説明

圧縮機及びそれを用いた冷凍サイクル装置

【課題】ハイドロフルオロオレフィンを主体とした冷媒を冷凍サイクル装置で使用する場合、サイクルを構成する金属が触媒として作用し、冷凍機油や炭素の二重結合を有する冷媒の分解及び重合して、圧縮機の故障や冷凍サイクル内での冷媒流量損失による冷凍能力の低下などの可能性がある。
【解決手段】密閉容器101に、冷媒と冷凍機油103を密封し、前記冷媒は、組成中に炭素の二重結合を有するハイドロフルオロオレフィン、あるいはハイドロフルオロオレフィンをベース成分とし、二重結合を有しないハイドロフルオロカーボンとの混合物のいずれかとしたものであり、冷凍機油103中にベンゾトリアゾール、ジアルキルジチオリン酸亜鉛類、ジアルキルセレン、金属フェネート類、有機窒素化合物類のうち少なくとも1種を含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地球温暖化係数の低い炭素間に二重結合を有するハイドロフルオロオレフィンを主体とした冷媒を作動冷媒としたルームエアコン、冷蔵庫、空気調和装置に組み込まれる圧縮機及びそれを用いた冷凍サイクル装置の信頼性向上に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の圧縮機、及びそれを用いた冷凍サイクル装置では、作動冷媒としてオゾン層破壊係数ゼロのHFC(ハイドロフルオロカーボン)系(以下、HFC系冷媒と称する)冷媒を使用するように移行してきているが、このHFC系冷媒は一方で地球温暖化係数(以下、GWPと称する)が非常に高いために、地球環境保護の観点から近年問題になってきている。そこでGWPの低い炭素間に二重結合を有するハイドロフルオロオレフィンを主体とした冷媒の検討が進められている。
【0003】
従来のHFC系冷媒を用いた圧縮機、冷凍サイクル装置を図6から図8を参照して説明する(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
図6は、従来のHFC系冷媒下で使用されるロータリ圧縮機の縦断面図である。
【0005】
密閉容器1の上部にモータ2の固定子2aが固定され回転子2bで駆動されるシャフト4を有する圧縮機構部5が密閉容器1の下部に固定されている。圧縮機構部5のシリンダー6の上端に主軸受7、下端に副軸受8がボルト等で固定されている。シリンダー6内にはシャフト4の偏心部4aにピストン9が挿入され偏心回転を行う。
【0006】
また、密閉容器1内には冷媒としてR410A(HFC32とHFC125の混合物)が封入されており、密閉容器1の底部には冷媒と相溶性のあるポリオールエステルからなる冷凍機油3が溜められている。
【0007】
図7は、従来のHFC系冷媒下で使用されるロータリ圧縮機の横断面図である。シリンダー6の内面にピストン9が挿入されシャフト4の回転と共に回転し、ベーン10で仕切られた吸入室13および圧縮室14で冷媒を吸入および圧縮する構成になっている。
【0008】
以上のように構成されたロータリ圧縮機について、以下その動作、作用を説明する。
【0009】
まず、シリンダー6に設けられた吸入口12より冷媒が吸入室13に吸入される。また、圧縮室14にある冷媒はピストン9の左方向の回転(矢印方向)とともに圧縮され、吐出切り欠き15を通って吐出口(図示せず)より密閉容器1内に吐出される。密閉容器1内に吐出された圧縮冷媒はモータ2のすき間を通って密閉容器1の上部にある吐出管16より吐出され、その際まわりにある冷凍機油のミストも一緒に吐出される。
【0010】
ロータリ圧縮機構の構成上、摺動状態が最も厳しいところはベーン10の先端とピストン9の外周との接触部位である。ベーン10の背部10bにはベーンバネ11以外に高圧の吐出圧力がかかりシリンダー内の圧力との差圧による大きな力が働いているため、ベーン10の先端部10aとピストン9の外周との接触状態は境界潤滑となり高温の厳しい環境下にある。そこで、特許文献2のように、ベーン10に窒化処理を行ったり、その表面にCrNあるいはTiNイオンプレーティングを施したりして耐摩耗性を向上させて信頼性を確保している。
【0011】
次に、特許文献2に記載されたHFC系冷媒を吸入圧縮し、吐出するロータリ圧縮機20を配設した基本的な冷凍サイクル装置について図8を参照して説明する。
【0012】
図8に示すように、ロータリ圧縮機20は、低温、低圧の冷媒ガスを圧縮し、高温、高圧の冷媒ガスを吐出して凝縮器21に送る。凝縮器21に送られたHFC系冷媒ガスは、その熱を空気中に放出しながら高温、高圧の冷媒液となり膨張機構22(例えば、膨張弁、またはキャピラリチューブ)に送られる。膨張機構22を通過する高温、高圧の冷媒液は絞り効果により低温、低圧の湿り蒸気となり蒸発器23へ送られる。蒸発器23に入った冷媒は周囲から熱を吸収して蒸発し、蒸発器23を出た低温、低圧の冷媒ガスはロータリ圧縮機20に吸い込まれ、以下同じサイクルが繰り返される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平11−236890号公報
【特許文献2】特開平8−240362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、炭素の二重結合を有するハイドロフルオロオレフィンを主体とした冷媒は安定性に課題がある。
