説明

土圧シールド機による曲線区間の掘進工法

【課題】土圧シールド機により曲線区間を掘進するにあたり、余堀部の崩壊を防止しつつ、テールボイドへの裏込め材の充填作業が1回で済み、これにより効率良く、かつ、安価に施工できるようにする。
【解決手段】土圧シールド機1にて急曲線区間を掘進する際に、余堀部14に加泥材16を注入して加圧充填保持し、余堀部14の崩落を防止する。そして、セグメント8を組み立てた後に、発泡ウレタンからなる速硬性裏込め材18をテールボイド17に充填する。速硬性裏込め材18の充填圧力Psは、余堀部14の保持圧Py(Po<Py<Pu)と同じ値から開始し、第2B圧力計223による計測値が上限値Pt以上になったら、充填作業を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土圧シールド機による曲線区間の掘進工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、土圧シールド機で急曲線区間の掘進を行う際には、土圧シールド機の進行方向を変化させるのに必要な空間(以下、余堀部という)を大きく確保する必要があるため、急曲線区間の周囲を防護すべく地上から地盤改良する工法が用いられていたが、地上作業をなくすために、近年、下記に示すような工法が用いられるようになっている。
例えば、土圧シールド機の側方に形成された余堀部にゲル状の充填材を充填して肌落ちや地盤沈下等を防止するとともに、土圧シールド機の後方に設置されたセグメントの外周面にリング状に設けられたパッカー内に速硬性裏込め材を注入してセグメントを地山に固定することで、土圧シールド機を掘進させるための反力を取るとともに、テールボイドと余堀部との連通を遮蔽する方法が知られている。
【0003】
また、例えば、特許文献1には、余堀部に流動状態の可塑性充填材を充填するとともに、テールボイドに遅硬性充填材を充填して肌落ち、地盤沈下等を防止し、次に、セグメントの裏込め材注入口の外周面に設けられた複数のミニパッカー内に速硬性裏込め材を注入してセグメントを地山に固定することで、このセグメントにより土圧シールド機を掘進させるための反力を取る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−238831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、土圧シールド機の側方に形成された余堀部にゲル状の充填材を充填する方法では、速硬性裏込め材を充填しながらテールボイドに存在するゲル状の充填材を回収する作業を行わなければならず、その作業が煩雑なので、時間と手間がかかり、掘進進捗効率が低下するという問題点があった。
【0006】
また、特許文献1に記載の方法では、速硬性裏込め材の注入によるミニパッカーの膨張により、テールボイドに充填された遅硬性充填材が切羽側に押し出されて土圧シールド機の周囲に回り込む場合がある。そして、この状態で、土圧シールド機が何らかのトラブルで長時間停止すると遅硬性充填材が硬化するため、土圧シールド機が再び掘進できなくなる可能性があるという問題点があった。
【0007】
また、上述した両方法共に、パッカー内に速硬性裏込め材を注入した後、テールボイドに一般的な裏込め材を注入しなければならず、テールボイドに硬化時間の異なる2種類の裏込め材を充填する充填作業をそれぞれ行わなければならないため、両裏込め材の作製や充填機材の段取り換えに時間と手間がかかり、掘進進捗効率が低下するという問題点があった。さらに、パッカーを備えたセグメントを用いるので、一般的なセグメントよりも非常に高価で、施工費が高くなってしまうという問題点があった。
【0008】
そこで本発明は、上記の問題点を鑑みてなされたものであり、土圧シールド機により曲線区間を掘進するにあたり、余堀部の崩壊を防止しつつ、テールボイドへの裏込め材の充填作業が1回で済み、これにより効率良く、かつ、安価に施工できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の土圧シールド機による曲線区間の掘進工法は、前記土圧シールド機の外殻と地山との間に形成される余堀部に、切羽掘削に使用する加泥材を充填して、前記余堀部内の圧力を切羽の管理土圧と略同一に保持する工程と、
