説明

圧縮機

【課題】組み付けの容易性を維持したまま、リップシール装置を傾きにくくし、簡易にガス漏れのリスクを低減させる。
【解決手段】回転軸13の一端部がハウジングを貫通して外部に突出し、ハウジングの貫通部14bがリップシール装置54により軸封されている圧縮機であって、前記リップシール装置54を構成するとともに、前記回転軸13の軸方向に沿って延びるメインリップシール材61のリング部61Aの平坦な外周面61C全体と接する平坦面65と、前記平坦面65よりも前記ハウジングの内部側に位置して、前記回転軸13の軸方向と直交する方向に沿って半径方向内側に延びる第1の抜け止め用鉛直面66と、前記平坦面65よりも前記ハウジングの外部側に位置して、前記回転軸13の軸方向と直交する方向に沿って半径方向内側に延びる第2の抜け止め用鉛直面67とにより形成されたリップシール装置収容部55を、前記貫通部14bに設けるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸封部にリップシール装置を備えた圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハウジングの内部に圧縮機構が設けられている圧縮機であって、圧縮機構に結合されている回転軸の一端がハウジングを貫通して外部に突出している、いわゆる開放型の圧縮機では、ハウジング内を流動するガスが回転軸の貫通部から外部に漏出しないように回転軸の貫通部を軸封している。この軸封部には、従来からリップシール装置が用いられている。
【0003】
リップシール装置は、剛性の高い金属製の環状保形材の内外周に、弾性変形可能なゴム材等からなる環状のメインリップシール材、サブリップシール材等を設けた構成とされており、環状保形材と対応しているメインリップシール材の外周部をハウジング側のリップシール収容部に圧入し、メインリップシール材およびサブリップシール材のリップ部を回転軸の外周に圧接させて組み付けることより、回転軸の貫通部を軸封していた。
【0004】
かかるリップシール装置において、ハウジング側の収容部からの抜け落ちを防止するとともに、収容部に対する組み付けの容易性を確保するため、ハウジング側の収容部の内周面に環状溝を設けるとともに、その外部側に内向きに突出形成されたフランジ部を設ける一方、リップシール装置のメインリップシール材の外周部に、収容部の内周面に加圧接触される弾性変形可能な複数条のシール突部と、その前側または後側に位置する弾性変形可能な前記環状溝に係合される係合突部とを設けたシール構造が、特許文献1にて提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−248005号公報(図3、図5参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に提示されたものは、ハウジングの内部側からフランジ部に向けてリップシール装置を圧入し、メインリップシール材の外周部に設けられている係合突部を環状溝に係合することによって、リップシール装置の抜け止めを図ったもので、スナップリング等を用いることなく、リップシール装置を組み付けることができるため、組み付けの容易性を確保できるものである。
【0007】
しかしながら、メインリップシール材の外周部に設けられている複数条のシール突部に対して、それの軸線方向の前側または後側に環状溝に係合される係合突部を設けた構成とされている。このため、リップシール装置をハウジング側の収容部内周面に保持、固定する機能を担う複数条のシール突部間のピッチ寸法が小さくなってしまい、例えば、ハウジング内が負圧となってリップシール装置に内向きの力が付加され、メインリップシール材が弾性変形したり、位置ずれが生じたりしたとき、リップシール装置が傾き易く、ガス漏れのリスクが大きくなるという問題があった。
また、リップシール装置を傾き難くするため、環状保形材を高剛性化することが考えられるが、コスト上昇を招くという問題があった。
さらに、メインリップシール材の外周部に複数条のシール突部を設けなければならず、さらなるコスト上昇を招くという問題もあった。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、組み付けの容易性を維持したまま、リップシール装置を傾きにくくし、簡易にガス漏れのリスクを低減させることができる圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明に係る圧縮機は、内部に空間を有するハウジングと、前記ハウジング内に配置され、前記空間内に取り込まれた流体を圧縮する圧縮機構と、前記圧縮機構を駆動する回転軸とを備え、前記回転軸の一端部が前記ハウジングを貫通して外部に突出し、前記ハウジングの貫通部がリップシール装置により軸封されている圧縮機であって、前記リップシール装置を構成するとともに、前記回転軸の軸方向に沿って延びるメインリップシール材のリング部の平坦な外周面全体と接する平坦面と、前記平坦面よりも前記ハウジングの内部側に位置して、前記回転軸の軸方向と直交する方向に沿って半径方向内側に延びる第1の抜け止め用鉛直面と、前記平坦面よりも前記ハウジングの外部側に位置して、前記回転軸の軸方向と直交する方向に沿って半径方向内側に延びる第2の抜け止め用鉛直面とにより形成されたリップシール装置収容部が、前記貫通部に設けられている。
