説明

圧着端子付ケーブルおよびその製造方法

【課題】圧着端子付ケーブルのかしめ部において、かしめ直後の破断強度が大きく、かつ、高温環境での使用においても破断強度の低下が極めて少ない高信頼の圧着端子付ケーブルを提供する。
【解決手段】ケーブル1の導体2と、圧着端子3とをかしめにより締結した圧着端子付ケーブル10において、ケーブル1が樹脂材料からなる絶縁体5を有し、かつ、かしめ部では、前記導体2と前記圧着端子3とが銀を主成分とする金属接合材料Xを介して接合されているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーブルの導体と、圧着端子とをかしめにより締結した圧着端子付ケーブルおよびその製造方法に係り、特に、ハイブリッド自動車などのモータやインバータ周辺、複写機の定着機の周辺などの高温環境で使用される圧着端子付ケーブルおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧着端子付ケーブルは、各種の機器の給電用あるいは信号伝送用配線部品として広く用いられている。
【0003】
図3は、従来の圧着端子付ケーブルの平面模式図であり、図4は、その斜視図、図5は、図3のA−A線断面図である。
【0004】
図3〜5に示すように、従来の圧着端子付ケーブル30は、ケーブル31の導体32と、圧着端子33とをかしめにより締結したものである。以下、かしめられた部分をかしめ部34と呼称する。
【0005】
ケーブル31は、前述の導体32と絶縁体35とで構成される。導体32としては、撚線を用いるのが一般的であり、その撚線を構成する単線導体としては、軟銅線に錫めっきを施したものが多く用いられる。錫は、主に腐食防止用であり、用途に応じて、ニッケルや銀めっきを施したものも用いられる。
【0006】
絶縁体35は、ポリエチレン、塩化ビニル、フッ素樹脂などの材料が、用途に応じて適用可能である。特に、耐熱性が必要なケーブルにおいては、絶縁体の定格温度を考慮する必要があり、一般的に、塩化ビニルを主材料とする絶縁体では125℃、架橋ポリエチレン絶縁体では150℃、フッ素樹脂では250℃程度までの定格温度となる。
【0007】
圧着端子33は、ベースの材料として銅が使われるのが一般的である。主に、腐食防止の観点から、銅の表面に錫、ニッケル、銀などの金属がめっきされるケースが多い。
【0008】
圧着端子33の外部接続部36については、用途に応じて様々な形状のものが製作されている。図3〜5には、外部端子のねじ穴にボルトで固定するための貫通孔37が設けられた形状例を示した。
【0009】
先に述べたように、ケーブル30の導体32と圧着端子33は、かしめ部34において締結されている。図4に示すように、かしめ部34において導体32は、圧着端子33に内包される構造とするのが一般的であり、両者は、物理的な加圧により塑性変形されている。
【0010】
かしめ部34の破断強度を大きくするためには、適切な圧力を印加してかしめる必要がある。そのため、予めかしめ部34の導体断面積比と印加圧力との関係、さらには、破断強度および破断モードと導体断面積比との関係を把握した上で、適切な圧力を印加してかしめを実施するのが一般的である。
【0011】
ここで、導体断面積比とは、かしめ後の導体32の断面積とかしめ前の導体32の断面積の比を百分率で表した値である。また、かしめ部34の引張試験を実施した際に、破断が起こる荷重が破断強度、破断部の形態が破断モードである。破断モードは、「導体破断」と「導体抜け」に大別される。
【0012】
かしめ部34においては、(1)破断強度が、導体のみの場合の破断荷重の80%以上、理想的には90%以上であること、(2)破断モードが「導体破断」であることが目標となる。
【0013】
これらの目標を達成するためには、導体断面積比が重要なパラメータの一つになる。適切な導体断面積比は、導体32のサイズや圧着端子33の形状により若干異なるが、従来の圧着端子付ケーブル30のかしめ部34においては、導体断面積比はおおむね70〜80%の範囲であり、破断強度としては導体のみの場合の破断荷重の80〜90%の強度が得られていた。
