圧粉磁心のための加圧成形用粉体及び圧粉磁心の製造方法
【課題】鉄損を低減させる圧粉磁心の製造方法及びそのような圧粉磁心のための加圧成形用粉体の提供。
【解決手段】表面の一部にMgO、TiO2又はAl2O3の少なくとも1つからなる凝集防止粉(3)を与えられ、さらに表面全体を覆うようにしてバインダ(5)を与えられた純Feからなる純Fe粉(2)を含む混合粉からなる。また、製造方法は、アトマイズ法により純Fe粉末を得るステップと、純Fe粉末に凝集防止粉末を混合し、表面の一部に凝集防止粉を与えられた純Fe粉である中間粉からなる中間粉末を得る中間混合ステップと、中間粉末を加熱処理して純Fe粉内部に蓄積した歪みを取り除く熱処理ステップと、中間粉末にバインダを混合し、表面全体を覆うようにしてバインダを与えられた純Fe粉からなるFe粉とバインダとを含む混合体を得る混合ステップと、混合体を加圧成形する成形ステップと、を含む。
【解決手段】表面の一部にMgO、TiO2又はAl2O3の少なくとも1つからなる凝集防止粉(3)を与えられ、さらに表面全体を覆うようにしてバインダ(5)を与えられた純Feからなる純Fe粉(2)を含む混合粉からなる。また、製造方法は、アトマイズ法により純Fe粉末を得るステップと、純Fe粉末に凝集防止粉末を混合し、表面の一部に凝集防止粉を与えられた純Fe粉である中間粉からなる中間粉末を得る中間混合ステップと、中間粉末を加熱処理して純Fe粉内部に蓄積した歪みを取り除く熱処理ステップと、中間粉末にバインダを混合し、表面全体を覆うようにしてバインダを与えられた純Fe粉からなるFe粉とバインダとを含む混合体を得る混合ステップと、混合体を加圧成形する成形ステップと、を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉磁心の製造方法及び圧粉磁心のための加圧成形用粉体に関し、特に、鉄を主成分とする金属磁性粉からなる粉体を加圧成形して得られる圧粉磁心の製造方法及びこのような圧粉磁心のための加圧成形用粉体に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄(Fe)などの金属磁性粉末にバインダを混合し圧縮成形して得られる圧粉磁心がある。このような圧粉磁心の鉄損を減じるには、電気抵抗を上げて渦電流損を低減させ、また、保磁力を小さくしてヒステリシス損を低減させることが考慮される。
【0003】
渦電流損は、磁心内部の渦電流によるもので、金属磁性粉末の粒子間の電気抵抗を上げることで低減され得る。例えば、特許文献1では金属磁性粉末の原料である純Fe粉粒子の表面を覆って、所定の金属元素の酸化物、炭酸塩及び硫酸塩のうちから選ばれる少なくとも1種類からなる絶縁層を与え、さらにシリコーン樹脂を被覆した圧粉磁心用の粉体が開示されている。純Fe粉粒子を覆うように絶縁層をより強固に結合させ得るから、加圧成形時の絶縁層の破壊による絶縁性の低下を防止できると述べている。さらにシリコーン樹脂による絶縁性も付加されるので、圧粉磁心にさらに高い絶縁性を与える、とも述べている。つまり、圧粉磁心の電気抵抗を上げて渦電流損を低減させ得るのである。
【0004】
一方、ヒステリシス損は、金属磁性粉末からなる原料粉末の製造時に金属磁性粉末に蓄積される内部歪みや、成形加工(圧縮成形)時に金属磁性粉末に与えられる塑性加工歪みや残留応力などに起因して生じる。故に、これらを取り除く熱処理を与えることでヒステリシス損は低減され得る。例えば、特許文献2では、Fe−Si系合金やFe−Ni系合金などの軟磁性合金からなる原料粉末に対して、内部歪みを取り除くための熱処理を与えた後に成形加工する圧粉磁心の製造方法を開示している。ここで、熱処理において原料粉末が凝集し団塊状に固化してしまうと成形加工に悪影響を与えてしまう。そこで、渦電流損を低減させるために成形加工時に金属磁性粉を覆って絶縁性を与える絶縁性材料、例えば、Al2O3粉末、SiO2粉末のような酸化物粉末や、AlN粉末、Si3N4粉末、BN粉末のような窒化物粉末を、熱処理前の原料粉末に混合することが併せて開示されている。かかる方法によれば、成形加工に影響を与えることなく原料粉末の内部歪みを緩和できて、結果として、得られる圧粉磁心の保磁力を低下させ、圧粉磁心のヒステリシス損を低減させ得るのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−43361号公報
【特許文献2】特開2002−57020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、アトマイズなどの製造工程で得られる原料粉末には、凝固時の歪みなどの内部歪みが蓄積され、得られる圧粉磁心の特性に影響を与えてしまう。故に、これを除去する熱処理を与えることが好ましく、十分な除去には、例えば750〜800℃程度以上の高い温度での熱処理が好ましい。しかし、純Feのような純金属は、これにケイ素を含有させたFe−Si系合金などの合金と比較して軟らかく変形し易いため、熱処理により原料粉末の粒子同士が固着してしまう。すなわち、純Fe原料粉末は550℃以上で凝集しはじめ、さらに高い温度では、強固に団塊状に固化して成形加工に悪影響を与えてしまうのである。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、鉄損を低減させる圧粉磁心の製造方法及びそのような圧粉磁心のための加圧成形用粉体の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による圧粉磁心のための加圧成形用粉体は、金属磁性粉末からなる粉体を加圧成形して得られる圧粉磁心のための加圧成形用粉体であって、表面の一部に酸化マグネシウム(MgO)、酸化チタン(TiO2)、又は、アルミナ(Al2O3)の少なくとも1つからなる凝集防止粉を与えられ、さらに表面全体を覆うようにしてバインダを与えられた純Feからなる純Fe粉を含む混合体であることを特徴とする。
【0009】
かかる発明によれば、凝集防止粉を純Fe粉の表面の一部に与えた上で、バインダがこれらの表面を覆うように与えられている。故に、加圧成形後に得られる圧粉磁心において、凝集防止粉が鉄損を増加させることなく、一方で、純Fe粉同士の絶縁が確保され、圧粉磁心の鉄損を低減できるのである。
【0010】
また、上記した発明において、前記純Fe粉は、その表面に純SiからなるSi微粉末を前記バインダとともに前記凝集防止粉の上から与えられていることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、加圧成形後に得られる圧粉磁心において、純Si微細粉が純Fe粉末同士をより確実に絶縁し、結果として、圧粉磁心の鉄損を低減できる。
【0011】
また、上記した発明において、前記凝集防止粉は3μm以下の平均粒径の粒子からなることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、加圧成形後に得られる圧粉磁心において、凝集防止粉が鉄損を増加させることなく、圧粉磁心の鉄損を低減できる。
【0012】
更に、本発明による圧粉磁心の製造方法は、金属磁性粉末からなる粉体を加圧成形して得られる圧粉磁心の製造方法であって、アトマイズ法により純Fe粉末を得るステップと、前記純Fe粉末に酸化マグネシウム(MgO)、酸化チタン(TiO2)、又は、アルミナ(Al2O3)の少なくとも1つからなる凝集防止粉末を混合し、表面の一部に凝集防止粉を与えられた純FeからなるFe粉である中間粉からなる中間粉末を得る中間混合ステップと、前記中間粉末を加熱処理して前記純Fe粉内部に蓄積した歪みを取り除く熱処理ステップと、前記中間粉末にバインダを混合し、表面全体を覆うようにして前記バインダを与えられた純Feからなる純Fe粉を含む混合体を得る混合ステップと、前記混合体を少なくとも加圧成形する成形ステップと、を含むことを特徴とする。
【0013】
かかる発明によれば、凝集防止粉を純Fe粉末の表面の一部に与えた上で、バインダをこれらの表面を覆うように与えた混合体から圧粉磁心を得られる。故に、得られる圧粉磁心において、凝集防止粉が鉄損を増加させることなく、一方で、純Fe粉同士の絶縁が確保され、圧粉磁心の鉄損を低減できるのである。また、凝集防止粉により純Fe粉同士を離間せしめて熱処理ステップが行われるので、純Fe粉同士を凝集させることなく、アトマイズ法により得た純Fe粉の内部歪みを熱処理で十分に除去した上で混合体を得られて、加圧成形後に鉄損を低減した圧粉磁心を得られるのである。
【0014】
また、上記した発明において、前記成形ステップは、前記加圧成形の後に磁気焼鈍するステップを含むことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、鉄損をより低減した圧粉磁心を得られる。
【0015】
