説明

固体高分子電解質、プロトン伝導膜、電極電解質、電極ペーストおよび膜−電極接合体

【課題】熱的安定性や寸法安定性に優れたプロトン酸基を有する高分子電解質の提供。
【解決手段】下記式で表される構造を有するプロトン酸基を有する共重合体。


[Xは2価の電子吸引性基;YはO、S;Z、Qは、直接結合、O、S、CO、SO2、[C(R')2]g(g:1〜8の整数)等;R、R’、R1〜R16は、H、F、(フッ素置換)
アルキル、アリール、ニトリル基;m、n、p、q、r、s、t、uは0〜4の整数(p+q≧1);Aは式(5a)、(5b)で表される基。]


[Wは2価の電子吸引性基、Sはプロトン酸基、iは1〜5、jは1〜7の整数。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトン酸基を有する構成単位と、プロトン酸基を有さない構成単位とを含有する高分子電解質に関し、さらに詳しくは、燃料電池、水電解、ハロゲン化水素酸電解、食塩電解、酸素濃縮器、湿度センサ、ガスセンサなどに用いられる電解質膜等として好適な固体高分子電解質、該高分子電解質を含むプロトン伝導膜、電極電解質、電極ペーストおよび膜−電極接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子電解質は、高分子鎖中にスルホン酸基などのプロトン酸基を有する高分子材料であり、特定のイオンと強固に結合したり、陽イオンまたは陰イオンを選択的に透過する性質を有していることから、粒子、繊維または膜状に成形されて各種の用途に利用されている。
【0003】
たとえば、固体高分子型燃料電池は、プロトン伝導性を有する高分子電解質膜(プロトン伝導膜)の両面に一対の電極を設け、改質ガス等の水素を含む燃料ガスを一方の電極(燃料極)へ供給し、空気等の酸素を含む酸化剤ガスを他方の電極(空気極)へ供給し、燃料が酸化する際に発生する化学エネルギーを、直接電気エネルギーとして取り出す電池である。
【0004】
固体高分子型燃料電池は、電池の作動温度が高くなるほど、発電効率が高くなることが知られている。また、プロトン伝導膜の両面に接合される電極には、白金系の電極触媒が含まれているが、白金は微量の一酸化炭素であっても被毒され、燃料電池の出力を低下させる原因となる。しかも、白金系電極触媒の一酸化炭素による被毒は、低温ほど著しくなることが知られている。そのため、微量の一酸化炭素を含むメタノール改質ガスなどを燃料ガスとして用いる固体高分子型燃料電池においては、発電効率を向上させるとともに、電極触媒の一酸化炭素による被毒を低減するために、作動温度を高くすることが望まれている。
【0005】
しかしながら、高温加湿条件下での高分子電解質の寸法変化などの問題、また、プロトン伝導性を有する高分子電解質として知られるナフィオン(登録商標、デュポン社製)に代表されるパーフルオロ系電解質は、非架橋であることから耐熱性が低いため、高温で使用できないといった問題がある。
【0006】
一方、高温耐久性改善のために、芳香族ポリアリーレンエーテルケトン類や芳香族ポリアリーレンエーテルスルホン類などのポリマーに、スルホン酸基などを導入した高分子電解質も研究されている(たとえば、特許文献1、非特許文献1〜3)。しかし、一般にこれらの高分子電解質は、高温加湿条件下での吸水率および膨潤が大きく、寸法安定性に優れないという問題点がある。また、膨潤抑制のためにスルホン酸濃度を下げるとプロトン伝導度が著しく低下してしまう。さらに、高温条件下で使用し続けるとスルホン酸基が脱離または分解してしまうため、耐久性が低いという問題も存在する。
【特許文献1】米国特許第5,403,675号公報
【非特許文献1】Polymer Preprints,Japan,Vol.42,No.3,p.730 (1993)
【非特許文献2】Polymer Preprints,Japan,Vol.42,No.7,p.2490〜2492 (1993)
【非特許文献3】Polymer Preprints,Japan,Vol.43,No.3,p.735〜736 (1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、高温加湿条件下においても寸法安定性に優れるとともに、熱的安定性にも優れたプロトン酸基を有する高分子電解質、該高分子電解質を含むプロトン伝導膜、電極電解質、電極ペーストおよび膜−電極接合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記のような従来技術における問題点に鑑み鋭意検討した。その結果、プロトン酸基を有する特定構造の構成単位と、プロトン酸基を有さない特定構造の構成単位とを含有する共重合体を含む高分子電解質によって、上記課題を解決することができることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明に係る高分子電解質は、下記式(1)で表されるプロトン酸基を有する構成単位と、下記式(6)で表されるプロトン酸基を有さない構成単位とを含有する共重合体を含むことを特徴とする。
【0010】
【化1】

【0011】
式(1)中、Ar1は下記式(2)で表される結合単位を示し、Ar2は下記式(3)で表される結合単位を示し、Yは酸素原子または硫黄原子を示す。
【0012】
【化2】

【0013】
式(2)中、Xは2価の電子吸引性基を示し、nは0〜4の整数を示し、pおよびqはそれぞれ0〜4の整数(ただし、p+q≧1)を示し、Rは独立に水素原子、フッ素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基またはニトリル基を示し、Aは下記式(5a)または(5b)で表される基を示す。
【0014】
【化3】

【0015】
式(3)中、Zは直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO2−、−[C(R')2]g−(R'は水素原子、フッ素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基またはアリール基を
示し、gは1〜8の整数を示す。)または下記式(4a)〜(4d)のいずれかで表される結合単位を示し、mは0〜4の整数を示し、tおよびuはそれぞれ0〜4の整数を示し
、RおよびAは前記式(2)中のRおよびAと同義である。
【0016】
【化4】

【0017】
式(4a)〜(4d)中、fは0〜4の整数を示し、h、kおよびlはそれぞれ0〜5の整数を示し、RおよびAは前記式(2)中のRおよびAと同義である。
【0018】
【化5】

【0019】
式(5a)および(5b)中、Wは2価の電子吸引性基を示し、Sはプロトン酸基を示し、iは1〜5の整数を示し、jは1〜7の整数を示し、Rは前記式(2)中のRと同義である。
【0020】
【化6】

【0021】
式(6)中、Ar3は下記式(7)で表される結合単位を示し、Ar4は下記式(8)で表される結合単位を示し、Yは酸素原子または硫黄原子を示す。
【0022】
【化7】

【0023】
式(7)中、Xは2価の電子吸引性基を示し、rは0〜4の整数を示し、R1〜R8は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基またはニトリル基を示す。
【0024】
【化8】

【0025】
式(8)中、Qは直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO2−、−[C(R')2]g−(R'は水素原子、フッ素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基またはアリール基を
示し、gは1〜8の整数を示す。)または下記式(9a)〜(9d)のいずれかで表される結合単位を示し、sは0〜4の整数を示し、R9〜R16は互いに同一でも異なっていて
もよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基またはニトリル基を示す。
【0026】
【化9】

【0027】
式(9a)〜(9d)中、R17〜R44は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基またはニトリル基を示す。
【0028】
上記共重合体は、上記式(1)で表されるプロトン酸基を有する構成単位からなるブロックと、上記式(6)で表されるプロトン酸基を有さない構成単位からなるブロックとを、それぞれ1個以上含有するブロック共重合体であることが好ましい。
【0029】
上記式(2)および(7)中のXは、−CO−、−SO2−または−[C(R'')2]g−で
あり、かつ、上記式(5a)および(5b)中のWが、−CO−、−SO2−または−[C(R'')2]g−(R''はフッ素原子またはフッ素置換アルキル基を示し、gは1〜8の整数
を示す。)であることが好ましい。
【0030】
上記式(1)で表される構成単位は、下記式(18)〜(21)のいずれかで表される構成単位であることが好ましい。
【0031】
【化10】

【0032】
式(18)〜(21)中、W’は−CO−または−SO2−を示し、A’は下記式(2
2a)〜(22c)のいずれかで表される基を示す。
【0033】
【化11】

【0034】
式(22a)〜(22c)中、W’は−CO−または−SO2−を示す。
上記式(6)で表される構成単位は、下記式(10)〜(12)のいずれかで表される構成単位であることが好ましい。
【0035】
【化12】

