説明

圧力スイング吸着の方法

【課題】酸素を製造するための圧力スイング吸着プロセスを提供する。
【解決手段】酸素を製造するための圧力スイング吸着プロセスであって、
(a)少なくとも一の吸着装置容器を提供し、この容器が容器の供給端に近接する第一の吸着層と第一の層に近接する第二の層とを有し、ここで第一の層の表面積対体積比が約5〜11cm−1の範囲にあること;
(b)少なくとも酸素、窒素、および水を含む加圧した供給ガスを前記供給端に導入し、第一の層の吸着剤に少なくとも前記の水の一部を吸着させ、且つ第二の層の吸着剤に少なくとも前記の窒素の一部を吸着させ、ここで第一の層における前記の加圧ガスの表面接触時間が約0.08〜約0.50秒の範囲であること;ならびに
(c)酸素が富化した製品ガスを前記吸着装置容器の製品端から引き出すこと、
を含むプロセス。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
最近のプロセスの進歩および吸着剤技術により、伝統的な大規模の圧力スイング吸着(PSA)システムを非常に短い継続時間の急速サイクルで運転するかなり小さいシステムにスケールダウンすることが可能である。これらの小さな、急速サイクルのPSAシステムは、例えば外気から酸素を回収するポータブルの医療用酸素濃縮器で、使用されてもよい。これらの濃縮器の市場が成長するにつれて、酸素療法の患者の利益のために、より小さく、より軽い、そしてよりポータブルなユニットを開発するインセンティブがますます存在する。
【0002】
供給ガスの不純物が吸着剤に与える影響は多くのPSAシステムにおいて一般的な問題であり、そしてその影響は小さい急速サイクルPSAシステムで必要とされる小さい吸着剤ベッドにおいて特に深刻である。例えば、空気中の水および二酸化炭素の不純物は、PSAサイクルの再生ステップの間では完全には除去されない不純物のせいで吸着剤の非活性化が進むために、小さいPSA空気分離システムの性能を大幅に減少させることが可能である。この非活性化の進行のために、酸素回収は時が経つと減少する可能性があり、そして吸着剤の交換が習慣的な原則として必要とされ得る。あるいは、吸着剤の非活性化の進行を補償するために過大な吸着剤ベッドが必要とされることがある。これらの状況の両方とも、酸素濃縮器システムのコストと重量を増加するので、望ましくない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
小さく、ポータブルな、急速サイクルPSA酸素濃縮器の設計および運転において、不純物、特に水、の除去のための改善された方法が当該技術分野で要求されている。この要求は以下で説明され且つ続く特許請求の範囲で定義される発明の実施態様によって解決される。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一実施態様は、酸素を製造するための圧力スイング吸着プロセスに関係し、該プロセスは、
(a)供給端および製品端を有する少なくとも一の吸着装置容器を提供し、ここで該容器が該供給端に近接する吸着剤物質の第一の層および該第一の層と製品端との間に配置した吸着剤物質の第二の層を有し、ここで第一の層の吸着剤は水、酸素、および窒素を含む混合物からの水の吸着について選択的であり、第二の層における吸着剤は酸素および窒素を含む混合物からの窒素の吸着について選択的であり、且つ吸着剤物質でできた第一の層の表面積対体積比が約5〜約11cm−1の範囲にあること;
(b)少なくとも酸素、窒素、および水を含む加圧した供給ガスを該吸着装置容器の供給端に導入し、該ガスを第一および第二の層を通って連続的に通過させ、第一の層の吸着剤物質に前記の水の少なくとも一部を吸着させ、且つ第二の層の吸着剤物質に前記の窒素の少なくとも一部を吸着させ、ここで第一の層における前記の加圧した供給ガスの表面接触時間が約0.08〜約0.50秒の間であること;ならびに
(c)酸素が富化した製品ガスを該吸着装置容器の製品端から引き出すこと、
を含む。
【0005】
第一の層の吸着剤物質は活性アルミナを含んでもよく、この活性アルミナが約0.3mm〜約1.0mmの間の平均粒子直径を有してもよい。第二の層の吸着剤物質が窒素および酸素を含む混合物からの窒素の吸着について選択的であってもよい。吸着装置容器の製品端から引き出される製品ガスの酸素濃度が少なくとも85体積%であってもよい。第一の層の深さが全ベッド高さの約10%〜約40%の間であってもよく、そして第一の層の深さが約0.7cm〜約13cmの間であってもよい。該吸着装置容器が円筒型であって、且つ第一および第二の層の全深さの吸着装置容器の内部直径に対する比が約1.8〜約6.0の間であってもよい。
