説明

圧電アクチュエータ、これを用いた液滴吐出ヘッド、及び圧電アクチュエータの製造方法

【課題】積層する圧電層の枚数を減らすことで製造コストが抑えられた圧電アクチュエータを提供する。
【解決手段】駆動側端子電極27と配線部材4の電極用端子28とをその間にハンダを介在させた状態で互いに接合する圧電アクチュエータ1は、複数の内部電極を有した圧電層が積層されてなり、その最上圧電層19に表層スルーホール29を列方向に沿って略一列に配設し、駆動側端子電極27と電極用端子28とが接続されたときに、表面個別電極20のうち、余剰のハンダが長手方向に沿って広がる領域を部分的に厚肉部37とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電アクチュエータ、これを用いた液滴吐出ヘッド、及び圧電アクチュエータの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液滴吐出ヘッドの一例として、インクタンクから供給されるインクを移送して、ノズルから記録用紙等に向けてインク液滴を噴射するインクジェット記録ヘッドが既に知られている。このインクジェット方式は、噴射エネルギーの発生方法の違いにより分類されており、圧電素子の振動力を利用してインク液滴を噴射させる圧電方式や、熱エネルギーによる気泡の発生でインク液滴を噴射させるサーマルジェット方式などが存在する。
【0003】
例えば、特許文献1に開示された圧電方式のインクジェット記録ヘッドは、インク供給口に繋がる共通液室から複数のノズル孔までのインク流路中に各ノズルに夫々対応する複数の圧力室が設けられたキャビティユニットと、このキャビティユニットに接合されて圧力室の容積を選択的に変化させて、圧力室内のインクに吐出圧力を付与する圧電アクチュエータとを備えている。同圧電アクチュエータは、複数の圧電層の間に共通電極と複数の個別電極とが交互に介設されており、当該共通電極及び当該個別電極を外部機器に電気的接続させるため配線部材に接合される。
【特許文献1】特開2005−322850号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の圧電アクチュエータは、ボトム層の上面に、個別電極が形成された圧電層、共通電極が形成された圧電層が交互に6層積層され、更に中継用電極が形成された調整層(拘束層)、トップ層が積層されて9層構造となっている。このような圧電アクチュエータの製造コストを抑えるために、圧電シートの枚数を少なくすることが考えられるが、吐出圧力を付与するために必要な圧電層や、キャビティユニットに重ねて圧力室を形成するボトム層、および配線部材との接合するための表面電極が設けられたトップ層をなくすことができないため、トップ層の裏面に積層された上記調整層をなくして8層構造とすることが考えられる。一方、配線部材の信号線が繋がる複数の駆動側端子電極(特許文献1の個別用電極接続用のバンプ電極)は、限られた配線スペースの中に多数の駆動側端子電極を高密度に設け、各端子電極間を通る配線をそれぞれの端子電極から引き出さなければならないため、複数の端子電極は千鳥状に配置することで各端子電極間の距離を広くし、配線形成可能としている。従って、それに対応して接続する図6に示す最上圧電層(トップ層)の表面個別電極55上に形成された個別用電極用端子50(特許文献1の個別電極用の接合端子)も列方向に沿って千鳥状に配置されている。また、個別用電極用端子50の直下に位置して表層スルーホール51が配置され、圧電層の個別電極と導通している。 また、調整層の裏面に積層された圧電層には、個別電極用スルーホール52が列方向に沿って一列に配置されている。つまり、上記調整層の役割は、千鳥状に配置された表層スルーホール51のうちの一方の列側の表層スルーホール51Aを、他方の表層スルーホール51Bの列側、すなわち個別電極用スルーホール52の列側まで当該調整層の上面に形成された中継用電極53で中継することである。
【0005】
