説明

固体電解質フィルム及びその製造方法、並びに電極膜複合体、燃料電池

【課題】乾燥時間を短くして、プロトン伝導度が高い固体電解質フィルムを製造する。
【解決手段】カチオン種を有し固体電解質の前駆体であるポリマーと有機溶媒とを含むドープ24を走行する流延バンド86上に流延して流延膜62を形成する。純水接触装置95により流延膜62に純水を吹き付けた後、流延バンド86から剥ぎ取って前駆体フィルム66とする。純水が入っている第1浴槽67に前駆体フィルム66を搬送後、テンタ83で乾燥する。続けて、酸を含む溶液が入っている第2浴槽84に前駆体フィルム66を搬送し、上記カチオン種を水素原子に置換して固体電解質フィルム70を得る。第3浴槽85で固体電解質フィルム70の余分な酸を除去した後、乾燥室86で乾燥する。残留溶媒量が少なく、かつプロトン伝導度が高いフィルム70を短い時間で乾燥して連続的に大量生産することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質フィルム及びその製造方法、並びに固体電解質フィルムを用いた電極膜複合体、燃料電池に関するものであり、特に、プロトン伝導性をもち燃料電池に用いられる固体電解質フィルム及びその製造方法、固体電解質フィルムを用いた電極膜複合体、燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
次世代の発電装置として燃料電池が注目されており、その主要部材である固体電解質に関する研究も盛んに行なわれている。固体電解質としては、無機化合物及び有機化合物の両方が知られており、無機化合物としては、例えば、水和化合物であるリン酸ウラニルが挙げられる。そして、このような固体電解質は、通常、燃料電池等に用いる場合には、フィルム状の固体電解質フィルムとされる。ただし、無機化合物からなる固体電解質フィルムは、電極に挟み込んで燃料電池とする場合に、電極と固体電解質フィルムとの接触が充分でなく、電極上へ直接的に固体電解質フィルムを形成させることが困難である。その一方で、有機化合物からなる固体電解質フィルムは、電極上へ直接的に固体電解質フィルムを形成させることが容易であり、また、電極と固体電解質フィルムとの接触が良好であることから、その需要は拡大している。
【0003】
有機化合物であるポリマーからなる固体電解質フィルムを製造する際には、主に溶液製膜方法が用いられている。溶液製膜方法とは、ポリマーと有機溶媒との混合物、すなわちドープを走行する支持体上に流延して流延膜を形成した後、この流延膜を支持体から剥ぎ取って溶媒を含んだフィルムとしてから乾燥してフィルムとする方法であり、ポリマーに対する熱ダメージを低減して製膜することができる方法である。
【0004】
固体電解質フィルムには、燃料電池として使用しているうちに、外部に有機溶媒が出て出力密度や耐久性が低下するのを防止するため、また、高い起電力を発現させることを目的として、残留溶媒量が出来る限り低減されていること、またプロトン伝導度が高いことが要求される。しかし、固体電解質となりうるポリマーは、一般的に、剛直な構造を有するために高沸点である有機溶媒にしか溶解しないものが多い。そこで、ドープの溶媒としては、高沸点の化合物を使用せざるを得ない。ただし、このような高沸点化合物を完全に蒸発させるためには、フィルムの乾燥温度を高くしたり、乾燥時間を長くしなければならない。ここで、乾燥時間の短縮を目的として安易に乾燥温度を高くすると、有機溶媒が急激に蒸発して乾燥ムラが生じ、局所的にピンホールが固体電解質フィルムに発生するため、固体電解質フィルムのプロトン伝導度をはじめとする特性は、著しく低下してしまう。
【0005】
また、プロトンを持つポリマーからなるドープを溶液製膜する場合には、製造途中でポリマー中のプロトンは温度や湿度の影響を受けて容易に解離してしまい、プロトン伝導度の高いフィルムを得ることが難しいという問題がある。
【0006】
そこで、残留溶媒量の少ない固体電解質フィルムを製造する方法として、例えば、特許文献1では、流延膜を150℃以下で乾燥し、さらに、支持体から剥ぎ取った後の流延膜を300℃以下で乾燥する方法が提案されており、特許文献2では、特許文献1の方法に加えて、支持体から剥ぎ取った後の流延膜を水洗工程に供してから乾燥する方法が提案されている。また、プロトン伝導度が高い固体電解質フィルムを製造する方法として、特許文献3では、スルホン酸基を有するポリマーを含むドープをフィルムとし、これを酸処理して固体電解質フィルムとする方法が提案されており、特許文献4では、イオン導電性を有するフィルムを酸処理して固体電解質フィルムを製造する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2005−232240号公報
【特許文献2】特開2005−235466号公報
【特許文献3】特開2005−268144号公報
【特許文献4】特開2005−268145号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2いずれの方法も、乾燥時間が非常に長くかかってしまうために生産性に劣るという問題を抱える。また、特許文献3、4に提案されている方法は、固体電解質の前駆体であるポリマーを用いて前駆体フィルムを作製し、これを酸処理することで固体電解質フィルムとする方法であるため、製造途中でのプロトンの解離を抑制して、プロトン伝導度が高い固体電解質フィルムを製造することができる一方で、乾燥に関して特に記載されていない。更には、特許文献1〜4のいずれの方法も、溶液製膜方法により固体電解質フィルムを製造することができるとあるが、製造方法に関する具体的な記載がないため実用化が難しい。したがって、残留溶媒量が少なく、かつプロトン伝導度が高い固体電解質フィルムを、短時間のうちに大量に生産することができる方法は確立されていないといえる。
【0008】
本発明は、上記問題を解決することを目的とし、短い時間で溶媒量を除去する方法であって、かつ温度や湿度の影響を受けることなくプロトン伝導度が高い固体電解質フィルムを、優れた生産性で大量に製造することができる固体電解質フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明での固体電解質フィルムの製造方法は、走行する支持体上に、カチオン種を有し固体電解質の前駆体であるポリマーと、ポリマーの良溶媒である第1化合物及び貧溶媒である第2化合物が含まれる混合溶媒とを含むドープを流延ダイから流延して流延膜を形成する第1工程と、流延膜を純水に接触させて、混合溶媒の一部を純水に置き換える第2工程と、流延膜を支持体から剥ぎ取って前駆体よりなる前駆体フィルムとする第3工程と、プロトン供与体である酸の溶液に前駆体フィルムを搬送しながら接触させて、カチオン種が水素原子に置換された固体電解質からなる固体電解質フィルムとする第4工程と、固体電解質フィルムを洗浄する第5工程と、固体電解質フィルムを乾燥する第6工程とを有することを特徴とする。
【0010】
第1化合物は第2化合物よりも多く混合溶媒に含まれ、ドープは固体電解質の重量に対して100%よりも大きい重量の第1化合物を含み、純水との接触を終了した流延膜は、固体電解質の重量に対する第1化合物の重量の割合を100%未満とされたことが好ましい。
【0011】
純水の接触は、流延膜に対する純水の吹き付け、流延膜への純水の塗布の少なくともいずれかひとつであることが好ましい。
【0012】
第2工程後の流延膜と、第4工程前の前駆体フィルムとの少なくとも一方を、第1化合物と第2化合物との両方とに相溶する液に接触させることが好ましい。液は、水と前記第1化合物との混合物、水と第2化合物との混合物、水と有機溶媒との混合物の少なくともいずれかであることが好ましい。
【0013】
第2工程で流延膜を純水に接触させる時間と流延膜を液に接触させる時間との和が、10分以下であることが好ましい。なお、第1化合物はジメチルスルホキシドであり、第2化合物は炭素数が1〜5のアルコールであることが好ましい。
【0014】
ポリマーは、炭化水素系ポリマーであることが好ましい。炭化水素系ポリマーは、芳香族系ポリマーであることが好ましい。また、芳香族系ポリマーは、化3の一般式(I)〜(III)で示される各構造単位からなる共重合体であることが好ましい。ただし、Xはカチオン種であり、YはSO、Zは化4の(I)または(II)に示す構造であり、nとmとは0.1≦n/(m+n)≦0.5を満たす。
【0015】
【化3】

【0016】
【化4】

【0017】
本発明の固体電解質フィルムは、上記いずれかひとつの製造方法により製造されたことを特徴とする。
【0018】
また、本発明の電極膜複合体は、上記の固体電解質フィルムと、この固体電解質フィルムの一方の面に密着して備えられ、外部から供給される水素含有物質からプロトンを発生するためのアノード電極と、固体電解質フィルムの他方の面に密着して備えられ、固体電解質フィルムを通過したプロトン及び外部から供給される気体からなる水を合成するカソード電極とを有することを特徴とする。
【0019】
さらに、本発明は、上記の電極膜複合体と、この電極膜複合体の電極に接触して備えられ、アノード電極及びカソード電極と外部との電子の受け渡しをする集電体とを有することを特徴とする燃料電池を含んで構成されている。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、短い時間で溶媒量を除去し、かつ温度や湿度の影響を受けることなくプロトン伝導度が高い固体電解質フィルムを、優れた生産性で大量に製造することができる。また、この固体電解質フィルムを用いた電極膜接合体は、燃料電池に用いると優れた起電力を発現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明の実施様態について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施様態に限定されるものではない。まず、本発明に係る固体電解質フィルムについて説明し、その後、その製造方法について説明する。なお、以下の説明では、固体電解質フィルムを単にフィルムと称する場合もある。
【0022】
本発明では、ドープを調製する際に、カチオン種を有し固体電解質の前駆体であるポリマーを用いる。このポリマーは、炭化水素系ポリマーであることが好ましく、中でも、この炭化水素系ポリマーは芳香族系ポリマーであることが好ましい。また、芳香族系ポリマーは、化3の一般式(I)〜(III)で示される各構造単位からなる共重合体であることが好ましい。ただし、Xはカチオン種であり、YはSOであり、Zは化4の(I)または(II)に示す構造であり、nとmとは0.1≦n/(m+n)≦0.5を満たす。
【0023】
特に、化3に示す物質のフィルムは、吸湿膨張率とプロトン伝導度とを両立させる。n/(m+n)<0.1である場合には、スルホン酸基が少なすぎて、プロトン伝導路、いわゆるプロトンチャンネルを十分に形成することができないことがある。そのため、得られるフィルムは実用に十分なプロトン伝導性を発現しないことがある。また、n/(m+n)>0.5である場合には、フィルムの水分吸収性が高くなってしまうため、吸水による膨張率、つまり吸水膨張率が大きくなり、フィルムが劣化しやすくなる。
【0024】
上記のように、本発明では化3のXがプロトン以外のカチオン種であるポリマー(以降、前駆体と称する)を含むドープを調製後、これを支持体上に流延して前駆体を含むフィルム(以降、前駆体フィルムと称する)として剥ぎ取り、この前駆体フィルムを酸と接触させる酸処理を行うことで、Xをプロトン置換してHとすることにより、プロトン伝導度の高い固体電解質フィルムを製造することができる。なお、酸処理に関しては、後で詳細に説明する。
【0025】
本発明においてカチオン種とは、電離したときにカチオンを生成する原子または原子団を意味する。このカチオン種は1価である必要はない。ただし、本発明では、プロトン以外のカチオン、例えば、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類金属カチオン、アンモニウムカチオンが好ましく、カルシウムイオン、バリウムイオン、四級アンモニウムイオン、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンを生成するものが好ましい。そして、固体電解質フィルムのプロトン伝導度は、Xのカチオン種のうちHに置換された割合が多いほど高くなる。また、本発明では、固体電解質フィルムでのプロトンの伝導指標としてプロトン伝導度或いはプロトン伝導性を使用しているが、いずれも高いほど固体電解質フィルムとして優れるといえる。なお、化3におけるXをHとせずにカチオン種のままとしてフィルムを製造しても、そのフィルムは固体電解質としての機能を持つ。しかし、そのプロトン伝導性は、Xのカチオン種のうちHに置換された割合が多いほど高くなる。その意味では、XはHであることが特に好ましい。
