説明

圧電アクチュエータを使用するコーティングにおける応力の測定

本願発明は、基板(12,12’)のコーティングにおける機械的応力を決定するための方法及び装置に関する。ここで、この方法は、少なくとも1つのホルダ(10)上および前記ホルダ(10)に対して少なくとも部分的に移動できる少なくとも1つの作動要素(14)上に基板(12,12’)を配置するステップであって、前記作動要素(14)が圧電アクチュエータ(16)を備えるステップと、前記圧電アクチュエータ(16)が前記作動要素(14)を前記ホルダ(10)に対して所定の及び/又は決定できる開始変位(L)だけ部分的に移動させるように電気的開始電圧(V)を前記圧電アクチュエータ(16)に対して印加することにより、前記作動要素(14)を使用して、前記基板(12,12’)に対して機械的にプレストレスをかけるステップと、前記コーティングの少なくとも一部を前記基板(12’)の少なくとも1つの堆積領域(13’)に対して塗布するステップと、センサ素子(20)を使用して前記作動要素(14)の変位の変化(ΔL)を決定するステップと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板のコーティングにおける機械的応力を決定するための方法およびデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
特に光学レンズの製造において、したがって、とりわけ、眼鏡レンズの表面処理において、コーティングは重大な要素である。眼鏡レンズの適切な機能性コーティングは、それらの光学的特性及びそれらの機械的特性の両方をかなり向上させる場合があり及び/又はこれらの光学的および機械的特性を要件に適合させることができる。特に、これらのコーティングは、レンズの表面上及び/又は界面で反射特性を最適化するために使用できる。また、これらのコーティングは、機械的特性を向上させるため、特にレンズ表面の引っかき抵抗性を向上させるために使用されてもよい。
【0003】
そのようなコーティングの1つの特徴は、コーティングの材料が通常は基板の材料と異なる−したがって、特に、レンズの本体の材料と異なるという点である。そのため、コーティングの機械的、熱的および光学的特性は多くの場合に著しく異なっており、そのため、始めから、望ましくないクラックを基板上に形成することなくそのようなコーティングを堆積できることが保証され得ない。また、そのようなクラックはコーティングの光学的特性または保護作用に対して明らかな悪影響を与える可能性が非常に高い。したがって、そのような望ましくない作用が回避されるように、そのようなコーティングの堆積を制御できることが必要である。
【0004】
そのようなコーティングの堆積を制御してチェックするためには、コーティング内の内部機械応力に関する情報を取得することが多くの場合に不可欠であり或いは非常に役立つ。同時に、早ければ堆積プロセス中にコーティング内の機械的応力、特に、横方向応力を(その場で)(in situ)測定できることが特に望ましい。
【0005】
現在まで最も有用な方法は、歪みプレートの変形を測定するものであった。この場合、変形は、全てのコーティングが塗布された後に(現場外で)(ex situ)測定される。この方法は、多くの場合、緩和プロセスおよび結果に対する測定プロセスの影響に起因してエラーを生じる傾向があり不正確である。
【0006】
他の方法は光路長測定に基づいている。この場合、レーザビームが反射試験プレートの後面に衝突する。この試験プレートの前面はコーティングされている。コーティングは、プレートにおける膜応力に起因して変形する。この変形はレーザビームをポインタのように歪ませ、また、静止位置と堆積位置との間の距離が試験プレート上のコーティングにおいて応力を生じさせる。この方法は、技術的に非常に複雑であり、全ての場所で使用できるとは限らず、幾つかの状況下でエラーを生じる傾向がある。しかしながら、最初に説明した方法とは異なり、この方法は、「現場」測定の可能性を与える。同様の試験方法がSigma−Physik社から市販されている。しかしながら、既存の膜堆積システムでのその実施は、技術的に複雑であり、常に可能であるとは限らない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、方法およびデバイスのいずれもがコーティングにおける機械的応力の「原位置」測定を可能にし且つ低い技術的複雑度をもって既存の膜堆積システムに組み込むことができる、方法およびデバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、請求項1に開示される特徴を有する方法、および、請求項11に開示される特徴を有するデバイスによって達成される。
