説明

土砂温度監視機能を備えた泥土圧シールド掘進機及び泥土圧シールド工法

【課題】巨礫が多く散在する地山を掘削対象として、カッターチャンバー内に大型で大量の玉石等を含む掘削土砂が取り込まれる場合であっても、回転カッターが回転するカッターチャンバー内における流動状況を的確に推定して、閉塞が生じないように監視することが可能な土砂温度監視機能を備えた泥土圧シールド掘進機及び泥土圧シールド工法を提供する。
【解決手段】回転カッター2により切羽Zから掘削され破砕された後に、回転カッター後方に隔壁4で区画して形成されたカッターチャンバー5内に取り込まれる礫分を含む掘削土砂を、スクリューコンベア8で排出する泥土圧シールド掘進機1において、スクリューコンベアに、排出される掘削土砂の土砂温度を計測する温度センサ23を設けた。温度センサは、カッターチャンバーに近接するスクリューコンベアの取り込み端部8aに設置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巨礫が多く散在する地山を掘削対象として、カッターチャンバー内に大型で大量の玉石等を含む掘削土砂が取り込まれる場合であっても、回転カッターが回転するカッターチャンバー内における流動状況を的確に推定して、閉塞が生じないように監視することが可能な土砂温度監視機能を備えた泥土圧シールド掘進機及び泥土圧シールド工法に関する。
【背景技術】
【0002】
泥土圧シールド工法は概略的には、シールドジャッキでシールド掘進機を推進し、この推進と共に、当該シールド掘進機前面の回転カッターで地山の切羽を掘削する。掘削した土砂は、回転カッター後方のカッターチャンバー内及びカッターチャンバー内から排土するためのスクリューコンベアに充満させる。
【0003】
この際、回転カッターの前面やカッターチャンバ内に添加材を注入する。添加材は、掘削土砂に練り混ぜられて、土砂を、塑性流動性(自由に変形・移動できる性質)に富み、不透水性を発揮する泥土に変換する。
【0004】
泥土は、カッターチャンバー内からスクリューコンベア内にわたって充満されていて、シールドジャッキの推進力により、当該泥土には、切羽の土圧及び地下水圧(以下、「切羽土圧」という)に対抗する泥土圧が発生する。
【0005】
この泥土圧と切羽土圧との平衡を保つように、シールド掘進機の推進量とスクリューコンベアによる排土量のバランスを図ることによって、切羽の安定を保ちつつ掘進していくようになっている。
【0006】
しかし、泥土の塑性流動性不足などが原因となって、カッターチャンバ内で「閉塞」が生じ、この閉塞によって、回転カッターの回転動作やシールドジャッキによる推進などが阻害されて、掘進不能に陥る場合があるという問題があった。
【0007】
特に、地山が、巨礫、例えば外形寸法がφ500を超えるような巨礫が多く散在し、その他に玉石や礫を含むような地質である場合、カッターチャンバー内に取り込まれる掘削土砂中には、大型で大量の巨礫や玉石等が含まれる。これら玉石等は元々、細砂などの細粒分が付着しにくく、当該細粒分から分離し易い。
【0008】
従って、カッターチャンバー内からスクリューコンベアへ排土する際に、細砂などは円滑に排土されるのに対し、巨礫や大型の玉石等は、スクリューコンベアに送り込まれることなくカッタチャンバー内に滞留してしまって、これら大型の玉石等の滞留が原因となって、閉塞がさらに生じ易くなることが考えられる。
【0009】
閉塞を防止する技術としては、特許文献1が知られている。特許文献1の「シールド機及びチャンバ内閉塞管理方法」は、シールド機のチャンバ内の土砂の流動性を監視し、チャンバ内の土砂の閉塞場所を早期に発見でき、チャンバ内の土砂閉塞を未然に防ぐことを解決課題として、シールド機において、カッタ部により掘削された土砂は、カッタスポークの隙間から、チャンバ内へ流入し、隔壁の下方に設けられた穴部から、スクリューコンベアにより排出される。カッタスポークのチャンバ側には、流動性計測器が設置され、チャンバ内の土砂の流動性を計測する。隔壁には、複数の土圧計と温度計が設置され、土圧計は、チャンバ内の土砂の土圧の変化を測定する。温度計は、チャンバ内の土砂の温度を測定する。
