説明

回転電機用絶縁部材、回転電機用ステータ、および、回転電機用ステータの製造方法

【課題】コイル挿入時における絶縁部材の接着層剥がれを抑制してコイルに対する絶縁部材の接着力を確保するとともに接着材料屑の発生を防止できる、回転電機用絶縁紙を提供する。
【解決手段】絶縁紙50は、シート状の絶縁基材60と、絶縁基材60の一方表面に設けられた接着材料層62とを備える。接着材料層62は、絶縁紙50の一方表面上に出現していない状態で絶縁基材60に担持されている。具体例としては、絶縁基材60の一方表面は凹凸形状に形成されており、接着材料層62は一方表面上の凸部66高さよりも薄く形成されていて凸部66の先端が接着材料層62から突出している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機用絶縁部材、回転電機用ステータ、および、回転電機用ステータの製造方法に係り、特に、ステータコアのスロット内に挿入されるコイルとステータコアとを絶縁するようにスロット内に配置される回転電機用絶縁部材等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コイルが巻装されてなるステータと、ステータの内側に回転可能に設けられたロータとを備える回転電機が知られている。ステータのコイルは、筒状のステータコアの内周部に周方向へ間隔をおいて形成された複数のスロット内に挿入されて配置されている。そして、スロット内においてステータコアとコイルとを電気絶縁するために、絶縁紙が介在されることがある。
【0003】
例えば、特開2008−178197号公報(特許文献1)には、複数のシート材を熱硬化型接着剤により接着して積層させた積層シートをモーター用絶縁紙に用いることが開示されている。この絶縁紙における熱硬化型接着剤として、エポキシ樹脂成分、フェノール樹脂成分、アクリル樹脂成分およびイミダゾール系硬化剤成分を含有する熱硬化性樹脂組成物を用いることで、従来よりも高温環境下で使用させ得るモーター用絶縁紙を提供できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−178197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような絶縁紙においてコイル対向面に接着層を設けてコイルとの接着性を強化することがある。この場合、絶縁紙がスロット内に配置されてから絶縁紙内側にコイル導線が挿入されるときに、コイル導線の例えばエッジ部が接着層に擦れることによって接着層剥がれが生じ、接着力を十分に確保できない可能性がある。また、このようにして絶縁紙から剥がれた接着剤屑がステータの例えば内外周面に付着していると、ロータやモータケース等のモータ構成部品の組付けに支障となることがある。
【0006】
本発明の目的は、コイル挿入時における絶縁部材の接着層剥がれを抑制してコイルに対する絶縁部材の接着力を確保するとともに接着材料屑の発生を防止できる、回転電機用絶縁部材、これを用いた回転電機のステータ、および、回転電機用ステータ用製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る回転電機用絶縁部材は、シート状の絶縁基材と、前記絶縁基材の一方表面または内部に設けられた接着材料層とを備える回転電機用絶縁部材であって、前記接着材料層は、前記絶縁部材の一方表面上に出現していない状態で前記絶縁基材に担持されているものである。
【0008】
本発明に係る回転電機用絶縁部材において、前記絶縁基材の一方表面は凹凸形状に形成されており、前記接着材料層は前記一方表面上の凸部高さよりも薄く形成されていて凸部先端が前記接着材料層から突出していてもよい。
【0009】
また、本発明に係る回転電機用絶縁部材において、前記絶縁基材は多孔質部材からなり、前記接着材料層は前記絶縁基材の内部に浸み込んで含まれていてもよい。
【0010】
さらに、本発明に係る回転電機用絶縁部材において、前記絶縁基材の他方表面には発泡材料層が形成されており、前記発泡材料層が膨張して前記絶縁基材が回転電機のコイルに押し付けられることにより前記接着材料層が前記絶縁基材の一方表面上に出現してコイルに接着してもよい。
【0011】
本発明に係る回転電機のステータは、スロットを有するステータコアと、ステータコアのスロット内に挿入されるコイルと、前記スロット内において前記ステータコアと前記コイルを絶縁するように配置された上記いずれかの構成の絶縁部材と、を備えるものである。
【0012】
