説明

固体高分子型燃料電池の集電板の製造方法

【課題】 生成水を空気電極層から効率よく取り除くことにある。
【解決手段】 空気電極層(酸化剤電極層)3側に開口するとともに互いに連通し、空気電極層3側において発生した水を毛管現象で吸引する大きさの複数の発泡空孔6aを有する発泡焼結金属によって形成されており、空気電極層3に向かう方向に貫通するとともに、発泡空孔6aが開口し、かつ空気(酸化剤ガス)の供給路となる複数の貫通孔6bが形成された構成になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜の両側に積層された燃料電極層と酸化剤電極層のうち、少なくとも酸化剤電極層に積層される固体高分子型燃料電池の集電板に関するものであって、特に携帯電話やデジタルカメラなどの携帯機器用の電池に適した集電板に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の固体高分子型燃料電池としては、例えば図6に示すように、固体高分子の電解質膜1の両側に水素電極層(燃料電極層)2および空気電極層(酸化剤電極層)3が積層され、これらの水素電極層2および空気電極層3のそれぞれの外面に沿って設置されたセパレータ4、5を備えたものを単位セルとし、この単位セルを複数積層させたスタック構造のものが知られている。
【0003】
電解質膜1は、例えば0.1mm程度の厚さのもので構成されている。
水素電極層2および空気電極層3は、図7に示すように、触媒としてPt担持カーボンブラックAを有する多孔質のカーボンペーパによって形成されている。
【0004】
一方のセパレータ4には、図6に示すように、燃料ガス(水素を有する)を水素電極層2の表面全体に供給するための溝4aが形成されており、他方のセパレータ5には、酸化剤ガス(酸素を有する)を空気電極層3の表面全体に供給するための溝5aが形成されている。燃料ガスとしては、例えばほぼ100%の水素が用いられ、酸化剤ガスとしては、例えば空気が用いられる。
上記のように構成された固体高分子型燃料電池においては、図7に示すような化学反応により電気を作ることができる。燃料となる水素(H2)は、水素電極層2側の触媒Aの作用で水素イオン(H+)と電子(e-)に分かれる。すなわち、
2→2H++2e- …(1)
となる。
【0005】
水素イオンは、電解質膜1中を空気電極層3側に移動し、触媒Aの作用によって、外部電気回路から供給される電子とともに、空気電極層3に供給される酸素の還元に使われる。すなわち、
1/2O2+2H++2e-→H2O …(2)
の電気化学反応が生じ、水が生成される(以下、この水を生成水という)。そして、水素電極層2側の電子が例えば外部の負荷を通って空気電極層3側に流れることから、これを電気エネルギとして使うことができる。
上記電気化学反応は、主に電解質膜1と空気電極層3との境界部で発生することになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記固体高分子型燃料電池においては、連続して運転を行うと、上述した生成水が空気電極3の表面に液膜となって覆うことになり、酸素が電解質膜1に供給されにくくなる。このため、起電力が急激に低下するという問題がある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、生成水を酸化剤電極層から効率よく取り除くことによって、高出力で安定した電力を発生させることのできる固体高分子型燃料電池の集電板を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の固体高分子型燃料電池の集電板は、電解質膜の一方の面に積層され、水素を有する燃料ガスが上記電解質膜とは反対側の表面に供給される燃料電極層と、上記電解質膜の他方の面に積層され、酸素を有する酸化剤ガスが上記電解質膜とは反対側の表面に供給される酸化剤電極層とのうち、少なくとも上記酸化剤電極層の上記表面に積層される固体高分子型燃料電池の集電板であって、上記酸化剤電極層側に開口するとともに互いに連通し、上記酸化剤電極層側において発生した水を毛管現象で吸引する大きさの複数の発泡空孔を有する発泡焼結金属によって形成されており、上記酸化剤電極層に向かう方向に貫通するとともに、上記発泡空孔が開口し、かつ上記酸化剤ガスの供給路となる複数の貫通孔が形成されていることを特徴としている。
