説明

回転電機

【課題】 高電圧の回転電機に必要な絶縁の信頼性を維持したままで、巻線の占積率を向上させた高効率の回転電機を提供する。
【解決手段】 極歯単位で円周方向に分割され電磁鋼板を積層した固定子ピースに、それぞれ電線を巻装して巻線を形成した複数の固定子分割体を、所定数環状に接合した固定子を有する回転電機であって、固定子ピースの少なくとも電線が巻装される面に、膜厚Dに対する表面の最大凹凸高さ率αが60%以下の絶縁被覆を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、固定子ピースに電線を巻装した固定子分割体を所定数環状に接合した固定子を有する回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の回転電機においては、積層電磁鋼板からなる固定子ピースに一体成形したインシュレータにて対地絶縁層を設け、この対地絶縁層上にエナメル被覆された電線を巻装して固定子分割体を作成し、これを所定数接合することで環状の固定子を構成している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、別の従来の回転電機においては、板状部材を積層して構成された鉄心の表面に粉体塗装または電着塗装にて絶縁層を形成して、巻線を巻回している(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−333388号公報
【特許文献2】特開平9−121492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の回転電機の固定子では、固定子ピースと巻線との対地絶縁を一体成形したインシュレータにて確保しているため、インシュレータの厚み分、巻線が可能な空間が狭くなり、巻線の占積率が制限されるという問題があった。また、別の従来の回転電機では、粉体塗装または電着塗装にて鉄心に薄い絶縁被覆を形成できるが、近年の回転電機の高電圧化に対応可能なほど十分な耐電圧性能が確保できず、適用可能な範囲が低電圧の小形モータに限定されるという問題があった。
【0006】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであって、高電圧の回転電機に必要な絶縁の信頼性を維持したままで、巻線の占積率を向上させた高効率の回転電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る回転電機においては、極歯単位で円周方向に分割され電磁鋼板を積層した固定子ピースに、それぞれ電線を巻装して巻線を形成した複数の固定子分割体を、所定数環状に接合した固定子を有する回転電機であって、固定子ピースの少なくとも電線が巻装される面に、膜厚Dに対する表面の最大凹凸高さ率αが60%以下の絶縁被覆を有するものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明は、高電圧の回転電機に必要な絶縁の信頼性を維持したままで、固定子の巻線の占積率を向上させた高効率の回転電機を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態1に係る回転電機の一部を分解して概略を示した斜視図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子の部分断面を示した斜視図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る固定子分割体の構成を説明するための斜視図である。
【図4】図3(c)の断面S1を示す断面図である。
【図5】図3(c)の断面S2を示す断面図である。
【図6】この発明の実施の形態1に係る絶縁被覆の絶縁耐圧と最大凹凸高さ率αとの関係を説明するための説明図である。
【図7】図5の拡大範囲A1を示す拡大図であり、絶縁被覆の膜厚Dと最大凹凸高さRyとの関係を説明するための説明図である。
【図8】この発明の実施の形態1に係る絶縁被覆の絶縁耐圧とボイド含有率βとの関係を説明するための説明図である。
【図9】この発明の実施の形態1に係る絶縁被覆の絶縁耐圧と膜厚Dとの関係を説明するための説明図である。
【図10】この発明の実施の形態2に係る絶縁被覆を設けた固定子ピースを示す斜視図である。
【図11】この発明の実施の形態3に係る固定子分割体における図3(c)の断面S1に相当する部分の断面図である。
【図12】この発明の実施の形態4に係る固定子分割体における図3(c)の断面S1に相当する部分の断面図である。
