説明

圧縮機

【課題】ケーシング内で吐出ガスから潤滑油を分離することが可能な圧縮機であって、この分離後の潤滑油が吐出ガスとともにケーシングの外側へ流出されるのを抑制して、ケーシング内での油保有量の低下による圧縮機構の潤滑不良を低減する。
【解決手段】ケーシング(10)における上部空間(S1)側の内面に上流側ガイド部(2a)と案内部材(2b,2c)下流側ガイド部(2b)と突出板(2c)とを取り付ける。この下流側ガイド部(2b)及び突出板(2c)は、上流側ガイド部(2a)から流出した後でケーシング(10)の内面に沿って周方向へ旋回する吐出流体から分離した潤滑油を第2流路(5b)の流出口に対向する対向面(9b)の反対側の案内面(9a)によって第1流路(5a)へ導くように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーシング内で圧縮機構の吐出ガスから潤滑油を分離可能な圧縮機に関し、特にケーシング内における油上がりを防止する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、互いに駆動軸で連結された状態の圧縮機構及び電動機を収容するケーシングを備えた全密閉型の圧縮機が知られている。そして、これらの圧縮機の中には、特許文献1に示すように、ケーシング内で圧縮機構の吐出ガスから潤滑油を分離することが可能なものが開示されている。
【0003】
特許文献1の圧縮機では、圧縮機構の下側に電動機が位置し、圧縮機構及び電動機の間にガス案内通路枠が配置されている。このガス案内通路枠は、ケーシングの内周壁に取り付けられている。このガス案内通路枠へ向けて上記圧縮機構から下向きに吐出ガスが吐出される。このガス案内通路枠へ流入した吐出ガスは、その一部がケーシングの周方向へ案内されて、残りが軸方向下向きへ案内される。
【0004】
上記ガス案内通路枠で周方向へ案内された吐出ガスは、ケーシングの内周壁に沿って旋回するように流れる。この旋回による遠心力で吐出ガスから潤滑油が分離される。この分離後の潤滑油は、ケーシングの内周壁を伝って流れ落ちた後、ケーシングの底部に形成された油貯留部に貯留される。
【0005】
一方、上記ガス案内通路枠で軸方向へ案内された吐出ガスは、上記電動機と上記ケーシングとの間に区画された複数の流体通路へ向かう。ここで、この複数の流体通路は往路と復路に分けられている。上記ガス案内通路枠で軸方向へ案内された吐出ガスは、この往路を下向きに流れ、該往路を通過する際に電動機を冷却する。そして、この往路を流出した吐出ガスは上記復路へ流入し、この復路を上向きに流れて該復路を通過する際に上記電動機を冷却する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−140779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、この復路から流出した吐出ガスは、上記ケーシングに設けられた吐出管へ向かって上向きに流れる。ここで、上記ケーシングの内周壁に沿う旋回流れで吐出ガスから分離した潤滑油のうち、油滴が比較的に大きいものは、上述したようにケーシングの内周壁を伝って流れ落ちる。
【0008】
しかしながら、油滴が比較的に小さいものは、この上向きの吐出ガスの流れに乗ってしまい、上記吐出管を通じてケーシングの外側へ排出されてしまう。こうなると、油貯留部へ戻る潤滑油の量が減り、該油貯留部の油面が下がってしまい、ケーシングの油貯留部の油量が減り、上記圧縮機構へ十分に潤滑油を供給できなくなる。これにより、圧縮機構の潤滑不良が生じるという問題がある。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ケーシング内で吐出ガスから潤滑油を分離することが可能な圧縮機であって、この分離後の潤滑油が吐出ガスとともにケーシングの外側へ流出されるのを抑制して、ケーシング内での油保有量の低下による圧縮機構の潤滑不良を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、圧縮機構(15)及び電動機(16)が収容されて、圧縮機構(15)及び電動機(16)の間に形成された上部空間(S1)と該電動機(16)を挟んで上部空間(S1)の反対側に形成された下部空間(S2)とを有する略円筒状のケーシング(10)と、上記電動機(16)の外面と上記ケーシング(10)の内面との間に区画されて、上記圧縮機構(15)の吐出流体を上記上部空間(S1)から上記下部空間(S2)へ導く第1流路(5a)と、上記電動機(16)の外面と上記ケーシング(10)の内面との間に区画されて、上記第1流路(5a)を通じて上記下部空間(S2)へ流入した吐出流体を上記上部空間(S1)へ戻す第2流路(5b)と、上記圧縮機構(15)が有する流体吐出口(49)へ開口する上流側流入口(71)と上記ケーシング(10)の内面に沿って周方向に開口する上流側流出口(72)とが形成された上流側ガイド部(2a)と、上記第2流路(5b)の流出口に対向する位置で上記ケーシング(10)における上部空間(S1)側の内面に取り付けられて、上記上流側ガイド部(2a)の上流側流出口(72)から流出した後で上記ケーシング(10)の内面に沿って周方向へ旋回する吐出流体から分離した潤滑油を上記第2流路(5b)の流出口に対向する対向面(9b)の反対側の案内面(9a)によって上記第1流路(5a)へ導く案内部材(2b,2c)とを備えていることを特徴としている。
【0011】
第1の発明では、上記圧縮機構(15)の潤滑油を含んだ状態で上記圧縮機構(15)から吐出された吐出流体が、上記上流側ガイド部(2a)を通過した後で上記ケーシング(10)の内面に沿って旋回する。このとき、この旋回により、吐出流体に作用する遠心力で該吐出流体から潤滑油が分離される。この潤滑油は上記ケーシング(10)の内面に沿って流れ落ちて上記案内部材(2b,2c)の案内面(9a)で受けられる。そして、この潤滑油は上記案内面(9a)に沿って上記第1流路(5a)へ導かれる。
