説明

圧力または温度分布と速度分布の同時計測法

【課題】本発明の課題は、定常・非定常流の速度分布に加え、圧力または温度分布を同時に供する計測法を提示し、速度分布と圧力または温度分布の相関関係を得ることも可能とすることにある。
【解決手段】本発明の圧力または温度分布を速度分布と同時に計測する方法は、リファレンスとなる発光と圧力または温度に反応するシグナルとなる2色発光を備えた発光物質を表面に塗布した多孔質粒子を流体に混合し、該流体の流れの場に励起光を照射し、リファレンスとシグナルの発光を波長分離して同時に画像計測し、その比により圧力または温度分布を速度分布と同時に計測するものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定常・非定常流の空間情報、すなわち、流れの速度分布に加えた圧力または温度分布を計測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子画像流速測定法は流体中に粒子を注入し、それを追跡することで一様流中の流れ場を計測する。この方法は速度分布計測に限定されており、流体計測で必要とされる圧力・温度については計測が不可能である。それに対し物体表面の圧力・温度分布を計測する方法として、感圧・感温塗料を風洞模型等に塗布して表面の圧力・温度分布計測することが行われている。これらの塗料は蛍光・りん光を圧力・温度に関連づける化学センサである。塗布面の発光量を圧力・温度分布に関連付けるが、それらを抽出するためには圧力・温度分布以外に依存する発光分布(リファレンス)を計測する必要がある。強度法と呼ばれる計測法はそのリファレンス画像と圧力・温度分布を含んだ画像比から圧力・温度のみの情報を抽出するのであるが、流体計測中では圧力・温度分布が生じるため、リファレンス計測は不可能である。そのため粒子の位置が計測時間ごとに変化する粒子画像流速測定では、感圧・感温塗料で必要とされるリファレンスが計測できない。それに対しリファレンスを計測中に取得する方法として寿命法が存在する。これは感圧・感温塗料の発光寿命をリファレンスと圧力・温度に関係づける方法である。しかし、この方法は発光現象の短い時間(ナノ〜マイクロ秒オーダー)で計測する必要があり、また発光現象を計測するため、計測機器に十分な発光信号を与えることができない。そのため、この方法は定常流または周期的な非定常流に限定して行われている。この方法を適用して感温塗料を粒子に塗布・コーティングし、温度分布と速度分布を同時計測する試みがなされている。
【0003】
上記の計測法である特許文献1に開示された発明の目的は、流れを乱すことなく流れ場の温度、圧力、速度の分布を計測することができる同時計測方法および装置を提供することであって、当該発明の「流れ場の温度、圧力、速度分布の同時計測方法」は、感温塗料と感圧塗料を微細な固体粒子のトレーサとして流れ場に混入して流すトレーサ供給ステップ(A)と、感温塗料と感圧塗料にそれぞれ特定の励起波長の光を照射して励起状態にする励起ステップ(B)と、流れ場にシート状の光を照射しシート面に垂直方向からトレーサの画像を撮影して速度分布を計測する速度計測ステップ(C)と、感温塗料の特定の放出波長W1の光強度I1を計測して温度分布を計測する温度計測ステップ(D)と、感圧塗料の特定の放出波長W2の光強度I2を計測して圧力分布を計測する圧力計測ステップ(E)と、からなることを特徴とする。
【0004】
また、本出願人が先に出願した特許文献2の発明の課題は、周期的な非定常圧力変動場であって、その変動成分が広帯域にわたる成分を持っている場の変動圧力の分布を画像計測する手法を提示すること、また圧力変動が小さい微小圧力場であっても変動圧力成分の分布が計測できるような手法を提示することにある。そして、当該発明の「感圧塗料による非定常圧力場の画像計測方法」は、感圧塗料あるいは感圧コーティングを用いた画像計測であって、取得された感圧塗料あるいは感圧コーティングからの発光データを基にして、該発光データにおける周波数次元での圧力変動成分の分布を画像化して表示するようにした。具体的には、画像取得装置によって得られた感圧塗料あるいは感圧コーティングからの発光データである複数枚の時系列画像を、画像上の2次元の軸と時間軸から成る一連の3次元データとして扱い、周波数解析または時間周波数解析によって非定常変動圧力に関わる状態量を得るようにしたものである。
【0005】
しかし、従来の流れ場の温度、圧力、速度の分布を計測方法における流れは定常流に限定される。圧力計測においては、感圧塗料の特性から温度依存性を含んでいるため、温度計測に比べより計測が困難となるため、圧力分布と速度分布の同時計測は行われていない。特に非定常流れについて、粒子に感圧・感温塗料を塗布・コーティングすることによる圧力・温度分布と速度分布の同時計測は達成されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−163180号公報 「流れ場の温度、圧力、速度分布の同時計測方法および装置」 平成16年6月10日公開
【特許文献2】特開2008−82735号公報 「感圧塗料による非定常圧力場の画像計測方法」 平成20年4月10日公開
