説明

型枠支持具及びそれに用いる型枠支持具用座体

【課題】型枠支持具の座体に、釘等の頭部を有する固定部材が掛止した状態で型枠を取り外すことができるとともに、その型枠を取り外した後にコンクリート表面から突出する固定部材を、座体やその周辺のコンクリートを壊すことなく容易に引き抜くことができる。
【解決手段】一端側が開口する筒状部31の他端側に設けられた底板部32に、釘等の頭部を有する固定部材の挿通孔33が筒状部31の両側に当該筒状部の軸心と略平行に形成され、その挿通孔33の内面側には固定部材の頭部が掛止する薄肉状の内側鍔部34が突設されるとともに、その内側鍔部34の高さ位置に近い挿通孔33の外面側には外側鍔部35が形成された座体30を用いて型枠と固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート構造物を構築する際に用いる型枠等を、所定間隔に支持するための型枠支持具及びそれに用いる型枠支持具用の座体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鉄筋コンクリートの構造物は、対向させて設置した型枠間にコンクリートを打設することにより構築されている。しかし、立ち上がり壁がスラブ上に形成されるベランダなどの部位を構築する場合、スラブ用の型枠は支保工などによって支持された下側に存在するのみである。よって、対向して設置される立ち上がり壁の型枠のうち、内側に位置する型枠は所定のスラブの厚みを確保する関係上、その下側の型枠に対して浮いた状態で設置しなければならない。そのため、立ち上がり壁の内側の型枠が沈み込むことがないように、適宜長さの棒体の両端部にそれぞれ型枠に固定させる座体を嵌合した型枠支持具を、それら型枠間に設置した後、コンクリートを打設することによってベランダ等を構築していた。
【0003】
そして、従来の型枠支持具は型枠間に設置する時、座体に設けられた挿通孔に釘を打ち込むことによって、その釘の頭部が座体に掛止した状態で各型枠に固定される。それ故、型枠内にコンクリートを打設した後、それら型枠を取り外すと座体に掛止している釘はスラブ内に留まって、釘の一部がそのスラブ上下面から突出した状態となる。よって、スラブ面の仕上げに際しては、釘自体を引き抜いたり、その突出した部分の釘を切断機等を用いて切断するなどして、スラブ面から突出する釘を除去していた。しかし、この除去作業において、スラブから釘を引き抜く場合に、釘の頭部が座体に掛止していることから、釘を引き抜くとともに座体が破壊してしまい、その破壊した部分がスラブ面から抜け出してしまうとともに、座体周辺のコンクリートを崩壊させていた。そのため、釘を引き抜いた後にはスラブ面の補修を行う必要があった。一方、切断機などを用いて突出した釘を切断する場合には、スラブ面に釘の切断面が露出してしまうことから防錆上などの問題があり、さらに、スラブ下面などの切断は高所での作業となるため、非常に危険が伴うものであった。これらのことより、スラブ面などから突出した釘を除去することは、現場での作業性を著しく悪化させるものとなっていた。
【0004】
そこで、これら問題点を解消するために、型枠支持具用の座体に備えたプラスチック釘を用いて各型枠に固定させる技術が開示されている(特許文献1)。この特許文献1に記載されている型枠支持具は、軸方向には強く、横方向には脆い特性を有するプラスチック釘を用いることにより、型枠が取り外されるのと同時にその型枠に固定されていた釘が、型枠とコンクリート躯体との境界部分で折れ、釘の一部がコンクリート躯体の表面から突出しないため、釘を除去する作業などが省ける利点があった。
【特許文献1】実用新案登録第3052622号公報
【0005】
しかしながら、上記型枠支持具はプラスチック釘を予め座体に備えたものであるため、運搬時や型枠に釘を打ち込む途中でプラスチック釘が折れてしまうと、型枠に固定できないという問題があった。しかも、そのプラスチック釘は、一般に使用されている鉄製の釘よりも高価であるため、座体自体のコストが嵩む要因にもなっていた。また、型枠の取り外しに際して、プラスチック釘が型枠とコンクリート躯体との境界部分で折れるためには、釘の軸方向に対してコンクリート面の方向の力を型枠に加える必要がある。しかしながら、スラブなどの下面側に設置された型枠は下方側(釘の軸方向)に向けて力を加えながら取り外すため、プラスチック釘は折れることなく、コンクリート躯体の表面から突出した状態となっていた。しかも、座体にはプラスチック釘を保持する釘穴用スリーブが設けられているため、座体などを破壊せずに突出した釘のみを引き抜くことは出来なかった。