【0026】
本発明では、上記のような固体電解質の前駆体であるポリマーを後述する酸処理によりプロトン置換して固体電解質を生成させる。この固体電解質は、以下の諸性能をもつものが好ましい。イオン伝導度は、例えば25℃、相対湿度70%において、0.005S/cm以上であることが好ましく、0.01S/cm以上であるものがより好ましい。さらに、50%メタノール水溶液に18℃で一日浸漬した後のイオン伝導度が0.003S/cm以上であることが好ましく、0.008S/cm以上であるものがより好ましく、特に、浸漬前に対する浸漬後のイオン伝導度の低下率が20%以内であるものが好ましい。そして、メタノール拡散係数が4×10−7cm/s以下であることが好ましく、2×10−7cm/s以下であるものが特に好ましい。
【0027】
固体電解質の強度については、弾性率が10MPa以上であるものが好ましく、20MPa以上であるものが特に好ましい。なお、弾性率の測定方法については、特開2005−104148号公報の段落[0138]に詳細に記されており、弾性率の上記値は、東洋ボールドウィン社製の引っ張り試験機による値である。したがって、他の試験方法や試験機を用いて弾性率を求める場合には、上記試験方法や試験機による値との相関性を予め求めておくとよい。
【0028】
固体電解質の耐久性については、50%メタノール中に一定温度で浸漬する経時試験の前後で、重量、イオン交換容量、メタノール拡散係数の各変化率が、それぞれ20%以下であるものが好ましく、15%以下であるものが特に好ましい。さらに過酸化水素中における経時試験の前後でも、同様に重量、イオン交換容量、メタノール拡散係数の各変化率が20%以下であるものが好ましく、10%以下であるものが特に好ましい。また、50%メタノール中、一定温度での体積膨潤率が10%以下であるものことが好ましく、5%以下であるものが特に好ましい。
【0029】
さらに、安定した吸水率および含水率をもつ固体電解質が好ましい。そして、アルコール類、水、アルコールと水との混合溶媒に対し、溶解度が実質的に無視できる程に小さいものであることが好ましい。また上記液に浸漬した時の重量減少、形態変化についても実質的に無視できる程小さいものであることが好ましい。
【0030】
固体電解質フィルムのイオン伝導性能は、イオン伝導度とメタノール透過係数との比であるいわゆる指数により表される。そして、ある方向における指数が大きいほど、その方向におけるイオン伝導性能が高いといえる。また、固体電解質フィルムの厚み方向においては、イオン伝導度は厚みに比例し、メタノール透過係数は厚みに反比例するので、厚みを変えることにより固体電解質フィルムのイオン伝導性能を制御することができる。燃料電池に用いる固体電解質フィルムでは、一方の面側にアノード電極、他方の面側にカソード電極が設けられることになるので、固体電解質フィルムの厚み方向における指数が他の方向における指数よりも大きいことが好ましい。固体電解質フィルムの厚みは10〜300μmが好ましい。例えば、イオン伝導度とメタノール拡散係数とが共に高い固体電解質の場合には、厚みが50〜200μmとなるようにフィルムを製造することが特に好ましく、イオン伝導度とメタノール拡散係数とが共に低い固体電解質の場合には、厚みが20〜100μmとなるようにフィルムをする製造することが特に好ましい。
【0031】
耐熱温度については、200℃以上であるものが好ましく、250℃以上のものがさらに好ましく、300℃以上のものが特に好ましい。ここでの耐熱温度は、1℃/分の測度で加熱していったときの重量減少5%に達した温度を意味する。なお、この重量減少は、水分等の蒸発分を除いて計算される。
【0032】
さらに、固体電解質をフィルムとしてこれを燃料電池に用いる場合には、その最大出力密度が10mW/cm以上である固体電解質であることが好ましい。
【0033】
以上の固体電解質を用いると、フィルムの製造に好適なドープを製造することができる、このドープからは、燃料電池として好適な固体電解質フィルムを得ることができる。なお、好適なドープとは、例えば、粘度が比較的低く、濾過により異物を予め除去しやすい溶液である。
【0034】
ドープに用いられる溶媒である有機化合物は、ドープの調製に用いられるポリマーを溶解させることができるものであればよい。例としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピルなど)、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブなど)、及び窒素を含有する化合物(N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N′−ジメチルアセトアミド(DMAc)など)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられる。
【0035】
ただし、本発明では、ドープ調製用のポリマーに対して良溶媒である第1化合物と、貧溶媒である第2化合物とが含まれる混合溶媒が用いられる。ポリマーに対して良溶媒であるか貧溶媒であるかの判断は、ポリマーが全重量の5重量%となるように溶剤とポリマーとを混合した際に確認される不溶解物の有無により判断することができる。すなわち、ポリマーが溶解していればその溶剤は良溶媒であり、一方で、ポリマーが溶け残っていれば、その溶剤は貧溶媒である。ポリマーの良溶媒は、溶媒として一般的に用いられる化合物の中でも沸点が比較的高い方であり、一方、貧溶媒は溶媒として一般的に用いられる化合物の中でも沸点が比較的低い方である。このように貧溶媒を良溶媒に混合した混合溶媒を用いると、フィルム製造工程における溶媒除去の効率及び効果を高めることができ、特に、流延膜の乾燥効率について大きく向上することができる。
【0036】
良溶媒成分としてはDMF、DMAc、DMSO、NMPが好ましく、中でも、安全性や沸点が比較的低いという点からDMSOが特に好ましい。貧溶媒成分としては、炭素数が1以上5以下であるいわゆる低級アルコール、酢酸メチル、アセトンが好ましく、中でも炭素数が1以上3以下の低級アルコールがより好ましく、良溶媒としてDMSOを用いた場合にはこれとの相溶性が最も優れる点からメチルアルコールが特に好ましい。
【0037】
上記のようなポリマーと溶媒とを混合して調製したドープから固体電解質フィルムを形成する場合に、各種フィルムの特性を向上させるためには、添加剤をドープに加えることができる。添加剤としては、酸化防止剤、繊維、微粒子、吸水剤、可塑剤、相溶剤等が挙げられる。これら添加剤の添加率は、ドープ中の固形分全体を100重量%としたときに1重量%以上30重量%以下の範囲とすることが好ましい。ただし、添加率及び物質の種類は、イオン伝導性に悪影響を与えないものとする。以下に添加剤について具体的に説明する。
【0038】
酸化防止剤としては、(ヒンダード)フェノール系、一価または二価のイオウ系、三価のリン系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系、シアノアクリレート系、サリチレート系、オキザリックアシッドアニリド系の各化合物が好ましい例として挙げられる。具体的には、特開平8−53614号公報、特開平10−101873号公報、特開平11−114430号公報、特開2003−151346号の各公報に記載の化合物が挙げられる。
【0039】
繊維としては、パーフルオロカーボン繊維、セルロース繊維、ガラス繊維、ポリエチレン繊維等が好ましい例として挙げられ、具体的には、特開平10−312815号公報、特開2000−231938号公報、特開2001−307545号公報、特開2003−317748号公報、特開2004−63430号公報、特開2004−107461号の各公報に記載の繊維が挙げられる。
【0040】
微粒子としては、酸化チタン、酸化ジルコニウム等が好ましい例として挙げられ、具体的には、特開2003−178777号、特開2004−217931号の各公報に記載の各種微粒子が挙げられる。
【0041】
吸水剤、つまり親水性物質としては、架橋ポリアクリル酸塩、デンプン−アクリル酸塩、ポバール、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリグリコールジアルキルエーテル、ポリグリコールジアルキルエステル、合成ゼオライト、チタニアゲル、ジルコニアゲル、イットリアゲルが好ましい例として挙げられ、具体的には、特開平7−135003号、特開平8−20716号、特開平9351857号の各公報に記載の吸水剤が挙げられる。
【0042】
可塑剤としては、リン酸エステル系化合物、塩素化パラフィン、アルキルナフタレン系化合物、スルホンアルキルアミド系化合物、オリゴエーテル類、芳香族ニトリル類が好ましい例として挙げられ、具体的には、特開2003−288916号、特開2003−317539号の各公報に記載の可塑剤が挙げられる。
【0043】
相溶剤としては、沸点または昇華点が250℃以上の物が好ましく、300℃以上のものがさらに好ましい。
【0044】
ドープにはさらに、(1)フィルムの機械的強度を高める目的、(2)膜中の酸濃度を高める目的で、固体電解質の前駆体となるポリマー以外のポリマーを含有させてもよい。
【0045】
上記の目的のうち(1)には、分子量が10000〜1000000程度であり、固体電解質と相溶性のよいポリマーが適する。例えば、パーフッ素化ポリマー、ポリスチレン、ポリエチレングリコール、ポリオキセタン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、およびこれらのうち2以上のポリマーの繰り返し単位を含むポリマーが好ましい。また、フィルムとしたときの全重量に対し1重量%〜30重量%の範囲となるようにこれらの物質をドープに含有させることが好ましい。なお、相溶剤を用いることにより固体電解質との相溶性を向上させてもよい。相溶剤としては、沸点または昇華点が250℃以上であるものが好ましく、300℃以上のものがさらに好ましい。
【0046】
上記目的のうち(2)には、プロトン酸部位を有するポリマー等が好ましい。このようなポリマーとしては、ナフィオン(登録商標)等のパーフルオロスルホン酸ポリマー、側鎖にリン酸基を有するスルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリベンズイミダゾールなどの耐熱芳香族高分子化合物のスルホン化物等を例示することができる。また、フィルムとしたときの全重量に対し1重量%〜30重量%の範囲となるようにこれらの物質をドープに含有させることが好ましい。
【0047】
さらに、得られる固体電解質フィルムを燃料電池に用いる場合には、アノード燃料とカソード燃料の酸化還元反応を促進させる活性金属触媒をドープに添加してもよい。これにより、固体電解質フィルムの中に一方の極から浸透した燃料が他方の極に到達することなく固体電解質中で消費されるので、クロスオーバー現象を防止することができる。活性金属触媒は、電極触媒として機能するものであれば特に限定されないが、白金または白金を基にした合金が特に適している。
【0048】
[ドープ製造]
以下に、本発明に係るドープについて説明する。図1は、本実施形態で用いるドープ製造設備である。ただし、本発明はここに示すドープ製造装置及び方法に限定されない。
【0049】
ドープ製造設備10は、溶媒を貯留するための溶媒タンク11と、固体電解質の前駆体であるポリマーを供給するためのホッパ12と、添加剤を貯留するための添加剤タンク15と、溶媒とポリマーと添加剤とを混合して混合液16とする混合タンク17と、混合液16を加熱するための加熱装置18と、加熱された混合液16の温度を調整するための温度調整器21と、温度調整器21を出た混合液16を濾過してドープ24とする第1濾過装置22と、ドープ24の濃度を調整するためのフラッシュ装置26と、濃度調整されたドープ24を濾過するための第2濾過装置27とを備える。
【0050】
その他にもドープ製造設備10には、フラッシュ装置26内で発生する溶媒を回収するための回収装置28と、回収された溶媒を再生するための再生装置29とが備えられている。また、ドープ製造設備10は、ストックタンク32を介してフィルム製造設備33に接続されている。なお、送液量を調節するためのバルブ36〜38と、送液用のポンプ41,42とがドープ製造設備10には設けられているが、これらが配される位置及び数の増減については適宜変更される。
【0051】
