説明

固体電解質膜およびその製造方法

【課題】ダイレクトメタノール型燃料電池に使用する、高いプロトン伝導度と、メタノールのクロスオーバー現象を抑制するための低メタノール透過性の固体電解質膜を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表されるビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド部位を含む繰り返し単位を有する樹脂からなることを特徴とする固体電解質膜。


(式中、Rは水素原子またはメチル基、Yは酸素原子またはNHを表す。Rfは炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基を表す。Wは連結基であり、炭素数2〜4の直鎖状もしくは炭素数3〜4の分岐鎖状のアルキレン基、または炭素数5〜8の環状の炭化水素基であり、分岐鎖または橋架け構造を有してもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池に使用する固体電解質膜およびその製造方法に関する。本発明は、特に、直接液体型燃料電池であるダイレクトメタノール型燃料電池に使用する固体電解質膜およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は発電効率が高く、熱エネルギーも有効に利用できる発電装置である。燃料電池は、電気化学反応によって発電するため、燃料を燃焼させて蒸気を発生させタービンを回す等、二次的に電気を取り出す他の発電システムに比べ発電効率が高い。燃料電池の生成物は原理的に水であり、燃料を燃焼させることがないため、二酸化炭素の排出量が小さく、大気汚染の原因となる窒素酸化物や硫黄酸化物を排出しないことから、次世代クリーンエネルギーとして注目されている。固体高分子型燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell、以下、PEFCと略する)は電解質に高分子のイオン交換膜を使用する。PEFCの中で、ダイレクトメタノール型燃料電池(Direct Methanol Fuel Cell、以下、DMFCと略する)は、水素の代わりにメタノールを用い、直接これを電極で反応させて発電する。アノード側(燃料極)で、触媒により水素から電子を切り離し、水素を水素イオン(プロトン)と電子とする他の燃料電池と異なり、DMFCにおいては、アノード電極上、触媒によりメタノールが直接水と反応して、プロトン、電子、二酸化炭素に変換される。DMFCは、出力密度が高く、低温駆動でき、小型軽量化が可能であることから、携帯電話、ノートパソコン等の電源に適している。
【0003】
DMFCの課題の一つとして、メタノールの一部が、固体電解質膜内をアノード側(燃料極)からカソード側(空気極)へ透過するクロスオーバー現象が挙げられ、これにより、燃料のロスに加え、空気極でメタノールにより酸素が消費されることで出力低下が起きる。メタノールを透過させない固体電解質膜の開発が、DMFCの高性能化において、最大の問題である。
【0004】
また、現在使用される固体電解質膜には、パーフルオロカーボンスルホン酸系電解質膜が挙げられ、米国デュポン社より、商品名ナフィオン、旭硝子株式会社より、商品名フレミオン、旭化成株式会社より、商品名、アシプレックス、およびジャパンゴアテックス株式会社より、商品名、ゴアセレクト等が製造または市販されている。
【0005】
パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー中のスルホン酸基は水と親和性を示し、ポリマー中でスルホン酸基の周囲に水が吸着され、スルホン酸基に葡萄の房の様に水が集合したクラスター構造を形成し、プロトンは水分子とともにクラスター間を移動していくことで、プロトン伝導性を示すと考えられている。メタノールはクラスターを介してポリマー内を拡散しやすく、そのため、パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー中のメタノール透過速度は速く、パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーを固体電解質膜として使用した際の電池性能を低下させる。
【0006】