前記土圧シールド機の後方に設置されたセグメントの外周と地山との間に形成されるテールボイドに、速硬性裏込め材を前記余堀部内に充填された前記加泥材の圧力と略同一の圧力で充填を開始し、前記速硬性裏込め材の充填圧力が上昇して所定の圧力に達したら充填を停止する工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、余堀部に加泥材を充填し、テールボイドに速硬性裏込め材を充填するので、土圧シールド機周辺の地山の緩み、肌落ち、地盤沈下等を確実に防止できる。ここで、速硬性裏込め材とは、テールボイドに注入されてからおよそ5分以内に硬化し、およそ1時間以内に最終強度に達する裏込め材を意味する。
【0011】
また、テールボイドに速硬性裏込め材を充填するので、充填作業終了後、セグメントを地山に早期に固定することができる。したがって、土圧シールド機を掘進させるための反力をセグメントから取れる状態まで短時間で達し、土圧シールド機に向かって速硬性裏込め材が逸走することを防止できる。
【0012】
さらに、速硬性裏込め材を、余堀部に充填された加泥材の圧力と略同一の圧力で充填を開始することにより、テールボイドの速硬性裏込め材が土圧シールド機の周囲に回り込むことを防止できる。したがって、土圧シールド機が何らかのトラブルで長時間停止しても、速硬性裏込め材の硬化により土圧シールド機が掘進できなくなることはない。
【0013】
また、充填作業の最初に注入した速硬性裏込め材が硬化してテールボイド内が塞がれるにつれて、速硬性裏込め材の充填圧力が上昇するが、所定の圧力に達したら充填を停止するため、テールボイド内が高圧となってセグメントを破損したり、地山を傷めるようなことはない。
【0014】
そして、一般的なセグメントを使用可能なので、パッカー付きセグメントを使用する従来技術に比べて施工費を低減することができる。
【0015】
また、余堀部内の圧力を切羽の管理土圧と略同一になるように調整するので、切羽の圧力管理に合わせて余堀部の圧力管理を容易に行うことができる。
【0016】
また、余堀部に加泥材を充填する際は、切羽用の加泥材供給設備を利用できるため、新たな設備の追加は最小限で済む。
【0017】
また、本発明において、前記速硬性裏込め材が前記土圧シールド機の後端から所定の距離だけ後方の位置に充填されることとすれば、速硬性裏込め材が充填圧力により切羽側に移動しても、充填後、直ちに硬化し始めるので土圧シールド機の後端まで到達することがない。
【0018】
また、本発明において、前記速硬性裏込め材は、発泡ウレタンを含むこととすれば、発泡ウレタンは、気泡による高い止水性を有するとともに、圧力が作用しても逸走しにくい性質を有するため、土圧シールド機に向かって速硬性裏込め材が逸走することを防止できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、土圧シールド機により曲線区間を掘進するにあたり、余堀部の崩壊を防止しつつ、テールボイドへの裏込め材の充填作業が1回で済むため、効率良く、かつ、安価に施工できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る土圧シールド機で左曲がりの急曲線区間を掘進している状態を示す全体平面概略図である。
【図2】土圧シールド機で急曲線区間を掘進している状態を示すトンネルの側断面図である。
【図3】図2のA部拡大図である。
【図4】急曲線区間の掘進施工手順を示すフロー図である。
【図5】発泡条件の違いによる発泡倍率、密度、発現圧縮強度を示す図である。
【図6】速硬性裏込め材を注入するテールボイド用注入口の位置を示す図である。
【図7】他の急曲線区間の掘進施工手順を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0022】
まず、本発明の実施形態に係る中折れ式土圧シールド機1(以下、単に土圧シールド機1という)の全体の構成について説明する。なお、以下の説明では、主に土圧シールド機1でトンネル2の急曲線区間を掘進する場合の掘進方法について記載し、本発明に直接関係しない部分の図示及び詳細な説明は省略する。
【0023】
図1は、本発明の実施形態に係る土圧シールド機1で左曲がりの急曲線区間を掘進している状態を示す全体平面概略図である。また、図2は、土圧シールド機1で急曲線区間を掘進している状態を示すトンネル2の側断面図であり、図3は、図2のA部拡大図である。
【0024】
図1〜図3に示すように、土圧シールド機1は、地山E中を掘削するためのカッターヘッド3を備えた前胴部4と、前胴部4を掘進させるためのシールドジャッキ5を備えた後胴部6と、前胴部4と後胴部6とを連結する連結手段7とから構成されている。
