説明

圧延ロール、圧延機および圧延方法

【課題】 被圧延材の板クラウンを効果的に修正可能であるばかりでなく、エッジドロップを低減することができ、しかも、局所的なロール間線圧上昇によるロール損傷が起こらない圧延ロール、圧延機および圧延方法を提供する。
【解決手段】 ロールクラウンを、極大値点と極小値点とを有する連続曲線であって、極大値点と極小値点とにはさまれた中央域を1つの関数とし、極大値点から最寄のロール端までの端部域を、中央域の関数の延長よりも急勾配の傾斜をもつ(つまり当該ロール端に近づくにつれての半径の減り方が激しい)関数とした曲線によって形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
請求項に係る発明は、金属の帯板を被圧延材とし、そのクラウン等を修正しながら熱間または冷間圧延するための圧延ロール、圧延機および圧延方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧延機によって金属帯板を圧延する場合、圧延荷重によってロールがたわむことから、板の中央(幅方向における中央)付近が端部(幅方向における端部)付近に比べて厚くなるという、いわゆる板クラウンが発生しがちである。
【0003】
板クラウンを修正する機能のある圧延機として、特許文献1に記載のものが知られている。その圧延機は、図8に示すように表面にS字状のロールクラウン(CVCと呼ばれることもある)をもつワークロール(ただし中間ロールやバックアップロールでもよい)を上下に配置し、そうした一対のロールを軸方向に相対移動(シフト)させるものである。当該一対のロールを、板の幅や断面形状等に合わせて相対移動させることにより図8(a)〜(c)のようにロールギャップを適宜変化させ、もって板クラウンを修正する。
同様のロールクラウンを有するロールによって板クラウンを修正する技術は、特許文献2にも開示されている。
【0004】
特許文献1・2に記載された圧延機に使用されている圧延ロールのロールクラウンは、たとえば図6のようなカーブ(ロールプロフィール)を有している。すなわち、ロール半径が、ロールの胴部全域において、ロールの軸方向長さ(胴長位置)についてのただ一つの関数(三次関数またはサイン関数等)で表されるものである。そのようなロールクラウンをもつ圧延ロールをワークロールとする場合、ロールギャップの分布は図7のようになる。被圧延材とする金属帯板の幅が狭いほど、圧延ロールは中央付近に集中的に荷重を受けることとなってたわみやすいため、図8(c)の向きの相対移動量(S>0であるプラスシフト)を増やす。そして逆に、板の幅が広いほど、圧延ロールは広く分布荷重を受けてたわみが生じにくいため、図8(b)の向きの相対移動量(S<0であるマイナスシフト)を増やす。そのように板幅に応じて適切な相対移動量が異なることから、図7のように、設定するロールギャップが板幅によって異なるのである。
【0005】
他の方法で板クラウンを修正する例として特許文献3の技術がある。当該文献(の第2図)には、上下の中間ロールとしてクラウンのない平ロールを軸方向に相対移動可能に配置した、HCミルなどと呼ばれる6段ミルが記載されている。その中間ロールを軸方向に相対移動させて、ロール端を板幅端部付近またはそれより内側の位置におくことにより、ワークロールのベンディング効果を増大させて板クラウンを修正するのである。
また特許文献4には、そうした平ロールに代えてS字状のロールクラウンをもつロールを使用する例が示されている。
【0006】
そのほか、特許文献5には、クラウンを有しないワークロールの片側端部に先細り(テーパー)研削を施し、被圧延材の幅方向端部に当該研削部分を位置させる圧延方法が記載されている。当該研削部分において被圧延材との接触圧力が減少することにより、板の幅方向端部(エッジ部)においてエッジドロップ(後述)を軽減できる、としている。
【特許文献1】特開昭57−91807号公報
【特許文献2】特開2001−252705号公報
【特許文献3】特公昭62−10722号公報