さらに、プラスチック釘が型枠とコンクリート躯体との境界部分で折れることによって、その折れたプラスチック釘の一方が取り外した型枠の内部に残ることになるので、その型枠を転用することができないという欠点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前述した従来技術の問題点に鑑みなされたもので、釘等の頭部を有する固定部材の材質などに限定されることなく、その固定部材が座体に掛止された状態で型枠を取り外すことができ、さらに、その型枠が取り外された後にコンクリート表面から突出する固定部材を、座体やその周辺のコンクリートを壊すことなく容易に引き抜くことができる型枠支持具及びそれに用いる型枠支持具用座体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、一端側が開口する筒状部の他端側に設けられた底板部に、釘等の頭部を有する固定部材の挿通孔が筒状部の両側に当該筒状部の軸心と略平行に形成された座体を、適宜長さの棒体の両端部に嵌合させ、各座体の底板部をそれぞれ型枠に当接した状態で固定部材により固定して型枠間を所定間隔に支持する型枠支持具において、前記座体の挿通孔の内面側に前記固定部材の頭部が掛止する薄肉状の内側鍔部が突設されるとともに、当該内側鍔部の高さ位置に近い挿通孔の外面側には外側鍔部が形成されるという技術手段を採用した。
【0008】
本発明によれば、座体に形成された固定部材の挿通孔の内面側に薄肉状の内側鍔部を突設し、その内側鍔部の高さ位置に近い挿通孔の外面側に外側鍔部を形成したので、釘等の頭部を有する固定部材の材質などに限定されることなく、その固定部材が座体に掛止された状態で型枠を取り外すことができる。さらに、型枠を取り外した後にコンクリート表面から突出する固定部材は、内側鍔部のみを破壊して引き抜くことができるため、座体やその周辺のコンクリートを壊すことがない。よって、固定部材を引き抜いた後、コンクリート表面を補修する作業が不要である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の型枠支持具及びそれに用いる型枠支持具用座体によれば、座体に形成された固定部材の挿通孔の内面側にその固定部材の頭部が掛止する内側鍔部が突設されるので、固定部材の挿通孔自体は過大孔に形成することが可能となり、座体の材料コストを低減できる。また、その内側鍔部の高さ位置に近い挿通孔の外面側に外側鍔部が形成されることにより、内側鍔部を薄肉状にしても外側鍔部によって補強されることから、釘等の頭部を有する固定部材は内側鍔部に掛止された状態のまま、型枠支持具用座体とともにコンクリート内に留まり、型枠のみを取り外すことができる。さらに、コンクリート表面から突出する固定部材を引き抜く時に、コンクリート内に定着された外側鍔部がアンカーの機能を果して抵抗するため、座体やその周辺のコンクリートを壊すことなく固定部材のみを容易に引き抜くことができ、現場での作業効率が大幅に向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る型枠支持具用座体の材質は、モルタルやセラミックスなど特に限定されるものではないが、固定部材の引き抜き易さや座体の形状などを考慮するとポリエチレンなどの合成樹脂系のものが好適である。さらに、本発明の型枠支持具を構成する棒体は、異形棒鋼や丸鋼などの鉄筋、または型枠に用いるセパレーターなど種々の部材が利用可能であり、その材質も鉄製だけでなく合成樹脂製の棒体など特に問うものではない。また、座体の底板部に形成される挿通孔は、その位置や数に限定されないが、型枠支持具と型枠との固定度の面から筒状部を中心にして対称の位置にそれぞれ形成されることが好ましい。なお、その挿通孔の内面側に突設される内側鍔部は、内周面の上端から下端までの間で任意の位置に設けることが可能であるが、ハンマーなどを用いて固定部材を型枠に打ち込むためには、内側鍔部の上面が底板部の上面と同一になる挿通孔の内周面上端の位置から固定部材の頭部の厚み分だけ下方に位置した間で突設していることが望ましい。一方、その内側鍔部の高さ位置に近い挿通孔の外面側に形成される外側鍔部は、コンクリート表面を基準として最も深くなる位置に形成することにより、固定部材の引き抜きに対する抵抗力が最大となるので、挿通孔の外周面上端に形成することが最適である。以下、図面に基づき本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0011】
