説明

圧縮機の動力伝達装置

【課題】回転軸がプーリのトルクを受けるためのスプライン軸部を有する場合でも、スプライン軸部の損傷を回避することができるほか、軸力破断式のトルクリミッタを採用することができる圧縮機の動力伝達装置の提供にある。
【解決手段】ハウジング12に回転可能に装着されるプーリ11と、プーリ11と一体回転されるハブ26と、ハブ26から回転軸17にトルクを伝達するトルク伝達部材22とを備え、ハブ26は雌螺子27aが形成された雌螺子孔27を有し、回転軸17は圧入軸部18aとスプライン軸部18bとを有する。トルク伝達部材22は、回転軸17を保持する複合孔25と、雌螺子孔27に螺入される螺子軸部24と、スラスト荷重を受けるスラスト座部23aとを有し、複合孔25は圧入軸部18aと密接嵌合する嵌合孔部25aと、スプライン軸部18bが挿通されるスプライン孔部25bとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は圧縮機の動力伝達装置に関し、特に、エンジン等の外部動力源からベルト等を介して運転されるカーエアコン用圧縮機に好適な圧縮機の動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、カーエアコン用圧縮機では、エンジン等の外部動力源からベルト等を介して動力伝達を受けるため、図6に示す動力伝達装置40を備えている。
圧縮機のハウジング42の外側には、図示しない車両エンジンから動力が入力されるプーリ41がラジアル軸受Rを介して回転可能に支持されている。
圧縮機の回転軸43における機外側の端部にはハブ44が締結固定されており、ハブ44はプーリ41に対して一体回転可能に連結されている。
従って、車両用エンジンからプーリ41に入力された動力は、ハブを44介して回転軸43へ伝達される。
【0003】
この種の圧縮機の動力伝達装置40では、ハブ44と回転軸43との連結はスプライン嵌合が用いられている。
回転軸43の端部付近にはスプライン軸部45が形成され、対応するハブ44にはスプライン軸部45を挿入するスプライン孔46が形成されている。
ハブ44の中心には回転軸43を臨む通孔47が備えられており、通孔47に挿通されたボルト48が回転軸43の先端に螺入され、ボルト48により回転軸43がハブ44から抜けないようにしている。
この圧縮機の動力伝達装置40では、ハブ44と回転軸43がスプライン軸部45により接続されるため、全てのトルクがスプライン軸部45に伝達される。
なお、圧縮機がクラッチレス式の場合、圧縮機に焼き付き等が生じるとベルト切断等の不具合が生じるため、圧縮機の動力伝達装置40には、プーリ41からのトルクを回転軸43へ伝達しないようにするトルクリミッタが備えられることがある。
【0004】
ところで、別の従来の技術として、例えば、特許文献1に開示された動力伝達装置を挙げることができる。
この種の動力伝達装置では、駆動軸の外周面には、駆動軸側雄ネジ部が形成されているとともにネジ座面が設けられている。
駆動軸において駆動軸側雄ネジ部の外側には円筒状のアダプタが配置されている。
アダプタの内周面に形成されたアダプタ側雌ネジ部は、駆動軸側雄ネジ部に螺合されている。
アダプタの外周面に形成されたアダプタ側雄ネジ部には、ハブに形成されたハブ側雌ネジ部が螺合されている。
そして、これらの螺合によって、ネジ座面に対してハブが押し付けられることで、ハブと駆動軸が締結固定されている。
【0005】
この技術では、ハブから駆動軸へ伝達されるトルクは、ハブからネジ座面に伝達されるトルクと、ハブ側雄ネジ部からアダプタ側雄ネジ部に伝達されるトルクに分けられる。
この種の動力伝達装置では、アダプタと駆動軸との締め付けトルクを最大トルクよりも小さく設定することができるから、駆動軸に作用する負荷を軽減することができるものとなっている。
【0006】
さらに、別の従来技術としては、例えば、特許文献2に記載された動力伝達機構が存在する。
この種の動力伝達機構は、圧縮機のアーマチュアボスの一部と回転軸がセレーション嵌合するとともに、アーマチュアボスの一部と回転軸が圧入嵌合するものである。