【特許文献4】特開昭63−30104号公報
【特許文献5】特開昭55−77903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1・2に記載の技術は、ロールクラウンの作用によって板クラウンの修正を行えるものではあるが、エッジドロップ(垂れ下がるようにエッジ部の角がなくなり板厚が薄くなる現象)など板幅端部の形状を修正することはできない。すなわち、適切なロールクラウンをワークロールに設定しその軸方向の相対位置を適切に定めると図8のように板幅方向の全域に渡って板クラウンの修正を行えるが、図9に示すとおり、板の幅方向端部(エッジ部)には、ワークロールによる局部的な拘束等に起因してエッジドロップが発生することを防止できない。そのほか、バックアップロールを配置したとき、ワークロールの端部付近がそのバックアップロールと接触し拘束されているため、ロールベンディングを強く効かせて板クラウンを修正することができない。また、S字状のロールクラウンにおける一方の端部にロール径が増大する部分(図8の符号#の部分)があるため、4段・6段ミル等においてはバックアップロール等との間の接触線圧が過大となって局所的なスポーリング等を起こし、ロール損傷が発生したりロール寿命が短くなったりする場合がある。
【0008】
特許文献3・4の技術では、ロール端部の拘束がないためにロールベンディングを効果的に付加できるが、中間ロールと他のロールとの接触長さが短い状態で圧延を行うためにロール間線圧が増加し、それに起因してスポーリングなどのロール損傷が発生しやすいと予想される。ロールクラウンがない場合(引用文献3)には、板クラウンの修正能力が十分には発揮されないという不利もある。
【0009】
特許文献5の技術は、エッジドロップの低減に有効ではあるが、板幅全域に渡るクラウンの修正能力が高くないため、板クラウンを十分に修正するためには、S字状のロールクラウンをもつ中間ロールを設けたり大容量のベンダーを付加したりするなど、別の手段が必要になる。
【0010】
請求項に係る発明は、被圧延材の板クラウンを効果的に修正可能であるばかりでなく、エッジドロップを低減することができ、しかも、局所的なロール間線圧上昇によるロール損傷が起こらない圧延ロール、圧延機および圧延方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項に係る圧延ロールは、ロールクラウンを、
・ 極大値点と極小値点とを有する連続曲線であって、
・ 極大値点と極小値点とにはさまれた中央域を1つの関数とし、
・ 極大値点から最寄のロール端までの端部域を、中央域の関数の延長よりも急勾配の傾斜をもつ(つまり当該ロール端に近づくにつれての半径の減り方が激しい)関数とした曲線(全体がなめらかに連続した曲線)によって
形成したことを特徴とする。
【0012】
こうした圧延ロールは、図3(b)のように同一平面内で点対称の関係となる上下位置に一対が配置されるとき、極小値点と極大値点との間の中央域(上記1つの関数による曲線部分)の間に、連続的に変化するロールギャップが形成され、これが板クラウンの制御のために機能する。つまり、図8のものと同様、当該一対の圧延ロールの軸方向の相対位置を適切に定めることにより、適切なロールギャップを定めて板クラウンを修正することができる。
一方、この圧延ロールのうち極大値点から最寄のロール端までの端部域には、中央域の関数によるよりも急勾配の傾斜をもつ関数によって、ロール端にかけての半径の減り方が激しい曲線部分が形成されている。したがってこの部分には、上記した中央域にて形成されるロールギャップに続いてギャップの拡大部分が存在することとなる。ここでは、圧延ロールと被圧延材との間についても、または他のロール(ワークロール、中間ロールまたはバックアップロールのいずれか)との間についても拘束力(接触強さ)が緩和されるため、ここに被圧延材の幅方向端部を位置させれば、当該被圧延材についてエッジドロップを低減でき、または十分なロールベンディングを作用させることも可能になる。なお、図3(a)・(b)等では請求項に係る圧延ロールをワークロールに使用しているが、6段ミルにおける中間ロールや、4段ミルもしくは6段ミルにおけるバックアップロールに当該圧延ロールを使用する場合にも、同様の部分で拘束力が緩和されることから同様の作用がもたらされる。