【0014】
従来の圧着端子付ケーブルの他の例として、圧着端子付ケーブル30の圧着端子33と導体32との間に、半田材料(図示せず)を設けた構造が公開されている(例えば、特許文献1参照)。
【0015】
半田材料は、圧着端子33と導体32との間の電気的な接触抵抗を下げる目的で設けられたものであり、かしめ部34の接続強度は、上述した圧着端子33と導体32の塑性変形により確保される。
【0016】
【特許文献1】特開2001−6783号公報
【特許文献2】特開平9−82377号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
金属の接合材料としては、合金ろう材料が広く使われているが、一般にそれらは融点が高く、樹脂材料からなる絶縁体に損傷を与えるため、圧着端子付ケーブルへの適用は困難であった。
【0018】
また、一般的な半田材料は機械的に脆く、上述したように、接触抵抗の低減には有効であるが、圧着端子付ケーブルのかしめ部に適用した場合、十分な破断強度を得ることが難しかった。
【0019】
さらに、従来の圧着端子付ケーブルは、高温環境下で使用されると、かしめ部の破断強度が著しく低下するという問題があった。また、かしめ直後の破断強度として、導体のみの場合の破断荷重の90%を超える強度を得ることは難しかった。
【0020】
そこで、本発明の目的は、圧着端子付ケーブルのかしめ部において、かしめ直後の破断強度が大きく、かつ、高温環境での使用においても破断強度の低下が極めて少ない高信頼の圧着端子付ケーブルおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、ケーブルの導体と、圧着端子とをかしめにより締結した圧着端子付ケーブルにおいて、ケーブルが樹脂材料からなる絶縁体を有し、かつ、かしめ部では、前記導体と前記圧着端子とが銀を主成分とする金属接合材料を介して接合されている圧着端子付ケーブルである。
【0022】
請求項2の発明は、前記金属接合材料が、銀微粒子の焼結体を含む請求項1に記載の圧着端子付ケーブルである。
【0023】
請求項3の発明は、前記導体および前記圧着端子が、銅を主成分とする金属からなり、かつ、前記金属接合材料が、銀と銅を構成元素として含む合金を有する請求項2に記載の圧着端子付ケーブルである。
【0024】
請求項4の発明は、前記導体と前記圧着端子のいずれか一方、あるいは両方が、表面に錫のめっき層を有し、かつ、前記金属接合材料が銀、銅、および錫を構成元素として含む合金を有する請求項3に記載の圧着端子付ケーブルである。
【0025】
請求項5の発明は、樹脂材料からなる絶縁体と導体とを有するケーブルと、圧着端子とを接続する圧着端子付ケーブルの製造方法において、前記導体と前記圧着端子のいずれか一方、あるいは両方に、平均粒径が100nm以下の銀微粒子を含む液状またはペースト状の接合材料を被着する工程と、接合材料を被着した前記導体と前記圧着端子とをかしめにより締結する工程と、かしめ部を前記絶縁体の融点以下の温度で加熱して前記金属接合材料を融着させる工程とを備える圧着端子付ケーブルの製造方法である。
【0026】
請求項6の発明は、樹脂材料からなる絶縁体と導体とを有するケーブルと、圧着端子とを接続する圧着端子付ケーブルの製造方法において、前記導体と前記圧着端子のいずれか一方、あるいは両方に、酸化銀を含む液状またはペースト状の接合材料を被着する工程と、接合材料を被着した前記導体と前記圧着端子とをかしめにより締結する工程と、かしめ部を前記絶縁体の融点以下の温度で加熱して前記金属接合材料を融着させる工程とを備える圧着端子付ケーブルの製造方法である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、圧着端子付ケーブルのかしめ部において、かしめ直後の破断強度を大きくでき、かつ、高温環境での使用においても破断強度の低下を極めて少なくできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0029】
