説明

圧縮機

【課題】ドライガスシールを採用した圧縮機において、ドライガスシールへの液体の浸入、供給されるシールガスの液化に伴う不具合の発生を抑制しうるシールシステムを備えた圧縮機を提供する。
【解決手段】ケーシング1aとロータ軸11の間に配設され、ロータ軸11に周設された回転環16と、ロータ軸11と略垂直な回転環16の垂直端面に当接可能となるように弾性部材17,18を介してケーシング1aに設けられた静止環19,20とを有するドライガスシール15と、吐出流路5と一端が接続されるとともにドライガスシール15の回転環16の外周面16aとケーシング1aの間の空間37と連通するように他端が接続され、シールガス調整弁8が介設されたシールガス流路6と、回転環16の下方のケーシング1aに形成された貫通孔35を介して空間37と連通するように一端が接続され、他端が吸込流路3に接続されたドレンガス流路26とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮機に関し、より詳しくは、いわゆるドライガスシールを採用した圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧縮機には、種々の形式のものが知られているが、多くは、インペラやスクリュロータやスクロールロータや軸流式の羽根車等の回転体を回転し、この回転体の回転に伴って、流体を圧縮する形式のものである。このため、圧縮機には、回転体の主要部分を収容し、流体を圧縮するための圧縮空間が形成されるとともに、この回転体の軸を支持する軸受部が形成される。そして、それら圧縮空間と軸受部の間や、圧縮空間と大気空間の間には、圧縮空間からの圧縮流体の漏出、また、軸受部から圧縮空間への潤滑材(油、グリース等)や(特に圧縮する流体にいわゆるプロセスガスを採用している圧縮機などにおいては)空気などの流入を防止するために、種々のシール(軸封)が採用されている。
【0003】
特に、ハイドロカーボン等の可燃性・爆発性ガスや有毒ガス、腐食性ガス等のガスを圧縮すべき流体として取り扱う圧縮機については、このガスに対してのシールをどのように構成するかが重要となる。昨今では、油を全くシール用の材料として使用しない、ドライなシールとして、いわゆるドライガスシールが注目されている。
【0004】
ドライガスシールは、おおまかに言えば、回転体の軸と一体的に回転する回転環と、この回転環の、軸と略垂直な垂直端面と対向する位置に配置され、ケーシング等と弾性部材を介して固定された静止環とによって構成されている。ドライガスシールは、回転体が静止している状態では、回転環に静止環が当接し、シール面を形成して、圧縮されるべきガスの流出等を防止する。また、ドライガスシールの回転環の垂直端面、すなわち、静止環と対向する面の多くには、らせん状の溝が形成されている。そして、回転体が回転している状態では、らせん状の溝にシールガスが流れ込み、動圧を形成して、回転環と静止環との間にわずかな隙間が形成され、そこにシールガスでのシール面が構成され、やはり圧縮されるべきガスの流出等が防止される。
【0005】
特許文献1には、ドライガスシールによる圧縮機のシールの一例が示されている。この特許文献1のシールは、図9に示すように、インペラ101背面の圧縮機ケーシング102とインペラ回転軸103との間に、ドライガスシール部104とバリアシール部105とを備えている。ドライガスシール部104は、圧縮機ケーシング102に固定された静止側ドライガスシール本体106及びインペラ回転軸103に固定された回転側ドライガスシール本体107を備えている。そして、ドライガスシール部104は、一次ドライガスシール部108と二次ドライガスシール部109とで構成されている。一次ドライガスシール部108と二次ドライガスシール部109には、それぞれ、回転側ドライガスシール本体107に固定された回転環110A,110Bと、静止側ドライガスシール本体106にバネ111A,111Bを介して固定された静止環112A,112Bとが軸方向に対向して配置されている。回転環110A,110Bの静止環112A,112Bと対向する面には、図示しないらせん状の溝が形成されている。バリアシール部105は、圧縮機ケーシング102に固定されるとともに、静止側ドライガスシール本体106に一体的に連結される。
【0006】
この特許文献1に開示のシールによれば、高圧運転下の推力が大きな場合においても、強度的に耐え得ると共に、回転体の安定性の確保が可能となる。
【0007】
