説明

圧電磁器、振動子及び超音波モータ

【課題】Pb含有量が十分に低減されており、十分優れた機械的品質係数を有するとともに駆動時の発熱を低減することが可能な圧電磁器、並びにそのような圧電磁器を備える振動子を提供する。
【解決手段】主成分として下記一般式(1)で表わされる化合物を含有し、主成分を基準として、Mn、Fe及びCuから選ばれる少なくとも一つの元素を0.04〜0.6質量%含有する圧電磁器1及び該圧電磁器1と電極2,3を備える振動子10を提供する。
CaBa1−xTiO・・・(1)
(上記一般式(1)中、xは、0.05≦x≦0.20を満たす。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電磁器、振動子及び超音波モータに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波モータ、超音波洗浄器、圧電トランスなどの用途に用いられる圧電磁器や、共振変位を利用した圧電アクチュエータの圧電磁器は、共振変位が大きく優れた圧電特性を有することが求められる。特に、上述の用途に用いられる場合、駆動周波数が高くなるため、圧電磁器の機械的品質係数(Qm)が低いと発熱し易くなり、脱分極や圧電定数の変化等が生じてしまう。このため、十分に大きい機械的品質係数(Qm)を有する圧電磁器が求められている
【0003】
このような特性を満足する圧電磁器には、PZT(PbZrO−PbTiO固溶体)系や、PT(PbTiO)系などのペロブスカイト型化合物が用いられてきた(例えば、特許文献1参照)。ところが、このような圧電磁器は、Pbを含有することから、環境上の問題が懸念されている。このため、Pbを含有しない圧電磁器の組成が種々検討されている。例えば、BaTiO系や、KNN(KNbO−NaNbO固溶体)系の圧電磁器が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特許第3785648号公報
【特許文献2】特開2003−055048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のBaTiO系の圧電磁器は、PZT系やPT系の圧電磁器に比べて、機械的品質係数が低いため、上述の用途に適用することが困難な状況にある。また、KNN系の圧電磁器は、原料にNbを含有するために材料コストが高くなってしまうことに加えて、K,Naなどのアルカリ金属を使用しているために、焼成時の組成ずれが発生し易く、また、耐湿性が不十分であるといった問題がある。さらに、従来の圧電磁器は、機械的品質係数を十分に高くしても、駆動時の自己発熱を抑制することができず、それによって圧電特性が変化してしまうことが分かった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、Pb含有量が十分に低減されており、十分優れた機械的品質係数を有するとともに駆動時の発熱を低減することが可能な圧電磁器、並びにそのような圧電磁器を備える振動子及び超音波モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明では、主成分として下記一般式(1)で表わされる化合物を含有し、主成分を基準として、Mn、Fe及びCuから選ばれる少なくとも一つの元素を0.04〜0.6質量%含有する圧電磁器を提供する。
【0007】
CaBa1−xTiO・・・(1)
(上記一般式(1)中、xは、0.05≦x≦0.20を満たす。)
【0008】
本発明の圧電磁器は、構成元素としてPbを含んでいないため、Pb含有量が十分に低減されている。また、十分優れた機械的品質係数を有し、駆動時の発熱を低減することができる。このような効果が得られる理由は、必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下の通り推察している。すなわち、ぺロブスカイト構造(ABO)を有するBaTiOは、結晶相が変化する結晶相転移温度が室温付近にあるため、室温付近で駆動すると大きく発熱してしまう傾向にある。本発明では、BaTiOのAサイトの一部をCaで置換することにより結晶相転移温度が低温側(−50℃付近)に移動し、室温付近における温度安定性が良化すると考えられる。また、BaTiOのBサイトの一部が、Mn,FeまたはCuで置換されることによって酸素空孔が形成され、強誘電体ドメインがピニングされると考えられる。これらの相乗効果によって、十分に優れた機械的品質係数を有しつつ駆動時の発熱を低減することが可能な圧電磁器とすることができると考えている。
【0009】
上述の組成を有する圧電磁器によれば、構成元素としてPbを含まなくても、駆動時の発熱を低減しつつ機械的品質係数を1000以上とすることも可能である。
【0010】
