説明

回転電機

【課題】製造性に優れかつ軽量であり、性能および信頼性の高いファンを有した回転電機を提供する。
【解決手段】回転電機1は、原動機Tによって回転される回転子11の励磁コイルに励磁電流を供給して固定子12の誘導コイルに電力を発生させ、コレクタリング21とカップリング22とファン23とボス24とを備える。コレクタリングは、回転子11のシャフト111の外周に装着され、一対に設けられる。カップリング22は、シャフト111の端部に取り付けられる。ファン23は、シャフト111の外周を囲う環状に一体に形成され、コレクタリング21およびカップリング22の外周径R21,R22よりも大きい内周径R23を有する。ボス24は、一対のコレクタリング21の間に装着され、シャフト111の軸方向にファン23が結合固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、冷却用のファンが組みつけられた回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
回転子のコイルに励磁電流を供給するための励磁機を回転子と同軸に設置している回転電機がある。励磁機は、回転子のシャフトの外周に絶縁材を介して装着されるコレクタリングと、このコレクタリングに摺接して励磁電流を供給するブラシと、コレクタリングおよびブラシを覆うコレクタカバーと、コレクタリングやブラシを冷却するためにシャフトに取り付けられてコレクタカバー内の空気を攪拌するファンとを有している。
【0003】
ファンは、シャフトに接合するための中央リングと、遠心方向へ気流を発生するための複数の翼とを少なくとも有し、各部材どうしが溶接やリベット接合などによって組み立てられている。このファンは、シャフトに対して中央リングが締り嵌めの寸法公差で製造され、焼き嵌めによって取り付けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭60−153897号公報
【特許文献2】特表2010−525771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ファンを構成する部材は、溶接性および焼き嵌めなどを考慮して、構造用鋼材を使用することが多い。しかし、ファンを鋼材で製造すると質量が大きくなるため、入念な振れ取りが必要であるだけでなく、シャフトに組み付ける際に揚重装置が必要になる。また、溶接によってファンを組み立てる場合、材料取り、部品ごとの加工、仮組み、溶接、検査、焼鈍、仕上加工、歪取り、振れ取りといったような様々な製造工程を要し、製造単価が高くなるだけでなく、各工程において熟練した技能を要する。
【0006】
また、設計要求としてファンに求められる静圧上昇性能を満足するためには、翼の断面形状を流線形にするか、厚みが均一な断面の翼である場合には湾曲させたり翼面積を大きくしたりするか、翼枚数を増やすなどの策を講じなければならない。翼の断面形状を流線型にすると、各翼の加工工数が増大するとともに、組み立ての際の位置決めが難しくなる。翼が均一な厚みの断面である場合、翼の面積を広げたり枚数を増やしたりする必要があるので、ファンの質量がさらに増加してしまう。翼の面積を広げた場合は、ファンの外形が大きくなるため、これに合わせてコレクタカバーも大きくしなければならない。
【0007】
ファンが取り付けられた近傍には、コレクタリングやコレクタカップリングが配置されており、これらもまたシャフトに焼き嵌めされている。したがって、運開後のメンテナンスでファンを取り外す必要が生じた場合、コレクタリングやコレクタカップリングも合わせて取り外さなければならない。
【0008】
そこで、本発明は、製造性に優れかつ軽量であり、性能および信頼性の高いファンを有した回転電機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施形態の回転電機は、原動機によって回転される回転子の励磁コイルに励磁電流を供給して固定子の誘導コイルに電力を発生させる回転電機であって、コレクタリングとカップリングとファンとボスとを備える。コレクタリングは、回転子および固定子を収納するフレームを貫通して延びた回転子のシャフトの外周に装着され、励磁コイルに接続される一対に設けられる。カップリングは、シャフトの端部に取り付けられる。ファンは、シャフトの外周を囲う環状に一体に形成され、コレクタリングおよびカップリングの外周径よりも大きい内周径を有する。ボスは、一対のコレクタリングの間に装着され、シャフトの軸方向にファンが結合固定される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施形態の回転電機を模式的に示す断面図。
