説明

埋込型樹脂流動媒体シートおよびそれを用いた繊維強化プラスチック、およびその繊維強化プラスチックの製造方法

【課題】 樹脂含浸後に樹脂流動媒体を剥離する必要がなく、そのまま埋め込むことができる埋込型樹脂流動媒体シート等を提供すること。
【解決手段】
液体樹脂を注入して成形される繊維強化プラスチックに用いられる樹脂流動媒体シート1であって、この樹脂流動媒体シート1を、強化繊維糸を編物組織によりシート状に編成して、JIS L 1018に準拠して測定した圧縮率が45〜60%で、かつ、真空圧−0.1MPa下における空隙率を75〜95%にして、樹脂注入後に繊維強化プラスチック内に埋込可能にするという技術的手段を採用した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化プラスチックの成形技術の改良、更に詳しくは、樹脂含浸後に樹脂流動媒体を剥離する必要がなく、そのまま残置して埋め込むことができる埋込型樹脂流動媒体シートおよび、この埋込型樹脂流動媒体シートを用いることによって、工程数の削減および廃棄物の低減をすることができる繊維強化プラスチック、およびその繊維強化プラスチックの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチック(Fiber-Reinforced-Plastics:以下「FRP」と略記する)の代表的な製造方法の一つとして真空補助樹脂注入成形法(Vacuum-assisted-Resin-Transfer-Molding:以下「VaRTM」と略記する)が知られている。このVaRTM成形法は、オートクレーブ成形のような高額な設備を使用せずに成形を行うことができ、低コストな成形方法として注目されている。
【0003】
ところで、このVaRTM成形法を行う場合、樹脂を拡散させる媒体としてネット状の樹脂流動媒体(樹脂パス媒体)が用いられており、プリフォーム全体に瞬時に樹脂を行き渡せることが可能となる。
【0004】
しかし、この樹脂流動媒体は、成形物の強化繊維と異なる繊維が用いられていることが多く、FRP成形後に成形物から剥離する必要があるために、樹脂流動媒体の下に剥離用のピールクロスを引く必要があった。
【0005】
また、樹脂流動媒体剥離後の表面には樹脂流動媒体の跡が残ってしまい、製品によっては表面の仕上げ加工が必要となる場合も存在するため、大量生産や大型成形物生産時には、この剥離を行うための準備や、樹脂流動媒体除去による廃棄物の増加、成形後の表面仕上げ加工というのは、作業面やコスト面において大きな問題となってくる。
【0006】
従来、前記のような成形品の表面状態の課題を解決するために、空隙率の異なる複数枚のパスメディア(樹脂流動媒体)を配置する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。これにより、強化繊維基材に近い方のパスメディア(樹脂流動媒体)の目を細かくすることで成形品の表面にできるパスメディア(樹脂流動媒体)の剥離痕が殆ど転写されないようになっている。
【0007】
しかしながら、この場合においては成形後に樹脂流動媒体の剥離が必要であり、また、樹脂流動媒体を複数枚重ねて成形を行っているため、樹脂流動媒体内に残っている樹脂の量が多く、廃棄物が増加するという問題があった。
【0008】
更にまた、成形物と同じ強化繊維を立体形状に形態保持して所定方向に引き揃えた樹脂流動媒体を用いることによって、FRP成形後もこの成形物内に残置することができ、樹脂流動媒体の除去を必要としない方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
しかしながら、この方法では、立体形状間にできる溝部を確保するためには樹脂流動媒体を強化繊維基材の表面にしか積層できないため、強化繊維基材が厚い場合には樹脂流動媒体から強化繊維基材に樹脂が含浸するのに時間がかかってしまい、樹脂の未含浸部分が発生するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004-188750
【特許文献2】特開2004-160744
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来のFRPの製造技術の一つであるVaRTM成形法において、上記のような問題があったことに鑑みて為されたものであり、樹脂含浸後に樹脂流動媒体を剥離する必要がなく、そのまま埋め込むことができる埋込型樹脂流動媒体シートを提供することを技術的課題とする。
【0012】