従って、調整層をなくすためには、例えば、図6の仮想線に示すように表層スルーホール54を列方向に沿って一列に配置して、電極用端子50と表層スルーホール54とを表面個別電極55で導通させることが考えられる。しかし、ハンダ等で駆動側端子電極と電極用端子50を接合した際に、駆動側端子電極と電極用端子50の間に介在した状態のハンダが、その間からはみ出して表面個別電極55上に広がることがある。表面個別電極55は、導電性材料として一般的な銀系の材料で形成されているため、その広がったハンダの融解作用により、表面個別電極55の銀がハンダ内に拡散する所謂銀食われで断線56が生じるという問題がある。そのため表面個別電極55上の電極用端子50の直下にスルーホールを配置することで表面個別電極55を保護し導通可能にせしめている。そのため、スルーホール位置を千鳥状に配列された電極用端子50の直下に配置させることは必須であり、前述した調整層が必要不可欠となり、上記圧電アクチュエータを8層構造にして製造コストを抑えるとことができなかった。
【0006】
そこで本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、積層する枚数を減らすことで製造コストが抑えられた圧電アクチュエータ、これを使用した液滴吐出ヘッド、及び圧電アクチュエータの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は次の技術的手段を講じた。
【0008】
すなわち本発明の圧電アクチュエータは、表側面に複数の表面個別電極が列状に設けられ、当該各表面個別電極に接続する複数の駆動側端子電極を有する配線部材と接合するための最上圧電層と、この最上圧電の裏面側で積層された複数の圧電層と、前記複数の圧電層間に配置された複数の内部電極と、を備え、前記各表面個別電極は、横列方向を長手方向とする細長形状に形成され、前記最上圧電層には、前記各表面個別電極に開口し且つ当該各表面個別電極と前記内部電極とを導通させるための複数の表層スルーホールが形成され、前記各表面個別電極の片端部には、前記複数の駆動側端子電極と導通させるための端子であって、当該各表面個別電極の長手方向の寸法よりも小さい電極用端子が形成され、これら複数の電極用端子は、列方向に沿って千鳥状配列を成して配置され、当該各駆動側端子電極と当該各電極用端子とを熱溶融性を有する導電性接合材を介在させた状態で互いに接合するための圧電アクチュエータであって、前記複数の表層スルーホールは、前記各表面個別電極の片端部に対応する位置で列方向に沿って略一列に配設され、前記各駆動側端子電極と前記各電極用端子とが接合されたときに、前記複数の表面個別電極のうち、前記各電極用端子が設けられた端部から余剰の前記導電性接合材が長手方向に沿って広がる領域が、部分的に厚肉部となっていることを特徴とする。
【0009】
上記本発明の圧電アクチュエータによれば、複数の表層スルーホールは列方向に沿って略一列に配設され、各駆動側端子電極と前記各電極用端子とがその間に導電性接合材を介在して接合されたときに、複数の表面個別電極のうち、前記間に導電性接合材が介在された状態で、その間から溢れ出る余剰の導電性接合材が、表面個別電極の長手方向に沿って広がる領域が、部分的に厚肉部となっているので、各電極用端子から表層スルーホールまでの断線が発生し難い。従って、最上圧電層の裏面に積層されるべき調整層をなくしても、千鳥状に配置された全ての電極用端子から内部電極へ表層スルーホールを通じて電気的接続を行うことができる。
【0010】
また、前記複数の圧電層は、一方の広幅面に前記内部電極となる内部個別電極を形成した複数の圧電層と、一方の広幅面に共通電極を形成した複数の圧電層とが交互に積層されてなり、前記各内部個別電極と前記各共通電極とが積層方向に重なる箇所が活性部とされ、前記各内部個別電極同士または前記各共通電極同士がそれぞれ積層方向にスルーホールにて導通させられており、前記最上圧電層の裏面側で隣接する第1圧電層における、当該最上圧電層と対向する広幅面に前記共通電極が形成され、前記第1圧電層の裏面側で隣接する第2圧電層における、当該第1圧電層と対向する広幅面に前記内部個別電極が形成され、前記第一圧電層には、前記各表層スルーホールに対応し且つ列方向に沿って略一列となる複数の内部個別電極用スルーホールが形成され、前記内部個別電極が、前記各内部個別電極用スルーホール及び前記各表層スルーホールを通じて前記各表面個別電極に導通されているものとすることができる。
【0011】
この場合、最上圧電層の裏面に、共通電極が形成された第一圧電層が積層され、この第一圧電層の裏面に、内部個別電極が形成された第二圧電層が積層された圧電アクチュエータとすることができる。