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、定常・非定常流の速度分布に加え、圧力または温度分布を同時に供する計測法を提示し、速度分布と圧力または温度分布の相関関係を得ることも可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の圧力または温度分布を速度分布と同時に計測する方法は、リファレンスとなる発光と圧力または温度に反応するシグナルとなる2色発光を備えた発光物質を表面に塗布した多孔質粒子を流体に混合し、該流体の流れの場に励起光を照射し、リファレンスとシグナルの発光を波長分離して同時に画像計測し、その比により圧力または温度分布を速度分布と同時に計測するものとした。
また、本発明の圧力または温度分布を速度分布と同時に計測する方法は、リファレンスとシグナルの発光を波長分離して同時に画像計測する高速カメラを用いて非定常現象を同時取得し、速度分布と圧力または温度分布の相関関係を取ることを特徴とする。
また、本発明の圧力または温度分布を速度分布と同時に計測する方法は、リファレンスとシグナルの温度依存性を同一に設定することで圧力計測時における温度依存性を解消するものとした。
また、本発明の圧力または温度分布を速度分布と同時に計測する方法は、励起波長として460nm付近の青色より低波長域用い、リファレンス、シグナル発光を生み出す色素として550nm付近の緑色発光を持つ色素と650nm以上の波長(赤色)での発光を持つ色素を用いるものとした。
【0009】
本発明の圧力または温度分布を速度分布と同時に計測する方法を実施する装置は、リファレンスとなる発光と圧力または温度に反応するシグナルとなる2色発光を備えた発光物質を表面に塗布した多孔質粒子を混入させた流体の流れの場を照射する励起光照射手段と、リファレンスとシグナルの発光を波長分離して同時に画像計測するカメラと、リファレンスとシグナルの発光を波長分離してその比を演算する手段とを備えるものとした。
【発明の効果】
【0010】
本発明の圧力または温度分布を速度分布と同時に計測する方法は、圧力・温度分布および速度分布の同時計測が可能となった。また、非定常な流れに対し上記の同時計測が可能となった。そして、同時計測により圧力・温度分布と速度分布の相関関係が取得が可能となった。更に、2色発光比を用いることにより圧力計測時に含まれる温度誤差を解消することができた。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】2色発光のスペクトル特性と励起波長域を示すグラフである。
【図2】(a)は2色発光のスペクトルを示すグラフであり、(b)は高速デジタルカラーカメラの波長感度特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
感圧・感温塗料からの発光画像は圧力・温度情報以外に励起光が分布を持つことから生じる発光分布、カメラとの位置関係による発光分布を含む。それらをキャンセルし、圧力・温度情報のみ抽出するにはリファレンス画像の取得が必要である。粒子画像流速測定法においてリファレンス画像を取得するには、感圧・感温塗料が適用された粒子が時間的に位置変化することから、前記の背景技術で述べた強度法によるリファレンス画像取得はできない。寿命法では発光量を積算可能な定常流、周期的な非定常現象では適用可能となるが、非定常流では発光量レベル(SN比)が低く、計測が困難となる。そこで本発明者は、一方の発光が圧力・温度に依存しないリファレンス、他方が圧力・温度により発光量が変化するシグナルを持つ2色発光を有する感圧・感温塗料を利用することで上記リファレンス画像取得の問題が解決できないか考えた。
【0013】
発光を生み出す蛍光またはりん光色素は異なる波長で発光することで2色発光するが、それらは波長分離可能な範囲で発光する必要がある。これらの色素は励起ムラによる発光分布が同一である必要があるため、同じ波長領域で励起可能である必要がある。かつ、励起波長は2色発光の波長領域から分離される必要がある。これらの条件を満たす発光物質を多孔質粒子に適用することで高速応答性を備え、非定常試験への適用も可能となる。本発明者はこれらの知見を基に鋭意実験を重ね、図1に示されるように、励起波長として460nm付近の青色より低波長域用い、リファレンス、シグナル発光を生み出す色素として550nm付近の緑色発光を持つ色素と650nm以上の波長(赤色)での発光を持つ色素を用いることに至った。2種類の色素はバインダーを用いることなく多孔質粒子に混在して吸着される。バインダーを用いないことにより高速応答性が保たれる。
【0014】
同時分光計測システムは2色の発光分布を同時に計測する機構が必要となる。この手段として高速デジタルカラーカメラを用いた。高速デジタルカラーカメラは赤(R)緑(G)青(B)の3画像で構成される。各画像は干渉フィルターの役割を果たし、上記シグナル画像、リファレンス画像を分光計測する。上記方法で粒子を追跡することで、従来の画像粒子流速法を適用することが可能となる。これにより圧力または温度分布を速度分布と同時に計測することが可能となる。
【0015】
[2色発光比を用いたリファレンス画像取得]
高速デジタルカラーカメラで計測される画像は以下に示す式(1)と式(2)で表わされる。
【数1】