【0025】
連結手段7は、複数のチルドジャッキからなり、チルドジャッキの伸縮により、前胴部4を後胴部6に対して所定の角度に屈曲させる。
【0026】
後胴部6には、セグメント8を組み立てるためのエレクタ(図示しない)が設けられている。後胴部6内でこのエレクタにより順次セグメント8が組み立てられ、環状の内壁が構築される。セグメント8を構築した後に、シールドジャッキ5を伸張させることにより、急曲線区間を掘進させる。
【0027】
カッターヘッド3の先端及びチャンバー9と土圧シールド機1内とを仕切る隔壁10には、カッターヘッド3と切羽との間に形成される切羽部11及びチャンバー9にそれぞれ高粘性の加泥材16を注入するための切羽用注入口12及びチャンバー用注入口13が設けられている。また、前胴部4の外周には、土圧シールド機1の外殻と地山Eとの間に形成される余堀部14に加泥材16を注入するための余堀部用注入口15が、土圧シールド機1の上段、中段、下段にそれぞれ設けられている。
【0028】
土圧シールド機1の後方には、後述する第1充填手段100が設けられており、この第1充填手段100から供給される加泥材16が、切羽用注入口12を介して切羽部11に注入され、また、チャンバー用注入口13及び余堀部用注入口15を介してそれぞれチャンバー9及び余堀部14に注入される。
【0029】
また、セグメント8には、セグメント8の外周と地山Eとの間に形成されるテールボイド17に速硬性裏込め材18を注入するためのテールボイド用注入口20が設けられている。本実施形態においては、速硬性裏込め材18としてセットフォームを使用した。
【0030】
土圧シールド機1の後方には、後述する第2充填手段200が設けられており、この第2充填手段200から供給される速硬性裏込め材18が、テールボイド用注入口20を介してテールボイド17に注入される。
【0031】
次に、第1充填手段100について説明する。
【0032】
第1充填手段100は、切羽部11に加泥材16を供給する第1A供給装置110と、三方弁124の切り替えによりチャンバー9又は余堀部14のいずれかに加泥材16を供給する第1B供給装置120と、所定の割合に配合された加泥材16を貯留する第1貯留槽130と、第1A供給装置110及び第1B供給装置120の作動を制御する第1制御装置140とから構成される。
【0033】
第1A供給装置110は、第1貯留槽130の加泥材16を供給するための第1Aポンプ111と、第1Aポンプ111から吐出される加泥材16を送給するための第1A注入管112と、第1A注入管112の途中の切羽用注入口12付近に設けられ、切羽部11内の圧力を測定するための第1A圧力計113とを備える。
【0034】
また、第1B供給装置120は、第1貯留槽130の加泥材16を供給するための第1Bポンプ121と、一端が第1Bポンプ121に接続され、第1Bポンプ121から吐出される加泥材16を送給するための第1B注入管122aと、第1B注入管122aの他端に接続され、加泥材16の送給先をチャンバー9又は余堀部14に切り替えるための三方弁124と、一端が三方弁124に接続され、加泥材16をチャンバー9及び余堀部14にそれぞれ送給するための第1B注入管122b及び第1B注入管122cと、第1B注入管122b及び第1B注入管122cの途中にそれぞれ設けられ、チャンバー9内、余堀部14内の圧力を測定するための第1B圧力計123a及び第1B圧力計123bとを備える。本実施形態においては、三方弁124として、電気的に送給先を切り替えることが可能な電動三方弁を用いた。
【0035】
第1制御装置140は、第1A圧力計113、第1B圧力計123a、123b及び三方弁124に接続され、これらの圧力計の計測値及び弁の切替状態を表示する第1表示器141と、第1A圧力計113及び第1B圧力計123a、123bの計測値や土圧シールド機1の掘進速度に基づいて、第1Aポンプ111及び第1Bポンプ121の吐出量を制御したり、三方弁124の切り替えを制御するCPU等の第1制御器142と、第1Aポンプ111及び第1Bポンプ121を制御するための基準となる所定の値(後述する)を入力するための第1入力器143とを備える。
【0036】
