説明

圧電素子及びその製造方法、電子デバイス、インクジェット装置

【課題】基材に電極及び圧電膜が積層された状態において高温焼成しても、電極が酸化されず、且つ基材、電極、圧電膜間の相互拡散が抑制された圧電素子の製造方法を提供する。
【解決手段】電極を、基材側から、導電性酸化物層と、該導電性酸化物と導電性金属とからなる混合層と、該導電性金属からなる導電性金属層からなる積層体とし、上記混合層を、導電性酸化物の割合が、導電性酸化物層との界面が最も高く、導電性金属層との界面が最も低い傾斜組成構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子とその製造方法、更には該圧電素子を用いた電子デバイス、インクジェット装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧電素子は、歪みによって電界を生じる圧電効果、又、電界をかけると歪みを生じる逆圧電効果を有する素子である。主にチタン酸ジルコン酸鉛(以下、「PZT」と記す。)にストロンチウム、バリウム、ニオブ等に代表される元素を微量添加した圧電膜として使われている。
【0003】
従来、圧電素子の作製は、圧電膜の原料粉を混合、加圧焼結し、機械加工して圧電膜とした後、当該圧電膜を電極材料で挟んで分極して圧電性を付与する工程を有していた。しかし、近年、デバイスの小型化に伴い、より薄く、より小さな個所への圧電素子の装着が必要となってきている。PZTに代表される酸化物系の圧電素子は脆性材料のため、薄くする加工に限度があり、0.1mmぐらいまでにしかできない。又、高周波数帯域では接着剤の影響も無視できなくなる。そのため、接着工程がなく、より薄い圧電素子を作製するためスパッタ法、CVD法、エアロゾルデポジション法、水熱合成法、ゾルゲル法など、種々の成膜方法が考案され試作されている。
【0004】
特に、エアロゾルデポジション法は成膜レートが速く、近年特に注目されている成膜方法である。図1にエアロゾルデポジション装置の概要を示す。先ず、PZT等の原料の粒子を投入したエアロゾル形成室1にエアー等のガス6を導入し、原料の粒子をエアロゾル化する。そして、搬送管3で接続された膜形成室(成膜室)2にエアロゾル化された粒子を両室間の差圧で導き、搬送管3先端に設けられたノズル4からステージ5上の基板8に向けて原料の粒子を噴射し、基板8上に成膜する成膜方法である。
【0005】
又、圧電素子を利用した電子デバイスの一つに、インクジェット装置が挙げられる。圧電素子はインクジェット装置のインクジェットヘッドに用いることができる。圧電素子を利用したインクジェット装置では、圧電素子を用いた圧力発生器に電圧を印加することで圧力を発生させて、インクを吐出させる方式が知られている。この方式のインクジェット装置は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧力発生部材と金属板とセラミックスとの積層で構成される圧力発生器と、飛翔媒体であるインクと、インクの吐出穴を備えたノズルプレートと、を有する。こうした圧力発生器を備えたインクジェットでは、Kyzer型と呼ばれる撓みモードを利用するタイプ、ピストン型と呼ばれる直接押圧型、側壁を動かすシェアモード等、様々な方式のヘッドが製品化されている。
【0006】
薄膜の圧電素子を形成する場合、初めに基板上に下電極を形成し、次に各種成膜方法により圧電膜を形成する。その後、焼成工程、上電極形成工程、分極工程などの工程を行う方法がある。十分な圧電性能を得るためには圧電膜の成膜後に、数百℃の焼成工程が必要となる。この焼成工程により結晶粒径の拡大、結晶性の向上が促進され、より高い圧電性能を得ることができる。又、この焼成温度は高温であるほど高い圧電性能を示す傾向にある。
【0007】
しかし、焼成することで基板、電極、圧電膜間で相互拡散を起こすと言った問題がある。例えば、基板としてSiウエハー、電極としてTi、Ptを用い、圧電膜としてPZTを成膜した場合、焼成温度に依存して拡散の程度の違いがあるものの、PZT膜中へのSi、Ti、Ptの拡散、Siウエハー中へのPbの拡散などが起こる(特許文献1参照)。このように拡散が生じると、PZT膜中のPb成分が抜け、更にPZT中に不純物が入り込むことにより、電気特性が十分に向上しないといった問題が生じる。又、Siウエハー中にPbが拡散した場合、Siウエハーが硬くなり、成膜後の後工程において加工が必要となっても精度の良い加工ができないといった問題がある。特に、インクジェットヘッドを形成する場合、圧電膜を形成したSiウエハーの裏面を切削加工し流路を形成する場合があるが、この時Siウエハー中にPb成分が拡散しているとこの加工が困難となる。