【0006】
圧力スイング吸着プロセスが繰返しサイクルで運転されてもよく、該サイクルは、
該加圧した供給ガスが吸着装置容器の供給端に導入され且つ酸素が富化した製品ガスが吸着装置容器の製品端から引き出される供給ステップ、
第一および第二の層の吸着剤物質を再生するために吸着装置容器の供給端からガスが引き出される減圧ステップ、ならびに
一以上の再加圧ガスを吸着装置容器に導入することによって吸着装置容器が加圧される再加圧ステップを少なくとも含み、且つ
ここで供給ステップの継続期間が約0.75〜約30秒の間である。サイクルの全継続期間は約6〜約60秒の間であってもよい。
【0007】
酸素が富化した製品ガスの流量速度が約1〜約11.0標準リットル毎分の間であってもよく、そして特に酸素が富化した製品ガスの流量速度が約0.4〜約3.5標準リットル毎分の間であってもよい。第一の層の吸着剤物質の質量の、酸素製品純度93体積%における製品ガスの流量速度(標準リットル毎分(slpm))に対する比が、約44g/slpmよりも大きくてもよい。吸着ベッドとその容器壁との間の平均伝熱係数が、約0.25BTUft−2hr−1°F−1に(1.42W/mK)等しいかまたはそれよりも大きくてもよい。
【0008】
圧力スイング吸着プロセスが繰返しサイクルで運転されてもよく、該サイクルは、
該加圧した供給ガスが吸着装置容器の供給端に導入され且つ酸素が富化した製品ガスが吸着装置容器の製品端から引き出される供給ステップ、
第一および第二の層の吸着剤物質を再生するために吸着装置容器の供給端からガスが引き出される減圧ステップ、ならびに
一以上の再加圧ガスを吸着装置容器に導入することによって吸着装置容器が加圧される再加圧ステップを少なくとも含み、且つ
ここで前処理層におけるベッドの軸方向の最大温度差が約70°F(21.1℃)に等しいかまたはそれよりも小さくてもよい。冷却空気が吸着剤カラムの外部表面にわたって通過してもよい。
【0009】
製品ガスにおいて回収される酸素の量が、加圧した供給ガスにおける酸素の量の約35%よりも大きい、請求項1に記載の方法。第二の層の吸着剤物質が、X−型ゼオライト、A−型ゼオライト、Y−型ゼオライト、チャバザイト、モルデナイトおよびクリノプチロライトからなる群から選択された一以上の吸着剤を含んでもよい。吸着剤物質がリチウム−交換X型ゼオライトであり、そこでは活性点カチオンの少なくとも約85%がリチウムであってもよく;SiOのAlに対するモル比が約2.0〜約2.5の範囲であってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
家庭医療用途のためのポータブルな酸素濃縮器が、人気を獲得しつつありそして現在ガスシリンダーおよび家庭充填液体酸素システムによって提供されている市場において高い可能性を有している。この市場で成功する濃縮器システムへの鍵は、最小の全体重量およびサイズである。ポータブルな濃縮器は、吸着剤でできた複数のベッドが加圧され且つ減圧される圧力スイング吸着(PSA)を利用し、ここでこの吸着剤は酸素富化製品の流れを製造するために窒素および他のガスを選択的に除去する。最小のシステム重量およびサイズの要求を達成するために、25℃且つ1atmaの標準条件で3標準リットル毎分(slpm)までの標準的な連続流量速度で濃縮した製品をもたらすために、短い吸着剤ベッドおよび速いサイクル時間が必要である。
【0011】
ここで使用される一般的な用語「圧力スイング吸着」(PSA)は最小から最大圧力の間で運転する全ての吸着分離システムに適用する。最大圧力は概して過圧(superatmospheric)であり、そして最小圧力は大気圧より高い(super-atmospheric)かまたは大気圧より低くてもよい。最小圧力が大気圧より低くそして最大圧力が過圧であるとき、このシステムは概して圧力真空スイング吸着(PVSA)システムとして述べられる。最大圧力が大気圧以下でありそして最小圧力が大気圧未満であるとき、このシステムは概して真空スイング吸着(VSA)システムとして述べられる。
【0012】