【0007】
また、別の従来技術として、例えば、特許文献3に記載された電磁継手用アーマチュア・アセンブリが存在する。
この種のアーマチュア・アセンブリは、弾性的に撓むことができるプラスチックから成り、環状のアーマチュア板を支えたスパイダを備えている。取付板をスパイダ内にインサート成形され、軸に取り付けることのできる管状ハブにより組み立てるようにしている。アーマチュア・アセンブリを変更しないで又は極めて僅かに変更して種々の形式のハブに取り付ける。
環状ハブは軸に対してキーを用いて装着され、環状ハブと取付板は螺合の関係となっている。
【特許文献1】特開2005−140280号公報(第5−9頁、図1−2)
【特許文献2】特開2005−90565号公報(第3−4頁、図1−2)
【特許文献3】特開平7−26901号公報(第3−4頁、図2−4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図6に開示された従来の技術は、プーリ41のトルクを回転軸43へ十分に伝達することができるものの、スプライン軸部45の軸径がハウジング内における回転軸43の軸径よりも小さくなることが回避できない。
軸径が小さく全トルクの伝達を受けるスプライン軸部45では、例えば、スプライン軸部45のねじり強度や、スプラインの歯の強度が不足するおそれがあり この場合、許容値を超えるトルクに対して、トルクリミッタが機能するよりも先にスプライン軸部45が損傷するおそれがある。
【0009】
特許文献1に開示された動力伝達装置ではアダプタを用い、駆動軸とアダプタとの螺合の関係と、アダプタとハブとの螺合の関係から、駆動軸に作用する負荷を軽減させるとしているが、駆動軸には引っ張り力が発生し、スラスト方向の負荷が残存するという問題がある。
さらに言うと、駆動軸とアダプタとの螺合に係る締め付けトルクについて、ハブから駆動軸へ伝達される最大トルクとの関係を考慮する必要がある。
【0010】
特許文献2に開示された従来の技術では、圧縮機のアーマチュアボスの一部と回転軸がセレーション嵌合するとともに、アーマチュアボスの一部と回転軸が圧入嵌合する点について記載されているものの、ハブに相当するアーマチュアボスと回転軸が直接連結された動力伝達装置に過ぎず、回転軸においてトルクを伝達するセレーションの部位を補強する着想は存在しない。
さらに言うと、この技術ではスラスト荷重により機能する軸力破断式のトルクリミッタを採用することができないという設計上の制約を受ける。
【0011】
特許文献3に開示された従来の技術は、複数のキーを用いて環状ハブを軸に装着するため、部品点数や加工箇所が多くなるほか、十分な軸径を持たない回転軸への適用は事実上困難である。
【0012】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、回転軸がプーリのトルクを受けるためのスプライン軸部を有する場合でも、スプライン軸部の損傷を回避することができるほか、軸力破断式のトルクリミッタを採用することができる圧縮機の動力伝達装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を達成するため、本発明は、圧縮機のハウジングに回転可能に装着されるプーリと、前記プーリと一体回転されるハブと、前記ハブと前記圧縮機が備える回転軸との間に介装され、前記ハブから前記回転軸にトルクを伝達するトルク伝達部材とを備えた圧縮機の動力伝達装置において、前記ハブは、前記回転軸と同軸であって雌螺子が形成された雌螺子孔を有し、前記回転軸は、前記ハウジング外に突出される圧入軸部と、スプラインが備えられ、該圧入軸部より縮径されたスプライン軸部とを有し、前記トルク伝達部材は、前記回転軸を保持する複合孔と、前記ハブの雌螺子孔に螺入される螺子軸部と、前記ハブから伝達されるスラスト荷重を受けるスラスト座部とを有し、前記複合孔は、圧入により前記圧入軸部と密接嵌合する嵌合孔部と、前記スプライン軸部が挿通されるスプライン孔部とを有することを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、回転軸とハブとの間に介装されるトルク伝達部材は、回転軸のスプライン軸部とスプライン嵌合されるほか、回転軸の圧入軸部に対しては圧入により回転軸を保持する。
