説明

圧電発振器、圧電発振器の製造方法、圧電発振器の温度補償方法

【課題】圧電発振器、圧電発振器の製造方法、圧電発振器の温度補償方法を提供する。
【解決手段】周波数温度特性にアクティヴィティディップ56を有する圧電振動子12と、前記圧電振動子12を発振させ発振信号50を出力する発振回路14と、記憶回路18と、を有し、前記記憶回路18には、前記周波数温度特性の情報54を近似する近似式の情報から抽出された特性情報58と、前記周波数温度特性の情報54と前記近似式の情報に基づいて算出されアクティヴィティディップ56を示すディップ情報62と、が記憶されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度補償機能を外部に委ねる圧電発振器であるTSXO(Temperature Sensor Xtal Oscillator)や、温度補償機能を搭載したTCXO(Temperature Compensated Xtal Oscillator)の温度補償に関する。
【背景技術】
【0002】
厚みすべり振動等を行なう圧電振動子においては、温度変化に対して3次関数的に変化する周波数温度特性を有している。よって、このような圧電振動子特有の3次曲線的な周波数温度特性を示す温度特性情報を取得して、これにより温度補償を適切に行なう要請がなされている。よって、これに対応するため、発振回路側として温度補償回路を不要とするTSXOにおいては、搭載された圧電振動子の温度情報をユーザー側に出力する温度センサーと、搭載された圧電振動子の温度特性情報(ある環境温度における圧電振動子の所定温度を示す温度センサー電圧と、温度係数)を記憶し、ユーザー側に温度特性情報を出力する記憶回路を搭載している(特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
上述のTSXOを搭載しユーザー側でTSXOに接続した温度補償回路を有するシステム等においては、温度センサーから得た圧電振動子の温度と、記憶回路から得た周波数温度特性の情報をもとに、どの温度においても周波数が一定となるように温度補償回路において温度補償量を算出して周波数補正を掛けている。
【0004】
同様にTCXOを搭載したGPSシステム等においても、温度センサーから得た水晶振動子の温度と記憶回路から得た周波数温度特性の情報をもとに、どの温度においても周波数が一定となるようにTCXO内の温度補償電圧発生回路において温度補償電圧を算出して、温度補償電圧により温度補償を行うTCXO内の発振回路に温度補償電圧を印加して周波数補正を掛けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−122935号公報
【特許文献2】特開2003−324318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このようなTSXOやTCXOはGPS機能等を有する端末に搭載するため、小型化と高精度化を両立させる要求がなされている。TSXOやTCXOを構成する圧電振動子を小さくするほどCI値が上昇するため、圧電振動子を励振するための電流値を上昇させる必要がある。しかしこの電流値を上昇させると厚みすべり振動の基本振動以外の不要振動の影響を受けて、周波数温度特性において温度変化に対する急激な周波数変動を示すアクティヴィティディップが大きく現れ、温度補償の精度が低下するといった問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題点に着目し、周波数温度特性にアクティヴィティディップを有する場合であっても高精度に温度補償を行う圧電発振器、圧電発振器の製造方法、圧電発振器の温度補償方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することが可能である。
[適用例1]周波数温度特性にアクティヴィティディップを有する圧電振動子と、前記圧電振動子を発振させ発振信号を出力する発振回路と、記憶回路と、を有し、前記記憶回路には、前記周波数温度特性の情報を近似する近似式の情報から抽出された特性情報と、前記周波数温度特性の情報と前記近似式の情報に基づいて算出されアクティヴィティディップを示すディップ情報と、が記憶されたことを特徴とする圧電発振器。
【0009】
上記構成により、発振回路からは、圧電振動子の周波数温度特性にアクティヴィティディップを包含する発振信号を出力することになるが、周波数温度特性を、特性情報とディップ情報により近似的に表わすので、それぞれのメモリ使用量を抑制し記憶回路に対するメモリ負担を抑制することができる。そして特性情報とディップ情報を出力するので、ユーザー側においてこの2つの情報を取得することにより発振信号の温度補償を行うことが可能な圧電発振器となる。
【0010】
[適用例2]前記発振回路は、前記特性情報と前記ディップ情報とに基づいて前記アクティヴィティディップを包含する第2の近似式を生成し、前記第2の近似式と前記圧電振動子の温度の情報に基づいて前記発振信号の温度補償を行う温度補償回路に前記発振信号を出力し、前記記憶回路は、前記近似式を生成するための情報と、前記ディップ情報と、を前記温度補償回路に出力することを特徴とする適用例1に記載の圧電発振器。
【0011】
上記構成により、温度補償回路からは、圧電振動子のアクティヴィティディップを包含した周波数温度特性に対応して温度補償を行った発振信号を出力することになる。よってアクティヴィティディップを包含した周波数温度特性を有する圧電振動子を用いた発振回路であっても高精度な温度補償を行うことが可能な圧電発振器となる。
【0012】
[適用例3]周波数温度特性にアクティヴィティディップを有する圧電振動子と、前記圧電振動子を発振させ発振信号を出力する発振回路と、前記周波数温度特性を近似する近似式の情報から抽出された特性情報と、前記周波数温度特性の情報と前記近似式の情報に基づいて算出されアクティヴィティディップの温度特性を示すディップ情報と、が記憶された記憶回路と、前記特性情報と前記ディップ情報とに基づいて前記アクティヴィティディップを包含する第2の近似式を生成し、前記第2の近似式と前記圧電振動子の温度の情報に基づいて温度補償量を出力する演算回路と、前記発振信号が入力され前記温度補償量に基づいて前記発振信号の温度補償を行う周波数補正回路と、を有することを特徴とする圧電発振器。
【0013】
上記構成により、周波数補正回路からは、圧電振動子のアクティヴィティディップを包含した周波数温度特性に対応して温度補償を行った発振信号を出力することになる。よってアクティヴィティディップを包含した周波数温度特性を有する圧電振動子を用いて発振回路であっても高精度な温度補償を行うことが可能な圧電発振器となる。
【0014】
[適用例4]前記近似式の情報は、前記周波数温度特性の情報のべき級数展開による近似により生成され、前記特性情報は、前記近似式の情報から抽出した係数の情報であることを特徴とする適用例1乃至3のいずれか1例に記載の圧電発振器。
これにより、温度補償を行う側で、係数を算出する工程が不要となるため、温度補償を行う側の負担を軽減して容易に温度補償を行うことができる。
