地図データの編集方法
【課題】 建物と道路等の他の地物との交差を取り除く編集処理を、コンピュータで自動化することを可能とし、かつ、建物の形状や位置精度をできるだけ損なわないようにする。
【解決手段】 測量・地図調製により作成された、建物を含む原地図データを入力し、該原地図データに編集を加えて出力する地図データの編集方法において、建物を含む地形・地物を線分に分解し、地形・地物を分解した線分の内、建物と交差する交差線を検索する。その結果、建物と交差する交差線があったら、交差線が存在した建物において、交差線から最も離れた点を不動点とし、交差点を挟んで前記不動点の反対側にある部分の内、最も離れた点を最大移動点とし、該最大移動点を基点として、前記建物と交差線との交差が解かれる、建物の最適な圧縮方向を決定する。そして、前記不動点を固定し、最大移動点を前記圧縮方向に交差が解かれる位置まで移動させて、建物全体を圧縮する。
【解決手段】 測量・地図調製により作成された、建物を含む原地図データを入力し、該原地図データに編集を加えて出力する地図データの編集方法において、建物を含む地形・地物を線分に分解し、地形・地物を分解した線分の内、建物と交差する交差線を検索する。その結果、建物と交差する交差線があったら、交差線が存在した建物において、交差線から最も離れた点を不動点とし、交差点を挟んで前記不動点の反対側にある部分の内、最も離れた点を最大移動点とし、該最大移動点を基点として、前記建物と交差線との交差が解かれる、建物の最適な圧縮方向を決定する。そして、前記不動点を固定し、最大移動点を前記圧縮方向に交差が解かれる位置まで移動させて、建物全体を圧縮する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測量・地図調製により作成された原地図データを入力し、該原地図データに編集を加えて出力する地図データの編集方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地図の作成は、上空から撮影した航空写真に基づいて行われることが多いが、航空写真に基づく地図の作成は一般につぎのようにして行われる。まず、航空写真を図化機にセットし、これに撮影されている道路境界線や住宅区画の輪郭線などをこれらの線上に沿った特徴点を結ぶ線分でトレースし、トレースした線分をいわゆるベクトルデータの形式で表現された線分データとしてコンピュータに取り込んで編集元となる原地図データを作成する。つぎに、コンピュータ上で稼働するGUI(Graphical User Interface)による修正・編集機能を備えた地図整形ソフトウエアを操作して、取り込まれた原地図データに対し不正な箇所を修正したり、既存の地図や現地調査によるデータ、道路の寸法形状などの規格データなどに基づいて必要な編集を加えるなどして完成された地図に仕上げていく。
【0003】
例えば、特許文献1には、コンピュータを用いて効率よく道路地図を整形する技術が示されている。
【0004】
このような地図データの図化・編集を行う既存のシステムで未だ対応できていないものとして、建物と他の地物との交差の処理がある。図12に示すように、建物とその周囲に存在する道路や構囲等の地物は、計測誤差によって、あるいは実態として、平面的に交差している場合がある。
【0005】
図12における建物11のように、道路10に近接した建物では、実際に軒が道路10上にはみ出している場合もあるし、計測誤差により道路10上にはみ出して描画されることもある。また、建物12と構囲20のように、建物12と構囲20が近接している場合には、建物12と構囲20の位置関係を正確に計測できない場合もあるし、実際に、建物12の軒が構囲20の上まではみ出していることもある。さらに、建物密集地帯では、建物13と建物14のように、建物の軒同士が重なっている場合もある。
【0006】
このように、実際に重複していたり、計測精度上の理由で交差が避けられなかったりする等、理由は様々であるが、いずれにしても交差は、読図や空間解析の妨げとなるため、取り除く編集が必要となる。現在、他の地形・地物と交差する建物の編集は、図化時に行われる場合と、編集時に行われる場合とがあるが、その内、図化時に行われる場合は、先に周囲の地形・地物を描画しておき、建物はそれらの地形・地物と交差しないように交差部を部分移動させて、敢えて実際とは異なる位置に描画する。一方、編集時に行う場合は、交差部のみを部分移動する方法、及び、基本的には適用されないが、建物全体を移動させる方法がある。いずれにしても、それらの編集は、手作業で行われている。
【0007】
また、非特許文献1には、GIS(Geographic Information System)で複数の地図データを利用して道路リンクと建物ポリゴンとの重ね合わせを行うと、建物ポリゴンと道路リンクとが交差してしまうことがあるが、そのような場合に、交差を解消する方法として、道路リンクを移動させたり、建物ポリゴンを削除したりする方法が示されている。そのようにすれば、交差の解消を自動的に行うことができる。
【特許文献1】特開2001−273511号公報
【非特許文献1】佐々木麗子 外1名,「建物ポリゴンと道路リンクの幾何的不整合の解消法」,地理情報システム学会講演論文集,2005年,P.203−206
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記手作業による地図データの編集方法では、交差を取り除く編集を手作業で行うため、非常に手間が掛かるという問題点があった。さらに、交差部を部分移動させる方法には、交差部分だけが変形し、建物形状が大きく損なわれる場合があるという問題点があった。また、建物全体を移動させる方法では、形状の変形は発生しないが、位置精度が低下してしまうという問題点があった。
【0009】
図13に、現状の問題点を例示した模式図を示す。図13(a)が修正前の状態を示し、図13(b)は、交差部のみを部分移動させたものを示し、図13(c)は、建物全体を移動させたものを示している。このように、図13(b)のように、交差部のみを部分移動させた図では、道路にはみ出した建物の出っ張りが極端に小さくなり、実際の建物とは異なった形状になっている。また、図13(c)のように、建物全体を移動させた図では、道路と建物の空隙が広がって、実際の空間的な地物間関係を損なってしまう。
【0010】
また、非特許文献1に示されるような、道路リンクを移動させたり、建物ポリゴンを削除したりする方法では、精度の劣化や建物の欠落が生じてしまうという問題点があった。
【0011】