【0012】
ここで、上記第2流路(5b)の流出口から上部空間(S1)へ流出した吐出流体は、上記案内部材(2b,2c)の対向面(9b)に衝突するため、この対向面(9b)の反対側の案内面(9a)を流れる潤滑油が、上記第2流路(5b)からの吐出流体の流れに乗ることがない。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、上記案内部材(2b,2c)は、下流側ガイド部(2b)と突出板(2c)とを有し、上記下流側ガイド部(2b)には、上記ケーシング(10)の内面に沿って周方向に開口する下流側流入口(73)と上記第1流路(5a)の流入口へ開口する下流側流出口(74)とが形成され、上記突出板(2c)は、上記ケーシング(10)の内面から突出して上記第2流路(5b)の流出口に対向し、上記上流側ガイド部(2a)の上流側流出口(72)から上記下流側ガイド部(2b)の下流側流入口(73)へ向かって上記ケーシング(10)の内面に沿って周方向へ湾曲状に延びる一方、上記突出板(2c)の下面(9b)が上記対向面(9b)となって上記突出板(2c)の上面(9a)が上記案内面(9a)となることを特徴としている。
【0014】
第2の発明では、上記上流側ガイド部(2a)によって、上記圧縮機構(15)の流体吐出口(49)から吐出された吐出流体を上記ケーシング(10)の内面に沿って周方向へ旋回させる強制流れが形成される。
【0015】
この強制流れにおいて、上記ケーシング(10)の内面に沿って吐出流体が旋回する際に、該吐出流体に遠心力が作用して該吐出流体から潤滑油が分離される。そして、この潤滑油は、該潤滑油が分離した後の吐出流体における強制流れの勢いに乗った状態で上記突出板(2c)の上面(9a)を流れる。このとき、吐出流体から分離した潤滑油のうち、油滴の大きいものに比べて小さいものの方が、この強制流れの勢いに乗りやすく、この流れの勢いに乗った状態で第1流路(5a)へ導かれる。
【0016】
又、上記第2流路(5b)から流出した流体の流れは、上記突出板(2c)の下面(9b)によって遮られる。これにより、上記案内部材(2b,2c)の上面(9a)を流れる潤滑油が、この第2流路(5b)の流体流れに乗ることがない。
【0017】
上記下流側ガイド部(2b)において、上記突出板(2c)の上面(9a)を吐出流体とともに流れる潤滑油が上記下流側流入口(73)から流入し、上記下流側流出口(74)から上記第1流路(5a)の流入口へ向かって流出する。
【0018】
第3の発明は、第1の発明において、上記第1流路(5a)は、上記圧縮機構(15)の吐出流体と共に上記圧縮機構(15)の摺動面を潤滑した後の潤滑油を上部空間(S1)から下部空間(S2)へ導くように構成され、上記案内部材(2b,2c)は、突出板(2c)を有し、上記突出板(2c)は、上記ケーシング(10)における上部空間(S1)側の内面から突出して上記第2流路(5b)の流出口に対向し、上記上流側ガイド部(2a)の上流側流出口(72)から上記油流路(5c)の流入口へ向かって上記ケーシング(10)の内面に沿って周方向へ延びる一方、上記突出板(2c)の下面(9b)が上記対向面(9b)となって上記突出板(2c)の上面(9a)が上記案内面(9a)となることを特徴としている。
【0019】
第3の発明では、上記上流側ガイド部(2a)において、上記圧縮機構(15)の吐出流体が上記上流側流入口(71)から流入し、上記上流側流出口(72)から上記ケーシング(10)の内面に沿って周方向へ水平に流出する。上記上流側ガイド部(2a)から水平に流出した吐出流体は、そのまま上記ケーシング(10)の内面に沿って周方向へ旋回するように流れる。
【0020】
この流体の旋回流れによって該吐出流体から潤滑油が分離する。ここで、この分離した潤滑油は、上記ケーシング(10)の内面に捕捉されるとともに該内面に沿って下側へ流れ落ちる。そして、上記ケーシング(10)を流れ落ちた潤滑油が上記突出板(2c)の上面(9a)で受けられ、該上面(9a)を伝って上記油流路(5c)へ流れ落ちる。
【0021】
ここで、吐出流体の流出方向(水平方向)と潤滑油の流れ方向(水平方向よりも下向き)とが一致していないので、吐出流体から分離した潤滑油は、該吐出流体の流れから遠ざかるように流れ落ちて上記突出板(2c)の上面(9a)で受けられる。このように、吐出流体から分離した潤滑油のみを上記油流路(5c)へ導くことができるようになる。
【0022】
第4の発明は、第2又は第3の発明において、上記突出板(2c)の突出方向先端部は、上記ケーシング(10)の下方から上方へ屈曲していることを特徴としている。
【0023】
第4の発明では、上記突出板(2c)の突出方向先端部を上方へ屈曲させることにより、該突出板(2c)の上面(9a)を流れる潤滑油が突出板(2c)から流れ落ちないようにしている。
【0024】
第5の発明は、第2又は第3の発明において、上記突出板(2c)の突出方向基端部は、上記ケーシング(10)の軸方向に沿って一端側から他端側へ屈曲した状態で上記ケーシング(10)の内面に接していることを特徴としている。
【0025】
第5の発明では、上記突出板(2c)の突出方向基端部を屈曲させることにより、上記突出板(2c)を屈曲させない場合に比べて、該突出板(2c)とケーシング(10)の内面との接触面を広くして、ケーシング(10)に突出板(2c)を取り付けやすくしている。
【0026】
第6の発明は、第2又は第3の発明において、上記突出板(2c)は、周方向断面が略U字状に形成され、上記突出板(2c)を構成するU字の両端部が上記ケーシング(10)の内面に接していることを特徴としている。
【0027】
第6の発明では、周方向断面が略U字状となるように上記突出板(2c)を形成し、この突出板(2c)をケーシング(10)の内面に取り付ける際には、上記突出板(2c)を構成するU字の両端がケーシング(10)の内面に接するようにする。
【0028】