ここで、Vijはカメラの受像素子における任意のピクセルijでの信号レベルを示す。それがシグナル画像(R、G、B画像のいずれか)での信号レベルであればVSij、リファレンス画像(残り2画像のうちのいずれか)であればVRijと表示する。ijピクセルでの励起光分布による発光分布をCillu、カメラとの位置関係による分布をClocと表示する。Cillu、とClocは粒子の時間変動によってその値を変化させるため、時間tの関数となっている。シグナル、リファレンスに関与しないこれらの発光分布は関数gで表現される。圧力・温度に依存する発光をシグナルIS、そのいずれにも依存しない発光をリファレンスIRとする。2色発光比は式(1)と式(2)の比を取ることにより得られる。この比は同一時間での比であり、それによりCillu、とClocはシグナルとリファレンスで同一の値を示す。これにより、シグナル、リファレンスに関与しない発光分布gはキャンセルされる。
【数2】

シグナルが圧力感度を持つ場合、以下の式で圧力と発光量が関係づけられる。
【数3】

ここでrefは基準となる圧力、温度での値を示す。AS、BSは係数であり、Pは圧力を示す。シグナルとリファレンスの発光比IR/ISは式(3)で示され、式変形(4)をすることで変形式Iref_sigは式(4)と同様に圧力に関係づけられる。
【数4】

式(7)において、圧力感度σは傾き、すなわち係数BSに相当する。この値が大きければ圧力感度が高いことを示す。
【数5】

シグナル、リファレンスは温度依存性を有しており、それらは以下の式(9)、(10)で示される。ここでcS0、cS1、cR0、cR1は係数である。Tは温度を示す。
【数6】

温度感度δは式(9)、式(10)の係数に相当する。
【数7】

【0016】
[圧力計測における温度誤差の解消]
式(9)および式(10)の係数が以下の関係を示すと仮定する。これはすなわち、シグナルとリファレンスの温度依存性が一致する場合において満たされる条件である。
S0=CR0 (13)
S1=CR1 (14)
このとき式(11)および式(12)の温度感度は一致する。温度式についても式(7)と同様にIref_sigを求めると式(15)となる。
【数8】