【0012】
また、列方向で隣り合う二つの前記表面個別電極のうちの一方に対応する表層スルーホールは前記電極用端子の直下に形成され、他方に対応する表層スルーホールは前記電極用端子と反対側の端部の直下に形成されているものとし、複数の表層スルーホールを列方向に沿って一列に配置すればよい。
【0013】
更に、前記厚肉部は、前記他方の表面個別電極のみに、前記電極用端子側から長手方向に延びて形成されていることが好ましい。
【0014】
この場合、厚肉部を形成するのは列方向で隣接する二つの表面個別電極のうち上記他方の表面個別電極だけでよく、当該厚肉部を設ける製造コストを抑えることができる。
【0015】
また、本発明の液滴吐出ヘッドは、列状に配置された複数のノズル、及び前記各ノズルに対応する複数列の圧力室を有するキャビティユニットと、各活性部が前記各圧力室に対応するように接合された圧電アクチュエータと、を備えたインクジェット記録ヘッドにおいて、前記圧電アクチュエータは、上記圧電アクチュエータであることを特徴とする。
【0016】
この場合、積層枚数が減らされた圧電アクチュエータを用いているので、インクジェット記録ヘッドの製造コストを抑えることができる。
【0017】
また、本発明の圧電アクチュエータの製造方法は、前記最上圧電層の前記複数の表面個別電極が、導電ペーストを塗布することで形成される、上記圧電アクチュエータの製造方法であって、前記導電ペーストを二度塗りすることで前記厚肉部を形成する工程を有することを特徴とする。この場合、簡単に厚肉部を形成することができる。
【発明の効果】
【0018】
上記の通り、本発明によれば、千鳥状に配置された全ての電極用端子から内部電極へ表層スルーホールを通じて電気的接続を行うことができるので、調整層をなくして積層枚数を減らし製造コストを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る圧電アクチュエータ1が使用された液滴吐出ヘッドとしての一例のインクジェット記録ヘッド2の分解斜視図である。インクジェット記録ヘッド2(液滴吐出ヘッド)は、それぞれ略矩形状の複数のプレートが積層されたキャビティユニット3と、このキャビティユニット3に接合された圧電アクチュエータ1とで主構成されている。また、圧電アクチュエータ1に対する駆動電力を出力する駆動回路を実装した配線部材4(フレキシブルフラットケーブル)が、圧電アクチュエータ1の上面に接合される。なお、以下の説明において、図1に矢印で示す通り、キャビティユニット3の長辺方向をX方向(列方向)、短辺方向をY方向(横列方向)とする。
【0020】
このインクジェット記録ヘッド2は、記録紙等の被記録媒体にインクジェット方式の記録や印字を行う図示しないインクジェットプリンタに設けられる。インクジェットプリンタには、所定の走査方向(図1のY方向)に往復移動自在にキャリッジが設けられており、インクジェット記録ヘッド2はこのキャリッジに搭載される。インクジェット記録ヘッド2がキャリッジと共に走査方向へと往復移動しつつ被記録媒体に向けてインクを吐出することで、被記録媒体に対して記録が行われるようになっている。
【0021】
図2は、インクジェット記録ヘッド2のI−I線断面図である。キャビティユニット3は、それぞれ平面視で略同一寸法の矩形状に形成されたノズルプレート5、スペーサプレート6、ダンパプレート7、マニホールドプレート8、サプライプレート9、ベースプレート10、及びキャビティプレート11が順に積層接着されることで構成されている。
【0022】
ノズルプレート5は、ポリイミド等の合成樹脂材から成形され、他のプレート6〜11は、42%ニッケル合金鋼から成形される。各プレート5〜11は、平面視で長方形状を成し、各々50〜150μm程度の肉厚を有している。各プレート5〜11には、電解エッチング、レーザ加工、又はプラズマジェット加工により開孔や溝が形成されている。キャビティユニット3の最下層のノズルプレート5には、微小径のインク滴吐出用のノズル孔17が、微小間隔で多数個穿設されていて、ノズル孔17はノズルプレート5の長辺方向(図1のX軸方向)に沿って延びる列状に配置され、その列が横列(Y方向)に5列設けられている。また、キャビティユニット3において最上層に位置する圧力室プレート11には、複数の圧力室14となる複数の圧力室孔が、圧力室プレート11をその厚み方向に貫通して形成され、ノズル孔17に対応してX軸方向に沿って列状に、横列方向(Y軸方向)に5列設けられている。圧力室孔(圧力室14)は、横列方向(Y軸方向)に長い平面視細長形状をなし、その長手方向(Y軸方向)がノズル孔17の列と直交する方向(X軸方向)に沿うように配置されている。これら複数の圧力室孔は、上方から圧電アクチュエータ1が積層され、下方からベースプレート10が積層されることにより、内部空間を有する圧力室14を形成する。
