説明

固定砥粒ワイヤ

【課題】固定砥粒ワイヤに広く使用されているダイヤモンド砥粒に代えて、使用する砥粒の硬度を加工物の硬度と見合った低コストのものとすることでコストを低減すると共に切断時の加工物と砥粒との硬度適合性を向上させて、切断性能を向上する。また、ワイヤからの砥粒の脱落が少ない固定砥粒ワイヤを提供する。
【解決手段】ピアノ線等からなるワイヤ3の表面に超硬材(タングステンカーバイド)からなる超硬粒子5を電着メッキで固定した固定砥粒ワイヤ6。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム、シリコン、水晶等を切断するワイヤソーに用いられる固定砥粒ワイヤに関する。さらに詳しくは、ワイヤ表面に超硬粒子を電着メッキによって固定した固定砥粒ワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、サファイア、シリコン等の加工物を切断加工するにあたり、ワイヤソーが用いられている。前記ワイヤソーは、複数の溝ローラ間に多列にワイヤが巻き掛けられ、前記加工物を多数枚のウエハに切断するマルチワイヤソーと、溝ローラ間に1列のワイヤが巻き掛けられ、1本切りを行なうシングルワイヤソーとが知られている。
【0003】
これらのワイヤソーは、ダイヤモンド砥粒をワイヤに固定した固定砥粒ワイヤを前記溝ローラ間に巻き掛け、この溝ローラ間のワイヤに前記サファイア等の加工物を押し付けながら該ワイヤを走行させて材料を切断するようになっている。
【0004】
前記ワイヤソーに用いられる固定砥粒ワイヤは、サファイア、シリコンカーバイド等の硬質な加工物を切断できるように、ワイヤの表面にダイヤモンド砥粒が電着メッキによって固定されている(例えば特許文献1)。
【0005】
また、固定砥粒ワイヤは、電着メッキに代えてレジンボンドによって砥粒がワイヤの表面に固定される場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−150314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記固定砥粒ワイヤに広く用いられるダイヤモンド砥粒は、コストが高く、ダイヤモンドよりも硬度が低いシリコン、水晶、アルミニウム、鉄等の加工物を切断するには、過剰な硬度を有しており、ランニングコストが高くなる問題がある。
【0008】
また、固定砥粒ワイヤに用いられるダイヤモンド砥粒と切断する加工物との硬度が異なり過ぎると、ダイヤモンド砥粒に加工物の切断屑がまとわり付いて目詰まりし、切断性が低下する問題がある。
【0009】
また、ダイヤモンド砥粒は不導体であり、有効な手段として電着メッキでワイヤの表面に固定する場合、電着メッキが効率的に行なわれるようにダイヤモンド砥粒の表面に導電性を有するニッケル等をコーティングする場合がある。従って、コーティングが不十分であるとワイヤへの固着力が弱まり、加工物の切断時にダイヤモンド砥粒が脱落して切断性が低下する問題があった。また、ダイヤモンド砥粒の表面にニッケル等をコーティングする手間がかかる等、コストが更に高くなる問題もある。
【0010】
また、コーティングをしないで不導体を電着メッキすることも可能であるが、電着槽の構成や、温度、pH、ワイヤの通過速度等の工夫をしないと精度良く固着できない難しさがあり、結果的にコストが高くなる問題がある。
【0011】
レジンボンドにおいては、不導体であってもワイヤに固定できるが、ワイヤとの親和性が弱く、導電性砥粒を用いた場合は、ワイヤとの親和性は電着メッキでの固定に比べて低くなり、砥粒の脱落が多くなって、加工物の切断能力が低下する問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ワイヤの表面に電着メッキにより砥粒を固定した固定砥粒ワイヤであって、該砥粒が超硬粒子である構成を採用した固定砥粒ワイヤである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ダイヤモンド砥粒よりもコストが安い超硬粒子がワイヤの表面に電着固定されているので、ダイヤモンドよりも硬度が低い加工物に見合った硬度の砥粒が用いられることによりコストが低減できる。
【0014】
また、本発明によれば、導電性のある超硬粒子を用いてワイヤに電着メッキするので、ワイヤへの親和性が高く、超硬粒子をワイヤ表面に強固に固定できる。
【0015】
また、加工物(シリコン、水晶、アルミニウム、鉄、銅等)に見合った硬度の砥粒として超硬粒子を用いるようにしたので、加工物の切屑がワイヤにまとわり付き難く、目詰まりし難いので切断性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の超硬粒子ワイヤの一部拡大図である。
【図2】本発明の超硬粒子ワイヤを製造するワイヤ製造装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態について、以下に説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態である固定砥粒ワイヤ6であり、超硬粒子5をワイヤ3の表面に電着メッキにより固定して形成されている。
【0019】
