説明

固体高分子電解質型燃料電池発電システム

【課題】 白金以外の触媒が使用可能なためコストメリットが期待されるアニオン型燃料電池発電システムであって、高い出力を得ることができ、しかも燃料の利用率が高く、燃料が系外に排出され難いため環境に対する負荷がより小さい発電システムを提供すること。
【解決手段】 燃料及び水を透過する陰イオン交換型電解質膜の一方の面にアノードを接合し、他方の面にカソードを接合した電解質膜−電極接合体を含んでなり、燃料をアノードに供給し、酸化剤ガスおよび水をカソードに供給することにより電気を発生する固体高分子電解質型燃料電池と、前記アノードに燃料を供給するための燃料供給装置と、前記カソードに酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス供給装置とを備え、前記燃料電池のカソードから排出され、前記電解質膜を透過して混入した燃料を含むカソードオフガスから該燃料を除去するカソードオフガス処理装置を更に含む燃料電池発電システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陰イオン交換型の固体高分子電解質を使用した燃料電池を用いた固体高分子電解質型燃料電池発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、イオン交換樹脂等の固体高分子を電解質として用いた燃料電池である。該固体高分子型燃料電池は、図1に示されるように、それぞれ外部と連通する燃料ガス流通孔2および酸化剤ガス流通孔3を有する電池隔壁1内の空間を、固体高分子電解質膜6の両面にそれぞれ燃料室側ガス拡散電極4および酸化剤室側ガス拡散電極5が接合した接合体で仕切って、燃料ガス流通孔2を通して外部と連通する燃料室(アノード室)7、および酸化剤ガス流通孔3を通して外部と連通する酸化剤室(カソード室)8が形成された基本構造を有している。なお、図1では各部材の構成を分かり易くするために電池隔壁1と固体高分子電解質膜6とを分離して記載しているが、実際にはガスケットなどを用いて密閉されて使用される。
【0003】
従来、固体高分子型燃料電池においては固体電解質膜6として陽イオン交換型電解質膜を使用するのが一般的であり(以下、陽イオン交換型電解質膜を使用した固体高分子型燃料電池を単に「カチオン型燃料電池」とも言う。)、カチオン型燃料電池においては、燃料室側ガス拡散電極(アノード)4において該電極内に含まれる触媒と燃料とが接触することによりプロトン(水素イオン)を発生させる。発生したプロトンは、固体高分子電解質膜6内を伝導して酸化剤室8に移動し、酸化剤室側ガス拡散電極(カソード)5で酸化剤ガス中の酸素と反応して水を生成する。一方、燃料室側ガス拡散電極(アノード)4においてプロトンと同時に発生した電子は外部負荷回路を通じて酸化剤室側ガス拡散電極(カソード)5へと移動するので上記反応のエネルギーを電気エネルギーとして利用することができる。
【0004】
なお、一般に、燃料にはメタノール、エタノール、イソプロパノール、1−プロパノール、ジメチルエーテル、ギ酸、ホルマリン、アンモニア、ヒドラジン等の有機系の液体燃料;水素、アンモニア、天然ガス、ナフサ、石炭ガス、バイオマスガス等の発電の際に気体状態である気体燃料;水素化ホウ素ナトリウム等が使用されており、酸化剤ガスには空気又は酸素ガスが使用されている(特許文献1及び2参照)。
【0005】
一方、固体電解質膜として陰イオン交換型電解質膜を使用することも可能である(以下、陰イオン交換型電解質膜を使用した固体高分子型燃料電池を単に「アニオン型燃料電池」とも言う。)。該アニオン型燃料電池では、アノードに上記したような燃料を供給し、カソードに酸化剤ガスおよび水を供給することにより、酸化剤室側ガス拡散電極(カソード)5において該電極内に含まれる触媒の作用により酸素と水とから水酸化物イオンを発生させる。この水酸化物イオンは、上記陰イオン交換型電解質膜からなる固体高分子電解質膜6内を伝導して燃料室7に移動し、燃料室側ガス拡散電極(アノード)4で燃料と反応して水を生成すると共に電気エネルギー源となる電子を放出する(特許文献3乃至5参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2006−4659号公報
【特許文献2】特開2007−242367号公報
【特許文献3】特開平11−135137号公報
【特許文献4】特開平11−273695号公報
【特許文献5】特開2000−331693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、固体高分子型燃料電池には大別して2種の発電メカニズムが知られているが、水酸化物イオンに比べて伝導性を高くすることが容易なプロトン伝導型のカチオン型燃料電池について盛んに検討が行われている。ところが、近年、カチオン型燃料電池で触媒として使用される貴金属の枯渇が危惧されるようになり、貴金属以外の触媒を使用することが可能なアニオン型燃料電池が注目されるようになってきている。即ち、カチオン型燃料電池では、前記した発電機構から分かるように反応場が強酸性となるため、電極触媒としては強酸性条件下でも溶解しない白金などの高価な貴金属触媒しか使用できないのに対し、アニオン型燃料電池では、固体高分子電解質膜6内を移動するイオン種は水酸化物イオンであり反応場は塩基性雰囲気となるため、入手が容易で安価な遷移金属触媒を使用することが可能である。
【0008】
しかしながら、アニオン型燃料電池については、その発電原理に関係した先駆的な検討は幾つかなされているものの、実用化に向けた本格的な検討は緒についたばかりであり、アニオン型燃料電池に関する報告例はカチオン型燃料電池に関する報告例と比べて圧倒的に少ない。特に、燃料や酸化剤ガスの供給系を含めた発電システムに至っては殆ど手がつけられていないのが現状である。
【0009】
そこで本発明は、コストメリットが期待される実用的なアニオン型燃料電池発電システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、取り扱い易さや安全性の観点から水溶液系燃料を使用したアニオン型燃料電池発電システムの構築を目指して検討を行った結果、次のような知見を得るに至った(後述の参考例参照)。
【0011】
(1)水溶液系燃料を使用したアニオン型燃料電池においては高出力化のためには水透過性を有する固体電解質膜を使用することが有利であること。
(2)水透過性を有する固体電解質膜を使用した場合には燃料の透過が避けられないこと。
(3)アニオン型燃料電池の場合には、電極材料として可能な触媒の種類が多いため、カソードに含まれる触媒として燃料に対する活性が低い触媒を使用することが可能であること。
(4)カソードに含まれる触媒として燃料に対する活性が低い触媒を使用した場合には、燃料の透過があっても電池出力の大きな低下を防止することができること。