また、上記した発明において、前記磁気焼鈍は、550℃〜850℃で熱処理するステップであることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、鉄損、特にヒステリシス損を低減した圧粉磁心を得られる。
【0016】
また、上記した発明において、前記混合ステップにおいて、さらに純SiからなるSi微細粉末が混合されることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、得られる圧粉磁心において、純Si微細粉が純Fe粉末同士をより確実に絶縁し、圧粉磁心の鉄損を低減できる。つまり、純Fe粉末同士の絶縁を低下させることなく、加圧成形による成形密度を高め得て、得られる圧粉磁心において、高い磁束密度を得られる。
【0017】
また、上記した発明において、前記熱処理ステップにおいて、800℃〜1300℃で熱処理することを特徴としてもよい。かかる発明によれば、純Fe粉同士を凝集させることなく、アトマイズ法により得た純Fe粉末の内部歪みを十分除去した上で混合体を得られて、加圧成形後に、鉄損、特にヒステリシス損を低減した圧粉磁心を得られる。
【0018】
更に、上記した発明において、前記中間混合ステップは、3μm以下の平均粒径の粒子からなる前記凝集防止粉末を前記純Fe粉末に対して重量%で0.1〜8.0%混合することを特徴としてもよい。かかる発明によれば、得られる圧粉磁心において、凝集防止粉が鉄損を増加させず、純Fe粉同士を凝集させることなく熱処理ステップを与え得て、鉄損を低減した圧粉磁心を得られるのである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による金属粉体の部分断面図である。
【図2】本発明による金属粉体を加圧成形して得られる圧粉磁心の斜視図である。
【図3】本発明による圧粉磁心の製造方法の工程図である。
【図4】本発明による金属粉体の製造過程における粉体の走査電子顕微鏡写真である。
【図5】図4のP1部及びP2部のX線分光スペクトル図である。
【図6】本発明による金属粉体の走査電子顕微鏡写真である。
【図7】図6のQ1部及びQ2部のX線分光スペクトル図である。
【図8】熱処理粉体の製造条件及び凝集度の評価の一覧図である。
【図9】熱処理粉体の解粒ステップ前後の外観写真である。
【図10】熱処理粉体の外観写真である。
【図11】熱処理粉体の解粒ステップ前後の外観写真である。
【図12】圧粉磁心の製造条件及び磁気特性の一覧図である。
【図13】熱処理温度に対する圧粉磁心の(a)鉄損、及び、(b)ヒステリシス損及び渦電流損の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1及び図2を用いて、本発明による1つの実施例としての金属粉体を加圧成形して得られる圧粉磁心及びこの金属粉体について説明する。
【0021】
図1に示すように、金属粉体1は、純鉄からなる純Fe粉2の表面の一部にMgOからなる凝集防止粉3を付着させ、更に、凝集防止粉3の上から純Fe粉2を覆うようにバインダ5を与えた複合粉からなる複合粉末である。後述するように、純Fe粉2の表面には、凝集防止粉3の上からバインダ5とともに微細なSi微細粉4を与えてもよい。
【0022】
純Fe粉2はガスアトマイズ法によって得られ、ここでは50μm程度の平均粒径(D50)の粒子からなる。また、凝集防止粉3は、酸化マグネシウム(MgO)、酸化チタン(TiO2)又はアルミナ(Al2O3)のいずれかであって、0.3〜3.2μmの平均粒径(D50)の粒子からなる。バインダ5には所定の熱処理でガラス質膜を与えるアルコキシシリル基を含むアルコキシオリゴマーからなるバインダを使用することが好ましい。かかるバインダ5は、得られる圧粉磁心において、シロキサン結合を含むガラス質膜を形成すると純Fe粉2の粒子同士を電気的に隔てる絶縁材として働く。
【0023】
また、絶縁材として、サブミクロンオーダー若しくは数ミクロンオーダーの粒径の粒子からなるSi微細粉4を更に与えても良い。Si微細粉4の粒子は純Siからなるが、このような小さな粒子は、その表面が大気中で酸化され易く、表層に酸化ケイ素からなる酸化被膜を与えられた絶縁粉となる。かかる酸化被膜の与えられたSi微細粉4は、後述するように、得られる圧粉磁心において、純Fe粉2の粒子同士を電気的に隔てる絶縁材として働く。また、アルコキシオリゴマーからなるバインダ5は、Siを含有するアルコキシシリル基を含むため、Si微細粉4と親和性が高い。そのため、バインダ5及びSi微細粉4は互いに安定して凝集防止粉3を与えられた純Fe粉2の全周を覆うように与えられ得る。
【0024】
ところで、凝集防止粉3を純Fe粉2の粒子の表面の一部に付着させることで、純Fe粉2の粒子同士の間隔を離間させ得る。酸化マグネシウム(MgO)、酸化チタン(TiO2)又はアルミナ(Al2O3)のような無機材料からなる凝集防止粉3は高温でも物理的に安定であるから、純Fe粉2は、後述するような高い熱処理温度に曝されても粒子同士を隔てられて互いに固着しづらくなるため凝集しづらいのである。つまり、高温での熱処理により純Fe粉2の製粉工程で与えられた粒子内部の歪みを十分除去することが出来て、しかも、純Fe粉2の粒子同士が凝集しづらく、容易に「ばらける」ため、バインダ5との混合が十分になされる。これにより、純Fe粉2の粒子の表面を覆うようにバインダ5を与えた混合体である金属粉体1を得ることができる。なお、高温での熱処理において純Fe粉2の粒子同士が容易に「ばらける」ことについては後述する。
【0025】
上記したような金属粉体1を少なくとも加圧成形することで圧粉磁心が得られる。例えば、図2に示すような外径28mm、内径20mm、厚さ5mmの環状の圧粉磁心10を得られる。圧粉磁心10は、上記したように、粒子内部の歪みを除去した金属粉体1から得られるのでその保磁力を小さくすることができ、従ってヒステリシス損を低減できる。すなわち、鉄損を低減した圧粉磁心10を得ることができる。また、加圧成形による成形歪みを簡単な磁気焼鈍で除去できて、ヒステリシス損が低減されるので、磁気焼鈍を行うことが好ましい。
【0026】
ここで、Si微細粉4を与えた場合、Si微細粉4はサブミクロンオーダー若しくは数ミクロンオーダーの粒径を有するために容易に酸化され、圧粉磁心10の上記した絶縁性をより高め得る。また、圧粉磁心10の純Feからなる粒子同士はサブミクロンオーダー若しくは数ミクロンオーダーのSi微細粉4を間に挟んだ間隔にまで近接されて、加圧成形における成形密度を高め得る。つまり、圧粉磁心10は高い磁束密度を得ることができるのである。なお、凝集防止粉3は純Fe粉2の粒子の表面の一部にしか付着しておらず、圧粉磁心10の磁束密度に大きな影響を与えない。
【0027】
次に、本発明による1つの実施例である圧粉磁心10の製造方法について、図4乃至図12を参照しつつ、図3に沿って説明する。
【0028】
まず、圧粉磁心10の製造に先だって、凝集防止粉3を用意する。凝集防止粉3は、例えば、ビーズミル装置、ボールミル装置、又は、アトライタミル装置を用いて、酸化マグネシウム(MgO)、酸化チタン(TiO2)又はアルミナ(Al2O3)のいずれかからなる塊を所定の粒度まで粉砕して得られる。典型的には、0.2〜3.2μmの平均粒径(D50)である。
【0029】
図3に示すように、純Feアトマイズステップ(S1)では、溶解した純Feを重力落下させ、これをノズル先端から高速で噴出させて水やガス等の媒体に衝突させる。すると、急冷されて球状に凝固した純Fe粉2が得られる。
【0030】
中間混合ステップ(S2)では、純Fe粉2に凝集防止粉3を0.1wt%以上添加し、湿式溶媒であるアセトン中で混合分散させ乾燥させた。なお、乾燥においては、雰囲気を真空又は不活性ガスとすることで、純Fe粉2の酸化を防止する。これにより、凝集防止粉3は、純Fe粉2の粒子の表面の一部に付着する。
【0031】
熱処理ステップ(S3)では、純Feアトマイズステップ(S1)などで与えられた純Fe粉2の粒子の内部歪を除去するために、純Fe粉2を還元雰囲気中で酸化を防止しつつ焼鈍する。本実施例では、水素によって還元雰囲気を得て、800℃〜1300℃、好ましくは1200℃以下の所定の温度で3時間加熱した。上記したように、純Fe粉2の粒子同士は、高温でも安定な凝集防止粉3によって隔てられているため、純Fe粉2の粒子内部の歪みを十分に除去するよう、熱処理温度を高めたとしても、純Fe粉2は互いに接触しにくく凝集しづらい。なお、本実施例では、還元雰囲気を得るために水素を用いたが、アルゴンや窒素等の不活性ガスや非酸化性ガスを用いてもよく、また真空ポンプなどを用いて真空状態で熱処理してもよい。
【0032】