【0009】
請求項2に記載の固体高分子型燃料電池の集電板は、請求項1に記載の発明において、上記貫通孔は、機械的加工により形成されていることを特徴としている。
【0010】
請求項3に記載の固体高分子型燃料電池の集電板は、請求項1に記載の発明において、上記貫通孔は、上記発泡焼結金属の原料の一部として含有された発泡剤の発泡により形成されていることを特徴としている。
【0011】
請求項4に記載の固体高分子型燃料電池の集電板は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、上記発泡空孔の平均孔径が1〜150μmであり、上記貫通孔の平均孔径が0.2〜3mmであることを特徴としている。
【0012】
請求項5に記載の固体高分子型燃料電池の集電板は、請求項1〜4の何れかに記載の発明において、気孔率が40〜99容量%であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1〜5に記載の発明においては、電解質膜と酸化剤電極層との間に生じ、酸化剤電極層の表面に流出した生成水が発泡空孔に吸引されて、集電板の内方に移動するとともに、各貫通孔の位置まで移動する。また、貫通孔には酸化剤ガスが流通することになることから、当該酸化剤ガスが酸化剤電極層に供給されるとともに、余分な酸化剤ガスは貫通孔から排出されることになる。そして、発泡空孔が貫通孔に開口していることから、当該発泡空孔を介して貫通孔まで吸引された生成水が酸化剤ガス中に効率よく蒸発して、当該酸化剤ガスとともに集電板から排出されることになる。このため、生成水が酸化剤電極層内や表面に滞留するのを防止することができる。したがって、各貫通孔を介して供給された酸化剤ガスを酸化剤電極層から電解質膜側に間断なく供給することができるので、高出力で安定した電力を発生させることができる。
【0014】
また、固体高分子型燃料電池を、その方向を特定せずに使用するような場合、例えば携帯電話やデジタルカメラなど、携帯用のものとして使用した場合でも、生成水を効率よく排出することができる。すなわち、固体高分子型燃料電池の使用環境によっては、酸化剤電極層の表面が斜め上方を向いたり、水平方向の上方を向いたりすることがあり得るが、このような場合でも、生成水を間断なく排出して、安定した高出力の電力を維持することができる。
【0015】
請求項2に記載の発明においては、機械的加工としての例えばドリルによる切削加工によって、貫通孔を形成することができる。この際、密度の小さな発泡焼結金属によって形成されているので、切削抵抗が少なく、貫通孔を容易に加工することができるとともに、発泡空孔が貫通孔において閉塞されてしまうのを防止することができる。
また、発泡後、発泡焼結金属として焼結される前の、変形がより容易な時に、例えば先端が尖った複数の針を備えた治具を用い、その針を刺し通すことによる機械的加工によっても、貫通孔を形成することができる。この場合も、複数の貫通孔を短時間で容易に形成することができるとともに、発泡空孔が貫通孔において閉塞された状態になるのを防止することができる。
【0016】
請求項3に記載の発明においては、複数の貫通孔が発泡焼結金属の原料の一部として含有された発泡剤の発泡によって形成されているので、発泡により成形する過程で複数の貫通孔を形成することができる。すなわち、発泡空孔を形成するための発泡剤とは異なる発泡材であって、当該発泡空孔より大きな空孔を形成するための発泡剤を発泡焼結金属の原料の一部として含有させることにより、互いに連通する発泡空孔とともに、この発泡空孔より大きな複数の貫通孔を形成することができる。したがって、貫通孔を別途加工する必要がないので、製造コストの低減を図ることができる。
【0017】