また、本発明は、樹脂含浸後に樹脂流動媒体を剥離する必要がなく、そのまま埋め込むことができる埋込型樹脂流動媒体シートを用いることによって、工程数の削減および廃棄物の低減をすることができる繊維強化プラスチック、およびその繊維強化プラスチックの製造方法を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者が上記技術的課題を解決するために採用した手段を、添付図面を参照して説明すれば、次のとおりである。
【0014】
即ち、本発明は、液体樹脂を注入して成形される繊維強化プラスチックに用いられる樹脂流動媒体シート1であって、
この樹脂流動媒体シート1を、強化繊維糸を編物組織によりシート状に編成して、JIS L 1018に準拠して測定した圧縮率が45〜60%で、かつ、真空圧−0.1MPa下における空隙率を75〜95%にして、樹脂注入後に繊維強化プラスチック内に埋込可能にするという技術的手段を採用したことによって、埋込型樹脂流動媒体シートを完成させた。
【0015】
また、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、強化繊維糸をたて方向に連続して編成された複数列の鎖編11・11…と、その鎖編を2列以上よこ方向に折り返しながら鎖編を連結する強化繊維よこ方向挿入糸12・12…により編成されたシート状経編地にするという技術的手段を採用することができる。
【0016】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、低融点ポリマーを鎖編またはよこ方向挿入の強化繊維糸の少なくともどちらか一方に沿って配置して、この低融点ポリマーにより、よこ方向挿入糸と鎖編のループとの交点で接着するという技術的手段を採用することができる。
【0017】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、強化繊維糸の繊度を、20tex〜400tex、引張弾性率を50GPa〜600GPa、目付を100〜600g/mにするという技術的手段を採用することができる。
【0018】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、強化繊維の単繊維直径を、5〜12μmにするという技術的手段を採用することができる。
【0019】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、編物組織を、ダブルラッセル編みの繊維構造体にするという技術的手段を採用することができる。
【0020】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、強化繊維を、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維から選ばれた繊維にするという技術的手段を採用することができる。
【0021】
また、本発明は、積層された強化繊維基材がマトリックス樹脂により強化され、これらの強化繊維基材中に、強化繊維糸が編物組織によりシート状に編成されており、JIS L 1018に準拠して測定した圧縮率が45〜60%で、かつ、真空圧−0.1MPa下における空隙率が75〜95%である樹脂流動媒体シート1を含ませるという技術的手段を採用することによって、繊維強化プラスチックを完成させた。
【0022】
更にまた、本発明は、成形型上に強化繊維基材を配置し、この強化繊維基材の全体をバックフィルムで覆い、バック材内部を減圧するとともに液体樹脂を注入し、前記強化繊維基材に樹脂を含浸させる繊維強化プラスチックの製造方法において、
前記強化繊維基材の層間に、強化繊維糸が編物組織によりシート状に編成されており、JIS L 1018に準拠して測定した圧縮率が45〜60%で、かつ、真空圧−0.1MPa下における空隙率が75〜95%である樹脂流動媒体シート1・1…を積層するという技術的手段を採用することによって、埋込型樹脂流動媒体シートを用いた繊維強化プラスチックの製造方法を完成させた。
【0023】
また、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、成形型上に強化繊維基材を配置し、前記強化繊維基材の全体をバックフィルムで覆い、バック材内部を減圧するとともに液体樹脂を注入し、前記強化繊維基材に樹脂を含浸させる繊維強化プラスチックの製造方法において、
前記強化繊維基材の層間に、強化繊維糸が編物組織によりシート状に編成されており、JIS L 1018に準拠して測定した圧縮率が45〜60%で、かつ、真空圧−0.1MPa下における空隙率が75〜95%である樹脂流動媒体シート1・1…を、
〔数式〕 3×Tm×n>T/2
ただし、Tm:樹脂流動媒体シート厚み(mm)
n:樹脂流動媒体シートの積層枚数(ply)