図1及び図2は、それぞれ本発明に係る型枠支持具を示す正面図及び断面図である。図示のように、本発明の型枠支持具10は、適宜長さの棒体20と、その棒体20の両端部にそれぞれ嵌着される座体30から構成されている。そして、それら座体30は、棒体20の端部が嵌合する一端側を開口した筒状部31と、その筒状部31の他端側に設けられ、型枠に当接した状態で固定される底板部32からなり、筒状部31の外周面には中間部から底板部にかけて等間隔に4個のリブ部31aが設けられている。さらに、底板部32には筒状部31を挟んだ両側に釘等の頭部を有する固定部材の挿通孔33が、その筒状部31の軸心と略平行に形成されている。なお、本実施例では、棒体20の端部に座体30の筒状部31が嵌合されたものを例示しているが、例えば、棒体の端部に形成された雄ネジ部を、座体の筒状部の内周面に設けた雌ネジ部に螺合させるなど、その嵌合手段は特に限定されるものではない。
【0012】
次に、図3において、スラブ上に立ち上がり壁が形成されるベランダを構築する場合に、上記型枠支持具10を使用した施工状態について説明する。図示のように、立ち上がり壁Wの型枠W、Wはそれぞれ対向した位置に設けられ、スラブSの型枠Sは下面側にのみ配している。ここで、スラブの型枠Sは、図示しない支保工等によって下方に落下しないように支持されている。そして、立ち上がり壁用外側型枠Wとスラブ用下側型枠Sは釘等を用いてそれら型枠同士を固定するが、立ち上がり壁用内側型枠WはスラブSの厚みが決められていることから、スラブ用下側型枠Sに対して浮いた状態で設置する必要がある。そこで、立ち上がり壁用内側型枠Wが沈み込むことがないように、釘等の頭部を有する固定部材(図示せず)を介して、型枠支持具10の各座体30を立ち上がり壁用内側型枠Wとスラブ用下側型枠Sにそれぞれ固定させて支持した後、型枠内にコンクリートを打設してベランダを構築する。なお、型枠支持具10を構成する棒体20の長さは、スラブSの厚みを考慮して適宜設定される。また、本実施例ではスラブと立ち上がり壁の型枠に型枠支持具を設置する場合を例示したが、ベランダ等のスラブ上面に側溝を設ける場合や室内のスラブとベランダのスラブとの境界に段差が生じる場合などの時に用いる端太角(桟木等)とスラブ用型枠の間にも設置することができる。さらに、対向する型枠同士にも本発明の型枠支持具が適用可能であることは言うまでもない。
【0013】
図4ないし図6は、本発明に係る型枠支持具用座体のそれぞれ平面図、正面図及び平面図中央横断面図である。なお、本発明に係る座体30の基本構成において、前述した部分については説明を省略する。図示のように、座体30の底板部32は平面視略十字状の形態をしており、図面上、筒状部31を挟んだ左右両側の底板部32に、固定部材に対して過大径にした挿通孔33が2個設けられている。ここで、図面上、筒状部31を挟んだ上下両側の底板部32には楕円状の凹部36が設けられているが、性能上影響がない余分な部分を削除することを目的としたものであるため、特段、設けなくても構わない。また、型枠に対する固定度を高めるために、この凹部36の位置に予め、挿通孔33を形成しておくのも良い。そして、挿通孔33の内面側には、固定部材の頭部が掛止する内側鍔部34が、底板部32の上面から固定部材の頭部の厚み分だけ下方の位置に突設されている。一方、挿通孔33の外面側には、外方に向けて突出する外側鍔部35が周面部の上端位置に形成されている。そして、内側鍔部34と外側鍔部35とは、それぞれ高さ方向において近い位置に設けられている。このことより、固定部材の頭部が掛止する内側鍔部34は外側鍔部35によって補強されるため、薄肉状に形成することができる。なお、本実施例による外側鍔部35は、底板部32の外縁全周に亘って形成されているが、挿通孔33の外面側の周囲のみに形成しても良い。また、座体の底板部は平面視略十字状の形態をしたものであるが、特に本実施形態に限定されるものではなく、例えば、底板部全体若しくはその一部が、矩形状や円形状など他の形状にすることができる。
【0014】
次に、図7は、上記座体30とスラブ用下側型枠Sが、釘等の頭部を有する固定部材Nによって固定された状態を示す部分断面図である。なお、図面上では表さないが、座体30の周辺には打設したコンクリートが存在しているものとする。図示のように、座体30は、挿通孔33に固定部材Nが挿通され、固定部材の頭部Nが内側鍔部34に掛止された状態で型枠Sに固定されている。そして、型枠Sを取り外す際に固定部材Nは、型枠が取り外される方向(Tの方向)に向けて引き抜かれようとする。しかしながら、薄肉状の内側鍔部34は外側鍔部35によって補強されているため、座体30とともに固定部材Nはコンクリート内に留まり、型枠Sだけが取り外されることになる。さらに、型枠Sを取り外した後に、コンクリート表面から突出された固定部材Nを引き抜く場合には、固定部材Nの引抜力Tに対して、外側鍔部35がアンカー効果により抵抗するため、座体30自身がコンクリートから抜け出すことはない。そして、固定部材Nは引抜力Tによって、その頭部Nを介して内側鍔部34を破壊して引き抜かれることになる。これにより、打設したコンクリート強度に左右されることなく、座体30やその周辺のコンクリートを壊さずに固定部材Nを容易に引き抜くことが実現できる。