(5)上記(4)の場合であっても、燃料利用率の低下は避けられず、また燃料電池のカソードから排出されるカソードオフガスには燃料が含まれるようになるため、カソードオフガスをそのまま大気中に放出した場合には、臭気や環境汚染の問題、更には周辺機器の腐蝕などの問題が発生すること。
【0012】
水溶液系燃料を使用する代表的なカチオン型燃料電池であるダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)においては燃料の有効利用の観点から電解質膜の燃料透過性を低く抑えることが重要な技術課題となっており、この課題を解決するためにはほぼ必然的に水透過性も低くする必要があった。このため、水透過性の高い固体電解質膜を使用することは想定されていない。したがって、上記(2)及び(5)に示す課題は、水溶液系燃料を使用したアニオン型燃料電池に特有なもので、本発明者等によって始めて認識されたものであるといえる。
【0013】
本発明者等は、上記(1)の知見に基づき、水透過性を有する固体電解質膜を使用することを前提にアニオン型燃料電池発電システムを構築するためには、上記(2)及び(5)に示す課題を解決する必要があると考え、更に検討を行った。その結果、燃該料電池のカソードから排出されるカソードオフガスを処理するカソードオフガス処理装置を設置し、該カソードオフガス処理装置では前記電解質膜を透過してカソードオフガスに混入した燃料を除去すれば上記(5)の課題が解決できること、更にカソードオフガス処理装置でカソードオフガスから分離された燃料を再使用すれば前記(2)の課題も合わせて解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、燃料及び水を透過する陰イオン交換型電解質膜の一方の面にアノードを接合し、他方の面にカソードを接合した電解質膜−電極接合体を含んでなり、燃料をアノードに供給し、酸化剤ガスおよび水をカソードに供給することにより電気を発生する固体高分子電解質型燃料電池と、前記アノードに燃料を供給するための燃料供給装置と、前記カソードに酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス供給装置とを備え、前記燃料供給装置及び前記酸化剤ガス供給装置から選ばれる少なくとも一方から水を供給できるようにした固体高分子電解質型燃料電池発電システムであって、前記燃料電池のカソードから排出され、前記電解質膜を透過して混入した燃料を含むカソードオフガスから該燃料を除去するカソードオフガス処理装置を更に含むことを特徴とする固体高分子電解質型燃料電池発電システムである。
【0015】
上記カソードオフガス処理装置としては、燃料の分解除去装置、燃料の吸着除去装置、および燃料の吸収除去装置からなる群より選ばれる少なくとも1種が好適に採用される。また、上記本発明の固体高分子電解質型燃料電池発電システムにおいては、カソードオフガス処理装置でカソードオフガスから分離された燃料を再使用すれば前記(2)の課題も合わせて解決できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の固体高分子電解質型燃料電池発電システムでは、燃料電池としてアニオン型燃料電池を使用するため、使用可能な電極触媒が白金などの貴金属に限定されず、ニッケルなどの遷移金属触媒も使用可能である。このため、燃料電池の製造コストを大幅に削減することができるばかりでなく、アノードで使用する触媒とカソードで使用する触媒を別種のものとすることが可能となる。その結果、カソードの触媒として燃料に対する活性が低い触媒を用いることが可能となり、燃料電池用隔膜が燃料透過性を有する場合であっても高い出力を得ることが可能である。
【0017】
また、本発明の固体高分子電解質型燃料電池発電システムで使用するアニオン型燃料電池は、水透過性を有する固体電解質膜を使用しているため、水酸化物イオンの伝導性を高く保つことができ、高い電池出力を得ることができる。さらに、固体電解質膜が透水性を有することにより、アノード室に燃料の水溶液を供給した場合であっても該水溶液の水成分はカソード側に透過するので、カソード室に別途水を供給する必要がなくなり、燃料電池をコンパクトに構成することが可能となる。従来の固体高分子電解質型燃料電池においては、燃料透過性は低い方が好ましいと考えられおり、水透過性の高い膜は燃料透過性も高いと考えられることから燃料電池用隔膜に適さないと考えられていた。本発明の上記効果は、このような常識を覆すものであるといえる。このような望外な効果を得ることが可能になったのは、イオン交換樹脂としてこれまで余り着目されていなかった陰イオン交換樹脂を使用することにより、触媒種の選択の範囲が拡大したことによるものである。
【0018】
更に、本発明の固体高分子電解質型燃料電池発電システムは、前記燃料電池のカソードから排出され、前記電解質膜を透過して混入した燃料を含むカソードオフガスから該燃料を除去するカソードオフガス処理装置を更に含み、該カソードオフガス処理装置で処理したオフガスを排出するので、燃料に起因する臭気や環境汚染の問題、更には周辺機器の腐蝕などの問題の発生を防止することができる。さらに、該カソードオフガス処理装置でオフガスから分離された燃料を再使用することもできるので、燃料の有効利用を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図2〜5を参照して本発明の固体高分子電解質型燃料電池発電システム100について説明する。
【0020】
図2に示すように、本発明の固体高分子電解質型燃料電池発電システム100は、燃料及び水を透過する陰イオン交換型電解質膜111の一方の面にアノード112を接合し、他方の面にカソード113を接合した電解質膜−電極接合体114を含んでなり、燃料をアノードに供給し、酸化剤ガスおよび水をカソードに供給することにより電気を発生する固体高分子電解質型燃料電池110と、前記アノード112に燃料を供給するための燃料供給装置120と、前記カソード113に酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス供給装置130と、を備え、前記燃料供給装置及び前記酸化剤ガス供給装置から選ばれる少なくとも一方から水を供給できるようにした固体高分子電解質型燃料電池発電システムであって、前記燃料電池のカソードから排出され、前記電解質膜を透過して混入した燃料を含むカソードオフガスから該燃料を除去するカソードオフガス処理装置140を更に含むことを特徴とする。
【0021】
本発明で使用する固体高分子電解質型燃料電池110は、主として、陰イオン交換型の電解質膜111の一方の面にアノード112を接合し、他方の面にカソード113を接合した電解質膜−電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)114を含んでなり、燃料をアノードに供給し、酸化剤ガスおよび水をカソードに供給することにより電気を発生する固体高分子電解質型燃料電池、即ちアニオン型燃料電池である。該固体高分子電解質型燃料電池は、上記条件を満足するものであればその構造は特に限定されず、単セル型、スタック型、あるいはパネル型等のいずれであってもよいが、高い電力を得ることができるという観点から、スタック型構造であることが好ましい。