さらに、トルク伝達部材の螺子軸部はハブの雌螺子孔に螺入され、トルク伝達部材はハブに固定される。
プーリからハブに伝達されたトルクは、トルク伝達部材を介して回転軸に伝達されるが、スプライン軸部を通じて回転軸にトルクが伝達されるとともに、スラスト座部及び圧入軸部を通じて回転軸にトルクが伝達される。
ハブとトルク伝達部材の螺子軸部との間には、トルクに比例して生じる軸方向の荷重であるスラスト方向の負荷が発生するが、トルク伝達部材とスプライン軸部との間にはスラスト方向の負荷は発生しない。
【0015】
このように、プーリからハブに伝達されたトルクは、回転軸におけるスプライン軸部及び圧入軸部に分散されて回転軸に伝達されるから、回転軸がプーリの動力を受けるためのスプライン軸部を有する場合でも、スプライン軸部の小径化によるスプライン軸部のねじり強度の低下等によるスプライン軸部の損傷を回避することができる。
また、トルク伝達部材とハブが螺合関係にあることから、ハブとトルク伝達部材の間に生じるスラスト荷重に基づき機能する動力遮断体を介在させることも可能となる。
【0016】
また、本発明では、上記の圧縮機の動力伝達装置において、前記ハブは、前記ハブと一体形成され、許容値を超えたトルクの伝達を遮断する動力遮断部を有し、前記動力遮断部は、前記回転軸と前記プーリとの間に許容値を超えるトルクが生じたとき破断され、前記ハブは、前記動力遮断部の破断により前記ハブを前記プーリ側部位と前記トルク伝達側部位とに二分されてもよい。
【0017】
この場合、ハブが有するトルクリミッタとしての動力遮断部は、回転軸とプーリとの間に許容値を超えるトルクが生じたとき破断され、動力遮断部の破断によりハブをプーリ側部位と前記トルク伝達部側部位とに二分される。
この場合、部品点数を増やすことなくトルクリミッタを動力伝達装置に設けることができる。
【0018】
また、本発明では、上記の圧縮機の動力伝達装置において、前記ハブは、前記プーリと連結され、前記スラスト座部に当接するハブ本体と、該ハブ本体と前記トルク伝達部材との間に介在され、前記雌螺子孔を有する動力遮断体とを有し、前記動力遮断体は、前記ハブ本体に機械的に固定される外周部と、許容値を超えるトルクに比例するスラスト荷重に基づき破断される破断予定部とを有してもよい。
【0019】
この場合、ハブ本体とトルク伝達部材との間に介在されたトルクリミッタとしての動力遮断体は、回転軸と前記プーリとの間に許容値を超えるトルクが生じたとき、トルクに比例して生じたスラスト荷重に基づき破断される。
この場合、軸力破断式のトルクリミッタを動力伝達装置に設けることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、回転軸がプーリのトルクを受けるためのスプライン軸部を有する場合でも、スプライン軸部の損傷を回避することができるほか、軸力破断式のトルクリミッタを採用することができる圧縮機の動力伝達装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
〔第1の実施形態〕
以下、第1の実施形態に係る圧縮機の動力伝達装置を図1〜図3に基づき説明する。
この実施形態に係る圧縮機の動力伝達装置は、カーエアコン用圧縮機に備えられ、車両用エンジンから動力を圧縮機の回転軸へ伝達する装置である。
図1は、第1の実施形態に係る圧縮機の動力伝達装置を示す縦断面図であり、図2は第1の実施形態に係る圧縮機の動力伝達装置の正面図であり、図3は図1の要部を拡大した拡大断面図である。
この実施形態の圧縮機の動力伝達装置10は、図1に示すように、圧縮機のハウジング12に回転可能に装着されるプーリ11と、プーリ11と一体回転されるハブ26と、ハブ26と回転軸17との間に介装され、ハブ26から回転軸17にトルクを伝達するトルク伝達部材22とを有する。
