説明

固形潤滑剤内蔵の自在継手の製造方法

【課題】 等速自在継手に発泡性固形潤滑剤を充填する際に、潤滑剤の不要な箇所には固形潤滑剤を侵入させずに、作業性よく適切な潤滑性を得られる等速自在継手を製造することである。
【解決手段】 等速自在継手の内輪1の軸穴7aから外輪2と内輪1の間に発泡性の固形潤滑剤12を充填した後、軸穴7aを栓14で密栓して発泡させる。発泡性の固形潤滑剤12の材料は、栓14を取り付けた状態で発泡させかつ硬化させるので、ケージ穴やトラックのある部分にも流れ込んで、内輪1と外輪2の間の空間が充分に充填され、すなわち等速自在継手の駆動部付近に効率よく、固形潤滑剤を充填することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、固形潤滑剤内蔵の自在継手の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の高性能化、コンパクト化および軽量化のための技術的改良が進み、自動車部品や産業機械の駆動伝達に用いられる等速ジョイントなどの自在継手(ユニバーサルジョイントとも別称される。)についても小型化、高性能化および長寿命化の要求が高まっている。
【0003】
それにより、自在継手にも他の機械と同様に小型化や軽量化が求められ、さらに高い負荷が加わることになったが、その場合にグリースによる潤滑では充分な長寿命化が困難であるため、固形潤滑剤を内蔵させることにより簡易なメンテナンスで長寿命の自在継手とすることが好ましい。
【0004】
そのような用途の固形潤滑剤としては、自己潤滑性を有するポリウレタンエラストマーが知られており、このものは潤滑剤の存在下でポリウレタン原料であるポリオールとジイソシアネートを潤滑成分中で反応させて得られる。
【0005】
上記のポリウレタンエラストマーその他の固形潤滑剤は、軸受に封入して固化させると、潤滑油を徐々に染み出させる作用があり、潤滑油の補充のためのメンテナンスが不要になり、水分の多い厳しい使用環境や強い慣性力の働く環境などでも軸受寿命の長期化に役立つものである。
【0006】
また、自在継手における転がり摩擦または滑り接触する摩擦接触部の近傍に含油発泡体を設けることが知られている(特許文献1)。そのような含油発泡体は、前記固形潤滑剤を等速自在継手内に充填され、固化するときにガス発泡剤により発泡されているか、または界面活性剤を配合して機械的な攪拌を行なって発泡させながら充填するなどの手段で自在継手の内部に設けられる。
【特許文献1】特開平9−42297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記した従来の手段で自在継手内に固形潤滑剤を充填する際、その流動性が低すぎたり高すぎたりすると、所要の摩擦接触部分に充填されなかったり、また流動性に拘わらず充填量が過剰になったりし、また内輪の軸穴などの潤滑に必要のない箇所に充填されたりする場合もあり、内輪の軸などの部品を固形潤滑剤の充填後に取り付ける際には、過剰に充填された固形潤滑剤が邪魔になって部品を組み付け難くしている場合があった。
【0008】
特に、発泡性固形潤滑剤を内輪と外輪の内部空隙に充填するとき、主としてトラック部などの転動体の周囲やその軌道面に充填することが必要であり、逆に自在継手の内輪の軸穴に固形潤滑剤を充填する必要はないが、そのような要所に発泡性固形潤滑剤を適当量だけ充填するには、充填時の固形潤滑剤にかかる圧力や押し出し量の調整を行なう必要があり、これらを確実に行う作業は煩雑で容易でなかった。
【0009】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決して、自在継手に発泡性固形潤滑剤を充填する際に、潤滑剤の不要な箇所には固形潤滑剤を侵入させずに、後の部品の組立作業性がよく、しかも適切な潤滑性が得られるように等速自在継手などの自在継手を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、この発明においては、自在継手の内輪の軸穴から外輪と内輪の間に発泡性の固形潤滑剤材料を充填し、次いで内輪の軸穴を軸または軸形状の密栓で密封し、前記固形潤滑剤材料を発泡させかつ固形状化することからなる固形潤滑剤内蔵の自在継手の製造方法を採用したのである。
【0011】
上記したこの発明の自在継手の製造方法では、自在継手の内輪の軸穴から外輪と内輪の間に発泡性の固形潤滑剤材料を充填した後、軸穴を軸または軸形状の密栓で密封して発泡させるため、発泡時の体積膨張に伴って隅々に充填される固形潤滑剤が、均一に加圧された流体となって潤滑の必要な部分に充分な量が充填される。