【0022】
スタック型燃料電池とは、たとえば特開2006−4659号公報の図1に示されるように、固体高分子電解質膜の両面にアノード及びカソードを接合したMEA、カソード拡散層、アノード拡散層、ガスケット、セパレータによって単セルを構成し、単セルを複数積層することによってスタックを形成したものである。なお、カソード拡散層およびアノード拡散層は、MEAの支持、電極への外気、燃料などの供給、ならびに電極で生成された成分の拡散や、電極とセパレータの接触抵抗を低減する役割を持つものである。
【0023】
通常、各セパレータの一面には燃料供給溝が形成され、もう一面には、酸化剤ガス(例えば空気)供給溝が形成され、更に、積層部材であるMEA、ガスケット、セパレータには、燃料供給孔、酸化剤ガス供給孔が設けられ、これら供給孔及び供給溝を通って、燃料供給装置120から供給された燃料、及び酸化剤ガス供給装置130から供給された酸化剤ガスが夫々アノードおよびカソードに供給される。なお、アニオン型燃料電池において電力を発生させるためには、アノードに燃料を供給すると共にカソードに酸化剤ガス及び水を供給する必要がある。後述するように本発明で使用する固体高分子電解質型燃料電池のMEAに用いられる陰イオン交換型の電解質膜111は、水を透過する性質があるので、アノード室に燃料と共に水を供給した場合であっても、水は電解質膜111を透過してカソードに供給される。したがって、水はカソード室に直接供給してもよいし、アノード室に供給してもよいし、アノード室、カソード室の両方から供給してもよい。また、カソード室に直接供給する場合には、酸化剤ガスを加湿するなどの手段により予め両者を混合して供給することが好ましい。なお、酸化剤ガスとして大気を使用する場合には、大気中には通常水分が含まれるので、特に加湿をする必要はないが、カソード室のみから水を供給する場合には、大気の湿度によって水の供給量が変化するので、安定した出力を得るためには加湿をすることが好ましい。
【0024】
アノードに燃料が、カソードに酸化剤ガス及び水がそれぞれ供給されると、前記MEAにおいて電位差が発生し、燃料電池の出力端子に接続した走行モータなど外部負荷からの電力要求に応じて、燃料電池が発電するようになっている。また、各単セルには、通常、制御部と電気的に接続されて、その出力電圧を検知するセル電圧検知モニタが接続される。
【0025】
以下、固体高分子電解質型燃料電池110、燃料供給装置120、及び酸化剤ガス供給装置130について詳しく説明する。
【0026】
1.固体高分子電解質型燃料電池110
本発明で使用する固体高分子電解質型燃料電池110におけるMEAは、電解質膜として陰イオン交換型の電解質膜111を使用する必要がある。陰イオン交換型の電解質膜を使用することによりアニオン型燃料電池となり、電極触媒としてニッケルなどの遷移金属触媒が使用可能となる。
【0027】
1−1.陰イオン交換型の電解質膜111
陰イオン交換型の電解質膜111としては、陰イオン交換樹脂を膜状に成型したものも使用可能であるが、膜強度の観点から不織布や微多孔膜などの基材にイオン交換基の前駆体となる基を有する重合性単量体と架橋性重合性単量体とからなる重合性組成物を接触させて、該重合性組成物を基材の空隙部に充填させて重合した後に、前記前駆体となる基をイオン交換基に変換する処理、更に必要に応じて対イオンを水酸化物イオンに変換処理を行うことにより製造されたものを使用することが好ましい。
【0028】
1−1−1.基材
基材としては、ポリオレフィン、ポリフルオロオレフィン、耐加水分解性ポリイミドなどからなる織布、不織布などの高分子多孔質膜が使用できるが、高い電池出力が得られるという観点から厚さ3〜50μmの高分子多孔質フィルムを使用することが好ましい。多孔質フィルムの厚さが3μm未満である場合には、長期の使用により耐久性が低下することがあり、50μmを越える場合には膜抵抗が高くなり、電池出力が低下する傾向がある。隔膜の耐久性及び電池出力の観点から膜厚は、5〜15μmであることが特に好ましい。また、上記多孔質膜の平均孔径は、得られる陰イオン交換膜の膜抵抗の小ささや機械的強度を勘案すると、一般には0.005〜5.0μmであり、0.01〜1.0μmであることがより好ましく、0.015〜0.4μmであることが最も好ましい。また、多孔質膜の空隙率は、上記平均孔径と同様の理由により、一般的には20〜95%であり、30〜80%であることがより好ましく、30〜50%であることが最も好ましい。
【0029】
1−1−2.陰イオン交換樹脂
前記多孔質膜の空隙部に充填される陰イオン交換樹脂としては、水酸化物イオンの伝導性、燃料や水の透過性を制御しやすいという観点、製造の容易さおよび製造コストの観点から、陰イオン交換基として第4級窒素原子を含む官能基を有する架橋された炭化水素系陰イオン交換樹脂が好適に使用される。ここで、架橋された炭化水素系とは、第4級窒素原子を含む官能基からなるイオン交換基を除く部分が、架橋された炭化水素系重合体で構成されていることを意味し、炭化水素系重合体とは、重合体を構成する主鎖及び側鎖の結合の大部分が、炭素−炭素結合で構成されている重合体を意味する。なお、炭化水素系重合体においては、主鎖及び側鎖を構成する炭素−炭素結合の合間にエーテル結合、エステル結合、アミド結合、シロキサン結合等により酸素、窒素、珪素、硫黄、ホウ素、リン等の他の原子が少量介在していても良い。また、上記主鎖及び側鎖に結合する原子は、その全てが水素原子である必要はなく少量であれば塩素、臭素、フッ素、ヨウ素等の他の原子、又は他の原子を含む置換基により置換されていても良い。これら、炭素と水素以外の元素の量は、アニオン交換基を除いた、樹脂を構成する全元素中40モル%以下、好適には10モル%以下であるのが好ましい。
【0030】
このような陰イオン交換樹脂としては、(クロロメチル)スチレン/ジビニルベンゼン共重合体に4級アンモニウム塩基を導入したもの、4−ビニルピリジン/ジビニルベンゼン共重合体に4級ピリジニウム塩基を導入したもの、特開2003−155361号公報に開示されているような陰イオン交換樹脂などを挙げることができる。
【0031】
陰イオン交換樹脂を前記多孔質膜の空隙部に充填させるには、陰イオン交換基または陰イオン交換基に交換できる活性基を有する重合性単量体を含む重合性組成物を多孔質膜と接触させて多孔質膜の空隙部に充填せしめた後に重合硬化、架橋させ、次いで必要に応じて上記活性基を陰イオン交換基に変換すればよい。
【0032】