【0008】
又、PZT中へ下電極の材料の拡散が進行し、一部がPZT膜上部まで達し、焼成後に形成した上電極と電気的にコンタクトし圧電素子として機能しない場合もある。この傾向は、PZTの膜厚が薄くなる程顕著に現れる。
【0009】
又、焼成温度を高温化することで、電極自身が酸化して抵抗を持ち、電極としての役割を果たさなくなるといった問題もある。例えば、基板とPtの密着効果を持たせる為、密着層としてTa等を用いる(特許文献2参照)と密着に効果があるが、600℃程度の比較的低温でも酸化タンタルが生成される。又、電極としてSrRuO3に代表される導電性酸化膜を用いる提案もなされている(特許文献3、特許文献4参照)が、700℃程度で比抵抗が増加し始め、800℃以上ではほぼ絶縁膜となり、電極として好ましくない。
【0010】
【特許文献1】特開平08−274573号公報
【特許文献2】特開2001−152360号公報
【特許文献3】特開2000−328223号公報
【特許文献4】特開2002−016229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、基材に電極及び圧電膜が積層された状態において高温焼成しても、電極が酸化されず、且つ基材、電極、圧電膜間の相互拡散が抑制された圧電素子の製造方法を提供することを目的とする。又、該製造方法により、各層間で高い密着性を確保し、更に良好な圧電性能を持った圧電素子を有する、電子デバイスやインクジェット装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1は、少なくとも、基材と、圧電膜と、前記基材と前記圧電膜との間に配置された電極を備えた圧電素子であって、前記電極は、導電性酸化物と導電性金属とを含んでおり、前記電極の前記基材側では前記導電性金属よりも前記導電性酸化物が多く、前記電極の前記圧電膜側では前記導電性酸化物よりも前記導電性金属が多いことを特徴とする。また、上記電極は、基材側に位置する導電性酸化物層と、前記圧電膜側に位置する導電性金属層と、前記導電性酸化物層と前記導電性金属層との間に設けられた、前記導電性酸化物と前記導電性金属とが混合された混合層と、を備えることをもその特徴とする。
【0013】
また、本発明の第2は、基材と、圧電膜と、該基材と圧電膜との間に設けられた電極と、を少なくとも備えた、圧電素子の製造方法であって、基材上に、電極を設ける工程と、前記電極の上に圧電膜を成膜した後に、該圧電膜を焼成する工程と、を有し、前記電極は、前記基材側では前記導電性金属よりも前記導電性酸化物が多く、前記電極の前記圧電膜側では前記導電性酸化物よりも前記導電性金属が多くなるように設けられることを特徴とする。また、上記電極は、基材上に導電性酸化物層と、該導電性酸化物層上に位置する導電性酸化物と導電性金属とが混合した混合層と、該混合層上に位置する導電性金属層を設けることにより、前記基材上に設けられることをもその特徴とする。
【0014】
更に本発明は、上記本発明の圧電素子を用いたことを特徴とする電子デバイス及びインクジェット装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、基材と圧電膜の間の電極構成を基材側で導電性酸化物が多く、圧電膜側で導電性金属が多い構成とすることによって、基材と電極、電極と圧電膜の各界面において高い密着性を示すことができる。更に圧電膜の焼成時に各層間における元素の相互拡散を抑制することが可能となる。その結果、高温での焼成が可能となり、圧電膜の電気特性を十分に引き出した圧電素子を提供することができる。特に、電極構成を、基材側から導電性酸化物層、導電性酸化物と導電性金属との混合層、導電性金属層からなる積層構成とすることによって、これら効果をより高いレベルで得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の圧電素子においては、基材と圧電膜との間に設けられる電極を、導電性酸化物と導電性金属とを含み、基材側では導電性酸化物が多く、圧電膜側では金属が多い構成としたことに特徴を有する。
【0017】
