説明

地中連続壁コンクリートの構築法

【課題】 連壁コンクリートの上下の強度差を無くし,その下部でも機械掘削を行ない易くする。
【解決手段】 セメント,細骨材,粗骨材および混和剤を配合したコンクリートを地中に打設して地中連続壁コンクリートを構築するさいに,前記の混和剤として,AE減水剤または高性能AE減水剤と,増粘剤とを少なくとも使用し,該増粘剤として下記の化合物(α)と化合物(β)とを使用して,スランプフロー350mm以上としたコンクリートを地中に打設することを特徴とする地中連続壁コンクリートの構築法である。化合物(α):スルホン基を有する芳香族化合物および/またはその塩。化合物(β):アルキルトリメチルアンモニウム塩。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,地中連続壁コンクリートの構築法に関する。
【背景技術】
【0002】
地中に遮水壁を構築する方法の一つとして,コンクリートによって地中に連続壁を構築する方法がある。これは,連続壁を構築するために掘削した部分に,崩落を防ぐ目的でベントナイト等の安定液を充填し,この安定液と置き換えるようにしてコンクリートを打設する方法である。
【0003】
この際に使用するコンクリートとしては,一般的に,水セメント比55%以下で単位セメント量350Kg/m3以上のコンクリートを適用する旨,土木学会コンクリート標準示方書で定められており,これに準じたコンクリートを使用することになる。
【0004】
しかし,このような水セメント比55%以下でセメント量350Kg/m3以上のコンクリートを地中連続壁コンクリートに適用すると,連続壁の下部と上部との圧縮強度に大きな差が生じることになる。つまり,連続壁では下部に打設されたコンクリートは,上部に打設されるコンクリートの自重で圧密されることになり,密度の小さい水分が上部に移動し,密度の大きい骨材やセメントが沈降するという材料分離が生ずることから,下部で強度が増加することになる。
【0005】
一般的な地中連続壁コンクリートでは設計基準強度を24〜30N/mm2程度とする場合が多いが,この圧密の影響を受けた下部コンクリートは上部に比べて2〜3倍の強度(50〜90N/mm2)を示す場合がある。この圧密の現象によって下部のコンクリートの強度が高くなると,これを機械的に掘削することが困難となる。例えばシールド発進立て坑の場合,このことが問題となる。
【0006】
すなわち,地下にシールドトンネルを構築する場合にシールドの発進口となる立て坑が必要となる。この立て坑を構築する際には,立て坑の崩落を防ぎ,地下水の流入をも防止するために,掘削対象範囲の外周部にコンクリートによる地中遮水壁を設ける場合が殆んどである。シールド発進時には,この地中連続壁コンクリート部分を掘削しなければならないが,前記のように下部の強度が高くなるとこの掘削が困難になり,シールドビットの減りを早めたり,時には発進に非常に多くの時間を費やすなど施工の妨げになり,大きな問題となる。
【0007】
このような問題に対処する工法として,「スーパークリート連壁」(KaTRIリーフ
レット97 24) と称される連続壁コンクリート工法が提案された。これは,コンクリート
混和剤として増粘剤(ウエランガム)を添加して粘性を高め,これによって上下方向の強度のばらつきを抑制するものである。
【0008】
たしかに,ウエランガムはこれまで知られた増粘剤に比べると,適度な流動性と材料分離抵抗とを兼備させるには有効に作用する。しかし,この場合の分離抵抗性は基本的にはウエランガムと粉体量がもたらす粘性に依存しており,粘性が高いことによる弊害,例えばポンプ圧送性や充填速度などが劣るといった問題が付随する。
【0009】
また,ウエランガムは水中不分離性を付与できないため,ウエランガムを用いたコンクリートは水中では洗われてしまうことになる。これに対処するために水中不分離性コンクリートを適用することも考えられる。この場合には,水中不分離性混和剤(JSCE−D104)に適合したものを用いることになるが,水中不分離性と同時に施工性(流動性や充填性)を確保するには極端に単位水量を大きくする必要があり,単位水量を大きくすると,掘削後に気中に曝されたときに耐久性(特に収縮)に劣る連続壁になりかねない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって,本発明は地中連続壁コンクリートの上下方向の強度差をなくす技術の確立を目的とし,その場合に,作業性に影響を及ぼすほど粘性を高めることなくして材料分離抵抗性と,さらには水中不分離性抵抗性を併せもつようにして,高品質の地中連続壁コンクリートを施工性よく構築することを課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を解決すべく,本発明によれば,セメント,細骨材,粗骨材および混和剤を配合したコンクリートを地中に打設して地中連続壁コンクリートを構築するさいに,混和剤としてAE減水剤または高性能AE減水剤と,増粘剤とを少なくとも使用し,該増粘剤としては下記の化合物(α)と化合物(β)とを使用して,スランプフロー350mm以上としたコンクリートを地中に打設することを特徴とする。