このような、メタノールのクロスオーバー現象を抑制する技術が、特許文献1、2に開示されている。例えば、特許文献1に、パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマー系固体電解質膜に放射線を照射し、架橋度を高める手法が開示されている。しかしながら、架橋によってプロトン伝導度が低下し、さらに、製造プロセスがより煩雑になり、より高コスト化してしまうという問題があった。
【0007】
また、パーフルオロカーボンスルホン酸系電解質膜に替わる低コストの固体電解質膜の開発が進められている。例えば、特許文献2に記載の細孔を持ったエンジニアリングプラスチックフィルム内にスルホン酸基を有する樹脂を充填する細孔フィリング膜は、メタノールの透過性を低減できると開示される。しかしながら、パーフルオロカーボンスルホン酸系電解質膜と比べ、プロトン伝導度が非常に低く、さらに、プロトン伝導度を得るためには、強酸性の樹脂を隙間無く充填する必要がある。その上、充填樹脂に架橋構造を導入する必要があり、架橋が十分でないと高濃度メタノールを使用することによって、樹脂が溶出してしまうという問題があった。また、製造プロセスが一般的でなく、大量スケールでの製造には向いていないという問題があった。さらに、例えば、メタノール酸化電極触媒を担持した、膜・電極接合体(Membrane-Electro de Assembly、以下、MEAと略する)を作製する上で、エンジニアリングプラスチックフィルムはガラス転移温度が200℃以上と高く、そのため、ホットプレス時に触媒層バインダー樹脂との接着性が悪く、剥がれが生じてしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−179301号公報
【特許文献2】特開2008−112712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の通り、DMFCに使用する固体電解質膜においては、高いプロトン伝導度とメタノールのクロスオーバー現象を抑制するための低いメタノール透過性の両方を兼ね備え、且つ、製法が簡便で量産性に優れることが求められており、これらを全て満たすものは存在しないという問題があった。
【0010】
本発明は、PEFC、特にDMFCに使用する高いプロトン伝導度と、メタノールのクロスオーバー現象を抑制するための低いメタノール透過性の両方を併せ持つ固体電解質膜を提供することを課題とする。また、当該固体電解質膜の工業的に簡便かつ多量生産に適した製法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
従来の固体電解質膜は、強酸性基としてスルホン酸基が導入されるが、スルホン酸基を有する樹脂はメタノール透過性が高い。これは、スルホン酸基の強い親水性によって水が膜中に強く保持されるため、メタノールの拡散が促進されてしまうためである。従来のパーフルオロ樹脂系の電解質膜でも、クラスター構造によってメタノールが透過できる細孔が形成される。
【0012】
また、固体電解質膜がプロトン伝導性を示すためには、水がプロトンのキャリアとなるため、膜中に水が存在する必要がある。
【0013】
このような背景から、本発明者らは、メタノール透過性を低減するためには、スルホン酸基に代わる疎水性の強酸性基を導入することが有効であると考え、強力な電子吸引性基であるトリフルオロメタンスルホニル基;−SO2CF3(以下、Tfと略する)等を2個有する疎水性の強酸性基であるビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド部位を含む繰り返し単位を有する樹脂に着目し、鋭意検討を行った結果、疎水性且つ強酸性基であるビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド基を含有した繰り返し単位中に、ファンデルワールス力で水と配位するポリエーテル構造を導入することで、高いプロトン伝導性と低メタノール透過性を発揮させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明によれば、下記一般式(1)で表されるビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド部位を含む繰り返し単位を有する樹脂からなる固体電解質膜が提供される。
【化1】

