説明

垂直磁気記録媒体およびその製造方法、磁気記録装置

【課題】垂直磁気記録媒体において、媒体の電磁気特性、特にS/N比を低下させることなく、化学的および機械的に安定は保護膜を形成する。
【解決手段】基板と、前記基板上に形成された軟磁性裏打ち層と、前記軟磁性裏打ち層上に形成され、粒界に非磁性粒界層を有し、垂直磁気異方性を有する主記録層と、前記主記録層に隣接して積層され、互いに隣接して形成された磁性粒子を含み、前記主記録層よりも垂直磁気異方性が小さい副記録層と、よりなる記録層と、前記記録層上に形成された炭素を主成分とする保護膜とよりなり、前記副記録層を構成する磁性膜は、Crを13原子%〜19原子%の範囲で含むCoCr合金よりなる垂直磁気記録媒体において、前記保護膜を、CVD法により、200℃以上の温度で形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に磁気記録技術に係り、特に垂直磁気記録媒体の製造方法、かかる製造方法により製造された垂直磁気記録媒体、さらにかかる垂直磁気記録媒体を有する磁気記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク装置などの磁気記録装置では、近年の磁気記録媒体の記録密度の急激な増大により、めざましい記録容量の増加が達成されている。
【0003】
従来の磁気記録装置では、記録媒体中に情報を、面内磁化を有する記録ビットの形で記録する、いわゆる面内記録型の磁気記録装置が主流であったが、かかる面内記録方式では、記録磁界や熱揺らぎにより記録ビットが消失しやすく、記録密度の向上は限界に達しつつある。そこで、記録媒体の面に垂直方向に磁気記録を行う、いわゆる垂直記録型の磁気記録装置について、研究開発がなされている。
【非特許文献1】Iwasaki, S. et al., Magn. IEEE Trans. vol.14, Sep.1978, pp849-851
【非特許文献2】Ouchi, S. et al., Magn. IEEE Trans. vol.23, Sep.1987, pp2443-2448
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図1は、本発明の関連技術による垂直磁気記録媒体10の構成を示す図である。
【0005】
図1を参照するに、垂直磁気記録媒体10は、基板11と、前記基板11上に形成された軟磁性裏打ち層12と、前記軟磁性裏打ち層12上に、非磁性中間層13を介して形成された垂直記録層14とより構成されている。
【0006】
前記軟磁性裏打ち層12は、非磁性中間層12Cを挟んで形成された下部軟磁性層12Aと上部軟磁性層12Bとよりなり、前記下部軟磁性層12Aと上部軟磁性層12Bは前記非磁性中間層12Cを介して反強磁性結合を生じ、反平行な関係で安定した磁化が形成される。これにより、再生時におけるスパイクノイズを抑制することが可能となる。
【0007】
前記垂直記録層14は、図2に概略的に示すように、酸化物あるいは窒化物よりなる非磁性粒界層14aで隔てられた磁性体柱状粒子14bよりなりグラニュラー構造記録層とも呼ばれる主記録層14Aと、その上に形成された磁性体連続膜よりなる副記録層14Bより構成されており、基板11に対して垂直方向に磁化容易軸を有している。
【0008】
前記主記録層14Aを構成する磁性体柱状粒子14bは、例えばCo合金などの強磁性材料よりなり基板に垂直方向に磁化容易軸を有する。そこで、図1に示すように磁気ヘッドの記録磁極16Aから出射した高密度磁束は主記録層14において、前記磁性体柱状粒子14bの上下いずれかの垂直方向磁化を誘起し、軟磁性裏打ち層12を通って、前記磁気ヘッド16に設けられた別の戻り磁極16Bに還流する。
【0009】
このようにして前記主記録層14A中に形成された磁化は、前記磁性体柱状粒子14bが非磁性粒界層14aにより相互に分離した状態で存在しているため安定で、主記録層14Aの膜厚を減少させても熱揺らぎによる反転が生じにくい。
【0010】
一方、前記磁性体柱状粒子14bはこのように主記録層14中において前記粒界層14aにより分離した状態で形成されているため、また大きな垂直磁気異方性を有しているため、記録ヘッド16によるデータの書き換えを行おうとした場合、磁化の反転が困難となる。このため、図1の構成では、粒界層を含まない副記録層14Bが主記録層14A上に形成されている。