一般に、金属の接合材料には、合金ろう材料が広く用いられているが、融点の高さから樹脂材料からなる絶縁体を有する圧着端子付ケーブルのかしめ部の接合材料として用いるには問題があった。
【0030】
一方、金属粒子は、粒径がナノオーダーまで小さくなると、融点が低下し、低温で融着が起こることが知られている。本発明者等は、金属微粒子の低温での融着現象に着目し、銀微粒子をかしめ部の接合材料として活用した。
【0031】
図1は、本発明の好適な一実施の形態を示す圧着端子付ケーブルのかしめ部の断面模式図である。基本的な構造については、従来の圧着端子付ケーブル30と同様であるので、平面図および斜視図については図3,4を参照されたい。
【0032】
図1に示すように、本実施の形態に係る圧着端子付ケーブル10は、かしめ部において、ケーブル1の導体2と、圧着端子3とがかしめにより締結され、かつ、ケーブル1の導体2と、圧着端子3とが金属接合材料Xを介して接合されたものである。
【0033】
ケーブル1は、導体2と樹脂材料からなる絶縁体5とで構成される。導体2としては、例えば断面サイズが約8mm2の撚線を用いるとよく、その撚線を構成する単線導体としては、例えば軟銅線に錫めっきを施したものを用いるとよい。錫は、主に腐食防止用であり、用途に応じて、ニッケルや銀めっきを施したものを用いてもよい。
【0034】
絶縁体5は、例えば架橋ポリエチレンからなる。ポリエチレンの他にも、塩化ビニル、フッ素樹脂などの樹脂材料を用途に応じて適用可能である。特に、耐熱性が必要なケーブルにおいては、絶縁体の定格温度を考慮する必要がある。一般的に、塩化ビニルを主材料とする絶縁体では125℃、架橋ポリエチレン絶縁体では150℃、フッ素樹脂では250℃程度までの定格温度となる。
【0035】
圧着端子3としては、そのベースの材料として銅を用いるとよい。また、主に、腐食防止の観点から、ベース材料である銅の表面に錫、ニッケル、銀などの金属がめっきされたものを用いるのが好ましい。
【0036】
金属接合材料Xは、銀微粒子の焼結体を含む。銀微粒子の焼結体は、銀微粒子を有機溶媒中に分散させた液状またはペースト状の接合材料を焼結させたものである。
【0037】
上述したように、金属粒子は、粒径がナノオーダーまで小さくなると融点が低下し、低温で融着が起こるが、その融着は常温でも進行する。そのため、金属微粒子を扱う際は、金属微粒子の周囲を有機物で保護し、それを有機溶媒中に分散させ、液状またはペースト状とした接合材料を扱うのが便利である。
【0038】
金属微粒子を分散させた液状またはペースト状の接合材料を加熱すると、有機溶媒および保護用の有機物が蒸発、分解する。また、加熱により、金属微粒子が融着し、接合材料として機能すると考えられる。
【0039】
金属接合材料Xは、圧着端子3が銅からなる場合は、銀に加え銅を構成元素として含んでいてもよい。さらに、金属接合材料Xは、導体2または圧着端子3が表面に錫めっき層を有する場合は、銀に加え銅、錫を含んでいてもよい。
【0040】
金属接合材料Xは、導体2の周囲を覆う略連続した層構造を呈し、外周部は圧着端子3と接合されている。図示していないが、金属接合材料Xは、撚線で構成された導体2の内部(単線導体間の隙間)にも入り込んでいる。
【0041】
金属接合材料Xとして、構成元素に銀、銅および錫を含むものを用いる場合、金属接合材料Xの主成分は銀であるが、その組成は均一ではなく、主に銀微粒子の焼結体、銀−銅合金および銀−銅−錫合金から構成され、銀微粒子の焼結体と合金、および各合金間は、金属学的に接合されている。
【0042】