T:強化繊維基材全体の厚み(mm)
※この時厚みはJIS L 1018にて測定。
の条件を満たすように積層するという技術的手段を採用することができる。
【0024】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、成形型上に強化繊維基材を配置し、前記強化繊維基材の全体をバックフィルムで覆い、バック材内部を減圧するとともに液体樹脂を注入し、前記強化繊維基材に樹脂を含浸させる繊維強化プラスチックの製造方法において、
前記強化繊維基材の層間に、強化繊維糸が編物組織によりシート状に編成されており、JIS L 1018に準拠して測定した圧縮率が45〜60%で、かつ、真空圧−0.1MPa下における空隙率が75〜95%である樹脂流動媒体シート1・1…を積層し、
樹脂流動媒体シートが樹脂含浸開始部から真空吸引口まで連続しておらず、かつ、真空吸引口から10mm以上離れるように積層するという技術的手段を採用することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明にあっては、液体樹脂を注入して成形される繊維強化プラスチックに用いられる樹脂流動媒体シートであって、この樹脂流動媒体シートを、強化繊維糸が編物組織によりシート状に編成して、「JIS L 1018」に準拠して測定した圧縮率が45〜60%で、かつ、真空圧−0.1MPa下における空隙率が75〜95%にして、樹脂注入後に繊維強化プラスチック内に埋込可能にしたことによって、液体樹脂を用いる複合材料の成形方法において、特定の中間層に樹脂流動媒体シートを積層することで、強化繊維基材の内部から樹脂の含浸を行うことができ、樹脂含浸が確実に行え、表面に樹脂流動媒体シートの跡を残さず高品質な繊維強化プラスチックを得ることができる。
【0026】
また、強化繊維基材の樹脂硬化後の樹脂流動媒体シートの剥離除去作業を必要としないため、成形工程数の省略もしくは大幅に削減することができて、廃棄物の軽減ができ、生産性の向上、低コストの成形品を得ることができることから、産業上の利用価値は頗る大きいと云える。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態における樹脂流動媒体シートの編物構造の一例を表わす説明正面図である。
【図2】本発明の実施形態における樹脂流動媒体シートの編物構造の一例を表わす説明断面図である。
【図3】本発明の実施形態における樹脂流動媒体シートの編物構造の一例を表わす説明よこ断面図である。
【図4】本発明の実施形態における樹脂流動媒体シートおよび比較例の編物組織図である。
【図5】本発明の実施形態における比較例の編物組織図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明を実施するための形態を、具体的に図示した図面に基づいて、更に詳細に説明すると、次のとおりである。
【0029】
本発明の実施形態を図1から図3に基づいて説明する。本実施形態は、液体樹脂(マトリックス樹脂)を注入して成形される繊維強化プラスチック(FRP)に用いられる樹脂流動媒体シート1であって、この樹脂流動媒体シート1は、強化繊維糸が編物組織によりシート状に編成されており、JIS L 1018に準拠して測定した圧縮率が45〜60%で、かつ、真空圧−0.1MPa下における空隙率が75〜95%であり、樹脂注入後に繊維強化プラスチック内に埋込可能に構成されている。
【0030】
本実施形態の樹脂流動媒体シート1の構成において、上記のごとく数値範囲に特定される根拠を以下に説明する。
【0031】
圧縮率が45%より小さいと、樹脂流動媒体シート1が押し潰れにくく、形状を維持し易いが、樹脂含浸部が大きくなり、樹脂硬化後に成形品表面にひけが発生しやすくなる。
【0032】
また、圧縮率は小さい方が成形時の真空圧に対して空隙率を安定的に保つことが出来るので樹脂の流路確保という点では好ましい傾向であるが、編物の特徴である伸縮性が損なわれ、非常に硬い編地となるので成形型に沿わし難い問題が生じるため、圧縮率は45%以上であることが好ましい。
【0033】
一方、圧縮率が60%より大きいと、樹脂流動媒体シートが簡単に押し潰れてしまい、この樹脂流動媒体シートで空隙部が潰されて樹脂含浸性が低下してしまう。
【0034】
圧縮率とは圧縮弾性試験機を用いて、「JIS L 1018」に準拠し、約5cm×5cmの試験片3枚を、ウェール方向およびコース方向が交互に直角に交わるように重ねて、標準圧力0.5gf/cmのもとで厚さHを測定し、次に、一定圧力500gf/cmを加えた時の厚さHを測定し、次式により求める。
圧縮率(%)=100×(H−H)/H
【0035】