【図13】この発明の実施の形態4に係る固定子分割体における図3(b)の断面S3に相当する部分の断面図である。
【図14】この発明の実施の形態4に係る固定子分割体の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る回転電機1の一部を分解して概略を示した斜視図である。図1において、固定子2は回転子3を取り囲むように筐体4に保持されている。回転子3は回転軸5と一体に構成され、回転軸5は軸受6にて回動自在に保持されている。
【0011】
図2は、この発明の実施の形態1に係る回転電機1の固定子2の部分断面を示した斜視図である。同図では、極歯単位で円周方向に分割され電磁鋼板を積層した固定子ピース7に、それぞれ電線8を巻装して巻線9が形成された複数の固定子分割体10を、所定数環状に接合した固定子2を示しており、固定子分割体10の内部構造が分かるように部分断面をとっている。なお、隣り合う固定子分割体10の巻線9はそれぞれ異なる相となるので、相間の絶縁を確保するため絶縁板11が挿入されている。
【0012】
図3は、この発明の実施の形態1に係る固定子分割体10の構成を説明するための斜視図である。図3(a)に示すように、固定子分割体10を構成する固定子ピース7は、略T状に打ち抜いた電磁鋼板を積み上げることにより作られており、巻き溝12を有している。図3(b)に示すように、この巻き溝12は、絶縁層となる絶縁被覆13にて覆われている。図3(c)に示すように、この絶縁被覆13に覆われた巻き溝12に電線8を巻装して巻線9が形成され、固定子分割体10が構成されている。なお、絶縁被覆13は、固定子ピース7と巻線9との絶縁を確保すると共に、張力をかけて巻装される電線8の破損防止の役割を担っているが、一般に固定子ピース7は対地電位となるので、絶縁被覆13は巻線9と対地の絶縁を担うことになる。
【0013】
図4は、図3(c)の断面S1を図中の白塗り矢印の方向から見た断面図である。同図において、電線8は、導線8aに電線用被覆8b、例えばエナメル被覆を施した被覆電線であり、固定子ピース7の中心軸側から順次巻装されて固定子分割体10が作成される。
【0014】
図5は、図3(c)の断面S2を図中の黒塗り矢印の方向から見た断面図である。薄い電磁鋼板を積層して作られた固定子ピース7の巻き溝12を構成する面には、電磁鋼板を積層することで生じる凹凸を有する積層面12aと、端部に位置する電磁鋼板の平坦な主面12bとがある。このうち積層面12aの絶縁耐圧は、上記凹凸による電界集中により平坦な主面12bよりも低下する。固定子ピース7に巻装された電線8の内、巻き溝12を構成する面12a、12bと対向する電線8に対しては、通常の運転状態で印加される電圧のみならずサージなどの高電圧で地絡しないように絶縁設計を行う必要がある。特に電磁鋼板の積層面12aでは、上述の電界集中の影響を考慮した絶縁設計が必要となる。また、電線用被覆8bには、製造時の不具合や、巻装時の外力の剥離、亀裂などによりピンホールが生じる可能性があるので、絶縁被覆13には十分な絶縁性能を持たすことが好ましい。
【0015】
絶縁被覆13は、樹脂を主成分とした絶縁材料、例えば、エポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、PPS(ポリフェニレンサルファイド)など、熱硬化性もしくは熱可塑性の樹脂を、適切な条件で粉体塗装または電着塗装を用いて形成した絶縁膜である。この絶縁被覆13の形成は、電線8を巻装して固定子分割体10を作成する工程の前に、電線8が巻装される固定子ピース表面におこなわれるので、環境の制約を受けず塗布処理ができ、塗布条件を最適化することでピンホールが無く且つボイドの含有を抑制した安定な膜質が得られる。
【0016】
以下、エポキシを用いて粉体塗装にて絶縁被覆13を形成する場合の一例について、さらに具体的に説明するが、本発明は以下の形態に限定されるものではない。
【0017】
粉体塗装に用いる粉体塗料は、エポキシ樹脂、硬化剤および所望により用いられる硬化促進剤、充填剤、顔料、タレ防止材、レベリング材などの成分から構成される。エポキシ樹脂組成物に用いられるエポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型又はクレゾールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのものは単独もしくは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