【0010】
特許文献1では、土砂閉塞部では、閉塞した土砂と撹拌部との摩擦による熱が発生し、また、カッタ駆動用電動機からの熱が拡散せず、蓄熱されるため、周囲の土砂と比較して土砂閉塞部の土砂の温度は上昇する。すなわち、制御部は、土砂温度が一定値以上となる分割エリアを高温部と判定し、この分割エリアの位置を、土砂閉塞部の位置として検出するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−202321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1では、閉塞場所を早期に発見して土砂閉塞を未然に防ぐことを意図したものである。土砂閉塞に至る臨界状況では、土砂の流動性が失われ、従って蓄熱した土砂が一定位置に止まることから、当該位置の温度上昇を測定することで、閉塞場所を発見することができる。しかし、この段階では、ほぼ土砂閉塞状態に至っていると言える。
【0013】
これに対し、回転カッターが円滑に回転する流動状態から閉塞に至る段階では、摩擦作用等を受けて温度上昇した土砂であっても、依然としてチャンバ内を流動し得ることから、移動する土砂の温度を計測し得ても、その位置が必ずしも実際の閉塞場所であるか否かは不明であるという課題があった。すなわち、閉塞に至って土砂が移動し得なくなった段階で初めて、閉塞箇所を特定できるものであり、未然に閉塞を防止することはできないと考えられる。
【0014】
また、土砂が付着しやすい隔壁に温度計を設置しているため、温度計を設置した箇所に土砂が付着してしまうと、土砂の温度を正確に計測することができないという課題もあった。
【0015】
また、上述したように大型で大量の巨礫や玉石等を含む掘削土砂がカッターチャンバー内に取り込まれる場合、回転カッターが回転する流動状態では、これら玉石等で掘削土砂が押し退けられて生じる空隙部分がカッターチャンバー内の各所に生じるものと考えられ、そしてこれら空隙部分は移動したり、消滅したり、また新たに発生したりすることから、隔壁に温度計を設置してカッターチャンバー内の温度を計測しても、閉塞状況を適切に判定することは難しいと考えられる。
【0016】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、巨礫が多く散在する地山を掘削対象として、カッターチャンバー内に大型で大量の玉石等を含む掘削土砂が取り込まれる場合であっても、回転カッターが回転するカッターチャンバー内における流動状況を的確に推定して、閉塞が生じないように監視することが可能な土砂温度監視機能を備えた泥土圧シールド掘進機及び泥土圧シールド工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明にかかる土砂温度監視機能を備えた泥土圧シールド掘進機は、回転カッターにより切羽から掘削され破砕された後に、該回転カッター後方に隔壁で区画して形成されたカッターチャンバー内に取り込まれる礫分を含む掘削土砂を、スクリューコンベアで排出する泥土圧シールド掘進機において、上記スクリューコンベアに、排出される掘削土砂の土砂温度を計測する温度センサを設けたことを特徴とする。
【0018】
前記温度センサは、前記カッターチャンバーに近接する前記スクリューコンベアの取り込み端部に設置されることを特徴とする。
【0019】
前記温度センサに接続され、前記土砂温度が入力されると共に、入力された該土砂温度を表示する制御盤を備えたことを特徴とする。
【0020】
前記回転カッターや前記隔壁には、掘削土砂に混合する薬材を切羽や前記カッターチャンバー内へ向けて注入する注入手段が設けられ、前記制御盤には、上記カッターチャンバー内の閉塞推定用の監視温度が設定されると共に、上記注入手段に薬材の注入量を増量する増量信号を出力する注入手段操作部が設けられることを特徴とする。
【0021】
