説明

固定砥粒ワイヤ及びそれを備えた切断装置ならびにウエハ

【課題】被加工物を切削加工して形成したウエハの強度の低下を抑制することが可能な、固定砥粒ワイヤ及びそれを備えた切断装置と、固定砥粒ワイヤまたは切断装置を用いて作製されたウエハを提供する。
【解決手段】線状のワイヤ本体22と、ワイヤ本体22の外径面に固着している複数の砥粒24を備え、被加工物の切削加工に用いる固定砥粒ワイヤ14であって、複数の砥粒24は、ワイヤ本体22の外径面から突出する突出量Hの分布における、分布の比率のピーク値を二つ有し、具体的には、15[μm]以上である大砥粒24Lと、分布の比率のピーク値が10[μm]以下である小砥粒24Sを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ本体に複数の砥粒を固着させて形成した固定砥粒ワイヤと、その固定砥粒ワイヤを備える切断装置に関し、特に、シリコンブロック等の被加工物を切断してウエハを形成するための固定砥粒ワイヤ及びそれを備えた切断装置と、固定砥粒ワイヤまたは切断装置を用いて作製されたウエハに関する。
【背景技術】
【0002】
多結晶シリコン等で形成されているシリコンブロック等の被加工物を切断して、複数枚のウエハを形成する切断装置がある。このような切断装置としては、例えば、固定砥粒ワイヤを備えたワイヤソーが用いられている。
固定砥粒ワイヤは、線状のワイヤ本体に複数の砥粒を固着させて形成されており、被加工物の切削加工に用いる。
上記のような固定砥粒ワイヤは、例えば、特許文献1に記載されているように、ワイヤ本体として高張力線材等を用い、砥粒としてダイヤモンド等を用いて、めっき層等の固着手段により、複数の砥粒をワイヤ本体の外径面に固着して形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000‐288902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に記載されている固定砥粒ワイヤを含め、従来の固定砥粒ワイヤでは、複数の砥粒は、ワイヤ本体の外径面から突出している突出量が均一ではない。すなわち、複数の砥粒は、突出量が高く、被加工物の切削加工に寄与する度合いが高い砥粒と、切削加工に寄与する度合いが高い砥粒よりも突出量が低く、切削加工に寄与する度合いが低い砥粒とを含んでいる。
【0005】
切削加工に寄与する度合いが低い砥粒は、被加工物の切削加工が進行して、切削加工に寄与する度合いが高い砥粒が磨耗した際に、被加工物とワイヤ本体との接触を防止するための砥粒として機能する。
被加工物を切断して複数枚のウエハを形成する際には、固定砥粒ワイヤを高い速度(例えば、600[m/min]程度)で移動させて被加工物と接触させているため、被加工物とワイヤ本体が接触すると、ワイヤ本体が損傷・切断して、固定砥粒ワイヤが切断する可能性が高くなる。
固定砥粒ワイヤが切断してしまうと、切断装置の使用を継続するためには、切断した固定砥粒ワイヤを切断装置から取り外して、新たな固定砥粒ワイヤを切断装置へ取り付ける必要があるが、固定砥粒ワイヤは、複数のローラに対して複数の列を形成するように巻かれているため、固定砥粒ワイヤの交換作業を行うと、切断装置の稼動効率が低下する。
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1に記載されている固定砥粒ワイヤを含め、従来の固定砥粒ワイヤでは、切削加工に寄与する度合いが高い砥粒の突出量と、切削加工に寄与する度合いが低い砥粒の突出量とを、明確には区分していない。このため、複数の砥粒のうち、切削加工に寄与する度合いが低い砥粒の割合が低い場合は、被加工物とワイヤ本体との接触を防止するための砥粒の割合が低くなるため、ワイヤ本体が損傷・切断して、固定砥粒ワイヤが切断する可能性が高くなる。
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたもので、切削加工に寄与する度合いが高い砥粒の突出量と、切削加工に寄与する度合いが低い砥粒の突出量とを明確に区分して、ワイヤ本体の損傷を抑制することが可能な、固定砥粒ワイヤ及びそれを備えた切断装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のうち、請求項1に記載した発明は、線状のワイヤ本体と、前記ワイヤ本体の外径面に固着している複数の砥粒と、を備え、被加工物の切削加工に用いる固定砥粒ワイヤであって、
前記複数の砥粒は、前記ワイヤ本体の外径面から突出する突出量の分布における前記分布の比率のピーク値を二つ有している。
本発明によると、ワイヤ本体の外径面に固着している複数の砥粒が、ワイヤ本体の外径面から突出する突出量の分布における、分布の比率のピーク値を二つ有している。
このため、複数の砥粒に対し、切削加工に寄与する度合いが高い砥粒である砥粒の突出量と、切削加工に寄与する度合いが低い砥粒の突出量を明確に区分して、切削加工に寄与する度合いが高い砥粒と、被加工物とワイヤ本体との接触を防止するための砥粒とを確保することが可能となる。