つまり、この圧延ロールを使用すれば、板クラウンを適切に修正できるだけでなくエッジドロップを同時に低減することができ、また、必要に応じて効果的にロールベンディングを作用させることが可能になる。
なお、この圧延ロールでは極大値点と極小値点とを有する曲線を採用することから、被圧延材の幅が広い場合に、幅方向全域においてロールギャップが均一なゼロクラウン(たとえば図2中に「広幅用クラウン、S=−100mm」と示したもの。板幅1200mmのほぼ全域でロールギャップが均一である)や、通常とは逆に板幅方向の端部付近の方がロールギャップが小さめになるマイナスクラウンを実現することも可能になる。したがって、広範囲に及ぶ種々の圧延条件において適切な板クラウン修正が行えるといえる。
【0013】
発明の圧延ロールはさらに、ロールクラウンを、
・ 極小値点から最寄のロール端までの端部域を、中央域の関数の延長よりも緩い勾配の傾斜をもつ(つまり当該ロール端に近づくにつれての半径の増え方が緩やかな、または半径が変化しない)関数とした曲線によって形成すると好ましい。
【0014】
このようにした圧延ロールでは、極小値点から最寄のロール端までの端部域に、中央域の関数によるよりも緩い勾配の傾斜をもつ関数によって、ロール端にかけての半径の増え方が緩やかな曲線部分が形成されている。半径の増え方が緩やかであるために、この付近において他のロールとの接触線圧が過大になる事態が生じにくい。したがって、局所的にスポーリング等のロール損傷が発生したりロールの短期交換を余儀なくされたりする不都合が避けられることになる。なお、この作用も、圧延機におけるワークロール、中間ロール、バックアップロールのうちいずれのロールに発明の圧延ロールを使用する場合にも当てはまるものである。
【0015】
発明の圧延ロールについては、たとえば、
・ 上記した中央域をコサイン関数(の曲線)とし、極大値点からの上記の端部域、またはさらに極小値点からの上記の端部域を2次関数(の曲線)とするのがよい。
コサイン関数は、特定の範囲内に極大値点と極小値点とを含むとともにそれらの中間部に変曲点を有するなめらかな曲線である。これにより形成されたロールクラウンが被圧延材の断面中央に関して点対称になるように一対の圧延ロールを配置して軸方向に相対移動させると、板クラウンを修正するのに適したロールギャップを当該ロールクラウンの間に形成することが可能である。圧延ロールをそのように配置・移動する場合、ロールギャップがサイン関数となって板中央部から板端部の間で変曲点ができ、板クラウンを板幅中央部まで効果的に強く修正できるからである。従来一般的に採用されている三次関数を上下ロールの中央域に採用した場合には、ロールギャップが二次式となり全長にわたって変曲点のないなだらかものとなるため、コサイン関数を採用すると板クラウンを強く修正するうえで有利であるといえる。また、コサイン関数と2次関数とは、上記の極大値点および極小値点においてなめらかに連続させることが容易でもある。
【0016】
請求項に係る圧延機は、被圧延材の断面中央に関して点対称なロールクラウンをそれぞれ有する上下一対のロールを軸方向に相対移動させて被圧延材のクラウンを修正する圧延機において、上記いずれかの圧延ロールを上記一対のロール(ワークロール、中間ロールまたはバックアップロール)として配置したことを特徴とする。
上記した圧延ロールの作用により、この圧延機では、板クラウンを適切に修正できるとともにエッジドロップを低減することができる。効果的にロールベンディングを行うこともできるので、板クラウンの修正能力は極めて高いといえる。他のロールとの接触線圧が増大する不都合を避けることも可能なので、スポーリング等によるロールの損傷も発生しがたい。
【0017】