【0009】
したがって、本発明は、基板のコーティングにおける機械的応力を決定するための方法において、
−少なくとも1つのホルダ上およびホルダに対して少なくとも部分的に移動できる少なくとも1つの作動要素上に基板を配置するステップであって、作動要素が圧電アクチュエータを備えるステップと、
−圧電アクチュエータが作動要素をホルダに対して所定の及び/又は決定できる開始変位Lだけ部分的に撓ませるように電気的開始電圧Vを圧電アクチュエータに対して印加することにより、作動要素を使用して、基板に対して機械的にプレストレスをかけるステップと、
−コーティングの少なくとも一部を基板の少なくとも1つの堆積領域に対して塗布するステップと、
−センサ素子、特に位置センサを使用して作動要素の撓みの変化ΔLを決定するステップと、
を含む方法を提供する。
【0010】
好ましくは略二次元基板および特に好ましくは略平面基板−例えばプレートの形態を成す−が基板として使用される。すなわち、基板の拡張は、1つの空間的方向における方が他の2つの空間的方向におけるよりも実質的に小さい。しかしながら、原理的に、本発明の方法は、更に厚い基板に対しても適用できる。
【0011】
特に、プレート、ディスクまたはレンズなどの薄い略二次元基板が使用される場合、基板は、好ましくはその外縁の領域がホルダ上に配置されるとともに、中央領域が作動要素上に配置される。特に好ましくは、作動要素は単一の接触点で基板と当接し、一方、基板は幾つかの点で及び/又は更に広い領域でホルダにより支持される。この場合、基板をホルダに挟持させることができ、あるいは、好ましくは作動要素によって基板をホルダに対して押し付けることができる。
【0012】
作動要素の圧電アクチュエータに対して電圧を印加することにより、圧電アクチュエータにおける圧電作用が作動要素をホルダに対して少なくともある程度まで移動させる。したがって、作動要素、および、特に接触点は、その静止位置からホルダに対して少なくともある程度まで撓みを受ける。同時に、機械的応力が基板に及ぼされる。この場合、基板、および、特に、コーティングの堆積のために設けられる基板の表面−堆積領域−が変形され及び/又は変位されることが好ましい。特に好ましくは、作動要素および特に接触点は、堆積領域に対して垂直な方向に少なくともある程度まで移動される。したがって、プレストレスをかけることにより、これまで略平面であった堆積領域が略凸状の屈曲を受けることがとりわけ好ましい。
【0013】
機械的なプレストレスがかけられた後、コーティングの少なくとも一部が基板の堆積領域の少なくとも一部に対して塗布される。コーティングのタイプに応じて、堆積プロセスが好ましくは従来のプロセスステップ−例えば蒸着によって及び/又は特定のエピタキシプロセスによって行なわれる。コーティングの少なくとも一部を堆積させるステップは、低い周囲圧力で、したがって特に大気圧に対して減少される圧力で、とりわけ好ましくは高真空度で或いは超高真空度で行なわれる。
【0014】
機械的応力、および、特に、コーティングにおいて進展し得る横方向の引張り歪み及び/又は圧縮歪みが堆積領域を介して基板に伝えられる。その結果、基板とコーティングとを備える系における全体の機械的応力が基板の機械的プレストレスに対して変化する。特に、作動要素と基板との間で作用する力が変化する。コーティングにおける機械的応力のタイプに応じて、作動要素と基板との間の力−したがって、特に接触点に作用する圧縮力−がコーティングの塗布前よりも大きくなり或いは小さくなる。その結果、各材料中で、特に作動要素および圧電アクチュエータにおいても大きくなる弾性作用に起因して、作動要素の変位が変化する。撓みのこの変化はセンサ素子によって記録される。撓みのプラスまたはマイナス変化ΔLが記録されるかどうかに応じて、コーティングが引張り歪みを呈しているのか或いは圧縮歪みを呈しているのかどうかを判断することができる。撓みの変化が記録されない場合(ΔL=0)、それは好ましくは応力が無いコーティングを示している。
【0015】