【0023】
ベースプレート10からスペーサプレート6のそれぞれには、各圧力室14の一端部に連通し、各ノズル孔17にまで連通する連通路16となる各開口が貫通形成され、また、ベースプレート10とサプライプレート9には、共通インク室13と圧力室14の他端部とを連通する接続流路15となる各開口および溝が形成されている。
【0024】
また、2枚のマニホールドプレートには、圧力室14が列方向(X軸方向)に配置された位置に対応する下方位置にて、その列方向(X軸方向)に沿って延設された共通インク室13となる共通インク室孔が各プレートをその厚み方向に貫通して形成され、横列方向(Y方向)に5列設けられている。また、ダンパプレート7には、共通液室13との対向面とは反対側の面を凹み形成し、その肉厚が薄肉にさせたダンパ壁が共通液室13の形状と対応してY方向に5列形成され、サプライプレート9、2枚のマニホールドプレート、ダンパプレート7、およびスペーサプレートがこの順で積層されることによって、共通液室13およびダンパスペースが形成される。さらにスペーサプレート6には、複数のノズル孔17を有するノズルプレート5が下方から積層接着されている。
【0025】
これらの各プレート5〜11が積層されていることで、連通された開孔や溝が構成され、インクが流通するチャンネル12が構成されている。チャンネル12は、共通インク室13から接続流路15、圧力室14、連通流路16およびノズル17からなるインク流通路である。上記構成により、図示しないインク供給源から流入したインクは、共通インク室13、接続流路15、圧力室14、及び連通流路16を順に通り、ノズル17へと導かれる。
【0026】
なお、キャビティプレートからマニホールドプレートの各長手方向の一端部には、上下の位置を対応させて、例えば、四種のインク(ブラック、マゼンタ、シアン、イエロー)に対応して4つのインク供給口18が穿設されている(図1参照)。図示しない各インク供給源からの4種類のインクがこのインク供給口18にそれぞれ独立して供給される。なお、使用頻度の高い黒インクが流入するインク供給口18が、他より大型に形成されると共に2つの各チャンネル12と繋がり、他のインク供給口18が、それぞれ互いに独立した1つのチャンネル12と繋がる。このようにキャビティユニット3は、5つのチャンネル12を有しており、インクジェット記録ヘッド2は、4種のインクを互いに独立して吐出可能に構成されている。
【0027】
図3は、圧電アクチュエータ1の分解斜視図及びこれに接合される配線部材4の斜視図である。圧電アクチュエータ1は、それぞれ平面視で略同一寸法の矩形状に形成され積層された7枚の圧電層23,24と、最上部に積層される最上圧電層19と、この最上圧電層19に形成された表面個別電極20と、圧電層間に設けられた共通電極21及び内部個別電極22(内部電極)とを備えている。圧電アクチュエータ1は、キャビィティユニットの圧力室と、後述する個別電極とが積層方向に対向するように積層接合される。
【0028】
7枚の圧電層23,24は、下から数えて奇数番目に配置される第1圧電層23,23、…と、下から数えて偶数番目に配置される第2圧電層24,24,…とからなる。最上圧電層19は、最上層の第1圧電層23の上面に積層されている。圧電アクチュエータ1がキャビティユニット3に接合されている状態では、各圧力室14が当該圧電アクチュエータ1(最下層の第1圧電層23)の下面に覆われている。
