説明

圧縮応力下での鉄損劣化の小さいモータコア

【課題】圧縮応力の存在下においても高周波鉄損特性の劣化が小さいモータコアを提供する。
【解決手段】好ましくは、Si:7mass%以下、Al:3mass%以下、Mn:5mass%以下、S:0.01mass%以下、N:0.005mass%以下、O:0.01mass%以下を含有する成分組成を有する、絶縁被膜を塗布した電磁鋼板を積層し、周方向に10MPa以上の圧縮応力が付与されるモータコアにおいて、上記モータコアを構成する電磁鋼板のバックヨーク部に0.2〜5mmの間隔で電子ビーム照射されてなることを特徴とするモータコア。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家庭用エアコンのコンプレッサーモータや、ハイブリッド電気自動車(EV;Electric Vehicle)の駆動モータや発電機(以降、単に「モータ」という。)などに用いられるモータコアに関し、具体的には、圧縮応力の存在下においても鉄損劣化が小さい(鉄損増加が小さい)モータコアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
家庭用エアコンのコンプレッサーモータは、一般に最高周波数が200〜400Hz程度で可変速運転が行われており、さらに、PWM(Pulse Width Modulation)方式のインバータ制御がなされているものでは、数kHzのキャリア周波数が重畳されて使用されている。また、最近、急速に普及しているハイブリッド電気自動車の駆動モータや発電機も、高出力化や小型化を図る観点から、数kHz程度の周波数で駆動されている。
【0003】
上記のようなモータのステータ(固定子)やロータ(回転子)等のコアに用いられる素材(コア材)には、エネルギー効率を向上する観点から、鉄損が低いことが求められる。そこで、上記モータコア材には、使用される高周波域における鉄損を低減するため、SiとAlを合計で3〜4mass%程度添加したハイグレードの無方向性電磁鋼板が使用されている。
【0004】
ところで、エアコンのコンプレッサーモータやハイブリッド電気自動車のモータでは、ステータをハウジング(モータケース)に固定する方法として、焼き嵌め法や圧入法が採用されており、これに起因して、ステータの円周方向には数10〜100MPa程度の圧縮応力が発生している。また、ハイブリッド電気自動車の駆動モータには、一般に樹脂モールドが施されるため、やはりモータコアには圧縮応力が加わることとなる。このような圧縮応力の存在下では、コアを構成する電磁鋼板の磁気特性が大きく劣化する(鉄損が増加する)ことが知られている。
【0005】
そのため、圧縮応力による鉄損劣化が小さい電磁鋼板の開発が望まれており、斯かる材料としては、例えば、特許文献1には、Si:2.6〜4mass%を添加して比抵抗を50〜75×10−8Ωmとし、さらに、平均結晶粒径を60μm超165μm以下とした無方向性電磁鋼板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4023183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の無方向性電磁鋼板は、現在市販されているハイグレード電磁鋼板と同等レベルの固有抵抗、結晶粒径でしかない。そのため、この材料を用いてモータコアを製造したとしても、圧縮応力による鉄損劣化の程度は従来材と大きく異なるものではない。そのため、鉄損の応力依存性をさらに小さくできる技術の開発が求められている。
【0008】
そこで、本発明の目的は、圧縮応力の存在下においても高周波での鉄損特性の劣化が小さいモータコアを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、上記課題の解決に向けて鋭意検討した。その結果、ステータを構成する、ガラス質の絶縁被膜を塗布した電磁鋼板(以降、「ステータコア材」とも称する。)のバックヨーク部に電子ビーム照射することにより、圧縮応力による鉄損特性の劣化を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、絶縁被膜を塗布した電磁鋼板を積層し、周方向に10MPa以上の圧縮応力が付与されるモータコアにおいて、上記モータコアを構成する電磁鋼板のバックヨーク部に電子ビーム照射されてなることを特徴とするモータコアである。
【0011】