なお、ドライガスシールの形成するシール面に液体(ドレン等)が浸入すると、形成される動圧が不安定となり、回転環と静止環との間に隙間が安定的に形成されない。この事象は、シール面に非圧縮性の液体と圧縮性の液体とが混在することで、回転環と静止環との間に発生する力(浮上力)にばらつきが生じるために拠るものと考えられる。このため、シール面に液体が浸入すると、回転体の回転中に、回転環と静止環とが接触する事態が生じ、シール面が損傷する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−121463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、軸封としてドライガスシールを採用した圧縮機において、ドライガスシールへの液体の浸入、供給されるシールガスの液化に伴う不具合の発生を抑制しうるシールシステムを備えた圧縮機を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決する手段として、本発明の圧縮機は、ロータ軸が略水平になるように配置されたロータを収容する圧縮空間と、該圧縮空間と連通する吸込口および吐出口とが設けられたケーシングを有する圧縮機本体と、前記圧縮機本体の吸込口に接続された吸込流路と、前記圧縮機本体の吐出口に接続された吐出流路とを備え、前記吸込流路から前記吸込口を介して流体を吸い込み、該流体を前記圧縮空間で圧縮して、前記吐出口を介して前記吐出流路に吐出する圧縮機であって、前記ケーシングと前記ロータ軸の間に配設され、前記ロータ軸に周設された回転環と、前記ロータ軸と略垂直な前記回転環の垂直端面に当接可能となるように弾性部材を介して前記ケーシングに設けられた静止環とを有するドライガスシールと、前記吐出流路と一端が接続されるとともに前記ドライガスシールの回転環の外周面と前記ケーシングの間の空間と連通するように他端が接続され、シールガス調整弁が介設されたシールガス流路と、前記回転環の下方の前記ケーシングに形成された貫通孔を介して前記空間と連通するように一端が接続され、他端が前記吸込流路に接続されたドレンガス流路とを備えるようにした。
【0011】
この構成によれば、シールガスにドレン等の液体が浸入しても、あるいは、供給される流体のシールガスの液化が発生しても、ドライガスシールの形成する回転環と静止環との間のシール面に液体を滞留させることがなく、ドレンガス流路によって、速やかにシールガスとともに吸込流路に向けて排出することができる。このため、ドライガスシールへの液体の浸入、供給されるシールガスの液化に伴う不具合の発生を抑制することができる。
【0012】
前記ドレンガス流路にオリフィスが介設されることが好ましい。この構成によれば、シールガス流路、ドレンガス流路の圧力を保ちつつ、吸込流路へ圧縮された流体と液体(ドレン等)とを少しずつ戻すことができる。また、特に圧縮された流体であるプロセスガスのドライガスシールにおける消費量が比較的少なく、高差圧の状況(シールガス流路における圧縮された流体の一部であるシールガスの供給圧力と、シールガスが排出される側の圧力との差圧が高圧である状況)下で圧縮機を使用する場合においては、シールガス調整弁のハンチングが起こる可能性がある。しかし、オリフィスで適量のプロセスガスと液体を流すようにすることで、シールガス調整弁の選定を容易にすることができる。
【0013】
前記ドレンガス流路に流量調整弁が介設されることが好ましい。この構成によれば、ドレンガス流路の流量を広範囲に調整することが可能となり、シールガス調整弁の選定をさらに容易にすることができる。また、分子量や圧力が変化するガスを用いても、吸込側へのガス戻し量が最適な量となるように維持することができる。
【0014】
前記吸込流路と一端が接続され逆止弁を介して前記シールガス流路に他端が接続された緊急流路を備えることが好ましい。この構成によれば、緊急流路を備えることで、吸込圧力の急激な変動に伴うシールガス調整弁の吸込圧力への追従の不良が発生したとしても、シールガス流路の圧力は少なくとも吸込圧力に維持されるため、「逆圧条件」、すなわち「シールガス流路の圧力<吸込口における吸込圧力」の状態を回避することができる。したがって、ドライガスシールに適切な圧力(最低限必要な圧力)が加えられた状態を維持することができ、破損の生じる可能性を排除することができる。
【0015】
前記緊急流路に遮断弁を設けることが好ましい。この構成によれば、圧縮機運転時に遮断弁を開弁し、停止時に遮断弁を閉弁することにより、停止時にシールガス流路、ひいてはケーシングの内部に異物、液体が侵入することを防止できる。