本発明は、そのような問題点に鑑み、建物と道路等の他の地物との交差を取り除く編集処理を、コンピュータで自動化することを可能とし、かつ、建物の形状や位置精度をできるだけ損なわないようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本願の請求項1にかかる発明は、測量・地図調製により作成された、建物を含む原地図データを入力し、該原地図データに編集を加えて出力する地図データの編集方法であって、建物を含む地形・地物を線分に分解するプロセスと、地形・地物を分解した線分の内、建物と交差する交差線を検索するプロセスと、交差線が存在した建物において、交差線から最も離れた点を不動点とし、交差線を挟んで前記不動点の反対側にある部分の内、最も離れた点を最大移動点として、前記不動点を固定した状態で、前記最大移動点を、建物と交差線との交差が解かれる位置まで移動させることにより建物全体を圧縮し、圧縮後の建物各辺の座標を取得するプロセスとを備えたことを特徴とする。
【0013】
また、本願の請求項2にかかる発明は、請求項1にかかる発明において、交差線が建物の一部を横断している場合、建物の各点から交差線に対して引いた垂線の内、交差線を挟んだ両側でそれぞれ最も長い垂線を検出し、その内、長い方の垂線が引かれた建物の点の座標を不動点とし、短い方の垂線が引かれた建物の点の座標を最大移動点とし、該最大移動点を、交差線と直交する方向で、前記不動点に向かう方向に移動させることを特徴とする。
【0014】
また、本願の請求項3にかかる発明は、請求項1又は2にかかる発明において、交差線の端点が建物辺上に位置している場合、交差線の端点が線上となった建物辺に向かう方向で、最も遠い位置にある建物座標を不動点とし、建物辺の上に出現した交差線の端点を最大移動点とし、該最大移動点を、交差線と平行で、不動点に向かう方向に移動させることを特徴とする。
【0015】
また、本願の請求項4にかかる発明は、請求項1,2又は3にかかる発明において、交差線が建物辺と重複している場合、交差線に直交し、かつ建物内部に向かう方向で最も遠い位置にある建物座標を不動点とし、重複した範囲内の一点の座標を最大移動点とし、該最大移動点を、交差線と直交する方向で、不動点に向かう方向に移動させることを特徴とする。
【0016】
また、本願の請求項5にかかる発明は、請求項1,2,3又は4にかかる発明において、交差線が建物内部に侵入している場合、交差線と建物辺との交点と、建物内部に侵入した交差線の端点、交差する建物辺の両端点との距離をそれぞれ求め、それらの内、建物内部に侵入した交差線の端点との距離が最も短い場合は、交差線の建物内部に向かう方向で最も遠い位置にある建物座標を不動点とし、交差線と建物辺との交点を最大移動点とし、該最大移動点を、交差線と平行で、不動点に向かう方向に移動させ、交差する建物辺の一方の端点との距離が最も短い場合は、該端点から他方の端点に向かう方向で最も遠い位置にある建物座標を不動点とし、該端点を最大移動点とし、該最大移動点を、交差線と直交する方向で、不動点に向かう方向に移動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の地図データの編集方法は、次のような効果を奏する。
すなわち、請求項1にかかる発明においては、交差線が存在した建物において、交差線から最も離れた点を不動点とし、交差線を挟んで前記不動点の反対側にある部分の内、最も離れた点を最大移動点として、前記不動点を固定した状態で、前記最大移動点を、建物と交差線との交差が解かれる位置まで移動させることにより建物全体を圧縮するようにした。その結果、建物と道路等の他の地物との交差を取り除く編集処理を自動化でき、かつ建物の形状や位置精度を損なうこともほとんどなくなった。
【0018】
また、請求項2にかかる発明においては、請求項1にかかる地図データの編集方法において、交差線が建物の一部を横断している場合、建物の各点から交差線に対して引いた垂線の内、交差線を挟んだ両側でそれぞれ最も長い垂線を検出し、その内、長い方の垂線が引かれた建物の点の座標を不動点とし、短い方の垂線が引かれた建物の点の座標を最大移動点とし、該最大移動点を、交差線と直交する方向で、前記不動点に向かう方向に移動させるようにしたので、横断交差の編集処理を、建物の形状や位置精度をあまり損なうことなく自動化できる。
【0019】
また、請求項3にかかる発明においては、請求項1又は2にかかる地図データの編集方法において、交差線の端点が建物辺上に位置している場合、交差線の端点が線上となった建物辺に向かう方向で、最も遠い位置にある建物座標を不動点とし、建物辺の上に出現した交差線の端点を最大移動点とし、該最大移動点を、交差線と平行で、不動点に向かう方向に移動させるようにしたので、線上交差の編集処理を、建物の形状や位置精度をあまり損なうことなく自動化できる。
【0020】
また、請求項4にかかる発明においては、請求項1,2又は3にかかる地図データの編集方法において、交差線が建物辺と重複している場合、交差線に直交し、かつ建物内部に向かう方向で最も遠い位置にある建物座標を不動点とし、重複した範囲内の一点の座標を最大移動点とし、該最大移動点を、交差線と直交する方向で、不動点に向かう方向に移動させるようにしたので、重複交差の編集処理を、建物の形状や位置精度をあまり損なうことなく自動化できる。
【0021】
また、請求項5にかかる発明においては、請求項1,2,3又は4にかかる地図データの編集方法において、交差線が建物内部に侵入している場合、交差線と建物辺との交点と、建物内部に侵入した交差線の端点、交差する建物辺の両端点との距離をそれぞれ求め、それらの内、建物内部に侵入した交差線の端点との距離が最も短い場合は、交差線の建物内部に向かう方向で最も遠い位置にある建物座標を不動点とし、交差線と建物辺との交点を最大移動点とし、該最大移動点を、交差線と平行で、不動点に向かう方向に移動させ、交差する建物辺の一方の端点との距離が最も短い場合は、該端点から他方の端点に向かう方向で最も遠い位置にある建物座標を不動点とし、該端点を最大移動点とし、該最大移動点を、交差線と直交する方向で、不動点に向かう方向に移動させるようにしたので、侵入交差の編集処理を、建物の形状や位置精度をあまり損なうことなく自動化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
建物に掛かる地形・地物の交差を分類すると図1のように整理できる。なお、ここでは、建物同士の交差、あるいは建物内に座標を持って交差する地形・地物であっても、それぞれを個別の線に分解して示している。
【0024】
図1(a)は、横断交差の一例を示しており、横断交差とは、交差する地形・地物の辺(以下、「交差線」という)が、建物内を横断しているものである。この横断交差には、交差線が建物の角部を斜めに横断している場合もある。図1(b)は、線上交差の一例を示しており、線上交差とは、交差線の端点が、建物辺あるいは角部のいずれかの上に重なっているものである。図1(c)は、重複交差の一例を示しており、重複交差とは、交差線の一部が、建物辺のいずれかの一部又は全部と一致しているものである。図1(d)は、侵入交差の一例を示しており、侵入交差とは、交差線が建物内に入り込んでいるものである。
【0025】
本発明では、建物に掛かる他の地形・地物の交差に対し、建物を構成する座標を最小限の移動で回避できる方向へ、その方向の最も遠い建物の座標は動かないものとし、移動方向に沿った距離に比例した距離だけ圧縮するように移動させる。そのとき、最も移動量が大きな点を「最大移動点」、動かない点を「不動点」、圧縮する方向を「圧縮方向」と呼ぶことにする。
