説明

固体電解質コンデンサを製造するためのタンタル粉末

【課題】理解されるべき妥協の可能を拡大し、即ちより大きな性質の幅を有するコンデンサを製造することができるかまたは一定の性質を有するコンデンサをあまり厳しくない方法の制限で製造することができる、コンデンサ製造のための粉末を提供することである。
【解決手段】0.2〜0.8μmの最小の一次粒子寸法、0.9〜2.5m2/gの比表面積、5〜25μmのD10値、20〜140μmのD50値および40〜250μmのD90値に相当するASTM B 822により測定された粒度分布を有する凝集された一次粒子からなるタンタル粉末であって、この場合この粉末は、焼結保護剤の作用含量を含んでいない、前記のタンタル粉末。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンタルをベースとする固体電解質コンデンサ、殊に70000μFv/gを上廻る高い比容量を有する固体電解質コンデンサの製造に関する。
【背景技術】
【0002】
極めて大きな活性のコンデンサ表面積およびしたがってモバイルの通信電子機器に適した小型の構造形式を有する固体電解質コンデンサとして、主に相応する伝導性の担体上に施こされた五酸化タンタル遮断層を有するかかる固体電解質コンデンサは、安定性("バルブメタル")、比較的高い誘電定数および電気化学的形成により極めて均一な層厚で形成可能な絶縁五酸化物層を利用しながら使用される。同時にコンデンサ電極(アノード)である金属担体は、微粒状の一次構造体の圧縮および焼結によって形成されるかまたは既に海綿状の二次構造体の焼結によって形成される高度に多孔質の海綿状構造体からなる。この場合、圧縮体の安定性は、本質的に焼結体への後加工、固有の担体構造体の後加工またはコンデンサのアノードに対して本質的なことである。担体構造体の表面は、電気分解により五酸化物に酸化され("化成され")、この場合五酸化物層の厚さは、電気分解による酸化の最大電圧("化成電圧")によって測定される。対向電極は、海綿状の構造体を、熱的に二酸化マンガンに変換される硝酸マンガンまたはポリマー電解質の液状前駆物質で含浸しかつ重合させることによって製造される。電極に対する電気接点は、片面上で焼結前にプレス成形用金型中に挿入されるタンタル線材またはニオブ線材によって形成され、別の面上では、該線材に対して絶縁された金属コンデンサスリーブによって形成される。アノード構造を有する線材が焼結されている強度は、コンデンサへの後加工のためのもう1つの本質的な性質である。
【0003】
コンデンサの容量Cは、次の式:
C=(F・ε)/d
〔式中、Fは、コンデンサの表面積を表わし、εは、誘電定数を表わし、dは、絶縁層の厚さを表わす〕により算出される。
【0004】
この種の固体電解質コンデンサの品質は、本質的に海綿状のアノード構造体の形成、殊に大きな細孔ないし最も微細な細孔の開いた細孔構造の分枝化に依存する。海綿状の構造体は、一面で三分の一が元来のアノード構造体中に成長しかつ三分の二が元来のアノード構造体上に成長するような絶縁層の形成後になお閉鎖された導電性の構造体を形成しなければならず、他面、関連する開いた細孔構造体中に形成されたカソードが絶縁層表面と完全に接触しうるようにするために、関連する開いた細孔構造体を残しておかなければならない。
【0005】
近年の開発は、殊に現在の通信電子機器がよりいっそう僅かな電圧で動作するので、常に微粒状の一次粉末の使用に結び付いている。それによって可能なよりいっそう僅かな絶縁層厚は、一次構造体の寸法がよりいっそう微細である際になお閉鎖されたアノード構造体を形成させることを可能にし、アノード化後になお関連する細孔構造体を形成することを可能にする。
【0006】
この場合、海綿状のアノード構造体は、微粒状の一次構造体および二次構造体から出発して粉末凝集塊の一般に多工程での形成、ならびに凝集塊の圧縮および焼結によって形成され、この場合強すぎる焼結は、窒素および/または燐での焼結保護ドーピング、また早期の硼素、ケイ素、硫黄、ヒ素での焼結保護ドーピングの使用によって回避される。この場合、凝集の目的のために部分的に強く減少される焼結活性は、同時に進行する脱酸素反応によって高められた表面での原子移動が発生するので、同時の還元(脱酸素による凝集)によって不利な作用をした。