土圧シールド機1による急曲線区間掘進時に、第1制御器142は、第1Aポンプ111を運転させて切羽部11に加泥材16を供給し、かつ、三方弁124を加泥材16が余堀部14に送給されるように切り替えるとともに第1Bポンプ121を運転させて余堀部14に加泥材16を供給する。なお、土圧シールド機1による直線区間や緩やかな曲線区間の掘進時には、第1Aポンプ111を運転させて切羽部11に加泥材16を供給し、かつ、三方弁124を加泥材16がチャンバー9に送給されるように切り替えるとともに、土圧シールド機1の掘進速度に基づいて、第1Bポンプ121を適宜運転させてチャンバー9に加泥材16を供給し、チャンバー9内での土砂の流動性を維持する。
【0037】
また、土圧シールド機1による急曲線区間掘進時に、第1制御器142は、土圧シールド機1の掘進速度に基づいて、第1Aポンプ111の吐出量を制御するとともに、第1B圧力計123a、123bの計測値が、それぞれ予め第1入力器143に入力された上記所定の値以上になったら、第1Bポンプ121を停止して、加泥材16の供給を停止する。その後、第1B圧力計123a、123bの計測値が、それぞれ上記所定の値よりも小さくなったら、第1Bポンプ121を運転して、加泥材16の供給を再開する。
【0038】
また、土圧シールド機1の停止時に、第1制御器142は、第1A圧力計113及び第1B圧力計123a、123bの計測値が、それぞれ予め第1入力器143に入力された上記所定の値以上になったら、第1Aポンプ111や第1Bポンプ121を停止して、加泥材16の供給を停止する。その後、第1A圧力計113及び第1B圧力計123a、123bの計測値が、それぞれ上記所定の値よりも小さくなったら、第1Aポンプ111や第1Bポンプ121を運転して、加泥材16の供給を再開する。
【0039】
次に、第2充填手段200について説明する。
【0040】
第2充填手段200は、直線区間や緩やかな曲線区間で、セメント、水、骨材の混練物からなる通常の速硬性裏込め材をテールボイド17に供給する第2A供給装置210と、急曲線区間で、速硬性裏込め材18となる発泡ウレタンをテールボイド17に供給する第2B供給装置220と、第2A供給装置210及び第2B供給装置220の作動を制御する第2制御装置240とから構成される。
【0041】
第2A供給装置210には、通常の速硬性裏込め材の充填圧力を測定するための第2A圧力計213が設けられている。
【0042】
また、第2B供給装置220には、発泡ウレタンからなる速硬性裏込め材18の充填圧力を測定するための第2B圧力計223が設けられている。
【0043】
第2制御装置240は、第2A圧力計213及び第2B圧力計223に接続され、これらの計測値を表示する第2表示器241と、第2A圧力計213及び第2B圧力計223の計測値に基づいて、第2A供給装置210及び第2B供給装置220の運転を制御するCPU等の第2制御器242と、第2A供給装置210及び第2B供給装置220の運転を制御するための基準となる所定の値(後述する)を入力するための第2入力器243とを備える。
【0044】
また、第2制御器242は、第2B供給装置220を運転させて発泡ウレタンからなる速硬性裏込め材18をテールボイド17に供給する。その後、テールボイド17内で速硬性裏込め材18が硬化することにより、セグメント8が固定され、土圧シールド機1を掘進させるための反力を取ることができるようになる。
【0045】
また、第2制御器242は、第2B圧力計223の計測値が、予め設定された所定の値(後述する)以上になったら、第2B供給装置220を停止し、速硬性裏込め材18の供給を停止する。
【0046】
なお、第2制御器242は、直線区間又は緩やかな曲線区間を掘進する際に、第2A供給装置210を運転させて通常の速硬性裏込め材をテールボイド17に供給する。その後、テールボイド17内で通常の速硬性裏込め材が硬化することにより、セグメント8が固定され、土圧シールド機1を掘進させるための反力を取ることができるようになる。
【0047】
上述した第1充填手段100、第2充填手段200を備えた土圧シールド機1で急曲線区間を掘進する方法について施工手順に従って、以下に説明する。
【0048】
図4は、急曲線区間の掘進施工手順を示すフロー図である。
【0049】
図4に示すように、急曲線区間の掘進は、切羽部11内の管理圧力を設定する工程S10から速硬性裏込め材18の充填圧力を設定する工程S16を行った後、土圧シールド機1を掘進させる工程S18から速硬性裏込め材18を充填する工程S24までを繰り返して行う。
【0050】
まず、土圧シールド機1にて急曲線区間を掘進する際の切羽部11の管理圧力Pfを設定する工程S10を実施する。
【0051】