【0026】
建物に掛かる他の地形・地物の交差を回避する処理の流れを図2に示す。この処理は、パソコン等の情報処理装置により実行される。まず、建物及び線あるいは線の集合として構成される地形・地物を処理の対象とし、それらの原地図データをコンピュータに入力する(ステップS1)。このとき、地形・地物には、建物自身も含まれる。
【0027】
次に、対象とする建物について、当該建物を除く地形・地物との交差景況を検索し、交差する地形・地物があれば処理の対象とする。その際、地形・地物は線分に分解し、対象とする建物に対して交差する地形・地物の辺を交差線として処理の対象とする(ステップS2)。
【0028】
そのようにして、交差線が存在する建物が見つかったら、その建物から、交差景況に応じて、最大移動点、不動点及び圧縮方向等の諸元を決定する(ステップS3)。当該建物と交差する地形・地物が建物以外のものである場合には、最大移動点の座標を圧縮方向に対して交差線から微量の白部が得られる距離まで移動させる。しかし、当該建物と交差する地形・地物が他の建物である場合には、最大移動点の座標を圧縮方向に対して、交差線から微量の白部が得られる距離を加えた距離の半分を移動させ、それ以外の建物座標は、圧縮方向に対する不動点から移動前の最大移動点と、移動後の最大移動点の距離の比と同じ割合だけ圧縮方向に移動させる(ステップS4)。そして、そのようにして移動させた後の建物のデータを出力する(ステップS5)。
【0029】
以上の処理により、交差線が1本であった場合の交差の回避処理は終了するが、交差線が複数本あった場合は、交差線が存在しなくなるまでこれらの処理を繰り返す。
【0030】
以下、それらの処理について詳細に説明する。
【0031】
(地形・地物の入力)
地形・地物の原地図データの入力は、ハードディスク,CD−ROM等、各種記憶媒体に記憶させた原地図データを、コンピュータに読み込ませることに行う。
【0032】
(交差景況の分類)
次の交差景況の分類では、地形・地物を線分に分解することは前に述べたが、分解した線分は、座標の順番で昇順に並べ替え、さらに線分自体も小さい方の座標を基準に昇順に並べ替える等して、検索が速く行えるようにする。そして、建物に対して交差する交差線を検索する。すなわち、建物の辺と他の地形・地物を分解した線分とが交差しているか否かを判定する必要があるが、その判定は次のようにして行う。
【0033】
図3は、建物の辺と他の線分とが交差しているか否かの判定方法を説明するための図である。当該建物の辺を表す線分を線分a−bとし、a点の座標を(x1,y1)、b点の座標を(x2,y2)とする。そして、他の地形・地物の辺を表す線分を線分c−dとし、c点の座標を(x3,y3)、d点の座標を(x4,y4)とする。これら4点から構成される4つの三角形の面積を用いて、2つの線分が交差しているか否かを判定する。
【0034】
すなわち、
△abc×△abd×△cda×△cdb>0なら交差
△abc×△abd×△cda×△cdb=0なら線上
△abc×△abd×△cda×△cdb<0なら非交差
と判定する。
【0035】
なお、片方の線分の端点が、もう一方の線分の上にある場合は、片方の線分の前記端点と、もう一方の線分とで構成される三角形の面積は0になる。また、△abcのように、各頂点が時計方向に配列される三角形の面積は正、△abdのように、各頂点が反時計方向に配列される三角形の面積は負であると定義される。
【0036】
そのようにして、2つの線分が交差していると判定された場合には、2つの線分の交点の座標(x0,y0)を求める。交点の座標(x0,y0)は、次の式で求めることができる。
【数1】
これらの結果に基づいて、交差景況を、横断交差、線上交差、重複交差、侵入交差の4つに分類する。
【0037】
(諸元の決定)
不動点、最大移動点及び圧縮方向の決定は、分類された交差景況に応じて行う。
1)横断交差の場合
横断交差では、検出された他の地形・地物と交差する建物に対し、その建物の全座標について、交差線の座標の進行方向に対して右側、左側あるいは線上にあるか判定する。
【0038】
その判定方法を、図4を使って説明する。図4において、Lが交差線、Pが判定対象となる座標である。交差線Lの座標の内、X座標が昇順に並んでいるものとし、交差線LのX軸へ投影した長さをLx、Y軸へ投影した長さをLyとする。また、交差線LのX座標が最も小さい点と、判定対象となる座標Pとを結ぶ線のX軸へ投影した長さをPx、Y軸へ投影した長さをPyとする。
【0039】
そして、
LxPy−PxLy=0なら線上
LxPy−PxLy<0なら右側
LxPy−PxLy>0なら左側
と判定する。
【0040】
交差線上と判定された座標は、便宜的に右側か左側のどちらかに振り分け、右側か左側に分類された建物の各座標は、それぞれの座標から交差線に対する垂線の足の座標(xf,yf)を求め、さらに、建物の各座標とそれに対応する垂線の足の座標から、垂線の長さを求める。
【0041】
図5は、垂線の足の座標を求める方法を説明するための図である。座標(x0,y0)から交差線Lに対する垂線の足の座標(xf,yf)は、次の式によって求めることができる。
【数2】
このようにして、垂線の両端の座標(x0,y0),(xf,yf)が分かれば、それらを使って垂線の長さを求めることができる。
【0042】
そして、右側,左側のそれぞれで最も長い垂線となる建物座標を取り出して両者を比較し、長い方の建物座標を不動点、他方の建物座標を最大移動点とする。また、交差線に直交し、最大移動点から不動点へ向かう方向を圧縮方向とする。図6に、横断交差の各種例を示し、それぞれの場合の不動点、最大移動点及び圧縮方向を示す。
【0043】
なお、建物と他の地形・地物との交差は、計測誤差や建物の軒のはみ出しなどによって生じるものであるため、交差箇所は建物の周辺部のみに存在する。したがって、左右の最も長い垂線の長さの比は、極端に大きくなるか小さくなるかであり、そうでない場合は、予期せぬ事象が発生していると認定できる。そこで、圧縮の割合Pを、
P=Fs/(Fr+Fl)
(ここで、Frは右側で最も長い垂線の長さ、Flは左側で最も長い垂線の長さ、FsはFrとFlの内、短い方の長さ)
とし、この値が一定以上を超える場合には、処理を中断させる。
【0044】
2)線上交差の場合
線上交差では、建物の辺の上に出現した交差線の端点を最大移動点とし、交差線が、線上となった辺に向かう方向で、最も遠い位置にある建物座標を不動点とする。また、圧縮方向は、交差線に平行で、最大移動点から不動点に向かう方向となる。図7に、線上交差の例を示し、それぞれの場合の不動点、最大移動点及び圧縮方向を示す。
【0045】
なお、この場合の不動点は、交差線と建物を、交差線がX軸又はY軸に平行になるように回転させると、回転後の最も大きな座標、あるいは最も小さな座標に注目することにより、容易に検索することができる。
【0046】
