説明

固体電解質ガスセンサとガス検出方法

【構成】 固体電解質ガスセンサ2のカバーにゼオライトフィルタ14を設け、フィルタ14の内側の開口22と外側の開口20の面積の面積比を0.9〜0.3とする。
【効果】 応答特性を損ねず、高湿雰囲気を経験した後の立ち上がり時間を短縮できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は固体電解質ガスセンサに関し、特にCOやNOxなどの検出に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1はフィルタ付きの金属酸化物半導体ガスセンサでの、フィルタの外側でのカバーの開口と内側でのカバーの開口について検討している。そして内側の開口を広くし、外側の開口を狭くすることにより、ガスセンサの耐湿性が向上すると共に、雑ガスによる誤報が減少するとしている。しかしながら発明者らは、固体電解質タイプのガスセンサでは、外側と内側の開口面積の比は逆の結果を示すことを見出した。
【特許文献1】特開平2001−124718号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この発明の課題は、ガスに対する応答特性を損ねずに、高湿雰囲気経験後の立ち上がり時間を短縮することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この発明は、固体電解質からなるセンサ本体をカバーで囲み、カバーに外側の開口と内側の開口とをフィルタを挟むように設けて、内側の開口の奧側に前記センサ本体を配置したガスセンサにおいて、内側の開口面積と外側の開口面積の比を0.9〜0.3としたことを特徴とする、固体電解質ガスセンサにある。
この発明はまた、固体電解質からなるセンサ本体をカバーで囲み、カバーに外側の開口と内側の開口とをフィルタを挟むように設けて、内側の開口の奧側に前記センサ本体を配置したガスセンサを用いてガスを検出する方法において、内側の開口面積と外側の開口面積の比を0.9〜0.3としたことを特徴とするガス検出方法にある。
【0005】
好ましくは、内側の開口面積と外側の開口面積の比を0.6〜0.35とする。
特に好ましくは、前記センサ本体が、アルカリイオン導電体に、基準極と炭酸塩を含有する検知極とを接続してヒータにより加熱するようにしたものであり、
内側の開口面積と外側の開口面積の比を0.6〜0.35とし、
さらに外側開口の直径を3〜5mm、フィルタの厚さを4〜7mmとする。
【発明の効果】
【0006】
この発明では、ガスに対する応答速度を損ねずに、高湿雰囲気などを経験してフィルタに水蒸気が蓄積された後の立ち上がり時間を短縮できる。即ち発明者の実験では、内側の開口面積と外側の開口面積との比が0.3程度減少させても、応答性能の低下は僅かで、例えばこの比が0.35の場合、応答性能の低下は無視し得るほどである。一方、この比が0.9以下で高湿雰囲気を経験した後の立ち上がり時間が短くなり、特にこの比が0.6以下では立ち上がり時間は充分短く、しかもこれ以上開口面積の比の値を小さくしても、立ち上がり時間は改善されない。これらのことから内側の開口面積と外側の開口面積との比には最適範囲があり、0.9〜0.3が好ましく、特に0.6〜0.35が好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例】
【0008】
図1〜図6に、COセンサを例に実施例を示す。図において2はガスセンサで、4は例えば金属製のベースである。センサ本体6は、例えばヒータ基板8と固体電解質ペレット9とからなり、リード線を用いてピン10などに宙づりで固定する。固体電解質ペレット9には例えばNASICONなどのナトリウムイオン導電体を用い、リチウムイオン導電体などの他のアルカリ金属イオン導電体でも良い。また固体電解質ペレット9に代えて、固体電解質の膜を用いても良い。固体電解質ペレット9のヒータ基板8側に、金などの導電性材料からなる基準極を設けて、固体電解質ペレット9のヒータ基板8とは反対側に検出極を設ける。そして検出極には金などの導電性材料と炭酸リチウムなどの混合物を用いる。なお炭酸リチウムに代えて、亜硝酸ナトリウムや硝酸ナトリウムなどを金などの導電性材料と混合して検出極とすると、NOxセンサとなる。