【0011】
このように、上記主記録層14Aと副記録層14Bを積層した構造の記録層を有する垂直磁気記録媒体10では、主記録層14Aの使用により高いS/N比が、また副記録層14Bの使用により高い書き込み性能が達成される。
【0012】
一方、このような垂直磁気記録媒体10を実際に磁気記録装置で使う場合には、前記記録層14上に、耐久性および耐食性を有する保護膜を形成する必要がある。その際、S/N比の改善のためには磁気ヘッド16を記録層14に可能な限り近接させる必要があり、このためには、前記記録層14上に形成される保護膜の膜厚を可能な限り減少させるのが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一の側面によれば本発明は、基板と、前記基板上に形成された軟磁性裏打ち層と、前記軟磁性裏打ち層上に形成され、粒界に非磁性粒界層を有し、垂直磁気異方性を有する主記録層と、前記主記録層に隣接して積層され、互いに隣接して形成された磁性粒子を含み、前記主記録層よりも垂直磁気異方性が小さい副記録層と、よりなる記録層と、前記記録層上に形成された炭素を主成分とする保護膜とよりなる垂直磁気記録媒体の製造方法であって、前記副記録層を構成する磁性膜は、Crを13原子%〜19原子%の範囲で含むCoCr合金よりなり、前記保護膜を、CVD法により、200℃以上の温度で形成する工程を特徴とする垂直磁気記録媒体の製造方法を提供する。
【0014】
他の側面によれば本発明は、基板と、前記基板上に形成された軟磁性裏打ち層と、前記軟磁性裏打ち層上に形成され、粒界に非磁性粒界層を有し、垂直磁気異方性を有する主記録層と、前記主記録層に隣接して積層され、互いに隣接して形成された磁性粒子を含み、前記主記録層よりも垂直磁気異方性が小さい副記録層と、よりなる記録層と、前記記録層上に形成された炭素を主成分とする保護膜とよりなる垂直磁気記録媒体であって、前記副記録層はCrを13原子%〜19原子%の範囲で含むCoCr合金よりなり、前記保護膜上に0.1〜5mlの量で滴下した、濃度が3%の硝酸への前記垂直磁気記録媒体からのCoの溶出量が0.3μg/m2以下であり、前記保護膜に300Nの力でダイヤモンド針を、前記垂直磁気記録媒体の回転中心から23mmの距離で押しつけ、前記垂直磁気記録媒体を回転させながら前記ダイヤモンド針を摺動させた場合、前記保護膜の耐久パス数が10000回以上であることを特徴とする垂直磁気記録媒体、およびかかる垂直磁気記録媒体を使った磁気記録装置を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、前記副記録層を構成するCoCr合金において、Cr濃度を13〜19原子%の範囲に制御することにより、前記保護膜を、200℃を超える温度で形成した場合であっても、記録媒体の磁気特性の劣化、特にS/N比の劣化を抑制することができる。本発明では前記保護膜をこのように200℃を超える温度で形成することにより、前記垂直磁気記録媒体からのCo溶出量を0.3μg/m2以下に抑制でき、また耐久パス数を10000回以上とすることができ、垂直磁気記録媒体に、優れた耐久性および耐食性を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
[第1の実施形態]
図3は、本発明の第1の実施形態による垂直磁気記録媒体20の構成を示す。
【0017】
図3を参照するに、前記垂直磁気記録媒体20は、ガラス基板などの非磁性基板21上に形成されており、前記基板21上に0.3〜0.8Paの成膜圧力のスパッタ法で例えば約3nmの厚さに、また例えば5nm/秒の成膜速度で形成されたCr膜よりなる第1のシード層22を含む。
【0018】
なお前記基板21はガラス基板に限定されるものではなく、プラスチック、NiP膜をメッキしたアルミ合金、あるいはシリコン基板より構成されてもよい。さらに前記記録媒体が可撓性のテープである場合には、前記基板21として、PET(ポリエチレンテフラレート)あるいいはPEN(ポリエチレンナフタレート)、ポリイミドなどを使うことができる。
【0019】