【0008】
また、本発明のうち、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した発明であって、
前記二つのピーク値のうち一方は、15[μm]以上であり、
前記二つのピーク値のうち他方は、10[μm]以下であることを特徴とするものである。
本発明によると、ワイヤ本体の外径面に固着している複数の砥粒が、ワイヤ本体の外径面から突出する突出量の分布における、分布の比率のピーク値を二つ有しており、一方のピーク値を15[μm]以上とし、他方のピーク値を10[μm]以下としている。
このため、複数の砥粒に対し、切削加工に寄与する度合いが高い砥粒である砥粒の突出量と、切削加工に寄与する度合いが低い砥粒の突出量とを、より明確に区分して、切削加工に寄与する度合いが高い砥粒と、被加工物とワイヤ本体との接触を防止するための砥粒とを確保することが可能となる。
【0009】
次に、本発明のうち、請求項3に記載した発明は、請求項1または請求項2に記載した発明であって、前記複数の砥粒は、前記ピーク値が15[μm]以上である大砥粒と、前記ピーク値が10[μm]以下である小砥粒と、を含み、
前記大砥粒のうち、前記大砥粒の前記ワイヤ本体の外径面から突出する大砥粒側突出量の分布である大砥粒側分布において、前記大砥粒側突出量の区間の幅が4.5[μm]以内となっている区間に含まれる前記大砥粒の数は、前記大砥粒の総数の70%以上の数であり、
前記幅が4.5[μm]以内となっている区間は、前記大砥粒側分布における大砥粒側分布の比率の最大値である大砥粒側比率最大値を含むことを特徴とするものである。
【0010】
本発明によると、大砥粒のうち、大砥粒側分布において大砥粒側突出量の区間の幅が4.5[μm]以内となっている区間に含まれる大砥粒の数を、大砥粒の総数の70%以上の数とする。これに加え、大砥粒側突出量の区間の幅が4.5[μm]以内となっている区間を、大砥粒側分布における分布の比率の最大値である大砥粒側比率最大値を含む区間とする。
このため、被加工物の切削加工において、全ての大砥粒のうち、被加工物と接触する可能性が低い砥粒等を除いた大砥粒を、上述した区間の幅が4.5[μm]以内となっている区間に含まれる大砥粒として調整することが可能となる。これに加え、大砥粒側突出量の区間の幅が4.5[μm]を超える場合と比較して、被加工物のうち、切削加工の際に固定砥粒ワイヤと接触した部分に加わる応力の増加を抑制することが可能となる。
【0011】
次に、本発明のうち、請求項4に記載した発明は、請求項3に記載した発明であって、前記大砥粒側突出量の区間は、前記大砥粒側分布において前記大砥粒側比率最大値以上の第一大砥粒側区間と、前記大砥粒側分布において前記大砥粒側比率最大値未満の第二大砥粒側区間と、から構成され、
前記第二大砥粒側区間の幅は、前記大砥粒側分布の標準偏差σと等しい幅であり、
前記第一大砥粒側区間の幅は、前記標準偏差σの二倍の幅であることを特徴とするものである。
【0012】
本発明によると、大砥粒側突出量の区間を、大砥粒側分布において上述した大砥粒側比率最大値以上の第一大砥粒側区間と、大砥粒側分布において大砥粒側比率最大値未満の第二大砥粒側区間とから構成している。これに加え、第二大砥粒側区間の幅を、大砥粒側分布の標準偏差σと等しい幅とし、第一大砥粒側区間の幅を、標準偏差σの二倍の幅としている。
このため、大砥粒の大きさの割合を、大砥粒側分布において上述した大砥粒側比率最大値以上の砥粒が、大砥粒側分布において大砥粒側比率最大値未満である砥粒よりも多い割合とすることが可能となる。
【0013】
次に、本発明のうち、請求項5に記載した発明は、請求項3に記載した発明であって、前記固定砥粒ワイヤに対するドレッシングを行った後の前記大砥粒側分布における前記突出量が大きい方から突出量の区間の幅が4.5[μm]以内となる区間に含まれる砥粒数は、全砥粒数の70%以上であることを特徴とするものである。
本発明によると、固定砥粒ワイヤに対するドレッシングを行った後の大砥粒側分布における突出量が大きい方から突出量の区間の幅が4.5[μm]以内の区間となる区間に含まれる砥粒数を、全砥粒数の70%以上としている。
このため、固定砥粒ワイヤを形成する際の加工精度が低い場合等、大砥粒側突出量の区間の幅が4.5[μm]よりも大きくなった場合であっても、固定砥粒ワイヤに対するドレッシングを行った後は、大砥粒に対し、大砥粒側突出量の区間の幅4.5[μm]以下とすることが可能となる。
【0014】
次に、本発明のうち、請求項6に記載した発明は、前記被加工物を切断してウエハを形成する切断装置であって、
請求項1から請求項5のうちいずれか1項に記載した固定砥粒ワイヤと、
前記固定砥粒ワイヤを長さ方向へ移動可能なワイヤ移動手段と、を備えることを特徴とするものである。
本発明によると、請求項1から請求項5のうちいずれか1項に記載した構成の固定砥粒ワイヤと、この固定砥粒ワイヤを、固定砥粒ワイヤの長さ方向へ移動可能なワイヤ移動手段を備えている。