前記回転カッターや前記隔壁には、掘削土砂に混合する薬材を切羽や前記カッターチャンバー内へ向けて注入する注入手段が設けられ、前記制御盤には、上記カッターチャンバー内の閉塞推定用の監視温度が設定されると共に、上記注入手段に薬材の注入量を増量する増量信号を出力する注入手段操作部が設けられ、上記制御盤は、計測された前記土砂温度が上記監視温度を超えたことに応じて、上記注入手段操作部から上記注入手段に増量信号を出力することを特徴とする。
【0022】
本発明にかかる泥土圧シールド工法は、上記土砂温度監視機能を備えた泥土圧シールド掘進機を用いる泥土圧シールド工法であって、粒径2mm未満の砂分が20%を超えず、粒径2mm以上の礫分が80%を超える地山を掘削する際に、前記カッターチャンバー内の閉塞推定用の監視温度と前記温度センサで計測された前記土砂温度とを比較するステップと、上記土砂温度が上記監視温度を超えたことに応じて、掘削土砂に混合する薬材を切羽や上記カッターチャンバー内へ向けて注入する注入手段から、薬材を増量して注入するステップとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明にかかる土砂温度監視機能を備えた泥土圧シールド掘進機及び泥土圧シールド工法にあっては、巨礫が多く散在する地山を掘削対象として、カッターチャンバー内に大型で大量の玉石等を含む掘削土砂が取り込まれる場合であっても、回転カッターが回転するカッターチャンバー内における流動状況を的確に推定して、閉塞が生じないように監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明にかかる土砂温度監視機能を備えた泥土圧シールド掘進機の好適な一実施形態を示す概略側断面図である。
【図2】図1に示した土砂温度監視機能を備えた泥土圧シールド掘進機の回転カッターの正面図である。
【図3】本発明にかかる土砂温度監視機能を備えた泥土圧シールド掘進機が好適に適用される地山の粒径加積曲線を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明にかかる土砂温度監視機能を備えた泥土圧シールド掘進機の好適な一実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。図1には本実施形態にかかる土砂温度監視機能を備えた泥土圧シールド掘進機1の概略側断面図が示されていると共に、図2には当該泥土圧シールド掘進機1の回転カッター2の正面図が示されている。
【0026】
泥土圧シールド掘進機1は主に、中空円筒体状のスキンプレート3と、スキンプレート3の前端側に設けられた隔壁4と、隔壁4から前方に間隔を隔てて設けられ、回転駆動手段(図示せず)で回転駆動されて地山の切羽Zを掘削する回転カッター2と、回転カッター2と隔壁4との間に形成され、掘削された土砂が取り込まれるカッターチャンバー5と、カッターチャンバー5内に設けられ、取り込まれた土砂と注入された薬材とを混合撹拌する撹拌装置(図示せず)と、スキンプレート3内に隔壁4よりも後方に位置させて設けられ、セグメント6に反力をとって、スキンプレート3と共に回転カッター2を前進させる推進力を発生するシールドジャッキ7と、隔壁4を貫通してカッターチャンバー5内に取り込み端部8aが位置され、排出端部8bがスキンプレート3後方へ、斜め上向きに延出されて、カッターチャンバー5内から土砂を排土するスクリューコンベア8とから構成される。また、シールド掘進機1後方の後続台車9には、シールド掘進機1の運転室10が設けられ、この運転室10から運転手がシールド掘進機1の運転制御を行うようになっている。
【0027】
本実施形態にかかる泥土圧シールド掘進機1は、特に、カッターチャンバー5へ取り込むことが好ましくない巨礫Xが混在し得る玉石混じり砂礫や玉石層からなる地山の切羽Zを掘削する場合に、好適に適用される。勿論、このような巨礫Xを含まない玉石混じり砂礫や玉石層、通常の砂礫層などに対しても、適用することが可能である。
【0028】
回転カッター2は図2に示すように、スポークタイプで構成される。回転カッター2は、当該回転カッター2の中央に位置され、センタビット11が取り付けられるハブ部12と、ハブ部12から回転カッター2の周縁に向かって放射状に延出され、各種ビット13,14やローラカッター15が取り付けられる6本のスポーク部16と、スポーク部16の中途部同士を連結する中間リング17と、スポーク部16の先端部同士を連結する外周リング18とから構成される。