また、真空圧−0.1MPa下で、樹脂流動媒体シートの空隙率が75〜95%の範囲が好ましい。空隙率が75%以下では樹脂含浸経路が少なく樹脂の流れが遅くなり、成形時間が余りにも長くなる問題があり、逆に、空隙率が95%より大きくなると樹脂含浸が良く短時間で樹脂注入がさせることができるが樹脂媒体シートが厚すぎるため積層体全体として、所望の積層形態を得られにくいからである。また、樹脂媒体シート部における繊維含有率が低くくなるので成形品の力学特性が低下する問題がある。
【0036】
なお、「空隙率」とは、以下の計算に基づいて求めたものである。
空隙率(%)=100×{1−W/(1000×t×ρ)}
ただし W:基材目付(g/m
t:真空圧−0.1MPa下における樹脂流動媒体シート厚さ(mm)、2枚の平板の間に基材を配置しバックフィルムで覆い、フィルム内部を真空圧−0.1MPaにした状態で、全体厚みを測定して平板とフィルムの厚みを引いて算出した。
ρ:強化繊維の比重(g/cm
【0037】
そのようなことから、本実施形態では、樹脂流動媒体シート1の圧縮率を45〜60%にし、かつ、真空圧−0.1MPa下での空隙率を75〜95%の範囲にした。なお、更には、この圧縮率を45〜55%、真空圧−0.1MPa下での空隙率を80〜90%にするとより好ましい。
【0038】
本実施形態の樹脂流動媒体シートに採用される編物組織(経編)の一例を図1および図2に示す。なお、図2は断面方向から見た模式図である。具体的には、強化繊維糸13をたて方向に連続して編成した複数列の鎖編11・11…と、その鎖編を2列以上よこ方向に折り返しながら鎖編を連結する強化繊維よこ方向挿入糸12・12…により編成したシート状経編地にする。このように、たて方向に連続して編成された鎖編があることによって、特に長手方向に連続した隣接する鎖編間の空隙部Sが形成されるために高い樹脂含浸性を有することができる。
【0039】
この際、隣接する鎖編目の間に空隙部Sができることにより、VaRTM成形時にはこの空隙部Sに樹脂が流れて、強化繊維基材の全体に樹脂を含浸させることができる。
【0040】
また、本実施形態では、樹脂流動媒体シート1の編物組織をダブルラッセル編みの繊維構造体にすることができる。
【0041】
ダブルラッセルは、フロント側およびバック側の鎖編11が交互に編成されているため、シングルラッセルに比べ鎖編みの部分を嵩高にすることができる。また必要に応じて、鎖編11がフロント側とバック側で連結糸2により連結させることができるため、二つの鎖編11・11の間に空隙部Sができやすく、空隙率が大きくなり、高い樹脂含浸性を得ることができるからである。
【0042】
また、ダブルラッセル編地は両面に鎖組織が現出して表裏が対称になっているため、巻き取ったロールから解舒したときに、編地の端部が不可避的にカールしてしまうという問題がなく、積層作業が容易に行える。一方、シングルラッセル編地はループの隆起等により表裏が対称になっていないため巻き取ったロールから解舒すると端部がカールしてしまう問題が生じやすい。
【0043】
本実施形態のダブルラッセル生地をよこ断面方向から見た模式図を図3に示す。ダブルラッセル生地は、図2のように隣接する鎖編11・11間の空隙部S以外にもフロント側とバック側の鎖編11が連結糸2によって連結されているため、表裏の2つの鎖編の間にも空隙部Sが形成されるため、空隙部を多く確保することができる。
【0044】
なお、ダブルラッセル生地の連結糸2を長くすることで空隙部Sをより大きくすることが可能であるが、連結糸2を余りにも長くすると厚み方向への圧力に対して連結糸2が座屈し易くなって圧縮率が60%以上と大きくなり、形成されていた空隙部S2が真空圧により潰される問題があり、連結糸2の長さ(=空隙部Sの高さ)としては、糸の繊度と配列密度によるが3mm以内とすることで生地の圧縮率を60%以内に抑え、真空圧−0.1MPa下における空隙率が75〜95%とすることができる。
【0045】
また、樹脂流動媒体シート1の形状保持のために、低融点ポリマーを鎖編またはよこ方向挿入の強化繊維糸に沿って配置して、この低融点ポリマーにより、よこ方向挿入糸と鎖編のループとの交点で接着することができる。また、この接着効果によって、経編生地にみられる端部の糸のほつれを防止することが可能で、糸のほつれによる樹脂流動媒体としての特性を損なわせることなく使用できる。
【0046】
また、低融点ポリマーによりよこ方向挿入糸と鎖編のループが接着されていることによって、鎖組織の形態維持が強固となり、真空バック時においても高い空隙率を維持することが可能となる。使用量としては基材重量の4〜20%であるのが好ましい。
【0047】
また、本発明に係る強化繊維編物製樹脂流動媒体シート1の1平方メートルあたりの目付は、100〜600g/mであることが好ましい。