ここで、凝集防止粉3にMgOを用い、熱処理ステップ(S3)を経た熱処理粉体16を電子顕微鏡で観察した写真を図4に示す。また、同図の暗部P1及び明部P2について、エネルギー分散型X線分光法によりその表面の成分分析を行った。この結果を図5(a)及び(b)に示す。図4に示す電子顕微鏡像の暗部P1では、図5(a)に示すようにMgOに対応するMgのピークが明瞭に観察されるのに対し、明部P2では、図5(b)に示すようにMgOに対応するMgのピークがほとんど観察されない。つまり、熱処理粉体16では、MgOからなる凝集防止粉3は純Fe粉2の表面の全体ではなく一部に付着している。なお、凝集防止粉3にTiO2又はAl2O3を用いた場合も同様に、凝集防止粉3は純Fe粉2の表面の全体ではなく一部に付着している。なお、純Feは、例えばSiを含有するFe−Si系合金などと比較して熱処理ステップ(S3)において軟らかく、変形しやすい。そのため、純Fe粉2同士が互いに固着しやすく、これを防止する凝集防止粉3が有効である。
【0033】
続いて、混合ステップ(S4)では、熱処理粉体16に、バインダ5を所定量、例えば、1wt%加え、アセトン溶媒中で混合し分散させた後、乾燥させる。さらに、真空中において245℃×1分間の仮焼を施してバインダの一部を分解させると同時に純Fe粉の表面にバインダを固定化させて、金属粉体1を得る。Si微細粉4を更に与える場合にあっては、アトマイズ法や粉砕法などで得られたサブミクロン若しくは数ミクロンオーダーの粒径の純Si微細粉を混合ステップ(S4)において、バインダ5とともに所定量、例えば、0.5wt%ほど加える。
【0034】
ここで、凝集防止粉3にMgOを用い上記したようにしてSi微細粉4も加えて得た金属粉体1を電子顕微鏡で観察した写真を図6に示す。また、同図の暗部Q1及び明部Q2について、エネルギー分散型X線分光法によりその表面の成分分析を行った。この結果を図7(a)及び(b)に示す。図6に示す電子顕微鏡像の暗部Q1では、図7(a)に示すようにMgOに対応するMgのピークとともにSiのピークも明瞭に観察される。一方、明部Q2では、図7(b)に示すようにMgOに対応するMgのピークはほとんど観察されず、Siのピークが明瞭に観察される。つまり、金属粉体1では、MgOからなる凝集防止粉3を一部に付着した純Fe粉2の表面全体を覆うように、バインダ5及びSi微細粉4が被膜を形成している。
【0035】
成形加工ステップ(S5)では、例えば、図2に示すような圧粉磁心10の形状に金属粉体1を成形するステップであって、所定の形状の金型に金属粉体1を充填し、室温で15ton/cm2の圧力でプレスして加圧成形する。バインダ5による被膜が凝集防止粉3の付着した純Fe粉2の粒子の表面全体を覆っているので、加圧成形によっても純Fe粉2の粒子同士を確実に絶縁して、得られる圧粉磁心10に高い比抵抗を与える。さらに、磁気焼鈍を施し、最終的な圧粉磁心10を得る。磁気焼鈍の条件については、加圧成形後に得られる圧粉磁心の鉄損をなるべく最小にするよう適宜設定され、水素、窒素、アルゴン、真空などの非酸化性雰囲気とすることが望ましい。本実施例においては窒素雰囲気中で550℃〜900℃×0.5時間の加熱を施すこととした。
【0036】
以上の製造方法によれば、凝集防止粉3を純Fe粉2の表面の一部に与えた上で、バインダ5がこれらの表面全体を覆うように与えられる。故に、成形加工ステップ(S5)後に得られる圧粉磁心20において、凝集防止粉3が鉄損を増加させることなく、一方で、純Fe粉2同士をバインダ5が確実に絶縁するので、結果として、鉄損を低減できるのである。更に、凝集防止粉3により純Fe粉2同士を離間せしめて熱処理ステップ(S3)が行われるので、純Fe粉2同士を凝集させることなく、アトマイズ法により得た純Fe粉2の内部歪みを熱処理で十分に除去した上で加圧成形用粉体を提供できて、結果として、成形加工ステップ(S5)後に得られる圧粉磁心20において、鉄損を低減できるのである。
【0037】
[評価試験1]
次に、上記した製造方法において、図8に示す複数の製造条件で熱処理粉体16を製造し、その凝集の程度を評価した。なお、図8における実施例及び比較例の区別は、それぞれ本発明による加圧成形用粉体となり得る中間体としての熱処理粉体16であるかどうかによって便宜的に用いた。
【0038】
まず、純Feアトマイズステップ(S1)により得られた純Fe粉2は、純Feからなる50μmの平均粒径(D50)の粉体である。また、凝集防止粉3は、特記(実施例7乃至9)されない限り、MgOからなる3.2μmの平均粒径(D50)の粉体である。また、中間混合ステップ(S2)では、凝集防止粉3を最大2.0wt%までFe粉末2に添加し、アセトン溶媒中で混合分散させ乾燥させ、純Fe粉2の粒子の表面の一部に凝集防止粉3を付着させた。熱処理ステップ(S3)では、これを四角い容器の中に入れ、水素雰囲気中において550〜1300℃の各温度で3時間の熱処理を施した。以上により得られた熱処理粉体16の凝集の程度を評価した。
【0039】
熱処理粉体16の凝集の程度の評価については、熱処理ステップ(S3)の後に得られた熱処理粉体16を100メッシュのふるいにかけ、熱処理粉体16の粉末の重量のうち、ふるいを通過した重量の全重量に対する割合を測定し、この収率から評価した。すなわち、収率80%以上の場合に「小」、収率50%以上80%未満の場合に「中」、収率50%未満の場合に「大」とした。なお、凝集度「小」の熱処理粉体は続く混合ステップ(S4)及び成形加工ステップ(S5)にほとんど影響を与えず、凝集度「中」の熱処理粉体16は、後述するように一部に塊粒を有するが、この塊粒を「ばらけさせる」ための解粒ステップを与えることで、続く混合ステップ(S4)及び成形加工ステップ(S5)に影響を与えることなく成形加工ができる。他方、凝集度「大」の熱処理粉体は、解粒ステップを与えても「ばらけさせる」ことが困難なため、続く混合ステップ(S4)におけるSi微細粉4及びバインダ5との混合が不十分あるいは不可能となったり、成形加工ステップ(S5)における金型への充填の際に大きな空隙が生じるなど、成形加工が困難となる。
【0040】
まず、図8に示すように、中間混合ステップ(S2)において、凝集防止粉3を添加しなかった比較例1乃至5では、熱処理温度650℃以上で凝集度は「中」となり、解粒ステップを経た上で成形加工できる。しかし、熱処理温度950℃で凝集度は「大」となり、解粒が難しくなって成形加工が困難となる。
【0041】
ここで凝集度「中」の比較例2において、図9(a)に示すように、熱処理ステップ(S3)の後には、熱処理粉体16はいくつかの大きな塊粒16aを多く含む。しかしながら、同図(b)に示すように、塊粒16aに軽く力を加えると、元の粉末に「ばらけて」簡単に戻る。また、凝集度「大」の比較例5において、図10に示すように、熱処理粉体16は四角い容器の形状を転写した単一の大きな塊粒16bに凝集、固化し、塊粒16bは容易に元の粉末には解粒できない。かかる場合、成形加工は困難となる。
【0042】
図8に戻って、実施例1のように、凝集防止粉3を0.1wt%添加した場合、熱処理温度を1100℃まで高くしても、凝集度は「中」となり解粒ステップを経た上で、成形加工できる。例えば、図11には、熱処理温度950℃とした以外、実施例1と同じ条件で得た熱処理粉体16の外観を示す。やはり、熱処理ステップ(S3)の後には、熱処理粉体16はいくつかの大きな塊粒16aを多く含む。しかしながら、同図(b)に示すように、塊粒16aは軽く力を加えると、元の粉末に「ばらけて」簡単に戻るのである。
【0043】
さらに、実施例2及び3のように、凝集防止粉3を1.0〜2.0wt%と更に多く添加した場合、熱処理温度を1100℃としても凝集度は「小」となる。また、凝集防止粉3を2.0wt%と多く添加した場合、実施例4のように、熱処理温度を1200℃としても凝集度は「小」である。更に実施例5のように、熱処理温度を1300℃としても凝集度は「中」であって、解粒工程を経た上で成形加工が可能である。また、実施例6のように、3.2μmの平均粒径(D50)の凝集防止粉3を用いた場合には、添加量を1.0wt%、熱処理温度を1200℃とすると凝集度は「中」であるが、実施例7のように、0.3μmの平均粒径(D50)の凝集防止粉3を用いた場合には、凝集度は「小」となる。
【0044】
以上の実施例1乃至7から判るように、熱処理温度が高くなると熱処理粉体16が凝集しやすく、凝集を抑制する観点から、この熱処理温度は1300℃以下、好ましくは1200℃以下である。
【0045】
また、MgOからなる凝集防止粉3を少なくとも0.1wt%以上添加することで熱処理粉体16の凝集を抑制でき、また添加量を増加させるほど、より高い熱処理温度でも凝集を抑制できる。すなわち、成形加工が容易となる。
【0046】
また、MgOからなる凝集防止粉3の添加量が同じであれば、粒径を小とすると、粒子の数が増えて凝集をより抑制できる。少なくとも、凝集防止粉3の粒径を3.2μmよりも小さくすると、凝集を抑制できて、成形加工が容易となる。
【0047】