【0036】
式(10)〜(12)中、Qは上記式(8)中のQと同義である。
本発明のプロトン伝導膜は、上記高分子電解質を含むことを特徴とし、本発明の電極電解質は、上記高分子電解質からなることを特徴とし、本発明の電極ペーストは、上記電極電解質、触媒担持カーボンおよび溶媒を含むことを特徴とする。
【0037】
本発明の膜−電極接合体は、プロトン伝導膜と電極層とを有し、該プロトン伝導膜および/または電極層が、上記高分子電解質を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0038】
本発明の高分子電解質は、高温加湿条件下においても低吸水率であるため寸法安定性に優れ、さらには熱的安定性に優れる。このような高分子電解質を含むプロトン伝導膜および/または電極を有する膜−電極接合体を用いた燃料電池は、高温条件下においても使用することができる。したがって、燃料電池の燃費および発電効率などを向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明に係る高分子電解質、該高分子電解質を含むプロトン伝導膜、電極電解質、電極ペーストおよび膜−電極接合体について、詳細に説明する。
〔高分子電解質〕
本発明の高分子電解質は、上記式(1)で表されるプロトン酸基を有する構成単位(以
下「構成単位(1)」ともいう)と、上記式(6)で表されるプロトン酸基を有さない構成単位(以下「構成単位(6)」ともいう)とを含有する共重合体を含む。
【0040】
<共重合体の構造>
上記構成単位(1)中のAr1は上記式(2)で表される結合単位を示し、Ar2は上記式(3)で表される結合単位を示す。また、上記構成単位(6)中のAr3は上記式(7
)で表される結合単位を示し、Ar4は上記式(8)で表される結合単位を示す。
【0041】
上記式(2)および(7)中のXは、2価の電子吸引性基を示し、たとえば、−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−SO2NH−、−SO2NHSO2−、−COO−、−[C(R'')2]g−(R''は、フッ素原子またはフッ素置換アルキル基を示し、gは1〜8の整数を示す。)などが挙げられる。これらの中では、−CO−、−SO2−および
−[C(R'')2]g−が好ましい。
【0042】
上記式(3)中のZは、直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO2−、−[C(R')2]g−(R'は水素原子、フッ素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基またはアリー
ル基を示し、gは1〜8の整数を示す。)または上記式(4a)〜(4d)のいずれかで表される結合単位を示す。これらの中では、−CO−、−SO2−、−O−および−[C(
R')2]g−が好ましい。
【0043】
上記式(2)、(3)、(4a)〜(4d)、(5a)および(5b)中のRは、水素原子、フッ素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基またはニトリル基を示し、複数のRはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。ここで、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、アミル基、ヘキシル基などが挙げられ、メチル基、エチル基が好ましい。フッ素置換アルキル基としては、トリフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基などが挙げられ、トリフルオロメチル基、パーフルオロエチル基が好ましい。アリール基としては、フェニル基、ペンタフルオロフェニル基などが挙げられる。
【0044】
上記式(2)、(3)および(4a)〜(4d)中のAは、上記式(5a)または(5b)で表されるプロトン酸基を有する基を示す。
上記式(5a)および(5b)中、Wは2価の電子吸引性基を示し、たとえば、−CO−、−SO2−、−SO−、−CONH−、−SO2NH−、−SO2NHSO2−、−COO−、−[C(R'')2]g−(R''は、フッ素原子またはフッ素置換アルキル基を示し、gは1〜8の整数を示す。)などが挙げられる。これらの中では、−CO−、−SO2−およ
び−[C(R'')2]g−が好ましい。
【0045】
上記式(5a)および(5b)中、Sはプロトン酸基を示し、たとえば、カルボン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、スルホニルイミド基、パーフルオロアルキレンスルホン酸基、パーフルオロフェニレンスルホン酸基などが挙げられる。これらの中では、スルホン酸基が特に好ましい。
【0046】
上記式(8)中のQは、直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO2−、−[C(R')2]g−(R'は水素原子、フッ素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基またはアリー
ル基を示し、gは1〜8の整数を示す。)または上記式(9a)〜(9d)のいずれかで表される結合単位を示す。これらの中では、−CO−、−SO2−および−[C(R')2]g−が好ましい。
【0047】
上記式(7)、(8)および(9a)〜(9d)中のR1〜R44は、互いに同一でも異
なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基またはニトリル基を示す。具体的には、上記Rと同様のものが挙げられる。
【0048】
本発明の高分子電解質は、上記構成単位(1)と上記構成単位(6)とから構成される下記式(13)で表される構造を有する共重合体からなる。
【0049】
【化13】

【0050】
式(13)中、X,Y,Z,Q,A,R,R1〜R8,p,q,t,u、m、n、rおよびsは、上記式(2)、(3)、(7)および(8)中で定義したとおりである。なお、xおよびyは、x+y=100モル%とした場合のモル比を示す。
【0051】
本発明の高分子電解質を構成する共重合体は、構成単位(1)を0.5〜99.999モル%、好ましくは10〜99.99モル%の割合で、構成単位(6)を99.5〜0.001モル%、好ましくは90〜0.01モル%の割合で含有する。
【0052】
上記共重合体は、上記構成単位(1)と構成単位(6)とがランダム共重合の形で結合していても、ブロック共重合の形で結合していてもよいが、高分子電解質の耐熱水性および高温加湿条件下における寸法安定性の観点から、上記構成単位(1)からなるブロックと、上記構成単位(6)からなるブロックとを、それぞれ1個以上含むブロック共重合体であることが好ましい。
【0053】
<共重合体の合成方法>
本発明の高分子固体電解質を構成する共重合体を合成する方法としては、以下の方法が挙げられる。
【0054】
1)予め合成した構成単位(1)を有するオリゴマー(以下「オリゴマー(1)」ともいう)と、構成単位(6)を有するオリゴマー(以下「オリゴマー(6)」ともいう)とを反応させて共重合体を合成する方法。
【0055】
2)予め合成したオリゴマー(1)と、構成単位(6)となりうるモノマーとを反応させて共重合体を合成する方法。
3)予め合成したオリゴマー(6)と、構成単位(1)となりうるモノマーとを反応させて共重合体を合成する方法。
【0056】
前記1)の方法では、オリゴマー(1)の末端基がハロゲン原子の場合、オリゴマー(6)の末端基がOKまたはSK(Kは水素原子または1価のカチオン種)となるように、また、オリゴマー(1)の末端基がOKまたはSK(Kは水素原子または1価のカチオン種)の場合、オリゴマー(6)の末端基がハロゲン原子となるように、各々のオリゴマーを合成する。
【0057】
<オリゴマー(1)の合成方法>
上記オリゴマー(1)は、下記式(14)で表されるモノマー(以下「モノマー(14
)」ともいう)と、下記式(15)で表されるモノマー(以下「モノマー(15)」ともいう)とを用いて合成することができる。
【0058】
【化14】

【0059】
式(14)中、X,n,p,q,R,Aは、上記式(2)中のX,n,p,q,R,Aと同義であり、Bはハロゲン原子を示す。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子が好ましい。
【0060】
【化15】

【0061】
式(15)中、Z、m、t,u、R,Aは、上記式(3)中のZ,m,t,u,R,Aと同義であり、DはOKまたはSK(Kは水素原子または1価のカチオン種を示す。)で表される基を示す。一価のカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属カチオンが好ましい。
【0062】
上記モノマー(14)の具体例としては、以下のような化合物が挙げられる。
【0063】
【化16】

【0064】
【化17】

【0065】
【化18】

【0066】
また、上記化合物において、塩素原子がフッ素原子に置き換わった化合物、−CO−が−SO2−に置き換わった化合物、−SO2−が−CO−に置き換わった化合物、ならびに、塩素原子がフッ素原子に置き換わり、かつ、−CO−が−SO2−に置き換わった化合
物なども挙げられる。
【0067】
上記モノマー(15)の具体例としては、4,4’−ビフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ジ(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−フェニルー4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタンおよび下記式で表される化合物などのビスフェノール化合物、およびその水酸基の水素原子が一価のカチオンに置換した化合物が挙げられる。
【0068】
【化19】

【0069】
【化20】

【0070】
【化21】

【0071】
【化22】

【0072】
上記化合物において、水酸基の水素原子が一価のカチオンに置換した化合物、−CO−が−SO2−に置き換わった化合物、−SO2−が−CO−に置き換わった化合物なども挙げられる。
【0073】
上記構成単位(1)の好ましい構造としては、下記の構造が挙げられる。
【0074】
【化23】

【0075】
式(18)〜(21)中、W’は−CO−または−SO2−を示し、A’は下記式(2
2a)〜(22c)のいずれかで表される基を示す。
【0076】
【化24】