また、本発明に係る回転電機用ステータの製造方法は、シート状の絶縁基材と、前記絶縁基材の一方表面または内部に設けられた接着材料層と、前記絶縁基材の他方表面に設けられた発泡材料層とを備える絶縁部材であって、前記接着材料層が前記絶縁部材の一方表面上に出現していない状態で担持されている絶縁部材を準備する準備工程と、前記絶縁部材の発泡材料層が前記ステータコアに対向する状態で前記絶縁部材を前記ステータコアのスロット内に配置する配置工程と、前記スロット内に配置された前記絶縁部材の内側にコイルを挿入する挿入工程と、前記発泡材料層を膨張させて前記絶縁部材を前記コイルに押し付けることにより前記接着材料層を前記絶縁基材の一方表面上に出現させて前記コイルに接着する接着工程と、を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る回転電機用絶縁部材、回転電機用ステータ、および回転電機用ステータの製造方法によれば、接着材料層が絶縁部材の一方表面上に出現していない状態で担持されているので、絶縁部材の一方表面上にコイル導線のエッジ部等が擦れても接着材料層に接触することがない。したがって、コイル挿入時に絶縁部材から接着材料層が剥がれるのを抑制でき、その結果、コイルに対する絶縁部材の接着力を確保できるとともに接着材料屑の発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態の絶縁部材を適用した回転電機の軸方向断面図である。
【図2】図1に示すA−A線におけるステータの断面図である。
【図3】図2中の1つのスロットの拡大図である。
【図4】スロットの軸方向内方での絶縁部材の状態を示す図であり、(a)は絶縁部材の両端部を折り重ねてある例を示し、(b)は開放されている例を示す。
【図5】第1実施の形態の絶縁部材を示す部分拡大断面図である。
【図6】スロット内に配置された第1実施の形態の絶縁部材がコイルに接着される様子を示す図であり、(a)は加熱接着前の状態、(b)加熱接着時の状態をそれぞれ示す。
【図7】第1実施の形態の絶縁部材の変形例を示す、図5と同様の部分拡大断面図である。
【図8】第2実施の形態の絶縁部材を示す部分拡大断面図である。
【図9】スロット内に配置された第2実施の形態の絶縁部材がコイルに接着される様子を示す図であり、(a)は加熱接着前の状態、(b)加熱接着時の状態をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係る実施の形態(以下、実施形態という)について添付図面を参照しながら詳細に説明する。この説明において、具体的な形状、材料、数値、方向等は、本発明の理解を容易にするための例示であって、用途、目的、仕様等にあわせて適宜変更することができる。また、以下において、複数の実施形態および変形例が含まれる場合、それらの特徴を適宜に組み合わせて用いることは予め想定されている。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態である絶縁材料を用いた回転電機10の軸方向断面図である。図1に示すように、回転電機10は、回転中心軸Xを中心に回転可能に設けられた回転シャフト12に固設されたロータ14と、このロータ14の周囲にギャップを介して設けられた環状のステータ16とを備えている。
【0017】
ロータ14は、複数の電磁鋼板を積層して形成されたロータコア18と、このロータコア18の外周縁部側に形成され、回転中心軸X方向に延びる永久磁石挿入孔20内に挿入された複数の永久磁石22と、ロータコア18を軸方向両側から挟持するエンドプレート24とを備えている。そして、永久磁石22は、樹脂26によって永久磁石挿入孔20内に固定されている。
【0018】
ステータ16は、ロータ14の周囲を取り囲むように形成された筒状のステータコア28と、このステータコア28に装着されたコイル30とを備えている。ステータコア28の外周面には、円筒状のケース32が例えば焼嵌め等の固定方法によって固定されている。
【0019】
図2は、図1に示すA−A線におけるステータコア28の断面図である。図2に示すように、ステータコア28は、ステータコア28の周方向に延びる環状のヨーク部34と、このヨーク部34の内周面からロータ14に向けて径方向内方へ突出し、周方向に間隔をあけて設けられたティース部36とを備えている。各ティース部36間には、スロット38が形成されている。スロット38も、ステータコア28の径方向に向けて延びると共に、周方向に間隔を置いて形成されている。
【0020】
図3は、図2における1つのスロット38を拡大して示す断面図である。スロット38は、ステータコア28の内周面に向けて開口している。このスロット38の径方向内方側の開口部40は、周方向に隣り合うティース部36の径方向内方側の端面によって規定されている。
【0021】