【0022】
圧縮機のハウジング12には、シャフトとしての回転軸17が図示しない軸受を介して回転自在に支持されている。
回転軸17の大部分はハウジング12内に収容されているが、回転軸17はハウジング12の通孔13に挿通され、図1において、通孔13から左側の回転軸17の部位(以後「外側軸部18」と表記する。)はハウジング12から突出されている。
回転軸17の外側軸部18は、ハウジング12側に形成される圧入軸部18aと、複数のスプラインの歯19が備えられ、圧入軸部18aより縮径されたスプライン軸部18bとを有する。
圧入軸部18aはハウジング12内の回転軸17と径が同じであり、スプライン軸部18bは圧入軸部18aより小径であって、スプラインの歯19を含めた径も圧入軸部18aより小径となっている。
スプライン軸部18bの先端中心には軸心Pを軸心とするボルト孔20が形成されている。
【0023】
ハウジング12内には通孔13を臨むシール部材収容部14が備えられ、シール部材収容部14にはシール部材Sが収容されており、シール部材Sは回転軸17の外周に摺接する。
シール部材Sは通孔13を通じたハウジング12内から外部への冷媒や潤滑油への漏れを防止するシール機能を有する。
ハウジング12の外壁には、回転軸17の外側軸部18の一部を囲むようにボス部15が回転軸17の突出方向に向けて形成されている。
【0024】
ボス部15の外周にはラジアル軸受Rを介してプーリ11が回転自在に支持されている。
プーリ11の外周にはベルト懸装面11aが形成されており、ベルト懸装面11aにはゴム系材料から形成されたベルトBが懸装されている。
ベルトBは図示しない車両用エンジンの出力軸の出力プーリに懸装されており、車両用エンジンの動力をプーリ11に伝達する。
【0025】
プーリ11の側面にはプーリ11の動力を回転軸17へ伝達する円盤状のハブ26が図示しない固定手段により固定されている。
ハブ26の中心には外側軸部18よりも径の大きな雌螺子孔27が形成され、雌螺子孔27には雌螺子27aが形成されている。
つまり、ハブ26は回転軸17と同軸であって雌螺子27aが形成された雌螺子孔27を有すると言える。
回転軸17の外側軸部18におけるスプライン軸部18bの大部分は、軸心P方向において雌螺子孔27に対応する位置に配置されている。
ハブ26のハウジング12側の端面にはハウジング12へ向けてボス部28が形成されている。
ボス部28のハウジング12側端面は軸心P方向と直角な面に形成されており、トルク伝達部材22のスラスト座部23aに当接する。
【0026】
ハブ26にはトルクリミッタとしての動力遮断部29を有する。
動力遮断部29は、図2に示すように、ハブ26におけるプーリ側部位26aとトルク伝達側部位26bとを連結する複数の連結部位26cであり、これらの連結部位26cは回転軸17とプーリ11との間に許容値を超えるトルクが生じたとき破断される。
【0027】
ハブ26と外側軸部18との間にはトルク伝達部材22が介在されている。
トルク伝達部材22はハブ26のトルクを回転軸17へ伝達する部材である。
トルク伝達部材22は、ボス部15と圧入軸部18aとの間に形成される空間部16に配置される大径部23と、大径部23の外側に位置して大径部23と一体形成された螺子軸部24と、外側軸部18を保持する複合孔25と、ハブ26から伝達されるスラスト荷重を受けるスラスト座部23aを有する。
【0028】
大径部23は、圧入軸部18aを圧入により保持する部位であり、中心には複合孔25の一部である嵌合孔部25aが形成されている。
従って、嵌合孔部25aの径は圧入軸部18aと一致する径に設定されている。
螺子軸部24は大径部23と比較して小径であることから、大径部23において軸心P方向に直角な端面がハブ26側に形成されている。
この端面はハブ26のボス端面28aと当接するスラスト座部23aに相当する。
【0029】