こうした圧延機においては、とくに、上記の圧延ロールを一対のワークロールとして配置するのが好ましい。被圧延材に接触するワークロールに上記のロールクラウンを形成したなら、板クラウンの修正およびエッジドロップの低減という機能をそのワークロールが被圧延材に対して直接に及ぼし、顕著な効果を得られるからである。圧延荷重が小さい場合にも機能が発揮されやすい。
【0018】
あるいは、上記の圧延ロールを一対の中間ロールとして配置するのもよい。その場合にも、上記圧延ロールが有するロールクラウンにしたがってワークロール間に適切なロールギャップが形成され、ギャップの拡大部分であって拘束力の緩和される部分も形成されることから、やはり板クラウンを修正しエッジドロップを低減する機能が発揮される。こうして中間ロールに配置した場合には、ワークロールに対して効果的にロールベンディングを効かせられるという利点もある。
なお、上記の圧延ロールを、一対のバックアップロールとして配置することも可能である。その場合にも上記と同様のメリットがあるが、とくにつぎのような効果もある。すなわち、ワークロールとして平坦・平滑なロールを使用できるので被圧延材の表面性状を高めやすく、したがってアルミ用やブリキ原板用の4段圧延機等として品質要求に応えやすい。通常は4段圧延機のバックアップロールとして適用されるので、6段の場合よりもロール本数が少なくてすむという利点もある。
【0019】
上記した発明の圧延機においては、ワークロールまたは中間ロールにベンディング機構を設けるとよい。ベンディング機構を付設するそのロール(ワークロールまたは中間ロール)が上記したロールクラウンを有するか否かは問わない。
そうしたベンディング機構によりワークロールや中間ロールをロールベンディングさせると、上記のロールクラウンによる板クラウンの修正能力を補うことができる。上記ロールクラウンを形成した一対の圧延ロールについて軸方向の相対位置を定めてロールギャップを設定したときも、被圧延材の性状やそれに対応する圧延荷重の大きさによっては板クラウンを十分には修正できない場合があり得る。そのような場合、上記のベンディング機構にてワークロールまたは中間ロールにロールベンディングを効かせれば、板クラウンをより適切に修正できるわけである。
【0020】
発明の圧延機では、とくに、被圧延材の板幅に応じたロールギャップ(つまりその板幅の被圧延材について板クラウンを修正するに適したロールギャップ)を上記一対の圧延ロールによって形成すべく当該一対のロールの軸方向の相対位置を定めたとき、その被圧延材の幅方向端部をはさむ上下いずれかの位置に上記ロールクラウンにおける極大値点から最寄のロール端までの端部域が位置することとなるよう、上記中央域の関数および極大値点から最寄のロール端までの関数を定めるのが好ましい。なお、上記一対の圧延ロールは、ワークロールのほか、6段ミルにおける中間ロール、4段ミルもしくは6段ミルにおけるバックアップロールのいずれとしてもよい。
こうした圧延機によれば、被圧延材の板幅に対応づけて板クラウンを修正できるよう上記一対の圧延ロールの軸方向の相対位置を定めるとき、その被圧延材の幅方向端部をはさむ位置に、極大値点から最寄のロール端までの端部域が位置する。当該端部域には、前記のとおりギャップの拡大した部分があって拘束力が緩和されることから、上記の位置関係にあるとき、被圧延材の幅方向端部においてエッジドロップが低減されるとともに、ワークロールまたは中間ロールを効果的にベンディングさせることが可能になる。つまり、この圧延機なら、板クラウンの修正のために圧延ロールの相対位置を定めるとき、エッジドロップの低減についても同時に効果的に行えることとなる。また逆に、エッジドロップを低減させるべく被圧延材の幅方向端部をはさむ一方の位置に上記圧延ロールの当該端部域を位置させるだけで、被圧延材の板幅に応じて板クラウンを修正するに適したロールギャップが形成されるよう上記圧延ロールの軸方向相対位置が定まることにもなる。