【0029】
中間リング17には、スポーク部16とスポーク部16のほぼ中間に位置させて、上述した大きな外形寸法の巨礫Xや玉石等がスポーク部16の間からカッターチャンバー5内へ取り込まれることを規制するために、制限用突起19が設けられる。すなわち、回転カッター2には、ハブ部12周りに、スポーク部16、制限用突起19を有する中間リング17及び外周リング18で規定して、巨礫取り込み制限区画Rが形成される。
【0030】
泥土圧シールド工法では、薬材を、回転カッター2で掘削した土砂に添加し、撹拌装置で撹拌混合することにより、掘削土砂を塑性流動性と不透水性を持つ泥土に変換する。そして、この泥土をカッターチャンバー5内及びスクリューコンベア8内に充満させ、シールドジャッキ7の推進力によりカッターチャンバー5内等に充満した泥土を加圧して泥土圧を発生させ、この泥土圧で切羽土圧に対抗させて、切羽Zを安定させるようになっている。
【0031】
泥土圧シールド掘進機1の推進に際しては、切羽Zの安定を維持するために、例えば、回転カッター2の回転速度を一定にして、シールドジャッキ7の伸長速度やスクリューコンベア8の回転速度を調整し、隔壁4に設けた土圧計(図示せず)によって測定されるカッターチャンバー5内の泥土圧を常時一定の圧力に保つようにして、掘進するようにしている。
【0032】
本実施形態にかかる泥土圧シールド掘進機1には、細砂や粗砂、礫に混ざって、玉石、そしてさらには巨礫Xが散在している地山の切羽Zを掘進するにあたり、カッターチャンバー5内の泥土の状態を好適化する泥土調整手段が設けられる。
【0033】
泥土調整手段は、回転カッター2のスポーク部16やハブ部12の適宜位置に設けられて、回転カッター2前方の切羽Zへ向けて薬材を注入する第1注入手段20、隔壁4の中央部付近に設けられて、カッターチャンバー5内へ向けて薬材を注入する第2注入手段21、並びに、隔壁4の周縁部の適宜位置に設けられて、スキンプレート3の外回りやカッターチャンバー5内へ向けて薬材を注入する第3注入手段22を備える。
【0034】
第1及び第3注入手段20,22は、ベントナイト系添加材などの作泥土材を注入する。第2注入手段21は、気泡材を注入する。作泥土材を注入する注入手段20,22及び気泡材を注入する注入手段21の具体的構成は、従来周知である。
【0035】
また、本実施形態では、作泥土材を注入する注入手段20,22と気泡材を注入する注入手段21を別々に備える場合が示されているが、作泥土材と気泡材を注入口(図示せず)付近で混ぜ合わせることによって、あるいは、作泥土材の注入タイミングと気泡材の注入タイミングをずらすことによって、作泥土材用の注入手段20,22と気泡材用の注入手段21を供用するようにしてもよい。すなわち、作泥土材と気泡材は、すべての注入手段20〜22から注入するようにしてもよい。
【0036】
回転カッター2で切羽Zから掘削され破砕されたばかりの礫分を含む土砂は、回転カッター2の回転作用で、当該回転カッター2の第1注入手段20から切羽Zへ向けて注入される作泥土材や気泡材と撹拌混合されつつ、カッターチャンバー5内へ取り込まれるようになっている。また、回転カッター2で切羽Zから掘削され破砕されてカッターチャンバー5内に取り込まれた礫分を含む土砂は、カッターチャンバー5内で、隔壁4の第2及び第3注入手段21,22からカッターチャンバー5内へ向けて注入される作泥土材や気泡材と撹拌混合される。
【0037】
すなわち、回転カッター2で掘削された礫分を含む土砂は、スクリューコンベア8へ取り込まれる前に、切羽Z位置及びカッターチャンバー5内にて、作泥土材及び気泡材双方と撹拌混合される。
【0038】
本実施形態にかかる泥土圧シールド掘進機1には、カッターチャンバー5内での上記土砂の閉塞を監視するために土砂温度監視手段が設けられる。土砂の閉塞傾向は、撹拌等される土砂に滞留する摩擦熱に起因して、土砂温度が上昇することにより推定される。
【0039】