図8を使ってその場合の処理を説明する。例えば、座標(x1,y1),(x2,y2)を両端とする線分Lを、Y軸と平行になるように、原点oを中心として半時計方向に角度θだけ回転させる場合、回転後の線分L’の両端の座標(x1’,y1’),(x2’,y2’)は、次の式
x’=xcosθ−ysinθ
y’=xsinθ+ycosθ
を使って求めることができる。処理対象となる線分は、すべて同様にして処理することができる。
【0047】
3)重複交差の場合
重複交差では、重複した範囲の適当な座標を最大移動点とし、交差線に直交し、かつ建物内部に向かう方向で、最も遠い位置にある建物座標を不動点とする。また、圧縮方向は、交差線に直交し、最大移動点から不動点に向かう方向となる。図9に、重複交差の例を示し、それぞれの場合の不動点、最大移動点及び圧縮方向を示す。
【0048】
なお、この処理も、上記座標変換の式を使用して交差線と建物を、交差線がX軸あるいはY軸と平行になるように回転させると、処理が容易になる。
【0049】
4)侵入交差の場合
侵入交差では、交差線と建物辺との交点と、建物内部に侵入した交差線の端点、交差する建物辺の両方の端点との距離をそれぞれ求める。そして、それらの内、図10(a)に示すように、交差線と建物辺との交点と、建物内部に侵入した交差線の端点との距離が最も短い場合は、交差線の建物内部に向かう方向で最も遠い位置にある建物座標を不動点とし、交差線と建物辺との交点を最大移動点とする。また、交差線と平行で最大移動点から不動点に向かう方向を圧縮方向とする。
【0050】
一方、図10(b),(c)に示すように、交差線と建物辺との交点と、交差する建物辺の一方の端点との距離が最も短い場合は、該端点を最大移動点とし、該端点から他方の端点に向かう方向で最も遠い位置にある建物座標を不動点とする。また、交差線と直交し、最大移動点から不動点に向かう方向を圧縮方向とする。
【0051】
なお、この処理も、上記座標変換の式を使用して交差線と建物を、交差線がX軸あるいはY軸と平行になるように回転させると、処理が容易になる。
【0052】
(座標の移動)
図11は、交差の種類毎に建物座標の移動例を示したものであり、図11(a)は横断交差、図11(b)は重複交差、図11(c)は侵入割合が短い侵入交差、図11(d)は侵入割合が長い侵入交差の場合をそれぞれ示している。なお、ここでは、移動の状況を理解しやすいように、極端な場合を例にしていて、建物の形状が大きく歪められているが、実際の地図では、このような極端な歪みが生じることはなく、見る人に不自然さを感じさせることはほとんどない。
【0053】
前述したように、建物座標の移動は、不動点を固定した状態で最大移動点を圧縮方向に移動させるが、最大移動点を移動させる距離は、最大移動点から交差する地形・地物の辺までの距離nに、建物と交差する地形・地物との微量の白部dを加えた距離とする。
【0054】
そして、最大移動点以外の建物座標の移動距離は、圧縮方向へ、最大移動点から不動点までの距離と、最大移動点から交点までの距離の比によって行う。例えば、圧縮方向をY軸方向とすると、図11(a)〜(d)中のI点の圧縮後のY軸方向の長さyi’は、
yi’=yi×(n+d)/m
となり、その他の点も同様になる。ここで、yiは移動前のY軸方向の長さ、mはY軸方向の最大移動点から不動点までの鉛直距離である。
【0055】
なお、線上交差,重複交差では、nは0になる。また、建物同士の交差の場合には、それぞれの建物の移動距離は半分ずつにする。
【0056】
(編集済み建物の出力)
以上のようにして建物座標の移動が完了したら、その座標データを出力して、地図データに組み込む。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】建物に掛かる地形・地物の交差の分類を示す図である。
【図2】本発明における処理の流れを示す図である。
【図3】建物の辺と他の線分とが交差しているか否かの判定方法を説明するための図である。
【図4】交差線に対する座標位置を判定する方法を説明するための図である。
【図5】垂線の足の座標を求める方法を説明するための図である。
【図6】各種横断交差における不動点、最大移動点及び圧縮方向を示す図である。
【図7】各種線上交差における不動点、最大移動点及び圧縮方向を示す図である。
【図8】交差線の回転処理を説明するための図である。
【図9】各種重複交差における不動点、最大移動点及び圧縮方向を示す図である。
【図10】各種侵入交差における不動点、最大移動点及び圧縮方向を示す図である。
【図11】交差の種類毎に建物座標の移動例を示した図である。
【図12】建物とその周囲に存在する地物との交差を示す図である。
【図13】交差部の従来の編集方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0058】
1…交差線
2…建物
10…道路
11〜14…建物
20…構囲
【技術分野】
【0001】
本発明は、測量・地図調製により作成された原地図データを入力し、該原地図データに編集を加えて出力する地図データの編集方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地図の作成は、上空から撮影した航空写真に基づいて行われることが多いが、航空写真に基づく地図の作成は一般につぎのようにして行われる。まず、航空写真を図化機にセットし、これに撮影されている道路境界線や住宅区画の輪郭線などをこれらの線上に沿った特徴点を結ぶ線分でトレースし、トレースした線分をいわゆるベクトルデータの形式で表現された線分データとしてコンピュータに取り込んで編集元となる原地図データを作成する。つぎに、コンピュータ上で稼働するGUI(Graphical User Interface)による修正・編集機能を備えた地図整形ソフトウエアを操作して、取り込まれた原地図データに対し不正な箇所を修正したり、既存の地図や現地調査によるデータ、道路の寸法形状などの規格データなどに基づいて必要な編集を加えるなどして完成された地図に仕上げていく。
【0003】
例えば、特許文献1には、コンピュータを用いて効率よく道路地図を整形する技術が示されている。
【0004】
このような地図データの図化・編集を行う既存のシステムで未だ対応できていないものとして、建物と他の地物との交差の処理がある。図12に示すように、建物とその周囲に存在する道路や構囲等の地物は、計測誤差によって、あるいは実態として、平面的に交差している場合がある。
【0005】
図12における建物11のように、道路10に近接した建物では、実際に軒が道路10上にはみ出している場合もあるし、計測誤差により道路10上にはみ出して描画されることもある。また、建物12と構囲20のように、建物12と構囲20が近接している場合には、建物12と構囲20の位置関係を正確に計測できない場合もあるし、実際に、建物12の軒が構囲20の上まではみ出していることもある。さらに、建物密集地帯では、建物13と建物14のように、建物の軒同士が重なっている場合もある。
【0006】
