説明

地上デジタル放送受信装置及び制御方法

【課題】高速なレベル変動がある受信環境においても安定したAGC制御が可能な方法を提供する。
【解決手段】AGC制御電圧109はOFDM処理部101で生成する。すなわち、入力されたIF信号を検波整流器110において直流電圧に変換し、利得制御部111において基準電圧112と比較し、その電圧差からAGC制御電圧109を生成する。フェージング判定部10では受信電波がマルチパスフェージングによる高速なレベル変動があるか否かを判定し、利得制御部111のAGC時定数を変更する時定数制御部11に出力する。これにより、マルチチパスフェージング影響による追従できない高速なレベル変動がある場合は、AGC時定数を大きくすることにより不安定なAGC制御による受信性能劣化を軽減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AGC(Auto Gain Control)制御技術に関し、特に携帯移動受信で生じるマルチパスフェージングの激しいレベル変動時に有効なAGC制御とその制御を搭載した地上デジタル放送受信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話に代表される無線通信を利用する携帯情報端末は、当初から備えていた電話機能のみでなく、インターネットに代表される電話網以外の通信システムとの接続機能を加え、さらに、ISDB―T(Integrated Services Digital Broadcasting for Terrestrial)地上デジタルのワンセグ放送の受信機能を備えるに至った。
【0003】
携帯電話等に代表される、主として携帯情報端末等の移動体をサービス対象とした放送/通信システムでは、ビル等の障害物の多い都市部等において、基地局と移動体通信端末との間に経路長の異なる複数の伝送経路(マルチパス)が発生するマルチパス環境となる場合が多い。このようなマルチパス環境下では、マルチパスフェージング(異なる複数の伝送経路を通った信号を同時受信した場合に発生する、受信信号間の相乗、相殺による受信電力レベルの変動)により、携帯情報端末の受信電力レベルは、携帯情報端末の移動に伴い変動する。このマルチパスフェージングによる受信電力レベルの変動は、携帯情報端末の受信及び通信品質を劣化させる原因となっている。
【0004】
特に、地上デジタル放送のワンセグ放送は、受信周波数帯域が420kHzと狭帯域である為、マルチパスフェージングの影響を大きく受け易く、高速な受信電力のレベル変動が頻発する。この為、地上デジタルワンセグ放送受信機は、従来の移動体情報端末以上にマルチパスフェージングに起因する受信電力レベルの変動に対するより強力なAGC制御が求められていた。
【0005】
上記のような地上デジタルワンセグ放送受信機のAGCに対する要求に対して、マルチパスフェージングに起因する高速の受信電力レベルの変動に対するAGC制御ループと、それ以外の低速の受信電力レベルの変動に対するAGC制御ループと、の2系統のAGC制御系を備えることにより、マルチパスフェージングに起因する高速の受信電力レベルの変動に対応する第1の方式が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
また、マルチパスフェージングの状態に応じて、AGC回路の時定数を切り替えることにより、マルチパスフェージングに対する追従性を改善する第2の方式も提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
上記第2の方式は、図4に示すAGC回路により構成されている。図4において、符号101は復調部であり、符号102は可変増幅器、符号110は可変増幅器102の出力を検波し直流電圧に変換する検波整流器、符号111は検波された直流電圧を基準電圧103と比較し、その電圧差から可変増幅器制御するAGC制御電圧を生成する利得制御部である。
【0008】
比較器121は、時間当たりの受信電力レベルの落ち込み回数を測定し、落ち込み回数が所定の回数より多いか否かを可変時定数回路120に出力する。可変時定数回路120はレベル落ち込みが多い場合、すなわち高速なレベル変動がある場合は、AGC時定数を小さい値に変更する。このAGC回路構成により、高速移動による激しいマルチパスフェージングに対するAGCの追従性を改善可能としている。
【0009】
【特許文献1】特開平8−274558号公報