酸素PSAシステムにおいて窒素選択性吸着剤として一般的に使用されるゼオライト吸着剤は、外気中に存在する汚染物質、特に水と二酸化炭素、に敏感である。これらの窒素選択性ゼオライト吸着剤はこれらの不純物に対して高い親和性を有し、そして再生ステップの間に不純物が適切に除去されないときに急速な非活性化が生じる。多くの技術が当該技術分野でこれらの不純物を供給ガスから除去するために使用されてきた。単一または複数のベッドの分離システムにおいて、それは供給入口に不純物選択性吸着剤でできた層を有し窒素選択性吸着剤でできた一以上の層が続く容器内の層状吸着剤にも共通する。不純物選択性吸着剤の目的は、下流の吸着剤を非活性化の進行から保護するために、水および/または二酸化炭素を低減または除去することである。水は概して最も深刻且つ支配的な汚染物質である。供給流れの濃度のばらつきは、小さいベッド吸着装置の前処理層内での水と二酸化炭素の吸着の安定性に重大な影響を有する可能性がある、というのは吸着剤の絶対量は大きなベッド(これは敏感さ(感度)が低い)に比べてずっと小さいからである。
【0013】
前処理層の長さまたは深さおよび水と二酸化炭素が吸着した相の前面(フロント)の安定性は、供給ガスの速度、前処理吸着剤の汚染物質に対する親和性、および前処理吸着剤の物質移動抵抗に比例する。ベッド直径が約1フィート(0.305m)より大きい大規模PSAシステムでは、X−型ゼオライトが前処理層として一般的に使用され、そしてX−型ゼオライトでできた比較的短い層(概して全ベッド深さの10%未満)の使用することにより、長い期間にわたって標準的なパージ対供給比率且つ表面速度での安定した製品を保つ。しかしながら、本発明の実施態様の開発の間に、約4インチ(0.102m)未満の深さの小さなベッド状のNaXでできた層を同様のパージ対供給比率且つ表面速度で使用すると結果として不純物の吸着によって窒素選択性吸着剤の急速な非活性化をもたらすことが分かった。これらのおよびさらにいくらか深めの前処理ベッドでは、NaXは小さなベッドの急速サイクルPSAシステムに面する汚染物質を食い止めるには思いのほか不十分であることが分かった。
【0014】
速いサイクルを有する小さなベッドシステムの場合、前処理吸着剤が吸着した汚染物質に関して好ましい物質移動特性および適当な等温平衡特性を有すべきことが分かった。大きなPSAシステムと小さいベッドのPSAシステムとの間の重大な違いは、吸着剤ベッドからカラム壁を通じそして環境への伝熱の程度にある。吸着の間に生じた熱の結果として、吸着供給ステップの間に熱的な正面(フロント)が吸着剤ベッドを通じて移動する。大きなベッドのシステムでは、供給ステップの間の熱損失はほとんどなく、そしてこの熱はベッドに貯蔵されそして再生パージステップの間に利用される。同様のシステムでは、ずっと多くの吸着熱が供給ステップの間に失われ、そして結果としてパージステップのためには貯蔵されない。大きなPSAシステムは大きなベッド直径を有しそしてそのプロセスはほぼ断熱であると考えられる。これらのほぼ断熱のシステムでは、より多くの吸着熱が貯蔵され、そしてゼオライトがこのようにして前処理吸着剤に使用可能である。比較的高い供給流量速度の小さなベッドのPSAプロセスでは、吸着剤ベッドから環境への伝熱の速度が速いほど、システムを断熱性よりも等温性にする。吸着剤ベッドは完全には等温性にならないが、小さなベッドで生じた全体の伝熱の増加によってほぼ等温条件で小さなベッドの運転をすることが可能となる。
【0015】
前処理吸着剤の平衡特性の選択は、ベッドをほぼ等温条件で運転するかまたはより断熱条件で運転するかによって決まるはずである。急速PSA(RPSA)プロセスにおける小さなベッド吸着装置の場合、水と二酸化炭素について適度な平衡性を有する前処理吸着剤が高い平衡性を有するものよりも好ましい。従って、活性アルミナおよびシリカゲルのような吸着剤がゼオライト吸着剤よりも好ましい。水についての吸着剤の吸着親和性または能力を示す、ヘンリー則定数(初期等温線の傾きで決まる)khの比較が、種々の吸着剤について表1に示される(Adsorption on New and Modified Inorganic Sorbents, Elsevier, 1997, pp.629-646に記載されたS.Sircarによる "Drying of Gases and Liquids on Activated Alumina"から引用)。LiLSXでの水についてのヘンリー定数は標準的な重量測定技術を使って実験的に測定された。