請求項4に記載の発明においては、発泡空孔の平均孔径が1〜150μmであり、貫通孔の平均孔径が0.2〜3mmであるので、生成水は孔径のより小さな発泡空孔に吸い寄せられることになり、孔径の大きな貫通孔には水が吸い寄せられることがない。すなわち、貫通孔が単独で存在する場合には、当該貫通孔にも毛管現象によって水が吸い寄せられることになるが、貫通孔の周囲により孔径の小さな発泡空孔が存在することから、当該貫通孔に水が吸い寄せられることがない。したがって、貫通孔は酸化剤ガスを確実に流通させることができるので、酸化剤電極層側への酸化剤ガスの供給および生成水の排出を確実に行うことができる。
【0018】
なお、貫通孔の平均孔径を0.2〜3mmとしたのは、0.2mm未満であると、生成水により発泡空孔が部分的に覆われ、酸化剤ガスが酸化剤電極層の表面に有効に供給できなくなるおそれがあるからであり、3mmを超えると、発泡空孔部分が酸化剤電極層の表面に接触する面積が相対的に小さくなって、当該表面から生成水を吸引する量が低下してしまうからである。
【0019】
請求項5に記載の発明においては、気孔率が40〜99容量%であるので、生成水を十分に吸引することができる。しかも、この気孔率によって密度が小さくなっているので、例えばドリルを用いた機械的加工によって、より抵抗少なく容易に貫通孔を形成することができるとともに、発泡空孔が貫通孔において閉塞された状態になるのを防止することができる。また、発泡後、焼結前の状態において、例えば針を備えた治具により貫通孔を形成する場合にも、当該貫通孔をより抵抗少なく容易に形成することができるとともに、発泡空孔が貫通孔において閉塞された状態になるのを防止することができる。
なお、上記気孔率は、60〜98容量%にすることが、生成水の吸収量の増大を図り、機械的加工を容易にする上で好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。ただし、従来例で示した構成要素と共通する要素には同一の符号を付しその説明を簡略化する。
【0021】
この実施の形態で示す集電板6は、図1に示すように、固体高分子型燃料電池における他方のセパレータ5と空気電極層(酸化剤電極層)3との間に設置されるようになっている。
【0022】
すなわち、固体高分子型燃料電池は、電解質膜1の一方の面に積層され、水素を有する燃料ガス(この実施の形態の場合はほぼ100%の水素)が電解質膜1とは反対側の表面2aに供給される水素電極層(燃料電極層)2と、電解質膜1の他方の面に積層され、酸素を有する酸化剤ガス(この実施の形態の場合は空気)が上記電解質膜1とは反対側の表面3aに供給される空気電極層(酸化剤電極層)3とを備えている。
【0023】
水素電極層2側には、当該水素電極層2の表面2aに積層するように一方のセパレータ4が設置されている。
また、空気電極層3側には、当該空気電極層3の表面3aに集電板6が積層されているとともに、この集電板6にさらに積層するようにして他方のセパレータ5が設置されている。
【0024】
集電板6は、図1および図2に示すように、空気電極層3側に開口するとともに互いに連通し、空気電極層3側において発生した生成水を毛管現象で吸引する大きさの複数の発泡空孔6aを有する発泡焼結金属によって形成されている。そして、集電板6には、空気電極層3に向かう方向に貫通するとともに、発泡空孔6aが開口し、かつ空気の供給路となる複数の貫通孔6bが形成されている。
【0025】
この集電板6は、四角形の薄板状に形成された発泡焼結金属によって形成されており、貫通孔6bは、発泡焼結金属における一方の表面6cと、これに平行な他方の表面6dとを貫通するように形成されている。
【0026】
また、この実施の形態で示す発泡空孔6aは、四方八方に3次元の網目状に連通しており、上述した空気電極層3側の表面6cのみでなく、他方のセパレータ5側の表面6d、周縁部の各端面にも開口している。この発泡空孔6aの平均孔径は、1〜150μmである。
【0027】