最下層の第1圧電層23の上面には、共通電極21がその広幅面全体に印刷形成されており、この最下層以外の第1圧電層23の上面には、共通電極21が広幅に印刷形成されていると共に、当該共通電極21が存在しない非電極部分31が形成されている。また、各第2圧電層24の上面には、複数の内部個別電極22が横列方向(Y方向)に長い平面視細長形状に印刷形成されている。各内部個別電極22は、積層方向で各圧力室14と重なる位置でX方向列状にY方向に5列並んで配置され、各内部個別電極22には、導通用の屈曲部22aが形成されている。また、最上圧電層19の上面には、各共通電極21を外部と導通させるための表面共通電極26と、内部個別電極22を外部と導通させるための複数の表面個別電極20とが設けられている。表面共通電極26は、アクチュエータの短辺縁に沿ってY方向に帯状に延びている。複数の表面個別電極20は、Y方向に所定間隔をおいて列状に配置されている。各表面個別電極20は、Y方向に細長い略矩形状に形成されている。また、端から二列毎の表面個別電極20は互いにX方向にずらされている。各表面個別電極20の長手方向の片端部には、配線部材4の下面に露出した個別電極ランド(駆動側端子電極)27に接続するための個別電極端子(電極用端子)28が設けられている。個別電極端子28は、表面個別電極20の長手方向寸法よりも小さい細長矩形状に形成されている。これら複数の電極用端子28は、列方向に沿って千鳥状に配置されている。また、表面共通電極26上には、Y方向に適宜距離をおいて複数の共通電極端子26aが配置されている。共通電極端子26aは、配線部材4の共通電極ランド36に接続する為に設けられている。なお、個別電極端子28および共通電極端子26aは、後述する配線部材の各ランド27、36とのハンダ接続性がより向上させるためにもうけられていて、各表面電極26、20は、Ag−Pd系の導電材を用いてスクリーン印刷で形成されており、各端子26a、28は、ガラスフリットを含むAg系の導電材を用いて各表面電極上に印刷形成されている。
【0029】
また、最下層の第1圧電層23を除く全ての圧電層には、最上圧電層19から当該最下層の第1圧電層23までを積層方向に貫通する断面円形状の共通電極用スルーホール25が形成され、共通電極用スルーホール25の内部には、導電材を充填もしくは塗布してなる図示しない共通電極用中継配線が設けられている。共通電極用スルーホール25は、最上圧電層19の上面の共通表面電極26が設けられている位置で開口されている。
【0030】
これにより、積層方向に並ぶ各共通電極21と共通表面電極26とが、共通電極用中継配線を介して導通されている。なお、各第2圧電層24の上面における共通電極用スルーホール25の貫通位置周辺(X方向の両端側)には導電材部が帯状に設けられており、共通電極用中継配線が第2圧電層24上で断線しないようになっている。
【0031】
また、下から2番目までの第1圧電層23、23、23は、その上面において共通電極を有するとともに、非電極部分31には、後述する個別電極用スルーホール30が位置しており、その貫通位置周辺には、共通電極21と独立して島状に導電部材32が設けられている。このため、個別電極用中継配線が当該第1圧電層23上で断線せず、共通電極21と内部個別電極22とが互いに電気的に独立した状態に保たれている。
【0032】
図4は、最上圧電層19のX方向に隣接する各表面個別電極20A、20Bと内部個別電極22とがスルーホールで導通する状態を示す拡大分解図である。図4のように表面個別電極20A、20Bと、内部個別電極22とを導通させるための断面円形状の表層スルーホール29A、29Bが当該表面個別電極20A、20B毎に同数圧電層19を貫通形成されている。Y方向に細長形状の表面個別電極20A、20Bは、その片端部に個別電極用端子28をX方向に交互に千鳥状に配置されていて、列方向(X方向)で隣り合う二つの表面個別電極20A、20Bのうちの一方20Aに対応する表層スルーホール29Aは、個別電極用端子28の直下に位置され、他方20Bに対応する表層スルーホール29Bは、個別電極用端子28と反対側の端部の直下に形成されている。従って、複数の表層スルーホール29A、29Bは、表面個別電極20A、20Bの片端部側寄り(図4では手前方向)に、縦列方向(X方向)に沿って略一列に形成されている。
【0033】