【0015】
[適用例5]前記特性情報は、前記近似式の情報が生成する近似曲線上の点であって、前記近似式の情報が生成できるように抽出した温度と周波数偏差との関係の情報、または温度と周波数との関係を表わす情報であることを特徴とする適用例1乃至3のいずれか1例に記載の圧電発振器。
これにより、温度補償を行う側で、係数を算出する必要があるが温度補償を行う側で係数を高精度に算出することができる。
【0016】
[適用例6]周波数温度特性にアクティヴィティディップを有する圧電振動子と、前記圧電振動子を発振させて発振信号を出力させるとともに温度補償電圧により前記発振信号の温度補償を行う発振回路と、前記発振回路に前記温度補償電圧を出力する温度補償電圧発生回路と、を有し、前記温度補償電圧発生回路は、前記周波数温度特性の情報を近似する近似式の情報から抽出された特性情報と、前記周波数温度特性の情報と前記近似式の情報に基づいて算出されアクティヴィティディップを示すディップ情報と、を用いて前記アクティヴィティディップを包含する第2の近似式の情報を生成し、前記第2の近似式の情報と前記圧電振動子の温度の情報に基づいて前記温度補償電圧を算出することを特徴とする圧電発振器。
【0017】
上記構成により、発振回路からは、圧電振動子のアクティヴィティディップを包含した周波数温度特性に対応して温度補償を行った発振信号を出力することになる。よってアクティヴィティディップを包含した周波数温度特性を有する圧電振動子を用いた発振回路であっても高精度な温度補償を行うことができる。また周波数温度特性を、特性情報とディップ情報により近似的に表わすので、それぞれのメモリ使用量を抑制し記憶回路に対するメモリ負担を抑制することが可能な圧電発振器となる。
【0018】
[適用例7]前記ディップ情報は、前記周波数温度特性の情報と、前記近似式の情報から生成される近似曲線の情報との差分により算出された、温度と周波数偏差との関係を表わす情報であることを特徴とする適用例1乃至5のいずれか1例に記載の圧電発振器。
【0019】
これにより、圧電振動子の周波数温度特性中のアクティヴィティディップを高精度に抽出することができるので、アクティヴィティディップの排除した温度補償を高精度に行うことが可能な圧電発振器となる。
【0020】
[適用例8]前記ディップ情報は、前記周波数温度特性の情報と前記近似曲線の情報の差分により算出され、温度と周波数偏差との関係を表わす情報を近似する第3の近似式の情報から抽出された温度係数であることを特徴とする適用例1乃至6のいずれか1例に記載の圧電発振器。
【0021】
これにより、圧電振動子の周波数温度特性中のアクティヴィティディップの情報量を小さくすることができるので、メモリ負担を軽減し、コストを抑制してアクティヴィティディップの排除した温度補償を行うことが可能な圧電発振器となる。
【0022】
[適用例9]前記アクティヴィティディップは、前記周波数温度特性の一部の温度領域に発生するものとし、前記ディップ情報は、前記温度領域の範囲で生成されることを特徴とする適用例7または8に記載の圧電発振器。
【0023】
これにより、圧電振動子の周波数温度特性中のアクティヴィティディップの情報量をさらに小さくすることができるので、メモリ負担を軽減し、アクティヴィティディップの排除した温度補償をコストを抑制して行うことが可能な圧電発振器となる。
【0024】
[適用例10]周波数温度特性にアクティヴィティディップを有する圧電振動子と、前記圧電振動子を発振させ発振信号を出力する発振回路と、記憶回路と、を有する圧電発振器の製造方法であって、前記周波数温度特性の情報を近似する近似式の情報から特性情報を抽出し、前記周波数温度特性の情報と前記近似式の情報に基づいてアクティヴィティディップを示すディップ情報を算出し、前記特性情報及び前記ディップ情報を前記記憶回路に記憶したことを特徴とする圧電発振器の製造方法。
【0025】
上記方法により、発振回路からは、圧電振動子の周波数温度特性にアクティヴィティディップを包含する発振信号を出力することになるが、周波数温度特性を、特性情報とディップ情報により近似的に表わすので、それぞれのメモリ使用量を抑制し記憶回路に対するメモリ負担を抑制することができる。そして特性情報とディップ情報を出力するので、ユーザー側においてこの2つの情報を取得することにより発振信号の温度補償を行うことができる。
【0026】
[適用例11]周波数温度特性にアクティヴィティディップを有する圧電振動子と、前記圧電振動子を発振させ発振信号を出力する発振回路と、前記発振信号が入力され温度補償量に基づいて前記発振信号の温度補償を行う周波数補正回路と、を有する圧電発振器の温度補償方法であって、前記周波数温度特性を近似する近似式の情報から特性情報を抽出し、前記周波数温度特性の情報と前記近似式の情報に基づいてアクティヴィティディップの温度特性を示すディップ情報を算出し、前記特性情報と前記ディップ情報とに基づいて前記アクティヴィティディップを包含する第2の近似式を生成し、前記第2の近似式と前記圧電振動子の温度の情報に基づいて温度補償量を算出して前記周波数補正回路に出力することを特徴とする圧電発振器の温度補償方法。
【0027】
上記方法により、周波数補正回路からは、圧電振動子のアクティヴィティディップを包含した周波数温度特性に対応して温度補償を行った発振信号を出力することになる。よってアクティヴィティディップを包含した周波数温度特性を有する圧電振動子を用いて発振回路であっても高精度な温度補償を行うことができる。
【0028】
[適用例12]周波数温度特性にアクティヴィティディップを有する圧電振動子と、前記圧電振動子を発振させて発振信号を出力するとともに温度補償電圧により前記発振信号の温度補償を行う発振回路と、を有する圧電発振器の温度補償方法であって、前記周波数温度特性の情報を近似する近似式の情報から特性情報を抽出し、前記周波数温度特性の情報と前記近似式の情報に基づいてアクティヴィティディップを示すディップ情報を算出し、前記特性情報及び前記ディップ情報を用いて前記アクティヴィティディップを包含する第2の近似式の情報を生成し、前記第2の近似式の情報と前記圧電振動子の温度の情報に基づいて前記温度補償電圧を算出して前記発振回路に出力することを特徴とする圧電発振器の温度補償方法。
【0029】
上記方法により、発振回路からは、圧電振動子のアクティヴィティディップを包含した周波数温度特性に対応して温度補償を行った発振信号を出力することになる。よってアクティヴィティディップを包含した周波数温度特性を有する圧電振動子を用いた発振回路であっても高精度な温度補償を行うことができる。また周波数温度特性を、特性情報とディップ情報により近似的に表わすので、それぞれのメモリ使用量を抑制し記憶回路に対するメモリ負担を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】第1実施形態の圧電発振器の模式図である。
【図2】第1実施形態の圧電発振器を測定器に接続した場合の模式図である。
【図3】圧電振動子の周波数温度特性を示す図である。
【図4】第2実施形態の圧電発振器の模式図である。
