説明

圧電アクチュエータ

【課題】圧電素子と他の部品との接続箇所に破断を生じたり圧電素子自体が疲労したりする可能性が低く、高速な送りと精密な位置決めのための送りが共に可能であって、制御回路やアンプの構成も簡便な圧電アクチュエータを提供すること。
【解決手段】略T字型の弾性体7の梁状本体部5の全長に匹敵する間隔をおいて第1,第2の圧電素子PTZ1,PTZ2を相互に略平行な状態で配置した構成を適用し、高速送りに際しては一方の圧電素子のみを振動させて柱状突起6を共振させることで柱状突起6の先端に楕円運動を生起させてスライダ2に送りを掛け、また、微動送りに際しては何れか一方の圧電素子を伸縮させて他方の圧電素子の先端を支点に弾性体7を揺動させることで柱状突起6の先端を圧電素子の伸縮方向と交差する方向に移動させてスライダ2に送りを掛ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力電圧に応じて軸方向に伸縮する圧電素子を組み合わせて駆動対象もしくは駆動対象の移動方向をガイドするガイド部材に形成された駆動力伝達面に駆動力を伝達することで駆動対象に送りを掛ける圧電アクチュエータの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
2つの圧電素子を組み合わせて駆動対象に送りを掛ける圧電アクチュエータとしては、特許文献1に開示される超音波モータ,特許文献2に開示されるアクチュエータ,特許文献3に開示される超音波駆動装置等が既に公知である。
【0003】
これらの特許文献で開示される圧電アクチュエータは、何れも、軸方向に伸縮する圧電素子の先端部が近接するようにして2つの圧電素子を斜交させて配置し、その先端部にブロック状の変位合成部を固着し、この変位合成部自体あるいは変位合成部に突設された柱状突起を駆動対象の側面や外周部に一定の力で予圧して当接させ、少なくとも1つの圧電素子を共振状態で駆動するか(特許文献1)、もしくは、位相差をもって2つの圧電素子を同時に振動させる(特許文献2,3)ことによって変位合成部それ自体に楕円運動を生起させ、変位合成部と駆動対象との間の摩擦(特許文献1,2)、あるいは、変位合成部に突設された柱状突起と駆動対象との間の摩擦(特許文献3)と前述の楕円運動とを利用して駆動対象に一方的な送り(特許文献1,2)、もしくは、正逆の送り(特許文献3)を掛ける構成を有する。
【0004】
特許文献3記載の超音波駆動装置は変位合成部それ自体を駆動対象に当接させる代わりに変位合成部の柱状突起を駆動対象に当接させている点が特許文献1,2記載の超音波モータや特許文献2のアクチュエータと異なるが、この柱状突起の傾きは当該柱状突起が駆動対象と当接して弾性変形することによって生じるもので、圧電素子の伸縮運動によってもたらされる共振運動とは技術的な意味合いが相違する。
【0005】
特許文献1,2,3に開示される圧電アクチュエータは、何れも、2つの圧電素子の先端をブロック状の変位合成部を介して接続したものであるため、各圧電素子の先端と変位合成部との間の固着部に強力な曲げモーメントや剪断力が作用して圧電素子と変位合成部との間の接続箇所に破断が生じる可能性が高く、また、圧電素子それ自体も様々な方向に交番的に屈曲して疲労するため、圧電アクチュエータに十分な耐久性を持たせることが難しいといった不都合がある。
【0006】
また、これらの圧電アクチュエータは、専ら連続的な高速送りのみを実現するためのもので、精密な位置決めのための送りには適さないといった問題がある。
【0007】
これに対し、本出願人らは、圧電素子を不用意に屈曲させることなく圧電素子の直線的な伸縮動作のみを利用して駆動対象に送りを掛けることによって耐久性を向上させると共に、精密な位置決めのための送りにも十分に対処が可能な圧電アクチュエータを特許文献4の圧電アクチュエータとして提案しているが、このものは、4系統以上の圧電素子を連動させて駆動するために制御回路やアンプの構成が相対的に複雑化する傾向にある。
【0008】
【特許文献1】特開2001−16879号公報
【特許文献2】特開2001−224187号公報(図3,図4,図11−14)
【特許文献3】特開2002−58266号公報(段落0021,0023−0024,図6)
【特許文献4】特許第3833166号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の課題は、前記従来技術の不都合を改善し、圧電素子と他の部品との接続箇所に破断を生じたり圧電素子自体が疲労したりする可能性が低く、高速な送りと精密な位置決めのための送りが共に可能であって、制御回路やアンプの構成も簡便な圧電アクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の圧電アクチュエータは、入力電圧に応じて軸方向に伸縮する圧電素子を組み合わせて駆動対象もしくは駆動対象の移動方向をガイドするガイド部材に形成された駆動力伝達面に駆動力を伝達することで駆動対象に送りを掛ける圧電アクチュエータであり、前記課題を達成するため、特に、
梁状本体部と其の長手方向略中央部の柱状突起とから一体に形成された略T字型の弾性体と、
相互に略平行な状態で前記梁状本体部の両端部に配置されて其の先端部を前記梁状本体部に固着された第1,第2の圧電素子と、
前記第1,第2の圧電素子の基部を固着したベースプレートを押圧し、前記梁状本体部が前記駆動対象の送り方向と略平行となり且つ前記柱状突起が前記駆動対象の送り方向と略直交するような姿勢を保持して、前記柱状突起の先端を前記駆動力伝達面に向けて付勢する予圧手段と、
何れか一方の前記圧電素子の伸縮運動と当該伸縮動作によってもたらされる前記柱状突起の共振運動とによって実質的に前記送り方向に沿った方向の長軸を有する楕円運動を前記柱状突起の先端部に生起させる高速送り用駆動信号と、何れか一方の前記圧電素子の伸縮運動によって実質的に前記送り方向に沿った方向の直線運動を前記柱状突起の先端部に生起させる微動送り用駆動信号とを選択的に生成する駆動信号生成手段と、
前記高速送り用駆動信号と微動送り用駆動信号のうち前記駆動信号生成手段が生成すべき信号の種別を前記駆動信号生成手段に指令する生成信号指定手段と、
前記駆動信号生成手段によって生成された駆動信号を何れか一方の前記圧電素子に対して選択的に入力する送り方向切替手段を備えたことを特徴とする構成を有する。
【0011】
以上の構成において、まず、送り方向切替手段を操作し、駆動信号生成手段が生成する駆動信号の入力先として第1,第2の圧電素子の何れか一方を選択する。
そして、駆動対象に連続的な高速送りを掛ける場合においては、生成信号指定手段を操作して高速送り用駆動信号を生成する旨の指令を駆動信号生成手段に入力し、また、駆動対象に対して微動送りを掛ける場合には、生成信号指定手段を操作して微動送り用駆動信号を生成する旨の指令を駆動信号生成手段に入力する。
駆動信号生成手段に高速送り用駆動信号を生成する旨の指令が入力された場合、駆動信号生成手段は、駆動信号の入力先として選択された何れか一方の圧電素子の伸縮運動と当該伸縮動作によってもたらされる柱状突起の共振運動とによって実質的に駆動対象の送り方向に沿った方向の長軸を有する楕円運動を柱状突起の先端部に生起させるための高速送り用駆動信号を生成し、この高速送り用駆動信号を、駆動信号の入力先として選択された何れか一方の圧電素子に印加する。
高速送り用駆動信号は、時間の経過に応じて一定のパターンでサイクリックに電圧を変化させる正弦波または三角波等に類する信号である。選択された何れか一方の圧電素子は、入力電圧に応じて軸方向に伸縮する構造のものであるから、この高速送り用駆動信号を印加されることにより当該圧電素子に高周波の縦振動が発生し、当該圧電素子と他方の圧電素子によって両端部を保持された略T字型の弾性体が、前記他方の圧電素子との固着部を実質的な支点として高速で揺動し、弾性体の梁状本体部における長手方向略中央部つまり柱状突起の基部が、前述の縦振動の約1/2の振幅で此の縦振動の方向と概ね同様の方向に高速に振動する。
また、略T字型の弾性体が前記他方の圧電素子との固着部を実質的な支点として高速で揺動する結果、弾性体の梁状本体部と一体に形成された柱状突起も、梁状本体部と一体に移動する其の基部を支点として高速で揺動し、結果として、この柱状突起の先端が、柱状突起の基部の縦振動の向きと略直角に交差する方向で横振動することになる。
この横振動は、圧電素子の伸縮運動によってもたらされる柱状突起の共振運動であり、正弦波または三角波等からなる高速送り用駆動信号の周波数,略T字型の弾性体の材質,梁状本体部や柱状突起の各部の寸法等を適切に設計することで、柱状突起の基部の縦振動と柱状突起の先端の横振動を合成して得られる柱状突起の先端の運動軌跡が、駆動対象の送り方向に沿った方向の長軸を有する楕円運動とされる。
梁状本体部が駆動対象の送り方向と略平行となり且つ柱状突起が駆動対象の送り方向と略直交するような姿勢を保持した状態で第1,第2の圧電素子のベースプレートを押圧する予圧手段により、柱状突起の先端が駆動力伝達面に向けて付勢された状態で柱状突起先端の楕円運動が生起される結果、長軸を基準として駆動力伝達面に近い側の楕円軌跡の部分では柱状突起の先端と駆動力伝達面との当接力が増大する一方、長軸を基準として駆動力伝達面から遠い側の楕円軌跡の部分では柱状突起の先端と駆動力伝達面との当接力が減少する。あるいは、柱状突起の基部の縦振動の周期と予圧手段の伸縮に係る応答性の関係によっては、長軸を基準として駆動力伝達面に近い側の楕円軌跡の部分では柱状突起の先端と駆動力伝達面とが当接するが、長軸を基準として駆動力伝達面に遠い側の楕円軌跡の部分では、予圧手段の伸長が間に合わずに柱状突起の先端が駆動力伝達面から離間したままの状態となるといった現象も生じ得る。
何れの場合においても、長軸を基準として駆動力伝達面に近い側の楕円軌跡上に柱状突起の先端が位置する状況下では、長軸を基準として駆動力伝達面に遠い側の楕円軌跡上に柱状突起の先端が位置する場合よりも駆動力伝達面に対して強い送りが掛けられることになるので、結果的に、楕円軌跡に沿って移動する柱状突起先端の移動方向によって駆動対象の送り方向が決まる。例えば、左右方向に移動可能な駆動対象の下面に形成された駆動力伝達面に柱状突起の先端が当接し、柱状突起の先端が楕円軌跡に沿って時計方向に移動するとした場合では駆動対象の送り方向は左から右へ向かう方向となり、また、同一条件下で柱状突起の先端が楕円軌跡に沿って反時計方向に移動するとした場合では駆動対象の送り方向は右から左へ向かう方向となる。
第1,第2の圧電素子は相互に略平行な状態で梁状本体部の両端部に配置されており、梁状本体部の長手方向略中央部に形成された柱状突起から見れば第1,第2の圧電素子の配設位置は対称であり、しかも、第1の圧電素子を駆動信号の入力先として選択した場合であっても第2の圧電素子を駆動信号の入力先として選択した場合であっても高速送り用駆動信号の特性自体は同一である。従って、第1の圧電素子を駆動信号の入力先として選択するか第2の圧電素子を駆動信号の入力先として選択するかは、非作動側の圧電素子である第2の圧電素子の先端を支点として梁状本体部を高速に揺動させるか非作動側の圧電素子である第1の圧電素子の先端を支点として梁状本体部を高速に揺動させるかの相違に過ぎない。つまり、第1,第2の圧電素子の違いを無視すれば、第1,第2の圧電素子や梁状本体部および柱状突起を含む仮想平面の表側から第1,第2の圧電素子や梁状本体部および柱状突起の動作状態を見た場合であっても、この仮想平面の裏側から第1,第2の圧電素子や梁状本体部および柱状突起の動作状態を見た場合であっても、その動作状態は完全に同一である。
従って、第1の圧電素子を駆動信号の入力先として選択するか第2の圧電素子を駆動信号の入力先として選択するかを送り方向切替手段によって切り替えることで、楕円軌跡に沿って移動する柱状突起先端の移動方向を反転することが可能であり、これにより駆動対象の送り方向を正逆に切り替えることができる。
第1,第2の圧電素子の間に略T字型の弾性体の梁状本体部の全長に匹敵する間隔をおいて第1,第2の圧電素子を相互に略平行な状態で配置しているので、何れか一方の圧電素子を伸縮させても他方の圧電素子を屈曲させる力は殆ど作用せず、圧電素子の屈曲による疲労の発生が大幅に軽減される。また、第1,第2の圧電素子の先端に両端部を固着された略T字型の弾性体の梁状本体部は、圧電素子の先端部が近接するようにして斜交配置した2つの圧電素子の先端の交差部分に設けられる従来型のブロック状の変位合成部とは相違し、スパンの長い梁状に形成されており、且つ、弾性変形が容易であるから、何れか一方の圧電素子を伸縮させても容易に弾性変形して応力を分散させることができるので、強い曲げモーメントや剪断力が作用することはなく、圧電素子と梁状本体部との間の接続箇所に破断が生じる心配は殆どない。従って、圧電アクチュエータに十分な耐久性を持たせることが可能である。
一方、駆動信号生成手段に微動送り用駆動信号を生成する旨の指令が入力された場合、駆動信号生成手段は、何れか一方の圧電素子の伸縮運動によって実質的に駆動対象の送り方向に沿った方向の直線運動を柱状突起の先端部に生起させる微動送り用駆動信号を生成し、この微動送り用駆動信号を、駆動信号の入力先として選択された何れか一方の圧電素子に印加する。
微動送り用駆動信号は、圧電素子を伸縮させるための直流電圧である。選択された何れか一方の圧電素子は、入力電圧に応じて軸方向に伸縮する構造のものであるから、この微動送り用駆動信号を印加されることにより入力電圧の大小に応じて伸縮し、当該圧電素子と他方の圧電素子によって両端部を保持された略T字型の弾性体の梁状本体部が、前記他方の圧電素子との固着部を実質的な支点として揺動し、弾性体の梁状本体部における長手方向略中央部つまり柱状突起の基部が、圧電素子の伸縮量の約1/2の移動量で圧電素子の伸縮方向と概ね同様の方向に移動する。
また、略T字型の弾性体が前記他方の圧電素子との固着部を実質的な支点として揺動する結果、弾性体の梁状本体部と一体に形成された柱状突起も、梁状本体部と一体に揺動し、その先端が、圧電素子の伸縮方向と交差する方向で僅かに移動することになる。
この柱状突起先端の移動のうち圧電素子の伸縮方向と直交する方向の移動量が、実質的に駆動対象の送り方向に沿った方向の直線運動である。
梁状本体部が駆動対象の送り方向と略平行となり且つ柱状突起が駆動対象の送り方向と略直交するような姿勢を保持した状態で第1,第2の圧電素子のベースプレートを押圧する予圧手段により、柱状突起の先端が駆動力伝達面に向けて付勢された状態で柱状突起先端に駆動対象の送り方向に沿った方向の直線運動が生起される結果、選択された圧電素子が第1の圧電素子であるのか第2の圧電素子であるのかに応じて駆動対象に微小な送りが掛けられ、同時に、駆動力伝達面と接離する方向の柱状突起の基部の移動量つまり圧電素子の伸縮量の約1/2に相当する移動量だけ、予圧手段の付勢力に抗してベースプレートが駆動力伝達面から離間する方向に移動する。駆動対象の移動量は、圧電素子の伸長限度に相当する電圧の範囲内で、微動送り用駆動信号の電圧に略比例する。