上から三つの第1圧電層23、及び二つの第2圧電層24には、表層スルーホール29A、29Bと同数の内部個別電極用の個別電極用スルーホール30が形成されている。表層スルーホール29A、29B及び個別電極用スルーホール30の内部には、導電材を充填もしくは塗布してなる図示しない個別電極用中継配線が設けられている。これにより、各内部個別電極22が、各個別電極用スルーホール30、各表層スルーホール29A、29Bを介して各表面個別電極27と電気的に接続されている。図4及び図5(a)、(b)に示すように、列方向(X方向)で隣り合う二つの表面個別電極20A、20Bのうち、個別電極用端子28と反対側の端部に表層スルーホール29Bが形成されている表面個別電極20Bには、当該電極用端子28が配置されている領域から反対側の端部まで長手方向(Y方向)に向かって延びる厚肉部37が部分的に形成されている。厚肉部37は、表面個別電極の対応する部分が部分的に厚く印刷形成されている。
【0034】
配線部材4は、その一端部が圧電アクチュエータと接合され、他端部がY方向に引き出されている。配線部材4には、ポリイミドなどの合成樹脂製のフレキシブルな帯状の樹脂シート35と、樹脂シートの下面に銅箔からなる導線材が積層され、その導線材を覆う合成樹脂材(ポリイミド樹脂や感光性ソルダレジストなど)保護材36とが積層されて構成されている。樹脂シート35の下面には、共通電極用配線33、個別電極用配線34、個別電極ランド(駆動側端子電極)27、共通電極ランド50等がフォトレジスト等により形成されている
共通電極用配線33は、グランド電位に保持され、配線部材4の短辺側(X方向)両端にY方向に沿って、配線部4の他端まで帯状に延びて引き出されている。個別電極ランド27は、アクチュエータ1の個別電極用端子28と対応する位置に形成されていて、X方向に千鳥状に延びて配列されるとともにY方向に5列は配置されている。また、共通表面電極26上の複数の共通電極端子26aに対応する位置に、共通電極ランド50が形成されている。個別電極ランド27および共通電極ランド50は、保護材36をエッチングやフォトレジスト等で除去してアクチュエータ1側に開口させることによって形成される。また、個別電極用配線34は、対応する個別電極ランド27からY方向に隣り合う他の個別電極ランド間を通って、図示しない駆動回路に接続されている。アクチュエータ1と配線部材とを接続させるためのハンダ等の導電性材料38(熱溶融性を有する導電性接合材)は、保護材を除去して露出された個別電極ランド27と共通電極ランド50の露出部分にソルダーペーストが設置され、リフロー工程後、バンプ電極を形成する。
【0035】
配線部材4と圧電アクチュエータ1は、ハンダ38のバンプ電極が形成された個別電極ランド27および共通電極ランド36と、表面個別電極20に設けられた個別電極用端子28とおよび共通電極用端子26aとを、互いに対向させるように位置合わせして積層して、配線部材4の上方からバーヒーターなどで加圧加熱させることでハンダが溶融して各ランド27,36と各端子間との間に介在した状態で電気的かつ機械的に接合される。なお、アクチュエータ1と配線部材4とは図示しない位置決め手段にて位置合わせされる。
【0036】
配線部材4とアクチュエータ1とがハンダ接続されたときに、各ランドと各端子間との間にハンダが介在した状態で、その間からハンダがあふれ出してくることがある。その場合、あふれ出した余剰のハンダは、表面個別電極の長手方向(Y方向)に沿って広がる。上記個別表面電極上に設けられた厚肉部37は、その余剰のバンプ38が長手方向に沿って広がる領域に形成されている。従来、余剰のバンプの広がりによる表面個別電極の銀食われにより、表面個別電極の断線が発生していたが、本実施形態では、厚肉部37の存在により、溶融したハンダ内に表面個別電極の銀が拡散しても、表面個別電極が破断して電気的断線が発生し難くなっている。従って、配線部材4が接合された後、電極用端子28と反対側の端部に表層スルーホール29Bが形成されている表面個別電極20Bにおいても、電極用端子28から表層スルーホール29Bまでの間の断線が発生せず確実に導通機能を保つことができる。従って、当該表面個別電極側20B側では、配線部材4からの電圧は、電極用端子28、表面個別電極20B、表層スルーホール29B、個別電極用スルーホール30を通って、内部個別電極22に印加されるようになっている。なお、表面共通電極26上に開口する共通電極用スルーホール25は、共通電極21がグランドに接地されているため、余剰のハンダがあふれ出て銀食われが発生したとしても、電気的に影響が小さいため、スルーホールが共通電極端子直下に形成されてなくてもよい。