【0016】
前記シールガス流路にシールガスを供給するシールガス供給源を接続することが好ましい。この構成によれば、シールガス供給源からシールガス流路に確実にシールガスを供給できる。したがって、緊急流路を省略した構成とすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、シールガスにドレン等の液体が浸入しても、あるいは、供給される流体のシールガスの液化が発生しても、ドライガスシールの形成する回転環と静止環との間のシール面に液体を滞留させることがなく、ドレンガス流路によって、速やかにシールガスとともに吸込流路に向けて排出することができる。このため、ドライガスシールへの液体の浸入、供給されるシールガスの液化に伴う不具合の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態の圧縮機を示す概略図。
【図2】本発明の第1実施形態の圧縮機のシール部分の拡大図。
【図3】回転環の垂直端面を示す図。
【図4】本発明の第2実施形態の圧縮機を示す概略図。
【図5】本発明の第2実施形態の圧縮機のシール部分の拡大図。
【図6】シール部分の変形例を示す図。
【図7】本発明の変形例を示す図。
【図8】本発明の変形例を示す図。
【図9】従来の圧縮機のシール部分の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の第1実施形態の圧縮機を示す。本発明に係る圧縮機は、回転体(ロータ)(図示せず)がケーシング1aに形成された圧縮空間(図示せず)に収容されてなる圧縮機本体1を備えている。
【0020】
圧縮機本体1の吸込口2には吸込流路3が接続されている。また、圧縮機本体1の吐出口4には吐出流路5が接続されている。
【0021】
圧縮機本体1は、圧縮されるべき流体、例えばいわゆるプロセスガスを、吸込流路3を通じて吸込口2から吸い込む。そして、圧縮機本体1は、上述の圧縮空間にてプロセスガスを圧縮した後、吐出口4から吐出し、吐出流路5を通じて、図示しない供給先に供給する。
【0022】
また、一端が吐出流路5に接続され、他端が後述するドライガスシール15に接続されたシールガス流路6が設けられている。シールガス流路6を通じてシールガス調整弁8に対して、シールガスとして圧縮後のプロセスガスの一部が供給される。なお、シールガス調整弁8は、後述する圧力参照部27にて、後述する空間38におけるガスの圧力を参照し、そのガスの圧力より大のシールガス圧にて、シールガスを供給する機能を有する。
【0023】
シールガス流路6には、吐出流路5との分岐点から近い順に、フィルター7、シールガス調整弁8、逆止弁9が介設されている。
【0024】
フィルター7は、シールガス流路6を通じるプロセスガスに混在する不純な物質を捕捉し、プロセスガスを清浄化する。シールガス調整弁8は、プロセスガスの一部をシールガスとして流用可能なように、プロセスガスの流量を所定の値に調整する。逆止弁9は、シールガス流路6と吐出流路5との分岐点から、ドライガスシール15に向かうプロセスガスの流れのみを許容し、シールガスの逆流を防止する役割を担う。
【0025】
圧縮機本体1を構成する回転体(ロータ)の軸であるロータ軸11は、圧縮機本体1を構成するケーシング1aの吸込側を貫通し、カップリング13を介して、ドライバ(駆動機)12の軸、駆動軸14と接続されている。そして、ケーシング1aとロータ軸11の間で軸封するように、ドライガスシール15がロータ軸11に周設されている。
【0026】
図2は、ドライガスシール15の詳細を示す。ドライガスシール15は、ロータ軸11と一体的に回転する回転環16と、回転環16の両側で弾性部材17,18を介してケーシング1aに固定された静止環19,20とを備える。図3に示すように、ドライガスシール15の回転環16の垂直端面、すなわち、静止環19,20と対向する面には、らせん状の溝33が形成されている。らせん状の溝33は、回転環16の外周から回転方向と反対方向に向かうにしたがって中心側に近づくように形成され、端部は外周と内周の間に位置している。らせん状の溝33は、回転環16の外周面16aに開口している。静止環19,20は、弾性部材17,18により、ロータ軸11と略垂直な回転環16の垂直端面に当接可能に配置されている。
【0027】
また、ドライガスシール15の構成の一部、静止環20よりドライバ(駆動機)12側、すなわち、大気側のロータ軸11の周囲には、ケーシング1aとロータ軸11との間にラビリンスシール等のシール部材22,23が周設されている。