【0048】
即ち、実際の成形において、樹脂流動媒体シート1の目付が100g/mより下となると媒体1枚当たりの空隙量が少ないために厚みのある成形品に用いる場合、沢山重ねて使用せねばならず、成形コストが高くつく問題があり、逆に、目付が600g/mより上となると、1枚で大きな空隙量が得られるので厚みのある成形品には少ない枚数で済むが、薄い成形品に対しては、樹脂含浸時間は短くて済むが、空隙量が大き過ぎて成形品内に樹脂流動媒体と樹脂の重量比率が高くなるので成形品の物性に影響を及ぶす問題があるからである。
【0049】
したがって、汎用性の面からも樹脂流動媒体シート1の目付は100〜600g/mが好ましく、さらに好ましくは200〜500g/mであることが好ましい。
【0050】
また、本実施形態では、強化繊維の繊度が20〜400texであることが好ましく、さらに30〜200texであるのがより好ましい。
【0051】
鎖組織のようなループを形成する際には、繊度が400texより太い強化繊維の編地糸では、小さな半径に屈曲させて編目形成を行うことができず、強引に屈曲させると、強化繊維(ガラス繊維や炭素繊維など)は屈曲に弱いため、毛羽が発生したり切断してしまう問題があり、また、編物は編地糸の断面が丸く集合された状態でループを形成するため、編地表面が大きく凸凹し、強化繊維基材の表面に積層した場合、表面平滑なFRPが得られないという問題があるからである。
【0052】
逆に、繊度が20texより細い繊維の場合、組織が緻密になるため空隙部が少なくなり十分な樹脂の流動が難しくなるという問題がある。
また、細繊度糸で空隙を大きくするために、粗い密度で編成する手段が考えられるが、細繊度では曲げ剛性が小さいので編地の圧縮率が60%以上となって、真空圧−0.1MPa下における空隙率が75%以下となり、樹脂の流路が確保できない問題がある。
【0053】
したがって、強化繊維の繊度は20〜400texであることが好ましく、さらに30〜200texであるのがより好ましい。
【0054】
また、本発明の樹脂流動媒体シートに使用する強化繊維として、引張弾性率が50〜600GPa以下のものを採用するとともに、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維から選ばれた1種あるいは複数種の繊維を採用することができる。
【0055】
引張弾性率が50GPaより小さいと、VaRTM成形の樹脂流動媒体として使用する際に、樹脂含浸中の真空バッグ時の圧力に対して編地ニット組織が押しつぶれやすく、鎖組織における空隙部の維持が難しく、樹脂含浸時間が長くなってしまう。
【0056】
逆に、引張弾性率が600GPaより大きいと、真空バック時の圧力に対し押しつぶれにくく空隙部を維持しやすいが、編成時に毛羽が発生し易く編成しにくいという問題が生じる。
【0057】
したがって、樹脂流動媒体シートに使用する強化繊維の弾性率は50〜600GPaであるのが好ましく、さらには60〜400GPaであるのがより好ましい。
【0058】
更にまた、本実施形態では、強化繊維の単繊維直径が5〜12μmであることが好ましい。単繊維直径が5μmより下ではフィラメント同士の隙間が狭いためストランド内への樹脂の含浸が悪くなり、樹脂含浸時間が長くかかってしまい、単繊維直径が細いと糸の剛性が低く、鎖組織の空隙部の維持が難しいからである。
【0059】
逆に、単繊維直径が12μmより上では、鎖組織のようなループを形成する際には、強引に屈曲させると、特に高弾性であるガラス繊維や炭素繊維は屈曲に弱いため、毛羽が発生したり切断してしまう問題がある。
【0060】
したがって、強化繊維の単繊維直径は5〜12μmとすることが好ましい。さらに6〜9μmであるのがより好ましい。
【0061】
また、樹脂流動媒体シートとして最適な空隙率を得るためには、糸繊度とウェール密度とが密接な関係にあり、次の関係式で示される値Lが、50〜85の範囲であるのが好ましい条件であることがわかった。
【0062】
〔関係式〕
L={√(D)×M}
D:編地構成糸の繊度(tex)
M:ウェール密度(ループ個数/2.54mm)
【0063】
本発明の樹脂流動媒体シートにおける主な樹脂流路は、シングルラッセル編地においては互い隣接する鎖編目列の間に形成され、長さ方向に連続する空隙部Sであり、ダブルラッセル編地においては前記編目列間の形成される空隙部Sと表地と裏地の間に形成される空隙部Sである。
【0064】
上記関係式Lの値が50より小さい場合、すなわち繊度(D)が小さく、ウェール密度(M)も小さいと空隙部の高さ(h)が低くて、幅(w)が大きくなるので、その上に強化繊維シートが積層され、圧力が掛かると空隙部Sに強化繊維が埋まって流路が塞がれてしまう問題がある。