これにより、上記突出板(2c)に係るU字の内面と上記ケーシング(10)の内面とで囲まれた流体通路が形成される。この流体通路内に上述した強制流れが形成される。この流体通路内を吐出流体が周方向へ旋回するように流れることにより、該流体通路内で吐出流体から潤滑油が分離される。この分離した潤滑油は、上記流体通路の底部へ流れ落ち、該潤滑油が分離した吐出流体の流れの勢いに乗って上記流体通路の底部を流れる。
【0029】
ここで、この流体通路は上記ケーシング(10)の上部空間(S1)から区画されるので、該流体通路を流れる潤滑油と上記第2流路(5b)から上部空間(S1)へ流出した吐出流体とが接触することがなく、この潤滑油が上記第2流路(5b)からの吐出流体の流れに乗ることがない。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、上記吐出流体から遠心力で分離して上記ケーシング(10)の内面に沿って流れ落ちる潤滑油を上記案内部材(2b,2c)の案内面(9a)で受け、この案内面(9a)によって該潤滑油を上記第1流路(5a)へ導くことができる。
【0031】
又、上記案内部材(2b,2c)が遮蔽板となって、上記第2流路(5b)から流出した吐出流体の流れを該案内部材(2b,2c)の対向面(9b)で部分的に遮る。このため、この対向面(9b)の反対側にある案内面(9a)を流れる潤滑油が、上記第2流路(5b)からの吐出流体の流れに乗ることがない。
【0032】
以上より、上記ケーシング(10)内で吐出流体から分離した潤滑油を、上記第2流路(5b)からの吐出流体の流れに乗せることなく、上記第1流路(5a)へ導くことができる。これにより、この潤滑油が吐出流体とともに搬送されるのを抑制することができ、ケーシング(10)内での油保有量の低下に起因する圧縮機構(15)の潤滑不良を低減することができる。
【0033】
また、上記第2の発明によれば、上記上部空間(S1)で吐出流体から分離した潤滑油を上記突出板(2c)の上面(9a)で受けながら上記第1流路(5a)へ導くことができる。又、上記突出板(2c)の下面(9b)で上記第2流路(5b)からの吐出流体の流れを遮ることができ、上記突出板(2c)の上面(9a)を流れる潤滑油を上記第2流路(5b)からの吐出流体の流れに乗せないようにすることができる。
【0034】
また、上記第3の発明によれば、上記突出板(2c)を周方向に沿って下向きに傾けることで、吐出流体から潤滑油を確実に分離することができる。そして、この分離した潤滑油を上記第2流路(5b)からの吐出流体の流れに乗せることなく、上記油流路(5c)へ直接的に導くことができる。
【0035】
また、上記第4の発明によれば、上記突出板(2c)の突出方向先端部を上方へ屈曲させることにより、該突出板(2c)の上面(9a)の潤滑油が突出板(2c)から流れ落ちるのを抑制することができる。そして、上記突出板(2c)から流れ落ちる潤滑油の量が減った分だけ、上記第2流路(5b)からの吐出流体の流れに乗ろうとする潤滑油の量を低減させることができる。
【0036】
また、上記第5の発明によれば、上記突出板(2c)の突出方向基端部を屈曲させて、該突出板(2c)とケーシング(10)の内面との接触面を広くすることにより、上記突出板(2c)を上記ケーシング(10)に取り付けやすくすることができる。
【0037】
また、上記第6の発明によれば、略U字状の周方向断面を有する突出板(2c)を利用して、このケーシング(10)の上部空間(S1)に流体通路を区画することができる。これにより、この流体通路を流れる潤滑油と上記第2流路(5b)から上部空間(S1)へ流出した吐出流体とが接触しなくなり、この潤滑油が上記第2流路(5b)からの吐出流体の流れに乗ってケーシング(10)の外側へ流出しないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、本実施形態に係る圧縮機の縦断面図である。
【図2】図2は、図1におけるII-II断面図である。
【図3】図3は、圧縮機における上流側ガイド部の斜視図である。
【図4】図4は、圧縮機における下流側ガイド部の斜視図である。
【図5】図5は、圧縮機における突出板の斜視図である。
【図6】図6は、圧縮機における油戻しガイド部の斜視図である。
【図7】図7は、実施形態に係る潤滑油及び吐出流体の流れを示した図である。
【図8】図8は、実施形態の変形例に係る潤滑油及び吐出流体の流れを示した図である。
【図9】図9は、その他の実施形態に係る突出板の斜視図であり、(a)はL字状のもの、(b)はU字状のものである。
【図10】図10は、その他の実施形態に係る突出板の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0040】
図1に示すように、本実施形態に係るスクロール圧縮機(以下、圧縮機という。)(1)は、冷媒ガスが循環して冷凍サイクル運転動作を行う冷媒回路に接続され、作動流体としての冷媒ガスを圧縮するものである。この圧縮機(1)は、ケーシング(10)と駆動モータ(電動機)(16)と圧縮機構(15)と下部軸受部(25)と駆動軸(17)とを備えている。
【0041】
〈ケーシング〉
このケーシング(10)は、両端を閉塞した縦長円筒状の密閉容器である。このケーシング(10)は、上下方向に延びる軸線を有する円筒状の胴部(11)と、その上端部に気密状に溶接されて一体接合され、上方に突出した凸面を有する椀状の上部鏡板(12)と、胴部(11)の下端部に気密状に溶接されて一体接合され、下方に突出した凸面を有する椀状の下部鏡板(13)とを備えている。
【0042】
上記ケーシング(10)の内部には、上述した圧縮機構(15)及び駆動モータ(16)が収容されている。上記圧縮機構(15)の下側に上記駆動モータ(16)が配置されている。この圧縮機構(15)と駆動モータ(16)とは、ケーシング(10)内を上下方向に延びるように配置された駆動軸(17)によって連結されている。
【0043】
