説明

圧縮機容量制御弁のシール構造

【課題】容量制御弁のシール部における冷媒透過漏れの低減、制御弁の回転方向のズレ防止、制御弁と制御弁穴の当接部との接触による異音の発生の防止等を、簡単な構造で安価に効率よく達成する。
【解決手段】圧縮機の吐出容量を制御する容量制御弁のシール構造であって、少なくとも容量制御弁の内圧と圧縮機外の大気圧とのシール部に、径方向シール機能を有する、芯金にゴムが加硫接着されたシール部材であるカップガスケットを用いたことを特徴とする圧縮機容量制御弁のシール構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変容量圧縮機の吐出容量を制御する容量制御弁のシール構造に関し、少なくとも容量制御弁の内圧と外部の大気圧との間を適切にシールし、特に、透過による冷媒漏れを低減できるようにした圧縮機容量制御弁のシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
可変容量圧縮機の吐出容量を制御する容量制御弁として、例えば特許文献1に記載されているようなものが知られている。この特許文献1においては、図5に示すように、揺動板101の揺動角を制御することにより、シリンダ102内を往復動されるピストン103のストローク、つまり、圧縮機吐出容量が制御される揺動板式の可変容量圧縮機100が示されている。この圧縮機100には、その制御弁装着用穴104内に容量制御弁105が組み込まれており、クランク室106の圧力Pcから調圧されて制御弁105内に導入される圧力Pc1、Pc2を利用して、吐出室107の圧力Pdと吸入室108の圧力Psとの差圧Pd−Psが所定の一定圧力となるように、容量制御弁105で制御されるようになっている。
【0003】
このような圧縮機に組み込まれる容量制御弁においては、通常、少なくとも容量制御弁の内圧と外部の大気圧との間を適切にシールする必要があり、容量制御弁に対して必要なシール構造が設けられる。従来から広く使用されているHFC134のようなフッ素化合物を冷媒とする容量制御弁の大気圧と内圧のシール構造は、通常、Oリングを用いた径方向のシールであり、容量制御弁を圧縮機内に保持するための弁の軸方向の固定には、制御弁の端部をスナップリングで止める構造が採用されている。
【0004】
例えば上記特許文献1に開示された容量制御弁105においては、図6に示すようなシール構造が採用されている。図6に示すシール構造においては、容量制御弁105の外周部に、制御弁装着用穴104の内周面との間に3つのOリング111、112、113が装着されている。このうち、Oリング111、112は内圧同士間をシールしているが、Oリング113は、容量制御弁105の内圧と外部の大気圧との間をシールしている。
【特許文献1】特開2004−11454号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようなOリング113による容量制御弁105の内圧と外部の大気圧とのシール構造においては、Oリング113での冷媒の透過面積が比較的大きく透過による漏れ量が多くなるおそれがある。容量制御弁105の回転方向に対する阻止力は、制御弁の複数のOリング111、112、113によるシール部の摩擦力によるものである。内圧が作用していれば容量制御弁105の端部のスナップリング114(図5に図示)と容量制御弁105の摩擦力も阻止力となるが、これだけでは不十分であるおそれがあり、容量制御弁105が回転すると、ソレノイドへ電力を供給するリード線の方向がずれ易い。また、容量制御弁105をスナップリング114で軸方向のガタ無しで組み付けるには、関連する各部材の寸法を厳しく管理する必要があり、そのためにはガタを許容し得るだけの高精度の寸法設定が採用されている。また、容量制御弁105の駆動信号は通常PWM信号とされることが多く、この場合、容量制御弁105は振動し制御弁の取付け穴(制御弁装着用穴104)の当接部との接触により異音を発生するおそれもある。
【0006】