このように、実際に重複していたり、計測精度上の理由で交差が避けられなかったりする等、理由は様々であるが、いずれにしても交差は、読図や空間解析の妨げとなるため、取り除く編集が必要となる。現在、他の地形・地物と交差する建物の編集は、図化時に行われる場合と、編集時に行われる場合とがあるが、その内、図化時に行われる場合は、先に周囲の地形・地物を描画しておき、建物はそれらの地形・地物と交差しないように交差部を部分移動させて、敢えて実際とは異なる位置に描画する。一方、編集時に行う場合は、交差部のみを部分移動する方法、及び、基本的には適用されないが、建物全体を移動させる方法がある。いずれにしても、それらの編集は、手作業で行われている。
【0007】
また、非特許文献1には、GIS(Geographic Information System)で複数の地図データを利用して道路リンクと建物ポリゴンとの重ね合わせを行うと、建物ポリゴンと道路リンクとが交差してしまうことがあるが、そのような場合に、交差を解消する方法として、道路リンクを移動させたり、建物ポリゴンを削除したりする方法が示されている。そのようにすれば、交差の解消を自動的に行うことができる。
【特許文献1】特開2001−273511号公報
【非特許文献1】佐々木麗子 外1名,「建物ポリゴンと道路リンクの幾何的不整合の解消法」,地理情報システム学会講演論文集,2005年,P.203−206
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記手作業による地図データの編集方法では、交差を取り除く編集を手作業で行うため、非常に手間が掛かるという問題点があった。さらに、交差部を部分移動させる方法には、交差部分だけが変形し、建物形状が大きく損なわれる場合があるという問題点があった。また、建物全体を移動させる方法では、形状の変形は発生しないが、位置精度が低下してしまうという問題点があった。
【0009】
図13に、現状の問題点を例示した模式図を示す。図13(a)が修正前の状態を示し、図13(b)は、交差部のみを部分移動させたものを示し、図13(c)は、建物全体を移動させたものを示している。このように、図13(b)のように、交差部のみを部分移動させた図では、道路にはみ出した建物の出っ張りが極端に小さくなり、実際の建物とは異なった形状になっている。また、図13(c)のように、建物全体を移動させた図では、道路と建物の空隙が広がって、実際の空間的な地物間関係を損なってしまう。
【0010】
また、非特許文献1に示されるような、道路リンクを移動させたり、建物ポリゴンを削除したりする方法では、精度の劣化や建物の欠落が生じてしまうという問題点があった。
【0011】
本発明は、そのような問題点に鑑み、建物と道路等の他の地物との交差を取り除く編集処理を、コンピュータで自動化することを可能とし、かつ、建物の形状や位置精度をできるだけ損なわないようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本願の請求項1にかかる発明は、測量・地図調製により作成された、建物を含む原地図データを入力し、該原地図データに編集を加えて出力する地図データの編集方法であって、建物を含む地形・地物を線分に分解するプロセスと、地形・地物を分解した線分の内、建物と交差する交差線を検索するプロセスと、交差線が存在した建物において、交差線から最も離れた点を不動点とし、交差線を挟んで前記不動点の反対側にある部分の内、最も離れた点を最大移動点として、前記不動点を固定した状態で、前記最大移動点を、建物と交差線との交差が解かれる位置まで移動させることにより建物全体を圧縮し、圧縮後の建物各辺の座標を取得するプロセスとを備えたことを特徴とする。
【0013】
また、本願の請求項2にかかる発明は、請求項1にかかる発明において、交差線が建物の一部を横断している場合、建物の各点から交差線に対して引いた垂線の内、交差線を挟んだ両側でそれぞれ最も長い垂線を検出し、その内、長い方の垂線が引かれた建物の点の座標を不動点とし、短い方の垂線が引かれた建物の点の座標を最大移動点とし、該最大移動点を、交差線と直交する方向で、前記不動点に向かう方向に移動させることを特徴とする。
【0014】
また、本願の請求項3にかかる発明は、請求項1又は2にかかる発明において、交差線の端点が建物辺上に位置している場合、交差線の端点が線上となった建物辺に向かう方向で、最も遠い位置にある建物座標を不動点とし、建物辺の上に出現した交差線の端点を最大移動点とし、該最大移動点を、交差線と平行で、不動点に向かう方向に移動させることを特徴とする。
【0015】
また、本願の請求項4にかかる発明は、請求項1,2又は3にかかる発明において、交差線が建物辺と重複している場合、交差線に直交し、かつ建物内部に向かう方向で最も遠い位置にある建物座標を不動点とし、重複した範囲内の一点の座標を最大移動点とし、該最大移動点を、交差線と直交する方向で、不動点に向かう方向に移動させることを特徴とする。
【0016】
また、本願の請求項5にかかる発明は、請求項1,2,3又は4にかかる発明において、交差線が建物内部に侵入している場合、交差線と建物辺との交点と、建物内部に侵入した交差線の端点、交差する建物辺の両端点との距離をそれぞれ求め、それらの内、建物内部に侵入した交差線の端点との距離が最も短い場合は、交差線の建物内部に向かう方向で最も遠い位置にある建物座標を不動点とし、交差線と建物辺との交点を最大移動点とし、該最大移動点を、交差線と平行で、不動点に向かう方向に移動させ、交差する建物辺の一方の端点との距離が最も短い場合は、該端点から他方の端点に向かう方向で最も遠い位置にある建物座標を不動点とし、該端点を最大移動点とし、該最大移動点を、交差線と直交する方向で、不動点に向かう方向に移動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の地図データの編集方法は、次のような効果を奏する。
すなわち、請求項1にかかる発明においては、交差線が存在した建物において、交差線から最も離れた点を不動点とし、交差線を挟んで前記不動点の反対側にある部分の内、最も離れた点を最大移動点として、前記不動点を固定した状態で、前記最大移動点を、建物と交差線との交差が解かれる位置まで移動させることにより建物全体を圧縮するようにした。その結果、建物と道路等の他の地物との交差を取り除く編集処理を自動化でき、かつ建物の形状や位置精度を損なうこともほとんどなくなった。
【0018】
また、請求項2にかかる発明においては、請求項1にかかる地図データの編集方法において、交差線が建物の一部を横断している場合、建物の各点から交差線に対して引いた垂線の内、交差線を挟んだ両側でそれぞれ最も長い垂線を検出し、その内、長い方の垂線が引かれた建物の点の座標を不動点とし、短い方の垂線が引かれた建物の点の座標を最大移動点とし、該最大移動点を、交差線と直交する方向で、前記不動点に向かう方向に移動させるようにしたので、横断交差の編集処理を、建物の形状や位置精度をあまり損なうことなく自動化できる。
【0019】