【0010】
本発明に係る圧縮機によれば、スナップリング等を用いることなく、リップシール装置がハウジングの貫通部に組み付けられることになるので、組み付けの容易性を維持することができる。
また、リング部の平坦な外周面全体が、リップシール装置収容部の平坦面と接触することになるので、リップシール装置を傾きにくくし、簡易にガス漏れのリスクを低減させることができる。
さらに、環状保形材を高剛性化したり、メインリップシール材の外周部に複数条のシール突部を設ける必要がなくなるので、コスト上昇を回避することができる。
【0011】
上記圧縮機において、前記第1の抜け止め用鉛直面の深さが、前記リング部の厚みの8%〜40%に相当する深さに設定されているとさらに好適である。
【0012】
このような圧縮機によれば、リップシール装置をリップシール装置収容部に対してハウジングの内部側から外部側に向けて圧入(挿入)して、第1の鉛直面のところを通過させる際に弾性変形が永久歪みとして残らないように、またはゴム製のメインリップシール材に圧縮割れが生じないようになっているので、ガス漏れのリスクを低減させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る圧縮機によれば、組み付けの容易性を維持したまま、リップシール装置を傾きにくくし、簡易にガス漏れのリスクを低減させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る圧縮機の縦断面図である。
【図2】図1の要部を拡大して示した要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る圧縮機(以下、「スクロール型圧縮機」という。)の一実施形態を、図1および図2を参照しながら説明する。なお、本発明がこれに限定解釈されるものでないことは勿論である。
図1は本実施形態に係るスクロール型圧縮機の縦断面図、図2は図1の要部を拡大して示した要部拡大図である。
【0016】
図1に示すように、本実施形態によるスクロール型圧縮機10は、内部に密閉空間mを有するハウジング11と、このハウジング11内に配置され、密閉空間m内に取り込まれた冷媒ガス(流体)を圧縮するスクロール圧縮機構12と、このスクロール圧縮機構12を駆動する回転軸13と、このスクロール圧縮機構12を公転駆動する駆動部を主たる要素として構成されたものである。
【0017】
ハウジング11は、フロントハウジング14と、リアハウジング15とを備えてなり、これらを組み合わせてから複数本のボルト(図示せず)で結合することにより、内部に密閉空間mが形成されるようになっている。なお、符号16は、これらフロントハウジング14およびリアハウジング15間の接合部分をシールして、密閉空間mの密閉状態を保つ一本のOリングである。また、フロントハウジング14の端面には、この端面と合致するスラストプレート14aが設けられており、スラストプレート14aには、後述する受け部38に対応する図示しない穴(切欠)が形成されている。
【0018】
リアハウジング15の側部前側には、冷媒ガスを吸入する吸入口(図示せず)が、密閉空間mに連通するように形成されており、リアハウジング15の上部後側には、スクロール圧縮機構12で圧縮され、油分離室(図示せず)により冷媒ガス中の潤滑油が分離された後の圧縮冷媒ガスを吐出する吐出口15aが形成されている。また、リアハウジング15の吐出側(高圧側)には、油分離室により分離された潤滑油を貯留する油溜まり室18(油貯留部)が形成されている。
なお、油分離室は、遠心分離型など油分離機能を有し、分離した油を油溜まり室18に導出するものであればよい。
【0019】
スクロール圧縮機構12は、固定スクロール21と、旋回スクロール22とを備えるものである。
固定スクロール21は、固定端板21aとその内面に立設された渦巻状壁体21bとを備え、固定端板21aの中央部には、吐出ポート21cが形成されている。この吐出ポート21cは、ボルト(図示せず)を介して固定端板21aの後側表面(背面)に取り付けられた吐出弁(図示せず)により開閉される。