ここで、ティース部36は、ヨーク部34の内周面からステータコア28の径方向に向けて突出する本体部42と、この本体部42の径方向内方側端部に形成され、ステータコア28の周方向に張り出した張出部44,45とを備えている。これにより、径方向内方側の開口部40は、両側の張出部44,45間に規定され、開口部40よりも径方向外側のスロット38の幅wよりも狭く形成されている。
【0022】
なお、本実施形態では、スロット38の周方向の幅wが、開口部40を除いて、径方向にわたって一定に形成されている例を示すが、これに限定されるものではない。例えば、スロット38の幅が、径方向外方側へいくに従って広がるように形成されてもよいし、逆に、径方向内側へいくに従って広がるように形成されてもよい。
【0023】
スロット38の内表面は、最も径方向外方側に位置する内周面381と、この内周面381に連設して、ティース部36の本体部42の側面によって規定された側壁面382と、内周面381に連設して側壁面382と周方向に対向する側壁面383と、径方向内方側において側壁面382に連設された前壁面384と、径方向内方側において側壁面383に連設された前壁面385とを備えている。ここで、前壁面384は張出部44の背面によって規定されており、前壁面385は張出部45の背面によって規定されている。
【0024】
このように形成されたスロット38には、スロット38の内表面に沿って第1実施形態の絶縁紙50が配置されている。絶縁紙50は、スロット38に挿入されるコイルとステータコア28との間の電気的絶縁を図るためのシート状の絶縁部材である。また絶縁紙50は、後述するようにスロット38においてコイルを固定する機能も有する。
【0025】
絶縁紙50は、側壁面382に沿って延びる側面絶縁部52と、側壁面383に沿って延びる側面絶縁部54と、側面絶縁部52の径方向外方側の端部および側面絶縁部54の径方向外方側の端部を接続する外周絶縁部56と、側面絶縁部52の径方向内方側の端部に連設して側面絶縁部54側に折れ曲がった屈曲部58とを備えている。
【0026】
このようにスロット38内に配置された絶縁紙50の内側には、コイル30が挿入されている。コイル30は、その周囲に絶縁紙50が巻かれることによってステータコア28と絶縁された状態で配置されている。コイル30は、断面が略四角形をなす角線からなるコイル導線31によって構成され、1つのスロット38内で複数(本実施形態では6本)のコイル導線31が一列に並んで配置されている。コイル導線31は、例えば銅等により形成された芯材の周囲に例えばエナメル等の絶縁性樹脂によって絶縁被覆されて構成される。
【0027】
本実施形態のコイル導線31には、長方形状断面の平角線が用いられるが、略正方形状断面を有する角線が用いられてもよいし、あるいは、円形または楕円形の断面を有する丸線が用いられてもよい。また、コイル導線31の周方向の幅は、スロット幅wから側面絶縁部52,54の厚みを減じた値よりも若干小さく設定されている。すなわち、スロット38に配置された絶縁紙50内にコイル導線31が軸方向から挿入されるときに、コイル導線31が絶縁紙50の内面と接触しないように挿入できるようにされている。ただし、後述するように、コイル挿入精度のばらつき等に起因して、コイル導線31のエッジ部などが絶縁紙50の内面に擦れて挿入されることがある。
【0028】
なお、本実施形態では、スロット38の開口部40に面する径方向内方位置において、絶縁紙50の一方の端部に設けた屈曲部58によってコイル30を覆うものとして説明するが、これに限定されるものではない。例えば、図4(a)に示すように、絶縁紙50の側面絶縁部54の端部に屈曲部59を連設し、2枚の屈曲部58,59を折り重ねてコイル30の径方向内方側を覆ってもよい。このように絶縁紙50の端部同士を重ねて互いに接着することで、絶縁紙50によりコイル30をスロット38内にしっかりと固定する効果が一層高くなる。
【0029】
また、図4(b)に示すように、屈曲部58を省略して、絶縁紙50の両端部が開口部40に面して配置されていない形態としてもよい。このようにすることで、絶縁紙50の長さを短縮でき、コスト低減を図れる。この効果は、スロット数が多い回転電機ほどより顕著となる。
【0030】
図5は、第1実施形態の絶縁紙50の部分拡大断面図である。絶縁紙50は、シート状の絶縁基材60と、この絶縁基材60の一方表面に積層して形成された接着材料層62と、絶縁基材60の他方表面に積層して形成された発泡材料層64とを備える。
【0031】