さらに前記第1シード層22上に、アモルファス相の軟磁性CoZr合金層を、0.3〜0.8Paの成膜圧力下のスパッタ法により約0.5nmの成膜速度で形成することにより、下側軟磁性裏打ち層23Aが約30nmの厚さに形成される。ここで前記CoZr合金層には、Nbを添加してもよい。さらに前記下側軟磁性裏打ち層23Aとしては、CoZr合金以外にも、FeC合金などを使うことも可能である。またその際、前記FeC合金にCoあるいはNiを添加することも可能である。
【0020】
さらに前記下側軟磁性裏打ち層23A上に、スパッタ法により極薄の非磁性膜、例えば厚さが0.5〜0.8nmのRu膜を、磁区制御層23Cとして形成し、さらに前記磁区制御層23C上にスパッタ法により、前記下側軟磁性裏打ち層23Aを形成した場合と同様にして、厚さが約30nmのCoZrアモルファス合金層を、上側軟磁性裏打ち層23Bとして形成する。なお、前記磁区制御層23CはRuに限定されるものではなく、Rh,Ir,Cuなどを使うことも可能である。また前記上側軟磁性裏打ち層23Bも前記下側軟磁性裏打ち層同様に、アモルファス相のFeC合金により形成することができる。
【0021】
このようにして形成された上下の軟磁性裏打ち層23A,23Bは、前記非磁磁区制御層23Cを介して反強磁性結合を生じ、その結果、層23A,23B中には互いに反平行な磁化が図中に矢印で示したように生じる。そこで、仮に前記軟磁性裏打ち層23Aあるいは23B中の一方において、互いに突合う向きの磁化を有する磁区が形成された場合でも、係る磁区を隔てる磁壁から出る磁束は前記軟磁性裏打ち層23中を還流し、読み出し実時磁気ヘッドにより検出されるのが抑制される。これにより、スパイクノイズを低減させることが可能となる。
【0022】
なお、前記軟磁性裏打ち層23として、IrMn合金やFeMn合金などの反強磁性層上に単層の軟磁性層を形成することも可能である。
【0023】
次に前記上側軟磁性裏打ち層23B上にTa膜がスパッタ法により、0.3〜0.8Paの成膜圧力下、例えば3nmの厚さに、第2シード層24Aとして、例えば5nm/秒の成膜速度で形成され、前記第2シード層24A上に軟磁性FeNi合金膜が配向性御層24Bとして、0.3〜0.8Paの圧力下、例えば5nm/秒の成膜速度で約5nmの厚さに形成される。このようにして形成された配向制御層24Bでは、膜中のFeNi粒子は前記裏打ち層23Bの表面状態を引き継ぐことはなく、良好なfcc構造を形成する。ここで前記配向制御層24Bは、FeNi合金膜に限定されるものではなく、Pt膜、Pd膜、NiFeSi合金膜、Al膜、Cu膜、In膜などにより形成することも可能である。また前記第2シード層24Aとしては、炭素膜を形成することも可能である。ただし、前記配向制御層24Bを軟磁性層により形成した場合、配向制御層24Bが上記上側軟磁性層23Bの機能を果たすため、磁気ヘッドから軟磁性裏打ち層までの距離を減少させることができるため、前記配向制御層24AはFeNi合金などの軟磁性材料で形成するのが有利である。
【0024】
さらに前記配向制御層24B上には、非磁性層24Cとしてhcp構造を有するRu膜が、スパッタ法により、4〜10Paの成膜圧力下、なるべく低い、例えば0.5nm/秒の成膜速度で、約10nmの膜厚に形成される。前記非磁性層24Cを構成するRu膜はhcp構造を有し、その下のfcc構造の配向制御層24Bと良好な格子整合を生じる。その結果、非磁性層24Cの配向が、所定方向に制御され、前記非磁性層24Cは優れた配向性を有する。なお、前記配向制御層24Bとしては、Ru膜以外にも、RuとCo,Cr,W,Reのいずれかの合金よりなるhcp構造膜を使うことも可能である。
【0025】
以上により、前記基板21上に、前記層24A〜24Cよりなる中間層24が、記録層の下地層として形成される。
【0026】
次に、前記中間層24上に磁気記録媒体20の主記録層25Aおよび副記録層25Bが、スパッタ法により順次積層される。
【0027】
より具体的に説明すると、前記非磁性層24C上にはCoCrPt合金よりなる主記録層25Aが、微量の酸素を例えば0.2〜2%の濃度で含むAr雰囲気中においてスパッタ法により、例えば組成がCo70Cr10Pt20のCoCrPt合金ターゲットとSiO2ターゲットを使い、3〜7Paの成膜圧力下、10〜80℃の基板温度において、前記ターゲットと被処理基板間に400〜1000Wの高周波電力を供給することにより、例えば5nm/秒の成膜速度で12nmの膜厚に形成される。