また、エポキシ樹脂組成物に用いられる硬化剤としては、エポキシ樹脂組成物に従来から用いられている硬化剤、例えば酸無水物、イミダゾール類、フェノール系化合物、アミド類等が挙げられる。中でもイミダゾール類が保存安定性と反応性とのバランスに優れるので好ましい。
【0019】
エポキシ樹脂と硬化剤との配合割合は質量比で100:0.5〜100:7程度の範囲である。この範囲よりエポキシ樹脂の割合が多いと、例えば、200℃、30分加熱しても粉体塗料が十分に硬化せず、絶縁層としての塗膜の特性が悪くなることがあり、この範囲よりエポキシ樹脂の割合が少ないと、保存安定性が低下するうえ、硬化が速くなり過ぎるため、絶縁被覆13の表面の平滑性が低下することがある。
【0020】
このようなエポキシ組成物の粉体塗料を、予熱により温度調整した固定子ピース7に、流動浸漬法もしくは摩擦帯式電静スプレー法にて2〜5回程度の塗布した後、付着した塗膜を赤外線ヒータなどで約165℃まで昇温して溶融させる。続いて約150℃の熱風循環路にて1時間程度硬化させることで所望の厚さの絶縁被覆13が得られる。このときの溶融具合と硬化のタイミングによって、絶縁被覆13の表面の平滑性に係る凹凸高さが生じることがあるが、一方でこれを抑制することもできる。
【0021】
図6は、この発明の実施の形態1に係る絶縁被覆13の絶縁耐圧と絶縁被覆13の表面の最大凹凸高さ率αとの関係を説明するための説明図である。
【0022】
ここで図6のグラフの横軸となる最大凹凸高さ率αについて、図7を用いて説明する。図7は、図5の拡大範囲A1を拡大した図であり、固定子ピース7の積層面12aは、打ち抜き成形時に変形した電磁鋼板を積層しているため凹凸を有している。図7に示すように、絶縁被覆13表面の最大凹凸高さRyは、絶縁被覆13の膜厚Dと最小膜厚Dminとの差である。最大凹凸高さ率αは、この最大凹凸高さRyと膜厚Dとを用いて、α=(Ry/D)×100にてあらわされる。
【0023】
図6のグラフの縦軸である絶縁耐力Vα/Vα=60は、図7の構造を解析用にモデル化して電界解析シミュレーションを用いて求めたものであり、積層面12aに膜厚D=100μm且つボイドがない絶縁被覆13が形成されている場合を想定し、最大凹凸高さ率αが60%の場合の絶縁耐圧Vα=60に対する、各最大凹凸高さ率αでの絶縁耐圧Vαの比率を示している。図6では、最大凹凸高さ率αがそれぞれ40%、50%、60%、70%、90%の場合についてプロットしている。
【0024】
なお、前記各条件の絶縁耐圧Vαの値は、前記シミュレーションで求めた最大電界値が絶縁破壊電界値を越える電圧値とした。
【0025】
図6から、最大凹凸高さ率αが60%よりも大きくなると、絶縁耐圧が急に低下することが分かる。つまり、最大凹凸高さ率αを60%以下に抑制することで、絶縁被覆13の表面の凹凸による絶縁耐圧の低下を防ぐことができ、絶縁の信頼性が向上するといえる。また、絶縁耐圧の信頼性を一定とすると、絶縁被覆13の膜厚Dを薄くできるので、その分、巻線をおこなえる空間が増え、固定子の巻線の占積率を向上させた高効率の回転電機を得られるという効果がある。
【0026】
なお、このような特性は、後述するように、絶縁被覆13のボイド率βが2%以下、且つ膜厚Dが50μm以上150μm以下であれば、ボイド含有率βや膜厚Dには依存しないので、好ましくは、これらの条件を満たすように絶縁設計すれば一層の効果が得られる。
【0027】
図8のグラフは、この発明の実施の形態1に係る絶縁被覆13の絶縁耐圧とボイド含有率βとの関係を説明するための実験結果を示している。グラフの縦軸である絶縁耐力Vβ/Vβ=0は、最大凹凸高さ率αが60%以下、膜厚D=100μm、且つボイドがない場合の絶縁被覆13の絶縁耐圧Vβ=0に対する、各ボイド含有率βでの絶縁耐圧Vβの比率を示している。図8では、ボイド含有率βがそれぞれ1%、2%、3%、4%の場合についてプロットしている。なお、前記各条件の絶縁耐圧Vβの値は実験により求めた。
【0028】
図8から、ボイド含有率βが2%よりも大きくなると絶縁耐圧が急に低下することが分かる。つまり、ボイド含有率βを2%以下に抑制することにより、ボイドがない絶縁被覆に相当する絶縁耐圧を得ることができ、絶縁の信頼性が向上するといえる。また、絶縁耐圧の信頼性を一定とすると、絶縁被覆13の膜厚Dを薄くできるので、その分、巻線をおこなえる空間が増え、固定子の巻線の占積率を向上させた高効率の回転電機を得られるという効果がある。
【0029】