銀微粒子としては、平均粒径が100nm以下のものを用いるとよい。これは、銀微粒子の平均粒径を100nm以下とすることで、ケーブル1の絶縁体5に損傷を与えない熱処理温度・条件で、銀微粒子の融着(焼結)を充分に進行させることができ、圧着端子付ケーブル10のかしめ部の破断強度を向上させることが可能となるからである。
【0043】
逆に、平均粒径が100nmを超えると、低温での銀微粒子の融着が不充分となり、かしめ部の破断強度が低下する問題が生じる。この場合には、熱処理温度を高くすることにより破断強度を向上できるが、熱処理温度を高くするとケーブル1の絶縁体5に損傷を与える問題を生じる。
【0044】
ここで、銀微粒子の平均粒径は、動的光散乱法を用いた粒度測定装置により計測した。体積基準の粒径の累積度数分布において、累積値が50%に相当する粒径を「平均粒径」とした。粒度測定装置としては、例えば、日機装株式会社製のUPA−EX150を用いるとよい。
【0045】
また、本発明者等は、本発明に関する接合材料の検討において、酸化銀粒子を有機溶媒中に分散させた液状またはペースト状の接合材料を焼結させた金属接合材料Xも、優れた接合材料として機能することを見出した。金属接合材料Xとして、酸化銀粒子を有機溶媒中に分散させた液状またはペースト状の接合材料を焼結させたものをかしめ部に適用した場合、ケーブル1の絶縁体5に損傷を与えない熱処理温度・条件において、金属接合材料Xとして、銀微粒子を有機溶媒中に分散させた液状またはペースト状の接合材料を焼結させたものを適用した場合と同等以上の破断強度が得られる。
【0046】
酸化銀を有機溶媒中に分散させた液状またはペースト状の接合材料は、加熱により、有機物の酸化、酸化銀の還元、銀微粒子の生成、および銀微粒子の融着の順に反応が進展し、接合材料として機能すると考えられる。酸化銀粒子の平均粒径は、ミクロンオーダーであっても接合材料として機能する。
【0047】
酸化銀としては、例えば酸化第1銀(Ag2O)を用いるとよい。その平均粒径は10μm以下であるとよく、より好ましくは、8μm以下であるとよい。平均粒径が10μmを超えると、かしめ部の破断強度が10%程度低下するためである。破断強度が10%程度低下する理由は、平均粒径が10μmを超えると金属接合材料に多数のボイドが発生し、このボイドが破断強度低下の要因となるためと考えられる。
【0048】
以上のような構成の圧着端子付ケーブル10によれば、ケーブル1の導体2と、圧着端子3とが金属接合材料Xを介して接合されているため、圧着端子付ケーブル10のかしめ部において、かしめ直後の破断強度を大きくでき、かつ、高温環境での使用においても破断強度の低下を極めて少なくできる。また、銅を主成分とする導体2および圧着端子3を用い、これらの表面に錫めっきを施した場合は、上述の効果に加え、導体および圧着端子3の腐食も防止できる。
【0049】
次に、本発明の圧着端子付ケーブル10の製造方法を説明する。ここでは、金属接合材料Xとして、酸化銀粒子を有機溶媒中に分散させた液状またはペースト状の接合材料を焼結したものを適用した場合について説明する。
【0050】
本発明の圧着端子付ケーブル10の製造方法は、(1)ケーブル1の導体2に酸化銀を含む液状またはペースト状の接合材料を被着する工程と、(2)接合材料を被着した導体2と圧着端子3とをかしめにより締結する工程と、(3)かしめ部を絶縁体5の融点以下の温度で加熱して金属接合材料Xを融着させる工程とを備える。
【0051】
具体的には、(1)の工程では、ケーブル1端末部の絶縁体5を除去した後、導体2の周囲に酸化銀を含む液状またはペースト状の接合材料を被着する。
【0052】
また、有機溶媒としては、例えばαテルピネオールおよびエチレングリコールを用いる。この他にも、例えばn−テトラデシルアルコール、グリセリン、トルエンを用いてもよい。
【0053】
(2)の工程では、液状またはペースト状の接合材料を被着した導体2を圧着端子3に装着し、ダイスとプレス機によりかしめを行う。このとき、予めかしめ部の導体断面積比と印加圧力の関係、さらには、破断強度および破断モードと導体断面積比の関係を把握し、適正な条件で行うとよい。