【0016】
【表1】

【0017】
PSAシステムの運転を記述するために使用される鍵となるパラメータは、吸着剤ベッドでのガスの表面接触時間である。このパラメータは以下のように定義される。
【数1】

ここでLはベッドの長さであり、そしてvは空のベッド体積を基準とする、ベッドを通過する供給ガスの表面速度である。この表面接触時間は前処理層を含むベッドの全ての吸着剤について定義されてもよく、またはかわりに前処理層だけについて定義されてもよい。汚染物質除去のための吸着剤を選択するために、最小の表面接触時間が求められる。
【0018】
本発明の実施態様における吸着剤ベッドは、水およびCOのような不純物を除去するための前処理吸着剤でできた一以上の層を使用してもよく、そして供給ガス中の主な構成要素(すなわち、酸素と窒素)の分離をもたらす吸着剤でできた一以上の層を使用してもよい。この供給ガスは空気または任意の他の酸素含有ガスでもよい。吸着サイクルの運転の間に、冷却空気は吸着カラムの外側表面にわたって通過し、カラムからの伝熱を促進してもよい。
【実施例】
【0019】
以下の例は本発明の実施態様を説明するが、本発明の実施態様をここに記載された特定の詳細のいずれかに限定するものではない。
【0020】
例1
ベッド直径30インチ且つベッド深さ4フィートであり、その7%がNaXゼオライトでできた前処理層であり且つ残りは88%Li交換LiLSXでできた主吸着層である、大きな単一ベッドのPVSAシステムを、単純な4つのステップのサイクル(供給/製品製造、排気、パージおよび供給再加圧)を使って運転して空気から酸素を回収した。全サイクル時間は製品の要求によって決まり30〜40秒の範囲であってもよい。未処理の供給ガスの表面速度は2.5ft/秒(0.762m/秒)、全ベッド表面接触時間は1.58秒、そして前処理層の表面接触時間は0.11秒であった。システムを30日間88体積%の酸素純度で500slpmというほぼ定常的な生産速度で運転し、この運転期間にわたって製品純度に基づく性能の低下は見られなかった。
【0021】
例2
例1に記載したPVSAシステムをスケールダウンして、内部直径0.9インチ(0.023m)の吸着剤容器を有する小さな卓上の単一ベッドのシステムとし、そして22〜50の標準cm毎分の生産速度を除いて例1と同じプロセスサイクルを使用して運転をした。実験は、前処理層を有さない高度にリチウム交換した(すなわち、88%を超えてリチウムを交換)低シリカX−型ゼオライト(LiLSX)、前処理層を有さない88%リチウム交換低シリカX−型ゼオライト(LiLSX)、および全ベッド深さの30%と40%のNaX前処理層を有する高度にリチウム交換したLiLSX層を使用して行った。表2の結果に示されたこれらの試験の各々で、定常的な生産速度で時間が経つと製品純度の低下が予期せず観察された。実験後のベッドのその後分析は、水と二酸化炭素がLiLSXゼオライトを汚染しており、そのために酸素回収性能に影響を与えたことを示した。
【0022】
【表2】

【0023】
例3
例2のNaX前処理層を全吸着剤ベッドの深さの25〜40%の活性アルミナ層に交換した。例2と同じシステムおよびサイクルを使用して、活性アルミナ前処理層の運転性能を評価し、そして結果を表3に示した。
【0024】
ベッド深さの25%で前処理吸着剤にAlcan社のアルミナAA400Gを使用し且つ高度に交換したLiLSXを主吸着剤層として使用するときに、例2および3の小さいベッドのPVSAシステムの最高の性能が観察された。同様の接触時間および表面速度では、定常的な生産速度で時が経っても製品純度の目に見える低下は見られなかった。全てのケースで、前処理吸着剤として活性アルミナを使用すると前処理吸着剤としてNaXを使用するのに比べてかなり低い非活性化率を示した。表1で見たとおりNaXが水についてかなり高い親和性を有していたので、また前処理層としてNaXを使用する大きなベッドのPVSAシステムの運転が30日の運転にわたって非活性化または酸素純度の低下を示さなかったので、このことは予想外であった。
【0025】
例4
活性アルミナ前処理層を種々の深さにして表面速度を増加させて例3のサイクルおよびシステムで運転をし、そして結果を表3に示した。
【0026】
【表3】

【0027】