このため、固定砥粒ワイヤが、請求項1から請求項5のうちいずれか1項に記載した構成を備えていない場合と比較して、被加工物のうち、切削加工の際に固定砥粒ワイヤと接触した部分に加わる応力の増加を抑制することが可能となる。
【0015】
次に、本発明のうち、請求項7に記載した発明は、請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載した固定砥粒ワイヤを用いて作製されたことを特徴とするウエハである。
本発明によると、ウエハを、請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載した固定砥粒ワイヤを用いて作製する。
このため、ウエハの材料となる被加工物のうち、切削加工の際に固定砥粒ワイヤと接触した部分に加わる応力の増加を抑制した状態で、ウエハを作製することが可能となる。
【0016】
次に、本発明のうち、請求項8に記載した発明は、請求項6に記載した切断装置を用いて作製されたことを特徴とするウエハである。
本発明によると、ウエハを、請求項6に記載した切断装置を用いて作製する。
このため、ウエハの材料となる被加工物のうち、切削加工の際に固定砥粒ワイヤと接触した部分に加わる応力の増加を抑制した状態で、ウエハを作製することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ワイヤ本体の外径面に固着している複数の砥粒の構成を、ワイヤ本体の外径面から突出する突出量の分布における、分布の比率のピーク値を二つ有し、具体的には、ピーク値が15[μm]以上の砥粒と、ピーク値が10[μm]以下の砥粒を含む構成とする。
このため、複数の砥粒に対し、切削加工に寄与する度合いが高い砥粒である砥粒の突出量と、切削加工に寄与する度合いが低い砥粒である砥粒の突出量を明確に区分して、切削加工が進行して大砥粒が磨耗した際に、被加工物とワイヤ本体との接触を防止するための砥粒を確保することが可能となり、ワイヤ本体の損傷を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第一実施形態の切断装置の概略構成を示す図である。
【図2】固定砥粒ワイヤの構成を示す図である。
【図3】大砥粒側突出量及び小砥粒側突出量の分布を示す図である。
【図4】大砥粒側分布を示す図である。
【図5】被加工物を切削加工する状態を示す図である。
【図6】大砥粒側分布を示す図である。
【図7】サンプルの構成を示す図である。
【図8】突出量の測定要領を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第一実施形態)
以下、本発明の第一実施形態(以下、「本実施形態」と記載する)について、図面を参照しつつ説明する。
(構成)
まず、図1から図4を用いて、本実施形態の切断装置の構成を説明する。
図1は、本実施形態の切断装置1の概略構成を示す図である。
図1中に示すように、切断装置1は、被加工物Wを切断して複数枚のウエハを形成する装置であり、一対のワイヤボビン2a,2bと、テンションローラ4と、ガイドローラ6と、駆動ローラ8と、従動ローラ10と、クーラントノズル12と、固定砥粒ワイヤ14を備えている。
【0020】
なお、本実施形態では、一例として、被加工物Wを多結晶シリコンブロックとし、複数枚のウエハとして、厚さ180〜220[μm]程度のシリコンウエハを形成する場合を説明する。
また、被加工物Wは、直方体に形成されており、ガラス板やカーボン板を用いて形成された保持板16に接着されている。保持板16は、固定板18に取り付けられており、固定板18は、被加工物Wを駆動ローラ8と従動ローラ10との間へ移動させることが可能なテーブル(図示せず)に固定されている。
一対のワイヤボビン2a,2bは、共に、ボビン駆動用モータ(図示せず)の回転軸に取り付けられており、ボビン駆動用モータの駆動に応じて回転する。
【0021】
また、一対のワイヤボビン2a,2bには、それぞれ、固定砥粒ワイヤ14の端部が取り付けられている。すなわち、固定砥粒ワイヤ14の両端部は、一対のワイヤボビン2a,2bに支持されている。
また、一対のワイヤボビン2a,2bは、切断装置1の動作時において、一方が固定砥粒ワイヤ14を払い出す(送り出す)構成として機能し、他方が固定砥粒ワイヤ14を巻き取る(回収する)構成として機能する。
テンションローラ4は、一対のワイヤボビン2a,2b間に配置されており、その外径面には、固定砥粒ワイヤ14が接触している。なお、本実施形態では、一例として、一対のワイヤボビン2a,2b間において、被加工物Wを挟んで、二つのテンションローラ4が配置されている場合を示す。
【0022】
また、各テンションローラ4には、テンションローラ4を固定砥粒ワイヤ14の径方向へ移動可能であり、テンションローラ4を固定砥粒ワイヤ14に押圧可能なアクチュエータ20が設けられている。
アクチュエータ20は、例えば、油圧シリンダー等を用いて形成されており、固定砥粒ワイヤ14の張力を予め設定した張力(27[N]以上。例えば、30[N]程度)とするために、テンションローラ4を固定砥粒ワイヤ14に押圧する。