【0054】
(3)の工程では、圧着端子3のかしめ部の加熱工程を行う。加熱工程は、例えば抵抗発熱体を埋め込んだ金属ヒータブロックをかしめ部に接触させることにより行う。加熱は、例えば圧着端子3のかしめ部の温度が200℃となる条件で1分間行う。これにより、(1)の工程で被着された液状またはペースト状の接合材料が焼結されて、金属接合材料Xとなり本発明の圧着端子付ケーブル10が得られる。
【0055】
本発明の圧着端子付ケーブル10の製造方法によれば、ケーブル1の導体2と、圧着端子3とを金属接合材料Xを介して接合することで、圧着端子付ケーブル10のかしめ部において、かしめ直後の破断強度が大きく、かつ、高温環境での使用においても破断強度の低下が極めて少ない圧着端子付ケーブル10が得られる。
【0056】
本実施の形態においては、ケーブル1の導体2に液状またはペースト状の接合材料を被着したが、これに代えて圧着端子3のかしめ部に液状またはペースト状の接合材料を被着してもよく、あるいは導体2と圧着端子3のかしめ部両方に液状またはペースト状の接合材料を被着してもよい。
【0057】
また、本実施の形態では金属接合材料Xとして、酸化銀粒子を有機溶媒中に分散させた液状またはペースト状の接合材料を焼結したものを適用したが、金属接合材料Xとして、平均粒径100nm以下の銀微粒子を有機溶媒中に分散させた液状またはペースト状の接合材料を焼結したものを適用する場合には、有機溶媒として、例えばn−テトラデシルアルコールを用いるとよく、銀微粒子の周囲を保護するための有機物としては、例えばオクチルアミンを用いるとよい。
【実施例】
【0058】
(実施例1、2、比較例1、2)
本発明の効果を確かめるため、4つの工程(実施例1、2、比較例1、2)で圧着端子付ケーブルを試作し、かしめ部の破断モードおよび破断強度を比較した。
【0059】
実施例1は、本発明の製造方法(金属接合材料Xとして、酸化銀粒子を有機溶媒中に分散させた液状またはペースト状の接合材料を焼結したものを適用し、導体2および圧着端子3として、ベース材料を銅とし、その表面に錫めっきを施したものを用いた方法)により製造した圧着端子付ケーブル10を用い、実施例2は、製造後の圧着端子付ケーブル10に高温放置試験を加えたものを用いた。
【0060】
比較例1は、従来の製造方法により製造した圧着端子付ケーブル30を用い、比較例2は、製造後の圧着端子付ケーブル30に高温放置試験を加えたものを用いた。従来の方法とは、ケーブル端末部の絶縁体を除去した後、導体を圧着端子に装着し、ダイスとプレス機によりかしめを施す方法である。
【0061】
これらの絶縁体としては、架橋ポリエチレンを用い、圧着端子および導体には、いずれも錫めっきが施されたものを用い、また、酸化銀としては、平均粒径約3μmの酸化第1銀(Ag2O)を用いた。
【0062】
高温放置試験の条件は、温度180℃で時間は2000時間とした。各工程において、導体断面積比を63〜92%の間で変化させた5種類の圧着端子付ケーブルを試作した。
【0063】
表1に、試作した圧着端子付ケーブルのかしめ部の破断モードを示す。また、図2に、試作した圧着端子付ケーブルの破断強度と導体断面積比の関係を示す。破断強度は、無負荷の導体の破断荷重を100%とした場合の相対値である。
【0064】
【表1】

【0065】
まず、比較例1、2により試作した従来の圧着端子付ケーブルに注目する。導体断面積比が85%以上となる場合では、破断モードは導体抜けであったが、導体断面積比を79%以下とすることにより、破断モードを導体破断とすることができた。
【0066】
導体断面積比が約72%の場合においては、高温放置試験前(比較例1)で約86%の破断強度が得られたが、高温放置試験後(比較例2)では約64%と大幅に低下した。
【0067】