本発明のモータコアにおける上記電磁鋼板は、バックヨーク部に0.2〜5mmの間隔で電子ビーム照射されてなることを特徴とする。
【0012】
また、本発明のモータコアにおける上記電磁鋼板は、電子ビーム照射後、絶縁被膜の上にさらに絶縁被膜が再塗布されてなることを特徴とする。
【0013】
また、本発明のモータコアにおける上記電磁鋼板は、上記電磁鋼板は、Si:7mass%以下、Al:3mass%以下、Mn:5mass%以下、S:0.01mass%以下、N:0.005mass%以下、O:0.01mass%以下を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる成分組成を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、圧縮応力の存在下においても高周波での鉄損増加が小さいモータコアを提供することができる。したがって、本発明のモータコアは、焼き嵌めや圧入あるいは樹脂モールド等によって圧縮応力が付与された状態で使用されるエアコンのコンプレッサ用モータや、ハイブリッド自動車(HV)や電気自動車(EV)の駆動モータや発電機、燃料電池自動車(FCEV)の駆動モータ、高速発電機の高周波回転機等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のモータコアを説明する模式図である。
【図2】ステータコアの高周波鉄損を測定する方法を説明する図である。
【図3】圧縮応力がモータコアの鉄損に及ぼす影響を示すグラフである。
【図4】本発明のモータコアの他の例を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
先ず、本発明の基本的な技術思想について説明する。
家電用エアコンのコンプレッサ用モータやハイブリッド電気自動車用等の駆動モータでは、コアをモータケースに固定する手段として、一般に焼き嵌め法や圧入法が採用されている。この焼き嵌め法や圧入法によってモータコアの周方向に付与される圧縮応力は、20〜150MPa程度であると言われている。この圧縮応力は、モータコアを構成する電磁鋼板の鉄損特性を劣化させ、ひいては、モータ効率を大きく低下させる。そのため、圧縮応力下においても鉄損特性の劣化が小さいモータコアが望まれている。
【0017】
発明者らは、モータのステータを構成する電磁鋼板の圧縮応力下における高周波鉄損特性について調査したところ、圧縮応力の存在下では、ヒステリシス損だけでなく、渦電流損も増加していることが明らかとなった。なお、エアコンのコンプレッサ用モータやハイブリッド自動車等のモータは、基本周波数が高周波であることに加えて、インバータ制御するために数kHzの高調波も重畳されて駆動されているのが一般的である。したがって、高周波鉄損特性を改善するには、渦電流損の増加を抑制することが重要な課題となる。
【0018】
そこで、圧縮応力の存在下で渦電流損が増加する原因について調査したところ、材料に圧縮応力が付与されると、鋼板内の磁化ベクトルは、圧縮応力を緩和するため、鋼板の板面内で圧縮応力と直角方向に向くよう変化する。そのため、この鋼板を磁化しようとすると、圧縮応力がない場合と比べて磁化ベクトルの向きを大きく変化させることが必要となり、そのための渦電流が鋼板板面内に流れるため、無応力のときに比べて渦電流損が増加することが明らかとなった。
【0019】
さらに、発明者らは、圧縮応力が付与されても、渦電流損が増大しないモータコア(ステータ)について検討を重ねた。その結果、ステータを構成する積層された電磁鋼板(ステータコア材)のバックヨーク部の周方向に引張応力を付与することができれば、焼き嵌めにより発生する圧縮応力を緩和することができ、鉄損特性の低下を抑制できるのではないかと考えた。そして、その引張応力付与手段として、電子ビーム照射に着目し、以下の実験を行った。
【0020】
Si:2.8mass%、Al:1.0mass%、Mn:1.0mass%、S:0.0018mass%、N:0.0019mass%、O:0.0015mass%の成分組成からなる板厚:0.30mmの鋼板表面に、絶縁被膜として、クロム酸およびアクリル樹脂を含有する有機・無機複合塗液を塗布した無方向性電磁鋼板を用いて、外径:100mmφ、バックヨーク幅:20mmで、12スロットのステータコア材を打抜加工し、次いで、上記ステータコア材のバックヨーク部に、図1に示したように、周方向に同心円状に2mm間隔で電子ビーム照射した。なお、電子ビーム照射は、電子ビーム加工機(MITSUBISHI製 eフラッシュ(登録商標))を用いて、加速電圧40kV、ビーム電流5mA、ビーム径0.07mmの条件で鋼板表面に照射した。
