説明

型枠支保工に用いる型枠

【課題】セパレータを固定する部材の締め付けトルクが完全には一定に管理されなくても堰板の原型を維持して意図したとおりのコンクリート打設面を形成する。
【解決手段】正面をコンクリート打設面とする堰板を有し、その背面に桟木を設けて堰板を補強し、かつ、型枠支保工に用いる締め付けパイプを受け支えるようにした型枠について、対向する堰板11の正面間にセパレータ17を配置し、セパレータを固定する固定部材18を各堰板の外側に配置するために、セパレータと固定部材を通す軸通し孔20を堰板の周辺部分に配置し、軸通し孔は、複数個の型枠10を隣接して配置したときに合わさって1個の軸通し孔を構成するように、上記堰板の周辺部分に設けた桟木12に凹状の切欠部として形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてパイプサポート式型枠支保工に用いる型枠に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パイプサポート式型枠支保工に用いる型枠は、ベニヤ板等の木製型枠を堰板に使用するもので、堰板背面に補強用の内端太(桟木と称する。)と、これを締め付けるための外端太(締め付けパイプと称する。)を具備して構成されている。従来の型枠には、セパレータの軸端部を通すために複数個の透孔が堰板の板面に上下左右に設けてあるため、建て込みのときには堰板背面の透孔部分に番号を振り、それに合わせて透孔をのぞきながらセパレータを配置しなければならず、手間のかかる作業が必要であった。セパレータには、フォームタイ(登録商標)と通称されるセパレータの固定部材を堰板の外側面にて接続し、さらに必要な支持構造を設置して建て込みを完成するが、上記固定部材の締め付けトルクを完全に一定に管理することは難しく、締め付けトルクが許容範囲を下回ったり逆に上回ったりした場合には、堰板に部分的な膨らみや凹みができてしまい、打設されたコンクリート表面が不陸になるという問題があった。
【0003】
この種の型枠には、例えば特開平7−173935号がある。同号の発明はコンクリート構造物を短期間で構築することができ、しかもコンクリート表面の仕上がりを良好にするという目的を有するが、セパレータを堰板の板面に設けている点、従来と同様の構造にとどまっている。特開平11−190127号における連結杆(セパレータ)或いは特開2010−31463号におけるセパレータ等、どれもベニヤ板の板面にセパレータを通す軸通し孔を開けており、このため、上記したトルクがほぼ一定に管理されない場合にはそれに伴って前記のような問題が起こり得る。型枠支保工には、上記した方式以外にも様々な支保工があるが、本発明の対象とするパイプサポート式型枠支保工は従来から広く行われて来た工法であり、最も一般的な工法でもあるので、適切な改良が行われれば大きな需要を期待することができる。
【0004】
【特許文献1】特開平7−173935号
【特許文献2】特開平11−190127号
【特許文献3】特開2010−31463号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記の点に着目してなされたもので、その課題は、セパレータを固定する固定部材の締め付けトルクが完全には一定に管理されなくても、堰板の原型を維持して意図したとおりのコンクリート打設面を形成できるようにすることである。また、本発明の他の課題は、現在一般的に行われているパイプサポート式型枠支保工の改良につながる、より完成度の高い型枠を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するため、本発明は正面をコンクリート打設面とする堰板を有し、その背面に桟木を設けて堰板を補強し、かつ、型枠支保工に用いる締め付けパイプを受け支えるようにした型枠であって、対向する堰板正面間にセパレータを配置し、セパレータを固定する固定部材を各堰板の外側に配置するために、セパレータと固定部材を通す軸通し孔を堰板の周辺部分に配置し、軸通し孔は、複数個の型枠を隣接して配置したときに合わさって1個の軸通し孔を構成するように、上記堰板の周辺部分に設けた桟木に凹状の切欠部として形成するという手段を講じたものである。
【0007】
本発明の型枠は、主としてパイプサポート式型枠支保工に用いる型枠を対象とする。この種の型枠は、打設コンクリートを正面にて受け止める堰板と、堰板背面に設けた補強用の内端太(桟木と称する。)と、上記内端太を締め付けるための外端太(締め付けパイプと称する。)を有している。堰板には様々な形状構造のものがあるが、例えば、幅600mm、長さ(高さ)1800mmのものは現在のこのタイプの型枠として典型的なサイズの一つである。他には、450×1800、900×1800(単位は何れもmm)等があり、本発明はこれらに適用できるのは勿論のこと、これら以外のサイズのものにも、当然適用することができる。