土砂温度監視手段は、スクリューコンベア8の内部、好ましくはカッターチャンバー5に近接するスクリューコンベア8の取り込み端部8aの内部に設けられ、スクリューコンベア8で排出される、カッターチャンバー5から取り込まれたばかりの土砂の土砂温度を直接計測する温度センサ23で構成される。この温度センサ23には、運転室10内に設置され、温度センサ23で計測された土砂温度が入力されると共に、当該土砂温度を運転者に視認させるために表示する制御盤24が接続される。
【0040】
基本的には、温度センサ23で計測した土砂温度を、制御盤24を介して運転者に認識させることで、土砂温度監視機能が発揮され、運転者は表示された土砂温度に応じて、泥土圧シールド掘進機1を運転操作することができる。
【0041】
本実施形態にあっては、温度センサ23は、撹拌流動されて掘削土砂の位置が移動したり、また大型の礫分等が多量に含まれていて空隙部分が移動・消滅したり、また発生したりするカッターチャンバー5内ではなく、一様かつ安定的に掘削土砂が移送されるスクリューコンベア8に設けられていて、土砂温度が安定的に計測される。
【0042】
また、温度センサ23は、スクリューコンベア8の取り込み端部8aに設けられていて、カッターチャンバー5からスクリューコンベア8へ次々に送り込まれる掘削土砂の土砂温度は、カッターチャンバー5内の土砂の流動状態を反映する温度データであって、この土砂温度がリアルタイムで計測される。また、スクリューコンベア8は、掘削土砂を移送して排土するものであるので、温度センサ23の設置位置に土砂が付着滞留するおそれが少なく、土砂温度が正確に計測される。
【0043】
温度センサ23で検出された土砂温度は、運転者による手動制御に利用される。制御盤24には、カッターチャンバー5内の閉塞推定用の監視温度が設定され、当該監視温度が制御盤24に表示されると共に、運転者に手動操作されて、注入手段20〜22に作泥土材の注入量を増量する増量信号を出力する注入手段操作部24aが設けられる。作泥土材を注入することで、カッターチャンバー5内の土砂の塑性流動性を高めることができる。
【0044】
さらには、温度センサ23で検出された土砂温度を、制御盤24による自動制御に利用するようにしてもよい。制御盤24は、監視温度と計測された土砂温度とを比較するステップを実行し、この比較によって、土砂温度が監視温度を超えている場合には、注入手段操作部24aから注入手段20〜22に増量信号を出力して、作泥土材の注入量を増量するステップを実行するようになっている。
【0045】
監視温度については、地山の状態やシールド掘進機の仕様により異なるので、予め設定した温度に対し、工事毎に掘進初期段階の区間で得られるデータに基づいて、補正を行うことが好ましい。
【0046】
本実施形態にあっては、制御盤24には、作泥土材を増量する基準となる監視温度(M℃)に加えて、段階的な増量を行うために、第1閾値温度(M℃+α℃)が設定される。温度センサ23で計測された土砂温度が監視温度(X℃)以下である場合には、「土砂の塑性流動性は良好であって、カッターチャンバー5内の撹拌性は良好である」と推定し得る。
【0047】
土砂温度が監視温度を超えて第1閾値温度(X℃+α℃)以下である場合には、「土砂の塑性流動性が低下傾向にあり、カッターチャンバー5内で土砂が閉塞気味である」と推定し得、これに基づいて、カッターチャンバー5内の塑性流動性を高めるためのフィードフォワード制御として、運転者の手動制御もしくは制御盤24における自動制御により、注入手段操作部24aから出力される増量信号で注入手段20〜22は作泥土剤の注入量を増加する。
【0048】
さらに土砂温度が第1閾値温度(X℃+α℃)以上となった場合には、「土砂の塑性流動性が不足していて、カッターチャンバー5内で土砂の閉塞箇所が発生している可能性がある」と推定し得、これに基づいて、カッターチャンバー5内の閉塞傾向を解消するためのフィードフォワード制御として、運転者の手動制御もしくは制御盤24における自動制御で、注入手段操作部24aから出力される増量信号で注入手段20〜22は作泥土剤の注入量をさらに増加するようになっている。
【0049】
