説明

圧縮機

【課題】吐出ガスの油含有率が低い圧縮機を提供することを目的とする。
【解決手段】上記目的は、密閉容器内に設けられた外部から導いたガスを圧縮する圧縮動作部と、この容器内に設けられた油溜まり部とを備えた圧縮機において、前記圧縮動作部からガスの圧縮機外部への出口である吐出口へ至る経路内に、前記油溜まり部の油内を経由する経路を備えることにより達成される。また、前記油溜まり部の油内の後に多孔性体を経由する経路を備えてもよい。本発明によれば、圧縮機外に吐出するガスの油含有率が低い圧縮機を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機に係り、圧縮機から吐出されるガス中の油含有量の低減に関する。
【背景技術】
【0002】
特殊な場合を除いて、ガスを圧縮するためには機械的な手段を用いる。このため、機械的な手段における各部の潤滑性やシール性を確保するために油が用いられるが、この油がガスに混入することが多い。ところが、圧縮ガスの用途では、ほとんどの場合、ガス中の油を禁止または敬遠する場合が多い。例えば、冷凍サイクルに用いる冷媒ガスの場合には、含有する油は熱交換部における性能を低下させるため、冷凍サイクルの圧縮機にはガスとともに吐出される油量を極力低減する工夫が必要になる。
【0003】
従来は、特開平6−346884号公報のスクロール圧縮機に示されるように、吐出パイプの密閉容器内側に金属製の網や多数の孔が開いた薄板を設け、そこを通る間に圧縮ガス中の油を分離する構成を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−346884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、圧縮ガスの流路内にモータのロータ等の高速回転体を配置した構造であるため、油を含む圧縮ガスが高速回転体に衝突し、その際個々の油滴が引き裂かれて複数の小さな油滴に分離する結果、金属製の網や多数の孔が開いた薄板に付着する油量が少なくなり、圧縮機から吐出される油量を低減できないという問題があった。その理由を以下に説明する。
【0006】
油滴には、質量に比例する重力と、周囲のガスとの相対速度と油滴の表面積の積に概略比例する粘性力が働く。しかし、このうちの重力は、粘性力と比較して通常の場合は小さいため、無視する。粘性力を式で表すと以下のようになる。
(粘性力)≒A×(油滴の表面積)×(周囲のガスとの相対速度) (1)
Aは比例定数である。ここでAの値は非常に大きい。これは、油滴がガスに対して相対速度を少しでも持つと大きな粘性力が働くということだから、油滴はガスの流れにほぼ乗って移動することを意味する。しかし、金属製の網や多数の孔が開いた薄板の内部のようにガスの流れ速度が急激に変化するところでは、油滴の慣性によって、ガスの流れに乗らずそれからずれて元の速度を継続しようとする作用が働く。この時に、ガスの流れとともに移動する視点から見ると、この作用は慣性力と捉えることができる。この慣性力は、油滴の慣性である質量に比例するため以下のような式で表現される。
(慣性力)=B×(油滴の質量)×(ガスの加速度) (2)
ところで、油滴は表面張力によりほぼ球形をしているため、
(油滴の質量)∝(油滴の直径)3 (3)
(油滴の表面積)∝(油滴の直径)2 (4)
という関係式が成り立つ。よって(3)、(4)の関係式を(1)〜(2)に代入すると以下のようになる。
(粘性力)∝A×(油滴の直径)2×(周囲のガスとの相対速度) (5)
(慣性力)∝B×(油滴の直径)3×(ガスの加速度) (6)
(6)で示すように、油滴には慣性力が作用する。(5)、(6)の両辺同士を割ると以下の式を得る。
(慣性力)/(粘性力)∝(油滴の直径)×(B×ガスの加速度)/(A×周囲のガスとの相対速度) (7)
【0007】
周囲のガスとの相対速度を含む項は、上記したように、Aが大きいために大きく変化しないので、油滴の大きさとはほぼ独立している。また、ガスの加速度は、ガス流路の形状とガスの速度といった外部条件で決まるため、これも油滴の大きさとはほぼ独立している。よって、(7)より、油滴の直径が大きくなると慣性力が粘性力に対して近づいてくるかまたは大きくなってくることがわかる。これは、油滴が大きくなるとガスの流れが急激に変化するところで、ガスの流れから外れやすくなることを意味している。つまり、網や多孔体の内部のように複雑に流れが変わるところでは、油滴が大きくなると、油滴はガスの流れから外れて、網や多孔体に接触して吸着し易くなり、ガス内の油の含有率が低減することを示している。すなわち、これを逆にいえば、油の粒径が小さくなるほど、網や多孔体による油含有率の低減効果が低下するということである。
【0008】
そこで、粒径の小さい油も多量に吸着させるために金属製の網の目を細かくしたり薄板に開けた多数の孔を小さくしたりして、そこを流れるガス流の変化を一層急激にする手段が考えられるが、それらの手段によってガスの流路抵抗が増大し、性能が低下するという問題が生じる。
【0009】
また、前記公報で示される他のスクロール圧縮機では、前記圧縮動作口を覆うように金属製の網や多数の孔が開いた薄板を設け、そこを通る間に圧縮ガスに含有する油を分離する構成を有していた。しかし、油に多量の冷媒ガスが溶解して油の表面張力が小さくなるような運転条件や、前記圧縮動作口における圧縮ガスの急激な減圧でそこに含有する油に溶解したガスが爆発的に気化する過圧縮条件のような運転条件では、上記した例と同様に圧縮ガス内の油の粒径が小さくなるため、同様の問題があった。
【0010】
本発明の目的は、冷凍サイクル内に流出する油の量を低減する圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、密閉容器内に設けられた外部から導いたガスを圧縮する圧縮動作部と、この容器内に設けられた油溜まり部とを備えた圧縮機において、前記圧縮動作部からガスの圧縮機外部への出口である吐出口へ至る経路内に、前記油溜まり部の油内を経由する経路を備えることにより達成される。また、前記油溜まり部の油内の後に多孔性体を経由する経路を備えてもよい。
【0012】
また上記目的は、密閉容器内に設けられた外部から導いたガスを圧縮する圧縮動作部と、この密閉容器内に設けられた油溜まり部とを備え、この圧縮動作部からのガスを前記密閉容器内に吐出する圧縮機において、前記圧縮動作部からのガスを前記密閉容器内に吐出する圧縮動作口に対向しこの圧縮動作口の相当直径の0.25から2倍の距離だけ離れた位置にオイルトラッププレートを配置することにより達成される。ここで、前記した相当直径とは、前記圧縮動作口の断面積と同一の面積を有する円の直径である。
【0013】
また上記目的は、密閉容器内に圧縮機構部とこの圧縮機構部を駆動する電動機部とを備え、この圧縮機構部から吐出された冷媒がこの密閉容器内を介して吐出口から外部へ吐出される圧縮機において、前記電動機部に対し吐出パイプを前記圧縮機構部の反対側に設け、この電動機部と前記吐出パイプとの間に設けられた補助軸受と、この補助軸受に設けられ、穴が開けられた支え板と、この支え板と吐出口との間に遮蔽板を設けることにより達成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、圧縮機外に吐出するガスの油含有率が低い圧縮機を提供できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第一の実施例の縦断面図。
【図2】第一の実施例の固定スクロール部材の反スクロールラップ側からの平面図。
【図3】第一の実施例の固定スクロール部材のスクロールラップ側からの平面図。
【図4】第一の実施例のリテーナの平面図。
【図5】第一の実施例の圧縮行程の説明図。
【図6】第一の実施例のバイパス弁付近の縦断面図(図1におけるR部の拡大図)。
【図7】第一の実施例の差圧制御弁付近の縦断面図(図1におけるP部の拡大図)。
【図8】第一の実施例の差圧制御弁の旋回側面領域付近の縦断面図(図7におけるQ部の拡大図)。
【図9】第一の実施例の貯油室付近の縦断面図(図1におけるS部の拡大図)。