前記と同様、第1の圧電素子を駆動信号の入力先として選択するか第2の圧電素子を駆動信号の入力先として選択するかは、非作動側の圧電素子である第2の圧電素子の先端を支点として梁状本体部および柱状突起を揺動させるか非作動側の圧電素子である第1の圧電素子の先端を支点として梁状本体部および柱状突起を揺動させるかの相違に過ぎない。つまり、第1,第2の圧電素子の違いを無視すれば、第1,第2の圧電素子や梁状本体部および柱状突起を含む仮想平面の表側から第1,第2の圧電素子や梁状本体部および柱状突起の動作状態を見た場合であっても、この仮想平面の裏側から第1,第2の圧電素子や梁状本体部および柱状突起の動作状態を見た場合であっても、その動作状態は完全に同一である。
従って、第1の圧電素子を駆動信号の入力先として選択するか第2の圧電素子を駆動信号の入力先として選択するかを送り方向切替手段によって切り替えることで、柱状突起先端の移動方向を反転することが可能であり、これにより駆動対象の送り方向を正逆に切り替えることができる。また、この構成により精密な位置決めのための送りが実現される。
以上に述べた通り、連続的な高速送りに際しても精密な位置決めのための送りに際しても、送り方向切替手段の操作により第1,第2の圧電素子の何れか一方を駆動信号の入力先として選択し、信号波形生成器やアンプ等からなる単一の駆動信号生成手段で何れかの圧電素子に駆動信号を入力するようにしているので、基本的に1系統分の制御回路を設ければよく、簡便な構造の圧電アクチュエータを提供することができる。
【0012】
更に、一方の圧電素子が伸長限度に達した状態にある柱状突起の先端を駆動力伝達面から離間させるためのオフセット手段を備えると共に、
前記駆動信号生成手段は、目標移動量を含む微動指令を受け、前記一方の圧電素子に印加される微動送り用駆動信号の電圧と前記直線運動の量との関係に基いて、前記一方の圧電素子の伸長限度に相当する電圧の範囲内で、前記微動指令に略比例した電圧の微動送り用駆動信号を生成するものであって、
前記微動指令が前記一方の圧電素子の伸長限度に相当する前記直線運動の量を超える場合には、前記一方の圧電素子が伸長限度に達した時点で前記オフセット手段により前記柱状突起の先端を前記駆動力伝達面から離間させ前記駆動信号生成手段の作動を停止させて前記一方の圧電素子を初期状態に復帰させ、前記オフセット手段により前記柱状突起の先端を改めて前記駆動力伝達面に当接させて、前記微動指令と前記一方の圧電素子の伸長の度合いに相当する直線運動の量との差分を新たな目標移動量として前記駆動信号生成手段を再び作動させる連続微動送り用制御手段を併設した構成としてもよい。
【0013】
このような構成を適用した場合、駆動信号生成手段には目標移動量を含む微動指令を入力する。
前述した通り、選択された何れか一方の圧電素子は、入力電圧に応じて軸方向に伸縮する構造のものであり、最終的に、微動送りに際しての駆動対象の移動量は、圧電素子の伸長限度に相当する電圧の範囲内で、微動送り用駆動信号の電圧に略比例する。
従って、微動指令に含まれる目標移動量が、選択された圧電素子の伸長限度に相当する駆動対象の移動量の範囲内であれば、当該圧電素子に印加される微動送り用駆動信号の電圧と駆動対象の直線運動の量との関係に基いて、圧電素子の伸長限度に相当する電圧の範囲内で微動指令に略比例した電圧の微動送り用駆動信号を生成すれば、目標移動量に相当する分の送りで駆動対象を移動させることができる。例えば、V1の微動送り用駆動信号を一方の圧電素子に印加した際に駆動対象が1(nm)移動し、V2の微動送り用駆動信号を一方の圧電素子に印加した際に駆動対象が2(nm)移動し、・・・、Viの微動送り用駆動信号を一方の圧電素子に印加した際に駆動対象がi(nm)移動し、・・・・、Vnの微動送り用駆動信号を一方の圧電素子に印加した際に駆動対象がn(nm)移動し、Vnの微動送り用駆動信号によって圧電素子が伸長限度に達するとすれば、微動送り用駆動信号となる直流電圧としてV1を入力すると1(nm)の送り、V2を入力すると2(nm)の送り、・・・、Viを入力するとi(nm)の送り、・・・、Vnを入力するとn(nm)の微動送りが実現されるということになる(但し、V1<V2<・・・Vi・・・<Vn)。
しかし、選択された圧電素子にVnを越える電圧を印加しても圧電素子は其れ以上には伸張しないので、このままでは、n(nm)を超える送りは実現できない。
そこで、微動指令で指示される目標移動量が圧電素子の伸長限度に相当する駆動対象の送り量、例えば、前述のn(nm)を超える場合には、圧電素子が伸長限度に達した時点で連続微動送り用制御手段がオフセット手段を制御し、圧電素子が伸長限度に達した状態にある柱状突起の先端を駆動力伝達面から離間させる。柱状突起先端の揺動状態を保持したまま柱状突起の先端を駆動力伝達面から離間させるようにしているので、柱状突起を駆動力伝達面から退避させる際に駆動対象に余計な送りが掛けられたり、駆動対象が送り方向と逆行する方向に引き戻されたりする弊害は生じない。
次いで、連続微動送り用制御手段は、駆動信号生成手段の作動を停止させることによって圧電素子の伸長状態を初期状態に復帰させるが、この時点では既に柱状突起の先端が駆動力伝達面から離間しているので、柱状突起先端の揺動状態を初期状態に復帰させても駆動対象が不用意に移動する心配はない。
そして、連続微動送り用制御手段は、オフセット手段により柱状突起の先端を改めて駆動力伝達面に当接させ、微動指令で指示される目標移動量と圧電素子の伸長の度合いに相当する駆動対象の直線運動の量との差分を新たな目標移動量として駆動信号生成手段に入力し、前記と同様にして駆動信号生成手段を再び作動させる。
従って、例えば、前記と同様にV1の微動送り用駆動信号で駆動対象が1(nm)移動し、V2の微動送り用駆動信号で駆動対象が2(nm)移動し、・・・、Viの微動送り用駆動信号で駆動対象がi(nm)移動し、・・・、Vnの微動送り用駆動信号で駆動対象がn(nm)移動し、Vnの微動送り用駆動信号によって圧電素子が伸長限度に達するとした場合において、目標移動量を2n+i(nm)とする微動指令が入力されたとすれば、圧電素子の伸長限度に相当するn(nm)の送りが2回と其の都度のオフセット手段の作動が都合2回、そして、Viの微動送り用駆動信号に相当するi(nm)の送りが1回実行されて、目標移動量に相当する送りが完了することになる。
このような構成を適用することで、圧電素子の伸長限度に相当する直線運動の量を超える目標移動量が微動指令として入力された場合であっても、その要求に確実に対処できるようになる。
【0014】
前述のオフセット手段は、具体的には、第1,第2の圧電素子と、該第1,第2の圧電素子にバイアス電圧を印加するバイアス回路によって構成することが可能である。
【0015】
この構成は、バイアス回路を利用して第1,第2の圧電素子にバイアス電圧を印加し或いは解除することで、圧電素子が伸長限度に達した状態にある柱状突起の先端を駆動力伝達面から離間させるようにしたもので、第1,第2の圧電素子それ自体をオフセット手段として機能させる構造上、オフセット手段を構成する他の機械的な構成要素を付加しなくても連続的な微動送り、つまり、圧電素子の伸長限度に相当する直線運動の量を超えた目標移動量の微動指令に対処できるメリットがある。
但し、このような構成を適用した場合、駆動対象の送りのために利用できる圧電素子の実質的な伸長限度は圧電素子の物理的な伸長限度からオフセット量を差し引いた値、つまり、微動送りに際して柱状突起先端の揺動状態を保持したまま柱状突起の先端を駆動力伝達面から離間させ、且つ、柱状突起先端の揺動状態を初期状態に復帰させても柱状突起先端が駆動力伝達面に不用意に当接しない程度のニガシ量を差し引いた値である。
【0016】
或いは、前述のオフセット手段は、前記第1,第2の圧電素子の基部と前記ベースプレートとの固着位置よりもベースプレート側に設置された第3の圧電素子によって構成することも可能である。
【0017】
このような構成を適用した場合、圧電素子が伸長限度に達した状態にある柱状突起の先端を駆動力伝達面から離間させるための手段として新たに第3の圧電素子が必要となるが、圧電素子の物理的な伸長限度を駆動対象の送りのために利用できるので、1サイクルの微動送りの量を大きくすることができる。
【0018】
更に、駆動信号生成手段が非作動となっている間だけ駆動対象の停止位置を保持するロック手段を併設してもよい。
【0019】
柱状突起の先端が駆動力伝達面から離間した状態であっても振動や衝撃で駆動対象が不用意に移動することはないので、駆動対象の微動送りを繰り返し実行するような場合でも微動指令による目標移動量を確実に達成することができ、また、駆動電力の供給を停止して駆動信号生成手段の作動を停止したような場合であっても最終的な位置決め完了位置を保持することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の圧電アクチュエータは、略T字型の弾性体の梁状本体部の全長に匹敵する間隔をおいて第1,第2の圧電素子を相互に略平行な状態で配置した構成を有し、駆動対象に高速送りを掛ける際には、一方の圧電素子のみを振動させて他方の圧電素子の非作動状態を保持することで前記一方の圧電素子の振動方向と概ね同方向に梁状本体部における長手方向略中央部に位置する柱状突起の基部を振動させると共に此の振動を利用して柱状突起を共振させることで当該柱状突起の先端に柱状突起の基部の振動の向きと略直角に交差する方向の横振動を生起させ、これらの振動を合成して得られる柱状突起先端の楕円運動を利用して駆動対象に送りを掛けるようにしているので、何れか一方の圧電素子を伸縮させても他方の圧電素子を屈曲させる力は殆ど作用せず、圧電素子の屈曲による疲労の発生が大幅に軽減され、しかも、第1,第2の圧電素子の先端に両端部を固着された略T字型の弾性体の梁状本体部はスパンの長い梁状に形成されており弾性変形が容易であるから、何れか一方の圧電素子を伸縮させても容易に弾性変形して弾性体に作用する応力を分散させることが可能であり、圧電素子と梁状本体部との間の接続箇所に強い曲げモーメントや剪断力が作用することがなくなるので、圧電素子と弾性体の梁状本体部との間の破断を効果的に抑制することができ、圧電アクチュエータ全体としての構造に十分な耐久性を持たせることができる。
また、駆動対象に微動送りを掛ける際には何れか一方の圧電素子を伸縮させて他方の圧電素子の先端を支点に略T字型の弾性体を揺動させることで柱状突起の先端を圧電素子の伸縮方向と交差する方向に移動させて駆動対象に送りを掛けるようにしているので、従来の此の種の圧電アクチュエータでは難しかった微小な精密送りも可能となった。
更に、高速送りに際しても微動送りに際しても、何れか一方の圧電素子のみを駆動すればよく、送り方向切替手段の操作により第1,第2の圧電素子の何れか一方を駆動信号の入力先として選択し、信号波形生成器やアンプ等からなる単一の駆動信号生成手段で何れかの圧電素子に駆動信号を入力するようにしているので、基本的に1系統分の制御回路を設ければ十分であり特に回路関連のハードウェア面で簡便な構造の圧電アクチュエータを提供することができ、正逆の送り方向も自由に選択することができる。
【0021】
また、微動送りに際して入力される目標移動量が圧電素子の伸長限度に相当する駆動対象の送り量を超えている場合には、圧電素子が伸長限度に達した時点でオフセット手段を用いて柱状突起の先端を駆動力伝達面から離間させ、柱状突起先端と駆動力伝達面との不用意な接触による駆動対象の位置ずれを防止した状態で圧電素子の伸長状態を初期状態に復帰させ、改めて駆動力伝達面に柱状突起の先端を当接させて、微動指令で指示される目標移動量と圧電素子の伸長の度合いに相当する駆動対象の直線運動の量との差分を新たな目標移動量として駆動信号生成手段に入力するようにしているので、圧電素子の伸長限度に相当する直線運動の量を超える目標移動量が微動指令として入力された場合であっても、その要求に確実に対処することができる。
【0022】
柱状突起の先端を駆動力伝達面から離間させるためのオフセット手段は、第1,第2の圧電素子と、該第1,第2の圧電素子にバイアス電圧を印加するバイアス回路によって構成することが可能であり、オフセット手段を構成する他の機械的な構成要素を付加しなくても連続的な微動送り、つまり、圧電素子の伸長限度に相当する直線運動の量を超えた目標移動量の微動指令に対処することができる。
【0023】
また、第1,第2の圧電素子の基部とベースプレートとの固着位置よりもベースプレート側に設置された第3の圧電素子によってオフセット手段を構成した場合においては、圧電素子の物理的な伸長限度を駆動対象の送りのために利用できるので、1サイクルの微動送りの量を大きくすることができる。
【0024】
更に、駆動信号生成手段が非作動となっている間だけ駆動対象の停止位置を保持するロック手段を併設することで、駆動対象の微動送りを繰り返し実行するような場合でも微動指令による目標移動量を確実に達成することができ、また、駆動電力の供給を停止して駆動信号生成手段の作動を停止したような場合であっても最終的な位置決め完了位置を保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、本発明を実施するための最良の形態について、実施形態を揚げて具体的に説明する。
【0026】
図1(a)および図1(b)は本発明の圧電アクチュエータをスライダ送り機構に適用した場合の一実施形態の構成の概略について示した模式図、図2(a)および図2(b)は同実施形態の圧電アクチュエータから略T字型の弾性体と第1,第2の圧電素子を取り出して高速送りと微動送りの作用原理を簡略化して示した作用原理図、また、図3は同実施形態の圧電アクチュエータの制御部の構成を簡略化して示したブロック図である。
【0027】
この実施形態のスライダ送り機構1は、図1に示される通り、概略において、駆動対象としてのスライダ2と、スライダ2の移動方向をガイドするガイド部材3、および、スライダ2に送りを掛けるための圧電アクチュエータ4によって構成される。
【0028】
圧電アクチュエータ4の構造上の主要部は、図1に示されるように、梁状本体部5と其の長手方向略中央部の柱状突起6とから一体に形成された略T字型の弾性体7と、相互に略平行な状態で梁状本体部5の両端部に配置されて其の先端部を梁状本体部5に固着された第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZT2と、第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZT2の基部を固着したベースプレート8と、弾性体7における梁状本体部5が駆動対象であるスライダ2の送り方向つまり図1中の両端矢印Xの方向と略平行となり且つ柱状突起6がスライダ2の送り方向と略直交するような姿勢を保持して柱状突起6の先端をスライダ2の駆動力伝達面2aに向けて付勢する予圧手段9とによって構成される。
【0029】
ここでは、一例として、ベースプレート8の姿勢を保持して摺動自在にガイドするガイドピン10,10と当該ガイドピン10,10に遊嵌されて其の両端部をベースプレート8およびリジッドプレート12に当接させたコイルスプリング11,11を利用して予圧手段9を構成しているが、この種の予圧手段の構成に関しては既に様々なものが公知であり、その構成は問わない。
【0030】
図1では、説明の都合上、各部のスケールを無視してスライダ送り機構1や圧電アクチュエータ4の構造を記載しているが、実際には、弾性体7における梁状本体部5のスパンは概ね11(mm),柱状突起6の長さは概ね6(mm),第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZT2の長さは概ね9(mm),これらのパーツの厚さは3(mm)程度であり、スライダ2の大きさは一辺が50〜100(mm)といった程度である。弾性体7の材質としては、例えば炭素工具鋼のSK3や合金工具鋼のSKS3等の鋼材が適している。