【図5】第2実施形態の圧電発振器の変形例の部分詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0032】
図1に第1実施形態に係る圧電発振器を示す。第1実施形態に係る圧電発振器10は上述のTSXOを基本構成として温度補償回路32に接続され、または温度補償回路32を包含するものである。第1実施形態の圧電発振器10は、半導体基板(不図示)上にパターニングにより、発振回路14、温度センサー16、記憶回路18、シリアルインターフェース回路20、電源端子28、グランド端子30等の各端子が形成され、発振回路14と圧電振動子12が接続された構造を有している。さらに図1に示すように、圧電発振器10の接続対象となる温度補償回路32は、周波数補正回路34、演算回路となるCPU36、メモリ38、A/D変換器40を有する。また圧電振動子12の周波数温度特性から特性情報及びディップ情報を算出する際には、図2に示すように、圧電発振器10は測定器42に接続され、測定器42は、周波数カウンター44、PC46(パーソナルコンピューター)、電圧マルチメーター48を有する。
【0033】
圧電振動子12は、水晶、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム等の圧電材料であり、水晶であればATカットすることにより形成され、発振回路14から交流電圧を受けて、厚みすべり振動により所定の共振周波数で発振することができる。このATカットによる厚みすべり振動を用いた水晶振動子の共振周波数は、基準温度(25℃)を中心として正の3次曲線となる温度特性を有している。
【0034】
発振回路14は、圧電振動子12を発振源とする例えばコルピッツ型の発振回路であり、発振信号出力端子22を介して温度補償回路32、または測定器42に発振信号を出力する。
【0035】
図3に圧電振動子の周波数温度特性を示し、図3(a)は全体図、図3(b)は図3(a)内の破線で囲まれた部分の詳細図である。本実施形態で用いられる圧電振動子12は小型化され、駆動させる電流値を高く設定した状態で使用したことで周波数温度特性(周波数温度特性の情報54)にアクティヴィティディップ56が発生した状態となっている。よって発振回路から出力される発振信号50の周波数温度特性においてもアクティヴィティディップ56を有した状態となっている。
【0036】
アクティヴィティディップ56とは、圧電振動子12に温度変化を加えたときに発生する共振周波数や直列抵抗の急激な変動現象をいい、圧電振動子12の周波数温度特性の所定の温度位置においてディップとして現れるものである。
【0037】
しかし、圧電振動子12の周波数温度特性において、共振周波数の温度変化に対して緩やかに変化する特性情報58(近似曲線60)と、急激に変化するディップ情報62(近似曲線64)と、に近似式を用いて互いに分離することができる。
【0038】
まず、本実施形態の圧電発振器10の設定最低温度から設定最高温度での範囲において、所定の温度間隔で共振周波数を測定した周波数温度特性の情報54を生成する。そして以下の近似式(べき級数)に周波数温度特性の情報54を代入し、周波数温度特性の情報54から特性情報58を生成する。
【数1】

【0039】
ここで、fは基準周波数、Δfは測定された周波数と基準周波数との偏差、Tは基準温度である。そして数式1の各係数(A、B、C、D、E)を最小二乗法等を用いて算出する。このとき周波数温度特性に包含されるディップは数式1の次数程度では拾われることはない。よって、得られた係数(A、B、C、D、E)により、図3(a)に示すようにディップを包含しない近似曲線60を生成することができる。このように特性情報58を係数として表わすことにより、温度補償を行う側で、係数を算出する工程が不要となるため、温度補償を行う側の負担を軽減して容易に温度補償を行うことができる。
【0040】
なお特性情報58としては、上述の近似式の情報が生成する近似曲線60上の点であって、近似式の情報が生成できるように抽出した温度と周波数偏差との関係を示す情報を用いてもよい。または温度と周波数(絶対値)との関係を表わす情報としてもよい。これにより、温度補償を行う側で、係数を算出する必要があるが温度補償を行う側で係数を高精度に算出することができる。
【0041】
次に、数式1の右辺に特性情報58(係数)を代入し、数式1の左辺に周波数温度特性の情報54を代入し、数式1の右辺と左辺との差分を算出することによりディップ情報62を生成する。
【0042】
こうして得られるディップ情報62は、周波数温度特性の情報と、近似式の情報(特性情報58)から生成される近似曲線60の情報と、の差分により算出された、温度と周波数偏差との関係を表わす情報(図3(b)においてはプロットデータ)となる。このような情報の形態とすることにより、圧電振動子12の周波数温度特性中のアクティヴィティディップ56を高精度に抽出することができるので、アクティヴィティディップ56を排除した温度補償を高精度に行うことができる。
【0043】
また、ディップ情報62は、周波数温度特性の情報54と同じ温度範囲の情報を包含しているが、周波数温度特性においてアクティヴィティディップ56は、周波数温度特性の情報54が有する温度範囲のうち、一部の温度領域にあるので、その温度領域以外の情報を削除してもよい。これにより後述の記憶回路18等のメモリ負担を軽減して圧電発振器10のコストを抑制することができる。
【0044】
そして、発振回路からの発振信号は、上述の近似式の情報(特性情報)とディップ情報とを足し合わせた第2の近似式の情報、そして圧電振動子12の温度の情報(温度T)を用いて温度補償を行うことができる。
【0045】
第1実施形態において、特性情報58及びディップ情報62は、温度補償回路32に出力される。よってディップ情報62も上述の係数で表わすことが好適である。ディップ情報62は以下に示す第3の近似式(べき級数)により近似することができる。
【数2】

【0046】
よって、上述同様の計算を行い。ディップ情報62を数式2の係数(A、B、C、D、E、F)で表わすことができる。
こうして得られるディップ情報62は、周波数温度特性の情報54と近似式の情報から生成される近似曲線60の情報の差分により算出され、温度と周波数偏差との関係を表わす情報を近似する第3の近似式の情報から抽出された係数の情報となる。これにより、圧電振動子12の周波数温度特性中のアクティヴィティディップの情報量を小さくすることができるので、メモリ負担を軽減し、コストを抑制してアクティヴィティディップ56を排除した温度補償を行うことができる。
【0047】
ところで、ディップ情報62に係るアクティヴィティディップ56は、例えば図3(b)に示すように、上に凸の曲線を描く第1の温度範囲66、直線的な線を描く第2の温度範囲68、下に凸の曲線を描く第3の温度範囲70を有する。よってディップ情報62は第1の温度範囲66、第2の温度範囲68、第3の温度範囲70、それぞれに対して数式2の係数を算出し、後述の温度補償回路32(後述の第2実施形態の温度補償電圧発生回路)においては、温度補償を行う温度に対応してディップ情報62の係数を選択できるようにすればよい。これによりディップ情報62は数式2に従った近似曲線64を生成することができる。