【図2】図1に示した回転電機のファンの周辺を拡大した断面図。
【図3】図2に示したファンの一部を切り欠いた側面図。
【図4】図3中のF4−F4線に沿うファンの断面図。
【図5】第2の実施形態の回転電機のファンを軸方向に分解した断面図。
【図6】図5に示したファンの連結部を拡大した断面図。
【図7】第3の実施形態の回転電機のファンを軸方向に分解した断面図。
【図8】図7に示したファンの係合部の分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
第1の実施形態の回転電機1について、図1から図4を参照して説明する。図1に示す回転電機1は、原動機Tによって回転される回転子11の励磁コイルに励磁電流を供給して固定子12の誘導コイルに電力を発生させる。回転子11および固定子12は、フレーム13に収納される。フレーム13の内部は、冷却媒体ガスGとして用いられる水素ガスで満たされている。回転子11の端部は、フレーム13を貫通して延びている。冷却媒体ガスGをフレーム13内に密封するために、フレーム13を貫通する回転子11のシャフト111に軸封装置14および軸受15が装着されている。
【0012】
この回転電機1は、図2に示すようにコレクタリング21とカップリング22とファン23とボス24とを備える。コレクタリング21は、フレーム13を貫通して延びた回転子11のシャフト111の外周に絶縁材25を介在させて焼き嵌めによって装着されている。このコレクタリング21は、図2に示すようにシャフト111の軸Lに沿う方向に距離を空けて一対に設けられ、励磁コイルの両端にそれぞれ接続されている。カップリング22は、シャフト111の端部に焼き嵌めによって取り付けられる。
【0013】
ファン23は、図2に示すようにシャフト111の外周を囲う環状にかつ一体に形成されている。ボス24は、一対のコレクタリング21の間に焼き嵌めによって装着され、シャフト111の軸Lに沿う方向にファン23が結合固定される。図2に示すように、ファン23の内周径R23は、コレクタリング21の外周径R21およびカップリング22の外周径R22よりも大きく作られている。したがって、ファン23は、コレクタリング21、ボス24、カップリング22が取り付けられた状態で、シャフト111の端部から通されてボス24に取り付けることができる。つまり、必要に応じてファン23だけを取り外すことも可能である。
【0014】
このファン23は、アルミニウム合金製の1つの環状の鍛造品から機械切削で、図3および図4に示すように、中央リング231と複数の翼232と側部リング233とを削り出して一体に形成されている。
【0015】
ファン23を削りだすための材料として鍛造品を採用することによって、鋳物とは異なり、材料の内部に気孔が入っていないので、気孔を起点とする亀裂の発生の心配も無く、また、気孔を加味した予備寸法を設定する必要も無くなる。したがって、材料の信頼性も高く、加工後のファン23の重量も小さくなる。また、ファン23に使用される鍛造品のアルミニウム合金の材料は、引張強さが130MPa以上のものを採用する。回転電機1の機動および停止の際にファンに加わる繰り返し負荷に対する疲労強度を高く設定することができる。
【0016】
中央リング231は、ボス24に結合される肉厚の基部231Aと、基部からシャフト111の軸Lに対して垂直に延びるディスク部231Bとを有している。中央リング231は、軸Lに平行に開通するボルト孔231Cを基部231Aに有している。ボス24は、このボルト孔231Cに対応してネジ穴24Aが形成されている。
【0017】
ファン23は、ボス24に対してシャフト111の軸Lと平行にボルト孔231Cに通されるボルト26によって締結される。ボス24に対してファン23を取り付ける場合、いくつかのネジ穴24Aにガイドピンを装着しておくと、位置決め作業が容易になる。他のネジ穴24Aにボルト26を装着した後で、ガイドピンをボルト26に代えればよい。
【0018】
さらにこのファン23は、シャフト111の軸Lと平行に貫通したネジ穴231Dを基部231Aの数箇所に有している。このネジ穴231Dは、シャフト111の軸Lに沿ってボス24からファン23を離す際に、ジャッキボルトを装着するために使用される。ファン23の直径が大きくなると、ボス24に対して平行に組み立てたり取り外したりすることが難しくなる。ボス24にファン23を組み付ける場合は、ボルト26を均等に締めていくことによって比較的すんなりと取り付けることができる。しかし、ファン23をボス24から取り外す場合、ボルト26を利用することはできない。そこで、このネジ穴231Dにジャッキボルトを取り付け、均等に締め込んでいくことで、ジャッキボルトでボス24の側面を押し、ファン23をボス24から離す。