一方、貫通孔6bは、機械的加工により形成された図2(a)に示すものと、集電板6の成形過程において発泡によって形成された図2(b)に示すものとがある。
【0028】
機械的加工により形成された貫通孔6bは、この実施の形態の場合には先端が尖った複数の針を備えた孔加工用治具(図示せず)を用い、その針を、発泡後、発泡焼結金属として焼結される前の変形がより容易な時に刺し通す加工を行うことによって形成されている。孔加工用治具は、複数の針が基板上に垂直に立設されたもので構成されている。
【0029】
そして、機械的加工により形成された貫通孔6bは、集電板6の表面6c、6dに垂直に形成され、その孔径(平均孔径)が0.2〜3mmに形成されている。また、隣接する貫通孔6b間のピッチは、その孔径の1.5〜3倍に形成されている。例えば、孔径が0.2mmの貫通孔6bの場合は、0.3〜0.6mmのピッチで形成されている。
なお、機械的加工により形成される貫通孔6bは、ドリル等の他の機械的加工によって形成されたものであってもよい。
【0030】
一方、発泡により形成された貫通孔6bは、発泡焼結金属の原料の一部として含有された発泡剤の発泡によって形成されるようになっている。この発泡により形成された貫通孔6bも、その平均孔径およびピッチが機械的加工により形成された貫通孔6bの孔径およびピッチと同等に形成されている。
【0031】
また、上記機械的加工および発泡により形成された貫通孔6bを除いた集電板6の気孔率は、40〜99容量%になっている。気孔率は、発泡空孔6aの合計容積を貫通孔6bを除いた集電板6の容積で割ったものに100を掛けてパーセントで表示したものである。
【0032】
そして、機械的加工による貫通孔6bを備えた集電板6は、鉄基合金粉末であるステンレス鋼(本実施の形態ではJIS記号でSUS316Lを使用)粉末を原料粉末とし、この原料粉末を40〜60重量%、水溶性樹脂バインダーとしてのメチルセルロースを5〜15重量%、界面活性剤としてのアルキルベンゼンスルホン酸塩を1〜3重量%、発泡剤としてのヘキサンを0.5〜3重量%、残部を水および不可避不純物とするものを混練機で混合してなる発泡性スラリーを原料として成形されたものである。上記原料粉末は、平均粒径が10μmのものである。
【0033】
また、発泡による貫通孔6bを備えた集電板6は、上記発泡性スラリーの原料に、さらに貫通孔6bを形成するための発泡剤としてのペンタンを0.5〜3重量%加えて混合した発泡性スラリーを原料として用いて成形されたものである。
【0034】
なお、図1等においては、電解質膜1等を水平方向に向けた状態のものを示しているが、通常は電解質膜1等を垂直方向に立てた状態にして使用することになる。
【0035】
また、集電板6は、図3に示すドクターブレード法を用いた成形装置によって成形されるようになっている。この成形装置は、キャリヤーシート7、ドクターブレード8、発泡性スラリーを投入するホッパ9、恒温・高湿度槽10、乾燥槽11、巻き出しリール12、巻取リール13、支持ロール14、15を備えたもので構成されている。
【0036】
次に、上記成形装置を用いて機械的加工による貫通孔6bを有する集電板6を製造する方法を説明する。まず、上述した発泡性スラリーをホッパ9に投入する。そして、この発泡性スラリーをキャリヤーシート7上にドクターブレード8により薄板状に成形し、恒温・高湿度槽10において、湿度が75〜95%、温度が30〜40℃、滞留時間が10〜20分の条件の下でスポンジ状に発泡させる。さらに、乾燥槽11において、温度が50〜70℃、滞留時間が50〜70分の条件の下で乾燥させてスポンジ状グリーン板(発泡性成形体)16を製造する。
【0037】
このスポンジ状グリーン板16に、図示しない孔加工用治具の複数の針を刺し通すことにより、貫通孔を形成する。
そして、この貫通孔を有するスポンジ状グリーン板16を、真空中において、550〜650℃、25〜35分の条件の下で、バインダー成分を除去する脱脂を行い、さらに真空中で、1200〜1300℃、60〜120分の条件の下で焼結することにより、厚さが0.5mmで、貫通孔6bおよび連続した発泡空孔6aを有し、気孔率が40〜99容量%のスポンジ状焼成金属板(発泡体)を製造する。