【0031】
圧電アクチュエータ4の制御部13は、図3に示されるように、マイクロプロセッサ14と、マイクロプロセッサ14の制御プログラムを格納したROM15、および、演算データの一時記憶等に利用されるRAM16と、ユーザープログラム等を格納するための不揮発性メモリ17によって構成される。
【0032】
また、第1の圧電素子PZT1や第2の圧電素子PZT2を駆動するための駆動信号を生成する駆動信号生成手段18は、信号波形発生器19とアンプ20とによって構成される。
【0033】
アンプ20から出力される高速送り用駆動信号の一例を図6に示す。この高速送り用駆動信号は、第1の圧電素子PZT1もしくは第2の圧電素子PZT2の何れかを高速で伸縮運動させ、この伸縮動作と当該伸縮動作によってもたらされる柱状突起6の共振運動とによって実質的にスライダ2の送り方向に沿った方向の長軸を有する楕円運動を柱状突起6の先端部に生起させるためのものである。高速送り用駆動信号は、時間の経過に応じて一定のパターンでサイクリックに電圧を変化させる正弦波または三角波等のものであり(この実施形態では正弦波)、公知の信号波形発生器19およびアンプ20で生成し増幅することが可能である。高速送り用駆動信号の電圧や周波数は、第1の圧電素子PZT1や第2の圧電素子PZT2を振動させ、この振動と柱状突起6の共振運動とによって弾性体7における柱状突起6の先端に楕円運動を生起させるのに適した値に定める必要がある。前述した寸法および材質の弾性体7と第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZT2に合わせた場合、望ましい正弦波の電圧は60Vp−p,周波数は25〜30kHzの範囲が適当であることが実験的に求められている。
【0034】
また、アンプ20から出力される微動送り用駆動信号の一例を図7に示す。この微動送り用駆動信号は、第1の圧電素子PZT1もしくは第2の圧電素子PZT2の何れかを伸縮運動させることによって実質的にスライダ2の送り方向に沿った方向の直線運動を柱状突起6の先端部に生起させるための直流電圧である。第1の圧電素子PZT1や第2の圧電素子PZT2は入力電圧に応じて軸方向に伸縮する構造のものであるから、この微動送り用駆動信号を印加されることにより、入力電圧の大小に応じて第1の圧電素子PZT1や第2の圧電素子PZT2が伸縮する。
【0035】
ここでは、図7に示されるように、例えば、V1,V2,・・・Vi・・・,Vn(但し、この実施形態ではn=5)のn段階の直流電圧を微動送り用駆動信号として利用し、V1の微動送り用駆動信号を第1の圧電素子PZT1もしくは第2の圧電素子PZT2の何れか一方に印加した際に駆動対象であるスライダ2が基準位置からのアブソリュート量で1(nm)移動し、V2の微動送り用駆動信号を一方の圧電素子に印加した際にスライダ2が基準位置からのアブソリュート量で2(nm)、要するに、V1からV2への切り替えによってインクリメンタル量で1(nm)移動し、・・・、Viの微動送り用駆動信号を一方の圧電素子に印加した際にスライダ2が基準位置からのアブソリュート量でi(nm)、要するに、Vi−1からViへの切り替えによってインクリメンタル量で1(nm)移動し、・・・・、Vnの微動送り用駆動信号を一方の圧電素子に印加した際にスライダ2が基準位置からのアブソリュート量でn(nm)、要するに、Vn−1からVnへの切り替えによってインクリメンタル量で1(nm)移動し、Vnの微動送り用駆動信号によって当該圧電素子が伸長限度に達するものとする。
【0036】
駆動信号生成手段18を構成する信号波形発生器19およびアンプ20は、生成信号指定手段として機能するマイクロプロセッサ14から制御部13の入出力回路21を介して指令を受け、図6に示されるような高速送り用駆動信号、もしくは、図7に示されるようなn段階の微動送り用駆動信号の何れかの段の微動送り用駆動信号を生成し、送り方向切替手段として機能するリレースイッチSW0に出力する。
【0037】
送り方向切替手段として機能するリレースイッチSW0は、マイクロプロセッサ14から制御部13の入出力回路21を介して指令を受け、アンプ20から出力される駆動信号の入力先を第1の圧電素子PZT1もしくは第2の圧電素子PZT2に選択的に切り替える。
【0038】
この実施形態のオフセット手段は、第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZT2と、第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZT2に均等なバイアス電圧を印加するバイアス回路22によって構成される。オフセット手段の一部を構成するバイアス回路22は、マイクロプロセッサ14あるいは連続微動送り用制御手段として機能するマイクロプロセッサ14から制御部13の入出力回路21を介して指令を受け、第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZT2に印加しているバイアスを解除して第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子をニガシ量相当分だけ収縮させ、第1の圧電素子PZT1あるいは第2の圧電素子PZT2が伸長限度に達した状態にある柱状突起6の先端をスライダ2の駆動力伝達面2aから離間させ、また、第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZT2にバイアスを印加して第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZT2をニガシ量相当分だけ伸長させて、柱状突起6の先端をスライダ2の駆動力伝達面2aに当接させる。なお、前述の図1(a)では第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZT2に均等なバイアス電圧を印加して第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZT2をニガシ量に相当する分だけ伸長させて柱状突起6の先端をスライダ2の駆動力伝達面2aに当接させた状況を示し、図1(b)では第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZT2に印加しているバイアスを解除して第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZ2をニガシ量に相当する分だけ収縮させ、第1の圧電素子PZT1あるいは第2の圧電素子PZT2が伸長限度に達した状態にある柱状突起6の先端をスライダ2の駆動力伝達面2aから離間させた後、更に、駆動信号生成手段18の作動を停止させて、それまで伸長していた側の第1の圧電素子PZT1あるいは第2の圧電素子PZ2を完全収縮の初期状態に復帰させた状況を示している。
【0039】
手動パルス発生器23は駆動対象であるスライダ2に微動送りを掛けるための微動指令と目標移動量を入力するためのマン・マシン・インターフェイスである。手動パルス発生器23からのパルスは入出力回路21を介してマイクロプロセッサ14に入力され、手動パルス発生器23のハンドルの操作方向つまり正逆の送り方向に応じ、RAM16のレジスタの1つで構成されるパルスカウンタCに加算もしくは減算される。
【0040】
ジョグスイッチSW1は駆動対象であるスライダ2に正方向の高速送りを掛けるためのマン・マシン・インターフェイスであり、また、ジョグスイッチSW2は駆動対象であるスライダ2に逆方向の高速送りを掛けるためのマン・マシン・インターフェイスである。
【0041】
リニアスケール24は機械座標系上におけるスライダ2の現在位置をリアルタイムで検出し、この現在位置がモニタ25上に表示される。
【0042】
なお、キーボード26はユーザープログラム等の入力に用いられるマン・マシン・インターフェイスである。
【0043】
圧電アクチュエータ4の制御部13は専用のハードウェアで構成してもよいし、パーソナルコンピュータ等にプログラムをインストールすることによって制御部13の機能を持たせるようにしても構わない。
【0044】
図4〜図5はROM15に格納された制御プログラムに従ってマイクロプロセッサ14が実行する処理の概略について示したフローチャートである。
【0045】
次に、図4〜図5のフローチャートを参照して、生成信号指定手段,連続微動送り用制御手段等として機能するマイクロプロセッサ14の処理動作、および、スライダ送り機構1と圧電アクチュエータ4の動作について具体的に説明する。
【0046】
圧電アクチュエータ4の制御部13に電源が投入されると、マイクロプロセッサ14は、まず、微動送りの実行中を記憶する微動送り実行フラグFをリセットし(ステップS1)、微動送りの目標移動量を記憶するパルスカウンタCの値を0に初期化すると共に(ステップS2)、信号波形発生器19およびアンプ20からなる駆動信号生成手段18に指令する微動送り用駆動信号の電圧値を特定する電圧指定指標iの値を0に初期化する(ステップS3)。
【0047】
次いで、マイクロプロセッサ14は、ジョグスイッチSW1の操作が検知されているか否か(ステップS4)、ジョグスイッチSW2の操作が検知されているか否か(ステップS11)、手動パルス発生器23からのパルス信号の入力が検知されているか否か(ステップS16)、パルスカウンタCの現在値が0に保持されているか否かを判定するが(ステップS20)、電源投入直後の現時点では、必然的に、ステップS4,ステップS11,ステップS16の判定結果は偽、また、ステップS20の判定結果は真となるので、マイクロプロセッサ14は、ステップS4,ステップS11,ステップS16,ステップS20の判定処理のみを繰り返し実行して、ジョグスイッチSW1,ジョグスイッチSW2,手動パルス発生器23に対するユーザの操作を待つ待機状態に入る。
【0048】
ここで、ユーザがジョグスイッチSW1を操作した場合、つまり、ステップS4の判定結果が真となった場合には、駆動対象であるスライダ2に対して正方向の高速送りを掛ける意図がユーザ側にあることを意味するので、マイクロプロセッサ14は、オフセット手段の一部を構成するバイアス回路22に対してバイアス電圧の印加を開始する旨の指令を入出力回路21を介して出力し、バイアス回路22を作動させてオフセット手段の一部を構成する第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZT2に対して均等なバイアス電圧を印加させ、図1(b)に示されるような完全収縮の初期状態にある第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZ2をニガシ量相当分だけ伸長させ、弾性体7の柱状突起6の先端を図1(a)に示されるようにしてスライダ2の駆動力伝達面2aに当接させる(ステップS5)。
【0049】
このようにして柱状突起6の先端がスライダ2の駆動力伝達面2aに当接する結果、予圧手段の主要部を構成するコイルスプリング11,11が図1(a)のようにして圧縮され、弾性体7における梁状本体部5が駆動対象であるスライダ2の送り方向と略平行となり且つ柱状突起6がスライダ2の送り方向と略直交するような姿勢を保持したまま、柱状突起6の先端がスライダ2の駆動力伝達面2aに向けて付勢される。
【0050】
次いで、マイクロプロセッサ14は、送り方向切替手段として機能するリレースイッチSW0に対し、アンプ20から出力される駆動信号の入力先を第1の圧電素子PZT1に切り替える旨の指令を入出力回路21を介して出力し、アンプ20から出力される駆動信号の入力先として第1の圧電素子PZT1をリレースイッチSW0に選択させ(ステップS6)、更に、生成信号指定手段として機能するマイクロプロセッサ14が、駆動信号生成手段18の主要部を構成する信号波形発生器19に対して高速送り用駆動信号の出力を開始する旨の指令を入出力回路21を介して出力し、信号波形発生器19およびアンプ20の作動を開始させ(ステップS7)、ジョグスイッチSW1の操作が解除されたことが確認されるまでの間、この状態を維持する(ステップS8)。
【0051】
このようにしてアンプ20から出力される正弦波状の高速送り用駆動信号は、前述したバイアス電圧に重畳して第1の圧電素子PZT1に入力されることになる。
【0052】
第1の圧電素子PZT1は、入力電圧に応じて軸方向に伸縮する構造のものであるから、図6に示されるような高速送り用駆動信号を印加されることにより、第1の圧電素子PZT1に高周波の縦振動が発生し、第1の圧電素子PZT1と第2の圧電素子PZT2によって両端部を保持された略T字型の弾性体7が、第2の圧電素子PZT2との固着部を実質的な支点として高速で揺動し、弾性体7の梁状本体部5における長手方向略中央部つまり柱状突起6の基部が、第1の圧電素子PZT1の約1/2の振幅で此の縦振動の方向と概ね同様の方向に高速に振動する。
【0053】
また、弾性体7が第2の圧電素子PZT2との固着部を実質的な支点として高速で揺動する結果、弾性体7の梁状本体部5と一体に形成された柱状突起6も、梁状本体部5と一体に移動する其の基部を支点として高速で揺動し、結果として、この柱状突起6の先端が、柱状突起6の基部の縦振動の向きと略直角に交差する方向で横振動することになる。
【0054】
この横振動は、第1の圧電素子PZT1の伸縮運動によってもたらされる柱状突起6の共振運動であり、柱状突起6の基部の縦振動と柱状突起6の先端の横振動が合成される結果、柱状突起6の先端の運動軌跡は、図2(a)に示されるように、駆動対象であるスライダ2の送り方向に沿った方向の長軸Lを有する楕円運動Dとなる。
【0055】
この段階では、既に、梁状本体部5がスライダ2の送り方向と略平行となり且つ柱状突起6がスライダ2の送り方向と略直交するような姿勢を保持した状態で第1の圧電素子PZT1と第2の圧電素子PZT2のベースプレート8を押圧する予圧手段9により、柱状突起6の先端がスライダ2の駆動力伝達面2aに向けて付勢されており、このような状況下で柱状突起6先端の楕円運動Dが生起される結果、長軸Lを基準として駆動力伝達面2aに近い側の楕円軌跡Dの部分では予圧手段9の主要部を構成するコイルスプリング11,11が更に圧縮されて柱状突起6の先端と駆動力伝達面2aとの当接力が増大する一方、長軸Lを基準として駆動力伝達面2aから遠い側の楕円軌跡Dの部分では予圧手段9の主要部を構成するコイルスプリング11,11が相対的に弛緩して柱状突起6の先端と駆動力伝達面2aとの当接力が減少する。あるいは、柱状突起6の基部の縦振動の周期と予圧手段9の応答性の関係によっては、長軸Lを基準として駆動力伝達面2aに近い側の楕円軌跡Dの部分では柱状突起6の先端と駆動力伝達面2aとが当接するが、長軸Lを基準として駆動力伝達面2aに遠い側の楕円軌跡Dの部分では、予圧手段9におけるコイルスプリング11,11の伸長が間に合わずに柱状突起6の先端が駆動力伝達面2aから離間したままの状態となるといった現象も生じ得る。
【0056】