なお、上記のように圧延ロールの軸方向相対位置を定めたとき、被圧延材の幅方向端部をはさむ上下いずれかの位置は、上記したギャップの拡大部分のうち拡大の量(寸法)が適切な程度であって前記拘束力が適切に緩和される箇所であるのが望ましい。そのためには、上記端部域に設ける急勾配の傾斜をもつ前記関数をも適切に定めるのがよい。また、圧延荷重の大小に応じて必要なロールベンディングを付加できる程度に拘束力緩和部分が形成されるようにも配慮して当該端部域の関数を定めるのが、さらに好ましい。
【0021】
請求項に係る圧延方法は、上記の圧延機を使用し、被圧延材の幅方向端部をはさむ上下いずれかの位置に、上記ロールクラウンにおける極大値点から最寄のロール端までの端部域(とくに好ましくは、適切なギャップ拡大量を有する部分)が位置するよう、上記圧延ロールを軸方向に互いに相対移動させたうえ圧延することを特徴とする。
この圧延方法によれば、上記のように被圧延材の幅方向端部の位置との関係で圧延ロールの軸方向位置を定めるだけで適切な圧延を実施できる。そうして圧延ロールの軸方向位置を定めると、板クラウンを修正できる適切なロールギャップが一対の圧延ロール間に形成され、したがって板クラウンの修正とエッジドロップの低減とが同時に実現するからである。なお、こうして圧延ロールの軸方向位置を定めたとき十分には板クラウンを修正できない場合があれば、その場合には、ワークロールまたは中間ロールをベンディングさせてその修正を補うのがよい。
【発明の効果】
【0022】
請求項に係る圧延ロールを使用すると、板クラウンを適切に修正できるとともにエッジドロップを低減することができ、必要に応じて効果的にロールベンディングすることも可能になる。他のロールとの接触線圧が過大になってロール損傷が発生しやすくなるという不都合も避けることができる。
【0023】
請求項に係る圧延機によれば、上記した圧延ロールの作用により、板クラウンを適切に修正できるとともにエッジドロップを低減することができる。ロールベンディングを効果的に行うことも可能なので、板クラウンの修正能力が極めて高い。スポーリング等によるロールの損傷も避けることが可能である。
【0024】
請求項に係る圧延方法によれば、被圧延材の幅方向端部位置との関係で圧延ロールの軸方向位置を定めるだけで、板クラウンの修正とエッジドロップの低減とを同時に実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
発明の実施形態として、4段ミルにおける一対のワークロールに発明の圧延ロールを使用する圧延機につき、図1〜図5を示す。まず図1は、発明にしたがって構成した圧延ロール1・2(図3等参照)のロールカーブを示す図である。図2は、図1のカーブをもつ圧延ロール1・2を上下に点対称に配置したうえ、板幅に応じて各ロール1・2を軸方向のマイナスおよびプラスの向きにシフト(S=−100mm、0mm、+100mmの各シフト)させたときの、両ロール1・2間のロールギャップ分布を示す線図である。図3は、比較的広幅の被圧延材(帯状鋼板)pを圧延すべく圧延ロール1・2をマイナスシフトさせたときのロール1・2の相対位置やロールギャップ分布を示す図(図3(b))、および、圧延機にて荷重をかけた際の板クラウン等を示す図(図3(a))である。また図4(a)・(b)は、中幅の被圧延材pを圧延すべく圧延ロール1・2をややプラスにシフトさせたときの同様の図、そして図5(a)・(b)は、かなり狭幅の被圧延材pを圧延すべく圧延ロール1・2を大きくプラスシフトさせたときの同様の図である。
なお、図示の圧延機は、上記圧延ロール1・2を使用するワークロールの背面に大径のバックアップロール3・4を配置した4段ミルであるが、発明の実施がこれにのみに限定されるものでないことは言うまでもない。
【0026】
圧延ロール1・2の胴部には、図1に示すように極大値点と極小値点とを有するなめらかな連続曲線からなるロールクラウンを形成している。しかし、そのロールクラウンにおける各点のロール半径とロール胴長との関係は、胴長全域において一つの関数により定めたのではなく、下記の三つの区域に分けてそれぞれ異なる関数を採用した。すなわち、a)極小値点から極大値点までの中央域には、極小値点と極大値点とを含むコサイン関数を採用し、b)極大値点から図示右方の最寄のロール端までの端部域には、上記コサイン関数にしたがう場合(図示の破線の傾斜となる)よりも急勾配の傾斜となる二次関数を採用し、c)極小値点から図示左方の最寄のロール端までの端部域には、上記コサイン関数にしたがう場合(図示の破線の傾斜となる)よりも緩い(ほとんどゼロの)勾配の傾斜となる二次関数を採用している。