【0015】

式(1)中、Rは水素原子またはメチル基、Yは酸素原子またはNHを表す。Rfは炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基を表す。Wは連結基で炭素数2〜4の直鎖状もしくは炭素数3〜4の分岐鎖状のアルキレン基、または炭素数5〜8の環状の炭化水素基であり、分岐鎖または橋架け構造を有してもよい。
【0016】
本発明の固体電解質膜において、一般式(1)で表される繰り返し単位を有する樹脂は、下記一般式(2)で表されるビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド部位を含む重合性化合物が重合した重合体であることが好ましい。
【化2】

【0017】
式(2)中、Rは水素原子またはメチル基、Yは酸素原子またはNHを表す。Rfは炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基を表す。Wは連結基であり、炭素数2〜4の直鎖状もしくは炭素数3〜4の分岐鎖状のアルキレン基、または炭素数5〜8の環状の炭化水素基であり、分岐鎖または橋架け構造を有してもよい。
【0018】
一般式(1)で表される繰り返し単位および一般式(2)で表される重合性化合物において、前記したより炭素数が多いと、固体電解質膜として用いる樹脂の合成が困難となり、合成反応において溶媒に溶けにくい等の不具合を生じる。また、炭素数が少ないと、得られた樹脂は固体電解質膜として使用するのには丈夫さに欠ける。
【0019】
また、一般式(2)で表される重合性化合物に、少なくとも下記構造式(3)で表されるビス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド部位を含む重合性化合物(MA−ABMD、W=C3)を用いることが好ましい。MA−ABMDは合成が容易である。
【化3】