【0077】
式(22a)〜(22c)中、W’は−CO−または−SO2−を示す。
上記オリゴマー(1)は、たとえば、以下に示す求核置換反応により合成することができる。
【0078】
まず、上記モノマー(15)を、対応するビスフェノールのアルカリ金属塩とするために、誘電率の高い極性溶媒中で、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、または、水素化アルカリ金属、水酸化アルカリ金属、アルカリ金属炭酸塩などのアルカリ金属化合物を加える。上記誘電率の高い極性溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、スルホラン、ジフェニルスルホン、ジメチルスルホキサ
イド、N,N-ジメチルイミダゾリジノンなどが挙げられる。上記アルカリ金属は、フェノール性水酸基に対して、通常1.1〜2倍当量、好ましくは1.2〜1.5倍当量で用いる。
【0079】
次いで、水と共沸する溶媒、たとえば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、クロロベンゼン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール、フェネトールなどを共存させて、上記モノマー(15)のアルカリ金属塩と、上記モノマー(14)とを反応させる。上記モノマー(14)は、反応性の観点から、フッ素化合物または塩素化合物であることが好ましい。
【0080】
上記モノマー(14)は、モノマー(15)のアルカリ金属塩1モルに対し、0.1〜4.0モル、好ましくは0.3〜2.8モル、より好ましくは0.5〜2.0モルの範囲の量で用いられる。反応温度は60℃〜300℃、好ましくは80℃〜250℃の範囲である。反応時間は15分〜100時間、好ましくは1時間〜24時間の範囲である。
【0081】
なお、次の共重合反応を考えると、オリゴマー(1)の末端基がハロゲン原子あるいはOKまたはSK基(Kは水素原子または1価のカチオン種)となるよう、モノマー(14)とモノマー(15)とのモル比を調節することが望ましい。具体的には、オリゴマー(1)の末端基をハロゲン原子とする場合には、モノマー(15)に対して過剰量のモノマー(14)を用いてオリゴマー(1)を合成する。また、オリゴマー(1)の末端基をOKまたはSKとする場合には、モノマー(14)に対して過剰量のモノマー(15)を用いてオリゴマー(1)を合成する。また、必要に応じて、反応終了後に、過剰に用いたモノマーを、さらに、反応に用いた量1モルに対して0.01〜1モル量を末端キャップ剤として添加して反応させてもよい。
【0082】
<オリゴマー(6)の合成方法>
上記オリゴマー(6)は、前述したオリゴマー(1)の合成方法と同様にして、下記式(16)で表されるモノマー(以下「モノマー(16)」ともいう)と、下記式(17)で表されるモノマー(以下「モノマー(17)」ともいう)とを用いて合成することができる。具体的には、オリゴマー(6)の末端基をハロゲン原子とする場合には、モノマー(17)に対して過剰量のモノマー(16)を用いてオリゴマー(6)を合成する。また、オリゴマー(6)の末端基をOKまたはSK(Kは水素原子または1価のカチオン種)とする場合には、モノマー(16)に対して過剰量のモノマー(17)を用いてオリゴマー(6)を合成する。また、必要に応じて、反応終了後に、過剰に用いたモノマーを、さらに、反応に用いた量1モルに対して0.01〜1モル量を末端キャップ剤として添加して反応させてもよい。
【0083】
【化25】

【0084】
式(16)中、X,r,R1〜R8は、上記式(7)中のX,r,R1〜R8と同義であり、Bはハロゲン原子を示す。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子が好ましい。
【0085】
【化26】