そこで本発明の課題は、上記のような問題点に着目し、容量制御弁のシール部における冷媒透過漏れの低減、制御弁の回転方向のズレ防止、制御弁と制御弁穴の当接部との接触による異音の発生の防止を、シール部材の変更および制御弁のシール部材装着部の構成を変更することにより、安価に効率よく達成可能な圧縮機容量制御弁のシール構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る圧縮機容量制御弁のシール構造は、圧縮機の吐出容量を制御する容量制御弁のシール構造であって、少なくとも容量制御弁の内圧と圧縮機外の大気圧とのシール部に、径方向シール機能を有する、芯金にゴムが加硫接着されたシール部材であるカップガスケットを用いたことを特徴とするものからなる。すなわち、少なくとも前述の図6に示したシール部材としてのOリング113の代わりに、カップガスケットを用いた構造である。
【0008】
このカップガスケットは、芯金にゴムが加硫接着されたシール部材であり、ガスケット内部に芯金が埋没されて所定の断面形態に形成されているので、従来の芯金が無く全断面がゴム製のOリングに比べ、容易に径方向の厚みを小さく形成でき、軸方向である冷媒の透過方向における断面積を大幅に小さくすることが可能になる。したがって、冷媒透過面積を大幅に小さくすることが可能であり、その分、透過による冷媒の漏れ量を低減することが可能になる。また、カップガスケットは、ゴムが加硫接着されたガスケット内部に遮蔽力の高い金属からなる芯金が存在する構成を有するので、この芯金の存在により、軸方向への冷媒の透過に対する抑止力が高められる。したがって、この面からも、透過による冷媒の漏れ量を低減することが可能になる。さらに、このカップガスケットは、径方向には比較的薄型に形成しつつ軸方向には容易に長さを調節できるので、圧縮機の制御弁装着用穴等とのシール面積を容易に比較的長く設定でき、それによって容量制御弁の回転阻止に必要な摩擦力を容易に得ることが可能になって、容量制御弁の回転阻止にも効果を発揮する。ただし、容量制御弁は圧縮機の制御弁装着用穴内に挿入されるので、このシール部分には、基本的に径方向シール機能を持たせておくことが求められる。したがって、本発明では、上記カップガスケットは、上記のような優れた冷媒透過抑止機能、制御弁回転抑止機能を有しつつ、基本的要求性能である径方向シール機能も併せ持つものであることが明確に規定されている。
【0009】
このような本発明に係る圧縮機容量制御弁のシール構造においては、カップガスケットが、容量制御弁のガスケット装着部における段差部と、圧縮機の制御弁装着用穴内の段差部とにより、軸方向の位置が規制されている構造を採ることができる。このような構成においては、容量制御弁に装着されているカップガスケットの端部のゴム部分を制御弁装着用穴内の段差部に当接させることにより、容量制御弁の軸方向の位置決めを簡単に行うことができるので、この部分の寸法精度が厳しくすることなくカップガスケットゴム部分の変形によりガタなく位置決めすることが可能になる。ゴム部分を介することで、制御弁が振動する際にも異音の発生の防止が可能になる。
【0010】
また、カップガスケットが、容量制御弁の複数の構成部材により形成された溝内に装着されている構造を採ることもできる。このような構成においては、芯金を有するため通常の一部材上でのコの字状断面の溝に対しては装着が困難であるカップガスケットにおいても、複数の構成部材を用いてガスケット装着用溝を形成することにより、一部の溝形成用部材にカップガスケットを先に装着し、その後に残りの溝形成用部材を組み合わせることにより、容易にカップガスケットの溝内装着構造を実現できるようになる。
【0011】
また、上記カップガスケットが、該ガスケットの内周面または/および外周面に形成された複数の突起または溝を有する構成とすることも可能である。複数の突起や溝を設けることにより、局所的にシール面圧を高めることが可能になり、カップガスケットによるシール構造全体としてのシール性能を向上することが可能になる。複数の突起や溝は、ガスケット周方向に連続的に延びていることが好ましいが、局所的に適切にシール面圧を高めることができれば、この構造には限定されない。
【0012】
また、本発明に係る圧縮機容量制御弁のシール構造は、基本的にはあらゆる被圧縮流体、あらゆる冷媒を使用する圧縮機に適用可能であるが、とくに高圧で使用される二酸化炭素を冷媒とする圧縮機の容量制御弁に好適なものである。
【0013】
さらに、本発明が適用可能な圧縮機も、容量制御弁を備えたものである限り特に限定されないが、大量生産され、冷媒漏れ防止の要求の厳しい車両空調装置用の圧縮機である場合に、本発明は特に有効なものである。
【発明の効果】
【0014】