この構成の具体例としては、例えば、電極の基材側から圧電膜側に近づくにつれて導電性酸化物の濃度が低下(圧電膜側から基材側に近づくにつれて導電性金属の濃度が低下)した構成が好ましく挙げられる。この構成では、より好ましくは、電極の基材側には導電性酸化物層が位置し、圧電膜側は導電性金属層が位置し、該導電性酸化物層と導電性金属層との間に、導電性酸化物と導電性金属との混合層を備えた構成とする。そして、該混合層においては、導電性酸化物層との界面から導電性金属層との界面に向かって導電性酸化物の割合が漸減する傾斜組成構造とする。以下では、電極が導電性酸化物層と、導電性酸化物と導電性金属(金属)とからなる混合層と、導電性金属層(金属層)との積層体で構成された形態を主体に説明するが、本発明における電極の構成は、この形態に限定されるものではない。即ち、電極を構成する各層間の境界が実体的に定義できない場合や、電極が前述した濃度勾配を有する1層で構成される場合も本発明に含まれる。
【0018】
本発明において用いられる基材としては、ガラス、Siウエハー、表面にSiO2等の酸化物層を有するSiウエハー、などが好ましく用いられる。基材は、表面に酸化ケイ素を備えることが特に好ましい。上記Siウエハーもその表面は自然酸化していたり、また、積極的に酸化させることで、表面に酸化ケイ素を備えることができる。
【0019】
本発明において用いられる導電性酸化物としては、特にABO3ペロブスカイト型で示される化合物が好ましく用いられる。例えば、LaNiO3、LaCrO3、SrRuO3、CaRuO3、La1-xSrxCoO3、BaPbO3、La1-xSrxCaxRuO3、La1-xSrxTiO3、SrIrO3から選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。これらの材料は、表面に酸化ケイ素(典型的にはSiO2)のような酸化物が存在する基材と良好な密着性を示すことができる。更に、これら導電性酸化物は、焼成による元素の拡散を抑制する効果がある。係る導電性酸化物層の厚さとしては、上記拡散抑制効果を得る上で0.1μm以上10μm以下が好ましい。
【0020】
又、導電性金属(金属)としては、Pt族(Ru,Rh,Pd,Os,Ir,Pt)がPZT等の圧電膜と良好な密着性を示すため好ましく用いられる。更に、900℃程度の焼成においてもPt族は酸化、絶縁化することがほとんど無いに等しい。より望ましくはPtが用いられる。係る導電性金属層の実用的な厚さとしては、0.1μm以上10μm以下が好ましい。
【0021】
本発明においては、上記導電性酸化物層(第1層)と導電性金属層(第3層)との間に、第1層を構成する導電性酸化物と同じ導電性酸化物と第3層を構成する金属と同じ金属とからなる混合層(第2層)を設けている。これにより、導電性酸化物層と導電性金属層間の密着性を向上させることができる。特に、当該混合層を、膜厚方向(第1層と第3層とが対向する方向)で組成が変化している傾斜構造(傾斜層)とすることにより、上記第1層と第3層との間の密着性を更に向上させることができる。具体的には、混合層(第2層)内において、導電性酸化物の濃度が、導電性酸化物層との界面が最も高く、導電性金属層との界面に向かって漸減するようにする。かかる混合層は膜厚を10nm以上1μm以下とすることで剥離が抑制され、強い密着性を得ることができる。
【0022】
上記混合層の形成方法としては、スパッタ法により複数のターゲットを同時に放電させる方法が好ましく用いられる。
【0023】
本発明において、上記電極上に設けられる圧電膜としては、特にチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系酸化物或いはリラクサ系誘電体が挙げられる。中でもPZT系酸化物の場合Pb(Zry,Ti1-y)O3で表示され、yが0.2から0.8であるものが好ましい。又、リラクサ系誘電体の場合、Pb(Mn,Nb)O3−PbTiO3、Pb(Zn,Nb)O3−PbTiO3、Pb(Sc,Ta)O3−PbTiO3、Pb(In,Nb)O3−PbTiO3が好ましい。また、リラクサ系誘導体としては、Pb(Yb,Nb)O3−PbTiO3、Pb(Ni,Nb)O3−PbTiO3も好ましい。これらリラクサ系誘導体は少なくとも一種或いは二種以上が好ましく選択される。
【0024】
上記圧電膜の厚さとしては、実用的には、1μm以上200μm以下が好ましい。
【0025】
又、上記圧電膜の成膜方法としては、ガスデポジション法、スパッタ法、ゾルゲル法、CVD法などが好ましく用いられる。
【0026】
本発明の圧電素子は、基材上に、電極として、前述したように、導電性酸化物層、混合層、導電性金属層を形成した後、圧電膜を成膜し、次いで、焼成工程を経ることで電気特性に優れた圧電膜とすることができる。通常は、上記電極を下電極とし、上記圧電膜上に更に上電極を形成して圧電素子とする。
【実施例】
【0027】