化合物(α):スルホン基を有する芳香族化合物および/またはその塩。
化合物(β):アルキルトリメチルアンモニウム塩。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
前出の「スーパークリート連壁」(KaTRIリーフレット97 24) が提案されて以来
も,本発明者らはその工法に使用するバイオガム系増粘剤(例えばウエランガム)の作用効果について種々の試験研究を重ねてきたが,ウエランガムに代えて,化合物(α)と化合物(β)を使用する場合には,ウエランガムに比べて低い粘性を維持しながら,高流動性と材料分離抵抗とを同時に満たすことができ,これによって,上下に強度差のない地中連続壁コンクリートが施工性よく構築できることがわかった。
【0013】
ここで,化合物(α)として使用するスルホン基を有する芳香族化合物および/またはその塩は,具体的には,P−トルエンスルホン酸,スルホサルチル酸,m−スルホ安息香酸,P−スルホ安息香酸,P−フェノールスルホン酸,m−キシレン−4−スルホン酸,クメンスルホン酸,スチレンスルホン酸,およびこれらの塩が挙げられる。これらは2種以上併用してもよい。化合物(α)が重合体である場合には,重量平均分子量が500未満であるものが好ましい。
【0014】
また化合物(β)として使用するアルキルトリメチルアンモニウム塩としては,炭素数10〜26のアルキル基を有するものが好ましい。具体的には,ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド,ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド,オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド,オクタデシルトリメチルアンモニウムブロマイド,タロートリメチルアンモニウムクロライド,タロートリメチルアンモニウムブロマイド,水酸化タロートリメチルアンモニウムクロライド,水酸化タロートリメチルアンモニウムブロマイド等が挙げられ,これらを2種以上使用してもよい。これらのうち,水溶性と増粘効果の観点から,ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド,オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド等が好ましい。
【0015】
とくに化合物(α)がP−トルエンスルホン酸またはその塩であり,化合物(β)がヘキサデシルトリメチルアンモニウム塩である組み合わせが好ましい。また,化合物(α)と化合物(β)とは,コンクリートへの配合に当たってはその有効成分の合計量が単位水量100重量%に対して,0.1〜10重量%の範囲であるのがよく,好ましくは1〜5重量%の範囲がよい。
【0016】
本発明においては,セメント,細骨材,粗骨材および混和剤を配合したコンクリートを地中に打設して地中連続壁コンクリートを構築するさいに,混和剤として,前記の化合物(α)と化合物(β)を使用することに基本的な特徴があり,これによって,ウエランガムでは達成できなかった流動性を確保しつつ材料分離抵抗性を具備させ,この材料分離抵抗性により地中連続壁コンクリートの上下の強度差を低減させた点に第1の特徴があるが,流動性をより安定して確保するために,AE減水剤または高性能AE減水剤を使用することが好ましく,これにより,スランプフロー350mm以上としたコンクリートを打設することが好ましい。
【0017】
スランプフローが350mm未満では流動性が不足するので,良好な充填性を確保することができないので好ましくない。このためスランプフローは350mm以上を必要とするが,600mm以上であっても実施可能である。
【0018】
使用するAE減水剤としてはリグニンスルホン酸系,オキシカルボン酸系,ポリオール系のものが挙げられ,高性能AE減水剤としてはポリカルボン酸系,ナフタリン系,アミノスルホン酸のものが挙げられる。また高性能減水剤例えばメラミン系,ナフタリン系,ポリカルボン酸系のものなども使用することができる。
【0019】
化合物(α)と化合物(β)とを使用するとウエランガムに比べて低い粘性を維持しながら十分な高流動性と材料分離抵抗性を発現でき,地中連続壁コンクリートの上下の強度差が少なくなるのは次のような理由によるものと考えられる。
【0020】
コンクリートの混練材料中に化合物(α)と化合物(β)とを添加すると,両化合物は短時間で均一に会合体を形成し,この会合体がそのコンクリートの流動性を損なうことなく且つ粘性を大きく高めることなく,材料分離抵抗を付与するように作用する。また,この会合体は,材料を均一に分散させるとともに,余剰水分を捕捉する性質を有するので,経時的なブリーディング水の発生を抑制する。さらには,まだ固まらないコンクリートの水相中では,化合物(α)と化合物(β)とのいわゆる紐状ミセル会合体を形成し,これが高い流動性を維持しながら適度な粘性を付与し,材料分離抵抗を高めるものとも考えられる。このような作用により,圧密環境下での材料分離抵抗性が高まり,地中連続壁コンクリートの上下の強度差が小さくなると考えられる。
【実施例】