【0038】
このスポンジ状焼成金属板を所定の大きさに切断することにより、集電板6が製造される。なお、上記切断は、発泡空孔6aをそのまま維持した状態で開口させるため、放電加工によって行うことが好ましい。
そして、得られた集電板6は、連通する発泡空孔6aの毛管作用を確実に発揮させる目的で、室温において、約3〜10%塩酸水溶液中で7〜13分間酸洗処理を行う。酸洗処理の代わりに、紫外光やプラズマを照射してもよい。これにより、固体高分子型燃料電池に設置すべき集電板6が完成する。
【0039】
一方、発泡による貫通孔6bを有する集電板6を製造する場合には、上述したペンタンを0.5〜3重量%加えて混合した発泡性スラリーを原料として用い、上述した成形装置等を用いて、上記各条件の下で製造することになる。ただし、孔加工用治具を用いてスポンジ状グリーン板16に貫通孔6bを形成する工程は削除される。この場合、恒温・高湿度槽10において、上述した条件の下で、ヘキサンが発泡することによって、互いに連通する発泡空孔6aの原形となる孔が形成されるとともに、ペンタンが発泡することによって、貫通孔6bの原形となる孔が形成されることになる。そして、最終的に塩酸水溶液中での酸洗処理により、上記各原形孔が発泡空孔6aおよび貫通孔6bとして形成された集電板6が完成することになる。
【0040】
上記のように構成された固体高分子型燃料電池においては、一方のセパレータ4における溝4aの一端部に供給された水素が当該溝4a内を流れるとともに、当該溝4aの他端部から流出する。これによって、水素電極層2の表面2aの全体に水素が供給されることになることから、水素イオンが水素電極層2から電解質膜1を通って空気電極層3側に効率よく移動する。
【0041】
一方、他方のセパレータ5における溝5aの一端部に供給された空気は、当該溝5a内を通って溝5aの他端部に流れ、当該他端部から排出される。これによって、空気が集電板6の表面の全体にわたって供給されるとともに、集電板6の複数の貫通孔6bを通って、空気電極層3の表面3aの全体に供給されることになる。また、各貫通孔6bに供給された余剰の空気は、溝5aに戻って、当該溝5aの他端部から流出することになる。
【0042】
そして、空気電極層3の表面3aに供給された空気は、当該多孔質の空気電極層3内を電解質膜1側に移動する。このため、上述した(2)式の電気化学反応によって生成水が生じるとともに、この生成水が空気電極層3の毛管現象によって表面3a側に移動することになる。
【0043】
そうすると、集電板6は、空気電極層3の表面3aに移動した生成水を発泡空孔6aを介して毛管作用によって吸引することになる。また、発泡空孔6aが貫通孔6bに開口し、この貫通孔6bに空気が流通することから、各発泡空孔6aによって吸引された生成水が貫通孔6b内を通る空気中に効率よく蒸発して、空気電極層3に供給されることのない余剰の空気とともに集電板6から運び出されることになる。このため、生成水が空気電極層3内や当該空気電極層3の表面3aに滞留するのを防止することができる。したがって、集電板6の各貫通孔6bを介して供給された空気中の酸素を空気電極層3から電解質膜1側に間断なく供給することができるので、高出力で安定した電力を発生させることができる。
【0044】
また、固体高分子型燃料電池を、その方向を特定せずに使用するような場合、例えば携帯電話やデジタルカメラなど、携帯用のものとして使用した場合でも、生成水を効率よく排出することができる。すなわち、固体高分子型燃料電池の使用環境によっては、空気電極層3の表面3aが斜め上方を向いたり、水平方向の上方を向いたりすることがあり得るが、このような場合でも、生成水を間断なく排出して、安定した高出力の電力を維持することができる。
【0045】