【0015】
ハイドロフルオロオレフィンを主体とした冷媒を冷凍サイクル装置で使用する場合、サイクルを構成する部材はその殆どが金属(銅、鉄、アルミニウム)で形成されているので、部材自体が触媒として作用し、冷凍機油や炭素の二重結合を有する冷媒の分解及び重合の懸念がある。その中でも摺動部材、特にベーン10先端とピストン9の外周との接触部位を擁する圧縮機20内は摩擦により部材表面が活性化されており、触媒として作用し易い状態と考えられる。これにより、冷凍機油や冷媒の分解及び重合が加速されてスラッジが形成して、圧縮機の故障や冷凍サイクル内、例えば膨張機構22(例えば、細管であるキャピラリチューブ)での冷媒流量損失による冷凍能力の低下などの可能性がある。
【0016】
本発明は、従来技術の有するこのような問題点を鑑みてなされたものであり、冷凍機油や冷媒の分解、重合を抑制して、圧縮機とそれを用いた冷凍サイクル装置の信頼性を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明は、冷媒として組成中に炭素の二重結合を有するハイドロフルオロオレフィン、あるいはハイドロフルオロオレフィンをベース成分とし、二重結合を有しないハイドロフルオロカーボンとの混合物のいずれかを用い、冷凍機油中にベンゾトリアゾール、ジアルキルジチオリン酸亜鉛類、ジアルキルセレン、金属フェネート類、有機窒素化合物類のうち少なくとも1種を含有したもので、冷凍サイクルを構成する金属部材、特に圧縮機の摺動部材の表面に吸着膜を形成し、冷凍機油分子やハイドロフルオロオレフィンからなる冷媒分子と、金属部材との直接接触を抑制したり、冷凍機油中に存在する摩耗粉や溶出した金属と反応させて不活性な金属化合物を形成して触媒作用を抑制することで、冷媒や冷凍機油の劣化速度を低下させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、冷凍サイクルを構成する金属部材、特に圧縮機摺動部材の表面に吸着膜を形成し、冷凍機油分子やハイドロフルオロオレフィンからなる冷媒分子と、金属部材との直接接触を抑制したり、冷凍機油中に浮遊する摩耗粉や溶出した金属と反応させて不活性な金属化合物を形成して触媒作用を抑制することで、冷媒や冷凍機油の劣化速度を低下させて、圧縮機及びそれを用いた冷凍サイクル装置の長期信頼性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態1におけるロータリ圧縮機の縦断面図
【図2】本発明の実施の形態1におけるロータリ圧縮機の横断面図
【図3】本発明の実施の形態1における冷凍サイクル装置構成図
【図4】本発明の実施の形態1におけるエージング時間と全酸価の特性相関図
【図5】本発明の実施の形態2におけるエージング時間と全酸価の特性相関図
【図6】従来のロータリ圧縮機の縦断面図
【図7】従来のロータリ圧縮機の横断面図
【図8】従来の冷凍サイクル装置構成図
【発明を実施するための形態】
【0020】
第1の発明は、冷媒として組成中に炭素の二重結合を有するハイドロフルオロオレフィン、あるいはハイドロフルオロオレフィンをベース成分とし、二重結合を有しないハイドロフルオロカーボンとの混合物のいずれかを用い、冷凍機油中にベンゾトリアゾール、ジアルキルジチオリン酸亜鉛類、ジアルキルセレン、金属フェネート類、有機窒素化合物類のうち少なくとも1種を含有することにより、冷凍サイクルを構成する金属部材、特に圧縮機摺動部材の表面に吸着膜を形成し、冷凍機油分子やハイドロフルオロオレフィンからなる冷媒分子と、金属部材との直接接触を抑制したり、冷凍機油中に浮遊する摩耗粉や溶出した金属と反応させて不活性な金属化合物を形成して触媒作用を抑制することで、冷媒や冷凍機油の劣化速度を低下させて、圧縮機及びそれを用いた冷凍サイクル装置の長期信頼性を確保することができる。
【0021】
第2の発明は、第1の発明の冷凍機油中にアミン系酸化防止剤を含有させることにより、金属部材などによる触媒作用を抑えると共に、冷凍機油や冷媒の分解物である活性の高い連鎖伝播体を捕捉して冷媒や冷凍機油の酸化連鎖反応を抑制することで、相乗相加的に圧縮機及びそれを用いた冷凍サイクル装置の長期信頼性を確保することができる。
【0022】
第3の発明は、第2の発明のアミン系酸化防止剤をフェニル−アルファ−ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミンのうち少なくとも1種とすることにより、汎用性の高い物質を使用するのでリーズナブルで、かつ冷媒や冷凍機油の劣化を抑制させることで、圧縮機及びそれを用いた冷凍サイクル装置の長期信頼性を確保することができる。
【0023】
第4の発明は、第1の発明の冷凍機油中にフェノール系酸化防止剤を含有させることにより、金属部材などによる触媒作用を抑えると共に、冷凍機油や冷媒の分解物である活性の高い連鎖伝播体を捕捉して冷媒や冷凍機油の酸化連鎖反応を抑制することで、相乗相加的に圧縮機及びそれを用いた冷凍サイクル装置の長期信頼性を確保することができる。
【0024】
第5の発明は、第4の発明のフェノール系酸化防止剤を6−ジターシャリー−ブチル−パラクレゾール(DBPC)、3−アリールベンゾフラン−2−オン(ヒドロキシカルカルボン酸の分子内環状エステル)のうち少なくとも1種とすることにより、汎用性の高い物質を使用するのでリーズナブルで、かつ冷凍機油の劣化を抑制させることで、圧縮機及びそれを用いた冷凍サイクル装置の長期信頼性を確保することができる。