【0048】
よって特性情報58とディップ情報62の組み合わせとしては、(特性情報58、ディップ情報62)=(温度と周波数偏差、温度と周波数偏差)、(係数、係数(温度範囲による場合分け有))、(温度と周波数偏差、係数(温度範囲により場合分け有))、(係数、温度と周波数偏差)、を適用することができる。いずれの組み合せにおいても、温度補償回路32(後述の第2実施形態の温度補償電圧発生回路)は上述の第2の近似式を生成し、温度補償量72を出力する構成を有するものとする。以上の計算は、後述の測定器42により行なわれる。
【0049】
温度センサー16は、ダイオード構造を有しており、順方向電流を流し、温度によって変化する検出電圧52を温度センサー電圧出力端子24から温度補償回路32または測定器42に出力するものである。ここで検出電圧52は温度上昇とともに1次関数的に減少し、出力される検出電圧52は測定される温度Tに対応したものとなっている。なお、温度センサー16は圧電振動子12に隣接して配置することが望ましい。これにより圧電振動子12の温度を正確に測定することができ、周波数温度特性の情報54、特性情報58、ディップ情報62を高精度に算出することができる。このように本実施形態において圧電振動子12の温度は、温度センサー16からの検出電圧52に対応している。よって後述の測定器42はこの検出電圧52に関連付けられた情報(検出電圧52を定義域とする情報)として周波数温度特性の情報54、特性情報58、ディップ情報62を算出し、温度補償回路32は特性情報58及びディップ情報62をこの検出電圧52に関連付けられた情報として扱い温度補償量72を算出している。
【0050】
シリアルインターフェース回路20は、外部からの指令を受けて記憶回路18に特性情報58やディップ情報62を記憶したり、外部に出力するものである。シリアルインターフェース回路20は記憶回路18に接続されるとともに、データ入出力端子26を介して温度補償回路32及び測定器42に接続される。
【0051】
記憶回路18は、EEPROM等で形成され、シリアルインターフェース回路20を介して特性情報58やディップ情報62が記憶され(書き込まれ)、または出力することができる。特性情報58及びディップ情報62は、それぞれ有限個のデータにより構成されているが、それぞれ測定器42中のPC46、及び温度補償回路32中のCPU36が共通に認識できるアドレスが設けられているものとする。また、ディップ情報62を係数で記憶する場合は、上述の温度範囲ごとに算出された係数を、後述の温度補償回路32(後述の温度補償電圧発生回路)で使い分けられるように、温度範囲に対応して互いに識別可能なアドレスが設けられているものとする。
【0052】
温度補償回路32は、発振回路14からの発振信号を入力するとともに、特性情報58及びディップ情報62に基づいて発振回路14から出力される発振信号50の発振周波数の温度特性を近似するための第2の近似式を生成し、この第2の近似式と圧電振動子12の温度の情報となる検出電圧52を用いて温度補償量72を算出し、温度補償された発振信号74を出力するものである。
【0053】
温度補償回路は、周波数補正回路、演算回路となるCPU、メモリ等から構成される。周波数補正回路は、CPUから出力される温度補償量に対応して出力信号の周波数を可変させる回路であって、発振信号出力端子に接続されて発振信号が入力され、CPUの制御のもと温度補償を行った発振信号を出力するものである。
【0054】
CPU36は、温度補償回路の中核をなすものであって、記憶回路18から入力した特性情報58及びディップ情報62から圧電振動子12の発振周波数の温度特性を近似する第2の近似式を生成し、この第2の近似式と温度センサー16から入力される検出電圧52(温度の情報)に基づいて温度補償量72を算出して周波数補正回路34に出力するものである。
【0055】
CPU36は、データ入出力端子26、周波数補正回路34、さらに温度センサー16にA/D変換器40を介して接続されている。CPU36は、起動時に、プログラムによりデータ入出力端子26に記憶回路18に記憶された特性情報58及びディップ情報62を読み出すためのシリアルデータを出力し、記憶回路18内の特性情報58及びディップ情報62をシリアルインターフェース回路20を介して出力させ、CPU36に付属するメモリ38に記憶するものとする。
【0056】
記憶回路18に記憶された特性情報58が、上述の数式1を介して算出された温度と周波数偏差の情報により構成される場合、CPU36は数式1の近似式を用いて温度Tの情報と、温度Tに対応する周波数偏差の情報を代入し、最小二乗法等を用いて係数(A、B、C、D、E)を算出し、CPU36に付属するメモリ38に記憶するものとする。また記憶回路18に記憶された特性情報58が係数の情報により構成される場合、CPU36はそのまま付属のメモリに記憶する構成を有するもとする。
【0057】
一方、記憶回路18に記憶されたディップ情報62が、数式1により算出された温度と周波数偏差の情報により構成される場合、CPU36はそのまま付属するメモリ38に記憶し、入力された検出電圧52に対応する温度に一致する温度(最も近い温度)の情報に係る周波数偏差の情報を抽出可能な構成を有するものとする。またディップ情報62が数式2により算出された係数の情報により構成される場合、CPU36はそのまま付属するメモリ38に記憶する。
【0058】
そしてCPU36は、メモリ38から読み出した特性情報58と温度の情報(T−T)を用い、数式1に従って温度補償量72の特性情報58の成分を算出する。さらにCPU36はメモリ38から読み出したディップ情報62と温度の情報(T−T)を用いて数式2に従って温度補償量72のディップ情報62の成分を算出する。そして温度補償量72の特性情報58の成分(数式1の右辺)と温度補償量72のディップ情報62の成分(数式2の右辺)を足し合わせることにより温度補償量72を算出する。なお数式1の右辺と数式2の右辺を足し合わせたものも第2の近似式となる。
【0059】
ここで、入力された温度の情報(検出電圧52)が上述の第1の温度範囲66、第2の温度範囲68、第3の温度範囲70のいずれかに属する場合は、その温度範囲に係る係数を選択して用いるものとする。また入力された温度Tの情報(検出電圧)が上述のいずれの温度範囲にも属さないときは、温度補償量72は特性情報58の成分(数式1)のみを用いて算出するものとする。
【0060】
またCPU36は、プログラムにより所定時間ごとに温度センサー16からの検出電圧52(温度の情報)をA/D変換器40を介してデジタルデータ化して入力し、付属のメモリ38に記憶する。そしてメモリ38から特性情報58、ディップ情報62を読み出して第2の近似式を生成し、さらにメモリ38から検出電圧52(温度の情報)を読み出して、第2の近似式と検出電圧52から温度補償量72を算出し、温度補償量72を周波数補正回路34に出力する。よってCPU36は所定時間ごとに温度補償量72を算出して周波数補正回路34に出力する。これにより周波数補正回路34は、温度補償後の発振信号74を常時出力するが、発振信号74は所定時間ごとに温度補償が行われることになる。