【0015】
なお、上記実施例では、固定部材が型枠を取り外した後にコンクリート面から突出する事例について説明したが、型枠を取り外すのと同時に座体の内側鍔部が破壊して固定部材が引き抜かれるような場合でも問題はない。つまり、上記実施例の座体は、型枠を取り外す力より固定部材の引き抜きによって内側鍔部が破壊する力を大きくし、その内側鍔部が破壊する力よりコンクリート内での外側鍔部による抵抗力が大きくなるように設定しているが、型枠を取り外す力より固定部材の引き抜きによって内側鍔部が破壊する力を小さくし、その型枠を取り外す力よりコンクリート内での外側鍔部による抵抗力が大きくなるように設定しても、本発明と同じ効果を得ることができる。例えば、頭部を有する固定部材として木ネジ等を用いた場合には、木ネジは釘と比較して型枠と強固に固定されるので、型枠とともに木ネジがコンクリートから引き抜かれる。しかし、この場合であっても、上記と同様に外側鍔部がアンカーとして機能するため、座体自身がコンクリートから抜け出すことはなく、また、座体周辺のコンクリートを崩壊させることもない。そして、座体を構成する底板部や筒状部の高さや径などの寸法を変更することや、挿通孔の内面側及び外面側にそれぞれ設けられる内側鍔部や外側鍔部の形状や大きさ等を変更するなど適宜、本発明の技術思想内での種々の設計変更はもちろん可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明における型枠支持具を示した正面図である。
【図2】本発明における型枠支持具を示した断面図である。
【図3】本発明における型枠支持具の使用状態を示す説明図である。
【図4】本発明における型枠支持具用座体を示した平面図である。
【図5】本発明における型枠支持具用座体を示した正面図である。
【図6】本発明における型枠支持具用座体を示した断面図である。
【図7】本発明における型枠支持具用座体が固定部材により型枠に固定された状況を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0017】
10…型枠支持具、20…棒体、30…座体、31…筒状部、32…底板部、33…挿通孔、34…内側鍔部、35…外側鍔部、N…固定部材、S…スラブ、S1…スラブ用下側型枠、W…立ち上がり壁、W1…立ち上がり壁用外側型枠、W2…立ち上がり壁用内側型枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側が開口する筒状部の他端側に設けられた底板部に、釘等の頭部を有する固定部材の挿通孔が筒状部の両側に当該筒状部の軸心と略平行に形成された座体を、適宜長さの棒体の両端部に嵌合させ、各座体の底板部をそれぞれ型枠に当接した状態で固定部材により固定して型枠間を所定間隔に支持する型枠支持具において、前記座体の挿通孔の内面側に前記固定部材の頭部が掛止する薄肉状の内側鍔部が突設されるとともに、当該内側鍔部の高さ位置に近い挿通孔の外面側には外側鍔部が形成されていることを特徴とする型枠支持具。
【請求項2】
一端側が開口する筒状部の他端側に設けられた底板部に、釘等の頭部を有する固定部材の挿通孔が筒状部の両側に当該筒状部の軸心と略平行に形成され、適宜長さの棒体の両端部に嵌合されて、その底板部をそれぞれ型枠に当接した状態で固定部材により固定して型枠間を所定間隔に支持する型枠支持具用の座体において、前記挿通孔の内面側に前記固定部材の頭部が掛止する薄肉状の内側鍔部が突設されるとともに、その内側鍔部の高さ位置に近い挿通孔の外面側には外側鍔部が形成されていることを特徴とする型枠支持具用座体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−2579(P2007−2579A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−185790(P2005−185790)
【出願日】平成17年6月24日(2005.6.24)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【Fターム(参考)】