【0019】
複数の翼232は、それぞれ中央リング231のディスク部231Bの両側面からシャフト111の軸Lと平行に延び、流線型の断面を有している。図3に示すように各翼232は、ファン23がシャフト111に伴って回転することでシャフト111に対して遠心方向に気流を発生させる角度に形成されている。本実施形態の場合、翼232を機械切削によって削りだすため、翼を個別に作って溶接する場合に比べて、翼232の形状を流線型にしても製造コストは大きく変わらない。
【0020】
翼232の断面が流線型に形成されていることによって、翼の厚みが均一な場合に比べて、少ない数の翼232でも十分な静圧上昇性能を得ることができるため、ファン23の軽量化に寄与する。また、翼232が流線型に形成されることで、回転中の風切り音を防止することにもなる。
【0021】
側部リング233は、図2および図4に示すようにシャフト111の軸Lに垂直な面に沿って翼232の端部を周方向に連結する。これによって、回転子11とともにファン23が回転する間、翼232が個々に振動することを防止する。
【0022】
以上のように構成された回転電機1において、ファン23の内周径R23は、コレクタリング21やカップリング22の外周径R21,R22よりも大きく形成されている。したがって、回転子11のシャフト111にコレクタリング21、ボス24、カップリング22をそれぞれ焼き嵌めによって取り付けた後からでもファン23を組み付けることができる。このとき、溶接を行なわずに環状の鍛造品から機械切削によって、中央リング231と翼232と側部リング233のすべてを削り出してファン23を形成する。ファンを構成する各部品の単品加工、組立に必要な治具の段取り、仮組立、溶接、応力除去のための焼鈍、歪取り、溶接部の検査、仕上げ加工といった、様々な付随作業が排除されるので、機械切削に多少の時間を要しても、トータルコスト的にファン23を安く作ることができる。また、ファン23をアルミニウム合金によって作っているので、ファン23自体が軽くなり、組立作業の能率も向上する。
【0023】
さらに、ボスとファンが一体に作られていた従来の回転電機の場合、コレクタリングやカップリングを回転子のシャフトに組み付ける作業と前後して、ファンを取り付けなければならなかったのに対し、この実施形態の回転電機1によれば、コレクタリング21やカップリング22とともにボス24を先に取り付けておき、後からファン23を付けることができる。つまり、周辺の作業状況や必要に応じて一時的にファン23を外しておくこともできる。回転子11の製造工程において、ファン23を取り付けるタイミングの自由度が増し、作業手順の見直しやハンドリングの改善も期待される。
【0024】
第2の実施形態の回転電機1について、図5および図6を参照して説明する。各図中において第1の実施形態の回転電機1と同じ機能を有する構成は、同一の符号を付して第1の実施形態の対応する記載を参酌することとする。第2の実施形態の回転電機1は、図5および図6に示すようにファン23の基部231Aとボス24との結合部の構造が、第1の実施形態の回転電機1と異なっている。その他の構造は第1の実施形態の回転電機1と同じである。
【0025】
第2の実施形態において、図5に示すように、ボス24は、回転子11のシャフト111の軸Lに沿う方向に凹んだ環状の溝244を有している。ファン23は、この溝244に対してシャフト111の軸Lに沿う方向に嵌合する環状の凸部234を基部231Aに有している。ボルト孔231Cは、シャフト111の軸Lと平行に凸部234を貫通するように形成され、ボス24のネジ穴24Aも溝244の底部に設けられる。
【0026】
さらに、この第2の実施形態の場合、図6に示すように、ファン23の凸部234の外周径D23がボス24の溝244の内周径D24よりもわずかに大きい、締り嵌めの寸法関係に形成されている。したがって、ファン23をボス24に組み付ける場合、ファン23を冷し嵌めによって装着する。または、ファン23の凸部234とボス24の溝244の嵌め合いストロークに対して十分な長さの植え込みボルトをガイドとしてボス24のネジ穴24Aの等配となる数箇所に取り付け、植え込みボルトに装着したナットでファン23をボス24に対して圧入するように組み立ててもよい。
【0027】
このように、ファン23の凸部234の外周径D23がボス24の溝244の内周径D24よりも大きい締りばめの寸法関係に設けられていることによって、ファン23に作用する遠心力でファン23が偏心するのを予防することができる。