【0023】
ガイドローラ6は、一対のワイヤボビン2a,2b間に配置されており、その外径面には、固定砥粒ワイヤ14が接触している。
駆動ローラ8は、ローラ駆動用モータ(図示せず)の回転軸に取り付けられており、モータの駆動に応じて回転する。なお、ローラ駆動用モータは、例えば、上述したボビン駆動用モータと同期させて回転させる。
【0024】
従動ローラ10は、駆動ローラ8と離間して配置されている。
また、従動ローラ10の回転軸は、駆動ローラ8の回転軸と平行に向けられている。
また、駆動ローラ8と従動ローラ10には、固定砥粒ワイヤ14が複数回に亘って巻きつけられており、駆動ローラ8と従動ローラ10との間には、複数列の固定砥粒ワイヤ14による切削加工列が形成されている。なお、固定砥粒ワイヤ14は、駆動ローラ8と従動ローラ10との間において、隣り合う固定砥粒ワイヤ14の間(ピッチ)が、例えば、350[μm]となるように、駆動ローラ8と従動ローラ10との間に巻きつけられている。
以上により、一対のワイヤボビン2a,2b、ボビン駆動用モータ、駆動ローラ8及びローラ駆動用モータは、固定砥粒ワイヤ14を、固定砥粒ワイヤ14の長さ方向へ移動可能なワイヤ移動手段を形成している。
【0025】
クーラントノズル12は、駆動ローラ8及び従動ローラ10の近傍に配置されており、被加工物Wと固定砥粒ワイヤ14との接触部分へ向けて、液体を噴射する。クーラントノズル12が噴射する液体は、例えば、被加工物Wの切断時に発生する切断粉の排出性向上、被加工物Wの切断時に発生する加工熱の吸収、被加工物Wの切断時において被加工物Wの固定砥粒ワイヤ14との間に発生する切断抵抗の減少等を目的として用いる。
固定砥粒ワイヤ14は、図2中に示すように、ワイヤ本体22と、複数の砥粒24を備えている。なお、図2は、固定砥粒ワイヤ14の構成を示す図であり、固定砥粒ワイヤ14を径方向から見た断面図である。
ワイヤ本体22は、例えば、高張力線材を用いて形成されている。
【0026】
また、ワイヤ本体22の外径面には、めっき層等からなる固着層26が形成されている。すなわち、ワイヤ本体22の外径面は、固着層26により被覆されている。このため、以降の説明では、ワイヤ本体22の外径面を、固着層26の表面(外面)として記載する。
各砥粒24は、例えば、ダイヤモンドの粒体・粉体を用いて形成されており、固着層26を介してワイヤ本体22に固着されて、ワイヤ本体22の外径面(固着層26の表面)から突出している。
【0027】
また、各砥粒24は、ワイヤ本体22の外径面から突出する突出量(図2中に符号「H」で示す、ワイヤ本体22の径方向に沿った長さ。以降の説明では、「突出量H」と記載する場合がある)の分布における、分布の比率のピーク値を二つ有している。
二つのピーク値のうち一方は、15[μm]以上であり、二つのピーク値のうち他方は、10[μm]以下である。
【0028】
また、複数の砥粒24は、上述したピーク値が15[μm]以上である大砥粒24Lと、上述したピーク値が10[μm]以下である小砥粒24Sを含んでいる。なお、図2中では、大砥粒24Lの突出量である大砥粒側突出量を、符号「HL」と示し、小砥粒24Sの突出量である小砥粒側突出量を、符号「HS」と示している。
また、本実施形態では、大砥粒側突出量HLの分布における、分布の比率のピーク値と、小砥粒側突出量HSの分布における、分布の比率のピーク値を、例えば、図3中に示す値としている。
【0029】
具体的には、本実施形態では、小砥粒側突出量HSの分布における、分布の比率のピーク値(図中に示す点PSの値)を、5〜10[μm]に設定しており、大砥粒側突出量HLの分布における、分布の比率のピーク値(図中に示す点PLの値)を、15〜25[μm]に設定している。
なお、図3は、大砥粒側突出量HL及び小砥粒側突出量HSの分布を示す図であり、縦軸に大砥粒側突出量HL及び小砥粒側突出量HSの分布の比率を示し、横軸に各砥粒24(大砥粒24L、小砥粒24S)の突出量Hを示している。
【0030】
また、大砥粒24Lのうち、大砥粒24Lのワイヤ本体22の外径面から突出する大砥粒側突出量HLの分布(以降の説明では、「大砥粒側分布」と記載する場合がある)において、大砥粒側突出量HLの区間の幅が4.5[μm]以内となっている区間に含まれる大砥粒24Lの数は、大砥粒24Lの総数の70%以上の数となっている。
なお、大砥粒側突出量HLの区間の幅が4.5[μm]以内となっている区間に含まれる大砥粒24Lの数を、大砥粒24Lの総数の70%以上の数とした理由については、後述する。
【0031】
ここで、大砥粒側突出量HLの区間の幅が4.5[μm]以内となっている区間は、図4中に示すように、大砥粒側分布における、大砥粒側分布の比率の最大値である大砥粒側比率最大値(図中に示す点Pmaxの値)を含んでいる。
なお、図4は、大砥粒側分布を示す図であり、縦軸に大砥粒側分布の比率を示し、横軸に大砥粒側突出量HLを示している。また、図4中では、4.5[μm]以内となっている大砥粒側突出量HLの区間の幅を、符号「I」により示している。
【0032】