【図10】第一の実施例の油滴除去部の斜視図。
【図11】第一の実施例の軸受支持板のモータ室側からの平面図。
【図12】第二の実施例の軸受支持板のモータ室側からの平面図。
【図13】第三の実施例の軸受支持板のモータ室側からの平面図。
【図14】第四の実施例の貯油室付近の縦断面図(図1におけるS部の拡大図)。
【図15】第五の実施例の貯油室付近の縦断面図(図1におけるS部の拡大図)。
【図16】第五の実施例のガスカバーの組立て斜視図。
【図17】第五の実施例のガスカバーの貯油室側からの平面図。
【図18】第六の実施例の貯油室付近の縦断面図(図1におけるS部の拡大図)。
【図19】第六の実施例の軸受支持板のモータ室側からの平面図。
【図20】第七の実施例の貯油室付近の縦断面図(図1におけるS部の拡大図)。
【図21】第八の実施例の貯油室付近の縦断面図(図1におけるS部の拡大図)。
【図22】第九の実施例のガスカバーの組立て斜視図。
【図23】第九の実施例のガスカバーの貯油室側からの平面図。
【図24】第九の実施例の油滴除去部の斜視図。
【図25】第十の実施例の油滴除去部の斜視図。
【図26】第十一の実施例の貯油室付近の縦断面図(図1におけるS部の拡大図)。
【図27】第十二の実施例のオイルトラッププレートの組立て斜視図。
【図28】第十二の実施例のオイルトラッププレートの取付け斜視図。
【図29】第十二の実施例のオイルトラッププレートの取付け部付近の縦断面図。
【図30】第十三の実施例のオイルトラッププレートの斜視図。
【図31】第十四の実施例のオイルトラッププレートの斜視図。
【図32】第十五の実施例の固定スクロール部材のスクロールラップ側からの平面図。
【図33】第十六の実施例の固定スクロール部材のスクロールラップ側からの中央付近の平面図。
【図34】第十六の実施例のバイパス穴の縦断面図。
【図35】第十七の実施例の固定スクロール部材のスクロールラップ側からの中央付近の平面図。
【図36】第十七の実施例のバイパス穴の縦断面図。
【図37】第十八の実施例の固定スクロール部材のスクロールラップ側からの中央付近の平面図。
【図38】第十九の実施例の差圧制御弁付近の縦断面図(図1におけるP部の拡大図)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施例を説明する前に本発明の作用を説明する。
まず、上記目的を達成するための第一の手段の作用を説明する。油を含有するガスを前記貯蔵油中に通すとき、気体と液体の比重の違いから、ガスを前記貯蔵油の下部に吹き込む必要がある。この吹き込んだガスは前記貯蔵油中を気泡となって上昇する。気泡の周囲全域は油であるため、気泡中の油滴が周囲の油と接触する確率は非常に高くなる。さらに、前記貯蔵油中の気泡の上昇は、油の粘性のために圧縮機内の他の箇所におけるガス流速と比較して非常に小さい速度となるため、気泡中の油滴が周囲の油と接触できる時間が長く、気泡中の油滴が周囲の油と接触する確率は一層高くなる。周囲の油に接触した油滴は、油の表面張力によって表面積を小さくする作用が働く結果、小さな油滴は気泡周囲の油に吸込まれる。つまり、油を含有するガスを前記貯蔵油中に通すと、そこから出てくるガスの油含有率が低減する。この油含有率低減作用は、気泡中の油滴の大きさによらないため、粒径の大きな油滴はもちろんのこと、従来技術で上げた網や多孔体で取り除くことが困難であった、粒径の小さい油滴も効果的に除去できる。ところで、運転条件によっては、ガスの気泡が前記貯蔵油の油面に達した時に気泡が潰れて新たな油滴が発生する場合がある。ところが、気泡の上昇速度は非常に遅いため、この時に発生する油滴の粒はかなり大きい。このため、前記貯蔵油から出てきたガスにはほぼ大きな油滴のみが含有するが、このガスは次に多孔性体を通過するようにすれば、前記した理由により、大きな油滴を高い確率で取り除くことができる。この結果、油の含有率を大幅に低減させたガスを圧縮機から吐出できる。
【0017】
次に、上記目的を達成するための第二の手段の作用を説明する。圧縮動作口から出てくるガスの流路を妨げるようにオイルトラッププレートを配置すると、ガスの流れはそこで急に曲げられるが、ガスに含まれる油は慣性が大きいために、このオイルトラッププレートに付着し、ガス中の油滴の含有率は低減する。しかし、このオイルトラッププレートを前記圧縮動作口に近づけ過ぎると、流路断面積が小さくなって流路抵抗が増大するため、性能低下が生じる。すなわち、
(圧縮動作口の面積)≦(圧縮動作口から出た後のガスの流路の断面積) (8)
が必要となる。圧縮動作口から出た後のガスの流れは、このオイルトラッププレートで直角に曲げられると考え、圧縮動作口から出た後のガスの流路の断面積は、圧縮動作口の周長に圧縮動作部外側面上の前記圧縮動作口からオイルトラッププレートまでの距離をかけた面積、つまり、圧縮動作口を底面とするオイルトラッププレートまでの高さの柱状立体図形の側面の面積とみなすことができる。通常、圧縮動作口は円形かそれに近い形状となっているため、圧縮動作口を断面積が等しい円としても状況はほとんど変わらない。よって、以前に定義した相当直径をD、前記圧縮動作口からオイルトラッププレートまでの距離をHとすると、(圧縮動作口の面積)=π×D2/4 (9)
(圧縮動作口から出た後のガスの流路の断面積)=π×D×H (10)
より、(8)の条件は、
π×D2/4≦π×D×H (11)
となる。これを整理すると以下のようになる。
H≧D/4 (12)
【0018】
また、Hが大きくなりすぎると、ガスがオイルトラッププレートに衝突する速度が小さくなるため、ガス中の油滴除去率が低下する。これまでの検討から、Dの2倍以上になると、油滴除去率が急激に低下することが分かっているため、以下の関係式が出る。
H≦2×D (13)
これより、(12)と(13)から、オイルトラッププレートを圧縮動作口の相当直径の0.25から2倍の距離だけ離れた位置に配置すれば、流路抵抗による性能低下も起こらず、ガス中の油滴除去率も高くなる。
【実施例1】
【0019】
本発明を、旋回スクロール部材の反圧縮室側の空間に吸込圧よりも概略一定値(以下、過吸込圧値と称する)だけ高い圧力をかけることにより旋回スクロール部材を固定スクロール部材に押し付けるスクロール圧縮機に実施した第一の実施例を、図1ないし図11に基づいて説明する。図1は圧縮機の縦断面図、図2は固定スクロール部材の反スクロールラップ側からの平面図、図3は固定スクロール部材のスクロールラップ側からの平面図、図4はリテーナの平面図、図5は圧縮行程の説明図、図6はバイパス弁付近の縦断面図(図1におけるR部の拡大図)、図7は差圧制御弁付近の縦断面図(図1におけるP部の拡大図)、図8は差圧制御弁の背圧室付近の縦断面図(図7におけるQ部の拡大図)、図9は貯油室付近の縦断面図(図1におけるS部の拡大図)、図10は油滴除去部の斜視図、図11は軸受支持板のモータ室側からの平面図である。なお、この例は、圧縮機の直径が、10mmから1000mm程度のものである。
【0020】
まず、構造を説明する。
【0021】
旋回スクロール部材3は、鏡板3aにインボリュートまたは代数螺線等を基本線とするスクロールラップ3bを立設し、その背面に旋回軸受3wを挿入した軸受保持部3sと、旋回オルダム溝3g、3hを設ける。
【0022】