【0007】
即ち、タンタルコンデンサを経済的に製造するには、有利な後加工特性を有する中間段階ならびに望ましいコンデンサ特性を達成させるために、数多くの妥協が必要とされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、理解されるべき妥協の可能を拡大し、即ちより大きな性質の幅を有するコンデンサを製造することができるかまたは一定の性質を有するコンデンサをあまり厳しくない方法の制限で製造することができる、コンデンサ製造のための粉末を提供することである。
【0009】
更に、本発明の課題は、直ちに本発明の次の記載から導き出すことができる。
【0010】
焼結保護ドーピングを完全に不要にすることに成功することが見出された。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の対象は、0.2〜0.8μmの最小寸法、0.9〜2.5m2/gの比表面積を有する凝集された一次粒子からなり、ASTM B 822により測定された粒度分布が5〜40μmのD10値、20〜140μmのD50値および40〜250μmのD90値に相当するタンタル粉末であり、この場合この粉末は、焼結保護剤の作用含量を有していない。
【0012】
好ましい本発明によるタンタル粉末は、P40ppm未満、N400ppm未満、B10ppm未満、Si20ppm未満、S10ppm未満およびAs10ppm未満の焼結ほど作用にとって公知の物質の含量を有する。
【0013】
特に好ましくは、燐含量は、10ppm未満であり、窒素含量は、200ppm未満である。殊に好ましいのは、100ppm未満の窒素含量を有するタンタル粉末である。
【0014】
タンタル粉末中の異質物質の含量が焼結保護剤として有効であるかどうかは、この異質物質が粉末中の存在する量ならびに異質物質の種類に依存する。即ち、400ppmの窒素の表面上の含量は、なお焼結保護剤として有効であることができ、一方、粉末粒子の容量を上廻る均一なドーピングは、一般に有効ではない。
【0015】
特に好ましくは、本発明による粉末は、避けることできない不純物の量を除外して焼結保護剤として有効なドーピング元素の自由度を示す。
【0016】
本発明によるタンタル粉末が極めて僅かな残留電流を有するコンデンサに加工可能であるということは、意外なことと見なされる。それというのも、焼結保護ドーピングは、公知技術水準の教示によれば、残留電流の減少にも規則的に使用されたからである。
【0017】
本発明によるタンタル粉末は、直径5.1mmおよび長さ5.1mmを有する円筒形への圧縮後に5.0g/cm3の圧縮密度で4kgを上廻る、特に5kgを上廻るシャティヨン(Chatillon)による圧縮強度を有する。
【0018】
また、本発明の対象は、本質的に焼結保護剤を有しない、0.5〜1m2/gの比表面積を有するタンタルからなる、固体電解質コンデンサのアノードである。
【0019】
更に、本発明の対象は、40000〜150000μFv/g、特に70000〜150000μFv/gの比容量を有する、本発明によるアノードを有する固体電解質コンデンサである。
【0020】
本発明の基礎となる効果の説明は、図1および2につき略示的に明らかになる。図において、Aは、焼結橋Dを有する2つの焼結された一次粒子の断面輪郭(点線)を示す。燐または窒素の焼結保護ドーピングの存在(図1)での凝集の場合には、前記焼結橋は、比較的強い刻み目を有し、他方、焼結保護ドーピングなし(図2)の(本発明による)凝集の場合には、焼結橋の刻み目は、流れるように走っている。略示された図において、焼結橋によって形成された、二重矢印Dによって表わされた、図2の一次粒子の接触面は、図1の場合の約3倍の大きさである。灰色で表わされた範囲は、アノード化後の五酸化物層を表わし、表面(点線)に対して垂直方向の前記五酸化物層の厚さの約1/3は、元来の金属構造体中へと成長し、約2/3は、この元来の金属構造体から外へと成長している。
【0021】