図1に示す極大値点、極小値点、中央域、(極大値点からの)端部域、(極小値点からの)端部域は、図3(b)に示す圧延ロール1においては符号11、12、13、14、15によってそれぞれ表される。
【0027】
一対の圧延ロール1・2を、たとえば図3のように同一平面内で点対称の関係となる上下位置に配置して両者の軸方向相対位置を適切に定めると、上記中央域13でのロールクラウンにより圧延ロール1・2間に適切なロールギャップを形成でき、被圧延材pの板クラウンを適切に修正して平坦化することができる。各板幅に対応づけて圧延ロール1・2の相対位置を定めたとき被圧延材pの幅方向にみたロールギャップの分布は図2のとおりであり、そのような場合のロールギャップの概形(誇張して表すもの)は図3(b)〜図5(b)に示すようになる。被圧延材pの板幅が狭いほど圧延ロール1・2は集中的な荷重を受けてたわみやすくなるため、幅方向の端部に比べて中央部付近が狭くなるようにロールギャップを形成する。
【0028】
圧延ロール1・2には、上記の極大値点11から最寄りのロール端までの端部域14に急勾配でロール半径が縮小する傾斜部分が存在するため、図2・図3等に示すロールギャップが拡大する、いわば拘束緩和部分が当該極大値点11からロール端にかけて形成される。そうした拘束緩和部分は、上記の端部域14の上下位置において、圧延ロール1・2と被圧延材pとの間および圧延ロール1・2とバックアップロール3・4との間にあり、ロール端にかけて相互間の接触圧力が漸減する部分である。被圧延材pの拘束が緩和されるため、この部分に被圧延材pの幅方向端部(エッジ部)をおくと、エッジドロップを効果的に低減させることが可能である。またこの部分では、ワークロール(圧延機が6段ミルの場合には中間ロール)の拘束が緩和されるため、当該ロールを十分にロールベンディングさせることができ、板クラウンを一層適切に修正することも可能である。
ただし、この拘束緩和部分は、ロールの端部で急激に拘束がゼロになるものではないため、他の部分でのロール間線圧が過大になってスポーリングなどのロール損傷が発生する恐れはない。また、同様の理由で、ロールシフトするにともなって圧延機の縦剛性や左右剛性が低下することもない。
【0029】
この圧延ロール1・2では、上記した極小値点12から最寄りのロール端までの端部域15に勾配の緩い部分を形成してもいる。そのため、たとえば図3(a)・(b)のように圧延を行う場合にも、当該端部域15の付近において圧延ロール1・2とバックアップロール3・4等との接触線圧が過大になることがなく、スポーリング等によってロールが損傷しやすくなるという不都合が避けられる。
【0030】
被圧延材pに対し、上記のように適切に板クラウンの修正を行うとともにエッジドロップを低減させるためには、圧延ロール1・2の胴部のうち中央域13で当該被圧延材pのほぼ全幅をはさむとともに、上記極大値点11に続く拘束緩和部分によって被圧延材pのエッジ部をはさむ必要がある。しかし、中央域13の曲線を定める上記関数を適切に選ぶなら、板幅に応じてロール1・2の軸方向相対位置を適切に定めたとき自ずとエッジ部が拘束緩和部分にてはさまれるようになる。好ましい関数によって中央域13のロールクラウンが適切に形成されている場合は、被圧延材pの板クラウンを修正すべく圧延ロール1・2を軸方向にシフトさせるとき、a)板幅が広い場合にはロール1・2の各極大値点11間の間隔を広げ(図3参照)、b)板幅が狭い場合には、ロールカーブの外向きに凸の部分を接近させるべく当該間隔を狭くすることによって板クラウンを修正できるからである。そうした各場合に、被圧延材pのエッジ部が極大値11点のすぐ外側(端部域)に位置するのが好適であるように関数を設定しているなら、板クラウンの修正を行うとともにエッジドロップを低減させ得るように圧延ロール1・2を使用することができるわけである。