何れの場合においても、長軸Lを基準として駆動力伝達面2aに近い側の楕円軌跡D上に柱状突起6の先端が位置する状況下では、長軸Lを基準として駆動力伝達面2aに遠い側の楕円軌跡D上に柱状突起6の先端が位置する場合よりも駆動力伝達面2aに対して強い送りが掛けられることになるので、結果的に、楕円軌跡Dに沿って移動する柱状突起6の先端の移動方向によって駆動対象であるスライダ2の送り方向が決まる。図2(a)の例では、左右方向に移動可能なスライダ2の下面に形成された駆動力伝達面2aに柱状突起6の先端が当接し、柱状突起6の先端が楕円軌跡Dに沿って時計方向に移動しているので、駆動対象であるスライダ2には図1(a)中で左から右へ向かう方向すなわち正方向の送りが掛けられることなる。
【0057】
この実施形態における高速送り速度は、前述した通りの駆動条件下で概ね300(mm/s)である。
【0058】
そして、ユーザがジョグスイッチSW1から手を離し、ジョグスイッチSW1の操作が解除されたことが確認されると(ステップS8)、生成信号指定手段として機能するマイクロプロセッサ14は、駆動信号生成手段18の主要部を構成する信号波形発生器19に対して高速送り用駆動信号の出力を停止する旨の指令を入出力回路21を介して出力し、信号波形発生器19およびアンプ20の作動を停止させて第1の圧電素子PZT1の伸縮運動によってもたらされる柱状突起6の先端の楕円運動を終了させて、駆動対象であるスライダ2の送りを停止させ(ステップS9)、更に、オフセット手段の一部を構成するバイアス回路22に対してバイアス電圧の印加を終了する旨の指令を入出力回路21を介して出力し、バイアス回路22を非作動としてオフセット手段の一部を構成する第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZT2に印加していた均等なバイアス電圧を解除し、第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZ2をニガシ量相当分だけ収縮させて、弾性体7の柱状突起6の先端を図1(b)に示されるようにしてスライダ2の駆動力伝達面2aから退避させる(ステップS10)。
【0059】
柱状突起6の先端の楕円運動を終了させてからバイアスの印加を解除するまでの間は弾性体7の柱状突起6の先端がスライダ2の駆動力伝達面2aに当接しているので(ステップS9,ステップS10参照)、柱状突起6の先端の当接力が駆動力伝達面2aに対して摩擦抵抗として作用することになり、スライダ2の過剰なオーバートラベルを防止し、スライダ2を適切な位置に停止させることができる。
【0060】
一方、ステップS4,ステップS11,ステップS16,ステップS20の判定処理のみが繰り返し実行される間にステップS11の判定結果が真となった場合、つまり、ユーザによるジョグスイッチSW2の操作が検知された場合には、駆動対象であるスライダ2に対して逆方向の高速送りを掛ける意図がユーザ側にあることを意味する。
【0061】
この場合、マイクロプロセッサ14は、オフセット手段の一部を構成するバイアス回路22に対してバイアス電圧の印加を開始する旨の指令を入出力回路21を介して出力し、バイアス回路22を作動させてオフセット手段の一部を構成する第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZT2に対して均等なバイアス電圧を印加させ、図1(b)のような完全収縮の初期状態にある第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZ2をニガシ量相当分だけ伸長させ、弾性体7の柱状突起6の先端を図1(a)に示されるようにしてスライダ2の駆動力伝達面2aに当接させる(ステップS12)。
【0062】
次いで、マイクロプロセッサ14は、送り方向切替手段として機能するリレースイッチSW0に対し、アンプ20から出力される駆動信号の入力先を第2の圧電素子PZT2に切り替える旨の指令を入出力回路21を介して出力し、アンプ20から出力される駆動信号の入力先として第2の圧電素子PZT2をリレースイッチSW0に選択させ(ステップS13)、更に、生成信号指定手段として機能するマイクロプロセッサ14が、駆動信号生成手段18の主要部を構成する信号波形発生器19に対して高速送り用駆動信号の出力を開始する旨の指令を入出力回路21を介して出力し、信号波形発生器19およびアンプ20の作動を開始させ(ステップS14)、ジョグスイッチSW2の操作が解除されたことが確認されるまでの間、この状態を維持する(ステップS15)。
【0063】
このようにしてアンプ20から出力される正弦波状の高速送り用駆動信号は、前述したバイアス電圧に重畳して第2の圧電素子PZT2に入力されることになる。
【0064】
第2の圧電素子PZT2は、入力電圧に応じて軸方向に伸縮する構造のものであるから、図6に示されるような高速送り用駆動信号を印加されることにより、第2の圧電素子PZT2に高周波の縦振動が発生し、第1の圧電素子PZT1と第2の圧電素子PZT2によって両端部を保持された略T字型の弾性体7が、第1の圧電素子PZT1との固着部を実質的な支点として高速で揺動し、弾性体7の梁状本体部5における長手方向略中央部つまり柱状突起6の基部が、第2の圧電素子PZT2の約1/2の振幅で此の縦振動の方向と概ね同様の方向に高速に振動する。
【0065】
また、弾性体7が第1の圧電素子PZT1との固着部を実質的な支点として高速で揺動する結果、弾性体7の梁状本体部5と一体に形成された柱状突起6も、梁状本体部5と一体に移動する其の基部を支点として高速で揺動し、結果として、この柱状突起6の先端が、柱状突起6の基部の縦振動の向きと略直角に交差する方向で横振動することになる。
【0066】
この横振動は、第2の圧電素子PZT2の伸縮運動によってもたらされる柱状突起6の共振運動であり、柱状突起6の基部の縦振動と柱状突起6の先端の横振動が合成される結果、柱状突起6の先端の運動軌跡は、駆動対象であるスライダ2の送り方向に沿った方向の長軸Lを有する楕円運動Dとなる。但し、この場合は、駆動対象となる圧電素子が圧電素子PZT2であるから、柱状突起6の先端の移動方向は図2(a)とは逆に楕円軌跡Dに沿って反時計方向となる。
【0067】
前記と同様、梁状本体部5がスライダ2の送り方向と略平行となり且つ柱状突起6がスライダ2の送り方向と略直交するような姿勢を保持した状態で第1の圧電素子PZT1と第2の圧電素子PZT2のベースプレート8を押圧する予圧手段9により、柱状突起6の先端がスライダ2の駆動力伝達面2aに向けて付勢されており、このような状況下で柱状突起6先端の楕円運動Dが生起される結果、長軸Lを基準として駆動力伝達面2aに近い側の楕円軌跡Dの部分では予圧手段9の主要部を構成するコイルスプリング11,11が更に圧縮されて柱状突起6の先端と駆動力伝達面2aとの当接力が増大する一方、長軸Lを基準として駆動力伝達面2aから遠い側の楕円軌跡Dの部分では予圧手段9の主要部を構成するコイルスプリング11,11が相対的に弛緩して柱状突起6の先端と駆動力伝達面2aとの当接力が減少する。あるいは、柱状突起6の基部の縦振動の周期と予圧手段9の応答性の関係によっては、長軸Lを基準として駆動力伝達面2aに近い側の楕円軌跡Dの部分では柱状突起6の先端と駆動力伝達面2aとが当接するが、長軸Lを基準として駆動力伝達面2aに遠い側の楕円軌跡Dの部分では、予圧手段9におけるコイルスプリング11,11の伸長が間に合わずに柱状突起6の先端が駆動力伝達面2aから離間したままの状態となるといった現象も生じ得る。
【0068】
何れの場合においても、長軸Lを基準として駆動力伝達面2aに近い側の楕円軌跡D上に柱状突起6の先端が位置する状況下では、長軸Lを基準として駆動力伝達面2aに遠い側の楕円軌跡D上に柱状突起6の先端が位置する場合よりも駆動力伝達面2aに対して強い送りが掛けられることになるので、結果的に、楕円軌跡Dに沿って移動する柱状突起6の先端の移動方向によって駆動対象であるスライダ2の送り方向が決まる。この場合は、柱状突起6の先端が楕円軌跡Dに沿って反時計方向に移動しているので、駆動対象であるスライダ2には図1(a)中で右から左へ向かう方向すなわち逆方向の送りが掛けられることなる。
【0069】
つまり、第1の圧電素子PZT1と第2の圧電素子PZT2は相互に平行な状態で梁状本体部5の両端部に配置されており、梁状本体部5の長手方向略中央部に形成された柱状突起6から見れば第1の圧電素子PZT1と第2の圧電素子PZT2の配設位置は対称であり、第1の圧電素子PZT1を駆動信号の入力先として選択した場合であっても第2の圧電素子PZT2を駆動信号の入力先として選択した場合であっても高速送り用駆動信号の特性自体は同一であるから、第1の圧電素子PZT1を駆動信号の入力先として選択するか第2の圧電素子PZT2を駆動信号の入力先として選択するかは、非作動側の圧電素子である第2の圧電素子PZT2の先端を支点として梁状本体部5を高速に揺動させるか非作動側の圧電素子である第1の圧電素子PZT1の先端を支点として梁状本体部5を高速に揺動させるかの相違に過ぎない。ここで、第1の圧電素子PZT1と第2の圧電素子PZT2の違いを無視すれば、図2(a)に示されるようにして第1の圧電素子PZT1,第2の圧電素子PZT2,梁状本体部5,柱状突起6を含む仮想平面の表側から第1の圧電素子PZT1,第2の圧電素子PZT2,梁状本体部5,柱状突起6を見た場合であっても、図2(a)を左右に反転して当該仮想平面の裏側から第1の圧電素子PZT1,第2の圧電素子PZT2,梁状本体部5,柱状突起6を見た場合であっても、その動作状態は完全に同一である。従って、第1の圧電素子PZT1を駆動信号の入力先として選択するか第2の圧電素子PZT2を駆動信号の入力先として選択するかを送り方向切替手段であるリレースイッチSW0によって切り替えることで、楕円軌跡Dに沿って移動する柱状突起6先端の移動方向を反転することが可能であり、これにより駆動対象であるスライダ2の送り方向を正逆に切り替えることができる。
【0070】
第2の圧電素子PZT2と第1の圧電素子PZT1は完全に均等な構造であるから、逆方向の高速送り速度は正方向の高速送り速度と同様に概ね300(mm/s)である。
【0071】
第1の圧電素子PZT1と第2の圧電素子PZT2の間に弾性体7の梁状本体部5の全長に匹敵する間隔をおいて第1の圧電素子PZT1と第2の圧電素子PZT2を相互に略平行な状態で配置しているので、何れか一方の圧電素子を伸縮させても他方の圧電素子を屈曲させる力は殆ど作用せず、第1の圧電素子PZT1と第2の圧電素子PZT2の屈曲による疲労の発生が大幅に軽減される。また、第1の圧電素子PZT1と第2の圧電素子PZT2の先端に両端部を固着された弾性体7の梁状本体部5は、従来公知のブロック状の変位合成部のようなものとは違い、スパンの長い梁状に形成されており、且つ、弾性変形が容易であるから、何れか一方の圧電素子を伸縮させても容易に弾性変形して応力を分散させることができ、強い曲げモーメントや剪断力が作用することはないので、第1の圧電素子PZT1や第2の圧電素子PZT2と梁状本体部5との間の接続箇所に破断が生じる心配は殆どなく、圧電アクチュエータ4に十分な耐久性を持たせることが可能である。
【0072】
そして、ユーザがジョグスイッチSW2から手を離し、ジョグスイッチSW2の操作が解除されたことが確認されると(ステップS15)、生成信号指定手段として機能するマイクロプロセッサ14は、駆動信号生成手段18の主要部を構成する信号波形発生器19に対して高速送り用駆動信号の出力を停止する旨の指令を入出力回路21を介して出力し、信号波形発生器19およびアンプ20の作動を停止させて第2の圧電素子PZT2の伸縮運動によってもたらされる柱状突起6の先端の楕円運動を終終了させて、駆動対象であるスライダ2の送りを停止させ(ステップS9)、更に、オフセット手段の一部を構成するバイアス回路22に対してバイアス電圧の印加を終了する旨の指令を入出力回路21を介して出力し、バイアス回路22を非作動としてオフセット手段の一部を構成する第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZT2に印加していた均等なバイアス電圧を解除し、第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZ2をニガシ量相当分だけ収縮させて、弾性体7の柱状突起6の先端を図1(b)に示されるようにしてスライダ2の駆動力伝達面2aから退避させる(ステップS10)。
【0073】
これに対し、ステップS4,ステップS11,ステップS16,ステップS20の判定処理のみが繰り返し実行される間にステップS16の判定結果が真となった場合、つまり、ユーザによる手動パルス発生器23のハンドル操作が検知された場合には、マイクロプロセッサ14は、手動パルス発生器23のハンドルの操作方向つまり正逆の送り方向に応じ(ステップS17)、RAM16のレジスタの1つで構成されるパルスカウンタCの値を1インクリメントし(ステップS18)、または、1ディクリメントする(ステップS19)。
【0074】
手動パルス発生器23のハンドルが連続的に正方向に操作されればパルスカウンタCの値は連続的にインクリメントされ(ステップS17,ステップS18,ステップS4,ステップS11,ステップS16参照)、また、手動パルス発生器23のハンドルが連続的に逆行方向に操作されればパルスカウンタCの値は連続的にディクリメントされる(ステップS17,ステップS19,ステップS4,ステップS11,ステップS16参照)。
【0075】
手動パルス発生器23のハンドル操作で出力されるパルスが実質的な微動指令であり、パルスカウンタCに記憶される符号は駆動対象であるスライダ2の送り方向を表す値である。
また、パルスカウンタCに記憶されるパルス数の絶対値が実質的な目標移動量であり、この実施形態では、1パルス分に相当する目標移動量は1(nm)である。
【0076】
手動パルス発生器23が操作され、パルスカウンタCに0以外の値が微動送りの目標移動量としてセットされると、ステップS4,ステップS11,ステップS16,ステップS20の判定処理を繰り返し実行しているマイクロプロセッサ14は、ステップS20の判定処理で、正逆いずれかの微動指令が入力されたことを検知する。
【0077】
パルスカウンタCに0以外の値がセットされたことを検知したマイクロプロセッサ14は(ステップS20)、まず、パルスカウンタCの値が正の値であるか否か、つまり、この微動指令がスライダ2に正方向の微動送りを掛けるためのものであるか否かを判定する(ステップS21)。
【0078】
ステップS21の判定結果が真となって正方向の微動送りであることが明らかとなった場合には、マイクロプロセッサ14は、まず、微動送り実行フラグFがセットされているか否か、すなわち、この時点で既に正方向もしくは逆方向へのスライダ2の微動送りが開始されているか否かを判定する(ステップS22)。
【0079】
ステップS22の判定結果が真となり、現時点では未だスライダ2の微動送りが開始されていないことが明らかとなった場合には、マイクロプロセッサ14は、オフセット手段の一部を構成するバイアス回路22に対してバイアス電圧の印加を開始する旨の指令を入出力回路21を介して出力し、バイアス回路22を作動させてオフセット手段の一部を構成する第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZT2に対して均等なバイアス電圧を印加させ、図1(b)に示されるような完全収縮の初期状態にある第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZ2をニガシ量相当分だけ伸長させ、弾性体7の柱状突起6の先端を図1(a)に示されるようにしてスライダ2の駆動力伝達面2aに当接させる(ステップS23)。