このように、本発明に係る圧縮機容量制御弁のシール構造によれば、容量制御弁の内圧と外部の大気圧とのシール部材をOリングからカップガスケットに変更することにより、シール部材であるゴムの冷媒の透過面積を大幅に縮小できるので、冷媒の透過漏れを大幅に低減することができる。
【0015】
また、容量制御弁の複数のOリングの回転方向の摩擦力は、制御弁の回転方向の位置決めを行うには不足しており、回転によりリード線等の出口方向が定まらないという問題があったが、カップガスケットは、必要シール面圧を維持しつつ回転阻止に必要な摩擦力はシール面積で容易に調整可能であるので、適切な回転阻止力を設定することができる。
【0016】
さらに、容量制御弁を、制御弁装着用穴の段差部とカップガスケット端部のゴム部分との当接を介して軸方向に位置決めする構造とすることで、軸方向の位置決めに関わる寸法を厳しく管理することなく、ゴム部分の変形により容易にガタ無く組み付けることが可能になる。また、制御弁の駆動信号はPWMであり、制御弁が振動しガタがあると異音の発生につながるおそれがあったが、上記のようにゴム部分を介することで異音の発生を防止することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の第1実施態様に係る圧縮機容量制御弁のシール構造を示しており、図2は、本発明の第2実施態様に係る圧縮機容量制御弁のシール構造を示している。両実施態様とも、図5に示したのと同様の可変容量圧縮機の容量制御弁のシール構造を示している。図1、図2において、容量制御弁1、11は、圧縮機筐体2、12に設けられた制御弁装着用穴3、13に挿入されて固定される。
【0018】
図1に示す第1実施態様では、容量制御弁1の内圧と圧縮機外の大気圧とのシール部に、径方向シール機能を有する、芯金にゴムが加硫接着されたシール部材であるカップガスケット4が用いられており、該カップガスケット4は、容量制御弁1のガスケット装着部における段差部5と、圧縮機筐体2の制御弁装着用穴3内の段差部6とにより、軸方向の位置が規制されている。また、図2に示す第2実施態様では、カップガスケット14は、容量制御弁11の複数の構成部材15、16により形成された、周方向に環状に延びる溝17内に装着されており、構成部材15にカップガスケット14が装着された状態で構成部材16を組み合わせることにより、溝17が形成されるとともに、該溝17内にカップガスケット14が装着されたシール構造が完成されている。
【0019】
第1、第2実施態様とも、容量制御弁1、11には、圧縮機筐体2、12の制御弁装着用穴3、13の内周面との間に、制御弁内圧同士間のシールを行うOリング7、8が装着されている。また、容量制御弁1、11は、スナップリング9により、抜け防止が行われている。
【0020】
上記カップガスケット4、14は、図3に示すように、芯金21の周囲にゴム22が加硫接着されたシール部材に構成されたものである。これらカップガスケット4、14が容量制御弁1、11に装着されて圧縮機筐体の内周面との間でシール構造が構成されるが、このときの状態を、図6に示したOリングを用いた従来構造と比較して図4に示す。図4(A)が従来のOリング113を用いた容量制御弁105のシール構造を示しており、図4(B)が本発明におけるカップガスケット4、14を用いた容量制御弁1、11のシール構造を示している。
【0021】
このように芯金21にゴム22が加硫接着されたカップガスケット4、14を、容量制御弁1、11の内圧と外部の大気圧とのシールに使用することにより、従来の芯金が無く全断面がゴム製のOリングに比べ、図4に比較して示したように、容易に径方向の厚みを小さく形成でき、軸方向の冷媒の透過方向における断面積を大幅に小さくすることが可能になる。その結果、冷媒透過面積を大幅に小さくすることが可能であり、その分、透過による冷媒の漏れ量を大幅に低減することが可能になる。また、カップガスケット4、14内に存在する芯金21は金属から構成されているので、ゴム部分に比べ冷媒の漏れに対しより高い遮蔽力を発揮できるから、芯金21の存在によっても冷媒の漏れ量の低減が可能となっている。さらに、このカップガスケット4、14は、図4に比較して示したように、容易に径方向の厚みを小さく形成でき、かつ、シール状態でその軸方向シール面の長さを容易に調整(容易に比較的長くなるように調整)可能であるので、このシール面における圧縮機筐体2、12の制御弁装着用穴3、13との間の摩擦力を容易に高めることができ、それによって容量制御弁1、11の回転阻止力を大幅に高めることが可能になる。したがって、容量制御弁1、11へのリード線の位置ズレ等の問題の解消も可能になる。