また、大砥粒側突出量HLの区間の幅は、大砥粒側分布において、大砥粒側比率最大値以上の第一大砥粒側区間と、大砥粒側分布において、大砥粒側比率最大値未満の第二大砥粒側区間とから構成されている。
本実施形態では、一例として、図4中に示すように、第二大砥粒側区間の幅を、大砥粒側分布の標準偏差σと等しい幅とし、第一大砥粒側区間の幅を、標準偏差σの二倍の幅(第二大砥粒側区間の二倍の幅)とした場合を示す。
したがって、本実施形態では、第一大砥粒側区間と第二大砥粒側区間を合計した区間の幅が、3σとなる。本実施形態において、3σの幅は、大砥粒側突出量HLの区間で連続する約81.8[%]の幅となるため、第一大砥粒側区間と第二大砥粒側区間に含まれる大砥粒24Lの数は、大砥粒24Lの総数の70%以上の数となっている。
(幅が4.5[μm]以内となっている区間に含まれる大砥粒24Lの数を、大砥粒24Lの総数の70%以上の数とした理由)
【0033】
以下、図1から図4を参照して、大砥粒側突出量HLの区間の幅が4.5[μm]以内となっている区間に含まれる大砥粒24Lの数を、大砥粒24Lの総数の70%以上の数とした理由を説明する。
大砥粒24Lのうち、大砥粒側突出量HLの区間の幅が4.5[μm]以内となっている区間に含まれる大砥粒24Lと比較して大砥粒側突出量HLが低い大砥粒24Lは、被加工物Wの切削加工初期において、被加工物Wと接触する可能性が低い大砥粒24Lである。
【0034】
一方、大砥粒24Lのうち、大砥粒側突出量HLの区間の幅が4.5[μm]以内となっている区間に含まれる大砥粒24Lと比較して、大砥粒側突出量HLが高い大砥粒24Lは、被加工物Wの切削加工において、即座にワイヤ本体22から除去される可能性が高い大砥粒24Lである。
したがって、大砥粒側突出量HLの区間の幅が4.5[μm]以内となっている区間に含まれていない大砥粒24L、すなわち、大砥粒側突出量HLが低い大砥粒24L及び高い大砥粒24Lは、大砥粒側突出量HLの区間の幅が4.5[μm]以内となっている区間に含まれる大砥粒24Lと比較して、実質的に被加工物Wの切削加工に寄与する度合いが低い大砥粒24Lとなる。
【0035】
以上説明した理由により、本実施形態では、大砥粒24Lのうち、上述した大砥粒側突出量HLの区間の幅が4.5[μm]以内となっている区間に含まれ、且つ大砥粒24Lの総数の70%以上の数である大砥粒24Lを、被加工物Wの切削加工に寄与する大砥粒24L(寄与する度合いが高い大砥粒24L)と規定する。これに加え、被加工物Wの切削加工に寄与すると規定した大砥粒24Lの大きさを、上述した大砥粒側突出量HLの区間の幅が4.5[μm]以内となるように調整する。
【0036】
(動作・作用等)
以下、図1から図4を参照しつつ、図5を用いて、上記の構成を備えた固定砥粒ワイヤ14と、この固定砥粒ワイヤ14を備えた切断装置1が行う動作・作用等について説明する。
本実施形態の切断装置1を用いて、被加工物Wを切断して複数枚のウエハを形成する際には、ボビン駆動用モータを駆動させて一対のワイヤボビン2a,2bを回転させるとともに、ローラ駆動用モータを駆動させて駆動ローラ8を回転させる。これに加え、アクチュエータ20を駆動させて、テンションローラ4を固定砥粒ワイヤ14に押圧し、固定砥粒ワイヤ14の張力を予め設定した張力とする。これにより、駆動ローラ8と従動ローラ10との間に形成されている切削加工列を、固定砥粒ワイヤ14の長さ方向へ移動させる。
【0037】
上記のように、駆動ローラ8と従動ローラ10との間に形成されている切削加工列を、固定砥粒ワイヤ14の長さ方向へ移動させた状態で、固定板18及び保持板16を移動させて、被加工物Wを駆動ローラ8と従動ローラ10との間へ移動させる。これにより、被加工物Wを、駆動ローラ8と従動ローラ10との間に形成されている切削加工列(固定砥粒ワイヤ14)に接触させる。なお、被加工物Wと固定砥粒ワイヤ14が接触する際には、クーラントノズル12から、固定砥粒ワイヤ14と被加工物Wとの接触部分へ向けて、液体を噴射する。
【0038】
被加工物Wを駆動ローラ8と従動ローラ10との間へ移動させると、図5中に示すように、移動している固定砥粒ワイヤ14は、被加工物Wを切削加工する。そして、被加工物Wの切削加工が進行すると、被加工物Wが切断されて、複数枚のウエハが形成される。なお、図5は、被加工物Wを切削加工する状態を示す図である。
本実施形態では、上述したように、複数の砥粒24が、突出量Hの分布における、分布の比率のピーク値を二つ有しており、二つのピーク値のうち一方を15[μm]以上とし、二つのピーク値のうち他方を10[μm]以下としている。
【0039】
このため、ピーク値を15[μm]以上とした砥粒24の突出量H、すなわち、切削加工に寄与する度合いが高い大砥粒24Lの大砥粒側突出量HLと、ピーク値を10[μm]以下とした砥粒24の突出量H、すなわち、切削加工に寄与する度合いが低い小砥粒24Sの小砥粒側突出量HSを明確に区分して、切削加工に寄与する度合いが高い砥粒24である大砥粒24Lと、被加工物Wとワイヤ本体22との接触を防止するための砥粒24である小砥粒24Sとを確保することが可能となる。