【0025】
第6の発明は、第1の発明の冷凍機油中に硫黄・りん系酸化防止剤を含有させることにより、金属部材などによる触媒作用を抑えると共に、酸化劣化反応中に生成されるハイドロパーオキサイドを分解し安定な化合物に換え酸化劣化の連鎖反応を抑制することで、相乗相加的に圧縮機及びそれを用いた冷凍サイクル装置の長期信頼性を確保することができる。
【0026】
第7の発明は、第6に発明の硫黄・りん系酸化防止剤をジベンジルジサルファイド、ジセチルサルファイド、ジアルキルジチオりん酸亜鉛、ジアリルジチオりん酸亜鉛(ZnDTP)のうち少なくとも1種とすることにより、汎用性の高い物質を使用するのでリーズナブルで、かつ冷凍機油の劣化を抑制させることで、圧縮機及びそれを用いた冷凍サイクル装置の長期信頼性を確保することができる。
【0027】
第8の発明は、第1〜7の発明のいずれか1つの発明において、ハイドロフルオロオレフィンをテトラフルオロプロペン(HFO1234yf)とし、ハイドロフルオロカーボンをジフルオロメタン(HFC32)とペンタフルオロエタン(HFC125)とのいずれか一方又は両方とし、冷凍機油をポリビニルエーテル類、ポリオールエステル類あるいはポリアルキレングリコール類のいずれかとすることにより、GWPが低く比容積の小さい冷凍能力の高い冷媒を確保することができ、かつ冷媒と相容性のある冷凍機油を使用できるので圧縮機及びそれを用いた冷凍サイクル装置の長期信頼性を確保することができる。
【0028】
第9の発明は、冷媒を圧縮、凝縮、膨張、蒸発させる冷凍サイクルを形成する冷凍サイクル装置において、第1〜7の発明のいずれか1つの発明の圧縮機を用いることを特徴とする冷凍サイクル装置であり、冷凍サイクルを構成する金属部材、特に圧縮機摺動部材の表面に吸着膜を形成し、冷凍機油分子やハイドロフルオロオレフィンからなる冷媒分子と、金属部材との直接接触を抑制したり、冷凍機油中に浮遊する摩耗粉や溶出した金属と反応させて不活性な金属化合物を形成して触媒作用を抑制することで、冷媒や冷凍機油の劣化速度を低下させて、冷凍サイクル装置の長期信頼性を確保することができる。
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0030】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるロータリ圧縮機の縦断面図を示している。
【0031】
密閉容器101の上部にモータ102の固定子102aが固定され回転子102bで駆動されるシャフト104を有する圧縮機構部105が密閉容器101の下部に固定されている。圧縮機構部105のシリンダー106の上端に主軸受107、下端に副軸受108がボルト等で固定されている。シリンダー106内にはシャフト104の偏心部104aにピストン109が挿入され偏心回転を行う。またこれら部材は、鉄、銅、アルミニウムなどといった金属材料から形成されている。
【0032】
また、密閉容器101内には炭素間に二重結合を有するハイドロフルオロオレフィン(テトラフルオロプロペン:HFO1234yf)が封入されている。密閉容器101の底部には、HFO1234yf冷媒と相溶性のあるポリオールエステルからなる冷凍機油103が溜められている。また、冷凍機油103中には、ベンゾトリアゾールが適量分散されている。
【0033】
図2は、本発明の実施の形態1におけるロータリ圧縮機の横断面図である。シリンダー106の内面にピストン109が挿入されシャフト104の回転と共に回転し、ベーン110で仕切られた吸入室113および圧縮室114で冷媒を吸入および圧縮する構成になっている。
【0034】
以上のように構成されたロータリ圧縮機について、以下その動作、作用を説明する。
【0035】
まず、シリンダー106に設けられた吸入口112よりHFC系冷媒が吸入室113に吸入される。また、圧縮室114にある冷媒はピストン109の左方向の回転(矢印方向)とともに圧縮され、吐出切り欠き115を通って吐出口(図示せず)より密閉容器101内に吐出される。密閉容器101内に吐出された冷媒ガスはモータ102のすき間を通って密閉容器101の上部にある吐出管116より吐出され、その際まわりにある冷凍機油のミストも一緒に吐出される。
【0036】
ロータリ圧縮機構の構成上、摺動状態が最も厳しいところはベーン110の先端とピストン109の外周との接触部位である。ベーン110の背部110bにはベーンバネ111以外に高圧の吐出圧力がかかりシリンダー106内の圧力との差圧による大きな力が働いているため、ベーン110の先端部110aとピストン109の外周との接触状態は境界潤滑となり高温の厳しい環境下にある。
【0037】
次に、冷媒を吸入圧縮し、吐出する圧縮機120を配設した基本的な冷凍サイクル装置について図3を参照して説明する。図3に示すように、この冷凍サイクル装置は、圧縮機120、凝縮器121、膨張機構122、蒸発器123を備えている。
【0038】