さらに、発泡空孔6aの平均孔径が1〜150μmであり、貫通孔6bの平均孔径が0.2〜3mmであるので、生成水は孔径のより小さな発泡空孔6aに吸い寄せられることになり、孔径の大きな貫通孔6bには当該生成水が吸い寄せられることがない。すなわち、貫通孔6bが単独で存在する場合には、当該貫通孔6bにも毛管現象によって水が吸い寄せられることになるが、この貫通孔6bの周囲により孔径の小さな発泡空孔6aが存在することから、当該貫通孔6bに生成水が吸い寄せられることがない。したがって、貫通孔6bは空気を確実に流通させることができるので、空気電極層3側への酸素の供給および生成水の排出を確実に行うことができる。
しかも、気孔率が40〜99容量%であるので、生成水を十分に吸引することができる。
【0046】
また、集電板6が発泡焼結金属によって形成され、密度が小さくなっているので、焼結後においても、ドリルを用いた機械的加工により貫通孔6bを容易に成形することができる。この際、切削抵抗が小さいので、発泡空孔6aが貫通孔6bにおいて閉塞した状態になるのを防止することができる。特に、集電板6の気孔率が40〜99容量%に形成されていて、当該集電板6の密度が小さくなっているので、貫通孔6bを容易に形成することができるとともに、発泡空孔6aが貫通孔6bにおいて閉塞されるのを確実に防止することができる。
【0047】
さらに、複数の針を有する孔加工用治具によって、貫通孔6bを形成する場合には、複数の貫通孔6bを短時間で容易に形成することができる利点がある。また、この場合も、発泡後の乾燥した状態で貫通孔6bの原形となる孔を形成しているので、極めて抵抗力の少ない状態で、その原形孔を形成することができる。したがって、発泡空孔6aの原形となる孔が貫通孔6bの原形となる孔において、閉塞した状態になるのを防止することができるので、焼結後においても、発泡空孔6aが貫通孔6bにおいて閉塞した状態になるのを防止することができる。
【0048】
一方、発泡により貫通孔6bを形成した場合には、発泡工程で貫通孔6bを形成することができ、貫通孔6bを別途加工する必要がないので、製造コストの低減を図ることができる。
【0049】
なお、機械的加工による貫通孔6bを有する集電板6を製造するために用いた原料粉末は45〜55重量%、メチルセルロースは7.5〜12.5重量%、アルキルベンゼンスルホン酸塩は1.5〜2.5重量%、ヘキサンは1〜2重量%とすることがより好ましい。また、原料粉末は、平均粒径が10μmとすることがより好ましい。
【0050】
一方、発泡による貫通孔6bを有する集電板6を製造する場合には、原料粉末を45〜55重量%、メチルセルロースを7.5〜12.5重量%、アルキルベンゼンスルホン酸塩を1.5〜2.5重量%、ヘキサンを1〜2重量%、ペンタンを1〜2重量%とすることがより好ましい。この場合も、原料粉末は、平均粒径が10μmとすることが好ましい。
【0051】
また、集電板6の気孔率は、60〜98容量%にすることが、生成水の吸収量の増大を図り、機械的加工による貫通孔6bの形成を容易にする上で好ましい。
【0052】
また、上記実施の形態においては、集電板6の製造に当たって、鉄基合金粉末であるステンレス鋼粉末を原料粉末として用いた例を示したが、この原料粉末としては、耐食性の良い金属およびその合金、例えばニッケル基耐食合金の粉末等を用いたものであってもよい。
【0053】
一方、集電板6は、図4に示すように、水素電極層2と一方のセパレータ4との間に積層させるようにして設置してもよい。この場合には、水素とともに供給した水を貫通孔6bや発泡空孔6aを介して水素電極層2に供給し、当該多孔質の水素電極層2を適度に湿潤させることができるので、水素イオンを効率よく発生させることができる。したがって、固体高分子型燃料電池の出力の向上を図ることができる。
【0054】
また、水素や空気を、それぞれセパレータ4、5の溝4a、5aの一端部に供給して他端部から排出するように構成したが、上記各溝4a、5aを削除するとともに、水素や空気を、図5に示すように、集電板6における一方の端面6eに供給して、各電極層2、3の表面2a、3aに沿って移動させ、当該一方の端面6eとは反対側に位置する他方の端面6fから排出するように構成してもよい。
ただし、この場合には、一方の端面6eおよび他方の端面6fに開口し、かつ各貫通孔6bに連通する連通孔(図示せず)あるいは連通溝(図示せず)を設ける必要がある。