前記超硬粒子5は、主にタングステンとカーボンから形成される超硬合金(タングステンカーバイド:WC、WC)の粉末からなり、適宜鉄、炭化チタン等が添加されたものを用いる(結着材としてのコバルト含む)。限定はされないが、超硬粒子5の平均粒径は10〜60μm程度が好ましい。超硬粒子5の平均粒径が10μm以下では加工物の切屑による目詰まり等により切断能力が低下し易く、平均粒径が60μmを超えると超硬粒子5の脱落が起こり易くなるからである。なお、超硬粒子5の平均粒径は、加工する材料、使用するワイヤ3の線径に見合ったものを上記の平均粒径から選定すれば良い。また、ワイヤ3は、ピアノ線等の鋼線からなり、例えば0.05〜0.30mm程度の線径のものが用いられる。なお、ブラスメッキ等、既に下地にメッキが施されたワイヤを用いることもできる。
【0020】
上記の固定砥粒ワイヤ6は、図2のようにワイヤ製造装置1にて製造される。前記ワイヤ製造装置1は、ワイヤ3の供給リール2が備えられており、その供給リール2側から順に、脱脂槽10、第1水洗槽11、酸洗槽12、第2水洗槽13、下地メッキ槽14、電着槽15、本メッキ槽16、第3水洗槽17が隣接して設けられている。
【0021】
前記各槽10乃至18の上方にはそれぞれワイヤ3を案内するガイドプーリ4が複数設けられており、また各槽内にもガイドプーリ4が設けられている。
【0022】
前記脱脂槽10は、例えば水酸化ナトリウム水溶液(またはアルコール、シンナー、アセトン)が満たされており、ワイヤ3の表面に付着している油分や金属粉等の汚れが除去されるようになっている。また、脱脂されたワイヤ3は、第1水洗槽11に案内され、ワイヤ3に付着した水酸化ナトリウム水溶液等を洗い流すようになっている。この水洗されたワイヤ3は、酸洗槽12に案内され、酸洗槽12に満たされた塩酸によってワイヤ3表面の錆び等の酸化物層が除去される。この後、第2水洗槽13にて付着した塩酸が洗い流されるようになっている。
【0023】
この後、ワイヤ3は、下地メッキ槽14に案内され、ワイヤ3に超硬粒子5を電着メッキする際に付着性が良くなるように、下地メッキとして例えば真鍮メッキが施される。この下地メッキ槽14には、銅イオン及び亜鉛イオンを含むメッキ液が満たされている。
【0024】
電着槽15は、上記下地メッキが施されたワイヤ3にニッケルメッキによって超硬粒子5を電着メッキさせるようになっており、槽内にはニッケルイオンを含むメッキ液に超硬粒子5が撹拌等で分散されている。なお、この超硬粒子5は前記のように予め電着液に分散させられていても良いし、順次必要量の超硬粒子5を供給するものであっても良い。また、この電着槽15は、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、ホウ酸からなるワット浴または、スルファミン酸ニッケル、塩化ニッケル、ホウ酸からなるスルファミン酸浴が用いられ適宜のpH及び温度に調整される。
【0025】
また、ワイヤ3の経路の内、下地メッキ槽14及び電着槽15のそれぞれ前後及び本メッキ槽の前後にはワイヤ3と接触して通電する陰極18が設けられており、下地メッキ槽14及び電着槽15、並びに本メッキ槽16内に設けられた陽極(図示しない)との間で通電させられるようになっている。
【0026】
なお、電着槽15での電着メッキは、ワイヤ3に電着メッキさせる超硬粒子5の分布密度に応じて、通過させる時間等を設定すれば良い。密に超硬粒子5を付着させると、切断時にワイヤ3の目詰まりが発生し易く、付着量が少ないと切断性が低下するため、加工物の性質に合わせて適宜設定すれば良い。
【0027】
また、電着槽15に続く本メッキ槽16は、スルファミン酸浴が用いられ、電着槽15で仮付けされた超硬粒子5にニッケルメッキを行なって、超硬粒子5を強固にワイヤ3に固定させるようになっている。
【0028】
電着槽15及び本メッキ槽16で電着メッキされたワイヤ3は、第3水洗槽17(適宜、アルコール槽等を設けても良い)に案内され、電着槽15で付着した電着液を洗浄除去し、適宜乾燥工程(図示しない)を経て、巻取リール(図示しない)に巻き取られる。
【0029】
上記の工程によって本発明の固定砥粒ワイヤ6は製造されるが、これに限定されるものではなく、本発明の範囲内で適宜の変更を加えることができる。
【0030】
上記の固定砥粒ワイヤ6をワイヤソー装置に巻き掛け、超硬粒子5よりも硬度が低いシリコン、水晶、アルミニウム、鉄等を切断することで、固定砥粒ワイヤ6への切断屑のまとわり付きがなく、目詰まりも起こらずに切断加工でき、コストも大幅に低減できる。また、超硬粒子5のワイヤ3への付着性が良く、加工時に超硬粒子5の脱落が少ないのでワイヤ3の耐久性も良く、切断能力の低下が少ないのでランニングコストも低減できる。
【符号の説明】
【0031】
1 ワイヤ製造装置
2 供給リール
3 ワイヤ
4 ガイドプーリ
5 超硬粒子
6 固定砥粒ワイヤ
10 脱脂槽
11 第1水洗槽
12 酸洗槽
13 第2水洗槽
14 下地メッキ槽
15 電着槽
16 本メッキ槽
17 第3水洗槽
18 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤの表面に電着メッキにより砥粒を固定した固定砥粒ワイヤであって、該砥粒が超硬粒子であることを特徴とする固定砥粒ワイヤ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−255475(P2011−255475A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133460(P2010−133460)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000132954)株式会社タカトリ (65)
【Fターム(参考)】