なお、このような特性は、最大凹凸高さ率αが60%以下であれば凹凸の影響を受けないので、好ましくは、これらの条件を満たすように絶縁設計すれば一層の効果が得られる。
【0030】
図9は、この発明の実施の形態1に係る絶縁被覆13の絶縁耐圧と膜厚Dとの関係を説明するための実験結果を示している。グラフの横軸は絶縁被覆13の膜厚Dであり、縦軸のVD/VD=150は、最大凹凸高さ率αが60%以下、絶縁被覆13にボイドがなく、且つ膜厚D=150μm場合の絶縁耐圧VD=150に対する、各膜厚Dでの絶縁耐力VDの比率を示している。なお、前記各条件の絶縁耐圧VDの値は実験により求めた。
【0031】
図9から、領域D1(50μm未満)では、前記巻き溝12の表面の凸凹による電界集中が原因で絶縁耐圧が急激に下がることがわかる。領域D2(50μm以上150μm以下)では、上記凹凸による電界集中も抑制され、且つ絶縁被覆13にボイドも発生しにくくなることから、絶縁被覆13の厚さ分に相当した絶縁耐圧が得られることになる。領域D3(150μm超)では、絶縁被覆13の厚さを増やすと、製造時に絶縁被覆13内部に気泡ボイドが出来やすくなることに起因して、絶縁被覆13の厚さ増加に対応する絶縁耐圧の向上の効果が阻害される。つまり、領域D1では絶縁耐力が不足する可能性が高く、領域D3では絶縁耐力に寄与せずに巻き溝12の空間を狭くする絶縁被覆13の厚さ部分が生じることを示している。
【0032】
よって、絶縁被覆13の膜厚Dが50μm以上150μm以下となるように絶縁設計をすれば、単位膜厚あたりの絶縁性能を高くでき、その分、巻線に利用できる空間を得ることが出来る。このようにして、高電圧の回転電機に必要な絶縁の信頼性を維持したままで薄くした膜厚Dは、従来の回転電機の固定子のようにインシュレータを用いる場合と比較して1/5〜1/2の厚さになる。したがって、絶縁被覆13の厚さを50μm以上150μm以下にすることで、高電圧の回転電機に必要な絶縁の信頼性を維持したままで巻線占積率を向上させることが可能となる。
【0033】
なお、上述の、最大凹凸高さ率αが60%以下、ボイド含有率βが2%以下、且つ絶縁被覆13の膜厚Dが50μm以上150μm以下となる、全ての条件を満たす絶縁設計をおこなえば、高電圧の回転電機に必要な絶縁の信頼性を維持したままで固定子の巻線の占積率を向上させた高効率の回転電機を得ることができるという効果を、最も顕著に得ることができるのはいうまでもない。
【0034】
実施の形態2.
図10は、この発明の実施の形態2に係る絶縁被覆13を設けた固定子ピース7を示す斜視図である。実施の形態1では、固定子ピース7の巻き溝12を構成する面のみに絶縁被覆13を設けたが、図10に示すように、固定子2の端となる固定子ピース7の端面14に絶縁被覆13を設けても良い。なお、その他の構成に関しては、実施の形態1と同様であるので説明を省略する。
【0035】
このように固定子ピース7の端面14に絶縁被覆13を設けることで、最外層の巻線9の端に位置する電線8と固定子ピース7との絶縁を強化することができる。これにより、巻線9を巻き溝12の溝深さの全てを使って巻装できるようになるので、その分、巻線の占積率を向上させることができる。
【0036】
実施の形態3.
図11は、この発明の実施の形態3に係る固定子分割体10における図3(c)の断面S1に相当する部分の断面図である。実施の形態1では、樹脂を主成分とした絶縁材料、例えば、エポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、PPSなどの絶縁被覆13によって固定子ピース7の巻き溝12を構成する面を覆うようにしたが、図11に示すように、絶縁被覆13として直鎖の長い分子構造をもつ低弾性エポキシや低弾性ポリイミド、低弾性ポリアミド、ポリエステル、もしくはシリコーンゴム、ウレタンなどの固定子ピース7に電線8を巻装する時に生じる外力により変形可能な絶縁材料を用いて、固定子ピース7の絶縁被覆13と、それに隣接する電線8の対向する凹凸表面と空隙なく密接させるように構成しても良い。なお、その他の構成に関しては、実施の形態1と同様であるので説明を省略する。
【0037】
このように固定子ピース7の絶縁被覆13と、それに隣接する電線8の対向する凹凸表面と空隙なく密接させるように構成することで、絶縁被覆表面の凹凸を抑制することができ、この凹凸に起因した絶縁性能の低下を防げる。さらに、変形可能な絶縁材料を用いることで、変位吸収作用や応力緩和作用がより発揮され、巻線工程などの製造時に生じるクラックなどの絶縁欠陥の発生を抑制することができる。これらにより、絶縁信頼性が一層向上する。
【0038】
実施の形態4.