【0008】
本発明における堰板は様々な材料から形成されるが、最も代表的な構造は木製構造のものである。ベニヤ板などと通称する木製合板を用いた堰板は狂いもなく、比較的軽量で、加工や補修等も容易に行える上、入手が容易で安価である。堰板の正面には、塗装或いはフィルムを貼付する等の手段によって表面処理が施され、脱型時にコンクリートの剥離を容易にし、或いは、コンクリート打設面に装飾を施す目的で様々な処理が施されることがある。一方、桟木は締め付けパイプによる締め付け力を受け止めるものであるから、締め付け力に耐える強度を有する必要がある。桟木に用いられるのは比較的硬質の木製角材が良く、堰板には例えば、くぎ打ちによって取り付けられる。
【0009】
一対の型枠は、対向させて配置した堰板正面の間の空間がコンクリート打設空間を形成するが、型枠を設置するために、対向する堰板間に配置するセパレータと、上記各堰板の外側に配置してセパレータを固定するセパレータの固定部材とから成る、接続軸手段を使用する。上記セパレータの固定部材としては、前述のフォームタイ(登録商標)と通称されるものを使用することができる。セパレータとその固定部材は、コンクリート打設圧力に対抗するために強固に接続される必要があるが、固定力が強すぎれば堰板を変形させる恐れがあるので、本発明はこれを防止する構成を取る。
【0010】
すなわち、本発明では、セパレータと固定部材を通す軸通し孔を堰板の周辺部分に配置するものとする。堰板の周辺部分には、締め付けパイプを受け支えるために木製角材類を用いた桟木が設けられており、しかも堰板に取り付けられているので、ベニヤ板等の合板を使用する堰板部分よりもはるかに高強度であり、この部分を利用して接続軸手段を設けることによって型枠の変形が防止される。従って、堰板の板面に軸通し孔をあける構造を取る従来工法において、板面にセパレータを配置したために部分的な膨らみや凹みができてしまったというような問題点を解消することができ、いわゆるタイパッキン等も不要になる。
【0011】
さらに、本発明では複数個の型枠を設置し、軸通し孔を構成するために、隣接配置した2個の型枠が合わさったときに1個の軸通し孔を構成するように、上記堰板に設けた桟木の周辺部分に凹状の切欠部として形成する。2個の型枠が合わさって1個の軸通し孔を構成するので、堰板に軸通し孔を貫通して設ける場合に比較して堰板の強度を低下させずに済み、建て込み(設置)のときにも凹状の切欠部がセパレータの配置箇所として、型枠の辺部分に自然に目視できるので作業性が良好になる。これは従来工法において、堰板の板面に開けた軸通し孔の位置をいわば手探りで探し当てなければならないことと比較して、著しい作業性の改善になると言える。
【0012】
上記の凹状の切欠部は、堰板の長手方向に沿う辺部に、間隔をあけて複数箇所設けることができる。これは、堰板が長方形であるということを前提にした要件であるが、要するに従来工法におけるのと同様の間隔でセパレータを設置する場合には、堰板長手方向に沿う辺部に数箇所の切欠部を設ける必要があるということである。しかし、堰板の形態によっては長手方向に沿う辺部ばかりではなく、長手方向と直交する辺部にも切欠部を設けることができる。
【0013】
凹状の切欠部は、セパレータの端部を配置する内側部と、固定部材の端部に設けられた鍔部を配置する外側部とから成る2段構造を有し、内側部よりも外側部の方が大径(或いは大型)であるという構造を取ることが望ましい。セパレータには、端部近くに鍔状部分があり、この鍔状部分が堰板正面に突き当たり、対向配置した型枠の間隔を一定に保つ。その一方で、鍔状部分よりも外方の端部は堰板の外方に出て、固定部材によって固定されるが、固定部材にもセパレータと同様の鍔状部分があるので、凹状の切欠部は大径と小径の2段構造を有する必要があるのである。凹状の切欠部として形成する孔は円形とは限らないので、例えば角孔など、加工し易い凹断面形状を選択することができる。なお、角孔の場合には、大型と小型の2段の角孔構造となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は以上のように構成され、かつ作用するものであるから、セパレータの固定部材の締め付けトルクが完全には一定に管理されなくても、締め付けトルクは桟木に作用し、その影響が堰板の形状を変形させないため、堰板の原型を維持して意図したとおりのコンクリート打設面を形成することができ、建て込み(設置)のときにも凹状の切欠部がセパレータの配置箇所として、型枠の周辺部分に自然に目視できるので、作業性が著しく向上する。