【0055】
そして、上記連通孔としては、水素電極層2側に設ける集電板6の場合には発泡空孔6aをそのまま用いることが可能であり、空気電極層3側に設ける集電板6の場合には生成水の吸引量が少ない空気電極層3と反対側の部分に位置する発泡空孔6aをそのまま用いることが可能である。
また、上記連通溝としては、集電板6の表面6c、6dの少なくとも一方に設けることになる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】この発明の一実施の形態としての集電板を備えた固体高分子型燃料電池の単位セルを示す断面図である。
【図2】同集電板の要部を示す図であって、(a)は機械的加工により形成された貫通孔を有するものを示す要部断面図であり、(b)は発泡により形成された貫通孔を有するものを示す要部断面図である。
【図3】同集電板の成形装置を示す説明図である。
【図4】同集電板を用いた他の固体高分子型燃料電池の単位セルを示す断面図である。
【図5】同集電板を用いたさらに他の固体高分子型燃料電池の単位セルを示す断面図である。
【図6】従来の固体高分子型燃料電池の単位セルを示す断面図である。
【図7】同固体高分子型燃料電池の原理を示す説明図である。
【符号の説明】
【0057】
1 電解質膜
2 水素電極層(燃料電極層)
2a 表面
3 空気電極層(酸化剤電極層)
3a 表面
6 集電板
6a 発泡空孔
6b 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の一方の面に積層され、水素を有する燃料ガスが上記電解質膜とは反対側の表面に供給される燃料電極層と、上記電解質膜の他方の面に積層され、酸素を有する酸化剤ガスが上記電解質膜とは反対側の表面に供給される酸化剤電極層とのうち、少なくとも上記酸化剤電極層の上記表面に積層される固体高分子型燃料電池の集電板であって、
上記酸化剤電極層側に開口するとともに互いに連通し、上記酸化剤電極層側において発生した水を毛管現象で吸引する大きさの複数の発泡空孔を有する発泡焼結金属によって形成されており、
上記酸化剤電極層に向かう方向に貫通するとともに、上記発泡空孔が開口し、かつ上記酸化剤ガスの供給路となる複数の貫通孔が形成されていることを特徴とする固体高分子型燃料電池の集電板。
【請求項2】
上記貫通孔は、機械的加工により形成されていることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子型燃料電池の集電板。
【請求項3】
上記貫通孔は、上記発泡焼結金属の原料の一部として含有された発泡剤の発泡により形成されていることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子型燃料電池の集電板。
【請求項4】
上記発泡空孔の平均孔径が1〜150μmであり、上記貫通孔の平均孔径が0.2〜3mmであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の固体高分子型燃料電池の集電板。
【請求項5】
気孔率が40〜99容量%であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の固体高分子型燃料電池の集電板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−317673(P2007−317673A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−201751(P2007−201751)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【分割の表示】特願2002−215708(P2002−215708)の分割
【原出願日】平成14年7月24日(2002.7.24)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】