【0040】
これにより、本実施形態では、被加工物Wの切削加工が進行して大砥粒24Lが磨耗した際に、被加工物Wとワイヤ本体22との接触を防止するための小砥粒24Sを確保することが可能となる。
したがって、被加工物Wの切削加工が進行して大砥粒24Lが磨耗した場合であっても、ワイヤ本体22の損傷を抑制することが可能となる。
【0041】
(第一実施形態の効果)
以下、本実施形態の効果を列挙する。
(1)本実施形態の切断装置1が備える固定砥粒ワイヤ14では、ワイヤ本体22の外径面に固着している複数の砥粒24が、突出量Hの分布における、分布の比率のピーク値を二つ有しており、二つのピーク値のうち一方を15[μm]以上とし、二つのピーク値のうち他方を10[μm]以下としている。
【0042】
このため、大砥粒側突出量HLと小砥粒側突出量HSを明確に区分して、切削加工に寄与する度合いが高い大砥粒24Lと、被加工物Wとワイヤ本体22との接触を防止するための小砥粒24Sとを確保することが可能となる。
その結果、被加工物Wの切削加工が進行して大砥粒24Lが磨耗した際に、被加工物Wとワイヤ本体22との接触を防止するための小砥粒24Sを確保して、被加工物Wの切削加工が進行して大砥粒24Lが磨耗した場合であっても、ワイヤ本体22の損傷を抑制することが可能となる。
【0043】
(2)本実施形態の切断装置1が備える固定砥粒ワイヤ14では、大砥粒24Lのうち、大砥粒側分布において大砥粒側突出量HLの区間の幅が4.5[μm]以内となっている区間に含まれる大砥粒24Lの数を、大砥粒24Lの総数の70%以上の数とする。これに加え、大砥粒側突出量HLの区間の幅が4.5[μm]以内となっている区間を、大砥粒側分布における分布の比率の最大値である大砥粒側比率最大値を含む区間とする。
【0044】
このため、被加工物Wの切削加工において、全ての大砥粒24Lのうち、被加工物Wと接触する可能性が低い砥粒等を除いた大砥粒24Lを、上述した区間の幅が4.5[μm]以内となっている区間に含まれる大砥粒24Lとして調整することが可能となる。これに加え、大砥粒側突出量HLの区間の幅が4.5[μm]を超える場合と比較して、被加工物Wのうち、切削加工の際に固定砥粒ワイヤ14と接触した部分に加わる応力の増加を抑制することが可能となる。
その結果、固定砥粒ワイヤ14を備える切断装置1を用いて、被加工物Wを切削加工して形成したウエハの強度の低下を抑制することが可能となるとともに、大砥粒側突出量HLの大きさの差を減少させることが可能となり、被加工物Wのうち、切削加工の際に固定砥粒ワイヤ14と接触した部分に加わる応力の増加を抑制することが可能となる。
【0045】
(3)本実施形態の切断装置1が備える固定砥粒ワイヤ14では、大砥粒側突出量HLの区間を、大砥粒側分布において、上述した大砥粒側比率最大値以上の第一大砥粒側区間と大砥粒側比率最大値未満の第二大砥粒側区間とから構成している。これに加え、第二大砥粒側区間の幅を、大砥粒側分布の標準偏差σと等しい幅とし、第一大砥粒側区間の幅を、標準偏差σの二倍の幅としている。
このため、大砥粒24Lの大きさの割合を、大砥粒側分布において、大砥粒側比率最大値以上の大砥粒24Lが、大砥粒側分布において、大砥粒側比率最大値未満である大砥粒24Lよりも多い割合とすることが可能となる。
その結果、大砥粒側突出量HLの平均値を増加させることが可能となり、固定砥粒ワイヤ14が有する、被加工物Wに対する切削加工能力の低下を抑制することが可能となる。
【0046】
(4)本実施形態の切断装置1では、上述した構成の固定砥粒ワイヤ14と、この固定砥粒ワイヤ14を、固定砥粒ワイヤ14の長さ方向へ移動可能なワイヤ移動手段(ワイヤボビン2、ボビン駆動用モータ、駆動ローラ8及びローラ駆動用モータ)を備えている。
このため、固定砥粒ワイヤ14が、上述した構成を備えていない場合と比較して、被加工物Wのうち、切削加工の際に固定砥粒ワイヤ14と接触した部分に加わる応力の増加を抑制することが可能となる。
その結果、被加工物Wを切削加工して形成したウエハの強度の低下を抑制することが可能となる。
(5)本実施形態では、上述した構成の固定砥粒ワイヤ14を用いて、ウエハ(シリコンウエハや半導体ウエハ等)を作製する。
このため、ウエハの材料となる被加工物Wのうち、切削加工の際に固定砥粒ワイヤ14と接触した部分に加わる応力の増加を抑制した状態で、ウエハを作製することが可能となる。
その結果、ウエハの品質を向上させることが可能となる。
【0047】
(6)本実施形態では、上述した構成の切断装置1を用いて、ウエハ(シリコンウエハや半導体ウエハ等)を作製する。
このため、ウエハの材料となる被加工物Wのうち、切削加工の際に固定砥粒ワイヤ14と接触した部分に加わる応力の増加を抑制した状態で、ウエハを作製することが可能となる。
その結果、ウエハの品質を向上させることが可能となる。
【0048】
(変形例)
以下、本実施形態の変形例を列挙する。