【0028】
このようにして形成された主記録層25Aは、先の図2の主記録層14Aの場合と同様にCoCrPt磁性粒子がSiO2粒界相を介して分散された、いわゆるグラニュラー構造を有しており、その際、前記CoCrPt粒子は、その下層の非磁性層24Cの配向方向に制御されて成長し、前記基板21の主面に対して略垂直方向に延在するhcp構造の六角柱状粒子となる。この場合、磁化容易軸は、前記柱状粒子の延在方向に配向するため、前記主記録層25Aでは基板21の面に略垂直な方向に磁化容易軸が配向する。また前記主記録層25A中に前記粒界相は、5〜15%の範囲で含まれるのが好ましく、本実施形態では、前記粒界相の割合を約7%としている。
【0029】
このようなグラニュラー構造の磁性層を主記録層25Aとして使うことにより、前記主記録層15A中においてそれぞれの磁性粒子が磁化容易軸を揃えて互いに孤立して配列されるため、主記録層25A中のノイズを減らすことができる。
【0030】
その際、前記磁性粒子のPt含有量を25原子%以上とすると、前記主記録層25Aにおける磁気異方性定数Kuが低下するため、磁性粒子中のPt含有量は25原子%以下とするのが好ましい。
【0031】
特に前記主記録層25Aのスパッタ法による成膜工程の際に、Arスパッタガスに0.2〜2%の微量の酸素ガスを添加することにより、前記主記録層25A中における磁性粒子の孤立化が促進され、再生時のノイズが低減される。
【0032】
あるいは前記主記録層25Aにおける磁性粒子の孤立化を促進するために、前記非磁性層24Cの表面の凹凸を増大させてもよい。このような非磁性層24Cの表面凹凸は、前記非磁性層24Cを構成するRu膜を、先に述べたように0.5nm/秒程度の低い成膜速度で形成することにより、増大させることができる。
【0033】
また上記主記録層25Aにおいて、粒界相はSiO2膜に限定されるものではなく、Ti酸化物、Cr酸化物、Zr酸化物などの酸化物、あるいはSi窒化物、Ti窒化物、Cr窒化物、Zr窒化物などの窒化物など、他の非磁性材料を使うことも可能である。
【0034】
また前記主記録層25Aにおいて、磁性粒子は前記CoCrPt合金に限定されるものではなく、他のCoCr合金、あるいはCoFe合金を使うことも可能である。特にCoFe合金を使う場合には、前記磁性粒子の結晶構造を、HCT(honeycomb chained triangle)構造とするのが好ましい。また前記CoFe合金にAgを添加することも可能である。
【0035】
次に前記主記録層25A上にCoCr合金膜を、Arガス雰囲気中においてスパッタ法により形成することにより、前記副記録層25Bを形成する。例えば前記副記録層25Bは組成がCo67Cr19Pt104のCoCrPtB合金よりなり、0.3〜0.8Paの成膜圧力下、5nm/秒の成膜速度で形成される。
【0036】
このようにして形成されたCoCrPtB合金は、先の図2の副記録層14Bと同様な、連続的な膜構造を有しており、相互に隣接した磁性粒子より構成されている。前記副記録層14B中の磁性粒子は、その下の主記録層25A中の磁性粒子と同じくhcp充填構造を有しており、前記主記録層25Aと副記録層25Bの間には、良好な格子整合が成立する。すなわち、前記主記録層25A上には、前記副記録層25Bが、優れた結晶性をもって形成される。
【0037】
先に図2で説明したように、グラニュラー構造を有する主記録層25A上にこのように連続的な副記録層25Bを形成することにより、主記録層25A中への磁化情報の書き込みを容易に行うことが可能となる。前記副記録層25Bは、前記主記録層25Aの下に形成することもできる。
【0038】
さらに図3の垂直磁気記録媒体20では、このようにして形成された記録層25上に、DLC(diamond-like carbon)膜よりなる保護膜26が、プラズマCVD法により形成される。
【0039】
より具体的には、前記記録層25が形成された基板21をプラズマCVD装置の処理容器中に導入し、4Paの成膜圧力下、原料ガスとしてC22を供給し、また1000Wの高周波パワーを供給することにより、前記副記録層25B上に前記保護膜26としてDLC膜を、約4nmの膜厚に形成する。