ドープ製造設備10を用いてドープ24を製造する際の流れを以下に説明する。バルブ37を開とすることにより溶媒が溶媒タンク11から混合タンク17に送られ、更に、ホッパ12からは適量のポリマーが混合タンク17に送られる。そして、添加剤タンク15からは、予め添加剤を所望の溶媒と混合して調製した添加剤溶液が、バルブ36の開閉操作により混合タンク17に送り込まれる。なお、ポリマーは、計量と送出とを連続的に行う送出手段により混合タンク17に連続的に送りこまれてもよいし、計量して所定量を送出するような送出手段により混合タンク17に断続的に送り込まれてもよい。また、添加剤溶液を調製する際に使用する溶媒は、ドープ中の相溶性等の観点からドープの調製に用いる溶媒とすることが好ましい。
【0052】
添加剤は、溶液として送り込む方法の他に、例えば添加剤が常温で液体である場合には、その液体状態のままで混合タンク17に送り込むことができる。また、添加剤が固体の場合には、ホッパ等を用いて混合タンク17に送り込む方法も可能である。添加剤を複数種類添加する場合には、添加剤タンク15の中に複数種類の添加剤を溶解させた溶液を入れておくこともできる。または、複数の添加剤タンクを用いて、それぞれに添加剤が溶解している溶液を入れ、それぞれ独立した配管により混合タンク17に送り込むこともできる。
【0053】
前述した説明では、混合タンク17に入れる順番が、溶媒、ポリマー、添加剤であったが、この順番に限定されるものではない。例えば、ポリマーを混合タンク17に送り込んだ後に、好ましい量の溶媒を送液することもできる。また、添加剤は、必ずしも混合タンク17の中でポリマーと溶媒とに混合する必要はなく、先ず、ポリマーと溶媒との混合物を調製後、後の工程でインライン混合方式等によりこの混合物に添加しても良い。
【0054】
混合タンク17には、その外表を包み込み、混合タンク17との間に伝熱媒体が供給されるジャケット46と、モータ47により回転する第1攪拌機48と、モータ51により回転する第2攪拌機52とを備えている。混合タンク17は、ジャケット46の内側に伝熱媒体を供給してこれを循環させることにより、その内部の温度が調整される。混合タンク17の内部温度は、−10℃〜55℃の範囲であることが好ましい。また、第1攪拌機48、第2攪拌機52を適宜選択して使用することにより、ポリマーが溶媒により膨潤した混合液16が得られる。なお、ポリマーや溶媒を効率よくかつ効果的に混合することができるように、第1攪拌機48はアンカー翼を有するものであることが好ましく、第2攪拌機52はディゾルバータイプの偏芯型攪拌機であることが好ましい。
【0055】
混合液16は、ポンプ41により加熱装置18に送られる。加熱装置18は、管本体(図示しない)とこの管本体との間に伝熱媒体を通すためのジャケット(図示しない)とを有するジャケット付き管であることが好ましく、さらに、混合液16を加圧する加圧部(図示しない)を有することが好ましい。このような加熱装置18を用いると、加熱条件下または加圧加熱条件下で混合液16中の固形分を効果的かつ効率的に溶解させることができる。以下、上記のように加熱によりポリマー等の固形成分を溶媒に溶解させる方法を加熱溶解法と称する。なお、加熱溶解法では、混合液16を60℃〜250℃となるように加熱することが好ましい。
【0056】
また、加熱溶解法に代えて冷却溶解法により固形成分を溶媒に溶解させてもよい。冷却溶解法とは、混合液16を温度保持した状態またはさらに低温となるように冷却しながら溶解を進める方法である。冷却溶解法では、混合液16を−100℃〜−10℃の温度に冷却することが好ましい。以上のような加熱溶解法または冷却溶解法により固体電解質を溶媒に十分溶解させることが可能となる。
【0057】
混合液16を温度調整器21により略室温とした後に、第1濾過装置22により濾過する。これにより、不純物や凝集物等の異物が取り除かれたドープ24を得ることができる。なお、第1濾過装置22に使用されるフィルタは、微小な異物を除去することができるように、その平均孔径が10μm以下であることが好ましい。ただし、孔径が小さすぎる場合には、ドープを濾過する際に要する時間が長くなるため、フィルタの平均孔径は、製造時間等を考慮して適宜選択する。
【0058】
濾過後のドープ24は、バルブ38によりストックタンク32に送られて一旦貯留された後、フィルムの製造に用いられる。
【0059】
ところで、上記のように、固形成分を一旦膨潤させてから、溶解して溶液とする方法は、固体電解質の溶液における濃度を上昇させる場合ほど、ドープ製造に要する時間が長くなり、製造効率の点で問題となる場合がある。そのような場合には、目的とする濃度よりも低濃度のドープを一旦つくり、その後に目的の濃度とする濃縮工程を実施することが好ましい。例えば、バルブ38により、第1濾過装置22で濾過されたドープ24をフラッシュ装置26に送り、このフラッシュ装置26でドープ24の溶媒の一部を蒸発させることによりドープ24を濃縮することができる。濃縮されたドープ24はポンプ42によりフラッシュ装置26から抜き出されて第2濾過装置27へ送られる。濾過の際のドープ24の温度は、0℃〜200℃であることが好ましい。第2濾過装置27で異物を除去されたドープ24は、ストックタンク32へ送られ一旦貯留されてからフィルム製造に用いられる。なお、濃縮されたドープ24には気泡が含まれていることがあるので、第2濾過装置27に送る前に予め泡抜き処理を実施することが好ましい。泡抜き方法としては、例えばドープ24に超音波を照射する超音波照射法等の、公知の種々の方法が適用される。
【0060】
また、フラッシュ装置26でのフラッシュ蒸発により発生した溶媒ガスは、凝縮器(図示しない)を備える回収装置28により凝縮されて液体となり回収される。回収された溶媒は、再生装置29によりドープ製造用の溶媒として再生されて再利用される。このような回収及び再生利用により、製造コストの点での利点があるとともに、閉鎖系で実施されるために人体及び環境への悪影響を防ぐ効果がある。
【0061】
また、ドープ中に粗大な微粒子や異物等の不純物が含まれていると、このドープを用いてフィルムとした場合、プロトン伝導度が低下したり、フィルム自体が劣化したりするおそれがある。そのため、ドープを製造する途中の段階で、少なくとも1回以上は濾過装置を用いてドープを濾過することが好ましい。なお、ドープ製造設備内での濾過装置の設置個数や設置箇所及びドープを濾過する回数は特に限定されるものではなく、必要に応じて決定すれば良い。
【0062】
以上の製造方法により、前駆体濃度が5重量%以上50重量%以下であるドープ24を製造することができる。前駆体濃度は10重量%以上40重量%以下の範囲とすることがより好ましい。また、添加剤の濃度は、ドープ中の固形分全体を100重量%とすると1重量%以上30重量%以下の範囲とすることが好ましい。なお、ドープ24中において、溶媒に固形分が溶解しているかどうかは、濾過した後のドープ24を蛍光灯に照らすことで確認することができる。
【0063】
次に、本発明の固体電解質フィルムの製造方法について説明する。図2は、本実施形態で用いるフィルム製造設備33の概略図である。ただし、図2は本発明に係る一例のフィルム製造設備であり、本発明はここに示す形態に限定されるものではない。
【0064】
フィルム製造設備33には、流延前のドープ24を濾過して、その中に含まれる粗大な微粒子や異物等を除去するための濾過装置61と、濾過後のドープ24を支持体上に流延して流延膜62を形成する流延室64と、流延膜62を支持体から剥ぎ取って形成した前駆体フィルム66を第1液67aに浸漬させる第1浴槽67と、前駆体フィルム66の両側端部を保持して搬送する間に乾燥を促進させるテンタ68と、第2液72aに前駆体フィルム66を浸漬させて固体電解質フィルム70とする第2浴槽72と、第3液73aに浸漬させて固体電解質フィルム70を洗浄する第3浴槽73と、多数のローラ75で固体電解質フィルム70を支持して搬送する間に乾燥を促進させる乾燥室76と、固体電解質フィルム70を調湿する調湿室78と、固体電解質フィルム70を巻取りローラ79に巻き取る巻取室80とが備えられている。
【0065】
なお、フィルム製造設備33は、ストックタンク32を介してドープ製造設備10と接続されており、必要に応じて適量のドープ24がポンプ81によりフィルム製造設備33に送り込まれるようになっている。また、ストックタンク32には、モータ82で回転する攪拌機83が取り付けられており、攪拌機83を回転させて貯留するドープ24を常時攪拌し、その中に固形分の析出や凝集が発生するのを抑制している。
【0066】
流延室64には、ドープ24を流出する流延ダイ85と、走行する支持体としての流延バンド86とが備えられている。流延バンド86は、回転ローラ90,91に掛け渡されており、各回転ローラ90,91のうち少なくともいずれか一方を回転駆動させることにより連続的に走行している。
【0067】
流延ダイ85の材質としては、析出硬化型のステンレス鋼が好ましく、その熱膨張率は2×10−5(℃−1)以下であることが好ましい。そして、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316と略同等の耐腐食性を有し、さらに、ジクロロメタン、メタノール、水の混合液に3ヵ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じないような耐腐食性を有するものが好ましい。なお、流延ダイ85は、鋳造後1ヶ月以上経過した素材を研削加工することにより作製されることが好ましく、これにより、流延ダイ85の内部をドープ24が一様に流れ、後述する流延膜62にスジなどが生じることが防止される。流延ダイ85のドープ24と接するいわゆる接液面は、その仕上げ精度が表面粗さで1μm以下、真直度がいずれの方向にも1μm/m以下であることが好ましい。流延ダイ85のスリットのクリアランスは、自動調整により0.5mm〜3.5mmの範囲で調整可能とされている。流延ダイ85のリップ先端の接液部の角部分について、その面取り半径Rは、流延ダイ85の全巾にわたり一定かつ50μm以下とされている。流延ダイ85はコートハンガー型のダイが好ましい。
【0068】
流延ダイ85の幅は特に限定されるものではないが、最終製品となる固体電解質フィルム70の幅の1.1倍〜2.0倍程度であることが好ましい。また、製膜の際のドープ24の温度が所定温度に保持されるように、流延ダイ85の温度を制御する温度コントローラが流延ダイ85に取り付けられることが好ましい。さらに、流延ダイ85には、幅方向に所定の間隔で複数備えられた厚み調整ボルト(ヒートボルト)と、このヒートボルトによりスリットの隙間を調整する自動厚み調整機構が備えられることがより好ましい。ヒートボルトは予め設定されるプログラムによりポンプ(高精度ギアポンプが好ましい)81の送液量に応じてプロファイルを設定し製膜を行うことが好ましい。ドープの送り量を精緻に制御するために、ポンプ81は高精度ギアポンプであることが好ましい。また、フィルム製造設備33中には、例えば赤外線厚み計のような厚み測定機を設け、厚みプロファイルに基づく調整プログラムと厚み測定機による検知結果とにより、自動厚み調整機構へのフィードバック制御を行ってもよい。製品としての固体電解質フィルム70の両側端を除く任意の2つの位置での厚み差が1μm以内となるように、先端リップのスリット間隔を±50μm以下に調整できる流延ダイ85を用いることが好ましい。
【0069】
流延ダイ85のリップ先端には硬化膜が形成されていることがより好ましい。硬化膜の形成方法は、特に限定されるものではないが、セラミックスコーティング、ハードクロムめっき、窒化処理方法などが挙げられる。硬化膜としてセラミックスを用いる場合には、研削することができ気孔率が低く脆くなく耐腐食性が良く、かつドープ24との親和性や密着性がないものが好ましい。具体的には、タングステン・カーバイド(WC)、Al、TiN、Crなどが挙げられるが、中でも特に好ましくはWCである。WCコーティングは、溶射法で行うことができる。
【0070】
ドープ24が流延ダイ85のリップ先端で局所的に乾燥固化することを防止するために、リップ先端に溶媒を供給するための溶媒供給装置(図示しない)をリップ先端近傍に取り付けることが好ましい。溶媒が供給される位置は、流延ビードの両端部とリップ先端の両端部と外気とにより形成される三相接触線の周辺部が好ましい。供給される溶媒の流量は、片側それぞれに対し0.1mL/分〜1.0mL/分とすることが好ましい。これにより、異物、例えばドープ24から析出した固形成分や外部から流延ビードに混入したものが流延膜62中に混合してしまうことを防止することができる。なお、溶媒を供給するポンプとしては、脈動率が5%以下のものを用いることが好ましい。
【0071】