【0065】
一方、関係式Lの値が85より大きくなると、繊度(D)が大きいので空隙部Sの高さ(h)が高くなるが、ウェール密度が大きく、また大きい繊度により編目の幅も増大するために空隙部Sの幅がないために、流路が確保できない問題がある。
【0066】
また、ダブルラッセルの表地と裏地の間に形成される空隙部Sにおいても、関係式Lが50より小さいと、表地と裏地の間隙を保持している連結糸の繊度が小さく、配列密度が小さいので成形時に真空圧を受けた際、保持しきれなくて空隙部Sが潰されてしまう問題があり、一方、関係式Lが85より大きくなると、真空圧で潰されるようなことはないが、空隙部S内に繊度(D)の大きい連結糸が高密度で配列するために十分な空隙が確保できない問題があり、糸繊度(D)とウェール密度(M)の関係式Lの値が50〜85の範囲であることが好ましい。
【0067】
以上のように構成したことによって、一般に、VaRTM成形法においては、樹脂流動媒体シートは成形後に除去しなければならないため、強化繊維基材の最上部に積層しなければならず、樹脂流動媒体シートの除去作業、廃棄物が増加する問題があったが、本実施形態では強化繊維からなる樹脂流動媒体シートを使用していることから、成形品内部に積層することができるため、厚板で表面も平滑な成形板を得ることができる。
【0068】
<繊維強化プラスチックについて>
次に、本実施形態における繊維強化プラスチックの構造について説明する。本発明の繊維強化プラスチックは、積層された強化繊維基材をマトリックス樹脂を注入して強化して構成されている。
【0069】
この繊維強化プラスチックは、強化繊維基材中に、上記説明のとおりに構成した本発明の樹脂流動媒体シートが封入されている。この強化繊維基材は、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などからなる織物、編物、マットなどの積層体である。
【0070】
また、注入される前記マトリックス樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、変性エポキシ樹脂などの常温硬化樹脂もしくは加熱硬化樹脂を採用することができ、中でも、加熱硬化樹脂が短時間で硬化させることができる点で好ましい。
【0071】
本発明の樹脂流動媒体シート1は、前記積層された強化繊維基材中のどの位置に積層されていても良いが、内部に積層されている限り、樹脂流動媒体シート1が表面に出現しないため、表面平滑な成形品となって好ましい。
【0072】
<繊維強化プラスチックの製造方法について>
次に、本実施形態における繊維強化プラスチックの製造方法について説明する。まず、成形型上に強化繊維基材と、これら強化繊維基材の層間に本実施形態の樹脂流動媒体シート1を積層配置し、前記強化繊維基材の全体をバックフィルムで覆い、バック材内部を減圧するとともに液体樹脂を注入し、前記強化繊維基材に樹脂を含浸させた後に加熱硬化させて繊維強化プラスチックを成形する。
【0073】
この際、樹脂流動媒体シート1を強化繊維基材の厚み方向におけるほぼ中央部に配置させれば、注入された樹脂は上下厚み方向に分散されて含浸距離が半分になり、含浸時間の短縮と同時に含浸が完全に行え、さらには従来のような樹脂流動媒体シートの剥離による痕が付かないので表面が平滑な繊維強化プラスチックが得られる。
【0074】
また、成形に際して樹脂流動媒体シート1の厚みと強化繊維基材全体の厚みとが、以下の関係式の条件を満足していることが好ましい。なお、左辺より右辺の方が大きくなっている場合、樹脂流動媒体シート1から強化繊維基材の厚み方向に樹脂が含浸するよりも強化繊維基材の長手方向の樹脂の含浸が早くなり、未含浸部が生じてしまう。
【0075】
〔関係式〕
3×Tm×n>T/2
ただし、Tm:樹脂流動媒体シート厚み(mm)
n:樹脂流動媒体シートの積層枚数(ply)
T:強化繊維基材全体の厚み(mm)
※この時厚みはJIS L 1018にて測定。
【0076】
また、樹脂流動媒体シート1が、樹脂含浸開始部から真空吸引口まで連続しておらず、かつ、真空吸引口から10mm以上離れるように積層するのが好ましい。樹脂流動媒体シートと真空吸引口が接していると、樹脂流動媒体シートに流れた樹脂が強化繊維基材に含浸するよりも早く真空吸引口に流れてしまい、強化繊維基材に未含浸部分が生じてしまうからである。
【実施例】
【0077】