切羽部11の管理圧力Pfは、土被り深さと地盤の単位体積重量との関係に基づいて切羽直上の鉛直土圧Pを算出し、この鉛直土圧Pよりも所定圧ΔP1だけ大きい所定の値となるように設定する。
【0052】
なお、上記所定圧ΔP1は、土被り深さ、地質等により現場毎に異なるもので、設計等に基づいて適宜決定する。また、本実施形態においては、管理圧力Pfを鉛直土圧Pよりも所定圧ΔP1だけ大きくする設定としたが、これに限定されるものではなく、管理圧力Pfを鉛直土圧Pと略同一となるように設定してもよい。本実施形態においては、管理圧力Pfを0.25MPaとした。
【0053】
次に、チャンバー9の管理圧力Pcを設定する工程S12を実施する。
【0054】
チャンバー9の管理圧力Pcは、切羽部11の所定の値Pfよりも所定圧ΔP2だけ大きい所定の値となるように設定する。なお、この所定圧ΔP2は、上記と同様に、設計等に基づいて適宜決定する。本実施形態においては、管理圧力Pcを0.27MPaとした。
【0055】
次に、余堀部14の管理圧力の上限値Pu及び下限値Poを設定する工程S14を実施する。
【0056】
余堀部14の管理圧力の上限値Puは、余堀部14に加圧力を発生させ、周辺地山Eの変位による余堀部14の変化量が拡大側になる最も低い値(すなわち、余堀部14が拡大し始める値)を算出し、その値に設定する。
【0057】
そして、圧力の下限値Poは、地山Eを支持可能で最も低い値以上に設定する。本実施形態においては、余堀部14の管理圧力の上限値Puを算出結果より0.31MPaとし、下限値Poを切羽部11の管理圧力の値Pfと同じ0.25MPaとした。
【0058】
次に、速硬性裏込め材18のテールボイド17への充填圧力Ps及びその上限値Ptを設定する工程S16を実施する。
【0059】
速硬性裏込め材18の充填は、充填開始時は充填圧力Psにて行う。この充填圧力Psは、加泥材16の充填されている状態における余堀部14の保持圧Py(Po<Py<Pu)と同じ値に設定する。なお、余堀部14の保持圧Pyは、上述した第1B圧力計123bにより常時、測定される値を利用する。
【0060】
また、充填圧力の上限値Ptは、セグメント8に損傷を与えることなく、かつ、余堀部14の管理圧力の上限値Puよりも所定圧ΔP3だけ大きい所定の値に設定する。
【0061】
なお、上記所定圧ΔP3は、速硬性裏込め材18の注入位置と土圧シールド機1の後端との距離、速硬性裏込め材18の流動性、硬化時間等により現場毎に異なるもので、設計等に基づいて適宜決定する。また、本実施形態においては、上限値Ptを余堀部14の上限値Puよりも所定圧ΔP3だけ大きくする設定としたが、これに限定されるものではなく、上限値Ptを余堀部14の上限値Puと略同一となるように設定してもよい。
【0062】
本実施形態においては、速硬性裏込め材18の充填圧力の上限値Ptを0.5MPaとした。
【0063】
テールボイド17内の充填作業がすすむと、充填作業の最初に注入した速硬性裏込め材18が硬化してテールボイド17内が塞がれ、速硬性裏込め材18の充填圧力が上昇するが、上限値Ptで充填作業を停止することにより、セグメント8の破損や地山Eを傷めることを防止する。
【0064】
次に、土圧シールド機1で急曲線区間を掘進させる工程S18を実施する。
【0065】
この工程S18では、土圧シールド機1の進行方向を変化させて曲線状に掘進できるようにすべく、カッターヘッド3を回転させるとともに、カッターヘッド3の外周部に取り付けられたコピーカッター19により、直線区間の掘進時よりも大きな余堀部14を形成する。
【0066】
掘進を開始すると同時に、第1Aポンプ111を運転して、掘削土砂を流動化するための加泥材16を第1A注入管112から切羽用注入口12を介して切羽部11に注入する。
【0067】
掘削土砂は、加泥材16と混合し、チャンバー9内で撹拌されて、排土スクリューにより土圧シールド機1本体の後方へ送給される。なお、必要に応じてチャンバー9内にも加泥材16を注入する。
【0068】
また、余堀部14の崩落等を防止するために、余堀部14に加泥材16を注入するとともに、加圧充填保持する工程S20を実施する。具体的には、第1Bポンプ121を運転して加泥材16を第1B注入管122a、122cから余堀部用注入口15を介して余堀部14に注入する。加泥材16は、複数の余堀部用注入口15から注入されるために、土圧シールド機1の全外周にわたって良好に充填される。さらに、高粘性の加泥材16を用いることにより、余堀部14の隅々まで加泥材16を充填することができるとともに、土圧シールド機1の掘進時において、土圧シールド機1の外周面との間に生じる摩擦抵抗を低下することができる。