さらに、実施例8のように、TiO2からなる1.2μmの平均粒径(D50)の凝集防止粉3を2.0wt%添加し、熱処理温度を1200℃としたところ、凝集度は「小」であった。同様に、実施例9のように、Al2O3からなる0.2μmの平均粒径(D50)の凝集防止粉3を1.0wt%添加し、熱処理温度を1200℃としたところ、凝集度は小であった。つまり、MgOをTiO2又はAl2O3で置き換え得る。
【0048】
〔評価試験2〕
次に、上記した製造方法において、図12に示す複数の製造条件で圧粉磁心10を製造し、その磁気特性を評価した。上記した評価試験1と同様に、製造過程における熱処理粉体16の凝集度についても評価した。この結果も図12に併せて示す。
【0049】
なお、実施例10乃至14、実施例18乃至24、及び、比較例6及び7において、中間混合ステップ(S2)及び熱処理ステップ(S3)までは、評価試験1と同一製造条件である。すなわち、評価試験2の評価試験1との対応において、実施例10と1、実施例11と2、実施例12と3、実施例13と6、実施例14と7、実施例18と8、実施例19と実施例9、実施例20と実施例4、実施例21乃至24と7、比較例6及び7と比較例1がそれぞれ対応する。すなわち、評価試験1及び2で同一製造条件の実施例及び比較例の相互間では当然ながら、凝集度の評価は共通する。
【0050】
磁気特性の評価は、図2に示すような圧粉磁心10にエナメル線を一次巻線11として180ターン、二次巻線12として20ターン巻回させた評価用サンプルを製作して行った。鉄損の測定は、交流BH測定装置を用い、磁束密度0.2T、周波数10kHzの正弦波の交流磁界を与えて行った。また、直流磁気測定を行い、10kA/mの印加磁界での磁束密度(B10k)を測定した。この結果も図12に併せて示す。
【0051】
まず、比較例6及び7のように、凝集防止粉3を添加しなくとも、550℃程度の比較的低い熱処理温度では凝集度は「小」である。一方で、純Fe粉2の内部の歪みを完全に除去できず、ヒステリシス損は比較的大きい。これに対して、実施例10乃至23のように、凝集防止粉3を添加することで、凝集度は「小」のまま、1100〜1200℃の高い熱処理温度で処理できる。つまり、純Fe粉2の内部の歪みを除去できて、ヒステリシス損が大幅に小さくなる。その結果として、鉄損を小さくできる。
【0052】
以上、ヒステリシス損及び鉄損を減じる観点から、熱処理ステップ(S3)の熱処理温度は、800℃以上であって、好ましくは1100℃以上である。一方で、評価試験1での凝集性を抑制する観点から、上記したように同熱処理温度は1300℃以下である。つまり、熱処理温度は800〜1300℃、好ましくは900〜1250℃、さらに好ましくは1000〜1200℃である。
【0053】
なお、比較例6のように、Si微細粉4を添加しなかった場合、純Fe粉2の粒子同士の絶縁が小さくなり、比較例7のように、Si微細粉4を添加した場合と比較して、比抵抗が小さくなってしまう。かかる場合、渦電流損が大きくなり、鉄損も大きくなる。故に、混合ステップ(S4)において、Si微細粉4を添加することが好ましい。
【0054】
ところで、実施例15乃至17に示すように、MgOからなる凝集防止粉3の添加量を増加させると、磁気焼鈍後の密度や磁束密度が低下し、鉄損が上昇する傾向にある。つまり、非磁性体であるMgOのような凝集防止粉3の含有量が圧粉磁心10の中で相対的に増えることによる。そこで、鉄損を上昇させないためには、このような凝集防止粉3の添加量は少ない方が好ましい。かかる観点からは、凝集防止粉3の添加量は、12wt%以下であり、好ましくは、8wt%以下である。一方で、評価試験1での凝集性を抑制する観点から、凝集防止粉3の添加量は0.1wt%以上で添加されることが好ましい。つまり、凝集防止粉3の添加量は、0.1〜12wt%、好ましくは、0.1〜8wt%、より好ましくは、0.1〜4wt%、さらに好ましくは1.0〜2.0wt%である。
【0055】
また、実施例13及び14に示すように、MgOからなる凝集防止粉3の平均粒径(D50)を小さくしても、圧粉磁心10の磁気特性に差はほとんどない。一方で、評価試験1での凝集性を抑制する観点から、上記したように、平均粒径(D50)は3μm以下が好ましい。つまり、凝集防止粉3の平均粒径(D50)を小さくすると、より少ない量で凝集性を抑制し得て、上記した磁気焼鈍後の密度や磁束密度の低下を抑制し、鉄損を抑えられる。そこで、少なくとも凝集防止粉3の平均粒径(D50)は、3μmであることが好ましい。
【0056】
更に、実施例18及び19に示すように、凝集防止粉3をMgOからTiO2又はAl2O3に置き換えても、同様に良好な圧粉磁心10の磁気特性を得られる。
【0057】
また、実施例20に示すように、Si微粉末4を添加しなかった場合においても、凝集防止粉3を添加しなかった比較例6と比べて、高い熱処理温度によってヒステリシス損を低減できる。さらには渦電流損をSiを添加した他の実施例と同等の低いレベルにまで低減できる。つまり、凝集防止粉3を添加することで、比較例6に対し鉄損を大幅に低減することができた。
【0058】
更に、実施例14、実施例21乃至24に示すように、磁気焼鈍の熱処理温度を変化させると、鉄損、特にヒステリシス損が大きく変化する。すなわち、図13に示すように、磁気焼鈍しない実施例24では、鉄損が最も大きい。つまり、磁気焼鈍を与えることで鉄損を減じ得る。また、熱処理温度をそれぞれ550℃及び750℃と上昇させた実施例21及び14では、ヒステリシス損の減少とともに鉄損が減少する。つまり、磁気焼鈍の熱処理温度を高くすることで、成形加工における成形歪みをより効果的に除去できる。
【0059】
また、磁気焼鈍の熱処理温度をそれぞれ850℃及び900℃と更に上昇させた実施例22及び23では、再びヒステリシス損が増加し、渦電流損もわずかに増加する。その結果、鉄損が増加する。つまり、磁気焼鈍の熱処理温度が高すぎると、バインダ5の軟化やSi微細粉4からのSi原子の拡散などを原因として、純Fe粉2の粒子同士の絶縁が低下する。図13から好ましい熱処理温度は550〜850℃、より好ましくは600〜800℃、更に好ましくは650〜750℃である。
【0060】
以上、本発明による実施例及びこれに基づく変形例を説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0061】
1 金属粉体
2 純Fe粉
3 凝集防止粉
4 Si微細粉
10 圧粉磁心
16 熱処理粉体
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉磁心の製造方法及び圧粉磁心のための加圧成形用粉体に関し、特に、鉄を主成分とする金属磁性粉からなる粉体を加圧成形して得られる圧粉磁心の製造方法及びこのような圧粉磁心のための加圧成形用粉体に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄(Fe)などの金属磁性粉末にバインダを混合し圧縮成形して得られる圧粉磁心がある。このような圧粉磁心の鉄損を減じるには、電気抵抗を上げて渦電流損を低減させ、また、保磁力を小さくしてヒステリシス損を低減させることが考慮される。
【0003】
渦電流損は、磁心内部の渦電流によるもので、金属磁性粉末の粒子間の電気抵抗を上げることで低減され得る。例えば、特許文献1では金属磁性粉末の原料である純Fe粉粒子の表面を覆って、所定の金属元素の酸化物、炭酸塩及び硫酸塩のうちから選ばれる少なくとも1種類からなる絶縁層を与え、さらにシリコーン樹脂を被覆した圧粉磁心用の粉体が開示されている。純Fe粉粒子を覆うように絶縁層をより強固に結合させ得るから、加圧成形時の絶縁層の破壊による絶縁性の低下を防止できると述べている。さらにシリコーン樹脂による絶縁性も付加されるので、圧粉磁心にさらに高い絶縁性を与える、とも述べている。つまり、圧粉磁心の電気抵抗を上げて渦電流損を低減させ得るのである。
【0004】
一方、ヒステリシス損は、金属磁性粉末からなる原料粉末の製造時に金属磁性粉末に蓄積される内部歪みや、成形加工(圧縮成形)時に金属磁性粉末に与えられる塑性加工歪みや残留応力などに起因して生じる。故に、これらを取り除く熱処理を与えることでヒステリシス損は低減され得る。例えば、特許文献2では、Fe−Si系合金やFe−Ni系合金などの軟磁性合金からなる原料粉末に対して、内部歪みを取り除くための熱処理を与えた後に成形加工する圧粉磁心の製造方法を開示している。ここで、熱処理において原料粉末が凝集し団塊状に固化してしまうと成形加工に悪影響を与えてしまう。そこで、渦電流損を低減させるために成形加工時に金属磁性粉を覆って絶縁性を与える絶縁性材料、例えば、Al2O3粉末、SiO2粉末のような酸化物粉末や、AlN粉末、Si3N4粉末、BN粉末のような窒化物粉末を、熱処理前の原料粉末に混合することが併せて開示されている。かかる方法によれば、成形加工に影響を与えることなく原料粉末の内部歪みを緩和できて、結果として、得られる圧粉磁心の保磁力を低下させ、圧粉磁心のヒステリシス損を低減させ得るのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−43361号公報