流延バンド86の幅は特に限定されるものではないが、ドープ24の流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲のものを用いることが好ましい。また、長さは20m〜200m、厚みは0.5mm〜2.5mmであり、表面粗さは0.05μm以下となるように研磨されていることが好ましい。
【0072】
流延バンド86の素材は特に限定されるものではなく、例えば、ステンレス等の無機材料であっても良いし、有機材料からなるプラスチックフィルムでも良い。プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム、ナイロン6フィルム、ナイロン6,6フィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム等の不織布のプラスチックフィルムが挙げられる。使用する溶剤、製膜温度に対応できるような化学的安定性と耐熱性とをもつ長尺物であることが好ましい。
【0073】
回転ローラ90,91は、その内部に伝熱媒体が取り付けられているものを用いて、流延バンド86の表面温度を調整することが好ましい。本実施形態では、内部に伝熱媒体流路(図示しない)が形成されている回転ローラ90,91を用いて、その流路中に温度を調整した伝熱媒体を循環させることにより、回転ローラ90,91の表面温度を調整する。ただし、流延バンド86の表面温度は、特に限定されるものではなく、溶媒の種類、固形成分の種類、ドープ24の濃度等に応じて適宜設定すれば良い。
【0074】
回転ローラ90,91、及び流延バンド86に代えて回転ドラム(図示しない)を支持体として用いることもできる。この場合には、回転速度ムラが0.2%以下となるように高精度で回転できるものであることが好ましい。回転ドラムは、表面の平均粗さが0.01μm以下であることが好ましく、表面がハードクロムめっき処理等を施されているものが好ましい。これにより、十分な硬度と耐久性とを向上させることができる。なお、回転ドラム、流延バンド86、回転ローラ90,91は、表面欠陥が最小限に抑制されていることが好ましい。具体的には、30μm以上のピンホールが無く、10μm以上30μm未満のピンホールは1個/m以下であり、10μm未満のピンホールは2個/m以下であることが好ましい。
【0075】
流延ダイ85の近傍には、減圧チャンバ(図示しない)が備えられることが好ましい。この減圧チャンバにより、流延ダイ85から流延バンド86にかけて形成されるリボン状のドープ24、すなわち流延ビードの流延バンド86走行方向における上流側を圧力制御すると、表面が波打たずに安定した流延ビードを形成させることができるため、平面性に優れる流延膜62を得ることが可能となる。
【0076】
流延バンド86の近傍には、流延膜62に含まれる有機溶媒を蒸発させるための乾燥手段として第1送風装置92と第2送風装置93とが備えられている。第1送風装置92及び第2送風装置93はそれぞれ給気口を有しており、この給気口から温度が調整された乾燥風を送り出すことにより流延膜62の乾燥は促進される。なお、本発明において、第1送風装置92、第2送風装置93の設置箇所や設置数は特に限定されるものではなく、要望に応じて適宜選択すれば良い。また、各送風装置の給気口付近に遮風部材を設けて送り出す風を整流すると、風により流延膜62の表面が波打つのを防止することができるので好ましい。
【0077】
流延室64の出口付近には、流延バンド86上の流延膜62に純水を吹き付ける純水接触装置95が備えられている。また、流延室64には、流延バンド86から流延膜62を剥ぎ取る際に用いる剥取ローラ96と、流延室64の内部温度を所定の値に保つための温度コントローラ97と、乾燥に伴い流延膜62から蒸発した有機溶媒を回収するための凝縮器(コンデンサ)98とが備えられている。このコンデンサ98は、凝縮液化した有機溶媒を回収するための回収装置が備えられている形態であることが好ましい。
【0078】
第1浴槽67には、第1液67aが入れられている。第1液67aは、ドープ24に含まれる良溶媒と貧溶媒とに相溶する液が用いられる。この液としては、好ましくは水とドープ24に含まれるポリマーの良溶媒との混合物、水と先のポリマーの貧溶媒との混合物、或いは、水と有機溶媒との混合物のうちいずれかひとつであることが好ましい。この有機溶媒はドープの調製に用いているかどうかは関係なく、例えば、アセトンが挙げられる。ただし、上記の液はフィルムが溶解しない処方であれば良いため、貧溶媒と良溶媒と有機溶媒とは、混合物でも単体でもどちらでも良く、特に限定はされない。
【0079】
また、第1浴槽67の下流には、前駆体フィルム66の表面に付着した水分を除去するためのエアシャワー99が備えられている。テンタ68には、乾燥風を送り出す乾燥装置(図示しない)及び前駆体フィルム66の両側端部を保持してチェーンの走行に伴いテンタ68内を移動する多数のクリップ68aが備えられている。なお、テンタ68では、上記のクリップをピンに代えて、このピンを湿潤フィルムの両側端部に突き刺すことにより固定した後に、搬送させても良い。
【0080】
テンタ68の下流には、前駆体フィルム66の両側端部を切断するための耳切装置100が設けられている。また、この耳切装置100には、先ほど切断された両側端部を粉砕してチップとするクラッシャ100aが取り付けられている。
【0081】
第2浴槽72には、第2液72aが入れられている。この第2液72aとしては、酸を含む溶液が用いられる。上記の酸は、電離したときのアニオンの式量が40以上1000以下の化合物とすることが好ましい。酸の具体的例示としては、硫酸、リン酸、硝酸、有機スルホン酸を挙げることができるが、中でも、硫酸を使用することが好ましい。本実施形態では、酸として0.5モル/Lの硫酸を使用し、これを含む溶液を30℃に加熱保温している。
【0082】
第3浴槽73には、第3液73aが入れられており、本実施形態では第3液73aとして、水が用いられる。なお、上記の水は、溶存酸素がほとんどなく理論上HOに近い超純水であることが好ましい。また、酸をフィルムから除去する高い効果を得るために、使用する水の温度は30℃以上120℃以下とすることが好ましい。ただし、水の温度は、略室温から水が沸騰するまでの温度範囲であれば特に限定されるものではない。
【0083】
乾燥室76には、ローラ75の他に、乾燥装置(図示しない)及び前駆体フィルム66から蒸発して発生した揮発溶媒を回収するための吸着回収装置101が取り付けられている。調湿室78には、乾燥室76と同じ複数のローラ75と温度制御装置と湿度制御装置(共に図示しない)とが備えられている。なお、乾燥室76と調湿室78との間に冷却室(図示しない)を設けて固体電解質フィルム70を略室温まで冷却すると、温度変化による形状の変化を抑制することができるので好ましい。また、調湿室78の下流には、除電バー等の除電装置(図示しない)を設けて、固体電解質フィルム70の帯電圧を所定の範囲(例えば、−3kV〜+3kV)となるように調整することが好ましく、更には、ナーリング付与ローラ対(図示しない)を設けて、固体電解質フィルム70の両側端部にエンボス加工でナーリングを付与することが好ましい。そして、巻取室88には、巻取ロール110と、巻き取り時のテンションを制御するためのプレスローラ111とが備えられている。
【0084】
次に、上記のフィルム製造設備33により固体電解質フィルムを製造する際の流れについて説明する。
【0085】
先ず、ドープ24はポンプ80により濾過装置61に送られて所定粒径よりも大きい微粒子や異物及びゲル状の異物等が取り除かれる。その後、流延ダイ85から回転ローラ90,91により走行する流延バンド86の上に流延される。このとき、流延バンド86に生じるテンションが10N/m×10N/mとなるように、回転ローラ90,91の相対位置、及び少なくともいずれか一方の回転速度が調整する。また、流延バンド86と回転ローラ90,91との相対速度差は、0.01m/分以下となるように調整することが好ましい。なお、ドープ24の流延量は、ドープ24の濃度や最終的に得たいフィルム製品の厚みを考慮して適宜決定する。
【0086】
流延バンド86の速度変動を0.5%以下とし、流延バンド86が一周する際に生じる幅方向における蛇行は1.5mm以下とすることが好ましい。なお、この蛇行を抑制するためには、流延バンド86の両端の位置を検出する検出器(図示しない)と、この検出器による検出データに応じて流延バンド86の位置を調整する位置調整機(図示しない)とを設けて、流延バンド86の位置をフィードバック制御することがより好ましい。その他にも、流延ダイ85の直下における流延バンド86について、回転ローラ90,91の回転に伴う上下方向の位置変動が200μm以内となるようにすることが好ましい。
【0087】
流延室64は、温度コントローラ97により−10℃〜57℃とされることが好ましい。また、流延室64の内部で蒸発した溶媒はコンデンサ98で凝縮液化し、回収する。なお、この後に回収した溶媒を再生させてドープ製造用の溶媒として再利用すると、製造コスト低減を実現できる等の効果を得る上で好ましい。
【0088】
流延ダイ85から流延バンド86にかけては流延ビードが形成され、流延バンド86上には流延膜62が形成される。流延ビードの様態を安定させるために、このビードに関し上流側のエリアが所定の圧力値となるように減圧チャンバで制御することが好ましい。減圧チャンバによる減圧値は、ビードに関し下流側のエリアよりも−2500Pa〜−10Paとすることが好ましい。なお、減圧チャンバにジャケット(図示しない)を取り付けて、内部温度が所定の温度を保つようにすることが好ましい。また、流延ビードの形状を所望のものに保つために、流延ダイ85のエッジ部に吸引装置(図示しない)を取り付けてビードの両側を吸引することが好ましい。このエッジ吸引風量は、1L/分〜100L/分の範囲であることが好ましい。
【0089】
流延バンド86の走行に伴い流延室64内を流延膜62が搬送される間、第1送風装置92及び第2送風装置93から乾燥風を供給して、流延膜62を乾燥する。このとき、30℃以上100℃未満となるように乾燥風の温度を調整することが好ましい。より好ましくは20℃以上70℃以下であり、本実施例では第1層風装置92及び第2層風装置93から送り出す乾燥風の温度を調整して、流延膜62の近傍での温度が平均して45℃となるようにしている。
【0090】
なお、流延膜62が周辺空気から水分等を吸水すると、相分離したり、急激にゲル状化したりして膜内に発生する空隙の数が多くなる。したがって、流延バンド86上の流延膜62を乾燥する際には、出来る限り低湿とすることが好ましい。特に、形成されてから出来る限り早い段階で流延膜62を低湿とすると、空隙の発生を防止する高い効果が得られる。湿度を調整するには、流延室62の内部に湿度制御装置として市販されているものを使用すれば良く、特にその形態や設置箇所は限定されないが、湿度は50%RH未満とすることが好ましく、より好ましくは20%RHである。本実施形態では、流延室62の内部に湿度制御装置を設けて、その内部の湿度を10%RHに調整している。
【0091】
乾燥が進行した流延バンド86上の流延膜62には、純水接触装置95から純水が吹き付けられる。このように流延膜62中に含まれる良溶媒よりも沸点が低い純水を流延膜62に接触させると、流延膜62中の混合溶媒のうちで、特に貧溶媒と純水とを置換させてゲル状の流延膜62が得られ、それ自体が自己支持性を持つようになるため、流延バンド86から容易に剥ぎ取ることができるようになる。また、前駆体フィルム66とした後、これを乾燥する工程で純水の蒸発と共に内部に含まれる有機溶媒を蒸発させることができ、かつ流延膜62中に含まれる混合溶媒が貧溶媒よりも良溶媒を多く含むようになるために、全溶媒の重量における低沸点成分の割合が大きくなり、純水を蒸発させる程度の温度としながらも、固体電解質フィルムの製造工程における乾燥効率及び乾燥効果をより向上させることができる。
【0092】
なお、純水でなく水を使用すると、水には不純物が多く含まれており、結果としてフィルム内に不純物が包含されるために不適であり、加えて、ポリマーをゲル化させる速度が純水に比べて遅いため不適である。また、本発明における純水とは、イオン交換樹脂を通して脱イオン化処理を施したイオン交換水や、水を加熱蒸留した蒸留水のことである。
【0093】
純水に接触させた後の流延膜62は、固体電解質の重量に対する良溶媒の重量の割合が100%未満であることが好ましい。このような流延膜62から得られる前駆体フィルム66は、後の乾燥工程で短時間のうちに乾燥を促進させることができる。この残留溶媒量とは、流延膜62中の純水を含む液物の残留量を意味する。ここで、流延膜62中に多種の溶媒が存在する場合には、流延膜62に含まれるDMSOを主溶媒とみなし、このDMSOの含有量を残留溶媒量とする。なお、残留溶媒量は、流延膜62の一部を切り出した切断片をサンプルとし、このサンプル中の主溶媒の量をガスクロマトグラフィーで測定することで確認することが出来る。