【0009】
12は例えば金属製のカバーで、ゼオライトフィルタ14を設け、その上下に不織布15,16を設け、18は金網で、20は外側開口、22は内側開口である。ゼオライトフィルタ14には例えばY型ゼオライトなどの粉体を用い、メタノールやエタノールなどの有機溶媒を吸着し、ガスセンサ2が影響を受けないようにする。またゼオライトフィルタ14は、周囲の水蒸気を吸着して、センサ本体6の周囲での相対湿度を一定に近づけ、耐湿性を向上させる。ゼオライトフィルタ14に代えて例えばシリカゲルフィルタなどを用いることもできるが、活性炭フィルタはCOを吸着するので好ましくない。不織布15,16は本体上のゼオライトがこぼれ出さないようにするためのもので、金網18は外側開口20から不織布15が破れないように保護するためのものである。ガスセンサ2では開口20,22以外の個所は密閉され、開口20,22とフィルタ14とが唯一のガス通路である。
【0010】
ガスセンサ2のサイズを示すと、カバー12は内径が8mmで、外側開口20の直径Rは例えば4mm、内側開口22の直径rは例えば2.5mmである。外側開口20の直径Rを4mmとすると、内側開口22の直径rの好ましい範囲は3.8〜2.2mmで、特に好ましくは3.1〜2.4mmとする。これらの範囲は、内側開口22の面積と外側開口20の面積との比で0.9〜0.3、好ましくは0.6〜0.35を意味する。ベース4の底面からカバー12の上面までの距離は例えば約12mmで、このうちゼオライトフィルタ14の厚さは例えば約5mmで、好ましくは4〜7mmとする。また内側開口22からベース4の上面までの奥行きは例えば3〜6mmで、ここでは4.5mmである。ガスセンサ2の1個当たりゼオライトの量は例えば150mg、好ましくは100〜200mgとする。以下実施例では、外側開口20の直径Rを4mmに固定して示すが、実際に重要なのは内側開口22の面積と外側開口20の面積の面積比であり、外側開口20の直径Rを例えば3mm,5mmに変更しても、開口22,20の面積比が同じであれば、応答特性や耐湿性も同様である。
【0011】
金網18は例えばステンレスの200メッシュの2重金網であるが、300メッシュまでであれば通気性への影響は無視でき、100メッシュなどの金網としても、あるいは金網を設けなくても良い。さらに不織布15,16の通気性への影響は僅かである。またセンサ本体の動作温度は例えば400〜500℃(ここでは450℃)である。さらに外側開口を直径4mmとして、内側開口の直径とフィルタ14の厚さとを変化させた場合、厚さが4〜7mmの範囲では、フィルタ14の厚さは応答性能や高湿雰囲気経験後の立ち上がり時間への影響は僅かであった。
【0012】
図3,図4はガスセンサ2のCO350ppmから2000ppmへの応答特性を示し、図3は行きの90%応答時間を示し、横軸は内側開口22の面積と外側開口20の面積との比である。この比を0.4まで小さくしても応答時間に影響は生じないが、比の値が0.25以下となると応答時間が長くなる。図4は図3に対応する実際の応答波形を示し、CO濃度を2000ppmに増した際も、CO濃度を350ppmに戻した際も、上記の面積比が0.4までは影響が生じず、面積比を0.25あるいは0.1とすると、応答時間が著しく長くなる。発明者はこれ以外の形状の試作品での測定なども加味して、内側開口面積と外側開口面積との比が0.35以上で、応答特性への影響は僅かであることを見出した。なお図4では図示の都合上、起電力の値をグラフ毎に上下にずらせて重ならないようにしてある。
【0013】
図5は、ガスセンサを自然大気中で1週間非加熱放置した後に再加熱した際の起電力の変化を示し、図中の数字は内側開口22の面積と外側開口20の面積との比を示し、この面積比が0.8あるいは0.4の場合、比較的短時間で起電力が定常値に達するのに対して、2.25や1の場合、定常値に達するまでの時間が長いことが分かる。COセンサでは例えばCO400ppmが充分に換気された雰囲気に相当し、ビル空調などの場合、1000ppmがCO濃度の上限となり、この間の起電力の変化は20〜30mV程度で、起電力が定常値に対して±5mV程度となるまで測定を開始できない。