【0021】
次いで、上記ステータコア材を積み厚30mmに積層してステータコアを作製し、モータケースを模した非磁性のステンレス製リングに、焼き嵌め代を変化させて焼き嵌めし、周方向に0〜100MPaの圧縮応力を発生させた。なお、焼き嵌めにより発生する周方向の圧縮応力は、バックヨーク中央部に歪みゲージを貼り付けて測定した。ここで、焼き嵌め代が0μmとは、ステータコアがリングにまったく固定されていないフリーな状態を意味している。
【0022】
次いで、上記ステンレス製リングに固定したステータコアに、図2のように、ステンレス製リングも含めてバックヨーク部の周囲に励磁コイルおよびピックアップコイルを巻き線し、モータコア円周方向の高周波鉄損(W10/1k)を測定した。図3は、上記測定の結果を、焼き嵌めによって発生したステータ周方向の圧縮応力と高周波鉄損との関係として示したものである。
【0023】
図3から、焼き嵌めを行わない圧縮応力が0PMaのモータコアでは、電子ビーム照射により鉄損は増加すること、しかし、電子ビーム照射をしないモータコアでは、圧縮応力が大きくなるのにともなって鉄損は急激に上昇するが、電子ビーム照射したモータコアでは、圧縮応力による鉄損の上昇が小さいこと、その結果、焼き嵌めによる圧縮応力が10MPa以上発生しているモーコアでは、バックヨーク部に電子ビーム照射することによって、照射しない場合よりも圧縮応力による鉄損の増大を抑制できていることがわかる。
【0024】
そこで、電子ビーム照射により鉄損が低下する原因を調査するため、焼き嵌めしたコアの鉄損分離を行ったところ、ヒステリシス損は電子ビーム照射により若干増加するが、渦電流損は、電子ビーム照射によって大きく低下していることが明らかとなった。電子ビーム照射により渦電流損が低下する原因は、まだ明確となっていないが、電子ビーム照射による熱歪により鋼板に引張応力が付与され、その結果、焼き嵌めによる圧縮応力が緩和されたためと考えられる。
なお、電子ビームは、レーザービームと比較して絶縁被膜の透過性が高い、即ち、絶縁被膜での発滅が少なく、主として地鉄部で発熱するため、絶縁被膜の損傷が少ないという利点がある。したがって、電子ビームを適用すると、絶縁被膜の再塗布を省略することができるので、生産性を向上することができる。
【0025】
また、焼き嵌めしない(圧縮応力0)コアで、電子ビーム照射により鉄損が増加した理由は、電子ビーム照射による熱歪によってヒステリシス損が増加したためと考えられる。したがって、焼き嵌め応力が発生していないティース部に電子ビーム照射することは、却って鉄損の上昇を招くことになるので、本発明では、電子ビーム照射は、圧縮応力が付与されるコアバック部のみに行うこととした。
本発明は、上記の知見に基づいて開発したものである。
【0026】
次に、本発明のモータコアに用いる電磁鋼板について説明する。まず、本発明のモータコアに用いる電磁鋼板は、下記の成分組成を有するものであることが好ましい。
Si:7mass%以下
Siは、鋼の固有抵抗を高めるのに有効な元素であるが、7mass%を超えて添加すると、飽和磁束密度の低下に伴い、モータコアの磁束密度も低下するようになる。また、最終板厚に圧延する際、たとえ温間圧延しても板破断を起こすおそれがあるため、上限は7mass%とするのが好ましい。なお、下限は特に制限しないが、固有抵抗を高める観点からは、0.1mass%以上であることが好ましい。より好ましくは0.5〜6.5mass%の範囲である。
【0027】
Al:3mass%以下
Alは固有抵抗を高めるのに有効な元素であるが、3mass%を超えると飽和磁束密度が低下するのに伴い、モータコアの磁束密度も低下するため、上限は3mass%とするのが好ましい。より好ましくは2mass%以下である。
【0028】
Mn:5mass%以下
Mnは、固有抵抗を高め、また、Sによる赤熱脆性を防止するために必要な元素であり、0.05mass%以上添加するのが好ましい。一方、5mass%を超えて添加すると、飽和磁束密度が低下するため、上限は5mass%とするのが好ましい。より好ましくは、0.1〜4mass%の範囲である。
【0029】
S:0.01mass%以下