固定スクロール部材2は、鏡板2aにスクロールラップ2bを立設し、図3に示すようその外周にスクロールラップ歯先面とほぼ同一面となる非旋回基準面2uを設け、そこに周囲溝2cを形成する。そして、歯底には4個のバイパス穴2eが設けられる。ここでバイパス穴2eを4個設けた理由は、図5に示すように、形成される全ての圧縮室6に常にバイパス穴2eを開口させるためである。このバイパス穴2eを覆うようにリード弁板であるバイパス弁板23x(図2)およびその弁板23xの開口度を制限するリテーナ23aをバイパスねじ23hで固定する(図4、図6)。また、中央近くには圧縮動作口2dが開口している。また、歯底面の外縁側に吸込み掘込み2q(図3)を設け、そこに背面から吸込みパイプ54を挿入するための吸込穴2vを設ける。この吸込穴2vに前記吸込パイプ54を挿入するが、そのときに弁体24aと逆止弁ばね24cを入れ、吸込み側逆止弁24を形成する。さらに、固定スクロール部材2の外周にガスおよび油を流す複数個の流通溝2rを設ける。そして、そのうちの一個にはモータ線19nを通す。前記周囲溝2cに背面側導通路2βと弁穴2f(図7)を開け弁シール面または弁シール線2jを設ける。そして、この弁穴2fの側面と吸込室60と通じる連通溝2δをつなぐ吸込側導通路2αを設ける。図7に示すように、この弁穴2fに板状の弁体100aと差圧弁ばね100cを入れ、ばね位置決め突起100hに前記差圧弁ばね100cの一端を挿入した状態で弁キャップ100fを前記弁穴2fよりも直径の大きい弁キャップ挿入部2kに圧入し、差圧制御弁100を形成する。このとき、前記差圧弁ばね100cは圧縮され、前記弁体100aを前記弁シール面2jに押し付ける。この押付力は過吸込圧値を決定するため、これを決める寸法である前記弁穴2fの深さと前記キャップ挿入部2kの深さと前記弁体100aの厚さと前記差圧弁ばね100cのばね定数及び自然長は精度良く管理しなければならない。特に前記差圧弁ばね100cの端部をばねの中心軸に概略垂直な面に仕上げておくことが必要である。そうでないと、ばね100cを圧縮したときに座屈が起こり、過吸込圧値が異常に小さくなって、前記旋回スクロール部材3が前記固定スクロール部材2から離脱し正常な運転が不可能となる。また、前記弁キャップ100fの外径を前記弁キャップ挿入部2kの径よりも小さくし押付力が正規の値になるところでこの弁キャップ100fを拡管して止める方法もある。この時の押付力は、前記背面側導通路2βに棒を挿入して前記弁体100aに一端を付け、その棒が受ける力を検出する方法をとる。
この方法の場合には、上記した各部の寸法やばね定数の値を精度良く管理する必要が無くなるため量産性が向上するという効果がある。これら二通りの方法とも組み立て完了時には、前記弁キャップ100fの外周部と前記弁キャップ挿入部2kの内周部の間は完全にシールされていなければならない(差圧弁ばね100Cの反対側は吐出空間であり、このばねがある空間の圧力よりも高いから)。このシールを完全なものにするために、接着や溶接を行ってもよい。ここで、前記ばね位置決め突起100hの根元よりも先端の径を小さくしたテーパ形状にしてもよい。この場合、前記差圧弁ばね100cの端部が前記ばね位置決め突起100hの根元のみで固定されるため、ばねの可動部は前記位置決め突起100hと接触せず、ばねの自然長がばね単体時の自然長のまま確保される。よって、過吸込圧値の設定値からの誤差を小さく抑えることができるという特有の効果がある。
【0023】
フレーム4は、外周部に前記固定スクロール部材2を取り付ける固定取付け面4b、その内側に旋回はさみ込み面4dが設けられ、そのはさみ込み面4dには一個または複数個のはさみ込み面溝4αが設けられる。そのさらに内側には、オルダムリング5をフレーム4と旋回スクロール部材3の間に配置するため、フレームオルダム溝4e、4f(ともに図示せず)を設ける。また、中央部には軸シール4aと主軸受4mを設け、そのスクロール側にシャフトを受けるシャフトスラスト面4cを設ける。そしてその軸シール4aと主軸受4mの間に油保持空間4nが開口している。外周面にはガスおよび油の流路となる複数の流通溝4hが設けられる。そして、そのうちの一個にはモータ線19nを通す。また、前記固定取付け面4bと反対側の外周部にフレームオイルリング44を設ける。
【0024】
オルダムリング5は、その一面にフレーム突起部5a、5b(ともに図示せず)が設けられ、もう一方の面には旋回突起部5c、5dが設けられる。
【0025】
シャフト12は、図1に示すように、その内部にシャフト給油孔12aと主軸受給油孔12bと軸シール給油孔12cと副軸受給油孔12iが設けられる。また、その上部には径の拡大したバランス保持部12hがあり、そこにシャフトバランス49が圧入される。
さらに偏心部12fが設けられる。
【0026】
ロータ15は、積層鋼板15aに未着磁の永久磁石15bを内蔵し、両端にロータバランス15c、15pを設ける。
【0027】
ステータ16は、積層鋼板16aの外周部に圧縮性ガスや油の流路となる複数のステータ溝16cを設け、内部にコイル貫通穴16vが開いている。ここにコイル16wが通り、コイルの折り返し部である副軸受側コイルエンド部16xと主軸受側コイルエンド部16yが前記ステータ16の両側に配される。さらに、前記積層鋼板16bの内部で前記コイル貫通穴16vより外周部に貫通したステータ穴16mを開ける。このステータ穴16mを前記コイル貫通穴16vより内側に設けると、前記ロータ15と前記ステータ16間の磁束密度が大幅に低下しモータ効率を低下させるからである。
【0028】
これらの構成要素を以下のように組み立てる。まず、前記フレーム4の主軸受4aに前記シャフトバランス49が圧入または接着または焼きばめされた前記シャフト12を挿入し、前記ロータ15を圧入または焼きばめする。さらに、前記オルダムリング5を、前記フレームオルダム溝4f、4eに前記オルダムリング5のフレーム突起部5a、5b(ともに図示せず)を挿入して、前記フレーム4に装着する。さらに、前記旋回スクロール部材3を、その旋回オルダム溝3g、3hに前記オルダムリング5の旋回突起部5c、5dを挿入し、旋回軸受3wに前記シャフト12の前記偏心部12fを挿入しながら、旋回はさみこみ面4d上に装着する。この旋回スクロール部材3に前記固定スクロール部材2を噛み合わせ、前記シャフト12を廻しながら回転トルクが最小になるかある基準値以下になる位置でラップ固定ねじ53により前記フレーム4に前記固定スクロール部材2を固定する。この方法によると、最適な位置から大きくは外れないが、高精度に最適な位置に固定することは困難である。この時、前記旋回スクロール部材3の前記鏡板3aの厚さが前記旋回はさみこみ面4dと非旋回基準面2uの間隔よりも5〜20μm程小さくなるようにし、前記旋回スクロール部材3と前記固定スクロール部材2の軸線方向における最大離間距離を規定する。そこで、次に示すような方法を用いて、固定スクロール部材2を前記フレーム4に一段高い精度で取付けることもできる。図2、3に示すように、固定スクロール部材2の外周部に位置精度及び寸法精度の高い位置決め穴2pを2個開け、それと対応するフレームの位置に同様に高精度の位置決め穴(図示せず)を設ける。そのフレーム側の穴に位置決めピンを前記固定取付け面4b側に突出した状態で圧入する。この位置決めピンに前記位置決め穴2pを挿入し、固定スクロール部材2を高精度に前記フレーム4に取り付ける。これは、各部品の加工精度に依存した組立て法であるため、部品が高精度に加工されていないと逆に組立て精度を低下させてしまう危険性がある。よって、部品を高精度に保つことができる場合のみ有効な方法である。逆に、まえに述べた組立て法は、部品精度があまり高くない場合でも、一定のレベルの組立て精度を確保できることから、量産性が高い方法であるといえる。この時に、前記旋回スクロール部材3の背面に背面過吸込圧領域99が形成される。次に、あらかじめ前記ステータ16を焼きばめまたは圧入または接着するとともに中央部の中央穴18cと下部の下部流路穴18aを有しオイルリングを溶接した軸受支持板18を溶接または圧入した円筒ケーシング31に、上記の組立て部を挿入し前記フレーム4または前記固定スクロール部材2の側面にタック溶接を行なう。ここで、図11に示すように、この下部流路口18aの最高点の高さを前記ステータ16のロータが挿入される中央の穴の最低点(図中のステータの内径高さ)よりも低く設定する。また、タック溶接の代わりに接着を行ってもよい。この時には、溶接による組立て部および前記円筒ケーシング31の変形が無くなるため性能が向上する。これにより、前記ロータ15と前記ステータ16によってモータ19を形成し、前記軸受支持板18と前記フレーム4の間にモータ室62を形成する。次に前記軸受支持板18の前記中央穴18cから出た前記シャフト12の一端が軸受ハウジング70に装着した球面軸受72の円筒穴に挿入されるように前記軸受ハウジング70を組み込み、前記シャフト12の回転トルクを検出しながら軸受ハウジング70の位置を調整してその回転トルクが最小になるかある基準値以下になる位置で前記軸受ハウジング70を前記軸受支持板18にスポット溶接する。そして、曲がった給油管71を溶接した給油キャップ90を前記軸受ハウジング70に挿入したうえでシール73を挟んで前記軸受ハウジング70にスポット溶接する。