【0094】
流延膜に純水を接触させる方法は、上記の吹き付け以外の方法でも、同様の効果を得ることができる。つまり、流延膜62と溶液とを接触させるならば他の方法でも良い。例えば、流延膜に純水を塗布する方法が挙げられる。
【0095】
ゲル状の流延膜62は、剥取ローラ96により流延バンド86から剥ぎ取られて前駆体フィルム66とされる。この前駆体フィルム66は第1液67aとして純水が入れられている第1浴槽67に送られる。これにより前駆体フィルム66中の溶媒は純水と置換される。したがって、前駆体フィルム66のゲル化はよりいっそう促進されることから、テンタ68や乾燥室76で、フィルムに含有される溶媒を効率良く蒸発させることにより乾燥時間を短くすることができる。
【0096】
流延バンド86から流延膜62を剥ぎ取るタイミングは特に限定されるものではなく、例えば、流延バンド86ごと第1浴槽67に送り込んだ後、その浴槽中で剥ぎ取っても良いし、第1良く相67から流延バンド86ごと送り出した後に行なっても良い。なお、流延膜62が剥ぎ取られた後の流延バンド86は、回転ローラ90,91の駆動に伴い無端で走行して、再び流延室64に送られる。
【0097】
流延バンド86上の流延膜62に水を接触させる時間と、流延膜62を第1液67aに接触させる時間との和は10分以下であることが好ましい。より好ましくは、30秒以上10分以下であり、特に好ましくは1分以上5分以下である。本発明では、上記により流延膜やフィルムに含まれている溶媒と接触させる液とを置き換えるが、この置き換えに費やす時間の和が10分を超えると、流延膜やフィルム中の水分量が増加して、フィルムの膨潤度が大きくなってしまう。その他にも、乾燥時間が長くなるおそれがあるため好ましくない。一方で、置き換えに費やす時間の和が30秒未満の場合には、溶媒の置換が不十分であるためにゲル化が十分に促進されない。そのため、支持体からの剥ぎ取り、連続製膜、或いは乾燥時間の短縮を実現させるのが難しい。
【0098】
前駆体フィルム66の表面に水分が付着していると、乾燥時において乾燥ムラが発生して、フィルムの形状が大きく変化するおそれがある。そこで、本実施形態では、前駆体フィルム66にはエアシャワー99から風を吹き付けることにより、その表面に付着している水分を除去する。なお、水分を除去する方法はエアシャワーに限定されるものではなく、表面に付着する水分を除去することができる方法であれば良い。
【0099】
なお、水により固体電解質フィルムを洗浄する際には、必ずしも浸漬させる必要はなく、フィルムから酸を除去することができる水の接触方法であれば特に限定されるものではない。例えば、固体電解質フィルムに対して水を塗布する方法、水を吹き付ける方法等が挙げられる。このように固体電解質フィルムに対して水を塗布したり、吹き付けたりする方法では、フィルムを連続的に搬送しながら実施することができるので好ましい。
【0100】
上記のうち、水を吹き付ける方法の具体的例としては、エクトルージョンあるいは、ファウンテンコーター、フロッグマウスコーター等の塗布ヘッドを用いる方法、空気の加湿や塗装、タンクの自動洗浄などに利用されるスプレーノズルを用いる方法が挙げられる。これらの塗布方式に関しては、「コーティングのすべて」(荒木正義編集、(株)加工技術研究会(1999年))にまとめられており、この記載も本発明に適用することができる。また、スプレーノズルについては、(株)いけうち、スプレーイングシステムズ社の円錐状、扇状などのスプレーノズルを透明樹脂フィルムの幅方向に配列して、全幅に水流が衝突する様に設置することができる。なお、ここに示す水を吹き付ける方法は、いずれも流延膜に純水を吹き付ける際に利用することができる。
【0101】
水の吹き付け速度は大きいほど、高い洗浄効果を得ることができるが、固体電解質フィルムを連続的に搬送しながら洗浄処理を行なう場合には、搬送安定性が損なわれるおそれがある。そのため、水の吹き付け速度は、50〜1000cm/秒であることが好ましく、好ましくは100〜700cm/秒であり、より好ましくは100〜500cm/秒である。
【0102】
洗浄に使用する水の量は、少なくとも下記に定義される理論希釈率を上回る量を用いることが好ましい。この理論希釈倍率とは、洗浄に供する水の塗布量[ml/m]÷酸を含む溶液の接触量[ml/m]で算出される値であり、すなわち、洗浄に使用される水の全てが接触させた酸を含む溶液の希釈混合に寄与したという仮定の理論希釈率を定義する。実際には、完全混合は起こらないので、理論希釈率を上回る洗浄水量を使用することとなる。用いた酸を含む溶液の酸濃度や副次添加物、溶媒の種類にもよるが、少なくとも100〜1000倍、好ましくは500〜1万倍、さらに好ましくは1000〜十万倍の希釈が得られる洗浄水を使用する。
【0103】
洗浄方法としてある決まった水の量を用いる場合には、一度に全量適用するよりも数回に分割して洗浄することが好ましい。この場合、一つの洗浄手段と次の洗浄手段との間に、時間や距離を調整することにより適当な間を設けるようにすると、水を拡散させて酸を含む溶液を希釈させることができるので好ましい。更には、搬送される固体電解質フィルムに傾斜を設けるなどして、フィルム上の水がフィルム面に沿って流れる様にすれば、拡散に加えて、流動による混合希釈効果が得られるので好ましい。最も好ましい方法としては、洗浄手段と洗浄手段の間に水切り手段を設けて、固体電解質フィルム上の水切りを行なうことである。この方法は、酸の溶液の希釈効率を高めることもできる。なお、具体的な水切り手段としては、ブレード、エアナイフ、或いはロール等が挙げられる。洗浄手段の数は、多いほうが洗浄効果を高める上で好ましいが、設置スペース並びに設備コストの観点より、通常は2〜10段、好ましくは2〜5段が使用される。
【0104】
上記の水切り手段の中では、最も水切り効果を得ることができるためにエアナイフを用いることが好ましい。エアナイフを用いる場合、固体電解質フィルムに対して送り出すエアの風量と風圧とを調整することにより、表面に残存する水分量をゼロに近づけることが出来る。ただし、エアの風量が大きすぎると、ばたつきや寄り等が生じてフィルムの搬送安定性に影響を及ぼすことがある。そのため、エアの風量は10〜500m/秒であることが好ましく、好ましくは20〜300m/秒であり、より好ましくは30〜200m/秒である。なお、上記のエアの風量は、特に限定されるものではなく、フィルム上に元々あった水分量やフィルムの搬送速度等により決定すれば良い。
【0105】
また、均一に水分の除去を行うためには、固体電解質フィルムの幅方向の風速分布を、通常は10%以内、好ましくは5%以内になる様、エアナイフの吹出し口やエアナイフへの給気方法を調整する。搬送する固体電解質フィルム表面とエアナイフ吹出し口との間隙が狭いほど水切り能は増すが、固体電解質フィルムと接触して傷付ける可能性が高くなるため、適当な範囲がある。通常は、10μm〜10cm、好ましくは100μm〜5cm、さらに好ましくは500μm〜1cmの間隙をもって、エアナイフを設置する。さらに、エアナイフと対向する様に、固体電解質フィルムの洗浄面と反対側とにバックアップロールを設置することで、間隙の設定が安定するとともに、フィルムのバタツキやシワ、変形などの影響を緩和することができるために好ましい。
【0106】
洗浄を行う際には、純水を用いることが好ましい。本発明に用いられる純水とは、比電気抵抗が少なくとも1MΩ以上であり、特にナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの金属イオンは1ppm未満、クロル、硝酸などのアニオンは0.1ppm未満を指す。純水は、逆浸透膜、イオン交換樹脂、蒸留などの単体、あるいは組み合わせによって、容易に得ることができる。中でも、溶存酸素がほとんどなく理論上HOに近い超純水であることが好ましい。また、酸をフィルムから除去する高い効果を得るために、使用する水の温度は30℃以上120℃以下とすることが好ましい。ただし、水の温度は、略室温から水が沸騰するまでの温度範囲であれば特に限定されるものではない。本実施形態では、30℃に調整した温水に浸漬させて、前駆体フィルム65の酸を除去する。
【0107】
上記のように酸処理と洗浄処理とを行なうと、流延膜を形成する時点でその中に含まれていた無機塩等の不純物を除去する効果も得られる。そのため、得られるフィルムは不純物による劣化等が抑制される。なお、酸処理及び洗浄をした後のフィルムに含まれる金属含有量は、1000ppm以下であることが好ましく、より好ましくは100ppm以下である。なお、対象となる金属としては、Na、K、Ca、Fe、Ni、Cr、Zn等が挙げられ、これらの金属含有量は、例えば、市販の原子吸光光度計により測定することで把握することができる。
【0108】
水切りが行なわれた前駆体フィルム66は、テンタ68に送られる。テンタ68では、その両側端部がクリップ68aで保持された状態で搬送される間に、乾燥装置(図示しない)から供給される乾燥風によって乾燥が促進される。テンタ68に送り込まれる前駆体フィルム66は溶媒置換がなされているが、残留溶媒量がゼロではないため乾燥が進行して内部の有機溶媒が蒸発するに伴い収縮するおそれがある。しかし、上記のように両側端部を保持しながら乾燥すると、収縮により変形するのを抑制する効果が得られる。
【0109】
テンタ68の内部温度は、ドープ24に使用した有機溶媒の沸点に応じて調整することが好ましく、80℃以上150℃以下とすることが好ましい。本実施例では、乾燥装置か送り出す乾燥風の温度を約120℃となるようにしている。また、テンタ68は、その内部を複数に区画化し、区画毎に乾燥条件を適宜調整することが好ましい。これにより、異なる乾燥温度で前駆体フィルム66の乾燥を徐々に進行させることができるので、形状変化等をよりいっそう抑制することができる。なお、テンタ68では、前駆体フィルム66の残留溶媒量が10重量%以下になるまで乾燥することが好ましい。
【0110】
テンタ68では、前駆体フィルム66を幅方向に延伸させることが可能とされている。また、テンタ68に送り込む前の前駆体フィルム66を搬送する間において、前駆体フィルム66の搬送張力を調整することにより、搬送方向に延伸させることも可能である。前駆体フィルム66を延伸させる場合には、前駆体フィルム66の流延方向と幅方向との少なくとも1方向を、延伸前の寸法に対し100.5%〜300%の寸法となるように延伸することが好ましい。これにより、搬送する前駆体フィルム66の分子配向を調整することができる。なお、前駆体フィルムの延伸はテンタで行なうに限定されるものではなく、例えば、前駆体フィルムを形成した後に多数のローラを配した渡り部を設けて、ローラで支持しながら前駆体フィルムを搬送する間に、搬送速度を調整することで搬送方向に延伸させることもできる。
【0111】
テンタ68で所定の残留溶媒量まで乾燥された前駆体フィルム66は、耳切装置100により、その両側端部が切断される。前駆体フィルム66の両側端部にはクリップ68aの把持跡が付いているが、上記のように切断することで平面性に優れるフィルムを製造することが可能となる。なお、切り離された両側端部は、カッターブロワ(図示しない)によりクラッシャ100aに送られて、粉砕されチップとされる。このチップを、ドープ製造用のポリマー原料として再利用すると、原料の有効利用或いは製造コストの低減を図ることが出来る。前駆体フィルム66の両側端部を切断する工程は省略することもできるが、前駆体フィルム66として支持体から剥ぎ取った後、フィルムを巻き取るまでのいずれかで行うことが好ましい。
【0112】
両側端部が切断された前駆体フィルム66は、第2浴槽72及び第3浴槽73にガイドローラ72b、73bを介して順に送られて、第2液72a、第3液73aに順次浸漬される。本実施形態では、第2液72aとして、30℃に加熱保温した0.5モル/Lの硫酸水溶液を用いると共に、第3液73aとして、30℃に保温した水、すなわち温水を用いる。これにより、第2浴槽72で前駆体フィルム66を構成するポリマー中のカチオン種を水素原子に置換して固体電解質フィルム70としてから、第3浴槽73で水に浸漬させることにより、カチオン種と水素原子との置換に使用されずに残留している酸を含む溶液を除去することができる。なお、洗浄処理は、酸により固体電解質フィルム70を構成するポリマーが汚染されるのを防止する効果も得られるため、酸処理後に連続して行うことが好ましい。
【0113】