【0061】
上述のように、CPU36においては特性情報58及びディップ情報62を必要とするため、圧電発振器10においてCPU36に出力すべき特性情報58及びディップ情報62を予め記憶回路18に記憶する必要がある。このため圧電発振器10を測定器42に接続し、圧電発振器10の設定最低温度から設定最高温度の範囲の周波数温度特性の情報54を生成し、これに基づいて特性情報58及びディップ情報62を生成する必要がある。
【0062】
図2に圧電発振器と測定器との接続図を示す。測定器42は、温度補償回路32が必要とする特性情報58及びディップ情報62を算出して記憶回路18に書き込むものである。測定器42は、周波数カウンター44、PC46(パーソナルコンピューター)、電圧マルチメーター48により構成される。周波数カウンター44は、発振信号出力端子22に接続され、発振回路14から出力される発振信号50の周波数を測定してPC46に出力することができる。電圧マルチメーター48は、温度センサー16からの検出電圧52をデジタルデータに変換してPC46に出力することができる。
【0063】
PCは、キー操作等により周波数カウンターや電圧マルチメーターを起動可能であるとともに、温度センサーからの検出電圧(温度の情報)を入力してPCに付属する記憶領域(不図示)に記憶することができる。
【0064】
本実施形態においては、圧電発振器10を温度調整が可能なチャンバー(不図示)内に配置し、圧電発振器10を設定最低温度から設定最高温度まで所定の温度幅で変化させ、PCはプログラム等により各温度点において圧電発振器10が出力する発振信号50の発振周波数を測定することにより周波数温度特性の情報54を生成する。なお温度幅は、周波数温度特性の情報54中のアクティヴィティディップ56の形状を識別可能な分解能に対応する程度であればよい。
【0065】
そしてPC46は上述の数式1、または後述のように数式2を用いて特性情報58及びディップ情報62を生成し、これらをシリアルデータ化しシリアルインターフェース回路20を介して記憶回路18に記憶する。その後圧電発振器10を温度補償回路32に接続すると、記憶回路18に記憶された特性情報58及びディップ情報62が温度補償回路32のCPU36(メモリ38)に入力され、この特性情報58及びディップ情報62に基づいて第2の近似式を算出し、第2の近似式と検出電圧52により温度補償量72を算出し、周波数補正回路34に温度補償量72を出力して温度補償後の発振信号74を出力することになる。
【0066】
本実施形態において、記憶回路18に記憶する特性情報58及びディップ情報62の容量について述べる。まず特性情報58及びディップ情報62が、それぞれ温度と周波数偏差の情報により構成される場合について考える。特性情報58は、例えば、近似式において第1温度点(設定最低温度、例:−30℃)、第2温度点(例:−15℃)、第3温度点(例:0℃)、第4温度点(基準温度、例:+25℃)、第5温度点(例:+50℃)、第6温度点(例:+70℃)、第7温度点(設定最高温度、例+85℃)における周波数偏差を抽出し、各温度点の情報と各温度点における周波数偏差の情報との組み合わせにより構成する。なお、以上の温度点を採用することにより数式1における係数を容易に算出することができる。
【0067】
温度点ごとの各情報で用いる容量は各情報の有効数字に従って変動するが、本実施形形態ではそれぞれ2バイトと仮定する。すると温度点の情報7つと、これに対応する周波数偏差の情報7つにより特性情報58が使用する容量は28バイトとなる。一方、ディップ情報62は、周波数温度特性の情報54に現れるアクティヴィティディップ56を含む温度範囲において14個の温度点を用い、これに対応する周波数偏差も14個用いることにする。このときも各情報が用いる容量を2バイトとすると、ディップ情報62が使用する容量は56バイトとなる。したがって、特性情報58とディップ情報62とを合わせると84バイトとなる。
【0068】
次に特性情報58及びディップ情報62が、それぞれ係数の情報により構成される場合について考える。特性情報58は上述の数式1の係数(5つ)となる。よって1つの係数の情報当たり2バイト用いるとすると、特性情報58が使用する容量は10バイトとなる。一方、ディップ情報62は上述の数式2の係数(6つ)となるとともに、温度範囲において場合分けされる。ディップ情報62に係るアクティヴィティディップ56が上述のように、第1の温度範囲、第2の温度範囲、第3の温度範囲ごとに係数の情報を生成するものとする。すると第1の温度範囲及び第3の温度範囲においては係数をそれぞれ6つ用い、第2の温度範囲ではアクティヴィティディップが一次関数になっているので係数を2つ(E、F)用いることになる。よって1つの係数の情報当たり2バイト用いるとすると、ディップ情報62が使用する容量は28バイトとなる。したがって、特性情報58とディップ情報62とを合わせると38バイトとなる。
【0069】
ところで、周波数温度特性の情報54をアクティヴィティディップ56の形状が認識できるほどの温度幅で生成した場合は、上述の2つの場合の容量よりもはるかに大きな容量を必要とする。したがって、本実施形態のように周波数温度特性を特性情報58とディップ情報62とを用いて表わすことにより、使用する容量を削減し記憶回路18に対するメモリ負担を軽減することが可能であることがわかる。
【0070】
第1実施形態の圧電発振器10によれば、発振回路14からは、圧電振動子12の周波数温度特性にアクティヴィティディップ56を包含する発振信号50を出力することになるが、周波数温度特性を、特性情報58とディップ情報62により近似的に表わすので、それぞれのメモリ使用量を抑制し記憶回路18に対するメモリ負担を抑制することができる。そして特性情報58とディップ情報62を出力するので、ユーザー側においてこの2つの情報を取得することにより発振信号50の温度補償を行うことが可能となる。
【0071】
また本実施形態の圧電発振器10は温度補償回路32に接続された構成、及び温度補償回路32を包含した構成を有している。よって、温度補償回路32(周波数補正回路34)からは、圧電振動子12のアクティヴィティディップ56を包含した周波数温度特性に対応して温度補償を行った発振信号74を出力することになる。よってアクティヴィティディップ56を包含した周波数温度特性を有する圧電振動子12を用いて発振回路14であっても高精度な温度補償を行うことができる。
【0072】
第2実施形態に係る圧電発振器を図4に示す。図4に示すように圧電発振器は、半導体基板(不図示)上にパターニングにより、発振回路104、温度センサー106、温度補償電圧発生回路108、記憶回路136、切替回路138、シリアルインターフェース回路140、電源端子142、グランド端子144等の各端子が形成された半導体回路基板を備え、発振回路104と圧電振動子102が接続された構造を有している。
【0073】