本発明では、上述の圧電磁器と電極とを備える振動子を提供する。本発明の振動子は、上述の特徴を有する圧電磁器を備えるため、共振変位を利用した圧電アクチユエータ、超音波モータ、超音波振動子、圧電トランスなどに特に好適に用いることができる。
【0011】
また、本発明では、上記振動子を備える超音波モータを提供する。本発明の超音波モータは、上述の特徴を有する圧電磁器を備えるため、十分に高い出力を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、Pb含有量が十分に低減されるとともに、十分優れた機械的品質係数を有し、且つ駆動時の発熱を低減することが可能な圧電磁器、並びにそのような圧電磁器を備える振動子及び超音波モータを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、場合により図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各図面において、同一または同等の要素には同一の符号を付与し、重複する説明を省略する。
【0014】
図1は、本発明の振動子の好適な一実施形態を示す斜視図である。図1の振動子10は、圧電磁器1と、圧電磁器1を挟むようにして圧電磁器1の対向面上にそれぞれ設けられる一対の電極2,3とを備える。電極2,3は銀などの金属で構成される。
【0015】
圧電磁器1は、例えば、厚さ方向、すなわち一対の電極2,3が対向する方向に分極されており、電極2,3を介して電圧が印加されると径方向振動する。電極2,3は、例えば、金(Au)などの金属によりそれぞれ構成されている。電極2,3には、ワイヤなどを介して外部電源と電気的に接続することができる(図示しない)。
【0016】
圧電磁器1は、主成分として、上記一般式(1)で表わされる化合物を含有し、副成分として、Mn、Fe及びCuから選ばれる少なくとも一つの元素を含む化合物を含有する。副成分の合計含有量は、主成分全体を基準として元素換算で0.04〜0.6質量%である。
【0017】
上記一般式(1)で表わされる化合物は、ぺロブスカイト構造(ABO)を有するものであり、AサイトにおけるBaの一部がCaで置換されている。上記一般式(1)におけるxは、Aサイトおける、BaとCaの合計に対するBaのモル比を示している。一層優れた機械的品質係数を有し且つ駆動時の発熱が十分に低減された圧電磁器とする観点から、xは、好ましくは0.08〜0.20であり、より好ましくは0.1〜0.20である。
【0018】
上述の通り、Aサイトの一部をCaで置換することにより、BaTiOに比べて温度安定性が向上し、常温において優れた機械的品質係数を有しつつ、駆動時の発熱を低減することが可能な圧電磁器とすることができる。
【0019】
圧電磁器1における副成分である、Mn、Fe及びCuから選ばれる少なくとも一つの元素を含む化合物としては、上記一般式(1)で表されるペロブスカイト構造のBサイトに、Mn,Fe及びCuから選ばれる少なくとも一つの元素を有する化合物や、Mn酸化物、Fe酸化物及びCu酸化物などが挙げられる。
【0020】
圧電磁器1が、副成分としてMn及び/又はFeを含む化合物を含有する場合、一層優れた機械的品質係数を有し且つ駆動時の発熱を十分に低減することが可能な圧電磁器とする観点から、Mn化合物のMn換算及びFe化合物のFe換算の含有量は、主成分を基準として、合計で、好ましくは0.04〜0.2質量%であり、より好ましくは0.048〜0.18質量%であり、さらに好ましくは0.08〜0.15質量%である。
【0021】
圧電磁器1が、副成分としてCuを含む化合物を含有する場合、一層優れた機械的品質係数を有し且つ駆動時の発熱を十分に低減することが可能な圧電磁器とする観点から、Cu化合物のCu元素換算の含有量は、主成分を基準として、好ましくは0.06〜0.5質量%であり、より好ましくは0.09〜0.4質量%であり、さらに好ましくは0.1〜0.3質量%である。
【0022】
上述の通り、Mn及びFeとCuとで副成分の含有量の好適な範囲が異なるのは、それぞれの元素のイオン半径が異なることに起因していると考えられる。なお、圧電磁器1は通常、焼結体、すなわち多結晶体で構成されるが、副成分は、上述の通り、主成分のBサイトをMn,Fe又はCuで置換した化合物であってもよく、酸化物などの化合物として主成分の結晶粒の粒界に偏析していてもよい。
【0023】
圧電磁器1の組成は、例えば、X線回折やICP発光分光分析で測定することができる。圧電磁器1における主成分の含有量は、圧電磁器1全体を基準として、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上であり、さらに好ましくは98質量%以上である。
【0024】
圧電磁器1は鉛(Pb)を含んでいてもよいが、その含有量は1質量%以下であることが好ましく、鉛を全く含んでいないことがより好ましい。鉛の含有量が十分に低減された圧電磁器は、焼成時における鉛の揮発、及び圧電素子などの圧電部品として市場に流通し廃棄された後における環境中への鉛の放出を最小限に抑制することができる。