【0069】
掘進中は、第1A圧力計113及び第1B圧力計123bにてそれぞれ切羽部11内及び余堀部14内の圧力を常時、監視し、これらの測定結果に基づいて、以下に示す方法にて切羽部11内及び余堀部14内の圧力を管理する。
【0070】
また、掘進速度に基づいて、第1Aポンプ111の吐出量を制御しつつ、切羽部11に加泥材16を供給する。そして、第1A圧力計113の計測値が切羽部11の管理圧力Pf以上になったら、第1Aポンプ111を停止し、加泥材16の供給を停止する。そして、第1A圧力計113の計測値が切羽部11の管理圧力Pfよりも小さくなったら、再び、第1Aポンプ111を運転し、加泥材16を供給する。
【0071】
また、第1B圧力計123bの計測値が余堀部14の上限値Pu以上になったら、第1Bポンプ121を停止し、加泥材16の供給を停止する。そして、第1B圧力計123bの計測値が余堀部14の下限値Poよりも小さくなったら、再び、第1Bポンプ121を運転し、加泥材16を供給する。
【0072】
上記の方法にて、掘進速度に基づいた吐出量制御を行うことにより、切羽部11内及び余堀部14内の圧力を管理しながら所定の距離を掘削し、土圧シールド機1を停止させる際は、切羽部11への加泥材16の充填作業を停止する。また、掘進により生じた新たな余堀部14の容積量と同等の加泥材16が余堀部14に注入されていることを確認したら余堀部14への充填作業を停止する。
【0073】
そして、土圧シールド機1の停止期間中は、次の土圧シールド機1の掘進開始まで、上記と同様の方法で切羽部11内及び余堀部14内の圧力を常時、管理する。
【0074】
なお、本実施形態においては、第1Aポンプ111及び第1Bポンプ121を運転、停止させることにより、加泥材16の供給を調整し、切羽部11内及び余堀部14内の圧力を調整する方法について説明したが、これに限定されるものではなく、第1Aポンプ111及び第1Bポンプ121の回転速度を制御して供給を調整してもよい。
【0075】
次に、土圧シールド機1の停止時において、土圧シールド機1のテール部にてセグメント8を組み立てる工程S22を実施する。
【0076】
次に、セグメント8の組み立が終了したら、速硬性裏込め材18をテールボイド17に充填する工程S24を実施する。
【0077】
急曲線区間のテールボイド17には、発泡ウレタンからなる速硬性裏込め材18を充填する。速硬性裏込め材18は、土圧シールド機1の掘進により新たに生じたテールボイド17の容積量を見積もるとともに、テールボイド17の径方向の大きさ、地下水圧、発泡性ウレタンの発泡倍率等を考慮して、各構成材料の使用量を定める。速硬性裏込め材18は、充填される環境条件(以下、発泡条件という)、例えば、充填される空間の広さ、作用する水圧の大きさ等により、発泡倍率、密度、発現圧縮強度が異なる。本実施形態におけるテールボイド17は狭小な空間で、かつ、地下水圧が作用しているので、発泡性ウレタンの発泡が抑制されて発泡倍率は低下するとともに、密度が増加することが考慮された。
【0078】
そこで、発泡条件の違いによる発泡ウレタンの発泡倍率、密度、発現圧縮強度の性能について確認した。以下にその結果について説明する。
【0079】
図5は、発泡条件の違いによる発泡倍率、密度、発現圧縮強度を示す図である。
【0080】
図5に示すように、発泡条件が異なる3ケースについて発泡倍率、密度、発現圧縮強度をそれぞれ測定した。具体的には、常圧の広い空間内で発泡させた状態をケース1とし、0.3MPaの水圧を作用させた状態をケース2とし、8cm角の狭小空間内で、0.3MPaの水圧を作用させた状態をケース3として、発泡倍率、密度、発現圧縮強度を比較した。
【0081】
なお、水圧の0.3MPaは、加泥材16の充填保持圧力を考慮したものである。また、狭小空間の8cmは、地山Eとセグメント8との距離を考慮したものである。これらの値は、各現場条件に応じて定めればよい。
【0082】
上記の実験結果により、ケース2及びケース3ともに、ケース1よりも発泡倍率が低下するものの、密度及び発現圧縮強度が増加することが確認できた。また、ケース3の方が、ケース2よりも発泡倍率が小さくなることが確認できた。
【0083】
これらの結果からテールボイド17内での発泡後の密度を想定し、その密度とテールボイド17の容積量との積から、発泡ウレタンの使用量等を算出する。