【特許文献2】特開平11−312938号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献2に記載のAGC回路は、マルチパスフェージングのレベル変動がAGC制御ループの安定収束する範囲内であれば有効である。しかしながら、レベル変動が更に高速になると追従できないAGC制御が不安定に動作し、逆に受信性能が劣化するという問題がある。
【0011】
この問題について、図5を参照しながら説明する。図5は、AGC制御の時定数の周波数特性を示すグラフである。AGC制御の時定数には、可変増幅器102や復調器101の時間特性からAGC制御ループが安定収束する限界周波数f0が存在する。特許文献2に開示されるAGC回路では、激しいレベル変動があった場合に、その変動に追従させるためAGC時定数を小さい値に変更する。すなわち、図5において、破線122の周波数特性から実線123の周波数特性に変更することになる(白抜きの矢印参照)。ここで、安定収束する限界周波数f0より高速の、例えば周波数帯(矢印124で示される帯域)でレベル変動があると、限界周波数f0を超えるために追従できないAGC制御が不安定に動作し、受信性能を劣化させるといった問題が生じる。
【0012】
本発明の目的は、AGC制御ループが安定収束する限界周波数より高速なレベル変動がある受信環境においても安定したAGC制御が可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るAGC制御技術は、レベル変更がAGC時定数を安定収束する限界周波数より高速となった場合に、AGC時定数を逆に大きくすることにより、不安定なAGC追従による受信特性の劣化を軽減することを特徴とする。
【0014】
すなわち、本発明の一観点によれば、受信電波を増幅する可変増幅器と、前記可変増幅器の利得を制御する利得制御部とを備え、受信電波に追従することができないレベル変動がある場合に、前記利得制御部の時定数を大きくすることを特徴とする地上デジタル放送受信装置が提供される。
【0015】
また、受信電波に追従することができないレベル変動がある場合は、前記利得制御部の利得制御を停止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、レベル変動が少ない通常の受信環境では、安定収束限界周波数f0に近いAGC時定数に設定し、ビルなどの電波遮蔽物内から外に移動しながら受信した時に生じる大きなレベル変化にも素早く反応することができる。マルチパスフェージング影響による高速レベル変動がある場合は、スロープ特性を含め安定収束限界周波数f0範囲に収まる周波数特性のAGC時定数に変更し、不安定なAGC制御による受信性能劣化を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態による地上デジタル放送受信装置について図面を参照しながら説明を行う。まず、本発明の第1の実施の形態による地上デジタル放送受信装置について説明を行う。図1は、本実施の形態による地上デジタル放送受信装置の一構成例を示す機能ブロック図である。図1に示すように、本実施の形態による地上デジタル放送受信装置の放送受信部は、大別して、チューナ100とOFDM復調部101とから構成されている。
【0018】
チューナ100は、2つの可変増幅器102a・102bと、その間に配置されるミキサ103、フィルタ104と、ミキサ103と接続される局部発信器105と、から構成される。アンテナ106で受信した放送電波は、可変増幅器102aで所定レベルに増幅された後、ミキサ103において局部発信器105が生成する選局チャンネルの局部発振信号で周波数変換され、フィルタ104において不要信号成分を除去し、可変増幅器102bで再度増幅された後に、OFDM復調部101へIF(Intermediate Frequency:中間周波数)信号として出力される。
【0019】
OFDM復調部101では、入力されたIF信号のアナログ・デジタル変換処理107と復調と誤り訂正処理108を行い、TS信号を図示しないTSデコーダに出力する。チューナ100の2つの可変増幅器102はIF信号のレベルが一定になるようにAGC制御電圧109によって制御される。AGC制御電圧109はOFDM処理部101で生成する。すなわち、入力されたIF信号を検波整流器110において直流電圧に変換し、利得制御部111において基準電圧112と比較し、その電圧差からAGC制御電圧109を生成する。フェージング判定部10では受信電波がマルチパスフェージングによる高速なレベル変動があるか否かを判定し、利得制御部111のAGC時定数を変更する時定数制御部11に出力する。
【0020】