【特許文献2】特開2002−57020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、アトマイズなどの製造工程で得られる原料粉末には、凝固時の歪みなどの内部歪みが蓄積され、得られる圧粉磁心の特性に影響を与えてしまう。故に、これを除去する熱処理を与えることが好ましく、十分な除去には、例えば750〜800℃程度以上の高い温度での熱処理が好ましい。しかし、純Feのような純金属は、これにケイ素を含有させたFe−Si系合金などの合金と比較して軟らかく変形し易いため、熱処理により原料粉末の粒子同士が固着してしまう。すなわち、純Fe原料粉末は550℃以上で凝集しはじめ、さらに高い温度では、強固に団塊状に固化して成形加工に悪影響を与えてしまうのである。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、鉄損を低減させる圧粉磁心の製造方法及びそのような圧粉磁心のための加圧成形用粉体の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による圧粉磁心のための加圧成形用粉体は、金属磁性粉末からなる粉体を加圧成形して得られる圧粉磁心のための加圧成形用粉体であって、表面の一部に酸化マグネシウム(MgO)、酸化チタン(TiO2)、又は、アルミナ(Al2O3)の少なくとも1つからなる凝集防止粉を与えられ、さらに表面全体を覆うようにしてバインダを与えられた純Feからなる純Fe粉を含む混合体であることを特徴とする。
【0009】
かかる発明によれば、凝集防止粉を純Fe粉の表面の一部に与えた上で、バインダがこれらの表面を覆うように与えられている。故に、加圧成形後に得られる圧粉磁心において、凝集防止粉が鉄損を増加させることなく、一方で、純Fe粉同士の絶縁が確保され、圧粉磁心の鉄損を低減できるのである。
【0010】
また、上記した発明において、前記純Fe粉は、その表面に純SiからなるSi微粉末を前記バインダとともに前記凝集防止粉の上から与えられていることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、加圧成形後に得られる圧粉磁心において、純Si微細粉が純Fe粉末同士をより確実に絶縁し、結果として、圧粉磁心の鉄損を低減できる。
【0011】
また、上記した発明において、前記凝集防止粉は3μm以下の平均粒径の粒子からなることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、加圧成形後に得られる圧粉磁心において、凝集防止粉が鉄損を増加させることなく、圧粉磁心の鉄損を低減できる。
【0012】
更に、本発明による圧粉磁心の製造方法は、金属磁性粉末からなる粉体を加圧成形して得られる圧粉磁心の製造方法であって、アトマイズ法により純Fe粉末を得るステップと、前記純Fe粉末に酸化マグネシウム(MgO)、酸化チタン(TiO2)、又は、アルミナ(Al2O3)の少なくとも1つからなる凝集防止粉末を混合し、表面の一部に凝集防止粉を与えられた純FeからなるFe粉である中間粉からなる中間粉末を得る中間混合ステップと、前記中間粉末を加熱処理して前記純Fe粉内部に蓄積した歪みを取り除く熱処理ステップと、前記中間粉末にバインダを混合し、表面全体を覆うようにして前記バインダを与えられた純Feからなる純Fe粉を含む混合体を得る混合ステップと、前記混合体を少なくとも加圧成形する成形ステップと、を含むことを特徴とする。
【0013】
かかる発明によれば、凝集防止粉を純Fe粉末の表面の一部に与えた上で、バインダをこれらの表面を覆うように与えた混合体から圧粉磁心を得られる。故に、得られる圧粉磁心において、凝集防止粉が鉄損を増加させることなく、一方で、純Fe粉同士の絶縁が確保され、圧粉磁心の鉄損を低減できるのである。また、凝集防止粉により純Fe粉同士を離間せしめて熱処理ステップが行われるので、純Fe粉同士を凝集させることなく、アトマイズ法により得た純Fe粉の内部歪みを熱処理で十分に除去した上で混合体を得られて、加圧成形後に鉄損を低減した圧粉磁心を得られるのである。
【0014】
また、上記した発明において、前記成形ステップは、前記加圧成形の後に磁気焼鈍するステップを含むことを特徴としてもよい。かかる発明によれば、鉄損をより低減した圧粉磁心を得られる。
【0015】
また、上記した発明において、前記磁気焼鈍は、550℃〜850℃で熱処理するステップであることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、鉄損、特にヒステリシス損を低減した圧粉磁心を得られる。
【0016】
また、上記した発明において、前記混合ステップにおいて、さらに純SiからなるSi微細粉末が混合されることを特徴としてもよい。かかる発明によれば、得られる圧粉磁心において、純Si微細粉が純Fe粉末同士をより確実に絶縁し、圧粉磁心の鉄損を低減できる。つまり、純Fe粉末同士の絶縁を低下させることなく、加圧成形による成形密度を高め得て、得られる圧粉磁心において、高い磁束密度を得られる。
【0017】
また、上記した発明において、前記熱処理ステップにおいて、800℃〜1300℃で熱処理することを特徴としてもよい。かかる発明によれば、純Fe粉同士を凝集させることなく、アトマイズ法により得た純Fe粉末の内部歪みを十分除去した上で混合体を得られて、加圧成形後に、鉄損、特にヒステリシス損を低減した圧粉磁心を得られる。
【0018】
更に、上記した発明において、前記中間混合ステップは、3μm以下の平均粒径の粒子からなる前記凝集防止粉末を前記純Fe粉末に対して重量%で0.1〜8.0%混合することを特徴としてもよい。かかる発明によれば、得られる圧粉磁心において、凝集防止粉が鉄損を増加させず、純Fe粉同士を凝集させることなく熱処理ステップを与え得て、鉄損を低減した圧粉磁心を得られるのである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明による金属粉体の部分断面図である。
【図2】本発明による金属粉体を加圧成形して得られる圧粉磁心の斜視図である。
【図3】本発明による圧粉磁心の製造方法の工程図である。
【図4】本発明による金属粉体の製造過程における粉体の走査電子顕微鏡写真である。
【図5】図4のP1部及びP2部のX線分光スペクトル図である。
【図6】本発明による金属粉体の走査電子顕微鏡写真である。
【図7】図6のQ1部及びQ2部のX線分光スペクトル図である。
【図8】熱処理粉体の製造条件及び凝集度の評価の一覧図である。
【図9】熱処理粉体の解粒ステップ前後の外観写真である。
【図10】熱処理粉体の外観写真である。
【図11】熱処理粉体の解粒ステップ前後の外観写真である。
【図12】圧粉磁心の製造条件及び磁気特性の一覧図である。
【図13】熱処理温度に対する圧粉磁心の(a)鉄損、及び、(b)ヒステリシス損及び渦電流損の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1及び図2を用いて、本発明による1つの実施例としての金属粉体を加圧成形して得られる圧粉磁心及びこの金属粉体について説明する。
【0021】
図1に示すように、金属粉体1は、純鉄からなる純Fe粉2の表面の一部にMgOからなる凝集防止粉3を付着させ、更に、凝集防止粉3の上から純Fe粉2を覆うようにバインダ5を与えた複合粉からなる複合粉末である。後述するように、純Fe粉2の表面には、凝集防止粉3の上からバインダ5とともに微細なSi微細粉4を与えてもよい。
【0022】
純Fe粉2はガスアトマイズ法によって得られ、ここでは50μm程度の平均粒径(D50)の粒子からなる。また、凝集防止粉3は、酸化マグネシウム(MgO)、酸化チタン(TiO2)又はアルミナ(Al2O3)のいずれかであって、0.3〜3.2μmの平均粒径(D50)の粒子からなる。バインダ5には所定の熱処理でガラス質膜を与えるアルコキシシリル基を含むアルコキシオリゴマーからなるバインダを使用することが好ましい。かかるバインダ5は、得られる圧粉磁心において、シロキサン結合を含むガラス質膜を形成すると純Fe粉2の粒子同士を電気的に隔てる絶縁材として働く。
【0023】
また、絶縁材として、サブミクロンオーダー若しくは数ミクロンオーダーの粒径の粒子からなるSi微細粉4を更に与えても良い。Si微細粉4の粒子は純Siからなるが、このような小さな粒子は、その表面が大気中で酸化され易く、表層に酸化ケイ素からなる酸化被膜を与えられた絶縁粉となる。かかる酸化被膜の与えられたSi微細粉4は、後述するように、得られる圧粉磁心において、純Fe粉2の粒子同士を電気的に隔てる絶縁材として働く。また、アルコキシオリゴマーからなるバインダ5は、Siを含有するアルコキシシリル基を含むため、Si微細粉4と親和性が高い。そのため、バインダ5及びSi微細粉4は互いに安定して凝集防止粉3を与えられた純Fe粉2の全周を覆うように与えられ得る。