【0084】
本実施形態における発泡ウレタンは、例えば、ボリイソシアネート成分からなるT液とポリオール成分からなるR液とを2:1の配合で混合したものである。なお、T液とR液との混合液の比重は1.2であり、水中に注入されても浮くことはない。また、発泡ウレタンは、発泡倍率が14.1(倍)、密度が0.85(kN/m)、発泡後の硬化体の圧縮強度が0.78(N/mm)のものを用いた。
【0085】
上述した配合の速硬性裏込め材18を、第2B供給装置220を運転して、図6に示すように、土圧シールド機1のテール部の後端から約1.5m後方のセグメント8のテールボイド用注入口20からテールボイド17に充填する。このとき、速硬性裏込め材18の充填開始圧力がPsになるように第2B供給装置220を調整する。速硬性裏込め材18を複数のテールボイド用注入口20から注入するので、セグメント8の全外周にわたって良好に充填される。
【0086】
そして、予め設計等により決定された所定の時間にわたって充填圧力Psで充填作業を行う。充填中は、第2B圧力計223にて充填圧力を常時、監視する。
【0087】
充填圧力Psにて速硬性裏込め材18の充填を開始した後に、第2B圧力計223による計測値が充填圧力の上限値Pt以上になったら、第2B供給装置220を停止し、速硬性裏込め材18の供給を停止する。そして、掘進により生じた新たなテールボイド17の容積量と同等の速硬性裏込め材18をテールボイド17に注入したら充填作業を停止する。
【0088】
なお、本実施形態においては、テールボイド用注入口20として、1つのセグメントリングに対して、例えば、3箇所としたが、これに限定されるものではなく、各現場により適宜決定する。
【0089】
テールボイド17に充填された速硬性裏込め材18の一部は、切羽側へ移動するが、速硬性を有しているために、直ぐに硬化し、土圧シールド機1のテール部の周りにまで移動することはない。また、速硬性裏込め材18の充填圧力の上限値Ptは、余堀部14の保持圧Pyよりも大きいが、充填作業の最初に注入した速硬性裏込め材18が硬化してテールボイド17内が塞がれることにより、充填圧力が上昇するものであり、速硬性裏込め材18を上限値Ptで充填しても、速硬性裏込め材18が土圧シールド機1のテール部の周りにまで移動することはない。なお、テール部のすぐ後方のセグメント8から充填材を充填するとテール部の周りに流入するおそれがあるので、テール部の後端から約1.5m後方に充填する。
【0090】
テールボイド17に充填された速硬性裏込め材18は、充填後、直ちに固化して、固体状態となる。固体状態の速硬性裏込め材18は、地山Eを保持するとともに、セグメント8を固定する。
【0091】
速硬性裏込め材18が固化し、強度発現時間が経過したら、再び、土圧シールド機1を掘進させる工程S18を実施する。このとき、セグメント8の外周の速硬性裏込め材18がセグメント8を固定しているために、シールドジャッキ5でセグメント8を押圧してもセグメント8は動かない。また、余堀部14には高粘性の加泥材16が充填されているので、土圧シールド機1の外周面に生じる摩擦抵抗は小さく、土圧シールド機1はスムーズに掘進することができる。
【0092】
そして、上述したように、掘進する工程S18から速硬性裏込め材18を充填する工程S24までの一連の作業を1サイクルとし、このサイクルを複数回繰り返すことにより、トンネル2の急曲線区間を掘進する。
【0093】
なお、本実施形態においては、セグメント8を組み立てる工程S22の後、毎回、速硬性裏込め材18を充填する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、図7に示すように、掘進する工程S18からセグメント8を組み立てる工程S22を連続して2回実施した後に速硬性裏込め材18を充填する工程S24を1回実施してもよい。
【0094】
以上説明した本実施形態における土圧シールド機1による急曲線区間の掘進工法によれば、余堀部14に加泥材16を充填し、テールボイド17に速硬性裏込め材18を充填するので、土圧シールド機1周辺の地山Eの緩み、肌落ち、地盤沈下等を確実に防止できる。
【0095】
また、テールボイド17に速硬性裏込め材18を充填するので、充填作業終了後、セグメント8を地山Eに早期に固定することができる。したがって、土圧シールド機1を掘進させるための反力をセグメント8から取れる状態まで短時間で達し、土圧シールド機1に向かって速硬性裏込め材18が逸走することを防止できる。