図12は、この発明の実施の形態4に係る固定子分割体における図3(c)の断面S1に相当する部分の断面図である。実施の形態1では、1層の絶縁被覆13によって固定子ピース7の巻き溝12を構成する面を覆うようにしたが、図12に示すように、固定子ピース7の電線8が巻装される面に密接する第1の絶縁被覆13aの上に、電線8と対向する第2の絶縁被覆13bを設けてもよい。なお、その他の構成に関しては、実施の形態1と同様であるので説明を省略する。
【0039】
図13は、第1および第2の絶縁被覆13a、13bを設けた場合の図3(b)の断面S3に相当する部分の断面図を示しており、巻き溝12のコーナー部15の曲率半径を増大させることができるので、特に巻き溝12内側の第1層目の巻線9への応力を緩和できる。これにより、巻線工程など製造時に生じる電線8の電線用被覆8bへのクラックなどの絶縁欠陥の発生を抑制することができ、絶縁信頼性が一層向上する。
【0040】
なお、この実施の形態では、第1および第2の絶縁被覆13a、13bにて2層の絶縁被覆13を形成するようにしたが、各層の絶縁被覆は従来のインシュレータに比べて非常に薄く形成することができるので、3層以上の多層としても良い。
【0041】
また、図14は、この発明の実施の形態4に係る固定子分割体の変形例を示す断面図である。同図のように、多層の絶縁被覆13を、樹脂を主成分とした絶縁材料、例えば、エポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、PPSなどから成る第1の絶被覆13aと、外力により変形可能な絶縁材料、例えば、直鎖の長い分子構造をもつ低弾性エポキシや低弾性ポリイミド、低弾性ポリアミド、ポリエステル、もしくはシリコーンゴム、ウレタンなどから成る第2の絶縁被覆13bとで、2層に構成しても良い。
【0042】
なお、上述では、絶縁被覆13の形成方法として粉体塗装および電着塗装などを示したが、これに限るものでなく、静電引力を用いたスプレー拭きつけ、および流動浸漬など適宜用いることができる。
【符号の説明】
【0043】
1 回転電機、2 固定子、3 回転子、4 筐体、5 回転軸、6 軸受、7 固定子ピース、8 電線、8a 導線、8b 電線用被覆、9 巻線、10 固定子分割体、11 絶縁板、12 巻き溝、12a 積層面、12b 主面、13 絶縁被覆、13a 第1の絶縁被覆、13b 第2の絶縁被覆、14 端面、15 コーナー部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極歯単位で円周方向に分割され電磁鋼板を積層した固定子ピースに、それぞれ電線を巻装して巻線を形成した複数の固定子分割体を、所定数環状に接合した固定子を有する回転電機であって、上記固定子ピースの少なくとも上記電線が巻装される面に、膜厚Dに対する表面の最大凹凸高さ率αが60%以下の絶縁被覆を有することを特徴とする回転電機。
【請求項2】
絶縁被覆のボイド含有率βは、2%以下であることを特徴とする請求項1記載の回転電機。
【請求項3】
絶縁被覆の膜厚Dは、50μm以上150μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の回転電機。
【請求項4】
絶縁被覆は、固定子ピースの端面を覆うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の回転電機。
【請求項5】
絶縁被覆は、隣接する電線の対向する凹凸表面と空隙なく密接することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の回転電機。
【請求項6】
絶縁被覆は、固定子ピースに電線を巻装する時に生じる外力により変形可能な絶縁材料にて形成されていることを特徴とする請求項5に記載の回転電機。
【請求項7】
絶縁被覆は、少なくとも、固定子ピースの電線が巻装される面と密接する第1の絶縁被覆と、上記電線と対向する第2の絶縁被覆とを有する多層であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の回転電機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2012−95484(P2012−95484A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−242047(P2010−242047)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】