【0021】
下記の使用材料を表1の実施例1および比較例1〜3に示した配合で練り混ぜた。
〔使用材料〕
セメント:普通ポルトランドセメント(密度=3.16g/cm3
砂:山砂 (表乾密度=2.63Kg/L, 吸水率=1.32%)
粗骨材:砕石 (表乾密度=2.65Kg/L, 吸水率=0.51%, Gmax=20mm)
AE減水剤:ポゾリス物産株式会社製の商品名ポゾリスNo.70 (リグニンスルホン酸系標準型)
高性能AE減水剤:花王株式会社製の商品名マイテー3000s(ポリカルボン酸系標準型)
ウエランガム:三晶株式会社製のウエランガム
水中不分離混和剤:三井石化資産株式会社製の商品名UWB
化合物(α):P−トルエンスルホン酸ナトリウム液(花王株式会社製)
化合物(β):ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド(花王株式会社製)
【0022】
表1の配合のうち,実施例1は本発明例である。比較例1は連壁コンクリートに使用される従来の一般的な配合である。比較例2は本文に記載した「スーパークリート連壁」(
KaTRIリーフレット97 24) のコンクリートに対応するものであり,ウエランガムを
用いて材料分離抵抗性を高めたものである。比較例3は従来の水中不分離混和剤UWBを用いた水中不分離コンクリートの例である。これらのうち,実施例1と比較例1〜2については,一般的な連壁コンクリートの標準とされているスランプ21cmを目標とした配合とし,比較例3については,一般的な水中不分離性コンクリートのスランプフロー600mmを目標とした配合とした。そして,全ての配合において,空気量の目標値は4.5%とした。各例のフレッシュ性状と気中および水中での硬化性状を表2に示した。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
表2の結果から,まず全ての例において目標とした流動性(スランプ・スランプフロー)および空気量を満足していることがわかる。
【0026】
しかし,スランプフローの停止時間について見ると,比較例1に比べて比較例3のスランプフローの停止時間は50倍以上の値を示し,粘性が極端に高いことがわかる。また比較例2についてもその停止時間は比較例1の5倍程度であり,粘性が高まっていることがわかる。粘性が極端に高い比較例3ではコンクリートポンプなどの施工機械に制約を受けたり,流動速度が遅いために施工時間への悪影響が問題となる。これに対して,実施例1ではスランプフロー停止時間が通常の連壁コンクリートに使用される一般的な配合の比較例1の2倍程度であり,比較例2や3に比べると著しく短い。したがって,実施例1では,ポンプ圧送性および充填性などの作業性に優れることがわかる。
【0027】
次に加圧ブリーディングについて見ると,比較例1では相当量のブリーディングが計測され,比較例2ではブリーディング量は減少したものの0にはならなかった。これに対して,実施例1では加圧ブリーディングによるブリーディングは計測されず,加圧環境下(連壁の下部)を想定した場合でも,ブリーディングによる(余剰水の脱水に伴う)強度変化が生じにくい配合であることがわかる。すなわち,連壁コンクリートの上下の強度差が生じ難いものであることがわかる。なお,水中不分離性コンクリートの比較例3でもブリーディングは計測されず,この場合にも,上下の強度差が生じ難いと言える。ただし,比較例3は前記のように実施工では施工性が悪くて適用には難がある。
【0028】
硬化性状について見ると,気中で作成した供試体に比べて,水中で作成した供試体の強度は低下するが,その低下の程度は比較例2のものが大きい。これに対して実施例1と比較例3では低下の程度が低く,両者はほぼ同等の強度挙動を示している。したがって,実施例1のものは水中不分離性を示すことがわかる。なお,比較例1では水中ではセメントが洗われるので水中で作成した供試体は強度を示さない。
【0029】
このように,本発明に従う実施例1では,上下の強度差の少ない連壁コンクリートを作業性良く構築できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント,細骨材,粗骨材および混和剤を配合したコンクリートを地中に打設して地中連続壁コンクリートを構築するさいに,前記の混和剤として,AE減水剤または高性能AE減水剤と,増粘剤とを少なくとも使用し,該増粘剤として下記の化合物(α)と化合物(β)とを使用して,スランプフロー350mm以上としたコンクリートを地中に打設することを特徴とする地中連続壁コンクリートの構築法。
化合物(α):スルホン基を有する芳香族化合物および/またはその塩。
化合物(β):アルキルトリメチルアンモニウム塩。
【請求項2】
地中連続壁はシールド工法を実施するための立て坑用遮水壁である請求項1に記載の地中連続壁コンクリートの構築法。

【公開番号】特開2006−2347(P2006−2347A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−176733(P2004−176733)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】