螺子軸部24は外周に雄螺子24aが形成されており、螺子軸部24はハブ26の雌螺子孔27と螺合され、両者24、26は固定されている。
螺子軸部24の雄螺子24aと雌螺子孔27の雌螺子27aは、動力伝達時のトルクにより螺子軸部24とハブ26が互いに締め付けられる方向に形成されている。
螺子軸部24の中心にはスプライン軸部18bに対応するスプライン孔部25bが圧入軸部18aから連続して形成されている。
スプライン孔部25bにはスプライン軸部18bが挿入され、スプライン軸部18b、螺子軸部24はスプライン嵌合する。
このように、複合孔25は、圧入により圧入軸部18aと密接嵌合する嵌合孔部25aと、スプライン軸部18bが挿通されるスプライン孔部25bとを有する。
【0030】
スプライン孔部25bからスプライン軸部18bを貫通するボルト用の通孔25cが形成されている。
ボルト用の通孔25cには、図1に示すようにボルト21が挿通され、ボルト21は回転軸17のボルト孔20に螺入されている。
ボルト21はトルク伝達部材22の複合孔25から外側軸部18が抜け出さないようにするために設けたものである。
【0031】
次に、この発明の実施形態に係る動力伝達装置の作用について説明する。
図3に示すように、ハブ26から回転軸17へのトルクTの伝達は、二つの伝達経路のそれぞれで行われる。
第1の伝達経路は、ボス部28の当接面及びトルク伝達部材22のスラスト座部23aを通じて、圧入軸部18aに伝達される経路である(図3におけるトルクT1を参照。)。 第2の伝達経路は、ボス部28を含むトルク伝達部位の雌螺子27aとトルク伝達部材22との雄螺子24aとの螺合面を通じて、スプライン軸部18bに伝達される経路である(図3におけるトルクT2を参照。)。
【0032】
この実施形態では、2つの経路からトルクが回転軸17に伝達されるから、スプライン軸部18bに全てのトルクが伝達される図6に示す従来の動力伝達装置40とは異なり、トルクTがスプライン軸部18b及び圧入軸部18aに分散される形で伝達される。
図3に示すように、圧入軸部18aに伝達されるトルクT1が存在することから、スプライン軸部18bに伝達されるトルクT2による負荷が軽減される。
従って、プーリ11と回転軸17との間に許容値を超えるトルクTが生じても、スプライン軸部18bに伝達されるトルクT2がスプライン軸部18bを損傷させない大きさであれば、トルクリミッタである連結部位26cが破断される。
【0033】
ハブ26とトルク伝達部材22は螺合関係にあるため両者22、26には軸方向に沿うスラスト荷重(軸力)が生じ、スラスト荷重はスラスト座部23aを通じた圧入軸部18aへのトルク伝達特性を左右する。
スラスト座部23aを通じて伝達されるトルクT1はスラスト荷重に比例する。
一方、トルク伝達部材22とスプライン軸部18bはスプライン嵌合であることから両者18b、22の間にスラスト荷重は存在しない。
ハブ26とトルク伝達部材22との螺合と、トルク伝達部材22とスプライン軸部18bとのスプライン嵌合により、トルク伝達部材22に作用するスラスト荷重に対し、スプライン軸部18bに作用するスラスト荷重をなくすことができる。
これによりスラスト荷重に値するスプライン軸部18bの強度を考慮する必要がなく、例えば、スプライン軸部18bの小径化が可能となる。
【0034】
この実施形態に係る圧縮機の動力伝達装置によれば以下の効果を奏する。
(1)プーリ11からハブ26に伝達されたトルクTは、トルク伝達部材22を介して回転軸17に伝達されるが、スプライン軸部18bを通じて回転軸17にトルクT2が伝達されるとともに、圧入軸部18aを通じて回転軸17にトルクT1が伝達される。ハブ26とトルク伝達部材22の螺子軸部24との間には、トルクに比例して生じる軸方向の荷重であるスラスト方向の負荷が発生するが、トルク伝達部材22とスプライン軸部18bとの間にはスラスト方向の負荷は発生しない。従って、回転軸17がプーリ11のトルクTを受けるためのスプライン軸部18bを有する場合でも、スプライン軸部18bのねじり強度や、スプラインの歯19の強度低下による損傷を回避することができる。