好ましい実施形態では、撓みの変化の符号だけではなく、その数値も決定される。この手続きは、圧電アクチュエータにおける電圧が一定の場合にコーティングにおける機械的応力が撓みの変化ΔLに基づいて決定される第1の好ましいプロセスモードに相当する。
【0016】
コーティングの非常に低い機械的応力をも記録できるように、センサ素子は、撓みの僅かな変化ΔLでさえ記録できる十分に高い感度を有していることが好ましい。センサ素子は、100nm未満、より好ましくは10nm未満、特に好ましくは1nm未満の変化ΔLを記録できることが好ましい。
【0017】
センサ素子は作動要素に組み込まれることが好ましい。この場合、センサ素子および圧電アクチュエータが1つのユニットとして構成されることが特に好ましい。特に、この場合、一体のセンサ素子を有する市販の圧電アクチュエータを取り付けることができる。したがって、本方法は、作動要素に組み込まれるセンサ素子を使用して作動要素の変位の変化ΔLを決定するステップを含むことが好ましい。センサ素子は、容量センサ及び/又は誘導センサ及び/又は抵抗センサを備えることが好ましい。そのため、作動要素の変位の変化ΔLを決定するステップは、容量センサのキャパシタンスの変化を決定するステップ及び/又は誘導センサのインダクタンスの変化を決定するステップ及び/又は抵抗センサの電気抵抗の変化を決定するステップを含むことが好ましい。そのような電気的に読み取り可能なセンサは、測定値の特に簡単な電子的評価を可能にする。これに関連して、その電気抵抗がそれらの機械的な伸長及び/又は応力の関数であるワイヤ歪みゲージが特に抵抗センサとして非常に良好である。そのようなセンサは好ましくはΔL<1nmの測定精度を可能にする。特に容量位置センサを用いて好ましくはΔL<0.1nmの非常に高い測定精度を達成することができる。
【0018】
開始撓みLは、好ましくは、一方では撓みの変化ΔL、したがってコーティングにおける機械的応力を最大感度をもって検出することができ且つ他方では機械的特性、特に基板の弾性力および表面特性が機械的プレストレスによって著しく変えられないように選択される。特に、基板のプレストレスプロセスがコーティングにおける堆積進展、特に機械的応力進展のかなりの変化を引き起こすことが回避されなければならない。基板の機械的プレストレスは、少なくとも、撓みの変化ΔLをセンサ素子によって検出できる場合であっても作動要素と基板との間の確実な接触が依然として維持される程度まで進展すべきである。特に接触点で基板が数10μm〜約100μmだけ撓ませられることが特に好ましい。
【0019】
このようにして、本発明の方法は、基板のコーティングにおける機械的応力をコーティングの堆積プロセス中に決定することができる(その場で)。また、このプロセスは、従来の堆積方法の既存のプロセス動作に容易に組み込むことができる。
【0020】
撓みの変化を決定するステップ後に、
−作動要素の撓みが開始撓みLに再び等しくなるように、圧電アクチュエータにおける電圧を再調整するステップと、
−再調整された電圧と電気的開始電圧Vとの間の電圧差ΔVを決定するステップと、
を更に含むことが好ましい。
【0021】
このように、圧電アクチュエータの電圧は、好ましくは、その後にそれが実質的にΔL=0を保つように再調整される。この場合、決定された電圧差ΔVは、コーティングにおける機械的応力の測度である。好ましい実施形態では、電圧差の符号だけではなく、その数値も決定される。したがって、この手続きは、作動要素の撓みLが略一定の場合にコーティングにおける機械的応力が圧電アクチュエータに印加される電圧の変化ΔVに基づいて決定される第2の好ましいプロセスモードに相当する。
【0022】
また、本方法は、塗布されるコーティングにおける機械的応力の値を、
−作動要素の変位の変化ΔLの決定された値から、及び/又は、
−電圧差ΔVの決定された値から、
決定するステップを含むことが好ましい。
【0023】
また、コーティングを塗布するステップ中に、
−作動要素の変位の変化ΔL、及び/又は、
−電圧差ΔV、及び/又は、
−コーティングにおける機械的応力の決定された値
が連続して複数回決定されることが好ましい。
【0024】
このため、コーティングを塗布するプロセスは、それぞれの値の測定中及び/又は決定中に一時的に中断することができる。しかしながら、ほぼ連続する堆積プロセスを中断することなくそれぞれの値が測定され及び/又は決定されることが好ましい。