固定スクロール21の下端部には、油貯め室18の底部と密閉空間mの吸入側底部とを連通する連通路(潤滑油経路)23が形成されており、この連通路23の上流側端部内には、上流側からフィルタ24および流量調整用の螺旋ピン25が配置されている。
【0020】
連通路23は、スクロール型圧縮機10内の高圧側に設けられた油溜まり室18と低圧側とを連通させるものであり、さらには、螺旋ピン25の外径と略同じ内径を有する大径部23aと、この大径部23aの内径よりも小さい内径を有する小径部(絞り部)23bとを備えてなり、これら大径部23aおよび小径部(上流側よりも径が縮小された縮径部)23bは、上流側(油溜まり室18の側)から大径部23a、小径部23bの順に形成されている。
螺旋ピン25は、概略円筒形状を有する部材であり、両先端部にはテーパ部25aが形成されているとともに、これらテーパ部25aを除く本体部25bの側面には螺旋状の溝(以下、「螺旋溝」という)25cが切られている。この螺旋ピン25は、大径部23a内の上流側(油溜まり室18の側)に配置されている。フィルタ24を通過した潤滑油は、螺旋溝25cを通って螺旋ピン25の下流側に位置する大径部23a内に一旦流出した後、小径部23bを通って密閉空間mの吸入側底部に流出(噴出)させられるようになっている。
【0021】
絞り部23bは、旋回スクロール22側に開口する連通路23の端部開口23cを有するが、螺旋ピン25によって形成される絞り部とは大径部23aにより形成される空間を介在させることにより異なる流路抵抗を設定可能な独立した絞り構成を実現できる。
より詳細には、主たる目的を高圧側から低圧側に油を戻すための圧力・流量調整部としての高圧側絞り部を前述した螺旋溝により形成し、一方で、連通路23から油を噴出させる圧力・流量調整部としての低圧側絞り部を前述した小径部23bにより形成する。このため、高圧側絞り部の流路抵抗が前記低圧側絞り部の流路抵抗よりも大きくし、適切な圧力状態の油を高圧側から低圧側に確実に供給している。
【0022】
また、小径部23bの下流端に設けられた開口23cと対向する位置には、(潤滑油)受け部38が設けられている。この受け部38は、密閉空間mの吸入側底部に存するフロントハウジング14の内壁面に形成された切欠部(凹所)である。受け部38の底面は、半径方向内側から半径方向外側にかけて小径部23bの開口23cに漸次近づくように形成された、略一定の幅を有する斜面となっており、その下端は、小径部23bの開口23cの下端よりも下方に位置するように形成されている。
【0023】
旋回スクロール22は、旋回端板22aとその内面に立設された渦巻状壁体22bとを備えている。旋回端板22aの外面に立設されたボス22c内には、偏心ブッシュ31が、ニードル軸受32を介して回転自在に嵌合され、この偏心ブッシュ31に穿設された穴に、回転軸13の一端部から突出した偏心ピン13aが嵌合されている。そして、固定スクロール21と旋回スクロール22とを相互に所定距離だけ偏心させ、かつ、180度だけ角度をずらして噛み合わせることにより、複数の圧縮室Cが形成されるようになっている。
また、旋回スクロール22とフロントハウジング14との間には、オルダムリング(自転防止機構)33が設けられており、回転軸13を回転させたときに、旋回スクロール22が偏心ブッシュ31回りに自転しないようになっている。したがって、回転軸13を回転させたとき、旋回スクロール22は自転せず公転旋回運動のみを行うようになっている。また、偏心ブッシュ31にはバランスウェイト34が設けられており、旋回スクロール22の公転に伴う遠心力を相殺するようになっている。
【0024】
回転軸13は、エンジンや電動モータ等の図示しない駆動機構により、その軸線回りに回転するロータシャフトであり、その一端部の先端には、偏心した軸線を有する前述した偏心ピン13aが突出形成されている。そして、この回転軸13は、フロントハウジング14側に設けられた第1軸受(メイン軸受)35および第2軸受(サブ軸受)36により、その軸線回りに回転可能に支持されている。
なお、符号37は、固定スクロール21およびリアハウジング15間の接合部分をシールして、密閉空間mの密閉状態を保つ一本のOリングである。
【0025】
一方、エンジンや電動モータ等からの駆動力は、電磁クラッチ40を介して、回転軸13へ伝達されたりされなかったりするようになっている。
電磁クラッチ40は、クラッチ軸受41と、駆動ロータ42と、コイル43と、カバー44と、ハブ45と、板バネ46と、ピン47,48と、アーマチュア板49とを主たる要素として構成されたものである。
クラッチ軸受41は、その内輪の内周面とフロントハウジング14のノーズ部14bの外周面とが密着するように、ノーズ部14bの外周面に(プレスで打ち込む程度に)圧入されている。
【0026】