又、このケーシング(10)の内部は、後述する低圧空間(29)及び高圧空間(28)に区画され、さらに高圧空間(28)は上部空間(S1)及び下部空間(S2)に区画されている。この上部空間(S1)は圧縮機構(15)及び駆動モータ(16)の間に位置し、下部空間(S2)は駆動モータ(16)の下側に位置している。又、ケーシング(10)の底部には、圧縮機構(15)の摺動部分を潤滑する潤滑油が貯留される油貯留部(21)が形成されている。
【0044】
上記ケーシング(10)の上部鏡板(12)には、冷媒回路の冷媒を圧縮機構(15)へ導く吸入管(19)が、また胴部(11)には、ケーシング(10)内の冷媒をケーシング(10)外に吐出させる吐出管(20)がそれぞれ気密状に嵌入されている。上記吸入管(19)は、上記上部鏡板(12)を上下方向に貫通すると共に、内端部が圧縮機構(15)の有する固定スクロール(24)に嵌入されている。又、この吐出管(20)は胴部(11)を貫通して上記ケーシング(10)の外側と内側とを連通している。この吐出管(20)は上記圧縮機構(15)と上記駆動モータ(16)との間に位置している。
【0045】
このケーシング(10)の内面には、上流側及び下流側のガイド部(2a,2b)と突出板(2c)とが取り付けられている。上流側及び下流側のガイド部(2a,2b)と突出板(2c)とについては、詳しく後述する。
【0046】
〈駆動モータ〉
上記駆動モータ(16)は、ケーシング(10)に固定された環状のステータ(51)と、このステータ(51)の内側に回転自在に構成されたロータ(52)とにより構成されている。ステータ(51)とロータ(52)との間には僅かに隙間(図示省略)が上下方向に延びるように形成されており、この隙間がエアギャップ通路である。ステータ(51)には巻線が装着されており、ステータ(51)よりも上方及び下方はコイルエンド(53)となっている。駆動モータ(16)は、上側のコイルエンド(53)の上端が後述するハウジング(23)の下端とほぼ同じ高さ位置になるように配置されている。
【0047】
上記ステータ(51)の外周面には、ステータ(51)の上端面から下端面に亘り且つ周方向に所定間隔をおいて複数のコアカット部が切欠形成されている。ステータ(51)の外周面にコアカット部が形成されることにより、胴部(11)とステータ(51)との間に上下方向に延びる複数の流体通路(5)が形成されている。そして、複数の流体通路(5)は、上記上部空間(S1)及び上記下部空間(S2)の間を連通している。又、複数の流体通路(5)は、冷却通路(5a,5b)と油戻り通路(5c)とを含んでいる。
【0048】
この冷却通路(5a,5b)は、第1冷却通路(第1流路)(5a)と第2冷却通路(第2流路)(5b)と第3冷却通路(5d)とで構成される。第1冷却通路(5a)は下流側ガイド部(2b)の下側に形成され、第3冷却通路(5d)は上流側ガイド部(2a)の下側に形成されている。
【0049】
〈圧縮機構〉
上記圧縮機構(15)は、ハウジング(23)と、該ハウジング(23)の上方に密着して配置される固定スクロール(24)と、該固定スクロール(24)に噛合する可動スクロール(26)とを備えている。ハウジング(23)はその外周面において周方向の全体に亘って胴部(11)に圧入固定されている。つまり、胴部(11)とハウジング(23)とは全周に亘って気密状に密着されている。そして、ケーシング(10)内がハウジング(23)下方の高圧空間(28)とハウジング(23)上方の低圧空間(29)とに区画されている。このハウジング(23)には、該ハウジング(23)の上面中央に凹設されたハウジング凹部(31)が設けられている。又、このハウジング(23)には、該ハウジング(23)の下端面とハウジング凹部(31)の底面とを貫通する貫通孔(33)が形成され、この貫通孔(33)の内周面が上部滑り軸受部(34b)を構成する。
【0050】
又、上記ハウジング(23)の上端面には、上記固定スクロール(24)の下端面が密着されている。そして、上記固定スクロール(24)は、ボルト(38)によってハウジング(23)に締結固定されている。
【0051】
上記固定スクロール(24)は、鏡板(24a)と該鏡板(24a)の端面に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ(24b)とを有している。上記可動スクロール(26)は、鏡板(26a)と該鏡板(26a)の端面に形成された渦巻き状(インボリュート状)のラップ(26b)とを有している。又、この可動スクロール(26)の鏡板(26a)の端面から突出するようにボス部(27)が設けられている。このボス部(27)の内周面がピン滑り軸受部(34a)を構成する。
【0052】
上記可動スクロール(26)は、オルダムリング(39)を介してハウジング(23)に支持されると共に後述する駆動軸(17)の上端がボス部(27)に嵌入され、この駆動軸(17)の回転により自転することなくハウジング(23)内を公転するようになっている。そして、固定スクロール(24)のラップ(24b)と可動スクロール(26)のラップ(26b)とが互いに噛合しており、このことにより固定スクロール(24)と可動スクロール(26)との間において、両ラップ(24b,26b)の接触部の間が圧縮室(40)として構成されている。この圧縮室(40)は、可動スクロール(26)の公転に伴い、両ラップ(24b,26b)間の容積が中心に向かって収縮することで冷媒を圧縮するように構成されている。
【0053】
上記固定スクロール(24)の鏡板(24a)には、上記圧縮室(40)に連通する吐出通路(41)と、該吐出通路(41)に連続する拡大凹部(42)とが形成されている。吐出通路(41)は、固定スクロール(24)の鏡板(24a)における中央において上下方向に延びるように形成されている。拡大凹部(42)は、鏡板(24a)の端面に凹設された水平方向に広がる凹部により構成されている。固定スクロール(24)の端面には、この拡大凹部(42)を塞ぐように蓋体(44)がボルト(44a)により締結固定されている。そして、拡大凹部(42)に蓋体(44)が覆い被せられることで圧縮機構(15)の運転音を消音させる膨張室からなるマフラー空間(45)が形成されている。固定スクロール(24)と蓋体(44)とは、図示省略するパッキンを介して密着させることでシールされている。