【0012】
一方、潤滑が不要な軸穴などには密栓によって固形潤滑剤が侵入しないので、固形潤滑剤が固形化された後に密栓を取り除けば、軸穴の内部に過剰な固形潤滑剤は付着していない状態であり、内輪の軸を軸穴に整合させることが円滑にでき、作業性よく継手部品を組み付けできる。
【0013】
このように固形潤滑剤材料の充填および発泡を行なうときには、少なくとも内輪の軸穴を密栓して、軸穴内に固形潤滑剤材料が流出しないようにする。
【0014】
密栓の形態としては、内輪の軸穴部を密栓する軸または軸形状のものであればどのようなものでも良いが、できれば外輪の開口端面を覆うフランジを有するものが好ましい。そのようなフランジでもって外輪開口端面が覆われると、軸穴ばかりでなく内輪と外輪の隙間が外輪開口端面に通じていても固形潤滑剤を流出しないため、固形潤滑剤を内・外輪の間隙に効率よく充填できる。
【0015】
前記したフランジは、外輪開口端面を覆う際に厚さ方向に空気抜き用の通気路を形成してもよく、具体的にはフランジの縁に切欠き、フランジの厚さ方向に貫通穴、フランジの径または縁形状の調整によって外輪との間に隙間が形成されるように所定形態の栓を採用することができる。固形潤滑剤の充填時に内輪と外輪の間隙を完全に密閉してしまうと、発泡により膨張した固形潤滑剤が、内・外輪の間隙から押し出す空気の外部への逃げ道がなくなり、それによって空気溜りが形成されると、その部分に固形潤滑剤が充填できなくなるからである。
【発明の効果】
【0016】
この発明の自在継手の製造方法では、自在継手の内輪の軸穴から外輪と内輪の間に発泡性の固形潤滑剤材料を充填した後、前記軸穴を密栓し、次いで固形潤滑剤材料を発泡させかつ固形状化して製造でき、さらに必要に応じて密栓を取り除いた軸穴に内輪の軸を組み付けるため、潤滑剤の不要な箇所には固形潤滑剤を侵入させずに、主として転動体の軌道面(トラック部)やその周囲に固形潤滑剤の適当量を充填することができ、軸穴内にも過剰な固形潤滑剤は進入しないので、所要の潤滑性が得られる等速自在継手などの自在継手を作業性よく、すなわち効率よく製造できる利点がある。
【0017】
また、内輪の軸穴の密栓として、外輪開口端面を覆うフランジを有するものを採用するなどして、外輪の軸と反対側に開口する端面が覆われた状態で固形潤滑剤材料をトラック部などの所要潤滑部分に隅々まで充填できる利点もある。
【0018】
また、フランジが外輪開口端面を覆う密栓を取り付けると共に、フランジの厚さ方向に空気抜き用通気路を形成してもよく、フランジの内側に空気や発泡に要した気体を溜まることなく、発泡した固形潤滑剤を隅々まで充填して所要部分の潤滑を充分に行なうことができる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
この発明の実施形態を、以下に添付図面に基づいて説明する。
図1に示すように、第1実施形態の等速自在継手は、内輪1の外周面および外輪2の内周面に軸方向に延びる複数の溝3、4を対向配置して設け、これら対の溝3、4に回転自在に案内されるようにボール状の転動体5をケージ(保持器)6で保持しており、これによって内輪1の軸7(図3参照)と外輪2の軸13との交差角度の変動を転動体5の溝3、4の軸方向の移動で許容しながら、内輪1と外輪2の回転トルクを各溝3、4から転動体5を介して伝達できるボールフィクストジョイント(BJ)である。
【0020】
このような構造の等速自在継手の軸7(図3参照)およびブーツ8の取り付け前の中間製品(サブアッシー)の状態において、軸穴7aの先奥部(栓の最先端)から外輪2と内輪1との空隙部分に固形潤滑剤12の材料を充填する。
【0021】
その際の充填には、図外のシリンダーとピストンを備えた周知の定量混合吐出器(混合ディスペンサーとも別称される。)などを用いることが、充填量の調整が簡単で作業性がよくなって好ましい。また、充填直後には、合成樹脂またはゴム材などからなる栓14を軸穴に挿入し、液密状態の密栓とすることか好ましい。
【0022】
栓14は、軸7と同径、好ましくは同じ形状の先端部である棒状に設け、図1に示したように内輪の軸7に挿入される部分に代わって液密に封じるものである。
【0023】
栓14は、特に材質を限定せずともよいが、好ましくは離型性のよい素材を採用すれば、固形潤滑剤などが付着し難くなって作業性を高める。離型性の素材としては、ポリエチレン(PE)、ポリオキシメチレン(POM)や四フッ化エチレン樹脂(PTFE)、その他のフッ素樹脂またはシリコーン樹脂などが挙げられる。
【0024】