【0035】
(2)トルク伝達部材22とスプライン軸部18bとの間にはスラスト方向の負荷は発生しないから、スラスト荷重に値するスプライン軸部18bの強度を考慮する必要がなく、例えば、スプライン軸部18bの小径化や長尺化が可能となる。
(3)ハブ26が有するトルクリミッタとしての動力遮断部29は、回転軸17とプーリ11との間に許容値を超えるトルクが生じたとき破断され、動力遮断部29の破断によりハブ26をプーリ側部位26aと前記トルク伝達側部位26bとに二分される。この場合、部品点数を増やすことなくトルクリミッタを動力伝達装置10に設けることができる。
【0036】
〔第2の実施形態〕
次に、第2の実施形態に係る圧縮機の動力伝達装置について説明する。
図4は第2の実施形態に係る圧縮機の動力伝達装置を示す縦断面図であり、図5は図4の要部を拡大した拡大断面図である。
この実施形態の動力伝達装置は第1の実施形態と共通する要素を含むから、共通する要素については、説明の便宜上、同じ符号を用い、第1の実施形態の説明を援用する。
【0037】
図4に示す動力伝達装置30におけるハブ36は、プーリ11と連結されるハブ本体37と、ハブ本体37とトルク伝達部材22との間に介在された動力遮断体38を有する。
ハブ本体37は当接面37aを有しており、当接面37aはスラスト座部23aに当接する。
動力遮断体38は、トルク伝達部材22の雄螺子24aに対応する雌螺子孔39を有し、雌螺子孔39には雌螺子39aが形成されている。
動力遮断体38は、ハブ本体37に機械的に固定される外周部38aを有するほか、回転軸17とプーリ11との間に許容値を超えるトルクが生じたとき、許容値を超えるトルクに比例して生じたスラスト荷重(軸力)に基づき破断される破断予定部38bを有する。
つまり、動力遮断体38は軸力破断式のトルクリミッタである。
因みに、この実施形態では、動力遮断体38の外周部38aは軸心P方向から見て六角形であり、ハブ本体37には外周部38aが嵌合する六角孔が軸心P方向に形成されており、六角孔への外周部38aの嵌め込み(インロー)により動力遮断体38とハブ本体37との機械的な固定が図られている。
なお、両者37、38の固定については、圧入により動力遮断体38とハブ本体37とを嵌合させて固定するようにしてもよく、機械的な固定であれば特に限定されない。
【0038】
この実施形態では、ハブ36から回転軸17へのトルクTの伝達は、二つの伝達経路のそれぞれで行われる。
第1の伝達経路は、ハブ本体37の当接面37a及びトルク伝達部材22のスラスト座部23aを通じて圧入軸部18aに伝達される経路である(図5におけるトルクT1を参照。)。
第2の伝達経路は、動力遮断体38の雌螺子39aとトルク伝達部材22との雄螺子24aとの螺合面を通じて、スプライン軸部18bに伝達される経路である(図5におけるトルクT2を参照。)。
圧縮機の運転中では、スラスト座部23aを通じて圧入軸部18aに伝達されるトルクT1が存在することから、スプライン軸部18bに対する負荷が軽減される。
プーリ11と回転軸17との間に許容値を超えるトルクTが生じると、トルクに応じたスラスト荷重が動力遮断体38に作用して破断予定部38bが破断する。
【0039】
この実施形態では、第1の実施形態が奏する作用効果(1)、(2)と同等の作用効果を奏する。
さらに言うと、この実施形態では、スプライン軸部18bを有する回転軸17を備えた圧縮機の動力伝達装置30であっても、軸力破断式のトルクリミッタを設けることができる。
【0040】
なお、上記の実施形態に係る圧縮機の動力伝達装置は本発明の一実施形態を示すものであり、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、下記のように発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能である。