以下、フェージング判定部10と時定数制御部11とにおける動作について、図1に加えて図2を参照しながら説明する。図2中のf0は、可変増幅器102の時間特性などからAGC処理ループが安定収束する限界周波数121を示している。ビルなどの電波遮蔽物の内から外に移動した時の大きなレベル変化などに追従させるため、AGC時定数は安定収束する範囲内で高速な周波数特性123となる値を設定する。具体的にはカットオフ周波数がf0となるローパスフィルタとして設計する。一方、フェージング判定部10は、図2(A)の曲線21で示されるような周波数特性のハイパスフィルタを備えている。周波数特性21は、f0をカットオフ周波数としたハイパスフィルタとして設計されたものであり、AGC時定数の周波数特性123と周波数軸的に対称となる特性を持つように設計されている。フェージング判定部10は、検波整流器110でIF信号から変換された直流電圧をフィルタリングし、周波数f0以上のレベル変動を有するか否かを判定することが可能である。フェージング判定部10の判定結果は時定数制御部11に出力される。
【0021】
時定数制御部11は、フェージング判定部10からの判定結果に従い、利得制御部111のAGC時定数を変更する。具体的には図2(B)に示すように、フェージング判定部10から周波数f0以上のレベル変動を有するといった結果があれば周波数特性123のAGC時定数から周波数特性22のAGC時定数に変更する(白抜きの矢印を参照)。周波数特性22はスロープ特性を含めてf0以下の範囲に収まるように設計されており、非常に安定した収束性を有する。
【0022】
以上の構成により、本実施の形態によれば、レベル変動が少ない通常の受信環境、即ちフェージング判定部10でレベル変動がf0以下と判定された時のAGC時定数は安定収束限界周波数f0に近い周波数特性123に設定することにより、ビルなどの電波遮蔽物内から外に移動しながら受信した時に生じる大きなレベル変化にも素早く反応することができる。マルチパスフェージングの影響による高速レベル変動がある受信環境、すなわちフェージング判定部10でレベル変動がf0以上と判定された場合は、AGC時定数をスロープ特性を含めf0以下範囲に収まる周波数特性22に変更することにより、周波数帯124での不安定なAGC制御による受信性能劣化を軽減することができる。
【0023】
次に、本発明の第2の実施の形態による地上デジタル放送受信装置について図面を参照しながら説明を行う。図3は、本実施の形態による地上デジタル放送受信装置の一構成例を示す機能ブロック図である。第1の実施の形態による構成(図1)と異なる点は、AGC制御切替部31が追加されている点である。以下においては、同じ機能を有するブロックに関しては、同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0024】
AGC制御切替部31は、フェージング判定部10からの判定結果から、利得制御部111のAGC制御電圧により可変増幅器102(A),102(B)のいずれか一方のみを制御するか、あるいは、両方とも制御しないかを切り替えるスイッチである。例えば、通常レベル変動が少ない受信環境、即ちフェージング判定部10でレベル変動がf0以下と判定されている時は、公知のように、NF的に雑音が少ない前段の可増幅器102(A)から先に制御し、その後に後段の可変増幅器102(B)を制御する切替動作を行う。マルチパスフェージング影響による高速レベル変動がある受信環境、すなわちフェージング判定部10でレベル変動がf0以上と判定された場合は、前段の可変増幅器102(A)は固定電圧とし、後段の可変増幅器102(B)のみを制御するように変更する。あるいは、両方の可変増幅器102(A)、(B)を固定電圧としてAGC制御を行わないように変更することも可能である。
【0025】
可変増幅器102(A)、(B)の制御切り替えは利得特性の線形性能を劣化させるものであり、レベル変動で切り替えが頻繁に行われると受信性能は劣化する。本実施の形態による地上デジタル放送受信装置の構成においては、上記のように高速なレベル変動による切替動作が少なくなるため、装置における受信性能が改善される。加えて、前段の可変増幅器102(A)を固定電圧とするため、不安定なAGC制御によるミキサ103やフィルタ104への過入力による飽和劣化を軽減する効果がある。
【0026】