圧縮機120は、低温、低圧の冷媒ガスを圧縮し、高温、高圧の冷媒ガスを吐出して凝縮器121に送る。凝縮器121に送られた冷媒ガスは、その熱を空気中に放出しながら高温、高圧の冷媒液となり膨張機構122(例えば、膨張弁、またはキャピラリチューブ)に送られる。膨張機構122を通過する高温、高圧の冷媒液は絞り効果により低温、低圧の湿り蒸気となり蒸発器123へ送られる。蒸発器123に入った冷媒は周囲から熱を吸収して蒸発し、蒸発器123を出た低温、低圧の冷媒ガスはロータリ圧縮機120に吸い込まれ、以下同じサイクルが繰り返される。
【0039】
また、冷凍サイクル装置に使用されている部材は、圧縮機120も含め、いずれも殆どが、鉄、銅、アルミニウムなどといった金属材料から形成されている。
【0040】
ここで、ロータリ圧縮機120での実機運転試験を行う前に、冷凍機油の劣化の経時変化を加速評価するべく、まず、オートクレーブ試験を実施した。耐圧容器(耐圧装置)の内部に対象ガス、液などを入れて、さらに高圧(場合によっては高温高圧)にすることで、容器内部に入れた物体内部で特定の化学反応を早く進行させるのがオートクレーブの原理である。
【0041】
耐圧ガラス管内に、冷凍機油を30gと、触媒となる銅、鉄、アルミニウムの直径1.5mm、長さ50mm各1本を封入した後、これら一式をステンレスボンベに格納して真空引き後に冷媒を30g封入した。冷凍機油、冷媒の劣化を促進させるために、水分1000ppm、空気100ccを併せて封入した。尚、いずれの組合せでも使用する冷凍機油は、従来のHFC系冷媒で実際に使用されているポリオールエステル油である。
【0042】
試験に用いた冷媒と冷凍機油の組合せは(表1)の通りである。
【0043】
【表1】

【0044】
実施例1は、冷媒がテトラフルオロプロペン(HFO1234yf)、冷凍機油がベンゾトリアゾールを適量分散したポリオールエステル油の組合せである。
【0045】
尚、比較として、以下の2種の組合せを用いた。
【0046】
比較例1条件1は、冷媒がHFO1234yf、冷凍機油がポリオールエステル油の組合せである。比較例1条件2は、冷媒が従来のHFC系冷媒であるR410A(HFC32とHFC125の混合物)、冷凍機油がポリオールエステル油の組合せである。
【0047】
テスト条件として、試験温度を175℃、最大500時間として1つの組合せにつき5台ボンベを準備し、100時間毎に1台ずつボンベを開放し、冷凍機油の全酸価の経時変化を評価した。ここで、全酸価とは、試料1g中に含まれている全酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム(mg)数であり、酸価は潤滑油の使用中における酸化の程度を知るためや、あるいは潤滑油の酸化試験および実用試験後の評価などに広く利用されている指標である。
【0048】
図4に、本発明の実施の形態1におけるエージング時間と全酸価の特性相関図を示す。
【0049】
図4から、比較例1条件1の場合では、試験開始から100時間以降急激に全酸価が増加し、最終的に新油の全酸価に比べて150倍程度高い値となった。また、比較例1条件2の場合では、試験開始から二次関数的にやや増加し、最終的に新油の全酸価の50倍程度の値となった。
【0050】
以下に、全酸価の経時変化について考察を述べる。
【0051】
冷凍機油については、高温に曝されたり、混入した空気や水分と攪拌されることで徐々に劣化していったと考えられる。冷凍機油の構成分子は、高温環境下で、混入した空気、水分により分解され、活性な遊離基ができる。遊離基は空気と反応し過酸化物ラジカル(以下、OHラジカルと称する)が生成する。この遊離基やOHラジカルは新たな冷凍機油の構成分子を酸化してハイドロパーオキサイドとなり、新たな遊離基を作り、さらに連鎖が伝播され、次々と酸化されたものと考えられる。更に、封入した金属(銅、鉄、アルミニウム)は、高温環境下にてその表面が活性化されることで、このような冷凍機油の劣化、酸化連鎖反応を加速させる触媒として作用していると考えられる。
【0052】
次に、比較例1条件1と条件2の増加の割合に大きな違いがある点については、封入された冷媒の分解のし易さによる影響であると考える。つまり、HFC系冷媒であるR410Aは空気や水分により分解され難い極めて安定した物質であるのに対し、HFO1234yfは構造上、炭素の二重結合を有しているため、高温環境下で空気などにより分解され易い物質であることに起因すると考える。即ち、比較例1条件2での全酸価の増加は、冷凍機油の劣化、酸化によるものと考えられる。
【0053】
HFO1234yfが空気や金属触媒により分解されて発生したフッ化水素(フッ酸)を生成して、これが冷凍機油の分解を更に促進させた結果が、比較例1条件1と条件2の全酸価の増加の割合の違いに反映されたと考える。
【0054】
このような冷凍機油や冷媒の劣化、酸化、分解が進むと、重合されて泥状のスラッジ生成につながる可能性が出てくる。圧縮機やそれを用いたサイクル装置では、スラッジにより、圧縮機の故障や、冷凍サイクル装置内の特に細管であるキャピラリチューブに詰まりが生じて冷凍能力低下につながる可能性がある。
【0055】
これに対し、本実施の形態1である実施例1の場合では、冷凍機油であるポリオールエステル油中にベンゾトリアゾールを適量分散させることで、全酸価の増加を顕著に抑制し、最終時でもでも試験前の全酸価の50倍程度の増加に留まり、従来のHFC系冷媒とほぼ同等レベルの全酸価に抑制されることがわかる。
【0056】