(1)本実施形態の切断装置1では、被加工物Wを多結晶シリコンブロックとしたが、これに限定するものではなく、被加工物Wを、単結晶シリコンブロック等、多結晶シリコンブロック以外としてもよい。また、ウエハの厚さは、180〜220[μm]程度に限定するものではない。
(2)本実施形態の切断装置1では、固定砥粒ワイヤ14を巻きつけて切削加工列が形成する二つのローラとして、駆動ローラ8と従動ローラ10を用いているが、これに限定するものではなく、二つのローラを、共に駆動ローラ8としてもよい。また、ボビン駆動用モータの駆動力が高い場合等には、二つのローラを、共に従動ローラ10としてもよい。
【0049】
(第二実施形態)
以下、本発明の第二実施形態(以下、「本実施形態」と記載する)について、図面を参照しつつ説明する。
(構成)
まず、図1、図2、図5を参照しつつ、図6を用いて、本実施形態の切断装置の構成を説明する。
本実施形態の切断装置1は、固定砥粒ワイヤ14の構成を除き、上述した第一実施形態と同様である。このため、以降の説明では、固定砥粒ワイヤ14の構成以外について、記載を省略する場合がある。
本実施形態の切断装置1が備える固定砥粒ワイヤ14は、上述した第一実施形態と異なり、固定砥粒ワイヤ14に対するドレッシングを行うことで、大砥粒24Lのうち、上述した大砥粒側突出量HLが、予め設定した突出量閾値を超える大砥粒24Lを、ワイヤ本体22の外径面から除去している。
【0050】
ここで、突出量閾値は、例えば、大砥粒24Lの平均粒径や、大砥粒側分布等に応じて、予め設定しておく。
本実施形態では、一例として、突出量閾値を、30[μm]とする。
これにより、本実施形態の切断装置1が備える固定砥粒ワイヤ14は、ドレッシングを行った後に、上述した大砥粒側突出量HLの区間について、図6中に示すように、大砥粒側分布における突出量が大きい方から突出量の区間の幅が4.5[μm]以内である区間に含まれる砥粒数を、全砥粒数の70%以上としている。
【0051】
なお、図6(a)は、大砥粒側分布を示す図であり、縦軸に大砥粒側分布の比率を示し、横軸に大砥粒側突出量HLを示している。また、図6中では、図4中と同様、4.5[μm]以内となっている大砥粒側突出量HLの区間の幅を、符号「I」により示している。
なお、ドレッシング後の突出量の分布においては、例えば、図6(b)に示すように、ドレッシングを行った後も若干(例えば2.5%程度)残留する、突出量の大きい砥粒が含まれている。よって、図6(b)中の点Cで表されるような、突出量が大きい方において分布が急変する点をもって、上述した区間の幅を定める場合の上限(前記突出量が大きい方)とする。
【0052】
固定砥粒ワイヤ14に対して行うドレッシングとしては、例えば、回転する砥石の表面に対し、固定砥粒ワイヤ14を接触させながら走行させることにより、ツルーイングと同時に実施する方法を用いる。この場合、砥石を、テンションローラ4と、駆動ローラ8及び従動ローラ10のうち固定砥粒ワイヤ14の移動方向上流側のローラとの間に配置し、被加工物Wを切削加工する前の固定砥粒ワイヤ14に対して、ドレッシングを行うことが可能な構成としてもよい。
【0053】
その他の構成は、上述した第一実施形態と同様である。
(動作・作用等)
以下、図1、図2、図6を参照して、上記の構成を備えた固定砥粒ワイヤ14と、この固定砥粒ワイヤ14を備えた切断装置1が行う動作・作用等について説明する。なお、以降の説明では、上述した第一実施形態と同様の内容については、記載を省略する場合がある。
本実施形態の切断装置1を用いて、被加工物Wを切断して複数枚のウエハを形成する際には、上述したドレッシングを行った固定砥粒ワイヤ14を、予め設定した張力及び移動速度で、固定砥粒ワイヤ14の長さ方向へ移動させる。
【0054】
そして、被加工物Wを駆動ローラ8と従動ローラ10との間へ移動させて、移動している固定砥粒ワイヤ14により、被加工物Wを切削加工して切断し、複数枚のウエハを形成する。
本実施形態では、上述した固定砥粒ワイヤ14に対してドレッシングを行うことにより、大砥粒側分布における突出量が大きい方から突出量の区間の幅が4.5[μm]以内となる区間に含まれる砥粒数を、全砥粒数の70%以上としている。
このため、固定砥粒ワイヤ14を形成する際に、大砥粒側突出量HLの区間の幅が4.5[μm]よりも大きくなった場合であっても、固定砥粒ワイヤ14に対するドレッシングを行った後は、大砥粒24Lに対し、大砥粒側突出量HLの区間の幅を4.5[μm]以下とすることが可能となる。
【0055】
(第二実施形態の効果)
以下、本実施形態の効果を記載する。
(1)本実施形態の切断装置1が備える固定砥粒ワイヤ14では、固定砥粒ワイヤ14に対するドレッシングを行うことで、ワイヤ本体22の外径面から、大砥粒側突出量HLが予め設定した突出量閾値を超える大砥粒24Lを除去して、大砥粒側分布における突出量が大きい方から突出量の区間の幅が4.5[μm]以内となる区間に含まれる砥粒数を、全砥粒数の70%以上としている。
【0056】