たとえば、前記の好適な陰イオン交換樹脂を前記多孔質膜の空隙部に充填させる場合には、ハロゲノアルキル基を有する重合性単量体、架橋性重合性単量体、および有効量の重合開始剤を含む重合性組成物を、多孔質膜と接触させて、該重合性組成物を多孔質膜の有する空隙部に充填させた後重合硬化、架橋させ、次いで上記ハロゲノアルキル基を4級アンモニウム塩基に変換すればよい。また、ハロゲノアルキル基を有する重合性単量体に代えて、スチレン等のハロゲノアルキル基を導入可能な官能基を有する重合性単量体を使用し、重合(架橋)後にハロゲノアルキル基を導入し、次いでハロゲノアルキル基を4級アンモニウム塩基に変換してもよい。さらに、ハロゲノアルキル基を有する重合性単量体に代えて、予め4級アンモニウム塩基を導入した重合性単量体を用いてもよい。
【0033】
しかしながら、イオン交換容量が高く緻密性の制御が容易な陰イオン交換樹脂が容易に得られるという観点から、第一番目の方法、即ちハロゲノアルキル基を有する重合性単量体を使用する方法を採用することが好ましい。また、この場合に於いて、より高い緻密性の陰イオン交換樹脂を得ようとする場合には、重合性組成物にエポキシ基を有する化合物を添加することが好ましい。エポキシ基を有する化合物を配合しない場合には、重合時にハロゲノアルキル基に由来して微量副生する塩素ガスや塩化水素ガスの影響によりイオン交換樹脂の緻密性が低下することがあるが、エポキシ基を有する化合物を配合した場合には上記副生物はエポキシ基に補足さるため緻密性低下を防止することができる。
【0034】
1−1−3.陰イオン交換樹脂原料
上記方法において、ハロゲノアルキル基を有する重合性単量体としては、公知のものが制限なく使用できる。ハロゲノアルキル基としては、クロロメチル基、ブロモメチル基、ヨードメチル基、クロロエチル基、ブロモエチル基、ヨードエチル基、クロロプロピル基、ブロモプロピル基、ヨードプロピル基、クロロブチル基、ブロモブチル基、ヨードブチル基、クロロペンチル基、ブロモペンチル基、ヨードペンチル基、クロロヘキシル基、ブロモヘキシル基、ヨードヘキシル基が挙げられる。こうしたハロゲノアルキル基を有する重合性単量体の具体例としては、クロロメチルスチレン、ブロモメチルスチレン、ヨードメチルスチレン、クロロエチルスチレン、ブロモエチルスチレン、ヨードエチルスチレン、クロロプロピルスチレン、ブロモプロピルスチレン、ヨードプロピルスチレン、クロロブチルスチレン、ブロモブチルスチレン、ヨードブチルスチレン、クロロペンチルスチレン、ブロモペンチルスチレン、ヨードペンチルスチレン、クロロヘキシルスチレン、ブロモヘキシルスチレン、ヨードヘキシルスチレンが挙げられ、このうちクロロメチルスチレン、ブロモメチルスチレン、ヨードメチルスチレン、クロロエチルスチレン、ブロモエチルスチレン、ヨードエチルスチレン、クロロプロピルスチレン、ブロモプロピルスチレン、ヨードプロピルスチレン、クロロブチルスチレン、ブロモブチルスチレン、ヨードブチルスチレンを用いるのが、特に好ましい。
【0035】
架橋性重合性単量体としては、特に制限されるものではないが、例えば、ジビニルベンゼン類、ジビニルスルホン、ブタジエン、クロロプレン、ジビニルビフェニル、トリビニルベンゼン類、ジビニルナフタレン、ジアリルアミン、ジビニルピリジン類等のジビニル化合物が用いられる。架橋性重合性単量体は、通常、ハロゲノアルキル基を有する重合性単量体100質量部に対して1〜20質量部、好適には2〜7質量部使用される。この架橋性重合性単量体を制御することにより架橋度を制御することができ、延いては燃料や水の透過性を制御することができる。
【0036】
エポキシ基を有する化合物(エポキシ化合物)としては、エポキシ基を分子内に一個または複数個有する公知の化合物が制限なく使用できる。具体的には、エポキシ化大豆油やエポキシ化亜麻仁油などのエポキシ化植物油やこれらの誘導体、テルペンオキサイド、スチレンオキサイドやこれらの誘導体、エポキシ化α−オレフィン、エポキシ化ポリマー等が挙げられる。このようなエポキシ化合物は特開平11−158486号公報記載の方法によって得ることも出来るし、市販品(例えば、ADEKA「アデカサイザー」、花王「カボックス」、共栄社化学「エポライト」、ダイセル化学「サイクロマー」「ダイマック」、ナガセケムテックス「デナコール」)として入手することも可能である。エポキシ化合物は、ハロゲノアルキル基を有する重合性単量体100質量部に対して1〜12質量部、特に3〜8質量部使用するのが好ましい。
【0037】
重合開始剤としては、従来公知のものが特に制限なく使用される。こうした重合開始剤の具体例としては、オクタノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ベンゾイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシド等の有機過酸化物が用いられる。これら重合開始剤の配合割合は、重合反応を遂行するために必要な有効量であれば幅広い範囲から採択可能であるが、一般には、ハロゲノアルキル基を有する重合性単量体100質量部対して、0.1〜20質量部、好適には0.5〜10質量部配合させるのが好ましい。
【0038】
なお、前記重合性組成物には、効果を損なわない範囲で、その他の成分も適宜配合可能である。特に、上記ハロゲノアルキル基を有する重合性単量体や架橋性重合性単量体の他に、必要に応じてこれらの単量体と共重合可能な他の単量体や可塑剤類を添加しても良い。こうした他の単量体としては、例えば、スチレン、アクリロニトリル、メチルスチレン、アクロレイン、メチルビニルケトン、ビニルビフェニル等が用いられる。その配合割合としては、ハロゲノアルキル基を有する重合性単量体100質量部に対して100質量部以下、より好適には80質量部以下、更に好適には30質量部以下とするのが好ましい。
【0039】
また、可塑剤類としては、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジメチルイソフタレート、ジブチルアジペート、トリエチルシトレート、アセチルトリブチルシトレート、ジブチルセバケート等が用いられる。その配合割合としては、ハロゲノアルキル基を有する重合性単量体100質量部に対して50質量部以下、より好適には30質量部以下とするのが好ましい。
【0040】
1−1−4.陰イオン交換樹脂の充填方法
前記多孔質膜への上記重合性組成物を充填する方法としては、多孔質膜を重合性組成物中に浸漬する方法、重合性組成物を多孔質膜に塗布やスプレーする方法などが採用できる。多孔質膜の内部の細孔内に確実且つ均一に充填するためには、多孔質膜を重合性組成物中に浸漬させた状態で減圧操作、或いは超音波照射をすることが好ましい。
【0041】
多孔質膜の空隙部に充填した単量体組成物を重合する方法としては、一般に膜をポリエステル等のフィルムに挟んで加圧下で常温から昇温する方法が好ましい。こうした重合条件は、関与する重合開始剤の種類、単量体組成物の組成等によって左右されるものであり、特に限定されるものではなく適宜選択すれば良い。
【0042】