本実施形態の樹脂流動媒体シートが、VaRTM成形法において埋め込ませる樹脂流動媒体として有効であることを明確にするために、以下の〔表1〕に記載のダブルラッセルで作成した3種類の樹脂流動媒体シート1「実施例1」「実施例2」「比較例1」と、シングルラッセルで作成した「比較例2」について、下記測定条件でVaRTM成形法による樹脂含浸時間を評価した。Tmの厚みはJISL1018にて測定。実施例と比較例の組織は図4、図5に示し、図4のL1、L2、L4は強化繊維、L3は低融点ポリマー、図5のL1〜L3は強化繊維としている。
【0078】
【表1】

【0079】
(1)使用材料
樹脂を含浸させる強化繊維基材には、目付が200g/m、厚さが0.2mmの一方向炭素繊維シート(以下「炭素繊維シート材」と呼ぶ)を使用した。
【0080】
(2)測定条件
樹脂を含浸させる炭素繊維シート材と樹脂流動媒体シート1のそれぞれをシート長手方向に380mm、幅方向に250mmのサイズに切断し、炭素繊維シート材を同一方向に8枚積層した。そして、その中間層に「実施例1」または「実施例2」のシート材を1枚積層し、また、「比較例1」または「比較例2」のシート材を1枚積層したこれら4水準を作製した。これらの積層構成の概要を以下a)〜d)に記載する。
【0081】
(3)積層構成
a)炭素繊維シート材4枚/「実施例1」樹脂流動媒体シート1枚/炭素繊維シート材4枚
b)炭素繊維シート材4枚/「実施例2」樹脂流動媒体シート1枚/炭素繊維シート材4枚
c)炭素繊維シート材4枚/「比較例1」樹脂流動媒体シート1枚/炭素繊維シート材4枚
d)炭素繊維シート材4枚/「比較例2」樹脂流動媒体シート1枚/炭素繊維シート材4枚
【0082】
このようにして積層したものを金型の上に乗せ、積層した強化繊維基材の周囲をフィルムバッグし、バキュームポンプによりそのバッグ内を真空(−0.1MPa)にしながら樹脂温度が50℃時に粘度1.3ポイズの樹脂を含浸させ、樹脂が34cm流動するのにかかった時間を測定した。なお、このときの型温度、樹脂温度を50℃とし、炭素繊維シート材のシート長手方向を樹脂流動方向として積層した炭素繊維シート材の長手方向の片側端に樹脂注入口、もう一方の片側端に樹脂吸引口を設置し、樹脂吸引口と樹脂流動媒体の端部間の距離は10mmとした。
【0083】
実施例1(上記a))および実施例2(上記b))では、34cm含浸するのに要した時間は10分以下で樹脂含浸が完了したが、比較例1(上記c))および比較例2(上記d))では、圧縮率が高く、空隙率が小さいため、34cm樹脂が含浸するのに10分以上掛かってしまった。
【0084】
なお、実施例2において、樹脂吸引口を樹脂流動媒体シートの端部位置に設置したものは、炭素繊維シート材全面に樹脂含浸する前に吸引口に樹脂が流れ、完全に含浸するのに15分以上の時間を要した。
【0085】
また、実施例2と炭素繊維シートを使用し下記の積層構成で、同様の実験を行った。
e)炭素繊維シート材15枚/「実施例2」樹脂流動媒体シート1枚/炭素繊維シート材15枚
f)炭素繊維シート材5枚/「実施例2」樹脂流動媒体シート1枚/炭素繊維シート材5枚
【0086】
f)の積層構成では関係式が2.34>1となっているため炭素繊維シート材に未含浸部はなく良好な成形板を得られたが、e)では関係式が2.34<3となっているため樹脂流動媒体シートから基材厚み方向の距離が長く樹脂含浸までに時間がかかってしまい、そのため基材長手方向の樹脂が早く含浸してしまい、樹脂硬化後の成形板にも未含浸の箇所が存在していた。
【0087】
そのため成形に際して樹脂流動媒体シート1の厚みと強化繊維基材全体の厚みとが、以下の関係式の条件を満足していることが好ましい。
【0088】
〔関係式〕
3×Tm×n>T/2
ただし、Tm:樹脂流動媒体シート厚み(mm)
n:樹脂流動媒体シートの積層枚数(ply)
T:強化繊維基材全体の厚み(mm)
※この時厚みはJIS L 1018にて測定。
【0089】
本発明は、概ね上記のように構成されるが、図示の実施形態に限定されるものでは決してなく、「特許請求の範囲」の記載内において種々の変更が可能であって、例えば、樹脂流動媒体シート1の編物組織は他のものにも変更することができ、本発明の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0090】
1 樹脂流動媒体シート
11 鎖編
12 よこ挿入糸
13 強化繊維糸
2 連結糸
・S 空隙部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体樹脂を注入して成形される繊維強化プラスチックに用いられる樹脂流動媒体シート(1)であって、
この樹脂流動媒体シート(1)は、強化繊維糸が編物組織によりシート状に編成されており、JIS L 1018に準拠して測定される圧縮率が45〜60%で、かつ、真空圧−0.1MPa下における空隙率が75〜95%であり、樹脂注入後に繊維強化プラスチック内に埋込可能であることを特徴とする埋込型樹脂流動媒体シート。