【0014】
図6は、ガスセンサを1週間40℃で相対湿度80%の雰囲気に非加熱で放置し、この雰囲気から常温常湿に戻して2時間経過した後に、加熱を開始した際の起電力の波形を示す。図の数字は同様に内側開口面積と外側開口面積の比であり、面積比が1では起電力が定常値に達するまでの時間が極めて長く、0.8や0.4では比較的短い時間で定常値に達するものの、面積比を0.4とした方が0.8とした場合よりも、短時間で検出を再開できることが分かる。また面積比を0.4としても0.25としても、結果に差はない。
【0015】
図5,図6の特性は、ゼオライトフィルタに蓄積された水蒸気が、再加熱時にセンサ本体側に放出されるか、外気に放出されるかの違いを示しているものと考えられる。そして内側開口と外側開口面積の比を小さくすると、センサ本体側に放出される水蒸気や雑ガスが減少し、これに伴って短時間で検出を再開できるものと考えられる。
【0016】
図5,図6の特性からは、内側開口面積と外側開口面積の比は0.8〜0.4が好ましく、また図6の結果からは、この面積の比を0.25まで小さくしても、立ち上がり時間は短縮しないことが分かる。この一方で図3,図4からは、上記の面積の比が0.4までは応答特性が低下しないことが分かる。これらのことをまとめると、内側開口面積と外側開口面積の比は0.9〜0.3が好ましく、特に好ましくは0.6〜0.35であることが分かる。

【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例のガスセンサの縦方向断面図
【図2】実施例のガスセンサの平面図
【図3】実施例のガスセンサのCO350ppmからCO2000ppmへの90%応答時間を示す特性図
【図4】図3に相当するガスセンサの応答波形図
【図5】実施例のガスセンサを1週間自然大気中で非加熱放置した後に再加熱した際の、起電力の立ち上がり特性を示す波形図
【図6】実施例のガスセンサを40℃相対湿度80%の雰囲気に一週間非加熱放置した後に、常温常湿に戻し再加熱した際の起電力の立ち上がり特性を示す波形図
【符号の説明】
【0018】
2 ガスセンサ
4 ベース
6 センサ本体
8 ヒータ基板
9 固体電解質ペレット
10 ピン
12 カバー
14 ゼオライトフィルタ
15,16 不織布
18 金網
20 外側開口
22 内側開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質からなるセンサ本体をカバーで囲み、カバーに外側の開口と内側の開口とをフィルタを挟むように設けて、内側の開口の奧側に前記センサ本体を配置したガスセンサにおいて、
内側の開口面積と外側の開口面積の比を0.9〜0.3としたことを特徴とする、固体電解質ガスセンサ。
【請求項2】
内側の開口面積と外側の開口面積の比を0.6〜0.35としたことを特徴とする、固体電解質ガスセンサ。
【請求項3】
前記センサ本体が、アルカリイオン導電体に、基準極と炭酸塩を含有する検知極とを接続してヒータにより加熱するようにしたものであり、
前記外側開口の直径が3〜5mmで、フィルタの厚さが4〜7mmであることを特徴とする、請求項2の固体電解質ガスセンサ。
【請求項4】
固体電解質からなるセンサ本体をカバーで囲み、カバーに外側の開口と内側の開口とをフィルタを挟むように設けて、内側の開口の奧側に前記センサ本体を配置したガスセンサを用いてガスを検出する方法において、
内側の開口面積と外側の開口面積の比を0.9〜0.3としたことを特徴とするガス検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−47230(P2006−47230A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−231771(P2004−231771)
【出願日】平成16年8月9日(2004.8.9)
【出願人】(000112439)フィガロ技研株式会社 (58)
【Fターム(参考)】