絶縁基材60は、例えばポリエチレンナフタレート等の樹脂フィルムが好適に用いられる。また、接着材料層62は、例えば不飽和ポリエステル系樹脂材料等の熱硬化型接着材料によって好適に形成される。さらに、発泡材料層64は、例えばエポキシ系発泡樹脂材料等の熱硬化型発泡性樹脂材料によって好適に形成される。ただし、接着材料層62および発泡材料層64は、熱硬化型樹脂材料に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂材料によって構成されてもよい。
【0032】
絶縁基材60の表面は、微細な凹凸形状に形成されている。具体的には、絶縁基材60の表面(図5中の上面)には、例えば数十μm程度の突出高さt1を有する微細な凸部66が略一様又はランダムに分散して多数形成されている。このような凸部66は、例えば、絶縁基材60をプレス成形することによって形成されてもよいし、あるいは、ブラスト加工等による粗面化によって形成されてもよい。
【0033】
これに対し、接着材料層62の厚みt2は、上記凸部66の突出高さt1よりも薄く形成されている。これにより、絶縁紙50の一方表面には、接着材料層62が出現していない状態で絶縁基材60上に担持又は保持されている。言い換えれば、絶縁紙50の一方表面は、接着材料層62から突き出た凸部66の先端部によって形成されている。したがって、絶縁紙50は、接着材料層62が常温状態で半硬化樹脂材料であって粘着性を有していても、その粘着性が絶縁紙50の表面性状として現れないように、すなわち滑り性が良くなるように構成されている。
【0034】
絶縁紙50の発泡材料層64についても同様である。すなわち、絶縁基材60の他方表面(図5中の下面)には、例えば数十μm程度の突出高さt1を有する微細な凸部66が略一様又はランダムに分散し多数形成されている。これに対し、発泡材料層64の厚みt2は、上記凸部66の突出高さt1よりも薄く形成されている。これにより、絶縁紙50の他方表面には、発泡材料層64が出現していない状態で絶縁基材60上に担持又は保持されている。言い換えれば、絶縁紙50の他方表面は、発泡材料層64から突き出た凸部66の先端部によって形成されている。したがって、絶縁紙50は、発泡材料層64が常態時で半硬化樹脂材料であって粘着性を有していても、その粘着性が絶縁紙50の表面性状として現れないように、すなわち、滑り性が良くなるよう構成されている。
【0035】
なお、本実施形態では、絶縁基材60上に形成された凸部66が三角状をなすように図示するが、これに限定されるものではなく、台形状、半円状等の他の断面形状に形成されてもよい。また、凸部66は、点状に散在する突起として形成されてもよいし、あるいは、スロット38内で例えばステータコア28の軸方向に沿って延びる突条に形成されてもよい。さらに、絶縁基材上に形成される凸部は両面において異なる高さに形成されてもよく、この場合、それに応じて接着材料層と発泡材料層とを異なる厚みに形成してもよい。
【0036】
次に、図6も参照して、ステータ16の製造方法について説明する。図6は、スロット38内に配置された絶縁紙50がコイル30に接着される様子を示す図であり、(a)は加熱接着前の状態、(b)加熱接着時の状態をそれぞれ示す。
【0037】
まず、絶縁紙50が加工される。ここでは、上記三層構造を有する1枚の絶縁シートを、接着材料層62が内側になるようにして3箇所で折り曲げ加工することによって、図3に示すようにスロット38の大きさに略合致した略ロ字状の絶縁紙50が形成される。
【0038】
次に、このように加工した絶縁紙50をステータコア28のスロット38内に軸方向開口部から挿入する。絶縁紙50は少なくともステータコア28の軸方向長さ以上の長さに形成されているため、絶縁紙50の挿入が完了すると、スロット38の内壁面381−384の全体が絶縁紙50によって覆われることになる。
【0039】
なお、ここでは絶縁紙50を軸方向開口部からスロット38内に挿入するものとしたが、絶縁紙50は可撓性を有するため、径方向内方側の開口部40からスロット38内に挿入および配置されてもよい。
【0040】
次に、スロット38内に配置された絶縁紙50の内側に、コイル30を構成するコイル導線31が軸方向端部側から挿入される。コイル導線31は、例えば略U字型に折り曲げ形成された導体セグメントであり、この導体セグメントの2本の脚部が周方向に隣接するか又は離れた2つのスロットに挿入される。この導体セグメントの2つの脚部の先端部には絶縁皮膜が除去されることによって角形の銅線が露出した状態とされている。したがって、このような導体セグメントの脚部が絶縁紙50の内側へ挿入されるとき、露出した銅線のエッジ部、または、絶縁皮膜のエッジ部が絶縁紙50の表面と擦れることがある。
【0041】