【0024】
ところで、凝集防止粉3を純Fe粉2の粒子の表面の一部に付着させることで、純Fe粉2の粒子同士の間隔を離間させ得る。酸化マグネシウム(MgO)、酸化チタン(TiO2)又はアルミナ(Al2O3)のような無機材料からなる凝集防止粉3は高温でも物理的に安定であるから、純Fe粉2は、後述するような高い熱処理温度に曝されても粒子同士を隔てられて互いに固着しづらくなるため凝集しづらいのである。つまり、高温での熱処理により純Fe粉2の製粉工程で与えられた粒子内部の歪みを十分除去することが出来て、しかも、純Fe粉2の粒子同士が凝集しづらく、容易に「ばらける」ため、バインダ5との混合が十分になされる。これにより、純Fe粉2の粒子の表面を覆うようにバインダ5を与えた混合体である金属粉体1を得ることができる。なお、高温での熱処理において純Fe粉2の粒子同士が容易に「ばらける」ことについては後述する。
【0025】
上記したような金属粉体1を少なくとも加圧成形することで圧粉磁心が得られる。例えば、図2に示すような外径28mm、内径20mm、厚さ5mmの環状の圧粉磁心10を得られる。圧粉磁心10は、上記したように、粒子内部の歪みを除去した金属粉体1から得られるのでその保磁力を小さくすることができ、従ってヒステリシス損を低減できる。すなわち、鉄損を低減した圧粉磁心10を得ることができる。また、加圧成形による成形歪みを簡単な磁気焼鈍で除去できて、ヒステリシス損が低減されるので、磁気焼鈍を行うことが好ましい。
【0026】
ここで、Si微細粉4を与えた場合、Si微細粉4はサブミクロンオーダー若しくは数ミクロンオーダーの粒径を有するために容易に酸化され、圧粉磁心10の上記した絶縁性をより高め得る。また、圧粉磁心10の純Feからなる粒子同士はサブミクロンオーダー若しくは数ミクロンオーダーのSi微細粉4を間に挟んだ間隔にまで近接されて、加圧成形における成形密度を高め得る。つまり、圧粉磁心10は高い磁束密度を得ることができるのである。なお、凝集防止粉3は純Fe粉2の粒子の表面の一部にしか付着しておらず、圧粉磁心10の磁束密度に大きな影響を与えない。
【0027】
次に、本発明による1つの実施例である圧粉磁心10の製造方法について、図4乃至図12を参照しつつ、図3に沿って説明する。
【0028】
まず、圧粉磁心10の製造に先だって、凝集防止粉3を用意する。凝集防止粉3は、例えば、ビーズミル装置、ボールミル装置、又は、アトライタミル装置を用いて、酸化マグネシウム(MgO)、酸化チタン(TiO2)又はアルミナ(Al2O3)のいずれかからなる塊を所定の粒度まで粉砕して得られる。典型的には、0.2〜3.2μmの平均粒径(D50)である。
【0029】
図3に示すように、純Feアトマイズステップ(S1)では、溶解した純Feを重力落下させ、これをノズル先端から高速で噴出させて水やガス等の媒体に衝突させる。すると、急冷されて球状に凝固した純Fe粉2が得られる。
【0030】
中間混合ステップ(S2)では、純Fe粉2に凝集防止粉3を0.1wt%以上添加し、湿式溶媒であるアセトン中で混合分散させ乾燥させた。なお、乾燥においては、雰囲気を真空又は不活性ガスとすることで、純Fe粉2の酸化を防止する。これにより、凝集防止粉3は、純Fe粉2の粒子の表面の一部に付着する。
【0031】
熱処理ステップ(S3)では、純Feアトマイズステップ(S1)などで与えられた純Fe粉2の粒子の内部歪を除去するために、純Fe粉2を還元雰囲気中で酸化を防止しつつ焼鈍する。本実施例では、水素によって還元雰囲気を得て、800℃〜1300℃、好ましくは1200℃以下の所定の温度で3時間加熱した。上記したように、純Fe粉2の粒子同士は、高温でも安定な凝集防止粉3によって隔てられているため、純Fe粉2の粒子内部の歪みを十分に除去するよう、熱処理温度を高めたとしても、純Fe粉2は互いに接触しにくく凝集しづらい。なお、本実施例では、還元雰囲気を得るために水素を用いたが、アルゴンや窒素等の不活性ガスや非酸化性ガスを用いてもよく、また真空ポンプなどを用いて真空状態で熱処理してもよい。
【0032】
ここで、凝集防止粉3にMgOを用い、熱処理ステップ(S3)を経た熱処理粉体16を電子顕微鏡で観察した写真を図4に示す。また、同図の暗部P1及び明部P2について、エネルギー分散型X線分光法によりその表面の成分分析を行った。この結果を図5(a)及び(b)に示す。図4に示す電子顕微鏡像の暗部P1では、図5(a)に示すようにMgOに対応するMgのピークが明瞭に観察されるのに対し、明部P2では、図5(b)に示すようにMgOに対応するMgのピークがほとんど観察されない。つまり、熱処理粉体16では、MgOからなる凝集防止粉3は純Fe粉2の表面の全体ではなく一部に付着している。なお、凝集防止粉3にTiO2又はAl2O3を用いた場合も同様に、凝集防止粉3は純Fe粉2の表面の全体ではなく一部に付着している。なお、純Feは、例えばSiを含有するFe−Si系合金などと比較して熱処理ステップ(S3)において軟らかく、変形しやすい。そのため、純Fe粉2同士が互いに固着しやすく、これを防止する凝集防止粉3が有効である。
【0033】
続いて、混合ステップ(S4)では、熱処理粉体16に、バインダ5を所定量、例えば、1wt%加え、アセトン溶媒中で混合し分散させた後、乾燥させる。さらに、真空中において245℃×1分間の仮焼を施してバインダの一部を分解させると同時に純Fe粉の表面にバインダを固定化させて、金属粉体1を得る。Si微細粉4を更に与える場合にあっては、アトマイズ法や粉砕法などで得られたサブミクロン若しくは数ミクロンオーダーの粒径の純Si微細粉を混合ステップ(S4)において、バインダ5とともに所定量、例えば、0.5wt%ほど加える。
【0034】
ここで、凝集防止粉3にMgOを用い上記したようにしてSi微細粉4も加えて得た金属粉体1を電子顕微鏡で観察した写真を図6に示す。また、同図の暗部Q1及び明部Q2について、エネルギー分散型X線分光法によりその表面の成分分析を行った。この結果を図7(a)及び(b)に示す。図6に示す電子顕微鏡像の暗部Q1では、図7(a)に示すようにMgOに対応するMgのピークとともにSiのピークも明瞭に観察される。一方、明部Q2では、図7(b)に示すようにMgOに対応するMgのピークはほとんど観察されず、Siのピークが明瞭に観察される。つまり、金属粉体1では、MgOからなる凝集防止粉3を一部に付着した純Fe粉2の表面全体を覆うように、バインダ5及びSi微細粉4が被膜を形成している。
【0035】
成形加工ステップ(S5)では、例えば、図2に示すような圧粉磁心10の形状に金属粉体1を成形するステップであって、所定の形状の金型に金属粉体1を充填し、室温で15ton/cm2の圧力でプレスして加圧成形する。バインダ5による被膜が凝集防止粉3の付着した純Fe粉2の粒子の表面全体を覆っているので、加圧成形によっても純Fe粉2の粒子同士を確実に絶縁して、得られる圧粉磁心10に高い比抵抗を与える。さらに、磁気焼鈍を施し、最終的な圧粉磁心10を得る。磁気焼鈍の条件については、加圧成形後に得られる圧粉磁心の鉄損をなるべく最小にするよう適宜設定され、水素、窒素、アルゴン、真空などの非酸化性雰囲気とすることが望ましい。本実施例においては窒素雰囲気中で550℃〜900℃×0.5時間の加熱を施すこととした。
【0036】
以上の製造方法によれば、凝集防止粉3を純Fe粉2の表面の一部に与えた上で、バインダ5がこれらの表面全体を覆うように与えられる。故に、成形加工ステップ(S5)後に得られる圧粉磁心20において、凝集防止粉3が鉄損を増加させることなく、一方で、純Fe粉2同士をバインダ5が確実に絶縁するので、結果として、鉄損を低減できるのである。更に、凝集防止粉3により純Fe粉2同士を離間せしめて熱処理ステップ(S3)が行われるので、純Fe粉2同士を凝集させることなく、アトマイズ法により得た純Fe粉2の内部歪みを熱処理で十分に除去した上で加圧成形用粉体を提供できて、結果として、成形加工ステップ(S5)後に得られる圧粉磁心20において、鉄損を低減できるのである。
【0037】
[評価試験1]
次に、上記した製造方法において、図8に示す複数の製造条件で熱処理粉体16を製造し、その凝集の程度を評価した。なお、図8における実施例及び比較例の区別は、それぞれ本発明による加圧成形用粉体となり得る中間体としての熱処理粉体16であるかどうかによって便宜的に用いた。
【0038】