圧電振動子102は、第1実施形態の圧電振動子12と同様の特性を有するものとする。発振回路104は、圧電振動子102を発振源とする例えばコルピッツ型の発振回路であるとともに、発振回路104には可変容量が内蔵され、この可変容量に印加する温度補償電圧164または外部からの理想補償電圧156を入力して発振回路104から出力される発振信号154の温度補償を行い、発振信号154を発振信号出力端子146に出力する。
【0074】
温度補償電圧164及び理想補償電圧156は、圧電振動子102を包含する発振回路104を、設定最低温度から設定最高温度にまで変化させたときに、発振信号154の周波数が基準温度(25℃)における基準周波数と同じになるように発振回路104の可変容量に印加する電圧である。よって温度補償電圧164及び理想補償電圧156の温度特性は圧電振動子102の周波数温度特性と一致し、その温度特性中にアクティヴィティディップ56が現れることになる。したがって、理想補償電圧156の温度特性から数式1や数式2に従って第1実施形態と同様の特性情報158(特性情報58と同様、図3参照)及びディップ情報160(ディップ情報62と同様、図3参照)を得ることができる。なお温度補償電圧164及び理想補償電圧156は発振信号154の周波数の変化がリニアに応答する範囲(線形応答する範囲)で用いるものとする。
【0075】
温度センサー106は、第1実施形態の温度センサー16と同様にダイオード構造を有しており、順方向電流を流し、温度によって変化するダイオードの端子間電位であるアナログの検出電圧を温度補償電圧発生回路に出力することができる。また温度センサーは電源電圧が供給される限り常時検出電圧を出力するものとする。
【0076】
温度補償電圧発生回路108は、4次電圧発生回路110、3次電圧発生回路112、2次電圧発生回路114、1次電圧発生回路116、0次電圧発生回路118、DIP電圧発生回路120、加算回路122により構成されている。また各電圧発生回路は記憶回路136に接続される。
【0077】
本実施形態の圧電振動子102の周波数温度特性は、第1実施形態の圧電振動子12と同様に、特性情報158、ディップ情報160により近似的に表わすことができる。よってこのような温度特性を有する発振信号154の温度補償を行うために、温度補償電圧164(理想補償電圧156)Vhの特性情報158に係る成分は、以下のような温度特性を有する必要がある。
【数3】

【0078】
ここで、Vc、Vc、Vc、Vc、Vcは、それぞれ数式1の−A、−B、−C、−D、−Eに対応する。またTは基準温度である。このため4次電圧発生回路110には係数(Vc)の情報が、3次電圧発生回路112には係数(Vc)の情報が、2次電圧発生回路114には係数(Vc)の情報が、1次電圧発生回路116には係数(Vc)の情報が、0次電圧発生回路118には係数(Vc)の情報がそれぞれ入力される構成を有している。
【0079】
そして0次電圧発生回路118以外の各電圧発生回路に圧電振動子102の温度の情報、すなわち検出電圧152が入力されると、4次電圧発生回路110は圧電振動子102の温度の情報(T−T)の4乗と係数(Vc)の情報との積に対応する電圧を出力し、3次電圧発生回路112は温度の情報(T−T)の3乗と係数(Vc)の情報の積に対応する電圧を出力し、2次電圧発生回路114は温度の情報(T−T)の2乗と係数(Vc)の積に対応する電圧を出力し、1次電圧発生回路116は温度の情報(T−T)と係数(Vc)の積を出力し、0次電圧発生回路118は係数(Vc)の値に対応する電圧を出力する。
【0080】
一方、ディップ情報160が温度と周波数偏差との関係を示す情報である場合、DIP電圧発生回路120にはディップ情報160の全てが入力されるとともに、温度センサー106からの温度の情報(検出電圧152)に一致する温度(最も近い温度でもよい)の情報に係る周波数偏差の情報を抽出し、この情報に対応する電圧を出力する。そして、これらの電圧は加算回路122において加算され温度補償電圧164(Vh)が生成される。
【0081】
記憶回路136は、EEPROM等で形成され、シリアルインターフェース回路140を介して入力される特性情報158及びディップ情報160を記憶するとともに、これらの情報を温度補償電圧発生回路108に出力するものである。
【0082】
よって記憶回路136は、係数(Vc)に対応する係数Aの情報を4次電圧発生回路110に出力し、係数(Vc)に対応する係数Bの情報を3次電圧発生回路112に出力し、係数(Vc)に対応する係数Cの情報を2次電圧発生回路114に出力し、係数(Vc)に対応する係数Dの情報を1次電圧発生回路116に出力し、係数(Vc)(オフセット量)に対応する係数Eの情報を0次電圧発生回路118に出力する。そしてディップ情報160が温度と周波数偏差の情報である場合は、ディップ情報160の全てをDIP電圧発生回路120に出力する。
【0083】
特性情報158及びディップ情報160は後述のPC174において算出される。なお記憶回路136は、新たな特性情報158及びディップ情報160が入力されると、もとの特性情報158及びディップ情報160に上書きする形で記憶するとともに、新たな特性情報158及びディップ情報160を温度補償電圧発生回路108に出力する。
【0084】
切替回路138は、温度補償電圧発生回路108と発振回路104との間に介装されている。切替回路138は、一方が発振回路104に接続され、他方が温度補償電圧発生回路108及び電圧入力端子148(電圧発生回路170)のいずれか一方に接続可能な構成を有している。切替回路138はシリアルインターフェース回路140から入力される切替信号162により、温度補償電圧発生回路108側及び電圧入力端子148側に切替接続することができる。
【0085】
シリアルインターフェース回路140は、信号入力端子150に接続され、外部からのシリアルデータ(特性情報158、ディップ情報160、切替信号162)をデコードし、デコードした情報が特性情報158及びディップ情報160である場合は、これらの情報を記憶回路136に出力し、デコードした情報が切替信号162である場合は切替信号162を切替回路138に出力する。
【0086】
本実施形態における特性情報158及びディップ情報160の算出過程においては、圧電発振器100を測定器166に接続する。測定器166は、周波数カウンター168、電圧発生回路170、電圧マルチメーター172、PC174(パーソナルコンピューター)により構成されている。
【0087】
周波数カウンター168は、発振信号出力端子146に接続され、発振回路104から出力される発振信号154の周波数の情報を所定時間ごとに測定してPC174に出力するものである。電圧発生回路170は電圧入力端子148に接続され、任意の電圧値に調整可能な理想補償電圧156を、切替回路138を介して発振回路104に出力するものである。電圧マルチメーター172は、電圧発生回路170が出力する理想補償電圧164の値を測定し、理想補償電圧164の情報をPCに出力するものである。
【0088】