高温放置試験後の破断強度を考慮すると、適正なかしめ条件は、導体断面積比で79%程度と考えられ、そのときの破断強度は、高温放置試験前(比較例1)で約74%、高温放置試験後(比較例2)で約70%であった。
【0068】
導体は、大きな塑性変形を受けると断面積は減少するが、加工硬化により強度は増加する。比較例1の導体断面積比が約72%の場合において、比較的大きな破断強度が得られたのは、加工硬化の影響と考えられる。比較例2の場合において、破断強度が大幅に低下したのは、高温放置試験の間に導体が焼鈍されたこと、およびかしめ時の塑性変形により導体断面積比が72%まで減少したためと考えられる。
【0069】
一方、実施例1、2により試作した本発明の圧着端子付ケーブルに注目すると、導体断面積比が63%から92%の広い範囲で、破断モードが導体破断となった。適正なかしめ条件は、導体断面積比で92%程度と考えられ、そのときの破断強度は、高温放置試験前(実施例1)で約97%、高温放置試験後(実施例2)で約92%と、極めて高い値であった。
【0070】
このように、実施例1、2に記載の圧着端子付ケーブルにおいては、従来品と比べて、高温放置試験前(実施例1)のかしめ部の破断強度が74%から97%に、高温放置試験後(実施例2)のかしめ部の破断強度が70%から92%にそれぞれ向上した。
【0071】
(実施例3〜10、比較例3、4)
次に、本発明の圧着端子付ケーブルの製造方法(金属接合材料Xとして、平均粒径100nm以下の銀微粒子を有機溶媒中に分散させた液状またはペースト状の接合材料を焼結したものを適用し、導体2および圧着端子3として、ベース材料を銅とし、その表面に錫めっきを施したものを用いた方法)で作製した圧着端子付ケーブル(実施例3、5、7、9)と、その圧着端子付ケーブルに高温放置試験を加えた圧着端子付ケーブル(実施例4、6、8、10)について評価を行った。さらに、平均粒径が100nmを超える銀微粒子を用いて同様に圧着端子付ケーブル(比較例3、4)を作製した。
【0072】
金属接合材料Xとして、平均粒径が約8nm(実施例3、4),20nm(実施例5、6),30nm(実施例7、8),80nm(実施例9、10),130nm(比較例3、4)の銀微粒子を、n−テトラデシルアルコールからなる有機溶媒中に分散させてペースト状とした接合材料を焼結させたものを適用した。銀微粒子の周囲を保護するための有機物としては、オクチルアミンを用いた。
【0073】
実施例3〜10の圧着端子付ケーブルでは、かしめ部の破断モードおよび破断強度を調べた結果、実施例1,2とほぼ同様の結果が得られた。すなわち、かしめ部の導体断面積比が約92%の条件において、高温放置試験前後におけるかしめ部の破断強度が90%を超える高い値を示した。
【0074】
一方、比較例3、4の圧着端子付ケーブルでは、破断強度が20%低下した。
【0075】
(実施例11、比較例5)
次に、絶縁体5として、架橋ポリエチレン以外の樹脂材料、例えば塩化ビニル、フッ素樹脂などを用いて製造した圧着端子付ケーブル(実施例11、比較例5)について評価を行った。実施例11では、加熱工程を通電による瞬間的な熱処理で行い、比較例5では、実施例1と同様の方法で熱処理を行った。
【0076】
比較的軟化点が低い塩化ビニル絶縁体からなるケーブルを用いた場合、かしめ部の加熱工程終了後に圧着端子の近傍で絶縁体に若干の変形が見られた(比較例5)。しかし、かしめ部の破断モードおよび破断強度への影響はなかった。
【0077】
また、加熱工程を通電による瞬間的な熱処理で行うことにより、塩化ビニル絶縁体の変形を抑えることができた(実施例11)。具体的には、上下に配した通電用電極ブロックの間にかしめ部を挟み込み、約2秒間通電させることで加熱工程を行った。
【0078】
通電中のかしめ部の最高到達温度が220℃以下となるように通電電流を調整した。その方法で作製した圧着端子付ケーブル(実施例11)のかしめ部の破断モードおよび破断強度は、実施例1とほぼ同じであった。
【0079】
これらから、本発明は比較的軟化点の低い樹脂材料からなる絶縁体を有するケーブルにも適用できることが分かる。