第2液72a及び第3液73aの温度は、室温からその液が沸騰するまでの温度範囲であれば、特に限定されるものではないが、第2液72の場合には、高温であるほど短時間でプロトン置換率の高い固体電解質フィルム70を得ることができる。また、第2液72a及び第3液73aに前駆体フィルム66を接触させる方法は、特に限定されるものではないが、いずれも前駆体フィルム66に対して出来る限り均一に接触させることが好ましい。本実施形態のように第2液72a及び第3液73aに浸漬させる方法は、前駆体フィルム66の全面に各液を接触させることができる。ただし、前駆体フィルムの表面に所望の溶液を塗布しても良いし、その表面に溶液を吹き付ける方法も好適に用いることができる。
【0114】
固体電解質の前駆体であるポリマー中のカチオン種の総数をxとし、カチオン種を置換した水素原子の総数をyとして(y/x)×100で表される値をプロトン置換率と称するとき、本発明では、上記のようにして酸を含む溶液に前駆体フィルム66を浸漬させるようにしたので、効率良くかつ効果的にプロトン置換率を高めることができる。なお、プロトン置換率は、カチオン種全量に対して80%以上とすることが好ましい。より好ましくは、90%以上とすることである。
【0115】
続いて、水切りされた固体電解質フィルム70は、乾燥室76に送られる。乾燥室76には乾燥装置(図示しない)から乾燥風が供給されており、この乾燥風によって多数のローラ75に巻き掛けながら搬送される間に前駆体フィルム66は乾燥されて固体電解質フィルム70とされる。
【0116】
本発明では、前駆体フィルム66を純水や液67aに浸漬させることで、その内部に含まれる有機溶媒の一部を浸漬させた純水に置換させる溶媒置換を行っている。このように、特に純水と溶媒置換させた前駆体フィルム66を乾燥すると、純水の蒸発とともに前駆体フィルム66に含まれる有機溶媒も蒸発させることができるので、前駆体フィルム66内に残存する有機溶媒が効率良く、かつ確実に排出される。したがって、固体電解質フィルム70は、残留溶媒量に起因するプロトン通過阻害による起電力の低下を抑制することができる。また、有機溶媒を完全に取り除くことを目的として、中和や酸処理等を含む前処理が不要となるため、工程を増やすことなく効率よく固体電解質フィルムを製造することができる。更には、上記のように、その後の工程で効率的かつ効果的に乾燥させることができるので、フィルムの製造時間を短縮することができる。なお、流延膜62に貧溶媒を接触させても溶媒置換は起こるが、純水を用いる方が溶媒置換を速めることができる。
【0117】
なお、乾燥室76の内部は、複数に区画され、その区画ごとに乾燥温度を変更することが好ましい。これにより乾燥が急激に進行することがないので、平面性に優れる固体電解質フィルム70を得ることができる。また、乾燥室76の内部温度は、特に限定されるものではないが、ポリマーの耐熱性(ガラス転移点Tg、熱変形温度、融点Tm、連続使用温度等)に応じて決定され、Tg以下とすることが好ましく、本発明では、乾燥室76の内部温度は120℃以上185℃以下とすることが好ましく、固体電解質フィルム70の残留溶媒量が10重量%未満となるまで乾燥することが好ましい。
【0118】
また、乾燥室76では、前駆体フィルム66から蒸発して発生した溶媒ガスを、吸着回収装置101により吸着回収してから、溶媒成分を除去した後、再度、乾燥風として乾燥室76の内部に送りこむ。
【0119】
乾燥室76を出た固体電解質フィルム70は、調湿室78に送られる。調湿室78では、乾燥室76と同じローラ75に巻き掛けられながら搬送する間に所望の湿度及び温度に調整された空気を固体電解質フィルム70に吹き付けることが好ましい。なお、調湿室78内の温度及び湿度は特に限定されるものではないが、温度は20℃以上30℃以下であることが好ましく、湿度は40RH%以上70RH%以下であることが好ましい。これにより、固体電解質フィルム70にカールが発生したり、巻き取る際に巻取り不良が発生するのを抑制することができる。
【0120】
調湿室78の下流に除電装置(図示しない)を設けて、固体電解質フィルム70が搬送されている間の帯電圧を所定の値とすることが好ましい。除電後の帯電圧は、−3kV〜+3kVとされることが好ましい。更に、固体電解質フィルム70は、ナーリング付与ローラ(図示しない)によりナーリングが付与されることが好ましい。なお、ナーリングを付与した箇所の凹凸の高さが1μm〜200μmであることが好ましい。
【0121】
最後に、固体電解質フィルム70は巻取室80に送られる。巻取室88では、固体電解質フィルム70はプレスローラ104により張力を付与されながら巻取ロール76に巻き取られる。これにより、しわやつれ等の発生を抑制しながらロール状の固体電解質フィルム70を得ることができる。なお、フィルムロールにおける過度な巻き締めを防止するために、上記のテンションは巻取開始時から終了時まで徐々に変化させることがより好ましい。また、巻き取られる固体電解質フィルム70の幅は100mm以上であることが好ましいが、本発明は、固体電解質フィルム70の厚みが5μm以上300μm以下の薄いフィルムを製造する際にも本発明は適用される。
【0122】
上記の方法では、支持体上に流延膜を形成した後から、流延膜を支持体より剥ぎ取り乾燥させて固体電解質フィルムとして巻き取るまでの間に、乾燥工程や両側端部の切除除去工程などの様々な工程が行われている。これらの各工程内、あるいは各工程間では、フィルムは主にローラにより支持または搬送されている。これらのローラには、駆動ローラと非駆動ローラとがあり、非駆動ローラは、主に、フィルムの搬送路を決定するとともに搬送安定性を向上させるために使用される。
【0123】
なお、前駆体フィルム66に対して酸処理を施すタイミングは特に限定されるものではなく、乾燥室76で前駆体フィルム66を乾燥した後に行なっても良いし、乾燥室76で乾燥を促進させた前駆体フィルムをいったん保管した後に、固体電解質フィルムとして使用する直前の段階で酸処理を施すことも可能である。また、本実施形態では、フィルムの製造工程に酸処理及び洗浄処理を組み込んだ形態、すなわちオンライン形式を示したが、フィルムの製造工程とは切り離して行なうオフライン形式でも、プロトン伝導度の高い固体電解質フィルムを得ることが出来る。
【0124】
本実施形態では、1種類のドープを流延する場合を示したが、本発明では、2種類以上のドープを同時に共流延して複層の流延膜を形成しても良いし、逐次に共流延させて複層の流延膜を形成させても良い。なお、2種類以上のドープを同時に共流延する場合には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いても良いし、マルチマニホールド型流延ダイを用いても良い。ただし、共流延により多層からなるフィルムは、表面に露出する2層のうちいずれか一層が、フィルム全体の厚みの0.5%〜30%であることが好ましい。また、同時に共流延をする場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれて流延されるように各ドープの濃度を予め調整しておくことが好ましく、ダイスリットから支持体にかけて形成されるビードのうち、外界と接する、つまり露出するドープが内部のドープよりも貧溶媒の比率が大きい処方とされることが好ましい。
【0125】
なお、固体電解質の前駆体からなるポリマーをフィルム化する上記方法に代えて、細孔が複数形成されているいわゆる多孔質基材の細孔に固体電解質を保持させて、固体電解質が細孔に入ったフィルムを製造しても、上記実施形態とは異なる固体電解質フィルムを製造することができる。このような固体電解質フィルムの製造方法としては、固体電解質が含まれるゾル−ゲル反応液を多孔質基材上に塗布して細孔に固体電解質を入れる方法、多孔質基材を固体電解質が含まれるゾル−ゲル反応液に浸漬し、細孔内に固体電解質を満たす方法等がある。多孔質基材の好ましい例としては、多孔性ポリプロピレン、多孔性ポリテトラフルオロエチレン、多孔性架橋型耐熱性ポリエチレン、多孔性ポリイミドなどが挙げられる。また、固体電解質を繊維状に加工し、繊維中の空隙を他の高分子化合物等で満たし、その繊維を用いてフィルム状とすることにより固体電解質フィルムを形成することもできる。この場合には、空隙を満たすための他の高分子化合物の例としては、本明細書における添加剤として挙げた物質を挙げることができる。
【0126】
本発明の固体電解質フィルムは、燃料電池用、特に直接メタノール型燃料電池用のプロトン伝導膜として好適に利用することができる他に、燃料電池の2つの電極に挟まれる固体電解質フィルムとして用いることができる。さらに、各種電池(レドックスフロー電池、リチウム電池等)における電解質、表示素子、電気化学センサー、信号伝達媒体、コンデンサ、電気透析、電気分解用電解質膜、ゲルアクチュエーター、塩電解膜、プロトン交換樹脂としても本発明の固体電解質フィルムを用いることができる。
【0127】
(燃料電池)
以下に、固体電解質フィルムを電極膜複合体(Membrane and Electrode Assembly,以下、MEAと称する)に使用する例と、この電極膜複合体を燃料電池に用いる例とを説明する。ただし、ここに示すMEA及び燃料電池の様態は本発明の一例であり、本発明はこれに限定されない。図3は、MEAの断面概略図である。MEA131は、フィルム70と、このフィルム70を挟んで対向するアノード電極132及びカソード電極133とを備える。
【0128】
アノード電極132は多孔質導電シート132aとフィルム70に接する触媒層132bとを有し、カソード電極133は多孔質導電シート133aとフィルム70に接する触媒層133bとを有する。多孔質導電シート132a,133aとしては、カーボンペーパー等がある。触媒層132b,133bは、白金粒子等の触媒金属を担持したカーボン粒子をプロトン伝導材料に分散させた分散物からなる。カーボン粒子としては、例えばケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ等があり、プロトン伝導材料としては、例えば、ナフィオン(登録商標)等がある。
【0129】
MEA131の製造方法としては、次の4つの方法が好ましい。
(1)プロトン伝導材料塗布法:活性金属担持カーボン、プロトン伝導材料、溶媒を含む触媒ペースト(インク)をフィルム70の両面に直接塗布し、多孔質導電シート132a,133aを(熱)塗布層に圧着して5層構成のMEAを作製する。
(2)多孔質導電シート塗布法:触媒層132b,133bの材料を含んだ液、例えば触媒ペーストを、多孔質導電シート132a,133aの表面に塗布し、触媒層132b,133bを形成させた後、フィルム70と圧着し、5層構成のMEA131を作製する。
(3)Decal法:触媒ペーストをPTFE上に塗布し、触媒層132b,133bを形成させた後、フィルム70に触媒層132b,133bのみをうつし、3層構造を形成し、これに多孔質導電シート132a,133aを圧着し、5層構成のMEA131を作製する。
(4)触媒後担持法:白金未担持カーボン材料をプロトン伝導材料とともに混合したインクをフィルム70、多孔質導電シート132a,133aあるいはPTFE上に塗布・製膜した後、白金イオンを含む液にフィルム70を含浸させ、白金粒子をフィルム中で還元析出させて触媒層132b,133bを形成させる。触媒層132b,133bを形成させた後は、上記(1)〜(3)の方法にてMEA131を作製する。
【0130】
ただし、MEAの作り方としては、上記の方法には限定されず、公知の各種方法を適用することができる。例えば、上記の(1)〜(4)の方法の他に次の方法がある。触媒層132b,133bの材料を含んだ塗布液を予めつくり、この塗布液を支持体に塗布して乾燥する。触媒層132b,133bが形成された支持体を、触媒層132b,133bがフィルム70に接するようにフィルム70の両面にそれぞれ重ねて圧着する。そして支持体を剥がしてから、触媒層132b,133bが両面に形成されたフィルム70を多孔質導電シート132a,133aで挟み込む。そして、多孔質導電シート132a,133aと触媒層132b,133bとを密着させてMEAを製造することができる。
【0131】
図4は、燃料電池の概略図である。燃料電池141は、MEA131と、MEA131を挟持する一対のセパレータ142,143と、これらのセパレータ142,143に取り付けられたステンレスネットからなる集電体146と、パッキン147とを有する。アノード極側のセパレータ142にはアノード極側開口部151が設けられ、カソード極側のセパレータ143にはカソード極側開口152設けられている。アノード極側開口部151からは、水素、アルコール類(メタノール等)等のガス燃料またはアルコール水溶液等の液体燃料が供給され、カソード極側開口部152からは、酸素ガス、空気等の酸化剤ガスが供給される。