ここで、前記シール73を挟み込まずにシールが行われるよう、シール面の表面粗さ精度を上げ、このシール面の押付力を増大させてもよい。また、接着してもよい。これらにより、シールが不要となり、部品点数が低減する。その後、給油管71の先端近くに、マグネット89を設ける。一方、複数の金網45aを積層保持部45bにより積層して多孔性体となる油滴除去部45を形成し、これを取付部45fにより底ケーシング21に固定する。その底ケーシング21の上部には、吐出パイプ55が溶接されている。そして、前記円筒ケーシング31にその底ケーシング21を溶接し、貯油室80を形成する。この時前記油滴除去部45と前記軸受支持板18の間に隙間が無いような位置まで前記底ケーシング21を前記円筒ケーシング31の内部に挿入する。次に、前記円筒ケーシング31に前記ハーメチック端子22と吸込パイプ取付管37を上部に溶接した上ケーシング20を前記ハーメチック端子22の内部側端子に前記モータ線19nを装着して溶接し、前記吸込みパイプ54を前記吸込パイプ取付管37に挿入してその隙間をろう付けして、固定背面室61を形成する。この状態で、前記ステータ16に電流を流し、前記ロータ15内部の永久磁石15bを着磁し、モータ19を形成する。その後、油を入れる。前記固定背面室61と前記モータ室62の間を仕切る前記フレーム4及び固定スクロール部材2のの下部には、前記流通溝4h、2rが存在することと、前記モータ室62と前記貯油室80の下部には、前記下部流通口18aが存在するため、前記固定背面室61や前記モータ室62及び前記貯油室80aの下部に貯蔵油69が溜まる。よって、これら3室は油貯蔵室の役割を有する。
【0029】
次に動作を説明する。まず、圧縮機起動直後の動作を説明する。
【0030】
前記モータ19を回転開始させることにより、前記シャフト12が回転し前記旋回スクロール部材3が旋回運動を始める。ここで、この旋回スクロール部材3の旋回半径は、スクロールラップ形状から幾何学的に決まる大きさよりも小さく設定する。これは、前記スクロールラップ2b、3bの形状には必ず加工誤差があるため、小さく設定しないとラップの側面が圧接してしまい、摩擦ロスの増大や磨耗の進行、さらには最悪の場合、側面がかじりを起こして凝着を起こしたり、ラップが破壊したりして、運転不能に陥ることがあるからである。ここで、前記オルダムリング5があるために前記旋回スクロール部材3の自転が防止される。この動作により、両スクロールラップ2b、3bが噛み合う領域の外周部に形成される吸込室60内のガスが両スクロール部材の間に形成される前記圧縮室6に概略閉じ込められ圧縮されて前記圧縮動作口2dから前記固定背面室61に吐出され始める。ところで、図7で示すように、前記旋回スクロール部材3の前記鏡板3aの厚さが前記旋回はさみこみ面4dと非旋回基準面2uの間隔よりも5〜70μm程小さくなるようにし、前記旋回スクロール部材3と前記固定スクロール部材2の軸線方向における最大離間距離を規定している。このため、圧縮機起動直後は、前記旋回スクロール部材3は前記圧縮室6内のガスによる引離し力で前記固定スクロール部材2から引離され、前記フレーム4側に前記した距離だけ移動する。よって、鏡板3aの反ラップ側と前記旋回挟み込み面4dが摺動し、鏡板3aのラップ側と前記非旋回基準面2uの間には前記した最大離間距離だけの隙間が形成される。同時に、ラップの歯先と歯底間の隙間も同程度となるため、内部漏れが大きく高効率な運転はできないが、5〜70μm程度の最大離間距離であれば、モータ回転数を起動直後に許容できる最高値程度まで上昇させることにより内部漏れを抑制し、吸込圧を十分に下げるかまたは吐出圧を十分に上昇させることができる。前記圧縮動作口2dから前記固定背面室61に吐出されたガスは前記固定スクロール部材2および前記フレーム4の外周にある流通溝2rおよび4hを通って前記モータ室62の前記モータ19と前記フレーム4の間の空間にも流入する。そのガスは、さらに前記ステータ溝16cや前記ロータ15と前記ステータ16の間のギャップを通って、前記モータ室62の前記軸受支持板18側まで達する。ここまで広まった圧縮ガスは、行き場を失ってしまうために、溜まり始め、圧力が上昇してくる。この圧力上昇は、前記モータ室62及び前記固定背面室61の下部に溜まっている貯蔵油69を下向きに押す。この結果、前記貯蔵油69が前記下部流路口18aを通って前記貯油室80に流入し貯油室側の油面を上昇させる。そして、前記モータ室62の油面が前記下部流路口18aの最高点の高さまでくると、前記下部流路口18aが流路となって前記モータ室62から前記貯油室80へガスが流入する。この時、ガスは貯油室内に集められた前記貯蔵油69の下方より吹き出されその中を気泡となって上昇する。ここで、前記下部流路口18aの最高点の高さを前記ステータ16のロータが挿入される中央の穴の最低点よりも低く設定しているために、前記モータ室62の油面は前記ロータ15より低くなり、そこの貯蔵油69を高速で回転する前記ロータ15がかき回して細かい油滴を形成することが無くなり、ガスの油含有率を低減することができる。ところで、このモータ室62側の油面の高さを前記ロータ15がぎりぎりにかからない高さとなるように前記下部流路口18aの設定高さを決めると、前記ロータの回転により生じるガスの流れで油面から油滴が発生し、ガス内の油滴の含有率はあまり低下しない。よって、モータ室62側の油面は、少なくともロータの回転により生じるガス流がロータ表面速度の半分程度まで低下する位置まで下げると良い。以上より、前記モータ室62の油面を前記ロータ15へかかることなく、多量の貯蔵油を小形の圧縮機内部に蓄えることが可能となるため、油切れの可能性が低く高信頼性となる横置き圧縮機を小形で実現できるという本実施例特有の効果がある。この前記貯油室80の貯蔵油69の表面まで上昇したガスは、多孔性体からなる前記油滴除去部45を通過した後、前記吐出パイプ55で形成される吐出口から圧縮機外部に吐出される。圧縮機起動直後の前記背面過吸込圧領域99の圧力は、前記したように前記フレーム4の前記挟み込み面溝4αと鏡板3aのラップ側と前記非旋回基準面2uの隙間により、吸込圧に近い圧力となっている。前記背面過吸込圧領域99の前記圧力とほぼ吐出圧に近い前記貯油室内80との差圧等により前記貯油室80の油は前記給油管71から前記給油キャップ90内にはいり、そこで毛細管現象や遠心力により前記球面軸受72の球面側の軸受部に供給される。さらに、断面積が大きいために流路抵抗のほとんど無い前記シャフト給油孔12aに入り、一部は遠心力が加わる事により前記副軸受給油孔12iを通って前記球面軸受72の中心穴側の軸受部に供給され、他の一部は同様に遠心力が加わることにより前記軸シール給油穴12cを通って前記軸シール4aに供給され、その他の一部は遠心力により前記主軸受給油孔12bを通って前記主軸受4mに供給され、残りは旋回スクロール部材3の背面中央部に達した後前記と同様の差圧と遠心力により前記旋回軸受3wに供給される。この結果、前記旋回スクロール部材3背面の中央部に吐出圧のかかる背面吐出圧領域95を形成する。前記主軸受4m及び前記旋回軸受3wに給油された油はそこの摩擦で温度上昇した後に前記背面過吸込圧領域99へ入る。この時、軸受部における油の平均圧力は前記背面過吸込圧領域99の圧力よりも前記貯油室80側の圧力に近い高圧であるため、前記背面過吸込圧領域99に吹き出す。この結果、軸受部の摩擦による温度上昇と圧力の急激な低下により、油のガス成分の溶解度が低下し、油に溶け込んでいたガス成分が一気に気化する。この時に気化熱を周囲から奪うので、この付近の温度レベルを低く抑えるため前記主軸受4mや前記旋回軸受3wの信頼性が向上するという特有の効果がある。また、このガス成分の気化により、油は細かい油滴になるため、ガスの流れに乗って移動し易くなる。