【0040】
このような垂直磁気記録媒体では、保護膜26は記録層25の機械的保護機能および化学的保護機能が要求されるが、本発明では、前記DLC膜形成の際の基板温度を、非加熱から230℃まで様々に変化させ、得られる垂直磁気記録媒体の化学的および機械的特性を評価した。
【0041】
図4(A)は、図3の磁気記録媒体20において、前記保護膜26上に一定量の酸、より具体的には、濃度が0.3%の硝酸を2ml滴下し、溶出したCo濃度を高周波誘導結合プラズマ質量分析計により測定した結果を示す。図4(A)は、本発明の発明者が、本発明の基礎となる研究において得たものである。
【0042】
図4(A)を参照するに、前記DLC保護膜26の成膜を室温で行った場合には、Co溶出量が許容限度の0.3μg/m2を大きく上回り、保護膜26は十分な化学的保護機能を果たせないことがわかる。
【0043】
これに対し、図4(B)は、図3の磁気記録媒体20を100rpmの速度で回転させ、前記保護膜26に回転中心から23mmの距離でダイヤモンド針を300Nの力で押しつけ、前記保護膜26が破壊するまでの回転数、すなわち耐久パス数を測定した結果を示す。図4(B)も、本発明の発明者が、本発明の基礎となる研究において得たものである。
【0044】
図4(B)を参照するに、前記保護膜26が200℃以上の温度で形成されている場合、望ましい1万回以上の耐久パス数が得られているのに対し、200℃未満の成膜温度、例えば170℃あるいは120℃の成膜温度では、1万回以上の耐久パス数を確保することができないのが分かる。成膜温度が25℃の場合には、1万回を超える耐久パス数が確保されているものの、図4(A)に示すようにCo溶出量が許容限度を超えている。
【0045】
図4(A),(B)より、図3の垂直磁気記録媒体20の製造において、前記保護膜26を構成するDLC膜をプラズマCVD法で形成する場合には、成膜温度を200℃以上に設定するのが好ましいことが結論される。
【0046】
ところが、このように保護膜26を200℃以上の温度で成膜した場合には、媒体の電磁気特性は一般に劣化してしまい、望ましいS/N比を得るのが困難となる場合が生じる。
【0047】
図5は、本発明の発明者が本発明の基礎となる研究において得た、前記DLC保護膜26の成膜温度による垂直磁気記録媒体の特性変化を示す図である。
【0048】
図5を参照するに、前記副記録層25Bを、Crの濃度が20原子%の組成、すなわちCo66Cr20Pt104として前記DLC保護膜を加熱なく形成した場合と200℃で形成した場合におけるS/N比の変化を、前記副記録層25Bの組成を先に説明したようにCr濃度が19%になるようにCo67Cr19Pt104とした場合と比較して示す。
【0049】
図5よりわかるように、前記副記録層25BにおいてCr濃度を20原子%に設定した場合には、保護膜26を200℃で形成するとS/N比が大きく低下してしまうのに対し、前記副記録層25B中のCr濃度を19原子%に設定した場合には、保護膜26を200℃の温度で形成しても、S/N比の低下はわずかであることがわかる。磁気記録媒体に使われるCoCr合金では、熱処理によりCoとCrが偏析を生じ、Cr濃度が高い程、偏析が顕著に生じることが知られている。従って、このような熱処理による垂直磁気記録媒体におけるS/N比の劣化は、CoとCrの偏析により生じているものと考えられる。
【0050】
すなわち本発明では、前記副記録層25B中のCr濃度を19原子%以下に設定することにより、前記保護膜26を200℃以上の温度で形成することが可能となり、垂直磁気記録媒体20上に、優れた耐久性と化学的安定性を有する保護膜を形成することが可能となる。
【0051】
一方、前記副記録層25Bが良好な垂直配向を示すためにはCr濃度が13原子%以上であるのが必要であることが非特許文献1,2より知られている。このため、本発明では、前記副記録層25BにおけるCr濃度を13原子%以上に設定する。
【0052】