PC174は信号入力端子150に接続され、特性情報158及びディップ情報160を算出するとともに、これらの情報、または切替信号162の情報をシリアルデータ化してシリアルインターフェース回路140に出力するものである。
【0089】
理想補償電圧156の調整は、例えば作業者がPC174のディスプレイ上に表示される発振信号154の周波数の値を見ながら手動で調整し、PC174におけるキー操作により発振信号154の周波数が基本周波数に一致するときの理想補償電圧156の情報と温度の情報を入力してもよい。また電圧発生回路170をPC174に接続し、PC174にインストールされたプログラム等にしたがって発振信号154の周波数が基準周波数となるように電圧発生回路170の出力を調整し、このときの理想補償電圧156の情報と温度の情報を入力する構成としてもよい。いずれの場合でもPC174においては、温度の情報を温度センサー106から出力される検出電圧152に換算する構成を有するものとする。
【0090】
本実施形態における特性情報158及びディップ情報160は、第1実施形態と同様に圧電振動子102を包含する発振回路に対して設定最低温度から設定最高温度まで所定の温度幅で変化させる。そして、そのときの発振信号154の周波数が基準周波数となるように手動もしくはPC174のプログラム等により理想補償電圧156を印加して、印加電圧の情報と温度の情報を生成し、これにより理想補償電圧156の温度特性の情報を生成する。そしてこの温度特性の情報を数式1に適用することにより得ることができる。
【0091】
図5に第2実施形態の圧電発振器の変形例の部分詳細図を示す。次に、ディップ情報160が数式2により係数の情報として用いられる場合について説明する。DIP電圧発生回路120は、数式2に示す係数に対応するため図5に示すように、5次電圧発生回路124、4次電圧発生回路126、3次電圧発生回路128、2次電圧発生回路130、1次電圧発生回路132、0次電圧発生回路134から構成され、入力側が記憶回路136に互いに並列に接続され、出力側が加算回路122にそれぞれ接続される。また各電圧発生回路は温度センサー106に接続され検出電圧152が入力される。よってDIP電圧発生回路120から出力される電圧Vhは以下のようになる。
【数4】

【0092】
ここで、Vc、Vc、Vc、Vc、Vc、Vcは、それぞれ数式2の−A、−B、−C、−D、−E、−Fに対応する。またTは基準温度である。このため5次電圧発生回路124には係数(Vc)に対応する係数Aの情報が、4次電圧発生回路126には係数(Vc)に対応する係数Bの情報が、3次電圧発生回路128には係数(Vc)に対応する係数Cの情報が、2次電圧発生回路130には係数(Vc)に対応する係数Dの情報が、1次電圧発生回路132には係数(Vc)に対応する係数Eの情報が、0次電圧発生回路134には係数(Vc)に対応する係数Fの情報がそれぞれ入力される構成を有している。
【0093】
そして各電圧発生回路に圧電振動子102の温度の情報、すなわち検出電圧152が入力されると、5次電圧発生回路124は圧電振動子102の温度の情報(T−T)の5乗と係数(Vc)の情報との積に対応する電圧を出力し、4次電圧発生回路126は温度の情報(T−T)の4乗と係数(Vc)の情報との積に対応する電圧を出力し、3次電圧発生回路128は温度の情報(T−T)の3乗と係数(Vc)の情報の積に対応する電圧を出力し、2次電圧発生回路130は温度の情報(T−T)の2乗と係数(Vc)の積に対応する電圧を出力し、1次電圧発生回路132は温度の情報(T−T)と係数(Vc)の積を出力し、0次電圧発生回路134は係数(Vc0)の値に対応する電圧を出力する。
【0094】
ここでディップ情報160は、第1実施形態で述べたように、例えば、ディップの形状が上に凸の形状の第1の温度範囲66、1次関数的に変化する第2の温度範囲68、下に凸の形状の第3の温度範囲70ごとに係数が求められており、各係数には対応する温度範囲の情報が付加されている。よって各電圧発生回路は、記憶回路136からそれぞれ複数の係数(本実施形態では3つ)が入力される。さらに各電圧発生回路は、温度センサー106からの温度の情報(検出電圧152)がどの温度範囲に属するかを判別し、温度範囲に属する係数を選択する。よって各電圧発生回路は、予め記憶回路136から入力された複数の係数のうち、検出電圧152に係る温度に対応する係数を選択し、選択した係数と検出電圧152とに基づいて対応する電圧を出力することになる。これにより、温度補償電圧164は特性情報158に係る電圧(Vh)とディップ情報160に係る電圧(Vh)とを足し合わせることにより生成され、周波数温度特性にアクティヴィティディップ56を有する場合であっても発振信号154の温度補償を良好に行うことができる。なお、入力された温度T(検出電圧152)が、上述の第1の温度範囲66、第2の温度範囲68、第3の温度範囲70のいずれにも属さないときは、温度補償電圧164は、特性情報158に係る電圧(Vh)のみにより算出される。
【0095】
よって第2実施形態に係る圧電発振器100によれば、発振回路104からは、圧電振動子102のアクティヴィティディップ56を包含した周波数温度特性に対応して温度補償を行った発振信号154を出力することになる。よってアクティヴィティディップ56を包含した周波数温度特性を有する圧電振動子102を用いた発振回路104であっても高精度な温度補償を行うことができる。また周波数温度特性を、特性情報158とディップ情報160を用いて近似的に表わすので、それぞれのメモリ使用量を抑制し記憶回路136に対するメモリ負担を抑制することができる。
【符号の説明】
【0096】
10………圧電発振器、12………圧電振動子、14………発振回路、16………温度センサー、18………記憶回路、20………シリアルインターフェース回路、22………発振信号出力端子、24………温度センサー電圧出力端子、26………データ入出力端子、28………電源端子、30………グランド端子、32………温度補償回路、34………周波数補正回路、36………CPU、38………メモリ、40………A/D変換器、42………測定器、44………周波数カウンター、46………PC、48………電圧マルチメーター、50………発振信号、52………検出電圧、54………周波数温度特性の情報、56………アクティヴィティディップ、58………特性情報、60………近似曲線、62………ディップ情報、64………近似曲線、66………第1の温度範囲、68………第2の温度範囲、70………第3の温度範囲、72………温度補償量、74………発振信号、100………圧電発振器、102………圧電振動子、104………発振回路、106………温度センサー、108………温度補償電圧発生回路、110………4次電圧発生回路、112………3次電圧発生回路、114………2次電圧発生回路、116………1次電圧発生回路、118………0次電圧発生回路、120………DIP電圧発生回路、122………加算回路、124………5次電圧発生回路、126………4次電圧発生回路、128………3次電圧発生回路、130………2次電圧発生回路、132………1次電圧発生回路、134………0次電圧発生回路、136………記憶回路、138………切替回路、140………シリアルインターフェース回路、142………電源端子、144………グランド端子、146………発振信号出力端子、148………電圧入力端子、150………信号入力端子、152………検出電圧、154………発振信号、156………理想補償電圧、158………特性情報、160………ディップ情報、162………切替信号、164………温度補償電圧、166………測定器、168………周波数カウンター、170………電圧発生回路、172………電圧マルチメーター、174………PC。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数温度特性にアクティヴィティディップを有する圧電振動子と、