【0020】
また、一般式(1)で表される繰り返し単位を有する樹脂は、一般式(2)で表される重合性化合物と架橋性化合物を重合させてなる樹脂からなることが好ましい。尚、本発明において、架橋性化合物とは、分子内に少なくとも2個以上の重合性基(官能基)を含む化合物を言う。該架橋性化合物は一般式(4)で表される化合物であることが好ましい。
【化4】

【0021】
式(4)中、Rはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基、Yはそれぞれ独立に酸素原子またはNHを表す。Zは炭素数1〜4の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基を表し、エーテル結合、エステル結合、アミド結合またはアルコキシ基を有していてもよい(式中、mは1〜30、nは1〜5の整数である)。
【0022】
本発明の固体電解質膜において、固体電解膜全体の全質量を基準とする百分率で表して、一般式(1)で表される繰り返し単位の含有が6質量%以上、84質量%以下であることが好ましい。
【0023】
ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド部位を含む繰り返し単位の含有が6質量%より少ないと、高いプロトン伝導性を有しながら、メタノール透過性を大幅に低減できるという作用効果が期待できない。また、84質量%より多いと得られた固体電解質膜は丈夫さに劣る。
【0024】
また、本発明によれば、一般式(2)で表されるビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド部位を含む重合性化合物と架橋性化合物を重合することにより、ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド部位を樹脂に導入する工程を含む、一般式(1)で表されるビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド部位を含む繰り返し単位を有する樹脂からなる固体電解質膜の製造方法が提供される。
【0025】
さらに、本発明によれば、上記の固体電解質膜を用いた燃料電池用MEA、上記の固体電解質膜を用いたPEFC、および上記の固体電解質膜を用いたDMFCが提供される。
【発明の効果】
【0026】
本発明の固体高分子電解質膜は、化学構造中に疎水性且つ強酸性基であるビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド部位を有しながら、ファンデルワールス力で水と配位するポリエーテル構造を導入することで、高いプロトン伝導性を有しながら、メタノール透過性を大幅に低減できる固体高分子電解質膜が得られた。本発明の固体電解質膜は、PEFC、特にDMFCに好適に使用される。
【0027】
また、本発明の固体電解質膜の製造方法は、工業的に簡便であり、かつ多量生産に適ししている。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0029】
本発明の固体電解質膜は、本発明の固体電解質膜は、一般式(1)で表されるビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド部位を有する繰り返し単位を有する樹脂からなることを特徴とする。
【化5】

【0030】
式(1)中、Rは水素原子またはメチル基、Yは酸素原子またはNHを表す。Rfは炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基を表す。Wは連結基で炭素数2〜4の直鎖状もしくは炭素数3〜4の分岐鎖状のアルキレン基、または炭素数5〜8の環状の炭化水素基であり、分岐鎖または橋架け構造を有してもよい。
【0031】
一般式(1)で表される繰り返し単位を含有した樹脂は、一般式(2)で表されるビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド部位を含む重合性化合物を重合してなる重合体であることが好ましい。
【化6】

【0032】
式(2)中、Rは水素原子またはメチル基、Yは酸素原子またはNHを表す。Rfは炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基を表す。Wは連結基であり、炭素数2〜4の直鎖状もしくは炭素数3〜4の分岐鎖状のアルキレン基、または炭素数5〜8の環状の炭化水素基であり、分岐鎖または橋架け構造を有してもよい。
【0033】
例えば、一般式(1)で表される繰り返し単位を有する樹脂は、一般式(2)で表される重合性化合物と架橋性化合物を反応させて得られる。
【0034】
一般式(2)で表される重合性化合物の具体例を以下に列挙する。
【化7】

【0035】

本発明では、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド部位、即ち−CH(SO2CF32、を、重合性化合物(MA−ABMD)によって導入することが特に好ましい。MA−ABMDは、以下にその合成経路を示すように、合成し易く、本発明の固体高分子膜に導入するのに好ましい化合物である。
【化8】

【0036】
一般式(2)で表される重合性化合物と重合可能な架橋性化合物は、分子内に少なくとも2個以上の重合性基(官能基)を含む化合物で、以下に挙げるポリエチレングリコールジアクリレート、または市販のウレタンアクリレート(新中村化学工業株式会社製、製品名:UA−122P、UA−4HA、UA−6HA、UA−6LPA、UA−1100H、UA−53H、UA−4200、UA−200PA、UA−33H、UA−7100、UA−7200)が挙げられる。本発明において、これら化合物を1種単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いても構わない。
【化9】