大きなベッドと小さなベッドのPVSAシステムの間の第一の違いは、小さなベッドがほぼ等温性(isothermal)であるのに対して大きなベッドが断熱性(adiabatic)であることである。従ってこの小さなベッドのシステムでは、適度な等温性を有する吸着剤および低い吸着熱が好ましい、なぜならサイクルの再生ステップで再生がより簡単だからである。図2は、吸着装置ベッドにおける前処理層で使用されてもよい種々の吸着剤物質の吸着熱を示す。吸着熱は標準的な技術を使う等温計測から測定され、標準的な技術は当該技術分野で公知、および「Adsorption on New and Modified Inorganic Sorbents, Elsevier, 1997, pp.629-646に記載されたS.Sircarによる "Drying of Gases and Liquids on Activated Alumina"」に記載され、および「Molecular Sieve Zeolites II, American Chemical Society Adbances in Chemistry, Series 102, 1971に記載されたN.Avgulらによる"Heats of Adsorption on X-type Zeolites Containing Different Alkali Metal Cations" 」に記載されている。
【0028】
前処理層での低吸着熱が必要とされることを説明するために、サイクル(周期)的な実験を行い、そして結果を図1に示した。これは平均温度76°F(24.4℃)であり平均相対湿度約35%での1.0mmol/gの吸着量の水の吸着熱および0.1mmol/gの吸着量の二酸化炭素吸着熱vsサイクル実験で観察された非活性化率を示す。前処理吸着剤としてアルミナを使用する小さなベッドのシステムでのサイクルを拡張して、前処理のためにNaXを使用するシステムに比べて表面供給速度を高くしおよび前処理ベッドの深さをより小さくした。表3に示されるシステムは0.08秒以上の前処理表面接触時間で安定している。0.06秒の接触時間を伴うシステムは30日にわたって製品純度が1(±0.7)パーセントポイントの僅かな減少を示す。より長い期間にわたると、NaX前処理システムで観察されたとおり、吸着装置の全寿命に影響を与えることがある。
【0029】
供給ガス入口温度(Tinlet)と吸着剤層の界面で前処理層から放出されるガス温度(Tinterface)の温度差を測定することによって、伝熱の違いの影響が観察可能である。「Ind Eng Chem Res. 2001 (40), pp. 2702-2713 に記載されたS.Wilson らによる"The effects of a Readily Adsorbed Trace Component(Water) in a Bulk Separation Process: The Case for Oxygen VSA"」で記載されるように、層になったベッドにおいて熱の正面(フロント)が発展するせいで、ベッド内の二つの吸着剤層間の界面にある位置は概してベッド内の最も冷たい場所である。TinletからTinterfaceへの大きな温度低下はこの冷たい領域にある吸着剤を等温にし、はっきりしたタイプ1の挙動をとる。言い換えれば、このベッド位置では、加熱されていないパージガスを使用して吸着剤を再生することは困難であり、このため全体のベッドの実働能力が減少する。従って、Tinlet−Tinterfaceの温度差は、容器を取り囲む外気への伝熱全体の相対量を示す。
【0030】
吸着剤カラム内の完全な温度プロファイルは、システム全体の伝熱の大きさを示す。全体の伝熱は供給ガス、ベッドカラム伝熱係数、カラムと吸着剤の熱伝導度、吸着剤ベッドの体積とカラムの全曝露表面積との関係、および吸着により発生する熱の条件によって決まる。概して、吸着によって発生した熱は比較的低い吸着剤の熱伝導度のためにサイクルの間に大きな直径のカラム内に貯蔵され、これによりほぼ断熱のシステムが作られる。この吸着ステップの間に貯蔵された熱は、再生ステップの間に前処理吸着剤(概してゼオライト)を再生するために使用される。しかしながら、小さな直径のカラムにおいて吸着によって生じた熱はより簡単にカラムから持ち去られる。このカラムからの熱損失のために、前処理層にある吸着種は除去がより困難であり、そしてこれは結果として、特に前処理物質がゼオライトである場合に、より大きなパージ対供給比率が要求される。従って小さなカラムでは、繰返し吸着サイクルの間に可逆的な分離ができるように且つ以前は観察されたベッドの主要部を通る水の前面(フロント)の移動が生じないように、低い吸着熱を有する前処理層にある吸着剤、特に再生のために必要なエネルギーが最小の吸着剤を使用することが有益である。