【0080】
(実施例12)
次に、圧着端子3および導体2として、錫以外の金属でめっきを施したものを用いて製造した圧着端子付ケーブルについて評価を行った。
【0081】
圧着端子3に銀、ニッケル、および銅でめっきを施した各場合において、導体2の表面材質(めっき材料)を銀、ニッケル、銅および錫に変えても、実施例1と同等の破断強度が得られた。
【0082】
さらに、圧着端子3の表面材質が錫の場合も、導体2の表面材質を銀、ニッケル、および銅に変えてもやはり実施例1と同等の破断強度が得られた。
【0083】
以上より、ケーブルの導体と、圧着端子とを金属接合材料Xを介して接合することにより、圧着端子付ケーブルのかしめ部において、かしめ直後の破断強度を大きくでき、かつ、高温環境での使用においても破断強度の低下を極めて少なくできることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の好適な一実施の形態を示す圧着端子付ケーブルのかしめ部の断面模式図である。
【図2】実施例1、2、比較例1、2の各場合におけるかしめ部の破断強度と導体断面積比の関係を示す図である。
【図3】従来の圧着端子付ケーブルの平面模式図である。
【図4】図3の圧着端子付ケーブルの斜視図である。
【図5】図3の圧着端子付ケーブルのA−A断面図である。
【符号の説明】
【0085】
1 ケーブル
2 導体
3 圧着端子
5 絶縁体
10 圧着端子付ケーブル
X 金属接合材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーブルの導体と、圧着端子とをかしめにより締結した圧着端子付ケーブルにおいて、 ケーブルが樹脂材料からなる絶縁体を有し、かつ、かしめ部では、前記導体と前記圧着端子とが銀を主成分とする金属接合材料を介して接合されていることを特徴とする圧着端子付ケーブル。
【請求項2】
前記金属接合材料が、銀微粒子の焼結体を含む請求項1に記載の圧着端子付ケーブル。
【請求項3】
前記導体および前記圧着端子が、銅を主成分とする金属からなり、かつ、前記金属接合材料が、銀と銅を構成元素として含む合金を有する請求項2に記載の圧着端子付ケーブル。
【請求項4】
前記導体と前記圧着端子のいずれか一方、あるいは両方が、表面に錫のめっき層を有し、かつ、前記金属接合材料が銀、銅、および錫を構成元素として含む合金を有する請求項3に記載の圧着端子付ケーブル。
【請求項5】
樹脂材料からなる絶縁体と導体とを有するケーブルと、圧着端子とを接続する圧着端子付ケーブルの製造方法において、
前記導体と前記圧着端子のいずれか一方、あるいは両方に、平均粒径が100nm以下の銀微粒子を含む液状またはペースト状の接合材料を被着する工程と、接合材料を被着した前記導体と前記圧着端子とをかしめにより締結する工程と、かしめ部を前記絶縁体の融点以下の温度で加熱して前記金属接合材料を融着させる工程とを備えることを特徴とする圧着端子付ケーブルの製造方法。
【請求項6】
樹脂材料からなる絶縁体と導体とを有するケーブルと、圧着端子とを接続する圧着端子付ケーブルの製造方法において、
前記導体と前記圧着端子のいずれか一方、あるいは両方に、酸化銀を含む液状またはペースト状の接合材料を被着する工程と、接合材料を被着した前記導体と前記圧着端子とをかしめにより締結する工程と、かしめ部を前記絶縁体の融点以下の温度で加熱して前記金属接合材料を融着させる工程とを備えることを特徴とする圧着端子付ケーブルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−27453(P2010−27453A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−188739(P2008−188739)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】