まず、純Feアトマイズステップ(S1)により得られた純Fe粉2は、純Feからなる50μmの平均粒径(D50)の粉体である。また、凝集防止粉3は、特記(実施例7乃至9)されない限り、MgOからなる3.2μmの平均粒径(D50)の粉体である。また、中間混合ステップ(S2)では、凝集防止粉3を最大2.0wt%までFe粉末2に添加し、アセトン溶媒中で混合分散させ乾燥させ、純Fe粉2の粒子の表面の一部に凝集防止粉3を付着させた。熱処理ステップ(S3)では、これを四角い容器の中に入れ、水素雰囲気中において550〜1300℃の各温度で3時間の熱処理を施した。以上により得られた熱処理粉体16の凝集の程度を評価した。
【0039】
熱処理粉体16の凝集の程度の評価については、熱処理ステップ(S3)の後に得られた熱処理粉体16を100メッシュのふるいにかけ、熱処理粉体16の粉末の重量のうち、ふるいを通過した重量の全重量に対する割合を測定し、この収率から評価した。すなわち、収率80%以上の場合に「小」、収率50%以上80%未満の場合に「中」、収率50%未満の場合に「大」とした。なお、凝集度「小」の熱処理粉体は続く混合ステップ(S4)及び成形加工ステップ(S5)にほとんど影響を与えず、凝集度「中」の熱処理粉体16は、後述するように一部に塊粒を有するが、この塊粒を「ばらけさせる」ための解粒ステップを与えることで、続く混合ステップ(S4)及び成形加工ステップ(S5)に影響を与えることなく成形加工ができる。他方、凝集度「大」の熱処理粉体は、解粒ステップを与えても「ばらけさせる」ことが困難なため、続く混合ステップ(S4)におけるSi微細粉4及びバインダ5との混合が不十分あるいは不可能となったり、成形加工ステップ(S5)における金型への充填の際に大きな空隙が生じるなど、成形加工が困難となる。
【0040】
まず、図8に示すように、中間混合ステップ(S2)において、凝集防止粉3を添加しなかった比較例1乃至5では、熱処理温度650℃以上で凝集度は「中」となり、解粒ステップを経た上で成形加工できる。しかし、熱処理温度950℃で凝集度は「大」となり、解粒が難しくなって成形加工が困難となる。
【0041】
ここで凝集度「中」の比較例2において、図9(a)に示すように、熱処理ステップ(S3)の後には、熱処理粉体16はいくつかの大きな塊粒16aを多く含む。しかしながら、同図(b)に示すように、塊粒16aに軽く力を加えると、元の粉末に「ばらけて」簡単に戻る。また、凝集度「大」の比較例5において、図10に示すように、熱処理粉体16は四角い容器の形状を転写した単一の大きな塊粒16bに凝集、固化し、塊粒16bは容易に元の粉末には解粒できない。かかる場合、成形加工は困難となる。
【0042】
図8に戻って、実施例1のように、凝集防止粉3を0.1wt%添加した場合、熱処理温度を1100℃まで高くしても、凝集度は「中」となり解粒ステップを経た上で、成形加工できる。例えば、図11には、熱処理温度950℃とした以外、実施例1と同じ条件で得た熱処理粉体16の外観を示す。やはり、熱処理ステップ(S3)の後には、熱処理粉体16はいくつかの大きな塊粒16aを多く含む。しかしながら、同図(b)に示すように、塊粒16aは軽く力を加えると、元の粉末に「ばらけて」簡単に戻るのである。
【0043】
さらに、実施例2及び3のように、凝集防止粉3を1.0〜2.0wt%と更に多く添加した場合、熱処理温度を1100℃としても凝集度は「小」となる。また、凝集防止粉3を2.0wt%と多く添加した場合、実施例4のように、熱処理温度を1200℃としても凝集度は「小」である。更に実施例5のように、熱処理温度を1300℃としても凝集度は「中」であって、解粒工程を経た上で成形加工が可能である。また、実施例6のように、3.2μmの平均粒径(D50)の凝集防止粉3を用いた場合には、添加量を1.0wt%、熱処理温度を1200℃とすると凝集度は「中」であるが、実施例7のように、0.3μmの平均粒径(D50)の凝集防止粉3を用いた場合には、凝集度は「小」となる。
【0044】
以上の実施例1乃至7から判るように、熱処理温度が高くなると熱処理粉体16が凝集しやすく、凝集を抑制する観点から、この熱処理温度は1300℃以下、好ましくは1200℃以下である。
【0045】
また、MgOからなる凝集防止粉3を少なくとも0.1wt%以上添加することで熱処理粉体16の凝集を抑制でき、また添加量を増加させるほど、より高い熱処理温度でも凝集を抑制できる。すなわち、成形加工が容易となる。
【0046】
また、MgOからなる凝集防止粉3の添加量が同じであれば、粒径を小とすると、粒子の数が増えて凝集をより抑制できる。少なくとも、凝集防止粉3の粒径を3.2μmよりも小さくすると、凝集を抑制できて、成形加工が容易となる。
【0047】
さらに、実施例8のように、TiO2からなる1.2μmの平均粒径(D50)の凝集防止粉3を2.0wt%添加し、熱処理温度を1200℃としたところ、凝集度は「小」であった。同様に、実施例9のように、Al2O3からなる0.2μmの平均粒径(D50)の凝集防止粉3を1.0wt%添加し、熱処理温度を1200℃としたところ、凝集度は小であった。つまり、MgOをTiO2又はAl2O3で置き換え得る。
【0048】
〔評価試験2〕
次に、上記した製造方法において、図12に示す複数の製造条件で圧粉磁心10を製造し、その磁気特性を評価した。上記した評価試験1と同様に、製造過程における熱処理粉体16の凝集度についても評価した。この結果も図12に併せて示す。
【0049】
なお、実施例10乃至14、実施例18乃至24、及び、比較例6及び7において、中間混合ステップ(S2)及び熱処理ステップ(S3)までは、評価試験1と同一製造条件である。すなわち、評価試験2の評価試験1との対応において、実施例10と1、実施例11と2、実施例12と3、実施例13と6、実施例14と7、実施例18と8、実施例19と実施例9、実施例20と実施例4、実施例21乃至24と7、比較例6及び7と比較例1がそれぞれ対応する。すなわち、評価試験1及び2で同一製造条件の実施例及び比較例の相互間では当然ながら、凝集度の評価は共通する。
【0050】
磁気特性の評価は、図2に示すような圧粉磁心10にエナメル線を一次巻線11として180ターン、二次巻線12として20ターン巻回させた評価用サンプルを製作して行った。鉄損の測定は、交流BH測定装置を用い、磁束密度0.2T、周波数10kHzの正弦波の交流磁界を与えて行った。また、直流磁気測定を行い、10kA/mの印加磁界での磁束密度(B10k)を測定した。この結果も図12に併せて示す。
【0051】
まず、比較例6及び7のように、凝集防止粉3を添加しなくとも、550℃程度の比較的低い熱処理温度では凝集度は「小」である。一方で、純Fe粉2の内部の歪みを完全に除去できず、ヒステリシス損は比較的大きい。これに対して、実施例10乃至23のように、凝集防止粉3を添加することで、凝集度は「小」のまま、1100〜1200℃の高い熱処理温度で処理できる。つまり、純Fe粉2の内部の歪みを除去できて、ヒステリシス損が大幅に小さくなる。その結果として、鉄損を小さくできる。
【0052】
以上、ヒステリシス損及び鉄損を減じる観点から、熱処理ステップ(S3)の熱処理温度は、800℃以上であって、好ましくは1100℃以上である。一方で、評価試験1での凝集性を抑制する観点から、上記したように同熱処理温度は1300℃以下である。つまり、熱処理温度は800〜1300℃、好ましくは900〜1250℃、さらに好ましくは1000〜1200℃である。
【0053】
なお、比較例6のように、Si微細粉4を添加しなかった場合、純Fe粉2の粒子同士の絶縁が小さくなり、比較例7のように、Si微細粉4を添加した場合と比較して、比抵抗が小さくなってしまう。かかる場合、渦電流損が大きくなり、鉄損も大きくなる。故に、混合ステップ(S4)において、Si微細粉4を添加することが好ましい。
【0054】
ところで、実施例15乃至17に示すように、MgOからなる凝集防止粉3の添加量を増加させると、磁気焼鈍後の密度や磁束密度が低下し、鉄損が上昇する傾向にある。つまり、非磁性体であるMgOのような凝集防止粉3の含有量が圧粉磁心10の中で相対的に増えることによる。そこで、鉄損を上昇させないためには、このような凝集防止粉3の添加量は少ない方が好ましい。かかる観点からは、凝集防止粉3の添加量は、12wt%以下であり、好ましくは、8wt%以下である。一方で、評価試験1での凝集性を抑制する観点から、凝集防止粉3の添加量は0.1wt%以上で添加されることが好ましい。つまり、凝集防止粉3の添加量は、0.1〜12wt%、好ましくは、0.1〜8wt%、より好ましくは、0.1〜4wt%、さらに好ましくは1.0〜2.0wt%である。
【0055】
また、実施例13及び14に示すように、MgOからなる凝集防止粉3の平均粒径(D50)を小さくしても、圧粉磁心10の磁気特性に差はほとんどない。一方で、評価試験1での凝集性を抑制する観点から、上記したように、平均粒径(D50)は3μm以下が好ましい。つまり、凝集防止粉3の平均粒径(D50)を小さくすると、より少ない量で凝集性を抑制し得て、上記した磁気焼鈍後の密度や磁束密度の低下を抑制し、鉄損を抑えられる。そこで、少なくとも凝集防止粉3の平均粒径(D50)は、3μmであることが好ましい。