【0025】
圧電磁器1は、95%以上の相対密度を有することが好ましい。このように高い相対密度を有することによって、一層優れた圧電特性を得ることができる。なお、圧電磁器1の相対密度は、アルキメデス法によって測定することができる。圧電磁器1の相対密度は、焼成温度や焼成時間を変えることによって調整することができる。また、圧電磁器1の結晶粒径は、10μm以下であることが好ましい。結晶粒径が10μmを超えると、ドメインの移動を十分に抑制することが困難となり、機械的品質係数が低下する傾向がある。
【0026】
図2は、本発明に係る振動子の別の実施形態を示す斜視図である。図2の振動子20は、圧電磁器5と、圧電磁器5を挟むようにして圧電磁器1の対向面上にそれぞれ設けられる一対の電極2,3とを備える。電極2,3は銀などの金属で構成される。
【0027】
圧電磁器5は、例えば、厚さ方向、すなわち一対の電極2,3が対向する方向に分極されており、電極2,3を介して電圧が印加されると長辺方向伸び振動する。圧電磁器5は、上記実施形態に係る圧電磁器1と同様の組成を有する。このため、十分に優れた機械的品質係数を有しており、また駆動時の発熱が十分に低減されている。
【0028】
図3は、本発明に係る超音波モータの好適な一実施形態を示す斜視図である。超音波モータ30は、リング状ステータ34と、リング状ステータ34の一方面上に、円周方向に沿って、分極方向が交互に反対方向になるように設けられた複数の圧電磁器36と、リング状ステータ34の他方面上にロータ32と、を有する進行波型超音波モータである。
【0029】
超音波モータ30に備えられる圧電磁器36は、上記実施形態に係る圧電磁器1と同様の組成を有するため、優れた機械的品質係数を有しており、また駆動時の発熱が十分に低減されている。したがって、十分に高い出力を有する超音波モータとすることができる。
【0030】
圧電磁器36のリング状ステータ34側とは反対側の面上には、それぞれ図示しない電極がそれぞれ設けられ、互いに隣接する電極に圧電トランスから位相差が90度である2種類の交流出力電圧がそれぞれ印加される。これによって、圧電磁器36が振動し、超音波モータ30が駆動される。
【0031】
上述の各実施形態に係る圧電磁器、振動子及び超音波モータは以下の手順によって製造することができる。
【0032】
原料として、BaCO粉末、CaCO粉末及びTiO粉末を用意し、これら原料を十分に乾燥させる。そして、上記各原料を、CaBa1−xTiO(0.05≦x≦0.20)の組成となるように秤量する。
【0033】
秤量した各原料を、ボールミルなどにより、有機溶媒中又は水中で十分に混合した後、乾燥し、1000〜1100℃で2〜12時間焼成する。これによって、CaBa1−xTiO粉末を得ることができる。
【0034】
得られたCaBa1−xTiO粉末をボールミル等により1μm以下となるよう粉砕する。粉砕して得られたCaBa1−xTiO微粉末に、所定の比率で、MnCOなどのMn化合物、FeなどのFe化合物、またはCuOなどのCu化合物を添加して、ボールミルなどを用いて混合する。
【0035】
混合後、ポリビニルアルコール(PVA)などの有機溶媒を加え、一軸成形してペレットとした後、バインダーを除去し、1250〜1300℃の温度範囲で5〜10時間、密閉系で焼結させて圧電磁器を得ることができる。
【0036】
得られた圧電磁器を、円板状に研磨することによって、圧電磁器1を得ることができる。得られた圧電磁器1の厚み方向に垂直で互いに対向する面上に銀などの電極材料をそれぞれ焼き付けして電極2,3を形成し、例えば、70℃のシリコーンオイル中で30分、直流1kV/mmで分極処理を施すことによって、振動子10を得ることができる。
【0037】
また、上述のとおり焼結させて得られた圧電磁器を、直方体形状に研削、研磨することによって、上記実施形態に係る圧電磁器5を調製することができる。この圧電磁器5に、上記振動子10と同様にして、電極2,3を形成し、分極処理を施すことによって、振動子20を得ることができる。また、上述と同様の方法で得られた圧電磁器に、公知の方法で形成されたリング状ステータ及びロータを設けることによって、超音波モータを形成することができる。
【0038】
上記各実施形態に係る圧電磁器の機械的品質係数は、市販のインピーダンスアナライザーを用いて得られる共振周波数及び反共振周波数の測定結果から、日本電子材料工業会標準規格(EMAS−6100)に基いて、計算により求めることができる。
【0039】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、超音波モータの圧電磁器以外の構成には、公知のものを用いてもよい。また、本発明の圧電磁器の製造方法も上記実施形態に何ら限定されるものではなく、例えば、CaBa1−xTiOを水熱合成法等によって製造してもよい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0041】