【実施例】
【0031】
図1に示すロールカーブについて具体例を示す。
胴長をL、極大値点がロール胴長中央からの距離aに位置し、極小値点はロール胴長の端から距離bの位置にあるとし、極大値点と極小値点との半径分の差をAとする。
【0032】
表面上の各点でのロール半径f(X’)を、極小値点と極大値点との間をAを振幅とするコサイン関数で構成すると、両者間のロールカーブは次の2式(1)および(2)で表せる。
X’ = π/(L/2 + a−b) ・( X−b) ・・・・(1)
f(X’)= −A/2・COS(X’)+ R0 ・・・・(2)
R0:ロール基準半径
なお、Xはロール胴端からの軸方向任意位置を表すが、図1では表示上、中央を0としている。
【0033】
ロール胴端から極小値点までは、上記(1)、(2)式で表せるカーブの延長よりも緩やかな次の2次式であらわす。
0≦X≦b
f(X)= c(X−b)2 + R0 − A/2 ・・・・(3)
ここでcはカーブの緩やかさを決定する係数である。
【0034】
一方、極大値点から最寄のロール胴端までは、上記(1)、(2)式で表せるカーブの延長より急峻な次の2次式であらわす。
L/2+a≦X≦L
f(X)= −d(X−L/2−a)2 + R0 + A/2 ・・・・(4)
ここでdはカーブの急峻さを決定する係数である。
【0035】
上記のロールカーブを、4フィートの板幅を圧延する4段圧延機のワークロールに適用した。
バックアップロール胴長=1420mm、ワークロール胴長L=1620mm、ロール基準半径R0=200mm、a=400mm、b=200mm、c=1.33E−7、d=2.00E−6 のときのロールカーブを求め、それを示したものが図1である。本ロールを上ワークロールに用い、本ロールと板の断面中心に点対称な曲線を下ワークロールに配する。上ワークロールと下ワークロールとの間の距離であるロールギャップとしては、ロールを軸方向に±100mm相対移動させることにより図2に示す曲線が得られる。
【0036】
図2に示すように、広幅用クラウンとなるロールシフト位置(S=−100mm)では、幅が略1200mmの板の端部近傍にロール拘束緩和部分が生じているのが分かる。同様に、中幅用クラウンとなるロールシフト位置(S=0mm)では、幅が略1000mmの板の端部近傍に、また狭幅用クラウンとなるロールシフト位置(S=+100mm)では板幅が略900mmの板端部近傍に、それぞれロール拘束緩和部分が生じているのが分かる。
【0037】
一方、従来技術の1つであるコサイン関数でロール胴長を一意的に表したときのロールカーブを図6に、それによるロールギャップを図7に示している。ここでは本発明との比較のため極大値と極小値を本発明と同じ値としている。
図2・図7から分かるように、本発明では、板幅に応じたロールクラウンを得るためのロール位置に上下ロールを軸方向に相対移動させると、ロールギャップのうち板幅端部近傍にロール拘束緩和部分が自動的に生成される。その結果、板幅端部の拘束状況が良好となり、板クラウンを修正できることと同時に、ベンディング効果の向上効果、およびエッジドロップ低減効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】発明にしたがって構成した圧延ロールのロールカーブを示す図である。
【図2】図1のカーブをもつ圧延ロールを上下に点対称に配置したうえ、板幅に応じて各ロールを軸方向にシフトさせたときのロールギャップ分布を示す図である。
【図3】比較的広幅の被圧延材pを圧延すべく圧延ロール1・2をマイナスシフトさせたときのロール1・2の相対位置やロールギャップ分布を示す図(図3(b))、および、圧延中の板クラウン等を示す図(図3(a))である。