【0054】
上記圧縮機構(15)には、固定スクロール(24)とハウジング(23)とに亘り、連絡通路(46)が形成されている。この連絡通路(46)は、固定スクロール(24)に形成されたスクロール側通路(47)と、ハウジング(23)に形成されたハウジング側通路(48)とが連通されて構成されている。そして、連絡通路(46)の上端、即ちスクロール側通路(47)の上端は拡大凹部(42)に開口し、連絡通路(46)の下端、即ちハウジング側通路(48)の下端はハウジング(23)の下端面に開口している。つまり、このハウジング側通路(48)の下端開口により、連絡通路(46)の冷媒を高圧空間(28)へ流出させる吐出口(49)が構成されている。
【0055】
〈下部軸受部〉
上記下部軸受部(25)は、上記駆動モータ(16)の下側に位置するように上記ケーシング(10)の内周面に固定されている。この下部軸受部(25)の中央部には、上下方向に貫通する貫通孔が形成されている。この貫通孔の内周面が下部滑り軸受部(34c)を構成する。
【0056】
〈駆動軸〉
上記駆動軸(17)は、上記圧縮機構(15)と上記駆動モータ(16)とを連結して該駆動モータ(16)の駆動力を上記圧縮機構(15)へ伝達するものである。上記駆動軸(17)は、主軸部(22a)と該主軸部(22a)の上側に偏心部(22b)とを有している。上記偏心部(22b)は、主軸部(22a)の最大径よりも小径に形成され、該偏心部(22b)の軸心は主軸部(22a)の軸心に対して所定距離だけ偏心している。
【0057】
上記主軸部(22a)の中間部分は上記駆動モータ(16)におけるロータ(52)の中空部に内嵌して固定されている。そして、上記主軸部(22a)の上端部分が上記ハウジング(23)の上部滑り軸受部(34b)に回転自在に支持され、上記主軸部(22a)の下端部分が上記下部軸受部(25)の下部滑り軸受部(34c)に回転自在に支持されている。又、上記偏心部(22b)は、上記可動スクロール(26)のピン滑り軸受部(34a)に回転自在に支持されている。
【0058】
又、上記駆動軸(17)の下端部にはオイルポンプ(60)が取り付けられている。このオイルポンプ(60)は、上記ケーシング(10)の油貯留部(21)に浸漬している。このオイルポンプ(60)から汲み上げられた油貯留部(21)の潤滑油は、上記駆動軸(17)の内部に形成された給油路(61)を通じて上記圧縮機構(15)の摺動部分へ供給される。
【0059】
〈油戻しガイド部〉
図2に示すように、上記ケーシング(10)における上部空間(S1)側の内面には油戻しガイド部(3)が取り付けられている。この油戻しガイド部(3)は、図6に示すように、油戻しガイド部本体(8a)を備えている。
【0060】
油戻しガイド部本体(8a)は、横断面が円弧状で且つ上下方向に直線状に延びる油戻し曲板(8b)と、該油戻し曲板(8b)の上端に接続され且つ上側ほど内周側に向かって張り出すように形成された油戻し膨出部(8c)と、油戻し曲板(8b)及び油戻し膨出部(8c)の両側端において外周側に向かって立設された油戻し側壁部(8d)とを備えている。
【0061】
尚、油戻し曲板(8b)の上端に係る開口部が油流入口(8e)を構成する。この油流入口(8e)は、上記ハウジング(23)に形成された油排出口(図示無し)に開口している。上記ピン滑り軸受部(34a)及び上記上部滑り軸受部(34b)の摺動面を潤滑した後の潤滑油が上記油排出口から上記油流入口(8e)へ向かって流れる。又、上記油戻し曲板(8b)の下端に係る開口部が油流出口(8f)を構成する。この油流出口(8f)は、上記油戻り通路(5c)の流入口へ向かって開口している。上記油戻しガイド部(3)に流入した潤滑油は、該油戻しガイド部(3)の油流出口(8f)から流出した後で、上記油戻り通路(5c)へ流入して該油戻り通路(5c)を通過した後に、上記油貯留部(21)へ戻る。
【0062】
〈上流側ガイド部〉
上記上流側ガイド部(2a)は、図1及び図2に示すように、上記ケーシング(10)の内面に取り付けられている。この上流側ガイド部(2a)は、図3に示すように、上流側ガイド部本体(6a)と、該上流側ガイド部本体(6a)の両端に配設された翼部(6b)とを備えている。
【0063】
上流側ガイド部本体(6a)は、横断面が円弧状で且つ上下方向に直線状に延びる上流側曲板(6c)と、該上流側曲板(6c)の上端に接続され且つ上側ほど内周側に向かって張り出すように形成された膨出部(6d)と、上流側曲板(6c)及び膨出部(6d)の両側端において外周側に向かって立設された上流側側壁部(6e)とを備えている。
【0064】
尚、上流側曲板(6c)の上端に係る開口部が上流側流入口(71)を構成する。この上流側流入口(71)は、上記圧縮機構(15)の吐出口(49)へ向かって開口している。又、上流側曲板(6c)の下端に係る開口部が冷媒流出口(75)を構成する。この冷媒流出口(75)は、上記第3冷却通路(5d)の流入口へ向かって開口している。
【0065】
この上流側曲板(6c)は、駆動モータ(16)のステータ(51)の外側に配設されるようになっている。膨出部(6d)は、連絡通路(46)の吐出口(49)よりも内側に位置するように張り出し量が調整されている。
【0066】
上記翼部(6b)は、上流側ガイド部本体(6a)の上流側側壁部(6e)における外周側の端部に接合されていて、横断面が円弧状で且つ上下方向に直線状に延びるように形成されている。この翼部(6b)は、胴部(11)の内面に対応した径に形成されている。
【0067】
上記上流側ガイド部(2a)には、翼部(6b)と上流側ガイド部本体(6a)の上流側側壁部(6e)とに亘り、上記第1冷却通路(5a)へ向かって流れる冷媒の一部をケーシング(10)の内面に沿って周方向へ分流させる分流手段としての分流部(6f)が形成されている。この分流部(6f)は、翼部(6b)の一方の側端から上流側ガイド部本体(6a)の上流側曲板(6c)に接合された上流側側壁部(6e)に亘って連続して設けられている。尚、この分流部(6f)の端部に係る開口部が上流側流出口(72)を構成する。この上流側流出口(72)は、ケーシング(10)の内面に沿って周方向へ開口している。