また、本実施形態にかかる泥土圧シールド掘進機1には、噴出防止手段が設けられる。噴出防止手段は、スクリューコンベア8として、大径な礫などを搬送することが可能なリボン式スクリューコンベアを採用し、このリボン式スクリューコンベアの排出端部8bに、泥土圧が発生して止水領域となるプラグゾーンを形成し得る長さ寸法の排土管25を連結して構成される。
【0050】
本実施形態にかかる泥土圧シールド掘進機1では、巨礫Xを破砕した大型の礫等が排土に含まれていて、軸付きスクリューコンベアでは当該礫等で閉塞を起こしやすいことから、リボン式スクリューコンベア8が用いられる。
【0051】
排土管25は、リボン式スクリューコンベア8の排出端部8bから、後続台車9に組み込まれるズリ搬出台車26まで延設され、スクリューコンベア8からの排土を、ズリ搬出台車26に排出する。排土管25は、その内部を排土が移動する際の圧力損失によって、止水性を得るプラグゾーンを形成し、これにより地下水圧等に起因する土砂の噴出を防止するようになっている。
【0052】
次に、上記実施形態にかかる泥土圧シールド掘進機1を例示して、本実施形態にかかる泥土圧シールド工法について説明する。本発明にかかる土砂温度監視機能を備えた泥土圧シールド掘進機及び泥土圧シールド工法は具体的には、図3に示す粒径加積曲線(粒径2mm未満の細粒(砂分)が20%を超えず、粒径2mm以上の礫石(礫分)が80%を超える)を有する地山を対象として開発され、台湾の大南湾近郊のトンネル掘削に、守秘状態で、実際に採用されたものである。
【0053】
泥土圧シールド工法は基本的には、カッターチャンバー5からスクリューコンベア8に亘って充満する泥土に薬材を添加して塑性流動性や不透水性を確保した上で、シールドジャッキ7の推進力で切羽土圧に拮抗する泥土圧を発生させ、この泥土圧で切羽Zを安定に維持しつつ、カッターチャンバー5内から排土するスクリューコンベア8の回転速度とシールドジャッキ7の伸長速度とを適正に調整して掘進を進めていく。
【0054】
泥土圧シールド掘進機1の掘進作業にあたり、本実施形態にかかる泥土圧シールド工法では、薬材としてベントナイト系添加材などの作泥土材及び気泡材を併用して、これら薬材を第1〜第3注入手段20〜22から、回転カッター2前方の切羽Zに向かって、そしてまたカッターチャンバー5内に向けて、注入する。
【0055】
本実施形態では、カッターチャンバー5へ取り込むことが好ましくない巨礫Xが混在し得る玉石混じり砂礫や玉石層からなる地山の切羽Zを掘削する場合を対象としていて、ベントナイト系添加材に代表される作泥土材は、通常一般に認識されている細粒分の補充という意味合いから、土砂の塑性流動性や不透水性を高めるという作用に加えて、巨礫Xを破砕した礫や玉石等の礫分を含む掘削土砂に関し、当該礫分を掘削土砂と共に包み込んで当該礫分が土砂から分離してしまうことを抑制し、これら土砂と礫分との一体性を向上するようにしている。これにより、気泡材の難点である、土砂の粒子同士の付着結合を妨げる等の分離作用を抑制することができる。
【0056】
また、気泡材は、上記作泥土材と組み合わせて使用することで、通常一般に認識されている塑性流動性や不透水性の向上に関し、細粒分である作泥土材との相乗作用で、ベアリング効果をもつ塑性流動性や不透水性を発揮して礫分を含む土砂の回転カッター2や隔壁4への付着を抑制することができると共に、作泥土材では得られない気泡材のクッション作用により、掘削土砂や作泥土材の圧縮性を高めて、カッターチャンバー5内やスクリューコンベア8内で礫分が転がり移動することを妨げ、また転がり移動したとしてもそのクッション作用で泥土圧の急激な変動を抑制することができる。
【0057】
従って、薬材として、作泥土材及び気泡材を併用することにより、泥土圧を安定化することができて切羽Zを安定的に維持することができると共に、スクリューコンベア8による礫分の排土を円滑化して閉塞の発生を防止できると共に、噴出が発生することも防ぐことができる。
【0058】