また、請求項3にかかる発明においては、請求項1又は2にかかる地図データの編集方法において、交差線の端点が建物辺上に位置している場合、交差線の端点が線上となった建物辺に向かう方向で、最も遠い位置にある建物座標を不動点とし、建物辺の上に出現した交差線の端点を最大移動点とし、該最大移動点を、交差線と平行で、不動点に向かう方向に移動させるようにしたので、線上交差の編集処理を、建物の形状や位置精度をあまり損なうことなく自動化できる。
【0020】
また、請求項4にかかる発明においては、請求項1,2又は3にかかる地図データの編集方法において、交差線が建物辺と重複している場合、交差線に直交し、かつ建物内部に向かう方向で最も遠い位置にある建物座標を不動点とし、重複した範囲内の一点の座標を最大移動点とし、該最大移動点を、交差線と直交する方向で、不動点に向かう方向に移動させるようにしたので、重複交差の編集処理を、建物の形状や位置精度をあまり損なうことなく自動化できる。
【0021】
また、請求項5にかかる発明においては、請求項1,2,3又は4にかかる地図データの編集方法において、交差線が建物内部に侵入している場合、交差線と建物辺との交点と、建物内部に侵入した交差線の端点、交差する建物辺の両端点との距離をそれぞれ求め、それらの内、建物内部に侵入した交差線の端点との距離が最も短い場合は、交差線の建物内部に向かう方向で最も遠い位置にある建物座標を不動点とし、交差線と建物辺との交点を最大移動点とし、該最大移動点を、交差線と平行で、不動点に向かう方向に移動させ、交差する建物辺の一方の端点との距離が最も短い場合は、該端点から他方の端点に向かう方向で最も遠い位置にある建物座標を不動点とし、該端点を最大移動点とし、該最大移動点を、交差線と直交する方向で、不動点に向かう方向に移動させるようにしたので、侵入交差の編集処理を、建物の形状や位置精度をあまり損なうことなく自動化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0023】
建物に掛かる地形・地物の交差を分類すると図1のように整理できる。なお、ここでは、建物同士の交差、あるいは建物内に座標を持って交差する地形・地物であっても、それぞれを個別の線に分解して示している。
【0024】
図1(a)は、横断交差の一例を示しており、横断交差とは、交差する地形・地物の辺(以下、「交差線」という)が、建物内を横断しているものである。この横断交差には、交差線が建物の角部を斜めに横断している場合もある。図1(b)は、線上交差の一例を示しており、線上交差とは、交差線の端点が、建物辺あるいは角部のいずれかの上に重なっているものである。図1(c)は、重複交差の一例を示しており、重複交差とは、交差線の一部が、建物辺のいずれかの一部又は全部と一致しているものである。図1(d)は、侵入交差の一例を示しており、侵入交差とは、交差線が建物内に入り込んでいるものである。
【0025】
本発明では、建物に掛かる他の地形・地物の交差に対し、建物を構成する座標を最小限の移動で回避できる方向へ、その方向の最も遠い建物の座標は動かないものとし、移動方向に沿った距離に比例した距離だけ圧縮するように移動させる。そのとき、最も移動量が大きな点を「最大移動点」、動かない点を「不動点」、圧縮する方向を「圧縮方向」と呼ぶことにする。
【0026】
建物に掛かる他の地形・地物の交差を回避する処理の流れを図2に示す。この処理は、パソコン等の情報処理装置により実行される。まず、建物及び線あるいは線の集合として構成される地形・地物を処理の対象とし、それらの原地図データをコンピュータに入力する(ステップS1)。このとき、地形・地物には、建物自身も含まれる。
【0027】
次に、対象とする建物について、当該建物を除く地形・地物との交差景況を検索し、交差する地形・地物があれば処理の対象とする。その際、地形・地物は線分に分解し、対象とする建物に対して交差する地形・地物の辺を交差線として処理の対象とする(ステップS2)。
【0028】
そのようにして、交差線が存在する建物が見つかったら、その建物から、交差景況に応じて、最大移動点、不動点及び圧縮方向等の諸元を決定する(ステップS3)。当該建物と交差する地形・地物が建物以外のものである場合には、最大移動点の座標を圧縮方向に対して交差線から微量の白部が得られる距離まで移動させる。しかし、当該建物と交差する地形・地物が他の建物である場合には、最大移動点の座標を圧縮方向に対して、交差線から微量の白部が得られる距離を加えた距離の半分を移動させ、それ以外の建物座標は、圧縮方向に対する不動点から移動前の最大移動点と、移動後の最大移動点の距離の比と同じ割合だけ圧縮方向に移動させる(ステップS4)。そして、そのようにして移動させた後の建物のデータを出力する(ステップS5)。
【0029】
以上の処理により、交差線が1本であった場合の交差の回避処理は終了するが、交差線が複数本あった場合は、交差線が存在しなくなるまでこれらの処理を繰り返す。
【0030】
以下、それらの処理について詳細に説明する。
【0031】
(地形・地物の入力)
地形・地物の原地図データの入力は、ハードディスク,CD−ROM等、各種記憶媒体に記憶させた原地図データを、コンピュータに読み込ませることに行う。
【0032】
(交差景況の分類)
次の交差景況の分類では、地形・地物を線分に分解することは前に述べたが、分解した線分は、座標の順番で昇順に並べ替え、さらに線分自体も小さい方の座標を基準に昇順に並べ替える等して、検索が速く行えるようにする。そして、建物に対して交差する交差線を検索する。すなわち、建物の辺と他の地形・地物を分解した線分とが交差しているか否かを判定する必要があるが、その判定は次のようにして行う。
【0033】
図3は、建物の辺と他の線分とが交差しているか否かの判定方法を説明するための図である。当該建物の辺を表す線分を線分a−bとし、a点の座標を(x1,y1)、b点の座標を(x2,y2)とする。そして、他の地形・地物の辺を表す線分を線分c−dとし、c点の座標を(x3,y3)、d点の座標を(x4,y4)とする。これら4点から構成される4つの三角形の面積を用いて、2つの線分が交差しているか否かを判定する。
【0034】
すなわち、
△abc×△abd×△cda×△cdb>0なら交差
△abc×△abd×△cda×△cdb=0なら線上
△abc×△abd×△cda×△cdb<0なら非交差
と判定する。
【0035】
なお、片方の線分の端点が、もう一方の線分の上にある場合は、片方の線分の前記端点と、もう一方の線分とで構成される三角形の面積は0になる。また、△abcのように、各頂点が時計方向に配列される三角形の面積は正、△abdのように、各頂点が反時計方向に配列される三角形の面積は負であると定義される。
【0036】
そのようにして、2つの線分が交差していると判定された場合には、2つの線分の交点の座標(x0,y0)を求める。交点の座標(x0,y0)は、次の式で求めることができる。
【数1】
これらの結果に基づいて、交差景況を、横断交差、線上交差、重複交差、侵入交差の4つに分類する。
【0037】
(諸元の決定)
不動点、最大移動点及び圧縮方向の決定は、分類された交差景況に応じて行う。