後記するが、この後ガスは前記旋回スクロール部材3側に向かうため、油もその向きに流れることになる。前記主軸受4mや前記旋回軸受3wから前記旋回スクロール部材3へ向かう経路の途中には前記オルダムリング5があるため、前記オルダムリング5の摺動部に油滴が確実に供給される。よって、オルダムリング摺動部の信頼性が向上するという特有の効果もある。この結果、前記背面過吸込圧領域99へ流入するガス量が圧縮機起動直後に急激に増大する。このガスは、図7に示すように、油とともに、前記挟み込み面溝4α及び鏡板3aのラップ側と前記非旋回基準面2uの隙間を通って前記吸込室60に流入する。そして、この中の油は、軸方向に若干隙間を有する圧縮室6内に流れ込み、そこのシール性を向上させて圧縮室の内部漏れを低減し吐出圧の上昇を促進するという効果を発揮した後、ガスとともに前記圧縮動作口2dより前記固定背面室61に出る。また、鏡板3aのラップ側と前記非旋回基準面2uの隙間が小さいことと流れる流体中の油量が多く部分的にシール部を形成するため、前記背面過吸込圧領域99へ流入するガス及び油量に比較して流出するガス及び油量が少なく、前記背面過吸込圧領域99の圧力が急激に上昇する。この結果、吐出圧の上昇に伴う前記背面吐出圧領域95内の圧力上昇の寄与とともに、前記旋回スクロール部材3を前記固定スクロール部材2に押し付ける力である引付力が急激に増大し、圧縮機起動のほぼ直後もしくは非常に短時間で引付力の大きさが引離し力の大きさ以上となり、前記旋回スクロール部材3は前記固定スクロール部材2に押し付けられる。この結果、スクロールラップの歯先と歯底間の隙間が小さくなるために、前記圧縮室6の密閉性が向上して、圧縮途中のガスの内部漏れ量が低減し、起動直後に比較して性能が飛躍的に向上し、正規の運転状態に移行する。ところで、圧縮室6を形成するときにシール面となる前記スクロール部材2、3の面に、圧接して摺動すると削れるなじみ性を有する表面皮膜を形成すると、前記両スクロール部材2、3を押し付けた時にスクロールラップの歯先と歯底間の隙間がほぼ無くなるため、前記圧縮室6の密閉性が一層向上して、圧縮途中のガスの内部漏れ量が一層低減し、起動直後に比較して性能が一層飛躍的に向上し、正規の運転状態に移行する。このなじみ性皮膜は一方のスクロール部材のみに設けても効果がある。
【0031】
次に、前記旋回スクロール部材3が前記固定スクロール部材2に押し付けられた正規の運転時の動作を説明する。
【0032】
前記背面過吸込圧領域99に流入したガス及び油の全てが前記吸込み室60へ直接流れ込まない点以外は、圧縮機起動直後と同様であるため、この部分のみを図7や図8を主に用いて説明する。前記背面過吸込圧領域99に流入したガス及び油は、前記はさみ込み面溝4α及び前記鏡板3aの反ラップ面と前記旋回挟み込み面4dの隙間を通って、前記鏡板3aの側面と前記フレーム4の間の空間である旋回側面領域67に入る。このうちの一部は、前記鏡板3aのラップ側と前記非旋回基準面2uの両摺動面を潤滑しながら前記吸込み室60に流入する。前記旋回側面領域67と前記背面過吸込圧領域99の間の流路抵抗は小さいため、この旋回側面領域67の圧力は前記背面過吸込圧領域99の圧力にほぼ等しい。図8からわかるように、前記周囲溝2cは常にこの旋回側面領域67と通じているため、この周囲溝2c内の圧力は、前記背面過吸込圧領域99の圧力となり、前記背面側導通路2βを経由して前記差圧制御弁100の前記弁体100aのフレーム側の面には前記背面過吸込圧領域99の圧力がかかる。前記弁体100aの反対面側の空間は、前記吸込側導通路2αにより吸込圧である前記吸込室60と通じているため、前記背面過吸込圧領域99の圧力が、吸込圧よりも前記差圧弁ばね100cの押付力に対応した一定値である過吸込圧値よりも高くなると、前記弁体100aが前記差圧弁ばね100c側に動く。この結果、前記旋回側面領域67内のガス及び油のうちで摺動面を経由して前記吸込み室60に流入したもの以外は、前記背面側導通路2β、前記弁体100cと前記弁シール面または弁シール線2jの隙間、前記弁体100cの側面、前記弁穴2f、前記吸込側導通路2αを順次経由して、前記吸込室60に流入する。そして、圧縮室6内のガスと混ざって圧縮室6のシール性を向上させながらラップ中央に移送され前記圧縮動作口2dから吐出する。この結果、前記圧縮動作口2dより出た圧縮ガス中には、軸受に給油された油が全量含有することになる。このようにして、前記背面過吸込圧領域99の圧力は、吸込圧よりも前記差圧弁ばね100cの押付力に対応した一定値だけ高い圧力に制御される。
つまり、前記過吸込圧領域99の圧力は以下のように概略制御される。
【0033】
A(過吸込圧値)をある定数として、
(背面過吸込圧領域99の圧力)≒(吸込圧+A)
これにより、要求される全運転範囲で旋回スクロール部材3を固定スクロール部材2に押し付けるとともに、広い運転条件範囲で引付力から引離し力を引いた付勢力を小さくし、摺動損失の小さい高性能な圧縮機を実現できるという効果がある。ところで、この前記背面過吸込圧領域99を経由するガスは、圧縮機の中で吐出系から圧縮途中の前記中間圧力室68へ短絡する流れであり、スクロールラップにおける内部漏れと結果的には同様のものであるため、極力少なくすることが必要である。ここでは前記吐出背面間流路102の絞り流路である軸受隙間があることから、この流量は非常に小さく、圧縮機の性能低下は生じない。
【0034】
ここで、前記圧縮動作口2dから出るガス中には上記したように前記旋回軸受3w及び前記主軸受4mに給油された油を全て含むため、例えば、吐出圧と前記背面過吸込圧領域99の圧力の差が大きい運転ほど、前記圧縮動作口2dから出る圧縮ガス中の油の量は増大する。また、前記旋回スクロール部材3の回転速度が小さい運転ほど、単位時間当たりの圧縮ガスの量が少なくなるが、軸受給油量は同じであるため、前記圧縮動作口2dから出るガスの油含有率が増大する。次にこのガスは流通溝2r、4hを通って、前記モータ室62に入る。この時、前記フレームオイルリング44や前記主軸受側コイルエンド部16yにより、主たる流れは前記ロータ15側へは向かわず、前記ステータ溝16cや前記ステータ穴16mを通る流れとなる。この流れによって前記ステータ16の前記積層鋼板16aを通過したガスの主たる流れは、前記副軸受側コイルエンド部16xによって、前記ロータ15側へは向かわず、前記軸受支持板18の方へ抜ける。そして、下方の前記下部流路口18aへ向かうが、この流れは前記オイルリング46によって前記ロータ15に近づかない。この前記ステータ16をガスが通ったことにより、高温となっているステータの前記コイル16w及び前記積層鋼板16aを冷却できるため、モータ効率が向上するという特有の効果がある。ここでは、前記ステータ16の前記コイルエンド部16x、16y等の多孔性体の中及び近くを通る際に、油滴の慣性により油がコイルエンド部に衝突してそこに付着しこれが大きな油の固まりとなって下部の前記貯蔵油69に落下するかまたは静止部を伝って流入し、油の含有率が低減するという特有の効果がある。また、前記コイルエンド部16x、16yや前記オイルリング46により、高速で回転する前記ロータ15にガスの主たる流れが接近しないため、前記ロータ15に接触する油滴が非常に少なく、細かい油滴がほとんど発生しないため、コイルエンド部等の多孔性体によるガスからの油分離効率が向上するという特有の効果がある。前記下部流路口18aまで達したガスの油含有率は以上に記した手段によりかなり低減しているが、そのガスを前記下部流路口18aから前記貯油室80の前記貯蔵油69の下部から吹き込むことによりさらに油の含有率が低減するという効果がある。この吹き込んだガスは前記貯蔵油69中を気泡となって上昇する。気泡の周囲全域は油であるため、気泡中の油滴が周囲の油と接触する確率は非常に高くなる。さらに、前記貯蔵油69中の気泡の上昇は、油の粘性のために圧縮機内の他の箇所におけるガス流速と比較して非常に小さい速度となるため、気泡中の油滴が周囲の油と接触できる時間が長く、気泡中の油滴が周囲の油と接触する確率は一層高くなる。