栓14は、基材を樹脂または金属で形成し、その表面を上記したフッ素系またはシリコーン系の樹脂またはゴム、または揮発性溶剤に溶解または分散させたフッ素系またはシリコーン系などの液状またはスプレー噴霧状離型剤を塗布および乾燥させて離型性被膜を形成したものであってもよく、その他、めっきなど周知の方法や形態の離型性被膜を形成してもよい。
【0025】
離型性被膜の具体例としては、クロムめっき、ニッケルめっき、銀めっきなどの各種めっきまたは二硫化モリブデン、グラファイトなどの固形潤滑剤による被膜が挙げられる。
【0026】
この発明に用いる発泡性の固形潤滑剤12材料は、栓14を取り付けた状態で発泡させかつ硬化させるので、流体の圧力が高められてケージ穴やトラックのある部分には固形潤滑剤12の材料がよく流れ込んで、内輪1と外輪2の間の空間が充填され、すなわち等速自在継手の駆動部付近に効率よく固形潤滑剤を充填できる。
【0027】
栓14を取り付けない状態で固形潤滑剤12の材料を発泡させると、ケージ穴やトラックのある部分に流入する量が不足したり、軸穴7aに流入したりし、そのため、その後の工程で軸7を組み付けできなくなる場合がある。
【0028】
栓14は、固形潤滑剤の発泡および硬化が完了した適当な段階で取り除き、これに代えて軸(シャフト)7を挿入して組み付ける。
【0029】
次に、内輪1、転動体5、ケージ6の全体を覆い、外輪2の外周と内輪1が保持する軸7の外周に跨がるように、ゴム製の蛇腹型のブーツ8を装着し、ブーツ8を帯状締結具(いわゆるブーツバンド)10、11で締結し密閉する。
【0030】
図2、3に示す第2実施形態の等速自在継手は、前記した第1実施形態で使用した栓14に代えて、外輪開口端面を被覆できる径のフランジ15aを有する栓15を用いて製造したものである。
【0031】
この発明に用いる固形潤滑剤は、樹脂成分としてのプラスチックまたはゴムなどのうち、エラストマーまたはプラストマーのいずれかまたは両方を、アロイまたは共重合成分として採用できるものである。
【0032】
ゴムの場合は、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、ウレタンエラストマー、フッ素ゴム、クロロスルフォンゴムなどの各種ゴムを採用できる。
【0033】
また、プラスチックの場合は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアセタール、ポリアミド4,6(PA4,6)、ポリアミド6,6(PA6,6)、ポリアミド6T(PA6T)、ポリアミド9T(PA9T)などの汎用プラスチックやエンジニアリングプラスチックを挙げられる。
【0034】
また、上記のプラスチックなどに限られることなく、軟質ウレタンフォーム、硬質ウレタンフォーム、半硬質ウレタンフォームなどのウレタンフォーム、ウレタンエラストマー−ウレタン接着剤、シアノアクリレート系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、ポリ酢酸ビニル系接着剤、ポリイミド系接着剤など各種接着剤を硬化させて使用することもできる。
【0035】
樹脂成分中には必要に応じて顔料や酸化防止剤、金属不活性化剤、帯電防止剤、難燃剤、防黴剤やフィラーなどの各種添加剤等を添加することができる。
【0036】
この発明に用いる固形潤滑剤は、潤滑成分および樹脂成分を必須成分とし、圧縮、屈曲、遠心力および温度上昇に伴う気泡の膨張などの外部応力によって潤滑油を外部に供給することが可能なものである。
【0037】
発泡により多孔質化される際に生成させる気孔は、連通気孔であることが固形潤滑剤の安定供給性の点で望ましく、外部応力によって潤滑成分を樹脂の表面から連通気孔を介して外部に直接供給することも可能である。独立気孔の場合は、樹脂成分中の潤滑油の全量が一時的に気孔中に取り込まれて、必要なときに外部に充分供給されない場合がある。
【0038】
潤滑成分を樹脂内部により多く含浸させるには、潤滑剤の存在下で発泡反応と硬化反応を同時に行なわせる反応型含浸法を採用することが望ましい。このようにすると潤滑剤を樹脂内部に高充填することが可能となり、その後には潤滑剤を含浸して補充する後含浸工程を省略できる。
【0039】
これに対し、発泡固形物をあらかじめ成形しておき、次いで潤滑剤を含浸させる後含浸法では、樹脂内部に充分な量の液体潤滑剤を染み込ませることもできるが、後含浸法は、反応型含浸法の補助手段として採用することが好ましい。
【0040】