[径方向振動子の作製]
(実施例1)
市販のBaCO粉末、CaCO粉末及びTiO粉末を用意し、十分に乾燥させた。これらの原料粉末を、Ca0.1Ba0.9TiOの組成となるような比率で秤量し、ボールミルを用いて、有機溶媒中で十分に混合して乾燥させた。
【0042】
乾燥後、混合物を、1000℃で2時間焼成して、Ca0.1Ba0.9TiO粉末を得た。得られたCa0.1Ba0.9TiO粉末をボールミルによって1μm以下となるよう粉砕し、Ca0.1Ba0.9TiOに対して、表1に示す質量比率(Mn換算)でMnCOを添加し、ボールミルを用いて混合した。
【0043】
混合後、ポリビニルアルコール(PVA)を加え、1MPaで一軸成形してペレットを作製した。このペレットを、650℃に加熱してバインダーを除去し、1250〜1300℃の温度範囲で5時間、密閉系で焼結させて焼結体を得た。
【0044】
得られた焼結体を、直径14mm、厚さ1mmの円板状に研磨し、焼結体の厚み方向に垂直な対向面に銀電極を焼き付けした後、70℃のシリコーンオイル中で30分、直流1kV/mmで分極処理して、図1に示すような径方向振動子を作製した。これを実施例1の振動子とした。
【0045】
(実施例2〜5)
Ca0.1Ba0.9TiOに対するMnCOのMn換算の添加量を表1に示す通りに変更したこと以外は、実施例1と同様にして径方向振動子をそれぞれ作製した。これらを実施例2〜5の振動子とした。
【0046】
(実施例6〜9)
MnCOに代えてFeを用いたこと、及びCa0.1Ba0.9TiOに対して、表1に示す質量比率(Fe換算)でFeをそれぞれ添加したこと以外は、実施例1と同様にして径方向振動子をそれぞれ作製した。これらを実施例6〜9の振動子とした。
【0047】
(実施例10〜13)
MnCOに代えてCuOを用いたこと、及びCa0.1Ba0.9TiOに対して、表1に示す質量比率(Cu換算)でCuOをそれぞれ添加したこと以外は、実施例1と同様にして径方向振動子をそれぞれ作製した。これらを実施例10〜13の振動子とした。
【0048】
(実施例14)
市販のBaCO粉末、CaCO粉末及びTiO粉末を、Ca0.05Ba0.95TiOの組成となるような比率で秤量して混合したこと以外は、実施例3と同様にして径方向振動子を作製した。これを実施例14の振動子とした。
【0049】
(実施例15)
市販のBaCO粉末、CaCO粉末及びTiO粉末を、Ca0.15Ba0.85TiOの組成となるような比率で秤量して混合したこと以外は、実施例3と同様にして径方向振動子を作製した。これを実施例15の振動子とした。
【0050】
(実施例16)
市販のBaCO粉末、CaCO粉末及びTiO粉末を、Ca0.2Ba0.8TiOの組成となるような比率で秤量して混合したこと以外は、実施例3と同様にして径方向振動子を作製した。これを実施例16の振動子とした。
【0051】
(比較例1)
MnCOを添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして、径方向振動子を作製した。これを比較例1の振動子とした。
【0052】
(比較例2)
市販のBaCO粉末及びTiO粉末を用意し、これらの原料を十分に乾燥させた。これらの原料を、BaTiOの組成となるような比率で秤量して用いたこと、及びMnCOを添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして、径方向振動子を作製した。これを比較例2の振動子とした。
【0053】
(比較例3)
市販のBaCO粉末及びTiO粉末を用意し、これらの原料を十分に乾燥させた。これらの原料を、BaTiOの組成となるような比率で秤量して用いたこと以外は実施例1と同様にして、径方向振動子を作製した。これを比較例3の振動子とした。
【0054】
(比較例4〜6)
BaTiOに対するMnCOのMn換算の添加量を表2に示す通りに変更したこと以外は、比較例3と同様にして径方向振動子をそれぞれ作製した。これらを比較例4〜6の振動子とした。
【0055】
(比較例7〜10)
MnCOに代えてFeを用い、BaTiOに対して、表2に示す質量比率(Fe換算)でFeをそれぞれ添加したこと以外は、比較例3と同様にして径方向振動子をそれぞれ作製した。これらを比較例7〜10の振動子とした。
【0056】
(比較例11〜14)
MnCOに代えてCuOを用い、BaTiOに対して、表2に示す質量比率(Cu換算)でCuOをそれぞれ添加したこと以外は、比較例3と同様にして径方向振動子をそれぞれ作製した。これらを比較例11〜14の振動子とした。
【0057】
(比較例15)