このように、本発明は現在一般的に行われているパイプサポート式型枠支保工の改良につながる、より完成度の高い型枠を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図示の実施形態を参照して本発明をより詳細に説明する。図1は本発明に係る型枠支保工に用いる型枠10の一例に関するもので、11は堰板を示しており、正面11aにはそこを覆った被膜を有し、背面11bには堰板11を補強する、桟木12を備えている。桟木12は、堰板11の上下短辺に沿って設けた短い桟木13と、堰板11の長手方向と一致する長辺に沿って設けた長い桟木15と、上記長い桟木15、15間に設けた内側の桟木14によって構成されている。図示の例における堰板11は、幅600mm、長さ(高さ)1800mmのものとしてあらわされている。また、全ての桟木13、14、15は、堰板背面11bからの高さが同一に形成されている。
【0016】
図示の例において、堰板11はコンクリートの打設圧力に耐える強度を有する合板から成り、桟木12はラワン材等の比較的硬質の木製角材から成り、堰板11にくぎ打ちによって取り付けられ、型枠支保工に用いる締め付けパイプを受け支えるようになっている。このように構成されている型枠11は、堰板正面の間の空間16がコンクリート打設空間を形成するように(図2等参照)、一対のものが対向するように配置する。型枠10を設置するために、一対の堰板間にセパレータ17を配置し、上記各堰板11の外側にはセパレータ17を固定するセパレータの固定部材18を配置する。これらのセパレータ17と固定部材18は、接続軸手段19を構成する(図3、図4参照)。
【0017】
セパレータ17はコンクリートを打設する空間16の幅に応じた一定の長さを有する軸状の部材から成り、その両方の端部近くにそれぞれ鍔状部分17aが設けられている。この鍔状部分17a、17aは堰板正面に突き当たり、対向配置した型枠の間隔を一定に保つ。その鍔状部分17aよりも外方のオネジ部17b、17bを有する端部は堰板11の背面の外方に突出し、フォームタイ(登録商標)と通称される固定部材18によって固定される。上記の固定部材18にもセパレータと同様の鍔状部分18aがあり、その中心軸上の端部にメネジ18b部が設けられている(図5参照)。
【0018】
本発明では接続軸手段19を設置するために、接続軸手段19を通す軸通し孔20を設ける位置を長い桟木15の部分に設定している。木製角材類より成る長い桟木15は堰板11の左右の辺部分に取り付けられており、ベニヤ板等の合板を使用する堰板部分よりもはるかに高強度であることを理由として、この部分に軸通し孔20を設けるものである。このような軸通し孔20は、隣接する型枠10に設けた長い桟木15が互いに接触する外辺部に凹状の切欠部として形成し、2個の型枠10、10を隣接して配置したときに合わさって1個の軸通し孔20を構成するものとする(図6参照)。
【0019】
図示の軸通し孔20は、セパレータ17の端部のオネジ部17b、17bを配置する内側部21と、固定部材18の端部に設けられた鍔部18aを配置する外側部22とから成る2段構造を有し、正面形状が円形である凹状の切欠部として設けられているのもので、鍔部18aの配置される外側部22の方が内側部21よりも大径である。軸通し孔20が大径、小径の2段構造になっていることは、図5の断面及び図6の正面、背面の各図示によって把握することができる。なお、凹状の切欠部の正面形状を円形以外とすることができることは既に触れたが、円形は、例えばボール盤を用いて、また、正方形等の多角形状は、例えばホゾ穴盤を用いて、或いはそれぞれ公知の方法によって容易に形成することができる。上記の固定部材18の外方の大部分はオネジ構造23になっており、これに螺合するナット24はオネジ構造23の軸部に配置した締め付け金具25を介して横方向の角締めパイプ26、26を締め付けるように構成されている。
【0020】
このように構成された本発明に係る型枠10を用いてコンクリートの打設作業を行うには、対向する堰板正面の間の空所がコンクリート打設空間16を形成するように一対の型枠10、10を対向させて基材27の上に設置する。次いで、対向する型枠間に、長い桟木15の部分に設けた軸通し孔20にてセパレータ17を配置するとともに、各セパレータ17に固定部材18をねじ込んで取り付け、さらに固定部材18の締め付け金具25を角締めパイプ26に掛け止め、ナット24を締め付けるものとする。
【0021】