【0028】
第3の実施形態の回転電機1について、図7および図8を参照して説明する。各図中において第1および第2の実施形態の回転電機1と同じ機能を有する構成は、同一の符号を付して第1および第2の実施形態の対応する記載を参酌することとする。第3の実施形態の回転電機1は、図7および図8に示すようにファン23の凸部234の外周とボス24の溝244の外周との間にシャフト111の回転方向に位置決めする係合部を有している点が第2の実施形態と異なっている。
【0029】
第3の実施形態では、係合部として、ファン23の凸部234の外周に突起235を形成し、ボス24の溝244の外周に突起235に対応するノッチ245を形成している。突起235とノッチ245の凹凸の関係は、逆であってもよい。また、係合部を設ける代わりに位置決めの穴をファン23およびボス24のそれぞれに設け、この穴にピンやキーを挿してもよい。さらに、突起235とノッチ245の代わりに、ファン23の凸部234とボス24の溝244に、円弧の一部を直線状に加工して互いに合致させるフラット部を形成してもよい。
【0030】
ファン23の凸部234とボス24の溝244にシャフト111の回転方向に位置決めする係合部(突起235およびノッチ245)を設けることによって、回転電機1の起動や停止によってファン23とボス24との間に周方向の力が作用した場合にもファン23がずれ動くことを防止できる。
【0031】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0032】
1…回転電機、11…回転子、111…シャフト、12…固定子、13…フレーム、21…コレクタリング、22…カップリング、23…ファン、231…中央リング、231D…ネジ穴、232…翼、233…側部リング、234…凸部、24…ボス、244…溝、235…突起(係合部)、245…ノッチ(係合部)、R21…(コレクタリングの)外周径、R22…(カップリングの)外周径、R23…(ファンの)内周径、D23…(凸部の)外周径、D24…(溝の)内周径。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機によって回転される回転子の励磁コイルに励磁電流を供給して固定子の誘導コイルに電力を発生させる回転電機であって、
前記回転子および前記固定子を収納するフレームを貫通して延びた前記回転子のシャフトの外周に装着されて前記励磁コイルに接続された一対のコレクタリングと、
前記シャフトの端部に取り付けられるカップリングと、
前記シャフトの外周を囲う環状に一体に形成されて前記コレクタリングおよびカップリングの外周径よりも大きい内周径を有したファンと、
一対の前記コレクタリングの間に装着され前記シャフトの軸方向に前記ファンが結合固定されるボスと、を備える
ことを特徴とする回転電機。
【請求項2】
前記ファンは、前記ボスに結合される中央リングと、前記中央リングに対して前記シャフトの軸と平行に延び前記シャフトに対して遠心方向に気流を発生させる流線型の断面を有した複数の翼と、前記シャフトの軸に垂直な面に沿って前記翼の端部を周方向に連結する側部リングと、を一体に削り出して作られる
ことを特徴とする請求項1に記載された回転電機。
【請求項3】
前記ボスは、前記シャフトの軸方向に凹んだ環状の溝を有し、
前記ファンは、前記溝に対して前記シャフトの軸方向に嵌合する環状の凸部を有する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載された回転電機。
【請求項4】
前記凸部の外周径と前記溝の内周径は、締り嵌めの関係に形成される
ことを特徴とする請求項3に記載された回転電機。
【請求項5】
前記ファンは、前記ボスから前記軸方向に前記ファンを押し離すジャッキボルトを装着するネジ穴を有している
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載された回転電機。
【請求項6】
前記ファンと前記ボスとは、前記シャフトの回転方向に位置決めする係合部を備える
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載された回転電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−17333(P2013−17333A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149381(P2011−149381)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】