市販のBaCO粉末、CaCO粉末及びTiO粉末を、Ca0.02Ba0.98TiOの組成となるような比率で秤量して混合したこと以外は、実施例3と同様にして径方向振動子を作製した。これを比較例15の振動子とした。
【0058】
(比較例16)
市販のBaCO粉末、CaCO粉末及びTiO粉末を、Ca0.3Ba0.7TiOの組成となるような比率で秤量して混合したこと以外は、実施例3と同様にして径方向振動子を作製した。これを比較例16の振動子とした。
【0059】
[機械的品質係数の評価]
インピーダンスアナライザー(Agilent Technology製、商品名:4294A)を用いて、作製した各実施例及び各比較例の径方向振動子の共振周波数及び反共振周波数を測定した。日本電子材料工業会標準規格(EMAS−6100)に準拠して、共振周波数及び反共振周波数の測定値から、機械的品質係数(Qm)を求めた。結果は表1及び表2に示す通りであった。
【0060】
[発熱特性の評価]
次に、図4に示すような振動速度・発熱測定装置を用いて、径方向振動子の発熱特性を評価した。図4に示す振動速度・発熱測定装置には以下の部品を用いた。
・ファンクションジェネレータ(エヌエフ回路設計ブロック製、商品名:NF1930A)
・電圧計(Hewlett-Packard製、商品名:HP34401A)
・電流計(Hewlett-Packard製、商品名:HP34401A)
・パワーアンプ(エヌエフ回路設計ブロック製、商品名:NF4010)
・放射温度計(横河電気株式会社製、商品名:YOKOGAWA 530 03)
【0061】
径方向振動子の発熱は、動的な特性評価として以下の通り測定した。図4中、「試料」の位置に作製した径方向振動子を接続し、放射温度計を用いて温度(駆動前)を測定した。そして、径方向振動子を0.5m/sの振動速度で1時間駆動させた。十分に波形が安定していることを確認した後、放射温度計を用いて、径方向振動子の温度(駆動後)を測定し、駆動前と駆動後の温度差(ΔT)を算出した。結果は表1及び表2に示すとおりであった。なお、1時間駆動しても検出される波形が安定せず、径方向振動子が熱暴走したものは「NG」と評価した。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
表2の比較例1と比較例2の結果から、BaTiOのAサイトの一部をCaで置換することによって、機械的品質係数が向上することが確認された。また、表1に示すとおり、Ca置換とともに、Mn化合物、Fe化合物又はCu化合物を、主成分に対して所定量添加することによって、機械的品質係数が大幅に向上し、且つ駆動時の発熱(ΔT)を十分に抑制できることが確認された。実施例1〜16は、いずれも、機械的品質係数が500以上且つΔTが20℃以下であった。
【0065】
BaTiOに所定量のMn化合物、Fe化合物又はCu化合物を添加した比較例3〜14は、駆動時の発熱を低減することができなかった。また、Ca置換量が少なすぎる場合(比較例15)、及びCa置換量が多すぎる場合(比較例16)は、機械的品質係数があまり改善されず、発熱も大きくなってしまうことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の振動子の好適な一実施形態を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る振動子の別の実施形態を示す斜視図である。
【図3】本発明に係る超音波モータの一実施形態の好適な実施形態を示す斜視図である。
【図4】径方向振動子の発熱特性の評価に用いた振動速度・発熱測定装置の概要を示す説明図である。
【符号の説明】
【0067】
1,5,36…圧電磁器、2,3…電極、10,20…振動子(超音波振動子)、30…超音波モータ、32…ロータ、34…リング状ステータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分として下記一般式(1)で表わされる化合物を含有し、
CaBa1−xTiO・・・(1)
(上記一般式(1)中、xは、0.05≦x≦0.20を満たす。)
前記主成分を基準として、Mn、Fe及びCuから選ばれる少なくとも一つの元素を0.04〜0.6質量%含有する圧電磁器。
【請求項2】
機械的品質係数が1000以上である請求項1に記載の圧電磁器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の圧電磁器と電極とを備える振動子。
【請求項4】
請求項3に記載の振動子を備える超音波モータ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−120835(P2010−120835A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315756(P2008−315756)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】