上記の作業において、型枠間にセパレータ17を配置するには、その作業を型枠10の設置と同時進行で行うことができ、一方の型枠から他方の型枠にセパレータ17を配置するときには、既にカエシ側の型枠の周辺部分に配置すべき軸通し孔20の位置が見えているので、従来工法のように迷うことなく正確な位置に接続軸手段19を配置することができる。従って、セパレータ17に固定部材18を取り付ける作業も著しく容易である。上記の作業を順次行って組み上げた型枠セットの外側(背面側)の外観を示したのが図7であり、同じ型枠セットの内側つまりコンクリート打設空間16内側(正面側)から示したのが図8である。なお、図8では軸通し孔20のみをあらわしているが、この部分には接続軸手段19のセパレータ17が配置されている。
【0022】
完成した型枠セットは図3に示したとおりであり、このような型枠セットのコンクリート打設区間16に所定の工程に従ってコンクリート28を投入し、スラブ等目的とする工事の手順を実施する。コンクリート28を打設して、脱型前の状態を図示したのが図9である。図9又は図7、図5から理解されるように、全ての固定部材18の緊締力は角締めパイプ26を介して堰板背面の桟木14、15を締め付けており、堰板11に直に締め付け力が及ぶことがないので、堰板11は原型のままの形態を保ち、従って、打設されたコンクリートの表面には意図しない凹凸等が形成されることはなく、高い精度を維持して、設計通りの結果を得ることができる。
【0023】
このように、本発明の型枠支保工に用いる型枠10によれば、パイプサポート式型枠における一つの弱点でもあった、セパレータの配置に基づく型枠の問題が解決される。本発明における型枠10では軸通し孔20が堰板11の板面に設けられておらず、周辺部分にその2分の1の形状で現れるので、本発明の型枠10の外形的な特徴になり、しかもこの特徴ある形状は型枠設置作業を容易化させるものであり、総合的にも大きな効果を得ることができる。以上の説明から理解されるように、本発明は、主としてパイプサポート式型枠支保工に用いる木製の型枠を対象としているが、これに限らずプラスチック製型枠などであっても、堰板の周辺部分に桟木に相当する構造を有するものであれば適用することができる。また、以上の説明では平板状の型枠10を示したが、これを、例えば、曲面状ないしは立体的な形状の型枠に適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る型枠支保工に用いる型枠の一例を示すもので、Aは正面図、Bは背面図である。
【図2】同上の型枠を対向配置した状態を示す平面図である。
【図3】同上における型枠を接続軸手段により接続した状態を示す平面図である。
【図4】図3の要部を拡大して示す平面図である。
【図5】同上における軸通し孔を拡大して示す堰板周辺部分の端面図である。
【図6】同上における軸通し孔を示すもので、Aは正面図、Bは背面図である。
【図7】同じく組み上げられた型枠セットを示す背面図である。
【図8】同じく組み上げられた型枠セットを示す正面図である。
【図9】同じく組み上げられた型枠セットを示す断面図である。
【符号の説明】
【0025】
10 型枠
11 堰板
12 桟木
13 短い桟木
14 内側桟木
15 長い桟木
16 コンクリート打設空間
17 セパレータ
18 固定部材
19 接続軸手段
20 軸通し孔
21 内側部
22 外側部
23 オネジ構造
24 ナット
25 締め付け金具
26 角締めパイプ
27 基材
28 コンクリート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正面をコンクリート打設面とする堰板を有し、その背面に桟木を設けて堰板を補強し、かつ、型枠支保工に用いる締め付けパイプを受け支えるようにした型枠であって、
対向する堰板正面間にセパレータを配置し、セパレータを固定する固定部材を各堰板の外側に配置するために、セパレータと固定部材を通す軸通し孔を堰板の周辺部分に配置し、軸通し孔は、複数個の型枠を隣接して配置したときに合わさって1個の軸通し孔を構成するように、上記堰板の周辺部分に設けた桟木に凹状の切欠部として形成したことを特徴とする型枠支保工に用いる型枠。
【請求項2】
凹状の切欠部は、堰板の長手方向に沿う辺部に、間隔をあけて複数箇所設けられている請求項1記載の型枠支保工に用いる型枠。
【請求項3】
凹状の切欠部は、セパレータの端部を配置する内側部と、固定部材の端部に設けられた鍔部を配置する外側部とから成る2段構造を有し、内側部よりも外側部の方が大型である請求項1記載の型枠支保工に用いる型枠。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−62679(P2012−62679A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207057(P2010−207057)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(591152481)株式会社佐藤型枠工業 (1)
【Fターム(参考)】