【0056】
更に、実施例18及び19に示すように、凝集防止粉3をMgOからTiO2又はAl2O3に置き換えても、同様に良好な圧粉磁心10の磁気特性を得られる。
【0057】
また、実施例20に示すように、Si微粉末4を添加しなかった場合においても、凝集防止粉3を添加しなかった比較例6と比べて、高い熱処理温度によってヒステリシス損を低減できる。さらには渦電流損をSiを添加した他の実施例と同等の低いレベルにまで低減できる。つまり、凝集防止粉3を添加することで、比較例6に対し鉄損を大幅に低減することができた。
【0058】
更に、実施例14、実施例21乃至24に示すように、磁気焼鈍の熱処理温度を変化させると、鉄損、特にヒステリシス損が大きく変化する。すなわち、図13に示すように、磁気焼鈍しない実施例24では、鉄損が最も大きい。つまり、磁気焼鈍を与えることで鉄損を減じ得る。また、熱処理温度をそれぞれ550℃及び750℃と上昇させた実施例21及び14では、ヒステリシス損の減少とともに鉄損が減少する。つまり、磁気焼鈍の熱処理温度を高くすることで、成形加工における成形歪みをより効果的に除去できる。
【0059】
また、磁気焼鈍の熱処理温度をそれぞれ850℃及び900℃と更に上昇させた実施例22及び23では、再びヒステリシス損が増加し、渦電流損もわずかに増加する。その結果、鉄損が増加する。つまり、磁気焼鈍の熱処理温度が高すぎると、バインダ5の軟化やSi微細粉4からのSi原子の拡散などを原因として、純Fe粉2の粒子同士の絶縁が低下する。図13から好ましい熱処理温度は550〜850℃、より好ましくは600〜800℃、更に好ましくは650〜750℃である。
【0060】
以上、本発明による実施例及びこれに基づく変形例を説明したが、本発明は必ずしもこれに限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0061】
1 金属粉体
2 純Fe粉
3 凝集防止粉
4 Si微細粉
10 圧粉磁心
16 熱処理粉体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属磁性粉末からなる粉体を加圧成形して得られる圧粉磁心のための加圧成形用粉体であって、
表面の一部に酸化マグネシウム(MgO)、酸化チタン(TiO2)、又は、アルミナ(Al2O3)の少なくとも1つからなる凝集防止粉を与えられ、さらに表面全体を覆うようにしてバインダを与えられた純Feからなる純Fe粉を含む混合体であることを特徴とする圧粉磁心のための加圧成形用粉体。
【請求項2】
前記純Fe粉は、その表面に純SiからなるSi微粉末を前記バインダとともに前記凝集防止粉の上から与えられていることを特徴とする請求項1記載の加圧成形用粉体。
【請求項3】
前記凝集防止粉は3μm以下の平均粒径の粒子からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の加圧成形用粉体。
【請求項4】
金属磁性粉末からなる粉体を加圧成形して得られる圧粉磁心の製造方法であって、
アトマイズ法により純Fe粉末を得るステップと、
前記純Fe粉末に酸化マグネシウム(MgO)、酸化チタン(TiO2)、又は、アルミナ(Al2O3)の少なくとも1つからなる凝集防止粉末を混合し、表面の一部に凝集防止粉を与えられた純FeからなるFe粉である中間粉からなる中間粉末を得る中間混合ステップと、
前記中間粉末を加熱処理して前記純Fe粉内部に蓄積した歪みを取り除く熱処理ステップと、
前記中間粉末にバインダを混合し、表面全体を覆うようにして前記バインダを与えられた純Feからなる純Fe粉を含む混合体を得る混合ステップと、
前記混合体を少なくとも加圧成形する成形ステップと、を含むことを特徴とする圧粉磁心の製造方法。
【請求項5】
前記成形ステップは、前記加圧成形の後に磁気焼鈍するステップを含むことを特徴とする請求項4記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項6】
前記磁気焼鈍は、550℃〜850℃で熱処理するステップであることを特徴とする請求項5記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項7】
前記混合ステップにおいて、さらに純SiからなるSi微細粉末が混合されることを特徴とする請求項4乃至6のうちの1つに記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項8】
前記熱処理ステップにおいて、800℃〜1300℃で熱処理することを特徴とする請求項4乃至7のうちの1つに記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項9】
前記中間混合ステップは、3μm以下の平均粒径の粒子からなる前記凝集防止粉末を前記純Fe粉末に対して重量%で0.1〜8.0%混合することを特徴とする請求項4乃至8のうちの1つに記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項1】
金属磁性粉末からなる粉体を加圧成形して得られる圧粉磁心のための加圧成形用粉体であって、
表面の一部に酸化マグネシウム(MgO)、酸化チタン(TiO2)、又は、アルミナ(Al2O3)の少なくとも1つからなる凝集防止粉を与えられ、さらに表面全体を覆うようにしてバインダを与えられた純Feからなる純Fe粉を含む混合体であることを特徴とする圧粉磁心のための加圧成形用粉体。
【請求項2】
前記純Fe粉は、その表面に純SiからなるSi微粉末を前記バインダとともに前記凝集防止粉の上から与えられていることを特徴とする請求項1記載の加圧成形用粉体。
【請求項3】
前記凝集防止粉は3μm以下の平均粒径の粒子からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の加圧成形用粉体。
【請求項4】
金属磁性粉末からなる粉体を加圧成形して得られる圧粉磁心の製造方法であって、
アトマイズ法により純Fe粉末を得るステップと、
前記純Fe粉末に酸化マグネシウム(MgO)、酸化チタン(TiO2)、又は、アルミナ(Al2O3)の少なくとも1つからなる凝集防止粉末を混合し、表面の一部に凝集防止粉を与えられた純FeからなるFe粉である中間粉からなる中間粉末を得る中間混合ステップと、
前記中間粉末を加熱処理して前記純Fe粉内部に蓄積した歪みを取り除く熱処理ステップと、
前記中間粉末にバインダを混合し、表面全体を覆うようにして前記バインダを与えられた純Feからなる純Fe粉を含む混合体を得る混合ステップと、
前記混合体を少なくとも加圧成形する成形ステップと、を含むことを特徴とする圧粉磁心の製造方法。
【請求項5】
前記成形ステップは、前記加圧成形の後に磁気焼鈍するステップを含むことを特徴とする請求項4記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項6】
前記磁気焼鈍は、550℃〜850℃で熱処理するステップであることを特徴とする請求項5記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項7】
前記混合ステップにおいて、さらに純SiからなるSi微細粉末が混合されることを特徴とする請求項4乃至6のうちの1つに記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項8】
前記熱処理ステップにおいて、800℃〜1300℃で熱処理することを特徴とする請求項4乃至7のうちの1つに記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項9】
前記中間混合ステップは、3μm以下の平均粒径の粒子からなる前記凝集防止粉末を前記純Fe粉末に対して重量%で0.1〜8.0%混合することを特徴とする請求項4乃至8のうちの1つに記載の圧粉磁心の製造方法。
【図2】
【図3】
【図8】
【図12】
【図1】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図3】
【図8】
【図12】
【図1】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【公開番号】特開2012−129217(P2012−129217A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272564(P2010−272564)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】
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