【0086】
式(17)中、Q,s,R9〜R16は、上記式(8)中のQ,s,R9〜R16と同義であり、DはOKまたはSK(Kは水素原子または1価のカチオン種を示す。)で表される基を示す。一価のカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属カチオンが好ましい。
【0087】
上記モノマー(16)の具体例としては、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、2,3,5,6−テトラフルオロベンゾニトリル、1,4−ジシアノ−2,3,5,6−テトラフルオロベンゾニトリル、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4'−ジフルオロジフェニルスルホン、4−クロロ−4'−フルオロジフェニルスルホン、4,4'−ジクロロベンゾフェノン、4,4'−ジフルオロベンゾフェノン、4−クロロ−4'−フルオロベンゾフェノン、2,4'−ジクロロベンゾフェノン、ビス(4−クロロフェニル)ジフルオロメタン、4,4'−ジクロロベンズアニリド、ビ
ス(4−クロロフェニル)スルホキシドなどが挙げられる。
【0088】
これらの化合物において塩素原子がフッ素原子、臭素原子またはヨウ素原子に置き換わった化合物、さらにこれらの化合物において4位に置換したハロゲン原子の少なくとも1つが3位に置換した化合物なども挙げられる。上記モノマー(16)は、−CO−、−SO2−などの電子吸引性基を有する化合物が好ましい。
【0089】
上記モノマー(17)の具体例としては、4,4'−ビフェノール、ビス(4−ヒドロ
キシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ジ(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−フェニルー4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタンなどのようなビスフェノール化合物、およびその水酸基の水素原子が一価のカチオンに置換した化合物が挙げられる。
【0090】
<共重合体の合成方法1)>
上記オリゴマー(1)とオリゴマー(6)とを反応させて共重合体を合成する場合、いずれか一方のオリゴマーの末端基がハロゲン基、他方のオリゴマーの末端基がOKまたはSK基(Kは水素原子または1価のカチオン種)という組み合わせとなるように、オリゴ
マーを予め合成する。この場合、オリゴマー(1)とオリゴマー(6)とのモル比[(1):(6)]が、0.9:1.1〜1.1:0.9、好ましくは0.95:1.05〜1.05:0.95、より好ましくは0.99:1.01〜1.01:0.99の範囲で反応させることが好ましい。
【0091】
<共重合体の合成方法2)および3)>
上記オリゴマー(6)と、上記オリゴマー(1)となりうるモノマー(14)および(15)とを反応させて上記共重合体を合成する方法および条件は、上記オリゴマー(1)の合成方法および条件とほぼ同様である。この場合、オリゴマー(1)の末端基がハロゲン基の場合、オリゴマー(1)+モノマー(14)とモノマー(15)のモル比[(1)+(14):(15)]が、0.9:1.1〜1.1:0.9、好ましくは0.95:1.05〜1.05:0.95、より好ましくは0.99:1.01〜1.01:0.99の範囲で反応させることが好ましい。オリゴマー(1)の末端基がOKまたはSK基(Kは水素原子または1価のカチオン種)の場合、オリゴマー(1)+モノマー(15)とモノマー(14)のモル比[(1)+(15):(14)]が、0.9:1.1〜1.1:0.9、好ましくは0.95:1.05〜1.05:0.95、より好ましくは0.99:1.01〜1.01:0.99の範囲で反応させることが好ましい。
【0092】
また、上記オリゴマー(1)と、上記オリゴマー(6)となりうるモノマー(16)および(17)とを反応させて上記共重合体を合成する場合も同様である。この場合、オリゴマー(6)の末端基がハロゲン基の場合、オリゴマー(6)+モノマー(16)とモノマー(17)のモル比[(6)+(16):(17)]が、0.9:1.1〜1.1:0.9、好ましくは0.95:1.05〜1.05:0.95、より好ましくは0.99:1.01〜1.01:0.99の範囲で反応させることが好ましい。オリゴマー(6)の末端基がOKまたはSK基(Kは水素原子または1価のカチオン種)の場合、オリゴマー(6)+モノマー(17)とモノマー(16)のモル比[(6)+(17):(16)]が、0.9:1.1〜1.1:0.9、好ましくは0.95:1.05〜1.05:0.95、より好ましくは0.99:1.01〜1.01:0.99の範囲で反応させることが好ましい。
【0093】
<酸処理>
本発明の高分子電解質を構成する共重合体のプロトン酸基部がプロトン酸塩(たとえば、−SO3Na等)で得られた場合、酸処理によってプロトン酸基に変換することができ
る。酸処理に用いられる酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸などを用いることができ、塩酸および硫酸が好ましい。濃度としては0.1〜8規定濃度が好ましく、1〜5規定濃度がより好ましい。酸処理方法としては、共重合体を粉体のまま上記濃度の酸性水溶液中に浸漬して、pHが5以下になるまで洗浄してもよいし、製膜した状態のものを酸性水溶液中で処理して、pHが5以下になるまで洗浄してもよい。
【0094】
本発明の高分子電解質を構成する共重合体のプロトン酸基量は、通常0.3〜4meq/g、好ましくは0.5〜3meq/g、さらに好ましくは0.8〜2.8meq/gである。プロトン酸基量が上記範囲よりも少ないと、プロトン伝導度が低く実用的ではない。一方、上記範囲を超えると、耐水性が大幅に低下してしまうことがあるため好ましくない。上記プロトン酸基量は、たとえば、上記モノマー(14)〜(17)の種類、使用割合、組み合わせ、上記構成単位(1)と構成単位(6)との比率などを変えることにより、調整することができる。
【0095】
<分子量>
本発明の高分子電解質を構成する共重合体の分子量は、強度と加工性のバランスの観点から、ゲルパーミエションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算重量平均
分子量(以下「Mw」ともいう)で、1万〜100万、好ましくは2万〜50万、より好ましくは5万〜30万である。Mwが上記範囲より低いと高分子電解質の十分な強度が得られず、上記範囲より高いと加工が困難となる傾向にある。
【0096】
<添加剤>
本発明の高分子電解質は、上記共重合体以外に、酸化防止剤、硫酸、リン酸などの無機酸、リン酸ガラス、タングステン酸、リン酸塩水和物、β-アルミナプロトン置換体、プ
ロトン導入金属酸化物等の無機プロトン伝導体粒子、カルボン酸を含む有機酸、スルホン酸を含む有機酸、ホスホン酸を含む有機酸、適量の水などを添加してもよい。
【0097】
上記酸化防止剤としては、分子量500以上のヒンダードフェノール系化合物が好まし
い。このような酸化防止剤を含有することにより、電解質としての耐久性をより向上させることができる。
【0098】
上記ヒンダードフェノール系化合物としては、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:IRGANOX 245)、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒ
ドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:IRGANOX 259)、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−3,5−トリアジン(商品名:IRGANOX 565)、ペンタエリスリチルーテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:IRGANOX 1010)、2,2
−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プ
ロピオネート](商品名:IRGANOX 1035)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル
−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)(商品名:IRGANOX 1076)、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチルー4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)(IRGAONOX 1098)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒ
ドロキシベンジル)ベンゼン(商品名:IRGANOX 1330)、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト(商品名:IRGANOX 3114)、3,9−
ビス[2−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]
ウンデカン(商品名:Sumilizer GA-80)などを挙げることができる。
【0099】
本発明の高分子電解質に添加される添加剤の量は、特に限定されず、高分子電解質に要求される酸化耐性、プロトン伝導性、強度および弾性率などに応じて、最適な量を用いればよい。たとえば、上記共重合体100重量部に対して、添加剤の全重量が0.001〜30重量部、好ましくは0.01〜10重量部の範囲で添加することが望ましい。また、添加剤は単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0100】
<用途>
上記高分子電解質は、膜状に成形することにより後述するプロトン伝導膜として用いることができるとともに、固体高分子型燃料電池における電極触媒層の電解質、すなわち電極電解質として用いることもできる。
【0101】
なお、本発明に係る高分子電解質の用途は、燃料電池に限定されるものではなく、ハロゲン化水素酸電解、食塩電解、酸素濃縮器、湿度センサ、ガスセンサ等などにも応用することができる。
【0102】
〔プロトン伝導膜〕
本発明のプロトン伝導膜は、上記構成単位(1)および構成単位(6)を有する共重合体を溶剤中で溶解または膨潤させ、それを基体上に流延してフィルム状に成形するキャス
ティング法などにより成膜することができる。
【0103】
上記基体としては、通常の溶液キャスティング法に用いられる基体であれば特に限定されず、たとえばプラスチック製、金属製などの基体が用いられ、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどの熱可塑性樹脂からなる基体が用いられる。
【0104】
共重合体を溶解または膨潤させる溶媒としては、たとえば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチル尿素、ジメチルイミダゾリジノン、アセトニトリル等の非プロトン系極性溶剤;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素系溶剤;メタノール、エタノール、プロパノール、iso−プロピルアルコール、sec−ブチアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、γーブチルラクトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン等のエーテル類などが挙げられる。これらの溶媒は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に、溶解性および溶液粘度の観点から、N−メチル−2−ピロリドン(以下「NMP」ともいう)が好ましい。
【0105】
また、上記溶媒として、非プロトン系極性溶剤と他の溶剤との混合物を用いる場合、該混合物の組成は、非プロトン系極性溶剤が95〜25重量%、好ましくは90〜25重量%、他の溶剤が5〜75重量%、好ましくは10〜75重量%(ただし、合計を100重量%とする)である。他の溶剤の量が上記範囲内にあると、溶液粘度を下げる効果に優れる。このような非プロトン系極性溶剤と他の溶剤との組み合わせとしては、非プロトン系極性溶剤としてNMP、他の溶剤として幅広い組成範囲で溶液粘度を下げる効果があるメタノールが好ましい。
【0106】
共重合体を溶解させた溶液のポリマー濃度は、共重合体の分子量にもよるが、通常、5〜40重量%、好ましくは7〜25重量%である。ポリマー濃度が上記範囲よりも低いと、厚膜化し難く、また、ピンホールが生成しやすい傾向にあり、上記範囲を超えると、溶液粘度が高すぎてフィルム化し難く、また、表面平滑性に欠けることがある。
【0107】
なお、溶液粘度は、共重合体の分子量、ポリマー濃度、添加剤の濃度などによっても異なるが、通常、2,000〜100,000mPa・s、好ましくは3,000〜50,000mPa・sである。溶液粘度が上記範囲よりも低いと、成膜中の溶液の滞留性が悪く、基体から流れてしまうことがあり、上記範囲を超えると、粘度が高過ぎて、ダイからの押し出しができず、流延法によるフィルム化が困難となることがある。
【0108】
上記のようにして成膜した後、得られた未乾燥フィルムを水に浸漬すると、未乾燥フィルム中の有機溶媒を水と置換することができ、膜中の残留溶媒量を低減することができる。なお、成膜後、未乾燥フィルムを水に浸漬する前に、未乾燥フィルムを予備乾燥してもよい。予備乾燥は、未乾燥フィルムを通常50〜150℃の温度で、0.1〜10時間保持することにより行われる。
【0109】
未乾燥フィルム(予備乾燥後のフィルムも含む。以下同じ。)を水に浸漬する際は、枚葉を水に浸漬するバッチ方式でもよく、基板フィルム(たとえば、PET)上に成膜された状態の積層フィルムのまま、または基板から分離した膜を、水に浸漬させて巻き取っていく連続方式でもよい。また、バッチ方式の場合は、処理後のフィルム表面に皺が形成されることを抑制するために、未乾燥フィルムを枠にはめるなどの方法で、水に浸漬させる
ことが好ましい。
【0110】
未乾燥フィルムを水に浸漬する際の水の使用量は、未乾燥フィルム1重量部に対して、10重量部以上、好ましくは30重量部以上、より好ましくは50重量部以上である。水の使用量が上記範囲であれば、得られるプロトン伝導膜の残存溶媒量を少なくすることができる。また、浸漬に使用する水を交換したり、オーバーフローさせたりして、常に水中の有機溶媒濃度を一定濃度以下に維持しておくことも、得られるプロトン伝導膜の残存溶媒量を低減することに有効である。さらに、プロトン伝導膜中に残存する有機溶媒量の面内分布を小さく抑えるためには、水中の有機溶媒濃度を撹拌等によって均質化させることが効果的である。
【0111】
未乾燥フィルムを水に浸漬する際の水の温度は、置換速度および取り扱いやすさの点から、通常5〜80℃、好ましくは10〜60℃の範囲である。高温ほど、有機溶媒と水との置換速度は速くなるが、フィルムの吸水量も多くなるので、乾燥後に得られるプロトン伝導膜の表面状態が悪化することがある。また、フィルムの浸漬時間は、初期の残存溶媒量、水の使用量および処理温度にもよるが、通常10分〜240時間、好ましくは30分〜100時間の範囲である。
【0112】
上記のように未乾燥フィルムを水に浸漬した後乾燥すると、残存溶媒量が低減された膜が得られるが、このようにして得られる膜の残存溶媒量は、通常5重量%以下である。また、浸漬条件によっては、得られる膜の残存溶媒量を1重量%以下とすることができる。このような条件としては、たとえば、未乾燥フィルム1重量部に対する水の使用量が50重量部以上であり、浸漬する際の水の温度が10〜60℃、浸漬時間が10分〜10時間である。
【0113】
上記のように未乾燥フィルムを水に浸漬した後、フィルムを30〜100℃、好ましくは50〜80℃で、10〜180分、好ましくは15〜60分乾燥し、次いで、50〜150℃で、好ましくは500mmHg〜0.1mmHgの減圧下、0.5〜24時間真空乾燥することにより、膜を得ることができる。
【0114】
本発明のプロトン伝導膜は、その乾燥膜厚が、通常10〜100μm、好ましくは20〜80μmである。
〔電極ペースト〕
本発明の電極ペーストは、上記電極電解質(高分子電解質)、触媒担持カーボンおよび溶媒を含み、必要に応じて分散剤、炭素繊維などの他の成分を含んでいてもよい。
【0115】
<触媒>
上記触媒担持カーボンの触媒としては、白金または白金合金が用いられる。白金合金を使用すると、電極触媒としての安定性や活性をさらに付与させることもできる。白金合金としては、白金以外の白金族の金属(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム)、鉄、チタン、金、銀、クロム、マンガン、モリブデン、タングステン、アルミニウム、ケイ素、レニウム、亜鉛およびスズから選ばれる1種以上と白金との合金が好ましく、該白金合金には白金と合金化される金属との金属間化合物が含有されていてもよい。
【0116】
<カーボン>
上記触媒を担持するカーボンとしては、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが用いられる。また、天然の黒鉛、ピッチ、コークス、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、フラン樹脂などの有機化合物から得られる人工黒鉛や炭素などを用いてもよい。
【0117】
上記オイルファーネスブラックとしては、キャボット社製「バルカンXC−72」、「バルカンP」、「ブラックパールズ880」、「ブラックパールズ1100」、「ブラック
パールズ1300」、「ブラックパールズ2000」、「リーガル400」、ライオン製「ケッチェンブラックEC」、三菱化学製「#3150、#3250」などが挙げられる。また、上記アセチレンブラックとしては電気化学工業製「デンカブラック」などが挙げられる。
【0118】