このように本発明の垂直磁気記録媒体では、副記録層25B中のCr濃度を13原子%以上、19原子%以下とすることにより、DLC保護膜26の形成を200℃以上の温度で行うことが可能になり、電気特性、すなわちS/N比を劣化させることなく、Co溶出量が0.3μg/m2以下で1万回以上の耐久パス数を確保できる、すなわち化学的安定性および耐久性に優れた保護膜を形成することが可能となる。
【0053】
なお、以上の説明は、主記録層24AがCoCrPt合金よりなり副記録層24BがCoCrPtB合金よりなる場合について説明したが、主記録層24Aおよび副記録層24BがCoCr合金よりなる場合一般についても成立する。

[第2の実施形態]
図6は、前記第1の実施形態による垂直磁気記録媒体20を磁気ディスク110として使った、本発明の第2の実施形態による磁気記録装置105の構成を示す。
【0054】
図6を参照するに、磁気記録装置105ではスピンドルモータ106により磁気ディスク110が回転駆動され、さらに前記磁気ディスク110の表面を、略半径方向に、所定の浮上量で走査するアーム120が設けられ、前記アーム120の先端部に、磁気ヘッド80が担持される。
【0055】
かかる磁気記録装置105では、高い耐久性と化学的安定性、およびS/N比を実現することが可能となる。
【0056】
以上、本発明を好ましい実施形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した要旨内において様々な変形・変更が可能である。
【0057】
(付記1) 基板と、前記基板上に形成された軟磁性裏打ち層と、前記軟磁性裏打ち層上に形成され、粒界に非磁性粒界層を有し、垂直磁気異方性を有する主記録層と、前記主記録層に隣接して積層され、互いに隣接して形成された磁性粒子を含み、前記主記録層よりも垂直磁気異方性が小さい副記録層と、よりなる記録層と、前記記録層上に形成された炭素を主成分とする保護膜とよりなる垂直磁気記録媒体の製造方法であって、
前記副記録層を構成する磁性膜は、Crを13原子%〜19原子%の範囲で含むCoCr合金よりなり、
前記保護膜を、CVD法により、200℃以上の温度で形成する工程を特徴とする垂直磁気記録媒体の製造方法
(付記2) 前記保護膜は、200℃以上、230℃以下の温度で形成されることを特徴とする付記1記載の垂直磁気記録媒体の製造法。
【0058】
(付記3) 前記主記録層はCoCrPt合金よりなり、前記副記録層はCoCrPtB合金よりなることを特徴とする付記1または2記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【0059】
(付記4) 基板と、
前記基板上に形成された軟磁性裏打ち層と、
前記軟磁性裏打ち層上に形成され、粒界に非磁性粒界層を有し、垂直磁気異方性を有する主記録層と、前記主記録層に隣接して積層され、互いに隣接して形成された磁性粒子を含み、前記主記録層よりも垂直磁気異方性が小さい副記録層と、よりなる記録層と、
前記記録層上に形成された炭素を主成分とする保護膜とよりなる垂直磁気記録媒体であって、
前記副記録層はCrを13原子%〜19原子%の範囲で含むCoCr合金よりなり、
前記保護膜上に2mlの量で滴下した、濃度が0.3%の硝酸への前記垂直磁気記録媒体からのCoの溶出量が0.3μg/m2以下であり、前記保護膜に300Nの力でダイヤモンド針を、前記垂直磁気記録媒体の回転中心から23mmの距離で押しつけ、前記垂直磁気記録媒体を回転させながら前記ダイヤモンド針を摺動させた場合、前記保護膜の耐久パス数が10000回以上であることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【0060】
(付記5) 前記主記録層は、粒界に前記非磁性粒界層が形成された柱状磁性粒子を含み、前記柱状磁性粒子は、前記基板に対して略垂直方向に配向した磁化容易軸を有することを特徴とする付記4記載の垂直磁気記録媒体。
【0061】
(付記6) 前記軟磁性裏打ち層と前記記録層との間には非磁性層が介在し、前記非磁性層は、前記柱状磁性粒子と同じ充填構造を有することを特徴とする付記4または5記載の垂直磁気記録媒体。
【0062】
(付記7) 前記非磁性層の充填構造は、hcp構造であることを特徴とする付記6記載の垂直磁気記録媒体。
【0063】
(付記8) 前記非磁性層と前記軟磁性裏打ち層の間には、fcc構造の配向制御層が介在することを特徴とする付記4記載の垂直磁気記録媒体。