Sは、不可避的に混入してくる不純物であり、その含有量が多くなると、MnS等硫化物系介在物が多量に形成されて、鉄損が増加する原因となる。よって、本発明では、上限を0.01mass%とするのが好ましい。より好ましくは0.005mass%以下である。
【0030】
N:0.005mass%以下
Nは、Sと同様、不可避的に混入してくる不純物であり、含有量が多いとAlNが多量に形成されて、鉄損が増加する原因となるため、上限は0.005mass%とするのが好ましい。
【0031】
O:0.01mass%以下
Oは、SやNと同様、不可避的に混入してくる不純物であり、含有量が多いと酸化物系介在物が多量に形成されて、鉄損が増加する原因となるため、上限は0.01mass%とするのが好ましい。
【0032】
本発明のモータコアに用いる電磁鋼板は、上記成分以外の残部はFeおよび不可避不純物である。ただし、本発明の効果を害さない範囲内であれば、上記以外の成分の含有を拒むものではない。
【0033】
また、本発明のモータコアに用いる電磁鋼板は、上記成分組成を有する鋼板表面に絶縁被膜を塗布したものであることが必要である。上記絶縁被膜としては、有機成分のみや無機成分のみ、有機・無機複合物などのものを用いることができる。具体的には、有機成分としては、アクリル系、アクリルシリコン系、ポリエステル系、エポキシ系、フッ素系の樹脂等が、無機成分としては、クロム酸塩系、重クロム酸塩系、ホウ酸塩系、リン酸塩系、珪酸塩系等が挙げられ、また、有機・無機複合物(半有機)としては、前述した有機成分と無機成分の複合物等が挙げられる。
【0034】
また、本発明のモータコアは、上記電磁鋼板を所定のステータコア形状に打ち抜き加工した後、あるいは、打ち抜き加工の前に、バックヨーク部に電子ビーム照射を施したものであることが必要である。上記電子ビーム照射は、加速電圧30〜150kV、ビーム電流1〜30mAの範囲で鋼板表面に照射するのが好ましい。加速電圧やビーム電流が上記範囲より低いと、所望の効果が得られないためであり、一方、加速電圧やビーム電流が上記範囲より高すぎる、歪量が大きくなり、所望の特性が得られなくなるためである。
【0035】
また、照射する電子ビームの径は、0.02〜0.5mmの範囲とするのが好ましい。0.02mm未満では、引張応力を残留させるために必要な熱歪を付与することができず、一方、0.5mm超えでは、逆に、熱歪領域が広くなりすぎて、ヒステリシス損が上昇するからである。
【0036】
なお、電子ビーム照射する方向は、バックヨーク部の周方向、径方向のいずれでもよく、また、図4に示したように、間隔を開けて不連続に照射してもよい。
また、電子ビーム照射の間隔は、0.2〜5mmの範囲とするのが好ましい。0.2mm未満では、電子ビーム照射による熱歪によって鋼板に大きな歪が導入され、鉄損が上昇したり、コア材が変形したりする。一方、5mmを超えると、電子ビーム照射による鉄損低減効果が充分に得られなくなるためである。なお、径方向に照射する場合、内径側、外径側のいずれも0.2〜5mmの間隔とするのが好ましい。また、電子ビーム照射は、連続した線状、あるいは点状あるいは破線状に間隔をおいて行ってもよく、その場合の照射方向の間隔は、0.01〜1mm程度とするのが好ましい。
【0037】
また、本発明のモータコアは、電子ビーム照射後、電磁鋼板の表面に絶縁被膜を再度塗布することによってより確実に鉄損を低減することが可能となる。これは、電子ビーム照射の条件によっては絶縁被膜が局所的に破壊される場合があり、その部位で短絡を起こして積層間の層間抵抗が低下するのを防止するためである。電子ビーム照射後の絶縁被膜の塗布は、全面に行っても、電子ビーム照射部分だけでも構わない。また、上塗りする絶縁被膜は、層間抵抗を高めることができればよく、前述した被膜成分のいずれの種類でも構わない。
【0038】
また、本発明において、モータコアに発生した圧縮応力の値を10MPa以上に制限する理由は、10MPa未満ではモータコアを充分に固定することができないことのほか、図3に示したように、電子ビーム照射による鉄損低減効果が得られないからである。
【0039】
なお、本発明のモータコアが適用できるモータは、モータコアに圧縮応力が付与されるものであれば、いずれの形式のものでもよく、例えば、集中巻形式の永久磁石モータ、分布巻き形式の永久磁石モータ、分割コアタイプの永久磁石モータ、誘導モータ、リラクタンスモータ等に適用することができる。
【実施例】
【0040】