【0037】

この中でも、入手しやすく反応性が良好なことより一般式(4)の架橋性化合物を用いることが好ましい。
【化10】

【0038】
式(4)中、Rはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基、Yはそれぞれ独立に酸素原子またはNHを表す。Zは炭素数1〜4の直鎖状もしくは炭素数3〜4の分岐鎖状のアルキレン基を表し、エーテル結合、エステル結合、アミド結合またはアルコキシ基を有していてもよい。式中、mは1〜30、nは1〜5の整数を表す。
【0039】
また、入手しやすく反応性が良好なことより、ポリエチレングリコールジアクリレートも好適に用いられる。尚、ポリエチレングリコールジアクリレートは新中村化学工業株式会社より、製品名、A−200として市販される。
【0040】
本発明の固体電解質膜の構成成分である、一般式(1)で表される繰り返し単位を有する樹脂の代表的な例として、一般式(5)で表される樹脂が挙げられる。
【化11】

【0041】
式(5)中、X、Y、Zは、正の整数で重合度を表す。
【0042】
また、一般式(2)で表される重合性化合物と上記の架橋性化合物の重合方法は、ラジカル重合開始剤を用いたラジカル重合が好適であり、他に、イオン重合、配位アニオン重合、リビングアニオン重合、カチオン重合、開環メタセシス重合、遷移金属触媒重合、ビニレン重合、ビニルアディション、熱重合または放射線重合も挙げられる。
【0043】
ラジカル重合は、ラジカル重合開始剤あるいはラジカル開始源の存在下で、塊状重合、溶液重合、懸濁重合または乳化重合等の公知の重合方法により、回分式、半連続式又は連続式のいずれかの操作で行える。
【0044】
ラジカル重合開始剤は、アゾ系化合物、過酸化物系化合物あるいはレドックス系化合物が挙げられ、特にアゾビスイソブチロニトリル、tert−ブチルパーオキシピバレート、ジ−tert−ブチルパーオキシド、i−ブチリルパーオキシド、ラウロイルパーオキサイド、スクシン酸パーオキシド、ジシンナミルパーオキシド、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、tert−ブチルパーオキシアリルモノカーボネート、過酸化ベンゾイルまたは過酸化水素、過硫酸アンモニウムを用いることが好ましい。本発明の固体電解質膜用樹脂のラジカル重合開始剤としては、入手しやすく反応性が良好なことより、tert−ブチルパーオキシピバレートが特に好適に用いられる。
【0045】
また、本発明の固体電解質のための樹脂の製造における重合反応は、溶媒を用いずに行うことも可能であり、一般のラジカル重合に使用可能な溶媒が好適に用いられる。酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系溶媒、アセトン、メチルイソブチルトン等のケトン系、トルエンまたはシクロヘキサノンに代表される炭化水素系溶媒、メタノール、イソプロピルアルコールまたはエチレングリコールモノメチルエーテルに代表されるアルコール系溶剤が挙げられる。また、水、エーテル系溶媒、環状エーテル系溶媒、フロン系溶媒または芳香族系溶媒を使用することも可能である。これらの溶剤を単独、あるいは複数種類を混合して重合溶媒として使用することができる。
【0046】
重合反応の反応温度は、通常、50℃以上、150℃以下が好ましく、ハンドリング上、特に80℃以上、120℃以下が好ましく、重合性化合物および架橋性化合物を含む原料溶液をガラス基板上にバーコータ等で塗布し、ラジカル重合反応させて、無色透明な固体電解質膜を得ることができる。固体電解質膜は、必要に応じて、塩酸水溶液や硫酸水溶液中に浸漬し、イオン交換水で洗浄を行う。
【0047】
また、重合性化合物および架橋性化合物を含む原料溶液を多孔質フィルムへ含浸させる、原料溶液にナノシリカ微粒子やグラスファイバー等の混合すること等によって、固体電解質膜の機械的強度を高めてもよい。固体電解質膜の厚みに特に制限はないが、10μm以上200μm以下が好ましい。10μmより薄いと取り扱いが困難となり、200μmより厚いと膜抵抗が大きくなり、電気化学デバイスとしての特性が低下する傾向となる。膜厚は基板上への塗布厚、即ち、単位体積あたりへの塗布量により調整する。
【実施例】
【0048】
本発明の固体電解質膜について以下の実施例により具体的に説明する。以下の実施例は、本発明の固体電解質膜およびその製造等、実施の形態の一例を示すものであり、本発明の固体高分子電解膜そのものを限定するものではない。
【0049】
[モノマー合成例1]
窒素雰囲気下で、還流冷却器を備えた100mlの三口フラスコに、3−ヒドロキシ−1,1−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)ブタン酸(以下、ABMDと略する)、10g(0.030モル)、トルエン、35g、メタンスルホン酸、(0.003mol)、2,2−メチレン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(精工化学株式会社製、製品名、ノンフレックスMBP)、0.05g(ABMDに対して0.5質量部)を各々量り入れた後、三口フラスコを7℃まで冷却した。次いで、窒素雰囲気下、メタクリル酸無水物(以下、MAAHと略する)、4.85g(0.032mol)を、少量ずつ10分間かけて徐々に、三つ口フラスコ内に滴下した。滴下終了後、三口フラスコを70℃に加熱保持し、3.5時間、内容物を攪拌し続けた。その後、三口フラスコを室温(約20℃)まで冷却し、内容物に、トルエン30gおよび純水35gを加え、攪拌混合する洗浄操作を2回行った。洗浄操作を行った後の内容物を、トルエンと共沸させて、脱水操作を行った後、ノンフレックスMBP、0.123gを加え、70Paの減圧下、83℃〜86℃で減圧蒸留を行い、3−メタクリロキシ−1,1−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)ブタン酸(以下、MA-ABMDと略する)を留出させて、MA-ABMDを9.29gが得た。この際、MA-ABMDの収率は77.2%であった。このようにして、ABMDに、メタンスルホン酸およびMAAHを反応させて、MA-ABMDを得た。その際の、反応式は以下に示す通りである。
【0050】
(MA−ABMDの物性) 1H−NMR(溶剤:重クロロホルム);σ=6.13(s, 1H), 5.66(s, 1H), 5.58(m, 1H), 5.22(dd, 1H), 2.71(m, 2H), 1.94(s, 3H), 1.42(d, 3H)
【化12】