図2に示すスパッタ装置を用い、Siウエハーを基材8として用い、下電極を以下のように作製した。
【0028】
初めに、基材8上にSrRuO3膜をマグネトロンスパッタ法にて厚さ300nmに形成した。次にSrRuO3とPtからなる厚さ約300nmの混合層を形成した。更に、Pt層を300nmの厚さで形成した。混合層は、SrRuO3層からPt層に向かい徐々にPtの割合が増加する傾斜組成構造とした。傾斜層(混合層)は、図2に示すように、それぞれの材料からなる2個のターゲット9,10を同時に放電させ、それぞれの投入パワーを調整することで基材8上に成膜される傾斜層の組成を調整した。具体的には、SrRuO3ターゲット10のパワーは混合層形成開始時に最大として、徐々に絞り、混合層形成終了時にはゼロとした。逆にPtターゲット9のパワーは、混合層形成開始時にゼロとして、徐々に増加させ、混合層形成終了時には最大となるように設定した。
【0029】
比較のために、下電極構成を基材8側よりTa50nm厚、Pt850nm厚とし、トータルでの膜厚をそろえたものも作製した。
【0030】
こうして形成した下電極の上に、図1に示した装置を用いて、エアロゾルデポジション法によりPZT膜をおおよそ3〜5μmの厚さで形成した。
【0031】
この時のエアロゾルデポジション法の成膜条件は以下の通りである。
使用材料:堺化学製PZT−LQ
一次粒径:0.2〜0.5μm
成膜時の温度:室温
エアロゾル形成室へのエアー流量:4ccm
両室の差圧:約67kPa
【0032】
次に、このPZT膜を研磨機により膜厚3±0.1μmに研磨し、面内分布の均一性を向上し圧電膜とした。
【0033】
次に、この圧電膜まで形成した基材8をジルコニア製容器に原材料の微粒子とともに投入し、容器ごと電気炉にて900℃で焼成した。原材料の微粒子を同時に投入したのは、焼成によるPbが抜けるのを防ぐ為、更にPbが抜けた部分を補う為である。
【0034】
昇降温レートは2℃/分とし、900℃で1時間保持した。
【0035】
焼成後、PZT膜上に、Ta50nm厚、Pt150nm厚をマグネトロンスパッタ法で形成し、上電極とした。
【0036】
こうして形成した圧電素子において、電気特性として誘電率、等価圧電定数(d31)を計測した。圧電定数の算出に用いた変位量は、圧電素子からカンチレバー状に切り出したサンプルに電圧を印加し計測した。また、ヤング率は基板、圧電膜ともナノインデンターによる計測から求めた。又、拡散状態はSIMSにて電極、圧電膜、基板の各成分を調べ、拡散状態の評価とした。
【0037】
表1にそれぞれの結果を示す。
【0038】
比較サンプルは、圧電膜形成後の焼成により、下電極が圧電膜表面まで拡散し、上電極成膜により上下電極がリークし、電気特性を計測することができなかった。又、SIMSの深さ方向分析においても圧電膜表面までTaの拡散、更に基板のSiウエハーへのPb拡散が認められた。
【0039】
これに対し、本発明の電極構成では、誘電率、d31の電気特性で高い値を示した。又、拡散状態をSIMS(二次イオン質量分析法)による深さ方向分析より、PZT中には電極成分が拡散しておらず、PZT中の成分もPbが電極中に拡散しているが、基材8にまでは到達していないことが分かった。
【0040】
【表1】

【0041】
次に、各層間の密着性を確認する為、以下の2種類の下電極構成それぞれについて混合層の膜厚を変えたものに対しテープ剥離試験を行なった。2種類の構成の1つは、基材8であるSiウエハー上に、導電性酸化物層としてSrRuO3、次にSrRuO3とPtの組成比が膜厚方向で傾斜した混合層、次に導電性金属層としてPtをこの順で積層した。もう1つの構成は、基材8であるSiウエハー上に導電性酸化物層としてSrRuO3、次にSrRuO3とIrの組成比が膜厚方向で傾斜した混合層、次に導電性金属層としてIrをこの順で積層した。これら下電極の混合層の厚さを変えたものに対してテープによる密着試験を行なった。これは、基材8であるSiウエハー上に下電極を形成した後、ダイシング加工で該下電極を5mm×5mmのマス目25個にカットし、その切れ目を入れた下電極上にメンディングテープを貼り付け、剥離した数を評価する方法である。図3に、ダイシングした下電極の断面の模式図を示す。図3に示す通り、該下電極12を完全にダイシングする為に基板11までダイシングを行なっている。
【0042】
膜厚は、SrRuO3を100nm、Pt層、Ir層を100nmとし、傾斜した混合層は膜厚を0〜10μmまで変え評価した。尚、混合層の厚さは、スパッタ放電時間を制御することにより調整した。電極のテープ剥離試験の結果を表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