【図4】中幅の被圧延材pを圧延すべく圧延ロール1・2をややプラスにシフトさせたときのロール1・2の相対位置やロールギャップ分布を示す図(図4(b))、および、圧延中の板クラウン等を示す図(図4(a))である。
【図5】かなり狭幅の被圧延材pを圧延すべく圧延ロール1・2をプラスシフトさせたときのロール1・2の相対位置やロールギャップ分布を示す図(図5(b))、および、圧延中の板クラウン等を示す図(図5(a))である。
【図6】従来の圧延ロールにおけるロールカーブを示す図である。
【図7】図6の圧延ロールを使用する場合のロールギャップを示す図である。
【図8】従来の圧延機について示す図であり、図8(a)は圧延ロールを軸方向にシフトさせていないゼロシフトの状態、同(b)はマイナスシフトさせた状態、同(c)はプラスシフトさせた状態をそれぞれ示している。
【図9】従来の圧延機において被圧延材pに発生しがちなエッジドロップについて示す概念図である。
【符号の説明】
【0039】
1・2 圧延ロール
3・4 バックアップロール
11 極大値点
12 極小値点
13 中央域
14 (極大値点からの)端部域
15 (極大値点からの)端部域
p 被圧延材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロールクラウンを、極大値点と極小値点とを有する連続曲線であって、極大値点と極小値点とにはさまれた中央域を1つの関数とし、極大値点から最寄のロール端までの端部域を、中央域の関数の延長よりも急勾配の傾斜をもつ関数とした曲線によって形成したことを特徴とする圧延ロール。
【請求項2】
極小値点から最寄のロール端までの端部域を、中央域の関数の延長よりも緩い勾配の傾斜をもつ関数とした曲線によって、ロールクラウンを形成したことを特徴とする請求項1に記載の圧延ロール。
【請求項3】
上記した中央域をコサイン関数とし、極大値点からの上記の端部域、またはさらに極小値点からの上記の端部域を2次関数としたことを特徴とする請求項1または2に記載の圧延ロール。
【請求項4】
被圧延材の断面中央に関して点対称なロールクラウンをそれぞれ有する上下一対のロールを軸方向に相対移動させて被圧延材のクラウンを修正する圧延機において、
請求項1〜3のいずれかに記載した圧延ロールを上記一対のロールとして配したことを特徴とする圧延機。
【請求項5】
上記の圧延ロールを一対のワークロールに配したことを特徴とする請求項4に記載の圧延機。
【請求項6】
上記の圧延ロールを一対の中間ロールに配したことを特徴とする請求項4に記載の圧延機。
【請求項7】
上記の圧延ロールを一対のバックアップロールに配したことを特徴とする請求項4に記載の圧延機。
【請求項8】
ワークロールまたは中間ロールにベンディング機構を設けたことを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載の圧延機。
【請求項9】
被圧延材の板幅に応じたロールギャップを上記一対の圧延ロールによって形成すべく当該ロールの軸方向の相対位置を定めたとき、その被圧延材の幅方向端部をはさむ上下いずれかの位置に上記ロールクラウンにおける極大値点から最寄のロール端までの端部域が位置することとなるよう、上記中央域の関数および極大値点から最寄のロール端までの関数を定めたことを特徴とする請求項4〜8のいずれかに記載の圧延機。
【請求項10】
請求項4〜9のいずれかに記載した圧延機を使用し、被圧延材の幅方向端部をはさむ上下いずれかの位置に、上記ロールクラウンにおける極大値点から最寄のロール端までの端部域が位置するよう、上記圧延ロールを軸方向に相対移動させたうえ圧延することを特徴とする圧延方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−301585(P2007−301585A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−130560(P2006−130560)
【出願日】平成18年5月9日(2006.5.9)
【出願人】(501120122)スチールプランテック株式会社 (49)
【Fターム(参考)】