周囲の油に接触した油滴は、油の表面張力によって表面積を小さくする作用が働く結果、小さな油滴は気泡周囲の油に吸込まれる。このような作用により前記した効果が出てくる。この油含有率低減作用は、気泡中の油滴の大きさによらないため、従来技術で上げた多孔性体で取り除くことが困難であった、粒径の小さい油滴も効果的に除去できる。しかし、ガスの気泡が前記貯蔵油69の油面に達すると、気泡が潰れる結果、新たな油滴が発生する。ただ、気泡の上昇速度は非常に遅いため、この時に発生する油滴の粒はかなり大きい。このため、前記貯蔵油から出てきたガスには大きな油滴のみが含有するが、このガスは多孔性体である前記油滴除去部45を通過するため、前記した理由により、大きな油滴を高い確率で取り除くことができる。この結果、油の含有率を大幅に低減させたガスを圧縮機から吐出できる効果がある。また、前記固定スクロール部材2の鏡板2aには、4個のバイパス穴2eが設けられている。これら各々のバイパス穴2eのバイパス弁シール面2λを覆う位置に弁部がくるように前記バイパス弁板23xを位置決めし、リテーナ23aとともにバイパスネジ23hで固定し、前記バイパス弁23を形成する。これにより、これらのバイパス弁23は、前記圧縮室6の圧力が吐出系の一部である前記固定背面室61の圧力よりも大きくなると開くことになる。前記固定背面室61の圧力は吐出圧であるから、このバイパス弁は、前記圧縮室6の圧力が吐出圧よりも高いときに前記圧縮室6と前記吐出系を連通する作用を有する。実際には、前記バイパス弁シール面2λにおける圧力分布やそこにある油の表面張力等により、このバイパス弁23が開口するタイミングはわずかにずれる。このようにして、前記旋回スクロール部材3の引付力付加手段として、前記過吸込圧領域99を旋回背面に設け、前記バイパス弁23を設けたため、過吸込圧値を小さく設定でき、広い運転範囲で付勢力を小さく設定できる。この結果、全断熱効率や信頼性を広い運転範囲で高くできるという特有の効果が有る。ところで、図5で示したように、前記圧縮室6と前記固定背面室61を常につなぐように前記バイパス穴2eを四個設けたため、どのようなタイミングで液圧縮が生じようとしても圧力が極端に上がる前に前記バイパス弁が開いて流体は前記固定背面室61に排出される。この結果、ラップの損傷の危険性を回避し、信頼性を向上できるという特有の効果がある。また、極端に圧力比の小さいポンプ運転に近い場合でも過圧縮を抑制できるため、低圧力比側の広い運転条件範囲で全断熱効率を高くできるという効果がある。
【0035】
ここで、この圧縮機の起動時に、前記吸込パイプ54と連結する配管系や前記吐出パイプ55と連結する配管系の両方または各一方を絞る動作を行うシステムを設けるか作業者に行わせれば、吸込圧の低下または吐出圧の上昇を一層確実に実現できる。この結果、前記旋回スクロール部材3を前記固定スクロール部材2に押し付ける正規の運転に一層短時間で移行できるという効果が出てくる。
【実施例2】
【0036】
次に、第二の実施例に基づいて説明する。軸受支持板18の下部流路口18aの最高点の位置を中央に設定した以外は前記第一の実施例と同様であるので、その他の部分の構造及び動作及び効果の説明は省略する。第一の実施例では、前記下部流路口18aの上辺が水平であるため、前記貯蔵油69内へガスが吹き出す可能性のある位置が上辺全体となる。このため、前記下部流路口18a上辺の近接した複数の場所で気泡が形成されはじめた場合、気泡の成長過程で気泡が合体する。仮に、この合体のタイミングが各々の気泡単独ではぎりぎりで前記下部流路口18aの上辺から離脱できない大きさであった場合を考える。この時に合体して形成された気泡の大きさは、合体せずに単独の成長による気泡では形成不可能な大きさになる。気泡が大きいと、気泡の体積に対する表面積の割合が小さくなるため、気泡中の油滴が周囲の油と接触する確率は低くなる。さらに、前記貯蔵油69中の気泡の上昇は、気泡の浮力から重力を引いた力で促進され、油の粘性力で抑制される。前者の力は概略的に気泡の体積に比例し、後者の力は概略的に気泡の表面積に比例する。気泡が大きいと、気泡の体積に対する表面積の割合が小さくなるため、気泡の上昇速度は大きくなり、気泡中の油滴が周囲の油と接触できる時間が短くなる。以上の二点から、気泡が大きいと、油の含有率の低減効果が小さくなってしまった。これに対し、本実施例では、気泡の発生できる場所は前記下部流路口18aの上辺の中央の一箇所と決まるため、第一の実施例の問題が無くなる。この結果、吐出ガス中の油の含有率を一層大幅に低減させたガスを圧縮機から吐出できる効果がある。また、前記第一の実施例では、前記油滴除去部45は、図9及び図10に示すように、中央部のみに多孔体があるので、圧縮機の取付け姿勢が圧縮機の円筒軸を中心に回転していると、前記貯蔵油69の中央から外れた箇所を気泡が上昇し中央から外れた油面部で油滴が生じるため、この油滴は多孔体を通らずに前記油滴除去部45の傍をすり抜けて吐出口に至ってしまう可能性が高い。これに対し、本実施例では、前記貯蔵油69の中央寄りを気泡が上昇するため、第一の実施例の問題が無くなる。この結果、油の含有率を一層大幅に低減させたガスを圧縮機から吐出できるという効果がある。
【実施例3】
【0037】
次に、第三の実施例を図13の軸受支持板のモータ室側からの平面図に基づいて説明する。軸受支持板18の下部流路口18aの上辺を鋸歯状にした以外は前記第一の実施例と同様であるので、その他の部分の構造及び動作及び効果の説明は省略する。
【0038】
本実施例では、前記下部流路口18a上辺の鋸歯状の山になった箇所で気泡が形成される。この結果、第一の実施例で問題となった気泡の合体は生じなくなるため、吐出ガス中の油の含有率を一層大幅に低減させたガスを圧縮機から吐出できる効果がある。しかし、この鋸歯の周期間隔を前記下部流路口18aの上辺で成長できる気泡の直径よりも小さく取ると、合体が起こるため、少なくともそれ以上の間隔で鋸歯を形成しなければいけない。また、気泡が前記貯蔵油69中を上昇する時に、前記貯蔵油69の流れに影響されてまっすぐに上昇しないことから、鋸歯の周期間隔は前記下部流路口18aの上辺で成長できる気泡の直径よりも前記貯蔵油69の流れによる左右の揺れ幅だけ大きくした方が良い。
また、両側の山を取ったので、前記貯蔵油69の中央寄りを気泡が上昇し中央寄りの油面部で油滴が生じるため、この油滴は大部分が前記油滴除去部45の多孔体を通る。この結果、油の含有率を一層大幅に低減させたガスを圧縮機から吐出できるという効果がある。
【実施例4】
【0039】
次に、第四の実施例を図14の貯油室付近の縦断面図(図1におけるS部の拡大図)に基づいて説明する。油滴除去部45を傾斜させた以外は前記第一ないし第三の実施例と同様であるので、その他の部分の構造及び動作及び効果の説明は省略する。
【0040】
油滴除去部45に傾斜がない例えば第一の実施例の場合には、前記金網45aに付着した油滴はある程度溜まって合体し、その一部が前記積層保持部45bまで広がる。そして、それに吸着された油がまた溜まることで合体し、その一部が前記底ケーシング21まで広がって、重力により、前記貯蔵油69に戻る。このように、前記油滴除去部45に付着している時間が長いため、一旦捕獲された油滴が通過するガスの流れによって再び、ガス中に戻る場合があった。本実施例では、前記油滴除去部45が傾斜しているため、その金網45aで捕獲された油滴は重力により迅速に前記底ケーシング21方向へ流れ、油滴除去部45の取付け部を伝って前記底ケーシング21の表面まで流れ下る。よって、上記したような、一旦捕獲した油滴が再びガス中に戻ることは無くなるため、油の含有率を大幅に低減させたガスを圧縮機から吐出できる効果がある。本実施例では、油滴除去部45を前記底ケーシング21側に傾斜しているが、前記軸受支持板18側に傾斜していても良い。またこの時に、前記油滴除去部45を前記軸受支持板18に固定してもよい。
【実施例5】
【0041】
次に、第五の実施例を図15の貯油室付近の縦断面図(図1におけるS部の拡大図)と図16のガスカバーの組立て斜視図と図17のガスカバーの貯油室側からの平面図に基づいて説明する。軸受支持板18に油滴除去部45を装着したガスカバー88を設けた以外は第一ないし第四の実施例と同様であるので、その他の部分の構造及び動作及び効果の説明は省略する。