【0025】
撓み値及び/又は電圧値がほぼ連続的に測定され及び/又は決定されることが特に好ましい。
【0026】
好ましくは、圧電アクチュエータにおける電圧は、作動要素の変位、したがって好ましくはコーティングの塗布中における接触点での基板の撓みが開始撓みLの値で略一定のままとなるように、調整ユニットによって再調整される。
【0027】
本発明に係る方法の好ましい実施形態では、
−作動要素の変位の変化ΔL、及び/又は、
−電圧差ΔV、及び/又は、
−コーティングにおける機械的応力の決定された値
の経過が時間及び/又はコーティングの塗布厚の関数として記録されて好ましくはデータキャリアに記憶される。
【0028】
眼鏡レンズが基板として使用されることが好ましい。別の方法として、試験基板が使用されてもよい。この場合、試験基板は、基板と略同じ材料から形成され、この基板上に終端効果でコーティングが塗布される。したがって、試験基板は、特に、コーティングにおいて進展する応力の特に感度が良い検出を確保できるように形成されてもよい。
【0029】
また、本発明は、基板のコーティングにおける機械的応力を決定するためのデバイスであって、
−基板を支持するための少なくとも1つの基板ホルダと、
−圧電アクチュエータを備える作動要素であって、圧電アクチュエータに対して所定の及び/又は決定できる電圧を印加することにより圧電アクチュエータが作動要素を基板ホルダに対して所定の変位だけ少なくともある程度移動させ、それにより、基板ホルダ上に固定された基板に機械的なプレストレス及び/又は変形及び/又は変位がもたらされる、作動要素と、
−好ましくは作動要素に組み込まれるとともに、作動要素の変位の変化を検出し且つ検出された撓みの変化に応じてセンサ信号を発するようになっているセンサ素子と、
を備えるデバイスを提供する。
【0030】
センサ素子および圧電アクチュエータは1つのユニットとして構成されることが好ましい。この場合、特に、一体のセンサ素子を有する市販の圧電アクチュエータを取り付けることができる。センサ素子は、容量センサ及び/又は誘導センサ及び/又は抵抗センサを備えることが好ましい。
【0031】
また、本デバイスは、圧電アクチュエータに対して印加された及び/又は印加されている電圧を検出するための電圧検出手段を備えることが好ましい。
【0032】
好ましい実施形態において、本デバイスは、センサ素子によって発せられるセンサ信号を受け取り且つ受け取られたセンサ信号に応じて圧電アクチュエータに対して印加される電圧を制御するようになっている制御ユニットを更に備える。制御ユニットは、作動要素の撓みが略一定のままとなるように、受け取られたセンサ信号に応じて圧電アクチュエータに対して印加される電圧を調整するようになっている調整ユニットを備えることが特に好ましい。すなわち、検出された撓みの変化は、対応する電圧の変化によって直ちに補償される。
【0033】
また、本デバイスは、
−センサ信号、及び/又は、
−圧電アクチュエータに対して印加される電圧の値、及び/又は、電圧の変化
を受け取り且つそれに応じてコーティングにおける機械的応力の値を決定するようになっている電圧評価デバイスを備えることが好ましい。
【0034】
本デバイスは、
−センサ信号及び/又は作動要素の変位L及び/又は変位の変化L、及び/又は、
−圧電アクチュエータに対して印加される電圧の値、及び/又は、電圧の変化、及び/又は、
−コーティングにおける機械的応力の値、
を受け取り且つその時間的経過を記憶媒体に記憶するようになっている記憶デバイスを更に備えることが特に好ましい。
【0035】
特に好ましい実施形態では、本デバイスは膜堆積システムを更に有する。
【0036】
このように、本発明は、他の観点から、基板のコーティングにおける機械的応力を測定するための位置センサ素子を有する圧電アクチュエータを適用することを提案する。特に、圧電アクチュエータは、好ましくは、本発明にしたがって提供され且つ好ましくは本発明によって提供される方法にしたがって使用されるデバイスに設けられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、好ましい実施形態の添付図面を参照して、本発明を一例として説明する。
【0038】
図1は、本発明に係るデバイスの好ましい実施形態を示している。
【0039】