転炉−脱ガス処理等の通常公知の精錬プロセスで、表1に示す成分組成の鋼を溶製し、連続鋳造して鋼スラブとした。次いで、この鋼スラブを1120℃×1hrの再加熱後、仕上圧延終了温度を850℃とする熱間圧延で板厚2.0mmの熱延板とし、600℃で巻き取った後、この熱延板を1000℃×30secで熱延板焼鈍し、酸洗し、冷間圧延して、板厚が0.35mmおよび0.20mmの冷延板とし、1000℃×10secの仕上焼鈍を施した後、表1に示した絶縁被膜を被成して、無方向性電磁鋼板を製造した。
【0041】
【表1】

【0042】
上記電磁鋼板について、以下の評価を行った。
<磁束密度B50の測定>
上記電磁鋼板から、幅30mm、長さ280mmのエプスタイン試験片を圧延方向および圧延直角方向より採取し、JIS C2550に準拠して、5000A/mで磁化したときの磁束密度B50を測定した。
<モータコアの鉄損測定>
上記無方向性電磁鋼板を、図1と同じ12スロットで、外径:100mmφ、バックヨーク幅:20mmのステータコア材に打抜加工した後、電子ビーム加工機(MITSUBISHI製 eフラッシュ(登録商標))を用いて、加速電圧40kV、ビーム電流5mAの条件で、照射方向を周方向または径方向とし、電子ビーム径および照射間隔を表1に示したよう変化させてステータコア材のバックヨーク部に電子ビーム照射した。なお、一部のステータコア材には、電子ビーム照射後、絶縁被膜の上に、さらに、電子ビーム照射前に塗布したものと同じ絶縁被膜を再塗布した。
次いで、電子ビーム照射したコア材を積み厚:30mmに積層し、ステータコアを作製し、このステータコアを、内径が約100mmφの非磁性ステンレスリングに、焼き嵌め代を変えて焼き嵌めし、ステータの周方向に0〜100MPaの圧縮応力を発生させた。なお、上記圧縮応力は、ステータのバックヨーク中央部に貼り付けた歪みゲージを用いて測定した。次いで、図2に示したように、ステンレス製リングも含めてバックヨーク部の周囲に励磁コイルおよびピックアップコイルを巻き線し、周波数1kHz、最大磁束密度1Tにおけるモータコア円周方向の鉄損W10/1kを測定した。
【0043】
表1に、上記測定の結果を併記して示した。この結果から、本発明に適合する電子ビーム照射したステータコアは、圧縮応力下における鉄損特性の劣化を抑制できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のモータコア技術は、ハイブリッド電気自動車の駆動モータや発電機、エアコンのコンプレッサ用モータ、工作機械の主軸モータ等、焼き嵌めして固定される高速モータに適用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1:ステータコア
2:電子ビーム照射位置
3:ロータ
4:永久磁石
5:ステンレス製リング(非磁性)
6:巻き線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁被膜を塗布した電磁鋼板を積層し、周方向に10MPa以上の圧縮応力が付与されるモータコアにおいて、上記モータコアを構成する電磁鋼板のバックヨーク部に電子ビーム照射されてなることを特徴とするモータコア。
【請求項2】
上記電磁鋼板は、バックヨーク部に0.2〜5mmの間隔で電子ビーム照射されてなることを特徴とする請求項1に記載のモータコア。
【請求項3】
上記電磁鋼板は、電子ビーム照射後、絶縁被膜の上にさらに絶縁被膜が再塗布されてなることを特徴とする請求項1または2に記載のモータコア。
【請求項4】
上記電磁鋼板は、Si:7mass%以下、Al:3mass%以下、Mn:5mass%以下、S:0.01mass%以下、N:0.005mass%以下、O:0.01mass%以下を含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる成分組成を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のモータコア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−135123(P2012−135123A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285336(P2010−285336)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】