前記圧電振動子を発振させ発振信号を出力する発振回路と、
記憶回路と、を有し、
前記記憶回路には、
前記周波数温度特性の情報を近似する近似式の情報から抽出された特性情報と、
前記周波数温度特性の情報と前記近似式の情報に基づいて算出されアクティヴィティディップを示すディップ情報と、が記憶されたことを特徴とする圧電発振器。
【請求項2】
前記発振回路は、前記特性情報と前記ディップ情報とに基づいて前記アクティヴィティディップを包含する第2の近似式を生成し、前記第2の近似式と前記圧電振動子の温度の情報に基づいて前記発振信号の温度補償を行う温度補償回路に前記発振信号を出力し、
前記記憶回路は、前記近似式を生成するための情報と、前記ディップ情報と、を前記温度補償回路に出力することを特徴とする請求項1に記載の圧電発振器。
【請求項3】
周波数温度特性にアクティヴィティディップを有する圧電振動子と、
前記圧電振動子を発振させ発振信号を出力する発振回路と、
前記周波数温度特性を近似する近似式の情報から抽出された特性情報と、前記周波数温度特性の情報と前記近似式の情報に基づいて算出されアクティヴィティディップの温度特性を示すディップ情報と、が記憶された記憶回路と、
前記特性情報と前記ディップ情報とに基づいて前記アクティヴィティディップを包含する第2の近似式を生成し、前記第2の近似式と前記圧電振動子の温度の情報に基づいて温度補償量を出力する演算回路と、
前記発振信号が入力され前記温度補償量に基づいて前記発振信号の温度補償を行う周波数補正回路と、を有することを特徴とする圧電発振器。
【請求項4】
前記近似式の情報は、前記周波数温度特性の情報のべき級数展開による近似により生成され、
前記特性情報は、前記近似式の情報から抽出した係数の情報であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の圧電発振器。
【請求項5】
前記特性情報は、前記近似式の情報が生成する近似曲線上の点であって、前記近似式の情報が生成できるように抽出した温度と周波数偏差との関係の情報、または温度と周波数との関係を表わす情報であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の圧電発振器。
【請求項6】
周波数温度特性にアクティヴィティディップを有する圧電振動子と、
前記圧電振動子を発振させて発振信号を出力させるとともに温度補償電圧により前記発振信号の温度補償を行う発振回路と、
前記発振回路に前記温度補償電圧を出力する温度補償電圧発生回路と、を有し、
前記温度補償電圧発生回路は、
前記周波数温度特性の情報を近似する近似式の情報から抽出された特性情報と、前記周波数温度特性の情報と前記近似式の情報に基づいて算出されアクティヴィティディップを示すディップ情報と、を用いて前記アクティヴィティディップを包含する第2の近似式の情報を生成し、前記第2の近似式の情報と前記圧電振動子の温度の情報に基づいて前記温度補償電圧を算出することを特徴とする圧電発振器。
【請求項7】
前記ディップ情報は、前記周波数温度特性の情報と、前記近似式の情報から生成される近似曲線の情報と、の差分により算出された、温度と周波数偏差との関係を表わす情報であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の圧電発振器。
【請求項8】
前記ディップ情報は、前記周波数温度特性の情報と前記近似曲線の情報の差分により算出され、温度と周波数偏差との関係を表わす情報を近似する第3の近似式の情報から抽出された温度係数であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の圧電発振器。
【請求項9】
前記アクティヴィティディップは、前記周波数温度特性の一部の温度領域に発生するものとし、
前記ディップ情報は、前記温度領域の範囲で生成されることを特徴とする請求項7または8に記載の圧電発振器。
【請求項10】
周波数温度特性にアクティヴィティディップを有する圧電振動子と、
前記圧電振動子を発振させ発振信号を出力する発振回路と、
記憶回路と、を有する圧電発振器の製造方法であって、
前記周波数温度特性の情報を近似する近似式の情報から特性情報を抽出し、
前記周波数温度特性の情報と前記近似式の情報に基づいてアクティヴィティディップを示すディップ情報を算出し、前記特性情報及び前記ディップ情報を前記記憶回路に記憶したことを特徴とする圧電発振器の製造方法。
【請求項11】
周波数温度特性にアクティヴィティディップを有する圧電振動子と、
前記圧電振動子を発振させ発振信号を出力する発振回路と、
前記発振信号が入力され温度補償量に基づいて前記発振信号の温度補償を行う周波数補正回路と、を有する圧電発振器の温度補償方法であって、
前記周波数温度特性を近似する近似式の情報から特性情報を抽出し、
前記周波数温度特性の情報と前記近似式の情報に基づいてアクティヴィティディップの温度特性を示すディップ情報を算出し、
前記特性情報と前記ディップ情報とに基づいて前記アクティヴィティディップを包含する第2の近似式を生成し、前記第2の近似式と前記圧電振動子の温度の情報に基づいて温度補償量を算出して前記周波数補正回路に出力することを特徴とする圧電発振器の温度補償方法。
【請求項12】
周波数温度特性にアクティヴィティディップを有する圧電振動子と、
前記圧電振動子を発振させて発振信号を出力するとともに温度補償電圧により前記発振信号の温度補償を行う発振回路と、を有する圧電発振器の温度補償方法であって、
前記周波数温度特性の情報を近似する近似式の情報から特性情報を抽出し、前記周波数温度特性の情報と前記近似式の情報に基づいてアクティヴィティディップを示すディップ情報を算出し、前記特性情報及び前記ディップ情報を用いて前記アクティヴィティディップを包含する第2の近似式の情報を生成し、前記第2の近似式の情報と前記圧電振動子の温度の情報に基づいて前記温度補償電圧を算出して前記発振回路に出力することを特徴とする圧電発振器の温度補償方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−234094(P2011−234094A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102197(P2010−102197)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】