図1は、本発明に係るデバイスの好ましい実施形態を示している。また、本発明の好ましい方法をこのデバイスを用いて説明する。図示の実施形態において、デバイスは、特に4つの保持要素を備えるホルダ、すなわち基板ホルダ10を備える。基板12は、ホルダ10上に配置されるとともに、特にホルダ10の保持要素によって外縁部が強固に保持され、すなわち固定される。この例は、略一定の厚さを有するディスク、すなわちプレートを基板12として示している。弛緩状態で、このプレートは少なくとも2つの略平行平面を有する。弛緩状態において、基板12は特に略平らな堆積領域13を有する。
【0040】
また、デバイスは、電圧調整圧力センサとして使用される作動要素14を備える。電圧調整圧力センサ14、すなわち作動要素14は、必須の構成要素として圧電アクチュエータ16を備える。特に、圧電結晶が圧電アクチュエータ16として使用される。電界、すなわち電圧を印加することにより、この圧電結晶が少なくとも1つの空間的方向で拡張し或いは収縮する。作動要素14および特に圧電アクチュエータ16が接触点18において基板12と接触する。圧電アクチュエータ16に対して電圧及び/又は電界を印加することにより、基板12の方向への圧電アクチュエータの空間的拡張は、図1に接触点18’として示される新たな位置への接触点18の変位Lを引き起こす。同時に、作動要素14のこの変位により基板12もある程度まで撓み、したがって、基板12にプレストレスがかけられる。この形態は、プレストレスがかけられた基板12’によって図1に図示されている(図1に斜線領域として示されている)。この結果、略平らな堆積領域13が凸状に湾曲された堆積領域13’となる。
【0041】
また、デバイスはセンサ素子20を備える。図示の実施形態では、センサ素子20は、ワイヤ歪みゲージとして作動要素14に組み込まれるとともに、特に圧電アクチュエータ16と共に1つのユニットとして構成される。圧電アクチュエータ16は電圧及び/又は電界の印加時に拡張するため、ワイヤ歪みゲージ20も伸張し、その結果、その電気抵抗が変化する。この抵抗の変化は、検出可能であるとともに、変位Lの測度を構成する。
【0042】
調整ユニット、すなわち制御ユニット22は、センサ信号入力24を有しており、このセンサ信号入力24によりセンサ素子20からセンサ信号26が受け取られる。このセンサ信号は、特に、ワイヤ歪みゲージ20の電気抵抗の測度となり得る。また、制御ユニット、すなわち調整ユニット22は、電圧出力28を有しており、この電圧出力28により調整ユニットは圧電アクチュエータ16に対して電圧を発することができる。
【0043】
また、図示のデバイスは、堆積ウインドウ34を画定するシールド32を有している。その結果、堆積領域13’の面積が規定され、この堆積領域上で例えば蒸着プロセスまたはエピタキシプロセスによりコーティングを基板12’に対して塗布することができる。この段階で、堆積領域13’上に堆積されたコーティングが特に横方向の引張り歪み及び/又は圧縮歪みを示す場合には、これらの歪みが基板12’にも伝えられ、それにより、電圧調整圧力センサ、すなわち作動要素14の接触点18’で圧縮力の変化が引き起こされる。この圧縮力の変化により、作動要素14の変位が変化する。センサ素子20は、この変化を検出して、対応するセンサ信号26を制御ユニット22へ伝える。制御ユニット、すなわち調整ユニット22は、電圧評価デバイスとして設計されることが好ましく、受け取られたセンサ信号26に基づいてコーティングにおける実際の機械的応力を決定する。この第1の動作モードでは、圧電アクチュエータ16に対して印加される電圧を一定に保つことができる。
【0044】
第2の他の動作モードにおいて、調整ユニット22は、作動要素14の変位がその当初の開始変位Lへと再び戻るように、圧電アクチュエータ16に対して印加される電界、すなわち電圧を、出力電圧30によって調整する。したがって、所要の電圧V、すなわち電圧の所要変化ΔVは、コーティングにおいて進展する機械的応力の測度である。電圧評価デバイスは、電圧のこの変化に基づいてコーティングにおける実際の機械的応力を決定するようになっていることが好ましい。
【0045】