【請求項2】
強化繊維糸がたて方向に連続して編成された複数列の鎖編(11・11…)と、その鎖編を2列以上よこ方向に折り返しながら鎖編を連結する強化繊維よこ方向挿入糸(12・12…)により編成されたシート状経編地であることを特徴とする請求項1記載の埋込型樹脂流動媒体シート。
【請求項3】
低融点ポリマーが鎖編またはよこ方向挿入の強化繊維糸の少なくともどちらか一方に沿って配置され、この低融点ポリマーにより、よこ方向挿入糸と鎖編のループとの交点で接着されていることを特徴とする請求項2記載の埋込型樹脂流動媒体シート。
【請求項4】
強化繊維糸の繊度が、20tex〜400tex、引張弾性率が50GPa〜600GPa、目付が100〜600g/mであることを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載の埋込型樹脂流動媒体シート。
【請求項5】
強化繊維の単繊維直径が、5〜12μmであることを特徴とする請求項1〜4の何れか一つに記載の埋込型樹脂流動媒体シート。
【請求項6】
編物組織が、ダブルラッセル編みの繊維構造体であることを特徴とする請求項1〜5の何れか一つに記載の埋込型樹脂流動媒体シート。
【請求項7】
強化繊維が、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維から選ばれた繊維であることを特徴とする請求項1〜6の何れか一つに記載の埋込型樹脂流動媒体シート。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一つに記載の樹脂流動媒体シート(1)が少なくとも一部に含まれていることを特徴とする繊維強化プラスチック。
【請求項9】
成形型上に強化繊維基材を配置し、この強化繊維基材の全体をバックフィルムで覆い、バック材内部を減圧するとともに液体樹脂を注入し、前記強化繊維基材に樹脂を含浸させる繊維強化プラスチックの製造方法において、
前記強化繊維基材の層間に、強化繊維糸が編物組織によりシート状に編成されており、JIS L 1018に準拠して測定した圧縮率が45〜60%で、かつ、真空圧−0.1MPa下における空隙率が75〜95%である樹脂流動媒体シート(1・1…)を積層することを特徴とする埋込型樹脂流動媒体シートを用いた繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項10】
成形型上に強化繊維基材を配置し、前記強化繊維基材の全体をバックフィルムで覆い、バック材内部を減圧するとともに液体樹脂を注入し、前記強化繊維基材に樹脂を含浸させる繊維強化プラスチックの製造方法において、
前記強化繊維基材の層間に、強化繊維糸が編物組織によりシート状に編成されており、JIS L 1018に準拠して測定した圧縮率が45〜60%で、かつ、真空圧−0.1MPa下における空隙率が75〜95%である樹脂流動媒体シート(1・1…)を、
〔数式〕 3×Tm×n>T/2
Tm:樹脂流動媒体シート厚み(mm)
n:樹脂流動媒体シートの積層枚数(ply)
T:強化繊維基材全体の厚み(mm)
の条件を満たすように積層することを特徴とする請求項9記載の埋込型樹脂流動媒体シートを用いた繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項11】
成形型上に強化繊維基材を配置し、前記強化繊維基材の全体をバックフィルムで覆い、バック材内部を減圧するとともに液体樹脂を注入し、前記強化繊維基材に樹脂を含浸させる繊維強化プラスチックの製造方法において、
前記強化繊維基材の層間に、強化繊維糸が編物組織によりシート状に編成されており、JIS L 1018で測定されるに準拠して測定した圧縮率が45〜60%で、かつ、真空圧−0.1MPa下における空隙率が75〜95%である樹脂流動媒体シート(1・1…)を積層し、
樹脂流動媒体シートが樹脂含浸開始部から真空吸引口まで連続しておらず、かつ、真空吸引口から10mm以上離れるように積層することを特徴とする請求項9または10記載の埋込型樹脂流動媒体シートを用いた繊維強化プラスチックの製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−99892(P2013−99892A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245178(P2011−245178)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(591168932)株式会社SHINDO (22)
【Fターム(参考)】