駆動ロータ42は、その内周面とクラッチ軸受41の外輪の外周面とが密着するように、クラッチ軸受41の外輪の外周面に取り付けられている。また、この駆動ロータ42には、コイル43が内蔵されており、これらコイル43と対向する位置にアーマチュア板49が配置されている。そして、これらコイル43には、図示しない制御器からの出力信号に基づいて電流が流されるようになっている。
ハブ45は、ボルト50およびストッパ51を介して回転軸13の他端部の先端に取り付けられている。
【0027】
カバー44および板バネ46はそれぞれ、それらの一端部がピン48を介してハブ45のフランジ部に取り付けられており、板バネ46の他端部には、ピン47を介してアーマチュア板49が取り付けられている。
また、フロントハウジング14のノーズ部(貫通部)14bには、第1軸受35と第2軸受36との間に、ハウジング11の内部側と外部側(大気側)とを軸封するためのリップシール装置(軸封装置)54が設けられている。このリップシール装置54は、ノーズ部14bの内周面(貫通穴)14cに設けられているリップシール装置収容部(以下、「収容部」という。)55に対してフロントハウジング14の内部側から外部側(大気側)に向けて圧入される。
【0028】
図2に示すように、リップシール装置54は、金属製の高剛性を有する環状保形材59と、この環状保形材59の内周に設けられている金属製のバックアップリング材60と、環状保形材59の外周に設けられている弾性変形可能なゴム製の環状をなすメインリップシール材61と、環状保形材59およびメインリップシール材61の内周側に設けられている環状の樹脂製サブリップシール材62とから構成されている。
メインリップシール材61は、環状保形材59に外周面に固着されるリング部61Aと、このリング部61Aから側方内向きに斜めに張り出されたリップ部61Bとを備えた構成とされており、このリップ部61Bおよびサブリップシール材62は、回転軸13の外周面に圧接されるようになっている。
【0029】
収容部55は、周方向に沿って設けられた環状の溝であり、回転軸13の軸方向に沿って延びるリング部61Aの外周面61C全体と接する(第1の)平坦面65と、平坦面65の内部側において、回転軸13の軸方向と直交する方向に沿って半径方向内側に延びる(第1の抜け止め用)鉛直面66と、平坦面65の外部側(大気側)において、回転軸13の軸方向と直交する方向に沿って半径方向内側に延びる(第2の抜け止め用)鉛直面67とにより形成されている。また、鉛直面66の深さ(高さ:半径方向の長さ)hは、メインリップシール材61(より詳しくは、リング部61A)の厚みの8%〜40%(本実施形態では40%)に相当する深さ、すなわち、リップシール装置54を収容部55に対してフロントハウジング14の内部側から外部側に向けて圧入(挿入)する際、鉛直面66のところでメインリップシール材61の厚みが92%〜60%(本実施形態では60%)になるように設定されている。
【0030】
一方、鉛直面67の深さ(高さ:半径方向の長さ)は、鉛直面66の深さよりも大きくなるように(本実施形態ではリング部61の厚みと、環状保形材59の厚みと、バックアップリング材60の厚みとを足し合わせたものよりも大きくなるように)設定されている。そして、平坦面65は、リップシール装置54が収容部55内に圧入された状態において、メインリップシール材61(より詳しくは、リング部61A)の厚みが、元の厚み(収容部55内に圧入されていない状態における厚み)の90%〜80%(本実施形態では80%)になるように形成されている。
また、鉛直面66の内部側には、フロントハウジング14の内部側から外部側に向かって漸次縮径するテーパ面70が形成されており、鉛直面66とテーパ面70とは、回転軸13の軸方向に沿って延びる(第2の)平坦面71を介して接続されている。
【0031】
このような構成を有する電磁クラッチ40は、駆動ロータ42が図示しないVベルト等を介してエンジンや電動モータ等の駆動源に連結されており、これによりエンジンや電動モータ等の回転中は、駆動ロータ42が常時回転するようになっている。
そして、図示しない制御器からの出力信号に基づいてコイル43に電流が流されると、アーマチュア板49が板バネ46の弾発力に抗して駆動ロータ42に密着し、駆動ロータ42の回転は、アーマチュア板49、ピン47、板バネ46、ピン48、ハブ45をこの順に経て回転軸13に伝達されて回転軸13が回転する。また、コイル43への通電が停止されると、板バネ46の復元力によってアーマチュア板49は駆動ロータ42から離間し、回転軸13への動力伝達が遮断される。
【0032】