本発明は、眼鏡のレンズに関連して利用できるだけでなく、レンズ、ミラーまたはプリズムなどの複数の更なる光学部品をコーティングするためにも利用でき、また、防食コーティングのためなど、金属物質をコーティングし及び/又は塗装するためにも利用できる。また、方法および本発明のデバイスは、明示的に述べた堆積方法に限定されず、当業者に知られる多くの他の堆積方法と共に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係るデバイスの好ましい実施形態を示す。
【符号の説明】
【0047】
10 基板ホルダ
12 基板
12’ プレストレスがかけられた基板
13,13’ 堆積領域
14 作動要素;電圧調整圧力センサ
16 圧電アクチュエータ
18,18’ 接触点
20 センサ素子
22 制御ユニット;調整ユニット;電圧評価デバイス
24 センサ信号入力
26 センサ信号
28 電圧出力
30 電圧
32 シールド
34 堆積ウインドウ
開始撓み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(12,12’)のコーティングにおける機械的応力を決定するための方法において、
−少なくとも1つのホルダ(10)上および前記ホルダ(10)に対して少なくとも部分的に移動できる少なくとも1つの作動要素(14)上に基板(12,12’)を配置するステップであって、前記作動要素(10)が圧電アクチュエータ(16)を備えるステップと、
−前記圧電アクチュエータ(16)が前記作動要素(14)を前記ホルダ(10)に対して所定の及び/又は決定できる開始変位Lだけ部分的に移動させるように電気的開始電圧Vを前記圧電アクチュエータ(16)に対して印加することにより、前記作動要素(14)を使用して、前記基板(12,12’)に対して機械的にプレストレスをかけるステップと、
−前記コーティングの少なくとも一部を前記基板(12’)の少なくとも1つの堆積領域(13’)に対して塗布するステップと、
−センサ素子(20)を使用して前記作動要素(14)の変位の変化ΔLを決定するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
変位の変化を決定する前記ステップ後に、
−前記作動要素(14)の変位が前記開始変位Lに再び等しくなるように、前記圧電アクチュエータ(16)における電圧を再調整するステップと、
−再調整された電圧と前記電気的開始電圧Vとの間の電圧差ΔVを決定するステップと、
を更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
塗布される前記コーティングにおける機械的応力の値を、
−前記作動要素(14)の変位の前記変化ΔLの決定された値から、及び/又は、
−前記電圧差ΔVの決定された値から、
決定するステップを更に含む請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
コーティングを塗布する前記ステップ中に、
−前記作動要素(14)の変位の前記変化ΔL、及び/又は、
−前記電圧差ΔV、及び/又は、
−前記コーティングにおける機械的応力の決定された値
が連続して複数回決定される請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
−前記作動要素(14)の変位の前記変化ΔL、及び/又は、
−前記電圧差ΔV、及び/又は、
−前記コーティングにおける機械的応力の決定された値
の経過が時間及び/又は前記コーティングの塗布厚の関数として記録される請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記圧電アクチュエータ(16)における電圧は、コーティングの塗布中における前記作動要素(14)の変位が前記開始変位Lの値で略一定のままとなるように調整ユニット(22)によって再調整される請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記基板(12,12’)が眼鏡レンズである請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記センサ素子(20)が前記作動要素(14)に組み込まれる請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記センサ素子(20)が容量センサ及び/又は誘導センサ及び/又は抵抗センサを備える請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記コーティングの少なくとも一部を堆積させる前記ステップが低い周囲圧力で行なわれる請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