反応型含浸法は、市販のシリコーン系整泡剤などの界面活性剤を使用し、各原料分子を均一に分散させて行なうことが好ましい。また、整泡剤の種類や量によって表面張力を制御して、生じる気泡の種類(連続型/独立型)や気泡径を制御することが可能である。界面活性剤としては、陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、両性界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤などが挙げられる。
【0041】
潤滑成分(100重量%)の潤滑油の割合は、1重量%〜95重量%が好ましく、さらに好ましくは5〜80重量%である。潤滑油の割合が、1重量%未満の場合は、潤滑油を必要箇所に充分に供給することが困難になる。また、95重量%を超える多量の配合では、低温でもグリースなどでは固まらずに液状であり、固形潤滑剤として求められる機能を充分に果たせなくなる場合がある。
【0042】
この発明に用いる潤滑油は、発泡体を形成する固形物を溶解しないものを使用できるが、例えば潤滑油、グリース、ワックスなどを単独もしくは混合して用いることができる。
【0043】
この発明に用いる潤滑油は、パラフィン系やナフテン系の鉱物油、エステル系合成油、エーテル系合成油、炭化水素系合成油、GTL基油、フッ素油、シリコーン油等の普通に使用されている潤滑油またはそれらの混合油が挙げられる。
【0044】
この発明に使用するグリースの増ちょう剤としては、リチウム石鹸、リチウムコンプレックス石鹸、カルシウム石鹸、カルシウムコンプレックス石鹸、アルミニウム石鹸、アルミニウムコンプレックス石鹸等の石鹸類、ジウレア化合物、ポリウレア化合物等のウレア系化合物が挙げられるが、特に限定されるものではない。
グリースの基油としては、前述の潤滑油と同じものを使用できる。
【0045】
以上述べたような潤滑成分には、さらに二硫化モリブデン、グラファイト等の固形潤滑剤、有機モリブデン等の摩擦調整剤、アミン、脂肪酸、油脂類等の油性剤、アミン系、フェノール系などの酸化防止剤、石油スルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、ソルビタンエステルなどの錆止め剤、イオウ系、イオウ−リン系などの極圧剤、有機亜鉛、リン系などの摩耗防止剤、ベンゾトリアゾール、亜硝酸ソーダなどの金属不活性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレンなどの粘度指数向上剤などの各種添加剤を含んでいても良い。
【0046】
樹脂成分を発泡させる手段としては、樹脂等に対する周知の発泡成形手段を採用すればよく、原料としてイソシアネートやシラノール基などの反応性官能基を有する場合には、それと水分子との化学反応によって生じる二酸化炭素による化学的発泡を用いても良い。
【0047】
また、例えば水、アセトン、ヘキサン等の比較的沸点の低い有機溶媒を加熱発泡させる物理的発泡、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)やアゾジカルボンイミド(ADCA)等のように温度や光によって化学分解して窒素ガスなどを発生させる分解型発泡剤を使用する、窒素ガスや二酸化炭素ガスを機械などの不活性ガスを機械的に吹き込む機械的発泡の方法が挙げられる。
【0048】
このような反応を伴う発泡を用いるには必要に応じて触媒を使用することが望ましく、例えば、3級アミン系触媒や有機金属触媒などが用いられる。
【0049】
樹脂成分の発泡倍率は1.1倍以上50倍未満であることが望ましい。なぜなら、発泡倍率1.1倍以下の場合は気泡体積が小さく、外部応力が加わったときに変形を許容できないし、または固形物が硬すぎて変形しないなどの不具合がある。また、50倍以上の時には外部応力に耐える強度を得ることが困難となり、使用中に破損や破壊に至ることがある。特に好ましくは1.1倍以上10倍未満である。
【0050】
固形潤滑剤は型内に流し込んで成形してもよく、また常圧で固化した後に裁断や研削等で目的の形状に後加工することもできる。また、等速自在継手の外輪の内部、通常は内輪と外輪の間に発泡充填して硬化反応をさせてもよく、その後にブーツを組み付けて等速自在継手を製造する。
【0051】
発泡固形潤滑剤は、前記した第1実施形態以外にも各種の周知な形式の等速自在継手に封入することができる。例えば、固定式等速自在継手としては第1実施形態で説明したボールフィクストジョイント(BJ、EBJと略称される場合がある。)の他、アンダーカットフリージョイント(UJ、EUJと略称される場合がある。)などが挙げられる。このようなBJ、UJなどのボール数は6個または8個の場合がある。
【0052】
BJ、UJなどに発泡固形潤滑剤を封入した場合、潤滑剤が必要なところのみに充填されるため、低コスト化・軽量化に寄与できると共に、使用される作動角が大きいために圧縮・屈曲を受けやすく、より摺動部への潤滑剤の供給がされやすい。