本発明による粉末から製造されたアノードは、極端に僅かな比残留電流および卓越した電圧破壊強さを有する。このための基礎は、場合によっては同様に図1および2から理解することができる。焼結保護ドーピングで焼結されたアノード(図1)の場合には、2つの一次粒子の間の焼結橋の刻み目線(Kerblinie)での五酸化物層の成長中に、2つの粒子の成長境界が一緒に成長する"継目"が形成されるが、これは、本発明による粉末(図2)の場合には、当てはまらない。しかし、この種の"成長継目"は、原子範囲内での不純物および積層欠陥の蓄積個所であり、ひいては漏れ電流または残留電流、または過剰電圧破壊のベースとなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】燐または窒素の焼結保護ドーピングの存在(図1)での凝集の場合のアノードを示す略図。
【図2】焼結保護ドーピングなし(図2)の(本発明による)凝集の場合のアノードを示す略図。
【実施例】
【0023】
約2.5μmの平均一次粒径(走査電子顕微鏡(REM)撮影により目視的に測定した)、ASTM B 822(機器Malvem社 マスターサイザー(MasterSizer) Sμ)により測定された、5.7μmのD10値、28.3μmのD50値および72.1μmのD90値に相当する一定の粒度分布およびASTM D 3663により測定された、0.54m2/gの比表面積(BET)を有する微粒状の部分焼結された出発五酸化タンタルを使用する。
【0024】
出発五酸化タンタルを、自体公知の方法で、タンタルフッ化水素酸とアンモニア溶液との反応、分離、洗浄および沈殿したタンタル水酸化物の乾燥、空気中での該水酸化物の灼熱および600μm未満への生成物の篩別、および引続く1700℃で4時間に亘るアルゴン雰囲気下での安定化灼熱ならびに微粉砕および篩別によって製造した。
【0025】
出発五酸化タンタルを、1.1倍の化学量論的量(五酸化物の酸素含量に対して)のマグネシウムを含有するるつぼの上方でタンタル薄板で被覆された炉内のタンタル線材からなる網状物上に供給する。この炉は、ヒーターおよびマグネシウムを含むるつぼの下方のガス入口開口ならびに五酸化タンタル堆積物の上方のガス取出し開口を有する。還元温度に加熱を開始する前に、反応器をアルゴンで洗浄する。還元中に徐々にアルゴンは、常圧下で炉を貫流する。反応の終結および反応器の冷却の後に、徐々に酸素を炉内に供給し、金属粉末を溶解損失に抗するように不動態化する。形成された酸化マグネシウムを硫酸および引続く脱塩水での洗浄によって中和するまで除去する。
【0026】
粉末は、還元後にREM(走査電子顕微鏡)撮影により測定された、約0.2μmの平均一次粒径、2.3m2/gのBETによる比表面積および16.3μmのD10、31.7μmのD50および93.2μmのD90に相当する、ASTM B 822により測定された、粒度分布を有する。
【0027】
この粉末の一部分を、燐酸溶液での含浸および乾燥によって150ppmの燐でドープする。
【0028】
その後に、タンタル粉末の燐でドープされた試料ならびにドープされていない試料を、最初に1.5倍の化学量論的量のマグネシウム屑の添加および第1表中に記載された脱酸素温度への2時間に亘る加熱によって脱酸素し、冷却後に目開き300μmの篩に擦り付けた。
【0029】
第1表中には、次の粉末特性またはパラメーターが記載されている:
Desox.-Tは、脱酸素が実施された温度を示す。"嵩密度"は、ASTM B 329によるスコット(Scott)体積計を用いて測定された。
【0030】
"FSSS"は、ASTM B 330によるFisher社のサブ・シーブ・サイザー(Sub Sieve Sizer)を用いて測定された平均粒径を示す。
【0031】
圧縮強度は、5.0g/cm3の圧縮密度を有する長さ5.1mmおよび直径5.1mmの粉末圧縮生成形体につきシャティヨン(Chatillon)動力計で測定された。
【0032】
"BET"は、公知方法によりブルナウアー−エメット−テラー(Brunauer, Emmet und Teller)により測定された比表面積を示す。
【0033】
"流動能"("Hall-flow")は、粉末25gがASTM B 213による1/10’’漏斗を貫流する秒での貫流時間を表わす。
【0034】