どちらの場合でも各層間の密着は、混合層が5nm以下では悪く、特に混合層が無い場合では、導電性酸化物層と導電性金属層間で完全に剥離した。混合層が10nm以上1μm以下では剥離の無い強い密着性が得られた。
【0045】
[実施例2]
Si基板からなる振動板に圧電素子を形成し、次に流路をFIB加工で形成し、最後に吐出口を備えたオリフィスプレートを接着しインクジェットヘッドを形成した。図4,図5を参照して形成工程を説明する。
【0046】
先ず初めに、石英ガラスからなる振動板基板(基材)41上に下電極42として実施例1と同様に、導電性酸化物層であるSrRuO3を300nm厚で形成した。次いで、SrRuO3とPtの組成比が膜厚方向で傾斜した混合層を300nm厚で、導電性金属層であるPtを300nm厚でこの順番で形成した。いずれもマグネトロンスパッタ法により形成した。次に、図1に示した装置を用い、エアロゾルデポジション法により、圧電膜43としてPZT膜を厚さおおよそ5μmで基板41全面(導電性金属層上)に成膜した。次に、大気雰囲気で900℃、1時間焼成を行なった。昇降温レートは、2℃/分とした。この後、上電極44としてTiを40nm厚で、Ptを160nm厚で形成した〔図4(a)〕。
【0047】
次に、上電極44をエッチングするためポジ型レジストを塗布し、レジストパターン45を形成した〔図4(b)〕。次いで、RIE(Reactive Ion Etching)で露出している上電極44のPt及びTiをエッチングした〔図4(c)〕。次に、上電極用のレジストを剥離し、上電極44を囲むようにPZT用のレジスト46をパターニングした〔図4(d)〕。この状態でフッ硝酸でPZT膜をエッチングし〔図5(e)〕、その後レジストを剥離した〔図5(f)〕。次に、FIB加工にて流路47を形成した〔図5(g)〕。洗浄した後に吐出口を備えたSi基板をオリフィスプレート48として接合し、最後に基板41を切断しインクジェットヘッドとした〔図5(h)〕。
【0048】
本実施例では、導電性酸化物としてSrRuO3を用い、圧電膜としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いたが、これに限定されるものでない。
【0049】
又、本実施例では、上述したようなPZT膜のパターニングを行なったが、エアロゾルデポジションでPZT膜を形成する場合、ノズルと基板の間に開口部を持つマスクを挿入しパターニングする方法でも構わない。又、PZT膜の形成もスパッタ、ゾルゲル、CVD等いずれの方法でも構わない。本発明の圧電素子は、公知の圧電素子を用いた電子デバイスに適用できる。電子デバイスとしては、例えば、圧電アクチュエーターや圧力センサーやインクジェット装置など広範囲のデバイスが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の製造方法に用いられるエアロゾルデポジション装置の概要図である。
【図2】本発明の実施例に用いたスパッタ装置チャンバー内部模式図である。
【図3】本発明の実施例で行ったテープ剥離試験サンプル断面の模式図である。
【図4】本発明の実施例における圧電素子の製造工程を示す図である。
【図5】本発明の実施例における圧電素子の製造工程を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1 エアロゾル形成室
2 膜形成室
3 搬送管
4 ノズル
5 ステージ
6 ガス
7 ポンプ
8 基板
9 導電性金属層形成用ターゲット
10 導電性酸化物層形成用ターゲット
11 基板
12 下電極
41 Siウエハー
42 下電極
43 圧電膜
44 上電極層
45,46 レジスト
47 流路
48 オリフィスプレート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、基材と、圧電膜と、前記基材と前記圧電膜との間に配置された電極とを備える圧電素子であって、
前記電極は、導電性酸化物と導電性金属とを含んでおり、前記電極の前記基材側では前記導電性金属よりも前記導電性酸化物が多く、前記電極の前記圧電膜側では前記導電性酸化物よりも前記導電性金属が多いことを特徴とする圧電素子。
【請求項2】
前記導電性金属がPt族であることを特徴とする請求項1に記載の圧電素子。
【請求項3】