一方、スクロール型圧縮機10では、電磁クラッチ40が入れられることによりエンジンや電動モータ等からの駆動力が回転軸13に伝達されるとともに回転軸13が回転され、この回転が偏心ピン13a、偏心ブッシュ31、およびボス22cを介してスクロール圧縮機構12の旋回スクロール22に伝達される。旋回スクロール22はオルダムリング33により自転を阻止されながら公転旋回半径を半径とする円軌道上で公転旋回運動を行うようになっている。
【0033】
そうすると、冷媒ガスが吸入ポートを介してハウジング11の密閉空間mに入り、図示省略の経路を経てスクロール圧縮機構12の圧縮室Cに吸入される。そして、旋回スクロール33の公転旋回運動によって圧縮室Cの容積が減少するのに伴い冷媒ガスが圧縮されながら中央部に至り、吐出ポート21cから潤滑油を含んだ冷媒が油分離室に導かれるとともに、油分離室の内壁面に沿って旋回させられる。その結果、冷媒中に混入していた潤滑油は、遠心分離作用により油分離室の内壁面に沿って旋回しながら下方に落下していって油溜まり室18に貯まり、一方、潤滑油が分離された冷媒は、内筒の内側およびリアハウジング15の吐出ポート15aを経て冷媒が外部に吐出されるようになっている。
なお、冷媒圧力の観点からするとスクロール型圧縮機10内部において吐出ポート21cや油溜まり室18などを備える側が高圧側となり吸入ポートや第1軸受35等を備える側が低圧側となる。
【0034】
本実施形態に係るスクロール圧縮機10によれば、スナップリング等を用いることなく、リップシール装置54がフロントハウジング14の貫通部14bに組み付けられることになるので、組み付けの容易性を維持することができる。
また、リング部61Aの平坦な外周面61C全体が、収容部55の平坦面65と接触することになるので、リップシール装置54を傾きにくくし、簡易にガス漏れのリスクを低減させることができる。
さらに、環状保形材59を高剛性化したり、メインリップシール材61の外周部に複数条のシール突部を設ける必要がなくなるので、コスト上昇を回避することができる。
【0035】
さらにまた、鉛直面66の深さが、リング部61Aの厚みの8%〜40%に相当する深さに設定されているので、リップシール装置54を収容部55に対してフロントハウジング14の内部側から外部側に向けて圧入(挿入)して、鉛直面66のところを通過させる際に弾性変形が永久歪みとして残らないように、またはゴム製のメインリップシール材61に圧縮割れが生じないようになっているので、ガス漏れのリスクを低減させることができる。
【0036】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜必要に応じて変形あるいは変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0037】
10 スクロール型圧縮機
11 ハウジング
12 圧縮機構
13 回転軸
14 フロントハウジング
14b 貫通部
54 リップシール装置
55 (リップシール装置)収容部
61 メインリップシール材
61A リング部
61C 外周面
65 (第1の)平坦面
66 (第1の)抜け止め用鉛直面
67 (第2の)抜け止め用鉛直面
m 密閉空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に空間を有するハウジングと、
前記ハウジング内に配置され、前記空間内に取り込まれた流体を圧縮する圧縮機構と、
前記圧縮機構を駆動する回転軸とを備え、
前記回転軸の一端部が前記ハウジングを貫通して外部に突出し、前記ハウジングの貫通部がリップシール装置により軸封されている圧縮機であって、
前記リップシール装置を構成するとともに、前記回転軸の軸方向に沿って延びるメインリップシール材のリング部の平坦な外周面全体と接する平坦面と、
前記平坦面よりも前記ハウジングの内部側に位置して、前記回転軸の軸方向と直交する方向に沿って半径方向内側に延びる第1の抜け止め用鉛直面と、
前記平坦面よりも前記ハウジングの外部側に位置して、前記回転軸の軸方向と直交する方向に沿って半径方向内側に延びる第2の抜け止め用鉛直面とにより形成されたリップシール装置収容部が、前記貫通部に設けられていることを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
前記第1の抜け止め用鉛直面の深さは、前記リング部の厚みの8%〜40%に相当する深さであることを特徴とする請求項1に記載の圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−214474(P2011−214474A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82507(P2010−82507)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】