【0028】
そして、シール部材22とシール部材23との間の空間には、窒素供給源から窒素を供給可能なように、窒素供給流路24が接続されている。窒素供給流路24には、これを通じる窒素の流量を所定の値に調整するために、流量調整弁25が介設されている。
【0029】
また、本発明にかかる圧縮機は、ドレンガス流路26と圧力参照部27とを備えている。
【0030】
ドレンガス流路26は、回転環16の下方のケーシング1aに形成された貫通孔35を介して回転環16の外周面16aとケーシング1aの間の空間37と連通するように一端が接続され、他端が吸込流路3と接続されている。ドレンガス流路26には、ドライガスシール15側から吸込流路3側に向かう流れのみを許容する逆止弁28、オリフィス29が介設されている。オリフィス29は、逆止弁28より下流側に配置されている。
【0031】
圧力参照部27は、ドライガスシール15の圧縮空間側のケーシング1aとロータ軸11の間の空間38と連通するようにケーシング1aに設けられている。空間38は、吸込口2と圧縮機本体1の内部で連通しているため、吸込圧力と均圧されている。そのため、圧力参照部27を通じて、ケーシング1aの圧縮空間側の圧力が参照できるようになっている。圧力参照部27は、流路を介してシールガス調整弁8と接続されている。したがって、圧力参照部27の圧力、すなわちケーシング1aの圧縮空間側の圧力に応じて、シールガス調整弁8の開度を調整できるようになっている。
【0032】
次に、以上の構成からなるドライガスシール15を備えた圧縮機の動作について説明する。ドライガスシール15は、回転体たるロータ軸11が静止している状態では、バネ(弾性部材)17,18により静止環19,20が回転環16に当接し、シール面を形成して、圧縮機本体1側(圧縮空間側)からドライバ(駆動機)12側・大気側への圧縮されるべきガスの流出等を防止する。
【0033】
一方、ロータ軸11が回転している状態では、ケーシング1aの貫通孔36を介して回転環16の外周面16aとケーシング1aとの間の空間37へとシールガスが流れ込む。そして、回転環16の外周面16aの開口部分かららせん状の溝33の中へとシールガスが広がっていく。そして、動圧を形成して、回転環16と静止環19,20との間にわずかな隙間が形成され、そこにシールガスでのシール面が構成され、やはり、圧縮機本体1側からドライバ(駆動機)12側・大気側への、圧縮されるべきガスの流出等が防止される。
【0034】
シールガス流路6を介してドライガスシール15に供給されたプロセスガスは、シールガスとして、回転環16と静止環20との間のわずかな隙間を通じた後、圧縮空間側と比較して低圧となっている大気側の排出流路21を通じて、フレアに向けて排出される。
【0035】
また、ドライガスシール15に供給されたプロセスガスが圧縮空間側に移動した場合、圧縮空間に戻り、吸込口2から吸い込まれたプロセスガスとともに圧縮される。
【0036】
窒素供給流路24を介して、シール部材22とシール部材23との間の空間に供給された窒素は、シール部材22とロータ軸11の間の僅かな隙間、あるいはシール部材23とロータ軸11の間の僅かな隙間を通じる。窒素は、そこでシールガスとして作用する。そして、シール部材22とロータ軸11の間の僅かな隙間を通じて、排出流路21に到達した窒素は、排出流路21を通じて、フレアに向けて排出される。また、シール部材23とロータ軸11の間の僅かな隙間を通じた窒素は、そのまま大気に排出される。
【0037】
シールガスにドレン等の液体が浸入しても、あるいは、供給される流体のシールガスの液化が発生しても、ドライガスシール15の形成する回転環16と静止環19,20との間のシール面に液体を滞留させることがなく、ドレンガス流路26によって、速やかにシールガスとともに吸込流路3に向けて排出することができる。このため、ドライガスシール15への液体の浸入、供給されるシールガスの液化に伴う不具合の発生を抑制することができる。なお、シールガス、特に本実施形態のようにプロセスガスをシールガスに流用している場合には、その温度や圧力等の変化に伴ってドレンとして出現する(液化する)ものが多く含まれている場合が多い。そのような場合でも、上述のとおり、本発明であれば、シールガスの液化に伴う不具合を抑制できる。
【0038】