重合後得られる膜状物は、前記ハロゲノアルキル基を有する重合性単量体に由来して樹脂中に含まれるハロゲノアルキル基を4級アンモニウム塩基に変換させる。その4級化方法は、定法に従えばよい。たとえば、重合後得られる膜状物をトリメチルアミンやトリエチルアミン、ジメチルアミノエタノールなどの3級アミンを含む溶液に、5〜50℃で10時間以上浸漬することにより容易にハロゲノアルキル基を4級アンモニウム基に変換させることができる。
【0043】
このようにして多孔質膜の空隙部に4級アンモニウム塩型炭化水素系陰イオン交換樹脂が充填された複合膜(陰イオン交換樹脂膜)を得ることができる。得られた複合膜は、必要に応じて洗浄、裁断などが行われ、定法に従って直接液体型燃料電池用の隔膜として用いられる。なお、上記複合膜は、0.2〜3mmol・g−1、好適には0.5〜2.5mmol・g−1の陰イオン交換容量を有し、また、乾燥による水酸化物イオンの伝導性の低下が生じ難いように、25℃における含水率が7%以上、好適には10〜90%程度となるように調製することが好ましい。
【0044】
1−1−5.水透過性および燃料透過性
本発明で使用する陰イオン交換型電解質膜111は、水透過性を有する必要がある。水透過性を有することにより、水酸化物イオンの伝導性を高め、高い電池出力を得ることが可能になる。また、アノードに燃料を水溶液として供給した場合に該水溶液の水成分をカソード側に透過させることによって、カソードに別途水を供給する必要を無くすことができ、燃料電池をコンパクト化することが可能となる。このような陰イオン交換型電解質膜111は、水透過率が500g・m−2・hr−1以上特に1000g・m−2・hr−1以上であることが好ましい。ここで、水透過率は、次のようにして測定することができる。すなわち、25℃の恒温槽内に設置された燃料電池セル(電解質膜面積5cm)に燃料電池用隔膜を挟み、水を液体クロマトグラフィー用供給ポンプで供給し、膜の反対側にアルゴンガスを300ml・min.−1で供給する。そして、ガス捕集容器で捕集したアルゴンガス中の水濃度をガスクロマトグラフィーで測定することにより測定することができる。なお、あまり水透過性を高くしすぎると、透過した水によってカソードに酸化剤ガスが接触し難くなるので、水透過率は10,000g・m−2・hr−1以下、特に7,000g・m−2・hr−1以下であることが好ましい。水透過率は前記イオン交換樹脂の架橋度や電解質膜の膜厚を制御することにより調節することが可能である。
【0045】
陰イオン交換型電解質膜が水透過性を有する場合、燃料も陰イオン交換型電解質膜を透過することになる。燃料の有効利用の観点、カソードにおける反応阻害の観点から、燃料は陰イオン交換型電解質膜を透過しないことが好ましいが、水のみを選択的に透過させる技術は今の所知られておらず、水透過性を有する陰イオン交換型電解質膜を使用する場合、燃料の透過を完全に防ぐことはできない。したがって、本発明で使用する陰イオン交換型電解質膜111は水だけでなく燃料も透過する性質を有する。本発明で使用する陰イオン交換型電解質膜の燃料透過性は、燃料の種類により一概に規定することはできないが、通常、上記水透過率の測定方法において水に代えて30質量%の燃料水溶液を用いることによって測定される燃料透過率で表して、該燃料透過率が水透過率の1/20〜1倍程度である。
【0046】
1−2.電解質膜−電極接合体114
本発明で使用する固体高分子電解質型燃料電池110における電解質膜−電極接合体(MEA)114では、前記陰イオン交換型電解質膜111の一方の面にアノード112が接合され、他方の面にカソード113が接合されている。これらアノードおよびカソードは、通常、次のようにして前記陰イオン交換型電解質膜111の両面に接合される。すなわち、電極触媒に必要に応じて結着剤や分散媒を添加してペースト状の組成物とし、これをそのままロール成型するか又はカーボンペーパー等の支持層材料上に塗布した後に熱処理して層状物を得、その接合面となる表面にイオン伝導性付与剤を塗布した後に必要に応じて乾燥し、本発明の燃料電池用隔膜と熱圧着する方法;又は電極触媒にイオン伝導性付与剤及び必要に応じて結着剤や分散媒を添加してペースト状の組成物とし、これをカーボンペーパー等の支持層材料上に塗布するか、ブランクに塗布して本発明の燃料電池用隔膜上に転写するか、または本発明の燃料電池用隔膜上に直接塗布した後に乾燥させ、その後固体高分子電解質膜と熱圧着する方法などにより好適に製造することができる。また、特開2003−86193号公報に開示されているように、互いに接触することにより架橋してイオン交換樹脂を形成し得る2種以上の有機化合物、及び電極触媒を含有する組成物からなる成形体を得た後に該成形体中に含まれる前記2種以上の有機化合物を架橋させてガス拡散電極を形成し、これを本発明の燃料電池用隔膜の両面に接合しても良い。
【0047】
また、イオン伝導性付与剤としては、特開2002−367626号公報に開示されているような、分子内に陰イオン交換基を有し、水及びメタノールに難溶な炭化水素系高分子エラストマー、又はその溶液或いは懸濁液からなることを特徴とする高分子型燃料電池のガス拡散電極用イオン伝導性付与剤が好適に使用される。
【0048】
1−2−1.電極触媒
電極触媒としては、従来のガス拡散電極において電極触媒として使用されている、水素の酸化反応及び酸素の還元反応を促進する白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、スズ、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、バナジウム、あるいはそれらの合金等の金属粒子が制限なく使用できるが、コストの観点から遷移金属触媒を使用することが好ましい。これら触媒は、予め導電剤に担持させてから使用してもよい。導電剤としては、電子導電性物質であれば特に限定されるものではないが、例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛等を単独または混合して使用するのが一般的である。
【0049】
なお、本発明で使用する電解質膜−電極接合体においては、アノード室に燃料及び水を供給し、アノード室に供給された水を前記電解質膜−電極接合体を透過させてカソードに供給する場合には、水と一緒に透過する燃料に起因する出力低下を防止するために、アノードに含まれる電極触媒として燃料に対して活性なものを使用し、カソードに含まれる電極触媒として、その燃料に対する活性がアノードに含まれる電極触媒の燃料に対する活性よりも低いものを使用することが好ましい。ここで、カソードに含まれる電極触媒の燃料に対する活性は、アノードに含まれる電極触媒の燃料対する活性の1/10以下、特に1/100以下であることが好ましく、1/1000以下であることが最も好ましい。このような触媒の選択は、使用する燃料の種類ごとに簡単な活性試験を行うことにより容易に行うことができる。
【0050】
2.燃料供給装置120およびアノードへの燃料供給方法