【0042】
ガスカバー88は、円環カバー88dの内部に油滴除去部45を固定したうえで、前記ベースプレート88cにろう付けまたは接着または溶接し、内部にガス抜き通路88aを形成する。この時、固定する場所を決めるために中央つば88gと外周つめ88fを設けている。この結果、前記貯油室69のガスの流路は前記ガスカバー88内の前記ガス抜き通路88aとなるため、前記給油パイプ71にガスの気泡が進入する危険性は非常に低くなる。この結果、モータ室に貯まったガスは前記下部流通口18aから前記ガス抜き通路88aを通った時に、その後前記油滴除去部45を通り、吐出パイプ55に至る。この経路により、前記実施例で記したように、吐出ガス中の油の含有率を大幅に低減させたガスを圧縮機から吐出できる効果がある。なお、この実施例では、前記油滴除去部45を水平に設定しているが、これを斜めにすると第四の実施例と同様の効果がある。ここで、貯油室80に流入するガスの向きは、前記通路開口部88bが前記ガスカバーの側面に開口しているため、底ケーシング21の側面に衝突後、前記吐出パイプ55の方へ向かう。この結果、底ケーシング21との衝突によりガス中の油滴の含有率が一層低下するという特有の効果がある。
【実施例6】
【0043】
次に、第六の実施例を図18の貯油室付近の縦断面図(図1におけるS部の拡大図)と図19の軸受支持板のモータ室側からの平面図に基づいて説明する。軸受支持板18の上部に上部流路口18bを設けた以外は前記第四の実施例と同様であるので、その他の部分の構造及び動作及び効果の説明は省略する。
【0044】
前記上部流路口18bにより、前記モータ室62から前記貯油室80のガス域へ抜ける流路が形成される。この時は、この上部流路口18bの流路抵抗をわずかに付けて、前記貯油室80の圧力を前記モータ室62の圧力よりもわずかに低くしこの圧力差で油を前記貯油室80に貯蔵する。この結果、非常に大流量の運転時に、前記上部流路口18bが無い場合には油中の気泡が油面にきて潰れる時の油の泡立ちが激しくなって前記油滴除去部45で捕獲できない量の油が出るが、本実施例では、油中を通るガス量が少ないため、油面での泡立ちによる油滴の発生が大幅に少なくなり、吐出ガス中の油の含有率を大幅に低減させたガスを圧縮機から吐出できる効果がある。ここで、前記上部流路口18bは、図18で示すように、中心に一個ではなくて、二個でもまたは三個でもよい。
【実施例7】
【0045】
次に、第七の実施例を図20の貯油室付近の縦断面図(図1におけるS部の拡大図)に基づいて説明する。軸受支持板18の上部に上部流路口18bを設けた以外は前記第五の実施例と同様であるので、その他の部分の構造及び動作及び効果の説明は省略する。前記上部流路口18bにより、前記モータ室62から前記貯油室80のガス域へ抜ける流路が形成される。この時は、この上部流路口18bの流路抵抗をわずかに付けて、前記貯油室80の圧力を前記モータ室62の圧力よりもわずかに低くしこの圧力差で油を前記貯油室80に貯蔵する。この結果、非常に大流量の運転時に、前記上部流路口18bが無い場合には油中の気泡が油面にきて潰れる時の油の泡立ちが激しくなって前記油滴除去部45で捕獲できない量の油が出るが、本実施例では、油中を通るガス量が少ないため、油面での泡立ちによる油滴の発生が大幅に少なくなり、吐出ガス中の油の含有率を大幅に低減させたガスを圧縮機から吐出できる効果がある。
【実施例8】
【0046】
次に、第八の実施例を図21の貯油室付近の縦断面図(図1におけるS部の拡大図)に基づいて説明する。軸受支持板18の上部流路口18bをガスカバー88内に設けるために前記ベースプレート88cの対応する位置に短絡開口部88eを設ける以外は前記第七の実施例と同様であるので、その他の部分の構造及び動作及び効果の説明は省略する。前記上部流路口18bをガスカバーの内部に開口したために、そこを通るガスが前記円環カバー88dに衝突する。よって、ガスは大きな速度変化をし、そこに含まれる油滴に大きな慣性力が働き、油は前記円環カバー88dの内壁に付着する。この結果、油滴を除去されなかった前記上部流路口18bを通ってきたガスがここで油滴を除去されるため、油の含有率を大幅に低減させたガスを圧縮機から吐出できるという効果がある。また、ガスが前記円環カバー88dに衝突する箇所に多孔体である壁面多孔体88kを設ける実施例も考えられる。この場合には、付着した油が再離脱しにくくなり、油滴の捕捉率が向上し、ガス中の油の含有率が一層低減するという特有の効果がある。
【実施例9】
【0047】
次に、第九の実施例を図22のガスカバーの組立て斜視図と図23のガスカバーの貯油室側からの平面図と図24の油滴除去部の斜視図に基づいて説明する。前記上部流路口18bを通ってきたガスが前記円環カバー88dと衝突する箇所が傾斜した傾斜部88hとなり、油滴除去部45をガス抜き通路88aでガスの流れがほぼ垂直に上昇する位置に設け、さらに油滴除去部45の構造を変えた以外は前記第八の実施例と同様であるので、その他の部分の構造及び動作及び効果の説明は省略する。
【0048】
傾斜部の無い場合には、この衝突部の中心近くに付着した油が移動する駆動力は重力しかないため、非常に小さく、油滴はほぼ付着したままとなる。よって、後に続くガスの衝突により付着していた油を逆に再離脱させる危険性がある。本実施例では、衝突するガスの流れ自体が、付着した油を下部に押し流す作用をもつため、前記円環カバー88dに付着した油はガス中に再離脱せず、吐出ガス中の油の含有率を大幅に低減させたガスを圧縮機から吐出できる効果がある。また、前記油滴除去部45のほぼ中央をガスが流れるため、前記油滴除去部45の周囲の隙間をガスが流れることが無くなり、油の含有率を大幅に低減させることができる。また、二個所に油滴除去部が分かれたため、金網45aが小さくなりその端からそれを形成する針金が脱落する危険性が大きくなったが、これを回避するために、網押さえ45cを用い、押さえつめ45dで積層保持部45bに固定配置した。この結果、信頼性の向上した圧縮機を提供できるという効果がある。また通路開口部88bに多孔性体を設置してもよい。これにより、さらに一層油の含有率を大幅に低減させたガスを圧縮機から吐出できるという効果がある。
【実施例10】
【0049】
次に、第十の実施例を図25の油滴除去部の斜視図に基づいて説明する。油滴除去部45として、金網を積層する代わりに、多数の小孔45eを設ける以外は前記第九の実施例と同様であるので、その他の部分の構造及び動作及び効果の説明は省略する。構造が簡単となるために、加工コストを低減できるという効果がある。
【実施例11】
【0050】
次に、第十一の実施例を図26の貯油室付近の縦断面図(図1におけるS部の拡大図)に基づいて説明する。前記上部流路口18bを通ってきたガスも前記油滴除去部45を通るように前記油滴除去部45を傾斜させる以外は前記第六の実施例と同様であるので、その他の部分の構造及び動作及び効果の説明は省略する。
【0051】
この前記油滴除去部45は、前記貯蔵油69中を上昇した気泡により油面で発生する油滴を除去する役目と前記上部流路口18bを通ってきたガス内の油滴を除去する役目を兼ねているため、油の含有率を大幅に低減させたガスを単純な構成で実現できる。
【実施例12】
【0052】