また、ドレンガス流路26にオリフィス29を介設することにより、シールガス流路6、ドレンガス流路26の圧力を保ちつつ、吸込流路3へプロセスガスと液体(ドレン等)とを少しずつ戻すことができる。また、特にプロセスガスの消費量が比較的少なく、高差圧の状況(シールガス流路6におけるシールガスの供給圧力と、シールガスが排出される側の圧力との差圧が高圧である状況)下で圧縮機を使用する場合においては、シールガス調整弁8のハンチングが起こる可能性がある。しかし、オリフィス29で適量のプロセスガスと液体を流すようにすることで、シールガス調整弁8の選定を容易にすることができる。
【0039】
図4,図5は、本発明の第2実施形態の圧縮機を示す。この第2実施形態の圧縮機においては、図1,図2で示した第1実施形態の圧縮機とほとんどの構成を共通するが、第1実施形態の構成に加え、緊急流路31が設けられている。
【0040】
緊急流路31は、吸込流路3と一端が接続され逆止弁9より下流のシールガス流路6で他端が接続されている。緊急流路31には、吸込流路3側からシールガス流路6側に向かう流れのみを許容する逆止弁32が介設されている。
【0041】
シールガス流路6におけるシールガスの供給圧力と、シールガスが排出される側の圧力との差圧が高圧となると、シールガスとしてプロセスガスの一部を消費する量が多くなる。その量が過多とならないよう、シールガス調整弁8は、圧力参照部27の圧力に基づいて、シールガス調整弁8以降のシールガス流路6におけるシールガス(圧縮後のプロセスガスの一部)の供給圧力PSを、参照圧力(=吸込圧力)PI+α(例えば、Max.4bar程度)となるように調整している。しかしながら、参照圧力(=吸込圧力)PIの急激な変動が生じた場合で、且つ、緊急流路31が設けられていない場合においては、シールガス調整弁8の吸込圧力PIへの追従の不良が発生し、ドライガスシール15の破損が生じる可能性がある「逆圧条件」、すなわち「シールガス流路6の供給圧力PS<吸込口2における参照圧力(=吸込圧力)PI」の状態が発生しうる。
【0042】
「逆圧条件」となると、ドライガスシール15の回転環16と静止環19,20との間に発生する力(浮上力)が不十分となり、回転体11の回転中に、回転環16と静止環19,20とが接触する事態が生じ、シール面が損傷する可能性がある。
【0043】
緊急流路31を備えることで、吸込圧力の急激な変動に伴うシールガス調整弁8の参照圧力(=吸込圧力)への追従の不良が発生したとしても、シールガス流路6の圧力は少なくとも吸込圧力と同じ大きさの圧力に維持されるため、「逆圧条件」、すなわち「シールガス流路6の供給圧力PS<吸込口2における吸込圧力PI」の状態を回避することができる。したがって、ドライガスシール15に適切な圧力(最低限必要な圧力)が加えられた状態を維持することができ、破損の生じる可能性を排除することができる。
【0044】
本発明は実施形態のものに限定されず、以下に例示するように種々の変形が可能である。
【0045】
図6に示すように、窒素供給流路24が接続された位置のケーシング1aとロータ軸11との間に回転環39を設け、回転環39に対して大気側に静止環40を配置したドライガスシール15を設けてもよい。これにより、大気側におけるケーシング1aとロータ軸11との間からの窒素の漏れ量を減少させることができ窒素使用量を減らすことができる。
【0046】
ドレンガス流路26にオリフィス29を介設する代わりに、流量を調整する流量調整弁を介設してもよい。この構成によれば、ドレンガス流路26の流量を広範囲に調整することが可能となり、シールガス調整弁8の選定をさらに容易にすることができる。また、分子量や圧力が変化するガスを用いても、吸込側へのガス戻し量が最適な量となるように維持することができる。
【0047】
図7に示すように、吸込流路3と逆止弁32との間の緊急流路31に遮断弁42を介設してもよい。そして、遮断弁42と逆止弁32との間の緊急流路31にフィルター43を介設してもよい。この構成によれば、圧縮機運転時に遮断弁42を開弁し、停止時に遮断弁42を閉弁することにより、停止時にシールガス流路6、ひいてはケーシング1aの内部に異物、液体が侵入することを防止できる。
【0048】
図8に示すように、第2実施形態の圧縮機に緊急流路31を設ける代わりに、シールガス流路6に逆止弁44を介してシールガスとしての窒素を供給するシールガス供給源45を接続してもよい。この構成によれば、シールガス供給源45からシールガス流路6に確実にシールガスを供給できる。したがって、緊急流路31を省略した構成とすることができる。なお、シールガス供給源45、および、緊急流路31の両方を設けることもできる。この場合、シールガス流路6からケーシング1aに確実にシールガスを供給できる。