本発明の固体高分子電解質型燃料電池発電システムにおいて、燃料供給装置120は燃料タンク121、燃料供給ライン(配管)122、及び燃料移送機構123を含む。これら燃料タンク121及び燃料移送機構123としては使用する燃料の種類に応じて、カチオン型燃料電池において使用できるとされているものが特に制限なく使用できる。燃料としては、カチオン型燃料電池で使用されるものと同じものが使用できるが、安全性及び取扱いの容易さの観点から水溶性の燃料を水溶液の形で使用することが好ましい。このような水溶性燃料を例示すれば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、1−プロパノール、アンモニア、ヒドラジン及びこれらの混合物等を挙げることができる。
【0051】
水溶性燃料を水溶液として使用する場合には、燃料タンク121は、濃度調整機構124を有していることが好ましい。濃度調整機構は、図3に示すように、水で稀釈されていない燃料又は高濃度の燃料水溶液を(以下、原燃料ともいう)蓄える原燃料タンク125a、該原燃料タンクから燃料タンクへ原燃料を移送するための配管125bおよび移送機構125c、原燃料タンクから燃料タンクへ移送される原燃料の量を制御する原燃料移送量調節手段125d、水を蓄える水タンク126a、水タンクから燃料タンクへ水を移送するための配管126bおよび移送機構126c、および水タンクから燃料タンクへ移送される水の量を制御する水移送量調節手段126dを含む。原燃料や水を移送する移送機構(125c、126c)としては、ダイヤフラム、プランジャー方式、その他方式の送液ポンプが好適に使用される。なお、原燃料がガスまたは液化ガスである場合には、原燃料タンクをバルブなどで密閉可能な耐圧容器とし、容器内を加圧状態として圧力差により原燃料を移送してもよい。また、原燃料移送量調節手段125dおよび水移送量調節手段126dとしては各種流量調節器が好適に使用される。なお、燃料電池非稼動時において外気温度が低下して水が凍結するのを防止するために、使用する水タンクに蓄えておく水には、燃料としても使用できるアルコール類を所定量予め混合しておくことが好ましい。
【0052】
水溶性燃料を水溶液として使用する場合、燃料移送機構123は、通常、ダイヤフラム、プランジャー方式、その他方式の送液ポンプとなる。燃料移送機構123の下流にはフローコントローラーなどの燃料移送量調節手段123aが設置されていることが好ましい。燃料タンクに貯留された燃料は、送液ポンプによって燃料供給ライン122を通って直接、あるいは改質されて燃料電池110のアノード112に供給される。燃料を改質する場合には、例えば特開平10−223249号公報に開示されているように、図4に示されるようなバーナー127aで加熱された蒸発部127bで燃料及び水を蒸発させてガス化し、そのガスを改質部127cに送り、ここで触媒作用により改質反応が行われ、水素ガスリッチな燃料に変化され、必要に応じて改質反応で副生する一酸化炭素を除去するための装置、たとえばCO選択酸化装置127dを通して燃料電池110のアノード112に供給される。なお、図4では、簡略化のためカソード側の酸化剤ガス供給系は省略している。
【0053】
このようにしてアノード112に供給された燃料は前記電気化学反応に供される。このとき使用されずに残った燃料はアノードオフガスまたはアノードオフ液として、アノードオフガス(又は液)排出ライン128を通って排出される。排出されたアノードオフガスまたはアノードオフ液は、オフガス(又はオフ液)の種類に応じて、必要により循環使用される。なお、電極反応によって燃料としてメタノールなどのアルコールを使用した場合には二酸化炭素が副生し、燃料がヒドラジンである場合には窒素が副生するので、燃料を循環使用する場合にはこれら副生ガスを適宜分離、排出することが好ましい。燃料の再使用は、オフガス(又はオフ液)を燃料タンク若しくは燃料供給ラインに戻すことにより行われるが、燃料の改質を行った場合には、図4に示すようにバーナーの燃料として使用してもよい。なお、この場合には上記副生ガスの分離は特に必要ない。
【0054】
3.酸化剤ガス供給装置130およびカソードへの酸化剤ガス供給方法
本発明の固体高分子電解質型燃料電池発電システムにおいて、前記固体高分子電解質型燃料電池110に酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス供給装置130は、酸化剤ガスタンク又は大気からなる酸化剤ガス供給源131、酸化剤ガス供給ライン(配管)132、及び酸化剤ガス移送機構133を含む。酸化剤ガスとして純酸素ガスなどの空気以外の酸化剤ガスを用いる場合には、該酸化剤ガスはガスシリンダー(ガスボンベ)などの耐圧容器からなる酸化剤ガスタンクに蓄えられる。しかしながら、コストなどの観点から酸化剤ガスとしては空気を使用するのが一般的であり、この場合には、外気を取り込んで酸化剤ガス移送機構133であるコンプレッサで圧縮し、酸化剤供給ライン132を通って固体高分子電解質型燃料電池110のカソード113に供給される。コンプレッサは、固体高分子電解質型燃料電池と、該燃料電池とは別に搭載された電源(たとえばキャパシタや二次電池など)とに電気的に接続されており、燃料電池が発電していない場合や、燃料電池の発電量が少ない場合は、該電源から電力が供給されて作動するようになっている。酸化剤ガス移送機構133の下流には流量調節器133aが設置されるのが好適である。なお、酸化剤ガス供給装置130には、加湿器を設け、コンプレッサからの空気を加湿空気としてカソードに供給してもよい。また、酸化剤ガス供給源131がガスシリンダー(ガスボンベ)である場合には、酸化剤ガス移送機構133は調圧弁となる。
【0055】
このようにして酸化剤供給源131から酸化剤供給ライン132を通ってカソード113に供給され酸化剤ガスは前記電気化学反応に供される。このとき使用されずに残った酸化剤ガスはカソードオフガスとして、カソードオフガス排出ライン134を通って排出される。このときカソードオフガスには、アノード側から陰イオン交換型電解質膜111を透過してきた燃料が含まれることになる。また、カソードにおいてカソードに供給された水が完全に消費されない場合には、カソードオフガスには水も含まれることになる。
【0056】
4.カソードオフガス処理装置140及び回収燃料再使用方法
カソードオフガス排出ライン134を通って排出された燃料を含むカソードオフガスは、ライン下流に設置されたカソードオフガス処理装置140に導かれ、ここでカソードオフガスに混入した燃料がカソードオフガスから除去される。カソードオフガス処理装置140は、このような機能を有するものであれば良いが、燃料の分解除去装置140a、燃料の吸着除去装置140b、および燃料の吸収除去装置140cからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。燃料の分解除去装置140aとは燃料を酸化又は還元して有害性の少ない物質に転化する装置を意味し、具体的にはこのような反応を促進する触媒を充填した反応装置、又は燃焼装置を挙げることができる。たとえば、前記したようにバーナーを用いて燃料の改質を行う場合には、図4に示されるように、このバーナーを燃料の分解除去装置とし、(燃料電池の燃料ではなく)バーナーで燃焼を行うための燃料を供給するラインにカソードオフガス排出ライン134を接続し、カソードオフガスに混入した燃料を燃焼させればよい。