【0068】
また、上記上流側ガイド部(2a)には、上流側ガイド部本体(6a)の上流側曲板(6c)における下端において外周側に向かって張り出した折返し部(6g)が設けられている。この折返し部(6g)はその先端が両翼部(6b)よりも内周側に位置するように形成されており、分流部(6f)への分流量が所定割合に調整されるように折返し部(6g)の張り出し量が調整されている。
【0069】
〈下流側ガイド部〉
上記下流側ガイド部(2b)は、図2に示すように、上記ケーシング(10)における上部空間(S1)側の内面に取り付けられている。上記下流側ガイド部(2b)は、図4に示すように、下流側ガイド部本体(7a)を備えている。上記下流側ガイド部本体(7a)は、横断面が円弧状で且つL字状の下流側曲板(7b)と該下流側曲板(7b)の両端側において外周側に向かって立設された下流側側壁部(7c)とを備えている。
【0070】
尚、この下流側曲板(7b)は、該下流側曲板(7b)を構成するL字の一辺が屈曲部から下方向へ延び、他辺が屈曲部から略水平方向へ延びる姿勢で取り付けられている。そして、下流側曲板(7b)の一端部(L字の一辺側の端部)が下流側流出口(74)を構成し、下流側曲板(7b)の他端部(L字の他辺側の端部)が下流側流入口(73)を構成する。
【0071】
ここで、上記上流側ガイド部(2a)の上流側流出口(72)と上記下流側ガイド部(2b)の下流側流入口(73)とは、ケーシング(10)の周方向で互いに向き合っている。又、上記下流側ガイド部(2b)の下流側流出口(74)は、上記第1冷却通路(5a)の流入口へ向かって開口している。
【0072】
〈突出板〉
上記突出板(2c)は、図1及び図2に示すように、上記ケーシング(10)における上部空間(S1)側の内面に取り付けられている。上記ケーシング(10)の内面に沿って周方向へ湾曲状に延び且つ周方向断面がL字状に形成されている。この突出板(2c)は、この突出板(2c)を構成するL字の一辺の端部が上記ケーシング(10)の内面に接し且つL字の他辺が屈曲部から上方向へ向かう姿勢で固定されている。
【0073】
又、この突出板(2c)は、その周方向の一端部が上記上流側ガイド部(2a)の上流側流出口(72)近傍に位置し、他端部が上記下流側ガイド部(2b)の下流側流入口(73)近傍に位置している。
【0074】
具体的には、上記突出板(2c)における周方向一端部の上面(9a)は、上流側流出口(72)の開口下端辺の近傍に位置し、上記突出板(2c)における周方向他端部の上面(9a)は、上記下流側流入口(73)の開口下端辺の近傍に位置している。又、上記突出板(2c)の下面(9b)が、上記ステータ(51)の第2冷却通路(5b)の流出口に対向している。
【0075】
−運転動作−
次に、この圧縮機(1)の運転動作について説明する。
【0076】
まず、駆動モータ(16)を駆動すると、ステータ(51)に対してロータ(52)とともに駆動軸(17)が回転する。駆動軸(17)が回転すると、可動スクロール(26)が固定スクロール(24)に対して自転せずに公転のみ行う。このことにより、低圧の冷媒が吸入管(19)を通して圧縮室(40)の周縁側から該圧縮室(40)に吸引され、この冷媒は圧縮室(40)の容積変化に伴って圧縮される。
【0077】
そして、この圧縮された冷媒は高圧の吐出冷媒となって圧縮室(40)の中央部から吐出通路(41)を通してマフラー空間(45)へと吐出される。このとき、圧縮機構(15)を潤滑した後の潤滑油の一部が冷媒とともに吐出される。
【0078】
この潤滑油を含む吐出冷媒は、マフラー空間(45)から連絡通路(46)へ流入し、スクロール側通路(47)及びハウジング側通路(48)を流通して、吐出口(49)から流出する。
【0079】
図7に示すように、上記吐出口(49)からの吐出冷媒は、上記上流側ガイド部(2a)の上流側流入口(71)を通じて上記上流側ガイド部(2a)へ流入する。この吐出冷媒は、上記上流側ガイド部(2a)内で分流し、一方が上記上流側ガイド部(2a)の冷媒流出口(75)から上流側ガイド部(2a)側の第3冷却通路(5d)の流入口へ向かって軸方向下向きに流出し、他方が上記上流側ガイド部(2a)の上流側流出口(72)からケーシング(10)の内面に沿って周方向へ吐出される。
【0080】
ここで、上記上流側ガイド部(2a)の冷媒流出口(75)から上記第3冷却通路(5d)へ流入した吐出流体は、上記駆動モータ(16)におけるステータ(51)の外面を冷却しながら上記第3冷却通路(5d)を通過した後で上記ケーシング(10)の下部空間(S2)へ流入する。
【0081】
一方、上記上流側ガイド部(2a)の上流側流出口(72)から上記ケーシング(10)の内面に沿って周方向へ流出した吐出流体は、そのまま該内面に沿って旋回するように流れる。この旋回流れによって生じる遠心力によって該吐出流体から潤滑油が分離する。この潤滑油は、該潤滑油が分離した後の吐出流体における旋回流れの勢いに乗った状態で上記突出板(2c)の上面(9a)を流れる。そして、この潤滑油は吐出流体とともに上記下流側ガイド部(2b)の下流側流入口(73)から該下流側ガイド部(2b)へ流入する。
【0082】
上記下流側ガイド部(2b)へ流入した潤滑油及び吐出流体は、該下流側ガイド部(2b)の下流側流出口(74)から軸方向下向きへ流出して第1冷却通路(5a)へ流入する。この潤滑油及び吐出流体は、上記駆動モータ(16)におけるステータ(51)の外面を冷却しながら第1冷却通路(5a)を通過した後で上記ケーシング(10)の下部空間(S2)へ流入する。
【0083】