【0031】
吸着剤ベッドとカラム壁との間の伝熱抵抗が式2によって記述される(D.Ruthven, Principles of Adsorption and Adsorption Processes, John Wiley and Sons, 1984, pp.217-218参照)。
【数2】

これは抵抗の合計であり、ここでdは内部カラム直径、hは内部伝熱係数、dは外部カラム直径、hは外部伝熱係数、xはカラム壁厚、λはカラムの熱伝導度、およびdlmはログ平均カラム直径である。パラメータhは全体の壁の伝熱抵抗である。内部の伝熱抵抗はプロセスの特性から決まりそして式3から計算される(前記のRuthvenの文献を参照)。
【数3】

ここでRは平均粒子半径、λはガスの熱伝導度、vはガスのリニア速度、pはガス密度、およびμはガス粘度である。これらのパラメータは供給条件(温度および圧力)で決められる。
【0032】
外部伝熱係数hはPerry’s Chemical Engineer’s Handbook(7th Edition Perry,R.H.とGreen,D.W.編 著作権1997 McGraw−Hill,pp5−12および51−16)に記載された方法を使用して測定される。このh係数はまた空気が外部カラム壁を通過する場合の強制対流を仮定して測定することもできる。自然対流の場合、伝熱は次のように記述され(前記perry’sを参照)、
【数4】

ここで以下が適用される:
10<Y<10の場合 a=0.59、m=1/4;
Y>10の場合 a=0.13、m=1/3;および
ここで
【数5】

ここでLはカラム高さ、gは重力定数、βは熱膨張係数(〜0.004)、Cp、p、μおよびkはそれぞれカラムの外表面でのガスの熱容量、密度、粘度および熱伝導度である。この境界のガス温度は外部カラム壁温度と外気温度との間の平均として定義される。強制対流の場合に、hの値が上昇するので、hの値はより高くなる。
【0033】
例5
93%純度の濃縮酸素製品の製造のための4ベッドのVPSAシステムを模擬実験した。全ベッド高さは3.4インチ(0.086m)であり、ここで全高さの25%はアルミナでできた前処理層であり且つ残りのベッドは高度に交換したLiLSXで充填した。ベッドの直径は2.1インチであり且つベッドを通る供給ガス速度は0.37ft(0.113m)毎秒であった。6つの模擬実験を行い、そこでは変化するパラメータがベッド−壁の伝熱係数(HTC)だけであった。伝熱モデルを使用し、そこではカラム壁と吸着剤の分離特性を使用し且つ壁から周囲への自然対流を仮定した。HTCを0に近づけると断熱条件にちかづく、というのはカラム壁を通って熱が移動しないからである。温度は供給端のところと供給端から35%のベッド高さのところ(これはちょうど前処理層の出口端である)で選択した。図3はこの模擬実験の結果を示す。
【0034】
伝熱に最も影響を与える因子はベッドの幾何学形状である。対流媒体(空気)に対してより多く曝された壁表面を有するベッドは、全体の熱流束がより大きくなりそして表面積対体積比率S/V(カラム壁の内部表面積を吸着剤ベッドの前処理層の体積で割って定義される)で記述することができる。円筒形の幾何学形状の場合、この比率は単純に2/rである(ここでrは吸着剤のベッドの半径)。ベッド半径が小さくなるにつれて、吸着剤ベッドの体積に比べて、ベッドの壁がより多く曝される。この比率の上限は、高く狭いベッドでの吸着分離を行う能力で決まる、というのは圧力低下および不均衡配分はこの幾何学形状のベッドに不利な影響を与える因子だからである
【0035】
例6
例1のシステムの場合の模擬実験によって、温度プロファイルを測定した。ベッドの直径は30インチ(0.762m)であり且つ前処理層は全ベッド高さの7%であった。サイクルの定常状態では、入口供給ガスと前処理放出ガスとの間の温度差は平均で約85°F(29.4℃)であった。表面積対体積比率は0.05cm−1であった。例3の小さなベッドのプロセスについても温度プロファイルを測定した、ここでベッドの直径は0.9インチ(0.023m)であった。前処理層は全体のベッド高さの25%であった。サイクルを同じ圧力の包み(envelope)にわたって行い、サイクルの定常状態では入口供給ガスと前処理放出ガスとの間の温度差が平均で約9°F(−12.8℃)であった。このシステムの表面積対体積比率は1.8cm−1であった。