"マスターサイザー(MasterSizer) D10、D50およびD90"は、ASTM B 822によりMalvem社の機器マスターサイザー(MasterSizer) Sμを用いてレーザー回折によって測定された、1回も超音波処理なしおよび1回超音波処理ありの粉末の粒度分布の10質量百分位数、50質量百分位数および90質量百分位数を示す。
【0035】
粉末から、5.0g/cm3の圧縮密度を有する直径3mmおよび長さ3.96mmの寸法の圧縮体を製造し、この場合プレス成形マトリックス中には、粉末の注入前に接点線材としての直径0.2mmのタンタル線材を軸方向に挿入した。圧縮体を表中に記載された焼結温度で10分間に亘り高真空中で焼結し、アノードに変える。
【0036】
"線材引張強さ"を次のように測定した:アノード線材をホルダー薄板の直径0.25mmの開口に差し込み、自由端部をシャティヨン(Chatillon)動力計のホルダークランプ中に張設する。次に、この線材がアノード構造体から引き出されるまで負荷する。
【0037】
この陽極体を、0.1質量%の燐酸中に浸漬し、150mAに制限された電流強さで30Vの化成電圧になるまで化成する。電流強さの低下後、電圧をなお1時間維持する。コンデンサの性質を測定するために、18%の硫酸からなるカソードを使用する。前記のコンデンサの性質を120Hzの交流電圧で測定した。
【0038】
比容量および残留電流は、第1表中に記載されている。
【0039】
更に、"破壊強度"を次のように測定した:アノード体を0.1%の燐酸中に浸漬し、一定の電流強さで突然の電圧降下が起こるまで化成する。
【0040】
【表1】

【符号の説明】
【0041】
A 焼結橋Dを有する2つの焼結された一次粒子の断面輪郭(点線)、 D 焼結橋、二重矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.2〜0.8μmの最小の一次粒子寸法、0.9〜2.5m2/gの比表面積、5〜25μmのD10値、20〜140μmのD50値および40〜250μmのD90値に相当するASTM B 822により測定された粒度分布を有する凝集された一次粒子からなるタンタル粉末であって、この場合この粉末は、焼結保護剤の作用含量を含んでいない、前記のタンタル粉末。
【請求項2】
P30ppm未満、N400ppm未満、B10ppm未満、Si20ppm未満、S10ppm未満およびAs10ppm未満の含量を有する、請求項1記載の粉末。
【請求項3】
P10ppm未満、N300ppm未満の含量を有する、請求項2記載の粉末。
【請求項4】
N100ppm未満の含量を有する、請求項3記載の粉末。
【請求項5】
直径5.1mmおよび長さ5.1mm、および5.0g/cm3の圧縮密度を有する円筒形への圧縮後に4kgを上廻る、特に5kgを上廻るシャティヨンによる圧縮強度を有する、請求項1から4までのいずれか1項に記載のタンタル粉末。
【請求項6】
本質的に焼結保護剤を含有しない、0.5〜1m2/gのコンデンサとして有効な比表面積を有するタンタル粉末からなる固体電解質コンデンサアノード。
【請求項7】
30kgを上廻る線材引抜強さを有する、請求項6記載の固体電解質コンデンサアノード。
【請求項8】
70000〜150000μFv/gの比容量および1nA/μFv未満の比残留電流を有する、請求項6または7記載のアノードを有する固体電解質コンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−19223(P2012−19223A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173296(P2011−173296)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【分割の表示】特願2007−535049(P2007−535049)の分割
【原出願日】平成17年9月24日(2005.9.24)
【出願人】(507239651)ハー.ツェー.スタルク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (59)
【氏名又は名称原語表記】H.C. Starck GmbH
【住所又は居所原語表記】Im Schleeke 78−91, D−38642 Goslar, Germany
【Fターム(参考)】