前記電極は、前記基材側に位置する導電性酸化物層と、前記圧電膜側に位置する導電性金属層と、前記導電性酸化物層と前記導電性金属層との間に設けられた、前記導電性酸化物と前記導電性金属とが混合された混合層と、を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の圧電素子。
【請求項4】
前記混合層の厚さが10nm以上1μm以下であることを特徴とする請求項3に記載の圧電素子。
【請求項5】
前記混合層内の前記導電性酸化物の割合が、前記混合層の前記導電性酸化物層との界面から前記混合層の前記導電性金属層との界面に向かって漸減する傾斜組成構造であることを特徴とする請求項3または4に記載の圧電素子。
【請求項6】
前記導電性酸化物の濃度が、前記電極の基材側から前記圧電膜側に向かって漸減していることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項7】
前記圧電膜の厚さが1μm以上200μm以下であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項8】
前記導電性酸化物が、ABO3ペロブスカイト型であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項9】
前記ABO3ペロブスカイト型の導電性酸化物が、LaNiO3、LaCrO3、SrRuO3、CaRuO3、La1-xSrxCoO3、BaPbO3、La1-xSrxCaxRuO3、La1-xSrxTiO3、SrIrO3、及びこれらの化合物から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項8に記載の圧電素子。
【請求項10】
前記圧電膜が、チタン酸ジルコン酸鉛系酸化物或いはリラクサ系誘電体であることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項11】
前記チタン酸ジルコン酸鉛系酸化物の主成分が、Pb(Zry,Ti1-y)O3で表され、yが0.2から0.8であることを特徴とする請求項10に記載の圧電素子。
【請求項12】
前記リラクサ系誘電体が、Pb(Mn,Nb)O3−PbTiO3,Pb(Zn,Nb)O3−PbTiO3、Pb(Sc,Ta)O3−PbTiO3、Pb(In,Nb)O3−PbTiO3,Pb(Yb,Nb)O3−PbTiO3,Pb(Ni,Nb)O3−PbTiO3及びこれらの化合物から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項10に記載の圧電素子。
【請求項13】
基材と、圧電膜と、該基材と圧電膜との間に設けられた電極と、を少なくとも備えた、圧電素子の製造方法であって、
基材上に、電極を設ける工程と、前記電極の上に圧電膜を成膜した後に、該圧電膜を焼成する工程と、を有し、
前記電極は、前記基材側では前記導電性金属よりも前記導電性酸化物が多く、前記電極の前記圧電膜側では前記導電性酸化物よりも前記導電性金属が多くなるように設けられることを特徴とする圧電素子の製造方法。
【請求項14】
前記圧電膜を、ガスデポジション法、スパッタ法、ゾルゲル法、CVD法のいずれかによって形成する請求項13に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項15】
前記電極は、前記基材上に、導電性酸化物層と、該導電性酸化物層上に位置する導電性酸化物と導電性金属とが混合した混合層と、該混合層上に位置する導電性金属層を設けることにより、前記基材上に設けられることを特徴とする請求項13または14に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項16】
前記混合層を、スパッタ法により複数のターゲットを同時に放電させることにより形成する請求項15に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項17】
請求項1乃至12のいずれか1項に記載の圧電素子を用いたことを特徴とする電子デバイス。
【請求項18】
請求項1乃至12のいずれか1項に記載の圧電素子を用いたことを特徴とするインクジェット装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−300071(P2007−300071A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−52325(P2007−52325)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】