【0036】
低親和性の前処理吸着剤(すなわち、水について低い吸着容量を有する)とほぼ等温の急速サイクルPSAまたはPVSAプロセスの組合せを使用することによって、長期間にわたって浅いベッドでの安定した性能が可能となる。前処理層における表面接触時間と性能の低下の度合いは所与のシステムの場合反比例する。90%以上の酸素製品純度の急速サイクルの小さなベッドの酸素PVSAプロセスにおいて、より大きなスケールのシステムからおよび先行技術文献から計算した接触時間は、同様のまたはそれより高い製品回収をするシステムの場合に、概して5秒以上である。全吸着剤深さの少なくとも25%の前処理吸着剤深さを使用する、安定なシステムの場合の許容できる表面接触時間は、約0.3〜1.0秒の範囲にある。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】急速サイクル圧力スイング吸着システムへの供給空気から水と二酸化炭素を除去するための種々の前処理吸着剤に関する、時を経た酸素製品濃度の変化対吸着熱Qをプロットしたものである。
【図2】種々の吸着剤の装填に対して水吸着の熱をプロットしたものである。
【図3】前処理層と主層の間の界面でのベッド温度の変化に関してベッドのカラム伝熱係数影響を示すプロットである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素を製造するための圧力スイング吸着プロセス方法であって、
(a)供給端および製品端を有する少なくとも一の吸着装置容器を提供し、ここで該容器が該供給端に近接する吸着剤物質の第一の層および該第一の層と製品端との間に配置した吸着剤物質の第二の層を有し、ここで第一の層の吸着剤は水、酸素、および窒素を含む混合物からの水の吸着について選択的であり、第二の層における吸着剤は酸素および窒素を含む混合物からの窒素の吸着について選択的であり、且つ吸着剤物質でできた第一の層の表面積対体積比が約5〜約11cm−1の範囲にあること;
(b)少なくとも酸素、窒素、および水を含む加圧した供給ガスを該吸着装置容器の供給端に導入し、該ガスを第一および第二の層を通って連続的に通過させ、第一の層の吸着剤物質に前記の水の少なくとも一部を吸着させ、且つ第二の層の吸着剤物質に前記の窒素の少なくとも一部を吸着させ、ここで第一の層における前記の加圧した供給ガスの表面接触時間が約0.08〜約0.50秒の間であること;ならびに
(c)酸素が富化した製品ガスを該吸着装置容器の製品端から引き出すこと、
を含む方法。
【請求項2】
第一の層の吸着剤物質が活性アルミナを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
活性アルミナが約0.3mm〜約1.0mmの間の平均粒子直径を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
第二の層の吸着剤物質が窒素および酸素を含む混合物からの窒素の吸着について選択的である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
吸着装置容器の製品端から引き出される製品ガスの酸素濃度が少なくとも85体積%である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
第一の層の深さが全ベッド高さの約10%〜約40%の間である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
第一の層の深さが約0.7cm〜約13cmの間である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
吸着装置容器が円筒型であって、且つ第一および第二の層の全深さの吸着装置容器の内部直径に対する比が約1.8〜約6.0の間である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
圧力スイング吸着プロセスが繰返しサイクルで運転され、該サイクルは、
該加圧した供給ガスが吸着装置容器の供給端に導入され且つ酸素が富化した製品ガスが吸着装置容器の製品端から引き出される供給ステップ、