次に、第十二の実施例を図27のオイルトラッププレートの組立て斜視図と図28のオイルトラッププレートの取付け斜視図と図29のオイルトラッププレートの取付け部付近の縦断面図に基づいて説明する。このオイルトラッププレート47をリテーナ23aの上部に重ねて配置する以外は前記第一ないし第十一の実施例と同様であるので、その他の部分の構造及び動作及び効果の説明は省略する。オイルプレートホルダ47aの網挿入部47eに複数の網47bを積層して挿入し、網押さえリング47cを上部に重ねて押さえつめ47dを曲げて固定し、前記オイルトラッププレート47を形成する。このオイルトラッププレート47を図28に示すように二段ボルト23mとバイパスナット23nにより前記リテーナ23aの上部に固定する。この結果、圧縮動作口2dから出る油を多量に含有したガスがこのオイルトラッププレート47に衝突するため、これまで説明してきたように、油は、その慣性により、積層された網47b内に付着するため、油の含有率を大幅に低減させたガスを圧縮機から吐出できるという効果がある。ここで、前記オイルトラッププレート47と圧縮動作口2dの間隔Hを前記圧縮動作口2dの直径Dの0.25倍から2倍の範囲内に設定する。この結果、流路抵抗が増大せず、ガス中の油滴の除去率が高いという効果がある。ここで、このHを設定するために、二段ボルト23mのナット部の厚みと前記リテーナ23aの厚みを利用する。この結果、Hを確保するための治具や別部品が不要となり、低コストになるという効果がある。さらに、バイパス弁23のもれチェックをする時には、バイパス弁板23xとリテーナ23aのみを固定する必要があるが、この場合には、前記二段ボルト23mでそれらのみを固定することができるため、量産性が高くなるという効果がある。ここで、前記網47bの目の細かさを底に近い側を細かくし、表面に近い側を粗くすると油のガスからの除去率を向上させることができる。
【実施例13】
【0053】
次に、第十三の実施例を図30のオイルトラッププレートの斜視図に基づいて説明する。網の積層の代わりに凹凸部47gを設ける以外は前記第十二の実施例と同様であるので、その他の部分の構造及び動作及び効果の説明は省略する。この凹凸部47gにより油の付着量が多くなるため、油のガスからの除去率を向上させることができる。
【実施例14】
【0054】
次に、第十四の実施例を図31のオイルトラッププレートの斜視図に基づいて説明する。網の積層を設けない以外は前記第十二の実施例と同様であるので、その他の部分の構造及び動作及び効果の説明は省略する。このプレートにガスが衝突するため、その中の油がその慣性によりプレートに激しく衝突し付着するため、ガス中の油の含有率を低減できる。これは、非常に簡単な構造であるため、低コストの圧縮機を実現できるという効果がある。
【実施例15】
【0055】
次に、第十五の実施例を図32の固定スクロール部材のスクロールラップ側からの平面図に基づいて説明する。前記差圧制御弁100の他にもう一個の第二差圧制御弁200を設ける以外は前記第一ないし第十四の実施例と同様であるので、その他の部分の構造及び動作及び効果の説明は省略する。前記差圧制御弁100を流れる油やガスの量が多いと、差圧設定値がずれてくることを回避できるという効果がある。また、第二差圧制御弁200の差圧設定値を前記差圧制御弁100の設定値よりも大きしてもよい。この場合、起動時や運転状態の急激な変化時、前記背面過吸込圧領域99へ大量のガスや油が流入した時のそこでの圧力の異常上昇を逃がす安全弁の役割を持たせることができる。この結果、信頼性の高い圧縮機を提供できるという効果がある。
【実施例16】
【0056】
次に、第十六の実施例を図33の固定スクロール部材のスクロールラップ側からの中央付近の平面図及び図34のバイパス穴の縦断面図に基づいて説明する。高圧側の一対のバイパス穴2eの歯底側にスクロールラップ2bに沿った方向で中央向きに切欠きを設ける以外は前記第一ないし第十二の実施例と同様であるので、その他の部分の構造及び動作及び効果の説明は省略する。穴の中に残る高圧ガスによる再膨張を極力抑えて高圧側バイパス弁23の圧縮室と通じている期間が高圧側に拡大したため、過圧縮を一層低減でき性能が向上するという効果がある。
【実施例17】
【0057】
次に、第十七の実施例を図35の固定スクロール部材のスクロールラップ側からの中央付近の平面図及び図36のバイパス穴の縦断面図に基づいて説明する。高圧側の一対のバイパス穴2eの歯底側にスクロールラップ2bに沿った方向で外向きに切欠きを設ける以外は前記第十三の実施例と同様であるので、その他の部分の構造及び動作及び効果の説明は省略する。穴の中に残る高圧ガスによる再膨張を極力抑えて高圧側バイパス弁23の圧縮室と通じている期間が低圧側から高圧側まで拡大したため、低い圧力比での過圧縮を一層低減でき性能が向上するという効果がある。
【実施例18】
【0058】
次に、第十八の実施例を図37の固定スクロール部材のスクロールラップ側からの中央付近の平面図に基づいて説明する。低圧側の一対のバイパス穴2eの歯底側にスクロールラップ2bに沿った方向で中央向き及び外向きに切欠きを設ける以外は前記第十四の実施例と同様であるので、その他の部分の構造及び動作及び効果の説明は省略する。低圧側の一対のバイパス穴2eは、過圧縮抑制の役割ももちろんあるが、主な役割は液圧縮回避である。低圧側バイパス弁23の圧縮室と通じている期間が低圧側から高圧側まで拡大したため、液圧縮をより一層確実に回避でき信頼性が向上するという効果がある。
【実施例19】
【0059】
最後に、第十九の実施例を図38の差圧制御弁付近の縦断面図(図1におけるP部の拡大図)に基づいて説明する。自然長の長い差圧弁ばね100cとそれを挿入できる挿入弁キャップ100jを設けた以外は前記第一ないし十五の実施例と同様なので、その他の部分の構造及び動作及び効果の説明は省略する。これにより、ばね定数を小さく設定できるため、各部の寸法精度を上げなくても差圧の設定を行えるため、量産性が向上するという効果がある。ここで、前記差圧弁ばね100cはつるまきばねになっているが、たけのこばねでもよい。この場合、座屈し難いので、差圧値を一層精度良く設定できるという効果がある。
【符号の説明】
【0060】
2…固定スクロール部材(非旋回スクロ−ル部材)、2e…バイパス穴、3…旋回スクロ−ル部材、4…フレーム、5…オルダムリング、6…圧縮室、12…シャフト、19…モータ、44…フレームオイルリング、45…油滴除去部、46…オイルリング、47…オイルトラッププレート、47m…二段ボルト、60…吸込室、61…固定背面室、62…モータ室、69…貯蔵油、95…背面吐出圧領域、96…吐出室、99…背面過吸込圧領域、100…差圧制御弁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器内に設けられた外部から導いたガスを圧縮する圧縮動作部と、この密閉容器内に設けられた油溜まり部とを備えた圧縮機において、前記圧縮動作部からガスの圧縮機外部への出口である吐出口へ至る経路内に、前記油溜まり部の油内を経由する経路を備えた圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、前記油溜まり部を経由する経路の後に多孔性体を通過する経路を備えた圧縮機。
【請求項3】
密閉容器内に設けられた外部から導いたガスを圧縮する圧縮動作部と、この密閉容器内に設けられた油溜まり部とを備え、この圧縮動作部からのガスを前記密閉容器内に吐出する圧縮機において、前記圧縮動作部からのガスを前記密閉容器内に吐出する圧縮動作口に対向しこの圧縮動作口の相当直径の0.25から2倍の距離だけ離れた位置にオイルトラッププレートを配置した圧縮機。
【請求項4】
密閉容器内に圧縮機構部とこの圧縮機構部を駆動する電動機部とを備え、この圧縮機構部から吐出された冷媒がこの密閉容器内を介して吐出口から外部へ吐出される圧縮機において、前記電動機部に対し吐出パイプを前記圧縮機構部の反対側に設け、この電動機部と前記吐出パイプとの間に設けられた補助軸受と、この補助軸受に設けられ、穴が開けられた支え板と、この支え板と吐出口との間に遮蔽板を設けた圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【公開番号】特開2011−27117(P2011−27117A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249271(P2010−249271)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【分割の表示】特願2008−35448(P2008−35448)の分割
【原出願日】平成10年3月4日(1998.3.4)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】