これは、触媒として封入された金属(銅、鉄、アルミニウム)の表面にベンゾトリアゾールが吸着して薄い皮膜を形成し、ポリオールエステル油やHFO1234yf分子と金属が直接接触しないようにしたことと、油中に溶解した金属触媒によるポリオールエステル油やHFO1234yfの劣化、酸化分解の促進作用を抑制することで、全酸価の増大の根本要因である遊離基やOHラジカルの生成を抑制できたためと考えられる。
【0057】
次に、前述のロータリ圧縮機120の密閉容器101内に、上記実施例1の組合せの冷媒と冷凍機油と空気、水分も併せて封入して冷凍サイクル装置を組上げ、過負荷条件による1000時間運転を行った。
【0058】
試験後の冷凍機油の全酸価の測定の結果、全酸価の増加は従来のHFC系冷媒でのそれとほぼ同等レベルであることを確認した。これにより、少量の空気や水分が冷凍サイクル中に混入した場合であっても、冷凍機油、冷媒の劣化、酸化の速度を遅くすることができる。また、HFO1234yfを冷媒とした場合であっても、ベンゾトリアゾールを添加するだけで、従来HFC冷媒対応のポリオールエステル油を使用することが可能となった。
【0059】
これは、触媒として作用すると想定される冷凍サイクル装置を構成する各種金属部材、特に摩擦により活性化され易い圧縮機120内の摺動部分に対し、冷凍機油中に分散させたベンゾトリアゾールが吸着して薄い皮膜を形成し、冷凍機油や冷媒分子と金属部位が直接接触しないようにするのに加え、冷凍機油中の摩耗粉や溶解した金属とも反応して、不活性な金属化合物となり、触媒作用を顕著に抑制したためであると考えられる。
【0060】
以上の結果から、冷媒と冷凍機油を密封し、冷媒は、組成中に炭素の二重結合を有するハイドロフルオロオレフィン、あるいはハイドロフルオロオレフィンをベース成分とし、二重結合を有しないハイドロフルオロカーボンとの混合物のいずれかとしたものであり、冷凍機油中にベンゾトリアゾールを含有することにより、冷凍サイクルを構成する金属部材、特に圧縮機摺動部材の表面に吸着膜を形成し、冷凍機油分子やハイドロフルオロオレフィンからなる冷媒分子と、金属部材との直接接触を抑制したり、冷凍機油中に浮遊する摩耗粉や溶出した金属と反応させて不活性な金属化合物を形成して触媒作用を抑制することで、冷媒や冷凍機油の劣化速度を低下させて、圧縮機及びそれを用いた冷凍サイクル装置の長期信頼性を確保することができる。
【0061】
尚、本実施の形態では、ベンゾトリアゾールを使用したが、ジアルキルジチオリン酸亜鉛類、ジアルキルセレン、金属フェネート類、有機窒素化合物類のうち少なくとも1種を選択して用いても同様な効果が得られる。
【0062】
また、本実施の形態で用いたテトラフルオロプロペン(HFO1234yf)は、二重結合を有さないハイドロフルオロカーボン(HFC32、HFC125)を混合させることで、非共沸混合冷媒にも関わらず温度差を小さくできて擬似共沸混合冷媒に挙動が近づくため、冷却サイクル装置の冷却性能や冷却性能係数(COP)も改善することができる。本実施の形態では、HFO1234yf冷媒単体で用いたが、混合冷媒を用いても同様の効果が得られる。
【0063】
ここで、混合冷媒のGWPについては、5以上で750以下、望ましくは350以下となるように、それぞれ2成分混合もしくは3成分混合させる必要がある。HFO1234yfとHFC32とを混合してGWP350以下とするためにはHFO1234yfが49wt%以上とすることが望ましい。また、HFO1234yfとHFC125とを混合してGWP750以下とするためにはHFO1234yfが78.7wt%以上、さらにGWP350以下とするためにはHFO1234yfが91.1wt%以上とすることが望ましい。
【0064】
これによって、万一回収されない冷媒が大気に放出されても地球温暖化に対しその影響を極少に保つことができる。
【0065】
尚、本実施の形態では、冷凍機油としてHFO1234yfと相溶性のあるポリオールエステル油を用いたが、同様に相溶性のあるポリビニルエーテル、あるいはポリアルキレングリコールからなる冷凍機油を使用しても、冷凍サイクルに出て行った冷凍機油をロータリ圧縮機に回収することができ、同様に信頼性の高いロータリ圧縮機を得ることができる。また、HFC冷媒との混合冷媒としても、上記の冷凍機油は相溶性があるので、同様な効果が得られる。
【0066】
また、本実施の形態によれば、ロータリ圧縮機を例に挙げて説明したが、これ以外の圧縮方式の圧縮機、例えばスライディングベーンタイプなどの他のロータリ圧縮機や、スクロール圧縮機、レシプロ圧縮機にも適用しても同様の効果が得られる。
【0067】
(実施の形態2)
以下、図5に基づいて本実施の形態の説明を進めるが、実施の形態1と同一構成については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0068】
ここで、ロータリ圧縮機120での実機運転試験を行う前に、冷凍機油の劣化の経時変化を加速評価するべく、まず、オートクレーブ試験を実施した。
【0069】
耐圧ガラス管内に、冷凍機油を30gと、触媒となる銅、鉄、アルミニウムの直径1.5mm、長さ50mm各1本を封入した後、これら一式をステンレスボンベに格納して真空引き後に冷媒を30g封入した。冷凍機油、冷媒の劣化を促進させるために、水分1000ppm、空気100ccを併せて封入した。尚、いずれの組合せでも使用する冷凍機油は、従来のHFC系冷媒で実際に使用されているポリオールエステル油である。