【0057】
また、燃料の吸着除去装置140bとは、活性炭、活性アルミナ、シリカゲル、ゼオライトなどの燃料物質を吸着する性質を有する吸着剤と、燃料を含むカソードオフガスとを接触させこれに含まれる燃料を吸着除去する装置を意味する。燃料の吸着除去装置は、吸着剤を充填した容器を含んでなり、カソードオフガスをこの容器内を通過させることにより燃料の吸着除去が行われる。上記容器を脱着可能なカートリッジタイプとしておくことにより、所定時間使用して吸着能が低下した吸着剤を新品と容易に交換することができる。取り外されたカートリッジ内の吸着剤は別途再生処理を施すことにより再使用することもできる。なお、カソードオフガスが水(水蒸気)を含む場合、水の吸着により吸着剤の寿命が短くなることを防止するために吸着除去装置の上流に脱水装置を設けるか、又は吸着剤を充填した容器にドレン抜き機構を設ける或いは容器を加熱して水が吸着するのを防止したり吸着した水を選択的に脱離したりする機構を設けることが好ましい。カソードオフガス処理装置140が燃料のこのような吸着除去装置140bを含む場合には該吸着除去装置140bを通過した後のカソードオフガスはそのまま大気中に放出することができる。このような理由から、カソードオフガス処理装置140が燃料の分解除去装置140a及び/又は燃料の吸収除去装置140cを含む場合であっても、例えば図4に示すように、カソードオフガスのパージラインには吸着除去装置140bを設置することが好ましい。
【0058】
また、燃料の吸収除去装置140cとは燃料物質を良く溶解する液体を吸収剤として用い、該吸収剤と、燃料を含むカソードオフガスとを接触させてこれに含まれる燃料を吸収剤に吸収(物理吸収又は化学吸収)させて除去する装置を意味する。吸収剤としては一般に、燃料物質に対し良溶媒となる液体が使用されるが、燃料として水溶性のものを使用し、吸収した燃料を再使用する場合には水、燃料と同一の物質、又はこれらの混合物を使用するのが好ましい。燃料の吸収除去装置としては公知の気液接触装置が使用できるが、吸収剤が導入された槽内にカソードオフガスを吹き込むことによってオフガスと吸収剤を接触させる方式のものが好適に使用される。このとき、吸収剤を撹拌するなどして、吸収剤に吹き込まれたカソードオフガスを微泡化して気液接触面積を大きくすることが好ましい。また、吸収効率を高くするために多段で吸収を行ってもよい。吸収剤として水を使用した場合、カソードオフガスに含まれる燃料を吸収した水は、送液ポンプなどを用いて燃料供給装置120に送られ再び燃料電池の燃料として再使用される。
【0059】
なお、燃料電池非稼動時において外気温度が低下して水が凍結するのを防止するために、使用する水タンクに蓄えておく水には、燃料としても使用できるアルコール類を所定量予め混合しておくことが好ましい。
【0060】
図5に、燃料供給装置120から水溶性燃料の水溶液を供給し、カソードオフガス処理装置140が、吸収剤として水を用いた燃料の吸収除去装置140cであり、ここで燃料を吸収した水を前記燃料供給装置120に供給することによってカソードオフガスから分離された燃料を再使用する、本発明の固体高分子電解質型燃料電池発電システムのブロック図を示す。該システムでは、前記した濃度調整機構124を有しており、原燃料タンク125a、該原燃料タンクから燃料タンクへ原燃料を移送するための配管125bおよび移送機構125c、原燃料タンクから燃料タンクへ移送される原燃料の量を制御する原燃料移送量調節手段125dを具備している。また、燃料の吸収除去装置140cは、水タンク(図3における126a)を兼ねており、該装置内には図示しない吸収剤供給手段から予め吸収剤150として水或いは必要に応じてアルコールが添加された水が所定量蓄えられている。こうすることにより、水タンク126a、水移送機構126cを別途設ける必要がなくなり、システムをコンパクトにすることができる。該システムにおいては、電池稼動時においては該吸収除去装置140cにはアノードオフ液(又はアノードオフガス)が導入され、アノードで使用されずに残った燃料は一旦ここに溜められると共に、吸収除去装置140c内にためられた吸収剤中にカソードオフガスが吹き込まれ、該カソードオフガスに含まれる燃料は吸収剤に吸収されて除去される。このとき吸収剤を循環させるなどして内部を撹拌状態としておくことにより上記燃料の吸収効率を高くすることができる。そして、燃料が除去されたカソードオフガスは吸収除去装置140c外に排出され、必要に応じて設置された吸着除去装置140bを通って大気中に放出される。吸着除去装置140bは必ずしも必要なものではなく省略可能であるが、これを設置することにより吸収除去装置140cにおいて燃料が完全に除去できない場合であっても、残った燃料はここでほぼ完全に除去することが可能となる。一方、アノードで使用されずに残った燃料及びカソードオフガスに含まれていた燃料は、送液ポンプなどの液移送手段を用いて吸収剤に溶解した形で燃料供給装置120に送られ、再び燃料として使用される。
【0061】
なお、また、本システムにおいては吸着除去装置140bに代えて脱水装置を設置したり、或いは吸収除去装置140cと吸着除去装置140bとの間に脱水装置を設置したりすることもできる。カソードオフガスに多量の水蒸気が含まる場合、該水蒸気は燃料と共に吸収剤に吸収されて循環されるが、吸収剤として水を使用した場合には、吸収除去装置140cから排出されるオフガスにはある程度の水蒸気が含まれることとなる。この水蒸気は、外気温度の低下により結露または凝固(氷結)して配管の閉塞、腐蝕、破壊、周辺機器の腐蝕といった問題を引き起こすことがあるが、脱水装置を設置することにより、このような問題の発生を防止することができる。脱水装置としては、水蒸気凝集装置、乾燥剤を充填した容器などを使用することができる。
【0062】
5.水透過性および燃料透過性と電池出力の関係(参考例)
既に説明したように、本発明では、固体高分子電解質型燃料電池110のMEAにおける電解質膜として水透過性を有する陰イオン交換型の電解質膜111を使用しているので、高い電池出力を得ることができる。このことは、本発明者等が行った次の実験(参考例)結果からも支持される。
【0063】
参考例:
ポリエチレン製多孔質膜にp−クロロメチルスチレン系の重合硬化性組成物を染み込ませた後にこれを重合硬化させ、その後トリメチルアミンで処理して陰イオン交換基(4級アンモニウム塩基)を導入し、さらに対イオンを水酸化物イオンに変換することにより2枚の陰イオン交換型の固体高分子電解質膜を製造した、このとき架橋剤として使用したジビニルベンゼンの量を変えて水透過性(水透過率)の制御を行った。得られた2枚(以下、それぞれ膜Aおよび膜Bという)の固体高分子電解質膜について水透過率と燃料透過率を測定した。