【0080】
次いで、マイクロプロセッサ14は、送り方向切替手段として機能するリレースイッチSW0に対し、アンプ20から出力される駆動信号の入力先を第1の圧電素子PZT1に切り替える旨の指令を入出力回路21を介して出力し、アンプ20から出力される駆動信号の入力先として第1の圧電素子PZT1をリレースイッチSW0に選択させ(ステップS24)、微動送り実行フラグFをセットすることにより、スライダ2の微動送りが開始されたことを記憶する(ステップS25)。
【0081】
そして、生成信号指定手段として機能するマイクロプロセッサ14が、電圧指定指標iの値を1インクリメントし(ステップS26)、該指標iの現在値が第1の圧電素子PZT1や第2の圧電素子PZT2の伸長限度に相当する電圧の指標値n(この実施例ではn=5)に達しているか否かを判定する(ステップS27)。
【0082】
第1の圧電素子PZT1や第2の圧電素子PZT2の伸長限度に相当する電圧は図7に示されるV5の微動送り用駆動信号であるが、この電圧V5は前述したバイアス電圧を除いた値であるから、第1の圧電素子PZT1や第2の圧電素子PZT2の伸長限度に相当する真の電圧と比較すれば、バイアス電圧に相当する分だけV5の電位の方が低い。
例えば、第1の圧電素子PZT1や第2の圧電素子PZT2の伸長限度に相当する真の電圧がVmaxであって第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZT2のバイアス電圧がV0であるとすれば、V5=Vnの値は実際にはVmax−V0であり、V5にバイアス電圧V0を加算した電圧が第1の圧電素子PZT1や第2の圧電素子PZT2の伸長限度に相当する真の電圧Vmaxとなる(バイアス電圧に重畳して微動送り用駆動信号Viを出力するようにしているため)。
【0083】
ここで、ステップS27の判定結果が偽となり、指標iの現在値が伸長限度に相当する電圧の指標値nに達していないことが明らかとなった場合には、この時点では未だ微動送り用駆動信号Viを出力することで第1の圧電素子PZT1を伸長させてスライダ2に正方向の送りを掛けることが可能であることを意味するので、生成信号指定手段として機能するマイクロプロセッサ14は、駆動信号生成手段18の主要部を構成する信号波形発生器19に対して微動送り用駆動信号のうち指標iの現在値に対応する微動送り用駆動信号Viの出力を開始する旨の指令を入出力回路21を介して出力し、信号波形発生器19およびアンプ20を作動させ、アンプ20から出力される電圧Viの微動送り用駆動信号を第1の圧電素子PZT1に印加する(ステップS28)。
【0084】
微動送り実行フラグFをセットした直後の現時点では電圧指定指標iの値は0から1に更新されているから、第1の圧電素子PZT1には電圧V1の微動送り用駆動信号が印加され、この微動送り用駆動信号V1に略比例して第1の圧電素子PZT1が伸長し、第1の圧電素子PZT1と第2の圧電素子PZT2によって両端部を保持された弾性体7の梁状本体部5が、第2の圧電素子PZT2との固着部を実質的な支点として揺動し、弾性体7の梁状本体部5における長手方向略中央部つまり柱状突起6の基部が、第1の圧電素子PZT1の伸長量の約1/2の移動量で第1の圧電素子PZT1の伸長方向と概ね同様の方向に移動し、また、弾性体7が第2の圧電素子PZT2との固着部を実質的な支点として揺動する結果、弾性体7の梁状本体部5と一体に形成された柱状突起6が梁状本体部5と一体に揺動し、その先端が第1の圧電素子PZT1の伸長方向と交差する方向に僅かに移動する。この移動のうち第1の圧電素子PZT1の伸長方向と直交する方向の移動量、つまり、図2(b)中に示される両端矢印Xの正方向の移動量が、実質的にスライダ2の送り方向に沿った方向の直線運動である。
【0085】
この段階では、既に、梁状本体部5がスライダ2の送り方向と略平行となり且つ柱状突起6がスライダ2の送り方向と略直交するような姿勢を保持した状態で第1の圧電素子PZT1と第2の圧電素子PZT2のベースプレート8を押圧する予圧手段9により、柱状突起6の先端がスライダ2の駆動力伝達面2aに向けて付勢されており、このような状況下で柱状突起6先端の直線運動が生起される結果、スライダ2の駆動力伝達面2aにはV1の電圧の印加に対応した1(nm)相当の正方向の送りが掛けられ、同時に、駆動力伝達面2aと接離する方向の柱状突起6の基部の移動量つまり第1の圧電素子PZT1の伸長量の約1/2に相当する移動量だけ、予圧手段9のコイルスプリング11,11の付勢力に抗してベースプレート8が駆動力伝達面2aから離間する方向に移動する。
【0086】
次いで、マイクロプロセッサ14は、パルスカウンタCの値を1ディクリメントして、手動パルス発生器23の1パルス分の指令に対応する1(nm)の正方向の微動送りが行なわれたことを記憶する(ステップS29)。つまり、目標移動量と第1の圧電素子PZT1の伸長の度合に対応したスライダ2の直線移動量との差分が新たな目標移動量としてパルスカウンタCに更新して記憶されることになる。
【0087】
そして、マイクロプロセッサ14は、パルスカウンタCの現在値が0までディクリメントされているか否か、つまり、手動パルス発生器23で指令された微動送りが全て完了しているか否かを判定する(ステップS30)。
【0088】
パルスカウンタCの現在値が0となっていなければ、スライダ2の微動送りを継続して行なう必要があることを意味するので、マイクロプロセッサ14は、再びステップS4の判定処理に復帰し、ステップS4,ステップS11,ステップS16,ステップS20,ステップS21の判定処理を実行した後、改めて、微動送り実行フラグFがセットされているか否かを判定するが(ステップS22)、この時点では既に正方向へのスライダ2の微動送りが開始されており微動送り実行フラグFがセットされているので、ステップS22の判定結果は偽となる。
【0089】
従って、生成信号指定手段として機能するマイクロプロセッサ14は、電圧指定指標iの値を1インクリメントし(ステップS26)、該指標iの現在値が第1の圧電素子PZT1や第2の圧電素子PZT2の伸長限度に相当する電圧の指標値nに達しているか否かを判定する(ステップS27)。
【0090】
電圧指定指標iの現在値が指標値nに達していなければ、前記と同様、この時点では未だ微動送り用駆動信号Viを出力することで第1の圧電素子PZT1を伸長させてスライダ2に正方向の送りを掛けることが可能であることを意味するので、生成信号指定手段として機能するマイクロプロセッサ14は、駆動信号生成手段18の主要部を構成する信号波形発生器19に対して微動送り用駆動信号のうち指標iの現在値に対応する微動送り用駆動信号Viの出力を開始する旨の指令を入出力回路21を介して出力し、信号波形発生器19およびアンプ20を作動させ、アンプ20から出力される電圧Viの微動送り用駆動信号を第1の圧電素子PZT1に印加させる(ステップS28)。
【0091】
このようにして、ステップS26の処理で逐次的に更新される電圧指定指標iの現在値に基いて電圧Viの微動送り用駆動信号を第1の圧電素子PZT1に対してステップ状に増加させて印加していくことにより、Vi−1からViへの切り替えの度に、インクリメンタル量にして1(nm)相当の正方向の送りがスライダ2に掛けられることになる。
【0092】
そして、マイクロプロセッサ14は、前記と同様、パルスカウンタCの値を1ディクリメントし、手動パルス発生器23の1パルス分の指令に対応する1(nm)の正方向の微動送りが行なわれたことを記憶した後(ステップS29)、パルスカウンタCの現在値が0までディクリメントされているか否か、つまり、手動パルス発生器23で指令された微動送りが全て完了しているか否かを判定する(ステップS30)。
【0093】
以下、前記と同様にして、ステップS4,ステップS11,ステップS16,ステップS20〜ステップS22,ステップS26〜ステップS30の処理が繰り返し実行され、第1の圧電素子PZT1の伸長限度に相当する電圧Vnの範囲を限度としてスライダ2に正方向の微動送りが掛けられる。
【0094】
従って、この実施形態では、第1の圧電素子PZT1の1サイクル分の伸長動作でn(nm)=5(nm)の微動送りが可能である。
【0095】
しかし、第1の圧電素子PZT1の1サイクル分の伸長動作が完了してn(nm)=5(nm)の微動送りが行なわれて第1の圧電素子PZT1が伸長限度に達してもパルスカウンタCの現在値が0までディクリメントされない場合、つまり、パルスカウンタCにn=5パルスを超える目標移動量の微動指令が記憶されているといった場合もあり得る。
【0096】
このような場合、第1の圧電素子PZT1を更に伸長させてスライダ2に正方向の送りを掛けるといったことはできない。
【0097】
そこで、ステップS4,ステップS11,ステップS16,ステップS20〜ステップS22,ステップS26〜ステップS30の処理を繰り返し実行してスライダ2に正方向の微動送りを掛ける間にステップS27の判定結果が真となった場合、つまり、第1の圧電素子PZT1が伸長限度に達しているにも関わらず更にスライダ2に正方向の微動送りを掛ける必要があることが判明した場合においては、連続微動送り用制御手段として機能するマイクロプロセッサ14は、まず、オフセット手段の一部を構成するバイアス回路22に対してバイアス電圧の印加を終了する旨の指令を入出力回路21を介して出力し、バイアス回路22を非作動としてオフセット手段の一部を構成する第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZT2に印加していた均等なバイアス電圧を解除し、第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZ2をニガシ量相当分だけ収縮させて、第1の圧電素子PZT1が伸長限度に達した状態にある柱状突起6の先端をスライダ2の駆動力伝達面2aから離間させる(ステップS31)。
【0098】
この際、第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZ2はニガシ量相当分だけ同時に収縮するので、柱状突起6の先端は第1の圧電素子PZT1が伸長限度に達した状態、つまり、図2(b)に破線で示されるような揺動状態を保持したまま駆動力伝達面2aから離間することになり、スライダ2の送り方向に沿って柱状突起6の先端が移動することはないので、柱状突起6の退避動作に際して駆動力伝達面2aに柱状突起6の先端が干渉してスライダ2に余計な送りが掛けられたり、スライダ2が送り方向と逆行する方向に引き戻されたりするといった弊害は生じない。
【0099】
次いで、連続微動送り用制御手段として機能するマイクロプロセッサ14は、駆動信号生成手段18の主要部を構成する信号波形発生器19に対して微動送り用駆動信号Vn=V5の出力を停止する旨の指令を入出力回路21を介して出力し、信号波形発生器19およびアンプ20の作動を停止させて第1の圧電素子PZT1の伸長状態を完全収縮の初期状態に復帰させる(ステップS32)。
【0100】
この時点では既に柱状突起6の先端が駆動力伝達面2aから図1(b)に示されるようにして離間しているので、柱状突起6先端の揺動状態を初期状態に復帰させても、駆動力伝達面2aに柱状突起6の先端が干渉してスライダ2に余計な送りが掛けられたり、スライダ2が送り方向と逆行する方向に引き戻されたりするといった心配はない。
【0101】
次いで、連続微動送り用制御手段として機能するマイクロプロセッサ14は、微動送り用駆動信号の電圧値を特定する電圧指定指標iの値を0に初期化すると共に(ステップS33)、微動送り実行フラグFをリセットし(ステップS34)、再びステップS4の判定処理に復帰して、ステップS4,ステップS11,ステップS16,ステップS20,ステップS21の判定処理を実行した後、改めて、微動送り実行フラグFがセットされているか否かを判定するが(ステップS22)、この場合は、前述したステップS34の処理で微動送り実行フラグFがリセットされているため、ステップS22の判定結果は真となる。
【0102】
従って、連続微動送り用制御手段として機能するマイクロプロセッサ14は、改めてオフセット手段の一部を構成するバイアス回路22に対してバイアス電圧の印加を開始する旨の指令を入出力回路21を介して出力し、バイアス回路22を作動させてオフセット手段の一部を構成する第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZT2に対して均等なバイアス電圧を印加させ、図1(b)に示されるような完全収縮の初期状態にある第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZ2をニガシ量相当分だけ伸長させ、弾性体7の柱状突起6の先端を図1(a)に示されるようにしてスライダ2の駆動力伝達面2aに当接させる(ステップS23)。
【0103】
次いで、マイクロプロセッサ14は、送り方向切替手段として機能するリレースイッチSW0に対し、アンプ20から出力される駆動信号の入力先を第1の圧電素子PZT1に切り替える旨の指令を入出力回路21を介して出力し、アンプ20から出力される駆動信号の入力先として第1の圧電素子PZT1をリレースイッチSW0に選択させ(ステップS24)、微動送り実行フラグFを改めてセットする(ステップS25)。
【0104】
次いで、生成信号指定手段として機能するマイクロプロセッサ14が、電圧指定指標iの値を1インクリメントし(ステップS26)、該指標iの現在値が第1の圧電素子PZT1や第2の圧電素子PZT2の伸長限度に相当する電圧の指標値n(この実施例ではn=5)に達しているか否かを判定する(ステップS27)。
【0105】
この時点では、前述したステップS33の処理で一旦0に初期化された電圧指定指標iの値が改めて1に更新されているのでステップS27の判定結果は偽となり、生成信号指定手段として機能するマイクロプロセッサ14は、駆動信号生成手段18の主要部を構成する信号波形発生器19に対して微動送り用駆動信号のうち指標i=1に対応する微動送り用駆動信号V1の出力を開始する旨の指令を入出力回路21を介して出力し、信号波形発生器19およびアンプ20を作動させ、アンプ20から出力される電圧V1の微動送り用駆動信号を第1の圧電素子PZT1に印加し(ステップS28)、スライダ2の駆動力伝達面2aに更に1(nm)相当の正方向の送りを掛ける。
【0106】
次いで、マイクロプロセッサ14は、パルスカウンタCの値を1ディクリメントし、手動パルス発生器23の1パルス分の指令に対応する1(nm)の正方向の微動送りが行なわれたことを記憶する(ステップS29)。つまり、目標移動量と第1の圧電素子PZT1の伸長の度合に対応したスライダ2の直線移動量との差分が新たな目標移動量としてパルスカウンタCに更新して記憶される。
【0107】
そして、マイクロプロセッサ14は、パルスカウンタCの現在値が0までディクリメントされているか否か、つまり、手動パルス発生器23で指令された微動送りが全て完了しているか否かを判定する(ステップS30)。
【0108】