このようにして、第1冷却通路(5a)及び第3冷却通路(5d)を通じて、上記ケーシング(10)の上部空間(S1)から下部空間(S2)へ流入した潤滑油及び吐出流体のうち、潤滑油は上記ケーシング(10)の内面を伝って油貯留部(21)へ戻る。一方、上記下部空間(S2)の吐出流体は、上記駆動モータ(16)におけるステータ(51)の外面を冷却しながら上記第2冷却通路(5b)を下側から上側へ流れた後で上記上部空間(S1)へ流入する。
【0084】
この上部空間(S1)へ流入した吐出流体は、上記突出板(2c)の下面(9b)に衝突した後で該下面(9b)の内周側を通過して上記吐出管(20)から上記ケーシング(10)の外側へ流出する。ここで、上記吐出流体は、上記突出板(2c)の下面(9b)に衝突するため、該突出板(2c)の上面(9a)付近は、この吐出流体の流れの影響を受けにくい。そして、上述したように、この上面(9a)を潤滑油が流れるので、該潤滑油が上記第2冷却通路(5b)から流出した吐出流体の流れに乗ることがない。
【0085】
−実施形態の効果−
本実施形態によれば、上記上流側ガイド部(2a)により、上記圧縮機構(15)の流体吐出口(49)から吐出された吐出流体が上記ケーシング(10)の内面に沿って旋回する強制流れを形成することができる。この強制流れにおいて、吐出流体に遠心力が作用して該吐出流体から潤滑油を分離することができる。
【0086】
この潤滑油は、ケーシング(10)の内面を伝って流れ落ちて上記突出板(2c)の上面(9a)で受けられ、該潤滑油が分離した後の吐出流体における強制流れの勢いに乗って、吐出流体とともに上記下流側ガイド部(2b)へ流入する。そして、これらの潤滑油と吐出流体が上記第1冷却通路(5a)へ導かれる。
【0087】
ここで、上記突出板(2c)の下面(9b)で上記第2冷却通路(5b)からの吐出流体の流れの一部を遮ることができ、上記突出板(2c)の上面(9a)を流れる潤滑油が上記第2冷却通路(5b)からの吐出流体の流れに乗ることなく、上記第1冷却通路(5a)へ導くことができる。これにより、この潤滑油が上記第2冷却通路(5b)からの吐出流体とともに搬送されるのを抑制することができ、ケーシング(10)内での油保有量の低下に起因する圧縮機構(15)の潤滑不良を低減することができる。
【0088】
又、本実施形態によれば、上記突出板(2c)の突出方向先端部を上方へ屈曲させて、該突出板(2c)を周方向断面をL字状に形成することにより、該突出板(2c)の上面(9a)を流れる潤滑油が突出板(2c)から流れ落ちるのを抑制することができる。そして、上記突出板(2c)から流れ落ちる潤滑油の量が減った分だけ、上記第2冷却通路(5b)からの吐出流体の流れに乗ろうとする潤滑油の量を低減させることができる。
【0089】
−実施形態の変形例−
図8に示す実施形態の変形例は、上記実施形態とは違い、上記下流側ガイド部(2b)が設けられていない。又、上記突出板(2c)の取付位置が、上記実施形態のものと異なっている。以下、上記実施形態と異なる点のみを説明する。
【0090】
図8からわかるように、上記突出板(2c)における周方向の他端部が、上記油戻しガイド部(3)と上記油戻り通路(5c)との間まで延びている。又、上記突出板(2c)において、その周方向の一端部から他端部へ向かって下向きに傾斜している。
【0091】
この変形例では、上記上流側ガイド部(2a)の上流側流出口(72)から水平方向へ吐出流体が流出する。この吐出流体は、上記ケーシング(10)の内面に沿って周方向へ旋回する。そして、この旋回流れによって吐出流体から分離した潤滑油は、上記突出板(2c)の上面(9a)を伝って下向きへ流れる。このように、吐出流体の流出方向(水平方向)と潤滑油の流れ方向(水平方向よりも下向き)とを異ならせることにより、吐出流体の流れから下向きへ遠ざかるように上記突出板(2c)の上面(9a)へ潤滑油が流れ落ちる。これにより、吐出流体から分離した潤滑油のみを上記油戻り通路(5c)へ導くことができる。
【0092】
尚、上記上流側ガイド部(2a)から吐出された吐出流体は、上記突出板(2c)の下方向への傾きによって、該突出板(2c)に沿って下向きに広がる。そして、この突出板(2c)付近を流れる吐出流体の流れに乗って該突出板(2c)の上面(9a)を潤滑油が流れる。
【0093】
このようにして、上記油戻り通路(5c)へ導かれた潤滑油は、上記油戻しガイド部(3)から流出する潤滑油と合流した後で、上記油戻り通路(5c)を通過して上記油貯留部(21)へ戻る。この場合でも、上記実施形態と同様に、上記突出板(2c)の上面(9a)を潤滑油が流れるので、上記第2冷却通路(5b)からの吐出流体の流れに乗せることなく、上記油貯留部(21)へ導くことができる。
【0094】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0095】
上記実施形態では、図9(a)に示すように、上記突出板(2c)において、この突出板(2c)を構成するL字の一辺の端部が上記ケーシング(10)の内面に接し且つL字の他辺が屈曲部から上方向へ向かう姿勢で固定されていたが、これに限定されず、L字の他辺の外面を上記ケーシング(10)の内面に接するようにしてL字の一辺の端部をケーシング(10)の中心部へ向ける姿勢で固定してもよい。これにより、上記実施形態の場合に比べて、上記突出板(2c)とケーシング(10)の内面との接触面を広くすることができ、上記突出板(2c)を上記ケーシング(10)に取り付けやすくすることができる。
【0096】
この場合において、図10に示すように、上記突出板(2c)に係るL字の一辺を基端側から先端側へ上向きに傾けてもよい。これにより、上記突出板(2c)の上面(9a)を流れる潤滑油が、該突出板(2c)の先端側から流れ落ちるのを抑制することができる。
【0097】
又、上記実施形態では、上記突出板(2c)が周方向断面がL字状に形成されていたが、これに限定されず、略U字状に形成されていてもよい。この場合には、図9(b)に示すように、上記突出板(2c)を、該突出板(2c)に係るU字の両端部が上記ケーシング(10)の内面に接するように固定する。
【0098】