【0049】
圧力参照部27とシールガス調整弁8とを流路を介して接続して直接的にシールガス調整弁8の開度を調整する代わりに、圧力参照部27で測定した圧力値を制御装置(図示せず)に送信し、制御装置を介して間接的にシールガス調整弁8の開度を調整するようにしてもよい。
【0050】
空間38は、外部配管を通じて、吸込圧力と均圧してもよい。
【0051】
回転環16は、回転方向が一方向のみとなっているものを例として説明したが、これに限定されず、ドライガスシールとしてのシール機能を有する溝が垂直端面に形成された両方向に回転可能な回転環を採用してもよい。
【0052】
シールガス調整弁8は、自力式調整弁、自動式調整弁等、いかなるタイプの調整弁であってもよい。また、上述の実施形態では、シールガス流路6に、吐出流路5との分岐点から近い順に、フィルター7、シールガス調整弁8、逆止弁9が介設されているものを示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、フィルター7、シールガス調整弁8、逆止弁9の配置の順が異なるものでも良い。また、オリフィス29は、逆止弁28より上流側に配置されていても良い。
【符号の説明】
【0053】
1 圧縮機本体
1a ケーシング
2 吸込口
3 吸込流路
4 吐出口
5 吐出流路
6 シールガス流路
7 フィルター
8 シールガス調整弁
9 逆止弁
11 ロータ軸
12 ドライバ(駆動機)
13 カップリング
14 駆動軸
15 ドライガスシール
16,39 回転環
17,18 バネ(弾性部材)
19,20,40 静止環
21 排出流路
22,23 シール部材
24 窒素供給流路
25 流量調整弁
26 ドレンガス流路
27 圧力参照部
28 逆止弁
29 オリフィス
31 緊急流路
32 逆止弁
33 溝
35 貫通孔
36 貫通孔
37 空間
38 空間
42 遮断弁
43 フィルター
45 シールガス供給源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータ軸が略水平になるように配置されたロータを収容する圧縮空間と、該圧縮空間と連通する吸込口および吐出口とが設けられたケーシングを有する圧縮機本体と、
前記圧縮機本体の吸込口に接続された吸込流路と、
前記圧縮機本体の吐出口に接続された吐出流路とを備え、
前記吸込流路から前記吸込口を介して流体を吸い込み、該流体を前記圧縮空間で圧縮して、前記吐出口を介して前記吐出流路に吐出する圧縮機であって、
前記ケーシングと前記ロータ軸の間に配設され、前記ロータ軸に周設された回転環と、前記ロータ軸と略垂直な前記回転環の垂直端面に当接可能となるように弾性部材を介して前記ケーシングに設けられた静止環とを有するドライガスシールと、
前記吐出流路と一端が接続されるとともに前記ドライガスシールの回転環の外周面と前記ケーシングの間の空間と連通するように他端が接続され、シールガス調整弁が介設されたシールガス流路と、
前記回転環の下方の前記ケーシングに形成された貫通孔を介して前記空間と連通するように一端が接続され、他端が前記吸込流路に接続されたドレンガス流路と
を備えることを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
前記ドレンガス流路にオリフィスが介設されたことを特徴とする請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記ドレンガス流路に流量調整弁が介設されたことを特徴とする請求項1に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記吸込流路と一端が接続され逆止弁を介して前記シールガス流路に他端が接続された緊急流路を備えることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記緊急流路に遮断弁を設けたことを特徴とする請求項4に記載の圧縮機。
【請求項6】
前記シールガス流路にシールガスを供給するシールガス供給源を接続したことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−107609(P2012−107609A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159087(P2011−159087)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】