パルスカウンタCの現在値が0となっていなければ、スライダ2の微動送りを継続して行なう必要があることを意味するので、マイクロプロセッサ14は、再びステップS4の判定処理に復帰し、ステップS4,ステップS11,ステップS16,ステップS20,ステップS21の判定処理を実行した後、改めて、微動送り実行フラグFがセットされているか否かを判定するが(ステップS22)、この時点では既に微動送り実行フラグFがセットされているので、ステップS22の判定結果は偽となる。
【0109】
従って、生成信号指定手段として機能するマイクロプロセッサ14は、電圧指定指標iの値を1インクリメントし(ステップS26)、該指標iの現在値が第1の圧電素子PZT1や第2の圧電素子PZT2の伸長限度に相当する電圧の指標値nに達しているか否かを判定する(ステップS27)。
【0110】
電圧指定指標iの現在値が指標値nに達していなければ、前記と同様、この時点では未だ微動送り用駆動信号Viを出力することで第1の圧電素子PZT1を伸長させてスライダ2に正方向の送りを掛けることが可能であることを意味するので、生成信号指定手段として機能するマイクロプロセッサ14は、駆動信号生成手段18の主要部を構成する信号波形発生器19に対して微動送り用駆動信号のうち指標iの現在値に対応する微動送り用駆動信号Viの出力を開始する旨の指令を入出力回路21を介して出力し、信号波形発生器19およびアンプ20を作動させ、アンプ20から出力される電圧Viの微動送り用駆動信号を第1の圧電素子PZT1に印加する(ステップS28)。
【0111】
このようにして、ステップS26の処理で逐次的に更新される電圧指定指標iの現在値に基いて電圧Viの微動送り用駆動信号を第1の圧電素子PZT1に印加していくことにより、Vi−1からViへの切り替えの度に、インクリメンタル量にして更に1(nm)相当の正方向の送りがスライダ2に掛けられることになる。
【0112】
そして、マイクロプロセッサ14は、前記と同様、パルスカウンタCの値を1ディクリメントし、手動パルス発生器23の1パルス分の指令に対応する1(nm)の正方向の微動送りが行なわれたことを記憶した後(ステップS29)、パルスカウンタCの現在値が0までディクリメントされているか否か、つまり、手動パルス発生器23で指令された微動送りが全て完了しているか否かを判定する(ステップS30)。
【0113】
微動送りが完了しておらずパルスカウンタCの現在値が0までディクリメントされていいない場合には、前記と同様にして、ステップS4,ステップS11,ステップS16,ステップS20〜ステップS22,ステップS26〜ステップS30の処理が繰り返し実行され、第1の圧電素子PZT1の伸長限度に相当する電圧Vnの範囲内でスライダ2に正方向の微動送りが掛けられる。
【0114】
そして、第1の圧電素子PZT1が伸長限度に達した場合には、既に述べたようにして、連続微動送り用制御手段として機能するマイクロプロセッサ14がステップS31〜ステップS34の処理を実行し、第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZ2をニガシ量相当分だけ収縮させて柱状突起6の先端をスライダ2の駆動力伝達面2aから離間させ、第1の圧電素子PZT1の伸長状態を初期状態に復帰させてから、第1の圧電素子PZT1の新たな1サイクル分の伸長動作によってn(nm)=5(nm)の範囲でスライダ2に微動送りを掛ける。
【0115】
このような処理を繰り返し実行することにより、手動パルス発生器23の連続操作でパルスカウンタCに大きな値の目標移動量が設定された場合であっても、スライダ2に対する連続的な正方向の微動送りを継続して行なうことが可能となる。
【0116】
つまり、信号波形発生器19およびアンプ20からなる駆動信号生成手段18それ自体は、第1の圧電素子PZT1に印加される微動送り用駆動信号の電圧Viと最終的なスライダ2の直線運動の量i(nm)との関係に基いて、第1の圧電素子PZT1の伸長限度に相当する電圧Vnの範囲を上限とし、微動指令の目標移動量Cのうち第1の圧電素子PZT1の1サイクルの伸長動作で達成可能な送り量n(nm)の範囲で、送り量i(nm)(但し、i≦n)に略比例した電圧の微動送り用駆動信号Viを生成するに過ぎないが、微動指令の目標移動量Cが第1の圧電素子PZT1の1サイクルの動作の伸長限度に相当する最終的なスライダ2の直線運動の量n(nm)を超える場合には、第1の圧電素子PZT1が伸長限度に達した時点で、連続微動送り用制御手段として機能するマイクロプロセッサ14からの指令により、柱状突起6の先端を駆動力伝達面2aから離間させ、アンプ20からの駆動信号Viの出力を停止させて第1の圧電素子PZT1の伸長状態を初期状態に復帰させ、柱状突起6の先端を改めて駆動力伝達面2aに当接させて、当初の微動指令Cと第1の圧電素子PZT1の伸長限度に相当する最終的なスライダ2の直線運動の量n(nm)との差分C−nを新たな目標移動量Cとした上で、駆動信号生成手段18を再び作動させるといった処理操作をC≦nとなるまで繰り返し実行することで、スライダ2に対する連続的な正方向の微動送りが実現されるということである。
なお、この実施形態では、図7に示す通り、微動送り用駆動信号Viを第1の圧電素子PZT1に対してステップ状に増加させて印加していく構成、つまり、目標移動量Cの大小に関わりなくスライダ2の微動送り速度(単位時間当たりの送り量)を一定とする構成を採用しているので、実際には、当初の微動指令Cとスライダ2の直線運動の量n(nm)との差分C−nを求める処理は、ステップS29に示されるように、C←C−1の処理をn回続けて繰り返すことで実現している。
【0117】
そして、最終的に、パルスカウンタCの値が0にまでディクリメントされたことがステップS30の判定処理で検知され、手動パルス発生器23で指令された微動送りが全て完了したことが確認されると、マイクロプロセッサ14は、オフセット手段の一部を構成するバイアス回路22に対してバイアス電圧の印加を終了する旨の指令を入出力回路21を介して出力し、バイアス回路22を非作動としてオフセット手段の一部を構成する第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZT2に印加していた均等なバイアス電圧を解除し、第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZ2をニガシ量相当分だけ収縮させて柱状突起6の先端をスライダ2の駆動力伝達面2aから離間させ(ステップS31)、更に、駆動信号生成手段18の主要部を構成する信号波形発生器19に対して微動送り用駆動信号Viの出力を停止する旨の指令を入出力回路21を介して出力し、信号波形発生器19およびアンプ20の作動を停止させて第1の圧電素子PZT1の伸長状態を初期状態に復帰させて(ステップS32)、電圧指定指標iの値を0に初期化し(ステップS33)、微動送り実行フラグFをリセットして(ステップS34)、スライダ2に対する正方向の微動送りを終了する。
【0118】
パルスカウンタCの値が0に復帰した後はステップS21以降の処理は非実行とされるので、スライダ2に不用意な送りが掛けられることはない。
【0119】
一方、パルスカウンタCに0以外の値が目標移動量としてセットされたことがステップS20の判定処理で検出され、更に、ステップS21の判定結果が偽となってパルスカウンタCの値が負の値であることが明らかとなった場合には、ユーザがスライダ2に対して逆方向の微動送りを掛けようとしていることを意味する。
【0120】
この場合、マイクロプロセッサ14は、まず、微動送り実行フラグFがセットされているか否か、すなわち、この時点で既にスライダ2の微動送りが開始されているか否かを判定する(ステップS35)。
【0121】
ステップS35の判定結果が真となり、現時点では未だスライダ2の微動送りが開始されていないことが明らかとなった場合には、マイクロプロセッサ14は、オフセット手段の一部を構成するバイアス回路22に対してバイアス電圧の印加を開始する旨の指令を入出力回路21を介して出力し、バイアス回路22を作動させてオフセット手段の一部を構成する第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZT2に対して均等なバイアス電圧を印加させ、図1(b)に示されるような完全収縮の初期状態にある第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZ2をニガシ量相当分だけ伸長させ、弾性体7の柱状突起6の先端を図1(a)に示されるようにしてスライダ2の駆動力伝達面2aに当接させる(ステップS36)。
【0122】
次いで、マイクロプロセッサ14は、送り方向切替手段として機能するリレースイッチSW0に対し、アンプ20から出力される駆動信号の入力先を第2の圧電素子PZT2に切り替える旨の指令を入出力回路21を介して出力し、アンプ20から出力される駆動信号の入力先として第2の圧電素子PZT2をリレースイッチSW0に選択させ(ステップS37)、微動送り実行フラグFをセットすることにより、スライダ2の微動送りが開始されたことを記憶する(ステップS38)。
【0123】
そして、生成信号指定手段として機能するマイクロプロセッサ14が、電圧指定指標iの値を1インクリメントし(ステップS39)、該指標iの現在値が第1の圧電素子PZT1や第2の圧電素子PZT2の伸長限度に相当する電圧の指標値n(この実施例ではn=5)に達しているか否かを判定する(ステップS40)。
【0124】
ここで、ステップS40の判定結果が偽となり、指標iの現在値が伸長限度に相当する電圧の指標値nに達していないことが明らかとなった場合には、この時点では未だ微動送り用駆動信号Viを出力することで第2の圧電素子PZT2を伸長させてスライダ2に逆方向の送りを掛けることが可能であることを意味するので、生成信号指定手段として機能するマイクロプロセッサ14は、駆動信号生成手段18の主要部を構成する信号波形発生器19に対して微動送り用駆動信号のうち指標iの現在値に対応する微動送り用駆動信号Viの出力を開始する旨の指令を入出力回路21を介して出力し、信号波形発生器19およびアンプ20を作動させ、アンプ20から出力される電圧Viの微動送り用駆動信号を第2の圧電素子PZT2に印加する(ステップS41)。
【0125】
微動送り実行フラグFをセットした直後の現時点では電圧指定指標iの値は0から1に更新されているから、第2の圧電素子PZT2には電圧V1の微動送り用駆動信号が印加され、この微動送り用駆動信号V1に略比例して第2の圧電素子PZT2が伸長し、第1の圧電素子PZT1と第2の圧電素子PZT2によって両端部を保持された弾性体7の梁状本体部5が、第1の圧電素子PZT1との固着部を実質的な支点として揺動し、弾性体7の梁状本体部5における長手方向略中央部つまり柱状突起6の基部が、第2の圧電素子PZT2の伸長量の約1/2の移動量で第2の圧電素子PZT2の伸長方向と概ね同様の方向に移動し、また、弾性体7が第1の圧電素子PZT1との固着部を実質的な支点として揺動する結果、弾性体7の梁状本体部5と一体に形成された柱状突起6が梁状本体部5と一体に揺動し、その先端が第2の圧電素子PZT2の伸長方向と交差する方向に僅かに移動する。この移動のうち第2の圧電素子PZT2の伸長方向と直交する方向の移動量、つまり、図2(b)中に示される両端矢印Xの負の方向の移動量が、実質的にスライダ2の送り方向に沿った方向の直線運動である。
【0126】
この段階では、既に、梁状本体部5がスライダ2の送り方向と略平行となり且つ柱状突起6がスライダ2の送り方向と略直交するような姿勢を保持した状態で第1の圧電素子PZT1と第2の圧電素子PZT2のベースプレート8を押圧する予圧手段9により、柱状突起6の先端がスライダ2の駆動力伝達面2aに向けて付勢されており、このような状況下で柱状突起6先端の直線運動が生起される結果、スライダ2の駆動力伝達面2aにはV1の電圧の印加に対応した1(nm)相当の逆方向の送りが掛けられ、同時に、駆動力伝達面2aと接離する方向の柱状突起6の基部の移動量つまり第2の圧電素子PZT2の伸長量の約1/2に相当する移動量だけ、予圧手段9のコイルスプリング11,11の付勢力に抗してベースプレート8が駆動力伝達面2aから離間する方向に移動する。
【0127】
つまり、第1の圧電素子PZT1と第2の圧電素子PZT2は相互に平行な状態で梁状本体部5の両端部に配置されており、梁状本体部5の長手方向略中央部に形成された柱状突起6から見れば第1の圧電素子PZT1と第2の圧電素子PZT2の配設位置は対称であり、第1の圧電素子PZT1を駆動信号の入力先として選択した場合であっても第2の圧電素子PZT2を駆動信号の入力先として選択した場合であっても微動送り用駆動信号の特性自体は同一であるから、第1の圧電素子PZT1を駆動信号の入力先として選択するか第2の圧電素子PZT2を駆動信号の入力先として選択するかは、非作動側の圧電素子である第2の圧電素子PZT2の先端を支点として梁状本体部5を揺動させるか非作動側の圧電素子である第1の圧電素子PZT1の先端を支点として梁状本体部5を揺動させるかの相違に過ぎない。ここで、第1の圧電素子PZT1と第2の圧電素子PZT2の違いを無視すれば、図2(b)に示されるようにして第1の圧電素子PZT1,第2の圧電素子PZT2,梁状本体部5,柱状突起6を含む仮想平面の表側から第1の圧電素子PZT1,第2の圧電素子PZT2,梁状本体部5,柱状突起6を見た場合であっても、図2(b)を左右に反転して当該仮想平面の裏側から第1の圧電素子PZT1,第2の圧電素子PZT2,梁状本体部5,柱状突起6を見た場合であっても、その動作状態は完全に同一である。従って、第1の圧電素子PZT1を駆動信号の入力先として選択するか第2の圧電素子PZT2を駆動信号の入力先として選択するかを送り方向切替手段であるリレースイッチSW0によって切り替えることで、柱状突起6先端の移動方向を反転することが可能であり、これにより駆動対象であるスライダ2の送り方向を正逆に切り替えることができる。
【0128】
次いで、マイクロプロセッサ14は、パルスカウンタCの値を1インクリメントして、手動パルス発生器23の1パルス分の指令に対応する1(nm)の逆方向の微動送りが行なわれたことを記憶する(ステップS42)。つまり、目標移動量と第2の圧電素子PZT2の伸長の度合に対応したスライダ2の直線移動量との差分が新たな目標移動量としてパルスカウンタCに更新して記憶されることになる。
【0129】
そして、マイクロプロセッサ14は、パルスカウンタCの現在値が0までインクリメントされているか否か、つまり、手動パルス発生器23で指令された微動送りが全て完了しているか否かを判定する(ステップS43)。
【0130】
パルスカウンタCの現在値が0となっていなければ、スライダ2の微動送りを継続して行なう必要があることを意味するので、マイクロプロセッサ14は、再びステップS4の判定処理に復帰し、ステップS4,ステップS11,ステップS16,ステップS20,ステップS21の判定処理を実行した後、改めて、微動送り実行フラグFがセットされているか否かを判定するが(ステップS35)、この時点では既に逆方向へのスライダ2の微動送りが開始されており、微動送り実行フラグFがセットされているので、ステップS35の判定結果は偽となる。
【0131】