このようにして作泥土材及び気泡材と混合・撹拌された礫分を含む土砂がカッターチャンバー5からスクリューコンベア8へ取り込まれて排土される際、スクリューコンベア8の内部に設けた温度センサ23がスクリューコンベア8内を移送される土砂の土砂温度を直接計測し、計測された土砂温度は、制御盤24に入力され、表示される。計測された土砂温度が監視温度以下である場合には、カッターチャンバー5内で土砂の閉塞傾向が見出されないので、これまでと同じ運転操作で掘進作業を継続することができる。
【0059】
他方、計測された土砂温度が監視温度を超えていて、第1閾値温度以下である場合には、土砂の塑性流動性が低下していて閉塞傾向にあるため、シールド機1の運転操作を継続しつつ、注入手段操作部24aから注入手段20〜22に増量信号を出力し、注入手段20〜22から切羽Zやカッターチャンバー5内に向けて、作泥土材を増量して注入する。
【0060】
作泥土材の増量は、土砂温度が監視温度以下になるまで継続する。土砂温度が監視温度以下となれば、塑性流動性が回復し閉塞傾向が解消したと推定し得るので、増量信号の出力を終了し、そのままシールド機1の運転操作を継続する。
【0061】
さらに、計測される土砂温度が、上記操作で作泥土材を増量したにもかかわらず、第1閾値温度以上となった場合には、土砂の塑性流動性が不足し閉塞箇所が生じている可能性があるため、シールド機1の運転操作を継続している状態で、注入手段操作部24aから注入手段20〜22に、作泥土材の注入量をさらに増量する増量信号を出力し、これにより注入手段20〜22から、作泥土材をさらに増量して注入する。
【0062】
作泥土材の増量は、土砂温度が監視温度以下になるまで継続する。土砂温度が監視温度以下になれば、塑性流動性が回復し閉塞が解消したと推定し得るので、増量信号の出力を終了し、シールド機1の運転操作を継続する。この際、土砂温度が第1閾値温度以下となった段階で、注入量を減少させるようにしてもよい。
【0063】
また、以上の説明では、作泥土材の増量注入を、シールド機1の運転を継続しつつ行うとしたが、運転を一旦停止して増量注入を行うようにしてもよい。
【0064】
これに対し、さらなる増量操作によっても、温度センサ23で計測される土砂温度が上昇する傾向にある場合には、シールド機1の運転操作を中断し、点検補修を実施する。
【0065】
本実施形態にかかる土砂温度監視機能を備えた泥土圧シールド掘進機1及び泥土圧シールド工法にあっては、温度センサ23を、撹拌流動されて掘削土砂の位置が移動したり、また大型の礫分等が多量に含まれていて空隙部分が移動・消滅したり、また発生したりするカッターチャンバー5内ではなく、一様かつ安定的に掘削土砂が移送されるスクリューコンベア8に設けているので、土砂温度を安定的に計測することができる。
【0066】
また、温度センサ23を、カッターチャンバー5に近接するスクリューコンベア8の取り込み端部8aに設けていて、カッターチャンバー5からスクリューコンベア8へ次々に送り込まれる掘削土砂の土砂温度は、カッターチャンバー5内の土砂の流動状態を反映する温度データであるから、この土砂温度をリアルタイムで計測することができる。
【0067】
また、スクリューコンベア8は、掘削土砂を移送して排土するものであるので、温度センサ23をスクリューコンベア8内部に設けても、この温度センサ23の設置位置に土砂が付着滞留するおそれが少なく、土砂温度を正確に計測することができる。
【0068】
また、巨礫Xが混在し得る玉石混じり砂礫や玉石層からなる地山の切羽Zを対象として掘削を行う場合であっても、カッターチャンバー5内では、玉石等で掘削土砂が押し退けられて生じる空隙部分のために土砂の温度を正確に計測することが難しいのに比べて、スクリューコンベア8内では、礫分を含んでいる土砂であってもほぼ一様に安定的に移送される状況下にあるので、スクリューコンベア8に温度センサ23を設けて土砂温度を計測して監視することによって、カッターチャンバー5内における流動状況を的確に推定でき、この種の巨礫Xが多く散在する地山を掘削する場合であっても、カッターチャンバー5内等に閉塞が発生することを未然にかつ確実に防止することができる。
【0069】