1)横断交差の場合
横断交差では、検出された他の地形・地物と交差する建物に対し、その建物の全座標について、交差線の座標の進行方向に対して右側、左側あるいは線上にあるか判定する。
【0038】
その判定方法を、図4を使って説明する。図4において、Lが交差線、Pが判定対象となる座標である。交差線Lの座標の内、X座標が昇順に並んでいるものとし、交差線LのX軸へ投影した長さをLx、Y軸へ投影した長さをLyとする。また、交差線LのX座標が最も小さい点と、判定対象となる座標Pとを結ぶ線のX軸へ投影した長さをPx、Y軸へ投影した長さをPyとする。
【0039】
そして、
LxPy−PxLy=0なら線上
LxPy−PxLy<0なら右側
LxPy−PxLy>0なら左側
と判定する。
【0040】
交差線上と判定された座標は、便宜的に右側か左側のどちらかに振り分け、右側か左側に分類された建物の各座標は、それぞれの座標から交差線に対する垂線の足の座標(xf,yf)を求め、さらに、建物の各座標とそれに対応する垂線の足の座標から、垂線の長さを求める。
【0041】
図5は、垂線の足の座標を求める方法を説明するための図である。座標(x0,y0)から交差線Lに対する垂線の足の座標(xf,yf)は、次の式によって求めることができる。
【数2】
このようにして、垂線の両端の座標(x0,y0),(xf,yf)が分かれば、それらを使って垂線の長さを求めることができる。
【0042】
そして、右側,左側のそれぞれで最も長い垂線となる建物座標を取り出して両者を比較し、長い方の建物座標を不動点、他方の建物座標を最大移動点とする。また、交差線に直交し、最大移動点から不動点へ向かう方向を圧縮方向とする。図6に、横断交差の各種例を示し、それぞれの場合の不動点、最大移動点及び圧縮方向を示す。
【0043】
なお、建物と他の地形・地物との交差は、計測誤差や建物の軒のはみ出しなどによって生じるものであるため、交差箇所は建物の周辺部のみに存在する。したがって、左右の最も長い垂線の長さの比は、極端に大きくなるか小さくなるかであり、そうでない場合は、予期せぬ事象が発生していると認定できる。そこで、圧縮の割合Pを、
P=Fs/(Fr+Fl)
(ここで、Frは右側で最も長い垂線の長さ、Flは左側で最も長い垂線の長さ、FsはFrとFlの内、短い方の長さ)
とし、この値が一定以上を超える場合には、処理を中断させる。
【0044】
2)線上交差の場合
線上交差では、建物の辺の上に出現した交差線の端点を最大移動点とし、交差線が、線上となった辺に向かう方向で、最も遠い位置にある建物座標を不動点とする。また、圧縮方向は、交差線に平行で、最大移動点から不動点に向かう方向となる。図7に、線上交差の例を示し、それぞれの場合の不動点、最大移動点及び圧縮方向を示す。
【0045】
なお、この場合の不動点は、交差線と建物を、交差線がX軸又はY軸に平行になるように回転させると、回転後の最も大きな座標、あるいは最も小さな座標に注目することにより、容易に検索することができる。
【0046】
図8を使ってその場合の処理を説明する。例えば、座標(x1,y1),(x2,y2)を両端とする線分Lを、Y軸と平行になるように、原点oを中心として半時計方向に角度θだけ回転させる場合、回転後の線分L’の両端の座標(x1’,y1’),(x2’,y2’)は、次の式
x’=xcosθ−ysinθ
y’=xsinθ+ycosθ
を使って求めることができる。処理対象となる線分は、すべて同様にして処理することができる。
【0047】
3)重複交差の場合
重複交差では、重複した範囲の適当な座標を最大移動点とし、交差線に直交し、かつ建物内部に向かう方向で、最も遠い位置にある建物座標を不動点とする。また、圧縮方向は、交差線に直交し、最大移動点から不動点に向かう方向となる。図9に、重複交差の例を示し、それぞれの場合の不動点、最大移動点及び圧縮方向を示す。
【0048】
なお、この処理も、上記座標変換の式を使用して交差線と建物を、交差線がX軸あるいはY軸と平行になるように回転させると、処理が容易になる。
【0049】
4)侵入交差の場合
侵入交差では、交差線と建物辺との交点と、建物内部に侵入した交差線の端点、交差する建物辺の両方の端点との距離をそれぞれ求める。そして、それらの内、図10(a)に示すように、交差線と建物辺との交点と、建物内部に侵入した交差線の端点との距離が最も短い場合は、交差線の建物内部に向かう方向で最も遠い位置にある建物座標を不動点とし、交差線と建物辺との交点を最大移動点とする。また、交差線と平行で最大移動点から不動点に向かう方向を圧縮方向とする。
【0050】
一方、図10(b),(c)に示すように、交差線と建物辺との交点と、交差する建物辺の一方の端点との距離が最も短い場合は、該端点を最大移動点とし、該端点から他方の端点に向かう方向で最も遠い位置にある建物座標を不動点とする。また、交差線と直交し、最大移動点から不動点に向かう方向を圧縮方向とする。
【0051】
なお、この処理も、上記座標変換の式を使用して交差線と建物を、交差線がX軸あるいはY軸と平行になるように回転させると、処理が容易になる。
【0052】
(座標の移動)
図11は、交差の種類毎に建物座標の移動例を示したものであり、図11(a)は横断交差、図11(b)は重複交差、図11(c)は侵入割合が短い侵入交差、図11(d)は侵入割合が長い侵入交差の場合をそれぞれ示している。なお、ここでは、移動の状況を理解しやすいように、極端な場合を例にしていて、建物の形状が大きく歪められているが、実際の地図では、このような極端な歪みが生じることはなく、見る人に不自然さを感じさせることはほとんどない。
【0053】
前述したように、建物座標の移動は、不動点を固定した状態で最大移動点を圧縮方向に移動させるが、最大移動点を移動させる距離は、最大移動点から交差する地形・地物の辺までの距離nに、建物と交差する地形・地物との微量の白部dを加えた距離とする。
【0054】
そして、最大移動点以外の建物座標の移動距離は、圧縮方向へ、最大移動点から不動点までの距離と、最大移動点から交点までの距離の比によって行う。例えば、圧縮方向をY軸方向とすると、図11(a)〜(d)中のI点の圧縮後のY軸方向の長さyi’は、
yi’=yi×(n+d)/m
となり、その他の点も同様になる。ここで、yiは移動前のY軸方向の長さ、mはY軸方向の最大移動点から不動点までの鉛直距離である。
【0055】
なお、線上交差,重複交差では、nは0になる。また、建物同士の交差の場合には、それぞれの建物の移動距離は半分ずつにする。
【0056】
(編集済み建物の出力)
以上のようにして建物座標の移動が完了したら、その座標データを出力して、地図データに組み込む。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】建物に掛かる地形・地物の交差の分類を示す図である。
【図2】本発明における処理の流れを示す図である。
【図3】建物の辺と他の線分とが交差しているか否かの判定方法を説明するための図である。
【図4】交差線に対する座標位置を判定する方法を説明するための図である。