従って、生成信号指定手段として機能するマイクロプロセッサ14は、電圧指定指標iの値を1インクリメントし(ステップS39)、該指標iの現在値が第1の圧電素子PZT1や第2の圧電素子PZT2の伸長限度に相当する電圧の指標値nに達しているか否かを判定する(ステップS40)。
【0132】
電圧指定指標iの現在値が指標値nに達していなければ、前記と同様、この時点では未だ微動送り用駆動信号Viを出力することで第2の圧電素子PZT2を伸長させてスライダ2に逆方向の送りを掛けることが可能であることを意味するので、生成信号指定手段として機能するマイクロプロセッサ14は、駆動信号生成手段18の主要部を構成する信号波形発生器19に対して微動送り用駆動信号のうち指標iの現在値に対応する微動送り用駆動信号Viの出力を開始する旨の指令を入出力回路21を介して出力し、信号波形発生器19およびアンプ20を作動させ、アンプ20から出力される電圧Viの微動送り用駆動信号を第2の圧電素子PZT2に印加させる(ステップS41)。
【0133】
このようにして、ステップS39の処理で逐次的に更新される電圧指定指標iの現在値に基いて電圧Viの微動送り用駆動信号を第2の圧電素子PZT2に対してステップ状に増加させていくことにより、Vi−1からViへの切り替えの度に、インクリメンタル量にして1(nm)相当の逆方向の送りがスライダ2に掛けられることになる。
【0134】
そして、マイクロプロセッサ14は、前記と同様、パルスカウンタCの値を1インクリメントし、手動パルス発生器23の1パルス分の指令に対応する1(nm)の逆方向の微動送りが行なわれたことを記憶した後(ステップS42)、パルスカウンタCの現在値が0までインクリメントされているか否か、つまり、手動パルス発生器23で指令された微動送りが全て完了しているか否かを判定する(ステップS43)。
【0135】
以下、前記と同様にして、ステップS4,ステップS11,ステップS16,ステップS20,ステップS21,ステップS35,ステップS39〜ステップS43の処理が繰り返し実行され、第2の圧電素子PZT2の伸長限度に相当する電圧Vnの範囲を限度としてスライダ2に逆方向の微動送りが掛けられる。
【0136】
従って、この実施形態では、第2の圧電素子PZT2の1サイクル分の伸長動作でn(nm)=5(nm)の微動送りが可能である。
【0137】
しかし、第2の圧電素子PZT2の1サイクル分の伸長動作が完了してn(nm)=5(nm)の微動送りが行なわれて第2の圧電素子PZT2が伸長限度に達してもパルスカウンタCの現在値が0までインクリメントされない場合、つまり、パルスカウンタCに−n=−5パルスの絶対値を超える目標移動量の微動指令が記憶されているといった場合もあり得る。
【0138】
このような場合、第2の圧電素子PZT2を更に伸長させてスライダ2に逆方向の送りを掛けるといったことはできない。
【0139】
そこで、ステップS4,ステップS11,ステップS16,ステップS20,ステップS21,ステップS35,ステップS39〜ステップS43の処理を繰り返し実行してスライダ2に逆方向の微動送りを掛ける間にステップS40の判定結果が真となった場合、つまり、第2の圧電素子PZT2が伸長限度に達しているにも関わらず更にスライダ2に逆方向の微動送りを掛ける必要があることが判明した場合においては、連続微動送り用制御手段として機能するマイクロプロセッサ14は、まず、オフセット手段の一部を構成するバイアス回路22に対してバイアス電圧の印加を終了する旨の指令を入出力回路21を介して出力し、バイアス回路22を非作動としてオフセット手段の一部を構成する第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZT2に印加していた均等なバイアス電圧を解除し、第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZ2をニガシ量相当分だけ収縮させて、第2の圧電素子PZT2が伸長限度に達した状態にある柱状突起6の先端をスライダ2の駆動力伝達面2aから離間させる(ステップS31)。
【0140】
この際、第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZ2はニガシ量相当分だけ同時に収縮するので、柱状突起6の先端は第2の圧電素子PZT2が伸長限度に達した状態を保持したまま駆動力伝達面2aから離間することになり、スライダ2の送り方向に沿って柱状突起6の先端が移動することはないので、柱状突起6の退避動作に際して駆動力伝達面2aに柱状突起6の先端が干渉してスライダ2に余計な送りが掛けられたり、スライダ2が送り方向と逆行する方向に引き戻されたりするといった弊害は生じない。
【0141】
次いで、連続微動送り用制御手段として機能するマイクロプロセッサ14は、駆動信号生成手段18の主要部を構成する信号波形発生器19に対して微動送り用駆動信号Vn=V5の出力を停止する旨の指令を入出力回路21を介して出力し、信号波形発生器19およびアンプ20の作動を停止させて第2の圧電素子PZT2の伸長状態を完全収縮の初期状態に復帰させる(ステップS32)。
【0142】
この時点では既に柱状突起6の先端が駆動力伝達面2aから図1(b)に示されるようにして離間しているので、柱状突起6先端の揺動状態を初期状態に復帰させても、駆動力伝達面2aに柱状突起6の先端が干渉してスライダ2に余計な送りが掛けられたり、スライダ2が送り方向と逆行する方向に引き戻されたりするといった心配はない。
【0143】
次いで、連続微動送り用制御手段として機能するマイクロプロセッサ14は、微動送り用駆動信号の電圧値を特定する電圧指定指標iの値を0に初期化すると共に(ステップS33)、微動送り実行フラグFをリセットし(ステップS34)、再びステップS4の判定処理に復帰して、ステップS4,ステップS11,ステップS16,ステップS20,ステップS21の判定処理を実行した後、改めて、微動送り実行フラグFがセットされているか否かを判定するが(ステップS35)、この場合は、前述したステップS34の処理で微動送り実行フラグFがリセットされているため、ステップS35の判定結果は真となる。
【0144】
従って、連続微動送り用制御手段として機能するマイクロプロセッサ14は、改めてオフセット手段の一部を構成するバイアス回路22に対してバイアス電圧の印加を開始する旨の指令を入出力回路21を介して出力し、バイアス回路22を作動させてオフセット手段の一部を構成する第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZT2に対して均等なバイアス電圧を印加させ、図1(b)に示されるような完全収縮の初期状態にある第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZ2をニガシ量相当分だけ伸長させ、弾性体7の柱状突起6の先端を図1(a)に示されるようにしてスライダ2の駆動力伝達面2aに当接させる(ステップS36)。
【0145】
次いで、マイクロプロセッサ14は、送り方向切替手段として機能するリレースイッチSW0に対し、アンプ20から出力される駆動信号の入力先を第2の圧電素子PZT2に切り替える旨の指令を入出力回路21を介して出力し、アンプ20から出力される駆動信号の入力先として第2の圧電素子PZT2をリレースイッチSW0に選択させ(ステップS37)、微動送り実行フラグFを改めてセットする(ステップS38)。
【0146】
次いで、生成信号指定手段として機能するマイクロプロセッサ14が、電圧指定指標iの値を1インクリメントし(ステップS39)、該指標iの現在値が第1の圧電素子PZT1や第2の圧電素子PZT2の伸長限度に相当する電圧の指標値n(この実施例ではn=5)に達しているか否かを判定する(ステップS40)。
【0147】
この時点では、前述したステップS33の処理で一旦0に初期化された電圧指定指標iの値が改めて1に更新されているのでステップS40の判定結果は偽となり、生成信号指定手段として機能するマイクロプロセッサ14は、駆動信号生成手段18の主要部を構成する信号波形発生器19に対して微動送り用駆動信号のうち指標i=1に対応する微動送り用駆動信号V1の出力を開始する旨の指令を入出力回路21を介して出力し、信号波形発生器19およびアンプ20を作動させ、アンプ20から出力される電圧V1の微動送り用駆動信号を第2の圧電素子PZT2に印加し(ステップS41)、スライダ2の駆動力伝達面2aに更に1(nm)相当の逆方向の送りを掛ける。
【0148】
次いで、マイクロプロセッサ14は、パルスカウンタCの値を1インクリメントし、手動パルス発生器23の1パルス分の指令に対応する1(nm)の逆方向の微動送りが行なわれたことを記憶する(ステップS42)。つまり、目標移動量と第2の圧電素子PZT2の伸長の度合に対応したスライダ2の直線移動量との差分が新たな目標移動量としてパルスカウンタCに更新して記憶される。
【0149】
そして、マイクロプロセッサ14は、パルスカウンタCの現在値が0までインクリメントされているか否か、つまり、手動パルス発生器23で指令された微動送りが全て完了しているか否かを判定する(ステップS43)。
【0150】
パルスカウンタCの現在値が0となっていなければ、スライダ2の微動送りを継続して行なう必要があることを意味するので、マイクロプロセッサ14は、再びステップS4の判定処理に復帰し、ステップS4,ステップS11,ステップS16,ステップS20,ステップS21の判定処理を実行した後、改めて、微動送り実行フラグFがセットされているか否かを判定するが(ステップS35)、この時点では既に微動送り実行フラグFがセットされているので、ステップS35の判定結果は偽となる。
【0151】
従って、生成信号指定手段として機能するマイクロプロセッサ14は、電圧指定指標iの値を1インクリメントし(ステップS39)、該指標iの現在値が第1の圧電素子PZT1や第2の圧電素子PZT2の伸長限度に相当する電圧の指標値nに達しているか否かを判定する(ステップS40)。
【0152】
電圧指定指標iの現在値が指標値nに達していなければ、前記と同様、この時点では未だ微動送り用駆動信号Viを出力することで第2の圧電素子PZT2を伸長させてスライダ2に逆方向の送りを掛けることが可能であることを意味するので、生成信号指定手段として機能するマイクロプロセッサ14は、駆動信号生成手段18の主要部を構成する信号波形発生器19に対して微動送り用駆動信号のうち指標iの現在値に対応する微動送り用駆動信号Viの出力を開始する旨の指令を入出力回路21を介して出力し、信号波形発生器19およびアンプ20を作動させ、アンプ20から出力される電圧Viの微動送り用駆動信号を第2の圧電素子PZT2に印加する(ステップS41)。
【0153】
このようにして、ステップS39の処理で逐次的に更新される電圧指定指標iの現在値に基いて電圧Viの微動送り用駆動信号を第2の圧電素子PZT2に印加していくことにより、Vi−1からViへの切り替えの度に、インクリメンタル量にして更に1(nm)相当の逆方向の送りがスライダ2に掛けられることになる。
【0154】
そして、マイクロプロセッサ14は、前記と同様、パルスカウンタCの値を1インクリメントし、手動パルス発生器23の1パルス分の指令に対応する1(nm)の逆方向の微動送りが行なわれたことを記憶した後(ステップS42)、パルスカウンタCの現在値が0までインクリメントされているか否か、つまり、手動パルス発生器23で指令された微動送りが全て完了しているか否かを判定する(ステップS43)。
【0155】
微動送りが完了しておらずパルスカウンタCの現在値が0までインクリメントされていいない場合には、前記と同様にして、ステップS4,ステップS11,ステップS16,ステップS20,ステップS21,ステップS35,ステップS39〜ステップS43の処理が繰り返し実行され、第2の圧電素子PZT2の伸長限度に相当する電圧Vnの範囲内でスライダ2に逆方向の微動送りが掛けられる。
【0156】
そして、第2の圧電素子PZT2が伸長限度に達した場合には、既に述べたようにして、連続微動送り用制御手段として機能するマイクロプロセッサ14がステップS31〜ステップS34の処理を実行し、第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZ2をニガシ量相当分だけ収縮させて柱状突起6の先端をスライダ2の駆動力伝達面2aから離間させ、第2の圧電素子PZT2の伸長状態を初期状態に復帰させてから、第2の圧電素子PZT2の新たな1サイクル分の伸長動作によってn(nm)=5(nm)の範囲でスライダ2に微動送りを掛ける。
【0157】
このような処理を繰り返し実行することにより、手動パルス発生器23の連続操作でパルスカウンタCに−n=−5パルスの絶対値を超える大きさの目標移動量が設定された場合であっても、スライダ2に対する連続的な逆方向の微動送りを継続して行なうことが可能となる。
【0158】
つまり、信号波形発生器19およびアンプ20からなる駆動信号生成手段18それ自体は、第2の圧電素子PZT2に印加される微動送り用駆動信号の電圧Viと最終的なスライダ2の直線運動の量i(nm)との関係に基いて、第2の圧電素子PZT2の伸長限度に相当する電圧Vnの範囲を上限とし、微動指令の目標移動量Cのうち第2の圧電素子PZT2の1サイクルの伸長動作で達成可能な送り量n(nm)の範囲で、送り量i(nm)(但し、i≦n)に略比例した電圧の微動送り用駆動信号Viを生成するに過ぎないが、微動指令の目標移動量Cの絶対値が第2の圧電素子PZT2の1サイクルの動作の伸長限度に相当する最終的なスライダ2の直線運動の量n(nm)を超える場合には、第2の圧電素子PZT2が伸長限度に達した時点で、連続微動送り用制御手段として機能するマイクロプロセッサ14からの指令により、柱状突起6の先端を駆動力伝達面2aから離間させ、アンプ20からの駆動信号Viの出力を停止させて第2の圧電素子PZT2の伸長状態を初期状態に復帰させ、柱状突起6の先端を改めて駆動力伝達面2aに当接させて、当初の微動指令Cと第2の圧電素子PZT2の伸長限度に相当する最終的なスライダ2の直線運動の量n(nm)との差分C+n(但し、Cの符号はマイナス)を新たな目標移動量Cとした上で、駆動信号生成手段18を再び作動させるといった処理操作を|C|≦nとなるまで繰り返し実行することで、スライダ2に対する連続的な逆方向の微動送りが実現されるということである。
前述した通り、この実施形態では、図7に示すように、微動送り用駆動信号Viを第2の圧電素子PZT2に対してステップ状に増加させて印加していく構成を採用しているので、実際には、当初の微動指令Cとスライダ2の直線運動の量n(nm)との差分C+nを求める処理は、ステップS42に示されるように、C←C+1の処理をn回続けて繰り返すことで実現している。
【0159】
そして、最終的に、パルスカウンタCの値が0にまでインクリメントされたことがステップS43の判定処理で検知され、手動パルス発生器23で指令された微動送りが全て完了したことが確認されると、マイクロプロセッサ14は、オフセット手段の一部を構成するバイアス回路22に対してバイアス電圧の印加を終了する旨の指令を入出力回路21を介して出力し、バイアス回路22を非作動としてオフセット手段の一部を構成する第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZT2に印加していた均等なバイアス電圧を解除し、第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZ2をニガシ量相当分だけ収縮させて柱状突起6の先端をスライダ2の駆動力伝達面2aから離間させ(ステップS31)、更に、駆動信号生成手段18の主要部を構成する信号波形発生器19に対して微動送り用駆動信号Viの出力を停止する旨の指令を入出力回路21を介して出力し、信号波形発生器19およびアンプ20の作動を停止させて第2の圧電素子PZT2の伸長状態を初期状態に復帰させて(ステップS32)、電圧指定指標iの値を0に初期化し(ステップS33)、微動送り実行フラグFをリセットして(ステップS34)、スライダ2に対する逆方向の微動送りを終了する。