しかしながら、接着材料層62が絶縁紙50の一方表面(すなわち凸部66の先端部)から少し奥まって位置して出現していない状態で形成されていることから、銅線等のエッジ部が擦れても接着材料層62と接触することがない。したがって、コイル挿入時に絶縁紙50の接着材料層62が削り落とされることがない。
【0042】
上記のようにしてスロット38内に全てのコイル導線31が挿入された後、ステータコア28から軸方向外側へ突出した導体セグメントの脚部が曲げ加工されて溶接等によって周方向または径方向に隣接する別の導体セグメントと結線される。これにより、例えば、回転電機10が三相交流モータである場合、U相コイル、V相コイルおよびW相コイルが形成されることになる。
【0043】
このようにしてステータコア28、絶縁紙50およびコイル30が組み付けられてなるステータコア28は、次に加熱処理が施される。これにより、絶縁紙50が図6(a)に示す状態から、同(b)に示す状態に変化する。すなわち、発泡材料層64が発泡して厚さ方向に膨張することによって絶縁紙50がコイル30に対して矢印B方向へ押し付けられる。このとき絶縁基材60は加熱により軟らかくなっているため、絶縁基材60の一方表面に形成された凸部66は変形しやすくなっている。
【0044】
したがって、上記凸部66がコイル導線31に押し付けられてその先端がつぶれることで、接着材料層62が絶縁紙50の一方表面に出現した状態となってコイル導線31に接触することができ、その結果、絶縁紙50が接着材料層62を介してコイル30に強固に接着される。発泡材料層64もまた、絶縁紙50の他方表面にある凸部66を超えて膨張する過程において接着性能を発現することによって、絶縁紙50が発泡材料層64を介してスロット38の内壁面381,382,383に強固に接着される。このようにして、コイル30は、絶縁紙50を介してステータコア28にしっかりと固定される。
【0045】
上述したように、本実施形態の絶縁紙50によれば、接着材料層62が絶縁紙50の一方表面上に出現していない状態で担持されているので、絶縁紙50の一方表面上にコイル導線31のエッジ部等が擦れても接着材料層62に接触することがない。したがって、コイル挿入時に絶縁紙50から接着材料層62が剥がれるのを抑制でき、その結果、コイル30に対する絶縁紙50の接着力を確保できるとともに接着材料屑の発生を防止できる。
【0046】
また、本実施形態の絶縁紙50では、発泡材料層64もまた、絶縁紙50の他方表面上に出現していない状態で担持されているため、絶縁紙50をスロット38内に挿入するとき発泡材料層64の剥がれ及び発泡材料屑の発生を防止することができる。
【0047】
なお、図7に示すように、絶縁基材60aの他方表面(図7中の下面)に微小凸部66を形成することなく平滑表面とし、その上に発泡材料層64を積層形成するようにしてもよい。この場合でも、接着材料層62の剥がれ及び接着材料屑の発生を防止できる。
【0048】
次に、図8,9を参照して、第2実施形態の絶縁紙50bについて説明する。図8は、本実施形態の絶縁紙50bを示す部分拡大断面図である。また、図9は、スロット38内に配置された絶縁紙50bがコイル30に接着される様子を示す図であり、(a)は加熱接着前の状態、(b)加熱接着時の状態をそれぞれ示す。ここでは、上記第1実施形態の絶縁紙50と異なる点のみについて説明することとし、同一又は類似の構成要素には同一又は類似の参照符号を付して重複する説明を省略する。
【0049】
本実施形態の絶縁紙50bは、シート状の絶縁基材60bと、絶縁紙50bの一方表面(図8中の上面)に出現していない状態で絶縁基材60bに担持又は保持されている接着材料層62bと、絶縁基材60bの他方表面(図8中の下面)に積層して形成されている発泡材料層64とを備える。
【0050】
本実施形態では、絶縁基材60bが例えばスポンジ状部材、不職布等のような多孔質性の絶縁樹脂シートからなっており、半硬化状態の接着材料層62が絶縁基材60bに浸み込んだ状態で含まれている。
【0051】
図9(a)に示すように、スロット38内に配置された絶縁紙50bは、コイル対向面に接着材料層62bが出現していない状態になっているため、コイル導線31の挿入時に接着材料層62bの剥がれ及び接着材料屑の発生を防止できる。
【0052】
また、図9(b)に示すように、ステータ16に組み付けられて加熱処理が施されると、発泡材料層64の膨張によって絶縁基材60bがコイル導線31に押し付けられる。これにより、絶縁基材60bがつぶれることよって内部に含まれた接着材料層62bが絶縁紙50bの表面に出現してコイル導線31に接触することができ、その結果、絶縁紙50が接着材料層62bを介してコイル30に強固に接着される。
【0053】