【0132】
アノード電極132およびカソード電極133には、カーボン材料に白金などの活性金属粒子が担持された触媒が用いられる。通常用いられる活性金属の粒子サイズは、2〜10nmの範囲である。ただし、粒子サイズが小さいほど単位重量当りの表面積が大きくなるので活性が高まり有利であるが小さすぎると凝集させることなく分散させることが難しくなるために、2nm程度が小ささの限度といわれている。
【0133】
水素−酸素系燃料電池における活性分極はアノード極、つまり水素極に比べ、カソード極、つまり空気極の方が大きい。これは、カソード極の反応、つまり酸素の還元反応の速度がアノード極に比べて遅いためである。酸素極の活性向上を目的として、Pt−Cr、Pt−Ni、Pt−Co、Pt−Cu、Pt−Feなどのさまざまな白金基二元金属を用いることができる。アノード燃料にメタノール水溶液を用いる直接メタノール燃料電池においては、メタノールの酸化過程で生じるCOによる触媒被毒を抑制するために、Pt−Ru、Pt−Fe、Pt−Ni、Pt−Co、Pt−Moなどの白金基二元金属、Pt−Ru−Mo、Pt−Ru−W、Pt−Ru−Co、Pt−Ru−Fe、Pt−Ru−Ni、Pt−Ru−Cu、Pt−Ru−Sn、Pt−Ru−Auなどの白金基三元金属を用いることができる。活性金属を担持させるカーボン材料としては、アセチレンブラック、Vulcan XC−72、ケチェンブラック、カーボンナノホーン(CNH)、カーボンナノチューブ(CNT)が好ましく用いられる。
【0134】
触媒層132b,133bは、(1)燃料を活性金属に輸送すること、(2)燃料の酸化(アノード極)、還元(カソード極)反応の場を提供すること、(3)酸化還元により生じた電子を集電体146に伝達すること、(4)反応により生じたプロトンを固体電解質、つまりフィルム70に輸送すること、という機能をもつ。(1)のために触媒層132b,133bは、液体および気体燃料が奥まで透過できる多孔質性とされる。(2)についてはカーボン材料に担持される活性金属触媒が担い、(3)は同じくカーボン材料が担う。そして、(4)の機能を果たすために、触媒層132b,133bにプロトン伝導材料を混在させる。触媒層のプロトン伝導材料としては、プロトン供与基を持った固体であれば制限はないが、フィルム70に用いられるような酸残基を有する高分子化合物、例えばナフィオン(登録商標)に代表されるパーフルオロスルホン酸、側鎖リン酸基ポリ(メタ)アクリレート、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールなどの耐熱性芳香族高分子のスルホン化物等が好ましく用いられる。フィルム70の材料とされる固体電解質を触媒層132b,133bに用いると、触媒層132b,133bとフィルム70とが同種の材料となるため、固体電解質と触媒層との電気化学的密着性が高まり、イオン伝導の点でより有利である。活性金属の使用量を0.03〜10mg/cmの範囲とすることが、電池出力と経済性との観点から適する。活性金属を担持するカーボン材料の量は、活性金属の重量に対して1〜10倍であることが好ましい。プロトン伝導材料の量は、活性金属担持カーボンの重量に対して、0.1〜0.7倍が好ましい。
【0135】
触媒層132b,133bは、電極基材、透過層、あるいは裏打ち材とも呼ばれ、集電機能および水がたまりガスの透過が悪化するのを防ぐ役割を担う。通常は、カーボンペーパーやカーボン布を使用し、撥水化のためにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)処理を施したものを使用することもできる。
【0136】
MEAは電池に組み込み、燃料を充填した状態での交流インピーダンス法による面積抵抗値が3Ωcm以下のものが好ましく、1Ωcm以下のものがさらに好ましく、0.5Ωcm以下のものが最も好ましい。面積抵抗値は実測の抵抗値とサンプルの面積の積から得られる。
【0137】
燃料電池の燃料として用いることのできるものを説明する。アノード燃料としては、水素、アルコール類(メタノール、イソプロパノール、エチレングリコールなど)、エーテル類(ジメチルエーテル、ジメトキシメタン、トリメトキシメタンなど)、ギ酸、水素化ホウ素錯体、アスコルビン酸などが挙げられる。カソード燃料としては、酸素(大気中の酸素も含む)、過酸化水素などが挙げられる。
【0138】
直接メタノール型燃料電池では、アノード燃料として、メタノール濃度が3重量%〜64重量%のメタノール水溶液が使用される。アノード反応式(CHOH+HO→CO+6H+6e)により、1モルのメタノールに対し、1モルの水が必要であり、この時のメタノール濃度は64重量%に相当する。メタノール濃度が高い程、同エネルギー容量での燃料タンクを含めた電池の重量および体積が小さくできる利点がある。しかしながら、メタノール濃度が高い程、メタノールが固体電解質を透過しカソード側で酸素と反応し電圧を低下させる、いわゆるクロスオーバー現象が顕著となり、出力が低下する傾向にある。そこで、用いる固体電解質のメタノール透過性により、最適濃度が決められる。直接メタノール型燃料電池のカソード反応式は、(3/2)O+6H+6e→HOであり、燃料として酸素(通常は空気中の酸素)が用いられる。
【0139】
上記アノード燃料およびカソード燃料を、それぞれの触媒層132b,133bに供給する方法としては、(1)ポンプ等の補助機器を用いて強制的に送りこむ方法(アクティブ型)と、(2)補助機器を用いない方法、例えば、燃料が液体である場合には毛管現象や自然落下により、気体である場合には大気に触媒層をさらして供給するパッシブ型との2通りの方法があり、また、(1)と(2)とを組み合わせることも可能である。(1)は、カソード側で生成する水を抜き出すことにより、燃料として高濃度のメタノールを使用することができ、空気供給による高出力化ができる等の利点がある反面、燃料供給系を備える事により小型化がし難い欠点がある。(2)は、小型化が可能な利点がある反面、燃料供給が律速となり易く高い出力が出にくい欠点がある。
【0140】
燃料電池の単セル電圧は一般的に1V以下であるので、負荷の必要電圧に合わせて、単セルを直列スタッキングして用いる。スタッキングの方法としては、単セルを平面上に並べる「平面スタッキング」および、単セルを、両側に燃料流路の形成されたセパレータを介して積み重ねる「バイポーラースタッキング」が用いられる。前者は、カソード極(空気極)が表面に出るため、空気を取り入れ易く、薄型にできることから小型燃料電池に適している。この他にも、MEMS技術を応用し、シリコンウェハー上に微細加工を施し、スタッキングする方法も提案されている。
【0141】
燃料電池は、自動車用、家庭用、携帯機器用など様々な利用が考えられているが、特に、直接メタノール型燃料電池は、小型、軽量化が可能であり充電が不要である利点を活かし、様々な携帯機器やポータブル機器用エネルギー源としての利用が期待されている。例えば、好ましく適用できる携帯機器としては、携帯電話、モバイルノートパソコン、電子スチルカメラ、PDA、ビデオカメラ、携帯ゲーム機、モバイルサーバー、ウエラブルパソコン、モバイルディスプレイなどが挙げられる。好ましく適用できるポータブル機器としては、ポータブル発電機、野外照明機器、懐中電灯、電動(アシスト)自転車などが挙げられる。また、産業用や家庭用などのロボットあるいはその他の玩具の電源としても好ましく用いることができる。さらには、これらの機器に搭載された2次電池の充電用電源としても有用である。
【0142】
次に、本発明を詳細に説明することを目的として実施した実施例1〜7について説明する。ただし、各実施例において共通する製造方法及び条件等は、実施例1、2において説明するものとし、その他の実施例では異なる箇所のみを記載する。なお、実施例7は、本発明の比較実験である。
【実施例1】
【0143】
図1に示すドープ製造設備10を用いて、下記の原料を混合することによりドープAを調製した。なお、固体電解質の前駆体となるポリマー化合物Aは、化3で示される化合物のうち、X=Naであり、Y=SOであり、Zが、化4の(I)に示される構造であり、n=0.33、m=0.67、数平均分子量Mnが約61000、重量平均分子量Mwが約159000である。また、ジメチルスルホキシドは化合物Aの良溶媒であり、メタノールは化合物Aの貧溶媒である。
化合物A 100重量部ジメチルスルホキシド 256重量部メタノール 171重量部
【0144】
[固体電解質フィルムの製造]
走行する流延バンド86の上へ流延ダイ85からドープAを流延して流延膜62とし、第1送風装置92及び第2送風装置93から流延膜62に対して45℃/10%RHの乾燥風を30分間当て続けて乾燥した。流延バンド86は、PETフィルムからなるものを使用した。次に、流延膜62の表面に純水供給装置95から30℃の純水を2分間吹き付けた後、流延バンド86から流延膜62を剥ぎ取って前駆体フィルム66とした。なお、流延バンド86から剥ぎ取る直前の流延膜62中の主溶媒であるDMSOの残留溶媒量は65重量%であった。
【0145】
前駆体フィルム66を第1液67aとして30℃の純水が入れられている第1浴槽67に送り込み、ここに3分間浸漬させた。そして、第1浴槽67から送り出した前駆体フィルム66を、エアシャワー99により水切りした後、テンタ68に送り込んだ。テンタ68では、前駆体フィルム66の両側端部をクリップ68aで保持し搬送する間に、テンタ68内に備えられた乾燥装置(図示しない)から120℃の乾燥風を供給して前駆体フィルム66の乾燥を促進させた。なお、テンタ68での乾燥時間は10分間とし、前駆体フィルム66の残留溶媒量が10重量%未満になるまで乾燥した。
【0146】
クリップ68aから解放した前駆体フィルム66をテンタ68から送り出した後、前駆体フィルム66の両側端部を耳切装置100で切断した。続けて、前駆体フィルム66を30℃に保温された0.5モル/Lの硫酸水溶液が入れられている第2浴槽72に送り込んだ後、30℃の純水が入れられている第3浴槽73に送り込み、酸処理及び洗浄を行って固体電解質フィルム70とした。そして、この固体電解質フィルム70を120℃〜185℃になるように調整した乾燥室74に送り込み、多数のローラ70により30分間支持しながら搬送する間に乾燥させて固体電解質フィルム70を得た。
【0147】
また、完成した固体電解質フィルム70のDMSOの残留溶媒量を測定したところ、0.4重量%であった。このDMSOの残留溶媒量は、得られた固体電解質フィルムから7mm×35mmの大きさのサンプル片を得た。このサンプル片についてガスクロマトグラフィー(型式;GC−18A、島津製作所(株)製)によりDMSOの重量比率を求めた。表1における数値は、サンプル片の重さの重量をx、DMSOの重量をyとしたときに、y/x×100の式で求められる数値である。なお、以下に示す各実施例でも同様にして製造後のDMSOの残留溶媒量を測定した。
【0148】
製造した固体電解質フィルム70に関して以下の各項目を測定し、その品質を評価した。なお、以下に示す各評価項目及び方法は、各実施例において共通である。
【0149】
〔1.製造の連続性〕
固体電解質フィルムを連続して実施することができたか否かについての評価である。表1における結果の記載は以下の基準による。
○;連続して製造することができた。
△;連続的に製造は出来るが、途中で製造が停止することがあった。
×;製造することができ
ない。
【0150】
〔2.厚みの平均値及びばらつき〕
アンリツ電気社製の電子マイクロメーターを用いて600mm/分の速度にて連続的にフィルム62の厚みを測定した。測定により得られたデータは、縮尺1/20、チャート速度30mm/分にてチャート紙上に記録された。そして定規によりデータ曲線に関して計測を実施したのちに、その計測値を基に厚みの平均値とこの平均値に対する厚みのばらつきとを求めた。表1においては、(a)は厚みの平均値(単位;μm)、(b)は(a)に対する厚みのばらつき(単位;μm)を表す。
【0151】
〔3.電極の接着性〕
次の(1)及び(2)の方法によりMEA131を作成した。そして、そのMEAについて、(3)の方法により電極の接着性を評価した。
【0152】
(1)触媒層132b,133bとされる触媒シートAの作製
白金担持カーボン(VulcanXC72に白金50wt%が担持されたもの)2gと、ナフィオン溶液(登録商標デュポン(株))として5%アルコール水溶液を15gとを混合し、超音波分散器で30分間分散させた。分散物の平均粒子径は約500nmであった。得られた分散物を、補強材入りのポリテトラエチレンフィルム(サンゴバン(株)製)の上に塗設し、乾燥した後、直径9mmの円形に打ち抜いて触媒シートAを作製した。
