固定子コイルのコロナシールド層を構成する複合テープの一部を示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態2における回転電機の固定子の要部を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明の複合テープを用いてコロナシールド層を形成した場合と従来の導電性テープを用いてコロナシールド層を形成した場合との電気的接続状態を示す説明図である。
【図7】本発明の実施の形態3における回転電機の固定子の要部を模式的に示す断面図である。
【図8】本発明の実施の形態3における低抵抗のコロナシールド層を構成する複合テープの一部を示す断面図である。
【図9】本発明の実施の形態4における回転電機の固定子の要部を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0068】
1 固定子鉄心、2 スロット、3 固定子コイル、4 コイル導体、
5 対地主絶縁層、6 コロナシールド層、7 第2のコロナシールド層、
20 複合テープ(複合体)、21 集成マイカ層(マイカ体)、
22 導電性テープ(導電性体)、30 シールドテープ(導電性体)、
40 複合テープ(複合体)、41 マイカテープ(マイカ体)、
42 導電性テープ(導電性体)、43 集成マイカ層、44 バッキング材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子鉄心のスロットに装着され、コイル導体の外周に施された絶縁層と、この絶縁層の外周に施されたコロナシールド層とを有する固定子コイルを備えた回転電機の固定子において、上記コロナシールド層は、無機繊維または非熱収縮性の高分子繊維からなる導電性の織布または導電性の不織布、もしくは非熱収縮性の高分子繊維とカーボン繊維の混抄物からなる導電性体と、この導電性体と一体的に接合されたマイカ体とからなる複合体を有し、この複合体の上記導電性体が上記マイカ体より外層に巻装されてなることを特徴とする回転電機の固定子。
【請求項2】
上記コロナシールド層の外側には、無機繊維または非熱収縮性の高分子繊維からなる導電性の織布または導電性の不織布、もしくは非熱収縮性の高分子繊維とカーボン繊維の混抄物からなる導電性体により構成された第2のコロナシールド層が設けられていることを特徴とする請求項1記載の回転電機の固定子。
【請求項3】
上記マイカ体は、集成マイカ層、または集成マイカ層に補強用のバッキング材を一体接合してなるものであることを特徴とする請求項1記載または請求項2に記載の回転電機の固定子。
【請求項4】
上記第2のコロナシールド層に代えて、上記コロナシールド層の外側に導電性材料を含む塗料が塗布されていることを特徴とする請求項2記載の回転電機の固定子。
【請求項5】
請求項1記載の固定子の製造方法であって、上記コイル導体の外周に上記絶縁層を形成するステップと、この絶縁層の外周の上記固定子鉄心のスロットに対応する箇所に、上記複合体を構成する上記導電性体が上記マイカ体より外層になるように、かつ複合体同士が互いに一部が重複するように巻装することによりコロナシールド層を形成して固定子コイルを構成するステップと、この固定子コイルに樹脂を含浸、硬化するステップと、樹脂の含浸、硬化後に上記固定子コイルの上記コロナシールド層の形成箇所を上記固定子鉄心のスロットに装着するステップと、を含むことを特徴とする固定子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−174816(P2007−174816A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−369526(P2005−369526)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】