【0051】
次いで、上記[モノマー合成例1]で得られたMA−ABMDを用い、固体高分子型燃料電池に用いる固体電解質膜用樹脂を作製した。以下、実施例1〜6に詳細を示す。
【0052】
[実施例1]
ガラス製フラスコに、上記MA−ABMD、4.06g(0.0100mol)とポリエチレングリコールジアクリレート(新中村化学工業株式会社製、製品名:A−200)0.76g(0.0025mol)、および重合開始剤としての過ピバル酸−tert−ブチル(日本油脂株式会社製、製品名:パーブチルPV)0.10gを量り入れ、十分に攪拌しながら脱気し、窒素ガスを導入した。予め用意した一対のガラス板の間に、粒径、60μmのスペーサーを挟み込み、その隙間部分に毛細管現象を利用して、前記溶液を注入した。窒素雰囲気下、80℃に昇温させたオーブン内にて30分間保持した後、毎分1℃で昇温させ、さらに120℃に60分間保持して硬化させた。室温まで冷却後、水に浸漬することで、厚さ、0.05mm、大きさ、60mm×60mmの固体電解質膜、即ち、一般式(5)で表される樹脂からなる固体電解質膜を得た。
【化13】

【0053】
式(5)中、X、Y、Zは、正の整数で重合度を表す。
【0054】
[実施例2]
ガラス製フラスコに、MA−ABMD、2.54g(0.0063mol)、ポリエチレングリコールジアクリレート(新中村化学工業株式会社製、製品名、A−200)、1.89g(0.0063mol)および重合開始剤としての過ピバル酸−tert−ブチル(日本油脂株式会社製、製品名、パーブチルPV)、0.10gを量り入れ、十分に攪拌しながら、窒素ガスを導入し、脱気した。その後、実施例1と同様の手順で該溶液を硬化させて固体電解質膜を得た。
【0055】
[実施例3]
ガラス製フラスコに、MA−ABMD、1.51g(0.0037mol)、ポリエチレングリコールジアクリレート(新中村化学工業株式会社製、製品名:A−200)、2.64g(0.0088mol)、および重合開始剤としての過ピバル酸−tert−ブチル(日本油脂株式会社製、製品名、パーブチルPV)0.10gを量り入れ、十分に攪拌しながら、窒素ガスを導入し、脱気した。その後、実施例1と同様の手順で該溶液を硬化させて固体電解質膜を得た。
【0056】
[実施例4]
ガラス製フラスコに、MA−ABMD、1.02g(0.0025mol)、ポリエチレングリコールジアクリレート(新中村化学工業株式会社製、製品名、A−200)、3.02g(0.0100mol)および重合開始剤としての過ピバル酸−tert−ブチル(日本油脂株式会社製、製品名、パーブチルPV)、0.10gを加え、十分に攪拌しながら窒素ガスを導入し、脱気した。その後、実施例1と同様の手順で該溶液を硬化させて固体電解質膜を得た。
【0057】
[実施例5]
ガラス製フラスコ中に、MA−ABMD、0.51g(0.0013mol)、ポリエチレングリコールジアクリレート(新中村化学工業株式会社製、製品名:A−200)、3.40g(0.0113mol)および重合開始剤としての過ピバル酸−tert−ブチル(日本油脂株式会社製、製品名、パーブチルPV)、0.10gを量り入れ、十分に攪拌しながら、窒素ガスを導入し、脱気した。その後、実施例1と同様の手順で該溶液を硬化させて固体電解質膜を得た。
【0058】
[実施例6]
ガラス製フラスコに、MA−ABMD、0.25g(0.0006mol)、ポリエチレングリコールジアクリレート(新中村化学工業株式会社製、製品名、A−200)、3.59g(0.0119mol)および重合開始剤としての過ピバル酸−tert−ブチル(日本油脂株式会社製、製品名、パーブチルPV)、0.10gを量り入れ、十分に攪拌しながら、窒素ガスを導入し、脱気した。その後、実施例1と同様の手順で該溶液を硬化させて固体電解質膜を得た。
【0059】
[比較例1]
上記MA−ABMDを用いないで、固体電解質膜を作製した。具体的には、ガラス製フラスコ中に、ポリエチレングリコールジアクリレート(新中村化学工業株式会社製、製品名:A−200)、3.78g(0.0125mol)および重合開始剤としての過ピバル酸−tert−ブチル(日本油脂株式会社製、製品名:パーブチルPV)、0.10gを加え、十分に攪拌しながら、窒素ガスを導入し、脱気した。その後、実施例1と同様の手順で該溶液を硬化させて固体電解質膜を得た。
【0060】
[比較例2]
米国デュポン社で製造される、パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーからなる固体電解質膜、商品名ナフィオン、品番112を使用した。
【0061】
[性能評価]
実施例1〜6で作製した本発明の固体電解質膜、および本発明の固体電解質膜の技術の範疇に属さない、比較例1のMA−ABMDを用いない固体電解質膜および比較例2の市販の固体電解質膜のプロトン伝導度およびメタノール透過速度を測定し、結果を比較した。
【0062】
(プロトン伝導度)
プロトン伝導度は、以下の手法で測定した。電解質膜と白金フィルム電極を密着させ、電極に電気化学インピーダンス測定装置(Gamry Instruments社製、VFP600)を接続し、周波数1Hz〜1MHzの領域で交流インピーダンス測定を行い、交流抵抗を求めた。電極間距離と抵抗との勾配から、次式により、プロトン伝導性膜の比抵抗を算出し、比抵抗の逆数から交流インピーダンスを算出した。尚、電極には、スパッタ装置により基板フィルム上に白金をスパッタリングしたフィルム電極を使用した。フィルム電極は、電極間距離を精密に制御することができ、さらに、電極の押し付け圧力による膜の変形がなく、非抵抗を良好に測定する事ができる。比抵抗およびプロトン伝導度に算出式を以下に示す。
【数1】

【0063】
(メタノール透過速度)
メタノール透過速度は、以下の手法で測定した。イオン交換水に1日浸漬した上記固体電解質膜を、株式会社テクノシグマ製のセパラブルタイプのガラスセルに挟み込み、片方のセルに10質量%、または30質量%に調整したメタノールと水の混合液、20mlを入れ、もう一方のセルには、イオン交換水、20mlを入れた。25℃下、攪拌し、イオン交換水中のメタノール濃度をガスクロマトグラフ(株式会社島津製作所製、型番、GC2010)を用いて測定した。
【0064】
実施例1〜6および比較例1〜2で得られた固体電解質膜のプロトン伝導度およびメタノール透過速度の測定結果を表1に示す。尚、表1中の%は質量%である。
【表1】