圧電アクチュエータ1の製造方法の概略を説明する。圧電層の原材料として、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系のセラミック粉末、バインダ、溶剤を混合した混合液をシート状に広げて乾燥させたグリーンシートを調製する。これらグリーンシート上に、各内部の個別電極、コモン電極等圧電層の広幅面に形成される各電極と、最上層の圧電層の各表面電極となる導電材料(銀−パラジウム系の導電性ペースト)をスクリーン印刷により印刷する。そして、これら複数のグリーンシートを積層して、焼結し一体化する。厚肉部37は、表面個別電極20を形成するときに、対応する表面個別電極20に対して、もう一度導電材料(銀―Pd系)を塗布する工程により形成される。そして、各表面電極表面上には、各端子となる導電材料(ガラスフリットを含んだ銀)を対応する位置に印刷形成した後、前記焼成温度より低い温度で焼成して端子を形成する。その後、内部個別電極22と共通電極21との間に、分極処理用の高電圧が印加され、両電極に挟まれたセラミックシートが分極処理されて圧電特性が付与される。
【0037】
上記インクジェット記録ヘッド1によると、駆動回路から出力される駆動電力は、各個別電極用端子28、各個別電極用中継配線を介して各内部個別電極22に供給される。共通電極21は、グランドに接続されているため、第1、第2圧電層23,24において、内部個別電極22と共通電極21とに挟まれた領域が、分極されて圧電効果を発揮する活性部となる。駆動回路が、印字データに従って選択的に駆動電力を内部個別電極22に印加すると、対応する第1、第2圧電層23,24の活性部が分極方向に伸長変形する。これにより、対応する内部個別電極22と積層方向で重なっている圧力室14の容積が小さくなり、圧力室14内のインクに圧力が付与され、インクが連通流路16を通ってノズル17からキャビティユニット3の外部にインク液滴となって吐出される。
【0038】
上記本実施形態の圧電アクチュエータによれば、従来の9層構造における圧電アクチュエータに存在していた調整層をなくして8層構造とされており、圧電層を積層する数が減らされているので製造コストを抑えることができる。また、電気的および機械的接続においても断線の危険性を少なくすることが出来る。また、配線部材は、従来のように各個別電極ランドが千鳥状配列を採用できることから、個別電極ランドを高密度配置させ、その隣接する個別電極ランド間を通って複数の配線を配置させることができるので、チャンネルの多数化、および、高密度化にも対応することができる。また、製造工程において、表面個別電極20の厚肉部37は導電ペーストを二度塗りすることで簡単に形成することができる。
【0039】
なお、上記で開示された実施形態はすべて例示であって制限的なものではない。例えば、圧電アクチュエータの積層枚数、各電極等の形態を変更してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、圧電アクチュエータ、これを用いたインクジェット記録ヘッド、及び圧電アクチュエータの製造方法等に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第一実施形態に係る圧電アクチュエータを備えるインクジェット記録ヘッドの全体斜視図である。
【図2】図1のI−I線断面図である。
【図3】圧電アクチュエータの分解斜視図及び配線部材の斜視図である。
【図4】導通経路を説明するための説明図である。
【図5】(a)は列方向に沿って並ぶ表面個別電極の平面図であり、(b)は(a)のII−II線断面図である。
【図6】従来の導通経路を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0042】
1 圧電アクチュエータ
2 インクジェット記録ヘッド
3 キャビティユニット
4 配線部材
14 圧力室
19 最上圧電層
20 表面個別電極
21 共通電極
22 内部個別電極
27 駆動側端子電極
28 電極用端子
29 表層スルーホール
37 厚肉部