【0153】
(2)MEA131の作製
完成した固体電解質フィルムの両面に、塗膜が固体電解質フィルムに接するように触媒シートAを張り合わせ、210℃、3MPa、10分間で熱圧着し、圧力をかけたままで降温してから、触媒シートAの支持体を剥離することで順にMEAを作製した。そして、この作製したMEAにおける固体電解質フィルムと触媒シートAとの界面を目視により観察して、以下の評価方法により接着性を評価した。
○;均一に全面接着
△;部分的に剥がれあり(全面積の10%未満)
×;剥がれが全面積の10%以上あり
【0154】
〔4.プロトン伝導度〕
プロトン伝導度の測定は、Journal of the Electrochemical Society 143巻4号1254−1259項(1996年)に従い、4端子交流法を用いて行なった。具体的には、先ず、完成した固体電解質フィルムから長さ2cm×幅1cmの大きさに切り抜いたものをサンプルとした。次に、PTFE板に5mm間隔で白金線を4本固定したものに先ほどのサンプルを載せた後、更にPTFE板を載せてから、これらをビスで固定して試験セルとした。そして、この試験セルと、ソーラトロン製1480型及び1225B型を組合せたインピーダンスアナライザーとを用いて、80℃の温水中で交流インピーダンス法によりプロトン伝導度(S/cm)の測定を行なった。
【0155】
〔5.燃料電池の出力密度〕
完成した固体電解質フィルムを用いて燃料電池141を作製し、その燃料電池141の出力を測定した。燃料電池141の作製方法及び出力密度の測定方法は、下記の方法による。
【0156】
(1)触媒層132b,133bとされる触媒シートAの作製
白金担持カーボン(VulcanXC72に白金50wt%が担持されたもの)2gと、ナフィオン溶液(登録商標デュポン(株))として5%アルコール水溶液を15gとを混合し、超音波分散器で30分間分散させた。分散物の平均粒子径は約500nmであった。得られた分散物を、補強材入りのポリテトラエチレンフィルム(サンゴバン(株)製)の上に塗設し、乾燥した後、直径9mmの円形に打ち抜いて触媒シートAを作製した。
【0157】
(2)MEA131の作製
完成した固体電解質フィルムの両面に、塗膜が固体電解質フィルムに接するように触媒シートAを張り合わせ、210℃、3MPa、10分間で熱圧着し、圧力をかけたままで降温してから、触媒シートAの支持体を剥離することで順にMEAを作製した。
【0158】
(3)燃料電池141の出力密度
上記評価で得られたMEAに、電極と同じサイズにカットしたガス拡散電極(E−TEK製)を積層した後、このMEAを標準燃料電池試験セル(エレクトロケム社製)にセットした。そしてこの試験セルを燃料電池評価システム((株)エヌエフ回路設計ブロック製 As−510)に接続した。そして、アノード側に加湿した水素ガスを流し、一方のカソード側には加湿した模擬大気を流して電圧が安定するまで運転した。その後、アノード電極とカソード電極との間に負荷をかけて、その際の電流−電圧特性を記録し、これを出力密度(W/cm)として測定した。
【実施例2】
【0159】
実施例2では、下記の原料を混合して調製したドープBを用いて固体電解質フィルム70を製造した。なお、固体電解質の前駆体となるポリマー化合物Bは、化3で示される化合物のうち、X=Naであり、Y=SOであり、Zは化4において(I)が0.7モル%、(II)が0.3モル%含まれる化合物である。n=0.33、m=0.67であり、数平均分子量Mnは約68000、重量平均分子量Mwは約200000である。また、ジメチルスルホキシドは化合物Bの良溶媒であり、メタノールは化合物Bの貧溶媒である。
化合物B 100重量部ジメチルスルホキシド 200重量部メタノール 135重量部
【0160】
実施例1の条件及び製造方法によりドープBを用いて固体電解質フィルム70を製造した。ただし、流延バンド86上の流延膜62を45℃/10%RHの風を20分間供給することにより乾燥した。その結果、DMSOの残留溶媒量が0.2重量%である固体電解質フィルム70を得た。
【実施例3】
【0161】
実施例2と同じ条件・方法で流延膜62を形成した後、純水接触装置95から30℃の純水を1分間吹き付けた。そして、この流延膜62を流延バンド86から剥ぎ取って前駆体フィルム66とし、実施例2と同様にしてフィルム70を製造しようとした。しかし、第1浴槽67へと前駆体フィルム66を送り込むと、縮みが生じ大きく形状が変化したために、その後の工程へと搬送することが不可能となり、結果としてフィルム70を製造することができなかった。なお、純水接触装置95で純水を接触させた後の流延膜62は、DMSOの残留溶媒量が130重量%であった。
【実施例4】
【0162】
流延膜62を流延バンド86から剥ぎ取って得た前駆体フィルム66を第1浴槽67に送り込むことなくフィルム70を製造した以外は、全て実施例2と同様にした。その結果、DMSOの残留溶媒量が8.5重量%である固体電解質フィルム70を得た。
【実施例5】
【0163】
実施例2において使用したドープBのうち、メタノールをジメチルスルホキシドに置き換えたこと以外は、全て実施例2と同様にして固体電解質フィルム70を製造した。その結果、DMSOの残留溶媒量が5.7重量%である固体電解質フィルム70を得た。
【実施例6】
【0164】
流延膜62を流延バンド86から剥ぎ取って得た前駆体フィルム66を第1浴槽67に浸漬させる時間を20分とした以外は、全て実施例2と同様にして固体電解質フィルム70を製造した。その結果、DMSOの残留溶媒量が0.1重量%である固体電解質フィルム70を得た。
【実施例7】
【0165】
流延膜62に対して純水接触装置95により純水を接触させずに流延バンド86から流延膜62を剥ぎ取って前駆体フィルム66を形成した以外は、全て実施例2と同様に固体電解質フィルム70を製造しようとした。しかし、前駆体フィルム66を形成した直後、フィルムが自重で変形してしまい、搬送することが不可能となったため、固体電解質フィルム70を得ることはできなかった。
【0166】
表1に、実施例1〜7に関する評価結果を纏めて示す。
【0167】
【表1】

【0168】
各実施例の結果から、先ず、乾燥時間に着目すると、例えば、前述の特許文献1の方法では、乾燥時間に14時間以上を費やし、特許文献2では5時間以上を費やしているのに対して、本発明に係る実施例1、2では、全工程を通じて乾燥時間が約65〜75分であり、乾燥時間を大幅に短縮出来ることが分かる。これは、本発明のように所定の範囲を満たすようにしながら流延膜に純水を吹き付けると、流延膜のゲル化を促進することができ、かつ流延膜中に含まれる良溶媒の量を多くすることができるので、後の乾燥工程で純水の蒸発と共にフィルム中に含まれる溶媒量を乾燥速度及び乾燥効率を向上させることが可能となる。また、製膜時においては、温度や湿度の影響を受けることなくプロトン伝導度が高い固体電解質フィルムを優れた生産性で大量に製造することができ、この固体電解質フィルムを燃料電池の固体電解質層として用いた場合には、高い出力密度を発揮させる等、好適に使用することができることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0169】
【図1】本実施形態で使用するドープ製造設備の一例の概略図である。
【図2】本発明に係るフィルム製造設備の一例の概略図である。
【図3】電極膜複合体の断面図である。
【図4】燃料電池の断面図である。
【符号の説明】
【0170】
10 ドープ製造設備
24 ドープ
33 フィルム製造設備
61 流延膜
66 前駆体フィルム
70 固体電解質フィルム
95 純水接触装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行する支持体上に、カチオン種を有し固体電解質の前駆体であるポリマーと、前記ポリマーの良溶媒である第1化合物及び貧溶媒である第2化合物が含まれる混合溶媒とを含むドープを流延ダイから流延して流延膜を形成する第1工程と、
前記流延膜を純水に接触させて、前記混合溶媒の一部を前記純水に置き換える第2工程と、
前記流延膜を前記支持体から剥ぎ取って前記前駆体よりなる前駆体フィルムとする第3工程と、
プロトン供与体である酸の溶液に前記前駆体フィルムを搬送しながら接触させて、前記カチオン種が水素原子に置換された前記固体電解質からなる固体電解質フィルムとする第4工程と、
前記固体電解質フィルムを洗浄する第5工程と、
前記固体電解質フィルムを乾燥する第6工程とを有することを特徴とする固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記第1化合物は前記第2化合物よりも多く前記混合溶媒に含まれ、
前記ドープは前記固体電解質の重量に対して100%よりも大きい重量の前記第1化合物を含み、
前記純水との接触を終了した前記流延膜は、前記固体電解質の重量に対する前記第1化合物の重量の割合を100%未満とされたことを特徴とする請求項1記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記純水の接触は、前記流延膜に対する前記純水の吹き付け、前記流延膜への前記純水の塗布の少なくともいずれかひとつであることを特徴とする請求項1または2記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記第2工程後の前記流延膜と、前記第4工程前の前記前駆体フィルムとの少なくとも一方を、前記第1化合物と前記第2化合物との両方とに相溶する液に接触させることを特徴とする請求項1ないし3いずれかひとつ記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記液は、水と前記第1化合物との混合物、水と前記第2化合物との混合物、水と有機溶媒との混合物の少なくともいずれかひとつであることを特徴とする請求項4記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記第2工程で前記流延膜を純水に接触させる時間と前記流延膜を前記液に接触させる時間との和が、10分以下であることを特徴とする請求項1ないし5いずれかひとつ記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記第1化合物はジメチルスルホキシドであり、前記第2化合物は炭素数が1〜5のアルコールであることを特徴とする請求項1ないし6いずれかひとつ記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記ポリマーは、炭化水素系ポリマーであることを特徴とする請求項1ないし7いずれかひとつ記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記炭化水素系ポリマーは、芳香族系ポリマーであることを特徴とする請求項8記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記芳香族系ポリマーは、化1の一般式(I)〜(III)で示される各構造単位からなる共重合体であることを特徴とする請求項9記載の固体電解質フィルムの製造方法。
【化1】

(ただし、Xはカチオン種であり、YはSO、Zは化2の(I)または(II)に示す構造であり、nとmとは0.1≦n/(m+n)≦0.5を満たす)
【化2】

【請求項11】
請求項1ないし10いずれかひとつに記載の製造方法により製造されたことを特徴とする固体電解質フィルム。
【請求項12】
請求項11記載の固体電解質フィルムと、
前記固体電解質フィルムの一方の面に密着して備えられ、外部から供給される水素含有物質からプロトンを発生するためのアノード電極と、
前記固体電解質フィルムの他方の面に密着して備えられ、前記固体電解質フィルムを通過した前記プロトンと外部から供給される気体とからなる水を合成するカソード電極と、
を有することを特徴とする電極膜複合体。
【請求項13】
請求項12記載の電極膜複合体と、
前記電極膜複合体の電極に接触して備えられ、前記アノード電極および前記カソード電極と外部との電子の受け渡しをする集電体とを有することを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−265926(P2007−265926A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−92682(P2006−92682)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】