これらのカーボンの形態としては、粒子状のほか、繊維状も用いることができる。カーボンに担持される触媒の量としては、有効に触媒活性が発揮できる量であれば特に制限されるものではないが、担持量がカーボン重量に対して、0.1〜9.0g-metal/g-carbon、好ましくは0.25〜2.4g-metal/g-carbonの範囲である。
【0119】
<溶媒>
本発明の電極ペーストに用いられる溶媒としては、上記電極電解質を溶解または分散する溶媒であればよく、特に限定されるものではない。また、1種類単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0120】
具体的には、水;メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、2−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール、2−ブタノール、n−ブチルアルコール、2−メチル−1−プロパノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、2,2−ジメチル1−プロパノール、シクロヘキサノール
、1−ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、2−メチル−2−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−エチル−1−ブタノール、1−メチルシクロヘキサノール、2−メチルシクロヘキサノール、3−メチルシクロヘキサノール、4−メチルシクロヘキサノール、1−オクタノール、2−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−(メトキシメトキシ)エタノール、2−イソプロポキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノールなどのアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロールなどの多価アルコール類;ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジ−n−プロピルエーテル、ブチルエーテル、フェニルエーテル、イソペンチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、ビス(2−エトキシエチル)エーテル、シネオール、ベンジルエチルエーテル、アニソール、フェネトール、アセタールなどのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2−ヘキサノン、4−メチル−2−ペンタノン、2−ヘプタノン、2,4−ジメチル−3−ペンタノン、2−オクタノンなどのケトン類
;γーブチロラクトン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec-ブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、3−メトキシブチルアセタート、酪酸メチル、酪酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチルなどのエステル類;ジメチルスルホキシド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、テ
トラメチル尿素などの非プロトン性極性溶媒;トルエン、キシレン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの炭化水素系溶媒などが挙げられる。
【0121】
<分散剤>
本発明の電極ペーストには、必要に応じてさらに分散剤を添加してもよい。このような分散剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤などの界面活性剤が挙げられる。
【0122】
上記アニオン界面活性剤としては、たとえば、オレイン酸・N−メチルタウリン、オレイン酸カリウム・ジエタノールアミン塩、アルキルエーテルサルフェート・トリエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート・トリエタノールアミン塩、特殊変成ポリエーテルエステル酸のアミン塩、高級脂肪酸誘導体のアミン塩、特殊変成ポリエステル酸のアミン塩、高分子量ポリエーテルエステル酸のアミン塩、特殊変成燐酸エステルのアミン塩、高分子量ポリエステル酸アミドアミン塩、特殊脂肪酸誘導体のアミドアミン塩、高級脂肪酸のアルキルアミン塩、高分子量ポリカルボン酸のアミドアミン塩、ラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ラウリル硫酸エステルナトリウム塩、セチル硫酸エステルナトリウム塩、ステアリル硫酸エステルナトリウム塩、オレイル硫酸エステルナトリウム塩、ラウリルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、油溶性アルキルベンゼンスルホン酸塩、αーオレフィンスルホン酸塩、高級アルコールリン酸モノエステルジナトリウム塩、高級アルコールリン酸ジエステルジナトリウム塩、ジアルキルジチオリン酸亜鉛などが挙げられる。
【0123】
上記カチオン界面活性剤としては、たとえば、ベンジルジメチル{2−[2−(P−1
,1,3,3−テトラメチルブチルフェノオキシ)エトオキシ]エチル}アンモニウムク
ロライド、オクタデシルアミン酢酸塩、テトラデシルアミン酢酸塩、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、牛脂トリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヤシトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ヤシジメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ジオレイルジメチルアンモニウムクロライド、1−ヒドロキシエチル-2-牛脂イミダゾリン4級塩、2−ヘプ
タデセニルーヒドロキシエチルイミダゾリン、ステアラミドエチルジエチルアミン酢酸塩、ステアラミドエチルジエチルアミン塩酸塩、トリエタノールアミンモノステアレートギ酸塩、アルキルピリジウム塩、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、ポリアクリルアミドアミン塩、変成ポリアクリルアミドアミン塩、パーフルオロアルキル第4級アンモニウムヨウ化物などが挙げられる。
【0124】
上記両性界面活性剤としては、たとえば、ジメチルヤシベタイン、ジメチルラウリルベタイン、ラウリルアミノエチルグリシンナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタイン、アミドベタイン、イミダゾリニウムベタイン、レシチン、3−[ωーフルオロアルカノイル−N−エ
チルアミノ]−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、N−[3−(パーフルオロオクタンスルホンアミド)プロピル]−N,N−ジメチル−N−カルボキシメチレンアンモニウムベ
タインなどが挙げられる。
【0125】
上記非イオン界面活性剤としては、たとえば、ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド(1:2型)、ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド(1:1型)、牛脂肪酸ジエタノールアミド(1:2型)、牛脂肪酸ジエタノールアミド(1:1型)、オレイン酸ジエタノールアミド(1:1型)、ヒドロキシエチルラウリルアミン、ポリエチレングリコールラウリルアミン、ポリエチレングリコールヤシアミン、ポリエチレングリコールステアリルアミン、ポリエチレングリコール牛脂アミン、ポリエチレングリコール牛脂プロピレンジアミン、ポリエチレングリコールジオレイルアミン、ジメチルラウリルアミンオキサイド、ジメチルステアリルアミンオキサイド、ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキサイド、パーフルオロアルキルアミンオキサイド、ポリビニルピロリドン、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、グリセリンの脂肪酸エステル、ペンタエリスリットの脂肪酸エステル、ソルビットの脂肪酸エステル、ソルビタンの脂
肪酸エステル、砂糖の脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0126】
上記界面活性剤は、1種単独で用いても2種類以上を組み合わせて用いてもよい。上記界面活性剤の中では、好ましくは塩基性基を有する界面活性剤、より好ましくはアニオン性もしくはカチオン性の界面活性剤、さらに好ましくは、分子量5千〜3万の界面活性剤である。
【0127】
本発明の電極ペーストに上記分散剤を添加すると、保存安定性および流動性に優れ、塗工時の生産性が向上する。
<炭素繊維>
本発明に係る電極ペーストでは、必要に応じてさらに炭素繊維を添加することができる。このような炭素繊維しては、レーヨン系炭素繊維、PAN系炭素繊維、リグニンポバー系
炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維等を用いることができ、好ましくは、気相成長炭素繊維である。
【0128】
電極ペーストに炭素繊維を添加すると、電極中の細孔容積が増加することにより、燃料ガスや酸素ガスの拡散性が向上し、また、生成する水によるフラッディング等を改善でき、発電性能が向上する。
【0129】
<その他の添加物>
本発明の電極ペーストには、必要に応じてさらに他の成分を添加することができる。たとえば、フッ素系ポリマーやシリコン系ポリマーなどの撥水剤を添加してもよい。撥水剤は生成する水を効率よく排出する効果を奏し、発電性能の向上に寄与する。
【0130】
<組成>
本発明の電極ペーストにおいて、触媒担持カーボンの含有量は1〜20重量%、好ましくは3〜15重量%であり、電極電解質の含有量は0.5〜30重量%、好ましくは1〜15重量%であり、溶媒の含有量は5〜95重量%、好ましくは15〜90重量%である。また、必要に応じて用いられる分散剤の含有量は0〜10重量%、好ましくは0〜2重量%であり、炭素繊維の含有量は0〜20重量%、好ましくは1〜10重量%である。なお、上記成分の含有量の合計が、100重量%を超えることはない。
【0131】
上記触媒担持カーボンの含有量が、上記範囲未満であると電極反応率が低下することがあり、上記範囲を超えると電極ペーストの粘度が増加し、塗工時に塗りむらが発生することがある。
【0132】
上記電極電解質の含有量が、上記範囲未満であるとプロトン伝導度が低下するとともに、バインダーとしての役割を果たせなくなり、電極を形成できないことがあり、上記範囲を超えると、電極中の細孔容積が減少する傾向にある。
【0133】
上記溶媒の含有量が、上記範囲内にあると、発電に必要な電極中の細孔容積が十分確保できるとともに、ペーストとしてのハンドリングに好適である。
上記分散剤の含有量が、上記範囲内にあると保存安定性に優れた電極ペーストが得られる。また、上記炭素繊維の含有量が、上記範囲未満であると、電極中の細孔容積の増加効果が低くなり、上記範囲を超えると、電極反応率が低下することがある。
【0134】
<ペーストの調製>
本発明の電極ペーストは、たとえば、上記各成分を上記含有量となるように混合し、従来公知の方法で混練することにより調製することができる。
【0135】
各成分の混合順序は特に限定されないが、たとえば、全ての成分を混合して一定時間攪拌を行うか、分散剤以外の成分を混合して一定時間攪拌を行った後、必要に応じて分散剤を添加してさらに一定時間攪拌を行うことが好ましい。また、必要に応じて、溶媒の量を調整して、ペーストの粘度を調整してもよい。
【0136】
〔膜−電極接合体〕
本発明の膜−電極接合体(以下「MEA」ともいう)は、プロトン伝導膜および電極層からなり、該プロトン伝導膜および/または電極層が、上記高分子電解質を含むことを特徴とする。すなわち、本発明のMEAは、前述した本発明のプロトン伝導膜および/または本発明の電極ペーストを用いて形成された電極層を有する。したがって、本発明のMEAが本発明のプロトン伝導膜を有する場合は、本発明の電極ペーストを用いて電極層を形成しても、本発明以外の公知の電極ペーストを用いて電極層を形成してもよい。また、本発明のMEAが本発明の電極ペーストを用いて形成した電極層を有する場合は、本発明のプロトン伝導膜を用いても、本発明以外の公知のプロトン伝導膜を用いてもよい。
【0137】
本発明のMEAは、本発明の電極ペーストまたは公知の電極ペーストを、転写基材上に塗布し、溶媒を除去して形成された電極層を、本発明のプロトン伝導膜または公知のプロトン伝導膜の両面に転写することにより得られる。
【0138】
上記転写基材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系ポリマーからなるシート、または表面を離型剤処理したガラス板や金属板、ポリエチレンテレフタレート(PET)のシートなども用いることができる。
【0139】
塗布方法としては、刷毛塗り、筆塗り、バーコーター塗布、ナイフコーター塗布、ドクターブレード法、スクリーン印刷、スプレー塗布などがある。
電極層をプロトン伝導膜に転写する方法としては、ホットプレス法が挙げられる。ホットプレス法は、カーボンペーパーまたは離型シートに電極ペーストを塗布し、電極ペースト塗布面とプロトン伝導膜とを圧着する方法である。ホットプレスは、通常、50〜250℃の温度範囲で1〜180分間、10〜500kg/cm2の圧力をかけて行う。
【0140】
また、本発明のMEAを得るための別の方法として、電極ペーストとプロトン伝導膜形成用の高分子電解質溶液とを段階的に塗布・乾燥を繰り返すことにより、触媒層とプロトン伝導膜とを段階的に形成する方法がある。塗布や乾燥の順序に特に制限はない。
【0141】
たとえば、PETフィルム等の基材上に、プロトン伝導膜形成用の高分子電解質溶液を塗布して乾燥することによりプロトン伝導膜を形成した後、該プロトン伝導膜上に電極ペーストを塗布し、乾燥して溶媒を除去することにより電極層を形成する。次に、上記基材をはがして、プロトン伝導膜のもう一方の面に電極ペーストを塗布し、溶媒を除去することにより、プロトン伝導膜の両面に触媒層が形成されたMEAが得られる。
【0142】
また、上記の方法とは逆に、まず、電極ペーストを塗布して電極層を形成した後に、高分子電解質溶液を塗布してプロトン伝導膜を形成し、次に、該プロトン伝導膜の電極層が形成されていない面上に、さらに電極ペーストを塗布して電極層を形成する方法によっても、本発明のMEAを得ることができる。
【0143】
なお、電極ペーストおよび高分子電解質溶液の塗布は、上記と同様の方法で行うことができる。溶媒の除去は、乾燥温度20℃〜180℃、好ましくは50℃〜160℃、乾燥時間5分〜600分、好ましくは30分〜400分で行う。必要に応じて水浸漬により除去してもよい。水温は5℃〜120℃、好ましくは15℃〜95℃、水浸漬時間は1分〜72時間、好ましくは5分〜48時間である。
【0144】
電極層の厚さは、特に制限されるものではないが、触媒として担持された金属が、単位面積あたり、0.05〜4.0mg/cm2、好ましくは0.1〜2.0mg/cm2の範囲で存在することが望ましい。この範囲にあれば、十分に高い触媒活性が発揮され、また効率的にプロトンを伝導することができる。
【0145】
電極層の細孔容積は、0.05〜3.0ml/g、好ましくは0.1〜2.0ml/gの範囲にあることが望ましい。
[実施例]
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0146】
なお、プロトン酸基量、プロトン伝導度、高温での吸水率およびプロトン酸基の安定性は、以下のようにして評価した。
<プロトン酸基量>
得られたプロトン伝導膜の水洗水が中性になるまで洗浄し、フリーに残存している酸を充分に除去して乾燥した後、所定量を秤量し、THF/水の混合溶剤に溶解したフェノールフタレインを指示薬とし、NaOHの標準液を用いて滴定を行い、中和点からプロトン酸基量(スルホン酸当量)を求めた。
【0147】
<プロトン伝導度>
まず、短冊状の試料膜(40mm×5mm)の表面に、白金線(φ=0.5mm)を5mm間隔に5本押し当て、恒温恒湿装置((株)ヤマト科学製「JW241」)中に試料を保持し、白金線間の交流インピーダンス測定により交流抵抗を求めた。測定は、抵抗測定装置として(株)NF回路設計ブロック製のケミカルインピーダンス測定システムを用いて、85℃、相対湿度90%の環境下、交流10kHzの条件で、線間距離を5〜20mmに変化させて行った。次いで、線間距離と抵抗の勾配から膜の比抵抗Rを下記式に従って算出し、比抵抗Rの逆数からプロトン伝導度を算出した。
比抵抗R(Ω・cm)=0.5(cm)×膜厚(cm)×抵抗線間勾配(Ω/cm)
<吸水率>
得られたプロトン伝導膜を、25℃、相対湿度50%の条件で24時間以上調湿した後、2.0cm×3.0cmにカットし、秤量して試験用のテストピースとした。このテストピースを、ポリカーボネート製の250ml瓶に入れ、そこに約100mlの蒸留水を加え、90℃で24時間加温した。試験終了後、各テストピースを熱水中から取り出し、軽く表面の水をキムワイプで拭き取り、含水時の重量を秤量して吸水率(%)を求めた。
【0148】
<熱安定性>
得られたプロトン伝導膜を2.0cm×3.0cmにカットし、秤量して試験用のテストピースとした。このテストピースをベンコットに包み、ガラス製の管に入れ、コンパクト恒温装置を用いて、160℃で100時間加温した。試験終了後、プロトン酸基量を測定し、加熱後プロトン酸基量/加熱前プロトン酸基量の比率(%)からプロトン酸基の安定性を求めた。
【0149】
〔実施例1〕
(1)オリゴマー(I)の合成
【0150】
【化27】