【0065】

表1から明らかなように、ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド部位を含む実施例1〜6の本発明の固体電解質膜と、ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド部位を含まず本発明の範疇に属さない比較例1の固体電解質膜とを比較すると、本発明の実施例1〜6で得た固体電解質膜の方が、プロトン伝導度が一桁以上大きいことが分かる。特に、実施例3の固体電解質膜のプロトン伝導度は特に大きく、比較例2の市販の固体電解質膜と同等レベルであった。また、実施例の固体電解質膜のメタノール(MeOH)透過性は、比較例2の市販固体電解質膜と比較して、メタノールの濃度に関係なく、1桁以上も低い値を示し、エタノール(EtOH)透過性についても同様に低い値であった。本実施例より、実施例1〜6の本発明の固体電解質膜は、良好なプロトン伝導性を有し、特に、実施例3の固体電解質膜は、メタノール透過性が低く、アルコール遮断性に優れ、DMFC用の固体電解質膜として好適に使用されることがわかった。
【0066】
上述の通り、本発明によれば、化学構造中に疎水性且つ強酸性基であるビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド部位を有しながら、ファンデルワールス力で水と配位するポリエーテル構造を導入することで、高いプロトン伝導性を有し、且つメタノール透過性を大幅に低減できる固体高分子電解質膜が得られる。本発明の固体電解質膜は、その優れたアルコール遮断性・プロトン伝導性から、PEFCなどの固体高分子型燃料電池、特にDMFCに好適に使用される。また、本発明の固体電解質膜の製造方法は、工業的に簡便であり、かつ多量生産に適ししている。
【0067】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の範囲は上記実施形態の説明に拘束されることはなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。尚、本明細書は、本願優先権主張の基礎となる特願2010-30779号明細書等の全体を包含する。また、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献および公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の固体電解質膜は、固体高分子型燃料電池に使用され、アルコール遮断性に優れ、なおかつ、良好なプロトン伝導性を有するので、特にDMFC用の固体電解質膜として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、Yは酸素原子またはNHを表す。Rfは炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基を表す。Wは連結基であって、炭素数2〜4の直鎖状もしくは炭素数3〜4の分岐鎖状のアルキレン基、または炭素数5〜8の環状の炭化水素基であり、分岐鎖または橋架け構造を有してもよい。)
で表されるビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド部位を含む繰り返し単位を有する樹脂からなる固体電解質膜。
【請求項2】
一般式(1)で表される繰り返し単位を有する樹脂が、一般式(2):
【化2】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、Yは酸素原子またはNHを表す。Rfは炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基を表す。Wは連結基で炭素数2〜4の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基、または炭素数5〜8の環状の炭化水素基であり、分岐鎖または橋架け構造を有してもよい。)
で表されるビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド部位を含む重合性化合物が重合した重合体であることを特徴とする、請求項1に記載の固体電解質膜。
【請求項3】
一般式(2)で表される重合性化合物が、構造式(3):
【化3】

で表されるビス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド部位を含む重合性化合物(MA−ABMD)であることを特徴とする、請求項2に記載の固体電解質。
【請求項4】
一般式(1)で表される繰り返し単位を有する樹脂が、一般式(2)で表される重合性化合物と架橋性化合物を重合させてなる樹脂からなることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の固体電解質膜。
【請求項5】
架橋性化合物が一般式(4):
【化4】

(式中、Rはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基、Yはそれぞれ独立に酸素原子またはNHを表す。Zは炭素数1〜4の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルケニル基を表し、エーテル結合、エステル結合、アミド結合またはアルコキシ基を有していてもよい。式中、mは1〜30、nは1〜5の整数。)
で表される化合物であることを特徴とする、請求項4に記載の固体電解質膜。
【請求項6】
固体電解膜の全質量を基準とする質量百分率で表して、ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド部位を含む繰り返し単位の含有が6質量%以上、84質量%以下であることを特徴とする、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の固体電解質膜。
【請求項7】
一般式(2)で表されるビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド部位を含む重合性化合物と架橋性化合物を重合することにより、ビス(パーフルオロアルカンスルホニル)メチド部位を樹脂に含有させることを特徴とする、請求項4から請求項6のいずれか1項に記載の固体電解質膜の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の固体電解質膜を用いた燃料電池用膜・電極接合体。
【請求項9】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の固体電解質膜を用いた固体高分子型燃料電池。
【請求項10】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の固体電解質膜を用いたダイレクトメタノール型燃料電池。

【公開番号】特開2011−192640(P2011−192640A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25965(P2011−25965)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】