【0096】
さらに、速硬性裏込め材18を、余堀部14に充填された加泥材16の保持圧Pyと同じ圧力Psで充填を開始することにより、テールボイド17の速硬性裏込め材18が土圧シールド機1の周囲に回り込むことを防止できる。したがって、土圧シールド機1が何らかのトラブルで長時間停止しても、速硬性裏込め材18の硬化により土圧シールド機1が掘進できなくなることはない。
【0097】
また、充填作業の最初に注入した速硬性裏込め材18が硬化してテールボイド17内が塞がれるにつれて、速硬性裏込め材18の充填圧力が上昇するが、上限値Ptに達したら充填を停止するため、テールボイド17内が高圧となりセグメント8を破損したり、地山Eを傷めることはない。
【0098】
そして、一般的なセグメント8を使用可能なので、パッカー付きセグメントを使用する場合に比べて施工費を低減することができる。
【0099】
また、余堀部14内の保持圧の下限値Poは、切羽部11の保持圧Pfと略同一になるように調整されることとすれば、切羽部11の圧力管理に合わせて余堀部14の圧力管理を容易に行うことができる。
【0100】
また、余堀部14に加泥材16を充填する際は、第1B供給装置120を利用できるため、新たな設備の追加は最小限で済む。
【0101】
また、速硬性裏込め材18の注入口を、土圧シールド機1の後端から約1.5m後方の位置に設けると、速硬性裏込め材18が切羽側に移動しても、土圧シールド機1の後端まで到達することがない。
【0102】
また、発泡ウレタンを含む速硬性裏込め材18は、気泡による高い止水性を有するとともに、圧力が作用しても逸走しにくい性質を有するため、土圧シールド機1に向かっての逸走を抑えやすい。
【符号の説明】
【0103】
1 土圧シールド機 2 トンネル
3 カッターヘッド 4 前胴部
5 シールドジャッキ 6 後胴部
7 連結手段 8 セグメント
9 チャンバー 10 隔壁
11 切羽部 12 切羽用注入口
13 チャンバー用注入口 14 余堀部
15 余堀部用注入口 16 加泥材
17 テールボイド 18 速硬性裏込め材
19 コピーカッター 20 テールボイド用注入口
100 第1充填手段 110 第1A供給装置
111 第1Aポンプ 112 第1A注入管
113 第1A圧力計 120 第1B供給装置
121 第1Bポンプ 122a 第1B注入管
122b 第1B注入管 122c 第1B注入管
123a 第1B圧力計 123b 第1B圧力計
124 三方弁 130 第1貯留槽
140 第1制御装置 141 第1表示器
142 第1制御器 143 第1入力器
200 第2充填手段 210 第2A供給装置
213 第2A圧力計 220 第2B供給装置
223 第2B圧力計 240 第2制御装置
241 第2表示器 242 第2制御器
243 第2入力器 E 地山

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土圧シールド機による曲線区間の掘進工法において、
前記土圧シールド機の外殻と地山との間に形成される余堀部に、切羽掘削に使用する加泥材を充填して、前記余堀部内の圧力を切羽の管理土圧と略同一に保持する工程と、
前記土圧シールド機の後方に設置されたセグメントの外周と地山との間に形成されるテールボイドに、速硬性裏込め材を前記余堀部内に充填された前記加泥材の圧力と略同一の圧力で充填を開始し、前記速硬性裏込め材の充填圧力が上昇して所定の圧力に達したら充填を停止する工程と、を備えることを特徴とする土圧シールド機による曲線区間の掘進工法。
【請求項2】
前記速硬性裏込め材は、前記土圧シールド機の後端から所定の距離だけ後方の位置に充填されることを特徴とする請求項1に記載の土圧シールド機による曲線区間の掘進工法。
【請求項3】
前記速硬性裏込め材は、発泡ウレタンを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の土圧シールド機による曲線区間の掘進工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−21403(P2011−21403A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168103(P2009−168103)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】