【0064】
次に、膜Aおよび膜B夫々について、対イオンを水酸化物イオンに変換した陰イオン交換樹脂のテトラヒドロフラン溶液(樹脂濃度5重量%)とNi触媒とを混合したものをカーボンペーパー上に塗布することによってガス拡散電極を作成し、膜A及び膜Bそれぞれの膜の両面に上記のガス拡散電極を熱プレスして電解質膜−電極接合体とした。これを図1に示す構造の燃料電池セルに組み込んで燃料電池セル温度50℃に設定し、燃料極側にKOHを含む10質量%メタノール水溶液(KOH濃度:5質量%)を、酸化剤極側に大気圧の酸素を200ml・min.−1で供給して発電試験を行ない、電流密度0.05A・cm−2におけるセルの端子電圧を測定した。
【0065】
なお、水透過率の測定は、25℃の恒温槽内に設置された燃料電池セル(電解質膜面積5cm)に膜A又は膜Bを挟み、一方の空間に水を液体クロマトグラフィー用供給ポンプで供給すると共に膜の反対側の空間にアルゴンガスを300ml・min.−1で供給し、燃料電池セルを通過したアルゴンガスをガス捕集容器で捕集し、そのアルゴンガス中の水濃度をガスクロマトグラフィーで測定することにより、単位時間、単位膜面積当たりの水の透過量として求めた。また、燃料透過率は上記測定において水の代わりに30質量%メタノール水溶液を使用する他は同様にして求めた。
【0066】
膜A、及び膜Bについての水透過率、燃料透過率、およびセルの端子電圧はそれぞれ次のとおりであった。
〔膜A〕
水透過率:2020g・m−2・hr−1
燃料透過率:710g・m−2・hr−1
電圧:0.60(V)
〔膜B〕
水透過率:850g・m−2・hr−1
燃料透過率:130g・m−2・hr−1
電圧:0.25(V)。
【0067】
以上、図面を参照して本発明について説明したが、本発明はこれら図面に示した態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本図は固体高分子型燃料電池の基本構造を示す概念図である。
【図2】本図は、代表的な本発明の固体高分子電解質型燃料電池発電システムのブロック図である。
【図3】本図は、濃度調整機構を含む代表的な本発明の固体高分子電解質型燃料電池発電システムのブロック図である。
【図4】本図は、燃料改質装置を含む代表的な本発明の固体高分子電解質型燃料電池発電システムのブロック図である。
【図5】本図はカソードオフガス装置として燃料の吸収除去装置を用いた代表的な本発明の固体高分子電解質型燃料電池発電システムのブロック図である。
【符号の説明】
【0069】
1;電池隔壁
2;燃料ガス流通孔
3;酸化剤ガス流通孔
4;燃料室側ガス拡散電極
5;酸化剤室側ガス拡散電極
6;固体高分子電解質(陰イオン交換膜)
7;燃料室
8;酸化剤室
100;本発明の固体高分子電解質型燃料電池発電システム
111;陰イオン交換型電解質膜
112;アノード
113;カソード
114;電解質膜−電極接合体
120;燃料供給装置
121;燃料タンク
122;燃料供給ライン(配管)
123;燃料移送機構
123a;燃料移送量調節手段
124;濃度調整機構
125a;原燃料タンク
125b;原燃料タンクから燃料タンクへ原燃料を移送するための配管
125c;移送機構
125d;原燃料移送量調節手段
126a;水タンク
126b;水タンクから燃料タンクへ水を移送するための配管
126c;移送機構
126d;水移送量調節手段
127a;バーナー
127b;蒸発部
127c;改質部
127d;CO選択酸化装置
128;アノードオフガス(又は液)排出ライン
130;酸化剤ガス供給装置
131;酸化剤ガス供給源
132;酸化剤ガス供給ライン(配管)
133;酸化剤ガス移送機構
133a;流量調節器
134;カソードオフガス排出ライン
140;カソードオフガス処理装置
140a;燃料の分解除去装置
140b;燃料の吸着除去装置
140c;燃料の吸収除去装置
150;吸収剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料及び水を透過する陰イオン交換型電解質膜の一方の面にアノードを接合し、他方の面にカソードを接合した電解質膜−電極接合体を含んでなり、燃料をアノードに供給し、酸化剤ガスおよび水をカソードに供給することにより電気を発生する固体高分子電解質型燃料電池と、前記アノードに燃料を供給するための燃料供給装置と、前記カソードに酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス供給装置とを備え、前記燃料供給装置及び前記酸化剤ガス供給装置から選ばれる少なくとも一方から水を供給できるようにした固体高分子電解質型燃料電池発電システムであって、前記燃料電池のカソードから排出され、前記電解質膜を透過して混入した燃料を含むカソードオフガスから該燃料を除去するカソードオフガス処理装置を更に含むことを特徴とする固体高分子電解質型燃料電池発電システム。
【請求項2】
燃料として水溶性燃料を使用する請求項1に記載の固体高分子電解質型燃料電池発電システム。
【請求項3】
前記カソードオフガス処理装置が、燃料の分解除去装置、燃料の吸着除去装置、および燃料の吸収除去装置からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の固体高分子電解質型燃料電池発電システム。
【請求項4】
前記カソードオフガス処理装置でカソードオフガスから分離された燃料を再使用する請求項1又は2に記載の固体高分子電解質型燃料電池発電システム。
【請求項5】
前記燃料装置で水溶性燃料および水を供給し、前記カソードオフガス処理装置が、吸収剤として水を用いた燃料の吸収除去装置であり、該カソードオフガス処理装置において燃料を吸収した水を前記固体高分子電解質型燃料電池に供給することによってカソードオフガスから分離された燃料を再使用する請求項4に記載の固体高分子電解質型燃料電池発電システム。
【請求項6】
前記固体高分子電解質型燃料電池におけるアノード及びカソードが、共に遷移金属触媒を含んでなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の固体高分子電解質型燃料電池発電システム。
【請求項7】
前記アノード含まれる触媒が燃料に対して活性であり、カソードに含まれる触媒の燃料に対する活性がアノードに含まれる触媒の燃料に対する活性よりも低いことを特徴とする請求項6に記載の固体高分子電解質型燃料電池発電システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−117282(P2009−117282A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−291726(P2007−291726)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】