○ 上記の第1、第2の実施形態では、トルク伝達部材から回転軸が抜け出さないようにボルトを設けるようにしたが、必ずしもこの種のボルトを設ける必要はない。例えば、圧入孔に圧入された圧入軸部が十分な摩擦力により保持されていればこの種のボルトは不要であり、この場合、トルク伝達部材におけるボルト用の通孔や、スプライン軸におけるボルト孔を設ける必要がない。
○ 上記の第1、第2の実施形態では、スプライン軸部がトルク伝達部材のスプライン孔部にスプライン嵌合するとしたが、例えば、セレーション嵌合のようにスプライン軸部をスプライン孔部に「締めばめ」により嵌合させるようにしてもよい。この場合、抜け止めのボルトが不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】第1の実施形態に係る圧縮機の動力伝達装置を示す縦断面図である。
【図2】第1の実施形態に係る圧縮機の動力伝達装置の正面図である。
【図3】図1の要部を拡大した拡大断面図である。
【図4】第2の実施形態に係る圧縮機の動力伝達装置を示す縦断面図である。
【図5】図4の要部を拡大した拡大断面図である。
【図6】従来の圧縮機の動力伝達装置を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0042】
10、30、40 動力伝達装置
11、41 プーリ
12、42 ハウジング
13 通孔
15 ボス部
17、43 回転軸
18 外側軸部
18a 圧入軸部
18b、45 スプライン軸部
22 トルク伝達部材
23a スラスト座部
24 螺子軸部
24a 雄螺子
25 複合孔
25a 嵌合孔部
25b、46 スプライン孔部
25c ボルト用の通孔
26、36、44 ハブ
26c 連結部位
27、39 雌螺子孔
27a、39a 雌螺子
28 ボス部
29 動力遮断部
37 ハブ本体
38 動力遮断体
38b 破断予定部
P 軸心
T、T1、T2 トルク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機のハウジングに回転可能に装着されるプーリと、前記プーリと一体回転されるハブと、前記ハブと前記圧縮機が備える回転軸との間に介装され、前記ハブから前記回転軸にトルクを伝達するトルク伝達部材とを備えた圧縮機の動力伝達装置において、
前記ハブは、前記回転軸と同軸であって雌螺子が形成された雌螺子孔を有し、
前記回転軸は、前記ハウジング外に突出される圧入軸部と、スプラインが備えられ、該圧入軸部より縮径されたスプライン軸部とを有し、
前記トルク伝達部材は、前記回転軸を保持する複合孔と、前記ハブの雌螺子孔に螺入される螺子軸部と、前記ハブから伝達されるスラスト荷重を受けるスラスト座部とを有し、
前記複合孔は、圧入により前記圧入軸部と密接嵌合する嵌合孔部と、前記スプライン軸部が挿通されるスプライン孔部とを有することを特徴とする圧縮機の動力伝達装置。
【請求項2】
前記ハブは、前記ハブと一体形成され、許容値を超えたトルクの伝達を遮断する動力遮断部を有し、
前記動力遮断部は、前記回転軸と前記プーリとの間に許容値を超えるトルクが生じたとき破断され、
前記ハブは、前記動力遮断部の破断により前記ハブを前記プーリ側部位と前記トルク伝達側部位とに二分されることを特徴とする請求項1記載の圧縮機の動力伝達装置。
【請求項3】
前記ハブは、前記プーリと連結され、前記スラスト座部に当接するハブ本体と、該ハブ本体と前記トルク伝達部材との間に介在され、前記雌螺子孔を有する動力遮断体とを有し、
前記動力遮断体は、前記ハブ本体に機械的に固定される外周部と、許容値を超えるトルクに比例するスラスト荷重に基づき破断される破断予定部とを有することを特徴とする請求項1記載の圧縮機の動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−223945(P2008−223945A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−65390(P2007−65390)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】