【0151】
攪拌機、温度計、Dean−stark管、冷却管および窒素導入管を取り付けた5Lの三口フラスコに、下記式(II)で表されるモノマー(II)309.3g(0.795mol)、レゾルシノール100g(0.908mol)および炭酸カリウム163g(1.18mol)を取った。さらに、スルホラン2300mlおよびトルエン1100mlを加えて100℃まで加熱し、トルエンを留去しながら脱水を行った。次に、オイルバス中、窒素雰囲気下、130℃で加熱還流し、反応で生成した水をトルエンと共沸させて系外に除きながら反応させると、約3時間で水の生成が認められなくなった。その後、反応温度を徐々に上げて大部分のトルエンを除去し、190〜200℃で10時間反応させた。次に、レゾルシノール12.5g(0.114mol)を加え、さらに4時間加熱した。室温まで冷却後、沈殿した無機物をセライトろ過により除去し、ろ液を1%濃塩酸含有メタノール10Lに注いだ。沈殿した生成物をろ過、真空乾燥して320gの粗生成物を得た。粗生成物をテトラヒドロフラン1Lに溶解した後に、メタノール4Lに再沈殿させた。沈殿物をろ過、真空乾燥することにより、上記式(I)で表されるオリゴマー(I)290g(収率87%)を得た。得られたオリゴマー(I)のGPCで求めた数平均分子量(
Mn)は8,000、重量平均分子量(Mw)は12,000であった。
【0152】
【化28】