38 バンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表側面に複数の表面個別電極が列状に設けられ、当該各表面個別電極に接続する複数の駆動側端子電極を有する配線部材と接合するための最上圧電層と、
この最上圧電の裏面側で積層された複数の圧電層と、
前記複数の圧電層間に配置された複数の内部電極と、を備え、
前記各表面個別電極は、横列方向を長手方向とする細長形状に形成され、
前記最上圧電層には、前記各表面個別電極に開口し且つ当該各表面個別電極と前記内部電極とを導通させるための複数の表層スルーホールが形成され、
前記各表面個別電極の片端部には、前記複数の駆動側端子電極と導通させるための端子であって、当該各表面個別電極の長手方向の寸法よりも小さい電極用端子が形成され、これら複数の電極用端子は、列方向に沿って千鳥状配列を成して配置され、当該各駆動側端子電極と当該各電極用端子とを熱溶融性を有する導電性接合材を介在させた状態で互いに接合するための圧電アクチュエータであって、
前記複数の表層スルーホールは、前記各表面個別電極の片端部に対応する位置で列方向に沿って略一列に配設され、
前記各駆動側端子電極と前記各電極用端子とが接合されたときに、前記複数の表面個別電極のうち、前記各電極用端子が設けられた端部から余剰の前記導電性接合材が長手方向に沿って広がる領域が、部分的に厚肉部となっていることを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項2】
前記複数の圧電層は、一方の広幅面に前記内部電極となる内部個別電極を形成した複数の圧電層と、一方の広幅面に共通電極を形成した複数の圧電層とが交互に積層されてなり、前記各内部個別電極と前記各共通電極とが積層方向に重なる箇所が活性部とされ、前記各内部個別電極同士及び前記各共通電極同士がそれぞれ積層方向にスルーホールにて導通させられており、
前記最上圧電層の裏面側で隣接する第1圧電層における、当該最上圧電層と対向する広幅面に前記共通電極が形成され、
前記第1圧電層の裏面側で隣接する第2圧電層における、当該第1圧電層と対向する広幅面に前記内部個別電極が形成され、前記第1圧電層には、前記各表層スルーホールに対応し且つ列方向に沿って略一列となる複数の内部個別電極用スルーホールが形成され、前記内部個別電極が、前記各内部個別電極用スルーホール及び前記各表層スルーホールを通じて前記各表面個別電極に導通されている請求項1に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項3】
列方向で隣り合う二つの前記表面個別電極のうちの一方に対応する表層スルーホールは前記電極用端子の直下に形成され、他方に対応する表層スルーホールは前記電極用端子と反対側の端部の直下に形成されている請求項1又は2に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項4】
前記厚肉部は、前記他方の表面個別電極のみに、前記電極用端子側から長手方向に延びて形成されていることを特徴とする請求項3に記載の圧電アクチュエータ。
【請求項5】
列状に配置された複数のノズル、及び前記各ノズルに対応する複数列の圧力室を有するキャビティユニットと、各活性部が前記各圧力室に対応するように接合された圧電アクチュエータと、を備えた液摘吐出ヘッドにおいて、
前記圧電アクチュエータは、前記請求項1〜4のいずれかに記載の圧電アクチュエータであることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項6】
前記最上圧電層の前記複数の表面個別電極が、導電ペーストを塗布することで形成される、請求項1〜4のいずれかに記載の圧電アクチュエータの製造方法であって、
前記導電ペーストを二度塗りすることで前記厚肉部を形成する工程を有することを特徴とする圧電アクチュエータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−94120(P2009−94120A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−260735(P2007−260735)
【出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】