以上に説明したように、本実施の形態による地上デジタル放送受信装置においては、レベル変動が少ない通常の受信環境では、安定収束限界周波数f0に近いAGC時定数に設定し、ビルなどの電波遮蔽物内から外に移動しながら受信した時に生じる大きなレベル変化にも素早く反応することができる。マルチパスフェージング影響による高速レベル変動がある場合は、スロープ特性を含め安定収束限界周波数f0範囲に収まる周波数特性のAGC時定数に変更し、不安定なAGC制御による受信性能劣化を軽減することができるという利点がある。以上、本実施の形態においては、地上デジタル放送受信装置を例にして説明した。特に、ワンセグ放送受信機能を含む携帯型の地上デジタル放送受信装置において有用である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、地上デジタル放送受信装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施の形態による地上デジタル放送受信装置の一構成例を示す機能ブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態によるフェージング判定と時定数制御との動作を説明するためのグラフである。
【図3】本発明の第2の実施の形態による地上デジタル放送受信装置の一構成例を示す機能ブロック図である。
【図4】従来の受信装置のAGC制御の構成例を示す機能ブロック図である。
【図5】従来の受信装置のAGC時定数設定を説明するグラフである。
【符号の説明】
【0029】
10…フェージング判定部、11…時定数制御部、100…チューナ、101…OFMD復調部、102…可変増幅器、103…ミキサ、104…フィルタ、105…局部発信器、106…アンテナ、107…アナログ・デジタル変換部、108…復調誤り訂正処理部、109…AGC制御電圧、110…検波整流器、
111…利得制御部、112…基準電圧、121…AGC制御ループが安定収束する限界周波数f0、21…フェージング判定部のハイパスフィルタ周波数特性、22…フェージング時のAGC時定数周波数特性、31…AGC制御切替部、
122 、123…AGC時定数の周波数特性曲線例、124…AGCが不安定になる周波数帯域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信電波を増幅する可変増幅器と、該可変増幅器の利得を制御する利得制御部とを備え、
受信電波に追従することができない程度のレベル変動を検出すると、前記利得制御部の時定数を大きくする制御を行うことを特徴とした地上デジタル放送受信装置。
【請求項2】
受信電波を増幅する可変増幅器と、該可変増幅器の利得を制御する利得制御部と、による自動利得制御(AGC)機能を備える地上デジタル放送受信装置において、
該自動利得制御による処理ループが安定収束する限界周波数を超える受信レベル変動の有無を判定するフェージング判定部を有し、
該フェージング判定部による判定に基づいて、受信レベル変動が前記限界周波数を超えないと判定された場合に前記自動利得制御における時定数を前記限界周波数に近い周波数特性に合うように設定し、受信レベル変動が前記限界周波数を超えると判定された場合に前記自動利得制御における時定数を前記限界周波数以下の範囲に収まる周波数特性に変更することを特徴とする地上デジタル放送受信装置。
【請求項3】
受信電波を増幅する可変増幅器と、
該可変増幅器の利得を制御する利得制御部とを備え、
受信電波に追従することができない程度のレベル変動を検出すると、
前記利得制御部の利得制御を停止する制御を行うことを特徴とする地上デジタル放送受信装置。
【請求項4】
受信電波を増幅する可変増幅器と、該可変増幅器の利得を制御する利得制御部と、による自動利得制御(AGC)機能を備える地上デジタル放送受信装置において、
該自動利得制御による処理ループが安定収束する限界周波数を超える受信レベル変動の有無を判定するフェージング判定部を有し、
該フェージング判定部による判定に基づいて、受信レベル変動が前記限界周波数を超えないと判定された場合に前記自動利得制御における時定数を前記限界周波数に近い周波数特性に合うように設定し、受信レベル変動が前記限界周波数を超えると判定された場合に前記利得制御部の利得制御を停止する制御を行うことを特徴とする地上デジタル放送受信装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−48085(P2008−48085A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−220938(P2006−220938)
【出願日】平成18年8月14日(2006.8.14)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】