【0153】
(2)共重合体(III)の合成
【0154】
【化29】

【0155】
攪拌機、温度計、Dean-stark管、冷却管および窒素導入管を取り付けた3Lの三口フラスコに、上記オリゴマー(I)200g(0.025mol)、2,6−ジクロロベンゾ
ニトリル34.4g(0.200mol)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(Bis−AF)58.8g(0.175mol)および炭酸カリウム34.6g(0.25mol)を取った。さらに、スルホラン1080mlおよびトルエン540mlを加えて100℃まで加熱し、トルエンを留去しながら脱水を行った。次に、オイルバス中、窒素雰囲気下、130℃で加熱還流し、反応で生成した水をトルエンと共沸させて系外に除きながら反応させると、約3時間で水の生成が認められなくなった。その後、反応温度を徐々に上げて大部分のトルエンを除去し、190〜200℃で10時間反応させた。室温まで冷却後、沈殿した無機物をセライトろ過により除去し、ろ液を1%濃塩酸含有メタノール10Lに注いだ。沈殿した生成物をろ過、真空乾燥して263gの粗生成物を得た。粗生成物をテトラヒドロフラン1Lに溶解した後に、メタノール4Lに再沈殿させ、沈殿物をろ過、真空乾燥後した。さらに、得られた沈殿物を1M塩酸水溶液4Lに加えて攪拌し、ろ過する操作を3回繰り返した後、pHが5以上になるまで純水を用いて洗浄した。得られたポリマーを真空乾燥させることにより、上記式(III)で表される共重合体(III)243g(収率85%)を得た。得られた共重合体(III)のGPCで求めた数平均分子量(Mn)は43,000、重量
平均分子量(Mw)は142,000であった。
【0156】
共重合体(III)の14重量%NMP溶液を、ガラス板上にキャストして製膜した後、
風乾、真空乾燥し、乾燥膜厚40μmのプロトン伝導膜を得た。得られたプロトン伝導膜を用いて、プロトン酸基量、プロトン伝導度、吸水率、熱安定性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0157】
〔実施例2〕
(1)オリゴマー(IV)の合成
【0158】
【化30】

【0159】
実施例1と同様の装置を用い、モノマー(II)100g(0.257mol)、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン51.0g(0.238mol)および炭酸カリウム48.9g(0.354mol)をフラスコに取った。さらに、スルホラン900mlおよびトルエン400 mlを加え、実施例1と同様の条件で反応を行った。13時間後モノ
マー(II)12.5g(0.032mol)を加えた他は実施例1と同様にして、上記式(IV)で表されるオリゴマー(IV)105g(収率85%)を得た。得られたオリゴマー(IV)のGPCで求めたMnは8,800、Mwは12,400であった。
【0160】
(2)共重合体(V)の合成
【0161】
【化31】

【0162】
上記オリゴマー(IV)200g(0.023mol)、ビス(4−クロロフェニル)スルホン19.6g(0.068mol)、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン19.5g(0.091mol)および炭酸カリウム26.3g(0.19mol)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、上記式(V)で表される共重合体(V)214g(収率80%)を得た。得られた共重合体(V)のGPCで求めたMnは51,000、Mwは1
52,000であった。
【0163】
共重合体(V)の14重量%NMP溶液を、ガラス板上にキャストして製膜した後、風
乾、真空乾燥し、乾燥膜厚40μmのプロトン伝導膜を得た。得られたプロトン伝導膜を用いて、プロトン酸基量、プロトン伝導度、吸水率、熱安定性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0164】
〔実施例3〕
(1)オリゴマー(VI)の合成
【0165】
【化32】

【0166】
実施例1において、モノマー(II)の代わりに下記式(VII)で表されるモノマー(VII)121.8g(0.350mol)、レゾルシノールの代わりに4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン100g(0.400mmol)、炭酸カリウム71.8g(0.519mol)、スルホラン1200ml、トルエン600ml、追加するレゾルシノールの代わりに4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン12.5g(0.0499mol)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、上記式(VI)で表されるオリゴマー(VI)158g(収率83%)を得た。得られたオリゴマー(VI)のGPCで求めたMnは8,200、Mwは14,000であった。
【0167】
【化33】

【0168】
(2)共重合体(VIII)の合成
【0169】
【化34】

【0170】
実施例1において、オリゴマー(I)の代わりにオリゴマー(VI)200g(0.02
4mol)、2,6−ジクロロベンゾニトリルの代わりに4,4’−ジクロロベンゾフェノン18.4g(0.073mol)、Bis−AFの代わりにレゾノシノール5.4g(0.049mol)、炭酸カリウム13.1g(0.095mol)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、上記式(VIII)で表される共重合体(VIII)195g(収率68%)を得た。得られた共重合体(VIII)のGPCで求めたMnは44,000、Mwは140,000であった。
【0171】
共重合体(VIII)の14重量%NMP溶液を、ガラス板上にキャストして製膜した後、風乾、真空乾燥し、乾燥膜厚40μmのプロトン伝導膜を得た。得られたプロトン伝導膜を用いて、プロトン酸基量、プロトン伝導度、吸水率、熱安定性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0172】
〔実施例4〕
(1)オリゴマー(IX)の合成
【0173】
【化35】

【0174】
実施例1において、モノマー(II)の代わりに下記式(X)で表されるモノマー(X)120g(0.238mol)、レゾルシノール29.9g(0.271mmol)、炭酸カリウムウム54.9g(0.397mol)、スルホラン1100ml、トルエン60
0ml、追加するレゾルシノール3.74g(0.0340mol)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、上記式(IX)で表されるオリゴマー(IX)150g(収率75%)を得た。得られたオリゴマー(IX)のGPCで求めたMnは9,100、Mwは16,500であった。
【0175】
【化36】

【0176】
(2)オリゴマー(XI)の合成
【0177】
【化37】

【0178】
攪拌機、温度計、Dean−stark管、冷却管および窒素導入管を取り付けた5Lの三口フラスコに、4,4’−ジクロロベンゾフェノン228.0g(0.908mol)、Bis−AF 267.4g(0.795mol)および炭酸カリウム163g(1.18mol)を取った。さらに、スルホラン2300mlおよびトルエン1100mlを加えて100℃まで加熱し、トルエンを留去しながら脱水を行った。オイルバス中、窒素雰囲気下、130℃で加熱還流し、反応で生成した水をトルエンと共沸して系外に除きながら反応させると、約3時間で水の生成が認められなくなった。その後、反応温度を徐々に上げて大部分のトルエンを除去し、190〜200℃で10時間反応させた。次に、4,4’−ジクロロベンゾフェノン28.6g (0.114 mol)を加え、さらに4時間加熱した。室温まで冷却後、沈殿した無機物をセライトろ過により除去し、ろ液を1%濃塩酸含有メタノール10Lに注いだ。沈殿した生成物をろ過、真空乾燥して320gの粗生成物を得た。粗生成物をテトラヒドロフラン1Lに溶解した後に、メタノール4Lに再沈殿させた。沈殿物をろ過、真空乾燥することにより、上記式(XI)で表されるオリゴマー(XI)381g(収率87%)を得た。得られたオリゴマー(XI)のGPCで求めたMnは7,000、Mwは10,500であった。
【0179】
(3)共重合体(XII)の合成
【0180】
【化38】