【0070】
試験に用いた冷媒と冷凍機油の組合せは(表2)の通りである。
【0071】
【表2】

【0072】
本実施の形態における実施例2条件1は、冷媒がハイドロフルオロオレフィンであるテトラフルオロプロペン(HFO1234yf)、冷凍機油がベンゾトリアゾールと、アミン系酸化防止剤であるフェニル−アルファ−ナフチルアミンを適量分散させたポリオールエステル油の組合せで、実施例2条件2は、冷媒がHFO1234yf、冷凍機油がベンゾトリアゾールと、フェノール系酸化防止剤である2,6−ジ−ターシャリー−ブチル−パラクレゾール(DBPC)を適量分散させたポリオールエステル油の組合せで、実施例2条件3は、冷媒がHFO1234yf、冷凍機油がベンゾトリアゾールと、硫黄・りん系酸化防止剤であるジアリルジチオりん酸亜鉛(ZnDTP)を適量分散させたポリオールエステル油の組合せである。
【0073】
尚、比較として、以下の2種の組合せを用いた。
【0074】
比較例1条件1は、冷媒がハイドロフルオロオレフィンであるテトラフルオロプロペン(HFO1234yf)、冷凍機油がポリオールエステル油の組合せで、比較例1条件2は、冷媒が従来のHFC系冷媒であるR410A、冷凍機油がポリオールエステル油の組合せである。
【0075】
テスト条件として、試験温度を175℃、最大500時間として1つの組合せにつき各5台ボンベを準備し、100時間毎に1台ずつボンベを開放し、冷凍機油の全酸価の経時変化を評価した。
【0076】
図5に、本発明の実施の形態2におけるエージング時間と全酸価の特性相関図を示す。
【0077】
図5から、比較例1条件1の場合では、試験開始から100時間以降急激に全酸価が増加し、最終的に新油の全酸価に比べて150倍程度高い値となった。また、比較例1条件2の場合では、試験開始から二次関数的に増加するが、最終的に新油の全酸価の50倍程度の値となった。
【0078】
以下に、全酸価の経時変化について考察を述べる。
【0079】
まず、冷凍機油については、高温に曝されたり、混入した空気や水分と攪拌されることで徐々に劣化していったと考えられる。冷凍機油の構成分子は、混入した空気、水分により分解され、活性な遊離基ができる。遊離基は空気と反応し過酸化物ラジカル(以下、OHラジカルと称する)が生成する。この遊離基やOHラジカルは新たな冷凍機油の構成分子を酸化してハイドロパーオキサイドとなり、新たな遊離基を作り、さらに連鎖が伝播され、次々と酸化されたものと考えられる。更に、封入した金属(銅、鉄、アルミニウム)は、高温によりその表面が活性化されることで、このような冷凍機油の劣化、酸化連鎖反応を加速させる触媒として作用していると考えられる。
【0080】
次に、比較例1条件1と条件2の増加の割合の違いについては以下のように考える。これは、封入された冷媒による影響であり、つまり、HFC系冷媒であるR410Aは空気や水分により分解され難い安定した物質であるのに対し、HFO1234yfは構造上、炭素の二重結合を有しているため、空気などにより分解され易い物質であることに起因すると考える。即ち、比較例1条件2での全酸価の増加は、冷凍機油の劣化、酸化によるものと考えられる。
【0081】
HFO1234yfが空気や金属触媒により分解されて発生したフッ化水素(フッ酸)を生成することで、これが冷凍機油の分解を更に促進させた結果が、比較例1条件1と条件2の全酸価の増加の割合の違いに反映されていると考えられる。
【0082】
このような冷凍機油や冷媒の劣化、酸化、分解が進むと、重合されて泥状のスラッジ生成につながる可能性が出てくる。圧縮機やそれを用いたサイクル装置では、スラッジにより、圧縮機の故障や、冷凍サイクル装置内の特に細管であるキャピラリチューブに詰まりが生じて冷凍能力低下につながる可能性がある。
【0083】
これに対し、本実施の形態2である実施例2条件1の場合では、冷凍機油であるポリオールエステル油中にベンゾトリアゾールとフェニル−アルファ−ナフチルアミンを適量分散させることで、全酸価の増加を顕著に抑制し、試験500時間経過時でも試験前の全酸価の10倍程度にしか増加しないことがわかる。
【0084】
これは、触媒として封入された金属(銅、鉄、アルミニウム)の表面にベンゾトリアゾールが吸着して薄い皮膜を形成し、ポリオールエステル油やHFO1234yf分子と金属が直接接触しないようにしたことと、油中に溶解した金属触媒によるポリオールエステル油やHFO1234yfの劣化、酸化分解の促進作用を抑制したのに加えて、アミン系酸化防止剤であるフェニル−アルファ−ナフチルアミンが活性の高い連鎖伝播体(遊離基やOHラジカル)を捕捉して連鎖反応を止めて酸化劣化を抑制したことによる相乗相加効果と考えられる。また、アミン系は、比較的高い温度範囲まで効果があるとされており、その効果も加味されていると考える。
【0085】
また、本実施の形態2である実施例2条件2の場合では、冷凍機油であるポリオールエステル油中にベンゾトリアゾールと2,6−ジ−ターシャリー−ブチル−パラクレゾール(DBPC)を適量分散させることで、全酸価の増加を顕著に抑制し、試験500時間経過時でも試験前の全酸価の20倍程度にしか増加しないことがわかる。