【0022】
また、上記第1実施態様に係る構造では、容量制御弁1に装着されているカップガスケット4の端部のゴム部分を制御弁装着用穴3内の段差部6に当接させることにより、より正確には該段差部6と容量制御弁1側の段差部5間に設置することにより、容量制御弁1の軸方向の位置決めを簡単に行うことができるようになり、位置決めのためにこの部分の寸法精度が厳しくすることなく、カップガスケット1のゴム部分の変形によりガタなく容易に目標とする形態に位置決めすることが可能になる。さらに、ゴム部分を介することで、容量制御弁1にPWM制御等によって振動が発生しようとする際にも、振動を抑制あるいは吸収可能になるとともに、ゴム部分の当接構造により異音の発生を防止することが可能になる。
【0023】
また、上記第2実施態様に係る構造では、カップガスケット14は芯金21を有する構造であるため径方向に伸ばして装着することが難しいが、複数の構成部材15、16の組み合わせにより装着用溝17を形成するようにすることで、容易にカップガスケット14を溝17内に装着できるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明に係る圧縮機容量制御弁のシール構造は、容量制御弁を備えたあらゆる圧縮機に適用可能であり、とくに、車両空調装置用の圧縮機に適用して好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施態様に係る圧縮機容量制御弁のシール構造の断面図である。
【図2】本発明の第2実施態様に係る圧縮機容量制御弁のシール構造の断面図である。
【図3】図1および図2に示したカップガスケットの断面図である。
【図4】図1および図2に示したカップガスケットと従来構造におけるOリングとの装着状態を比較した概略断面図である。
【図5】従来の容量制御弁のシール構造を示す圧縮機の概略縦断面図である。
【図6】図5の装置における容量制御弁のシール構造の断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1、11 容量制御弁
2、12 圧縮機筐体
3、13 制御弁装着用穴
4、14 カップガスケット
5 容量制御弁のガスケット装着部における段差部
6 制御弁装着用穴内の段差部
7、8 Oリング
9 スナップリング
15、16 容量制御弁の構成部材
17 溝
21 芯金
22 ゴム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機の吐出容量を制御する容量制御弁のシール構造であって、少なくとも容量制御弁の内圧と圧縮機外の大気圧とのシール部に、径方向シール機能を有する、芯金にゴムが加硫接着されたシール部材であるカップガスケットを用いたことを特徴とする圧縮機容量制御弁のシール構造。
【請求項2】
前記カップガスケットが、容量制御弁のガスケット装着部における段差部と、圧縮機の制御弁装着用穴内の段差部とにより、軸方向の位置が規制されている、請求項1に記載の圧縮機容量制御弁のシール構造。
【請求項3】
前記カップガスケットが、容量制御弁の複数の構成部材により形成された溝内に装着されている、請求項1に記載の圧縮機容量制御弁のシール構造。
【請求項4】
前記カップガスケットは、該ガスケットの内周面または/および外周面に形成された複数の突起または溝を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の圧縮機容量制御弁のシール構造。
【請求項5】
前記容量制御弁は、二酸化炭素を冷媒とする圧縮機の容量制御弁である、請求項1〜4のいずれかに記載の圧縮機容量制御弁のシール構造。
【請求項6】
前記圧縮機は、車両空調装置用の圧縮機である、請求項1〜5のいずれかに記載の圧縮機容量制御弁のシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−287426(P2009−287426A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−139287(P2008−139287)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【Fターム(参考)】