基板(12,12’)のコーティングにおける機械的応力を決定するためのデバイスにおいて、
−前記基板(12,12’)を支持するための少なくとも1つの基板ホルダ(10)と、
−圧電アクチュエータ(16)を備える作動要素(14)であって、前記圧電アクチュエータ(16)に対して所定の及び/又は決定できる電圧を印加することにより前記圧電アクチュエータが前記作動要素(14)を前記基板ホルダ(10)に対して変位(L)だけ少なくとも部分的に移動させ、それにより、前記基板ホルダ(10)上に支持された前記基板(12,12’)に機械的なプレストレスがもたらされる、作動要素(14)と、
−前記作動要素(14)の変位の変化(ΔL)を検出するとともに、検出された変位の前記変化ΔLに応じてセンサ信号(26)を発するようになっているセンサ素子(20)と、
を備えるデバイス。
【請求項12】
前記圧電アクチュエータ(16)に対して印加される電圧を検出するための電圧検出手段を更に備える請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
前記センサ素子(20)によって発せられる前記センサ信号(26)を受け取り且つ受け取られたセンサ信号(26)に応じて前記圧電アクチュエータ(16)に対して印加される電圧を制御するようになっている制御ユニット(22)を更に備える請求項11または12に記載のデバイス。
【請求項14】
前記制御ユニット(22)は、前記作動要素(14)の前記変位(L)が略一定のままとなるように、受け取られたセンサ信号(26)に応じて前記圧電アクチュエータ(16)に対して印加される電圧を調整するようになっている調整ユニットを備える請求項13に記載のデバイス。
【請求項15】
−前記センサ信号(26)、及び/又は、
−前記圧電アクチュエータ(16)に対して印加される電圧(V)の値、及び/又は、電圧の変化(ΔV)
を受け取り且つそれに応じて前記コーティングにおける機械的応力の値を決定するようになっている電圧評価デバイス(22)を更に備える請求項11〜14のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項16】
−前記作動要素(14)の変位(L)及び/又は変位の変化(L)、及び/又は、
−前記圧電アクチュエータ(16)に対して印加される電圧(V)の値、及び/又は、電圧の変化(ΔV)、及び/又は、
−前記コーティングにおける機械的応力の値、
を受け取り且つその時間的経過を記憶媒体に記憶するようになっている記憶デバイスを更に備える請求項11〜15のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項17】
前記センサ素子(20)が前記作動要素(14)に組み込まれている請求項11〜16のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項18】
膜堆積システムを更に備える請求項11〜17のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項19】
前記センサ素子(20)が容量センサ及び/又は誘導センサ及び/又は抵抗センサを備える請求項11〜18のいずれか一項に記載のデバイス。

【図1】
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【公表番号】特表2009−515690(P2009−515690A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−540507(P2008−540507)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【国際出願番号】PCT/EP2006/010925
【国際公開番号】WO2007/054374
【国際公開日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(503279013)ローデンストック.ゲゼルシャフト.ミット.ベシュレンクテル.ハフツング (34)
【Fターム(参考)】