第一および第二の層の吸着剤物質を再生するために吸着装置容器の供給端からガスが引き出される減圧ステップ、ならびに
一以上の再加圧ガスを吸着装置容器に導入することによって吸着装置容器が加圧される再加圧ステップを少なくとも含み、且つ
ここで供給ステップの継続期間が約0.75〜約30秒の間である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
サイクルの全継続期間が約6〜約60秒の間である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
酸素が富化した製品ガスの流量速度が約1〜約11.0標準リットル毎分の間である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
酸素が富化した製品ガスの流量速度が約0.4〜約3.5標準リットル毎分の間である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
第一の層の吸着剤物質の質量の、酸素製品純度93体積%における製品ガスの流量速度(標準リットル毎分(slpm))に対する比が、約44g/slpmよりも大きい、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
吸着ベッドとその容器壁との間の平均伝熱係数が、約0.25BTUft−2hr−1°F−1に(1.42W/mK)等しいかまたはそれよりも大きい、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
圧力スイング吸着プロセスが繰返しサイクルで運転され、該サイクルは、
該加圧した供給ガスが吸着装置容器の供給端に導入され且つ酸素が富化した製品ガスが吸着装置容器の製品端から引き出される供給ステップ、
第一および第二の層の吸着剤物質を再生するために吸着装置容器の供給端からガスが引き出される減圧ステップ、ならびに
一以上の再加圧ガスを吸着装置容器に導入することによって吸着装置容器が加圧される再加圧ステップを少なくとも含み、且つ
ここで前処理層におけるベッドの軸方向の最大温度差が約70°F(21.1℃)に等しいかまたはそれよりも小さい、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
冷却空気が吸着剤カラムの外部表面にわたって通過する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
製品ガスにおいて回収される酸素の量が、加圧した供給ガスにおける酸素の量の約35%よりも大きい、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
第二の層の吸着剤物質が、X−型ゼオライト、A−型ゼオライト、Y−型ゼオライト、チャバザイト、モルデナイトおよびクリノプチロライトからなる群から選択された一以上の吸着剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
吸着剤物質がリチウム−交換X型ゼオライトであり、そこでは活性点カチオンの少なくとも約85%がリチウムである、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
SiOのAlに対するモル比が約2.0〜約2.5の範囲である、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
加圧した供給ガスが空気である、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−110337(P2008−110337A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−259343(P2007−259343)
【出願日】平成19年10月3日(2007.10.3)
【出願人】(591035368)エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッド (452)
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】7201 Hamilton Boulevard, Allentown, Pennsylvania 18195−1501, USA
【Fターム(参考)】