【0086】
これは、触媒として封入された金属(銅、鉄、アルミニウム)の表面にベンゾトリアゾールが吸着して薄い皮膜を形成し、ポリオールエステル油やHFO1234yf分子と金属が直接接触しないようにしたことと、油中に溶解した金属触媒によるポリオールエステル油やHFO1234yfの劣化、酸化分解の促進作用を抑制したのに加えて、フェノール系酸化防止剤である2,6−ジ−ターシャリー−ブチル−パラクレゾール(DBPC)が活性の高い連鎖伝播体(OHラジカルなど)を捕捉して連鎖反応を止めて酸化劣化を抑制したことによる相乗相加効果と考えられる。
【0087】
本実施の形態2である実施例2条件3の場合では、冷凍機油であるポリオールエステル油中にベンゾトリアゾールとジアリルジチオりん酸亜鉛(ZnDTP)を適量分散させることで、全酸価の増加を顕著に抑制し、試験500時間経過時でも試験前の全酸価の4倍程度にしか増加しないことがわかる。
【0088】
これは、触媒として封入された金属(銅、鉄、アルミニウム)の表面にベンゾトリアゾールが吸着して薄い皮膜を形成し、ポリオールエステル油やHFO1234yf分子と金属が直接接触しないようにしたことと、油中に溶解した金属触媒によるポリオールエステル油やHFO1234yfの劣化、酸化分解の促進作用を抑制したのに加えて、硫黄・りん系酸化防止剤であるジアリルジチオりん酸亜鉛(ZnDTP)が酸化劣化反応中に生成されるハイドロパーオキサイドを分解し安定な化合物に換えて、連鎖開始反応を抑制したことによる相乗相加効果と考えられる。
【0089】
以上の結果から、実施例2条件1から条件3において、いずれの場合も全酸価の増大の根本要因である遊離基やOHラジカルの生成を複合的に抑制できたと考えられる。
【0090】
次に、前述のロータリ圧縮機120の密閉容器101内に、上記実施例2条件1から条件3の組合せの冷媒と冷凍機油に、空気、水分も併せて封入して冷凍サイクル装置を3台組上げ、過負荷条件による1000時間運転を行った。
【0091】
試験後の冷凍機油の全酸価の測定の結果、全酸価の増加の割合は従来のHFC系冷媒でのそれに比べて顕著に小さいことを確認した。これにより、少量の空気や水分が冷凍サイクル中に混入した場合であっても、冷凍機油、冷媒の劣化、酸化の速度を遅くすることができる。また、HFO1234yfを冷媒とした場合であっても、ベンゾトリアゾールとアミン系、フェノール系、あるいは硫黄・りん系酸化防止剤を添加すれば、従来HFC冷媒対応のポリオールエステル油を使用することも可能である。
【0092】
これは、触媒として作用すると想定される冷凍サイクル装置を構成する各種金属部材、特に摩擦により活性化され易い圧縮機120内の摺動部分に対し、冷凍機油中に分散させたベンゾトリアゾールが吸着して薄い皮膜を形成し、冷凍機油や冷媒分子と金属部位が直接接触しないようにするのに加え、冷凍機油中の摩耗粉や溶解した金属と反応して、不活性な金属化合物となり、触媒作用を顕著に抑制したことに加え、フェニル−アルファ−ナフチルアミン、2,6−ジ−ターシャリー−ブチル−パラクレゾール(DBPC)を更に添加した場合では活性の高い連鎖伝播体(OHラジカルなど)を捕捉して連鎖反応を止めて酸化劣化を抑制したためであり、ジアリルジチオりん酸亜鉛(ZnDTP)の場合では、酸化劣化反応中に生成されるハイドロパーオキサイドを分解し安定な化合物に換えて、連鎖開始反応を抑制したためによる相乗相加作用であると考えられる。
【0093】
以上の結果から、冷媒と冷凍機油を密封し、冷媒は、組成中に炭素の二重結合を有するハイドロフルオロオレフィン、あるいはハイドロフルオロオレフィンをベース成分とし、二重結合を有しないハイドロフルオロカーボンとの混合物のいずれかとしたものであり、冷凍機油中にベンゾトリアゾールと、アミン系の酸化防止剤であるフェニル−アルファ−ナフチルアミンを含有することにより、ロータリ圧縮機を構成する金属部材、特に摺動部材の表面に薄い吸着膜を形成し、冷凍機油分子や組成中に炭素の二重結合を有するハイドロフルオロオレフィンからなる冷媒と、金属部材との直接接触を抑制したり、冷凍機油中に浮遊する摩耗粉や溶出した金属と反応させて不活性な金属化合物を形成して触媒作用を抑制するのに加え、活性の高い連鎖伝播体(OHラジカルなど)を捕捉して連鎖反応を止めて酸化劣化を抑制したことで、冷凍機油の劣化速度を相乗相加的に低下させて、圧縮機及びそれを用いた冷凍サイクル装置の長期信頼性を確保することができる。
【0094】
本実施の形態では、アミン系酸化防止剤としてフェニル−アルファ−ナフチルアミンを用いたが、ジアルキルジフェニルアミンを用いても同様な効果が得られる。
【0095】
また、冷凍機油中にベンゾトリアゾールと、フェノール系酸化防止剤である2,6−ジ−ターシャリー−ブチル−パラクレゾール(DBPC)を含有することにより、ロータリ圧縮機を構成する金属部材、特に摺動部材の表面に薄い吸着膜を形成し、冷凍機油分子や組成中に炭素の二重結合を有するハイドロフルオロオレフィンからなる冷媒と、金属部材との直接接触を抑制したり、冷凍機油中に浮遊する摩耗粉や溶出した金属と反応させて不活性な金属化合物を形成して触媒作用を抑制するのに加え、活性の高い連鎖伝播体(OHラジカルなど)を捕捉して連鎖反応を止めて酸化劣化を抑制したことで、冷凍機油の劣化速度を相乗相加的に低下させて、圧縮機及びそれを用いた冷凍サイクル装置の長期信頼性を確保することができる。