このため、固定砥粒ワイヤ14を形成する際の加工精度が低い場合等、固定砥粒ワイヤ14を形成する際に、大砥粒24Lが、大砥粒側突出量HLの区間の幅が4.5[μm]よりも大きくなった場合であっても、固定砥粒ワイヤ14に対するドレッシングを行った後は、大砥粒24Lに対し、大砥粒側突出量HLの区間の幅を4.5[μm]以下とすることが可能となる。
その結果、被加工物Wのうち、切削加工の際に固定砥粒ワイヤ14と接触した部分に加わる応力の増加を抑制することが可能となり、形成したウエハの強度の低下を抑制することが可能となる。
【0057】
(砥粒の突出量の測定方法)
砥粒の突出量Hの測定は、例えば、レーザー顕微鏡(例えば、キーエンス製:VK‐8710等)を用いて、3D測定により実施する。その際、図7中に示す斜線部で示す範囲に存在する砥粒24のように、サンプル28(固定砥粒ワイヤのサンプル)の中央部に位置する砥粒24を測定する。なお、図7は、サンプル28の構成を示す図であり、サンプル28を径方向から見た図である。また、図7中では、サンプル28の外径面の1/6の部分を、ハッチング(斜線)により示している。
【0058】
そして、例えば、砥粒24のワイヤ周方向での中央部において、ワイヤの軸方向に沿って線状に3回測定した平均値を用いる。この測定結果は、図8中に示すようなプロファイルで表され、その立ち上がり部を除いた砥粒の中央部での平均高さBとワイヤ表面高さAとの差[B−A](μm)として、突出量Hが算出される。なお、図8は、突出量Hの測定要領を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1 切断装置
2 ワイヤボビン
4 テンションローラ
6 ガイドローラ
8 駆動ローラ
10 従動ローラ
12 クーラントノズル
14 固定砥粒ワイヤ
16 保持板
18 固定板
20 アクチュエータ
22 ワイヤ本体
24 砥粒
24L 大砥粒
24S 小砥粒
26 固着層
28 サンプル
W 被加工物
HL 大砥粒側突出量
HS 小砥粒側突出量
I 大砥粒側突出量の区間の幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状のワイヤ本体と、前記ワイヤ本体の外径面に固着している複数の砥粒と、を備え、被加工物の切削加工に用いる固定砥粒ワイヤであって、
前記複数の砥粒は、前記ワイヤ本体の外径面から突出する突出量の分布における前記分布の比率のピーク値を二つ有することを特徴とする固定砥粒ワイヤ。
【請求項2】
前記二つのピーク値のうち一方は、15[μm]以上であり、
前記二つのピーク値のうち他方は、10[μm]以下であることを特徴とする請求項1に記載の固定砥粒ワイヤ。
【請求項3】
前記複数の砥粒は、前記ピーク値が15[μm]以上である大砥粒と、前記ピーク値が10[μm]以下である小砥粒と、を含み、
前記大砥粒のうち、前記大砥粒の前記ワイヤ本体の外径面から突出する大砥粒側突出量の分布である大砥粒側分布において、前記大砥粒側突出量の区間の幅が4.5[μm]以内となっている区間に含まれる前記大砥粒の数は、前記大砥粒の総数の70%以上の数であり、
前記幅が4.5[μm]以内となっている区間は、前記大砥粒側分布における大砥粒側分布の比率の最大値である大砥粒側比率最大値を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載した固定砥粒ワイヤ。
【請求項4】
前記大砥粒側突出量の区間は、前記大砥粒側分布において前記大砥粒側比率最大値以上の第一大砥粒側区間と、前記大砥粒側分布において前記大砥粒側比率最大値未満の第二大砥粒側区間と、から構成され、
前記第二大砥粒側区間の幅は、前記大砥粒側分布の標準偏差σと等しい幅であり、
前記第一大砥粒側区間の幅は、前記標準偏差σの二倍の幅であることを特徴とする請求項3に記載した固定砥粒ワイヤ。
【請求項5】
前記固定砥粒ワイヤに対するドレッシングを行った後の前記大砥粒側分布における前記突出量が大きい方から突出量の区間の幅が4.5[μm]以内となる区間に含まれる砥粒数は、全砥粒数の70%以上であることを特徴とする請求項3に記載した固定砥粒ワイヤ。
【請求項6】
前記被加工物を切断してウエハを形成する切断装置であって、
請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載した固定砥粒ワイヤと、
前記固定砥粒ワイヤを長さ方向へ移動可能なワイヤ移動手段と、を備えることを特徴とする切断装置。
【請求項7】
請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載した固定砥粒ワイヤを用いて作製されたことを特徴とするウエハ。
【請求項8】
請求項6に記載した切断装置を用いて作製されたことを特徴とするウエハ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−107141(P2013−107141A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251742(P2011−251742)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】