【図5】垂線の足の座標を求める方法を説明するための図である。
【図6】各種横断交差における不動点、最大移動点及び圧縮方向を示す図である。
【図7】各種線上交差における不動点、最大移動点及び圧縮方向を示す図である。
【図8】交差線の回転処理を説明するための図である。
【図9】各種重複交差における不動点、最大移動点及び圧縮方向を示す図である。
【図10】各種侵入交差における不動点、最大移動点及び圧縮方向を示す図である。
【図11】交差の種類毎に建物座標の移動例を示した図である。
【図12】建物とその周囲に存在する地物との交差を示す図である。
【図13】交差部の従来の編集方法を説明する図である。
【符号の説明】
【0058】
1…交差線
2…建物
10…道路
11〜14…建物
20…構囲
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測量・地図調製により作成された、建物を含む原地図データを入力し、該原地図データに編集を加えて出力する地図データの編集方法であって、
建物を含む地形・地物を線分に分解するプロセスと、
地形・地物を分解した線分の内、建物と交差する交差線を検索するプロセスと、
交差線が存在した建物において、交差線から最も離れた点を不動点とし、交差線を挟んで前記不動点の反対側にある部分の内、最も離れた点を最大移動点として、前記不動点を固定した状態で、前記最大移動点を、建物と交差線との交差が解かれる位置まで移動させることにより建物全体を圧縮し、圧縮後の建物各辺の座標を取得するプロセスと
を備えたことを特徴とする地図データの編集方法。
【請求項2】
交差線が建物の一部を横断している場合、建物の各点から交差線に対して引いた垂線の内、交差線を挟んだ両側でそれぞれ最も長い垂線を検出し、その内、長い方の垂線が引かれた建物の点の座標を不動点とし、短い方の垂線が引かれた建物の点の座標を最大移動点とし、該最大移動点を、交差線と直交する方向で、前記不動点に向かう方向に移動させることを特徴とする請求項1に記載の地図データの編集方法。
【請求項3】
交差線の端点が建物辺上に位置している場合、交差線の端点が線上となった建物辺に向かう方向で、最も遠い位置にある建物座標を不動点とし、建物辺の上に出現した交差線の端点を最大移動点とし、該最大移動点を、交差線と平行で、不動点に向かう方向に移動させることを特徴とする請求項1又は2に記載の地図データの編集方法。
【請求項4】
交差線が建物辺と重複している場合、交差線に直交し、かつ建物内部に向かう方向で最も遠い位置にある建物座標を不動点とし、重複した範囲内の一点の座標を最大移動点とし、該最大移動点を、交差線と直交する方向で、不動点に向かう方向に移動させることを特徴とする請求項1,2又は3に記載の地図データの編集方法。
【請求項5】
交差線が建物内部に侵入している場合、交差線と建物辺との交点と、建物内部に侵入した交差線の端点、交差する建物辺の両端点との距離をそれぞれ求め、それらの内、建物内部に侵入した交差線の端点との距離が最も短い場合は、交差線の建物内部に向かう方向で最も遠い位置にある建物座標を不動点とし、交差線と建物辺との交点を最大移動点とし、該最大移動点を、交差線と平行で、不動点に向かう方向に移動させ、
交差する建物辺の一方の端点との距離が最も短い場合は、該端点から他方の端点に向かう方向で最も遠い位置にある建物座標を不動点とし、該端点を最大移動点とし、該最大移動点を、交差線と直交する方向で、不動点に向かう方向に移動させることを特徴とする請求項1,2,3又は4に記載の地図データの編集方法。
【請求項1】
測量・地図調製により作成された、建物を含む原地図データを入力し、該原地図データに編集を加えて出力する地図データの編集方法であって、
建物を含む地形・地物を線分に分解するプロセスと、
地形・地物を分解した線分の内、建物と交差する交差線を検索するプロセスと、
交差線が存在した建物において、交差線から最も離れた点を不動点とし、交差線を挟んで前記不動点の反対側にある部分の内、最も離れた点を最大移動点として、前記不動点を固定した状態で、前記最大移動点を、建物と交差線との交差が解かれる位置まで移動させることにより建物全体を圧縮し、圧縮後の建物各辺の座標を取得するプロセスと
を備えたことを特徴とする地図データの編集方法。
【請求項2】
交差線が建物の一部を横断している場合、建物の各点から交差線に対して引いた垂線の内、交差線を挟んだ両側でそれぞれ最も長い垂線を検出し、その内、長い方の垂線が引かれた建物の点の座標を不動点とし、短い方の垂線が引かれた建物の点の座標を最大移動点とし、該最大移動点を、交差線と直交する方向で、前記不動点に向かう方向に移動させることを特徴とする請求項1に記載の地図データの編集方法。
【請求項3】
交差線の端点が建物辺上に位置している場合、交差線の端点が線上となった建物辺に向かう方向で、最も遠い位置にある建物座標を不動点とし、建物辺の上に出現した交差線の端点を最大移動点とし、該最大移動点を、交差線と平行で、不動点に向かう方向に移動させることを特徴とする請求項1又は2に記載の地図データの編集方法。
【請求項4】
交差線が建物辺と重複している場合、交差線に直交し、かつ建物内部に向かう方向で最も遠い位置にある建物座標を不動点とし、重複した範囲内の一点の座標を最大移動点とし、該最大移動点を、交差線と直交する方向で、不動点に向かう方向に移動させることを特徴とする請求項1,2又は3に記載の地図データの編集方法。
【請求項5】
交差線が建物内部に侵入している場合、交差線と建物辺との交点と、建物内部に侵入した交差線の端点、交差する建物辺の両端点との距離をそれぞれ求め、それらの内、建物内部に侵入した交差線の端点との距離が最も短い場合は、交差線の建物内部に向かう方向で最も遠い位置にある建物座標を不動点とし、交差線と建物辺との交点を最大移動点とし、該最大移動点を、交差線と平行で、不動点に向かう方向に移動させ、
交差する建物辺の一方の端点との距離が最も短い場合は、該端点から他方の端点に向かう方向で最も遠い位置にある建物座標を不動点とし、該端点を最大移動点とし、該最大移動点を、交差線と直交する方向で、不動点に向かう方向に移動させることを特徴とする請求項1,2,3又は4に記載の地図データの編集方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−152569(P2010−152569A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328919(P2008−328919)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000213909)朝日航洋株式会社 (30)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000213909)朝日航洋株式会社 (30)
【Fターム(参考)】
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