【0160】
パルスカウンタCの値が0に復帰した後はステップS21以降の処理は非実行とされるので、スライダ2に不用意な送りが掛けられることはない。
【0161】
このようにして、第1の圧電素子PZT1あるいは第2の圧電素子PZ2に微動送り用駆動信号として機能するV1,V2,・・・Vi・・・,Vn(但し、この実施形態ではn=5)のn段階の直流電圧を順に印加していくことで、1(nm)を刻み幅とする僅かな移動量でスライダ2に正逆各方向の微小な送りを掛けて精密な位置決めを行なうことができる。
【0162】
以上に述べたように、この実施形態では連続的な高速送りに際しても精密な位置決めのための微動送りに際しても、送り方向切替手段であるリレースイッチSW0の操作により第1の圧電素子PZT1もしくは第2の圧電素子PZT2の何れか一方を駆動信号の入力先として選択し、信号波形生成器19やアンプ20からなる単一の駆動信号生成手段18で何れかの圧電素子に駆動信号を入力するようにしているので、基本的に1系統分の制御回路を設ければよく、特に、電気的な構成において簡便な構造の圧電アクチュエータ4を提供することができる。
【0163】
しかも、バイアス回路22を利用して第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZT2に均等なバイアス電圧を印加し或いは解除することで、特に、柱状突起6の先端が大きく揺動した状態にある柱状突起6の姿勢を保持したまま柱状突起6の先端をスライダ2の駆動力伝達面2aから離間させるようにしているので、微動送りに際して柱状突起6の先端を駆動力伝達面2aから離間させる場合であっても柱状突起6の先端が駆動力伝達面2aと干渉してスライダ2を不用意に移動させることがなく、精密な微動送りを実現できる。
また、第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZT2それ自体をオフセット手段の一部として機能させる構造であるから、オフセット手段を構成する他の機械的な要素を付加しなくても、連続的な微動送り即ち第1の圧電素子PZT1や第2の圧電素子PZT2の1ストローク分の伸長限度に相当するスライダ2の直線運動の量を超えた目標移動量の微動指令に的確に対処することができる。
【0164】
図8は第1の圧電素子PZT1や第2の圧電素子PZT2に代えて、リジッドプレート12の下面側に固着された第3の圧電素子PZT3をオフセット手段として利用して柱状突起6の姿勢を保持したまま柱状突起6の先端をスライダ2の駆動力伝達面2aから離間させると共に、駆動信号生成手段18が非作動となっている間だけスライダ2の停止位置を保持するロック手段として機能する第4の圧電素子PZT4を併設した他の実施形態の圧電アクチュエータ4’の構成の概略について示した模式図、また、図9は当該圧電アクチュエータ4’における制御部13’の構成を簡略化して示したブロック図である。
【0165】
図8ではリジッドプレート12の下面側にオフセット手段として機能する第3の圧電素子PZT3を設けているが、第3の圧電素子PZT3の配設位置は、第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZT2の基部とベースプレート8との固着位置よりもベースプレート8側、つまり、圧電素子PZT3を伸長させることによって第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZT2と弾性体7を一体的にスライダ2に接近させて柱状突起6の先端をスライダ2の駆動力伝達面2aに当接させることが可能であって、且つ、圧電素子PZT3を収縮させることで第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZT2と弾性体7を一体的にスライダ2から引き離して柱状突起6の先端を駆動力伝達面2aから離間させることが可能な箇所であれば何処でも構わない。
【0166】
この実施形態の制御部13’には、オフセット手段として機能する第3の圧電素子PZT3を2値的に伸長もしくは収縮させるためのアンプ27と、ロック手段として機能する第4の圧電素子PZT4を2値的に伸長もしくは収縮させるためのアンプ28が接続されているが、他の構成に関しては、前述した実施形態の制御部13(図3参照)と同様である。
【0167】
従って、圧電アクチュエータ4’の駆動制御には、図4〜図5のフローチャートを参照して説明した処理の大半を其のまま転用することが可能である。但し、この実施形態は、第3の圧電素子PZT3を伸縮させて柱状突起6の先端をスライダ2の駆動力伝達面2aに接離させる構成であるから、バイアスの印加に相当するステップS5,ステップS12,ステップS23,ステップS36の処理に代え、アンプ27を作動させて第3の圧電素子PZT3を伸長させる処理を行う一方、バイアスの解除に相当するステップS10,ステップS31の処理に代えて、アンプ27を非作動とし第3の圧電素子PZT3を収縮させる処理を行うことになる。
【0168】
この場合、第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZT2に必要とされるのはスライダ2の送り操作に必要とされる伸縮機能だけであり、駆動力伝達面2aに対する柱状突起6の接離操作のために第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZT2を伸縮させる必要はないから、第1の圧電素子PZT1および第2の圧電素子PZT2の物理的な伸長限度つまり前述した電圧Vmaxに相当する伸長量の全てをスライダ2の送りに利用することができ、1サイクルの微動送りの量を例えば5(nm)よりも大きくすることが可能である。
【0169】
ロック手段として機能する第4の圧電素子PZT4を作動させるアンプ28は、圧電アクチュエータ4’の制御部13’に電源が投入された時点で作動させておくものとし、バイアスの印加に相当するステップS5,ステップS12,ステップS23,ステップS36の処理に代えて行われる第3の圧電素子PZT3の伸長処理が終った時点で非作動状態として第4の圧電素子PZT4の先端をスライダ4から離間させてロックを解除し、また、バイアスの解除に相当するステップS10,ステップS31の処理に代えて行われる第3の圧電素子PZT3の収縮処理が開始される直前の時点で作動状態に戻して第4の圧電素子PZT4の先端をスライダ4に当接させて再ロックを行うものとする。
【0170】
なお、ロック手段としては圧電素子の他、ウェッジスライドギアやブレーキパッド等を利用したクランプ装置や、本出願人らが特願2006−312581として提案しているリニアステージ用現位置保持機構等のものが知られており、これらのものを第4の圧電素子PZT4に代えてロック手段として利用してもよい。
【0171】
何れの場合も、柱状突起6の先端が駆動力伝達面2aから離間した状況下において振動や衝撃の作用でスライダ2が不用意に移動する不都合を解消することができ、スライダ2の微動送りを繰り返し実行するような場合でも微動指令による目標移動量を確実に達成することができる。また、駆動電力の供給を停止して駆動信号生成手段18の作動を停止したような場合であっても最終的な位置決め完了位置を確実に保持することができる。
【0172】
図1および図8を参照して説明した実施形態では、駆動対象であるスライダ2の側に駆動力伝達面2aを形成し、スライダ送り機構1の本体側に固着されたリジッドプレート12に第1の圧電素子PZT1と第2の圧電素子PZT2および弾性体7を配備した例について述べたが、これとは逆に、駆動対象であるスライダ2の側に第1の圧電素子PZT1と第2の圧電素子PZT2および弾性体7を配備し、スライダ送り機構1の本体側の固定部分、例えば、スライダ2の移動方向をガイドするガイド部材3等にスライダ2の移動方向に沿った駆動力伝達面を形成し、この駆動力伝達面にスライダ2側から突出する弾性体7の柱状突起6の先端を当接させるような構成としてもよい。この場合も、前述した各実施形態と同様の機能および作用・効果を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0173】
【図1】本発明の圧電アクチュエータをスライダ送り機構に適用した場合の一実施形態の構成の概略について示した模式図であり、図1(a)では柱状突起を駆動力伝達面に当接させた状態について、また、図1(b)では柱状突起を駆動力伝達面から離間させた状態について示している。
【図2】同実施形態の圧電アクチュエータから略T字型の弾性体を取り出して高速送りと微動送りの作用原理を簡略化して示した作用原理図であり、図2(a)では高速送りについて、また、図2(b)では微動送りについて示している。
【図3】同実施形態の圧電アクチュエータの制御部の構成を簡略化して示したブロック図である。
【図4】生成信号指定手段,連続微動送り用制御手段等として機能する制御部のマイクロプロセッサの処理動作の概略について示したフローチャートである。
【図5】制御部のマイクロプロセッサの処理動作の概略について示したフローチャートの続きである。
【図6】同実施形態の駆動信号生成手段から出力される高速送り用駆動信号の一例を示した概念図である。
【図7】同実施形態の駆動信号生成手段から出力される微動送り用駆動信号の一例を示した概念図である。
【図8】本発明の圧電アクチュエータをスライダ送り機構に適用した場合の他の一実施形態の構成の概略について示した模式図である。
【図9】同実施形態の圧電アクチュエータの制御部の構成を簡略化して示したブロック図である。
【符号の説明】
【0174】
1 スライダ送り機構
2 スライダ(駆動対象)
2a 駆動対象に形成された駆動力伝達面
3 ガイド部材
4 圧電アクチュエータ
4’ 圧電アクチュエータ
5 梁状本体部
6 柱状突起
7 弾性体
8 ベースプレート
9 予圧手段
10 ガイドピン
11 コイルスプリング
12 リジッドプレート
13 制御部
13’ 制御部
14 マイクロプロセッサ(生成信号指定手段,連続微動送り用制御手段)
15 ROM
16 RAM
17 不揮発性メモリ
18 駆動信号生成手段
19 信号波形発生器
20 アンプ
21 入出力回路
22 バイアス回路(オフセット手段の一部)
23 手動パルス発生器
24 リニアスケール
25 モニタ
26 キーボード
27 アンプ(オフセット手段の一部)
28 アンプ
X 駆動対象の送り方向
PZT1 第1の圧電素子
PZT2 第2の圧電素子
PZT3 第3の圧電素子(オフセット手段)
PZT4 第4の圧電素子(ロック手段)
SW0 リレースイッチ(送り方向切替手段)
SW1 ジョグスイッチ
SW2 ジョグスイッチ
L 駆動対象の送り方向に沿った方向の長軸
D 楕円軌跡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力電圧に応じて軸方向に伸縮する圧電素子を組み合わせて駆動対象もしくは駆動対象の移動方向をガイドするガイド部材に形成された駆動力伝達面に駆動力を伝達することで駆動対象に送りを掛ける圧電アクチュエータであって、
梁状本体部と其の長手方向略中央部の柱状突起とから一体に形成された略T字型の弾性体と、
相互に略平行な状態で前記梁状本体部の両端部に配置されて其の先端部を前記梁状本体部に固着された第1,第2の圧電素子と、
前記第1,第2の圧電素子の基部を固着したベースプレートを押圧し、前記梁状本体部が前記駆動対象の送り方向と略平行となり且つ前記柱状突起が前記駆動対象の送り方向と略直交するような姿勢を保持して、前記柱状突起の先端を前記駆動力伝達面に向けて付勢する予圧手段と、
何れか一方の前記圧電素子の伸縮運動と当該伸縮動作によってもたらされる前記柱状突起の共振運動とによって実質的に前記送り方向に沿った方向の長軸を有する楕円運動を前記柱状突起の先端部に生起させる高速送り用駆動信号と、何れか一方の前記圧電素子の伸縮運動によって実質的に前記送り方向に沿った方向の直線運動を前記柱状突起の先端部に生起させる微動送り用駆動信号とを選択的に生成する駆動信号生成手段と、
前記高速送り用駆動信号と微動送り用駆動信号のうち前記駆動信号生成手段が生成すべき信号の種別を前記駆動信号生成手段に指令する生成信号指定手段と、
前記駆動信号生成手段によって生成された駆動信号を何れか一方の前記圧電素子に対して選択的に入力する送り方向切替手段を備えたことを特徴とする圧電アクチュエータ。
【請求項2】
前記一方の圧電素子が伸長限度に達した状態にある前記柱状突起の先端を前記駆動力伝達面から離間させるためのオフセット手段を備えると共に、
前記駆動信号生成手段は、目標移動量を含む微動指令を受け、前記一方の圧電素子に印加される微動送り用駆動信号の電圧と前記直線運動の量との関係に基いて、前記一方の圧電素子の伸長限度に相当する電圧の範囲内で、前記微動指令に略比例した電圧の微動送り用駆動信号を生成するものであって、
前記微動指令が前記一方の圧電素子の伸長限度に相当する前記直線運動の量を超える場合には、前記一方の圧電素子が伸長限度に達した時点で前記オフセット手段により前記柱状突起の先端を前記駆動力伝達面から離間させ前記駆動信号生成手段の作動を停止させて前記一方の圧電素子を初期状態に復帰させ、前記オフセット手段により前記柱状突起の先端を改めて前記駆動力伝達面に当接させて、前記微動指令と前記一方の圧電素子の伸長の度合いに相当する直線運動の量との差分を新たな目標移動量として前記駆動信号生成手段を再び作動させる連続微動送り用制御手段を併設したことを特徴とする請求項1記載の圧電アクチュエータ。
【請求項3】
前記オフセット手段が、前記第1,第2の圧電素子と、該第1,第2の圧電素子にバイアス電圧を印加するバイアス回路によって構成されていることを特徴とする請求項2記載の圧電アクチュエータ。
【請求項4】
前記オフセット手段が、前記第1,第2の圧電素子の基部と前記ベースプレートとの固着位置よりもベースプレート側に設置された第3の圧電素子によって構成されていることを特徴とする請求項2記載の圧電アクチュエータ。
【請求項5】
前記駆動信号生成手段が非作動となっている間だけ前記駆動対象の停止位置を保持するロック手段を併設したことを特徴とする請求項2,請求項3または請求項4のうち何れか一項に記載の圧電アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−71903(P2009−71903A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234447(P2007−234447)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(592004404)中央精機株式会社 (16)
【Fターム(参考)】