【0096】
本実施の形態では、フェノール系酸化防止剤として2,6−ジ−ターシャリー−ブチル−パラクレゾール(DBPC)を用いたが、3−アリールベンゾフラン−2−オン(ヒドロキシカルカルボン酸の分子内環状エステル)を用いても同様な効果が得られる。
【0097】
また、冷凍機油中にベンゾトリアゾールと、硫黄・りん系酸化防止剤であるジアリルジチオりん酸亜鉛(ZnDTP)を含有することにより、ロータリ圧縮機を構成する金属部材、特に摺動部材の表面に薄い吸着膜を形成し、冷凍機油分子や組成中に炭素の二重結合を有するハイドロフルオロオレフィンからなる冷媒と、金属部材との直接接触を抑制したり、冷凍機油中に浮遊する摩耗粉や溶出した金属と反応させて不活性な金属化合物を形成して触媒作用を抑制するのに加え、酸化劣化反応中に生成されるハイドロパーオキサイドを分解し安定な化合物に換えて、連鎖開始反応を抑制したことで、冷凍機油の劣化速度を相乗相加的に低下させて、圧縮機及びそれを用いた冷凍サイクル装置の長期信頼性を確保することができる。
【0098】
また、本実施の形態では、硫黄・りん系酸化防止剤としてジアリルジチオりん酸亜鉛(ZnDTP)を用いたが、ジベンジルジサルファイド、ジセチルサルファイド、ジアルキルジチオりん酸亜鉛を用いても同様な効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
上述したように、本発明にかかる圧縮機は、炭素間に2重結合を有するハイドロフルオロオレフィンをベース成分とし、2重結合を有しないハイドロフルオロカーボンと混合した冷媒下でも圧縮機の信頼性を確保することができるため、給湯器用圧縮機、カーエアコン用圧縮機、冷凍冷蔵庫用圧縮機、除湿機用圧縮機等の用途にも適用できる。
【符号の説明】
【0100】
101 密閉容器
102 モータ
102a 固定子
102b 回転子
103 冷凍機油
104 シャフト
104a 偏心部
105 圧縮機構部
106 シリンダー
107 主軸受
108 副軸受
109 ピストン
110 ベーン
110a 先端部
110b 背部
111 ベーンバネ
112 吸入口
113 吸入室
114 圧縮室
115 吐出切り欠き
116 吐出管
120 圧縮機
121 凝縮器
122 膨張機構
123 蒸発器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒として組成中に炭素の二重結合を有するハイドロフルオロオレフィン、あるいはハイドロフルオロオレフィンをベース成分とし、二重結合を有しないハイドロフルオロカーボンとの混合物のいずれかを用い、冷凍機油中にベンゾトリアゾール、ジアルキルジチオリン酸亜鉛類、ジアルキルセレン、金属フェネート類、有機窒素化合物類のうち少なくとも1種を含有した圧縮機。
【請求項2】
前記冷凍機油中にアミン系酸化防止剤を含有させた請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記アミン系酸化防止剤は、フェニル−アルファ−ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミンのうち少なくとも1種とした請求項2に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記冷凍機油中にフェノール系酸化防止剤を含有させた請求項1に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記フェノール系酸化防止剤は、2,6−ジ−ターシャリー−ブチル−パラクレゾール(DBPC)、3−アリールベンゾフラン−2−オン(ヒドロキシカルカルボン酸の分子内環状エステル)のうち少なくとも1種とした請求項4に記載の圧縮機。
【請求項6】
前記冷凍機油中に硫黄・りん系酸化防止剤を含有させた請求項1に記載の圧縮機。
【請求項7】
前記硫黄・りん系酸化防止剤は、ジベンジルジサルファイド、ジセチルサルファイド、ジアルキルジチオりん酸亜鉛、ジアリルジチオりん酸亜鉛(ZnDTP)のうち少なくとも1種とした請求項6に記載の圧縮機。
【請求項8】
前記ハイドロフルオロオレフィンをテトラフルオロプロペン(HFO1234yf)とし、ハイドロフルオロカーボンをジフルオロメタン(HFC32)とペンタフルオロエタン(HFC125)とのいずれか一方又は両方とし、冷凍機油をポリビニルエーテル類、ポリオールエステル類あるいはポリアルキレングリコール類のいずれかとした請求項1〜7のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項9】
冷媒を圧縮、凝縮、膨張、蒸発させる冷凍サイクルを形成する冷凍サイクル装置において、請求項1〜8のいずれか1項に記載の圧縮機を用いることを特徴とする冷凍サイクル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−12532(P2012−12532A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151772(P2010−151772)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】