【0053】
また、摺動式等速自在継手としては、ダブルオフセットジョイント(DOJ、EDJと略称される場合がある。)、トリポードジョイント(TJ、ETJ、PTJと略称される場合がある。)、クロスグルーブジョイント(LJと略称される場合がある。)などが挙げられる。
また、不等速自在継手としては、クロスジョイントなどが挙げられる。
【実施例1】
【0054】
図1に示す第1実施形態の製造方法により、内輪1、外輪2、ケージ6、転動体(ボール)5を組み付けたボールジョイント(NTN社製:EBJ82、外径72mm)のサブアッシー(中間製品)を内輪1の軸穴7aを垂直上向きの姿勢で保持し、軸穴7aから表1に示す組成の固形潤滑剤の材料(混合液)18gを注入し、次いでPTFE製の栓14を軸穴7aに挿入して液密に密栓し、一定時間室温で放置することにより、固形潤滑剤12になるよう発泡させ、かつ硬化させた。
【0055】
【表1】

【実施例2】
【0056】
図2に示す第2実施形態の製造方法により、実施例1の栓14に代えて栓15を使用したこと以外は全く同様にして、軸穴7aから表1に示す組成の固形潤滑剤の材料(混合液)18gを注入し、次いでPTFE製の栓15を軸穴7aに挿入し、その上に錘を乗せて液密に密栓し、室温で一定時間放置することにより、固形潤滑剤12になるように発泡させかつ硬化させた。
【0057】
[比較例1]
実施例1において、栓14を使用しなかったことおよび、固形潤滑剤を17g注入したこと以外は、実施例1と全く同様にして固形潤滑剤を発泡、硬化させた。
【0058】
以上の実施例1、2および比較例1において、充填、発泡、硬化した固形潤滑剤12の充填率(容積%)を調べた。
充填率(容積%)の計測方法としては、充填、発泡、硬化させた後に取り出した固形潤滑剤12を、シャフト部(中央穴部)とシャフト部以外に分断し、後者(固形潤滑剤のサンプル)の発泡体体積を求めた。すなわち、メスシリンダーに一定量の液体(例えば水または有機溶剤)を量り取り、固形潤滑剤のサンプルを浸漬し、浸漬前後の液体の体積変化より発泡体体積Vを求めた。また、水平に置いたCVJサブアッシ−のシャフト穴に円筒状の栓をし、液体を流し込み、こぼれる直前まで流し込んだ液体の体積をシャフト部以外の空間容積Vとした。発泡体体積Vをシャフト部以外の発泡体体積Vで除した値を充填率(容積%)として評価し、表2中に示した。
【0059】
【表2】

【0060】
表2の結果からも明らかなように、何も栓を使用せずに固形潤滑剤を充填する方法とした比較例1は、充填率が70%であったが、栓を使用した実施例1、2の充填率は96〜100%という好結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】第1実施形態の固形潤滑剤材料の発泡・固形化工程を示す等速自在継手の断面図
【図2】第2実施形態の固形潤滑剤材料の発泡・固形化工程を示す等速自在継手の断面図
【図3】第2実施形態の製造方法で得られた等速自在継手の断面図
【符号の説明】
【0062】
1 内輪
2 外輪
3、4 溝
5 転動体
6 ケージ
7 内輪の軸
7a 軸穴
8 ブーツ
9 発泡弾性樹脂
10、11 帯状締結具
12、12a、12b 固形潤滑剤
13 外輪の軸
14、15 栓
15a フランジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自在継手の内輪の軸穴から外輪と内輪の間に発泡性の固形潤滑剤材料を充填し、次いで内輪の軸穴を軸または軸形状の密栓で密封し、前記固形潤滑剤材料を発泡させかつ固形状化することからなる固形潤滑剤内蔵の自在継手の製造方法。
【請求項2】
密栓が、外輪開口端面を覆うフランジを有する密栓である請求項1に記載の固形潤滑剤内蔵の自在継手の製造方法。
【請求項3】
自在継手が、等速自在継手である請求項1または2に記載の等速自在継手の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の自在継手の製造方法で得られた固形潤滑剤内蔵の等速自在継手。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−20005(P2008−20005A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−193118(P2006−193118)
【出願日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】