【0064】
(付記9) 前記主記録層はCoCrPt合金よりなり、前記副記録層はCoCrPtB合金よりなることを特徴とする付記4〜8のうち、いずれか一項記載の垂直磁気記録媒体。
【0065】
(付記10)
付記4〜9のうち、いずれか一項記載の垂直磁気記録媒体を有する磁気記録装置。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の関連技術による垂直磁気記録媒体を示す図である。
【図2】図1の垂直磁気記録媒体中の記録層をより詳細に示す図である。
【図3】本発明の一実施形態による垂直磁気記録媒体の構成を示す断面図である。
【図4】本発明の垂直磁気記録媒体で使われる保護膜の化学的および機械的特性を示す図である。
【図5】本発明の垂直磁気記録媒体のS/N比を、比較例と比較して示す図である。
【図6】本発明の第2の実施形態による磁気記録装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
10,20 垂直磁気記録媒体
11,21 基板
12、12A,12B、23A,23B 軟磁性裏打ち層
13,24 非磁性層
14,25 記録層
14A,25A 主記録層
14b 磁性粒子
14c 粒界相
14B,25B 副記録層
16 磁気ヘッド
16A,16B磁極
22,24A シード層
23C 非磁性中間層
24B 配向制御層
26 保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に形成された軟磁性裏打ち層と、前記軟磁性裏打ち層上に形成され、粒界に非磁性粒界層を有し、垂直磁気異方性を有する主記録層と、前記主記録層に隣接して積層され、互いに隣接して形成された磁性粒子を含み、前記主記録層よりも垂直磁気異方性が小さい副記録層と、よりなる記録層と、前記記録層上に形成された炭素を主成分とする保護膜とよりなる垂直磁気記録媒体の製造方法であって、
前記副記録層を構成する磁性膜は、Crを13原子%〜19原子%の範囲で含むCoCr合金よりなり、
前記保護膜を、CVD法により、200℃以上の温度で形成する工程を特徴とする垂直磁気記録媒体の製造方法
【請求項2】
前記保護膜は、200℃以上、230℃以下の温度で形成されることを特徴とする請求項1記載の垂直磁気記録媒体の製造法。
【請求項3】
基板と、
前記基板上に形成された軟磁性裏打ち層と、
前記軟磁性裏打ち層上に形成され、粒界に非磁性粒界層を有し、垂直磁気異方性を有する主記録層と、前記主記録層に隣接して積層され、互いに隣接して形成された磁性粒子を含み、前記主記録層よりも垂直磁気異方性が小さい副記録層と、よりなる記録層と、
前記記録層上に形成された炭素を主成分とする保護膜とよりなる垂直磁気記録媒体であって、
前記副記録層はCrを13原子%〜19原子%の範囲で含むCoCr合金よりなり、
前記保護膜上に0.1〜5mlの量で滴下した、濃度が3%の硝酸への前記垂直磁気記録媒体からのCoの溶出量が0.3μg/m2以下であり、前記保護膜に300Nの力でダイヤモンド針を、前記垂直磁気記録媒体の回転中心から23mmの距離で押しつけ、前記垂直磁気記録媒体を回転させながら前記ダイヤモンド針を摺動させた場合、前記保護膜の耐久パス数が10000回以上であることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項4】
前記主記録層は、粒界に前記非磁性粒界層が形成された柱状磁性粒子を含み、前記柱状磁性粒子は、前記基板に対して略垂直方向に配向した磁化容易軸を有することを特徴とする請求項3記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項5】
請求項3または4記載の垂直磁気記録媒体を有する磁気記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−77730(P2008−77730A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−254422(P2006−254422)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】