式(15)は式(13)および式(14)を満たすため、温度Tに依存する項は解消され、圧力計測における温度誤差は解消される。
【実施例】
【0017】
2色発光を有する感圧・感温塗料の色素を例示すると、リファレンスとして例えば poly [1- (trimetylsilyl) phenyl- 2- phenylacetylene](PTMST)やアントラセンが用いられ、
感圧色素としては例えば、PtTFPL:pt(II)meso-tetra (pentafluorophenyl) porpholactone、PdTMPyP:正式な学術名はPalladium(II)meso-tetrakis(4-N-methylpyridyl)porphyrin]、PtTPP:Platinum Tetraphenyl Porphyrinの他PtTFPP、PdFPP、PtOEP、PdOEP、PdTPP、PdTFPP、ポルフォラクトン等がシグナル検出用に、
感温色素として例えば、PdTMPyP: 正式な学術名はPalladium(II)meso-tetrakis(4-N-methylpyridyl)porphyrin]、Eu四核錯体、例として[Eu4(μ-0)(L1)10](L1=2-hydroxy-4-octyloxybenzophenone)や([Eu4(μ-0)(L2)10](L2=2-hydroxy-4-dodecyloxybenzophenone)の構造式を有するEu四核錯体化合物、ローダミンB誘導体RhoB-MA、ローダミンB(2-(3-Diethylimino-6-diethylamino-3H-xanthen-9-yl)benzoic Acid Chloride)等が温度シグナル検出用に用いられる。
2色発光スペクトルを図2(a)に示す。高速応答性を有する多孔質粒子に適用することで本発明の最良の塗料が構成される。本発明を実施する装置に適した高速デジタルカラーカメラとしてPhantom Miro 4 (商品名)を用いた。このカメラの波長感度を図2(b)に示す。緑画像は発光スペクトルのリファレンスに対応しており、赤画像はシグナルに対応していることが確認できる。現段階では本発明の方法を用いて表面分布計測が可能である。リファレンスとなる発光と圧力または温度に反応するシグナルとなる2色発光を備えた発光物質を表面に塗布した多孔質粒子を流体中に散布し、該流体の流れの場に励起光を照射しつつ、当該カメラで撮影すれば、リファレンスとシグナルの発光を波長分離して同時に画像を得ることができる。このようにして粒子画像計測法による、圧力または温度分布と速度分布の同時計測が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明の時間変動を伴う圧力・温度分布と速度分布の同時計測法は、流れ場の速度分布情報に加え圧力分布または温度分布を同時に必要とする流体計測分野として航空宇宙、自動車、船舶、都市工学、土木工学、海洋工学分野に適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リファレンスとなる発光と圧力または温度に反応するシグナルとなる2色発光を備えた発光物質を表面に塗布した多孔質粒子を流体に混合し、該流体の流れの場に励起光を照射し、リファレンスとシグナルの発光を波長分離して同時に画像計測し、その比により圧力または温度分布を速度分布と同時に計測する方法。
【請求項2】
リファレンスとシグナルの発光を波長分離して同時に画像計測する高速カメラを用いて非定常現象を同時取得し、速度分布と圧力または温度分布の相関関係を取ることを特徴とする請求項1に記載の圧力または温度分布を速度分布と同時に計測する方法。
【請求項3】
リファレンスとシグナルの温度依存性を同一に設定することで圧力計測時における温度依存性を解消することが可能となる請求項1に記載の圧力または温度分布を速度分布と同時に計測する方法。
【請求項4】
励起波長として460nm付近の青色より低波長域用い、リファレンス、シグナル発光を生み出す色素として550nm付近の緑色発光を持つ色素と650nm以上の波長(赤色)での発光を持つ色素を用いるものである請求項1乃至3のいずれかに記載の圧力または温度分布を速度分布と同時に計測する方法。
【請求項5】
リファレンスとなる発光と圧力または温度に反応するシグナルとなる2色発光を備えた発光物質を表面に塗布した多孔質粒子を混入させた流体の流れの場を照射する励起光照射手段と、リファレンスとシグナルの発光を波長分離して同時に画像計測するカメラと、リファレンスとシグナルの発光を波長分離してその比を演算する手段とを備えた請求項1に記載の圧力または温度分布を速度分布と同時に計測する方法を実施する装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−112775(P2012−112775A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261437(P2010−261437)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【Fターム(参考)】