【0181】
攪拌機、温度計、Dean-stark管、冷却管および窒素導入管を取り付けた3Lの三口フラスコに、上記オリゴマー(IX)182g(0.02mol)、上記オリゴマー(XI)140g(0.02mol)および炭酸カリウム5.5g(0.04mol)を取った。さらに、スルホラン1080mlおよびトルエン540mlを加えて100℃まで加熱し、トルエンを留去しながら脱水を行った。オイルバス中、窒素雰囲気下、130 ℃で加熱還
流し、反応で生成した水をトルエンと共沸して系外に除きながら反応させると、約5時間で水の生成が認められなくなった。その後、反応温度を徐々に上げて大部分のトルエンを除去し、190〜200℃で12時間反応させた。室温まで冷却後、沈殿した無機物をセライトろ過により除去し、ろ液を1%濃塩酸含有メタノール10Lに注いだ。沈殿した生成物をろ過、真空乾燥して粗生成物を得た。得られた粗生成物をテトラヒドロフラン1Lに溶解した後に、メタノール4Lに再沈殿させ、沈殿物をろ過、真空乾燥した。さらに、得られた沈殿物を1M塩酸水溶液4Lに加えて攪拌し、ろ過する操作を3回繰り返した後、pHが5以上になるまで純水を用いて洗浄した。得られたポリマーを真空乾燥させることにより、上記式(XII)で表される共重合体(XII)262g(収率82%)を得た。得られた共重合体(XII)のGPCで求めたMnは43,000、Mwは142,000で
あった。
【0182】
共重合体(XII)の14重量%NMP溶液を、ガラス板上にキャストして製膜した後、
風乾、真空乾燥し、乾燥膜厚40μmのプロトン伝導膜を得た。得られたプロトン伝導膜を用いて、プロトン酸基量、プロトン伝導度、吸水率、熱安定性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0183】
〔実施例5〕
(1)オリゴマー(XIII)の合成
【0184】
【化39】

【0185】
実施例1において、モノマー(II)の代わりに下記式(XIV)で表されるモノマー(XIV)171g(0.260mol)、レゾルシノールの代わりにBis−AF100g(0.297mmol)、炭酸カリウム53.4g(0.387mol)、スルホラン1400ml、トルエン700ml、追加するレゾルシノールの代わりにBis−AF12.5g(0.0372mol)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、上記式(XIII)で
表されるオリゴマー(XIII)213g(収率85%)を得た。得られたオリゴマー(XIII)のGPCで求めたMnは7,900、Mwは143,000であった。
【0186】
【化40】

【0187】
(2)共重合体(XV)の合成
【0188】
【化41】

【0189】
実施例1において、オリゴマー(I)の代わりにオリゴマー(XIII)200g(0.0
25mol)、2,6−ジクロロベンゾニトリル34.8g(0.203mol)、Bis−AFの代わりにレゾノシノール19.6g(0.178mol)、炭酸カリウム35.0g(0.253mol)用いたこと以外は実施例1と同様にして、上記式(XV)で表される共重合体(XV)198g(収率82%)を得た。得られた共重合体(XV)のGPCで求めたMnは38,000、Mwは135,000であった。
【0190】
共重合体(XV)の14重量%NMP溶液を、ガラス板上にキャストして製膜した後、風乾、真空乾燥し、乾燥膜厚40μmのプロトン伝導膜を得た。このようにして得られたプロトン伝導膜を用いて、プロトン酸基量、プロトン伝導度、吸水率、熱安定性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0191】
〔比較例1〕
スルホン化ポリエーテルエーテルケトンの合成
ビクトレックス社製のポリエーテルエーテルケトン(PEEK)3.0gを濃硫酸(150mL)中に溶解させ、攪拌しながら50℃で24時間反応を行った。得られた混合物を大量の脱イオン水中に投入して、スルホン化ポリマーを沈殿させた。沈殿物を濾別し、続いて洗浄に使用した脱イオン水のpHが中性になるまで洗浄を行った後、乾燥してスルホン化ポリエーテルエーテルケトンを合成した。
【0192】
得られたスルホン化ポリエーテルエーテルケトンの15重量%NMP溶液を、ガラス板上にキャストして製膜した後、風乾、真空乾燥し、乾燥膜厚40μmのプロトン伝導膜を
得た。得られたプロトン伝導膜を用いて、プロトン酸基量、プロトン伝導度、吸水率、熱安定性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0193】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるプロトン酸基を有する構成単位と、下記式(6)で表されるプロトン酸基を有さない構成単位とを含有する共重合体を含むことを特徴とする高分子電解質。
【化1】

[式(1)中、Ar1は下記式(2)で表される結合単位を示し、Ar2は下記式(3)で表される結合単位を示し、Yは酸素原子または硫黄原子を示す。]
【化2】

[式(2)中、Xは2価の電子吸引性基を示し、nは0〜4の整数を示し、pおよびqはそれぞれ0〜4の整数(ただし、p+q≧1)を示し、Rは独立に水素原子、フッ素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基またはニトリル基を示し、Aは下記式(5a)または(5b)で表される基を示す。]
【化3】

[式(3)中、Zは直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO2−、−[C(R')2]g−(R'は水素原子、フッ素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基またはアリール基を
示し、gは1〜8の整数を示す。)または下記式(4a)〜(4d)のいずれかで表される結合単位を示し、mは0〜4の整数を示し、tおよびuはそれぞれ0〜4の整数を示し、RおよびAは前記式(2)中のRおよびAと同義である。]
【化4】

[式(4a)〜(4d)中、fは0〜4の整数を示し、h、kおよびlはそれぞれ0〜5の整数を示し、RおよびAは前記式(2)中のRおよびAと同義である。]
【化5】

[式(5a)および(5b)中、Wは2価の電子吸引性基を示し、Sはプロトン酸基を示し、iは1〜5の整数を示し、jは1〜7の整数を示し、Rは前記式(2)中のRと同義である。]
【化6】

[式(6)中、Ar3は下記式(7)で表される結合単位を示し、Ar4は下記式(8)で表される結合単位を示し、Yは酸素原子または硫黄原子を示す。]
【化7】

[式(7)中、Xは2価の電子吸引性基を示し、rは0〜4の整数を示し、R1〜R8は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基またはニトリル基を示す。]
【化8】

[式(8)中、Qは直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO2−、−[C(R')2]g−(R'は水素原子、フッ素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基またはアリール基を
示し、gは1〜8の整数を示す。)または下記式(9a)〜(9d)のいずれかで表される結合単位を示し、sは0〜4の整数を示し、R9〜R16は互いに同一でも異なっていて
もよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基またはニトリル基を示す。]
【化9】

[式(9a)〜(9d)中、R17〜R44は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基またはニトリル基を示す。]
【請求項2】
上記共重合体が、上記式(1)で表されるプロトン酸基を有する構成単位からなるブロックと、上記式(6)で表されるプロトン酸基を有さない構成単位からなるブロックとを、それぞれ1個以上含有するブロック共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の高分子電解質。
【請求項3】
上記式(2)および(7)中のXが、−CO−、−SO2−または−[C(R'')2]g−で
あり、かつ、上記式(5a)および(5b)中のWが、−CO−、−SO2−または−[C(R'')2]g−(R''はフッ素原子またはフッ素置換アルキル基を示し、gは1〜8の整数
を示す。)であることを特徴とする請求項1または2に記載の高分子電解質。
【請求項4】
上記式(1)で表される構成単位が、下記一般式(18)〜(21)のいずれかで表される構成単位であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高分子電解質。
【化10】

[式(18)〜(21)中、W’は−CO−または−SO2−を示し、A’は下記式(2
2a)〜(22c)のいずれかで表される基を示す。]
【化11】

[式(22a)〜(22c)中、W’は−CO−または−SO2−を示す。]
【請求項5】
上記式(6)で表される構成単位が、下記式(10)〜(12)のいずれかで表される構成単位であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高分子電解質。
【化12】

[式(10)〜(12)中、Qは上記式(8)中のQと同義である。]
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の高分子電解質を含むことを特徴とするプロトン伝導膜。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の高分子電解質からなることを特徴とする電極電解質。
【請求項8】
請求項7に記載の電極電解質、触媒担持カーボンおよび溶媒を含むことを特徴とする電極ペースト。
【請求項9】
プロトン伝導膜と電極層とを有し、該プロトン伝導膜および/または電極層が、請求項1〜5のいずれかに記載の高分子電解質を含むことを特徴とする膜−電極接合体。

【公開番号】特開2006−299245(P2006−299245A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−74623(P2006−74623)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】