なお、本発明の絶縁部材は、上述した実施形態および変形例の絶縁紙の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載を逸脱しない限りにおいて種々の変更や改良が可能である。
【0054】
例えば、上記においては絶縁紙50の接着材料層62をコイル30に接着させるものとして説明したが、これとは逆にしてもよい。すなわち、絶縁紙50の発泡材料層64をコイル側とし、接着材料層62をステータコア側として用いてもよい。これによっても同様の作用効果を奏することができる。
【0055】
また、上記においては絶縁紙がステータコアに用いられる場合について説明したが、ロータにコイルが巻装される場合にはロータコアとコイルとの間の絶縁および固定に本発明の絶縁部材が用いられてもよい。
さらに、上記においては、コイルがU字型導体セグメントを連結して構成されるものとして説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、巻線機によってコイル導線が順次に巻装されてコイルが構成されてもよいし、あるいは、予め結線された例えば2〜4つのコイル部分をステータコアに組み付けて構成されるカセット型のコイルであってもよい。
【符号の説明】
【0056】
10 回転電機、12 回転シャフト、14 ロータ、16 ステータ、18 ロータコア、20 永久磁石挿入孔、22 永久磁石、24 エンドプレート、26 樹脂、28 ステータコア、30 コイル、31 コイル導線、32 ケース、34 ヨーク部、36 ティース部、38 スロット、40 開口部、42 本体部、44,45 張出部、50,50b 絶縁紙、52,54 側面絶縁部、56 外周絶縁部、58,59 屈曲部、60,60a,60b 絶縁基材、62,62b 接着材料層、64 発泡材料層、66 凸部、381 内周面、382,383 側壁面、384,385 前壁面、w スロット幅、X 回転中心軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の絶縁基材と、前記絶縁基材の一方表面または内部に設けられた接着材料層とを備える回転電機用絶縁部材であって、
前記接着材料層は、前記絶縁部材の一方表面上に出現していない状態で前記絶縁基材に担持されている、
回転電機用絶縁部材。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機用絶縁部材において、
前記絶縁基材の一方表面は凹凸形状に形成されており、前記接着材料層は前記一方表面上の凸部高さよりも薄く形成されていて凸部先端が前記接着材料層から突出していることを特徴とする回転電機用絶縁部材。
【請求項3】
請求項1に記載の回転電機用絶縁部材において、
前記絶縁基材は多孔質部材からなり、前記接着材料層は前記絶縁基材の内部に浸み込んで含まれていることを特徴とする回転電機用絶縁部材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の回転電機用絶縁基材において、
前記絶縁基材の他方表面には発泡材料層が形成されており、前記発泡材料層が膨張して前記絶縁基材が回転電機のコイルに押し付けられることにより前記接着材料層が前記絶縁基材の一方表面上に出現してコイルに接着することを特徴とする回転電機用絶縁部材。
【請求項5】
スロットを有するステータコアと、
ステータコアのスロット内に挿入されるコイルと、
前記スロット内において前記ステータコアと前記コイルを絶縁するように配置された請求項1〜4のいずれか一項に記載の絶縁部材と、を備える、
回転電機用ステータ。
【請求項6】
シート状の絶縁基材、前記絶縁基材の一方表面または内部に設けられた接着材料層、および、前記絶縁基材の他方表面に設けられた発泡材料層を備える絶縁部材であって、前記接着材料層が前記絶縁部材の一方表面上に出現していない状態で担持されている絶縁部材を準備する準備工程と、
前記絶縁部材の発泡材料層が前記ステータコアに対向する状態で前記絶縁部材を前記ステータコアのスロット内に配置する配置工程と、
前記スロット内に配置された前記絶縁部材の内側にコイルを挿入する挿入工程と、
前記発泡材料層を膨張させて前記絶縁部材を前記コイルに押し付けることにより前記接着材料層を前記絶縁基材の一方表面上に出現させて前記コイルに接着する接着工程と、
を含む回転電機用ステータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−9499(P2013−9499A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140023(P2011−140023)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】