また、温度センサ23で計測した土砂温度を制御盤24に入力して表示させるようにしたので、運転者によるシールド機1の運転操作を適切に行うことができる。また、制御盤24に、監視温度を設定すると共に、作泥土材を増量する増量信号を注入手段20〜22に出力する注入手段操作部24aを設けたので、監視温度と計測された土砂温度との相関に応じて作泥土材を増量することができ、これにより閉塞が発生することを的確に防止できる。
【0070】
また、制御盤24による自動制御に対応させて、監視温度と土砂温度の比較ステップと、土砂温度が監視温度を超えたことに応じて、作泥土材を増量して注入する増量ステップとを実行するように構成したので、シールド機1の閉塞防止制御を自動化することができる。勿論、手動制御にあっても、これらステップを実行して閉塞防止を図ることができる。
【符号の説明】
【0071】
1 泥土圧シールド掘進機
2 回転カッター
4 隔壁
5 カッターチャンバー
8 スクリューコンベア
8a スクリューコンベアの取り込み端部
20〜22 注入手段
23 温度センサ
24 制御盤
24a 注入手段操作部
Z 切羽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転カッターにより地山の切羽から掘削され破砕された後に、該回転カッター後方に隔壁で区画して形成されたカッターチャンバー内に取り込まれる礫分を含む掘削土砂を、スクリューコンベアで排出する泥土圧シールド掘進機において、上記スクリューコンベアに、排出される掘削土砂の土砂温度を計測する温度センサを設けたことを特徴とする土砂温度監視機能を備えた泥土圧シールド掘進機。
【請求項2】
前記温度センサは、前記カッターチャンバーに近接する前記スクリューコンベアの取り込み端部に設置されることを特徴とする請求項1に記載の土砂温度監視機能を備えた泥土圧シールド掘進機。
【請求項3】
前記温度センサに接続され、前記土砂温度が入力されると共に、入力された該土砂温度を表示する制御盤を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の土砂温度監視機能を備えた泥土圧シールド掘進機。
【請求項4】
前記回転カッターや前記隔壁には、掘削土砂に混合する薬材を切羽や前記カッターチャンバー内へ向けて注入する注入手段が設けられ、前記制御盤には、上記カッターチャンバー内の閉塞推定用の監視温度が設定されると共に、上記注入手段に薬材の注入量を増量する増量信号を出力する注入手段操作部が設けられることを特徴とする請求項3に記載の土砂温度監視機能を備えた泥土圧シールド掘進機。
【請求項5】
前記回転カッターや前記隔壁には、掘削土砂に混合する薬材を切羽や前記カッターチャンバー内へ向けて注入する注入手段が設けられ、前記制御盤には、上記カッターチャンバー内の閉塞推定用の監視温度が設定されると共に、上記注入手段に薬材の注入量を増量する増量信号を出力する注入手段操作部が設けられ、
上記制御盤は、計測された前記土砂温度が上記監視温度を超えたことに応じて、上記注入手段操作部から上記注入手段に増量信号を出力することを特徴とする請求項3に記載の土砂温度監視機能を備えた泥土圧シールド掘進機。
【請求項6】
請求項1に記載の土砂温度監視機能を備えた泥土圧シールド掘進機を用いる泥土圧シールド工法であって、
粒径2mm未満の砂分が20%を超えず、粒径2mm以上の礫分が80%を超える地山を掘削する際に、前記カッターチャンバー内の閉塞推定用の監視温度と前記温度センサで計測された前記土砂温度とを比較するステップと、上記土砂温度が上記監視温度を超えたことに応じて、掘削土砂に混合する薬材を切羽や上記カッターチャンバー内へ向けて注入する注入手段から、薬材を増量して注入するステップとを備えることを特徴とする泥土圧シールド工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−122258(P2012−122258A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274118(P2010−274118)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【Fターム(参考)】