これにより、上記突出板(2c)に係るU字の内面と上記ケーシング(10)の内面とで囲まれた流体通路が形成される。つまり、このケーシング(10)の上部空間(S1)に流体通路を区画することができる。上記上流側ガイド部(2a)から上記下流側ガイド部(2b)へ向かう吐出流体が、この流体通路内を周方向へ流れることにより、該流体通路内で吐出流体から潤滑油が分離される。この潤滑油は、該潤滑油が分離した後の吐出流体の流れに乗って上記流体通路の底部を流れ、上記下流側ガイド部(2b)へ流入する。
【0099】
この流体通路は上記ケーシング(10)の上部空間(S1)から区画されるので、該流体通路を流れる潤滑油と上記第2冷却通路(5b)から上部空間(S1)へ流出した吐出流体とが接触することがなくなる。これにより、この潤滑油が上記第2冷却通路(5b)からの吐出流体の流れに乗ることを確実に抑制することができる。
【0100】
上記実施形態や上記実施形態の変形例では、上記突出板(2c)を吐出流体の流れ方向へ向かって下向きへ傾斜させていたが、これに限定される必要はなく、上記突出板(2c)を水平に取り付けてもよい。この場合でも、本発明と同様の効果を得ることができる。
【0101】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0102】
以上説明したように、本発明は、ケーシング内で圧縮機構の吐出ガスから潤滑油を分離可能な圧縮機について有用である。
【符号の説明】
【0103】
1 スクロール圧縮機
2a 上流側ガイド部
2b 下流側ガイド部(案内部材)
2c 突出板(案内部材)
3 油戻しガイド部
10 ケーシング
15 圧縮機構
16 駆動モータ(電動機)
17 駆動軸
21 油貯留部
24 固定スクロール
23 ハウジング
25 下部軸受部
26 可動スクロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機構(15)及び電動機(16)が収容されて、圧縮機構(15)及び電動機(16)の間に形成された上部空間(S1)と該電動機(16)を挟んで上部空間(S1)の反対側に形成された下部空間(S2)とを有する略円筒状のケーシング(10)と、
上記電動機(16)の外面と上記ケーシング(10)の内面との間に区画されて、上記圧縮機構(15)の吐出流体を上記上部空間(S1)から上記下部空間(S2)へ導く第1流路(5a)と、
上記電動機(16)の外面と上記ケーシング(10)の内面との間に区画されて、上記第1流路(5a)を通じて上記下部空間(S2)へ流入した吐出流体を上記上部空間(S1)へ戻す第2流路(5b)と、
上記圧縮機構(15)が有する流体吐出口(49)へ開口する上流側流入口(71)と上記ケーシング(10)の内面に沿って周方向に開口する上流側流出口(72)とが形成された上流側ガイド部(2a)と、
上記第2流路(5b)の流出口に対向する位置で上記ケーシング(10)における上部空間(S1)側の内面に取り付けられて、上記上流側ガイド部(2a)の上流側流出口(72)から流出した後で上記ケーシング(10)の内面に沿って周方向へ旋回する吐出流体から分離した潤滑油を上記第2流路(5b)の流出口に対向する対向面(9b)の反対側の案内面(9a)によって上記第1流路(5a)へ導く案内部材(2b,2c)と、
を備えていることを特徴とする圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、
上記案内部材(2b,2c)は、下流側ガイド部(2b)と突出板(2c)とを有し、
上記下流側ガイド部(2b)には、上記ケーシング(10)の内面に沿って周方向に開口する下流側流入口(73)と上記第1流路(5a)の流入口へ開口する下流側流出口(74)とが形成され、
上記突出板(2c)は、上記ケーシング(10)の内面から突出して上記第2流路(5b)の流出口に対向し、上記上流側ガイド部(2a)の上流側流出口(72)から上記下流側ガイド部(2b)の下流側流入口(73)へ向かって上記ケーシング(10)の内面に沿って周方向へ湾曲状に延びる一方、
上記突出板(2c)の下面(9b)が上記対向面(9b)となって上記突出板(2c)の上面(9a)が上記案内面(9a)となることを特徴とする圧縮機。
【請求項3】
請求項1において、
上記第1流路(5a)は、上記圧縮機構(15)の吐出流体と共に上記圧縮機構(15)の摺動面を潤滑した後の潤滑油を上部空間(S1)から下部空間(S2)へ導くように構成され、
上記案内部材(2b,2c)は、突出板(2c)を有し、
上記突出板(2c)は、上記ケーシング(10)における上部空間(S1)側の内面から突出して上記第2流路(5b)の流出口に対向し、上記上流側ガイド部(2a)の上流側流出口(72)から上記油流路(5c)の流入口へ向かって上記ケーシング(10)の内面に沿って周方向へ延びる一方、
上記突出板(2c)の下面(9b)が上記対向面(9b)となって上記突出板(2c)の上面(9a)が上記案内面(9a)となることを特徴とする圧縮機。
【請求項4】
請求項2又は3において、
上記突出板(2c)の突出方向先端部は、上記ケーシング(10)の下方から上方へ屈曲していることを特徴とする圧縮機。
【請求項5】
請求項2又は3において、
上記突出板(2c)の突出方向基端部は、上記ケーシング(10)の軸方向に沿って一端側から他端側へ屈曲した状態で上記ケーシング(10)の内面に接していることを特徴とする圧縮機。
【請求項6】
請求項2又は3において、
上記突出板(2c)は、周方向断面が略U字状に形成され、
上記突出板(2c)を構成するU字の両端部が上記ケーシング(10)の内面に接していることを特徴とする圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−60937(P2013−60937A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201715(P2011−201715)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】